孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

バングラデシュ  独立戦争参加の軍人家族への政府職員採用優遇措置をめぐる混乱拡大

2024-07-19 23:27:10 | 南アジア(インド)

(【7月19日 日経】 バングラデシュで政府職員の採用の一部を退役軍人の家族らに割り当てる優遇措置に対する抗議活動激化、治安当局と衝突)

【政府職員の採用の一部を独立戦争退役軍人の家族らに割り当てる優遇措置に対する抗議デモで混乱拡大】
バングラデシュでは1971年の独立戦争に起因する問題で、半世紀以上が経過した今、若者らの暴動が起きています。

“バングラデシュでは、1971年のパキスタンからの独立戦争に加わった兵士は「解放戦士(フリーダムファイター)」と呼ばれ敬意を集める。一方、政府職員の採用枠の3割をこうした人々の子息らに割り当てる措置には批判が多く、政府は2018年に廃止を決定したが、バングラデシュ高裁が今年6月にこれを覆す判断を出し抗議デモが発生。今月に入り激化している。”【7月19日 共同】

****バングラデシュで抗議デモ激化 国営放送局襲撃、少なくとも39人死亡*****
バングラデシュで、政府職員の採用の一部を退役軍人の家族らに割り当てる優遇措置に対する抗議デモが激化している。

首都ダッカでは18日夜、デモ隊が国営放送局を襲撃し、AFP通信は19日までに治安部隊との衝突で少なくとも39人が死亡したと報じた。負傷者が2500人を超えるとの報道もあり、犠牲者はさらに増える恐れがある。
 
AFP通信によると、学生らを中心とするデモ隊は国営放送BTVの本部や、外に止まっていた多数の車両に放火した。建物内にいた職員は無事に避難したという。17日にハシナ首相が国民向けのテレビ演説を行い自制を呼びかけていた。

デモ隊が抗議している優遇措置は、1971年のパキスタンからの独立戦争を戦った軍人の家族らに政府職員の採用の一部を割り当てるもので、72年に導入された。一時廃止されたが、今年6月に裁判所が復活を認めていた。ハシナ氏は独立運動を率いたラーマン初代大統領の娘で、デモ参加者は、優遇措置がハシナ氏の与党アワミ連盟の支持者を利すると非難している。

アジアの最貧国の一つだったバングラは近年著しい経済成長を続けているが、若年層を中心に雇用不足への不満が高まっている。【7月19日 毎日】
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上記記事では“少なくとも39人”とされる死亡者については、“デモ激化でネット遮断続く=公務員採用巡り、50人死亡―バングラデシュ”【7月19日 時事】といった報道もあります。

【国旗の赤い日の丸は独立戦争犠牲者の血の色】
独立以前は、広大なインド亜大陸をはさんで東西に国土が二分されたパキスタンの一部でした。
常識的に考えてどうしても無理がある形態であり、国家の運営は西パキスタンを中心としたものになりがちでした。

政治の中心は西パキスタンが握っており、東パキスタンは実質的に西の植民地的地位に置かれていました。

“1970年12月の選挙で人口に勝る東パキスタンのアワミ連盟が選挙で勝利すると、西パキスタン中心の政府は議会開催を遅らせた上、1971年3月には軍が軍事介入を行って東パキスタン首脳部の拘束に動いた”【ウィキペディア】ということから、東パキスタンは独立を求めて戦争状態に入ります。

バングラデシュのパキスタンからの独立は多大な国民の血によって達成された歴史があります。
1971年、東パキスタン地域(今のバングラデシュ)のベンガル人独立派に対し、西パキスタンの中央政府は軍を空輸して武力鎮圧を試み、死亡者は9ヶ月で300万人に達しました。これは第二次大戦全期間の日本の死者数に匹敵します。【ウィキペディアより】

独立戦争による犠牲者は約100万人とも言われていますが、バングラデシュ政府は約300万人と発表しています。

300万人もの国民の血であがなった独立戦争を指揮したのが、バングラデシュの初代大統領ムジブル・ラーマンであり、ハシナ現首相の父でした。

戦争の方は、大量の難民が流入したインドがバングラデシュ独立を支持して介入、1971年バングラデシュの独立が達成しました。

バングラデシュの国旗は緑地に赤い日の丸ですが、緑は豊かな大地、日の丸はパキスタン国旗の月と星に対抗して昇る太陽を、その赤色は犠牲者の血の色を表しているそうです。

上記のような経緯から“独立戦争を戦った軍人の家族らに政府職員の採用の一部を割り当てる”という措置もとられたのですが、半世紀が経過した今となっては、一種の既得権益とも化しており、雇用不足に苦しむ若者がこれに反対するのは当然でしょう。

既得権益を維持したい遺族会とか退役軍人会みたいなものはハシナ首相の与党を支持していると思われますが、2018年の制度廃止がどういう経緯でおこなわれたのか、ハシナ首相がどういうスタンスだったのかは知りません。

また、制度廃止を否定して制度を復活させた今年6月の高裁決定が、独立した司法判断としてなされたのか、復活を求める政治的影響のもとでの判断だったかのかも知りません。

“ハシナ首相はテレビ演説で学生らに自制を呼び掛けるとともに、「誰が何の目的で無政府状態に追い込んだのか明らかにする」などと述べ、首謀者らを厳正に処罰する姿勢を示した。”【7月19日 時事】

【マクロ経済的には経済成長が著しいが、経済を支える二本柱のひとつは海外出稼ぎ労働者からの送金 国内雇用の不足】
かつてはアジア最貧国とも言われていたバングラデシュですが、近年はマクロ経済的には経済成長が著しいとされています。

****バングラデシュ経済の現状と今後の注目点~ 世界第8位の人口を擁する南アジアの隠れた有望国 ~****
南アジアのバングラデシュは、国連が認定する後発開発途上国(LDC)に分類される貧しい国であるが、世界第8位の人口(1.7億人)を有し、マクロ経済が堅調であることなどから、有望な新興国として評価されている。

例えば、バングラデシュは、BRICSほどではないが大きな潜在性を秘めた新興国群である「ネクストイレブン」の一つに位置付けられている。

バングラデシュでは、近年、生活水準の向上や投資の拡大などが着実に進んでいる。所得水準の向上と人口の多さを考慮すれば、今後、外資企業にとって、バングラデシュの国内市場をターゲットとするビジネス・チャンスが増えることも期待できそうだ。(中略)

バングラデシュ経済を支える牽引役の一つが縫製品輸出であり、輸出の8割を縫製品が占め、衣料品の世界輸出シェアでバングラデシュは中国に次ぐ2位である。

バングラデシュの縫製品輸出産業台頭の理由は、人件費の安さと豊富な労働力が労働集約型産業である縫製業に適していたためである。また、世界の工場となった中国で人件費が上昇し中国以外の国々に生産拠点を求める「チャイナ・プラス・ワン」の動きが強まったことも、バングラデシュにおける縫製品輸出拡大への追い風になった。

縫製品輸出と並んでバングラデシュ経済を支える二本柱のひとつと言えるのが、海外出稼ぎ労働者からの送金である。海外出稼ぎ労働者からの本国送金額において、バングラデシュは発展途上国の中で第7位にランクされており、海外出稼ぎ大国とも言える。バングラデシュの海外出稼ぎ労働者の主な渡航先は、同じイスラム圏で距離が比較的近い中東湾岸諸国である。

バングラデシュは人件費が非常に低廉であり、これが労働集約型生産拠点としての大きな強みとなっている。JETROデータに基づいてアジア主要都市のワーカー人件費を比較してみると、バングラデシュのダッカは最低レベルであり、ダッカより低いのは、ヤンゴンとコロンボだけである。

バングラデシュは、1990年代以降、生産年齢人口(15~64歳)比率が上昇する「人口ボーナス」期を迎えている。ただ、生産年齢人口比率は、2040年代後半以降、下落が進むと予想され、それまでに、投資誘致などを通じて労働集約型産業を拡大させ国民の雇用・所得底上げを図ることが課題となろう。【2023年10月3日 堀江正人氏 三菱UFJリサーチ&コンサルティング】
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後発開発途上国(LDC)について言えば、2021年11月、バングラデシュはラオス、ネパールとともに後発開発途上国( LDC)のステータスから卒業することが国連総会で決議され、バングラデシュは2026年11月にLDCのステータスから卒業することが予定されています。

これにより、バングラデシュは輸出時にLDC向けの特恵関税率を利用できなくなり、輸出先市場で価格競争力を失う可能性があります。【24年3月 早川和伸氏・熊谷聡氏 アジア経済研究所より】

バングラデシュ経済を支える牽引役の一つとされる縫製品輸出については、2013年4月23日、ダッカ近郊の複数の縫製工場が入居する商業ビルが崩壊し、1000人以上が死亡する事故が想起されます。

事故当時、劣悪な労働環境が国際的にも大きな問題となり、輸入国である先進国の責任も問われました。
その後、労働環境改善がはかられたようです。

****バングラデシュのラナ・プラザ崩壊のその後(2)――事故に見舞われた工場に発注をかけていたアパレル小売企業は、事故とどう向き合ったのか?*****
(中略)
2013年4月23日、ダッカ近郊の商業ビルが崩壊し、1000人以上が死亡、2500人以上が負傷した。縫製業などの工業生産に耐えうる構造ではなく、もともと建築許可が下りていた5つのフロアに違法に3フロアを増築するなど、安全対策が不十分だったとされる。

各種組合やNGOなどは、ラナ・プラザに入居していた工場がそのような環境で生産活動を行っていたのは、彼らと契約していた先進国の小売企業が厳しい条件を押し付けたためだとして、厳しく糾弾した。(中略)

このような大惨事を受けて、バングラデシュ国内では労働環境の改善が進み、安全基準が設けられたり、最低賃金率が引き上げられたりしたことは、前回紹介した研究が示すとおりだ。(後略)【2024年3月 永島優氏 アジア経済研究所】
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縫製品輸出と並んでバングラデシュ経済を支える二本柱のひとつされるのが、海外出稼ぎ労働者からの送金・・・このことは裏を返せば、バングラデシュ国内に十分な雇用がないということでもあります。

このことが、今回の若者による政府職員の採用の一部を退役軍人の家族らに割り当てる優遇措置に対する抗議デモの背景にあるのは間違いないところです。

【今回の混乱の背景に野党の扇動・・・・とハシナ首相は考えている?】
ここから先は情報がないのであくまでの私の想像ですが、ハシナ首相の「誰が何の目的で無政府状態に追い込んだのか明らかにする」という発言には、首相・政権は単なる若者の抗議デモ・暴動とは見ていないようにも思えます。

バングラデシュの政治はハシナ首相率いるアワミ連盟(AL)とジア党首率いるバングラデシュ民族主義党(BNP)が政権交代を繰り返す形で展開してきました。

ハシナ首相が独立運動を率いたラーマン初代大統領の娘であるのに対し、ジア党首はラーマン初代大統領の政敵であったジアウル・ラーマン元大統領の未亡人。

ラーマン初代大統領もジアウル・ラーマン元大統領も、ともに敵対勢力によって殺害されるということで、ハシナ首相とジア党首は互いに相手側を恨む不倶戴天の仇同士です。

2009年以降は、野党(BNP)側の選挙ボイコットなどもあって、ハシナ首相・ALが政権を独占していますが、両者の対立は消えていません。

****与党勝利、連続4期目へ=野党不参加、独裁色強まる恐れも―バングラデシュ総選挙****
バングラデシュ議会(一院制、定数350)の総選挙が(1月)7日、投開票された。地元メディアは、与党アワミ連盟(AL)が過半数の議席を得て勝利することが確実になったと報じた。

ハシナ政権は連続4期目に入る。政敵の排除を進め、有力な対抗勢力が見当たらない中、独裁色がさらに強まる恐れもある。

主要野党バングラデシュ民族主義党(BNP)は公正な選挙実施が担保されていないとしてボイコットした。

同国ではかつてALとBNPが交互に政権を担う時期があった。しかし2008年末の選挙でALが政権を奪還すると、BNP幹部や人権活動家らを次々に拘束し、弾圧した。

ハシナ首相は選挙戦で「今のバングラデシュは貧困にあえぐわけでも経済的にもろいわけでもない」と述べ、最貧国から経済を成長軌道に乗せた実績を強調。7日にはボイコットしたBNPを「テロ組織だ」と非難した。【1月8日 】
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かつてバングランデシュの反政府活動には、抗議のゼネスト「ホルタル」への参加を地域住民に暴力的に強制するなど頻繁に暴力が使用されました。

ハシナ首相の「誰が何の目的で無政府状態に追い込んだのか明らかにする」という発言は、今回の混乱の背後に野党BNPの扇動があると見ている・・・・と想像されます。あくまで私の想像です。 

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インド “民主主義が機能している”ことを示したが、選挙結果は“民主主義が病んでいる”証かも

2024-06-06 22:58:24 | 南アジア(インド)

(インドではここ数年で数百万人が農業の仕事に戻った 【6月4日 WSJ】)

【圧勝オーラ全開のモディ首相を止めた今回選挙結果は、“インド民主主義はまだ機能している”ことを示した】
圧勝が(ほぼ確実視・・・と言っていいぐらいに)予想されていたモディ首相率いる与党・インド人民党が議席を減らし、単独では過半数に達しないという結果になったインド総選挙の結果は周知のところです。

私個人も「経済・外交実績アピールと国民多数派の宗教感情をくすぐる強烈なヒンズー至上主義で、モディ与党が圧勝するのだろう・・・」と単純に考えていましたが、その不見識を棚に上げて言えば、選挙というのはやってみないと分からないと言うか、先進国以外での「事前予測」とか「出口調査」というのは怪しいところがある・・・・という感じも。

結論から先に言えば、5月13日ブログ“インドの民主主義は病んでいる  「世界最大の選挙」を実施中も、その民主主義には疑念も”などでも再三インドの民主主義への疑念を示してきましたが、今回選挙結果ははからずも“インド民主主義はまだ機能している”こと、圧勝オーラ全開のモディ首相の言いなりには国民は動かないことを示すものと言えます。

与党連合では過半数を制していますので「敗北」という訳ではありませんが(実際、モディ首相は「勝利宣言」をしています)、与党が予想された数字とは異なる議席減になった結果については、「失業」や「物価」など経済への不満が、成長の恩恵が十分に及んでいない貧困層において強かったことが各紙で指摘されています。

****<14億の選択>インド総選挙で野党躍進「モディ氏の政治的敗北」 3期目、人気陰り****
インド下院の総選挙は5日、全議席が確定した。モディ首相が率いる与党インド人民党(BJP)は、小選挙区543議席のうち240議席にとどまり、単独過半数を割り込んだ。

与党連合全体としては過半数を確保したものの、モディ氏の圧倒的な人気に陰りが見え、3期目の政権運営は軌道修正を迫られることになりそうだ。

「(与党連合の)3期目が決まったのは明らかだ」。モディ氏は4日夜、BJP本部で支持者を前にこう語り、勝利宣言した。しかし、州別では国内最多の2億人を抱える大票田の北部ウッタルプラデシュ州で議席を半減させるなど、圧勝した2019年の前回選より60議席以上減らした。

地元メディアによると、与党連合全体では290議席超だった。モディ氏が約30分の演説で大幅な議席減に言及することはなかった。

一方、前回の52議席から99議席に躍進した最大野党・国民会議派のカルゲ総裁は記者会見で「国民はモディ氏に負託を与えなかった。これは彼の政治的な敗北だ」と述べた。選挙協力した地域政党の伸長も目立ち、野党連合では下院議席全体の4割を占めた。

インドは23年度の国内総生産(GDP)の成長率が8%を超えるなど高い経済成長を続ける一方、若者の失業は深刻で、増え続ける労働力人口に見合った雇用を創出できていない。

国際通貨基金(IMF)によると、23年の1人当たりGDPは中国の約5分の1にあたる2500ドル(約39万円)にとどまった。IT産業などに従事する高所得者はごく一部で、労働力人口の半数近くを占める農業や関連産業に従事する人々からは生活苦を嘆く声が上がる。

 ◇ヒンズー至上主義的な政策導入は難しく
ヒンズー至上主義団体を支持母体とするモディ政権は、人口の約8割を占めるヒンズー教徒の宗教感情に訴える政策を相次いで打ち出したが、経済的な不満を抑え込むには至らなかった。

象徴的なのが、ウッタルプラデシュ州アヨディヤを含む選挙区の結果だ。今年1月、ヒンズー教徒とイスラム教徒が所有権を争ってきたモスク(イスラム教礼拝所)跡地にヒンズー教寺院が開設され、BJPは長年の公約を実現して支持を固めたはずだった。

ところが直近2回の選挙で当選した現職は、ヒンズー教徒の下位カーストやイスラム教徒を支持基盤とする地域政党の候補に敗れた。この政党は改選前の7倍超の議席を獲得した。

複数の識者によると、与党連合が大勝すれば、低い地位のカースト集団に対する優遇措置が廃止されるとの警戒感が広がったという。地元の政治ジャーナリスト、サンジーブ・アチャリヤ氏は「野党側は、与党が議席を伸ばせば憲法が改正されると訴えた」と指摘。憲法は教育や就労の際、下位カーストの人らが一定の割合で優先されるとしており「与党は否定したものの、優遇措置がなくなることを恐れた人々が野党支持に回った」と説明する。

3期目に入るモディ政権は、これまでとは一転して大きな野党と対峙(たいじ)することになる。「与党は今後、地域政党の声に耳を傾けることが求められ、思い通りに法案を通すことはできなくなる」(アチャリヤ氏)。与野党で方向性に大差がない経済や外交面での影響は限られるが、ヒンズー至上主義的な政策の導入は難しくなるとみられる。【6月5日 毎日】
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“モディ、3期目”について言えば、野党側も政権奪取を目指すとしており、与党インド人民党(BJP)と連立を組む与党第2党テルグ・デサム党(16議席)、第3党ジャナタダル統一派(12議席)の動向次第というところです。まあ、順当に行けば与党連合を維持して“モディ、3期目”なのでしょう。最大野党「国民会議派」も無理な数合わせて政権をつかんでも、あまりいいことはないかも。

【モディ首相が「成長」を誇る一方で、「失業」「物価」に苦しむ貧困層】
“モディ政権が発足した2014年に世界10位前後だった経済規模は5位にまで上昇。23年度の実質国内総生産(GDP)の伸び率は前年度比8・2%で、世界屈指の高い経済成長を維持した。”【6月4日 産経】というモディ首相が誇る経済成長ですが、やや内実が伴っていないところもありました。

****経済成長も高失業率****
一方、国内で成長の実感は乏しい。地元誌が今年2月に実施した「インドが直面する課題」を問う調査では、「失業」と「物価高騰」が1位、2位を占めた。

特に失業率の高さは深刻だ。地元政策研究機関は、22年度のインドの失業率は7・5%で、15〜24歳の若者に限ると45%に達すると指摘した。22年にインド国鉄が3万5千人の募集を行ったところ、1250万人が応募する異常事態となった。

