(【1月25日 AFP】 厚い氷床が融解し、文字どおりの“グリーンランド”になる日も・・・その時世界は・・・)
【世界最大の貯水槽 想定を上回るペースで進むグリーンランド氷床の融解】
地球温暖化が人類の生存・生活に及ぼす影響は様々なものがありますが、一番わかりやすいもののひとつが海面上昇とそれにともなう水没する国々・都市でしょう。
この世界を水浸しにしてしまう大量の水の供給源“貯水槽”となっているのがグリーンランドを厚く覆う氷です。
****沈みゆく国あれば、上昇する国あり****
グリーンランド住民の誰のせいでもないが、おそらくモルディヴ諸島は消滅するだろう。ツバル諸島も消滅するだろう。キリバスも、マーシャル諸島も、セーシェル諸島も、バハマ諸島も、カーテレット諸島も。
バングラデシュは少なくとも国土の5分の1を失うだろう。フィリピンのマニラ、エジプトのアレクサンドリア、ナイジェリアのラゴス、パキスタンのカラチ、インドのコルカタ、インドネシアのジャカルタ、セネガルのダカール、ブラジルのリオデジャネイロ、アメリカのマイアミ、ヴェトナムのホーチミンの大半も水没するだろう。
これらの土地を水浸しにするだけの水量が、世界最大の貯水槽であるグリーンランドの氷床(島の81パーセントを覆う内陸部の氷の塊)に貯えられている。
1996年以来、氷床が解ける割合は毎年7パーセントずつ増している。いつの日か完全に解けてしまったら、世界の海面は6メートル以上上昇する。(マッケンジー・ファンク著『地球を「売り物」にする人たち』74-77ページより抜粋)【3月23日 ダイヤモンド社書籍オンライン】
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具体的な数字については誰も正確なところは知りえませんので、様々な研究・報告があります。
“国連(UN)の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が発表した最新の報告書は、この(海面上昇)の数字を約12センチとしている。これはすべて、西南極氷床(West Antarctic Ice Sheet)と呼ばれる比較的狭い区域の融解によるものだ。また、水温上昇に伴う海水の膨張や、氷河やグリーンランドの氷床の融解などを含むあらゆる要因を考慮したとしても、今世紀末までに海面の総上昇値が1メートルを超える可能性は低いとも”【3月31日 AFP】
ただ、グリーンランドの氷床の融解がハイペースで進んでいることが多くの研究で報告されています。
****未来の海面上昇、100センチは不可避 NASA****
地球温暖化による海面上昇についての最新データが示しているのは、今後100~200年間で100センチ以上の上昇が起きるのは避けられないということ──。米航空宇宙局(NASA)の科学者チームが26日、このような発表を行った。(中略)
研究チームは特に、グリーンランド(Greenland)の氷床に注目している。この氷床からは過去10年間にわたって年間平均3030億トンの氷が流出した。また、南極氷床からも年間平均1180億トンの氷が失われている。
だが、氷床の崩壊はこれまで一度も確認されていないため、海面がいつ大幅に上昇するかという問題は大きな謎になっている。(後略)【2015年8月27日 AFP】
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****グリーンランド氷床の融解速度、近年倍増 観測研究****
デンマーク領グリーンランドの氷床では、2003年~2010年の期間に、20世紀全体のペースの2倍の速さで質量が失われたとの研究結果が16日、発表された。氷床の融解は、陸地を浸食する海面上昇の重大な一因となる可能性があるとされている。(中略)
この研究論文にについて、ネイチャー誌の要約記事では「最近観測された、グリーンランド氷床の質量消失量の増加と、その結果として生じた海面上昇の加速は、小氷期以降で初の現象と思われると、論文の執筆者らは説明している」とあり、また「観察される質量消失と海面上昇の全体的傾向は、当分の間継続する可能性が高いことを、論文執筆者らは示唆している」とも記されている。【2015年12月17日 AFP】
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*****グリーンランドの気温が過去最高に、氷床の融解進む****
デンマーク領グリーンランドの気温が今夏、観測史上最高を記録した。デンマーク気象研究所(DMI)が13日、発表した。氷床の一部は例年よりもかなり早い時期に融解を始めており、北極圏の温暖化が続いていることを示す新たな証拠とDMIは述べている。(中略)
グリーンランド氷床の融解は海面上昇の大きな潜在的要因。2003~2010年の間だけで、20世紀全体のペースの2倍の速さで氷床の質量が失われている。【9月14日 AFP】
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****グリーンランドの氷床融解、推定より7%速いペース 研究****
デンマーク領グリーンランドの氷床がこれまで考えられていたより約7%速いペースで解けていることが、科学者らが今週発表した研究論文で明らかになった。
