
(バルセロナ中心部で「独立を支持するわれわれと民主主義の勝利だ」と、独立派の勝利を宣言したマス州首相 【9月28日 The Huffington Post】)
【独立賛成派の左派政党と併せて過半数】
スペイン・カタルーニャの分離独立運動については、9月12日ブログ「スペイン カタルーニャ州議会選挙に向けて再燃する独立問題」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150912)などでも取り上げてきました。
上記ブログでも注目していたカタルーニャ自治州の州議会選挙が9月27日に行われ、独立賛成派が過半数を制したことは多くのメディアが報じています。
カタルーニャ自治州のマス州首相(知事)は今回の選挙にあたり、独立賛成派が過半数を得れば18ヶ月以内に一方的に独立を宣言すると表明し、事実上の国民投票とする戦略に出ていました。
****<スペイン>カタルーニャ州議会選挙 独立賛成派が過半数****
スペインのカタルーニャ自治州で27日、州議会選挙(定数135)が投開票され、中央政府からの独立を主張するマス知事率いる保守系与党を中心とした独立賛成派が過半数を押さえ、勝利した。マス知事は勝利集会で「計画を進めるための大きな力を得た」と述べた。
独立賛成派は過半数を獲得した場合、18カ月以内に独立すると公約しており、中央政府や欧州連合(EU)に承認の交渉を呼びかける見通し。独立を憲法違反として認めない中央政府との対立の激化が予想される。
選挙は有権者551万人で、投票率は77.44%。開票率99.67%で、マス知事の保守系与党CDCなどで作る独立賛成派政党連合「共にイエス」が62議席、別の左派独立賛成派政党CUPが10議席と、合わせて過半数の72議席に達した。
独立反対派は保守系政党「市民」が25議席、カタルーニャ社会党16議席、国民党11議席と惨敗した。
「共にイエス」のロードマップ(行程表)では、選挙勝利後、国王にカタルーニャの主権を宣言し、憲法制定など新政府設立の準備に入る。その後、中央政府の権限を新政府に移管。その間に、中央政府やEUに国家承認を求め、協議を始める方針。
マス知事は27日の勝利宣言で具体的な計画には触れなかったが、中央政府の猛反発が予想される。
また「共にイエス」はEU枠内での独立を目指しているが、CUPはEUからの即離脱を主張しており、賛成派内でも協議が難航する可能性がある。
「共にイエス」の集会でマス知事が勝利宣言すると、広場を埋めた支持者が「独立」「独立」のシュプレヒコールを繰り返し、カタルーニャ独立旗が夜空に揺れた。
大学生のエリセンダ・ポンさん(20)は「この結果を誇りに思う。独立で文化的にも経済的にもカタルーニャは良くなる。困難はあるだろうが、前に進むだけだ」と語った。
カタルーニャ自治州は独自の言語や文化を持つ裕福な商工業地域。人口は約750万人でスペイン全体の約16%に当たる。政府に納める税金が国の補助金などを大きく上回り、不満が高まっている。【9月28日 毎日】
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今後は、独立への動きを加速する州政府と、これを何としても阻止しようとする中央政府の対立が激化することが予想されています。
【今後表面化する反発・批判】
ただ、運動が現実味を帯びればその分、カタルーニャに対するスペインその他地域の反発、カタルーニャ内部における温度差などが表面化することも同時に予想されます。
独立運動を主導する、マス州首相もそこらを踏まえて慎重な構えを見せています。
****<スペイン>カタルーニャ独立派勝利・・・中央政府と対立激化へ****
スペインのカタルーニャ自治州で27日、州議会選挙(定数135)が投開票され、中央政府からの独立を主張するマス知事率いる保守系与党を中心とした独立賛成派が過半数を押さえ、勝利した。
独立賛成派は、過半数獲得の場合、18カ月以内の独立を公約しており、独立を憲法違反として認めない中央政府との対立が激化しそうだ。カタルーニャの勝利は、かえってスペイン全土で反発を呼ぶ可能性もある。(中略)
マス知事は独立賛成派の過半数獲得を祝う集会で、「民主主義の勝利だ」と気勢を上げた。しかし、選挙前に公約した、独立へのプロセスには触れず、中央政府の反応を慎重に見極める模様だ。
中央政府はこれまで自治州政府の独立運動を、違憲として、憲法裁判所に提訴するなどして反発してきた。
バルセロナ大のジョルディ・ムニョス研究員は「中央政府与党の国民党は、全国での支持率アップを目指している。カタルーニャの独立運動を、金持ちのわがままのような印象で宣伝すれば、他州の共感が得られやすい事情がある」と説明する。地中海に面した商業都市を抱えるカタルーニャはスペイン全体に比べ、平均所得が高い。
さらに、独立賛成派も、左右政党などが同居し、欧州連合(EU)への距離も異なり、一枚岩ではない。人口流入の多い都市部では独立への支持は3人に1人にとどまる。
独立賛成派政党の得票率は、同州4県のうち、外部からの移住者が最も多いバルセロナ県で36.1%と最も低く、地域に長く暮らす人口が多い他の3県では56.0〜41.6%と傾向が分かれた。
ムニョス研究員は「(12月にスペイン全土で実施される)総選挙を前に、独立賛成派内の協議、結束や反対派の取り込みに時間がかかり、当面は独立の具体的準備には踏み込みにくいだろう」と予想する。【9月28日 毎日】
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【得票率では過半数に届かず】
“独立賛成派が過半数”の見出しが躍る状況ですが、選挙結果を冷静に見ると、必ずしも“独立が支持された”とは言い難いものがあります。
独立運動を主導してきたマス州首相率いる連立与党だけでは過半数に届かず、その議席数は減少しています。
