WHITE ALBUM:緒方理奈のアウラと森川由綺の不安

2017-03-29 12:32:04 | ゲームレビュー

 

 

「あのとき、この本」を読んでいると、不思議な感慨にとらわれる。この作品は著名な文筆家などが印象に残っている絵本を一回一回紹介していくもので、その最後にこうの文代の4コマが添えてある、という構成になっている。こうのの作品は、ほのぼのとした絵柄でありながら人間間や人間―動物間のディスコミュニケーション、あるいは世界の不条理を日常として描く点に特徴がある。その意味において、穏やかなようで同時に世界の深淵さ・未規定性がしばしば立ち現れる絵本の紹介文に添える作風として、こうの文代ほど適した人物はなかなかいないのではないか(その特徴は「長い道」が最もわかりやすいが、「夕凪の街、桜の国」や「この世界の片隅に」などの主要作品にも通底するテーマで、要は時代や環境が違うだけのことだ。ゆえにこうのは、「平凡倶楽部」中の「なぞなぞさん」において、彼女の作品の特徴を見ることなく、戦争を扱われていることだけを見て紋切型の質問と答えを要求、具体的に言えば反戦を訴えることが主眼であるかのように初めから想定したインタビュアー≒作品の受け手たちを、ある種皮肉る形で取り上げているのだろう)。とはいえまあ「本当にときこは本が好きだなあ。でもあまり夢中になりすぎたらダメだぞ」と愛娘をめでる父親的視点で読んでる俺も、果たして今述べた本質をきちんと理解してるのかは怪しいところだが(;´∀`)

 

おっとのっけから脱線してしまいました。
何が感慨かというと、私にとっての印象的な絵本を記憶から探した時に、それが全く思いつかなかったことである。私は5歳の時に熊本のある場所から今の地へと引っ越したが、両親が共働きで0歳から保育園に預けられており、自宅でも保育園でも、絵本を読んでもらった記憶がない(なぜかZガンダムのOPが保育園のTVから流れていたことはハッキリと覚えているのだがwなお、このことをもって「絵本を読んでもらわなかった」とするのはおそらく誤りで、「記憶に残るような本がなかった」と見るのが正しいだろう)。

 

で、今の家に引っ越してからは、確かに「バナナブーン、アスカブーン」とか謎の呪文を唱えて月を作る話だとか、「雪はちくたく」というある種の差別と因果応報を描いた本を読んだのを覚えてはいるが、正直言って印象かとか自分に大きな影響を与えたかと言われると、確実に否であろう。それならむしろ、母親が持っていた(そしてなぜか俺の部屋の書棚にあった)料理の本の方がよほど印象的である。日曜日の朝、学校には行かなくていいのに早く起きてしまい、二度寝するにも眼が冴えて暇な時にふとそれらの本を読むと、まるでその先に違う世界が広がっているような気がしてワクワクものだった。そして小学校低学年の身には、「ブイヨン」などが魅惑的な魔法の言葉に見えたものだ。まあ夢もへったくれもない言い方をしてしまえば、実際の店に限らず料理はそれを食する環境(インテリアやもてなし)にも左右されるわけで、料理の本もそれを魅力的にみせるための演出として(大草原の小さな家風の?)ここではないどこかを読者に向けて提示し、私はそれに魅了されたということだろう。とはいえ、そんな経験を持ちながらも今は料理をすることがあまりなく、食い意地だけが張った残念な大人になってしまったわけだが(゚∀゚)アヒャ

 

さて、なぜいきなり絵本の話から始めたかと言うと、「レトロスペクティブ」という点でWHITE ALBUM(めんどいので以下WAと表記)と共通しているからだ。WAで私が最初にクリアしたキャラは、ヒロイン森川由綺のライバル的ポジションの緒方理奈である。別にだからどーしたという話だが、私が恋愛ADVをプレイする場合、最初は基本的に流れに任せるようにしているため、「同級生2」では都築こずえ、「下級生」では持田真歩子、To Heartではレミィ、「家族計画」では大河原準、「さよならを教えて」では上野こより…という具合になぜそこからクリアしたし!というキャラが多い(というか、いまだに名前まで覚えてんのかよ!という突っ込みが先に入りそうだがw)。これに対して緒方理奈は、明らかにキャラクターの魅力に惹きつけられてクリアしようと決めた珍しいキャラなのである。その意味で、いささか特異な体験という意味でWAと絵本の記憶が結びついた次第。

 

