孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南シナ海でのアメリカの「航行の自由」作戦 今は両国とも抑制的対応 今後の対応に苦慮する中国 

2015-10-30 23:02:00 | 中国

(アメリカ海軍が派遣したイージス駆逐艦「ラッセン」【10月27日 日経】)

中国側にも、これ以上の関係悪化を避ける動き
南シナ海・南沙(英語名スプラトリー)諸島で、中国がスービ(中国名・渚碧)礁などに造成した人工島から12カイリ(約22キロ)以内にアメリカ海軍がイージス駆逐艦「ラッセン」を航行させ、中国海軍のミサイル駆逐艦「蘭州」と巡視艦「台州」がこれを追尾し警告したという件については各メディアで詳しく報じられています。

中国の南シナ海における一方的な領有権主張・影響力拡大に対抗し、「航行の自由」を主張する形でアメリカのこの地域における力を誇示するものとして、アメリカ・オバマ政権が近く実施するのでは・・・と見られていた作戦ですが、最悪の場合、米中の軍事衝突も懸念されていました。

当然ながら中国からの反発などは出ていますが、今のところは米中双方とも「抑制的」に行動しているようです。

****米中、抑制的な姿勢 米艦の南シナ海航行、対話を重視****
南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島で中国が領有権を主張する人工島から12カイリ(約22キロ)内に米海軍のイージス駆逐艦が進入したことについて、米中両政府とも、抑制的な姿勢を保ち続けている。両国関係を極端に悪化させたくない思惑が双方にあるためだ。

カーター国防長官は27日、米駆逐艦の進入後に開かれた上院軍事委員会の公聴会で「国際法が許すあらゆる場所で、必要があればいつでも飛行、航行、作戦をする」とし、数カ月以内に再び派遣する計画を公表。だが、詳しい作戦内容については回答を控えた。

特に抑制的だったのが外交を担う国務省だ。カービー報道官は27日の会見で、「南シナ海問題についての懸念を中国側に伝え続ける」と述べ、対話を重視する考えを示した。ケリー国務長官は「両国が引き続き関係を深めていきたいと考えている」とも言及した。

米国防総省当局者によると、イージス駆逐艦ラッセンは、南シナ海の北から南に向かって約72カイリ(約133キロ)を5時間かけて航行。中国が滑走路を建設しているスビ礁のほか、台湾が実効支配する太平島やベトナムが領有権を主張する岩礁の12カイリ内を通った。「どの国にも肩入れしない」(カービー氏)という立場を明確にするためだ。

習近平(シーチンピン)国家主席は9月の首脳会談で、埋め立てた岩礁について「軍事拠点化するつもりはない」と明言。その直後に米国が軍事行動に出たことで、中国側が南シナ海でのさらなる埋め立てや防空識別圏設定などの対抗措置をとりかねないからだ。ワシントンの軍事筋は「できるだけ騒ぎ立てずに粛々と作戦を進めたいのが本音だ」と語る。

中国側も、外交ルートで「強烈な抗議」を伝えつつも、抑制的な反応を見せている。中国外務省の陸慷報道局長は28日の定例会見で「中国側は一貫して対話による解決を主張している」と強調した。

米駆逐艦の進入前は、中国国内には「警告射撃もできる」(尹卓少将)、「米艦船に体当たりしてもいい」(共産党機関紙・人民日報系の環球時報)など、強硬な主張もあった。だが、進入後は環球時報が28日付社説で「中国人は理性的に対応すべきだ」と冷静な対応を呼びかけるなど、これ以上の関係悪化を避ける動きが出始めている。

中国側は今回、進入した米駆逐艦に対し、軍艦2隻による追跡と警告にとどめた。対抗措置も辞さない構えを見せつつ、米側の出方を慎重に見極める構えだ。【10月29日 朝日】
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軍事的には未だアメリカに及ばないとされる中国としては、もし軍事衝突となって不利な結果となれば、政権の威信が大きく揺らぎ、不測の政治情勢に追い込まれるリスクがあります。

アメリカとしても、核大国・中国と実際に事を構えるリスクは負いたくないところです。
経済関係、気候変動問題・その他国際問題で、中国の協力を必要としており、決定的な対立はアメリカにとってもメリットがありません。

【「落としどころ探り合い」】
アメリカは、今回の巡視作戦を今後数週間から数か月間実施するとの方針を日本など関係国に連絡しています。
「落としどころ」を探る動きが水面下で続くものと思われます。

****米中のシグナルは・・・・「落としどころ探り合い****
小原凡司・元駐中国防衛駐在官

今回の南シナ海における米海軍の活動は唐突に始まったものでなく、今年5月の段階で米国防総省が、将来的に人工島の12カイリ以内に米軍の艦艇が入る可能性に言及していた。オバマ大統領は9月の米中首脳会談で中国側が態度を変えなければ、対応のステージを上げる考えだったのだろう。

