腐り姫レビュー:鏡像的主人公

2014-07-28 21:33:04 | ゲームレビュー

 

「腐り姫」レビュー第三弾。樹里の次は五樹に注目した模様だが、これまだ「腐り姫読本」を読んでない段階で書いているのかしらん?確かそこでは五樹が神になった経緯が書いてあり、それと矛盾してるような・・・つーかなんでそもそも五樹って神になれたんだっけ?血脈の問題か?その血の宿命なのか?ともあれ、彼の「主体性のなさ」は、下で書いている理由よりもむしろ、生育環境の問題であるように思える。つまり自分たちが日陰者として育ってきたからこそ、主体的に行動・表現しないスタイルが身についたのではないか(まあそういうキャラ造形をどこまで意識的にやっているかは微妙で、一般的な「白紙の主人公」と似たり寄ったりだと言ってしまえばそれまでなのだが)。まあそう考えた方がしっくりくるように思う。あとはなぜその彼が慕われるかだが、おそらく一つは媚びないからであり、また一つは邪気がないからであり、そしてまた相手を否定しないからでもあるだろう。今風に言えば癒し系の草食系男子ってところだろうかwまあはっきり言って相手にとっては極めて都合のよいマスコット的存在だってことだなw

 

[原文]

「腐り姫」の主人公、五樹の行動は主体性に欠ける部分が多々見受けられ、これを記憶喪失や性格的な要因と判断する人もいるようだ。確かに、それは完全に的外れというわけではない。しかし大部分は、それよりも無意識的・根本的な要因によって規定されているのである。

以前の記事で何度か触れたが、五樹には「人の感情を鏡のように写す」という能力がある(自覚症状がないことからすれば「業」と言ったほうが適切かもしれない。わかりにくければ、「カリスマ性」と考えても大過ない)。この能力の表現は伊勢きりこの言葉から拝借したものだが、その辺りに出てくるエピソード(サークルなどでの人望)は注目に値する。

ここで少し視点を変えてみよう。そもそも、こういったゲームにおいて主人公が意味のわからないモテ方(笑)をすることは珍しくない。ならば、「腐り姫」も同様ではないか?と考えて比較してみた時、大きな差異があることに気付くはずだ。それは、モテパワー(笑)の対象が「攻略可能キャラのみ」か否かである。普通のゲームにおいては、「攻略可能キャラのみ」が対象となる。理由は色々あるかもしれないが、要は都合のいいゲームなりにリアリティを追及してるってことだろう(笑)主人公があらゆる人にモテモテじゃ感情移入もできんし、リアリティも感じない、とまあそういうことである。しかしながら、「腐り姫」の五樹はそうではない。サークルでは引っ張りだこだし、バイト先にも入院先にも(攻略どころか顔すら登場しない)大勢の女性が訪れるのだ。

これだけなら、単に全体からモテていることの表現と言えるかもしれない。しかし、「ラブホテルにおいて化粧と落とした先輩の悩みを一晩中聞いていた」「入院先に来た女性たちは、五樹が記憶を失っているにもかかわらず日ごろの悩みを相談しに来る」という事態にいたっては、単にモテているという表現では通用しなくなってくる。

問題なのは、なぜこのような描写がなされているか、ということである。極端な話、本筋とそれほど関係しているエピソードではない。さらにこういったゲームの定石も考え合わせれば、エピソード自体が物語の理解においてマイナスの方向に作用する危険性が高い。それらのことを無視してまで出してくる必然性は何なのか?

そう思ったとき、理由として考えられるのは「五樹という存在の特殊性の表現」しかありえない。つまり、状況的にも性格的にも「普通とズレた」五樹を表現することにより、彼が「人ならぬ者」であるということを暗示しているのである。これが、第二殻で繰り返す世界に気付いたり、第三殻で蔵女に奇妙なことを口走ることなどと相まって、第四殻での「神たる五樹」への見事な伏線となっていることも注目される。

この特殊性及び能力は、周囲の人間を強く惹き付けずにはおかない。その最たるものは、世界を覆う赤い雪など気にもせず、ひたすら五樹だけを求め続ける潤とそれにもの憂げに応える五樹というエンディング「二人のしじま」であろう。この能力についてわかりにくければ、第一殻で蔵女が子持ちの大人を赤い雪にするシーンを思い浮かべるとよい。あれは夢を見せることによるものだったが、五樹の場合はそういう過程なしに人を惹き付け、時には潤や樹里のように狂わせてしまうのだと言える。

とすれば五樹の性格や行動原理を考える際、従来どおりの主人公分析してしまうとあらぬ方向に行きかねないことになる。「神」であり、しかもそれを自覚してない彼にとって、性格や行動原理のかなりの部分が「自動的」なものだからである。もし五樹を分析するのなら、彼の性格・行動の大部分が主体的なものではなく、様々な人間の願望や苦悩がパッチワークのようになって構築されていることを念頭に置く必要があるだろう。


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