モディ氏が選挙戦でイスラム教徒を「侵略者」と呼んで、8割を占めるヒンズー教徒の支持を固めようとしたのは、経済面の不満から目をそらすためでもあった。

ただ、成長の果実を享受できない有権者の不満は確実に高まっており、与党連合の勢いをくじいた。

ヒンズー教徒を優遇するモディ政権は、3月には隣国からの移民に市民権を与える「市民権改正法」を施行したが、イスラム教徒を対象外とした。国内で広がる宗教的分断もBJPへの反発につながっている。【6月4日 産経】
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モディ政権が誇る成長の数字も、やや水増し的なところがあったようです。また、そうした数字に反映されない実態も。

****高成長インド経済、GDPに映らない実態****
一部指標に弱さが見られる中、エコノミストは経済の実際の強さを知りたがっている

インドの今年の経済成長率は主要国で最も高くなりそうだが、公式の数字だけでは実態は見えてこないとエコノミストは指摘する。

インドの昨年度(今年3月まで)の国内総生産(GDP)は速報値で前年度比8%以上の伸びを示した。インフラへの公共支出やサービス・製造業の伸びがけん引した。これは中国の成長率(約5%)を大きく上回る強さで、ナレンドラ・モディ首相が目指す2047年までの先進国入りに追い風となる。

ただ、インドのGDP算出方法では、成長の強さが実際より大きくなる可能性がある。公式統計に含まれない巨大な非公式経済の弱さを十分に反映してないことが一因だ。また民間消費や投資などの指標も軟調で、企業は法人税が引き下げられたにもかかわらず、事業拡張に資金を投じていないようだ。

ピーターソン国際経済研究所の上級研究員で元モディ政権首席経済顧問のアルビンド・スブラマニアン氏は、「もし人々が経済に対して楽観的なら、もっと投資して消費するだろう。実際にはどちらも起きていない」と指摘した。

GDPの内訳で最大の民間消費は4%増にとどまり、新型コロナウイルス流行前の水準に戻っていない。エコノミストによると、もし政府がコロナ下で始めた大規模な食料支給プログラムを続けていなかったら、もっと弱い数字だったかもしれない。

問題の一因はコロナを経たインドの現状だ。大手企業や公式経済の労働者はおおむね順調だが、国民の大半は非公式経済や農業に従事し、その多くが職を失った。

政府発表の昨年の失業率は約3%だが、調査会社インド経済モニタリングセンターによると、昨年度の失業率は8%だった。(中略)

エコノミストによると、非公式部門はこの10年でショックを3回経験した。16年の脱税対策の高額紙幣廃止で国内の紙幣の90%が価値を失い、翌年の税制改正で小規模企業の事務負担と経費が増え、さらにコロナ禍に見舞われた。

その結果、都市部で雇用が悪化し、この数年で数百万人が農業の仕事に戻った。
鉄道の月間利用者数の回復が弱いことは、人流が完全には戻っていないことを示している。ANZリサーチのエコノミスト、ディラジ・ニム氏はこう指摘し、「おそらく農場は今も過密状態だろう」と述べた。

インドのGDPは、公式部門の企業の指標を使って非公式部門の活動状況を推計するため、非公式部門に残っている弱さを把握しきれない。その結果、政府が十分な経済対策を打てなければ、問題が生じかねない。

「間違いなく、インドのさまざまな経済指標は公式のGDPとはやや異なる方向を向いている。だがそれはインドに限ったことではない」。ガベカル・リサーチの新興国市場シニアアナリスト、ウディス・シカンド氏はこう話し、「それよりも重要なのは、統計の不正確さが体系的かつ広範囲に及び、経済政策当局の判断を鈍らせているかどうかだ」と述べた。(中略)

算出方法の変更もおそらく影響している。インドは15年に時価で算出するGDPに移行し、これを物価変動の影響で調整して実質GDPを算出するようになった。これで経済を計測する精度が向上すると思われた。

だがインドの調整方法では、商品(コモディティー)価格が下落する一方で他の物価が高止まりしていた場合、GDP成長率が実際より大きくなる可能性があるとスブラマニアン氏は指摘する。これが原因で昨年度の成長率が実際より2ポイントほど高い数字だった可能性があるという。(中略)

一部の経済活動がコロナ禍の打撃から持ち直している兆しもある。(後略)【6月4日 WSJ】
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【投票行動を反映しなかった出口調査】
事前予測はともかく、出口調査とも大きく異なる結果になったことについては、以下のようにも。

****インド総選挙の出口調査、低所得者らの意向捉えられず=調査機関****
インド総選挙の出口調査では、社会的、経済的に下位とされる層の不満を正しく把握できず、与党への支持を過大評価していた可能性があることが分かった。

5つの調査のうち3つは、モディ首相のインド人民党(BJP)が2019年の303を上回る議席を獲得する可能性があり、ラフル・ガンジー氏の国民会議派が率いる野党連合が125─182議席を獲得すると予測していた。これを受けて、選挙結果発表を前に株式市場や通貨ルピーは上昇した。(中略)

調査会社アクシス・マイ・インディアのプラディープ・グプタ代表は、今回の調査では、合計170議席が争われたマハラシュトラなど複数の州の社会的下位の層の有権者の動向を捉えられなかったと説明した。これらの州ではBJPが19年と比較して45議席を失った。

グプタ氏は、こうした社会層では政治的見解の異なる関係者からの攻撃を恐れ、投票先を明らかにしない有権者が多いと指摘。多くの女性有権者が代理で回答を頼んだため、投票行動が誤って推定されたとも言及した。【6月6日 ロイター】
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【モディ首相・与党と民心にはズレが 批判を封じ込んできた結果民心が政権に届かなくなっているなら、“インドの民主主義は病んでいる”ことを示した選挙結果とも】
総じて言えば、成長の成果を誇り、ヒンズー至上主義で多数派ヒンズー教徒の歓心を買おうとするモディ首相・与党と民心にはズレがあったようです。

****インドのモディ首相、3期目維持も離れた民心****
与党BJPは単独過半数割れ

インドのナレンドラ・モディ首相は3期目を維持しようとしているが、同国の有権者はヒンズー至上主義者のモディ氏に圧倒的な過半数を与えず、大きく背を向けた。国民の間では高い失業率やインフレへの不満が高まっていた。(中略)

今回の結果によって、モディ氏の無敵オーラは崩れ去ったと政治専門家は指摘する。73歳の同氏は長年、自身のカリスマ性に頼って有権者を引きつけてきた。今回の選挙に至るまで何カ月にもわたり、全国各地で大々的に活動してきた。

印シンクタンク、オブザーバー研究財団(ORF)系の政治アナリスト、ラシード・キドワイ氏は「選挙結果はモディ・ブランドが弱体化したことを示している」と指摘。「これは大きな敗北だ」と述べた。(中略)

モディ氏はヒンズー教の国としてのアイデンティティーを前面に押し出してきた。インドの宗教的少数派では最大勢力のイスラム教徒は、ヒンズー教のナショナリスト的な考えがより顕著になる中で、自分たちが政治的に無視されており、暴力の標的にされることがあると訴えている。

しかし、ヒンズー至上主義的なモディ氏の支持基盤を奮い立たせようとする試みは、ウッタルプラデシュ州では失敗に終わった。インドで最も人口が多く、政治的な動向を見る上で注目される同州では、野党が獲得した議席数の合計がBJPの議席数を上回った。BJPの議席数は、2019年総選挙での62議席から30議席前半へと大きく減少した。

政治専門家によれば、多くの人々が経済問題に不満を抱え、票を投じたとみられる。一部の有権者は、インドのイメージにある「ズレ」を問題視している。

派手で裕福な有力者が住む世界的な経済大国としてのイメージと、何億人もの人々が暗い雇用の見通しと物価高に直面し、政府が提供する無償の食糧配給制度に頼らざるを得ない状況に置かれているというイメージとのズレだ。

ウッタルプラデシュ州出身のモハンマド・アハメドさん(42)は、農場での日雇い労働の仕事を求める他の多くの人たちと共に、村の主要な交差点に立っていると語った。この6年間でそうした人の数は10倍に増えたという。

「モディ氏は無料で食料を配ってくれたが、仕事は与えてくれなかった」とアハメドさんは言う。「モディ政権下の10年で富裕層はより大きな力を得たが、貧困層は一層無力になった」

今回の選挙では、アハメドさんは野党の国民会議派に投票した。「以前はモディ氏のことを父親のように思っていたが、彼は私たちを失望させた」

公共政策の専門家ヤミニ・アイヤル氏によると、ウッタルプラデシュ州はヒンズー至上主義の実験場となってきたため、同州での選挙結果は特に潮流の変化を物語っている。

アイヤル氏は「人々の日々の暮らしに関わる失業やインフレといった問題は重視される」と指摘。インドを2047年までに先進国に変えるとの公約を掲げた選挙活動を通じて、モディ氏が意図せずにこうした問題を鮮明にしてしまった可能性があると語った。

また宗教面では、人々は「ヒンズー至上主義が唯一の選択肢として提示されてきたことにうんざりしていた」と同氏は述べた。

隣接するマディヤプラデシュ州で農業に従事するデビ・シン・マルビヤさん(34)は、BJPは一般市民の関心事である日々の生計に関する問題を解決するのではなく、世界でのインドの成功を言い立てることに熱心過ぎると語った。マルビヤさんは、過去の国政選挙ではBJPを支持してきたが、投票先を野党に変えたという。

マルビヤさんは村人の多くが同じように投票したと考えている。「BJP主導の政権は今ある問題に焦点を合わせていない。代わりに、2047年に向けた目標を掲げている。この10年で上がったのは失業率と物価だ」

モディ政権が権力を利用して批判を抑え込んだことで、多くのインド人が直面している経済的な不安を深いところまで理解できなくなっていた可能性があると、政治専門家は指摘する。

報道機関や市民団体は税務調査や捜査を受けている。国民会議派は選挙を前に税回収措置を受けることが増え、別の野党の党首アルビンド・ケジリワル氏は汚職容疑で逮捕された。汚職の追及において、捜査当局は適正な手続きを踏んでいると政府は主張している。

インドを専門とする英オックスフォード大学ブラバトニック公共政策大学院のマヤ・チューダー准教授(政治学)は、政府が反対意見を封じると、選挙の時しか一般市民の考えは届かないと指摘する。

野党の躍進は、国民会議派の「顔」であるラフル・ガンジー氏による草の根運動が大きいと政治専門家は評価する。ガンジー氏は近年、国内を徒歩で巡って一般市民と接し、雇用促進と社会分断の緩和を演説で訴えてきた。

ガンジー氏はまた、BJPが3分の2の過半数(当初同党が獲得見込みだとしていた数)を獲得した場合、同党は政府機関や大学への少数派の就職・入学枠を保証するアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)の廃止など、憲法を劇的に変える可能性があると警告していた。【6月5日 WSJ】
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モディ政権が権力を利用して批判・反対意見を抑え込んできた結果、一般市民の考えが政権に届かなくなってしまっているとしたら、単に政策レベルの問題を超えて、モディ政権、さらにインド社会にとって事態は深刻です。

冒頭で、今回選挙結果ははからずも“インド民主主義はまだ機能している”ことを示したとも書きましたが、上記視点から言えば、今回結果自体が“インドの民主主義は病んでいる”ことを示しているという見方もできます。
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インドの民主主義は病んでいる  「世界最大の選挙」を実施中も、その民主主義には疑念も

2024-05-13 22:00:37 | 南アジア(インド)

(【4月18日 NHK】)

【世界最大の選挙】
インドでは有権者9億7千万人を対象に、世界最大の選挙が行われています。
投票所は約100万カ所に設置、約1500万人をスタッフを配置する・・・という規模の選挙ということで、4月19日から6月1日までの約1か月半の期間に、州や地域ごとに7回に分けて投票が行われ、6月4日に全国一斉開票されます。

****<14億の選択>山越え、ジャングルを抜け… あと1カ月投票続く「世界最大の選挙」****
世界最多の14億人が暮らすインドで総選挙の投票が続いています。6月1日まで、1カ月半に及ぶ長期戦。なぜこんなに時間がかかるのでしょうか? 「世界最大の選挙」の仕組みを解説します。

インドの面積は世界で7番目に広い328万7263平方キロで、有権者の数は日本の人口の8倍近い約9億7000万人に上ります。日本の国会議員にあたる下院議員を選ぶ今回の選挙では、約100万カ所の投票所が設けられることになっています。

投票が1カ月半もの長期間に及ぶのは、国土の広さと有権者の多さが影響しています。膨大な人数の担当者を投票所に配置して、州や地域ごとに7回に分けて投票が実施されるからです。

4月19日の1回目の投票では約18万7000カ所の投票所を設置し、運営に関わった職員の数は180万人に上りました。選挙管理委員会によると、41機のヘリコプターと84本の特別列車、10万台近い車両を駆使し、これらの職員や安全を守るための治安要員を各地の投票所に運んだそうです。

 ◇時には象やラバにまたがって
「私たちは、雪山の中でも、ジャングルの中でも入っていきます。すべての人々が投票できるように馬やヘリコプターを使い、象やラバにも乗ります」(選管委員長のラジブ・クマール氏)

最も高地に設けられるのは、中国との国境地帯にある北部ヒマチャルプラデシュ州の標高4650メートルの村にある投票所です。世界各地の選挙で「最も高い場所にある投票所」と言われます。

地元メディアによると、北東部アルナチャルプラデシュ州の山深い村では、村に住むたった1人の有権者のために、選管職員らが40キロの道のりをトレッキングして、投票所を開設したそうです。

こうした地道な努力の成果もあってか、2019年の総選挙の投票率は、約67%と過去最高を記録しました。今回も最初に投票があった各地の投票所では、朝から多くの人々が列を作りました。(後略)【5月2日 毎日】
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【与党圧勝の予測】
選挙結果については、モディ首相率いる与党「インド人民党」が、これまでの経済成長や国際社会でのインドの存在感増大といった成果をアピール、更にヒンズー至上主義で多数派ヒンズー教徒の支持を固めて圧勝するというのが大方の予測です。

****インド下院選、与党連合が圧勝の勢い=世論調査*****
最新の世論調査によると、インドで今月から始まる下院総選挙は、モディ首相が率いる与党連合が全体の75%近い議席を獲得して圧勝しそうだ。最大野党の国民会議派は、過去最低議席に沈むと予想されている。

モディ政権下では、雇用創出は低調で格差も拡大した。しかし経済成長率は高く、各種補助金が拡充されたほか、ヒンズー至上主義を掲げて多数派のヒンズー教徒を取り込んでいるため、高い支持率を誇っている。

こうした中で総選挙告示後最初の主要世論調査として地元テレビ局CNXが発表したところでは、与党連合「国民民主同盟」は543議席のうち過半数の272議席を大きく超える399議席を手に入れ、モディ氏の属するインド人民党(BJP)だけでも342議席を確保する見通し。

一方で国民会議派は2019年の前回選挙時の52議席から38議席に後退し、14年の44議席にも届かず過去最低になりそうだ。

今回400議席超えを目標に掲げている与党連合は、19年は350議席強だった。【4月4日 ロイター】
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【選挙直前の野党党首逮捕 今回選挙が“民主的”に行われているのか疑念も】
冒頭記事のような“雪山の中でも、ジャングルの中でも・・・”といった話を聞くと、さすが「世界最大の民主主義国」という感もありますが、モディ首相の統治、そして今回選挙が“民主的”に行われているのかという点では大きな疑念ももたれています。

“インドでは「民主主義の根幹である選挙」が正しくできていないのではないか? 専門家が指摘”【3月26日 ニッポン放送 NEWS ONLINE)】

その疑念を象徴するのが選挙直前になされた有力野党党首の逮捕でした。

****インド野党指導者を逮捕 下院選直前、強権批判も****
インドの捜査当局は21日、酒類販売政策を巡る汚職事件に関連し、デリー首都圏政府のケジリワル首相を逮捕した。地元メディアが報じた。

インドでは4〜6月に下院総選挙が実施される。直前に野党連合のリーダーの一人であるケジリワル氏が逮捕され、野党側はモディ政権の強権姿勢を示していると批判した。

与党インド人民党(BJP)を率いるモディ首相は高い支持率を誇る。野党連合は下院選で苦戦を強いられそうで、今回の逮捕はさらなる打撃となる。ケジリワル氏はデリー首都圏や北部パンジャブ州で強い勢力を持つ庶民党を率いている。  ケジリワル氏の逮捕容疑は不明。【3月22日 共同】
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ケジリワル氏は首都圏で強い反モディ勢力の有力者です。そのケジリワル氏が選挙開始直前に逮捕されるというのは偶然ではないようにも・・・。

アメリカもこの件を批判していますが、インド政府は「内政干渉」として取り合っていません。

****インド、米の「内政干渉」に抗議 野党指導者の逮捕巡り*****
インド政府は27日、野党指導者の逮捕を巡る米国の「内政干渉」に強く反発した。

4月19日からの総選挙を控える中、インド当局は先週、野党・庶民党(AAP)を率いるデリー首都圏政府首相のアルビンド・ケジリワル氏を汚職容疑で逮捕した。 AAPは「でっち上げ」による不当な逮捕だとしている。

米国務省報道官は25日、ケジリワル氏逮捕に関する報道を注視しており、公正な法的手続きを促すと述べた。

これを受けてインド外務省は27日、ニューデリー駐在の米代理大使を呼んで抗議した。

同省は声明で「インドの法的プロセスは客観的で時宜を得た結果を約束する独立した司法に基づいている。それを非難するのは不当だ」と指摘。「外交において、国家は他国の主権と内政を尊重することが求められる」などとした。

主要野党の国民会議派も先週、所得税に関する訴訟を巡り、銀行口座が凍結されたとし、政治的な動機による措置だと批判した。

連邦政府とモディ首相の政党は政治的な関与を否定している。【3月28日 ロイター】
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【他国の指摘に過敏に反応するインド 西側諸国も及び腰】
民主主義への疑念を抱かせるインド・モディ政権の対応への批判は多くの西側諸国にとって、国際的存在感を増すインドが相手ということで容易ではなく、アメリカにしても、対中国包囲網にインドを取り込みたい思惑がありますので、インド批判は腰が引けたものになりがちです。

****【インドの民主主義は病んでいる】圧勝確実の政権が続ける野党抑圧、西側諸国は問題提起できるか****
(中略)近年、モディ政権の強権化とインドの民主主義の弱体化などが強く懸念されている。
フィナンシャルタイムズ紙の4月3日付け社説‘The ‘mother of democracy’ is not in good shape’は、著名な野党指導者のアルビンド・ケジュリワルの逮捕など野党陣営に対する政権側締め付けが目立ち、インドの民主主義の後退が懸念されることについて、西側民主主義国は口をつぐむべきでないと論じている。要旨は次の通り。

