(“愛が出会う街”湖南省長沙市【1月5日 日テレNEWS】)
【出生数は7年間で半減 60歳以上の高齢者の比率は20%超 増加する「空巣老人」】
中国の2023年の出生人口は902万人。今世紀以降のピークだった2016年からの7年間で約半分に減少しています。
****中国の出生数が「7年間で半分」に急減 その根底にある根深い「不信感」とは****
中国の昨年2023年の出生人口は902万人。今世紀以降のピークだった2016年の1786万人から、わずか7年間で約半分に減った。
この事実が与える影響は甚大だ。中国社会ではこれから数十年かけて幼稚園から小・中学校、高校・大学への進学、新卒就職、結婚・出産など、人の生活にかかわる、さまざまなイベントが順番に「7年で半分」のペースで縮小していくことになる。
出生数急減の背景には、出産や子育て、進学などの費用の高さに加え、子供を育てやすい社会・労働環境の不足などの問題がある。
しかし、それ以上に大きいのは、政府の人口政策に対する庶民の不信感だ。ついこの間まで非人道的と思われるまでの措置を講じて子供の数を減らしてきたのに、いつの間にか「出生数の減少は国家的危機」と、多産奨励の方向に転じた。
国策としての「計画生育」は破綻したのに、政策の過ちを認める様子もない。過去に泣く泣く出産を断念した親たちの思いは複雑だ。
一部の知識人たちの間からは「出産、生育の自由を国家から庶民の手に取り戻すべきだ」との主張も出てきている。
中国は伝統的に「家」や「家族」のつながりを重視し、子供を大切にする社会である。それだけにこの問題の社会的影響は大きい。(後略)【2024年5月17日 田中信彦氏 NECwisdom】
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少子化と同時に高齢化も進行。
“若年人口の減少は、中国社会の高齢化率の上昇につながる。中国民政省などの推計によれば、総人口に占める60歳以上の高齢者の比率は2023年末までに20%を超えた。”【2024年11月15日 東洋経済online】
少子高齢化の急速な進行によって、独居または配偶者のみと生活する高齢者の増加が問題となっています。
****中国の高齢者「独居または夫婦で生活」が6割に接近 少子化で家族介護は限界、政策的支援が急務に****
中国社会の少子高齢化の趨勢がますます鮮明になりつつある。10月21日に公表された最新の調査データによれば、中国の60歳以上の高齢者のうち独居または配偶者のみと生活している(子供や親族などの同居人がいない)比率が、2021年時点で全体の6割近くに達したことがわかった。(中略)
独居または配偶者のみと生活している高齢者は、中国では「空巣老人」(訳注:雛鳥が巣立って親鳥が取り残された状態にたとえた比喩)と呼ばれる。今回の調査によれば、高齢者全体に占める空巣老人の比率は59.7%に上り、2010年と比べて10.4ポイント上昇した。 ■
介護の担い手が不足
その内訳を見ると、独居者は高齢者全体の14.2%、配偶者のみと生活する高齢者は同45.5%を占めた。一方、子供と同居している高齢者は全体の33.5%、その他の親族などと暮らす高齢者は同6.8%だった。
空巣老人がますます増加する中、子供の数は逆に減少の一途をたどっている。(年老いた親の介護を子供が担う)伝統的な「家族介護モデル」を維持するのはもはや難しいのが実態だ。
「少子化の加速が家族介護のキャパシティを低下させている。客観的に見て、家族介護への政策的サポートや(施設介護などの)社会的な介護サービス体系の整備を急ぐ必要がある」 中国の高齢者政策の諮問機関である中国老齢協会は、今回の調査の解説文でそう提言した。
今回の調査によれば、自己申告ベースで「自立した生活を送っている」と回答した高齢者は全体の88.4%、「自立生活が部分的に困難」な高齢者は7.1%、「自立生活が(完全に)困難」な高齢者は同4.5%だった。
同じく自己申告ベースで、調査対象の高齢者の13.2%が「日常生活で他者による介助が必要」と回答し、そのうち83%が「実際に介助を受けている」と答えた。言い換えれば、介助の必要を自覚している高齢者のうち、17%は十分な支援が得られていないということだ。
介護費用の負担能力も不足
家族介護に頼れない高齢者は、老人ホームなどの介護施設に入居する選択肢がある。しかし今回の調査からは、高齢者の費用負担能力が不足している現実が浮かび上がった。
介護施設への入居を希望する高齢者に負担可能な費用を質問した結果は、月額1000元(約2万1049円)未満が46.1%と半分近くを占め、同1000~2999元(約2万1049~6万3125円)が38.2%、同3000元(約6万3146円)以上が15.8%だった。
