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(世界情勢の鍵を握るウクライナのティモシェンコ首相 “flickr”より By Minirobot
http://www.flickr.com/photos/minirobot/173621687/)
【ユーシェンコ大統領の対ロシア強硬姿勢】
グルジア・南オセチアへのロシアの軍事介入に関して、ウクライナのユーシェンコ大統領は8月13日、クリミア半島セバストポリに駐留するロシア海軍の黒海艦隊が今回の紛争でグルジアへの事実上の海上封鎖に使用されたことを批判し、黒海艦隊の出港を規制する大統領令に署名、また、与党「われらのウクライナ」は8月14日、ロシアを中核に旧ソ連諸国で構成する独立国家共同体(CIS)からの脱退を政府に求める法案を上程するなど、ウクライナはロシアの対決姿勢を鮮明にしてきました。(CIS脱退が、その後どうなったのかはよくわかりません。)
ロシア外務省は9月11日、声明を出し、隣国ウクライナがグルジア紛争をめぐりロシアに非友好的な態度を示している上、ウクライナ・クリミア半島に母港を持つロシア黒海艦隊の行動を制約しようとしていると、更に、ウクライナ国内のロシア系住民の権利が侵害されており、ロシア語の排除を狙った政策が取られている非難しています。
一方、ウクライナを訪れたアメリカのチェイニー米副大統領は9月5日、ロシアとグルジアの軍事衝突でウクライナがグルジア支援の姿勢を表明したことを「他国に勇気ある例を見せた」と称賛しました。
かねてよりEU、NATO加盟を目指す親欧米派と言われるユーシェンコ大統領のこうした方向は、04年の「オレンジ革命」、ロシアとの天然ガスをめぐるトラブルなどを含めて、理解しやすい流れですが、ウクライナの実情はそれほど単純でもないようです。
【揺れる対ロシア政策】
そのときどきの情勢で、ロシアとの関係は改善したり、反発したり、相当に揺れ動いています。
それはロシアのような国を隣国に持ち、貿易・エネルギーの面で深くロシアに依存しており、更に国内にロシア系住民を抱えるウクライナとしては当然のことであり、微妙なバランス感覚が必要とされるところです。
ユーシェンコ大統領の親欧米姿勢にもかかわらず、世論に親ロ的な声が強いことは以前から言われているところです。
ユーシェンコ大統領自身もロシアとの間でこれまで揺れ動いています。
ロシアとの関係が急激に悪化し05年以降経済が失速する中で、ロシアとの関係改善を望む声が国内で高まると、ユーシェンコ大統領はロシアとの対決姿勢をとるティモシェンコ首相を解任。
ついでモスクワを訪問し、「ロシアは我々の永遠の戦略的パートナーだ」と発言するなど、ロシアとの関係修復に奔走した経緯もあります。
繰り返しますが、こうしたバランスはウクライナにとって必要・当然のことです。
そんなロシアとの関係に絶えず苦慮するウクライナですが、最近また対ロシア政策をめぐって国内情勢が不安定になっていると伝えられます。
【ティモシェンコ首相のロシア接近】
****ウクライナ:連立政権崩壊の危機…大統領と首相の確執再燃*****
ウクライナの親欧米連立政権が、今月初めから内紛で崩壊の危機に陥っている。背景には来年の大統領選をにらんだユーシェンコ大統領とティモシェンコ首相の確執がある。現政権が崩壊すれば親ロシア派に政権が渡る可能性もあり、欧米諸国の懸念を呼んでいる。
発端はロシアのグルジア侵攻への対応だった。大統領はロシア批判を強く打ち出したが首相は沈黙。議会でも大統領派与党「われらのウクライナ」が提起した対露非難決議に首相派与党「ティモシェンコ連合」が賛同せず、否決された。
さらに議会で今月2日、大統領権限を縮小する一連の法案が首相派と親露派野党の支持で採択された。これに反発した大統領派は3日、連立解消の方針を決定。大統領が国民向けテレビ演説で「クーデターだ」と訴え、議会解散の可能性に言及する事態になった。
大統領派は、首相が次期大統領選をにらんでロシア政権と密約を交わしたと攻撃。一方の首相は疑惑を全面否定し、攻撃は「大統領のヒステリー」だとして連立政権復帰を求めている。
直近の世論調査によると、主要政治家の支持率は▽ティモシェンコ首相24.6%▽親露派野党「地域党」のヤヌコビッチ党首10.5%▽ユーシェンコ大統領5.3%--の順。首相は大統領選出馬を表明していないが、再選を目指すユーシェンコ氏の最大のライバルとみられており、首相の野心と大統領の嫉妬(しっと)が対立の大きな要因とされる。
