孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

福島第1原発事故対応に活かされぬ「ロボット先進国」日本の技術

2011-04-01 20:35:42 | 災害

(日本政府から米国務省への要請で、福島に送り込まれたと報じられている軍用ロボット「ドラゴン・ランナー」 米海兵隊向けに開発された戦車のような無限軌道走行型の小型ロボットで、屋内の偵察や車両底部の不審物探査などの任務に適しているとされています。今回は、原発内部に入り込み、詳細な破損状況の確認などに使われることが想定されています。 “flickr”より By Defence Images http://www.flickr.com/photos/defenceimages/4604399402/

【「官邸側の反応が鈍い」】
東日本大震災の救援・復興、福島第1原発の事故対応については、相変わらず厳しい状況が続いています。
官邸を含め、関係者が連日必死の努力をされていることは疑いませんが、部外者の目からすれば、原発事故対応については、国際協力やロボット技術の活用でもう少しうまくいかないものか・・・という思いも感じます。

****米「菅政権の反応が鈍い」…支援提供打診も*****
「もっと我々を信用してほしい」
福島第一原発事故への対応を巡り、米政府関係者は民主党幹部の一人に最近、こうもらした。米国は当初から強い危機感を持ち、原子炉冷却のための様々な機材や人員の提供を打診したが、米側は「官邸側の反応が鈍い」と感じ、「菅政権には米国への不信感がある」との臆測も呼んだ。

29日付の米紙ニューヨーク・タイムズによると、米原発業界は極秘に発電機やポンプ、ホースなどの冷却機材一式を備蓄しており、いざというとき米空軍が全米どこでも運搬する態勢になっている。テロ攻撃などで機能不全に陥った原発の安全確保が目的で、2001年の米同時テロ以後に態勢が整えられたという。
クリントン国務長官が地震直後、「在日米空軍の装備を使い、冷却材を日本の原発に運ばせた」と発言したのは、これに関連しているとみられる。しかし、日本側は「水なら海にいくらでもあるが……」(日本政府関係者)と危機意識が薄く、結局、この緊急計画は発動はされなかった。【4月1日 読売】
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放射線量が高く現場の作業員がなかなか近寄れず温度も線量もわからないとか、汚染されたがれきが作業の妨げになっているとか、作業中に被爆したというニュースを聞くと、「一体、ロボット先進国の技術はどうなったのか?こんなケースにこそ活用されるべきものではないか」という感があります。

【「原子力災害に備えたロボット政策を怠ったつけ」】
もちろん、日本政府もロボット技術活用を行っていない訳ではありません。
****米ハイテク3社、原発事故支援へ リスク回避へ日本要望******
東京電力福島第一原発の事故を受け、遠隔操作ロボットの開発が盛んな米国から、複数のハイテク企業が支援に名乗りを上げている。イラク戦争に使われた軍用ロボも投入される。原発事故という特殊現場での効乗は未知数だが、期待は高まっている。

「日本政府が世界にロボット、無人機を求めています」。世界の注目が「フクシマ」に集まっていた3月22日、米バージニア州にある国際無人機協会(AUVSI)のホームページに会員企業向けの案内が載った。
ロボット開発に取り組む研究者や企業でつくる世界最大の業界団体で、現在55力国から2千社以上が加盟している。協会によると、原発事故後、日本政府が米国務省にロボットや無人機の支援を要請。現時点で少なくとも3社が支援に動き出しているという。(中略)

遠隔操作ロボの開発は軍事利用が念頭に置かれているが、原発事故の直後には、日本の防衛省関係者の間で 「今回は戦地に並ぶ危険任務。遠隔操作可能な無人機、ロボットを投入できれば、人的リスクを軽減できる」との期待が高まっていた。
国際無人機協会によると日本側が求めているのは、 ①運搬用ロボット、②原発の深部に入り込んで破損状況など詳細データを収集できる小型ロボット、③放射能汚染区域にも物資や機器を運べる遠隔操作型の無人ヘリコプターやトラックの3点だった。
世界における軍事ロボの広がりに詳しい米ブルッキングス研究所のピーター・シンガー上級研究員によると、多くの米企業がアイデアや技術の提供を申し出ている。原発という珍しいケースのため、試作品の投入も検討されているという。【4月1日 朝日】
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ただ、こうした先端技術を使いこなせていない現状もあるようです。
****原発災害ロボ、使えぬ日本 欧米提供もノウハウなく****
専門家「政策怠った」
放射性物質(放射能)漏れ事故を起こした東京電力福島第1原子力発電所は、建屋内の汚染水や高い放射線量が復旧作業を阻んでいる。欧米各国の支援もあり、現地には原子力災害に対応できるロボットが投入されているが、十分に活用できていない。事故を想定したロボット運用のノウハウが日本にないためで、専門家からは、政府や東電が「原子力災害に備えたロボット政策を怠ったつけ」との批判が上がっている。

東日本大震災の発生に伴う事故から間もなく、米国から、米アイロボット社が米軍向けなどに開発している運搬用ロボットなどが日本に送り込まれた。日本の原子力安全技術センターも、放射能を測定できるロボット「防災モニタリングロボ」2台を現地に送り込んだ。
米社のロボットは、100キロ以上の物体を運ぶ能力があり、高い放射線量が検出されている場所で、消防ホースを運ぶ役割などが期待される。ただ、ロボット操縦用に派遣された社員6人は待機している状況だ。
防災モニタリングロボは、約1キロの遠隔地から自走して災害現場にたどり着き、作業できるが、東電は「現場に任せているので詳細は分からない」(広報)と歯切れが悪い。
アイロボット社は「われわれも詳しい情報がない。スタッフは要請があればいつでもスタンバイしているが…」と戸惑い気味だ。

災害用ロボットの権威である東北大の田所諭教授は「原子力災害用に開発されたロボットは人に代わって危険な現場で作業をこなす能力がある」と指摘する。
活用を妨げているのが、ロボットの運用の問題だ。原子力安全技術センターは「操作方法を東電に教え、使い方も東電の判断に委ねている」とするが、東電の受け入れ態勢もさることながら、東電任せで、慣れない事故現場での作業効率が十分かは疑問だ。

3月28日付米紙ワシントン・ポストは、世界的にみれば原子力災害に対応したロボットを配備する国は少数だと紹介した。米国でも、1979年のスリーマイル島原発事故後に産学連携で開発が進んだが、経営難で行き詰まったという。
それでも、田所教授は「電力会社や当局が、ドイツやフランスのように原子力災害に備えたロボット開発を推進してこなかったことは問題だ」と指摘する。
ドイツのメルケル首相は、原子炉の修復などに使える高性能ロボットの提供を日本政府に申し出た。米国も軍用の爆発物処理ロボットを29日に発送したほか、放射線の測定ロボットの投入も準備している。
日本政府も遅まきながら、第1原発でのロボット活用を検討し始めたが、人的被害を最小限に抑えるには、もっと迅速な対応が求められた。【4月1日 産経】
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メンテナンスされてなく使えないロボット
日本の原発用ロボットについては、こんな記事も。
****日本製も現場投入*****
日本のロボットも現地に1台が派遣されている。放射線計測器やカメラなどを積んだ「防災モニタリングロボット」だ。原子力安全技術センターが1億円弱をかけ、2000年に開発した。
これまで防災訓練で使われていたが、「実戦」は初めて。地震発生から徽日後に東電側に引き渡された。ただ「使用状況に関する情報は入っていない」(同センター)という。

「ロボット先進国」の日本では、原子力施設の事故に対応する専用のロボットも開発してきた。
同センターのほかに、旧日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)も、99年に茨城県東海村のJCOで起きた臨界事故の後、放射性物資で汚染された場所の状況を把握することなどができるロボット5台を開発した。
だが、福島には派遣されていない。今はもう動かないからだ。予算がつかなくなり、メンテナンスができなくなったためという。【4月1日 朝日】
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メンテナンスされてなく動かない・・・というのはどういう状況でしょうか?
何十年も以前の機械ならまだしも、ほんの10年ほど前の機械ですから、こうした事態を受けて突貫作業でメンテナンスすればすぐに使えるようになる・・・といったものではないのでしょうか?こうした事態のために高い費用をかけて開発した技術ではないのでしょうか?
素人にはわからないところですが、被爆の危険をおかしながら作業を続けている関係者のことを思うと、危機意識が欠如しているようにも思えてしまいます。

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福島第一原発事故 世界の原子力政策に衝撃 “原子力時代終焉”の報道も

2011-03-17 21:31:22 | 災害

(3月13日 核廃棄物貯蔵施設があるドイツ北部ゴアレーベン(Gorleben)での原発反対の抗議デモ “Fukushima ist überall”(“Fukushima is everywhere”)のプラカード “flickr”より By cephir
http://www.flickr.com/photos/cephir/5531943110/ )

消えないチェルノブイリの悪夢
東電福島第一原発の事故については、今日も最悪シナリオを回避すべく、ヘリからの放水、地上からの放水、送電ラインの確保など、必死の対策が取られていますが、予断を許さない危機的状況が続いています。

“想定外”の事故、“日本ではありえない”とされていた事故、その後の制御不能の状態の衝撃は、温暖化対策や原油価格高騰のなかで“原子力ルネサンス”とも呼ばれる原発重視の姿勢を強めていた世界各国の原子力対応へ深刻な再考を求めています。

****原子力時代終焉・統制不能…各国報道も原発集中****
東京電力福島第一原子力発電所の事故が連日、深刻化するにつれて、各国メディアの報道も、原発の危険性に集中し始めている。

米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は14日、「電力会社幹部はどうすればいいか分からず、完全にパニックだ」とする業界関係者の見方を紹介、最悪の場合は燃料が格納容器の底を突き抜ける「メルトダウン」が起きる恐れを指摘した。
米メディアの関心は、放射性物質の拡散や米国内の原発の耐震性などにも移っている。14日のホワイトハウスでの記者会見では、「同規模の地震に米国の原発は耐えられるのか」「最悪のシナリオでも、アラスカや西海岸に(日本からの)放射性物質は届かないか」といった質問が相次ぎ、米原子力規制委員会(NRC)のグレゴリー・ヤツコ委員長が「距離から見て米国に害が及ぶことは、まずない」などと否定に追われた。
米国内には104の原発があり、電力の2割をまかなっている。カリフォルニア州では地震、中西部では竜巻の脅威があるため、米専門家の間では「日本の事故が、米国内の原発の建築、運用の規制強化につながる可能性がある」との見方が広まっている。
(中略)
ドイツの高級誌シュピーゲル(14日付英語電子版)は、「原子力時代の終焉」という見出しで詳報しながら、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故と比較し、「日本政府が安全を確約しているにもかかわらず、再びチェルノブイリが起きる不安が広がっている」と伝えた。【3月15日 読売】
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アメリカ:引き続き原発推進
アメリカでは1979年のスリーマイル島原発事故以来、原発の安全性に対する懸念が強く存在していますが、オバマ大統領は、国内のエネルギー需要に対応する狙いで、化石燃料への依存を減らし、原子力発電を推進する方針を打ち出し、昨年には、約30年ぶりに建設する新たな原発に83億ドル(約6800億円)の融資保証を発表しています
原子力関連産業の団体、米国原子力エネルギー協会(NEI)によると、現在、向こう15─20年間に建設予定の原子炉20基の営業免許申請を当局が審査中です。

今回の事態を受け、「日本の地震・津波被害の状況を把握するまで、静かに素早くブレーキをかける必要があると思う」(上院国土安全保障・政府活動委員会のリーバーマン委員長)など、米政府内ではこうしたエネルギー政策を見直す動きも出ているとも伝えられています。
しかし、当面は国内の原子力発電を引き続き推進していく意向があらためて示しされています。
今後、オバマ大統領が提案している360億ドル(2兆9520億円)の原発建設融資策を巡り、議会で議論を呼ぶことが予想されます。

****米国が原発推進をあらためて強調、福島原発事故は「教訓に****
日本の福島第1原子力発電所で相次いで事故が発生するなか、米政府は14日、国内の原子力発電を引き続き推進していく意向をあらためて示した。
米エネルギー省のポネマン副長官はホワイトハウスで記者団に対し、政府が目指すクリーンエネルギーの発展に向け、原子力発電は非常に重要な位置を占めていると指摘。米国内の原発の安全性を確信していると強調した。
日本での原発事故については、今後の技術改善に教訓として生かすと述べた。
米国では現在、104基の原発が稼動しており、国内電力需要の20%をまかなっている。(後略)【3月15日 ロイター】
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ドイツ:稼働期間延長方針を棚上げ
今回事故にもっとも敏感に反応したのがドイツです。メルケル首相は原発稼働期間を延長する決定を棚上げすることを発表しています。
****ドイツが原発稼働延長を棚上げ、福島第1原発の問題受け****
ドイツ政府は、東日本大震災で被災した東京電力福島第1原子力発電所が危険な状況に陥っていることを受け、原子力発電所の稼働期間を延長する方針を棚上げした。
独連立政権は昨年、シュレーダー前政権が掲げた脱原発政策を修正し、原発の稼働停止期限を延長することで合意した。
ところが、地震で被災した福島第1原発の深刻な事態を受け、急きょその方針の見直しを迫られた。
メルケル首相は記者会見で「わが国の原発の稼働期間を延長する決定を棚上げにする。期間は3カ月を予定している」と述べたうえで、原発の安全性検査について、「一切聖域を設けず」行う方針を示した。【3月15日 ロイター】
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これまでは「ドイツの原発は安全だ」と強調していたメルケル首相ですが、15日には、1980年以前に稼働した7基すべての稼働を少なくとも6月まで一時停止する方針も表明しています。「世論調査では最大70%ものドイツ人が原発に反対している」(ニューヨークタイムズ)と言われるように原発への批判が強い世論を考慮して、“今月実施される地方選挙で大敗を避けようとする思惑があるとみている”【3月16日 ロイター】とも。
また、政策変更を迫られたメルケル首相は、日本政府の情報提供のありように苛立ちを募らせているようです。

