ON  MY  WAY

60代を迷えるキツネのような男が走ります。スポーツや草花や人の姿にいやされ生きる日々を綴ります(コメント表示承認制です)

「スローカーブを、もう一球」(山際淳司著;角川文庫)を再読する

2020-01-08 20:34:06 | 読む


「スローカーブを、もう一球」
なんだか懐かしい本の名前が出てきたな、と思った。
私が最初に買って読んだのは、平成8年の頃だから四半世紀も前のことになる。
日課(?)の一つに、朝日新聞の「天声人語」を読むということがある。
今日の天声人語は、その「スローカーブを…」を扱っていた。

もう一度読みたくなって、本棚から引っ張り出した。
「スローカーブを、もう一球」は、スポーツノンフィクションライター、山際淳司が書いたものである。
角川文庫から出たこの1冊には、その作品のほかに、有名な「江夏の21球」も収められている。

天声人語は、筆者が、その話の主人公である川端俊介氏の死を知ったところから始まる。

そうか、あの人は小学校の先生をしていたのか。

という書き出しであった。

川端俊介さんは、群馬県立高崎高の硬式野球部の主戦投手として活躍し、1981年春の選抜高校野球大会に出場した。
この話は、甲子園出場にこぎつけるまでの彼の関東大会の活躍を主に描いている。
体格的に優れていたわけでもなく、人より速い速球を投げられたわけでもない。
厳しい練習も、好きなわけではない。
彼が武器にしていたのは、山なりのスローカーブ。
その球種が自分そのもののようだと考え、主人公は強い相手との対戦を楽しむ。
そして、簡単には負けない。

素質や才能がなくても、ありのままの自分を信じて投げ込む。
そして、相手を打ち取る。

その描写が、読んでいて心地よい。
関東大会決勝でも、負けたが、相手の強打者を4打数1安打2三振に抑えている。
その1安打は、初回の先制三塁打ではあったが、後半の2打席はねらって三振を取っている。
読む方としてはガチガチの努力は好きではないし、素質や才能のある人間ではないという点では、主人公に気持ちが重なる。

ノンフィクション作品なので、登場人物川端氏は実在した。
甲子園では初戦で敗れたが、その後大学を卒業後は、小中学校の教員をしていたということだ。
昨年10月に、56歳で亡くなったことが、地元上毛新聞のネット記事に出ていた。

そこには書かれてないが、天声人語によると、教室で倒れたらしい。
「子どもたちの声が聞きたい」とリハビリに取り組んでいたとも、書いてあった。

素質や才能であきらめるのではなく、自分を信じて工夫してぶつかっていく。
きっとそんなことを子どもたちに教えていた、いい先生だったに違いない。

それにしても、この一冊を再読して、取材し読ませるノンフィクション作品を仕上げていた山際淳司氏の筆力はすごいなあ、早すぎる逝去はもったいなかったなあと思う。
山際氏が亡くなってから久しいが、改めて川端氏とあわせ、ご冥福を祈りたい。

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