年寄が童話を書いてみた。これが童話と言えるかどうかわからないけれど、書くことは一寸面白かった。感想が聞けたら良いのだが。
学校の帰り道で田圃の畦に咲く小さな花が僕をじっと見つめているような気がした。手にすると甘酸っぱい匂いが鼻をくすぐって、幼い日の母さんの温もりを思いだした。花をたくさん摘んで、家中に飾った。何時もけんかの絶えなかった家族なのに、どうしたことかみんな笑顔になって、にぎやかな食後の団らんになった。何かが変わっていた。一つ思い当たることは花の香りが溢れていることだった。そうだ、きっとあの花が人を幸せにする酸素を出しているに違いない。その夜ベッドに入って電気を消すと、小さな胞子状の光がたくさん飛び交い、コメットのようになってヒューと尾を引いて私の耳元にやって来て、「この花を世界中に咲かせてよ」と口を揃えてささやくのです。あなたは誰なのと尋ねると、『私は〝しあわせ草(そう)〟です、空気があればどこでも水を作り出せる〝アクアマン〟と幸せの空気を作り出す〝サンソマン〟に守られた花の妖精です。世界中の人々に幸せを届けたいのです、お願いします』というと、その後はもう何も聞こえず、真っ暗のままだった。耳を引っ張り、目をさすってみた。夢ではなかった。僕にどうせよ、と言うのだろう。花は育てられるとしても、世界中に花を一杯咲かせて、と言われても、どのようにすればいいのか、いろいろ考えている内に眠り込んでいた。見渡す限りの野原に花が咲き乱れ、蝶が舞い、小鳥がさえずっている。銃を構えて砂煙を上げて走る車がみえる。寒さに震えるこどもが泣いている。水を求め、食べ物を必死に探す人がいる。もっと薬を、と助けを叫ぶが人いる。そこに戸惑って立ち尽くしている僕がいる。突然、ああ底の無い穴に落ちていく・・と頭が真っ白になって、もう駄目だとあきらめかけて、目が覚めた。背中に汗がにじんでいた。ぞっとする夢だった。いくら眠ろうとしても益々目が冴えてくる。すると暗闇に小さな光が一つ二つ三つと現れて耳と目に触れると、つぶやくように眠りなさい、瞼を閉じなさい、と声がして静かな眠りが訪れた。朝は差し込む太陽の光で目が覚めた。昨夜の恐ろしい夢も目覚めるとぼやけていた。しかし妖精が耳元でささやいた「この花を世界中に咲かせてよ」と言った言葉は石に刻まれたように確りと心の底に焼き付いていた。気掛りなので起きて直ぐに花のところへ行ってみると、驚くことに、一夜で畦道に花が咲きそろい、あの花はグーンと大きくなっていて、ほほ笑みかけてきた。けげんそうな僕に「私を手にしてごらん」と言いました。言われるままに花を手にとると、昨日にも増して馥郁とした香りが立ちこめた。そして「私をお陽さんにかざして、世界中にやさしさを届けるぞ、と呼びかけて」と言いました。胸一杯に朝の空気を吸い込んで「世界中に優しさをとどけるぞ」と空に向かって大声で叫びました。花は世界へ響けよ、と透き通った声で「鳥達よ、ここへおいで」と歌いだしました。すると鳥達がどこからともなく歌声に吸い寄せられて周りに満ち溢れました。再び「しあわせ草(そう)を世界中に運んでよ、水は無くても、砂漠でも、空気があれば大丈夫、アクアマンが水づくり、種が落ちれば花は咲く、摘めば微笑みこぼれ出す、僕も、あなたも、敵も、味方もみんなにハッピー届けます」 歌声が消えると鳥達は一斉に花をくわえて飛び立ちました。夢か、と周りを見渡すと朝露光るいつもの風景でした。「どうして、何もかも思うままにできる〝しあわせ草(そう)〟は僕にささやきかけたのだろう」と不思議な気がしました。すると、まるで僕の心を見すかしたように「人の力を借りないと私は何も出来ません、幸せはみんなで作り出すものです」と、優しい声が響きました。呆然と立ち尽くしている僕のズボンの裾を愛犬のスロッピーがひっぱりました。学校に遅れると思って呼びにきてくれたのだ。帰ると母が食事を準備して待っていた。さっとすませて、鞄と弁当を持つと駆け出した。始業ぎりぎりで間に合った。ラッキー。仲間のいる学校は楽しい。あの花のことなどすっかり頭から消えていた。父さんの観ているニュースには世界の悲惨な戦争や、飢餓や病気に苦しむ人々の生々しい様子が映し出されていた。それを見ていて、不思議な体験を話し出すと、「お前、気は確かなのか」と言って全く取り合ってくれませんでした。よく考えてみると、魔法をかけられていたのかもしれない、と思った。友達との遊びに忙しく、不思議な出来事はすっかり忘れてしまっていた。ところが三ヶ月程経って、世界中で奇妙なことが起こり始めていた。砂漠に花が咲き、戦場の兵士は戦いをやめ、飢えに苦しむ人々の荒れ野にも花が芽吹き、飢えていた子供に笑顔が出始めたなどの嬉しい出来事が連日ニュースになっていた。本当に「やさしさを世界に届ける」と言う〝しあわせ草(そう)〟の願いが育ち始めていたのだ、と思った。
