孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国李克強首相のアフリカ歴訪で拡大する鉄道建設支援  中国の国際支援に関する「誤解」と問題

2014-05-12 22:51:24 | 中国

(ナイジェリアの鉄道 2009年撮影とのことです。 “flickr”より By Max https://www.flickr.com/photos/donmax02/3735062112/in/photolist-6G4aQC-4EVjsR-9wQvnp-bNMZaF-ekGwo8-ekNf33-ekNeMQ-ekGwYD-ekGyC4-ekNfcQ-ekNfy7-ekGy8P-ekGx3v-ekNgej-ekGwT8-ekNhKQ-ekNg1A-ekGwv6-ekGuTX-ekGw9t-ekNgG5-ekGuvk-ekNkdY-ekGvik-ekGz26-ekNhdb-ekNes3-ekGukF-ekNewL-ekGxd8-ekGv8e-ekNezJ-ekGvKD-ekGvTK-ekGxqa-ekNf91-ekNfNo-ekNhzs-ekGwCD-ekGxXH-ekNeZu-ekGusv-ekGv3t-ekGv1v-ekNfku-ekNkPC-ekGynP-ekGuG2-ekNofu-ekGw1r)

現地の人々の暮らしを改善して中国に親近感を持ってもらうためのもの
中国の李克強首相が、5月4日から8日間の日程でエチオピア、ナイジェリア、アンゴラ、ケニアの4カ国を歴訪中です。

中国は毛沢東・周恩来の時代から、タンザニアとザンビア間を結ぶタンザン鉄道建設(1976年完成)に代表されるように、アフリカを重視した国際戦略をとっていますが、最近では貿易・投資の拡大を背景に、更なる影響力拡大を見せています。

今回の李克強首相アフリカ歴訪でも、ナイジェリアとケニアで鉄道建設の成果が報じられています。

****中国国有鉄道、ナイジェリアの鉄道建設受注****
「経済力強化と現地の暮らし改善」が目的=中国メディア

中国の李克強首相のアフリカ歴訪に合わせて、国有鉄道建設大手、中国鉄建傘下の中国土木工程集団は5日、ナイジェリア交通省とナイジェリア沿海部の鉄道建設契約を交わした。

契約額は131億米ドル(約1兆3300億円)。
中国鉄道産業のアフリカ、そして海外への進出加速を印象付ける契約となった。中国・第一財経日報が7日伝えた。

この契約に基づき、中国土木工程集団は中国の鉄道技術を用いて全長1385キロの鉄道を建設。22カ所の駅を設け、時速120キロで走行可能な車両を走らせる。  

中国の高虎城商務相によれば、ナイジェリアは「中国企業がアフリカで最も多くインフラ建設を請け負っている国」であり、鉄道分野で中国に対する信頼が厚いことをうかがわせ、中国企業はナイジェリアで1995年以降これまでに計4500キロの鉄道修復作業を請け負った実績があることから、さらに新たな鉄道の建設も進めているという。  

一時、中国はアフリカで資源獲得に積極的と言われ、各国から「新植民地主義」と批判も浴びたが、最近は鉄道建設を通じた「アフリカ支援」を前面に押し出している。現地のインフラ整備を支援する形で物流網を整えることは、中国企業の市場開拓にもつながるというわけだ。  

李首相は今回、5月4日から8日間の日程でエチオピア、ナイジェリア、アンゴラ、ケニアの4カ国を歴訪。中国はアフリカの各国と鉄道、道路、通信、電力関連などのプロジェクトで積極的に協力したい意向で、鉄道分野ではアフリカに「高速鉄道研究開発センター」を設ける計画がある。  

中国は広大な国土を高速鉄道で結ぶ計画を進めると同時に、高速鉄道の海外輸出にも力を入れている。その動きは米国にリニア新幹線技術を無償提供するといった日本の売り込み戦略と競い合うかのようだ。  

中国紙・21世紀経済報道は7日、「中国の高速鉄道外交は短期的な利益を目指すものではなく、長期的な投資によってアフリカの経済力を強め、現地の人々の暮らしを改善して中国に親近感を持ってもらうためのものでもある」と指摘した。【5月11日 Searchina】
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他の植民地支配を受けた国と同様に、ナイジェリアもイギリス支配の時代に、内陸の産物を運び出す手段として内陸部と沿岸をつなぐ鉄道が建設され、その鉄道が現在の鉄道網の骨格をなしており、また、老朽化が進んでいます。

現在にあっては物資輸送の中心は自動車に変わってきており、ナイジェリア政府も道路を中心とした対応を行ってきたため、鉄道の多くがまともに運行できないほどに劣化しているようです。