米国が派遣したのは、対空、対水上、対潜水艦などすべてに対処できる能力を持つ駆逐艦だった。万が一、中国が軍事的な対抗措置をとった場合、米国は中国と軍事衝突を恐れていないことを示したものだ。

ただ、米側が求めているのは、米軍がこの海域で自由に活動できることで、領土紛争でフィリピンやベトナムを支持して活動することが目的ではない。

派遣した艦船は1隻で、中国に誤ったシグナルを与えないように気をつかっている。艦隊を送ると、中国に何らかの危害を加えようとしているのではないかと認識させ、米国も望まない衝突を起こす可能性がある。

中国は、言葉では激しく反発するが、実際の対応は米艦船の航行自体を妨害したわけでもなく、抑制的だった。米国との軍事衝突は何としても避けたいので、水面下で米国側に働きかけて「落としどころ」を探っているとみられる。

ただ、中国は南シナ海で譲歩の姿勢を見せることもできない。抑制的な対応への反発が強まり、国内世論が持たないと中国指導部が考えれば、中国の方が対抗手段のレベルを上げ、緊張が高まる可能性もある。【10月28日 産経】
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****米中海軍トップが会談 南シナ海航行の沈静化はかる****
中国海軍トップの呉勝利司令官は29日夜、米海軍の艦船が南シナ海・南沙諸島で中国が埋め立てた人工島の12カイリ内を航行したことを受け、米海軍制服組トップのジョン・リチャードソン作戦部長と初めてテレビ会談した。

中国国防省はこれに先立つ定例会見で、テレビ会談の実施を発表。米中両軍の緊張が指摘される中、衝突回避に向けて米軍と意思疎通ができていることを強調し、事態の沈静化をはかる狙いとみられる。(後略)【10月29日 朝日】
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今後とも「落としどころ」を模索する米中間の協議は行われていくでしょうが、中国側が「核心的利益」において譲歩することは難しく、なかなか「落としどころ」が見えないのも事実です。

あり得るのは、中国がASEANの場で協調路線をアピールするような形で、「一時休戦」的な形に持ち込む・・・といったところでしょうか。

ASEANは、フィリピンやベトナムなど対中強硬派だけでなく、カンボジアなど親中国国も存在し、中国との経済関係を重視せざるを得ない各国は中国との決定的対立を望んでいませんので、中国としても“それなりの”結果をだすことも可能です。

習近平国家主席が11月5〜7日の日程で、対中強硬派でもあるベトナム(ただ、ベトナムも国境を接する中国との関係には腐心しています)とシンガポールを公式訪問すると発表しています。

****米国との「一時休戦」に持ち込みたい中国****
・・・・その米国にしても、南シナ海における「航行の自由」作戦で中国側を挑発する意図はない。だから、たった1隻のイージス艦の出動にとどめた。

米国の確認したいことは、公海における軍艦の無害通航が保証されていること、さらに本来国際法において領海の設定が認められていない人工島に接近し、その原則が適用されているかどうかを確認することにある。これらの行動は、決して挑発的なものではないというのが米国の立場である。

そうであるならば、米中両国にとって、「航行の自由」作戦をもって軍事的緊張関係に入るのは過剰反応ということになる。

中国もそれを内心では理解し始めていると思われる。「人民網」によると、習近平主席は訪英前にロイター通信のインタビューにこう述べたという。

「南中国海は中国の対外経済往来の重要な通路だ。中国はいかなる国よりも南中国海の平和、安全、安定を必要としている。中国は南中国海情勢が乱れることを望んでおらず、ましてや自ら混乱をもたらすことはない」

「現在、中国はASEAN諸国と『南中国海における関係国の行動宣言』の全面的で有効な実行に積極的に努力しながら、『南中国海における行動規範』協議を積極的に努力している」

「中国は南中国海の周辺諸国と共に、制度と対話を通じて争いを管理し、交渉と協議を通じて争いを平和的に解決し、協力と共同開発を通じて互恵、ウィン=ウィンを積極的に諮り、各国が国際法に基づき享受する南中国海の航行と上空飛行の自由を守り、南中国海を平和、友好、協力の海とするべく努力する。関係方面も南中国海の平和・安定維持に向けた域内諸国の努力を尊重するべきだ」

英国訪問直前の習近平主席のこの発言から窺えるのは、米国との「一時休戦」であり、ASEAN諸国との協調姿勢の模索である。

こうした流れが、南シナ海における永続性のある和平・協調の枠組み作りに結びつくのであれば、大変結構な話である。

しかし、中国が戦略としての南シナ海支配の野望を放棄するとは思えない。習近平主席の発言は、いわば「その場しのぎ」の戦術であって、米国の「航行の自由」作戦もこの方法でやり過ごそうとしているだけだろう。

