原題:『きみはいい子』
監督:呉美保
脚本:高田亮
撮影:月永雄太
出演:高良健吾/尾野真千子/喜多道枝/富田靖子/池脇千鶴/高橋和也
2015年/日本
愛情を伴わない抱擁の危険性について
ポスターに写っているように本作のテーマは「抱擁」にあるように思うのであるが、2つの抱擁はその後意味合いが全く変わってしまう。
夫が海外に単身赴任している水木雅美は3歳の娘のあやねと2人暮らしなのであるが、自身の幼少時のトラウマが原因でつい娘に手をあげてしまう。マンションの同じ階に住んでいる大宮陽子には赤ん坊とあやねと同い年の子供がいて、あやねの靴を直してもらおうと訪れた際、遊んでいたあやねがおもちゃのバットで打ったボールが雅美が飲もうとしていたティーカップに当たり壊してしまう。いつものように抑えられない怒りが込み上げ娘を叱ろうとした雅美を突然陽子が抱きしめる(下の写真)。陽子は雅美が自分と同じように親から虐待を受けていたことに気がついていたのである。この抱擁は雨模様の空が晴れるように雅美の心を救うことになるだろう。
小学校の新米教師である岡野匡はなかなか受け持ったクラスの児童たちを上手く扱えない。ある時、いつまでも一人で校庭にいて家の帰らない神田を見つけ、家に送ったのであるが、離婚した母親の新しい交際相手らしいその義父は神田に対して厳しい態度だった。問題が山積みする中、離婚した姉の岡野薫の息子に抱きしめられた経験(上の写真)から自分の担任する児童たちに「家族に抱きしめられてくること」という宿題を出す。翌日の彼らの反応はなかなか良かったのであるが、必ず宿題をしてくると言って帰っていった神田は学校に来ていなかった。5時を過ぎて心配になった岡野は神田の家まで走っていき、ドアを叩くのであるが応答はない。「抱擁」というものは愛情があるからこそ成り立つものであり、愛情がないまましようとすると「悲劇」が生じるのである。岡野に悪気はなかったはずであるが、同じ辛い経験をベースにした陽子の抱擁と理想を求め過ぎた岡野の抱擁は似て非なるものなのである。
学校で扱えない問題を抱えた子供は、今は児童相談所に通告する義務があると思うが、今回は問わないことにしよう。