イギリスでは、ヒューン・エネルギー相が日本の原発事故を受け、イギリスの原発に関する安全点検の報告書をまとめるよう関係者に指示しています。
“英下院にも、ドイツのような全面的政策見直しを視野に入れた対応を求める声があるが、エネルギー相は「(欧州)大陸側の一部の政治家は原発問題についての判断を急いでいるようにみえ、残念だ」と述べた。”【3月16日 時事】とも。

なお、EU全体としての対応としては、EU域内14か国で稼働している原子炉143基の安全性の総点検を実施することで原則合意しています。

ロシア:原発輸出策を続ける方針
チェルノブイリ原発事故を経験したロシアは、原発輸出策を続ける方針を鮮明にしています。
****原発建設にロシアとベラルーシ合意 「計画とめない****
ロシアは15日、ベラルーシと共同で同国に原発を建設することで合意した。ロシアは原子力を成長産業と位置づけ、外交ツールとしても重視しており、福島第一原発の事故で広がる「原発敬遠」の動きを牽制(けんせい)する狙いがあると見られている。

ロシアのプーチン首相が同日、ベラルーシのルカシェンコ大統領らと会談して合意にこぎ着けた。インタファクス通信によると、プーチン首相は「ベラルーシは日本のような地震ゾーンにはないが、我々の原発は最新世代で安全性がより高い」と主張。14日には「日本の出来事の教訓は学ぶが、自らの計画を止める予定はない」と述べていた。
ロシア国営原子力企業「ロスアトム」の専門家も、福島のケースはチェルノブイリ原発事故とは根本的に違い、福島タイプの炉はロシアにはないと強調。こうした発言には「原発批判の高まりやパニックを払拭(ふっしょく)する試みだ」(独立新聞)との指摘が出ている。

チェルノブイリ事故で放射能被害を受けたベラルーシでの原発建設には、欧州連合(EU)加盟国の隣国リトアニアが反対している。
ロシアは中国やベトナムで原発を建設中で、計30基の原発輸出計画があるという。国内でも現在16%の原発電力シェアを2030年までに25%へ拡大する予定で、今後28基をつくる計画とされる。【3月16日 朝日】
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中国:安全確保を最優先し見直し
中国は安全確保を最優先し、中長期計画を見直す方針を決めています。
****中国:新規の原発建設計画の審査・承認を暫定的に凍結****
中国政府は16日、温家宝首相が主宰する国務院(政府)常務会議を開き、福島第1原発の事故を受けて、新規の原発建設計画の審査・承認を暫定的に凍結することを決めた。
常務会議は、稼働中の原発の全面的な安全検査を行うほか、原子力安全計画の策定を急ぐとしており、凍結は計画が確定するまでの措置。

原発増設などに関する中長期計画も見直される。中国政府はこれまで電力需要の急拡大に合わせて原発の増設を急速に進めてきたが、今回の事故で再検討を迫られた格好だ。
常務会議は、建設中の原発も再度チェックし、安全基準に合わなければ建設を停止することを決めた。【3月16日 毎日】
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台湾・韓国、東南アジア各国でも高まる議論
台湾・韓国でも安全性に関する議論が高まっています。
****台湾が原発公開、安全性を強調 韓国も原発の安全報告****
すでに原発のある台湾や韓国でも安全性への疑問の声が高まっている。
3カ所の原発を運営する台湾電力は15日、北部の海沿いにある第一原発をメディアに公開した。運転開始が1970年代末でやや古く、半径20キロ圏に台北市北部が入る。
陳台裕所長らは「福島にはないものが我々にはある」と安全性を強調した。敷地は海面から12メートルで、津波に耐えられる。予備電源にはガスタービン発電機2基とディーゼル発電機があるという。だが地元記者の一人は「いくら備えてもそれを上回る災害がありうることを考えないのか」と疑問を呈した。
台湾の電力供給のうち原子力は現在2割ほど。原発反対の機運が高まり、現在建設している第四原発の扱いが焦点となっている。馬英九(マー・インチウ)政権は、原発推進の政策は変更しない考えだ。しかし馬総統自身、「第四原発の防災対策を強化したい」と表明した。

韓国大統領府は16日、幹部会議を開いた。出席者によると、韓国国内で稼働中の21基の原発について設計段階から安全に配慮して建設されたことなどが報告された。
ただ、野党の孫鶴圭・民主党代表は16日、「原発を基本とするエネルギー政策を根本的に検討すべきだ」と発言。与党からも原発の徹底した再点検を求める声が出始めている。(村上太輝夫、箱田哲也) 【3月17日 朝日】
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原発導入を予定している東南アジア各国にも強い衝撃を与えています。
****原発導入予定の東南アジア各国に不安 見直し促す声も*****
福島原発で相次ぐ事故のニュースは、経済成長に伴う電力需要の急増などから原発導入を予定する東南アジア各国に驚きと不安を持って受け止められている。

「建設予定地で地震発生は予想されていない」「地震対策は万全だ」。昨年10月、国内で初めて建設する4基の原発のうち、2基を日本企業に発注することを決めたベトナム。メディアが連日事故を詳しく報じるなか、14日付の政府系ラオドン(労働)紙は、科学者の言葉を引用して、原発の安全性を強調した。
政府が世論の動きに敏感になっている表れだ。設置場所や災害時の冷却方法などでより慎重な計画を求める論評も出てきている。グエン・フォン・ガー外務省報道官は14日、朝日新聞の取材に「日本と協力し、最高の計画を作る」と語り、予定に変更のないことを確認した。

地震大国インドネシアでも、国内初の原発建設に向けた計画が進行中だ。有力紙コンパスは、16日付で複数の原発関係者らのコメントを掲載。原子力専門家のイワン・クルニアワン氏は「日本は原発施設で長年の歴史がある。日本人は勤勉で規律を守る国民にもかかわらず、事故が起きた」と、見直しを促した。
同国原子力庁の職員も16日、朝日新聞の電話取材に対し、匿名を条件に「日本の経験は多くの教訓を与えた。再考すべきだ、急ぐ必要はないではないか、という雰囲気になっている」と話した。(中略)

2021年をめどに初めて原発を導入する方針を打ち出しているマレーシア。野党が政権を握るペナン州のトップ、リム・グアンエン首席大臣が福島原発の事故直後から、同州内での原発建設に反対する考えを訴えるなど、複数の政治家や専門家から、政府に見直しを迫る声が上がっている。
リム氏は「先進国の日本ですら、原発をうまく制御できないでいるのに、マレーシアの与党政権が(原発事故に対し)どのような対応をするのか想像もできない」と述べた。

28年までに原発5基の建設計画があるタイ。アピシット首相は13日、「日本の原発での爆発はタイの計画に影響を与える」と発言。15日には建設候補地の東北部カラシン県で建設反対の住民約1千人が集会を開くなど、建設に否定的な発言や動きが相次ぐ。

また、温室効果ガス削減を理由に、一部で原発建設論議も出ているオーストラリアでは、与党労働党のギラード首相が14日、「豪州には太陽光や風力など代替エネルギーがほかにもあり、原発は必要ない」と語り、原発を推進しない姿勢を示した。【3月17日 朝日】
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このほか、メキシコ政府が14日、6月末までに決定するはずだった原子力発電所の建設計画について福島第1原発の事故状況が判明するまで保留する方針を明らかにしたこと、トルコのユルドゥズ・エネルギー相が、2カ所の原子力発電所の建設計画について予定通り進める方針を示したことなどが報じられています。

イラン・ブシェール原発 「我々のは現在の高い基準で造られた」】
最後にイランのブシェール原発に関する話題。
****イラン原発、トラブル続発****
稼働を控えたイラン南部のブシェール原発(出力100万キロワット)が、相次いでトラブルに見舞われている。政府は4月の発電開始を目指すが、遅れは必至。ペルシャ湾を挟んで向き合う湾岸諸国からは、安全性を疑問視する声が上がっている。

「日本のもの(福島第一原発)は40年前の古い安全基準で造られ、我々のは現在の高い基準で造られた。問題が起きるとは思わない」。アフマディネジャド大統領は15日、スペインのテレビ局との会見でブシェール原発の安全性を強調した。
しかし、大統領の言葉とは裏腹に問題が立て続けに発覚している。建設を担ったロシアは2月末、炉心に装填した163本の燃料棒を取り外して点検すると発表した。冷却ポンプが破損し、炉心などに微細な金属片が散らばったためとしている。
昨年秋に発覚したコンピューターウイルス「スタクスネット」も影響した。詳細は不明だが、ロシアのロゴジン駐北大西洋条約機構(NATO)大使は1月、「チェルノブイリ原発事故に匹敵する惨事が起きるところだった」と述べた。

イランは地震大国だ。仮に放射能漏れが起きれば、風向きの関係で湾岸諸国に真っ先に被害が及ぶとされる。クウェートの専門家は米ブルームバーグ通信に「イランは『信用してほしい』というが、信じる方が難しい」と警戒感をあらわにする。
ブシェール原発は1974年、ドイツ企業により建股が始まった。79年のイスラム革命で中断した後、ロシアの協力で95年に再開され、昨年夏に完成。燃料棒もロシアが管理するため、米国も稼働を容認した経緯がある。【3月17日 朝日】
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原発建設をこれまでどおり推進する立場の政府の説明は「我々のものは日本のものとは違い安全だ」というものですが、どうでしょうか・・・・。日本でも“安全だ”と言われていました。

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東日本大震災  海外で広がる日本支援と冷静な日本人への称賛 原発事故対応のまずさの指摘も

2011-03-16 20:52:24 | 災害

(“flickr”より By euronews http://www.flickr.com/photos/euronews/5525925277/ )

続く最悪シナリオの可能性
東日本大震災で被災した東京電力福島第1原発の事故は、関係者の懸命の努力にもかかわらず終息には至っておらず、メルトダウンによる大量の放射性物資の放出という最悪のシナリオの可能性もなお捨てきれない危機的状況が続いています。

****原子炉冷却に全力=白煙、火災相次ぐ―周辺は高い放射線量・福島第1*****
東日本大震災で被災した東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)では16日、3号機付近で水蒸気とみられる白煙が大量に立ち上り、4号機では原子炉建屋4階で再び火災が発生した。周辺では高い放射線量を観測。東電は冷却のため同日午後も原子炉への海水注入を続けるとともに、使用済み燃料プールにも海水を入れる準備を進めた。

地震発生時に運転中だった1~3号機では原子炉の冷却機能が失われ、一部炉心溶融が起きた可能性が高く、1、3号機は水素爆発で原子炉建屋上部が崩壊。2号機も建屋内の原子炉格納容器の一部が壊れた可能性が高く、高レベルの放射性物質が外部に放出された。

定期点検中だった4~6号機も含め、原子炉の近くにある使用済み燃料プールも冷却できず、水温が上昇。蒸発して水位が下がり、燃料棒の被覆管が損傷して、同様に高レベルの放射性物質が放出される事態が懸念されている。【3月16日 時事】
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福島第一原発の正門付近では14日に続き、15日にも核分裂が起きた時に出てくる中性子線が検出されたことも発表されていますが、検出の原因は不明とされています。