そうした状況で、道路インフラ整備が不十分なナイジェリアにあっては自動車輸送への過重な負担にを軽減するためにも鉄道の再建が必要になっているようです。

これまでも、インドや中国の機関により鉄道リハビリの試みはありましたが(前記記事における“中国企業はナイジェリアで1995年以降これまでに計4500キロの鉄道修復作業を請け負った実績がある”云々)、十分な成果をあげていません。

詳しいことはわかりませんが、“ナイジェリア沿海部の鉄道建設契約”とありますので、今回は沿岸部を結ぶ新路線建設でしょうか。

ボコ・ハラム問題は前面に出ず
折しもナイジェリアは、イスラム原理主義組織「ボコ・ハラム」による200人以上の女子生徒連れ去り事件で、国際的な注目と非難のただなかにあります。

中国もこの事件解決のための支援・協力を申し出てはいますが、李克強首相の訪問にあっては、この問題が前面に出てくる感はありませんでした。

同じように支援・協力を申し出ているアメリカや英・仏であったら、ナイジェリア政府への問題解決に向けた対応を促す、もっと強い対応となったでしょう。

このあたりが、内政不干渉を建前として支援国内の問題には関与しない、中国の国際協力の特徴です。
このことが、アフリカなど人権問題も多い地域で中国の支援・関与が拡大している要因でもあり、また、欧米から批判されるところでもあります。

ナイジェリアは欧米の支援を受け入れてはいますが、“上から目線”的な批判に対しては、“ナイジェリア政府は、対応が遅すぎるといった欧米の批判に反発を強めている。英国などにも「恩着せがましい態度だ」と逆に非難するなど、協調態勢には時間を要しそうだ。”【5月11日 産経】という反発もあるようです。

中国はそういった内政批判は行いませんので、現地政府にとっては付き合いやすい相手です。

【「これは始まりにすぎない」】
李克強首相はケニアでも、ケニア、ウガンダ、ルワンダ、南スーダンの東アフリカ4カ国首脳と、各国を結ぶ鉄道の建設事業契約に正式に調印しています。

****中国がケニアで鉄道建設の契約****
アフリカを歴訪した中国の李克強首相は、ケニアで首都ナイロビと地方都市を結ぶ鉄道事業について、中国が建設資金のおよそ9割を融資する契約を交わし、アフリカでのインフラ事業への進出に力を入れる姿勢を強調しました。

アフリカの4か国を歴訪した中国の李克強首相は11日、最後の訪問国となるケニアのナイロビでケニアなど東アフリカの4か国の首脳と会談しました。
ケニア大統領府によりますと、この会談で、中国はケニアの首都ナイロビと南部の港湾都市モンバサの609キロの区間を結ぶ鉄道事業について、36億ドル(日本円でおよそ3670億円)に上る建設費用の9割を融資する契約をケニア政府と交わしました。
李克強首相は記者会見で、「これは始まりにすぎない。この鉄道は今後、東アフリカの7か国をつなげる計画だ」と述べ、中国がアフリカで鉄道や高速道路などのインフラ事業への進出に力を入れる姿勢を強調しました。
ただ、アフリカにおける中国のインフラ事業を巡っては、中国人労働者を多く連れてくるため、地元の雇用につながらないという批判があります。
今回の事業も中国企業が受注しており、地元では契約に際して入札が行われなかったことなどに疑問の声が上がっています。【5月12日 NHK】
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中国側も試される局面にきている
中国の国際支援については、上記記事にあるような“地元の雇用につながらない”といった批判、あるいは“手当たり次第に資源確保に走っている”との批判もあります。

ただ、こうした批判は誤解に基づいている部分が多いとの指摘もあります。

****中国のアフリカ援助をめぐる4つの誤解****
デボラ・ブローティガム  アメリカン大学国際関係学部教授

中国政府によるアフリカ援助について、四つの誤解が広まっている。  
(1)中国は、最近になって援助を始めた「新顔」だ。  
(2)中国のODAは額がきわめて大きい。  
(3)中国は援助事業に従事する労働者のほとんどを自国から送り込んでいる。  
(4)中国の援助は専ら資源獲得のためだ。

──結論からいえば、これらはすべて根拠が無く、誤りか、過大評価だ。順番に説明していこう。

(1)中国は50年以上前からアフリカに援助している。1960年代後半に建設が決まったタンザニアとザンビア間を結ぶタンザン鉄道建設への援助が代表例だ。

中国は近年、援助額を伸ばしてはいる。だが、主な先進国と比べるとまだ少ない。
2007年のアフリカへのODAの金額は米国76億ドル、仏49億ドル、英28億ドル、日本27億ドル、独25億ドル。
これに対し中国は14億ドルだ。(中略)