しかし今もって理奈はちょっと反則だよなあと思う。登場キャラの中でも圧倒的な存在感と華やかさを持ちながら(がよくキャラを表している)、それを全く鼻にかけることもなく、かつ自分の支えだった兄が他の人間に心を移しつつあることに不安を覚え、主人公を頼る(ジェラシーではなく不安として描くことによって、醜さを感じさせずに庇護欲をそそられるところがまた反則的である)。WAは(主人公に彼女がいるため)向こうからアプローチしてくるケースが少ないこともあって、理奈にプレイヤーが傾いていくのはかなり必然的な流れといっていいのではないか。そしてだからこそ、由綺という存在がいながら他のキャラに惹かれていく必然性が、彼女の場合に限って強く感じられるのである。

 

ま、そんなわけであとは下の原文を見てつかーさい。

  

 

 

【以下原文】

さて、メインヒロインの由綺と、対照的な理奈にレビューの最後を飾ってもらうことにしよう。由綺のが鬼のように長くなったのでまずは理奈から。なお、画像と一部の文章の著作権はLeafに属します。


(理奈)
由綺とは対照的に鮮烈なオーラ・存在感を持ったキャラ。その上で親近感も持たせるような言動や振舞と(由綺とは違った意味で)健気さも持ち合わせる。それらが矛盾することなく同居しているが故にWHITE ALBUMにおいて特に人気のあるキャラとなっているのだろう。

ストーリーに関して言えば、心の中で大きな存在だった英二が離れていくところに主人公が収まるわけだが、「理奈のもとにいた英二→由綺」「由綺のもとにいた主人公→理奈」というある種のトレード関係はおもしろい。理奈が主人公に惹かれる必然性としては、そもそもそういう感情に免疫がないこと(「遊ぶ友達は兄さんくらいだったから」と言っているほど)、また主人公が分け隔てしない言動をしていること(今までそのような接し方をしてきたのは兄の英二だけなのではないか?もしそうだとすれば、理奈にとってその言動は非常に新鮮であるとともに、主人公を英二に類する人間として引かれていく理由にもなる)、の二つであると思われる。ただ難を言えば、主人公が理奈に惹かれていく必然性はやや弱いのではないか。まあこのあたりは、理奈の発するオーラと親近感に触れて「これは気持ちが向いてもしょうがない」とプレイヤーが思うかどうかにかかっている気がする。


(由綺)
オーラが無い=プレイヤーを強く引き込むタイプのキャラじゃない。極端な話、「彼女がいるという状況を作り出すため」だけに存在しているような印象すらある(あるいは弥生や理奈と知り合う媒介)。一応、オーラの無さが逆に特徴になっている部分はある(健気さ、平凡さ?)。この点は、主人公が「周りに溶け込んでわからなそう」と言っているから、意識的なキャラ設定なのは間違いない。とすれば、他キャラへプレイヤーが向かうのを容易にするという効果もあるか。

…などと昔は考えていたが、再プレイして

健気⇒主人公に弱みを見せない⇒主人公は由綺が馴染んでいると誤解⇒「(ブラウン管の)向こう側と、こっち側」の距離感+弥生の言や英二のトリック⇒由綺への気持ちの揺らぎ

という構図があること理解した。要するに由綺とうまくいかない要因(必然性)は…
1:由綺に時間がない
2:弥生や英二の発言で由綺の邪魔をしないほうがいいと思うようになる
3:由綺の健気さ=問題なさそう(馴染んでいるよう)に見える
4:由綺を慕うファンたちの存在

の四つであり、その中で気持ちの揺らぎと他キャラへ惹かれるというのがWHITE ALBUMの基本構造になっている。そして、由綺が実は必死に頑張っていただけのことで、結局は由綺の健気さのなせる業だったと気付き助けてあげることが由綺シナリオの真骨頂であったと言えるだろう(※)このようにして、由綺の態度が他キャラへと気持ちが行く必然性を用意し、一方彼女のシナリオは「身近な人のSOSに気付けるか」という問題を提示していたのである。



もちろん、言わなきゃわかるわけねーじゃんとも思うのだけど、「自分が寂しいときだけ、何の苦労もしないで、人に好きって言ってもらうなんて、ずるいって思うから…」というマナの台詞から由綺の胸中を想像すると、単純な健気さではなく考えあってのものであり、安易に批判できるものではないだろう。


<覚書からの引用>
◎簡素すぎる、清潔すぎる部屋(由綺の肉体的・精神的疲弊を物語る)
◎「だから、私(英二さんを)自分ひとりのものにできるほど強くないし…」(主人公の由綺に対する気持ちがファンのそれによって揺らいでいることを想起したい)
◎「由綺はどこにも行ってなかった。テレビの向こう側の姿に騙されていただけだ。」=踏み込まないほうがいいと思って勝手に壁を作っていただけ。
◎弥生の家に泊まった時は時々一緒に風呂に入る、というのは弥生がアレなことと関係アリ?