立場を越えて広がる支援
被災地での救助活動には世界各国から救助隊派遣などの支援が行われていますが、救助支援活動にあたる人々も被ばくを受けています。
****求められる限り日本支援=米兵被ばく続く―海軍****
東日本大震災で救援支援活動に当たっている米兵が新たに数人、低レベルだが被ばくしたことが15日、分かった。米軍が明らかにした。福島県の原発事故による放射線の脅威が増しているが、米海軍第7艦隊のファルボ広報官は「米国と同盟国日本との間には揺るぎない絆がある。日本政府から求められる限り、支援活動をやり通す」と述べた。(後略)【3月16日 時事】
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また、原発事故対策についても、アメリカやロシアから専門家が派遣されています。
****米国から原子力専門家7人、新たに到着****
米国のルース駐日大使は16日、都内の米大使館で記者会見し、米原子力規制委員会の専門家7人が同日、新たに日本入りしたことを明らかにした。
7人は、すでに12日から日本入りしている同委員会の専門家2人に合流し、福島第一原発の危機収拾に向け、日本政府や東京電力と連携して技術的支援にあたる。
米国からは15日に、高空と陸上の放射性物質測定機器が届いているほか、被曝による健康被害の専門家も日本国内で情勢分析にあたっているという。(後略)【3月16日 読売】
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海外では被害を受けた日本支援の声が、日頃の立場・意見の相違を越えて広がっています。
****日本助けよう」、韓国で募金の輪 2日間で4万人*****
東日本大震災で甚大な被害を受けた日本の災害復旧と被災者の救護活動に向けた個人の募金寄付が相次いでいる。
韓国社会福祉法人の社会福祉共同募金会が16日に明らかにしたところによると、日本に向けた募金活動は14日から本格的に始まり、2日間で4万8761件の計2億3977万ウォン(約1700万円)が集まった。(中略)
韓国共同募金会関係者は、「昨年1月に起きたハイチ大地震の時より寄付額が多く、関心が非常に高い。隣国であることが影響したようだ」と話した。
これに先だち、韓国共同募金は13日に第1次緊急救護支援金として50万ドル(約4000万円)を日本に支援している。【3月16日 聯合ニュース】
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韓国ではいわゆる反日団体も支援を表明しています。
****韓流スター、次々哀悼=反日団体も「痛み」―東日本大震災****
被害が広がる東日本大震災を受け、日本となじみ深い韓流スターからも次々と哀悼と支援の声が上がっている。「ヨン様」ことペ・ヨンジュンさんは14日、ホームページ(HP)で「被災された方々の安否が心配でテレビの前を離れられません。心を痛めています」とのコメントを発表した。(中略)
一方、支援の輪は「独島(日本名・竹島)守護」を掲げる反日的な市民団体にも。「ファルビン団」の洪貞植団長は「反日運動を一生懸命やってきたが、それはそれだ。今回の地震は、世界全体で痛みを分かち合わなければいけない。その意味で『市民連帯の集い』を結成し、日本の手助けをしようと考えている」と語った。【3月14日 時事】 
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****前を向いて歩こう」=タイ英字紙が激励広告―東日本大震災*****
タイの英字紙「ネーション」は16日付朝刊で、東日本大震災の被災者を激励する全面広告を掲載した。紙面の中心に大きな日の丸を描き、両脇には「前を向いて歩こう日本」と日本語で掲げた。
紙面上部には日本国民へのお悔やみの言葉を英語で記した。下段には、被災者への義援金を受け付けている銀行や企業の連絡先、毛布の持ち込み先を載せた。さらに、携帯電話からメッセージを送信すると1回10バーツ(約27円)が寄付される携帯各社のサービスについても紹介した。【3月16日 時事】
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14日付の韓国紙・ソウル新聞も1面に、韓国語と共に日本語で「震災に対し、深い哀悼の意を表します」との支援メッセージを掲載しています。

中国でも援助の声が広がっています。
*****対日援助、8割超が賛成=大震災で中国世論調査*****
香港のニュースサイト・鳳凰網がこのほど、インターネット上で実施した世論調査結果によると、大震災が発生した日本に対して人道援助をすることに賛成するとの意見が8割以上に達した。同サイトは中国当局系で、本土の利用者が多く、調査回答者の大半は本土のネットユーザーとみられる。
調査は東日本で大震災が起きた11日午後から12日夜にかけて実施し、約100万人が回答。「日本に人道援助を実施すべきだ」とする意見が86.7%を占めた。日本とは対立関係にあるとして援助に反対した人は10.6%にとどまった。

一方、台湾では与党・国民党の黄昭順立法委員(国会議員に相当)の事務所責任者が交流サイト「フェイスブック」で、尖閣諸島の領有権をめぐる対立を理由に対日援助はすべきではないと主張し、ネット上で非難を浴びた。黄氏は謝罪した上で、この責任者を解任した。【3月14日 時事】
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****日本に手を差し伸べよう」=中国紙に学者100人意見広告****
「日本に温かい手を差し伸べよう」。中国共産党機関紙・人民日報系の国際問題紙・環球時報は16日、北京大学国際関係学院の王緝思院長ら中国人学者100人が東日本大震災で日本への支援を呼び掛ける意見広告を出した。
尖閣諸島沖での漁船衝突事件や歴史認識問題で日本に対する厳しい論調が目立つ同紙に、こうした意見広告が出るのは珍しい。

学者たちは「中日両民族には2000年余の交流があり、植民地主義戦争の傷は深く、今もなお残された歴史問題が時に国家間の政治摩擦をもたらしているが、宿命や困難を克服し、互いに励まし合うことが必要だ」と指摘。「日本人は粘り強い。中国人の愛の心と援助の手は、日本人が災難に立ち向かう自信と力になるだろう」と訴え、募金やボランティアによる支援活動への参加を呼び掛けた。【3月16日 時事】 
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なお、アメリカではハイチ大地震のときと比べると募金は低調だそうで、「日本はハイチやインドネシアと異なり先進国だ。米国民が広範な国際支援が必要と一般的に考える国ではない」との声もあるようです。

香港の富豪からの8100万円の義援金も報じられていますが、戦乱が続くアフガニスタンからも400万円の支援表明がなされています。現地の事情を考えると大きな金額です。

****アフガニスタンが「400万円」支援表明***
アフガニスタンのカンダハル州のグラム・ハイダル・ハミディ市長は12日、東日本大震災の被災者に義援金5万ドル(約400万円)を送ることを表明した。
AFP通信によると、カンダハル州は反政府勢力タリバンとの内戦が最も激しい地域の一つ。それにも関わらず、これまでに日本がアフガン復興を熱心に支援してきたことへの恩返しとして、「市民を代表して地震と津波の被災者を支援したい」と述べているという。
アフガニスタンの生活水準では、国民の3分の2が、1日あたり2ドルという生活水準だとも言われており、いかに大きな金額かが理解できる。【3月13日 ゆかしメディア】
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【「なぜ日本では略奪が起きないのか」】
3月13日ブログ「東日本大震災 日本人の冷静さに対する海外からの称賛」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110313)でも取り上げたように、危機に際しての日本人の冷静さに対する称賛も海外で話題になっています。 

****大災害より強い日本人」=「危機でも協力」と称賛―韓国紙****
14日付の韓国紙・中央日報は「大災害より強い日本人」との見出しの社説で、「凍り付くような恐怖の前で日本人は冷静な国民性を遺憾なく発揮している。われわれは日本から学ぶことが多い」と論じた。韓国各紙は14日付朝刊でも東日本大震災を大々的に伝えたが、日本人の冷静ぶりを称賛する記事や、日本への協力を呼び掛ける記事が目立った。

中央日報は東京特派員の記事で、「南三陸地方では街が壊滅的な被害を受けているのに、叫び声や不満の声は聞こえない」「人々は『復旧を願うだけ』とあすを語り、誰のせいにもしない」と指摘。「危機でも協力する共同体意識は日本社会の底力だ」と書いた。
同特派員は、こうした背景に「他人に迷惑を掛けてはいけない」という日本人の考えと、降りかかってきたことを宿命と受け入れる国民性があると分析した。

一方、毎日経済新聞は「韓日関係、転換点へ」との見出しで、「今回の地震を契機に、韓日関係を協力と和解に発展させなければならないとの声が高まっている」と伝えた。また、ソウル新聞は1面に、韓国語と共に日本語で「震災に対し、深い哀悼の意を表します」とのメッセージを載せた。【3月14日 時事】
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****被災日本人のマナー、米紙が称賛****
米ロサンゼルス・タイムズ紙は13日、東日本巨大地震を取材中の特派員電を掲載、「非の打ち所のないマナーは、まったく損なわれていない」という見出しで、巨大な災害に見舞われたにもかかわらず、思いやりを忘れない日本人たちを称賛した。
記事は、足をけがして救急搬送をされた年配の女性が、痛みがあるにもかかわらず、迷惑をわびた上で、ほかの被災者を案じる様子などを紹介した。【3月15日 読売】
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****なぜ略奪ないの?」=被災地の秩序、驚きと称賛―米*****
東日本大震災の被害や福島第1原発事故が連日、トップニュースで伝えられている米国で、被災者の忍耐強さと秩序立った様子に驚きと称賛の声が上がっている。「なぜ日本では略奪が起きないのか」―。米メディアは相次いで、議論のテーマに取り上げている。

CNNテレビは、2005年に米国で起きたハリケーン・カトリーナ災害や10年のハイチ大地震を例に「災害に付き物の略奪と無法状態が日本で見られないのはなぜか」として意見を募集。視聴者からは「敬意と品格に基づく文化だから」「愛国的な誇り」との分析や、「自立のチャンスを最大限に活用する人々で、進んで助けたくなる」とのエールも寄せられた。【3月16日 時事】
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****東日本大震災 台湾、対日強硬派も応援 「略奪なく、すべてに秩序****
台湾の著名評論家、南方朔(本名・王杏慶)氏は15日付の台湾紙「中国時報」のコラムで、未曽有の大震災に見舞われた日本の国民や各界の対応を絶賛、「武士道精神の日本が災難に打ち負かされることはない」と最大限のエールを送った。
中国時報は親中派紙で、南方朔氏も「保釣(尖閣諸島防衛)」の強固な主張者だが、こうしたメディア、評論家も今回はおしなべて日本を応援している。
台湾では一般的に戦前から台湾に居住する台湾人が親日的な一方、戦後中国大陸から渡来した外省人が日本に厳しい傾向がある。
南方朔氏は後者の代表的評論家だが、「超大地震と津波に見舞われた日本で(米ニューヨーク大停電やカトリーナ災害時のような)商店略奪も起きず、すべてに秩序が保たれている」ことを称賛。
「日本独特の栄誉を重んじ、恥を知り、礼を重んずる特性」の原点を新渡戸稲造が指摘した武士道精神に求めている。
「ぐらつく菅直人政権も責任逃れせず」、官僚体制も的確に機能し、メディアも、冷静客観的に報道責任を果たしていると評価。「日本はいま、全世界のかわりに最も尊い試練に立ち向かっている」と述べている。【3月16日 産経】
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対応の遅れ、情報開示の不徹底への批判も
一方、日本政府の危機対応についてはWTOは評価していますが、それとは異なる批判もあります。
****東日本大震災 原発事故 WHOが日本の対応を評価*****
世界保健機関(WHO、本部ジュネーブ)は15日、東日本大震災による福島第1原発事故での日本政府の措置は適切だと評価した。WHOの報道官はロイター通信に、「原発から30キロ以上離れると被曝(ひばく)の危険性は格段に下がる。危険はかなり早く小さくなる」と語った。ヨウ化カリウムを準備したり、屋内にとどまるよう指示したりしているのも適切だと述べた。【3月16日 産経】
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****チェルノブイリ経験露専門家、日本入国足止め*****
福島第一原子力発電所の事故後の経過を注視するロシアで、東京電力と日本政府の対応のまずさを指摘する「人災説」が強まっている。
16日付の有力紙「イズベスチヤ」は、国営原子力企業「ロスアトム」専門家の見方として、「事故直後、(東京電力は)放射性ガスを大気中に放出してでも、即座に原子炉を水で浸さねばならなかった。最悪の事態を避けられると期待し、対応が遅れた」と伝えた。
露独占事業研究所の研究員は、「2004年のスマトラ島沖地震など強大な地震が起きたのに、事業者は、原子炉だけでなく冷却装置など関連施設の強化を怠った」と地元紙に述べた。
露各紙は、チェルノブイリ事故の処理に当たったロシアの専門家が、入国許可が遅れたために15日にハバロフスクで足止めを食ったとして、日本政府の対応の遅れに疑問を呈した。【3月16日 読売】
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****独メディア「日本政府は事実を隠蔽、過小評価****
ドイツでは、福島第一原発の爆発や火災などに関する日本政府の対応について、不信感を強調する報道が目立っている。
被災地で救援活動を行っていた民間団体「フメディカ」の救援チーム5人は14日、急きょ帰国した。同機関の広報担当者シュテフェン・リヒター氏は地元メディアに対し、「日本政府は事実を隠蔽し、過小評価している。チェルノブイリ(原発事故)を思い出させる」と早期帰国の理由を語った。

メルケル首相も記者会見で「日本からの情報は矛盾している」と繰り返した。ザイベルト政府報道官は、「大変な事態に直面していることは理解している。日本政府を批判しているわけではない」と定例記者会見で釈明したが、ドイツ政府が日本政府の対応にいらだちを強めていることは間違いない。【3月16日 読売】
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なお、オーストリア外務省は15日、福島第1原発の事故の先行きが不透明なことから、大使館の業務を都内の大使館から大阪にある総領事館に移すと発表しています。





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危機的状況が続く福島第一原発  トラブル続発 制御できず

2011-03-15 22:33:28 | 災害

(原発事故とは関係ありませんが、泥道を避難する宮城県名取市の住民 “flickr”より By Beacon Radio
http://www.flickr.com/photos/beaconradio/5519144197/ )

依然制御できず
東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所における危機的状況については、1号機から4号機が次々に爆発・火災・放射線漏れなどを起こす状況が続いており、運休中の5号機・6号機も温度上昇が伝えられています。

基本的知識を欠いているうえに、詳細な情報が把握できない状態ですので、一体何が起きているのかわからない部分がありますが、今日現在の状態をまとめると以下の記事のようなところです。

****福島第一1~4号機、依然制御できず*****
東京電力福島第一原子力発電所は、計6基の原子炉のうち4基で、放射能漏れや原子炉格納容器の破損が疑われる爆発や建屋火災など、深刻な事故が相次いで発生し、1~3号機で原子炉が十分に制御できない状態に陥っている。

水素爆発により原子炉建屋が大破した1、3号機について、東京電力は、核燃料の「冷却が最優先」として、炉心への海水の注入を続行。だが、圧力容器内が高圧になっていることもあり、「水が入っているかどうかは確認できない」(東電)という。15日午後の段階では、1号機の水位は依然不足しており、燃料棒の約半分が水につからず露出した状態が続いている。
3号機は同日朝に、建屋上部から原因不明の蒸気の発生が確認され、東電が調査を急いでいる。