本当に巨額なのは貿易と投資の額だ。中国からアフリカへの輸出高は2002年の50億ドルから2008年の500億ドルに10倍増。多くが輸出信用で手当てされている。

アフリカ大陸全体でみれば、援助事業従事者のうち中国人は2割だけで、残り8割は現地のアフリカ人だ。
ただ、進出先ごとに事情が異なる。アンゴラでは中国人45%でアンゴラ人55%。タンザニアでは中国人10%、タンザニア人90%。

背景には、アンゴラ進出は比較的最近で現地の人材がまだ育っていないが、古くからの進出先のタンザニアでは育っているといった事情がある。

中国は資源のないモーリシャスやマリなどを含め、あちこちに援助している。対台湾戦略など、政治的・外交的な狙いがあるからだ。

アフリカでは4カ国だけが台湾当局を、その他は北京政府を国家承認している。中国の援助は外交目的を達成する上で機能してきており、中国企業の資源獲得と深い関連はない。

もちろん、中国はアフリカの豊富な資源の獲得も目指している。だが、そこで使われる手法は公的機関による無償援助ではなく、経済的な得失を考えた投融資の性格が強い。

例えば、中国はアフリカの天然資源を担保に自国製機材を輸出し、その代金を資源で受ける。これは1970年代に日本が中国に対して採ってきた手法だ。

当時の中国では日本の融資を受けるかを巡り大変な議論になったが、自国の発展のための取引と判断して受け入れた。これに似た取引を、中国がいまアフリカに示しているわけだ。

「政治的支配」目指さず
中国のアフリカ進出にはもう一つ狙いがある。
それは、中国企業のグローバリゼーションの後押しだ。中国企業の輸出先を広げ、現地でのブランドイメージの確立を図ろうとしている。

例えば、自動車会社「中国第一汽車集団公司(FAW)」は、今や多くの車をアフリカに輸出し、知名度も上がってきた。

中国製品は(他国の製品ほど)高性能ではないが、価格が手頃なのでアフリカで競争力がある。しかし、中国企業の多くは国外でのビジネス経験が乏しいため、海外投資を促すには政府による支援がいると見ているのだ。

こうした中国のアフリカ進出について、欧米には「ネオ・コロニアリズム(新植民地主義)」との批判があるが、私はその議論にはくみしない。

まず、新植民地主義という概念は政治的な支配関係を指すものだが、中国は、アフリカ諸国を政治的に支配するために経済力を使ってはいない。

新植民地主義には、経済的にも自立できずに、資金面などで旧宗主国への依存が続くといった意味合いもある。製造業が発展せず、天然資源頼みから抜け出せないような状態だ。

しかし中国は、アフリカでの製造業や、セメント、建築資材などのインフラ業界への投資に関心を持っている。ネオ・コロニアリズムと呼ぶのは単純すぎる。

実際、アフリカ各国の政府レベルでは、中国の進出について良いイメージが持たれてきたといえるだろう。中国が新たな選択肢になっているからだ。

アフリカ側は、西欧諸国からの(人権尊重といった)条件付き援助を好まず、もう少し尊敬の念をもって接して欲しいと願っている。

アフリカの普通の消費者も、中国からの輸入でより安い商品が増えたことを歓迎している。

ハネムーンは終わる
では、中国の進出に問題がないかといえば、そうではない。
まず、中国の投資の質に問題がある。
アフリカで事業をしている中国企業は、環境や安全の基準が十分でない。

低賃金も大きな問題だ。アフリカ人の労働者に十分な賃金を払っていない。

中国はアフリカ進出の際に、自分たちの国内問題を持ち込んでしまっているのだ。労働基準は少しずつ改善されてきてはいるが、例えば日本のレベルと比べると、まだまだ差が大きい。

また、アフリカの工場経営者や流通関係者の中には、激しさを増す中国企業との価格競争を懸念する声もある。
アフリカ南部では、現地の経済界が中国企業に脅かされていると感じている。

南アフリカの工場や建設会社の経営者には、中国企業との競争にさらされることに不快感を表す人が多い。彼らは中国企業がフェアな競争をしていないと不満を持っている。ザンビアでは、地元市場で農作物を売り始めた中国人の農業従事者と地元の農業者の間で競争が始まった。

私は3年ほど前から、アフリカの民間レベルで、対中感情が悪化している印象を受けている。
中国進出の様々な問題点を取り上げるメディアの影響もあるだろう。
人々は中国人の大量入国にも不安を感じている。これは移民問題であり、外国人恐怖症のようなものだ。

中国とアフリカの関係は、ハネムーンが終わり、現実的な同居生活が始まる段階に達した。
一緒に暮らしていけば、お互いの良い点も悪い点もすべて見えてくる。そこで、引き続きうまくやっていけるのかどうか。中国側も試される局面にきている。【5月12日 朝日 Globe】
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コメント (1)
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