孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

温暖化対策  アメリカ・中国が“前向きな”温室効果ガス削減目標提示

2014-11-25 21:55:12 | 環境

(APEC終了後、再びスモッグに霞む北京市街 ただ、“APECブルー”は、当たり前のことではありますが、規制を行えば青空が戻ることも改めて人々及び中国政府に認識させました。 「会議中だけでなく、普段から何とかしろよ!」という不満も強まるでしょう。 “flickr”より By 居居之路 https://www.flickr.com/photos/83817210@N02/15850344402/in/photolist-pMjHfL-pLJShb-p6KJjx-q9Dab3-pJw1V1-q4eE8Z-pMJuqt-pQNYPK-pdnCoB-pMV6zp-q4tCfM-p8zGmc-q5jw2X-q5jxzX-p8zGVZ-q6bWw5-pdnCnp-pJQi8W-q7LKFs)

新たな温暖化対策の国際枠組み合意に道筋も
先のAPECを舞台にした各国間、特にアメリカと中国の駆け引きについては多くが報じられていますが、そうしたパワーゲーム的なものには、個人的には辟易する感もあります。それが日本を含む国際社会の現実ではありますが・・・。

そのなかでもやや明るいものとしては、温室効果ガス削減に向けて、これまで動きが鈍かった二大排出国でもある両国が前向きな削減目標を明示したことがあります。
もちろん、これも両国の思惑が背後にあるものでることにはかわりありませんが。

****<温室ガス削減>米中の新目標、国際枠組みに道筋****
温室効果ガスの2大排出国の米中がそろって前向きな削減目標を示したことで、来年末に期限が迫る新たな温暖化対策の国際枠組み合意に道筋が見えてきた。

オバマ米大統領は「2025年までに05年比26~28%削減」を打ち出した。「20年までに同17%削減」を掲げてきたが、米ホワイトハウスは声明で「20~25年は削減ペースを倍にする」と明言。

シェールガス量産化で二酸化炭素(CO2)排出量の多い石炭から天然ガスへの転換が進んでいることが積極策の背景にある。温暖化交渉に詳しい高村ゆかり名古屋大教授は「かなり野心的だ」と評価する。

中国の習近平国家主席は、CO2排出量を「遅くとも30年ごろをピークに減少させる」と約束し、総量削減の時期に初めて踏み込んだ。

従来は国内総生産(GDP)当たりの排出削減目標しか示さず、実際の総排出量は右肩上がりだった。産業革命以降の気温上昇を2度未満に抑える国際目標達成には、中国が早期に総量削減に転じることが不可欠で、近年は途上国の間からも批判が出ていた。

9月の国連気候変動サミットで、米中は20年以降の削減目標を「来年3月までに提出する」としていた。
歩調を合わせて前倒しした背景には、12月の国連気候変動枠組み条約第20回締約国会議(COP20)に向けた戦略がある。日本政府の交渉担当者は「目標の姿を早々と示すことで、交渉の主導権を握る意思は明らかだ」と指摘した。

中国では「産業構造の変革はあらゆる利害の調整が伴い、至難を極める」(公衆環境研究センターの馬軍代表)のが現実だが、米中で温暖化対策で協力する姿勢を見せられれば、世界に対するアピールになるという計算ものぞく。オバマ政権にとっては、削減に消極的な共和党の説得にも中国との連携は有効だ。

一方、欧州連合(EU)は警戒を隠さない。EUは10月に先陣を切り「30年までに1990年比40%以上削減」の目標を決めた。ヘデゴー気候変動担当欧州委員は12日、短文投稿サイト「ツイッター」で「(中国の排出ピークが)30年ごろは遅すぎる。2度目標は達成できるのか」と疑念を示した。【11月12日 毎日】
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アメリカ国内では批判も
アメリカ国内、特にオバマ大統領との対決姿勢が強まっている野党・共和党は、今回目標設定について、アメリカにとっては負担が重く、中国には甘いものだと批判しています。

****米中温室効果ガス削減合意に反発 共和党、大統領と新たな火種****
 ■「非現実的計画 後任に押しつける」
米中首脳が会談で合意した温室効果ガス排出量の削減目標に対し、米国内では12日、共和党が強く反発し、オバマ政権との新たな対立要因として浮上した。

12日に北京での首脳会談で合意されたのは、(1)米国は温室効果ガス排出量を、2025年までに05年比で26~28%削減(2)中国は30年ごろをめどに排出量を減少させ、非化石燃料の比率を20%にする-という内容。

これに対し、共和党のマコネル上院院内総務は「合意に動転した。非現実的な計画であり、それを後任の大統領に押し付けることになる。公共料金は上がり、雇用は大幅に減るだろう」と非難した。

オバマ大統領はこれまで、議会での審議を回避し、大統領権限を行使する形で二酸化炭素(CO2)排出規制などを打ち出している。

これを踏まえ、マコネル氏は「排出規制はすでに米国内で混乱を引き起こしているにもかかわらず、中国には(30年までの)16年の間、何も求めないのか」と憤りを見せた。

ベイナー下院議長も「(今回の合意は)手頃で信頼性が高いエネルギーを撲滅しようという、大統領の運動だ」と批判した。

共和党は産業界の意向を背に、オバマ政権の気候変動対策に強く反対してきた。それだけに合意は火に油を注いでおり、先の中間選挙で大勝し、来年1月からの新議会で上下両院を握る共和党は、「新議会での優先議題だ」(ベイナー氏)と色をなしている。【11月14日 産経】
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共和党議員に加え、産炭州出身の民主党議員も合意に反対の立場で、アメリカの新目標の今後は、国内政治動向にも左右されそうです。

米中ともに“石炭離れ”が背景に
アメリカ・中国がここにきて足並みをそろえて前向きに見える目標設定を行った背景には、両国で進む“石炭離れ”があると指摘されています。

“この両国の声明の背後には米中の同じ動きがある。石炭離れだ。中国は、発電の80%を石炭で賄っている。米国はシェール革命のおかげで、石炭から天然ガスへの燃料転換が進み、石炭火力の比率は減少したが、それでも40%を石炭火力に依存している。化石燃料のなかで、CO2を最も排出する石炭の消費量を削減したいというのが、オバマ大統領と習主席共通の思いだ。”【11月19日 WEDGE】

アメリカ国内には、上記共和党の批判に代表されるような、石炭業や産業界からの石炭消費削減への反対もありますが、オバマ政権としては、石炭より近年増産が進むシェールガス、オイルを推進するほうが、アメリカ経済にメリットをもたらすとの判断があります。

すでに“今年の6月には既存の火力発電所からの規制値を環境保護庁は発表した。大気浄化法に基づき既設の発電所からのCO2の排出を削減する案だ。05年との比較で30年に火力発電所からの排出量を30%削減することが全米の目標とされ、州毎に目標値が割り振られた。”とのことで、新目標値の“25年に26%から28%削減”は、“30年に30%の火力発電所を対象とした削減目標”と大きな違いはないとも言えます。

“05年が基準年に選定されたのには理由がある。過去最大の排出量の年なのだ。それから、排出量は減少を続け12年時点で既に15.8%減少しているのだ。30%の目標値の半分以上達成済みであり、それほど達成は難しくない可能性はあるが、石炭産業には大きな影響がありそうだ。”【同上】ということで、オバマ大統領としては、新目標も射程距離にあるとの判断のようです。

中国の石炭離れの背景には、“APECブルー”として再び話題にもなった深刻な大気汚染があります。
中国は世界一の石炭生産国であり、消費国ですが、その石炭消費が深刻な環境汚染を惹起していることは周知のところです。

“今年3月の全国人民代表大会では、李克強首相が開会の演説で「貧国と環境汚染に対し宣戦布告を行う」と述べ、スモッグを「非効率で盲目的な開発に対する自然の警告」と称した”【同上】ということで、石炭消費を抑制するために、発電部門における原子力、水力、風力、太陽光などの導入を中国政府は進めています。

この結果、すでに国内石炭生産及び需要は減少に転じています。
また、中国政府は、大気汚染改善のために石炭輸入量と品位も制限する意向を示しています。

従って、「遅くとも30年ごろをピークに減少させる」という新目標は、今の流れでいけばおのずと達成されるものでもあるようです。

*****需要減で石炭生産量も削減し始めた****
・・・・もともと大気汚染対策で石炭使用量の削減を始めたと言える中国だが、石炭の消費量が抑制されれば、CO2の排出量も抑制される。(中略)

中国のCO2排出量の約8割は石炭の燃焼によるものだ。大気汚染対策のための石炭使用量抑制が、そのまま温室効果ガス排出抑制に大きく結びつく。

世界のCO2排出量のうち43%が石炭の燃焼からのものだ。中国の石炭の排出量比率の高さは世界の中でもずば抜けている。

それゆえに石炭対策が温室効果ガス排出減に容易に結びつく。30年までに排出量のピークを迎えるという中国の目標は、石炭離れが始まった中国では当たり前のことを言っているだけのように取れる。【同上】
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そんな事情もあって、中国政府は目標達成に自信を示しています。

****中国 気候変動対策に決意と自信****
中国政府が発表した、二酸化炭素の排出量を2030年ごろまでに減少に転じさせるという目標について、政府の高官は「気候変動対策に当たる決意と自信を示している」と述べ、排出量が世界最大の国として国際社会への責任を果たす姿勢を強調しました。(中略)

また解副主任は、今月開催されたAPEC=アジア太平洋経済協力会議の期間中、車の規制などの特別措置によって北京では、大気汚染が一時的に改善したことにも触れ、「北京で青空を常態化させることも不可能ではない」と述べ、化石燃料への依存を減らすなど気候変動対策を進めることが大気汚染の改善にもつながるという考えを示しました。【11月25日 NHK】
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【「緑の気候基金」】
原発を含めたエネルギー政策が不透明な日本は、温室効果ガス削減目標を打ち出すことができずにいます。

20日、日本を含む国々が、発展途上国の温暖化対策を支援するために93億ドル(日本は15億ドル)を拠出することを表明しています。

****発展途上国の温暖化対策支援 93億ドル拠出へ****
来月ペルーで温暖化対策を話し合う国連の会議、COP20が開かれるのを前に、日本を含む20余りの国が、発展途上国の温暖化対策を支援する「緑の気候基金」に最大で93億ドルを拠出すると表明しました。

「緑の気候基金」は、途上国の温室効果ガスの削減策や温暖化による被害を軽減する対策を支援するために設けられ、来年後半に実際に運用が始まる見通しで、20日、ドイツのベルリンで、各国に基金への拠出を募る会合が開かれました。

会合のあとの記者会見で、緑の気候基金のシェイクフルーフー事務局長は、21か国から最大で93億ドル(日本円でおよそ1兆900億円)の拠出が表明されたことを明らかにしました。

このうち、アメリカが30億ドル、日本が15億ドルを拠出すると表明したほか、パナマやモンゴルなどの一部の途上国も拠出に応じたということです。

温暖化対策を巡っては、来月ペルーで開かれるCOP20で新たな枠組みについての交渉が行われますが、先進国と途上国の間では今後の削減目標や資金援助の額などで対立が続き交渉は難航しています。

今回、先進国が中心となって巨額の資金援助を表明したことについて、シェイクフルーフー事務局長は、「COP20を控えたわれわれに新たな期待や熱意を抱かせる前向きな結果だ」と述べ、難航する交渉の進展に期待を示しました。【11月21日 NHK】
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京都議定書でも、クリーン開発メカニズム (CDM 先進国が開発途上国に技術・資金等の支援を行い温室効果ガス排出量を削減、または吸収量を増幅する事業を実施した結果、削減できた排出量の一定量を先進国の温室効果ガス排出量の削減分の一部に充当することができる制度)が認められていますが、国内での削減が難しいレベルにもある日本としては、途上国支援を通じた実績を重ねていくことが、これまで以上に重要になるのではないでしょうか。

もっとも“国内での削減が難しいレベルにもある”とは言っても、最近話題の水素を使った燃料電池自動車(FCV)のようなイノベーションがあれば事情は一変します。

画期的なイノベーションはともかくとしても、“米中環境協力により、エネルギー・環境技術の協力がさらに進む可能性がある。日本の技術を利用し途上国で温室効果ガス削減に協力するというのが、日本の方針の一つだが、うかうかしていると日本の技術が陳腐化するということを忘れてはいけない。デフレの時代に欧米が日本に差をつけた技術もある”【11月19日 WEDGE】ということで、常に技術革新を助成・誘導していく社会・経済システムが必要です。
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地球温暖化  IPCCは目標達成の「道筋はある」とは言うものの・・・

2014-11-04 21:42:54 | 環境

【11月03日 毎日】

目標達成に許容される排出量のすでに3分の2を排出してしまった。それでも「道筋はある」】
2日に公表された地球温暖化に関するIPCCの報告を各紙が報じています。

****IPCC報告書:温暖化、30年で許容上限 迅速対応迫る****
国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は2日、地球温暖化を巡る最新の研究成果をまとめた第5次統合報告書を公表した。

今のペースで温室効果ガス排出が続けば、今世紀末には人々の健康や生態系に「深刻で広範囲にわたる後戻りできない影響が出る恐れ」が高まり、被害を軽減する適応策にも限界が生じると予測。(中略)

有効な対策を取らない場合、今世紀末の世界の平均気温は2・6〜4・8度上昇。海面は最大82センチ上がる。

2度以上の上昇で穀物生産に悪影響が表れ、4度以上で食糧安全保障に大きなリスクが生じるとした。

さらに、アジアで暑熱による死亡率が非常に高まるなど、「温暖化の規模や速度が大きいほど、人が適応できる限界を超える可能性が増す」と警告した。【11月3日 毎日】
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4度上昇した場合、例えば、アフリカでは作物生産や人々の生計が被害を受ける恐れが、小さな島国では低い土地や沿岸部で洪水や浸水のリスクが、アジアでは熱暑による死亡率が、海岸ではサンゴの白化・死滅が、北米では河川や沿岸部の洪水被害が、それぞれ非常に高まると分析されています。

総じて言えば「恵まれない境遇の人々や地域がより大きなリスクを抱える」と警告されています。【11月3日 毎日より】

今世紀末までの気温上昇を2度未満に抑えるという国際目標の達成には、産業革命以降の世界全体の二酸化炭素(CO2)の累積排出量を、約3兆トンに抑える必要があるとのことですが、すでに約2兆トンを排出しており、現在のペースで排出が続けば、あと30年で限界を超えると指摘されています。

「もう後がない」とも言えますし、「まだ何とかなる」とポジティブに見ることもできます。

これまでできなかった排出抑制が、今後急に改善するだろうか?・・・というのはもっともな疑問ではありますが、そう言ってしまっては身も蓋もありませんので、ここは敢えてポジティブに考えて、「難しいけど、まだ道筋はある」というのがIPCCの姿勢のようです。

****気温上昇2度未満に抑える「道筋ある」 IPCC報告書****
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、地球温暖化に関する第5次評価報告書の仕上げとなる統合報告書をコペンハーゲンで開かれた総会で承認し、2日公表した。

温室効果ガスの排出をこのまま続けると世界的な影響が深刻化するが、それを避けるために国際社会が目指す気温上昇を19世紀末の工業化前と比べて2度未満に抑える目標について、「道筋はある」と明記した。

国連で進められている温暖化対策の交渉は年末から本格化するが、対策に早急に乗り出すか否か、国際社会に決断を迫る内容となった。(中略)

IPCCは特定の政策を決める機関ではないが、国際社会が掲げる2度目標を中心に長期的な対策を分析。「2度未満に抑制するための可能性が高い道筋は複数ある。そのためには今後数十年で大幅な排出削減が求められる」と踏み込んだ。