*   *フィナンシャルタイムズ紙社説要旨*   *
自由な言論と野党に対する締め付けは、特に5年前の総選挙における2度目の勝利の後において、モディのBJP(インド人民党)の支配に特徴的である。

税務当局や司法当局による政府批判に対するハラスメントは日常のこととなった。BJPのヒンズー国家主義はインドの世俗的な民主主義の伝統を浸食している。

野党や野党政治家に対する抑圧に法執行当局が使われ、それは強化されている。その明白な例は2015年以来デリー連邦直轄領の首相を務め、最も著名な野党指導者の一人であるアルビンド・ケジュリワル(AAP(アーン・アアダミ党)の幹事長)が3月21日に逮捕されたことだ。彼は経済犯罪を取り締まる機関によって酒類販売に係わる「詐欺」に関して尋問された後に拘束された。

他の野党の幹部も法執行当局によって逮捕されハラスメントを受けている。BJPは、逮捕は政治的動機によるものでなく腐敗を根絶するモディの努力の一環だと言っている。野党はBJPの幹部やモディの仲間は誰も逮捕されていないと反論する。

BJPが野党陣営の締め付けを必要と思っていることは不可解である。世論調査によれば、BJPは3度目の5年の任期に向けて順調に進んでいる。

ライバルはBJPに代わる強力な選択肢を提示できていない。野党の統一戦線として組織されたはずのIndia National Development Inclusive Allianceは、内輪もめとBJPへの鞍替えにつきまとわれて来た。

インドは今日、世界で最大で最も活力ある経済の一つである。インドはその文化と伝統に従って民主主義を運営する必要がある。

米国、英国、その他幾つかの西側の民主主義体制には疲労の徴候が見られる。しかし、モディの民主主義擁護のレトリックと現実の間のギャップは広がっている。

これは、単にその国民の権利と自由にとっての問題ではない。インドの投資にとっての魅力、および権威主義的な中国を警戒する諸国にとっての地政学上のパートナーとしての魅力は、インドの民主的で法に基礎を置く国としてのイメージに主として依拠するものである。

インドの意を迎えたいとの願望ゆえに、西側民主主義諸国は往々にして民主主義の後退に口をつぐむことになる。しかし、それには変化の徴候が見える。

ニューデリーが米国大使館の次席を招致してケジュリワルの逮捕についてのワシントンの批判に抗議したが、その後も米国はその懸念を繰り返した。他の民主主義諸国も同様に強くあるべきである。

政治的自由の保全は、インドの成長と繁栄、およびグローバルな社会の指導国家としてのインドの役割を高めたいモディの政府の野心に資することである。
*   *   *
(論評)
権力保全のための「腐敗の摘発」
上記の社説が特に取り上げているケジュリワルの一件は、選挙直前の時期にたまたま起きた事件のようには見えない。他の野党指導者の逮捕など一連の抑圧的措置の一環と思われる。BJPは、腐敗の根絶のために法執行当局がその仕事をしているに過ぎないと言うが、腐敗の摘発が権力保全の関連で世界のあちこちで使われていることは指摘するまでもない。

議会下院選挙は、モディのBJPの圧勝が確実視されている。モディの人気は高く支持率は78%に達する。
543議席のうちBJPを中核とする与党連合で400議席を獲得することさえあり得る状況のようであるが(現在は346)、BJPによるヒンズー主義の強権的な政治に鑑みれば、寛容で世俗的な国であるはずのインドの将来が懸念される。

しかも、モディの後継者は更に極端なヒンズー主義者(例えば、内務相のアミット・シャーやウッタル・プラデシュ州首相のヨギ・アディティヤナート)かも知れないという憶測がある。

そのようなインドとどのように付き合うのか?そのインドは諸外国から国のあり方を批判されることに神経過敏に反応することがケジュリワル逮捕の一件でも明らかになっている。

3月28日、副大統領のジャグディープ・ダンカール(BJP)はニューデリーにおける米国法曹協会の会合で「世界にはわれわれの司法における振舞いについてわれわれにレクチャーをしたがる人々がある」「われわれは他人から教典を押し頂くような国ではない。われわれは500年を超える文明的精神を有する国である」と述べたと報じられている。

他国もインドを戒められるのか
上記の社説は、インドの民主主義の後退に口をつぐむことを戒め、他の西側諸国も米国に倣いインドに問題を提起すべく強くあるべきことを求めている。しかし、米国だけにはできても、他の諸国にとっては困難こともある。

例えば、昨年、インド政府の関与が疑われるシーク教徒の活動家の暗殺に係わるカナダと米国での事件が明るみに出たが、インドの両事件に対する対応の顕著な違いは、(両事件は性格を同じくはしないが)このことを想像させるに十分である。インドは、カナダの告発は馬鹿げているとしてカナダには激越な反撃に出た。

他の西側諸国はインドの地政学的な重要性を踏まえて個々のケースに慎重に対応せざるを得ないであろう。もっとも、米国とて、地政学的な観点は重視せざるを得まいが。

リチャード・ヴェルマ(国務副長官・元駐インド大使)は、2月20日、ニューデリーで講演したが、その中で「われわれはわれわれを結束させている共通の価値を遠く逸脱することは出来ないと知っている」「われわれの目標がもっぱら取引的なものとなるなら、60年代、70年代そして80年代の失われた時代に逆戻りするリスクを冒すことになる」と述べた。

正しくそういうことであろう。モディがなるべく早くこれに気付くことが望まれるが、その兆候はない。【5月10日 WEDGE】
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【実現していない農村部の経済底上げ 改めて農村支援策】
モディ首相のもとでインド経済は高い成長率を実現していますが、インドの問題点である農村部の所得倍増、都市部との格差是正はこれまで実現していません。

モディ首相・与党は、改めて農村支援策を打ち出しています。

****印モディ政権が農村支援策、1人当たり所得50%増 都市との格差是正****
インドのモディ首相が、農村部の1人当たり所得を50%引き上げる目標を立てた。同国では下院総選挙の投票が実施中で、モディ首相は3期目続投を目指している。

政府の文書によると、企業の投資対象に占める農業分野の割合を現在の15%から25%に増やし、小規模産業の強化を通じて非農業部門の雇用を拡大し内陸農村部の所得を引き上げる計画。

モディ氏が農業部門の改革と農村の生活水準向上を重視するのは、任期中に拡大した都市部との格差をこれ以上悪化させることなく高成長を維持するために不可欠だからだ。

モディ氏は1期目で2022年までに農家の所得倍増を実現する目標を掲げたが実現できなかった。21年には農業改革法案が農家の激しい抗議にあい廃案に追い込まれた。

米シンクタンク、カーネギー国際平和財団の南アジア政治・経済の専門家、ミラン・バイシュナブ氏は、国内総生産(GDP)における農業の比率は縮小しつつあるが、なお労働人口の40%以上を占めるとし、農業はモディ氏の経済運営の成果に影響すると指摘した。

モディ氏は、英国の植民地支配から独立してから100年となる2047年までの先進国入りを目指している。【5月8日 ロイター】
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【野党は若者失業率の高さを争点に その選挙結果への影響は?】
“病んだ”民主主義のもとで“圧勝”が予測される与党ですが、懸念材料としては若者の失業率の高さがあります。

****インド、若者失業率の高さが総選挙の結果にどう影響するか―独メディア****
2024年5月12日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、インドで行われている総選挙で若者の失業率の高さが結果に影響を与える可能性について報じた記事を掲載した。

記事は、インドではここ数年道路や橋を始めとする各種インフラ工事を積極的に進め、経済振興と雇用の創出を図っているものの「その努力はなおも明らかに不足している」とし、22年度(22年4月〜23年3月)の国内失業率がモディ政権発足前の13年度の4.9%から5.4%に上昇したと紹介。民間シンクタンクのデータによると、今年2月の失業率は8%にまで上昇したと伝えた。

また、政府のデータでは、技術レベルの低下や高い技術を必要とする作業の不足など種々の理由により22年度には15〜29歳の約16%が仕事に就いていないことが明らかになり、民間シンクタンクはこの数字が45.4%に上ると指摘していることも紹介。

毎年膨大な若者が労働力市場に入る一方で、これに見合う高収入な職位を提供できていないことがインド政府にとっては大きな課題になっているとし、モディ首相を始めとするインド政府首脳部は「人口ボーナス」を強調しているものの、専門家からは「十分な雇用機会を提供できなければ、人口ボーナスは人口負債に変わってしまう」と警告したことを伝えている。

(中略)有権者の間では失業問題が投票先を左右する大きな焦点の一つになっており、現地のシンクタンクが4月に実施した世論調査では62%が「以前より仕事が探しにくくなった」と答えるとともに、27%が今回の選挙で投票先を決定する大きな要素として「失業」を挙げたことが明らかになったとした。

記事は、与党のインド人民党が選挙活動において基本的に失業問題の議論を避ける一方で、最大野党は失業問題をその他の経済や社会問題とともに重点的に訴えているとし「有権者が誰の主張を受け入れたのか、与野党ともに選挙結果が発表される日を今や遅しと待っている」と伝えた。【5月13日 レコードチャイナ】
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若者失業率と併せて、インフレの進行も野党側は争点としています。
経済状況に対する強い不満がインド人民党にとって逆風になる可能性もありますが、モディ氏にはそうした不満を覆い尽くすほどの個人の人気があります。

貧しいお茶売りの少年が、国のトップまで上り詰める。インドが台頭する中でアメリカや日本、ヨーロッパの首脳と渡り合う・・・“インディアン・ドリーム”の象徴でしょう。
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インド  モディ政権下で進む富の集中 相続税のないインド モディ首相は導入否定

2024-04-30 23:11:54 | 南アジア(インド)

(ムンバイ中心部に広がるスラムと、その奥にそびえ立つ高層ビル。このコントラストが、歪な格差を象徴している(撮影/佐藤大介)【2020年11月2日 佐藤大介氏 現代ビジネス】)

【確かに貧困率は改善 しかし、依然として大きな格差が存在】
インドでは現在総選挙が行われており、モディ首相率いる与党・インド人民党の勝利が予想されています。
(今回の下院議員選挙は4月19日〜6月1日に7回に分けて投票があり、結果が判明する開票作業は6月4日に一斉に行われます。)

モディ首相が支持されている背景には、インドが達成した経済成長、国際社会での存在感の高まりなどがあげられています。

経済成長によりインド最大の問題である「貧困」が改善しているのは事実です。

****インドの貧困率は11%に低下、直近9年で大幅に改善****
インド政策委員会(NITI Aayog)は1月15日、「2005年度以降のインドにおける多次元貧困(注)」と題した報告書を公開し、2013年度に29.17%だった貧困率が、2022年度には11.28%と、直近9年間で大幅に改善したとの推計を発表した。

同報告書では、政府の貧困削減策により、その間に約2億4,820万人が多次元貧困から救われたとされている。とりわけ、ウッタル・プラデシュ(UP)州では5,940万人、ビハール州で3,770万人、マディヤ・プラデシュ(MP)州で2,300万人、ラジャスタン州では1,870万人が多次元貧困を脱した。政府は、全国的に行った無料の食料配布プログラムなどが功を奏したとみている。

インドは、国連の定める「持続可能な開発目標(SDGs)」のうち、多次元貧困に関する目標については、達成期限である2030年より大幅に前倒しで達成する見通しだ。

他方で、州ごとによる貧富の格差は大きい。インド準備銀行(RBI)が公表する2022年度の1人当たりGDP(実質)のデータによれば、首都ニューデリーのあるデリー準州が27万1,019ルピー(約48万円、1ルピー=約1.8円)であるのに対し、UP州は4万7,066ルピー、ビハール州で3万1,280ルピー、MP州で6万5,023ルピー、ラジャスタン州は8万6,134ルピーと、場所によっては9倍程度の差がある。

また、過去10年間の推移をみても、その差はわずかながらも拡大傾向にある。貧困率の低下だけでなく、今後、どのように格差拡大を是正していけるかが課題となる。

(注)多次元貧困とは、単なる金銭的な欠如だけでなく、健康や教育など、人々が経験しうるさまざまな形態の貧困のこと。【1月22日 JETRO】
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****インドの貧困の理由は?現状・解決に向けた取り組み、私たちにできることを紹介****
(中略)
インドの貧困問題
「そんなに経済が発展しているのに、貧困問題があるの?」と不思議に思う人もいるでしょう。しかし、インドはあまりに多様で、格差の大きい社会なのです。

まず貧困の定義について世界銀行は以下のように定めています。
「国際貧困ライン」 1日1.90ドル(約200円)以下で暮らす人々を「貧困層」として設定。

世界銀行によると、世界の貧困率は1990年には36%だったのに対して、2015年には10%まで減少しました。(中略) では、インドの貧困状況はどのようになっているのか、見ていきましょう。

高い貧困率と地域差
外務省の調査によると、1973年にはインドの貧困率は54.9%を占め、実に国民の半分以上が貧困層に属していました。

しかし高い貧困率は年々改善を続け、国連開発計画(UNDP)の調査によると、2005-06年から2019-21年の15年間で、4億1,500万人もの人々が貧困から抜け出したと言われています。特に、栄養や衛生、調理用燃料、資産の分野で大幅な改善を達成しました。

しかし、貧困の発生率は都市部と農村部で大きな開きがあります。インド全体の貧困率は2015-16年では36.6%でしたが、2019-21年には農村部で21.2%に、都市部では9.0%~5.5%になったと報告されています。

2015年の世界の貧困率が10%だったのに対して、インドの都市部の貧困は、世界水準と同程度あるいは下回るほどに改善していることがわかるでしょう。

しかし農村部での貧困率は依然として高く、農村地域が貧困層の90%近くを占めているという調査もあり、インドにおける貧困問題は地域差が大きいことがわかります。

徐々に貧困を改善してきたインドですが、新型コロナウイルスの影響によって貧困の状況が後退してしまうのではないかとも推測されています。事実、経済封鎖により少なくとも4億人以上の人が失業したとも言われており、今後の動向に注意が必要です。

インドの貧困問題の原因
近年、改善してきたとはいえ、インドではまだまだ多くの人が貧困に苦しんでいる状況です。では、インドの貧困の原因とは一体なんでしょうか。

ここからは、インドの貧困の特徴と言える「格差社会」と「カースト制度」について見ていきましょう。

格差社会
インドは日本をはるかにしのぐ「格差社会」と言われています。以下は、2000年から2020年までの、インドにおける所得別人口の推移を表しています。

低所得層は、2000~2020年の間に95.6%から66.4%まで減少。逆に中間層は、同期間で4.1%から32.8%にまで増加しました。インドでは経済発展も目覚ましく、今後はこの中間層がますます増えることが予測されています。

しかし依然として格差が大きいことに変わりはなく、インドでは富の85%は人口の10%が所有しているとも言われるほどです。

さらに、地域間格差もあります。インドでは以前より北部や東部、北東部の貧困率が高く、特に北東部では改善が遅れています。2004年から2011年の州別貧困率を見ると、東部のオディシャ州は57.2%から32.6%に、北部のビハール州は54.4%から33.7%に改善しました。

しかし、依然として貧困率が30%を超える州は多く、中でも北東部のアルナチャル・プラデシュ州やアッサム州では貧困率が30%台のまま大きな変動が見られません。インド政府はこの北東部に位置する7州すべてを、財政上の優遇措置が受けられる特別カテゴリー州に分類していますが、目立った効果は見られていないのが現状です。

他にも、保健医療格差やジェンダー格差、世代間格差、情報の格差、民族による格差、環境格差などインドには多くの格差が存在しています。(後略)【2023年12月18日 Spaceship Earth】
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【モディ政権下で富の集中が進行 大半の国民はぎりぎりの生活】
上記両記事も指摘するように、「絶体的貧困」の残存と併せて、「格差」の問題が存在します。

****富裕層がインドの富の40%所有-モディ政権下で格差急拡大****
インドではモディ首相就任後の10年間に貧富の差が急激に拡大し、上位1%の富裕層が国の富の40%を所有するようになったことが、新たな調査で分かった。

格差問題の著名専門家トマ・ピケティ氏を含むエコノミストの研究によると、上位1%に相当する約920万人が総所得の22.6%を稼いでおり、1920年代にさかのぼるデータでは最高のシェア。

また、上位1%は、世界第5位の経済大国であるインドの富の40%以上を所有している。エコノミストらは主に中産階級の犠牲の上に成り立っている成長だと述べた。

エコノミストらはインドの現代のブルジョアジー主導の「ビリオネアによる支配」が、英国によるインド植民地支配時代よりも不平等になっていると指摘。貧富の差がさらに拡大すればインドの社会不安をあおりかねないと警告した。

1990年代初頭のインド経済の自由化以降、貧富の差は拡大したが、「2014-15年から22-23年にかけて」富の集中という点で上位層の台頭が特に顕著になったと研究者らは分析した。

この時期はモディ首相が政権を握り、ムケシュ・アンバニ氏やゴータム・アダニ氏に代表されるインドの富豪層が成長した時期と重なる。インドの野党は長い間、モディ政権が「縁故資本主義」で、政府との契約で特定の企業を優遇していると批判している。【3月22日 Bloomberg】
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富の集中度はブラジルや米国を上回っていることも報告されています。

こうした格差の存在は貧困層へ教育機会が提供されていないことで、一定の人々は低賃金労働から抜け出せず、貧困と格差の再生産にもつながります。

****高成長のインド経済、モディ氏の成果と格差の現実****
(中略)
<大半の国民はぎりぎりの生活>
(中略)リライアンス・インダストリーズ(RELI.NS), opens new tabを経営するインド随一の大富豪、ムケシュ・アンバニ氏は最近、息子のために豪華絢爛な婚前祝賀会を開いてニュースの見出しを飾った。

しかし、アンバニ氏とやはり大富豪のゴータム・アダニ氏は、再生可能エネルギープロジェクトにも数十億ドルを投じている。閣僚や企業は大量の外国直接投資が押し寄せると予想しているが、年間の流入額は縮小しつつある。セクターごとの成長率もまだら模様だ。

HSBCの首席インドエコノミスト、プランジュル・バーンダリ氏によると、ハイテク製造業、ITサービス、スタートアップ企業で構成される「ニュー・インディア」経済で働く人々は労働人口の5%に過ぎないが、GDPの15%を担う存在だ。

零細企業や農業など残りの経済分野は遅れを取っている。農村部や出稼ぎ労働者にも多少は経済成長の「おこぼれ」が届いているとはいえ、年率6.5%程度の持続的な成長を達成するには、こうした「オールド・インディア」経済を押し上げる必要がある、とバーンダリ氏は言う。

インドの富裕層は高価なダイソンの空気清浄器を買い、モルジブで休暇を過ごしている。ところが、GDPの約60%を占める個人消費全体で見ると、今年は3%と過去20年間で最も低い伸びにとどまる見通しだ。

家計貯蓄(ネットベース)は過去50年間で最低となっている。国民のうち8億人ほどは今後さらに5年間、政府の穀物配給を受ける条件を満たすほど貧しい。つまり大半の国民は経済の繁栄をおう歌するどころか、生き延びるのが精いっぱいということだ。

実際、人口が増えると同時に就職難も高じている一方、現在の賃金水準に甘んじて働きたいという意欲も低下。労働市場における生産年齢人口の割合は55%と、2000年の61%から下がった。(後略)【4月13日 ロイター】
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【相続税がないインド 議論は昔からあるもののモディ首相は導入否定】
格差是正に効果がある税制として相続税がありますが、インドには相続税がありません。(インドの他、イタリア、中国、タイ、マレーシア、インドネシアなども相続税はありません)

相続税導入の議論はされています。下記は約10年前の記事です。

****28年ぶり復活か インドが模索する相続税の再導入****
貧富の格差が大きいインドで、相続税の復活論議がにわかに熱を帯びてきた。28年前の撤廃以来、相続税のない税体系は所得格差を広げたとされ、その復活は社会問題の是正へ一石を投じるはず。

だが支持派も反対派も社会的意義はそっちのけで賛否を戦わせ、政府側はほとんど口をつぐんだままだ。一体、何が起きているのか。(後略)【2013年1月19日 日経】
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そして今回選挙でも・・・

****モディ印首相、相続税の導入懸念を払拭 「貧困解消せず」****
インドのモディ首相は29日に掲載されたタイムズ・オブ・インディアとのインタビューで、相続税は格差問題の解決にはならず、これまで「一度も貧困を解消したことはない」と指摘した。総選挙でモディ氏が再選を果たせば相続税が導入されるとの懸念を払拭した。

相続税と富裕層税は総選挙で争点となっている。モディ氏率いるインド人民党(BJP)と最大野党の国民会議派は、互いにそうした税制を支持していると非難し合っている。

モディ氏は、相続税などは「解決策に見せかけた危険な問題だ」とし、これまで成功したことは一度もなく、「誰もが等しく貧しくなるように」富を分配してきただけだと指摘。「不和を生み出し、平等へのあらゆる道を閉ざし、憎悪を生み、国の経済・社会的構造を不安定にする」と述べた。【4月30 ロイター】
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議論はあるものの、インド人民党・国民会議派ともに導入には反対とのことのようです。
経済活動を牽引する富裕層の経済インセンティブを阻害し、成長の足かせになる・・・との判断でしょうか? あるいは支持者・お友達の大富豪のご機嫌を損ねるということでしょうか?

