孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  人種問題に直面するオバマ候補

2008-03-20 11:48:25 | 世相
アメリカ大統領選挙は恐ろしく長くハードな選挙戦で、民主党のオバマ、ヒラリー両陣営とも相当に消耗してきたようです。
ここのところ失言騒動が続いています。

7日には、オバマ候補の外交担当顧問サマンサ・パワー氏が、「(ヒラリーは)化け物だ。どんなことでもしかねない」、「彼女を見ると気分が悪くなる」といった発言で辞任。
12日には、ヒラリー候補を支持している女性初の元副大統領候補、ジェラルディン・フェラーロ元下院議員が、黒人のオバマ候補について「白人男性や女性だったら今の地位はなかった」と発言し、クリントン陣営の財政委員会のメンバーを辞任。

そして、ここにきてオバマ候補を襲っているのが、オバマ候補の結婚式や娘の洗礼を手がけるなど同氏も「家族のようだ」と慕う、約20年間属してきた教会のライト牧師が人種対立をあおる過激な説教をしていた問題。
これは、失言騒動とは異なる根深い問題のように見えます。

ライト牧師は説教で、「白人のアメリカ合衆国だ」「広島、長崎を核爆弾で殺戮しても気に懸けなかった我々が、自分の庭先で(9・11の同時多発テロとして)起きると腹を立てている」「広島、長崎への原爆投下など米国自身によるテロの報いだ」「イスラエルは違法にパレスチナ領土を40年以上も占領している」といった趣旨の白人・ユダヤ人への過激な批判を繰り返しているとか。

「人種差別によってこの国は創立され今でも運営されているのだ!わが国は白人至上黒人劣等主義を神よりも信じている」といった、いたずらに憎悪を煽るような対応で問題が前進するとは思いませんし、「世界で広まったエイズは白人が黒人を殺すために作り出した陰謀だ」といった発言に至ると、いささか引いてしまうところではあります。
(ライト牧師発言内容についてはhttp://biglizards.net/strawberryblog/archives/2008/03/post_672.html
“苺畑より”から引用させていただきました。)

ただ、自由の国、移民の国アメリカにおいても深刻な人種間の対立・不信感が今なお社会の根底に存在することは事実でしょうし、9.11についても“アメリカが振りかざす正義が、他国においてどのような結果をもたらしているのか”という意味で、アメリカ以外の国民にとってはそれほど違和感のない発言にも思えます。
個人的にも9.11のあと、“これでアメリカも、爆弾の雨を降らされる側の気持ちと痛みを少し理解してもらいたいものだ”と感じたのですが、ヒステリックな反応に終始しているような・・・。

ライト牧師の発言について、オバマ候補は当初「私が教会にいた時には聞かなかった」と弁明していました。
しかし、上述のように長年師事していた人物が繰り返し発言したことですから、“聞かなかった”ではすまないのではと問題が拡大。
一方で、黒人牧師グループからは「ライト牧師を切り捨てるのか」との批判も出たとのこと。

18日、フィラデルフィアでの人種問題をテーマにした緊急演説でオバマ候補は、牧師の言動を知っていたことは認めた上で、「彼の発言は間違いだ。団結が必要な時に分断をあおっている」と批判しました。
その一方で、発言の背景には黒人の置かれた厳しい状況があるとも訴え、「私が白人の祖母と縁を切れないように、彼との縁も切れない」とも。
「黒人への人種差別は決して過去の話ではなく、今も続いている。一方で白人にも失業などの問題はあり、困難な状況は似ている。人種の違いを乗り越えて協力しなければならない」と、根深い差別の存在は認めつつ、融和は可能と訴えています。

オバマ候補をスターダムに押し上げた2004年民主党大会でのスピーチ
「われわれの国が偉大である理由は、高層ビルの高さでも、軍隊の強さでも、経済の大きさでもない事を今夜わたしたちは確認しています。わたしたちの誇りは、“われわれは次のことを自明であると信じる、すなわち全ての人は平等であり、生命・自由・幸福の追求を含む、侵害されることのない権利を創造主から与えられていること”という200年以上も前に書かれた宣言にまとめられます。」
「わたしは彼らにこう言いたい、“ここにあるのは、リベラルなアメリカでも保守的なアメリカでもなく、アメリカ合衆国なのだ”と。ここにあるのは黒人のアメリカでも白人のアメリカでもラティーノのアメリカでもアジア人のアメリカでもなく、アメリカ合衆国なのです。」
http://macska.org/article/34 “macska dog org”より)

正論です。
誰も批判することが難しい正論です。
この正論を掲げることで、人種がらみの発言を持ち込むことが一種のタブーになったような雰囲気がありました。
フェラーロ元下院議員の辞任騒動などはその例でしょう。

しかし、現実に差別・対立が存在しています。
この選挙戦においても、長期化・過熱するほどにその現実が表面に滲みだしてきます。
11日のミシシッピ州予備選挙の出口調査結果によると、アフリカ系有権者の91%はオバマ候補、白人有権者の72%はヒラリー候補に投票し、人種によって投票候補が分かれることが明確に示されています。
ライト牧師の過激な発言は、そのような現実を乱暴に突きつけることになりました。

耳ざわりのいいレトリックで封印されていた人種問題という“パンドラの箱”を開けざるを得ない立場にオバマ候補は立たされたと言えます。
“ひとつのアメリカ”という理想と差別・対立の現実の間をどのようにつなぐのか?
その力量が問われています。

女性候補と黒人候補というマイノリティ同士の争いという民主党。
こうした民主党の消耗戦の結果、共和党のマケイン候補が次第に浮上・・・という構図もあらわれています。

コメント
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