だが、介護施設の実際の費用はほとんどの高齢者の負担能力を上回っている。2023年に北京市で実施された調査によれば、重度の認知症など要介護度が高い高齢者の場合、介護サービス費用はおおむね月額7000元(約14万7340円)を超える。【2024年11月8日 東洋経済online】
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【少子高齢化対策にあの手この手】
少子高齢化は個々のレベルでは上記のような介護の問題を惹起していますが、国家全体では労働力減少や年金制度の維持困難をもたらします。(日本も同じ)そのため、中国では今年から段階的な定年延長がスタートします。
****中国 今年から定年を延長 少子高齢化に伴う労働人口減に対応****
中国はきょう(1月1日)から定年を段階的に延長します。急速に進む少子高齢化に伴う労働力の減少に歯止めをかけたい考えです。
中国はきょうから15年かけて定年を段階的に延長します。1978年に今の定年制度が始まって以来、見直しは初めてのことで、男性は60歳から63歳に、女性は、幹部は55歳から58歳に、その他の職員は50歳から55歳に引き上げるということです。
少子高齢化が急速に進む中国では2035年ごろまでに60歳以上が4億人を超え、労働人口が大幅に減少すると予測されており、定年の引き上げはこうした問題に対処するためとみられています。
ただ、都市部の若者の失業率が17%を超えるなど、若者の就業問題が大きな課題になっており、定年の延長は若者の雇用機会を奪うのではないかという懸念も広がっています。
また、定年の見直しに伴い年金のルールも変更され、年金を受け取るための保険料を支払う期間は現在の15年から20年に段階的に延長されるということです。【1月1日 TBS NEWS DIG)】
中国はきょうから15年かけて定年を段階的に延長します。1978年に今の定年制度が始まって以来、見直しは初めてのことで、男性は60歳から63歳に、女性は、幹部は55歳から58歳に、その他の職員は50歳から55歳に引き上げるということです。
少子高齢化が急速に進む中国では2035年ごろまでに60歳以上が4億人を超え、労働人口が大幅に減少すると予測されており、定年の引き上げはこうした問題に対処するためとみられています。
ただ、都市部の若者の失業率が17%を超えるなど、若者の就業問題が大きな課題になっており、定年の延長は若者の雇用機会を奪うのではないかという懸念も広がっています。
また、定年の見直しに伴い年金のルールも変更され、年金を受け取るための保険料を支払う期間は現在の15年から20年に段階的に延長されるということです。【1月1日 TBS NEWS DIG)】
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高齢化自体は“すでに起きた事実の結果”であり自動的に進行しますので、そのことを政策的にどうこうすることはできません。できるのは対策です。
少子化の方は“これからの問題”ですから、婚姻や出産への政策的関与によって動かすことも一応“可能”ではあります。
****中国政府、「少子高齢化」の歯止めにあの手この手****
産休・育休制度や保育サービスの充実打ち出す
中国は今、少子高齢化の加速という社会的課題に直面している。そんな中、中国政府が新たな少子化対策を打ち出した。国務院弁公庁が10月28日に発表した「出産支援政策の改善の加速により子育てにやさしい社会の建設を促進する措置」がそれだ。
2023年の中国の出生数は902万人にとどまり、1949年の(中華人民共和国)建国以来の最低記録を更新した。それに伴う若年人口の減少は、中国社会の高齢化率の上昇につながる。中国民政省などの推計によれば、総人口に占める60歳以上の高齢者の比率は2023年末までに20%を超えた。
育児費用の所得税控除も
国務院弁公庁の新対策には、出生数の健全な増加を促す一連の措置が盛り込まれた。
例えば、女性の出産前後の支援に関しては、産休・育休制度の改善を進める。具体的には中国各地の地方政府に対して、法に定められた産休・育休を(母親と父親が)確実に取得できるよう、産休・育休制度の充実と実施状況の監督強化を指示した。
さらに、育児助成金などの制度を整備し、地方政府が積極的かつ着実に実施することも求めた。その中には、3歳以下の乳幼児の育児や教育にかかる費用を、個人所得税の特別控除の対象にする案などが含まれている。
