五島美術館の「近代の日本画展」を見る。
近代の日本画は西洋絵画を下敷きに再興されたもので、やまと絵のやうな純粋なる日本絵画と同一に並べることは出来ない。
それでも松岡映丘のやうに、本當の原点を追究することに気が付き、日本古来の絵画へ新風を吹き込んだ画家もゐる。
私が敬愛する“ごうとう慶太”こと五島慶太はさうした画家の優品も多く蒐集しており、今回はそのなかでも特に一級の作品が展示されてゐる。
目当てだった松岡映丘の作品では、「祭の使者」に描かれた清涼感すら漂ふ束帯姿の貴人像に、おのれの気持ちとの合致を見る。
また同時展示された石印材のうち、鮮血と見紛ふばかりの赤色が表面に浮き出た「鶏血(けいけつ)」といふ昌化石にしばし目を奪はれたのが、この企画展でいちばんの収穫。
第二展示室では経文や漢詩など、古文字が中心に展示されてゐるなか、江戸時代に来日した唐人が二代目市川團十郎を評したものと云ふ漢詩文「清人賞辞文」に、ふと可笑しみを覚える。
子孫の七代目が、のちに歌舞伎十八番のうちへ加へることになる「外郎賣」を自作自演したほどの才人ゆゑ、このやうな文化人の目に留まることも充分あり得るわけだが、漢詩文といふ高尚な印象のある文藝にかうしたを採り上げてゐる実際との落差を、興味深く思ふ。