大統領と首相は04年の民主化運動「オレンジ革命」で政権を獲得した同志だが、翌年に政策をめぐる対立から決裂し、昨年末に再び和解したばかり。 【9月9日 毎日】
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オレンジ革命時の活躍で「オレンジ革命のジャンヌダルク」とも、また、その経歴から「ガスの王女」とも呼ばれるティモシェンコ首相については、ガスでロシアと揉めていた頃の3月3日ブログ「ウクライナ 天然ガスで再度ロシアとトラブル」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080303)でも取り上げました。
正直に言うと、ウクライナ人女性の伝統的な髪型である三つ編みを巻いた金髪がトレードマークの美貌にひきつけられてしまいます。
この人はかつてのロシアからの天然ガス輸入をめぐってロシアから訴追され、1度目の首相在任中はインターポールのサイトにも顔写真が掲載されていたぐらいですから、これまで親欧米派と言われてきました。
しかし何があったのか、ロシア・ウクライナガス紛争が火を噴いていた時期にロシアは起訴を取り下げました。
【褒めちぎるプーチン首相】
そして今回のロシア接近、そしてユーシェンコ大統領との対決姿勢。
次期大統領選をめぐり、「ティモシェンコ首相がロシア政府から支援を取り付けた」との憶測も飛び交ったようです。【9月5日 産経】
親ロシア派野党をつうじたロシアからの切り崩しがあったのでしょうか。
そう言えば“「仕事は効果的で、人気もある」。ロシアのプーチン首相は6月28日、モスクワで会談したウクライナのティモシェンコ首相を褒めちぎり、波風が絶えなかった両国関係が親密ムードに一転した。”【7月1日 朝日】なんて記事もありました。
その美貌に似合わず(“美貌云々は関係ない”と女性から怒られそうですが)、相当にしたたかな政治家のようです。海賊版ビデオレンタル業から「ガスの王女」まで、一気に階段を駆け上った経歴からすれば、そのあたりは想像できるところではありますが。
今後、大統領選挙が近づくと親ロシア派野党からも大統領候補が出ますので、今は協調しているような親ロシア派野党とも手を切って再度姿勢を変える・・・という場面もありそうです。
上記記事の支持率をみると、ユーシェンコ大統領を引き離しているようですので、うまく立ち回れば今後更に階段を一段上り、美貌の大統領誕生の可能性も少なくないようです。
【EU 関係緊密化で合意するも躊躇いも】
欧米諸国からすると、“反露同盟”の橋頭堡の役割を果たしてきたウクライナの動向は非常に気になるところです。
現政権が崩壊して親ロシア派に政権が渡ることにでもなると、ロシアをめぐる世界情勢に大きく影響してきます。
チェイニー副大統領のウクライナ賞賛は、自陣営にウクライナを引き止めたいアメリカの思惑の表れでもあるのでしょう。
ロシアにすれば、ウクライナをひっくり返せれば大きなポイントです。
EUとウクライナの首脳会議が今月9日パリで開かれ、関係緊密化で合意しましたが、EU内部の国々にも温度差があるようです。
エネルギーでロシアに依存するEUとしては、ロシアとのいたずらな緊張は避けたい思惑があります。
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ロシアとグルジアとの紛争を受けて、ロシアの影響力を排除したいウクライナはEUへの傾斜を深めているが、ウクライナのEU加盟の可能性には今回言及しなかった。
合意は、旧ソ連のウクライナを「欧州の一国であり、歴史と価値観をEUと共有する」と認め、経済、政治面の関係強化や司法協力、ビザ発給の簡素化などを進める方針をうたった。会談後の共同記者会見でEU議長国フランスのサルコジ大統領はウクライナを「東方のパートナー」と位置づけ、「欧州の政治的影響力を高めるためにも有益だ」と、関係強化の意義を語った。
だが、合意はウクライナのEU加盟の可能性については触れず、EU側のためらいぶりも浮き彫りにした。 【9月10日 朝日】
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世界的な欧米諸国とロシアの対立の焦点となっているウクライナ、その国内のユーシェンコ大統領や親ロシア派野党などの関係のなかで、ティモシェンコ首相の今後が気になります。
あまり上ばかり見すぎて階段を踏み外さないように・・・。