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(対米貿易黒字の推移 赤:中国 緑:EU 黄:メキシコ 青:ベトナム 【2月6日 ロイター】)
【米中対立の“漁夫の利”を得る形で成長してきたベトナム経済 対米黒字は第4位 トランプ関税“標的”のリスクも】
ベトナム経済はかつての中国のように驚異的な拡大を見せています。
****ベトナム、25年成長率目標を8.0%に上方修正へ****
ベトナムのグエン・チ・ズン計画投資相は12日、同国は2025年の国内総生産(GDP)伸び率目標を従来の6.5─7.0%から8.0%に上方修正すると明らかにした。修正には国会の承認が必要。
同相は国会で、今年の輸入と輸出はともに12%増、貿易黒字は300億ドルと予想されると述べた。
昨年のGDP伸び率は7.09%でアジア最高水準だった。
ズン氏は、工業生産と外国投資が今年の経済成長をけん引すると予想。外国投資の流入は280億ドルとなり、国内の小売売上高は12%増加するとの見通しを示した。
その上で「われわれは今年なお課題に直面しており、インフレ抑制とマクロの安定確保を優先する」と述べた。
今年のインフレ率については4.5─5.0%と予想した。【2月12日 ロイター】
同相は国会で、今年の輸入と輸出はともに12%増、貿易黒字は300億ドルと予想されると述べた。
昨年のGDP伸び率は7.09%でアジア最高水準だった。
ズン氏は、工業生産と外国投資が今年の経済成長をけん引すると予想。外国投資の流入は280億ドルとなり、国内の小売売上高は12%増加するとの見通しを示した。
その上で「われわれは今年なお課題に直面しており、インフレ抑制とマクロの安定確保を優先する」と述べた。
今年のインフレ率については4.5─5.0%と予想した。【2月12日 ロイター】
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成長率8%・・・日本の現状からはかけはなれた数字ですが、5%前後にとどまる中国と比べても遥かに上をいきます。
ベトナム経済成長の背景には、2024年12月16日ブログ“トランプ関税に交錯する「不安」と「思惑」”でも取り上げたように、多くの企業が米中対立のリスクを避けるため、中国からベトナムに工場を移したことがあり、結果、ベトナムは対米貿易で第4位の黒字国になっています。
****米中対立の漁夫の利を得ていたベトナム****
ベトナムは近年、対米貿易黒字で中国、メキシコ、欧州連合(EU)に次ぐ第4位であるが、これは世界の製造業がトランプ関税の影響を避けるために中国から工場を移したからである。しかし、この「チャイナ・プラス・ワン」の成功は、ベトナムを脆弱な立場に追いやった。
ベトナム経済は、輸出の30%近くを占める米国に大きく依存している。ベトナムは今後、特に中国への関税を回避するために同国を経由する製品について、厳しい監視を受ける可能性が高い。
トランプは今回の大統領選挙でベトナムについて言及しなかったが、かつてベトナムについて「唯一最悪の悪用者」、「中国よりも更にひどく我々を利用している」などと発言したことがある。
ベトナム政府関係者は、トランプ大統領の貿易敵視政策がもたらす潜在的リスクをよく理解している。
東南アジア全体が米中貿易戦争の恩恵を受けるなか、ベトナムほど投資誘致に成功した国はない。ベトナムの成功は、中国に近いという優位性、ビジネス・フレンドリーな政策と優遇措置のおかげだ。
2023年のベトナムへの外国投資は366億ドル。ベトナムの対米貿易黒字は1040億ドル以上に急増し、トランプ大統領が就任した17年の380億ドルの約3倍となった。
トランプ退任後、米越関係は強化されてきた。両国は昨年、越政府が与える外交関係の最高レベルである「包括的戦略パートナーシップ」に関係を格上げした。バイデン政権はまた、中国による先端チップ製造へのアクセスを制限するキャンペーンの一環として、ベトナムでの半導体生産を後押しする取り組みを支援してきた。【2024年12月16日 WEDGE】
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当然にこの巨額の対米黒字はトランプ大統領の「標的」となるリスクをはらんでいます。
****ベトナムの対米貿易黒字、24年は中国・欧州・メキシコに次ぎ4番目****
米政府が(2月)5日公表したデータによると、ベトナムの対米貿易黒字は昨年過去最高を記録し、中国、欧州連合(EU)、メキシコに次いで4番目に高い水準となった。
2024年のベトナムの対米貿易黒字は20%近く増加し、1230億ドルを超えた。中国の対米貿易黒字は2954億ドルで、18年のピークを大きく下回った。(中略)