米科学誌「サイエンス・アドバンシズ」に掲載の論文は、南極に次いで世界で2番目に大きいグリーンランドの氷床融解による、海面上昇への影響増に懸念を示した。(中略)
論文の主著者である米オハイオ州立大学のマイケル・ベビス教授(地球科学)は、7.6%の違いについて、「かなり小さな訂正」と述べる。その上で「グリーンランド全体の推定消失量が大きく変わるわけではない。だが、氷床内で消失が起きてきた場所、今現在消失が起きている場所についてのわれわれの理解により大幅な変更をもたらす」と続けた。(後略)【9月23日 AFP】
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当然ながら融解がハイペースで進むのはグリーンランドだけでなく、南極も同様です。
“温室効果ガスの排出が現在のペースで続くと、南極の氷の融解によって海水面が2100年までに1メートル上昇する可能性があるとする研究結果が(3月)30日、発表された。これは、海面上昇に関するこれまでの予測値の2倍に相当するという。”【3月31日 AFP】
「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の予測はかなり“控えめ”で、実際はもっとハイペースでより大きな変動が生じつつあるのでは・・・・という見方・懸念が少なくないようです。
【温暖化の「恩恵」で経済成長 将来的には本国から経済的にも自立し、独立も】
そうした温暖化で注目を集めているグリーンランドですが、通常目にする地図ではメルカトル図法の関係でおそろしく巨大な島になっていますが、実際は面積2,166千k㎡ということで、オーストラリアの3分の1以下です。
それでも日本の5.7倍ですから、巨大な島であることにはかわりありません。
この島はデンマーク領ですが、住んでいるのは混血も含めてイヌイット系の人々を中心に5~6万人程度のようです。
“全島の約80%以上は氷床と万年雪に覆われる。巨大なフィヨルドが多く、氷の厚さは3,000m以上に達する所もある。居住区は沿岸部に限られる”【ウィキペディア】と、これまでは大きいだけで経済的利用価値はあまりない島でしたが、温暖化で水没する国々・地域とは反対に、今後その利益を最大に享受しそうな島です。
****温暖化を逆手に経済発展めざせ、グリーンランド****
地球温暖化を食い止めようと世界が奮闘を続けるなか、グリーンランド(デンマーク領)では気温や海水温の上昇を新たな漁業や輸出拡大、農業技術の革新につなげようとの動きがある。
■多様化する漁業
北極海と北大西洋の間に位置するグリーンランドでは、輸出の大半を地元で「ピンク・ゴールド」と呼ばれるエビに頼ってきた。だが海水温の上昇に伴い、ほかの種類の魚もとれるようになったのだ。(中略)
いまやグリーンランド東部の漁師たちは、夏になれば地中海やメキシコ湾で産卵を終えて北上してきたサバやタイセイヨウクロマグロを水揚げする。
これは、(中略)高齢化を支える歳入増を求めているヌークの自治政府にとっては新たな輸出機会をもたらすものだ。
デンマーク技術大学のブライアン・マッケンジー海洋生態学教授は「今世紀も夏の気温上昇が続けば、グリーンランド東部沖では毎夏クロマグロが回遊するようになるだろう」と予測する。(中略)
■温暖化で農業が豊かに
その一方で、氷床の融解がもたらす利点もある。氷で削られてできる「岩粉」はミネラルが豊富で、肥沃な土地に恵まれない国々で農業に役立てることが可能だ。グリーンランドの人々にとっては厄介でしかない岩粉だが、アフリカや南米に輸出すれば岩粉の養分が不毛な土地を豊かな農地に変えてくれる。
さらに温暖化はグリーンランドの農業にも恩恵をもたらす。グリーンランド南部では夏季の気温が上がったことでジャガイモの生産量が増え、将来的には輸出を見込んだ生産規模の拡大がのぞめそうだ。(後略)【1月25日 AFP】
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漁業や農業も今後拡大が見込めますが、もっと手っ取り早い“経済的価値”は豊富な地下資源の開発が可能となりつつあることです。
現在は“1979年5月に自治政府が発足し高度な自治権を獲得した。2008年11月、グリーンランドで自治拡大を問う住民投票が行われた。開票の結果、賛成75.54%、反対23.57%で承認された。”【ウィキペディア】と、自治権を有する自治政府が統治していますが、経済的には本国デンマークからの補助金に依存しています。
しかし、地球温暖化の影響で氷が解け出しており、これまで厚い氷に覆われ採掘が困難であった地下資源の採掘のスピードが速まると期待されています。
その“取り分”については本国デンマークと協定があり、将来的な「独立」も視野に入っているようです。
****気候変動の「恩恵」に沸くグリーンランド****
・・・・陸地では氷河が後退して、亜鉛、金、ダイヤモンド、ウランの巨大な鉱床が現れつつあった。
彼らは採掘によって自らを解放するつもりだった。デンマークとの協定では、グリーンランドは最初の1500万ドルの取り分を除いた鉱物資源収入をデンマークと折半することになっている。
