(APEC終了後、再びスモッグに霞む北京市街 ただ、“APECブルー”は、当たり前のことではありますが、規制を行えば青空が戻ることも改めて人々及び中国政府に認識させました。 「会議中だけでなく、普段から何とかしろよ!」という不満も強まるでしょう。 “flickr”より By 居居之路 https://www.flickr.com/photos/83817210@N02/15850344402/in/photolist-pMjHfL-pLJShb-p6KJjx-q9Dab3-pJw1V1-q4eE8Z-pMJuqt-pQNYPK-pdnCoB-pMV6zp-q4tCfM-p8zGmc-q5jw2X-q5jxzX-p8zGVZ-q6bWw5-pdnCnp-pJQi8W-q7LKFs)
【新たな温暖化対策の国際枠組み合意に道筋も】
先のAPECを舞台にした各国間、特にアメリカと中国の駆け引きについては多くが報じられていますが、そうしたパワーゲーム的なものには、個人的には辟易する感もあります。それが日本を含む国際社会の現実ではありますが・・・。
そのなかでもやや明るいものとしては、温室効果ガス削減に向けて、これまで動きが鈍かった二大排出国でもある両国が前向きな削減目標を明示したことがあります。
もちろん、これも両国の思惑が背後にあるものでることにはかわりありませんが。
****<温室ガス削減>米中の新目標、国際枠組みに道筋****
温室効果ガスの2大排出国の米中がそろって前向きな削減目標を示したことで、来年末に期限が迫る新たな温暖化対策の国際枠組み合意に道筋が見えてきた。
オバマ米大統領は「2025年までに05年比26~28%削減」を打ち出した。「20年までに同17%削減」を掲げてきたが、米ホワイトハウスは声明で「20~25年は削減ペースを倍にする」と明言。
シェールガス量産化で二酸化炭素(CO2)排出量の多い石炭から天然ガスへの転換が進んでいることが積極策の背景にある。温暖化交渉に詳しい高村ゆかり名古屋大教授は「かなり野心的だ」と評価する。
中国の習近平国家主席は、CO2排出量を「遅くとも30年ごろをピークに減少させる」と約束し、総量削減の時期に初めて踏み込んだ。
従来は国内総生産(GDP)当たりの排出削減目標しか示さず、実際の総排出量は右肩上がりだった。産業革命以降の気温上昇を2度未満に抑える国際目標達成には、中国が早期に総量削減に転じることが不可欠で、近年は途上国の間からも批判が出ていた。
9月の国連気候変動サミットで、米中は20年以降の削減目標を「来年3月までに提出する」としていた。
歩調を合わせて前倒しした背景には、12月の国連気候変動枠組み条約第20回締約国会議(COP20)に向けた戦略がある。日本政府の交渉担当者は「目標の姿を早々と示すことで、交渉の主導権を握る意思は明らかだ」と指摘した。
中国では「産業構造の変革はあらゆる利害の調整が伴い、至難を極める」(公衆環境研究センターの馬軍代表)のが現実だが、米中で温暖化対策で協力する姿勢を見せられれば、世界に対するアピールになるという計算ものぞく。オバマ政権にとっては、削減に消極的な共和党の説得にも中国との連携は有効だ。
一方、欧州連合(EU)は警戒を隠さない。EUは10月に先陣を切り「30年までに1990年比40%以上削減」の目標を決めた。ヘデゴー気候変動担当欧州委員は12日、短文投稿サイト「ツイッター」で「(中国の排出ピークが)30年ごろは遅すぎる。2度目標は達成できるのか」と疑念を示した。【11月12日 毎日】
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【アメリカ国内では批判も】
アメリカ国内、特にオバマ大統領との対決姿勢が強まっている野党・共和党は、今回目標設定について、アメリカにとっては負担が重く、中国には甘いものだと批判しています。
****米中温室効果ガス削減合意に反発 共和党、大統領と新たな火種****
■「非現実的計画 後任に押しつける」
米中首脳が会談で合意した温室効果ガス排出量の削減目標に対し、米国内では12日、共和党が強く反発し、オバマ政権との新たな対立要因として浮上した。
12日に北京での首脳会談で合意されたのは、(1)米国は温室効果ガス排出量を、2025年までに05年比で26~28%削減(2)中国は30年ごろをめどに排出量を減少させ、非化石燃料の比率を20%にする-という内容。
