いかに主張をうまく伝えるか:世界史教科書の地図批判より

2006-08-04 23:34:02 | 感想など
本質的な骨組みの部分(=最も伝えたいこと、伝えるべきこと)に色々な情報を追加すればするほど、その骨組みは見えにくくなる(これは、スピーチなどを考えればすぐに理解されるところだろう)。ここでは、例として高校の世界地図を取り上げてみよう。


まずは図を見てもらいたい。これは高校の時の某教科書に掲載されていたヨーロッパ中世の地図で、中世都市と商業圏の広がりについて書かれたものだ。日本史・地理選択だった人は当然として、世界史をやっていた人も、これを見ていったい何が、どこが重要なのかわかるだろうか?せいぜい、「色んなとこと繋がってるなあ」という感想が出てくるの程度だろう(少なくとも高校二年時の私はそう思った)。しかしこの部分で最も重要なのは、商業圏と都市同盟であり、そのことさえ理解できればとりあえず問題ないし、また逆に言えば、それが理解できないなら、どれだけ多くの情報を詰め込もうと本質的な骨組みという観点からすれば蛇足でしかない(もっとも、あくまで「実態」を示そうという方向性で教科書が書かれていることは、教科書作りに携わっている知人もいるので多少は理解できているつもりだし、掲載したような地図が無意味とまで言うつもりもない。しかし、多くの情報が本質を見えにくくしているのは事実なのである)。


骨組みを理解するためには、ただ北欧のハンザ同盟、中欧のシャンパーニュ地方、北イタリアのロンバルディア同盟と三つの丸を作り、それを線で結ぶだけで十分だろう。つまり、有名な都市を○でちょこちょこ書いて一つ一つ結びつける必要などなく、ただ三つの○と二つの線でこと足りてしまうわけだ(さらに、北イタリアから東・南東方面に矢印を書いて「レバント貿易」と記しておけばヨーロッパ世界外への繋がり方もわかりやすい)。


色々なものを詰め込めば、それだけ本質というものは見えにくくなる。「ただありのままを伝えればよい」といった単純な提示の仕方では基本的な事すら理解されないという事実を、このことは非常によく表していると言えるだろう。


※同じことが作品の表現方法にも言えるが、次回はそれについて述べたい。
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