<由綺シナリオにおける重要な部分の引用>…参考までにだうぞ
[クリスマスイブのソロライブにて]
この人達はみんな、自分のクリスマスイブの何時間かを、由綺に会うためだけに使っているんだステージの上で歌い、踊り、そして微笑む由綺に会いに来てるんだ。特別な、多分特別な感情を持って。いろんな、自分だけの由綺を求めて。アイドル、或いはカリスマ、自分だけのスーパースターとして。俺は、由綺の恋人なんて言っておきながら、由綺に対する愛情という面で、ここにいる人間全員に勝っているんだろうか。ここに並んでいる全員に誇れるんだろうか…。そして由綺を愛している人間はここだけじゃない、もっと広く巨大なレベルで存在しているんだ。まだアルバム一枚出していない、今夜二十歳になったばかりの頼りない女性なのに、こんなにも愛され、人を集めてしまう。そんな中で、俺は、どんな風に『自分だけの由綺』を考えたらいいんだろう…。だからここに来たのか…。由綺に会いに来た。それだけなんだけど、だけど、決してそれだけなんて決して言えない。…これからの俺と由綺、正直言って、どうなるかなんて判らない。考えたくないけど、最悪の場合も、それもあり得る未来なんだ。…だからせめて、この目に、全て、焼き付けよう。(中略)
俺はそこに静かにおさまって、ただ、待っている。由綺がステージに登るのを。いつもこんな感じで、俺は、いつも…。だからせめて、俺は由綺を待たなきゃならない。由綺を見続けなきゃならない。(中略)
俺は心から拍手を送りながらも、それでもやっぱり、少しだけ寂しかった。満足した寂しさ。

[由綺の部屋にて]
だけどそれは、俺と由綺との、お互いの寂しさからくる感情なのかもしれない…。ふと思う。さっき由綺を抱きしめ、由綺の身体に顔を埋めた時に感じた感情は、愛情だったと俺は自身を持って言えるのか。もしこれが、子供が何かを常に掴みたがるような、あの心細さからくる欲求だとしたら俺達はお互いの肌を感じあったところで、その欲望は満たされるのか。永久に満たされることなんて無いんじゃないのかな…。

[年始のカメラテストにて]
英二さんは由綺の不安を全部消し去る力を持ってる。…由綺の期待に応える力を…持ってる…。そして由綺は、それを頼った方が、ひょっとしたらいいのかも知れない。(中略)
そして、一瞬とはいえ、由綺を他の誰かに任せることを考えてしまったことを恥じた。…ここで、俺が逃げ出すことなんてできない。

[2月上旬の喫茶店にて]
今の世界にあって、こんなにも清潔でストイックな由綺の姿は、決してブラウン管の向こう側には通じない。華やかな部分だけが向こう側の人間の前に現れる。緒方英二って天才によって作られた完璧なまでの美しさだけが。嘘なんだ。由綺って人間以外、全部全部嘘なんだ。(中略)
由綺はこれからもっともっと成長するはずなんだ。ともすれば、俺なんか絶対手の届かないところに。それは、哀しいけれど俺の望むことろでだってあるんだ。だから俺は、由綺が『さよなら』って言うまでずっと、こっち側の由綺を観ていたいと思った。それは決して無理な望みじゃないはずだから。

※重要なのは成長(=変わること)ではなく変わらない気持ちであったことが後に示される。

[2月下旬の屋上にて]
「いつもここでお仕事してたのにね。それなのに、弥生さんや緒方さんや、いつものスタッフさんたちがいないんだって判ったら、急に…。いつもあれだけの人に囲まれているのに、いなくなる時は突然いなくなるんだね。ちょっと行き違っただけで誰とも会えなくなっちゃうんだ。(中略)
「いつまでも…いてくれるよね…。私が…仕事から戻っても、いつも…冬弥君はいてくれるよ…。ね?」
「いつも、そのままに残っているよね…?」(中略)
「…ううん。由綺って、いつも、俺の側にいてくれるんだな…って…」(中略)
英二さんみたいな人には言われて当然なんだろうけど、だけど、やっぱり悔しかった。俺が強い男になって、由綺の守護者になることを、由綺が、ほんとに望んでいるのかどうかもわからないままで。


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