具体的には、目標達成のために、世界全体の温室効果ガス排出量を2050年に半分ほど、今世紀末にほぼゼロにする道筋を描いた。

このほか、現状以上の追加的な削減策が取られないと、食料不足など深刻で取り返しのつかない世界的な影響をもたらすリスクが「高い」~「非常に高い」状態になると警告した。

人間がこれまで出してきた累積の二酸化炭素排出量と気温の上昇量はほぼ比例するというのが第5次評価報告書の新しい見解。

2度未満に抑えようとすれば累積量は約2兆9千億トン。すでに3分の2を排出してしまったという数字も初めて明記された。

現在の排出量が続くと20年ほどで温暖化の深刻な状況を避けられる可能性は閉ざされてしまう。

主な削減技術としては、バイオ燃料や、二酸化炭素を地中に閉じ込めるCCS(二酸化炭素回収貯留)、原子力、風力・太陽光利用を挙げた。

こうした削減策をとると経済成長が鈍くなるなどのデメリットをもたらすが、対策が遅れると問題はさらに大きくなることも指摘した。【11月3日 朝日】
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【「実現不可能な目標を追い続けるふりをすることで、各国政府は気候変動への大規模な適応策に乗り出す必要から目をそらすことができる」】
“目標達成のために、世界全体の温室効果ガス排出量を2050年に半分ほど、今世紀末にほぼゼロにする道筋を描いた”・・・・昨今の気候変動に関する会議での各国の交渉・議論を見ていると、気が遠くなるような目標にも思えてしまいます。

EUのように気候変動問題への対応を国際影響力を高める上で戦略的に位置づけている国々は別として、新興国や途上国が今後の経済成長を犠牲にして温暖化に取り組むとはなかなか・・・・。

****目標「気温上昇2度以下」は無意味****
・・・・摂氏2度という目標値が最初に注目を集めたのは1990年代初めのこと。

当時、複数の国際的な科学委員会が、人 類や他の生物が過去1万2000年にわたって適応してきた比較的安定した気候条件を維持し、気候変動による干ばつ や熱波、海面上昇がもたらす深刻な被害を一部阻止する方法として、摂氏2度という上限値を提案した。

その後、2009年にデンマークのコペンハーゲンで開催された「国連気候変動枠組条約第15回締約国会議 (COP15)」においてまとめられた「コペンハーゲン合意」でも、気候システムへの“危険な”人為的影響を避け る水準として、地球の平均気温の上昇を2度以下に抑えることが盛り込まれた。

「採用された摂氏2度という数値には、科学的な根拠がほとんどなかった」と、Nature誌に寄せた記事の中でビク ター氏は述べている。

「それでも、その数字は1つのわかりやすい焦点を示し、それまでの議論でもなじみがあっ た。(中略)当時、摂氏2度というのは大胆でありながら、おそらくは実現可能な目標に思えた」。

多くの国や活動団体にとって、この目標は「ほとんど信仰に近いもの」になったと、イギリスのティンダル気 候変動研究センターに所属するアンドリュー・ジョーダン氏は近年発表した論文の中で述べて いる。

「この目標に疑問を投げかけることは、(中略)気候変動の問題に団結して取り組む理由そのものに異議 を唱えるのに等しい」。

不可能で誤解を招く目標
しかし、ビクター氏のような批判派は、この目標が事実上達成不可能になった今、この数値が呼び起そうとし ている取り組み自体の妥当性が揺らいでいると主張する。

予測モデルの中には、摂氏2度以下の目標は依然として 達成可能だとするものもあるが、それらのモデルは、例えばすぐさま世界が足並みをそろえて努力する、または 新たな技術が急速に広く採用されるといった“大胆な想定”に基づいている。

「また、この実現不可能な目標を追い続けるふりをすることで、各国政府は気候変動への大規模な適応策に乗り出す必要から目をそらすことができる」とビクター氏らは解説記事の中で述べている。(中略)

ビクター氏もオッペンハイマー氏も、摂氏2度という目標が容易に達成可能でなくなりつつあるという点では見 解を同じくしている。「目標を達成できない可能性は高い」とオッペンハイマー氏は述べる。

「それでもなおこ の数値は、われわれが留まるべき、また立ち戻るべきレベルについての科学的見解を示している。この目標を逃 したからといって、地球が爆発したり、気候政策が終わりになるわけではない。ただわれわれが達成し損ねた事 実を明確に示すというだけだ」。【10月2日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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単純明快な目標を掲げるというのは運動論としては有意義なことではありますが、いかんせん事実上達成不可能になりつつある感は否めません。

近々に、現実を踏まえた仕切り直しも必要になるのではないでしょうか。

CO2が商品となる日もそう遠くない?】
CO2削減技術としては、コストを要するものよりは、利益に誘導されるものの方が普及しやすいと言えます。
その意味で、CO2を回収して新たな商品を生み出す技術の開発が期待されます。

****CO2回収貯留、収益化のきざし****

二酸化炭素(CO2)の排出量を削減し、地球温暖化を食い止めようという取り組みはなかなか進まない。だが、企業がCO2から利益を得ることができるとしたらどうだろう?

CO2が商品となる日はそう遠くなさそうだ。米国だけでも多くの企業が、排出されたCO2を漂白剤、ベーキングパウダー、自動車のシート、オムツ、燃料などの日用品の製造に必要な化学物質に変換させられないかと試みている。

これらの企業は環境保護に貢献しているだけではない。こうした試みは商業化されつつあり、企業は堂々と利益を追求している。ジェット燃料だけでも2010年の市場規模は2000億米ドルに達しており、将来性のあるビジネスとして注目されている。

「世界は炭素回収の方向に向かっている。これがビジネスになるとわかれば、ますます積極的に取り組む企業が増えるだろう」と、テキサス州オースチンの企業、スカイオニック(Skyonic)社のスポークスマン、ステイシー・マクダイアミッド(Stacy MacDiarmid)氏は語った。

同社は、発電所等、CO2排出量の多い産業拠点の近くにプラントを設置し、排出されるCO2を回収する。回収したCO2に塩や水を加え、電気を使って高純度の炭酸水素ナトリウム(重曹)、塩酸や漂白剤を生産する。同社は今月末にも最初の商業的CO2回収プラントを建設する予定で、この事業から5000万ドルの年間収益を見込んでいるという。

マサチューセッツ州ベッドフォードに拠点を置くジュール(Joule)社も注目すべき企業だ。遺伝子操作した藍藻を触媒にCO2と日光、水を化学反応させ、自動車用燃料を作る。

このテクノロジーではCO2という廃棄物から直接、燃料を作ることができるため、化石燃料を使用する必要がない。

ジュール社が開発する燃料は燃焼エンジン内で使用でき、理論上は電気自動車を利用しなくても、環境に負荷をかけずに自動車を走らせることができる。うまく行けば、この燃料は1バレル50ドル(1リットル当たり約32セント=約34円)ほどで販売される見通しだ。

大気中のCO2の有効利用はビジネスとしても、また環境保護の観点でも大きな効果が期待出来る。現在、温暖化対策の切り札とされているCO2の回収貯留(CCS)技術から大きなステップを踏み出すことになる。

CCSとは、廃棄物からCO2を分離し、加圧により液体化して地中の適した地層に埋め、長期間貯留する技術だ。この方法を使えば、大気中からCO2を取り除くことはできるが、かかるコストが非常に大きいため、商業的なインセンティヴがない。

燃料やケミカルの分野は市場規模が大きいため、CO2を有効利用すれば、利益が生まれるだけでなく、大気中のCO2量を大幅に削減することができる可能性がある。

プラスチック容器や塗料、マットレスのクッション材、紙おむつの基本材料であるポリマー分野でもCO2の利用が可能だ。

マサチューセッツ州ウォルトハムのノボマー(Novomer)社がこれに目を付けた。現在、ポリマー業界では採掘量全体の7~8%の石油やガスを使用しており、環境に大きな負荷をかけている。

ノボマー社の技術で、化石燃料の使用量が半分に削減されるという。独自の触媒を使い、CO2または一酸化炭素中の炭素分子を一般的な化学原料と反応させる。CO2はプロピレンや酸化プロピレンなどの石油由来の原料の50%を代替する。同社は、ガス会社からCO2を買い取ることで、生産コストを現在の20分の1に削減できる見込みだという。

自動車、靴、家具、テキスタイル用の熱溶融性接着剤、住宅・ビル用硬質フォーム断熱材、そして金属、プラスチック、木材の加工・保護用コーティング材などを製造販売している。【10月10日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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企業がCO2から利益を得ることができるようになれば、局面は大きく変わります。
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温暖化を“中断”する「海洋の熱吸収」 「海の酸性化」で“海の死は既に始まっている”

2014-09-10 23:12:55 | 環境

(バルセロナの魚市場 “flickr” より By Tristan Ferne https://www.flickr.com/photos/tristanf/1367879288/

海洋の熱吸収で温暖化はあと10年間は減速か その後は・・・
2000年頃まで急速に進んできた温暖化のペースが、今世紀に入ってからスローダウンしているそうです。

温暖化を防止するべく取られた対策、つまりは人類の英知の成果・・・・という訳では決してなく(実際のところ、何ら有効な対策を撮りえず、先進国とその他の国々の間で利害対立の議論ばかりが続いているのは周知のところです)、熱が海に吸収されているからではないかという指摘があります。

****地球温暖化の「中断」、深海への熱の貯蔵が原因か****
最近15年間に地球表面の温暖化が減速しているように思われるのは、大西洋と南極海の深海に熱が閉じ込められていることが原因かもしれないとの研究論文が、21日の米科学誌サイエンスに掲載された。

このようなサイクルは20~35年続く傾向があり、熱が表層水に戻れば再び温暖化が加速する可能性が高いことを今回の研究結果は示唆している。

論文の共同執筆者の一人、米ワシントン大学のカーキツ・トン教授(応用数学)・非常勤教授(大気科学)は「温暖化の中断に関しては、毎週のように新たな解釈が提示されている」と語る。
「われわれはその根本にある原因を探るため、海洋で得られた観測結果を調べた」

同教授と中国海洋大学のシャンヤオ・チェン氏の研究チームは、最大水深2000メートルの海水のサンプリングを行う調査用フロートを用いて深海の水温を観測した。

その結果、深海に沈む熱は1999年頃より増加し始めたことが分かった。これは、20世紀の急速な温暖化が横ばい状態になり始めた時期と一致する。

研究チームによると、地表では増大する温室効果ガスが捕捉する太陽熱の量が増加しているにもかかわらず、海面温度はほとんど変化しないという現象がどのようにして起こり得るかは、深海水へ移動する熱の増加で説明がつくという。

また従来の研究結果に反して、太平洋は熱の隠れ家にはなっていないことも判明した。(中略)

同教授は「海水の塩分によって引き起こされる循環サイクルが存在し、これによって大西洋と南極海の深海に熱が蓄えられる」と付け加えた。

「加熱期に急速な温暖化が30年間続いた後、現在は冷却期に入っている」
 現在の温暖化の減速はあと10年間続く可能性があり、その後に急速な温暖化傾向に戻る可能性が高いと研究チームは話している。

今回の研究は、全米科学財団(NSF)と中国国家自然科学基金委員会(NSFC)より資金供与を受けて行われた。【8月22日 AFP】
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海洋が熱を吸収して温暖化が止まる訳ではなく、“現在の温暖化の減速はあと10年間続く可能性があり、その後に急速な温暖化傾向に戻る可能性が高い”とのことで、今後“つけ”が回ってくるということのようです。しかも、年後という非常に速い時期に。

大気中のCO2の急増で海水の酸性化が進行
二酸化炭素など温室効果ガスの増加は、気温の上昇と同時に、CO2が海水に吸収されることによる海の化学変化(酸性化)を引き起こします。

****CO2濃度が過去最高に 13年、海水の酸性化も懸念****
世界気象機関(WMO)は9日、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)の2013年の地球の平均濃度(年平均)が1984年の統計開始以来、最高値の396ppmを記録したと発表した。

CO2濃度は増加傾向が続いており、前年からの増加幅は2・9ppmで、過去最大となった。

発表によると、産業革命前の1750年との比較で、2013年の大気中のCO2の量は推計で約1・4倍。工業化にともなう化石燃料の使用増加などが要因だ。

他の主要な温室効果ガスであるメタンは約2・5倍、亜酸化窒素も約1・2倍に達しているという。

また、大気中のCO2の急増で海水の酸性化が進み、生態系への悪影響が懸念されている。

人間の活動で出たCO2の4分の1は海に吸収されるとされ、海水の酸性化が進む。現在の海水の酸性度は過去3億年において最悪とみられ、今後もこの傾向は続く見込み。

サンゴや藻類、プランクトンなどを始めとした生物に様々な悪影響を及ぼすと考えられる。【9月10日 朝日】
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サンゴが死滅するというのは、“美しいサンゴ礁の海が見られなくなる”といった話ではなく、もっと深刻な問題をもたらします。地表で酸素を供給しているアマゾンの熱帯雨林が消滅してしまうような話です。

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このまま海のアルカリ度が下がっていけば、サンゴ礁の材料である炭酸カルシウムを海水が腐食し、サンゴは死滅しかねないということだ。

サンゴ礁は、4000種の魚類を含む海洋生物の25%の生存に不可欠なものと推測されている。つまり海の熱帯雨林だ。この脅威に関するクレイパスの論文は99年に科学誌サイエンスに掲載され、世間への警告となった。

ここから「海の酸性化」という言葉が生まれた。【8月26日 Newsweek日本版】
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実際のところ、どの程度「海の酸性化」が進んでいるかについては、“「産業革命以前の時代、海水のpH値は8.2だった。今では8.1まで下がっている」とペレジェロは言う。「私たちの対応次第では、今世紀末には平均7.8か7.7になる。5500万年前以来の低さだ」”【同上】とのことです。

昔、学生時代に酸とアルカリを使用した粗雑な中和滴定などを行いpH値の変化を追ったこともありますが、そのときの不届きな印象からすれば、“8.2が8.1に・・・・誤差の範囲じゃないの? 大体、産業革命以前のpHがどうやってそんなに正確にわかるの?”とクレームをつけたくもなりますが、“今世紀末には平均7.8か7.7”ということになると、あきらかな海洋生態系の変化をもたらすでしょう。

長い地球の歴史で見ると、かつて酸素がなかった時代に、海洋の光合成生物が大増殖して酸素を大量に放出し、この有害物質である酸素によってそれまでの生物は死滅・退避し、変わって酸素を使う生物が主役に躍り出ることになった・・・・というようなダイナミックな変動があります。

「海の酸性化」もそうした変動の一環として、5500万年に実際に起きているそうです。
酸性度が高くなると炭酸カルシウムの貝殻が溶けてしまいますので貝類は死滅します。

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約5550万年前の暁新世と始新世と呼ばれる地質年代の問に、極端な温暖化が10万年ほど続いた時期(PETM)がある。
この時期に入ると「それまでは貝殻の化石で真っ白だった堆積物が、急に赤に変わる」とペレジェロは言う。「貝が消えた証拠だ。再び白くなるのに10万年以上かかっている」【同上】
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更に、海水の化学変化と温度変化によって、海底の堆積物に混ざっている安定したメタン化合物が分解され、大量のメタンガスが大気中に放出される可能性もあります。

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メタンガスの温室効果は二酸化炭素の何倍も大きく、過去にも地球温暖化を加速させたことが知られている。海底堆積物のサンプルからすると、大量の海洋生物が消滅し、海の表面温度が4~6度も上昇したPETMの時期にもメタンの放出が起きていた可能性がある。