トランプ米大統領はこれまでのところ関税を巡りベトナムについて何もコメントしていない。ただ、アジアを拠点とするヒンリッヒ財団の貿易政策責任者、デボラ・エルムズ氏は、トランプ氏が依然貿易赤字に固執していることを踏まえると、ベトナムが関税のターゲットになる可能性は高いと指摘する。
一方、ベトナムは米国からの輸入を増やすと表明しており、他の相殺措置も講じているため、懲罰的な措置を逃れると指摘するアナリストもいる。【2月6日 ロイター】
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ベトナムの輸出を主要品目別にみると、“1位は「コンピュータ電子製品・同部品」で573億2,500万ドル(前年比3.2%増)、2位は「電話機・同部品」で523億7,600万ドル(9.7%減)、3位は「機械設備・同部品」で431億2,700万ドル(5.7%減)だった。”【2024年10月23日 JETRO】
ただ、ベトナムでそれらの品目を一から作っている訳でなく、“ベトナムは中・韓から素材・部品を輸入し、国内で組み立て、米国、EUに完成品(縫製品、履物、PC、携帯電話)を輸出する構造。”【2022年5月 在ベトナム日本国大使館経済班】
トランプ大統領は2月10日、鉄鋼およびアルミニウムの輸入品に25%の関税を課すと発表しましたが・・・ここにもベトナムが関与しています。
****鉄鋼・アルミの25%関税、トランプ最大の標的・中国には効果なし?****
(中略)主たるターゲットは中国で、長年にわたる貿易戦争の一環だ。
だが、ここにはパラドックスがある。第1期のトランプ政権、ならびにジョー・バイデン前大統領のもとで課された関税によって、中国はすでに、アメリカに対して、鉄鋼あるいはアルミニウムを直接輸出することはほとんどなくなっているからだ。
それでいて中国は世界市場を支配しており、中国国内での過剰生産とデフレも相まって、アメリカ以外の国々には、ますます安価な中国製金属が大量に流入している。
中国は、世界の鉄鋼生産の54%を、アルミニウムに至っては60%を生産している。その一部は、ベトナムなどの第三国で再梱包されたのち、最終的にアメリカに送られている。
中国が大量生産を続けていることから、カナダとメキシコは、自国で産出する金属を輸出に回し、国内の需要は中国から輸入した鉄鋼でまかなうことが可能になっている。
もし中国がこうして第三国を経由して関税を逃れるのであれば、中国にコストを負担させる唯一の道は、すべての国に関税を課すことだ、というのがトランプ政権の論理だ。これは、バイデン政権における、よりターゲットを絞ったアプローチとは大きく異なる点だ。(後略)【2月12日 Newsweek】
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“ベトナムは米国に対して簡単には報復できないため、トランプ政権が早期に行動を起こす理想的な対象”(貿易調査団体のハインリック財団の貿易政策責任者デボラ・エルムズ氏)といった見方もあります。
ベトナムがトランプ関税の「標的」になるリスクが高いということで、外国人投資家がベトナムから資金を引き上げる動きも加速しています。
****外国人の「ベトナム株売り」加速、トランプ関税のリスク意識****
外国人投資家による「ベトナム株売り」がここ数週間加速している。ベトナムは、英指数算出会社FTSEラッセルによる格上げが予想されているが、トランプ米政権の関税政策が輸出型経済のリスクとして意識されている。
アナリストは、ベトナムの昨年の対米貿易黒字が過去最高で、輸入品には高い関税を課していることから、米国の関税リスクにさらされていると指摘する。
株式市場のデータによると、1月の外国人投資家の売り越しは6兆4000億ドン(2億5118万ドル)。昨年12月の約3倍で、市場規模がはるかに大きいインドネシアを上回った。
外国人の資金引き揚げは2月に入ってから加速し、売り越し額は第1週だけで4兆2000億ドンに達した。
今週も外国人の売りが続いており、トランプ政権が鉄鋼輸入品に25%の関税を課すと発表した後、鉄鋼メーカーが打撃を受けている。(後略)【2月12日 ロイター】
アナリストは、ベトナムの昨年の対米貿易黒字が過去最高で、輸入品には高い関税を課していることから、米国の関税リスクにさらされていると指摘する。
株式市場のデータによると、1月の外国人投資家の売り越しは6兆4000億ドン(2億5118万ドル)。昨年12月の約3倍で、市場規模がはるかに大きいインドネシアを上回った。
外国人の資金引き揚げは2月に入ってから加速し、売り越し額は第1週だけで4兆2000億ドンに達した。
今週も外国人の売りが続いており、トランプ政権が鉄鋼輸入品に25%の関税を課すと発表した後、鉄鋼メーカーが打撃を受けている。(後略)【2月12日 ロイター】
