夕方に道を歩いてゐると、少し前に自転車で脇を追ひ越して行った小学生の少年が、停めた自転車を押さへながら「すみません……」と聲をかけてきた。
急に自転車が動かなくなって困ってゐるんです、と少年は消え入りさうな聲で足をとめた私に續けた。
やれやれ、とんだ巡り合はせだ──
見れば、前カゴに入れたショルダーバッグのバンドが外へ垂れて、それが前輪のブレーキゴムに絡まったことが原因だった。
私は一瞬、誰かに任せて逃避することを考へた。
いやいや。
他力本願は私の最も嫌ひとするところではないか。
日ごろ豪語の自力本願を實行するのは、今この時なり……。
私はブレーキゴムに絡んだバンドを指で少し緩めてから自転車を後退させると、バンドは難なく外れた。
ありがたうございます、と礼を述べて再び走り去る少年を見送ることもなく、私は子どもが好きではないのにとんだ善行を積んだと、マスクの内で苦笑する。
おそらくは、
途中で手を合はせた道の守り神さまが、
私を試されたのだ。