これに対し、共和党のマコネル上院院内総務は「合意に動転した。非現実的な計画であり、それを後任の大統領に押し付けることになる。公共料金は上がり、雇用は大幅に減るだろう」と非難した。
オバマ大統領はこれまで、議会での審議を回避し、大統領権限を行使する形で二酸化炭素(CO2)排出規制などを打ち出している。
これを踏まえ、マコネル氏は「排出規制はすでに米国内で混乱を引き起こしているにもかかわらず、中国には(30年までの)16年の間、何も求めないのか」と憤りを見せた。
ベイナー下院議長も「(今回の合意は)手頃で信頼性が高いエネルギーを撲滅しようという、大統領の運動だ」と批判した。
共和党は産業界の意向を背に、オバマ政権の気候変動対策に強く反対してきた。それだけに合意は火に油を注いでおり、先の中間選挙で大勝し、来年1月からの新議会で上下両院を握る共和党は、「新議会での優先議題だ」(ベイナー氏)と色をなしている。【11月14日 産経】
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共和党議員に加え、産炭州出身の民主党議員も合意に反対の立場で、アメリカの新目標の今後は、国内政治動向にも左右されそうです。
【米中ともに“石炭離れ”が背景に】
アメリカ・中国がここにきて足並みをそろえて前向きに見える目標設定を行った背景には、両国で進む“石炭離れ”があると指摘されています。
“この両国の声明の背後には米中の同じ動きがある。石炭離れだ。中国は、発電の80%を石炭で賄っている。米国はシェール革命のおかげで、石炭から天然ガスへの燃料転換が進み、石炭火力の比率は減少したが、それでも40%を石炭火力に依存している。化石燃料のなかで、CO2を最も排出する石炭の消費量を削減したいというのが、オバマ大統領と習主席共通の思いだ。”【11月19日 WEDGE】
アメリカ国内には、上記共和党の批判に代表されるような、石炭業や産業界からの石炭消費削減への反対もありますが、オバマ政権としては、石炭より近年増産が進むシェールガス、オイルを推進するほうが、アメリカ経済にメリットをもたらすとの判断があります。
すでに“今年の6月には既存の火力発電所からの規制値を環境保護庁は発表した。大気浄化法に基づき既設の発電所からのCO2の排出を削減する案だ。05年との比較で30年に火力発電所からの排出量を30%削減することが全米の目標とされ、州毎に目標値が割り振られた。”とのことで、新目標値の“25年に26%から28%削減”は、“30年に30%の火力発電所を対象とした削減目標”と大きな違いはないとも言えます。
“05年が基準年に選定されたのには理由がある。過去最大の排出量の年なのだ。それから、排出量は減少を続け12年時点で既に15.8%減少しているのだ。30%の目標値の半分以上達成済みであり、それほど達成は難しくない可能性はあるが、石炭産業には大きな影響がありそうだ。”【同上】ということで、オバマ大統領としては、新目標も射程距離にあるとの判断のようです。
中国の石炭離れの背景には、“APECブルー”として再び話題にもなった深刻な大気汚染があります。
中国は世界一の石炭生産国であり、消費国ですが、その石炭消費が深刻な環境汚染を惹起していることは周知のところです。
“今年3月の全国人民代表大会では、李克強首相が開会の演説で「貧国と環境汚染に対し宣戦布告を行う」と述べ、スモッグを「非効率で盲目的な開発に対する自然の警告」と称した”【同上】ということで、石炭消費を抑制するために、発電部門における原子力、水力、風力、太陽光などの導入を中国政府は進めています。
この結果、すでに国内石炭生産及び需要は減少に転じています。
また、中国政府は、大気汚染改善のために石炭輸入量と品位も制限する意向を示しています。
従って、「遅くとも30年ごろをピークに減少させる」という新目標は、今の流れでいけばおのずと達成されるものでもあるようです。
*****需要減で石炭生産量も削減し始めた****
・・・・もともと大気汚染対策で石炭使用量の削減を始めたと言える中国だが、石炭の消費量が抑制されれば、CO2の排出量も抑制される。(中略)
中国のCO2排出量の約8割は石炭の燃焼によるものだ。大気汚染対策のための石炭使用量抑制が、そのまま温室効果ガス排出抑制に大きく結びつく。