当時の海面は今よりも最高で100mも高かった。現在のヨーロッパの大部分、北米の北東沿岸部、南米のアルゼンチンが水没するレベルだ。

ペレジェロが憂慮するのは変化の速さだ。「PETMの時期には今よりも海水のpH値が低かったと考えられるが、今回は変化が10倍も速い。これでは生物が進化や適応を通じて生き延びる時間が足りない」と、ペレジェロは言う【同上】
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“今世紀末には平均7.8か7.7”ということであれば、その変化スピードはPETMの時期の10倍どころではなく、桁違いの激変ではないでしょうか。

こうした「海の酸性化」だけでなく、魚など海洋生物が生きられない「デッドゾーン」の増加も指摘されています。

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汚水や大気中の二酸化炭素、海へ流出した化学肥料が植物性プランクトン(藻類)の栄養となり、大発生を引き起こす。
大発生した藻類の死骸は海底に沈み、腐敗の過程で酸素を消費する。そのため一帯は低酸素ないし無酸素状態となり、酸素を必要とする生物が死滅する。
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魚類を食べられるのは金持ちだけ
藻類が死骸が出す有害物質もあります。こうして魚が住めない「デッドゾーン」が増加します。
“その数は60年代から飛躍的に増え、今では全世界で400ヵ所もあると考えられている。”【同上】とのことです。

なお、クラゲは酸性化に強いそうで、“一説によれば、今世紀末の庶民が口にできる海産物はプランクトンとクラゲだけで、たまにしか市場に出ない魚類を食べられるのは金持ちだけだという。”【同上】とも。

「海の酸性化」「デッドゾーン」に加えて、人口増大に伴う乱獲の進行もあるでしょうから、上記の光景は近未来の予測としては非常にありうる光景のように思えます。

上記記事の結論としては、“「環境の変化に適応できる生物もいるが、実際には耐えられずに消えていく種のほうが多い。海の死は既に始まっているのだ”ということです。

わからないけれども・・・・
気候変動や海洋の環境については、わからない部分が多々あります。と言うより、断定できるものがほとんどないと言うべきでしょう。

****<エルニーニョ現象>発生の確率は5割 秋から冬にかけ*****
気象庁は10日、異常気象の原因となる「エルニーニョ現象」について、秋から冬にかけて発生する可能性は5割程度と発表した。

エルニーニョ現象は、南米ペルー沖の赤道海域で、海面水温の高い状態が続くことで発生する。日本で夏に発生すると冷夏に、冬は暖冬になりやすい。

同庁は4月、同現象の発生を今夏と予想。その後、7月に「秋から冬にかけて発生の可能性が高い」、8月には「秋から冬にかけて発生する可能性がこれまでよりやや低下した」と修正している。【9月10日 毎日】
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この話について、TVで面白い解説を行っていました。

予測発表文は文字数が少ないものほど確信が強く、曖昧な表現が増えるほどに文字数が多くなるそうです。
で、気象庁の発表は、4月の文字数が少ない断定的予測が、7月、8月と次第に文字数が増えるものとなっていましたが、今回9月発表は文字数が減ったそうです。

確かに、断定的な予測になったのですが、その予測内容は“可能性は5割程度・・・つまり、わからない”ということです。“わからない”ということを断定したという話です。

別に気象庁をからかうつもりはありません。
今の科学では、“わからない”というのが正直なところなのでしょう。

今年のエルニーニョについてすら、そういったレベルですから、今後の「海洋の熱吸収」「海の酸性化」の予測など非常に難しいものがあるかと思われます。

しかし、誰が見ても明らかな事態となったときには、すでに後戻りできない段階に至っていることが予測されます。
多少の不確かさはあっても、早期に対応していく必要があるように思います。
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温暖化対策に乗り出す米中 食糧生産適地の変化で新たな「二十一世紀の南北問題」も

2014-07-12 22:07:54 | 環境

(グリーンランドの町Tinit 将来は文字通りの「緑の島」になるのかも。ただ、そのとき海面は・・・ “flickr”より By Jack Wolfskin https://www.flickr.com/photos/jackwolfskin/8802297007/in/photolist-epQ5ev-dtjJ5n-6Qw6MP-bJiq6r-epQ58K-epQ99F-epQ5Mi-eqLkH5-epQ4S4-dtjJ6z-duxsLP-epQ7p8-epQ7ki-epQ6mx-epQ8rx-eqLnEL-epQ7xk-epQ88e-eqLkc3-epQ6xX-eqLkgu-epQ6z4-eqLnc9-epQ6dg-bLf8Px-eqLnr3-mCbeQ-a89V3A-dzb1hU-aipC1M-dqDJTp-2aevy-86wcQ5-6ZgMCo-6QAaZJ-a8a6J7-3nFdzV-8H8q2Z-eBN8ig-5uxtv4-5nqadN-5nkNwg-dq9511-dxLMh4-aQQWLB-34zPqa-5nqadG-5nq8rd-4i5DUt-axkisS)

中国:環境汚染対策から温暖化への対応変化も
2020年以降の地球温暖化対策の新たな枠組みについて話し合う国連気候変動枠組み条約第20回締約国会議(COP20)の準備会合が先月4日~15日、ドイツ・ボンで開かれました。

各国は京都議定書に代わる新しい枠組みはについて15年末にパリで開かれるCOP21での合意を目指していますが、そのためには今年12月にペルー・リマで行われるCOP20で新枠組みの骨格の合意が必要となります。
今回の会議はそのCOP20での骨格合意のための準備会合という位置づけです。

温暖化防止策に関すしては、先進国が引き起こした現象であるから規制等の責任も先進国が負うべきとする途上国と、なるべく広い範囲で規制をかけて実効をあげたい先進国との意見の隔たり依然として大きなものがあります。

ただ、そうしたなかにあっても、これまで規制に消極的だった中国・アメリカがやや前向きの姿勢を見せています。
一方、日本は原発稼働停止状態ということもあって、長期的なエネルギー戦略が決められない状況です。

****温暖化対策:新枠組み合意期限まで1年半 日本は周回遅れ****
 ◇提出時期も焦点に
新枠組み交渉では、各国が20年以降の削減目標案をいつ提出するかも焦点になっている。提出時期が早いほど、その目標案が十分か互いに評価し合う時間が確保できるからだ。
昨年11月にポーランドで開かれたCOP19で「準備できる国は15年3月までに示す」ことを申し合わせた。

「来年の早期に目標を提出できるだろう」。6日に開かれた閣僚級対話で、中国の閣僚は初めて明言。
最大の排出国でありながら削減対策に後ろ向きとの批判を浴びてきたが、「パリでの合意を最大限支援する」と積極姿勢を見せた。

米国の代表も、環境保護局が2日に発表した国内発電所の二酸化炭素(CO2)排出量を30年までに05年比30%削減する温暖化対策案を説明し、来年3月までの提出を約束。

欧州連合(EU)の代表は30年までにEU全体で1990年比40%削減する案を「10月までに決定する」と宣言した。

こうした中、CO2排出量世界5位の日本は存在感を示せなかった。北川知克副環境相は「エネルギー政策の検討の進展を踏まえ、最大限野心的な目標を検討する」とあいまいな表現に終始した。

東京電力福島第1原発事故から3年以上過ぎても、原発や再生可能エネルギーの比率が決まらず、20年までの「05年比3.8%減目標」ですら「暫定」と位置付ける日本。
準備会合に参加した環境団体からは「周回遅れだ」との批判が上がった。【6月20日 毎日】
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深刻な大気汚染によって、中国も規制に向けて「重い腰」を上げつつあります。
シェールガス革命に沸くアメリカでは、オバマ大統領が任期中に気候変動問題で成果を上げたい思惑があります。
米中両国は、今月9日からの米中戦略・経済対話でも協調を演出しています。

****米中「気候変動で協力」 温室ガス削減、思惑に差 戦略・経済対話****
9日に始まった米中戦略・経済対話では、安全保障で対立が目立つ一方、気候変動への対応で協調を演出した。
世界1、2位の温室効果ガス排出国でもある両国は、天然ガス利用を後押しする国内事情も似ている。
だが、「大国」を巡る考え方の違いがここでも顔をのぞかせている。

中国の習近平(シーチンピン)国家主席は開幕式で、「気候変動への対応」を重要課題に挙げた。
国家発展改革委員会の解振華副主任は、両国が温室効果ガス削減に役立つ八つのプロジェクトに合意したことを紹介。「対話と同時に、実践でも効果をあげていく」と胸を張った。

中国は2006年、米国を抜いて世界最大の二酸化炭素排出国となった。これまでは「先進国とは発展段階に違いがある」として、経済成長にマイナスとなりかねない削減策に消極的だった。排出を減らすための総量目標も掲げていない。

だが、エネルギーの多くを石炭に頼った構造は、微小粒子状物質「PM2・5」などによる深刻な大気汚染を招いている。環境負荷の少ないエネルギー源への切り替えは切実な課題だ。
汚染対策と同時に、排出量も抑える方向へ「重い腰」を上げつつある。

オバマ大統領も9日の声明で「ここ数年、両国は気候変動で協力関係を大いに高めた」と成果を強調した。

オバマ政権は先月、石炭火力を大幅に減らす新規制案を公表。二酸化炭素の排出量を30年までに3割削減する目標を掲げた。
シェールガス革命が続くなか、天然ガスや太陽光発電など排出量が少ないエネルギーの活用を目指す。

国際社会では来年、20年以降の新たな温暖化対策の枠組み作りがヤマ場を迎える。残りの任期が3年を切ったオバマ政権は、中国も巻き込みながら新たな枠組み作りで主導権を握りたい考えだ。

数カ月前から「環境は主なテーマの一つになる」(米政府関係者)と強調するなど、当初から成果にしたい分野でもあった。

ただ米国側の出席者によると、この日の話し合いでも、20年以降の削減目標について踏み込んだ議論を求める米国側と中国側との溝が目立ったという。

米国のトッド・スターン気候変動担当特使は「(先進国と途上国という)二分論的な議論には賛同できない」と話し、「大国」と「途上国」の立場を使い分ける中国の姿勢に釘を刺した。【7月10日 朝日】
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温暖化で泣く国、笑う国
温暖化と言うと、そのネガティブな影響が前面に出てきます。
水没してしまう島国などは大問題ですし、温暖化の影響をトータルとして捉えても、人類にとって困った問題であるのは事実でしょう。

ただ、当然ながら、温暖化によって差し当たりの利益を得る国・地域・者もあります。
特に、食糧生産においては、これまでの産地が被害を受ける一方で、これまで生産に適さなかった地域・国が新たな生産地として浮上してきます。

すでに、そのような変化を見越した動きが顕在化しているそうです。

“フランスのボルドー、ブルゴーニュをはじめ欧州の著名なワイン産地では、過去三十年で平均気温が一・五~二度程度も上昇、ワインの質に変化が生じ始めた”一方で、“フランスとスペインの国境に沿って走るピレネー山脈。最高峰のアネート山はじめ三千メートル級の峰が連なる。スキーリゾートくらいしか使い道がないとみられていた山岳地帯の地価がこの数年、上昇している。別荘地やリゾート開発のためではない。買っているのはスペイン、フランスのワイン生産者たちだからだ”【下記 選択7月号記事】とのことです。

カナダのアルバータ、サスカチュワン、マニトバの三州の農地が値上がりしているそうです。
従来春小麦しか耕作できなかったのが、温暖化によって冬小麦やトウモロコシも可能になったためとか。

日本でもこれまでの「コメどころ」新潟県を生産量で北海道が上回ることもあるとか。
品質でも、新潟の「南魚沼産コシヒカリ」に代わって、北海道の「ゆめぴりか」「ななつぼし」や山形県の「つや姫」が美味しさでトップにランクされることが増えてきたそうです。

生産者の努力や品種改良もありますが、“北海道の気候が米作に最も向くようになった”ことも背景にあります。

下記はそうした事情を紹介して非常に興味深い記事です。
ただ、“だが、今、温暖化を悪用しようという農民、企業、土地業者が出現しているのだ”という表現はどうでしょうか?

温暖化の変化を利用すること自体は、“悪用”ではなく極めてまっとうな経済活動です。
そうしたプラス面の活用がないと、トータルのマイナスが更に膨らみます。

****温暖化で激変する「世界食糧地図****
南北格差と紛争の新たな「火種
・・・・気候変動はコメ、小麦など食糧生産にも及び、今世紀末には飢餓発生の予測も出始めた。
だが、今、温暖化を悪用しようという農民、企業、土地業者が出現しているのだ。(中略)

「今世紀末に地球の平均気温が今よりも二度上昇するとコメ、小麦、トウモロコシの三大穀物の生産は大きな打撃を受け、四度上昇すると、主食の生産そのものが困難になる」。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第二作業部会が今年三月末に公表した気候変動の食糧への影響の報告書は衝撃的な内容だった。

ただ、気温上昇を二度、四度などと仮定のものとしているために、一般の人の受け止め方はそれほど深刻ではなかった。

だが、その意味するところは今、生まれた赤ちゃんが老人になるころには地球では大規模な飢饉が生じ、食糧を奪い合う戦争が起きている可能性があるということだ。(中略)

このように気候変動は農業生産に大きな影響を及ぼしつつある。その大部分はマイナスの要因で、変化の方向も予測しにくい。人類にとっては、食糧危機のリスクが着々と高まりつつある。

だが、世界のなかには驚くべきことにこうした温暖化を歓迎する農家や企業、政府も少なくないのだ。
カナダの農家は冬小麦やトウモロコシの生産が可能になることで、一定面積から得られる収入は、少なくとも五〇%以上増えるとの試算がある。米国中部でもトウモロコシの二期作が可能になれば確実な収入増になる。

実はそうした穀物農家にとってのプラス要因は気温上昇だけではない。

大気中の二酸化炭素の濃度が高まることで、小麦やトウモロコシの光合成の効率が高まり、生育期間が短縮されたり、単位面積あたりの収量が増加したりする可能性が高いからだ。
二酸化炭素の「施肥効果」と呼ばれるもので、肥料の大量投入と同じような増産効果が今後、見込まれるという。

シベリアが小麦産地になる可能性
奇妙な一致がある。こうした気温上昇や二酸化炭素濃度の上昇による農業生産へのプラス効果を享受できる国は、二酸化炭素排出の最大の要因である石油、天然ガス、石炭など化石燃料の主要産地と重なるのだ。

コーンベルトが広がるカナダは在来型の天然ガス、石油に加え、サウジアラビアの原油埋蔵量に匹敵するといわれるオイルサンド、さらに開発ブームとなっているシェールガスの埋蔵量も少なくない。

従来型の天然ガス埋蔵量では世界トップクラスで、石油生産も世界二位のロシアはウラル山脈以西の従来の穀倉地帯は温暖化で干魃の影響を受ける。

だが、「不毛の大地」シベリアの永久凍土が解け、短い夏しかなかった土地が小麦生産に向くほどの暖かい土地になる可能性がある。

カナダ、ロシア、米国の農民、農業にとっては地球上の二酸化炭素排出がどんどん増え、温暖化が進み、二酸化炭素濃度も高まることは、実は歓迎すべき面があることを認識すべきだ。

さらにグリーンランドも温暖化で氷床が解け、原油開発が進み始めており、今世紀後半には南部沿海部に農地が生まれる可能性も指摘されている。
そうなれば連合で王国を形成するデンマークは、本国以上の面積の農地をグリーンランドに得るという予測もある。

天然ガス、石油、石炭の消費を抑制するよりも、化石燃料を世界に輸出し、温暖化を加速させた方がカナダ、ロシア、米国には一石二鳥の利益になる。

オバマ政権はここにきて、地球温暖化問題への取り組みを強め、石炭火力発電の抑制に動こうとしている。
だが、米国の農民票の八〇%以上は共和党支持で、民主党は農民に擦り寄っても、もともと票が取れないという隠れた事情がある。