インドのように格差是正が重要課題となっているはずの国にあっては不思議な状況です。
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インド  4月~6月に総選挙 与党BJP勝利でモディ首相は3期目に・・・との予測 野党有力者逮捕

2024-03-22 23:04:51 | 南アジア(インド)

(インド北東部アッサム州グワハティで支持者に手を振るモディ首相=2024年2月【3月9日 共同】)

【有権者9億7800万人の総選挙 モディ首相与党勝利の予想】
インドでは有権者9億7800万人を対象とした総選挙が4月にスタートします。
地域ごとに7回に分けて投票が行われ、6月4日に一斉開票するという仕組みです。

2014年の総選挙で勝利して首相の座についたモディ首相は、2019年5月の総選挙でも勝利しており、今回が3期目をかけた総選挙となりますが、事前の予測では今回も勝利が予想されています。

****インド総選挙4月19日から、モディ氏3期目狙う 6月4日一斉開票****
インドの選挙管理委員会は16日、下院(定数545)総選挙を4月19日から6月1日にかけ、7回に分けて実施すると発表した。同月4日に一斉開票する。

モディ首相は3期目に向けて再選を目指す。世論調査によると、同氏が率いる与党インド人民党(BJP)が優勢となっている。

モディ氏は「民主主義の最大の祭典」が始まったと述べ、BJPは「統治や公共サービス」の実績を基に選挙戦を展開すると語った。

BJPは、前回2019年の選挙で獲得した303議席を上回る370議席を目指す。

モディ氏は連日各地を訪れ、新規プロジェクトを発足させたり宗教行事に参加したりしている。演説では、急成長する国内経済やインフラ・福祉プログラムへの投資を強調している。

一方、野党側は苦戦を強いられている。最大野党の国民会議派を中心とする野党連合「インド国家開発包括同盟(INDIA)」が昨年発足したが、結束が揺らいでいる。

国民会議派は19年の選挙でBJPに大敗、野党に転落してから支持率の低迷が続いている。
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モディ首相率いる与党インド人民党(BJP)は、総選挙の前哨戦と見られていた昨年11月の州議選でも勝利しています。

****インド与党、州議選で勝利 総選挙の前哨戦 モディ政権3期目に弾み****
来春の総選挙の「前哨戦」と位置付けられるインド4州の議会選挙が3日開票された。地元メディアによると、モディ首相の与党・インド人民党(BJP)が、3州で野党・国民会議派などを破って単独過半数を獲得する見通しとなった。総選挙で3期目を目指すモディ政権にとって大きな弾みとなった。

4州の選挙は11月7〜30日に投票された。BJPは、中部マディヤプラデシュ▽西部ラジャスタン▽中部チャッティスガル――の3州で勝利を宣言した。一方、野党・国民会議派は南部テランガナ州で地域政党を抑えて勝利したものの、2州で政権を失い、総選挙に向けて態勢の立て直しを迫られる形になった。

BJP勝利の背景には、7割超の支持率を誇るモディ氏の人気があるとみられる。モディ氏は3日、X(ツイッター)に3州の勝利について「BJPの良い統治と発展を国民が支持していることを示している」と投稿して自信を見せた。

国民会議派はインドの身分制度「カースト」ごとの人口調査の実施を公約に掲げてきた。下位カーストの人口を把握し、就労や教育で優遇措置を受けられる人を増やす狙いがある。ヒンズー至上主義団体を支持母体とし、カーストを超えたヒンズー教徒の結束を重視するBJPとの差別化を図る戦略だが、支持は広がらなかった。

国民会議派を中心とする野党は「インド全国開発包括連合(略称・INDIA)」として総選挙でBJPに対抗する構えだが、ニューデリーのシンクタンク「政策研究センター」フェローのラフル・ベルマ氏は「現時点ではBJPが最多議席を維持するのは間違いないだろう」と予測した。【23年12月4日 毎日】
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【モディ首相人気 BJPは女性にも浸透】
ヒンズー至上主義の与党BJPの有利な選挙戦を牽引するのはモディ首相人気。
インド経済の国内総生産(GDP)は22年にかつての宗主国イギリスを抜き、世界5位に浮上。数年後には日本やドイツも抜いて世界3位になると予測されています。

外交面でも昨年9月G20サミット議長として取り仕切り、対立する欧米とロシア双方の仲介役として、全会一致の首脳宣言を取りまとめたことなど、グローバルサウスのリーダーとしての存在感を強めています。

そうした内政・外交の成果を背景に、「極度の貧困の減少や家庭内水道水の設置の推進など、すべての国民が恩恵を受けてきた」(BJP副代表のジャイ・パンダ氏)とも。

従来はBJPはヒンズー至上主義の家父長的なイメージが強かったのに対し、野党国民会議派は女性首相インデラ・ガンジー氏を擁し、女性の間では国民会議派が人気があった・・・とのことですが、モディ首相人気で、そのあたりの事情も変わったようです。

****印モディ政権に女性の支持増加、日常生活直結の取り組みで****
夫を亡くした母親と2人の娘とともにインド中部のスラムで生活するナヤンタラ・グプタさん(28)。ここ数年、暮らしぶりが改善しているのはナレンドラ・モディ首相と与党インド人民党(BJP)のおかげだと話す。

シングルマザーのグプタさんは、過去2回の総選挙でBJPに投票し、5月に予定されている総選挙でも投票先を変えないつもりだ。現金給付や、一家が暮らす狭苦しい家でも上水道や安定した電力、調理用のガスを利用可能にするといった家事面での改善など、BJPが女性の福祉を重視していることを理由に挙げる。

マディヤプラデシュ州の州都ボパールで取材に応じたグプタさんは、「(モディ首相は)私たちのために多くの変化をもたらした」と語る。ロイターでは近く実施される総選挙について、マディヤプラデシュ州とハリヤナ州でグプタさんなど51人の女性に話を聞いた。

グプタさんは例外ではない。モディ政権が、世界で最多の人口を抱えるインドの全家庭に電力と上下水道を整備するというキャンペーンを進めた結果、BJPに票を投じる女性は増える一方だ。

伝統的にインドの女性は、主要野党である国民会議派を支持する傾向があった。理由の一端は、女性にとってのロールモデルが乏しいこの国で、最初の女性首相となったインディラ・ガンジー氏が同党の出身だったからだ。

一方のBJPはヒンズー教至上主義を掲げる男性限定の組織を母体としており、父権主義的なイメージもあって、なかなか女性の支持を得られずにいた。

だが、モディ首相が就任以来10年でこの状況を変えた。BJPにとっては女性からの支持の増加が新たな安心材料となり、選挙では同党の圧勝を予想する声が強いが、農村部の経済不振、農家による抗議行動、高い失業率やインフレといった問題による失望にも直面している。(後略)【3月3日 ロイター】
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【好調とされる経済 総選挙を意識した“怪しさ”もあって、実態は「足踏み」状態に近いとも】
モディ首相人気を支えるのがインド経済の好調さで、インド準備銀行(中央銀行)のダス総裁は3月6日のテレビインタビューで、2024年度(3月31日まで)の国内総生産(GDP)伸び率は8%に「極めて近い」水準になるとの見通しを示しています。

ただし、こうした経済に関する数字は選挙対策でかなり粉飾されているとの見方も。

****インド、総選挙を前にいよいよ統計が怪しくなってきたか****
~前年比という「トリック」に加え、供給サイドと需要サイドの動きが乖離する奇妙な動きも露呈~

(中略)インドのGDPは向こう数年で世界第3位になる見通しであるなど期待は高まっている。ただし、製造業比率は依然低い上、対外開放度合いも乏しいなど様々な課題を抱える状況は変わらない。

インドのGDP統計を巡っては「ブラックボックス」が少なくないが、政府は昨年10-12月の実質GDP成長率は前年比+8.5%と加速したとしている。しかし、そのうち+3.5pt程度は不突合で説明可能であるなど内訳を巡る不透明感が残る。

また、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースでは+3%程度に留まるなど勢いは乏しく、内・外需ともに下振れする動きが確認されるなど実態との乖離は極めて大きい。

他方、比較的基礎統計が整備されている供給サイドの統計である実質GVA成長率は前年比+6.5%とGDPと対照的に伸びが鈍化しており、前期比年率ベースでもほぼゼロ成長となっている。

よって、足下の景気は「足踏み」状態が続いているとみた方が実態に近い可能性がある。ただし、政府は総選挙を前にあくまで足下の景気は加速が続いていると強弁すると見込まれ、国民との間で乖離が進む可能性は高い。

(中略)インドでは他の新興国同様に選挙という民主制度を通じて強権政治が構築される流れがみられるなか、今後はそうした国が世界で存在感を高めることの意味を考える必要がある。【3月1日 西濵 徹氏 第一生命経済研究所】
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また、富の格差の問題も。

****インド上位1%への富の集中が過去60年で最高、ブラジルや米国上回る****
3月20日、インドでは2023年末時点で、最上位1%の超富裕層が保有する資産が同国全体の富に占める比率が40.1%と1961年以降で最も高くなり、富の集中度はブラジルや米国を上回っていることが、世界不平等研究所の調査報告書で分かった。(後略)【3月21日 ロイター】
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【農家の抗議行動 阻止する当局 頻回のネット遮断も】
農村部の経済状態はよくないようです。
欧州各国でも農家の反乱が起きていますが、インドでも。総選挙を控えて、抗議行動を起こす農家、これを封じ込めようとする当局の攻防戦も。

****インドで総選挙控えネット遮断頻発、農家などのデモ抑圧****
警棒で殴られ、催涙ガスを浴びせられ、コンクリート製の障害物や有刺鉄線で足止めされつつ、農作物価格の引き上げを求める何千人ものインド人農民らは首都に向けて行進を続けている。だが、目に見えない障害も待ち構える。「デジタル・ブラックアウト(停電)」、つまりネット接続の遮断だ。

2月、トラクターとトラックを連ねて北部パンジャブ州から首都ニューデリーに向かっていた農民らは、携帯電話が使えなくなっていることに気づいた。州当局による一時的なインターネット遮断が原因だった。

これが初めてではない。2022年、ネット遮断の回数が世界で最も多かったのはインドだ。抗議デモの主催者は、5月に予定される総選挙を前にデジタル領域での弾圧が増えることを警戒している。

農業協同組合の指導者らが求めているのは、州からの補助金や農作物の最低買取価格に関する、法的な裏付けのある保障だ。

2月上旬、「デリー・チャロ」(デリーに行こう)と銘打った抗議行動に参加した農民らは、首都から北に約200キロメートルの地点で治安部隊に制止された。抗議参加者を押し返すため放水銃や催涙ガスが使われた。

抗議参加者は現在、パンジャブ州とハリヤナ州の州境にあるシャンブーバリア周辺で野営している。

2月12日以来、ハリヤナ州当局は数日間ずつ、定期的にモバイル接続を遮断してきた。地元メディアによれば「デマと噂の拡散を防ぎ」、「扇動者、デモ参加者の集団」が膨れあがるのを防ぐのが目的だという。

この農民らは宗教的マイノリティーであるシーク教徒のパンジャブ州出身者が多く、ネット遮断により負傷者の治療や食料の調達が難しくなったと話す。抗議活動の指導者との連絡が途絶え、活動の調整も難しくなっている。

「コミュニケーション手段を奪えば、かえって噂が拡散し、私たちの家族を悩ませるだけだ」と語るのは、28歳のハーディープ・シンさんだ。先日の警官隊との衝突で片方の目を負傷し、回復を待っている。

「ただでさえ家から遠く離れている。通信手段を奪われれば、ますます悲惨な状態になる」とシンさんは言う。

ハリヤナ州首相府と同州電気通信省にコメントを求めたが、いずれも回答は得られなかった。

抗議主催者は、モディ首相率いるヒンズー至上主義を掲げるインド人民党(BJP)政権が、抗議を圧殺するためにネット遮断の措置を繰り返してきたと批判する。

「ネット検閲の広がりと合わせて、ネット遮断という憂慮すべき傾向は、デジタル独裁主義を色濃く反映しており、選挙が近づく中でそれがますます顕著になっている」と語るのは、デジタル人権擁護団体「インターネット・フリーダム・ファウンデーション」のガヤトリ・マルホトラ氏だ。

同氏はトムソン・ロイター財団の取材に対し「こうした流れが続けば、人々の情報へのアクセスは著しく阻害され、選挙においても情報に基づいて判断することが難しくなる。集会・結社の自由、有権者としての要求を平和的に伝える自由も制限されてしまう」と語った。【3月9日 ロイター】
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【野党連合参加の有力者、首都圏政府トップのケジリワル首相が汚職容疑で逮捕】
野党勢力の動向に目を転じると、BJP対抗策として国民会議派を中心に結成した「インド全国開発包括連合(略称・INDIA)」については以下のように“数字の上では”BJPに匹敵する規模とはなっていますが、なにぶん26もの政党の“寄せ集め”でもあって、候補者調整や選挙協力など、実際にどれだけ機能するかは不透明で、BJP有利の状況は動きません。

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今回野党連合に加わった政党が政権を担っている州はインド28州のうち計11州を数える。これはBJPとその友党の15州に迫る数字だ。2019年の前回総選挙の得票率ではBJPの37%に対し国民会議派は20%と水を開けられたが、両党以外の地域政党などの得票率合計は43%に達していた。

有力誌「インディア・トゥデイ」の世論調査「ムード・オブ・ザ・ネーション(MOTN)」(23年1月実施)結果によると、BJPと「国民会議派以外の政党」の支持率は39%で拮抗している。この「その他」政党の多くが今回野党連合に加わっているため、小選挙区制独特の共倒れによる「死票」を最小限に抑えれば、計算上野党は議席を大幅に増やすことができる。【23年8月3日 新潮社Foresight】
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野党勢力の中心は、ネール、インデラ・ガンジー元首相など歴代首相を輩出した名門ガンジー家が率いる国民会議派ですが、近年は退潮著しく、ガンジー家以外から総裁を出して立て直しを図ってはいますが、新総裁も結局はガンジー家の代弁者にすぎないとも言われています。

その「インド全国開発包括連合(略称・INDIA)」にも参加している有力者、首都圏政府トップのケジリワル首相(55)が汚職容疑で逮捕される事態も。ケジリワル氏はデリー首都圏や北部パンジャブ州で強い勢力を持つ庶民党を率いています。

****「民主主義に死をもたらす」 インド最大野党 モディ首相を批判 有力野党指導者逮捕に****
インド捜査当局は21日、汚職事件に関与したとして、デリー首都圏政府のケジリワル首相を逮捕した。ケジリワル氏は野党連合の一角である庶民党を率い、モディ首相や与党インド人民党(BJP)批判の急先鋒(せんぽう)となっていた。インドでは4〜6月に総選挙を控えており、野党からはモディ政権による弾圧との批判が上がっている。

地元メディアによると、ケジリワル氏は酒類販売の規制緩和を巡って、何らかの汚職に関与したとされる。捜査当局は事前にケジリワル氏の聴取を試みたが、同氏は「政治的な動機に基づいている」などとして拒否していた。

ケジリワル氏は反汚職運動の活動家として知名度を高め、2013年にデリー首都圏政府の首相に就任し、現在3期目。モディ政権に批判的な政治家として知られている。庶民党は首都ニューデリーを中心に北部パンジャブ州などで支持を広げている。

総選挙を巡っては、BJPの優勢が既に伝えられている。このタイミングでのケジリワル氏拘束は、与党勝利を盤石にしたいモディ政権の意向が反映されている可能性がある。

最大野党、国民会議派の実質的リーダーであるラフル・ガンジー氏は「独裁者が民主主義に死をもたらそうとしている」とモディ氏を批判した。(後略)【3月22日 産経】
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ラフル・ガンジー元国民会議派総裁は過去の納税を巡って税務当局から調査を受けて銀行口座が閉鎖されており、選挙活動が出来ないとも主張しています。

【イスラム教徒差別的な市民権改正法を施行】
モディ首相・BJPのヒンズー至上主義の側面はこれまでも再三取り上げてきましたが、総選挙直前になって、イスラム教徒を差別するような市民権改正法も施行しています。