世界中が〝しあわせ草(そう)〟で満ちあふれ、地球がハッピー星になればいい。
学校の帰り道で田圃の畦に咲く小さな花が僕をじっと見つめているような気がした。手にすると甘酸っぱい匂いが鼻をくすぐって、幼い日の母さんの温もりを思いだした。花をたくさん摘んで、家中に飾った。何時もけんかの絶えなかった家族なのに、どうしたことかみんな笑顔になって、にぎやかな食後の団らんになった。何かが変わっていた。一つ思い当たることは花の香りが溢れていることだった。そうだ、きっとあの花が人を幸せにする酸素を出しているに違いない。その夜ベッドに入って電気を消すと、小さな胞子状の光がたくさん飛び交い、コメットのようになってヒューと尾を引いて私の耳元にやって来て、「この花を世界中に咲かせてよ」と口を揃えてささやくのです。あなたは誰なのと尋ねると、『私は〝しあわせ草(そう)〟です、空気があればどこでも水を作り出せる〝アクアマン〟と幸せの空気を作り出す〝サンソマン〟に守られた花の妖精です。世界中の人々に幸せを届けたいのです、お願いします』というと、その後はもう何も聞こえず、真っ暗のままだった。耳を引っ張り、目をさすってみた。夢ではなかった。僕にどうせよ、と言うのだろう。花は育てられるとしても、世界中に花を一杯咲かせて、と言われても、どのようにすればいいのか、いろいろ考えている内に眠り込んでいた。見渡す限りの野原に花が咲き乱れ、蝶が舞い、小鳥がさえずっている。銃を構えて砂煙を上げて走る車がみえる。寒さに震えるこどもが泣いている。水を求め、食べ物を必死に探す人がいる。もっと薬を、と助けを叫ぶが人いる。そこに戸惑って立ち尽くしている僕がいる。突然、ああ底の無い穴に落ちていく・・と頭が真っ白になって、もう駄目だとあきらめかけて、目が覚めた。背中に汗がにじんでいた。ぞっとする夢だった。いくら眠ろうとしても益々目が冴えてくる。すると暗闇に小さな光が一つ二つ三つと現れて耳と目に触れると、つぶやくように眠りなさい、瞼を閉じなさい、と声がして静かな眠りが訪れた。朝は差し込む太陽の光で目が覚めた。昨夜の恐ろしい夢も目覚めるとぼやけていた。しかし妖精が耳元でささやいた「この花を世界中に咲かせてよ」と言った言葉は石に刻まれたように確りと心の底に焼き付いていた。気掛りなので起きて直ぐに花のところへ行ってみると、驚くことに、一夜で畦道に花が咲きそろい、あの花はグーンと大きくなっていて、ほほ笑みかけてきた。けげんそうな僕に「私を手にしてごらん」と言いました。言われるままに花を手にとると、昨日にも増して馥郁とした香りが立ちこめた。そして「私をお陽さんにかざして、世界中にやさしさを届けるぞ、と呼びかけて」と言いました。胸一杯に朝の空気を吸い込んで「世界中に優しさをとどけるぞ」と空に向かって大声で叫びました。花は世界へ響けよ、と透き通った声で「鳥達よ、ここへおいで」と歌いだしました。すると鳥達がどこからともなく歌声に吸い寄せられて周りに満ち溢れました。再び「しあわせ草(そう)を世界中に運んでよ、水は無くても、砂漠でも、空気があれば大丈夫、アクアマンが水づくり、種が落ちれば花は咲く、摘めば微笑みこぼれ出す、僕も、あなたも、敵も、味方もみんなにハッピー届けます」 歌声が消えると鳥達は一斉に花をくわえて飛び立ちました。夢か、と周りを見渡すと朝露光るいつもの風景でした。「どうして、何もかも思うままにできる〝しあわせ草(そう)〟は僕にささやきかけたのだろう」と不思議な気がしました。すると、まるで僕の心を見すかしたように「人の力を借りないと私は何も出来ません、幸せはみんなで作り出すものです」と、優しい声が響きました。呆然と立ち尽くしている僕のズボンの裾を愛犬のスロッピーがひっぱりました。学校に遅れると思って呼びにきてくれたのだ。帰ると母が食事を準備して待っていた。さっとすませて、鞄と弁当を持つと駆け出した。始業ぎりぎりで間に合った。ラッキー。仲間のいる学校は楽しい。あの花のことなどすっかり頭から消えていた。父さんの観ているニュースには世界の悲惨な戦争や、飢餓や病気に苦しむ人々の生々しい様子が映し出されていた。それを見ていて、不思議な体験を話し出すと、「お前、気は確かなのか」と言って全く取り合ってくれませんでした。よく考えてみると、魔法をかけられていたのかもしれない、と思った。友達との遊びに忙しく、不思議な出来事はすっかり忘れてしまっていた。ところが三ヶ月程経って、世界中で奇妙なことが起こり始めていた。砂漠に花が咲き、戦場の兵士は戦いをやめ、飢えに苦しむ人々の荒れ野にも花が芽吹き、飢えていた子供に笑顔が出始めたなどの嬉しい出来事が連日ニュースになっていた。本当に「やさしさを世界に届ける」と言う〝しあわせ草(そう)〟の願いが育ち始めていたのだ、と思った。
世界中が〝しあわせ草(そう)〟で満ちあふれ、地球がハッピー星になればいい。