何より得票率で見ると、独立賛成派は過半数を下回っています。もし今回選挙を独立を問う住民投票と位置付けるなら、問題とすべきは議席数ではなく得票率でしょう。
マス州首相率いる独立賛成派は、独立運動を今後現実化させるためには様々な高いハードルをクリアしていかなければなりませんが、今回選挙結果には、そのような高いハードルをクリアしていけるような“勢い”は感じられず、中央政府側には「マス州首相の戦略は失敗した」との見方もあります。
****議席過半数も「内憂外患」=州独立厳しく―スペイン・カタルーニャ****
・・・州首相らは2017年の独立を目指し手続きを強行する構えだが、中央政府の抵抗に加えてグループ内の路線対立もくすぶり、「内憂外患」の厳しい局面が続く。
マス州首相は選挙後に「有権者から独立計画を進める正統性を得た」と勝利宣言したが、結果は手放しで喜べる内容ではない。
独立派グループは議席数こそ過半数を上回ったものの、得票率の合計は48%にとどまった。スペイン中央紙は軒並み「独立派は有権者の過半数の支持を得られなかった」(エルムンド)と厳しい見方だ。
また、CDCなど連立与党の獲得議席数は62で、12年の前回選挙で得た71議席から減少し、過半数も失った。政権維持には10議席を勝ち取った独立賛成派の野党・民衆統一候補(CUP)の協力が頼みだ。
しかし、連立与党が欧州連合(EU)との協調を重視するのに対し、CUPは「反EU」の立場。政策のすり合わせは容易でない。
州内では実業界を中心に独立に伴う混乱が企業活動に悪影響をもたらすとの見方があり、慎重論も根強い。
評価がはっきりしない選挙結果は揺れる世論を映しているとも言え、中央政府の関係者は地元紙に「マス州首相の戦略は失敗した」と述べ、独立阻止に自信を深めている。【9月28日 時事】
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【賛成派内の対立も】
独立支持派のなかで連立与党とは一線を画する左派政党CUPとの関係も微妙です。
18ヶ月を待たずにただちに独立すべきだとする急進派でもあるCUPは、州首相(知事)としてはマス氏を推していません。
なお、下記記事中の“ジュンツ・パル・シィ党”とは、マス州首相の保守系与党CDCなどで作る独立賛成派政党連合「共にイエス」のことです。
****スペイン カタルーニャ アルトゥール・マス州知事がカタルーニャ・ラジオに出演 気になるCUPとの関係は?****
アルトゥール・マス州知事は地元ラジオ番組”カタルーニャ・ラジオ”に出演し、州知事を続投する意思を再度示した。「私がここまでカタルーニャ(の独立)を持ってきた。 ここまで持ってきて、「あとは君たちで頑張れ」と言うためにこの「国」を助けてきたわけではない。」と語り、同じ独立派であるCUPの「マス氏を州知事に投票しない。」という主張に反抗した。
カタルーニャ・ラジオのインタビューでマス州知事は、9月27日に行われた州議会選挙の結果について語り、「CUPは新しい州議会に影響を与える可能性はある、なぜなら彼らは鍵だからだ。しかし忘れないでほしいのは、彼らは30万票、我々(ジュンツ・パル・シィ党)は160万票を獲得した。」
今のところジュンツ・パル・シィ党とCUPの公式な話し合いは始まっていない。
州知事はまた、以前CUPがマス氏に対し”緊縮政策の大統領”と呼称したことに対し「我々は財政緊縮政策を是とする政府ではない。 マドリード(中央政府)が我々に課した政策を執行したのだ。」と遺憾の意を示した。
CUPはマス氏の打ち出す経済政策を批判、州知事として投票しないと公表している点に、「カタルーニャ州でこれだけ多くの税収源を作った知事は過去に居ない。」と反論。(後略)
【9月30日 PRESS DEGITAL】http://www.pressdigitaljapan.es/texto-diario/mostrar/316948/cup
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【今後求められる“亀裂の修復”】
一方、カタルーニャ自治州が昨年11月、憲法裁判所の凍結命令に反して実施した、独立を問う非公式住民投票に関連し、カタルーニャ高等裁判所は9月29日、同自治州のマス知事を10月15日に召喚すると通知しています。
****<スペイン>独立賛成派知事を召喚へ****
・・・・スペイン検察当局は、昨年11月の自治州政府による非公式住民投票強行実施を受け、命令不服従、権力乱用などの疑いでマス知事の訴追手続きを進めている。
同自治州では27日の州議会選挙でマス知事率いる独立賛成派が過半数を獲得し、勝利したばかり。州政府の報道担当者は29日、現地での記者会見で、「中央の検察当局が画策した政治的な裁判だ」と反発した。
昨年11月の非公式住民投票では、独立反対派のほとんどが投票しなかったこともあり、賛成派が約8割を占めた。だが中央政府は投票を無効とみなしている。【9月30日 毎日】
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投票所に学校の利用を認めたことなどから、州の教育長官や当時の副首相も10月13日に召喚されるとのこと。
政治とは独立した司法判断とは言え、独立阻止に向けて手を緩めない中央政府の意向を受けたものでしょう。
ただ、こうした「強硬姿勢」はいかがなものでしょうか?
今回選挙の必ずしも「独立派の勝利」とも言い難い微妙な結果を考えれば、今必要なことは対立を煽ることではなく、スペインに生じている亀裂をどう修復するかということでしょう。
マス州首相への攻撃は、彼を殉教者に仕立て、独立運動を加速させることにつながるように思えます。
“11月には、スペインの国政選挙が控えている。独立賛成・反対派とも新興勢力が既存政党を脅かすなか、こちらの結果も気になるところだ。”【9月30日 ニュースフィア】http://seijiyama.jp/article/news/20150930-002.html