14日夕から深夜にかけて、炉内の水位が低下し、燃料棒が2度にわたりすべて露出した2号機は15日朝、原子炉格納容器の下部にある圧力抑制室付近で爆発が起きた。海水を注入しているが、水位は徐々に低下し、やはり燃料棒の一部が水につかっていない異常な状態になっている。

一方、東日本巨大地震の発生時には、定期検査中で運転を停止していた4号機も、15日朝になって建屋で火災が発生した。建屋内には使用済み核燃料の一時貯蔵プールがあり、火災事故に伴って、放射性物質の飛散が懸念されるが、現場に近づけないため、十分に状況を把握できていない。

福島第二原発で、4基の原子炉のうち4号機だけが、冷却水が100度を下回る状態で安全に停止できていなかったが、15日朝に安全停止が確認された。【3月15日 読売】
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4号機 建屋破損で高濃度放射性物質の大量放出の危険も
定期点検中で、使用済み核燃料がプールに保管されていた4号機は、午前6時14分に爆発音がした後、東京電力社員が北西側の壁に8メートル四方の穴があいているのを確認したと報じられています。

****4号機、放射性物質を隔てるのは建屋のみ****
福島第一原発4号機の使用済み燃料プールの火災はこれまでの爆発事故より深刻だ。プールは原子炉圧力容器や格納容器の外にあり、外部と隔てるのは鉄筋コンクリート製の建屋しかない。1、3号機と同様に水素爆発が起きて建屋が吹き飛び、高濃度の放射性物質が大気中に大量に放出される恐れがある。

使用済み燃料は原子炉で燃やした核燃料を貯蔵しておくプールで、原子炉の隣にある。しかし、使用済みでも燃料は熱を帯びており、1時間あたり数トンの水が蒸発している。このため、常に水を補充して冷まさなければならない。今回、電源切れで水の補充が止まり水が蒸発したとみられる。このため使用済み燃料がむき出しになり、燃料を覆う合金から水素が発生し、酸素と反応して爆発したとみられる。
対策は、速やかにプールに水を注入して使用済み燃料を十分に水で冷やすことだ。4号機は地震前から原子炉が停止中だったため水を入れるのは1、3号機より容易だ。
しかし、すでに建屋内で火災が起きて一部損壊。高濃度の放射性物質が外に出ているとみられている。作業員の被曝(ひばく)の問題から作業は難航するとみられるが、建屋が水素爆発で吹き飛ぶことは防がなければならない。
専門家は、建屋の大爆発で大気中に高濃度の放射性物質が大量に飛散するのを防ぐ対策が最も重要だという。 【3月15日 朝日】
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2号機 格納容器も一部破損か?】
放射性物質封じ込めの最後の砦でもある格納容器損傷の可能性も指摘されている2号機の問題については、専門家の間でもいろんな見方があるようです。

****爆発音の2号機、何が起きた?…専門家の見方*****
東京電力福島第一原子力発電所2号機で、15日朝に確認された大きな爆発音。
原子力の最後の安全を確保する仕組みに重大な損傷が起きたのか。放射性物質が外部に大量に漏れ出す可能性もある。専門家の様々な見方をまとめた。

原発で最も大事なのは、放射性物質の封じ込めだ。
今回の爆発では、原子炉の格納容器に何らかの損傷が起きたのでは、という指摘が専門家から出ている。
京都大原子炉実験所の今中哲二助教(原子力工学)は「圧力抑制室の圧力が大気圧と同じまで下がったというのは破損がそれだけ大きく、放射性物質が外部へかなり漏れ出たとみえる。格納容器とつながっているため、まさに『格納容器の部分破壊』とでも言える深刻な事態だ」と語る。
元原子力安全委員の住田健二・大阪大名誉教授も「格納容器が健全であることを前提にしてきたこれまでの考え方とは異なる状況になった」と話す。(中略)

渥美教授(近畿大原子力研究)によると、圧力抑制室は格納容器と配管でつながってはいるが、別の空間との見方もできる。そのため、今回は抑制室だけで水素爆発がとどまったと考えられるという。
一方で、藤家洋一・元原子力委員会委員長は「圧力抑制室の圧力が低下したことは、放射能を含んだ水が漏れだしていることを意味する。原子力の安全を確保する三本柱のうち最後の『閉じこめる』に問題が生じ、深刻だ。水素は空気よりも軽いため、格納容器の下部にある圧力抑制室にたまって爆発することは考えにくい」とみている。【3月15日 読売】
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枝野官房長官は、第3号機付近で最大400ミリシーベルトと一般人の年間被ばく量1000マイクロシーベルトの400倍と人体に影響ある放射性濃度を検出したことを明らかにしていますが、TV報道によると、第一原発の中央制御室の放射線レベルが高すぎて東電社員が常駐出来ず交替で作業にあたっているとのことで、そのことが現在の危機的状況を物語っています。
なお、東京都は15日、新宿区内で同日午前に実施した放射線量調査で、通常の最大21倍の放射線を検出し、最大値は0.809マイクロシーベルトだったと発表しています。これについて、都は「ごく微量で、人体に影響を及ぼすレベルではない」としています。

【「撤退などありえない」】
次から次に重大なトラブルが発生する状況に官邸も苛立ちを募らせているようです。
****覚悟決めてくれ」首相、東電に 危機管理、後手後手****
東京電力福島第一原子力発電所で相次ぐ事故を受け、菅内閣は15日早朝、政府と東電が一体で危機対応にあたる「福島原子力発電所事故対策統合本部」(本部長=菅直人首相)を設置した。二転三転する東電の対応に危機感を抱いたためだが、地震発生から5日目、高濃度放射性物質が放出される恐れがある事態になるまで対応は後手に回り、政権の危機管理能力の欠如が露呈した。
菅首相は15日午前5時40分、首相官邸から東京・内幸町の東電本店2階の統合本部を訪れ、「テレビで爆発が放映されているのに、官邸には1時間くらい連絡がなかった。一体どうなっているんだ」「あなたたちしかいないでしょう。撤退などありえない。覚悟を決めて下さい。撤退した時は、東電は100%つぶれます」と強調した。(中略)
依然として官邸の事態把握と情報提供は混乱が続いている。

そんな政府の対応に、与党・民主党内からも批判の声が強まっている。参院若手は「官邸は何か隠しているのではないか」。会見のたびに「安全だ」と繰り返す枝野氏らの発表を問題視する意見が党所属議員から党地震対策本部に相次いで寄せられているため、民主党は15日午前8時15分、官邸に文書でこう申し入れた。「最悪の事態を想定して、住民がどういう避難などをすべきか情報開示してほしい」【3月15日 朝日】
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「撤退などありえない。覚悟を決めて下さい」と言うのも、玉砕覚悟の死守を命じる旧日本軍の指示みたいで、東電社員には気の毒でもありますが、「あなたたちしかいないでしょう。」というのも事実です。
なお、多少言い過ぎたと思ったのか、菅首相は会見では東電社員の献身的努力を高く評価していました。

【「安全だと言われれば、危険だと思っていても信じてやるしかなかった」】
一方で、作業に協力している自衛隊からは不安・不満も出ています。
****安全のはずが命がけ…怒る自衛隊・防衛省****
放射能汚染の懸念が一層高まる事態に、自衛隊側からは怒りや懸念の声が噴出した。関係機関の連携不足もあらわになった。
3号機の爆発で自衛官4人の負傷者を出した防衛省。「安全だと言われ、それを信じて作業をしたら事故が起きた。これからどうするかは、もはや自衛隊と東電側だけで判断できるレベルを超えている」。同省幹部は重苦しい表情で話す。

自衛隊はこれまで、中央特殊武器防護隊など約200人が、原発周辺で炉の冷却や住民の除染などの活動を続けてきた。東電や保安院側が「安全だ」として作業を要請したためだ。
炉への給水活動は、これまで訓練もしたことがない。爆発の恐れがある中で、作業は「まさに命がけ」(同省幹部)。「我々は放射能の防護はできるが、原子炉の構造に特段の知識があるわけではない。安全だと言われれば、危険だと思っていても信じてやるしかなかった」。別の幹部は唇をかんだ。【3月15日 読売】
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危機的状況が連鎖・続発する事態に、海外からは「米国のスリーマイル島の事故(79年)より深刻だ」との見方も伝えられていいます。
****東日本大震災:スリーマイル以上と仏原子力機関 原発事故****
フランス原子力安全機関(ASN)のラコスト総裁は14日、日本の福島第1原発の事故について「米国のスリーマイル島の事故(79年)より深刻だ」との見方を示した。AFP通信が伝えた。
総裁は日本が事故の深刻度を、国際原子力機関(IAEA)が決めた8段階の尺度で「4」としていることについて、「(さらに深刻な)5以上で、6程度との感触がある」と指摘。この判断は「日本側からの情報に基づくものだ」とした。スリーマイル島事故はレベル「5」に指定されている。
一方、総裁は日本の事故について、旧ソ連のチェルノブイリ事故(86年)のレベル「7」よりは深刻でないとの見方をしている。【3月15日 毎日】
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望まれるタフなシステム
今は現在の危機的状況の沈静化に全力をあげるときですが、今後について考えると、想定外の巨大津波で冷却系がすべてストップしてしまった今回事態を反省して、災害時にも機能しうるシンプルでタフなシステムの構築が望まれます。
中国の新型原発は、原子炉の上部に数千トンの水をためるようになっており、非常時には動力を使わず、重力で水が落下して冷却する仕組みであるため、中国原発専門家は今回のような問題は起きないとしています。
そうしたシステムの安全性についてはまたいろいろ意見もあるところでしょうが、何か今までとは異なる発想の安全確保の仕組みを付加する必要がありそうです。

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東日本大震災  揺らぐ原発安全性神話 福島第一原発3号機も爆発 2号機も一時“空だき”

2011-03-14 22:07:50 | 災害

(12日の1号機爆発の状況 「格納容器の健全性は維持されている」とは言え、「大丈夫かよ・・・」と不安になる映像です。今日3号機の爆発はもっとヤバいものだったとか.。更に2号機の危険も・・・
“flickr”より By oracle_de_atlantis_4 http://www.flickr.com/photos/54275244@N06/5521688774/ )

3号機も水素爆発 「格納容器の健全性は維持されていると思われる」】
“想定外”の巨大地震とは言え、これまでの日本の原子力発電技術に関する安全性神話が大きく揺らいでいます。
福島第一原発では、12日の1号機に続いて3号機でも水素爆発が起き、原子炉建屋が吹き飛ばされ、11名の負傷者を出す事態となっています。

****福島第一原発3号機で水素爆発 屋内待避呼びかけ****
東日本大震災で被害を受けた東京電力の福島第一原子力発電所(福島県大熊町)の3号機で14日午前11時ごろ、大きな爆発が起きた。経済産業省原子力安全・保安院によると、水素爆発が起きたことを確認した。
保安院は、原子炉が入っている圧力容器、それを覆う鋼鉄製の格納容器のいずれも、損傷した可能性は低いとみている。保安院は、20キロ圏内にいる住民に建物内に避難するよう要請した。東電によると、少なくとも11人が負傷しているという。

今回の爆発は、12日に1号機で建屋が吹き飛んだ爆発と同種とみられる。枝野幸男官房長官は14日午後0時40分からの記者会見で「格納容器の健全性は維持されていると思われる」とした上で、周辺の放射線量のデータに大きな変化は確認されておらず、「放射性物質が大量に飛び散っている可能性は低い」と述べた。

同原発で運転中だった1~3号機は地震後、原子炉を冷やす緊急炉心冷却システムが停止。3号機では、炉内の圧力や水位が不安定な状態が続き、燃料棒が一時露出するなどして爆発をしやすい水素が発生していたとみられる。13日午後からは、炉内に海水を注入して冷却を試みていたが、その最中に爆発は起きた。
12日に1号機で起きた爆発では、損壊は原子炉建屋にとどまり、格納容器と圧力容器に異常は確認されていない。保安院は、今回の爆発も原子炉建屋にとどまっているとみている。
保安院によると、20キロ圏には、少なくとも約600人の住民がいるとみており、屋内への避難を要請した。
東電によると、圧力容器、格納容器とも壊れていないことを確認しているという。周辺で中性子線は確認されていないとしている。

原子炉は、内側から圧力容器、格納容器、原子炉建屋の「壁」で守られている。ただ、圧力容器や、格納容器が壊れると、チェルノブイリ事故に匹敵する重大事故となる。【3月14日 朝日】
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枝野官房長官は「格納容器の健全性は維持されていると思われる」としていますが、一方で、今回3号機の爆発は一昨日1号機の爆発とは異なる点もあるとの指摘もあります。
****3号機の爆発、専門家から影響懸念の声も****
福島第一原発3号機の爆発の様子を伝えるテレビ映像を見た専門家からは、事故の深刻さをめぐって厳しい見方が相次いでいる。
小林圭二・元京都大学原子炉実験所講師(原子核工学)は「1号機の爆発とは違うように見えた。赤い炎は建物の高めの所であがっており、格納容器そのものは破壊されなかったと思う」とした上で、「影響範囲がどうだったかが心配だ。配管が破損して冷却できなくなったり、格納容器に変形や亀裂が入っていたりしていないだろうか。亀裂や部分的な破損で、放射性物質が大量に漏れる可能性もある」と話す。