幼児期の子育て支援に関しては、保育サービスの供給増加を打ち出した。その実現に向け、地方政府が託児所や保育園に対して運営補助金を支給することや、保育サービスに対する税金や公共料金の減免、保育業界向けの人材育成プログラムの策定などを求めている。
また、少子化の要因になっている子供の教育費や住宅価格の高さ、女性の職場復帰などの問題に関しては、質の高い教育サービスの供給増加、住宅支援対策の充実、労働者の権利保障の強化などを提起した。
子供が複数なら支援手厚く
さらに小中学校期の支援については、学校での学童保育サービスや体験活動プログラムを積極的に展開し、児童・生徒の多様な学習ニーズに応えるとともに、保護者の送迎の負担を軽減するとしている。
国務院弁公庁の新対策は、複数の子供をもうけた世帯が住宅を購入する場合の支援拡充にも踏み込んだ。地方政府に対して、公的住宅基金の貸付限度額の増額などを検討するよう指示した。
企業などに対して、出産後の女性の再雇用を促す政策の強化も打ち出した。とりわけ妊娠中や出産後の女性労働者への支援を手厚くし、出勤・退勤時間の弾力的な運用や在宅勤務などのサポートを法に基づき提供するよう、雇用主への働きかけを強める。【2024年11月15日 東洋経済online】
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【個人の意識・選択に踏み込む当局対応 若者は反発】
習近平国家主席は、さらなる取り組みが必要との認識を示しています。
****中国少子化対策、さらなる取り組み必要=習国家主席****
中国の習近平国家主席は、出生率の低下と人口規模の縮小を食い止めるためにさらなる取り組みが必要との認識を示した。国営新華社通信が15日に報じた。
16日に中国共産党の機関誌に掲載される記事の中で、習氏は人口動態を改善するために、人口と生殖に関する法制度を強化すべきと指摘した。
中国の出生率は昨年、過去最低を記録し、人口規模でインドに抜かれた。高齢化は中国の年金制度に負担をかけており、2015年に「一人っ子政策」を撤廃したものの、出生率を高めるのに苦慮している。
習氏は長期的にバランスの取れた人口増加を促進するために、出生支援政策を確立・改善し、労働力供給を増やすために、人材育成を強化する必要があるとの見解を示した。
さらに、「人口の安全保障」を確保するために、人口と経済、資源の間の調整も改善すべきと訴えた。【2024年11月15日 ロイター】
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出産・育児補助に関する制度的な対応の面では中国も日本もそう大きな差異はありませんが、「一人っ子政策」を国民に強制したような国家ですから、少子化対策においても、さすがに「強制」とはいきませんが、個人の意識・選択にかなり踏み込んだ政策をとる体質があります。
中国は低迷する出生率を押し上げるため、大学に対し結婚、恋愛、出産、家族に対する肯定的な考え方を強調する「愛の教育」を提供するよう促しているとも。【2024年11月15日 ロイター】
そうした意識変革のモデルタウンみたいなものが湖南省長沙市にあるとか。
****「中国式の恐怖」国から“押しつけられる”結婚と出産 著しい少子化を背景に…****
「これは中国式の恐怖だ」中国で最近、作られた結婚を推奨する施設に、SNSで寄せられたコメントだ。どうして結婚が恐怖なのだろうか。施設を取材すると、見えてきたのはトップダウンで結婚や出産を強烈に勧める強引な施策の実態だった。
■“愛が出会う街”の目的は…
2024年11月、中国南部の湖南省長沙市を訪れると、まず目についたのは商店街の入り口に掲げられた「愛がこの街と出会う」という大きな看板だ。さらに、ハートや花のモチーフと共に「長沙の恋は超甘い」などと、見ていて恥ずかしくなるようなメッセージが並ぶ。
これらの飾り付けの目的は、若者の結婚や出産を後押しすること。地元政府らが整備し「婚育文化街」と名づけられたこの街だが、訪れる人の姿はまばらだった。
■「結婚学校」の過激な主張に冷ややかな若者
特に目玉とされていたのが「結婚学校」と呼ばれる、若者向けに結婚や出産にまつわる情報を発信する施設だ。日本のメディアとして初めて内部を取材すると、さっそく出迎えてくれたスタッフは「前向きに報道してほしい。国が重視する重要な宣伝だ」と口にした。
その言葉を裏付けるように、施設に入るとすぐ習近平国家主席による“重要記述”と題した文章が掲げられていた。人口を増やすことの重要性を説いた上で、国の政策として「子づくりの社会的価値を尊重する」「年齢に応じた結婚と子育てを推奨する」などの言葉と列挙されている。