世界のCO2排出量のうち43%が石炭の燃焼からのものだ。中国の石炭の排出量比率の高さは世界の中でもずば抜けている。
それゆえに石炭対策が温室効果ガス排出減に容易に結びつく。30年までに排出量のピークを迎えるという中国の目標は、石炭離れが始まった中国では当たり前のことを言っているだけのように取れる。【同上】
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そんな事情もあって、中国政府は目標達成に自信を示しています。
****中国 気候変動対策に決意と自信****
中国政府が発表した、二酸化炭素の排出量を2030年ごろまでに減少に転じさせるという目標について、政府の高官は「気候変動対策に当たる決意と自信を示している」と述べ、排出量が世界最大の国として国際社会への責任を果たす姿勢を強調しました。(中略)
また解副主任は、今月開催されたAPEC=アジア太平洋経済協力会議の期間中、車の規制などの特別措置によって北京では、大気汚染が一時的に改善したことにも触れ、「北京で青空を常態化させることも不可能ではない」と述べ、化石燃料への依存を減らすなど気候変動対策を進めることが大気汚染の改善にもつながるという考えを示しました。【11月25日 NHK】
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【「緑の気候基金」】
原発を含めたエネルギー政策が不透明な日本は、温室効果ガス削減目標を打ち出すことができずにいます。
20日、日本を含む国々が、発展途上国の温暖化対策を支援するために93億ドル(日本は15億ドル)を拠出することを表明しています。
****発展途上国の温暖化対策支援 93億ドル拠出へ****
来月ペルーで温暖化対策を話し合う国連の会議、COP20が開かれるのを前に、日本を含む20余りの国が、発展途上国の温暖化対策を支援する「緑の気候基金」に最大で93億ドルを拠出すると表明しました。
「緑の気候基金」は、途上国の温室効果ガスの削減策や温暖化による被害を軽減する対策を支援するために設けられ、来年後半に実際に運用が始まる見通しで、20日、ドイツのベルリンで、各国に基金への拠出を募る会合が開かれました。
会合のあとの記者会見で、緑の気候基金のシェイクフルーフー事務局長は、21か国から最大で93億ドル(日本円でおよそ1兆900億円)の拠出が表明されたことを明らかにしました。
このうち、アメリカが30億ドル、日本が15億ドルを拠出すると表明したほか、パナマやモンゴルなどの一部の途上国も拠出に応じたということです。
温暖化対策を巡っては、来月ペルーで開かれるCOP20で新たな枠組みについての交渉が行われますが、先進国と途上国の間では今後の削減目標や資金援助の額などで対立が続き交渉は難航しています。
今回、先進国が中心となって巨額の資金援助を表明したことについて、シェイクフルーフー事務局長は、「COP20を控えたわれわれに新たな期待や熱意を抱かせる前向きな結果だ」と述べ、難航する交渉の進展に期待を示しました。【11月21日 NHK】
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京都議定書でも、クリーン開発メカニズム (CDM 先進国が開発途上国に技術・資金等の支援を行い温室効果ガス排出量を削減、または吸収量を増幅する事業を実施した結果、削減できた排出量の一定量を先進国の温室効果ガス排出量の削減分の一部に充当することができる制度)が認められていますが、国内での削減が難しいレベルにもある日本としては、途上国支援を通じた実績を重ねていくことが、これまで以上に重要になるのではないでしょうか。
もっとも“国内での削減が難しいレベルにもある”とは言っても、最近話題の水素を使った燃料電池自動車(FCV)のようなイノベーションがあれば事情は一変します。
画期的なイノベーションはともかくとしても、“米中環境協力により、エネルギー・環境技術の協力がさらに進む可能性がある。日本の技術を利用し途上国で温室効果ガス削減に協力するというのが、日本の方針の一つだが、うかうかしていると日本の技術が陳腐化するということを忘れてはいけない。デフレの時代に欧米が日本に差をつけた技術もある”【11月19日 WEDGE】ということで、常に技術革新を助成・誘導していく社会・経済システムが必要です。