技術評論家の桜井淳さんは「状況は非常によくない。これ以上怖いのは、3号機に冷却水を注入できなくなり、被覆管がボロボロになって圧力容器の底に落ちると、圧力容器が割れるかもしれない。格納容器まで破裂するかもしれない。そうすると、大量の放射能が環境中に放出される。スリーマイルよりひどい事態になるのでは」と推測する。

一方、佐藤一男・元原子力安全委員長(原子炉安全工学)は「爆発に伴う熱が格納容器に影響を及ぼすのは表面くらいで、長く熱が伝わることもなく大きな影響はないと思う。格納容器の周りは1メートル以上の鉄筋コンクリートがある。程度にもよるが、外側の爆発なら格納容器内までは響かないだろう」とみている。【3月14日 朝日】
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****灰褐色の煙300メートル上昇…爆発の3号機*****
今回の福島第一原発3号機の爆発には、12日の1号機の爆発といくつかの違いがある。
まず、1号機の時には水素爆発で発生した水蒸気を示す白煙がたちこめたが、今回は、白煙以外に、赤い炎を伴う灰褐色の煙が上空高く上った。また、爆発をとらえたニュース画像では、煙の中に、厚みのある大きな塊がいくつも飛び散っていた。詳細は不明だが、この爆発の後にも、爆発があったという。
今のところ、炎や灰褐色の煙、塊が何であるかは不明。3号機にたまった水蒸気の量が1号機よりも多かったので爆発の規模が大きくなったとも考えられるが、かなりの高温で燃焼を伴う別の破壊的な異変が起きていた可能性もある。

また、建屋内の上部にたまった水素が爆発したなら、一度の爆発で済むはずだ。1回目の爆発の影響で、高圧状態の配管などが破損し、爆発音がしたか、建屋上部以外のどこかにたまっていた水素が爆発した可能性がある。最悪の事態を想定すると、1回目の爆発によって、高圧の格納容器が損傷し、新たな爆発を生じたということも考えられる。その場合、原子炉を覆う最後の壁が破れたことになり、放射能を帯びた水、水蒸気などが外部へ放出されることになる。【3月14日 読売】
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東電・保安院や官房長官の説明のように「原子炉格納容器の健全性は保たれている」「大量の放射線量を示すものはない」という状態であることを願うばかりです。

2号機 一時“空だき”状態 回復へ向かう
更に、2号機も本日午後には冷却機能が停止、海水注入による冷却を開始していますが、炉心溶融・水素爆発の危険が続いています。

午後8時過ぎには2号機について、「海水注入が確認できず。燃料棒すべて露出の可能性。炉心溶融の可能性否定できず。」との速報も報じられ、事態の推移が懸念されていました。
東電からは、海水注入は一時不具合があったもののその後再開し、今は“空だき”状態は避けられている旨が説明されています。ただ、6時から2時間程度は燃料棒が水からむき出しになった“空だき”状態にあったようです。(午後9時半時点で、燃料棒の下半分が水面下になるまで“回復”しているそうです)
いずれにしても、危険な状況が続いているのは間違いないようです。
なお、午後9時には「周辺の放射能数値が上昇しており、炉心溶融が起こっている可能性がある」との情報も報じられています。

日本の原子炉は格納容器によって守られており、水素爆発が起きても格納容器は守られているので、原子炉の格納容器がなかったチェルノブイリ原発のような致命的な大事故はあり得ないとされています。

****チェルノブイリ級は「あり得ず」=原子力安全委の見解示す―玄葉氏****
玄葉光一郎国家戦略担当相(民主党政調会長)は14日午後、国会内で開かれた同党「東北地方太平洋沖地震対策本部」総会で、東京電力福島第1原発の事故に関し、「絶対にチェルノブイリ(級の事故)はあり得ない」とする原子力安全委員会と原子力安全・保安院の見解を明らかにした。
玄葉氏によると、安全委などはその理由として、チェルノブイリ原発には原子炉の格納容器がなく、福島第1原発では「水素爆発が起きても格納容器は守られている」と指摘したという。
また、玄葉氏は、住民への避難指示に関し、安全委などは最悪の場合でも「半径10キロ圏内」で対応可能とみていたが、政府の判断で「20キロ」に拡大したことも明らかにした。【3月14日 時事】
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当初の想定では「日本では炉心溶融が起こらない」】
1号機、2号機、3号機すべてで冷却システムがダウンし、外部からの海水注入を行いつつ、格納容器の圧力を下げる「弁」の開放という最後の手段により格納容器破損という最悪シナリオを回避する努力が続けられていますが、このことは、もともと「弁」の必要性をも否定していた日本の原発に関する事故想定が甘かったことを実証するものでもあります。

****甘かった想定 頼った放出弁**** 
福島第一原発では、1号機に続いて炉心溶融の可能性がある3号機でも格納容器にある弁を開ける作業をとった。このガス放出弁は、実は、原発の建設時には日本では炉心溶融が起こらない」として装備されていなかった。海外の動きにおされて導入したこの弁が、今は最悪の事態を回避する命綱になっている。当初の事故想定がいかに甘かったかを示している。

弁は格納容器内のガスを放射能除去フィルターを通して外部に出すものだ。
1号機は12日に放出を行った。電源がないため、職員の手や小型のコンプレッサトで弁を開いた。圧力容器から出たガスで8気圧まで上昇していた格納容器内の圧力が大きく下がった。格納容器は4気圧まで耐えられる設計。8気圧は厳しい状況だった。
専門家は、もし弁がなければ、格納容器の爆発から大惨事にいたった可能性が高かったとみる。弁に助けられた。
3号機でも13日朝に弁を開けて放出を行った。

福島第一原発の6基の原発は1970年代に、福島第二原発の4幕の原発は80年代に運転を開始した。いずれも建設当時に弁はなかった。炉心溶融などの過酷事故(シビアアクシデント)は起こらないという考えからだった。
しかし、79年、米スリーマイル島(TMI)原発で炉心溶融が起き、爆発の一歩手前までいった。86年には違う炉型の旧ソ運チェルノブイリ原発で炉心爆発が起きた。
このため、フランスやスウェーデン、ドイツ、米国では炉心溶融に備え、格納容器に弁をつける変更を始めた。日本ではその後も「過酷事故は起こらない。対策は不要」とされてきた。しかし、92年に原学力安全委員が「検討が必要」との見解を出し、その後、電力業界も「確率は極めて低いが安全性を高める」として方針を変えた。

東京電力などがもつ沸騰水型炉(BWR)は90年代半ばから弁の設置を始めた。ガスは格納容器下部からフィルターを通って外部に出るようになっている。
一方、関西電力などの加圧水型炉(PWR)は沸騰水型より格納容器が大きく余裕があるとして弁はつくらず、格納容器内のガス冷却策の強化などで対応している。

ただ、弁の開放は、フィルターを通すとはいえ放射性ガスの放出という「やってはならないこと」の実施だ。格納容器の防護機能を自ら放棄して、圧力容器の安全という最後のとりでを守る「究極の選択」といえる。
リスクも大きい。1号機ではガス放出のあと、建屋内で水素爆発がおきた。建屋の壁が吹き飛び、負傷者4人を出した。水素の充満に放出が関係したことも考えられる。
もし大きな爆発が起きれば、大規模な放射能放出も考えられる。ぎりぎりの判断と覚悟が求められる作業だ。
東京電力に弁を開ける考えがどの程度あったのだろう。準備は十分だったのか。

炉心溶融を起こし、大量の避難民を生み、放射性物質を放出させた事実は、日本人の原子力への考えを決定的に変えるだろう。「想定外の……」の繰り返しでは片づけられない。そして、まだ原発の危機は去っていない。【3月14日 朝日 編集委員竹内敬二】
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どうせ格納容器に負担がかかる水素爆発の可能性が高いなら、事前に建屋を開放するなりして爆発を未然あるいは小規模に防ぐことも考えてもいいのでは・・・と素人考えで思ったのですが、実際そうした建屋に穴をあける作業も行われているとも報じられています。

とにもかくにも今は格納容器破損・大量の放射線放出といった最悪事態を何とか避けてもらいたいものです。
今後に向けての議論はそのあとで。


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東日本大震災  日本人の冷静さに対する海外からの称賛

2011-03-13 20:05:28 | 災害

(“flickr”より By Logan was his name-o http://www.flickr.com/photos/drlogan/5517901136/in/photostream/

マグニチュード(M)9.0と世界的規模に上方修正された東日本大震災による甚大な被害はいまだ膨らみ続けており、救助もままならない状況です。宮城県警察では県内だけで死者は万単位になるとの観測もされています。
あちこちの街全体が丸ごと津波に呑みこまれている状況からすると、そうした観測もやむを得ないところです。

中国ネット世論で日本称賛
言葉を失うような映像、被害にあわれた方々の悲痛な言葉、原発事故に関する政府の情報提供の遅れへの批判などがTV・新聞に溢れていますが、海外からは日本人の冷静な対応を称賛する声も届いています。
特に、日頃日本に対する厳しい声が多い中国ネット世論で、そうした評価が多いとか。

****東日本大震災:日本人のマナー世界一/とても感動的 中国国民、ネットで絶賛****
地震多発国で東日本大震災への関心が高い中国では12日、非常事態にもかかわらず日本人は「冷静で礼儀正しい」と絶賛する声がインターネットの書き込みなどに相次いでいる。

短文投稿サイト「ツイッター」の中国版「微博」では、ビルの中で足止めされた通勤客が階段で、通行の妨げにならないよう両脇に座り、中央に通路を確保している写真が11日夜、投稿された。「(こうしたマナーの良さは)教育の結果。(日中の順位が逆転した)国内総生産(GDP)の規模だけで得られるものではない」との説明が付いた。この「つぶやき」は7万回以上も転載。「中国は50年後でも実現できない」「とても感動的」「われわれも学ぶべきだ」との反響の声があふれた。

湖南省から東京に留学し、日本語学習中に地震に遭った瀟湘晨報の中国人記者は、日本語教師が学生を避難誘導、「教師は最後に電源を切って退避した」と落ち着いた対応を称賛。ネット上に掲載された記事には「日本人のマナーは世界一」などの書き込みが相次いだ。

「日本の学校は避難所だが、中国の学校は地獄だ」といった中国政府や中国人の対応を批判する書き込みも。2008年5月の四川大地震では、耐震性の低い校舎が多数倒壊、5000人を超える子どもが死亡。生徒を置き去りにし逃げた教師が批判された。【3月13日 毎日】
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****未曾有の大災害で見せた日本人の冷静な対応に驚きの声―中国*****
2011年3月11日、環球時報は記事「マグニチュードは日本観測史上最大=日本人の冷静な対応が世界に与えた印象」を掲載した。以下はその抄訳。

マグニチュード8.8と日本観測史上最大となった東北地方・太平洋沖地震。地震発生後、日本政府はただちに緊急災害対策本部を設置。速やかに自衛隊の出動を決めるなど迅速な対応を見せた。また一般の日本人も理性的な対応を見せている。
中国のマイクロブログで話題となったのは、日本滞在中のある中国人のつぶやき。「数百人が広場に避難していたが、その間、誰もタバコを吸うものはいなかった。毛布やお湯、ビスケットが与えられ、男性は女性を助けている。3時間後、人々は解散したが、地面にはゴミ一つ落ちていなかった。一つものだ」という内容。
パニックになりかねない大災害の中で、日本人が見せた冷静な対応は驚きをもたらした。【3月13日 Record China】
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****日本人には道徳の血」 中国紙、市民の冷静さを称賛****
東日本大震災について、中国メディアが「日本の民衆の『落ち着き』が強い印象を与えている」(第一財経日報)「日本人はなぜこんなに冷静なのか」(新京報)といった記事を相次いで報じている。2008年の四川大地震では一部で混乱も伝えられており、市民も驚きを持って報道に注目しているようだ。

国際情報紙の環球時報は12日、「日本人の冷静さが世界に感慨を与えている」。普段は日本に厳しい論調の多い同紙だが、「(東京では)数百人が広場に避難したが、男性は女性を助け、ゴミ一つ落ちていなかった」と紹介した。
中国中央テレビは被災地に中国語の案内があることを指摘。アナウンサーは「外国人にも配慮をする日本に、とても感動します」と語った。
報道を見た北京市の女性(57)は「すごい。日本人の中には『道徳』という血が流れているのだと思う」と朝日新聞に語った。【3月13日 朝日】
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アメリカでも
アメリカでも、日本人の対応や、震災への備えに注目する報道が多とか。
****米各紙、日本人の「がまん」「地震への備え」に注目****
東日本大震災をめぐり、米国でも日本人の対応や、震災への備えに注目する報道が米国で相次いでいる。米ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)のコラムニストは日本人の「ガマン」を称賛する一方、ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)は日本の耐震対策をたたえた。