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【南シナ海における安全保障の面では、ベトナム・アメリカ双方に関係強化のメリット ただし、政治体制維持の点ではベトナム・中国には強い絆 今後も米中の間でバランスをとるベトナム】
当然に、ベトナムも高い対米依存のリスクは十分に承知していますので、これまでも対応をとってきていますし、これからも。
****【米中対立の漁夫の利を得ていたベトナム】トランプ関税で後退か、それでも高い南シナ海での存在感****
(中略)ベトナム政府は、「バンブー外交」という非同盟外交政策の下、米中と友好関係を培ってきた。しかし、米国からの購入が増加すれば、ベトナムは最大の貿易相手国であり隣国である中国を怒らせないように注意しなければならない。
中国からの投資も、23年には80%増加した。今年、ベトナムで最も多くの新規プロジェクト数を占めたのは中国である。(中略)
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トランプも政権時に2度訪問
この記事が指摘している通り、ベトナム政府が、トランプ政権発足に備え、巨額の貿易黒字に関するリスク分析と対応策策定に努めているのは間違いない。
ベトナムは、トランプ前政権時代に貿易黒字削減に向けて強い圧力を経験し、様々な措置を講じてきた。ただし、23年の対米貿易黒字額は、17年当時の約3倍1040億ドルとなった。
(中略)いずれにせよ、輸出製品に対して10~20%の関税が課されることとなれば、輸出減、雇用減も含め国内経済への悪影響が懸念される。
トランプ前大統領時代の米越関係を振り返ってみると、当時、トランプ大統領はあからさまに東南アジア諸国連合(ASEAN)を軽視していたが、ベトナムは2回訪問している。
1度目は17年11月のことで、トランプ大統領はアジア太平洋経済協力(APEC)ダナン首脳会議に出席後、国賓としてハノイを訪問し、首脳会談を行った。主要議題は、貿易黒字と南シナ海に関する安全保障分野の協力であった。
貿易黒字削減に関して、ベトナム側は、ボーイングジェット100機購入を約束した。安全保障分野では、首脳会談翌年3月に空母カールビンソンがダナン港に寄港、75年のベトナム戦争終結後、米国空母の初のベトナム寄港であった。
トランプ2度目の訪越は、19年2月ハノイでの第二回米朝首脳会談時で、米朝首脳会談前に米越首脳会談が開催された。
なお、17年5月、ASEAN首脳の中で一番初めにワシントンに招待されたのはフック首相(当時)である。その3年ほど前から、ホワイトハウスのベトナムへの関心が見違えるほど大きくなっていた。
この変化の背景には、貿易黒字問題に加え、南シナ海問題に関するベトナムの「ぶれない対中姿勢」への高い評価があったものとみられる。今般、次期国務長官にルビオ上院議員が指名されたが、同氏は南シナ海問題に関連して、中国に対する厳しい言動を繰り返してきており、フィリピンおよびベトナムとの連携維持が期待される。(後略)【2024年12月16日 WEDGE】
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しかし、上記のような対米配慮・接近は中国を刺激することにもなり、ベトナムはアメリカと中国の間で難しいバランスをとる必要があります。
近年、アメリカはベトナムとの関係を重視して関係を強めてはいますが、南シナ海での中国との対立はあるといっても、基本的にベトナムは中国と同じ社会主義国であり、政治体制の維持という点で中国との関係はアメリカが考える以上に強いものがあります。
****<米国には理解できないベトナムのジレンマ>中国と組めば国を失い、米国と組めば政権を失う…トランプで米越関係はどうなる?****
テキサス大学のグレイテンズ准教授とカーネギー国際平和財団シニアフェローのカードンが、Foreign Policy誌(電子版)に1月13日付けで掲載された論説‘Vietnam Wants U.S. Help at Sea and Chinese Help at Home’で、ベトナム、米国、中国の関係を論じている。
この論説は、「ベトナムにとって、米国との安全保障分野の協力強化は中国の覇権を阻止するために必要である一方、中国との協力強化は政治体制維持のために必要である。米国はその点をよく理解し、ベトナムとの協力関係強化を過大評価すべきでない」と指摘している。要旨は次の通り。
過去4年間、バイデン政権はベトナムとの防衛関係強化のために多大な投資を行ってきた。2023年9月、バイデンがベトナムを公式訪問し、「包括的戦略パートナーシップ」を発足させ、米越関係は新たな高みに達した。
米国にとって、ベトナムとの防衛協力は、インド太平洋における「安全保障上の利益」となり、特に南シナ海での中国の活動に対抗するために重要である。