収入が増えるにつれ、現在6億5000万ドル交付されているデンマークからの補助金は削減される。最終的には5年から10年、あるいは15年から20年で、温暖化が進んで生産量が増えれば補助金はゼロになり、グリーンランドは晴れて独立を宣言する。【3月23日 ダイヤモンド社書籍オンライン】
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“グリーンランドの地下には中東地域に匹敵する量の原油が存在する”【ウィキペディア】とも。
それら以外にもいろいろ。
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世界大手のアルミニウム・メーカーのアルコアが建設し、島の豊富な川の水を使った水力発電で稼働させる、処理能力が年36万トンの世界最大のアルミニウム精錬所の計画が立てられた。
2隻の船が、デンマーク海峡を横断する高速インターネットケーブルの敷設を終えたばかりだ。これによって、グリーンランドからアイスランドまで、さらには北アメリカまでつながった。
また、安価な電力と高緯度という長所を利用して、サーバーファーム(グーグルやシスコやアマゾン向けのコンピューター・プロセッサーを収めた施設)を設置する計画もあった。「普通こういう施設には大規模な空調が必要です」とミニックは説明した。
解ける氷そのものを利用する計画まであった。水の輸出だ。「グリーンランドの氷床は推定170万立方キロメートルで、世界最大の貯水槽です」と、氷・水資源事務局のウェブサイトは豪語していた。投資家は「200万年の歴史の詰まったボトル!」を売ることができる、と。【同上】
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あれもこれも・・・今後急速にグリーンランドは様変わりしそうな勢いです。
環境保全の問題もあるでしょうが、この勢いは止まらないのでは。
【「パリ協定」からのアメリカの脱退を公約するトランプ候補】
グリーンランドほどドラスティックではないにしても、全世界の多くの地域で、これまで利用されてこなかった土地の利用価値が高まったり、あるいは逆に利用できなくなったりという変化が起きるでしょう。大変なことです。
世界中の英知を集めて対応していく必要がありますが、アメリカではトランプ候補が「パリ協定」からの脱退を公約しています。
****「パリ協定離脱すれば環境に深刻な影響」 科学界がトランプ氏非難****
温室効果ガスの削減に向けた新たな国際枠組み「パリ協定」からの米国の脱退を公約した米大統領選の共和党候補、ドナルド・トランプ氏を非難する書簡が公開され、これまでに世界各地の科学者400人近くが署名した。書簡は、同氏が当選すれば環境に深刻な影響を及ぼしかねないと警鐘を鳴らしている。
20日にウェブサイト「responsiblescientists.org」に投稿された公開書簡は「(パリ協定から離脱する)『パリグジット』が現実のものとなれば、人間が引き起こす気候変動という地球規模の問題に米国は留意しないという明確なメッセージを送ることになる」と指摘。
「この世界的な枠組みから脱退すれば、地球の気候にとっても米国の国際的な信頼にとっても、長期にわたって厳しい結果がもたらされるだろう」と警告している。
書簡には既に世界中の科学者375人の署名が集まっており、世界的に有名な英宇宙物理学者スティーブン・ホーキング氏や、ノーベル物理学賞の受賞者でもあるスティーブン・チュー前米エネルギー長官らも名を連ねている。
トランプ氏は、米科学誌サイエンスの出版人から気候変動について見解を問われた際、この分野では「調査すべきことがたくさんある」と述べるにとどめ、代わりに浄水計画や食料増産、マラリアなどの病気撲滅のために資金を拠出する可能性に言及した。
一方、民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官は「科学は非常に明白だ。気候変動は差し迫った脅威であり、われわれの時代に取り組むべき課題だ。その影響はすでに世界中の家庭で感じられている」と答えている。
2015年に仏パリで開催された国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)第21回締約国会議(COP21)では、出席した約190か国の首脳らが気候変動は危機であり、解決する必要があるとの認識で一致している。【9月22日 AFP】
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困ったことに、トランプ候補勝利の可能性が次第に大きくなる流れにあります。
当初は“泡沫”と見られていましたが共和党候補者を手中に。どうせクリントン候補には勝てない・・・と言われていましたが、それも怪しくなっています。
エリート科学者が何を言おうが、そうしたエスタブリッシュメントに背を向けるトランプ候補支持者には全く響かないでしょう。
パリ協定からは離脱、「聡明で有能」と評価するプーチン大統領と協調し、東アジアは中国にまかせてアメリカ国内に専念する、世界各地の人権問題などおかまいなし・・・・アメリカ国民が選んだ大統領でアメリカがどうなろうが自業自得ですが、世界まで道連れにされるのは困った話です。