「日本語には英語にはないガマンという言葉がある」。そう指摘したのは阪神大震災を取材したことがあるNYTの元東京支局長のニコラス・クリストフ記者だ。「日本の立ち直る力と忍耐力は立派で勇気のあるもので、来る日でも見ることができるだろう」とブログで書いた。
またWSJの12日付の社説は、地震大国の日本が「どれだけ地震に備えてきたかを忘れてはならない」と主張。NYTの12日付の1面記事も、多くの人たちが高台に逃れた点など、津波に対する住民たちの警戒心が人命を救った可能性に言及した。【3月13日 朝日】
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国民性もあるのでしょうが、危機における冷静さは社会の成熟度のひとつの指標でもあるでしょう。
今回の大きな犠牲に対する慰めにはなりませんが、こうした社会の成熟度は今後の復興・立ち直りを支えるものであることを確信しています。

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「日本最悪の日」 膨らむ東日本大震災被害 初の炉心溶融に世界も衝撃

2011-03-12 21:55:56 | 災害

(震災後の福島第一原子力発電所 “flickr”より By DigitalGlobe-Imagery
http://www.flickr.com/photos/digitalglobe-imagery/5519452784/in/photostream/ )

東北地方太平洋沖を震源とする東日本大震災は、想像を絶する甚大な被害をもたらしています。
現時点では被害の実態すら十分には把握できていない状況です。
大津波による“壊滅”的被害を受けた都市・集落も多く、岩手県陸前高田市の街が丸ごと押し流される被害時の映像は9.11以来の衝撃的なものでした。当然押し流される建物・車の中には逃げ遅れた大勢の人がいたのでは・・・。

メルトダウン そして爆発
そうしたなか、東日本大震災で被害を受けた東京電力福島第一原子力発電所1号機で、原子炉内の燃料の溶融(メルトダウン)が起こり、更に午後3時30分ごろに爆発が起きたことが大きく報じられています。

****福島第一原発、退避範囲20キロ圏内に拡大*****
経済産業省の原子力安全・保安院は12日、東日本大震災で被害を受けた東京電力福島第一原子力発電所1号機(福島県大熊町)で、午後3時30分ごろに大きな爆発音を伴う爆発が起きたことを明らかにした。その直前には、原子炉内の燃料の溶融が進んでいる可能性が高いと発表しており、原子炉の状態と爆発との関係を含め、東電などが原因を調査中だ。

放射線医学総合研究所や東電が原発敷地内で、燃料中に含まれる核分裂生成物であるセシウムやヨウ素を確認した。いずれも、ウランが核分裂をした後にできる物質だ。
炉心溶融は、想定されている原発事故の中で最悪の事態だ。これが進むと、爆発的な反応を引き起こして広く外部に放射能をまき散らす恐れもある。

爆発音について、枝野官房長官は12日夕の会見で「原子炉そのものであるということは確認されていないが、なんらかの爆発的事象があったと報告された」と述べた。福島県によると、爆発で1号機の原子炉建屋の天井が崩落したことを確認したという。東電社員ら4人が負傷し、病院に搬送されたという。

東京電力は12日午後、同3時30分ごろ現場敷地境界で1時間あたり1015マイクロシーベルトの放射線を確認し、その2分後にはほぼ半減したと発表した。1015マイクロシーベルトは、一般人の年間被曝(ひばく)線量の限度(1ミリシーベルト=1000マイクロシーベルト)を、1時間で浴びる放射線量に該当する。
日常生活で自然から浴びている放射線は平均で1時間あたり0.05マイクロシーベルト。放射線業務従事者は年間50ミリシーベルトかつ5年間で100ミリシーベルトが被曝限度とされている。
政府から待避指示が出た原発から10キロ圏内には約800人の住民が残っていたが、午後6時現在も避難中という。

一方、保安院によると、爆発音のあった後に、1号機の原子炉格納容器の圧力が急激に下がってきたという。格納容器の破損を防ぐため、弁を開けて内部の空気を抜く作業が効果を上げたのか、他の要因かは不明だ。空気とともに容器内の放射性物質も外部に放出されたとみられ、放射線の観測値は上昇している。
原子炉圧力容器内の水位は下がり続けており、午後5時28分の段階で、燃料棒(長さ4メートル)の上端から1.7メートル低い位置にある。燃料棒の半分近くが露出した状態になっている。消防車などを使って冷却水を注入しているが追いついていない。このため、東電は海水も使うことを選択肢の一つとして検討していることを明らかにした。

政府は福島第二原発(同県楢葉町、富岡町)について、避難を指示する範囲を、半径3キロ圏から10キロ圏に拡大した。その後、官邸は第一原発から待避を指示する範囲を、半径10キロから20キロに拡大した。
    ◇
(炉心溶融〉原子炉内の水位が下がり、炉心が水中から露出すると、燃料の温度が上昇し、金属と水とが化学反応を起こして燃料を入れた金属製の器(被覆管)が溶ける。冷却が不十分だと燃料の溶融から、さらに炉心の構造物の破壊と落下が起こる。ここに水があると、水と溶融物が接触し急激な爆発が起こる恐れがある。爆発で格納容器が破壊されれば、大量の放射性物質が環境に放出されることになる。【3月12日 朝日】
*******************************

この原発事故に関し、テレビ各局は周辺住民に屋内にとどまってエアコンを切り、水道水を飲まないようにと警告、また外出する際には肌の露出を避け、顔をマスクや濡らしたタオルで覆うようにとも呼び掛けているそうです。

遅れる情報公開
日本初の炉心溶融ですが、その後の爆発がどこで、どういう性格の爆発が起きたのか、情報が明らかになっていません。
爆発したのは原子炉格納容器そのものなのか?原子炉建屋なのか?発電用タービン建屋なのか?
爆発は水素爆発なのか?水蒸気爆発なのか?

今(8時40分)丁度、総理・官房長官の会見が行われています。
・・・・・
どうやら原子炉建屋における水素爆発で、原子炉の格納容器自体には損傷はなく、爆発による放射能濃度も上昇は見られていないとのことです。
難航していた格納容器内の圧力を下げることも、何とかなったようです。

“燃料棒に使用するジルコニウムは1100度を超えると、水と反応しやすくなる。その反応の結果できた水素が、何らかの原因で格納容器の外部に漏れだし、空気中に含まれた酸素と反応して爆発した”【3月12日 毎日】という“水素爆発”との発表でした。

1986年4月26日のチェルノブイリ原発事故(旧ソ連)では、溶融した燃料が水と接触して水蒸気爆発を起こし、放射性物質が大量に放出されましたが、そうした水蒸気爆発による炉心自体の損傷という最悪の事態ではない・・・とのことのようです。

原発事故と言えば、79年のアメリカ映画“チャイナ・シンドローム”が思い起こされます。
この映画公開の12日後の1979年3月28日には、ペンシルベニア州のスリーマイル島原子力発電所で本当の原子力事故であるスリーマイル島原子力発電所事故が起きています。

“チャイナ・シンドローム”という言葉は、「もし、アメリカの原子力発電所がメルトダウンを起こしたとしたら、地球を突き抜けて中国まで熔けていってしまうのではないか」と言う映画の中のジョークからとったものですが、まだそうした最悪事態の危険が完全になくなった訳ではありません。
福島第一原発では、これから海水注入での炉心冷却を図るとのことのようです。
無事に作業が進展することを願っています。

実を言えば、私も九州電力の原子力発電所近くに住んでいます。直線距離で9~10kmぐらいでしょうか。
もし同様事故があれば、避難対象になります。
改めて原発の安全性について考えさせる事故です。

それにしても、情報の発表に時間がかかり過ぎたように思われます。
影響が大きい問題なので、正確さの確認に慎重を期したということでしょうが、格納容器が爆発したのかどうかすら何時間もわからないというのは、困ったものです。

【「今回の出来事は全世界の原子力発電所が学ぶべき教訓だ」】
今回事故は世界も大きな関心をもって注目しています。
****東日本大震災:「日本最悪の日」…国際社会に衝撃****
東日本大震災から一夜明けた12日、大津波による惨状が次第に明らかになり、さらに被災した福島では原発の放射能漏れを伴う事故が発生、各国メディアは「日本最悪の日」などと、驚きを持って大々的に報じた。各国政府は日本への震災支援に動く一方、旧ソ連の「チェルノブイリ原発」を想起させるような事故に、重大な関心を持って成り行きを注視している。

◇「世界が学ぶべき教訓」…ロシア
12日付のロシア大衆紙「コムソモリスカヤ・プラウダ」は、東日本大震災で福島第1原発が被災したことについて「日本のチェルノブイリはロシアを脅かすか」と1面トップで報じた。ロシアやウクライナなどでは25年前に起きたチェルノブイリ原発事故の記憶が鮮明に残っている。
ロシア当局は、日本に近い極東の沿海地方やサハリン州、ハバロフスク地方、カムチャツカ地方などで放射能の検知態勢を強化するなど、万一の事態に備えている。

チェルノブイリ原発の元技師で、現在は被災者の救援活動に携わっているウクライナ在住のニコライ・イサエフさんは毎日新聞の取材に、「もし原子炉から漏れた放射能が雲の高さに達し、風で急速に広がればチェルノブイリと類似した事態となる」と警告した。
ロシアの核関連企業「ロスエネルゴアトム」のアスモロフ第1副社長はタス通信に対し、「今回の出来事は全世界の原子力発電所が学ぶべき教訓だ」と指摘した。

ウクライナ北部にあるチェルノブイリ原発から半径約30キロ以内は、今も放射能汚染で立ち入りが制限されている。
爆発直後に4号炉を覆う形で造られたコンクリート製の「石棺」は老朽化が進み、新たな鋼鉄製のシェルターを建設する計画が進んでいるが、資金不足で目標とする15年までの完成は疑問視されている。
ウクライナは今年から原発周辺への観光客受け入れを始めたが、地元では「まだ危険は残っている」と観光地化に反対する声が根強い。

◇原発建設問題に冷や水…米国
米国は1979年、ペンシルベニア州で原発の燃料棒が溶けて放射能が漏れ出る「スリーマイル島原発事故」が発生したことを受け、国内での原発建設を全面的に停止。「クリーンエネルギー政策」を掲げるオバマ政権になり、原発建設を約30年ぶりに再開させたばかりだった。

今回の放射能漏れが米国の原発政策にも影響を及ぼすのは必至で、米ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)は福島第1原発の炉心の冷却システムが故障したことや、周辺住民に避難指示が出たことなどを早くから詳報した。
米ワシントン・ポスト紙(電子版)は「(今回の)地震が、放射性物質の放出に敏感だった日本の原子力発電に対する信頼性を揺るがせたのは間違いない」と報道。その上で「日本での危機を警告のサインだと、原発反対派が指摘している米国でも、その信頼性を揺るがせた」と指摘した。

◇「増設計画変更ない」…中国
中国環境保護省の張力軍次官は12日、北京で記者会見し、東日本大震災により福島原発で放射性物質が漏れたことについて「沿海都市の核安全観測装置を起動し、中国に影響を及ぼさないか監視している」と明らかにした。一方で、電力需要の急増に対応するために進めている原発増設計画に関しては変更がないことを強調した。(中略)

◇大気の監視強める…韓国
福島第1原発1号機で発生した爆発事故は、韓国でも速報された。国内で約20基の原発が稼働して震災対策に関心があることに加え、自国への放射能の拡散を懸念している。聯合ニュースによると、韓国教育科学技術省や原子力安全技術院などは、福島原発にトラブルが発生した11日から対策チームを発足させ、大気の監視を強めてきた。(後略)【3月12日 毎日】
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最後に、今回震災で犠牲になられた方々のご冥福をお祈りするとともに、安否がいまだ定かでない多くの方々の救出が一刻も早く進むように願っています。

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ハイチ  大地震から1年、進まぬ復興  日本の陸自や「ハイチのマザー・テレサ」の活動

2011-01-12 19:51:23 | 災害

(韓国と日本の陸自が共同で復旧活動にあたる現場 “flickr”より By United Nations Stabilization Mission In Haiti http://www.flickr.com/photos/minustah/4876134588/

いまだに約81万人が暮らすテント村
各紙で報じられているように、今日12日で死者約30万人を出したハイチ大地震から1年になります。
****ハイチ大地震経済損失6400億 国連開発計画が推計****
国連開発計画(UNDP)は11日までに、ハイチ大地震による経済損失は78億ドル(約6400億円)との推計を発表した。ハイチの国内総生産(GDP)の約1・2倍に当たる。復興費用は115億ドルと見積もられている。被災者は350万人に上り、29万棟以上の家屋が全半壊。政府機関の建物も大統領府を含む6割が崩壊した。首都ポルトープランスでは8割の学校が全半壊した。【1月11日 共同】
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しかし、これもまた各紙が伝えるように、大地震からの復興作業は大きく遅れています。
****避難所生活、81万人に減少=地震1年でほぼ半減―ハイチ*****
国際移住機関(IOM)は9日、昨年1月のハイチ大地震で家を失った後、今も避難所生活を続ける人の数は約81万人との試算を明らかにした。震災直後には約150万人が屋外でのテント暮らしを強いられていたが、地震発生から1年でほぼ半減したことになる。AFP通信が伝えた。
IOMによれば、避難所生活者は昨年11月ごろから大幅に減少。感染症コレラの流行が深刻化したことに加え、国際支援に伴う定住場所の確保なども減少につながったとしている。【1月10日 時事】 
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避難所生活を続ける人の数が、“81万人に半減した”と言うべきなのか、“まだ81万人いる”と言うべきか・・・。
“減少”の背景には、テント村を常設したくない政府の食糧・飲料水配給打ち切りなどの措置もあるようです。