****モディ政権が総選挙控え市民権改正法を施行、イスラム教徒は反発****
インドでヒンズー教至上主義を掲げる与党・人民党(BJP)のモディ政権は11日、市民権改正法(CAA)の施行を発表した。

インド政府は施行の意義として、イスラム教徒が多数派のアフガニスタンやパキスタンなどで迫害を受けてインドに逃れた人たちにとって「市民権を獲得する道」(首相官邸)と強調。インド以外に避難場所がない人が適用対象になると説明している。

ただ、市民権が認められるのはヒンドゥー教徒とパーリ教徒、シーク教徒、仏教徒、ジャイナ教徒、キリスト教徒で、イスラム教徒は含まれないため、国内のイスラム教徒を差別する法律だとして改めて批判が吹き出した。一部の国境州では政府が書類なしにイスラム教徒の市民権を剥奪するのではないかとの懸念も出ている。

モディ政権は以前も施行を試みたものの、ニューデリーなど各地で抗議活動や宗派間衝突が発生。これを受け、モディ政権は2019年12月の同法制定後も同法を施行しなかった。

今回の施行決定に最大野党の国民会議派も猛反発している。総選挙が5月までに実施されることから「選挙直前というタイミング(の同法施行)は明らかに選挙の二極化が狙い。特に西ベンガル州とアッサム州だ」と述べた。

西ベンガル州とアッサム州にはイスラム教徒が多く住む。隣国バングラデシュからの不法移民と認定されてインド国籍を剥奪されるのに悪用されると懸念も広がり、抗議活動が起きている。

ケララ州で多数派のインド共産党は12日、同法は国民を分断するなどとして州全体での抗議活動を呼びかけた。【3月12日 ロイター】
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農業問題、強権支配的な色彩、ヒンズー至上主義などモディ政権の問題は少なくありませんが、このまま行くと総選挙で勝利し、世界最大の民主主義国の強いリーダーを誇示する形で3期目に入ることになります。
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インド外交  中国の海洋進出を牽制 中東・イスラエルへの関与も深める

2024-02-26 23:07:10 | 南アジア(インド)

(中国の海洋調査船「フォンズオンホン3号」【1月22日 VIETNAM.VN】)

【インドと距離を置き、中国に接近するモルディブ】
モディ首相によるインド外交については、昨年の議長国を務めたG20を契機に、その積極展開・存在感の高まりが注目されました。

いわゆるグローバルサウスのリーダーを目指すモディ首相ですが、ただ、パキスタン・中国との国境での紛争に加え、従来インド圏とされてきた周辺国(ネパール、モルディブ、スリランカ、ブータン)での中国の影響力増大に直面もしています。

23年11月4日ブログでも取り上げたインド洋の島国モルディブでは、インドと距離を置く親中国路線のムイズ大統領のもとで、中国との関係強化が進んでいます。

****モルディブと中国、首脳会談で両国関係格上げに合意****
モルディブのムイズ大統領は10日、中国の北京で習近平国家主席を会談し、両国の関係を「包括的戦略協力パートナーシップ」に格上げすることで合意した。

昨年11月に就任したムイズ氏は、大統領選の時点から反インドを掲げ、中国に接近する姿勢を打ち出していた。同氏によると、インドはモルディブの主権に重大な脅威を与える存在だという。

中国の国営メディアの報道では、習氏はムイズ氏に対して「中国とモルディブの関係は過去から未来へと時間を進める歴史的な機会に直面している」と伝えた。今回の関係強化を通じて中国はモルディブへの投資を拡大し、インド洋においての影響力を強める構えだ。

一方、モルディブ大統領府は会談後の声明で「ムイズ氏はモルディブ経済の成功とインフラ整備において中国が重要な役割を果たすことへの感謝を表明した」と述べ、両国間では20項目の重要な合意が締結されたと付け加えた。

世界銀行のデータに基づくと、モルディブは中国から13億7000万ドルを借り入れている。これは同国の公的債務の約20%を占め、借り入れ規模はサウジアラビアからの1億2400万ドルやインドの1億2300万ドルを大幅に上回って、二国間として最も大きい。【1月11日 ロイター】
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インドは、モルディブに提供した軍事機器関連と人道支援のためとして同国に80人余りの部隊を駐留させていましたが、ムイズ大統領はこのインド軍の3月15日までの撤退を求め、インド側も止む無くこれに合意しています。

****モルディブに駐留のインド軍、5月までに撤退 インドへの依存低減へ****
インド洋の島国モルディブの外務省は2日、同国に駐留するインド軍の撤退を3月10日に開始し、5月10日までに完了させることでインド側と合意したと発表した。昨年11月に就任した親中国のムイズ大統領は、インドへの依存の低減を掲げている。

インドはモルディブの海洋地域を巡回するための航空機1機とヘリコプター2機を提供し、軍関係者を駐留させてきた。医療体制が脆弱なモルディブでは、インド機が救急対応にも用いられている。一方のインド側は2日、機体の活用を続けると発表し、撤退期限には言及しなかった。

ムイズ氏は1月に中国を訪問して習近平国家主席と会談し、両国関係を格上げすることで一致。伝統的に親インドだった外交政策を転換した。【2月3日 産経】
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2月初旬には中国の海洋調査船がモルディブの首都マレの港に寄港するとの情報があり、インド側は懸念を示していました。

インドメディアは中国の調査船「フォンズオンホン3号」を「中国のスパイ船」と記し、「船の活動は、インド洋地域における将来の軍事作戦のためだと疑われている」と報じていました。この海洋調査船がその後どうなったのかは、メディア報道がなく知りません。(下記【毎日】記事の書き方を見ると、まだ寄港していないのか・・・)

【インド海軍 アラビア海やアデン湾、東シナ海で中国けん制の活動】
一方、中国の海洋進出を牽制したいインドにとって好機ともなっているのがイエメン・フーシ派の紅海での商船攻撃。

インドは陸軍国のイメージで、海軍のイメージはあまりありませんが、中国の海洋進出に対抗して22年9月には国産空母を就役させるなど海軍力も強化しています。

****インド海軍、戦艦派遣しフーシ派対策に注力 中国けん制の狙いも****
インドがアラビア海やアデン湾に海軍の戦艦10隻以上を展開し、イエメンの親イラン武装組織フーシ派の攻撃を受けた商船の救援活動に力を入れている。自国の経済活動に欠かせない海上交通路(シーレーン)を守るだけでなく、インド周辺でも海洋進出を強める中国をけん制する狙いがある。

フーシ派は反イスラエルを掲げて商船への攻撃を続け、過去3カ月間で既に40隻超が標的になっている。

インド海軍は1月26日夜、アデン湾でフーシ派の対艦ミサイルに攻撃されて炎上したマーシャル諸島船籍の石油輸送船から救援要請を受けた。インド海軍報道官のX(ツイッター)によると、戦艦の海兵らが炎上した船の乗組員とともに6時間にわたって消火作業に従事。22人のインド人と1人のバングラデシュ人の乗組員が乗船しており、船長が「素晴らしい仕事をしてくれた」とたたえる動画も公開された。

インド海軍は、米国が主導する商船護衛の多国籍部隊には加わっていない。それでも現地にミサイル駆逐艦などを派遣し、1月には米企業所有の商船を救助したほか、ソマリア沖で海賊に乗っ取られた貨物船や漁船3隻も助けた。インド海軍は2008年からソマリア沖の海賊対策目的でアデン湾に戦艦を派遣してきたが、今回は過去最大規模の展開とみられている。

インドが海上での活動に注力する背景にあるのが中国の存在だ。中国は南アジア諸国の沿岸部で港湾の開発などを通じて影響力を強めている。

スリランカは南部ハンバントタ港の整備のために中国から借りた多額の融資が返済できなくなり、港の運営権を99年間にわたり中国主導の合弁企業に渡した。こういった進出には「債務のわな」との批判も出ている。

22年8月には、人工衛星や大陸間弾道ミサイルの追跡が可能ともされる中国の調査船がハンバントタに入港した。さらにモルディブでは昨年11月に親中派の大統領が就任し、中国の調査船の寄港を認める方針を示している。インド政府は調査船の活動が自国の安全保障を脅かしかねないと警戒しており、インドメディアも「スパイ船」と呼んで批判している。

歴史的にインドは近隣と国境紛争を抱えていることもあり、安全保障では陸の防衛を重視してきた。ただ近年は海軍力を強化しており、インド海軍は22年9月に初めての国産空母「ビクラント」を就役させた。

今年2月にはインド洋の偵察や情報収集のために国産の中高度長時間耐久型無人機(UAV)を導入している。さらに日米豪印の海上共同訓練「マラバール」など、対中国を念頭に置いた連携も強化している。

元インド海軍中将のシェーカル・シナ氏は「水路の安全はエネルギー安全保障と直結する重要な問題だ」とアラビア海などでの活動の意義を強調する。さらに「かつてはインドと中国の関係は良好だったが、現在はより敵対的になっている。インドの政策決定者も、海軍により充実した装備が必要だとの認識を強めていくのでないか」と述べ、海軍力強化の方針は今後も続くとみている。【2月26日 毎日】
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インドは南シナ海でも、東南アジア諸国との合同演習に初めて軍艦を派遣するなど関与を強めています。

****インドが南シナ海への関与拡大 “中国への対抗”で周辺国と利害一致 アメリカによる働きかけも****
南シナ海の領有権をめぐる中国と周辺国の対立が深まるなか、インド政府がフィリピン沿岸警備隊にヘリコプター7機を供与する方向で協議していることが明らかになりました。

フィリピン政府はインド政府から海上警備用のヘリコプター7機の供与を提案され、両政府間で協議が進んでいると発表しました。これはフィリピンが南シナ海で領有権を争う中国をにらんだ支援とみられ、現地メディアによると、マルコス大統領は「沿岸警備隊の海洋活動に大きく貢献するだろう」との期待感を示したということです。

インドは近年、中国と対立するフィリピンやベトナムとの間で防衛協力を進めているほか、今年は東南アジア諸国との合同演習に初めて軍艦を派遣するなど、南シナ海への関与を強めています。

背景にはインドが、国境地域の領有権をめぐって対立する中国をけん制するとともに、インド洋につながる海上交通路の戦略的利益を確保する狙いがあるとみられます。

また、アメリカメディアは対中包囲網を強化したいアメリカが、日米豪印の4か国の枠組み=「クアッド」を通じてインド側に関与を働きかけているとの見方を伝えています。【23年11月11日 TBS NEWS DIG)】
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【中東、イスラエルと接近する中東外交も】
モディ首相はインド周辺における中国牽制にとどまらず、中東のカタールやイスラエルとの関係も強化して、インド外交の幅を広げつつあります。

****「インド製ドローン」がラファを急襲!?イスラエルに急接近するモディ中東外交****
<ハマス最後の拠点「ラファ」への攻撃に、イスラエル軍がインド製のドローンを投入か。インド政府はイスラエルとの連帯を表明しつつ、パレスチナ国家の建設を支持する>

2月上旬、イスラエル軍がガザ地区南部の都市ラファへの攻撃を開始しようとしていた頃、インドのメディアであるニュースが報じられた。 イスラエル軍がインド製のドローン(無人機)を監視と空爆のため投入するとのことだった。

近年、インドのモディ首相はイスラエルへの接近を強めてきた。
昨年10月7日にパレスチナのイスラム組織ハマスがイスラエルを奇襲攻撃した直後には、米政府などに先立って、世界の指導者の中でいち早く、「イスラエルとの連帯」を表明している。

しかしその一方で、インド政府は、イスラエルのパレスチナに対する軍事行動に関しては中立の立場を貫いていて、パレスチナ国家の建設を支持する姿勢を変えていない。 12月には、ガザでの即時停戦を求める国連総会決議にも賛成票を投じている。

インド政府がこのような姿勢を取る主たる理由は、ペルシャ湾岸諸国との関係にある。湾岸産油国はインドの原油輸入のかなりの割合を占めていて、これらの国々で働くインド人も多いのだ。

実際、2月半ばに、モディはアラブ首長国連邦(UAE)とカタールを訪問している。

ドローンをめぐる報道が事実だとすれば、インド政府はイスラエルとの関係強化に関して、より大きなリスクを伴う行動に乗り出そうと決めたと見なせる。

もしかすると、インド政府は最近のいくつかの出来事をきっかけに、自国の経済的な影響力への自信を深めているのかもしれない。

2022年8月に8人の元インド海軍の軍人がカタールで逮捕されて、その後死刑を言い渡された。しかし、インド政府がここ数カ月、圧力をかけて交渉を重ねた結果、この2月に入って8人は解放された。

両国政府は逮捕と釈放の理由を明らかにしていないが、報道によると、8人は秘密文書をイスラエル側に提供した容疑をかけられていたという。

注目すべきなのは、元軍人たちが解放される直前に、インドとカタールがエネルギー関連の大規模な合意を結んだことだ。

向こう20年間にわたり、インドが毎年750万トンの液化天然ガス(LNG)をカタールから購入するという内容だ。
そしてその後ほどなく、モディがカタールを訪ねて「2国間の協力関係をさらに拡大・深化させる」ことを約束したのである。

インド政府はこの一件や同様の出来事を通じて、イスラエルへの接近に関してこれまで以上に思い切った行動を取っても問題ないと考えるようになったのかもしれない。

インドが湾岸諸国に対して強気になれる大きな理由は、自国の莫大な人口とエネルギー需要だ。欧米諸国は、脱炭素への動きとアメリカのシェール革命により、湾岸諸国の石油への依存を弱めつつある。

一方、中国も経済的苦境に陥っていて、痛みを伴う立て直しの過程にある。

湾岸諸国にとって、石油の輸出先として長い目で見て最も当てにできるのはインドと言えそうだ。

しかし、インドにとってリスクが全くないわけではない。
もし、インドがガザにおけるイスラエルの残虐行為に手を貸しているというイメージが強まれば、アラブ世界で生活し、仕事をしている膨大な数のインド人の安全が危うくなりかねない。

この点を考えると、少なくとも外交上のレトリックの面では、インド政府がパレスチナ問題に関する立場を変えることはないだろう。【2月26日 Newsweek】
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インド  アヨディヤのヒンズー寺院開設式に見るモディ首相の政治姿勢とその危うさ

2024-01-22 22:29:20 | 南アジア(インド)

(22日、インド北部アヨディヤで行われたヒンズー教寺院の開設式(インド政府報道情報局提供)【1月22日 時事】)

【宗教対立の象徴とも言えるアヨディヤのヒンズー寺院開設式 モディ首相、総選挙に向けて支持固め】
1月22日、インド北部のアヨディアでヒンズー教の「ラーマ神」をまつる寺院の開設式が(まだ完成前ですが)盛大に行われ、モディ首相も参加しました。

この寺院は、「貧困」とともにインドが抱える最大の問題であるヒンズーとイスラムの宗教対立を象徴するものであり、また、モディ首相率いるインド人民党(BJP)は、ヒンズー側の立場(あるいは「ヒンズー至上主義」の立場)でこの寺院建設運動を展開し、その過程で国民多数派のヒンズー教徒の間で支持を拡大して政権与党に至った経緯もあります。

モディ首相としては、まだ部分的にしか完成していない寺院の開設式を4~5月に行われる総選挙前に行うことで、支持固めを図る狙いがあると見られています。

しかし、宗教対立の象徴、もっと有体に言えばヒンズー教のラーマ神誕生の地(とされる場所)にあったイスラムモスクを破壊してヒンズー寺院を建設する過程での混乱・対立で約2000人もの犠牲者を出したいわくつきの寺院であり、今後の対立激化も懸念されています。

****インド北部モスク跡にヒンズー教寺院 政権は祝福も宗教間緊張の懸念****
インド北部ウッタルプラデシュ州アヨディヤのモスク(イスラム教礼拝所)跡地に22日、ヒンズー至上主義団体を支持母体とする与党インド人民党(BJP)肝煎りのヒンズー教寺院が開設された。

敷地の所有権を巡ってはイスラム、ヒンズー両教徒が長年争い、1990年代には衝突が全土に広がって約2000人が死亡する事態も起きた。

祝福ムードが醸成される中、宗教間の緊張が高まる懸念も出ている。

22日の落成式には約7000人が招待され、モディ首相も出席。国営放送でテレビ中継された。ウッタルプラデシュ州など複数の自治体が同日を公休とするなど祝福ムードが広がる一方、多くの野党代表者は落成式への不参加を表明した。最大野党・国民会議派は「(BJPの)政治的なプロジェクトだ」としてカルゲ総裁らが式典を欠席した。

アヨディヤはヒンズー教のラーマ神が誕生した場所とされ、BJPの支持母体のヒンズー至上主義団体・民族奉仕団(RSS)が寺院建設運動を主導してきた。

92年12月には、寺院建設を求めるヒンズー教徒の集団が同地のモスクを破壊。事件をきっかけにイスラム教徒との衝突が全土に広がり、約2000人が死亡した。

ヒンズー教徒側はモスクが建設される前にはヒンズー教寺院があったと主張し、イスラム教徒団体と法廷でモスク跡地の所有権を争った。

2010年の高裁判決はヒンズー教徒とイスラム教徒の計3団体で土地を分割するよう命じたが、両者の上告を受けて最高裁は19年11月、「土地の所有権はヒンズー教のラーマ神にある」と判断。判決は政府に対してイスラム教徒団体には別の土地を与えるよう命じた。

インドの最高裁長官や判事は、首相の助言を受けて大統領が任命する。判決を主導した長官はBJP政権発足(14年)後の就任だ。

新しく造られたヒンズー教寺院の敷地面積は約28ヘクタールで、建設費約200億ルピー(約340億円)は寄付金で集められた。寺院全体の完成は24年末の見通しで、23年末に外国メディアに公開された工事現場では重機や大勢の作業員が行き交っていた。24年春の総選挙が迫る中、開院を急ぐことでBJP政権の実績をアピールする思惑が透ける。

全国からアヨディヤに訪れる巡礼者を見込み、空港の建設や駅の改修をはじめとする開発も進む。23年12月30日にはモディ氏と、モディ氏の後継候補と目されるウッタルプラデシュ州のヨギ州首相が現地の空港などを訪問。モディ氏は「世界中が1月22日の歴史的な一日を待ち望んでいる」と群衆を前に演説した。

住民の大半はヒンズー教徒で、市街地の民家や商店には随所にBJPの旗が掲げられていた。地元の大学院生のナビーン・アザド・ドゥベイさん(27)は「開院はインド人にとって誇りで、歴史的な快挙だ。街の発展にも期待している」と喜ぶ。

一方、インドは信仰の自由が認められた世俗国家で、人口約14億人の約8割はヒンズー教徒が占めるが、約2億人のイスラム教徒も暮らしている。インド最大級のイスラム教徒団体「ジャマーテ・イスラミ・ヒンド」のサイド・サダトゥラ・フセイニ代表は取材に対して「社会のメインストリーム(主流派)からイスラム教徒を疎外しようとしている」と懸念を表明した。