オバマ大統領は地球温暖化への取り組み実績を残すだけで、実効があがらなくても構わないという発想だろう。
ポスト・オバマが共和党の大統領になれば、かつてのブッシュ政権のように温暖化対策のグローバルな協定から再び離脱しないとも限らない。

一方で、温暖化が進めば近い将来、確実に食糧問題に直面する国がある。その代表はバングラデシュとインドだ。両国ともコメが主食で、現状ではかろうじて国内生産で大人口を支えている。

特にバングラデシュは国土のほとんどが海抜十二メートル以下で、海岸部のコメ生産地域にはゼロメートル地帯も多い。

温暖化による海面上昇が進めば、国土の水没が加速し、沿海部の水田が次々に海に呑まれていくとともに、残った農地でも塩害が深刻化する。コメ生産が大きく減少するのは確実だ。

海水面の上昇は南太平洋の島嶼国の水没が注目されているが、バングラデシュでは食糧問題に直結する。

インドは近年、温暖化とともにモンスーン期の豪雨が激しさを増しており、米作地帯のガンジス川流域は大洪水で大きな人的被害を出すだけでなく、コメの生産でも冠水による稲の全滅など大きな打撃を受けている。

一方で、デカン高原などでは温暖化で干魃が恒常化。陸稲や小麦、トウモロコシの生産には不安が広がっている。

温暖化で笑う国と泣く国の対立
中国への影響は不透明だ。「江浙実れば、天下足る」と言われた長江下流域の穀倉地帯は海水面上昇の影響で塩害が懸念されているほか、大洪水の頻発という不安もある。

一方で、黒竜江省など北部はカナダと同様に温暖化で耕地面積が着実に拡大し、小麦、トウモロコシに加え、今や中国有数の水田地帯にもなっているからだ。

そのほか人口九千万人を抱え、世界最大の小麦輸入国であるエジプトは穀倉地帯のナイル・デルタの海抜が一~二メートルと低く、海水面の上昇で耕地が激減し、主食の輸入依存度がさらに高まる懸念がある。

一〇年末から中東地域でわき起こった「アラブの春」はエジプトのムバラク政権やリビアのカダフィ政権の長期圧政に対する不満だけでなく、穀物価格の値上がりが直接的な原因だった。

中東では地球温暖化による食糧危機が政治的不安定の度合いをさらに強める恐れがある。  

こうした気候変動の農業への影響を計算して動いている企業がある。世界の種子を支配するといわれる米モンサントなどだ。

干魃や降雨量への減少に対しては耐乾品種のトウモロコシ、小麦を開発、すでにアフリカやメキシコ、ブラジルに売り込んでいる。

アジアに対しては大洪水で二週間冠水しても生き残る稲が開発され、インド、タイなどで試されている。その多くは交配による品種改良ではなく、遺伝子組み換えだ。

さらに乾燥に伴う病害虫の発生に強い農薬も開発されており、種子・農薬メーカーには温暖化は巨大なビジネスチャンスになっている。

地球温暖化で笑うカナダ、米国、ロシアなど北に位置する国と温暖化で泣く南のインド、バングラデシュやエジプトなどの中東諸国。

地球温暖化は食糧、農業を通じて新たな「二十一世紀の南北問題」も引き起こそうとしている。温暖化はもはや将来の問題ではなく、足元の危機になりつつある。【選択7月号】
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ゾウの密猟、違法伐採など環境犯罪による利益がテロ組織・犯罪組織の資金源に

2014-06-26 20:54:05 | 環境

(牙を切断されたゾウの写真は正視にたえませんので、押収された牙の写真 6月5日、ケニア・モンバサで押収された象牙(ロイター=共同)【6月13日 時事】)

巨大な牙をもつ「サタオ」の死
ケニアで巨大な牙を持っていることで有名だったゾウが、象牙を目的とする密猟者によって殺されたそうです。

****巨大な牙で愛されたゾウ、サタオ殺害****
ケニアで最も愛されていたゾウの1頭サタオが命を奪われた。巨大な牙を得ることが目的だった。専門家たちは“とてつもない”損失だと嘆いている。

非営利団体(NPO)のトサボ・トラスト(Tsavo Trust)によれば、サタオはトサボ・イースト国立公園で毒矢に倒れた。矢を放ったのは密猟者で、サタオが苦しみながら息絶えるまで待ち、象牙を得るために顔を切断したという。
トサボ・トラストは一帯の野生生物と地域社会を守るために活動している。(中略)

サタオはとても目立つため、特別な保護を受けていた。それでも、守ることができなかった。
トサボ・トラストとケニア野生生物公社はこの18カ月、空と陸からサタオの動きを追っていた。トサボ・トラストによれば、「生前、サタオの巨大な牙は空からでも容易に確認できた」という。(中略)

1930~1940年代、アフリカ大陸には500万頭ほどのアフリカゾウがいただろうと推測されているが、現在は47万2000~69万程度まで減少している可能性が高い。国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは絶滅危惧II類に指定されている。

自然保護団体の見積もりでは、毎年3万~3万8000頭のゾウが象牙を得るために密猟されている。象牙の主な行き先は中国やタイといったアジアの消費国だ。(後略)【6月17日 National Geographic】
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密猟が絶えないのは、象牙が破格の値段で取引されるからです。

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現地の密猟者に支払われている値段が、キロが150ドルの値段ですが、これ150ドルというと、レンジャーの例えば給料の1か月分。

平均すると大体、残っている個体が13.5キロぐらいの象牙が取れるのですが、その13.5と言いますと、やっぱり年収をはるかに超えたキャッシュが、現金収入が一瞬にして手に入るということで、人をすごい迷わす道なんですが、そういうことが問題で、さらに高い値段で闇で取り引きされているので、それがほかに悪用されて、組織などに使われていることが多いです。【5月26日放送 NHK】
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象牙目的の乱獲を生み出す最終消費者は現在は中国が大きな割合を占めていますが、かつては日本が最大消費国でした。

****アフリカゾウ 乱獲の引き金****
乱獲の歴史は1970年代にさかのぼります。日本での象牙の大量消費が要因の1つでした。
高度経済成長期、人々はこぞって象牙の印鑑などを買うようになります。
アフリカゾウの象牙の3分の2を日本人が消費していたと言います。

1989年、ワシントン条約により象牙の国際取り引きは禁止され、乱獲に歯止めがかかります。

ところが、9年後、事態は一変しました。
きっかけは合法象牙の取り引きが制限付きで認められたことでした。 死んだゾウの象牙を市場に出すことは輸出国と消費国、お互いの利益にかなうと考えられたのです。

これまで2回にわたり取り引きが許可されています。輸入を求めた日本と中国が許可を受けました。

しかし、このことが密猟による象牙ビジネスを刺激しました。 象牙市場が再び活性化し、価格が高騰したからです。
日本でも違法な象牙が摘発される事件が相次ぎました。

こうした違法な象牙が流通しないように日本政府は、ワシントン条約以前の象牙と合法象牙に登録を求める制度を設けています。

しかし、登録証を悪用して象牙を売買するなどの事件も起きていて、密猟象牙が出回っている可能性も指摘されています。【同上】
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ソマリアのイスラム過激派アル・シャバーブ:活動資金の40%が密輸象牙取引から
ゾウの密猟が問題なのは、単にユニークな動物であるゾウの減少、絶滅が危惧されるだけでなく、密猟で得られる資金が、隣国ソマリアのイスラム過激派アル・シャバーブに流れ、そのテロ活動の資金源となっているからです。

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アッシャバーブは、どのような手口で地元の人々を密猟に巻き込んでいるのか。
ナイロビから北へ80キロ。 密猟が頻発する現場を訪ねました。

300人ほどが暮らすツルカナ族の貧しい村。 牛やヤギなどの家畜で生計を立てています。 出会ったのは3人の元密猟者です。 密猟を始めたのは10年前のことでした。

元密猟者
「ある日、ソマリアから男がやってきた。ゾウは肉は食えないが、金になると教えてくれた。 象牙だ、ゾウを殺して象牙を取ってくれば金になると。」

「仲買人は機関銃と自動小銃を持ってきた。 『いいか、これを使ってゾウを殺すんだ』って銃弾も与えてくれた。
『だけど、この銃と銃弾は俺のだから後で買い取れ』って言われたよ。とにかく、それで俺たちはこの道に入った。」

アッシャバーブは、紛争の続くソマリアからこの村に銃を持ち込み、貧しい村人に密猟をさせ象牙を手に入れていたのです。
こうした手口を使って活動資金の40%を、密猟象牙の取り引きで賄っていると見られています。

こうした事態に世界は敏感に反応しました。
元アメリカ国務長官 ヒラリー・クリントン「テロリストたちは活動資金を象牙の密輸で得ている。アメリカの人々の安全を脅かしている。 密猟の犯罪者に対し、私たちは行動を起こします。」

アメリカは、今年2月、国内での象牙の商業取り引きを全面的に禁止しました。
フランスはパリの中心部で違法象牙を粉砕。 取り締りの強化を宣言しました。【同上】
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密漁は取締り側との銃撃戦で命を落とすこともある危険な仕事ですが、住民がアッシャバーブの誘いなどで密猟に手を染めるのは、仕事が見つからない、干ばつで家畜が死んで生活ができなった・・・などの、厳しい生活状況があります。

【“森林犯罪”による取引額は世界の木材取引の30%
密猟とテロ組織の関係に類似したものは、違法伐採にも見られます。

****環境犯罪の巨額収益、年2千億ドル****
象牙売買、密漁、違法伐採、その他あらゆる環境犯罪に関わる世界の産業は、年間700億~2130億ドルの収益を上げ、その多くが犯罪組織、武装集団、テロ組織の資金源になっているという。国連とインターポール(国際刑事警察機構)が6月24日、報告書を発表した。

「過去の報告に比べ、その規模は急拡大している」と話すのは、国連環境総会の即応ユニットリーダー、クリスチャン・ネルマン氏だ。

「主な理由の一つは、特に木材や野生動物の生息環境に関して、組織犯罪に使用される手法がほんの数年前まであまり知られていなかったためだ」。

今回の報告書は「環境犯罪の危機(The Environmental Crime Crisis)」と題されたもので、毎年2万~2万5000頭のアフリカゾウが殺害され、推計1億6500万~1億8800万ドル相当の象牙がアジアへ渡っていると述べられている。

同時にサイの角の取引額は、推計6380万~1920万ドルに上る。密猟されたサイの数は2007年には50頭未満だったが、2013年には1000頭以上に増加している。

しかし今回の報告書で編集責任者を務めたネルマン氏は、違法な木材取引はさらに急速に成長しているようだと語っている。“森林犯罪”による取引額は年間推計300億~1000億ドルに上り、これは世界の木材取引の30%に当たる。(中略)

アフリカで消費される木材の約90%は、薪や木炭に使用されている。木炭は、エジプト、イエメン、サウジアラビア、オマーンなど中東の数カ国へ違法な輸出もされている。

報告書によると、ソマリア一国からの輸出額は年間3億6000万~3億8400万ドルと推計され、うち最大5600万ドルは、昨年ケニアで発生したウエストゲート・ショッピングモール襲撃事件に関与したイスラム過激派組織アル・シャバーブの支援に使われているという。(後略)【6月25日 ナショナルジオグラフィック】
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ミャンマーの少数民族問題も違法伐採・密輸の利権が絡んでいるという話は、6月11日ブログ「ミャンマー 少数民族問題  停戦後も残る地雷  停戦を複雑にする木材密輸権益」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140611)でも取り上げました。

こうした環境犯罪を防止するためには、供給現場での取締りと同時に、最終消費段階において違法性が疑われるものを購入しないという消費国の対応が求められます。

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(ケニアで若者たちに密猟をやめさせる活動を行っている女性)ジョセフィンさんは、アフリカゾウ密猟を巡って社会が荒廃していく状況をなんとか変えたいと考えていました。

ゾウは生きていれば観光資源になり、私たちの未来につながる。そう考え、密猟者を説得しています。

ジョセフィン・エキリさん
「私はゾウだけでなく、若者の命も助けたいのです。これまで銃撃戦で多くの若者が亡くなっていきました。 同じ部族の仲間たちを助けたいのです。」

ジョセフィンさんが密猟をやめさせた若者は19人。
しかし、仕事が見つからず、再び密猟に走ってしまう若者もいると言います。

ジョセフィン・エキリさん
「日本や中国など、象牙消費国にメッセージがあります。どうか密猟象牙を消費するのをやめてください。」【5月26日放送 NHK】
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温暖化による海面上昇  “水没する国”は移住計画など検討

2014-02-16 22:19:20 | 環境

(キリバス 堤防を越えて押し寄せる海水 【2012年3月9日 NBC News】http://worldnews.nbcnews.com/_news/2012/03/09/10618829-as-sea-levels-rise-kiribati-eyes-6000-acres-in-fiji-as-new-home-for-103000-islanders

アメリカ:記録的寒波で「温暖化懐疑論」】
温暖化の話を取り上げるたびに触れているように、長期にわたる変動であり、短期的には逆方向へのブレもある気象変動について、生活実感的に把握するのは非常に困難です。

この冬に記録的な寒波に襲われたアメリカでは、温暖化を否定するような議論が高まっているそうです。

****アメリカ大寒波で温暖化否定論が噴出****
過去20年間で最も厳しい寒波は、地球の気候が本当に温暖化しているのかと、人々に疑問を投げかけている。

保守派Webサイト「Breitbart.com」は、この大寒波を地球温暖化“でっち上げ”の証拠と呼んだ。
また、実業家のドナルド・トランプ氏はツイッターで、「今我々はここ20年で一番の寒波を経験しているが、ほとんどの人がこのような寒さを記憶していない。これが地球温暖化?」とつぶやいた。

しかし気候科学者たちは、今回の天候により現行の気候モデルが無効になるわけではなく、今週の極渦に対するさまざまな反応は、人々が寒さを忘れてしまったことを示しているという。

ここ数日、中西部の一部地域では気温が摂氏マイナス40度、体感温度に至ってはマイナス51度にまで低下し、はるか南のアラバマ州やジョージア州でもここ数年で一番の寒さを経験した。また、それによって20人以上の死者が確認されている。

テキサス州共和党上院議員テッド・クルーズ氏は、「寒いな。アル・ゴア氏は、こんなことは起こらないと私に言ったのに」とからかった。

ソーシャルメディア上では、凍りついたアル・ゴア氏の写真が人々の間を行き交っている(テレビ番組「The Daily Show」の中で、キャスターのジョン・スチュワート氏もその様子についてからかった)。
(後略)【1月10日 ナショナル・ジオグラフィック】
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温暖化対策に取り組みたいオバマ政権は、こうした「温暖化懐疑論」の高まりを警戒しています。

****記録的寒さでも「温暖化否定しない」ホワイトハウス見解****
いま寒いからといって、地球温暖化が起きていないと考えないで――。米ホワイトハウスは8日、米国で先週から続いた記録的な寒波は、地球の温暖化を否定することにはならないとする見解を発表した。

野党共和党などに根強い「温暖化懐疑論」が高まるのを抑える狙いがあるとみられる。

ホルドレン大統領補佐官(科学技術担当)はビデオメッセージで「寒波は温暖化が起きていない証拠だという話を信じないでほしい」と呼びかけた。(後略)【1月10日 朝日】
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温暖化に関する「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の主張を認めるか否かは別として、少なくとも“今現在寒いことは、長期的な変動である温暖化の妥当性の判断には全く関係ない”というのはサルでもわかる当然の話ですが、アメリカ人は・・・・。

まあ、アメリカ人というのは“米国人のおよそ4人に1人は地球が太陽の周りを公転していることを知らなかった。人間が原始的な生物から進化したことを知っていたのは半数に満たない48%だった。”【2月15日 AFP より】といった国民ですから。