奥へ進むと、国の政策に関するクイズや主張が並んでいた。「20代は精子と卵子の黄金活躍期だ。この年齢で生まれた子供は他の段階より脳や体の発育が一層、優れている」「高齢化と少子化が加速しているので、国は3人産むことを提唱している」などと主張していて、結婚の素晴らしさを説く訳ではなく、早く子供を産むよう強く促す展示が続いていた。
長沙市民はこうした取り組みに冷ややかだ。ある30代の女性は結婚を推奨する主張自体は認めつつも、「少子化を女性だけの責任にしようとしている」と反発した。また10代の女性は「ここに結婚学校があると、みんな早く結婚しろという意味合いが出て逆効果だ。気分が悪くなる」と不快感をあらわにした。
施設を紹介したSNSにも批判が殺到し、「これは中国式の恐怖だ」などのコメントが寄せられた。取材を終え私たちが施設を去る際にもスタッフが「SNSで批判されているから顔は隠してほしい」と申し出るなど、彼らもこの取り組みが市民から支持されていないことを自覚しているようだった。
■背景には著しい“少子化”が…
どうしてこのような“押しつけがましい”政策が行われているのか。背景には、中国で深刻な「結婚件数の減少」と「出生率の低下」がある。
中国・民政省が発表した2024年1月から9月の結婚件数は約475万組と、前年の同じ時期より100万組近く減少し、初めて500万組を割って史上最低になった。さらに去年生まれた子供の数は902万人と、7年間で約半分にまで落ち込んだ。2016年に「一人っ子政策」を撤廃した後も少子化に歯止めはかからず、「子供を増やすこと」が国家目標になっているのだ。
習主席は「若者の恋愛や結婚、出産、家族観への指導を強化する」よう指示していて、それを受けた地元政府などが「結婚学校」などの取り組みを進めている。
「結婚学校」が作られた長沙市以外に、北京市内の公園でも「適切な年齢で結婚し子育てをしよう」と呼びかける看板が掲げられ、その下には家族の人形が並んでいる。そこにいる子供の人形の数は、国が提唱する「3人」だった。街中にある小さな公園にいたるまで、習主席の号令実現に向けたスローガンを人々にすり込むための場になっている。
■「個人の意思が尊重されるべきだ」
しかし、結婚や出産をめぐる問題を中国の若者に聞くと、聞こえてきたのは様々な“圧力”だった。「結納金が高い」「経済不況だけど教育費が高い。子供を良い学校に入れなければ競争を勝ち抜けないから仕方ない」など、金銭面を心配する声が聞かれた。
一方、複数の女性が口にしたのは、結婚や出産に対して個人の考えがないがしろにされているという不満だった。ある10代の女性は「自分が楽しいと思えれば結婚する。人それぞれ自分の生き方がある。他人から考え方を強制されるべきではない」と話した。
妊娠中の女性にも話を聞くと、彼女は少し考え込んだ末にきっぱりと答えた。
「これは個人の意思の問題だ。国の政策が良いか悪いかは分からない。でも、人々の結婚や出産への考え方も環境もそれぞれだから、もっと個人の意思を尊重すべきだ」【1月5日 日テレNEWS】
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習近平氏も「人それぞれ自分の生き方がある。他人から考え方を強制されるべきではない」といった意識が強まる国民を相手にして、昔みたいな共産党的手法は難しくなっています。この少子化問題に限らず。
****中国、トップダウンの少子化対策に限界 若者は冷ややかな反応****
中国中南部の都市・長沙で開催されたブライダル産業フェアで、鮮やかなピンクのネオンサインが「子どもは3人がベスト」と語りかける。来場者には婚活のヒントも配布されるし、男性が腹部に装置を装着して陣痛の痛みを疑似体験することもできる。
こうした結婚をテーマにしたイベントが行われる背景には、中国が人口減少に歯止めをかけるべく結婚や出産の推進を試みているという事情がある。
だが、来場者は少ない。時代に逆行している、女性軽視である、むしろ結婚への意欲を削いでいるという批判も出ており、政府の狙いが裏目に出た形だ。
ソーシャルメディアのユーザーからは、「家事って最高」「子育てに最適」「宿題を教えるのに最適」といったイベントでのスローガンは、固定的なジェンダー観を補強するものだという声が上がる。
中国の短文投稿サイト微博(ウェイボ)で「Jianguo」というハンドルネームを名乗るユーザーは、「どれも女性に向けたスローガンだ。やるべきことは家事の分担のはずなのに」と投稿した。【2024年11月9日 ロイター】
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