ジャマーテ・イスラミ・ヒンドは、寺院建設を巡る訴訟でイスラム教徒団体を支援した。フセイニ氏は「(寺院建設を認めた)最高裁判決は大変残念なものだった。寺院建設は判決に沿ったもので、(開院について)コメントすることはない」と語った。

その上で、寺院の開院が盛大に祝われることについて「社会を分断させ、宗派間の対立を利用して選挙戦を有利に運ぼうとするBJPの常とう手段だ」と批判。「いま我々が唯一望むのは平穏に事が進むことだけだ。宗派間の緊張が高まったりするようなことはあってはならない」と訴えた。【1月22日 毎日】
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【民主主義対ヒンズー至上主義的ファシズムの対立と見るべきとの指摘も】
このアヨディアのヒンズー寺院建設をめぐる対立の歴史的経緯、インド政治のかかわりについては以下のような、「宗教対立」というよりインドの民主主義対ヒンズー至上主義的ファシズムの対立、そしてファシズム側の勝利としてとらえるべきとの指摘もあります。

****アヨーディヤ問題****
1992年、インドでヒンドゥー教徒がイスラーム教のモスクを破壊し大きな紛争となった。その後も両派の対立が続きインドの深刻な社会問題となっている。

アヨーディヤはインドのウッタル=プラデーシュ州にあり、その地は『ラーマーヤナ』の主人公ラーマの誕生地とされ、ヒンドゥー教徒にとっては大切な聖地であった。

ところがインドを征服したムガル帝国はイスラーム教を信奉していたので、その初代皇帝バーブルは部下の武将に命じて、1528~9年にこの地にモスク(イスラーム教徒の礼拝所)を建設した。そのモスクは「バーブルのモスク」といわれ、今度はイスラーム教徒の信仰の拠り所となった。

アヨーディヤはヒンドゥー教徒・イスラーム教徒(ムスリム)の双方にとって聖地であったが現実には「バーブルのモスク」はムガル帝国時代からイギリス植民地時代まで、そのまま存続していた。

ヒンドゥー教徒によるモスク破壊
ところが、インドの独立運動が盛んになり始めた19世紀中頃から、インドのアイデンティティをめぐってヒンドゥー教徒とイスラーム教徒の意識の違いが次第に明確になり、1947年にインド・パキスタンの分離独立した後のインドではヒンドゥー至上主義が高まって、イスラーム教を排斥する気運が強まった。

このような宗教対立(コミュナリズム)は、1980年代にヒンドゥー至上主義を掲げるインド人民党(BJP)が急成長したことでさらに強まり、ついに1992年12月6日、数千人のヒンドゥー教徒がアヨーディヤの「バーブルのモスク」を襲撃し、破壊するという事件がおこった。

参考 アヨーディヤ問題の本質
アヨーディヤ問題は宗教的対立と捉えられがちであるが、それに対してある歴史学者は次のような見方をしている。

それによれば、1980年代にインド人民党のようなヒンドゥーナショナリズムが急成長したのは、「ひとえに与党国民会議派の内政、外政にまたがる無原則的で使命観を喪失した政治と政策に由来した」という点にあるという。

国民会議派の強権政治家インディラ=ガンディーはマキャベリ的で、自己の立場に役立つならばヒンドゥー原理主義とも妥協した。また、ラジブ=ガンディー(インディラの息子)もイスラーム原理主義に迎合しながら一方でヒンドゥー原理主義に寛容であった。総選挙で有利だと判断すれば、彼らがアヨーディヤのモスクの脇にラーマ寺院を建立することを黙認した。

「これは敵に塩を送るどころか、砂糖まで送るに等しく、会議派がヒンドゥー原理主義の軍門に屈したことを意味した」といえる。<中村平治『インド史への招待』1997 歴史文化ライブラリー 吉川弘文館 p.177 による>

インドの政治にはヒンドゥー対ムスリムの宗教対立(コミュナリズム)があることは確かであるが、ここではアヨーディヤ問題の本質は、一部ジャーナリズムが報じるような「宗教戦争」ではないとしている。

・・・・(引用)・・・・
「アヨーディヤ問題の本質は、ヒンドゥー対ムスリムの問題ではない。むしろこの基底にはインドの民主主義対ファシズムの対抗がある。具体的にそれは、民主主義派、良識派に属する大多数のヒンドゥーや少数派ムスリムに対抗する、ヒンドゥー・ファシスト集団の暴挙に過ぎない。

そもそも全インド的に均質で同一の集団心性をもつヒンドゥー集団なるものは、事実問題として存在していない。したがってヒンドゥー対ムスリムという対抗構図の単純な設定と重視は、同時代史としてのインド民衆の民主主義への闘いを刻んだ全過程を否定する結果となる。<中村平治『インド史への招待』1997 歴史文化ライブラリー 吉川弘文館 p.177>
・・・・・・・・・・

中村氏によれば、インドの歴史家や考古学者は、例外なしにアヨーディヤのラーマ寺院の存在を否定している。そしてバーブリー・マスジット(バーブルのモスク)の歴史的遺産を尊重すべきだとする立場を表明している。<中村平治『同上』 p.178>

インド人民党の政権獲得
アヨーディヤ襲撃事件が起きると、ラジブ=ガンディーに代わって国民会議派政府の首相となったラーオはその行為を黙認、インド人民党はかえって大衆の支持を受けるようになった。

ついに1998年にインド人民党は総選挙で第1党となり、政権政党となった。インド人民党ヴァージーぺーイー(バジパイ)政権は反イスラームを明確にし、パキスタンに対しても威嚇的な核実験を行うなど強硬姿勢をとった。

しかし、その強硬路線は穏健なヒンドゥー教徒の支持を失い、2004年の総選挙では敗れて国民会議派が政権を奪回した。(後略)【世界史の窓】
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「1992年12月には、寺院建設を求めるヒンズー教徒の集団が同地のモスクを破壊。事件をきっかけにイスラム教徒との衝突が全土に広がり、約2000人が死亡した」というのは各記事に記されているとおりですが、更に、2002年にはアヨディアのヒンズー寺院建設の運動に関わった人たちの乗った列車が放火され、58人(59人とも)が死亡する事件が起き、この事故を「パキスタンからの命令を受けたイスラム教徒による放火」とするヒンズー教徒とイスラム教徒の全国的な衝突に拡大しました。

このときモディ首相が州首相を務めていたグジャラート州ではヒンズー教徒によるイスラム教徒襲撃暴動が起こり、1000人以上が死亡しました。この暴動について、モディ州首相(当時)が黙認(あるいは関与)したと批判されていますが、司法的には「責任なし」とされていることは再三取り上げているとおりです。

【モディ首相のインドを大国にする夢を実現するには「放縦さではなく、自制が欠かせない」】
このようにアヨディアのヒンズー寺院建設問題は、インドの宗教問題にとっても、モディ首相・インド人民党のこれまでのあゆみにとっても重大な関りを有しています。

そしてアヨディアの問題が象徴するモディ首相の政治姿勢は今後のインドの将来を左右します。

****ナレンドラ・モディの非自由主義、インドの経済発展を阻害する恐れ****
世俗国家を蝕むヒンズー・ナショナリズム (英エコノミスト誌 2024年1月20日号)

大国になる夢の実現に必要なのは、放縦さではなく自制だ。
「政治と宗教を結びつけてはならない」 インドの最高裁判所は1994年、同国の世俗憲法の決定的な説明だと当時考えられた判断のなかで、そのように裁定した。

1月22日に行われるヒンズー教寺院の開所式を見守る数百万のインド国民にそう言ってやるといい。 2億2000万ドルもの資金を投じて建立され、何かと物議を醸しているこの寺院で開所式を取り仕切るのは、インドのナレンドラ・モディ首相その人であり、式典は今年5月の選挙で3期目を目指す首相の非公式な選挙運動のスタートだ。

この国に住む2億人のイスラム教徒と、数多くいる世俗主義のインド国民にとっては不安なことに、今回の式典は数十年に及ぶヒンズー至上主義者によるインド支配プロジェクトの一つの頂点になる。

インド北部のアヨディヤに造られたこの寺院にモディ氏が姿を現す間にも、同氏の任務のもう一つの柱――インドの並外れた近代化――はハイペースで進んでいく。

この国は世界の主要国のなかでは経済成長率が最も高く、すでに世界で5番目に大きな経済規模を誇る。グローバルな投資家はインフラ整備ブームと技術の高度化の進展を歓迎している。

モディ氏はジャワハルラル・ネール以来の大物指導者になりたがっている。同氏が掲げる国の偉大さのビジョンでは、宗教に加えて富も重要なポイントだ。

危険なのは、傲慢なヒンズー至上主義が経済における首相の野心の実現を妨げることだ。

アヨディヤのヒンズー寺院が象徴すること
(中略)モディ氏が率いるインド人民党(BJP)はかつて非主流派の政党だったが、この地に建っていたイスラム教寺院(モスク)について1990年に運動を起こしたことで世間にその名をとどろかせた。

1992年にはヒンズー教徒の活動家を集めてこのモスクを文字通り破壊し、南アジア各地でヒンズー教徒とイスラム教徒を巻き込んだ暴動のきっかけになった。 モディ氏が開所式に参加する豪華なヒンズー教寺院は、その破壊されたモスクの跡地に建てられている。

多くのヒンズー教徒に言わせれば、これは過去の過ちの埋め合わせだ。というのは、この土地はヒンズー教の神話に登場するラーム神の生誕地でもあるからだ。

アタル・ビハリ・バジパイをはじめとする過去のBJPの指導者たちは主流派の支持を得るために、党のイデオロギーであるヒンズー至上主義を強調しないようにしていた。

しかし、グジャラート州首相だった2002年に反イスラムの暴動に関与した(後に裁判所で無罪とされた)ことがあり、その後に政権を握って10年になるモディ氏はもう、あまり自制していないようだ。

勢い増すヒンズー至上主義
BJPの過激な勢力は力をつけている。 イスラム教徒への暴力事件も起きている。BJPが政権を握るいくつかの州では、改宗を制限する法律が議会を通過している。

モディ氏は、イスラム教徒を差別する市民権法の導入を促進するなどしてイスラム嫌いを悪化させている。 同氏の強権的な統治スタイルは、新聞、慈善団体、シンクタンク、一部の裁判所、多数の野党議員を含め、インドに昔からある自由主義的な秩序の柱への嫌がらせや攻撃もその特徴になっている。

ほぼ確実と見られている通り、次の選挙でモディ氏とBJPが3期目を勝ち取ったら、ヒンズー至上主義のプロジェクトがさらに推進されるのではないかと危惧する人は多い。

BJPの活動家たちは、数百カ所に上るほかのモスクについてもヒンズー教寺院に建て替えよと訴えている。 モディ氏は、インド憲法にあるイスラム家族法についての条文を削除したがっている。

議会選挙区の区割りが変更される可能性もあり、実施されれば工業化が進んだ裕福な南部の議席が減らされ、人口が多くヒンズー語が話されているBJP支持の北部の権力が強まるかもしれない。

現在73歳のモディ氏は、さらに10年以上にわたって強権的指導者としてインドを支配する可能性がある。

目覚ましい成長と変革を遂げたインド経済
(中略)インドのここ数四半期の経済成長率は年率で7%を超えている。(中略)

宗教問題と高度成長はどこまで両立する?
問題は、宗教の問題と急速な経済発展が両立するか否か、だ。その答えは「イエス」だが、ある程度までという但し書きがつく。

この10年間にモディ氏が経済面で上げた実績の多くは、同氏の宗教面の課題と併存してきた。 全国規模の売上税の導入など難しい改革を成し遂げることができたのは、BJPが議会で多くの議席を得ていることとモディ氏の人気のおかげだ。

また、市民の自由が損なわれてきたにもかかわらず、投資家が政策の安定性を当てにできるようになったのは、政権の結束と影響力の賜物だ。

しかし、もし3期目に入ったモディ氏がヒンズー至上主義と専制支配にさらに傾いたりすれば、経済面の計算も変わってくる。
 
インド国内の南北分断を例に取ろう。
インドが高度成長を続ければ、工業化が進み、裕福で、技術面でも先を行く南部はさらに発展する公算が大きく、北部から労働力を引き寄せることになるだろう。

だが、ヒンズー至上主義は南部ではほとんど人気がない。 モディ氏が権力を自分自身にさらに集中させつつ、ヒンズー至上主義をさらに押しつけたりすれば、国内の移住者や税収、議会での代表権などをめぐってすでに生じている緊張がさらに高まりかねない。

14億人の希望が打ち砕かれる恐れ
経済の安定性についても考えてみよう。 こちらはBJPのイデオローグたちではなく、外国からも信用されているテクノクラート(官僚)の経済運営が頼りだ。(中略)

だが、モディ氏が高齢になって孤立するにつれて意思決定が権威主義的で不安定なものになれば、そして制度が弱体化すれば、企業は巨額の資本を投じることに慎重になるだろう。

アヨディヤの寺院の開所式で自分に心酔する人々や取り巻き――インドの新しい、傲慢でナショナリズムを信奉するエリートの指導者たち――を前にする時、果たしてモディ氏はこの危険に気づくだろうか。

過去には気づいたことがある。 インドの首相になる前には、熱心なヒンズー教徒から繁栄している故郷グジャラート州の実用主義的な管理者へとイメージチェンジを図った。

3期目が見えてきた以上、インドを大国にする夢を実現するには、微妙な綱渡りを続けねばならないことを理解する必要がある。 それには放縦さではなく、自制が欠かせない。

モディ氏が失敗すれば、14億のインド国民の希望と、世界経済の最大の救いである同国の将来性も打ち砕かれてしまうだろう。【1月22日 JBpress】
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ブータン  若者は豪へ 観光不振など経済苦境の起死回生策は「ビットコイン採掘」 政権交代へ

2024-01-09 23:49:21 | 南アジア(インド)

(「幸せの国」と呼ばれるブータンで、若年失業率(15〜24歳)が2022年に28.6%と17年の2倍以上に高まった。都市部での就職を希望する若者は多いが、雇用機会が増えていないのが現状だ。企業の少なさに加え、新型コロナウイルス禍で観光業などが打撃を受けたことが響いている。【2023年11月17日 日経】)

【コロナ後の観光不振 揺れる観光政策 観光税65ドル→200ドル→100ドル】
世界幸福度ランキングで2013年には北欧諸国に続いて世界8位にランキングされ、「幸せの国」と称されるようになったヒマラヤの小国ブータンですが、2019年版では156か国中95位に急速に後退している・・・といったあたりの話は、2021年10月28日ブログ“ブータン 「幸せの国」も近代化の社会変化の渦中に 国際関係でも中印対立への対応を迫られる”でも取り上げました。

原因は、鎖国に近い状態にあった以前に比べ、インターネットやスマホも使えるようになって“情報”が入ってくる、観光客とともにいろんな“もの”も入ってくる(アルコールや薬物も)・・・といった変化にともなって、どうしても他国との比較がなされ、自己肯定感が薄れていくといったあたりにあるようです。

「かつてブータンの幸福度が高かったのは、情報鎖国によって他国の情報が入ってこなかったからでしょう。情報が流入し、他国と比較できるようになったことで、隣の芝生が青く見えるようになり、順位が大きく下がったのです」(明治大学大学院情報コミュニケーション研究科講師で行動経済学者の友野典男氏)【女性セブン2021年11月4日号】

経済的にも、基幹産業である観光が環境保護とのバランスで揺らいでいます。

****ブータンの観光税、環境保護と経済のバランス模索****
風光明媚なヒマラヤの王国ブータンでは、清掃隊が森林や山道をパトロールし、観光客が残したゴミを探し、茂みや木に刺さった空の水筒やスナック菓子の袋を取り除いている。

清掃チームを運営する資金は、ブータンが数十年前から課してきた観光税「持続可能な開発料」(SDF)から捻出されている。オーバーツーリズム(観光公害)を避け、南アジアで唯一の「カーボン・マイナス国家」(年間の温室効果ガスの吸収量が排出量を上回る国)としての地位を維持するための税金だ。

ブータンは先週、SDFを半額の1日100ドル(約1万4500円)に引き下げた。地域経済および雇用の下支えと、自然・環境保護の間でバランスを取ろうと格闘しているのだ。

ブータン政府関係者はトムソン・ロイター財団の取材に対し、「価値は高く、量は少ない」観光という原則の下、この税金はインフラの整備や自然や文化の保護、化石燃料への依存を減らすための電動交通への投資に充てられると述べた。

人口80万人足らずのこの小さな国が現在脚光を浴びているのは事実だが、これはブータンだけの問題ではない。(中略)

<観光税を自然保護活動に>
(中略)
最近の調査や業界幹部の話によると、エコツーリズムに対する需要は全体的に伸びてはいるが、持続可能な旅行に対して高いお金を払おうという人は少ない。

ブータンは長年SDFを改定し続け、長期滞在をする旅行者には減免措置を適用した。

昨年9月、コロナ禍による2年以上の閉鎖を経て観光客受け入れを再開した際には、SDFを約30年間続いた65ドルから200ドルに引き上げた。

しかしこの増税は、パンデミックの影響と相まって観光客数に打撃を与え、国内の旅行業者、ホテル、手工芸品・土産物店に損失をもたらした。

政府のデータによると、今年1月から8月にかけてブータンを訪れた観光客は約6万人で、SDFによる税収は1350万ドルだった。パンデミック前の19年には、約31万6000人の観光客が訪れ、8860万ドルのSDF収入があった。

今月SDFを引き下げた際、政府は観光部門を復活させ、雇用を創出し、外貨を獲得することが狙いだと説明した。

ブータンは、国の経済規模30億ドルに対し、観光業の寄与度を現在の約5%から20%に引き上げることを計画している。

ブータン観光局のドルジ・ドラドゥル局長は、氷河の融解や予測不能な天候など気候変動の脅威に直面するブータンにとって、SDFは自然保護への取り組みを強化するために不可欠だと電子メールで述べた。「私たちの未来のため、遺産を守り、次世代のために新たな道を切り開くことが必要だ」と訴える。

ブータンの「カーボン・マイナス」アプローチは1970年代に始まった。当時の国王は、保全と開発を両立させる持続可能な森林管理によって経済を成り立たせようとした。(中略)

<将来への懸念>
ブータンは長年、特にインド人旅行者にとっては最高の休暇先だった。インド人は無料で入国できていたが、昨年、1日1200ルピー(約2100円)の税金が導入された。

旅行関係者によると、インド人観光客が棄てるゴミや、仏教建築に登って写真を撮るなどの行為が問題になっていた。税金が導入された今は、インドから旅行の予約が入らないという。

ブータン観光局のドラドゥル氏は、ブータンは「観光の量」よりも環境、文化、人々の幸福を優先しているため、インド人観光客に対する税金は少なくともあと2年間は据え置かれる予定だと述べた。