今世紀中の海面上昇量が1 - 2mを超える可能性も
話が横道にそれました。
温暖化の話にもどすと、そのひとつの現象とされるのが「海面上昇」
これも、生活実感的にはわからないものです。

一応、IPCCの報告では以下のようになっています。

****海面上昇量の予測*****
地球全体の気温が上昇し、陸上の氷床・氷河の融解や海水の膨張が起こると、海面上昇(海水準変動)が発生する。(中略)全地球的には温暖化により海面が上昇していると考えられている。

(IPCC)第4次報告書によれば、実測による海面水位の平均上昇率は、1961 - 2003年の間で1.8±0.5mm/年、20世紀通して1.7±0.5mm/年だった。
また、ここ1993 - 2003年の間に衛星高度計により観測された海面上昇は3.1±0.7mm/年と大きかった。

そのうち熱膨張による寄与がもっとも大きい値を示しており(1.6±0.5mm/年)、ついで氷河と氷帽の融解(0.77±0.22mm/年)、グリーンランド氷床の融解(0.21±0.07mm/年)、南極氷床の融解(0.21±0.35mm/年)の順で寄与が大きい。(中略)

2100年までの海面上昇量の予測は、IPCCの第3次報告書 (2001) では最低9 - 88cm の上昇、第4次報告書 (2007) では、最低18 - 59cmの上昇としている。

しかしこれらのIPCCのモデルでは西南極やグリーンランドの氷河の流出速度が加速する可能性が考慮に入っていない。
近年の観測では実際に大規模な融雪や流出速度の加速が観測されていることから、上昇量がこうした数値を顕著に上回ることが危惧されている。

AR4以降の氷床等の融解速度の変化を考慮した報告では、今世紀中の海面上昇量が1 - 2mを超える可能性が複数のグループによって指摘されている。(中略)

2011年、NASAの研究者でカリフォルニア大学アーバイン校(UCI)の地球システム科学教授であるエリック・リグノ氏は、南極やグリーンランドの氷河流出も考慮したうえで、2050年までの海面上昇を32cmと予測した。【ウィキペディア】
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【“水没する国”キリバスの国民をフィジーが受入
“2050年までに32cm”とか“今世紀中の海面上昇量が1 - 2mを超える”ということになると、日本を含めて世界中が深刻な影響を受けますが、海面下に消えてしまう島国もありえます。
南太平洋のツバル、キリバスあるいはインド洋のモルディブといった国々です。

そうした国々にとっては、遅々として進まない国際的な温暖化防止への取り組みは全くあてにできないものに過ぎず、移住計画が国家プロジェクトとして検討されています。

****キリバス人全員の移住も=気候変動で国土水没なら―フィジー*****
気候変動による海面上昇で国土が水没の危機に直面している太平洋の島国キリバスに対し、南太平洋の小国フィジーが「いざとなれば全員受け入れる」と申し出ている。フィジーのナイラティカウ大統領が11日、キリバスの首都タラワを訪問した際、公式に表明した。

キリバスを構成する島々の海抜は平均2メートル。海岸線がじわじわ住宅地に迫り、飲み水に塩が混じるようになってきた。海外集団移住も危機感を帯びて語られるようになっているが、先進国は積極的に受け入れる姿勢を見せていない。

ナイラティカウ大統領は「国際社会が温暖化を止められなければ海面は上昇するが、難民になることはない。キリバス人は堂々と(フィジーへ)移住できる。キリバス人の魂は新天地で生き続ける」と約束した。ニュージーランド北方沖約2000キロにあるフィジーの首都スバから、さらに北へ約2000キロ、赤道を越えた海域にタラワは位置する。

キリバスの人口は10万人。フィジーは90万人だが、人口の3分の1は貧困層だ。実際に受け入れ能力があるのか疑問視する見方もある。ただ、キリバスは既にフィジーに広大な農地を購入。塩害でキリバスが耕作不能になる事態に備えており、両国のつながりは深い。【2月16日 時事】 
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ともに南太平洋の島国である両国で、人口では“キリバスの人口は10万人。フィジーは90万人”ですが、面積ではフィジーはキリバスの22倍ほどです。

5年以上前にも、モルディブにおける、毎年の観光収入の一部を国土購入資金として積み立てる国土購入計画が報じられていました。

“(インド洋の島国モルディブで10月の選挙で当選したナシード)次期大統領は既に数カ国に打診しており、好感触を得ているとしたうえで、よく似た文化と気候を持つインドやスリランカ、それに国土が広大なオーストラリアを候補地に挙げた。また、観光資金を元に、幾つかのアラブ諸国のような国家ファンドを創設する計画だと語った。”【2008年11月10日 AFP】

キリバスの場合は、相手国フィジーが協力的なことは心強いところです。フィジーにはフィジーの思惑もあるのでしょうが。
生活環境も似ているので先進国への移住などよりは住みやすさはあるでしょう。食べていけるのか・・・という現実問題はありますが。


ニュージーランド:「気候変動難民」を否定
こうした国家的移住計画の他に、個人的に「気候変動難民」の認定を求める試みもありますが、現状では難しいようです。

****世界初の「気候変動難民」認定、NZ最高裁が退ける****
ニュージーランドの最高裁判所は26日、世界初の「気候変動難民」の認定を求めた太平洋の島しょ国キリバスの男性の訴えについて、「説得力が不十分」として退ける判決を下した。

キリバスのイオアネ・テイティオタさん(37)の弁護士は、国土の海抜が低いキリバスが海面上昇の脅威にさらされているとして、ニュージーランドの査証(ビザ)が期限切れになったものの、テイティオタさんを本国に送還するべきではないとして、訴えを起こしていた。

キリバスは30を超える環礁からなる国で、環礁の多くは海抜数メートルしかない。テイティオタさんの弁護士は、本人と家族が本国に送還された場合に遭遇する困難を考慮して、ニュージーランド当局はテイティオタさんを難民として認定するべきと主張していた。

最高裁判所のジョン・プリーストリー裁判官は26日、判決文の中で、キリバスが台風や洪水、水の汚染など気候変動に起因する環境悪化に直面していることを認めつつも、国際的に認知された国連(UN)の難民条約の下では、帰国した場合に迫害を受ける恐れがあることを難民の条件と定めており、テイティオタさんはこの条件を満たしていないと述べた。

テイティオタさん側は、キリバス政府に対処不可能な気候変動により、「受動的な迫害」を環境から受けていると主張していたが、裁判官はこの主張を退けた。

またプリーストリー裁判官は「より広いレベルで言えば、彼らの訴えが支持され、他の司法管轄区域でそれが採用されれば、中期的な経済的貧困、あるいは自然災害や紛争による即時的な影響、また気候変動がもたらしたと推定しうる困難などに直面した大勢の人々が、難民条約の下で保護される権利を有することになる」と述べ、「その意味で難民条約の範囲を変更することは、ニュージーランド最高裁の役目ではない。その変更を望むのであれば、それは各主権国家の立法機関の役目である」と続けた。

国連は、ツバルやニュージーランド領トケラウ、モルディブなどと並んでキリバスを気候変動により「国土を失う」恐れのある島しょ国の1つとしている。【2013年11月26日】
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先進国としては「気候変動難民」が押し寄せてくるような事態は避けたい・・・というのが本音でしょう。
そこは日本も同様ですが、かつてキリバス大統領からは日本に対し、難民として国外に移住することを可能にする職業訓練などの支援策を求める発言もありました。

****我が国は海に沈む」キリバス大統領が全10万人移住計画****
地球温暖化に伴う海面上昇により、国土が水没の危機にひんしている太平洋の島国キリバスのアノテ・トン大統領(55)は本紙と会見し、「我が国は早晩、海に沈むだろう」と明言。
国家水没を前提とした上で、国民の脱出を職業訓練などの形で側面支援するよう、日本など先進各国に要請した。

首都タラワの大統領官邸で、30日、インタビューに応じたトン大統領は、キリバスの水没は不可避との見方を強調、「小さな我が国には海面上昇を防ぐ手だてなどなく、どうしようもない」と述べた。

国際社会の取り組みについても、「温暖化は進んでおり、国際社会が(2013年以降のポスト京都議定書の枠組みなどで)今後、どんな決定をしても、もはや手遅れだ」と明確に悲観論を展開した。【2007年9月1日 読売】
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海面上昇しても沈まない?】
なお、ツバルやキリバスが本当に海面下に沈むのかどうかについては異論もあるようです。

****温暖化:「海面上昇でもツバル沈まず」 英科学誌に論文****
太平洋の島々は成長を続けており、海面が上昇しても沈むことはない」--。そう主張する研究論文が英科学誌「ニュー・サイエンティスト」に掲載され、議論を呼んでいる。

ツバルやキリバス、ミクロネシア連邦など南太平洋の島々は温暖化による海面上昇の影響で、将来的には地図上から消える「沈む島」と呼ばれてきた。

論文のタイトルは「変形する島々が海面上昇を否定」。
過去60年間に撮影された航空写真と高解像度の衛星写真を使い、ツバルやキリバスなど太平洋諸島の27島の陸地表面の変化を調査した。

その結果、海面は60年前よりも12センチ上昇しているにもかかわらず、表面積が縮小しているのは4島のみ。23島は同じか逆に面積が拡大していることが明らかになった。ツバルでは九つの島のうち7島が3%以上拡大し、うち1島は約30%大きくなったという。

拡大は「浸食されたサンゴのかけらが風や波によって陸地に押し上げられ、積み重なった結果」であり、「サンゴは生きており、材料を継続的に供給している」と説明。1972年にハリケーンに襲われたツバルで、140ヘクタールにわたってサンゴのかけらが堆積(たいせき)し、島の面積が10%拡大した事例を紹介している。

研究に参加したオークランド大学(ニュージーランド)のポール・ケンチ准教授は「島々が海面上昇に対する回復力を備えていることを示す」と指摘し、「さらなる上昇にも対応する」と予測。

一方、海面上昇が農業など島民生活に影響を与えることは避けられないとして、「どのような地下水面や作物が温暖化に適応できるか調べる必要がある」としている。【2010年6月9日 毎日】
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海面上昇はあるが、それ以上に島が成長拡大している・・・という話ですが、門外漢にはその妥当性は判断できません。
衛星写真等による“事実”だとのことですが、キリバスなどで土地が浸食され、海水が宅地・農地に押し寄せ、井戸にも海水が混じる・・・というのも“現実”でしょう。
どのように考えたらいいのか・・・よくわかりません。
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北極海の海氷が消える日も近い? そのとき世界は・・・

2013-12-18 22:19:12 | 環境

(【12月17日号 Newsweek日本版】)

いずれにしろ残された時間は少なく、事態は極めて深刻だ
寒さも本格化する今日のこの頃、“地球温暖化”と言われてもいまひとつ切実感がありません。「温暖化が進めば、冬も暖かくなって過ごしやすいかも・・・」なんて馬鹿なことを考えたりします。

そんな戯言はともかく、何十年、何百年という長い時間をかけて変化していく現象ですから、日々の生活に追われる者にとってはとらえどころがないのも正直なところです。

ただ、そうした長い年月をかけてつくりだされる現象ですから、「やっぱり、これはまずいかも・・・」と気づき、もとへ戻そうととしても、その時にはもうどうにもならない・・・ということでもあります。

温暖化の影響が目に見える形でわかりやすいのは、北極海の海氷の状態とかヒマラヤの氷河の変化などです。

北極海の海氷が縮小している・・・といういのは以前から指摘されているところで、資源開発や新航路開拓などの動きなども併せて、このブログでも何回か取り上げたことがあります。

今までも指摘されきた問題ではありますが、“早ければ2015年に北極海の氷が完全に解けてなくなるかもしれない”と言われると驚きます。“2015年”はともかく、“何十年、何百年”というより早いペースのようです。

****北極が消える*****
ただでさえ異常気象が続く世界に、衝撃のニユースがある。

英ケンブリッジ大学の海洋物理学教授で海氷研究の権威であるピーター・ワダムスが、早ければ2015年に北極海の氷が完全に解けてなくなるかもしれないと警鐘を鳴らしているのだ。

北極の気温上昇が進むにつれて、異常気象が深刻化し海面の水位がさらに上昇するなど、地球規模で環境の変化が加速する恐れが高まっている。

世界の気候が激変する可能性がある。これまで夏も氷に覆われていた北極海から海氷がなくなれば、海水が太陽光をふんだんに吸収して水温は上昇する。海から立ち上る水蒸気で低気圧が発達する。そうした異変が地球全体に津波や干ばっなどの被害を及ぼしかねない。

一方、人間は大惨事の足音をよそに、以前はアクセス不能だった北極の資源確保に目の色を変えている。氷が小さくなって現れた海面上には、資源運搬船や軍艦、石油の掘削装置などが急増している。・・・・【12月17日号 Newsweek日本版】
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いくらなんでも“2015年”はないだろう・・・とも思いますが、残された時間は多くないというのが科学者の見方です。

****ほかの科学者もその日が近いという点で意見は同じ****
科学者たちは北極の氷が小さくなっていくのを止めることはできないとみている。
問題は、いつ完全になくなるのかだ。

地球は恐ろしいことになろうとしている」と、ワダムスは昨年イギリス議会で証言した。

2015年までに夏の海氷がすべてなくなると予測するのはワダムスだけだが、ほかの科学者もその日が近いという点で意見は同じだ。

英エクセター大学の気候変動/地球システム科学部を率いるティム・レントン教授は、「当て推量だが、夏の氷が完全になくなる最初の年は2030年頃か、あるいは2020年かもしれない。いずれにしろ残された時間は少なく、事態は極めて深刻だ」。【同上】
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“北極の気温は、地球の平均気温の倍の速さで上昇している。これは「これから世界で起こることの強力なシンボルだ」”(NASAゴダール宇宙研究所の気候学者、ギャビンーシュミット)

もちろん、自然現象ですから、毎年測ったように・・・という訳ではなく、大きな波・変動があります。
今年の北極圏の海氷はかなり多かったようです。

****北極圏の海氷の量、前年比50%回復****
北極圏の海氷の量が10月、前年比で約50%回復したと16日、欧州宇宙機関(ESA)が発表した。夏に広い範囲で氷が溶けずに残ったことを受けたものだという。

海氷を観測しているESAの地球観測衛星「クリオサット2(CryoSat-2)」が10月に計測した北極の海氷は約9000立方キロメートルだったが、前年同月の海氷の容積は約6000立方キロメートルだった。
1年以上溶けないで残る氷の厚さが昨年よりも約30センチ上回り、20%厚みを増していたことが大きく影響した。

北極の夏の海氷面積は2012年に観測史上最低まで落ち込んだが、今年の夏は最低から6番目にまで回復していた。

海氷の量が回復したことは歓迎すべきだが、長期的な現象を逆転させるまでには至らないと科学者たちは述べている。

今回の論文の共著者で英ロンドン大学ユニバーシティー・カレッジ(UCL)のアンドリュー・シェパード教授は「1980年代には毎年10月に約2万立方キロメートルあったとされる北極圏の海氷が、現在は過去30年間で最も少ない水準だ」と警告している。【12月17日 AFP】
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減ったり、増えたりを繰り返しながら、長期的には“Xデー”に向けて進行していくということになります。

北極が消えたとき何が起こるのか?】
北極の氷がなくなることによる世界中の人々や生態系への影響を主なもの3つが挙げられています。

****1.異常気象の頻発と食糧難****
北極圏の気温が上がれば、それよりも低緯度の地域との温度差が縮小し、そのために偏西風が弱まると考えられる。北半球では通常、偏西風の影響で天気は西から東へと変わっていくが、この動きが遅くなるだろう。

その結果「より激しく、より長期にわたる豪雨、干ばつ、熱波、寒波」が起きると国連環境計画(UNEP)の報告書は警告している。2010年夏にロシアを襲った記録的な熱波、11、12年の北米での長期的な干ばつはその例だ。・・・・【同上】
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先日、フィリピンを襲ったスーパー台風の記憶もまだ新しいものがありますが、あのようなスーパー台風が日本を直撃することも起きてくるのでしょう。