****ハイチ大地震:発生1年 81万人がまだテント生活*****
ハイチの首都ポルトープランス周辺を襲い、死者約30万人を出した大地震(マグニチュード7.0)から12日で1年がたつ。しかし、復興は遅々として進まず、いまだに約81万人が暮らすテント村では「食べ物がほしい」という声が漏れる。昨年10月に発生したコレラのまん延が復興作業をより困難にしている。陸上自衛隊は国連平和維持活動(PKO)で現地に派遣されているが、防衛省内には「目に見えた改善が見られず、もどかしい」との声も上がっている。
今も崩れかけたままの大統領宮殿。近くのシャンドマルスには家を失った約4万4000人がテントで暮らす。だが政府はコメ、小麦、豆の食糧配給を昨年4月で、飲料水配給を1カ月前に打ち切った。テント村を常設したくないためだ。
ナターシャ・べロニさん(26)は「何でもいいから見つけて食べる。友だちに恵んでもらう」と言う。地震で家が倒壊し夫(当時29歳)と2人の子どもを失った。たまにNGOが食糧を配りに来るが、激しい争奪戦になり、何も手に入れられない。(中略)
首都周辺は地震で政府機関施設の70%、学校の88%が壊れた。すべてがまひするなか、昨年10月末からコレラが拡大した。
南部カルフール地区の「国境なき医師団」のコレラ治療センター。テントの中で患者が横たわり、穴のあいたベッドの下に置いたバケツに排せつしていた。
看護師の根本律子さん(41)は「1回の下痢で1~2リットルの水を失うため、脱水で目が落ちくぼみ無表情になる。運ばれてきた時、点滴をしようにも血管が見えない人もいる」と話す。
人口約1000万人のハイチ。保健当局によれば、1日までにコレラによる死者は3651人、罹患(りかん)者は計17万人に達した。流行は今後2、3年続くという分析もある。(後略)【1月11日 毎日】
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コレラ、全土に拡大
上記記事にもあるように、復興の遅れに追い打ちをかけているのがコレラの感染拡大です。
****コレラ終息めど立たず=ハイチ、感染全土に拡大―死者3600人超******
昨年1月の大地震被害にあえぐカリブ海のハイチに、追い打ちをかけるようにコレラがまん延し、住民の生活を脅かしている。昨年10月に感染が広がり始めて以降、死者は3600人を超えた。今ではハイチ全土で患者が出ており、終息のめどは立っていない。

首都ポルトープランスから西方約20キロにあるカルフールでは、日本とカナダの赤十字社が昨年12月中旬にコレラ治療センターを立ち上げ、24時間態勢で患者を受け入れている。最も多い時で1日の新患数は80人を上回り、五つの病棟があふれかえった。(中略)
コレラは本来、致死率の低い感染症。手洗いや排せつ物などの処理を適切に行えば、感染を防ぐことができ、感染しても早期治療で回復は早い。赤十字スタッフは地域をローラー作戦で回り、予防法や、発症時の対処法を書いたパンフレットを配布。このかいあってか、最近、患者数は減少。センターに来た時に、既に重症化している人も減ったという。
しかし、カナダ赤十字の現地代表シリル・スタインさん(30)は「今後どうなるかは注意深く見極めなければならない」と楽観を戒める。日赤チームの看護師長、高原美貴さん(45)も「年末年始に人が動いたことがまん延に影響するかもしれない。雨期が来れば、衛生状態は悪化する」と話す。【1月10日 時事】
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機能しない政府
ハイチの復興の遅れの根本的な原因は、復興の中核になるべき中央政府が機能していないことにあります。
大地震以前からハイチの統治機能には問題がありましたが、大地震によってその不十分な機能すら崩壊しました。
“地震で国家公務員の2割弱が死亡し、連邦政府庁舎28棟のうち27棟が倒壊したため行政活動が滞っている。書類が散逸して土地の所有者をなかなか確認できないせいで、多くの地区では建物の取り壊しや建設がほぼ不可能になっている”【11月24日号 Newsweek日本版】

そうした行政機能を立て直すべく行われた昨年11月の大統領選挙ですが、混乱が続いており、決選投票延期の公算も報じられています。
****決選投票、延期の公算=ハイチ大統領選*****
大地震からまもなく丸1年を迎えるハイチの選管当局者は5日、今月16日に予定されていた大統領選決選投票が延期される公算が大きいとの見方を示した。AFP通信が伝えた。
大統領選は昨年11月に第1回投票が行われたが、不正への批判や選挙無効を求める声が後を絶たず、米州機構(OAS)が検証作業を進めている。同当局者は「OASの報告書が出るまでは決選投票は実施できない」と語った。【1月6日 時事】
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こうした情勢で、事実上国際支援が頼みの綱になっています。
****長期的復興支援を約束=ハイチ大地震1年―米大統領*****
オバマ米大統領は11日、ハイチ大地震から12日で1年を迎えるに当たって声明を出し、「多大な勇気と信念で想像を絶する喪失に立ち向かった」とハイチ国民を称賛するとともに、同国に対する長期的な復興支援を約束した。
同大統領は、被災地に依然として未撤去のがれきが残り、多数の市民がテント生活を強いられている点に触れ、「大多数のハイチ人にとって復興のペースは十分でない」と指摘。西半球最貧国の復興には「何年もかかる」との認識を示した。
その上で、ハイチ主導の復興を引き続き支援していく方針を確認し、国際社会に対しても「確固とした持続的な長期的取り組みを行うという約束を果たさなければならない」と呼び掛けた。【1月12日 時事】
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現地で評価される陸自
日本の陸上自衛隊もPKOに参加しています。
****陸自の貢献に感謝=孤児院施設建設で―ハイチ*****
昨年1月の大地震から1年を迎えるカリブ海のハイチで、国連平和維持活動(PKO)に参加する陸上自衛隊は孤児院の施設建設の仕上げに取り組む毎日だ。地元には自衛隊に対する感謝の言葉が多く、高い技術への信頼から一層の国際貢献を期待する声も上がっている。

自衛隊は昨年2月にハイチで活動を始め、これまで1次隊、2次隊計約550人が任務を完了。現在は8月に現地入りした3次隊約350人が、がれきの除去や整地に当たっている。
首都ポルトープランスの東方約30キロの町マルパセでは10日、隊員45人が孤児院の宿舎新設に汗を流していた。気温30度、砂ぼこりが舞う中、20日の完成を目指し、雨漏り防止工事や電気配線の取り付けを行った。
孤児院は地震で倒壊した他の施設から子どもを受け入れるなどしたため、スペースが不足。仮設のプレハブ小屋やテントの利用を強いられてきた。自衛隊は昨年11月初めに工事を開始。同月実施された大統領選の結果をめぐるデモの影響などで資材が調達できず、10日間ほど作業が滞った。
現地の治安は不安定だが、日本隊隊長の佐々木俊哉1等陸佐(47)は「日本国旗を見ると、ジャポン、ジャポンと歓迎してくれている」と述べ、地元との関係は良好だと語った。
孤児院で生活するマヌシュカ・ルイさん(13)は「新しい建物が建つのが楽しみ。とても立派なものを造ってくれた自衛隊の人たちが大好き」と笑顔を見せた。マリン・モンデジール院長は「自衛隊は最大の難題を解決してくれた」と絶賛。「自衛隊にはハイチを含む国際社会でもっと活躍してほしい」と話している。【1月11日 時事】
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ただ、制約が多い現地で困難にも直面しています。
“陸上自衛隊はこの1年、首都を中心に倒壊した建物のがれき除去や、整地・造成、道路補修などを行ってきた。だが、復旧は公共施設や主要道路などにとどまり「目に見えて改善していないのが現状」(防衛省)だ。
コレラ対策として車両洗浄などのほか、現地のコレラ治療センターに医官、看護官各1人を当直要員として派遣するが、障害に直面する日々が続いている。”【1月11日 毎日】

【「ハイチのマザー・テレサ」】
現地で「ハイチのマザー・テレサ」とも呼ばれる邦人女性の活動も報じられています。
****はい上がらなきゃ」=邦人女性、震災復興に取り組む―「ハイチのマザー・テレサ****
カリブ海のハイチで死者22万人を出した大地震から12日で1年。この国に30年以上住み、医療活動に取り組んできた日本人女性がいる。医師で修道女の須藤昭子さん(83)。「はい上がらなきゃしょうがない。負けてはいられない」―。10日までに時事通信のインタビューに応じた須藤さんは、大地震やコレラ禍からの復興に力を尽くしたいと語った。
須藤さんは1976年、クリストロア宣教修道女会(本部カナダ)の医師として、ハイチに赴任した。それ以降、首都ポルトープランス西方約30キロにあるレオガンの国立結核療養所で患者の治療に従事し、「ハイチのマザー・テレサ」の名が定着した。
昨年1月の大地震で療養所は倒壊。その際、たまたま日本に一時帰国していて須藤さんは難を逃れたが、患者数人が亡くなった。地震前は医師6人前後が交代で勤務。「地震後にほとんどの医師が戻って来ず、週末に医者を置けない病院になってしまった」と肩を落とす。約50人の入所者は今もテントでの生活を余儀なくされている。

須藤さんは80歳で診療現場から退き、今は療養所の再建に力を注ぐ。「予定通りには進んでいないが、私がやらなければ」と話し、引退の2文字には無縁な様子。「多くの人は自分の人生に自分で区切りを付けてしまうようだけど、何かしないと生きている意味がない」と強調する。
農業振興と雇用創出を目指し、植林・農業学校の創設もかねて計画。今は地震で行き詰まった形だが、近い将来何としても実現する決意だ。
苦難の中にあるハイチの人々については、「苦しみに対して我慢強い。どんな困難も乗り越えようとする性格が好き」。ハイチと共に歩み続ける須藤さんの思いは揺るがない。【1月11日 時事】
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こうした陸自や須藤さんの活動が、将来的には日本の国際社会における“信頼”の拠り所となります。

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ハイチ  拡大するコレラ感染 進まない地震復旧 機能しない政府

2010-12-07 20:45:56 | 災害

(11月15日 首都ポルトープランスで、コレラ感染の原因としてネパールPKO部隊に抗議して、タイヤを燃やして抗議活動を行う学生 その煙を避ける女性 “flickr”より By anyi_oliva
http://www.flickr.com/photos/55001484@N05/5182774166/ )

拡大するコレラ感染
今年1月12日に大地震に見舞われ、20万人以上の犠牲者を出したハイチの復興は進んでいません。
追い打ちをかけるように10月からはコレラが流行、いまだにその勢いが衰えていません。
当初農村地域に発生したコレラは被災者が多く集まる首都ポルトープランスにも拡大。また、11月にはハイチ沖を通過したハリケーン「トマス」が地震被災地に洪水をもたらし、被災後の劣悪な衛生状況を更に悪化させ、コレラ拡大を悪化させています。

****ハイチのコレラ禍、死者2000人超える****
ハイチ保健省は6日、同国で10月から流行しているコレラによる死者が2013人、コレラ患者が8万8789人になったと発表した。
1月に発生した大地震からの復興が進まないなかハイチのコレラ禍は拡大を続けており、国連の保健衛生担当者はコレラで死亡した人の数は公式発表よりはるかに多い恐れがあるとしている。【12月7日 AFP】
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国連PKOに向けられる不満
進まない大地震からの復旧、広がるコレラの脅威から、住民の不満は、日本も自衛隊が参加している国連によるPKO活動にも向けられています。
国連支援活動に向けられた暴動により、国連による衛生対策のためのせっけんや医療物資の輸送がストップするなど、住民にとっては自らの首を絞める結果ともなっています。

****窮乏のハイチ市民、国連に矛先 「生活よくならない*****
ハイチでコレラの大流行をきっかけに国連PKO部隊への抗議デモが起き、PKOに参加して復興支援活動にあたる日本の自衛隊も対応を迫られた。先進国にほんろうされた歴史と、地震後の復興が進まないことへの被災者の不満が、その背景にある。

「アバ・オキパシヨン」(占領反対)、「アバ・ミヌスタ」(くたばれMINUSTAH)――。首都ポルトープランスに、国連ハイチ安定化派遣団(MINUSTAH)批判の落書きが目立つ。
11月半ば、「ネパール軍部隊がコレラを持ち込んだ」とのうわさがもとで反国連デモが起き、ネパール兵6人が負傷、国連側の発砲を受けるなどして市民2人が死亡。移動中の国連車両が投石を受けた。
孤児院の寮建設などの活動を続けている自衛隊のハイチ派遣国際救援隊には、被害は出ていない。だが首都にある宿営地の監視塔に投石よけの金網を張り、デモ隊を退散させる実地訓練もした。