世界中で観光税を検討する場所が増えているが、観光税の導入は、手頃な料金で旅行を楽しみたい人々を排除してしまうリスクと背中合わせだ。

ブータンでのホテル・レストラン協会のジグメ・チェリン会長は、SDFは持続可能性という国のビジョンに沿ったものだが、「ビジネスへの影響」という点では課題もあると述べた。

同氏は、今回の減税によって観光産業の伸びが加速することを望んでいると語った。より多くの顧客と収入を求める地元企業も、同様の考えを示している。【2023年9月3日 ロイター】
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個人的なことを話せば、海外旅行が好きな私は“手頃な料金で旅行を楽しみたい”タイプであり、ブータンのような高額な観光税は受け入れがたく思っています。(コロナ以前は、高額な現地ガイドを必ずつけなければいけないといったルールもありました)

1日65ドルの時代でも「貧乏人は相手にしていないということか」と不愉快だったのですが、1日200ドル・・・「クレイジー、なんか勘違いしてんじゃない。好きにすれば」って感じ。 もちろん、1日1000円、2000円であれば環境保護観点から考えますが・・・

ということで、ブータンには行ったこともありませんし、旅行を検討したこともありません。インドからの観光客が激減したのは当然でしょう。

【若年層の失業率が29% オーストラリアへ流出】
ブータンの最低賃金は月額45ドル(約6400円)で、人口の約12%が貧困ライン以下で生活している・・・という状況で、国内に雇用を受け入れる産業も育たず、海外、特にオーストラリアに流出する若者が増加しています。

****高まるブータンの「不幸度」、豪に若者が大量流出****
新型コロナウイルス渦で閉じた国境をオーストラリアが再開したことをきっかけに、国民の幸福度が高いことで知られるブータンから同国に渡る学生が急増している。若者の失業率が2桁に上昇するなど、国内で経済面の「不幸度」が高まっているためだ。

ブータンからオーストラリアにやって来た学生は5月までの11カ月間だけで1万2000人を突破。これはブータンの総人口の約1.5%に当たる。最近の渡航組の大半は西オーストラリア州のパースに落ち着き、保育やホスピタリティー、会計などを専攻する課程に進んでいる。

昨年オーストラリアにやってきた教育コンサルタントのタシ・キプチュさん(25)もその1人。西オーストラリア大学でマーケティングを学んだが、ブータンは「コロナ後に全てが死に絶えた。チャンスがない」という。

ブータンからオーストラリアへの移住は、少数の人道的な受け入れを除けば、かつてはごくわずかだった。しかし2017年にブータンからやって来る学生が増え始め、22年にオーストラリアが国境を再開すると、こうした動きが加速。公式統計によると、ブータンからの学生ビザ申請件数は今年6月末までの会計年度に5倍に膨らんだ。【2023年8月1日 ロイター】
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【政府は豊富な電力を使ってビットコイン採掘】
産業育成でブータン政府が目をつけたのがビットコインのマイニングだそうです。マイニングに必要な電力は巣力発電で豊富ですから。

****「幸せの国」ブータン、経済の起死回生策は「ビットコイン採掘」****
世界で最も孤立した国のひとつであるブータン。その首都ティンプーの南にある丘の中腹には、数十個の輸送用コンテナが静かに横たわっている。その中では、高価なビットコインの採掘マシンが、この国の若き国王とその王国を魅了する貴重な通貨を生み出すために絶え間なく働いている。

「龍王」とよばれるジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王の治世下で、ブータンは密かに暗号資産のシャングリラへと変貌を遂げ、政府はその土地や資金、エネルギーを投じて、経済的苦境から脱出することを願っている。

しかし、ブータン政府はこれらのマイニング(採掘)施設の場所や規模を明らかにしたことはなく、約4年前に同国が世界初の国営マイニング施設を立ち上げたことも、国外ではほとんど知られていなかった。

ブータン政府がデジタル資産への投資についてコメントし始めたのは、フォーブスが今年5月の記事で、同国の政府系ファンドが、破綻した仮想通貨貸し付けサービスのBlockFi(ブロックファイ)やCelsius(セルシウス)の顧客だったことを報じた後のことだ。

そして今、フォーブスは関係者の証言と複数の衛星画像データに基づき、ブータン政府が運営する4つのマイニング拠点と思われるものの場所を特定した。

それらの施設のうちのひとつは、ブータンの教育と知識のための国際拠点になるはずだった、失敗した「エデュケーション・シティ」と呼ばれる10億ドル(約1400億円)の巨大プロジェクトの跡地に建設されている。(中略)

ブータン政府は、若者の失業率が上昇し、国外移住者と人材流出が急増する中で、未来を確保する手段として、教育都市プロジェクトを国民に宣伝していた。

ロイターは今年8月、ブータンの人口の約1.5%が2022年にオーストラリアに移住し、その多くが雇用と賃金の向上を求めていたと報じた。地元紙のKuenselによれば、ブータンの最低賃金は月額わずか45ドル(約6400円)で、人口の約12%が貧困ライン以下で生活している。

エデュケーション・シティはそれを変えるはずだった。2009年、ブータン政府はコンサルティング会社のマッキンゼーに約900万ドル(約13億円)を支払い、10億ドルの「医療、教育、金融、ICTサービスのための世界クラスの地域ハブ」の設計を依頼した。2つの川の合流地点に位置する1000エーカー(約400万平方メートル)のキャンパスは、同国の実験的な国民総幸福量(GNH)経済モデルの道標であり、アジアにおける高等教育ハブとなるはずだった。

しかし、そのいずれも実現しなかった。政治的スキャンダルや、管理上の不手際によってプロジェクトは遅延し、2014年に廃止された。そして、現地に残されたのが道路や橋などに加え、ビットコインのマイニングに必須の電力インフラだった。(中略)

ブータン政府の「起死回生」を担うビットコイン
ビットコインは、ブータン経済の起死回生のプランとして追加された。ブータンの財政は長い間、観光収入と隣国インドへの水力発電による電力輸出によって支えられてきた。

しかし、新型コロナウイルス感染症の爆発的流行によって、1人1泊あたり65ドル(約9200円)の観光税から得られる年間8860万ドル(約125億円)の収入は激減し、早急な軌道修正が必要となった。複数の情報筋によると、ブータン政府は2020年頃からビットコインの採掘業者や関係者と協議を始めた模様だ。(中略)

ブータンを代表する航空会社や水力発電所、チーズ工場も運営する(ブータン政府の投資部門である)DHIは、ビットコインのプロジェクトの資金を調達するために外貨建て債券を増発したことを開示しているが、年次決算ではビットコインマイニングの収益や投資の内訳を一切明らかにしていない。ブータンの財務省も同様に沈黙を守っている。(後略)【12月29日 Forbes】
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ビットコイン関係の知識が全くないので、こういうマイニングがどの程度確実な収益につながるのかは知りませんが、経済を再建し、若者の雇用を確保するには・・・どうでしょうか? 牧歌的な「幸せの国」のイメージではありませんが。

【経済低迷で政権交代】
政治的には、厳しい経済情勢を反映して、議会選挙で与党が敗退し、政権交代が起きています。

****ブータンで政権交代へ 来年1月に国民議会本選****
ヒマラヤの王国ブータンの選挙管理委員会は1日、11月30日に実施された国民議会(下院、47議席)予備選の開票結果を発表した。与党の協同党は敗れ、来年1月9日に行われる本選に進出できなかった。過去2回の国民議会選と同様、政権交代することが決まった。

国民議会選は、予備選の上位2党が本選に進む仕組み。今回の予備選では五つの政党が参加し、2013~18年に首相を務めたツェリン・トブゲイ氏が率いる国民民主党が約42・5%と最多の票を獲得した。約19・6%を獲得し次点だった新党の縁起党と議席を争う。

王政から立憲君主制に移行する総仕上げとなった初の国民議会選が08年に実施されており、今回で4回目となる。協同党のロテ・ツェリン党首は自身のフェイスブックで敗北を認めた。【12月1日 産経】
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****ブータンで下院本選 「幸せの国」も経済低迷****
ブータンで9日、国民議会(下院)本選の投票が行われた。若年層の失業や観光業の低迷など各種の経済問題に直面する中、本選に臨んだ国民民主党と縁起党は、水力発電部門への投資誘致などを有権者に訴えた。投票は午後5時に締め切られ、結果は10日に発表される見通し。

国民議会予備選は昨年11月に実施され、政権与党および議席を持つ野党が敗退。国民民主、縁起の2党が本選に進んでいた。

世界銀行によると、ブータンでは若年層の失業率が29%に達し、過去5年間の経済成長率は平均1.7%にとどまっている。主要な外貨獲得源である観光業も、新型コロナウイルス禍による打撃から依然、回復していない。

国民民主党がブータン国民8人のうち1人が「食料など基本的なニーズを満たせていない」とマニフェストで指摘するなど、「国民総幸福量」という指標を掲げ、経済の豊かさよりも心の幸せを重視する政策への信頼は揺らぎつつある。 【1月9日 AFP】
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外交面では、インドと中国の間で揺れていますが、そのあたりは2023年11月4日ブログ“インド グローバルサウスのリーダーを目指すも、インド周辺国では中国主導の動き”でも取り上げましたので、今回はパスします。
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インド  総選挙に向けて優位な情勢の与党 しかし、少数派に対する深刻な人権侵害の懸念も

2024-01-08 23:12:35 | 南アジア(インド)

(インド・ムンバイで、2002年にグジャラート州の暴動で集団レイプ事件を起こしたヒンズー教徒11人が釈放されたことに抗議するデモの参加者(2022年8月23日撮影、資料写真)。【1月8日 AFP】)事)

【4~5月 総選挙 経済好調・モディ首相人気で与党「インド人民党」有利の情勢】
今年は今週末の台湾総統選挙、3月ロシア大統領選挙、4月韓国総選挙、6月EU「ヨーロッパ議会」選挙、そして真打、11月のアメリカ大統領選挙など重要な選挙が多く「選挙イヤー」とも言われていますが、4月から5月にかけてインドの総選挙も行われます。

そのインドでは経済は好調のようです。

****インド実質GDP7.3%増の予想 主要国で最高水準…再選目指すモディ首相に追い風か****
経済成長が続くインドの実質GDP=国内総生産について、インド統計局は主要国で最も高い7.3%の成長率になるとの初期予測を発表しました。

インド統計局が5日に発表した初期予測によりますと、2023年度の実質GDPは前の年度より7.3%増える見込みです。経済成長率は主要国の中で最も高い水準となる予想で、今年5月までに行われる総選挙で3期目を目指すモディ首相にとって追い風となりそうです。

世界的な景気の低迷が長引くなか、インドは公共投資の増加による内需の拡大や観光業の回復などが、成長をけん引しているとみられます。

また、モディ政権はこれまで弱いと指摘されてきた製造業の強化を掲げており、経済の失速が進む中国への依存を回避しようと、日本やアメリカなど各国の企業がインドへの投資を拡大しています。

一方、インドメディアは雇用を生み出しているのは、ITや金融サービスといった分野に限定されていて、貧困層の多い農村部での雇用機会の改善などが課題だと分析しています。【1月8日 TBS NEWS DIG】
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こうした経済状況やモディ首相人気もあって、モディ首相率いる与党「インド人民党(BJP)」は選挙戦に向けて優位に立っているようです。

****インド与党、州議選で勝利 総選挙の前哨戦 モディ政権3期目に弾み*****
来春(2024年)の総選挙の「前哨戦」と位置付けられるインド4州の議会選挙が(12月)3日開票された。地元メディアによると、モディ首相の与党・インド人民党(BJP)が、3州で野党・国民会議派などを破って単独過半数を獲得する見通しとなった。総選挙で3期目を目指すモディ政権にとって大きな弾みとなった。
 
4州の選挙は11月7〜30日に投票された。BJPは、中部マディヤプラデシュ▽西部ラジャスタン▽中部チャッティスガル――の3州で勝利を宣言した。一方、野党・国民会議派は南部テランガナ州で地域政党を抑えて勝利したものの、2州で政権を失い、総選挙に向けて態勢の立て直しを迫られる形になった。

BJP勝利の背景には、7割超の支持率を誇るモディ氏の人気があるとみられる。モディ氏は3日、X(ツイッター)に3州の勝利について「BJPの良い統治と発展を国民が支持していることを示している」と投稿して自信を見せた。

国民会議派はインドの身分制度「カースト」ごとの人口調査の実施を公約に掲げてきた。下位カーストの人口を把握し、就労や教育で優遇措置を受けられる人を増やす狙いがある。ヒンズー至上主義団体を支持母体とし、カーストを超えたヒンズー教徒の結束を重視するBJPとの差別化を図る戦略だが、支持は広がらなかった。

国民会議派を中心とする野党は「インド全国開発包括連合(略称・INDIA)」として総選挙でBJPに対抗する構えだが、ニューデリーのシンクタンク「政策研究センター」フェローのラフル・ベルマ氏は「現時点ではBJPが最多議席を維持するのは間違いないだろう」と予測した。【12月4日 毎日】
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モディ首相人気は、同氏の進めるヒンズー至上主義や、国際政治でのインドの影響力増大が、国民多数派であるヒンズー教徒の民族主義的感情をくすぐることにあるのでしょう。

【モディ首相・人民党のヒンズー至上主義や権威主義的傾向への懸念】
しかしながら、(私を含めて)国際的には同氏のヒンズー至上主義や権威主義的傾向を懸念する向きもあります。

****インド経済の飛躍はモディ首相への“評価”にかかっている…アメリカも注視する「極めて危うい構図」とは****
(中略)
国際的にも注目されているモディ氏
インド経済の好調には同国に対する国際的な好感度の上昇が関係している。この状況に最も寄与しているのが、首相のナレンドラ・モディ氏であることは言うまでもない。

モディ氏は昨年、主要20ヵ国・地域首脳会議(G20サミット)の議長として大きな存在感を示した。グローバルサウス(新興・途上国の総称)の盟主を自認するモディ氏は、G20サミットの場でグローバルサウスの利益を代弁する役割を積極的に果たしてきた。

さらにモディ氏は、米国との良好な関係を維持しながら、ロシアとのパイプも維持している。「今は戦争の時ではない」と呼びかけるモディ氏は、ロシアを訪問し、西側諸国を敵視するプーチン大統領と会談する意向を見せている。

このように、動向が国際的に注目されるようになったモディ氏だが、今年は試練の年でもある。総選挙(下院選)が今年4月から5月にかけて実施されるからだ。

3選目を目指すモディ氏は、昨年末から総選挙に向けた活動を本格化させている。足元の世論調査では、モディ氏が率いるインド人民党(BJP)が、前回(2019年)と同様、単独で過半数の議席を占めると言われている。

モディ氏の地盤は固いようだが、気になるのは権威主義的な傾向だ。

少数派に対する深刻な人権侵害
BJPから選出されたインド議会の両院議長は12月19日、警備態勢の検証を求めた100人超の野党議員に対し、「秩序を乱した」との理由で登院停止を命じた。下院の議場に2人組の男が乱入した事案から起こった検証要求だったこともあり、野党は「民主主義への攻撃」として反発。米人権団体も強く非難する事態となっている(2023年12月20日付CNN.co.jp)。

モディ政権下では、イスラム教徒などの少数派に対する深刻な人権侵害が起きており、米印関係を揺るがしかねない問題も持ち上がっている。

米検察当局は2023年11月29日、米国内でインド系米国人のシーク教徒活動家を暗殺しようとしたとして、インド国籍の男を起訴した。米国政府は「この問題を深刻に受け止めている」との認識を示したが、インドとの戦略的パートナーシップを強化する方針を今のところ変更していない。

米国のインドへの接近は「ライバルである中国を牽制するカードとして利用する」というご都合主義の色彩が強い。一方、モディ氏率いるBJPはネオファシズム的な側面があるとの指摘がある(12月21日付ニューズウイーク日本版)。

自国の主権を侵害する事案が続けば、米国を始め西側諸国はインドとの良好な関係をご破算にするのではないかと筆者は考えている。

西側諸国から見たインドのイメージが悪化すれば、同国の経済に対する認識もがらりと変わる。インド経済が飛躍を遂げるかどうかはモディ氏の評価にかかっていると言っても過言ではない。だが、この構図は極めて危ういのではないだろうか。【1月8日 藤和彦 デイリー新潮】
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【グジャラート州首相時代の対イスラム教徒暴動で起きた集団レイプ事件をめぐる動きに透ける少数派権利擁護への消極姿勢】
“モディ政権下では、イスラム教徒などの少数派に対する深刻な人権侵害が起きており・・・・”
過去のブログで何度も取り上げたように、そもそもモディ首相はグジャラート州首相時代の2002年に起きた宗教暴動で、ヒンズー教徒によるイスラム教徒虐殺を黙認した強い疑惑があります。(司法的には、責任なしとされていますが)

この暴動ではイスラム教徒を中心に1000人以上が殺害されたとされています。その過程では、イスラム教徒の女性に対する集団レイプもありました。

しかし、一昨年8月には、集団レイプで終身刑の判決を受けていた11人について、BJPが与党となっているグジャラート州政府は減刑・早期釈放しました。釈放された犯人らは“英雄的”な歓迎を受けています。

****集団レイプで終身刑の11人を早期釈放 被害者「あぜん」 インド****
インドで今週、独立後最悪の宗教暴動でイスラム教徒の女性を集団レイプし、終身刑を科されたヒンズー教徒11人が早期釈放されたことを受け、被害者のビルキス・バノさんは「あぜんとしている」と心境を明らかにした。

西部グジャラート州で2002年、ヒンズー教徒の暴徒にイスラム教徒17人が襲われ、14人が死亡する事件があり、世界的な非難を浴びた。生き残ったのは妊娠中だったバノさんとその子ども2人のみ。バノさんは3歳の娘を含む親族7人を亡くした。

その後、ヒンズー教徒の男11人が終身刑を言い渡されたが、グジャラート州政府は15日、インド独立75周年の式典に合わせて釈放すると発表した。(中略)

事件当時、ヒンズー至上主義を掲げるナレンドラ・モディ首相がグジャラート州首相を務めていた。宗教暴動を見て見ぬふりをしたと非難されたが、2012年に非はなかったとされた。

しかし今回の一件を受け、イスラム教徒の有力議員アサドゥディン・オワイシ氏はモディ氏率いる与党インド人民党(BJP)に言及し、「BJPの宗教に対する偏向は、残忍なレイプや憎悪犯罪さえも容認するほどだ」と非難した。

BJPが与党となっているグジャラート州政府は、11人の釈放を擁護。主要紙ヒンドゥスタン・タイムズによると、高官のラジ・クマール氏は「11人の減刑は、インドで通常14年以上とされる終身刑の刑期、年齢、素行など、さまざまな要因を考慮したものだ」と説明した。