異常気象による農業生産被害がもたらす食糧難・食糧価格上昇は、世界中の社会、特に今でも不安定な途上国における貧困層の生活を更に難しくし、暴動の多発などで社会を揺さぶります。

****2.海面上昇と難民の急増****
北極の気温上昇により、グリーンランドの氷床の融解が大幅に加速する。「グリーンランドでは年間300立方キロのペースで氷が解けている」と、ワダムスは言う。

「それだけでも世界の海面上昇が2倍も速まる。南極の氷の融解も引き続き加速すれば、22世紀までに海面は1メートル以上、ひょっとすると2メートル上昇するだろう」

これは「とても、とても深刻な事態だ」とワダムスは言う。真っ先に打撃を受けるのは中国東部やバングラデシユなど沿岸部の低地に住む人々だ。

防潮堤などの人工のバリアを建設しない限り、海面が90センチ上がれば、1億4500万人の生活が脅かされる。
東京、上海、ニューヨーク、ロンドンなど世界の主要都市、それにマニラ、ジャカルタ、ダッカなどアジアの首都が洪水に見舞われる恐れがある。(中略)

ワダムスが指摘するように、洪水被害が予想される沿岸部の住民は内陸部に生活拠点を移そうとするだろう。
こうした「難民」の急増で社会的な軋軋轢が高まり、暴力的な抗争も起きかねない。

米軍と英軍が気候変動を21世紀の主要な安全保障上の脅威としているのもそのためだ。【12月17日号 Newsweek日本版】
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22世紀は、沿岸住民と内陸部住民の“住む場所”をかけての抗争の時代になるかも・・・。
海面が1~2mも上昇すれば、キリバスなど消えてなくなる島国もあります。日本地図も大きく変わります。

****3.氷の融解でメタンを放出する****
北極の気温上昇で永久凍土が解け、地中や海中に閉じ込められていたメタンが漏れ出しており、大気中に大量の温室効果ガスが放出される恐れがある。(中略)大気中に放出されたメタンガスは、二酸化炭素の23倍も強力な温室効果を発揮する。

世界の海にも大量のメタンが含まれている。海底のメタンは低温・高圧下でシャーペット状のメタンハイドレートとして眠っているが、北極海の水温上昇とともに気化して放出されるメタンガスも急増している。

権威ある学術誌ネイチャー・ジオサイェンスに先月発表された論文で、シャコフらは東シベリアの海底からこれまでの予測の2倍以上の年間1700万トンのメタンが放出されていると報告した。

氷融解は経済的時限爆弾
経済的打撃も甚大だ。北極圏の永久凍土が解けて大量のメタンガスが放出された場合、その影響は60兆ドルに上る・・・そんな研究論文が今年、英科学誌ネイチャーに発表された。

これまで見過ごされてきたが、北極は海や気候など地球のシステムの中枢的な役割を果たす存在。そこでの氷融解は「経済的な時限爆弾」のようなものだと、論文執筆者の1人であるオランダのエラスムス大学のゲール・ホワイトマン教授は言う。(中略)

北極の気温上昇が進み、大量のメタンガスが放出されると、それによってさらに気温上昇とメタンガスの放出に拍車が掛かり、事態は悪化の一途をたどる。
北極でこのドミノ現象が始まることが最も心配だと科学者たちは言う。そうなればもう歯止めは利かない。【同上】
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“メタンハイドレート”は日本の新たなエネルギー資源として注目されていますが、「日本海の広い範囲に存在する可能性がある」と、喜んでばかりはいられないようです。

“だが、まだ間に合う。流れを変えれば、損害は抑えられる。・・・未来の世代のために今すぐ手を打つ必要がある”【同上】とのことですが、11月末に行われた国連気候変動枠組み条約第19回締約国会議(COP19)の様子を見ると、相変わらず先進国と途上国の対立が続いており、有効な対応策には程遠い状況です。

目先の利益に狂奔する国々
一方で、北極海の海氷減少に伴う資源開発・新航路開拓については、周辺国・関係国がすでにザワザワと騒ぎ初めています。

****北極海航路が活況、ロシアの思惑は****
北半球が冬に入り、アジアとヨーロッパをつなぐ最短の海上ルートが、間もなく今年のシーズンを終えようとしている。

ロシア沖合の北極海を経由する全長およそ4800キロの「北極海航路(NSR)」は近年、地球温暖化の影響により夏場は解氷が進み、数カ月間限定で商業運行が具体化した。

ロシアの原子力砕氷船団を運用する国営企業ロスアトムフロートによると、今年、大西洋側のバレンツ海と太平洋側のベーリング海峡を結ぶロシア沿海の北東航路を航行した船舶は71隻で、昨年と比較して50%以上の増加だという。

総数としてはまだ小規模だが、わずか4隻だった2010年からは飛躍的な成長を遂げている。なお、NSRを通る際には、ロスアトムフロートの砕氷船の伴走が義務付けられており、手数料を支払う必要がある。(中略)

NSRを利用すれば、ヨーロッパから東アジアの航行距離は35~60%短縮されるという。また、アフリカ沿岸部やマレーシアのマラッカ海峡など、紛争地域や海賊の危険回避も可能だ。ただし航行可能な水域の水深によって、NSRを通過する船舶には喫水制限があり、ロシアから通行許可を得る必要もある。

また、氷が後退したといっても、北極海の気象は非常に過酷で、予測が難しい。視界が悪い上に、風で移動する氷況変化が激しく、予想もできない遅延が生じる恐れがある。
「国際的な商用航路として不的確」と考える専門家も少なくない。(中略)

◆経路ではなく目的地
ブリガム氏をはじめとする一部の専門家は、NSRが「経路」ではなく「目的地」として重要になると考えている。未発掘の石油・天然ガス資源の22%がこの地に眠っているからだ。(中略)

当海域では、ロシアの半国有企業、ガスプロムと民間企業のノバテクが、石油・天然ガス開発でせめぎ合いの真っ最中だ。
ガスプロムが所有する海上石油掘削基地は、グリーンピースの格好の標的となり、エネルギー開発が北極海の環境や地球温暖化に及ぼす影響が懸念されている。(後略)【12月3日 NATIONAL GEOGRARHIC】
*****************

ロシアのプーチン大統領は、極東サハ共和国沖の北極海にあるノボシビルスク諸島に約20年ぶりにロシア軍基地を復活させる方針を明らかにしています。

北極海の地下資源に対する諸外国の関心が高まり、北極海航路を航行する船舶も増加していることから、この海域での軍事的な存在感を確保しておく必要があると判断したと見られています。【9月18日 産経より】

****氷の島」に資源ブーム到来?=レアアース解禁、反対運動も―グリーンランド****
北極圏に位置する世界最大の島、デンマーク領グリーンランドに、空前の地下資源ブームが到来しつつある。

10月には自治政府がウランやレアアース(希土類)の採掘を解禁。大規模な鉄鉱石開発も動き始め、本国デンマークからの独立に向けた経済基盤強化へ期待も大きい。

ただ、環境破壊などへの懸念から反対運動も活発化する。世界経済にも影響を与えかねない膨大な地下資源を前に、「氷の島」が揺れている。【11月3日 時事】 
******************

北極海にしても、グリーンランドにしても、中国が多大な関心を示していち早く動いているのも、“例によって例の如く”です。

目先の利益には皆目の色を変えますが、遠くに見え隠れする危機についてはなかなか動こうとしません。
やむを得ないことではありますが、これだけ世界的に危険が指摘されてもいる訳ですから、将来に起こる異常気象、食糧難、海面上昇、難民急増、メタンガスによるドミノ現象・・・は、愚かな人類の自業自得というべきでしょう。
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温暖化  2001年からの10年間の世界平均気温は観測史上最高を更新 アメリカの温暖化対策行動計画

2013-07-04 22:27:24 | 環境

(ガンジス川の洪水にのみこまれた、ヒンズー教の破壊をつかさどる神「シバ」の像=インド北部ウッタラカンド州で2013年6月18日、AP【6月20日 毎日】)

1961~90年平均の14度を0.47度上回り、記録を塗り替えた
地球温暖化の話は、ここ数年あまり大きな注目を浴びていないように思えます。
世界尾的に経済状態が芳しくない、交渉しても先進国と途上国の対立の構図から抜け出せない、温室効果ガス最大排出国の中国・アメリカに熱意がみられない、日本は地震で原発稼働が停止してしまった・・・などの状況では、さしあたり今現在の不都合とは直結しない温暖化の話が脇に追いやられるのも無理ないことかもしれません。

世界気象機関(WMO)は3日、2001~10年の気象を分析した報告書「異常気象の10年」を発表しました。これによると、当該10年間の世界平均気温は観測史上最高を更新しており、また、異常気象も多発しているそうです。
やはり、温暖化は着実に進行している・・・ということのようです。

****2000年代は「観測史上最暑の10年」、国連報告書 ****
2001年からの10年間の世界平均気温は、観測史上最高を更新したことが、国連(UN)が3日に発表した報告書で明らかになった。
同期間中の気温上昇はかつてない速さで進み、異常気象による犠牲者は37万人を超えたとされている。

国連の世界気象機関(WMO)が発表した2001~10年の世界気象に関する報告書によると、同期間の世界平均気温(陸上気温・海面水温の平均)は14.47度だった。

一方、1881年から残る気象観測記録の長期平均気温は14度で、WMOのミシェル・ジャロー事務局長は「2001~10年は、この期間全体で最も暑い10年だった」と述べている。

2001年から10年間の世界平均気温は、その前の10年間と比べて0.21度上昇した。1990年代の世界平均気温は、1980年代よりも0.14度高かった。地球の温暖化は、二酸化炭素(CO2)に代表される温室効果ガスの産業活動による排出など、人間の活動が原因とされている。

WMOの報告書は、139か国で行われた調査に基づいている。これらの国の94%近くが、2001~10年を観測史上最も気温が高かった10年間と記録している。また、同期間内に全国平均気温の最高記録を更新した国は44%に上った。

WMOによると、この期間に最も頻発した異常現象は洪水で、2010年にはパキスタンで2000人の死者を出し、2000万人が被害を受けたとされる。

同期間中の異常気象関連の死者数は、その前の10年間を20%上回り、37万人を超えた。主として2003年に欧州、2010年にロシアを襲った熱波によるもので、それ以前の10年間では6000人だった熱波による全世界の死者数は、2001年からの10年間では13万6000人に膨れあがった。【7月4日 AFP】
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“その前の10年間と比べて0.21度上昇”という、はっきりと体感できない長期的変動が、温暖化対策への取り組みを鈍らせる原因でもあります。
“0.21度”なんて観測誤差の範囲じゃないか?とも素人的には感じたりもしますが、このペースが100年続けば2.1度上昇するという数字でもあります。2.1度上昇すれば大変な影響が出ます。

なお、“1881年から残る気象観測記録の長期平均気温は14度で”というのは、14度というのがどの期間の平均なのか意味不明ですが、別記事によればこの10年間の14.47度という数字は、“基準としている1961~90年平均の14度を0.47度上回り、記録を塗り替えた”【7月3日 時事】ものだそうです。
ここ2~30年で0.5度近く上昇しているということであれば、確かに心配する必要がありそうです。

最近の異常気象・大規模自然災害としては、インド北部ウッタラカンド州を中心した洪水・土砂崩れの被害が懸念されています。
同地域では6月中旬の夏季の季節風(モンスーン)による豪雨のため、すでに約1000人の死亡が確認されていますが、7月1日時点で、約3000人がいまだ行方不明となっていると報じられています。

また、温暖化の影響を敏感に反応する北極海の状況に関しては、今年5月、氷の想定外の溶解によりロシアの観測基地が水没する危険に直面するという事態も起きています。

なお、“温暖化を招くとされる二酸化炭素(CO2)の大気中濃度は産業革命前の1750年から約39%上昇。「世界の気温上昇を招き、気象パターンに著しい影響を及ぼした」と分析している”【7月3日 時事】とのことです。

アメリカ:2020年までに温室効果ガス排出量を05年比17%程度削減
世界的な温暖化対策が前進するためには、なんといってもアメリカの積極的対応が必要です。
アメリカはこれまで欧州各国に比べ、温暖化対策においては消極的なイメージがありましたが、オバマ大統領は地球温暖化対策を強化する行動計画を発表しています。
背景には、異常気象多発による国民的関心の高まりや、シェールガス革命による天然ガス生産の増大というエネルギー事情が指摘されています。

****米温暖化対策 シェールガス革命が追い風に****
オバマ米大統領が、地球温暖化対策を強化する行動計画を発表した。
国内で二酸化炭素(CO2)排出削減を進めるとともに、中国やインドなどとの協力を含めて国際的な温暖化対策を拡充する内容だ。

CO2などの温室効果ガスの排出量は、世界で増加の一途をたどっている。中国に次ぐ排出大国の米国が温暖化対策に本腰を入れることは、世界全体の排出量削減の観点からも、意義は大きい。
オバマ氏の指導力と実行力が問われよう。

行動計画は、2020年までに温室効果ガス排出量を05年比17%程度削減する、という米国の中期目標を改めて確認している。

国内のCO2排出削減対策として、新規及び既存の発電所に新たに厳しい規制を導入するほか、石炭や石油よりもクリーンな天然ガスへの切り替えを促した。
水力や太陽光発電などの再生可能エネルギー倍増計画や、出力30万キロ・ワット以下の小型モジュラー炉の開発など原子力発電の維持・推進も盛り込んだ。

前途は容易ではあるまい。早くも電力会社は、厳しい規制で主力の石炭火力発電所が閉鎖に追い込まれかねないと警戒し、関連自治体や共和党も、雇用が奪われると反発を強めている。規制基準作りを巡り 紆余 ( うよ )曲折が予想される。

オバマ氏が大胆な温暖化対策の推進を打ち出した背景の一つに、暴風雨や巨大竜巻など異常気象で災害が増加していることへの国民の強い関心がある。行動計画は、災害に耐性の強い地域作りへ具体策を講じることも明記した。

シェールガス革命による天然ガス生産の増大が追い風になった点も見過ごせない。石炭から天然ガスへの転換で、CO2削減目標の達成は現実味を帯びてきた。国際交渉で米国の立場も強まろう。

京都議定書後の新たな国際枠組みは20年発効予定だ。すべての主要排出国が応分の責任を負う仕組みにすることが何より重要だ。
オバマ政権は、各国が自主的に目標を設定し、削減に努める緩やかなルール作りを目指すと見られる。削減義務を負うことに反発する新興国を引き入れるには、有効な手法と言える。
日本も積極的に関与したい。

安倍政権は、鳩山元首相が09年に唐突に打ち出した「20年までに1990年比25%削減」という非現実的な目標の撤回を表明している。まずは経済活動に目配りした現実的な目標に改め、国際社会の理解を得ていくことが肝要だ。【7月3日 読売】
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規制強化で家電製品のエネルギー効率引き上げ
アメリカの温暖化対策においては、家電製品のエネルギー効率引き上げが大きな役割をはたしているとの指摘もあります。

****オバマ式温暖化対策の重要ポイントはエコ家電****
消費者向け製品をもっとエコにするよう求めれば、アメリカでは大きな効果が期待できる

オバマ米大統領は先週行った演説で、地球温暖化防止に取り組む新しい行動計画を発表した。
骨子は発電所を対象とする二酸化炭素の排出規制やクリーンエネルギーの活用促進だったが、そこには大きなポイントが隠されていた。家電製品のエネルギー効率引き上げである。
(中略)
誰もが得する規制強化
電球を例に取ろう。07年に成立したエネルギー自立・安全保障法の下で、電球のエネルギー効率を25%上げ、従来の100ワット電球の明るさを72ワット以下の電力で確保することが求められた。