大学で政治学を学ぶマヌエラさん(21)は首都郊外で、「国連は、この国にとって最悪の存在。自分で混乱を作って、『安定化』を口実に入ってきた」と言い切った。
2004年、アリスティド大統領(当時)の国外追放で内戦の危機が高まり、国連安保理決議に基づいてハイチに多国籍軍が送られた。多国籍軍を引き継ぐ形で派遣されたのがMINUSTAHだ。
選挙で選ばれた大統領を追放し、乗り込んで来た外国軍。国連PKOには、そんな見方がつきまとう。他方で、地震で被災した多くのハイチ人は、「生活がよくならない」というもっと現実的な不満を国連に向けている。
1月から首都でテント暮らしを続けているマリーミカ・ドゥブルビルさん(27)は「早く家が欲しい。政府は頼りにならない。MINUSTAHは何をしているのか」と言った。PKOの主任務は社会の安定で、復興そのものではない。だがそんな理屈は一般市民には通じない。
首都で朝日新聞の取材に応じた自衛隊の佐々木俊哉・3次隊長(1等陸佐)は「我々は与えられた仕事を淡々とやるだけ。任務をきちんと務めることで、反MINUSTAHの人も信頼を寄せてくれるようになる」と語った。【12月6日 朝日】
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NGO任せの復旧作業
事態の根幹にある地震災害の復旧状況については、大幅な遅れが指摘されています。
その原因は、国際社会の支援約束が履行されていないことや、地震による役所の崩壊で土地所有の権利関係を証明する書類の多くが散逸してしまったこともありますが、何よりも復旧作業を束ねるべき中央政府が機能しておらず、多くのNGOによる非効率な資金使用に陥っている状態があるようです。

***ハイチ再建までの遠すぎる道のり****
ハイチ復興の絶対的な前提条件は、首都ポルトープランスを埋め尽くす瓦牒の撤去だ。
今年1月にハイチで起きた大地震では20万人以上が死亡し、100万人以上が家をなくしただけではない。多くの建物が倒壊し、約2000万立方メートルもの瓦喋の山が残った。
住居を失った人は(しばらくの間なら)テントで暮らせるし、学校や病院は仮設施設で業務を続けられる。だが破壊された都市を再建するには、瓦蝶を片付けなければどうにもならない。
にもかかわらず、地震発生から10ヵ月が過ぎた今、除去された瓦喋はわずか5%。体積にして75万立方メートル強だ。
つるはしや手押し車で除去作業をしている現実を考えれば、75万立方メートルという数字は大変なもの。とはいえ、これは当局が現時点までに除去済みになると見積もっていた量の10%に満たない。手付かずのまま放置されている倒壊家屋は25万軒、校舎は4000棟近くに上る。

進まないのは、瓦蝶の撤去だけではない。国際社会が支援を呼び掛け、ハイチの復興と真の国家再建のため2年間で総額87億5000万ドルの拠出を約束してから約半年。今や復興作業は全面的に停滞している。
被災者向けの仮の住まいは整備されているが、大半はテントや防水シート製のもので、暴風雨から身を守ってはくれない。11月5日にハリケーン「トーマス」が襲来した際には、ポルトープランス近郊で洪水が発生し、死者も出た。
仮設の学校もできているが、派遣された教師のほとんどは公用語のクレオール語やフランス語が話せない。
一部の調査によれば、ハイチでは清潔な水へのアクセスが改善し、地震前を上回るレベルになっている。とはいえ、そうした水の大半はいまだに支援団体が運び込んでおり、持続可能性のある解決策とは言えない。その一方で、地方部ではコレラの感染が広がっている。

「つまりハイチの復興はうまくいっていない」と、米シンクタンクのブルッキングズ研究所で人道危機問題を担当するエリザベス・フェリス上級研究員は指摘する。「スタート地点からほんの少し踏み出しただけだ」 
背景には、複雑に絡み合う要因がある。
第1に、国際社会が約束した支援の実現に時間がかかり過ぎている。アメリカは総額11億5000万ドルの支援策を表明したが、米議会がその大半を承認したのはつい最近。多くの国はいまだに具体的な支援を何もしていない。
第2に、地震で国家公務員の2割弱が死亡し、連邦政府庁舎28棟のうち27棟が倒壊したため行政活動が滞っている。書類が散逸して土地の所有者をなかなか確認できないせいで、多くの地区では建物の取り壊しや建設がほぼ不可能になっている。

支援金の使い道に疑問符
だが一番の問題点は、ハイチ政府も現地で活動する多くのNGO(非政府組織)やNPO(非営利組織)も、復興・再建活動をめぐる巨額のカネの使い方を知らないことだ。人道団体の赤十字は復興基金の分配があまりに困難なため、積極的に寄付を募ることをやめた。各国からの支援金を管理している世界銀行は、ハイチ政府への送金を意図的に遅らせている。
「NGOは、特に地震発生直後の段階で多くの立派な仕事をしてきた」と言うのは、災害復興作業などを手掛ける米企業アッシュブリットのランダル・パーキンズCEO。同社は先日、瓦牒除去を請け負う初の大型契約をハイチ政府と結んだ。パーキンズによれば、ハイチでいま求められているのは地震発生直後よりずっと大規模な事業だ。これをNGOに任せるのは、車のギアをセカンドに入れたまま100キロに加速しようとするようなものだという。(中略)
ほかの国ではそれ(資金の効率的な使い道の決定)はたいてい中央政府の役目で、公共セクターの官僚がいくらでもいる。しかしハイチの公共セクターは、地震で大統領宮殿が崩れ落ちるはるか以前に崩壊していた。

NGOの数では世界一
ハイチのジャンペルトラン・アリスティド大統領(当時)をよく思わなかった米ブッシュ前政権は、02年から「すべての援助を直接NGOに提供し始めた」と、ポール・ファーマー国連ハイチ副特使は言う。「アメリカの方針はほかの国々と国際金融グループの方針にも影響していった」
比較的給料のいいNGOの仕事に優秀な人材が殺到し、ハイチの公共セクターは衰退。医療と教育はますます悪化し、蔓延する腐敗にも拍車が掛かった。その一方でNGOは猛スピードで広がった。ハイチの国民1人当たりのNGOの数は、地震発生時は既に世界一だった。
NGOとは博愛精神に満ちた人々が運営する慈善団体だ。それでもやはり、大きな官僚機構に付き物の問題と無縁ではない。資金供与団体と篤志家の善意が頼りで、競争心むき出しで秘密主義で外からの声に対して過敏になりかねない。しかもハイチの場合は、被害の規模もNGOの注意を引こうとする声も大き過ぎる。(後略)【11月24日号 Newsweek日本版】
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国際社会の資金援助に関しては、国連の潘基文事務総長が3日、国連が先月11日に国際社会に行った約1億6400万ドル(約136億円)の援助要請に対し、これまでの拠出額が20%にとどまっていると明らかにし、コレラ感染拡大もあって「要請額は控えめなものであり、上方修正されるだろう」と述べ、各国に積極的な貢献を求めています。【12月4日 時事より】

大統領選挙はおこなわれたものの・・・
肝心の中央政府の立て直しですが、コレラ感染拡大を受けて延期すべきとの声もあった大統領選挙が11月28日行われました。

****ハイチ:候補者12人が大統領選無効訴え 「政府が不正****
1月に大地震が起きたカリブ海のハイチで28日、大統領選があり、現職のプレバル大統領が支援する候補(48)を当選させるため、政府が不正を行ったとして、候補者18人のうち12人が選挙の無効を訴えた。現地には米国やフランスなどの選挙監視団が派遣されていた。
報道によると、12人は共同声明で、有権者に対しプレバル政権と選管に抗議デモを行うよう呼び掛けた。多くの市民が有権者リストに名前が載っていなかったり、投票所が閉まっていたりしたなどの理由で投票できなかったという。
開票作業は12月初旬まで続く予定。次期大統領は、1月の大地震で世界各国が3年間で拠出すると約束した99億ドル(約8320億円)の震災復興支援資金を使うことになる。【11月29日 毎日】
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「誰でもいいから早く責任者を決めて、機能する政府を組織してよ・・・」とも言いたくなりますが、現実には巨額の震災復興支援資金にかかわる巨大な利権が発生するポストでもあり、大統領確定、組閣、復旧作業実効にはいろんな問題が予想され、「ハイチ再建までの遠すぎる道のり」を痛感させられます。

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カンボジア  水祭りの惨事 進まないカンボジア特別法廷

2010-11-23 12:35:52 | 災害

(プノンペン 橋の上でパニック状態になり押し合う群衆 “flickr”より By NotiZulia
http://www.flickr.com/photos/notizulia/5199160531/ )

【「ポル・ポト派時代以来の最悪の悲劇だ」】
カンボジアから大きな事故のニュース。
****見物客ら345人死亡=「水祭り」でパニック―カンボジア****
AFP通信によると、カンボジアの首都プノンペンで22日夜、年中行事「水祭り」に集まった見物客がメコン川に架かる橋の上で折り重なるように倒れ、少なくとも345人が死亡、400人以上が負傷した。外国人が巻き込まれたとの情報はまだない。
フン・セン首相がテレビを通じて発表、「(人口の4分の1が死亡した)ポル・ポト派時代以来の最悪の悲劇だ」と述べ、25日を追悼の日にするとした。事故の原因究明のための委員会も立ち上げる。
詳しい事故原因は不明だが、AFPは政府報道官の話として、犠牲者のほとんどは窒息と内臓の損傷が死因だと伝えた。報道官は、見物客の間に橋が壊れそうだとのうわさが広まり、逃げ場のない混雑した場所でパニックになったとの見方を示した。
目撃者によると、市街地と川の中州ダイヤモンド島を結ぶ狭い橋の上で、見物客の中で押し合いが始まった。川に飛び込む人も多かったという。【11月23日 時事】 
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プノンペンはトンレサップ湖からのトンレサップ川とメコン本流が合流する地点にあり、水祭りは元来、メコンの与えてくれる恩恵に感謝を込め、陰暦の満月に合わせて開催されます。
トンレサップ川沿いのウォーターフロントは、外国人観光客を相手にするレストラン、バー、ホテル、マッサージ店などが立ち並び、普段は欧米人が溢れているエリアですが、水祭りの期間にはカンボジア全土から300万人もの人々がプノンペンに集まり、このエリアも人々で埋め尽くされます。

昼間はトンレサップ川でカラフルなドラゴンボートのレースが行われ、夜になると王国の紋章やハヌマン、ナーガなどを無数の電球で形どった大きな浮船が色鮮やかに人々の目を楽しませてくれる祭りです。


(救助される犠牲者 “flickr”より By NotiZulia
http://www.flickr.com/photos/notizulia/5199754760/ )

【カンボジア特別法廷の幕引き】
今回事故は確かに大惨事ではありますが、人口の4分の1が死亡したポル・ポト派時代の大虐殺には比べようもありません。
そのポル・ポト時代の責任者を裁くカンボジア特別法廷の審議については、7月、ツールスレン政治犯収容所での犯罪を問われたカン・ケク・イウ元収容所長(67)(通称ドッチ)に実刑判決が言い渡されました。
ただ、彼は一応罪を認めていますが、立場的には政権の末端にあった人物です。
政権中枢にあった政権ナンバー2だったヌオン・チア元人民代表議会議長(84)、イエン・サリ元副首相(84)、キュー・サムファン元幹部会議長(79)、元副首相の妻イエン・チリト元社会問題相(78)については、本人らが虐殺への関与を否定し、裁判には非協力的な姿勢を貫いており、審議は進展していません。
ポル・ポト自身は死亡している現在、彼ら4名の最高幹部の審議は、なぜあのような惨劇が起こったのかを明らかにするうえでどうしても必要です。

本来であれば、ポル・ポト時代の惨劇の責任者は当然ながら彼らに限定されるはなしではなく、その周辺にいた多くの者が関与しています。
責任者の範囲を広げるべきとの意見は国際的には強くありますが、フン・セン首相は現在拘束している5名で幕引きを図りたい意向と伝えられています。

****首相がポル・ポト裁判の幕引きを急ぐ訳****
もうこれ以上、ポル・ポト派は裁かない----カンボジアのフン・セン首相は10月末、同国を訪れた国連の浦基文事務総長に対し、元ポル・ポト派の裁判を来年で終わらせると告げた。
カンボジアでは、ポル・ポト政権時代の75~79年に国民200万人が虐殺された。国連とカンボジア政府が裁判権を共有する特別法廷が設置され、政権元幹部らが裁かれている。今年7月には政治犯収容所の元所長に実刑判決が下された。ほかに起訴されている元最高幹部4人の公判は来年始まる予定だ。
この5人以外の元ポル・ポト派も起訴すべきだという動きが高まっているが、フン・センは否定的だ。告発される恐れがある者の多くは、彼の友人や元同志。フン・センは保身に走る仲間に自分の過去を暴かれるのが心配なのだろう。
裁判はテレビ中継されているが、家に電気が通っていなかったり関心がなかったりで見ている人は少ない。国民にとっては、自分が生まれる前の政権に正義を下すことより、口々の生活のほうが大事なのだろう。だが、あの「暗黒の時代」から目を背けていてはカンボジアの未来は開けない。【11月17日号 Newsweek】
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フン・セン首相自身がもとはクメール・ルージュに属していた過去がありますので、あまり過去に触れたくないという気持ちはあるのでしょう。かつてのポル・ポト派兵士がまだ力を温存している地域もありますので、それを刺激したくない事情もあるでしょう。
それだけでなく、“「暗黒の時代」から目を背けていてはカンボジアの未来は開けない”との考えの一方で、一定年齢以上の国民の殆んどが惨劇に巻き込まれ、家族に多くの犠牲者を抱えているなかで、あまりこの問題にかかわっていては社会全体が不安定化し、先に進めない・・・との事情も分からなくはありません。生き残った人間には今日と明日が問題です。
どうするかは、カンボジア国民が決定するべき問題ですが、現在のカンボジアの政治事情からすれば、フン・セン首相の意向が大きく影響しそうです。


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