原題:『夕やけ小やけの赤とんぼ』
監督:島耕二
脚本:島耕二/松本昭典
撮影:小林節雄
出演:渚まゆみ/前田賢一/和波孝禧/清水昭/三宅邦子/千田是也/目黒幸子/山田耕作
1961年/日本
「夕やけ小やけの赤とんぼ」が放送されない理由について
日本の歌百選の1曲にまで選ばれている童謡「赤とんぼ」をモチーフにした本作が何故かテレビで放送されない理由は、作品の冒頭から明らかになる。
冒頭でアップで映される泣き顔は日本人の母親と朝鮮戦争で戦死した黒人の米軍兵士を父に持つハーフの11歳の石毛ノボルのものだが、実はノボルは店頭で嘘泣きによって青果店の主人の気を引くことで他の仲間の窃盗を手伝っているのである。
その仲間の中には主人公の高校生の千代崎ヨシ子も含まれている。ヨシ子は母親が再婚した相手の千代崎省三やその息子の一郎と反りが合わずグレてしまっていたのだが、それ故にハーフであることで人種差別を受けているノボルの境遇に共感を覚え一緒につるんでいるのである。
しかし話は人種差別だけでは終わらない。ノボルが迷い込んだ学校の校庭では生徒たちがキックベースボールを楽しんでいる。校内に入ったノボルが教室を後ろのドアから覗き込むと田中進がヴァイオリンで美しい音色を奏でており、彼の前には多くの生徒たちが聴き入っている。ここまでほとんどの観客はまだ気がつかないのであるが、カットが変わり進の側から映されると生徒たちは全員盲目で学校が盲学校であることが分かる。クラシック音楽に造詣が深ければ田中進を演じているのが全盲のヴァイオリニストの和波孝禧だとすぐに気がつくのかもしれない。
ヨシ子とノボルは盲学校の生徒たちに生の音楽を聴かせたいと思って、東奔西走し作曲家の山田耕作を盲学校に招待するまでにこぎつける。それは山田自身も当時身体障害者だったからであろうが、山田の多忙でヨシ子たちが望んでいた草原での青空コンサートの開催までには至らない。
クライマックスのオーケストラやブラスバンドや合唱隊の入り混じった大規模な野外コンサートは感動的ではあるが、その直前にヨシ子が教室のガラスに指で書いた「バカ」の文字の意味は最後になって明らかになるであろう。