君が望む永遠:鳴海孝之への反感とキャラへの埋没

2009-07-19 18:27:27 | 君が望む永遠
前からずっと疑問に思っていることだが、作品の登場人物に対して「~はムカつく」とか「…はカッコいい」といった評価を何の疑いもなく垂れ流す一方で、「なぜそのような人物にしたのか」「なぜそのような人物を登場させたのか」といった(演出的な側面の)問いかけが全くと言っていいほどなされないのは一体どういうわけだろうか?


キャラが作られたものであることなど誰でも知っている。しかし、上記のような距離をとった視点の欠落や、共感や「感情移入」ができるとかできないといった言辞が何の躊躇もなく飛び交っているのを見るとき、キャラが作られたものであるという事実が結局のところ理解されていないのではないかと思う(誰でも口にするが、パフォーマティブにはできていない。そしてそれゆえに、結局わかっていないのだと私は判断している)。


例えば、何度も扱ってきた「君が望む永遠」の鳴海孝之について言えば、彼への反感が垂れ流される一方で、なぜそのような主人公にした(orしてしまった)のか?という視点が全く出てこないのは驚くべきことである。それはつまり、鳴海孝之への反感が彼(という固有の存在)に帰着するものと「しか」認識できていないことを意味する(この「しか」という部分が決定的に重要である)。別の言い方をすれば、孝之の批判者たちは、彼について「感情移入できない」などと言いながらも、実際は自分がキャラに埋没してしまっていることに気付いていないのである(「主人公というものへの先入観[草稿]」における、「勧善懲悪的な内容において、悪人をムカつく奴だと評価するのは褒め言葉だ」という趣旨の部分を想起してもらいたい)。もっとも、それゆえにこそ、評価者たちの苛立ちをシステム的な観点から考察した「主人公の評価と『選べない』苛立ち」や「サブキャラシナリオの批判性」といった記事はそれなりの意味を持ちうるのであるが…


ところで、鳴海孝之に関する一連の記事が、今もってなお、彼が「ヘタレ」ではないことを説得するための内容だと考え(感じ)ている人が少なからずいると推測している。なるほど私は彼が十分理解可能な存在であり、しかも評価者たちが理解しようとする努力を怠っているとは言い続けているが、間違っても彼の行動を納得させよう(=全面的に受け入れさせよう)とは思っていないし、ましてや彼に同一化・埋没すべきだなどと言うつもりはない。あるいは、そのような理解と納得(事によっては同一化、埋没)が容易に混同されてしまうところにこそ、問題の要因が潜んでいるように思える。「感情移入」や「共感」という語を批判的に取り上げてきたのは、以上のような問題意識に基づいている。


このような評価のあり方について端的に述べたのが前回の「メタとベタ」(ついでに言えばメタ的アプローチについては「玉ネギの皮」も書いている)に他ならないが、これをもってただ評価者たちの視野の狭さを嘲笑するのは生産的な行為とは言えないだろう(もっとも、一時期はそれを繰り返していたわけだが)。そうではなく、「なぜそのような見方になるのか?」という具合に、受容形態について考察していく必要があるように思える。そう問題設定すると、ついつい「日本人の同一化傾向」といった方向に持っていきたくなるが、ここはより慎重に、キャラというものの捉えられ方やその変化についても考えていくべきだろう。そうすると、前掲の「真版 なぜ「感情移入できない」のか」(「感情移入」の変化)であるとか、『テヅカ・イズ・デッド』で示された「現前性」の問題、二次創作の一般化(→東浩紀言うところの「データベース化」や作家性の問題)及びそれによる認識の変化、具体的な例では「電脳コイル」における見えるものと見えないものの位置づけ(境界の曖昧さ、多様性)、そしてそれを視聴者がどのように評価したのか…といったことが足がかりとなるだろう。「電脳コイル」に関してもう少し述べておけば、24話において、手で触れられるものだけが信じられるという母親の視点が提示されるとともに、エンディングでデンスケが「見え」たことなどを通じて乗り越えられている点に注目すべきだろう。ここでやや話を拡大すると、そもそも人間の心自体が手で触れられないものである。ではそれもまた無きに等しいものだろうか?なるほどゴリゴリの行動主義者たちなら頷くだろうし、認知科学の知見などによって、精神分析の「虚構性」が暴かれるとともに、人間が神経伝達物質に依存する「動物的」な存在だということがますます明らかになってきているのは確かだ。しかし、そのような見解にすんなり同意を示せる人は、あまり多くないのではないか、というのが私の推測である(ちなみに私はそういった見解にむしろ興奮するのだが。なお、これは身体性・一回性が極度にあやふやになった「攻殻機動隊」の世界では「ゴースト」の問題として出てくる)。


そのような反応も含めて、キャラに対する態度というものを今後考えていきたいと思う。

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