しかし、国防関係だけに焦点を絞ると、米越関係の真の姿について誤解を招きかねない。ベトナムには自国の利益があり、米国が理解できないような方法で道を切り開いてきた。重要なことは、ベトナムの指導者たちが中国との結びつきをさらに深めていることだ。
ベトナムの米中両国に対する二重の働きかけは、米国との関係が偽りということではない。ベトナムは、主権および南シナ海の権益に対する中国の具体的脅威に対抗するため、積極的に米国の支援を求めてきた。ただし、パートナーシップは狭い範囲にとどまっている。
ベトナムの指導者にとって決定的な重要課題(政権生き残り)について、中国は大きな影響力を有する。中越の緊密な関係が米国の影響力を制約することは大いにありうる。
ベトナムにとり「中国と組めば、国を失うかもしれない。米国と組めば、政権を失うかもしれない」とのジレンマが、米中両方と関係を結ぼうというハイブリッド戦略に繋がっている。
米越関係の強化は、ベトナムが中国との関係を犠牲にすることを意味しない。対外防衛と海洋安全保障に重点を置く米越関係とは異なり、中越協力はベトナム共産党政権を支えるためである。
習近平の国家安全保障上の最優先課題は、「中国共産党支配の維持」である。米国は、ベトナムの指導者も同様の政治的安全を志向していることを受け入れなければならない。「社会の安定と民族団結」を維持するために、中国はベトナムの警察、治安、諜報機関と協力している。
米国防総省は越国防省と協力し、「地域の平和と繁栄」というビジョンを掲げ、海上での中国への対抗に焦点を当てている。その一方、ベトナムの国内治安当局は、米国発の自由主義の影響等に対抗するため、中国と緊密な関係を築いてきた。
ベトナムの基本的な治安原則は、「反人権と民主主義」を掲げる中国とよく似ている。現在、中国との協力は、「インテリジェンス共有」、「反内政干渉」、「反分離主義」、反体制勢力による『和平演変』、『カラー革命』防止のための協力強化に重点を置いている。
また、多様な非伝統的安全保障ニーズ(サイバー犯罪や国際的人身売買、麻薬)について、ベトナムは、米中両方と協力している。
ベトナムは、米中両国と治安問題で緊密に協力することを選択した。これは、中国が他国にアピールするのは経済的なものだけだという従来の常識を覆す。中国は米国が真似できない援助(権威主義体制の手助け)を提供しているため、米国は限界を認識しなければならない。
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トランプ政権下での貿易は
この論説が指摘する通り、ベトナムの対米協力の目的(中国の覇権阻止)と対中協力の目的(体制維持)には大きな違いがあり、ベトナムは双方を必要としている。
この二つの目的を達成するため、ベトナムは対外政策では、「バンブー外交」および「4つのNO政策」(軍事同盟を結ばない、他国と対立しない、外国の基地を持たない、武力による威嚇や武力の行使をしない)を駆使して、米中両国との関係緊密化に成果を上げてきている。ベトナム外交は非常にしたたかである。
今年、米越両国は国交樹立30年周年、ベトナム戦争終結50周年を迎えることから、両国首脳レベルの要人往来が期待される。
トランプ政権から、貿易黒字国(越の24年1~10月対米貿易黒字額は1020億ドル、国別世界3位)に対する圧力が増すことに対しては、第一次政権時の経験をも踏まえ、既にそれなりの準備をしていると思われる。
例えば、ベトナム軍の武器調達は、従来60%以上がロシア製であったが、ウクライナ侵攻後はロシアからの調達が難しくなっており、米国製武器の輸入が見込まれる。米国製民間航空機や天然ガスの輸入もありうる。
米中対立先鋭化でどう動くか
(中略)最近、(南シナ海での軍事拠点化を進める)中国に対抗するためベトナムも軍事拠点化を進めていると報じられている。ベトナムは「南シナ海の安全と自由航行」を守るためには、米国との協力強化が不可欠と認識している。
米中対立が先鋭化した時にベトナムの「立ち位置」がどうなるかは、米中両国にとっても大きな関心事であろうが、ベトナムの「主権」や「国民の生命」に甚大な影響が及びうる事態になれば、ベトナムは「4つのNO」を放棄し、立ち上がると思われる。
中国は、その点をよく理解しており、この2~3年、ベトナムの「取り込み」に相当のエネルギーを割くとともに、南シナ海ではベトナムを刺激しないように、対越行動を自重している。
確かに、論説が指摘する通り、米国のベトナムとの協力には限界があることは間違いではないのだろう。しかし、米国は豪州、日、韓のような地域のパートナーと協力し、麻薬対策や人身売買対策などの問題に関して、能力開発、訓練、その他の支援を提供する、といった工夫をすることはできる。【2月12日 WEDGE】
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