2002年の宗教暴動は、ヒンズー教の巡礼者59人が死亡した列車火災をきっかけに発生。公式発表によると、イスラム教徒を中心に約1000人が殺害された。

列車火災をめぐってはイスラム教徒が原因とされ、後に30人以上が有罪判決を受けたが、今も原因をめぐる論争が続いている。【2022年8月20日 AFP】
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このグジャラート州政府の措置に対し、インド最高裁は8日「再収監すべき」との判決を下しています。

****インド最高裁、集団レイプ事件11人の釈放無効に****
インド西部グジャラート州で2002年に起きた宗教暴動でイスラム教徒の女性たちが集団レイプされ、14人が死亡した事件で、同国最高裁は8日、終身刑を科されながらおととし釈放されていたヒンズー教徒11人を再収監すべきとの判決を下した。

2022年8月、同州政府委員会の勧告を受けて釈放されていた11人について、最高裁は2週間以内の再収監を命じた。

11人は釈放された際、親族や支援者らから英雄的な歓迎を受ける様子が動画で公開された。またその釈放は、ナレンドラ・モディ首相が演説で女性の安全について語ったインド独立記念日の祝賀とも重なり、全土で怒りを巻き起こした。

事件はヒンズー至上主義を掲げるモディ首相が、グジャラート州首相を務めているときに起きた。モディ氏は宗教暴動を見て見ぬふりをしたと非難されたが、2012年に非はなかったとされた。

野党・国民会議派は最高裁の判決を歓迎。与党・インド人民党の「女性に対する冷淡な軽視」が暴露されたと批判した。

同党広報担当のパワン・ケーラ氏はX(旧ツイッター)への投稿で、「犯罪者の違法な釈放を進めた者たち、受刑者を花輪や菓子で歓迎した者たちに平手打ちが食らわせられた」と述べ、「インドは犯罪の被害者および加害者の宗教やカーストによって、司法運営が左右されることを許さない」と強調した。 【1月8日 AFP】
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一連の動きはモディ首相率いるインド人民党(BJP)のイスラム教徒や女性といった少数派の権利擁護に関する消極姿勢を示してもいます。

【女性のバス運賃は無料・・・背景には女性差別によるバス代負担も難しい女性の低賃金】
インド国内の女性に関しては、デリーなどインド各地で女性のバス乗車が無料になるという措置が行われているようです。

一見、女性優遇の施策のようにも見えますが、その背景にあるのは、女性の賃金が差別的に低く、バス乗車運賃を無料にしないと仕事にも出られず生活できないという劣悪な労働環境にある女性の実態があるとのことです。

****インドで女性のバス乗車が無料に。背景にある、深刻なジェンダー格差****
運賃が高すぎて仕事に行けない、給料のほとんどを通勤に使ってしまう──日本でそんな経験をすることは少ないかもしれない。しかし、こうした課題に日々直面してきた人たちがいる。インドの女性たちだ。

2022年時点でのインドの労働参加率は、男性が73.6%であるのに対し女性は24%にとどまり、中東諸国に次いでジェンダーギャップが最も大きい国のひとつとなっている。

さらに、女性が仕事を得たとしてもその所得は非常に少ない。インド全体における女性の平均月給は、正規雇用で1万2,667.5インドルピー(約2万2,800円)、非正規雇用では5,156.5インドルピー(約9,280円)であり、どちらも男性より低額であることが指摘されている。

こうしたインドにおけるジェンダー格差を是正する希望となっているのが、女性客のバス料金無料化の動きだ。このプログラムは「Shakti(ヒンディー語で強さの意)」と呼ばれ、これまで国内各地で実施されてきた。

2019年のデリーにおける導入を皮切りに複数の州で実施され、インド南西部のカルナータカ州も2023年6月から女性客のバス料金を無料化した。インドでは女性の約52%が毎日バスを利用し、約29%が週に数回利用することから、多くの女性がプログラムの対象となることが分かる。

カルナータカ州でShaktiが導入されて約4ヶ月が経ち、とある女性は「毎日120インドルピー(約217円)のバス運賃支払っていたが、今はその支出を抑えることができる」と、The Hinduの取材 に答えている。

毎日217円のバス代。たったそれだけかと思うかもしれないが、彼女たちの給料を踏まえると高額だ。日本における正規・非正規雇用を合わせた女性の平均年間給与は314万円であるため、単純計算で女性の平均月給はおよそ26万円。つまり日本での給与に換算すると、カルナータカ州では1日のバス代は少なくとも2,600円ほどに値しうる額であり、日常生活でかなり負担となっていることがうかがえる。

家計の大きな負担となっていた交通費が無料になることは、彼女たちの生活にとって大きな意味を持つはずだ。現在働いている女性たちが給与を食費や教育費により多く回すことができ、今は働くことが叶っていない女性たちにとっては働き始める後押しにもなるだろう。

これは女性の視点に立ったまちづくりを試みるフェミニスト・シティの動きとも捉えることができ、インドにおけるShaktiの事例はアジアのなかで一歩進んだ取り組みとも捉えられる。

一方で、女性客のバス料金無料化に対して反発の声もあがっている。私営のバスやタクシーが加盟するカルナータカ州民間交通協会連合は、Shaktiの影響により給与が下がったとしてShaktiに反対するストライキを実施した。どのようにして地域に支持され継続できるプログラムへと改善されるかが今後の課題となるだろう。

もうひとつの課題として、そもそも女性が安心して利用できる環境が整えられていないことがあげられる。インドではバスを利用したことがある女性のうち、約54%は運転手や男性客から運賃が無料であることを揶揄され車内で差別的な発言を受けたことがあり、約80%は運転手がバス停で待つ女性客を無視したことで乗車できなかった経験があるという。プログラムの形態だけでなく人々の捉え方にもアプローチする必要があるようだ。

そもそも、インドにおいて女性の給料が少ない主な要因は差別であると指摘されている。男性が優位とされ女性の行動を制限する風潮が根強いと言われるインドだが、ジェンダー平等が求められる社会の潮流にどう対応していけるだろうか。

バス料金の無料化だけで終わらず、継続して女性そして市民全体の声に耳を傾けながら、慣習的な考え方にも変化を起こそうとする姿勢が求められている。【2023年11月29日 仲原菜月氏 IDEAS FOR GOOD】
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インドにおける女性差別の問題をとりあげると話がまた長くなりますので、別機会に。

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バングラデシュ  総選挙、ハシナ政権続く見込み 円借款で港湾開発、印と結ぶ物流ルートに

2024-01-02 23:21:35 | 南アジア(インド)

(ムハマド・ユヌス氏【ウィキペディア】)

【ノーベル平和賞ユヌス氏に禁錮刑】
かつてはアジア最貧国でもあったバングラデシュの経済学者のムハマド・ユヌス氏は、1983年にグラミン銀行を創設。地方の貧困地域の人々(特に家庭の主婦などの女性)が自ら小規模ビジネスを立ち上げる際に無担保小口融資を提供した功績で、2006年にノーベル平和賞を自身が創設したグラミン銀行と共に共同受賞しました。

ユヌス氏の草の根的な取組(マイクロクレジット)は貧困脱出の道筋として世界的にも注目されました。

しかし、ユヌス氏は一時政界入りして新党結成に動いた2007年以降、ハシナ首相と対立。2011年にグラミン銀行総裁を解任されたのも、ハシナ首相が背後で動いていたとみられています。
“ノーベル平和賞のユヌス氏、グラミン銀行総裁から解任”【2011年3月3日 AFP】

その後も政権からの執拗な追求とも思われる動きが報じられていました。(あるいは、同氏の“わきが甘い”のか・・・そこらはよく知りません)

グラミン銀行の総裁だった05〜11年、外国から得た講演料や印税などの収入について、政府の適正な手続きを経ずに公務員に適用される課税免除を受けていたとして
“バングラデシュ:平和賞のユヌス氏、脱税疑いで法的措置へ”【2013年99月11日 毎日】

ユヌス氏はが会長を務める情報技術会社の元従業員から、労働組合の設立を理由に解雇されたとして訴えられて
“グラミン銀行創設でノーベル賞受賞のユヌス氏に逮捕状、バングラデシュ”【2019年10月10日 AFP】

そして今度は・・・
****ノーベル平和賞ユヌス氏に禁錮刑、労働法違反 政治的な裁判か****
バングラデシュの裁判所は1日、労働法違反の罪で、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏(83)に禁錮6月の判決を言い渡した。検察当局が発表した。ユヌス氏は違法性を否定していた。

ユヌス氏は自身が創設したグラミン銀行と共に2006年にノーベル平和賞を受賞。無担保小口融資でバングラデシュの貧困層を支援する取り組みが評価された。

しかし、ハシナ首相はユヌス氏が貧困層を搾取していると非難。ユヌス氏の支持者によると、ユヌス氏がかつてハシナ首相率いる与党アワミ連盟に対抗する政党の設立を検討したことから、政府がユヌス氏の信用失墜を狙っている。

ユヌス氏と同氏が創設したグラミン・テレコムの幹部3人が労働者の福利厚生基金を設立しなかった罪で有罪判決を受けた。いずれも嘆願書に応じ、保釈が認められた。

検察当局によると、裁判所は保釈を認め、上訴する期間を1カ月与えるという。ユヌス氏の弁護士は上訴するとし、裁判は政治的な動機に基づいており、ユヌス氏への嫌がらせが目的だと述べた。【1月2日 ロイター】
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ユヌス氏ももう83歳、長期政権を維持するハシナ首相が警戒するような影響力がまだあるのでしょうか?

もっとも、バングラデシュの政治は、かつてハシナ首相と対立政党のジア前首相の女性政治家同士の間で激しい政闘がくりひろげられたように、“怨念”で動くところはあります。
“怨念”の内容については、2013年12月14日ブログ“バングラデシュ 総選挙を控えて波乱含みの情勢”など。

【7日総選挙 野党ボイコット】
このハシナ首相・与党とジア前首相・野党の怨念の構図は今も解消されていないようですが、2009年以降、政権はハシナ首相が掌握しており、1月7日の総選挙でも揺るぎがないようです。

****野党不参加、与党「勝利」へ 総選挙まで1週間、対立激化も―バングラデシュ****
バングラデシュ議会(一院制、定数350)総選挙まで1日で1週間。主要野党がボイコットを表明する中、ハシナ首相率いる与党アワミ連盟(AL)の「勝利」が確実視されている。実施後に与野党の対立が一段と激化する恐れがある。

「この15年間で(国は)変貌を遂げた。今日では貧困にあえぐわけでも経済的にもろいわけでもない。ALだけが国を新たな高みに導ける」。ハシナ氏は12月27日、選挙公約発表の場で経済成長に導いた連続3期の実績を強調。引き続き国のかじ取りを担う決意を示した。公約には、国のデジタル化推進などを掲げた。

一方、主要野党のバングラデシュ民族主義党(BNP)は選挙への不参加を表明。地元報道によると党幹部は27日、「演出されたまがいものの選挙に抵抗を」と訴え、国民に投票に行かないよう求めた。

バングラデシュではかつてALとBNPの二大政党が激しく対立。交互に政権を担い、反対勢力を弾圧する時期が続いた。2009年にハシナ氏が首相に返り咲くと、高成長を背景に権力基盤を確立。野党幹部や政権に批判的な人権活動家らを拘束し、強権的な姿勢を強めた。【12月31日 時事】
*********************

野党BNPは、選挙実施に当たり政党に属さない中立的な選挙管理内閣の設立を訴えていたものの実現しなかったため、結果として候補者を出さず、選挙をボイコットしたかたちとなりました。
野党連合は本選挙は不正だとして、道路封鎖や大規模なゼネラルストライキ(ホルタル)を実施しています。【12月27日 JETROより】

【デング熱感染拡大 気候変動の影響も】
バングラデシュ関連のニュースはあまり多くないのですが、昨年目立ったのはデング熱流行に関するもの。気候変動の影響もあるようです。ロヒンギャ難民のキャンプでも多数の死者が出ています。

****デング熱 バングラで死者1000人超 前年の5倍****
南アジアのバングラデシュで、蚊が媒介する熱帯性の感染症「デング熱」による死者数が今年に入って急増している。

世界保健機関(WHO)によると、10月末までに1333人が死亡した。既に昨年1年間の死者数281人の5倍近くに上り、記録が残る2000年以降で最も死者数が多くなっている。気候変動に伴う気温の上昇やモンスーン(季節風)の長期化が背景にあるとみられている。

WHOによると、バングラでは今年1月〜10月29日に26万7680件(前年は6万2382件)のデング熱感染が報告された。感染例は国内の全64地区で確認され、うち首都ダッカが14万5465件と最も多かった。

デング熱は蚊が媒介するデングウイルスによる感染症で、高熱や筋肉痛などの症状が特徴だ。まれに「デング出血熱」と呼ばれる重篤な状態に陥る恐れもある。バングラにおける今年の致死率は現状で0・5%となっている。

バングラでは例年、5〜9月ごろのモンスーンの時期にデング熱が流行するが、今年は10月半ばごろまで雨が続いたことでウイルスを媒介する蚊が増殖したとみられている。ウイルスの検査キットが不足し、治療の遅れと重症化につながっているとの現地報道もある。

地元メディアによると、隣国ミャンマーからバングラ南東部コックスバザールに逃れてきた少数派のイスラム教徒「ロヒンギャ」が暮らす難民キャンプでも感染が拡大している。同地では、1〜8月に感染した1万3737人のうち8割強がロヒンギャだったという。地元の当局者は、難民キャンプ内の住居が密集した環境によって蚊が増殖したとみている。【11月16日 毎日】
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【円借款でマタバリ港開発 インドへの「一大物流ルート」に】
国際関係では、例によって中国の「一帯一路」事業の話もありましたが、親インド派のハシナ政権によって中止になり、かわって、日本からの円借款で港湾開発が行われています。

****バングラデシュで進む港湾開発、円借款でインドへの「一大物流ルート」に…中国「一帯一路」に先手***
ベンガル湾に面するバングラデシュ南部マタバリで、大型船が入港可能な深海港の開発が日本の円借款で進んでいる。日印がインド北東部で整備を進める道路と連動させる狙いだ。

インド洋への出口であるベンガル湾の開発で、インドと東南アジアのつながりが強化されることになる。インド洋進出をもくろむ中国に先手を打つ効果もありそうだ。

深さ16メートル
(中略)深さ16メートルの深海港は2027年に完成予定で、コンテナや一般貨物用のターミナルを備える。近くの臨海部では、24年夏までに完成予定の火力発電所も建設中で、燃料の石炭運搬用の港や防波堤は完成済みだ。

深海港は大型船も接岸でき、国際協力機構(JICA)幹部は「現在はシンガポールやスリランカの港で実施している小さな船への積み替えが不要になる」と利点を強調する。

バングラデシュでは現在、チッタゴン港がコンテナ貨物の98%を扱うが、深海港が完成すればマタバリ港が4割に上昇する見通しだ。

物流の中核
川が入り組み、海抜が低いマタバリ周辺は高潮などの影響を受けやすく、社会基盤(インフラ)整備が遅れていた。主産業は漁業やエビの養殖、製塩で、低所得層が多い地域とされる。

14年の日バングラ首脳会談で、ベンガル湾臨海部の輸送網整備やインフラ開発で合意したことを受け、マタバリを物流や重化学工業、エネルギー供給の中核とする取り組みが始まった。道路を含む港湾設備の総事業費は約3000億円で、うち円借款で7割が賄われる。

約20年後には近くに計3400ヘクタールの工業団地を整備する構想もある。

中国の事業を中止
マタバリ港と、インド北東部トリプラ州の間では幹線道路の整備が日本の円借款で進んでいる。トリプラ州では、バングラ東部アカウラと結ぶ鉄道も完成し、今月1日に開通式が行われた。

道路や港が完成すればインドから同湾へ抜ける一大物流ルートとなり、周辺地域の経済発展も見込める。バングラのムハンマド・アラム国務大臣(外交担当)は「インドとの連結性向上を進めていく」と意気込む。

一方、中国は巨大経済圏構想「一帯一路」の一環として、ミャンマー経由で中国とベンガル湾を結ぶ経済回廊を整備している。

中国はマタバリの南約25キロのソナディアで深海港の建設を進めようとしたが、地元メディアによると、20年に中止された。親印派のシェイク・ハシナ政権が、印側に配慮したとされる。政権としては、ベンガル湾を巡る開発はインドとの協力を重視していく考えだ。

外交筋は「バングラはマタバリ港整備にプライドをかけている。政局によって事業の成否が左右される心配はないだろう」と話す。【11月6日 読売】
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「インドとの連結性向上を進めていく」・・・・インドからすれば、インド本土と「インド北東地域」の間にバングラデシュが位置しており、インド本土からの物資はバングラデシュを大きく迂回する必要がありました。

(【2023年6月23日 日経】)

今後バングラデシュのマタバリ港が整備され、「インド北東地域」トリプラ州と鉄道・道路で連結され、インド本土からマタバリ港に海上輸送し、そこからバングラデシュを通過してトリプラ州へ輸送されることになると、インド・コルカタから「インド北東地域」トリプラ州への輸送距離は3分の1程度に短縮されることになります。

****バングラデシュとインド北東地域の連結性(1)****
バングラデシュは、インドの東に位置する国というイメージが強いかもしれない。しかし、実は、東西北の三方をインドに囲まれている。

そのバングラデシュを取り囲むように立地するインドの地域は、「7姉妹州(Seven Sisters))と呼ばれる(具体的には、(1)アルナーチャル・プラデシュ、(2)アッサム、(3)マニプール、(4)メガラヤ、(5)ミゾラム、(6)ナガランド、(7)トリプラの7州)。これに、(8)シッキムを加えた8州で「インド北東地域」(以下、北東地域)が構成される(図1参照)。

近年、その地政学的な位置づけから、この地域とバングラデシュとの連結性が注目を集めている。

この連結性への関心の高まりは現地だけにとどまらない。日本政府が打ち出す外交方針(「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」)の中でも、南アジア地域の連結性は重要テーマの1つになっている。

実際、今年4月のバングラデシュのシェイク・ハシナ首相来日時にも、岸田文雄首相が「ベンガル湾産業成長地帯(BIG-B)構想の下、日本とバングラデシュ間の協力をインド北東部の開発と有機的に連結させていくことで、相乗効果を生み出していきたい」と首脳会談にて発言している。(後略)【2023年8月1日 JETRO】
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現在、インドとバングラデシュの経済関係は意外と小さいものにとどまっています。

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バングラデシュとインドとの間の貿易は、もともと活発とは言えない。世界銀行のレポートによると、バングラデシュの全貿易額に占めるインドの構成比は、10%にとどまる。インドの貿易に占めるバングラデシュに至っては、わずか1%だ。

東アジアやサブサハラアフリカでは、域内貿易の割合がそれぞれ50%、22%を占める。そうした地域と比較して、いかにも少ないと言わざるを得ない。【同上】
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上記のバングラデシュを通過するトランジット輸送は(クリアすべき問題は多々あるものの)こうした状況の突破口になると期待されます。
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