そのための簡単な策は、白熱電球の製造をやめて蛍光灯やLED電球に特化することだ。だが業界はそうせず、従来の電球の効率を上げた。おかげで消費者の選択肢は、さまざまな種類の白熱電球、電球型蛍光灯、LED電球と広がっていった。

しかも規制の対象から外れている従来型の白熱電球の売り上げはここ1年半で急落している。
値段は高くても耐久性のある製品のほうが経済的と見なされたためだ。このままいけば、15年には消費者にとって年60億ドルの節約になると政府は推定する。

自動車の燃費規制も業界に好影響を与えた。オバマ政権は国内で販売される乗用車・小型トラックの平均燃費を25年までに1ガロン当たり54・5マイル(1リットル当たり約23.2キロ)にするよう求めた。
すると業界は、もともと消費者が望んでいた燃費改善を実現させた。

今年5月には、1ガロン当たりの平均燃費が07年10月の20・1マイルから24・8マイルへと25%近く改善していた。40マイルを超えた車も多い。それでいて性能が下がったり、価格が上がるといったこともない。

他の業界でも、政府はエアコンや冷蔵庫のエネルギー効率を規制し、メーカーはそれに応えながら消費者の満足度を向上させてきた。オバマは演説でこの点を強調した。

「プラスチックに含まれる発癌性物質や有鉛ガソリンを規制しても、対象業界は滅びなかった。アメリカの技術者はより良い代替品を生み出した。フロンガスを規制したときも、世の中から冷蔵庫やエアコンや脱臭剤が消えることはなく、大きく環境を傷つけない方策が生まれた」

高い規制基準を満たすことが、どの企業にとっても簡単なわけではない。だが消費者向け製品のエネルギー基準は、誰にでも「平等」な市場を生んでいる。【7月9日号 Newsweek日本版】
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日本も、そろそろ原発稼働停止を言い訳にしない対策が求められます。

究極の温暖化シナリオ
なお、20億年後には太陽活動の変化により、地球上の生物はわずかな微生物以外はすべて死滅してしまう・・・という、究極の温暖化予測もありますが、まあ、これはいかんともしがたいといころです。

20億年後の話など全くピンとこないというのが実感です。
もし、数億年後も知的生物が地球上に残っていれば、地球外惑星への避難などを考えるのでしょう。

****20億年後「地球を継ぐ」のは微生物****
今から20億年後の地球は、ますます燃え盛る太陽に焼かれ、山や洞窟の中に点々と残った水たまりに閉じ込められた微生物だけが最後に生き残る──天文学者らの国際会議で1日に発表された未来の地球の暗いシナリオだ。

発表は、英セント・アンドリューズ大学で開かれている英王立天文学会(RAS)主催の天文学会議で、同大の宇宙生物学者ジャック・オマリージェームス氏が行った。
次の10億年の間に太陽が年を取って今よりも明るくなり、地球の温度調整システムが崩壊に至る可能性をコンピューターモデルによって示した。

水分の蒸発速度の上昇と、雨水との化学反応によって、植物が光合成を頼っている大気中の二酸化炭素(CO2)量が激減し、植物に依存している動物もまた打撃を受ける。
そして20億年のうちには海が完全に干上がり、最後に残って地球を「引き継ぐ」のは、太陽からの強力な紫外線放射と灼熱に耐えることができる極限環境生物(極限条件下で存在する微生物)だという。

RASの報道資料の中で同氏は「遠い未来の地球は、この時点までに生命にまったく適さない環境となっているだろう。全ての生物には液体水が必要で、従って生き残った生物(の生息場所)は、おそらくより温度の低い高地や洞窟、地下などに残る水たまりに限られる」と述べている。
しかし同氏のモデルによると、28億年後にはそうした「最後の砦」も消滅する運命にある。【7月2日 AFP】
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温暖化対策  今月末からCOP18 日本は国際公約「25%減」の扱いで立ち往生の懸念

2012-11-13 23:36:22 | 環境

(巨大化したハリケーン・サンディ “flickr”より By Trevon Haywood Photography http://www.flickr.com/photos/trevonhaywood/8138578872/

【「気候は変動している」】
10月末にアメリカ北東部を直撃した巨大ハリケーン・サンディは、アメリカだけで死者110名という大きな被害をもたらしましたが、浸水、更に大停電によって社会機能にも大きなダメージを与えました。

風速のうえではさほど強くないサンディでしたが、“巨大化”が大きな被害につながりました。
巨大化した理由については、下記のようにも説明されています。

****サンディ、5段階で一番下…巨大化した理由は****
サンディのピーク時の最大風速は秒速40メートル程度で、ハリケーンとしてはそれほど強くなく、米国立ハリケーン・センターの5段階の分類では一番下のカテゴリー1だった。

しかし、カリブ海諸国に被害を及ぼした後、北米大陸の東側を北上。西側から接近した冬の低気圧に引き込まれて合流した。さらに、北のカナダから南下してきた冷たい空気とも一体化し、巨大化した。(中略)

2005年8月に米ルイジアナ州ニューオーリンズなどを襲った大型ハリケーン「カトリーナ」の最大風速は秒速78メートルで、同センターの分類で最大のカテゴリー5だった。【10月30日 読売】
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被害が大きくなった理由には、人口が集中する米東海岸沿いを進んだこともあげられます。
また、電力会社の敷地内で爆発が起こり、大規模停電が起きたことで混乱に拍車がかりました。

巨大ハリケーン・サンディと地球温暖化の直接的関連性はよくわかりませんが(下記記事によれば、メキシコ湾流に乗ったハリケーンは暖かい海水によって勢力を増し、海面上昇が洪水を増幅させた可能性があるといった指摘もあるようです)、ここのところ人々の関心が薄れていた気候変動・温暖化への関心を改めて呼び覚ましたように見えます。

ニューヨーク市のブルームバーグ市長は、昨年8月のハリケーン「アイリーン」に続く今回のサンディの襲来という異常事態について「気候は変動している」と強調し、気候変動問題に対するオバマ大統領の取り組みを評価するという理由でオバマ支持を表明、大統領選挙にも影響を与えました。

2100年には4.4℃上昇?】
地球温暖化については、どの程度の変動が起きるのか・・・という基本的なところが不明確なため、その後の議論も進みにくいところがあります。
下記National Geographic記事は、21世紀末の大気中で二酸化炭素(CO2)濃度が予測通り現在の2倍になった場合の気温上昇は、これまで予測されている数値のなかでは最悪の4.4℃の可能性が高いことを論じています。

****地球温暖化、最悪のシナリオが現実に*****
巨大ハリケーン「サンディ」をきっかけに、多くの人々が気候変動を意識し始めている。いくつかの報告によれば、メキシコ湾流に乗ったハリケーンは暖かい海水によって勢力を増し、海面上昇が洪水を増幅させた可能性もあるという。

最新の研究によれば、温暖化は既に進んでいるという。しかも今後の進展は、数ある予測の中でも高い値に沿う可能性が大きいと研究チームは結論づけている。

アメリカ、コロラド州ボルダ―にある国立大気研究センター(NCAR)の大気科学者ジョン・ファスーロ(John Fasullo)氏とケビン・トレンバース(Kevin Trenberth)氏は、ある問題の答えを探すため、地球湿度のパターンを研究した。21世紀末の大気中で、二酸化炭素(CO2)濃度が予測通り現在の2倍になった場合、どれくらい暖かくなるかという問題だ。

平衡気候感度とも言うCO2増加による気温の変化量は、2100年前後までに摂氏2.8度ほど上昇すると見積もられている。ただし、予測値はばらばらで、1.7度から4.4度まで倍以上の開きがある。
この違いは無視できる差ではない。気温上昇の度合いが高いほど問題も拡大するためだ。海面上昇や異常気象といった災厄が増え、海洋循環も激変する。その結果、地上でも大きな変化が起きる。

◆雲が鍵を握る
気候感度が1979年に初めて報告されてから、予測値の幅は全く狭まっていない。この謎を解明するため、ファスーロ氏とトレンバース氏は空に目を向けた。

ファスーロ氏によれば、気温上昇の度合いを正確に予測する上で鍵を握るのは雲だという。雲は地球のエネルギー収支に大きな影響を及ぼす。まず、白い雲は日光を反射して地球を冷やす。大気中の高さによっては、毛布のような役割を果たし、熱を閉じ込める。

しかし、雲は形や大きさ、明るさが目まぐるしく変わり、モデル化が難しい。人工衛星による観測は不完全で、誤差が生じる。ファスーロ氏とトレンバース氏はこれらの難題を回避するため、雲が生まれる仕組みに着目した。その環境は相対湿度が高く、水蒸気が豊富にある。

◆ドライゾーンの役割
ファスーロ氏とトレンバース氏は、大気循環によって生まれるドライゾーンという範囲を研究の対象とした。
雲が形成される対流圏のうち、高度1000メートル前後にあるドライゾーンは、未来の気候を決定づける上で主要な役割を果たす。北半球のドライゾーンは北緯10~30度の亜熱帯にある。ベネズエラからアメリカ、フロリダ州の間だ。

研究チームはドライゾーンの相対湿度の観測値を、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による最新の研究で使われた16種類の気候変動モデルと比較した。
その結果、相対湿度の観測値と最も一致していた3モデルはどれも、最も暖かい未来を予測している。21世紀末までの気温上昇は4.4度という値だ。最も不正確とされるモデルは、相対湿度の値を高く、気温上昇を低く予測していた。

ファスーロ氏は次のように説明した。「目に例えると、ドライゾーンは気候システムの虹彩だ。暖かくなるにつれて、虹彩は広がる。つまり、空を覆う雲が減り、より多くの熱を取り込むことになる」。ドライゾーンの拡大が考慮されていないモデルは、観測データと一致していなかったとファスーロ氏は述べる。
つまり、温暖化はどんどん進むという結論になる。

今回の研究結果は、11月9日発行の「Science」誌に掲載されている。 【11月13日 National Geographic】
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上記記事内容もよく理解できませんし、ましてや、指摘の妥当性については全くわかりませんが、4.4℃も気温が上昇したら恐らく大変な影響が出るだろう・・・ということぐらいは想像できます。
個人的には、老い先長くない身ですから、正直なところさほど切実な危機感は持ってはいませんが。(このような発想が、温暖化対策を考えるうえで最大の敵でしょう。)

【「25%減」事実上撤回、しかし代替目標もなく公約取り下げはせず
温暖化対策を協議する第18回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP18)は、今月26日にカタールで開幕されます。
京都議定書の「第1約束期間」が今年末で終わるため、来年から始まる「第2約束期間」に参加する国の削減目標などが議論されます。

日本は2008~12年度の「第1約束期間」の平均値で1990年度比6%の削減義務を負っていますが、環境省の推計ではこの数字は達成できる見通しとのことです。

「第2約束期間」については、日本は不参加を表明したため削減義務は負いませんが、09年に当時の鳩山由紀夫首相が国連で表明した「20年までに90年比で25%削減を目指す」が国際公約となっています。
しかし、福島第1原発事故を受けて「原発ゼロ」方針をとっているため、野田主要は、この国際公約実現を事実上撤回する考えを明らかにしています。

****25%減」撤回を事実上表明=温室効果ガス排出―野田首相****
野田佳彦首相は15日昼、都内で開かれた会合で講演し、温室効果ガス排出量の削減に向け、省エネの徹底と再生可能エネルギーの普及に全力を挙げる方針を強調した。一方、2020年の排出量を1990年に比べて25%削減する政府目標について「そうした(省エネなどの)努力を尽くしても、原発によって賄うことを想定していた二酸化炭素排出の抑制を代替するのは難しいものがある」として、事実上撤回する考えを示した。

25%削減は、09年9月、鳩山由紀夫首相(当時)が国連でのスピーチで表明、国際公約となっていた。しかし、政府は先月策定した「革新的エネルギー・環境戦略」で、温室効果ガスについて30年時点でおおむね2割削減を目指し、20年時点は「5~9%削減となる」とした。【10月15日 時事】
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とは言え、“国際公約”ですので代替目標も出さずに撤回するのも難しいところがあります。
さりとて代替目標を検討する時間もない・・・ということで、とりあえず今回のCOP18での公約取り下げは行わない方針です。

****日本、温暖化ガス25%減公約取り下げず COP18 ****
26日にカタールで開幕する第18回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP18)に向け、日本政府は9日、基本方針を決めた。温暖化ガスを2020年に1990年比25%減らす国際公約は「国際交渉に与える影響にも留意しつつ、慎重に検討する」とし、当面は取り下げない姿勢を示す。

政府のエネルギー・環境会議は年末までに新たな温暖化対策をつくる。25%目標はこの議論と併せて扱いを検討する。途上国支援では、09年に発表した「鳩山イニシアチブ」が終了する13年以降も「切れ目なく支援する」との立場を表明する。

温暖化対策の新たな国際枠組みでは、「全ての国が参加する公平で実効性のある国際枠組みが必要」と改めて強調する。京都議定書の第2約束期間への不参加方針も改めて示す。【11月10日 日経】
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年内に解散・総選挙が行われることが報じられていますが、そうなれば恐らく民主党政権から自民党を中心とした新たな政権に変わることが予想されています。
自民党は原発容認の姿勢ですので、「原発ゼロ」も撤回ということになるのでしょう。
エネルギー政策の根幹が大きく変わることが予想される状況では、温暖化ガス削減目標も立てようがありません。

【「今のままでは国際的に通用しない」】
こうした日本の状況に対する海外に視線は厳しいものがあります。

****温室ガス25%減目標に日本難渋 脱原発で行き詰まり****
地球温暖化対策の国際交渉で、日本政府が「温室効果ガスの排出を2020年までに90年比で25%減らす」今の目標の扱いに苦慮している。9月に脱原発の新戦略を決めたことで、原発頼みだった目標も行き詰まったが、今後の扱いは宙に浮いたまま。交渉では温暖化対策の強化が議論されており、日本への視線は厳しさを増している。

「(11月下旬からの)COP18には間に合わないかも知れないが、年末までに何らかの方針を示したい」
韓国・ソウルで23日に閉幕した国連気候変動枠組み条約第18回締約国会議(COP18)の閣僚級準備会合。日本政府代表の生方幸夫・環境副大臣は2日間の会期中、温室効果ガスの削減目標の説明に追われた。

22日に会談した中国の解振華・国家発展改革委員会副主任は「効果ある数値を出すことを期待する」と述べ、日本の目標引き下げをいち早く牽制(けんせい)。英国との会談でも、相手の閣僚が「高い目標を持つべきだと思っており、関心を持っている」と発言した。

日本側が説明に苦しんだのは、野田佳彦首相ら政権幹部が今の目標達成が難しくなったことを認める一方、撤回して新目標を作るかなど、今後の対応をあいまいにしているためだ。生方副大臣も現地での記者会見で、「原発を増やしていく前提は変わったが、それを理由に(25%削減目標を)すぐに取り下げるつもりはない」と強調した。

ただ、政府内では「今のままでは国際的に通用しない」(環境省幹部)との見方が強い。仮に目標を下げる場合でも、後ろ向きとみられないよう、途上国向け資金援助の増額などとセットで提示する「工夫」が必要との意見も出ている。一方、政権交代が起きると「原発ゼロ」路線が白紙に戻る可能性が取りざたされ、「しばらく対外的な動きは取りにくい」(外務省幹部)との声も聞かれる。

姿勢が定まらない日本を尻目に、温暖化対策の国際的な枠組みは今年末、大きな転機を迎える。京都議定書の第1約束期間が終わり、20年以降にすべての国が参加する新しい枠組みづくりの議論が、COP18から本格化する見通しだ。
日本も第1約束期間の終了に伴い、排出削減義務を負う枠組みから離脱。代わりに、自主目標に基づく取り組みの結果を国連に報告する。「公約」を守れるかで、温暖化対策への姿勢が問われることになる。

今回の準備会合ではCOP18の主要議題として、各国の削減目標をどう引き上げていくかが挙げられた。こうした中、日本は目標について明確な方針を示せないまま、「本番」に臨もうとしている。温暖化交渉に詳しい名古屋大の高村ゆかり教授(国際法)はこの状況を危ぶむ。「日本は信頼を失いかねない。今後の交渉を主導できない恐れがある」【10月24日 朝日】
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“「今後の交渉を主導できない恐れがある」”・・・・“恐れ”ではなく、間違いなく主導などできませんし、批判の矢面に立たされること、“お荷物”扱いされることも予想されます。
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地球の鉱物資源は枯渇しつつあるのか?

2012-06-21 23:15:30 | 環境

(6月2日 ノルウェー調査船で北極海を視察するクリントン米国務長官 北極圏には天然ガスや鉱物など多くの埋蔵資源があり、そのうちの石油だけでも900兆ドル(約7京円)の価値があるとも言われています。昨今の温暖化に伴い北極圏の海氷が溶解することで、海底に眠る豊富な資源を狙う国々により大争奪戦が展開されることも懸念されています。 【6月4日 AFPより】)

日本にも大規模油田? 「面積では海外の大規模油田に匹敵する」】
日本は原油の約9割を中東からの輸入に依存しています。
日本国内でも全く産出されない訳ではなく、新潟県・秋田県の日本海沿岸、および北海道(勇払平野)などで原油が採掘されてはいます。しかし、石油生産量は年間で86万キロリットル程度(2004年度)と、国内消費量全体に占める比率は、0.3%に過ぎません。

先日、佐渡島の南西沖で“大規模油田”の存在が確認されたとの報道がありました。
****新潟県沖に大規模油田か、来春にも試掘*****
経済産業省は18日、新潟県沖で油田・天然ガス田の商業開発に向けて試掘に入ると発表した。
来年4月にも掘削を開始し、埋蔵量を3年かけて調査する。地質調査の結果では国内最大の油田・ガス田となる可能性もある。

試掘地点は、新潟県の佐渡島から南西約30キロの水深約1000メートルの海底。2003年に周辺海域で試掘した際、少量の石油やガスの産出が確認されていた。
経産省資源エネルギー庁は、08年に導入した3次元物理探査船を使用して地層構造を精密に分析した結果、海底から2700メートル下にある地層のうち、約135平方キロに及ぶ範囲で石油や天然ガスの埋蔵の可能性があるとのデータを得た。面積はJR山手線内の約2倍に相当し、同庁は「面積では海外の大規模油田に匹敵する」としている。

政府は09年、「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」を策定し、日本の排他的経済水域(EEZ)内の資源開発に本腰を入れた。日本近海の11か所で3次元調査を進めたところ、新潟県沖が最も有望と判断した。試掘の結果が良好なら、同計画の第1号として17年の商業化を目指す。【6月18日 読売】
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商業化のためには採掘コストが問題となります。
“水深約1000メートルの海底”で、“海底から2700メートル下にある地層”・・・・ということで、素人的にはなんだか大変そうにも思えます。
しかし、“商用として世界で初めて海底油田を掘削したのは、日本の尼瀬油田(新潟県出雲崎町)であるとされる。 2007年現在、世界最深の油田は、アメリカ合衆国メキシコ湾岸油田でエクソンモービル社が保有する油田。水深8,600フィート(約2,580メートル)に達しているが、同地域では年々規模の拡大が続いており、水深10,000フィートを超える掘削リグの設置計画を持つ社も存在している”【ウィキペディア】とのことですから、技術的には問題ないのかも。

【「地球の鉱物資源は膨大であり、その供給は数千年間続く」】
石油の大量消費といった生活スタイルへの反省もあって、地球の資源はやがて枯渇する・・・・ということが、なんとなくイメージ的に定着していますが、探せばまだまだ地球には多くの資源が存在しているとの意見もあるようです。

****地球の資源はそれほど早くは枯渇しない****
地球の鉱物資源は枯渇しつつあるのだろうか。

ニッケルやプラチナなどの重要な金属を小惑星で採掘するという、最近広範囲に公にされている諸提案は、一つには地球の資源が遠くない将来に欠乏するとの見方が背景にある。 (中略)

米グーグルのペイジ最高経営責任者(CEO)と映画監督のジェームズ・キャメロン氏は4月、地球の資源は間もなく、100億に向かう世界の人口の技術的必要性を満たせなくなるとのメッセージとともに、ワシントン州のベルビューにプラネタリー・リソーシズ社を作った。

世界最大級の鉱業用機器メーカー、米キャタピラーは既に、米航空宇宙局(NASA)とともに宇宙鉱業設備の設計に取り掛かっている。同社のインテリジェンス・テクノロジー・サービシズのマネジャー、ミシェル・ブルボー氏は「月面や鉱業用途で使用できる同じタイプの技術を使った自立稼働設備を目指している」と話した。

しかし、地球での鉱業に資金を投じている企業は、地球は大きな、事実上無尽蔵の鉱山であり、宇宙と同じほど多くの未探査の場所があるとしている。英豪系の鉱業会社BHPビリトンの非鉄部門のCEOで地質学者のアンドルー・マッケンジー氏は「地球には文明のための鉱物があと1万年分残っている」との見方を示した。同氏は「もちろん文明は変化し、今とは異なった鉱物も出てくるだろうが、1万年以上分はある」としている。(中略)

カナダ・オンタリオ州の鉱業会社HTXミネラルズのスコット・マクリーンCEOは「地球に鉱物を供給するのに宇宙の小惑星に依存しなければならないなんて想像もできない」と述べた。同CEOは、そのアイデアは「面白いし、こうしたことを考えるのは幻想的だ」としながらも、「地球の鉱物資源は膨大であり、その供給は数千年間続く」と指摘した。(中略)

地殻は3~30マイル(4.8~48キロメートル)の厚さがあるが、ほとんどの場合、掘削されるのは表面から半マイル(800メートル)だけだ。スウェーデンのコンサルティング会社ロー・マテリアル・グループの上級パートナー、マグナス・エリクソン氏は「鉱物採取のために削っているのは表面だけだ」と指摘した。コロラド・スクール・オブ・マインズのエコノミスト、J・E・ティルトン氏は、氷山の一角を見ただけでも埋蔵量の推定値は相当なものだとし、「現在の消費ペースでいけば、地球の地殻中の銅は1億2000万年、鉄鉱石は25億年持つ」と述べた。ただ、これには採掘コストは考慮されていないという。

鉱業会社は地球上にはグリーンランドやカナダの北極圏、モンゴル、それに海底など、ほとんど開発されていない多くの場所があるとしている。
水中ロボットを用いれば、海底の「ブラックスモーカー」による鉱床から鉱物を掘り出すことができる。ブラックスモーカーは、銅、金、その他の金属を含んだ熱水を海底から噴き出している煙突状のもの。パプアニューギニア沖合の海底では2010年代末までに銅の採掘が始まる見込みだ。

陸上について鉱山会社のエンジニアたちは、鉱物を溶解してそれをパイプで吸い上げたり、高圧の水を放射して鉱石を抽出したりする新しい技術によって可採粗鉱量が増える可能性がある、と述べている。【6月6日 ウォール・ストリート・ジャーナル】
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世界のエネルギー需給を一変させている「シェールガス」】
採掘コストを考慮せずに“地殻中”の埋蔵量を云々しても仕方がない感もありますが、埋蔵確認技術や採掘技術の進歩で、以前は利用できなかった資源が利用できるようになっているのも事実です。
その一番の事例が、“シェールガス”ではないでしょうか。

シェールガスとは、“頁岩(けつがん)=シェール=に含まれている天然ガス。通常の天然ガスに比べて採掘が難しい「非在来型天然ガス」の一種だが、水圧破砕などの技術が確立したことで商業生産が可能になった。天然ガスの可採埋蔵量は約60年とされていたが、シェールガスの開発によって160年を超えるとの見方もある”【2月10日 産経】とのことです。

****シェールガス、日本恩恵 採掘方法確立、LNG値下がり 北米からの輸入焦点****
原発停止、代替火力需要を賄う
「シェールガス」と呼ばれる新型の天然ガスが世界のエネルギー需給を一変させている。頁岩(けつがん)と呼ばれる堆積岩の中にあり取り出すことが難しいとされていたが、採掘方法が米国で確立され、利用可能な天然ガス埋蔵量が飛躍的に増加した。

原発の稼働停止で液化天然ガス(LNG)輸入が急増する日本も量的、価格的に恩恵を受けている。さらに現在は行われていない米国からの直接輸入が実現すれば、エネルギー安全保障のうえでも大きなメリットとなる。
                   ◇
日本が2011年に輸入したLNGは7853万トン。原発が再稼働できないため、火力発電用の燃料として需要が急増し、輸入量は10年に比べて12・1%、850万トンあまり増加した。これだけの需要増にもかかわらず、日本が安定的にLNGを調達できた背景にはシェールガスの開発があった。

11年の輸入増加分のうち、約半分はカタール産。世界最大のLNG輸出国であるカタールは、米国向け輸出を想定し液化設備を増強したが、シェールガスの生産が増えた米国向けのLNG輸出は期待通りには拡大していない。
石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の伊原賢上席研究員が「シェールガスがなかったら、日本は調達に苦しんだはず」と指摘するように、シェールガスの影響でカタールはLNGを日本に回す余裕が生じた。

 ◆電力危機を救う
シェールガスは価格を引き下げる効果もあった。
電力各社がLNG火力への依存度を強めている影響もあって、日本向けLNGのスポット(随時契約)価格は世界でもっとも高いとされる。天然ガス売買の単位である100万BTU(英国熱量単位)当たりの価格は昨秋には18ドル前後まで高騰、シェールガスで国内のガスがだぶつく米国に比べ、価格差は一時約6倍に開いた。それでもエネルギー業界の関係者は「シェールガスがなかったら、価格はもっと上がっていた」と口をそろえる。

さらに日本のLNG需給を一変させる計画も進む。米国ではメキシコ湾岸にあるLNG受け入れ基地を輸出向けに転換し、シェールガスを輸出する計画が前進。カナダでも太平洋岸にLNGプロジェクトが浮上している。
米国はエネルギー安全保障の観点から自国産エネルギーの輸出を原則として禁じてきた。だが、米LNG事業者チェニエイルが韓国ガス公社などとLNGの長期契約を締結するなど、シェールガスは米国のエネルギー政策も変えつつある。

今後、日本が有力な輸出先になることは間違いない。カナダのブリティッシュコロンビア州コルドバ堆積盆地のシェールガスプロジェクトで権益を持つ三菱商事は、コルドバのガスをLNGにして日本に輸出することを検討している。

 ◆中東依存脱却へ
核開発問題を抱えるイランが、経済制裁の強化を受けて原油供給の大動脈であるホルムズ海峡封鎖の可能性に言及し、原油の8割以上を中東に依存する日本のエネルギー安全保障の脆弱(ぜいじゃく)さが改めて浮き彫りになった。

LNGについても2割超をカタールやアラブ首長国連邦(UAE)に依存。中部電力のようにカタールのウエートが7割まで増加しているところもある。政治的、経済的に結びつきが深い北米からLNGを調達できれば、エネルギー安全保障上、大きな意味を持つ。

調達先を多様化できれば、買い手である日本にも選択の余地が広がり、価格の引き下げも期待できる。「足りないから、高くても買うしかない」。LNGについてエネルギー業界からは今、こんな諦めの声が漏れるが、シェールガスはこうした現状を変えてくれるかもしれない。【同上】
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資源開発と環境問題
新たな技術による新たな資源開発は、新たな環境問題を引き起こすこともあり得ます。
シェールガスについても、水源の汚染の問題や、水圧破砕のために地中に注入された水が地震発生の引き金になっているとの指摘もあります。
また、2010年4月にアメリカで起きたメキシコ湾原油流出事故に見られるように、高度な技術に依存した採掘は、トラブル発生時にコントロール不能に陥る危険もあります。

もっとも、環境問題は資源開発についてまわる問題で、従来型の安易な採掘方法でも同様です。
誰でも採掘できるだけに、乱開発となりやすく、環境破壊がひろがる側面もあります。
中国のレアアース採掘にも、そんな環境問題があります。

また、資源という権益が腐敗・癒着・汚職といった社会的害毒を惹起することになる問題も、世界の資源開発の現場でよく見られます。

****レアアース王国・中国の「毒」、官民が結託し不正が横行****
「レアアースはヘロイン並みの利益をもたらすがヘロインほどのリスクはない。やれば必ず儲かる。やらないだけ損だ」。中国でいまレアアースをめぐり、官と民、そして裏社会も加わった一大狂騒曲が繰り広げられている。発言はある業界関係者のものだ。
中央政府の方針によって、レアアース企業の統合と採掘についての規制強化が進んだが、必ずしも効果を上げていない。レアアースの「毒」は簡単には消えないようだ。

昨年後半以降、中国南部の江西省カン州市でも、違法な採掘・生産、闇市場での取引、密輸などへの監視が強化された。正規業者は操業をやめたが、違法な採掘を続けるブラック業者がなくなったわけではない。違法業者は周辺住民に通報されないよう口止め料を払っている。

市政府は、採掘量や精錬企業に割り当てる生産量も一気に絞った。市の共産党委員会書記は各県(市の下に県がある)の書記に対し、「採掘業者の統合を進めないとクビ」と厳命した。市内の採掘場は10分の1になり、88件あった採掘の許可証は1社に一本化された。国からの割り当てを超えて採掘すればペナルティが科され、翌年その分は減らされる。

だが実際は、割り当てを超えて採掘され、違法な市場で売られることが多い。生産管理が十分ではないのには、鉱脈が浅い所にあり採掘が容易なことも関係する。こうした不正が起きるのは、村の主任レベルから町長、果ては鉱産物資源管理局の一部の職員までが、背後で結託しているとみられるからだ。(中略)

レアアース採掘による環境汚染も深刻だ。レアアースの精錬に使われる硫酸アンモニウムや、国の排出基準を大幅に超えるアンモニア、窒素を含んだ廃水は、土壌や農地汚染の原因になっている。
カン州市では、採掘の残滓が積み上がったハゲ山や廃棄された鉱山が放置されている。国は対策に乗り出しているが、その面積が広すぎて経費がかさみ、焼け石に水だ。(中略)

中央と地方との利害対立
中央政府の指示の下、レアアース業界で進む整理統合だが、中央企業(中央政府直轄の国有企業)と地方政府・地方企業との間で、水面下の戦いが厳しさを増している。

地方は採掘をめぐる主導権を簡単には手放したくない。(中略)
省政府はレアアースを経済発展の牽引役にしたいと考えており、事業の主導権を中央企業に持っていかれることに抵抗を示す。仮に中央企業が省外の工場で高付加価値品を製造すれば、省の税収に寄与しない。省としてはなるべく地元企業にかかわらせたいところだ。
地方企業も難題を抱えている。採掘をめぐる権利関係の処理が複雑なためだ。採鉱権は自社で保有していても、実際に採掘しているのは個人業者であり、こうした業者は山林権を農民から買い取っている。採掘の作業場も業者が自前で作ったものだ。地方企業が自主採掘を進めるには調整が必要だが、個人業者と地方政府当局者との結び付きもあって、事は簡単ではない。(後略)【6月14日 東洋経済】
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