早晩、南シナ海の緊張は再燃する。それは疑いないことだろう。中国の南シナ海における軍備増強の動きに目が離せない。【10月29日 阿部 純一氏 JB Press】
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前出の小原凡司氏(元駐中国防衛駐在官)は以下のようにも。

****一隻の米イージス艦の出現で進退極まった中国****
・・・・表に出ない部分で、中国が譲歩できる部分があるのか? 中国は、サイバー攻撃や衛星破壊、電磁妨害等に関する問題で、米国の懸念を払しょくできるような譲歩はできるかもしれない。

しかし、これは、中国にとっては、米国に対する抑止の対等性を放棄させるものでもある。(中略)

と言って、このまま放置すれば、米海軍艦艇に自由に行動させ続ける中国指導部に対する国民の非難は高まるだろう。中国指導部は、「監視、追跡、警告」といった抑制的な対応では済まされなくなる。 そうなれば、中国は、米海軍艦艇を排除するために、針路妨害等の強硬な手段を採らざるを得なくなる可能性もある。

その結果、万が一、米海軍艦艇に損害が出るようなことになれば、米国は自衛権を発動するかもしれない。軍事力の行使だ。(中略)

米海軍に対処しても、しなくても、中国は追い込まれてしまう。米国は、「航行の自由」作戦を継続する。中国が、米国が納得する譲歩を模索できる時間はさほど長くないかもしれない。中国は、厳しい選択を迫られている。【10月29日 Newsweek】
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中国国内世論や敵対勢力との関係で、対応のエスカレートや政治的危機も
「落としどころ」を探る間、上記【産経】記事最後にもあるように、中国側は今後、「弱腰」批判の国内世論にうまく対応する必要があります。

単に「世論」だけでなく、国内で粛清運動の形で権力闘争を進めてきた習近平政権には、その分、党内・軍部に“敵”も多く、そうした権力闘争絡みで強気の対応に出ざるを得なくなる事態もありえます。あるいは、敵対勢力に政治的に追い詰められる場面も。

****習主席、就任以来最大のピンチ 米艦進攻に打つ手なし 不気味な軍、上海閥****
・・・・一方の習氏はこれまで、東シナ海や南シナ海、インド洋、中央アジア、東欧、中東にまたがる「覇権拡大路線」で国内世論の支持を得て、軍の統制も強めてきた。

9月3日に行った「抗日戦争勝利70周年」記念式典では、軍の掌握が進んだとみて、余剰兵員の「30万人削減」を表明する演説を行った。削減で浮いた人件費など600億元(約1兆2000億円)を、兵器や装備のハイテク化につぎ込む考えだ。ただ、ロイター通信など複数の欧米メディアは、軍の将校クラスを中心に不満が高まっていると報じている。

米国艦船の派遣などでメンツを潰された習氏に、中国共産党や人民解放軍の内部から「排撃」の狼煙が上がるのか。

前出の佐藤氏は「習氏は追い込まれている。上海閥の残党や軍の不満分子から、いつ排除されてもおかしくない」と分析した。これまでも指摘されてきた「クーデター」や「暗殺」が現実味を帯びてきたようだ。

さらに、佐藤氏は1962年のキューバ危機の再来も指摘する。
当時のソ連のフルシチョフ第1書記は「(西側諸国を)葬ってやる!」と恫喝していたが、核戦争の恐怖がピークに達したキューバ危機で、最後はケネディ米大統領に「譲歩」して、中距離弾道ミサイルをキューバから撤去した。

佐藤氏は、これが失脚の一因になった例を挙げて、「習氏が同じようなケースをたどる可能性も十分ある」との見方も示している。【10月30日 夕刊フジ】
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もっとも、習近平主席の政治的立場については従来より、上記のような“敵対勢力”との対立で非常に不安定な立場にあるとの見方と、権力闘争を進め「毛沢東以来の『赤い権力者』」(BBC)となったとの見方の両方があります。

29日に閉幕した中国共産党の重要会議、中央委員会第5回全体会議(5中全会)で、すべての夫婦に2人の子供を産むことを認めて「一人っ子政策」を廃止することとなった件についても、習近平政権の“強さ”を指摘する向きもあります。

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中国では一人っ子政策で4億人の人口増加を抑制したとされる。地方の農村にまで張り巡らされた計画出産部門の人員や予算は、地方政府にとって大きな利権だ。

歴代指導者は一人っ子政策を緩和したくても、地方や関係機関の抵抗が強く、阻まれ続けた。これを突破した習主席の権力基盤が固まっていることは間違いない。【10月30日 時事】 
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仲裁裁判所:フィリピンの訴えについて審理を開始
話を南シナ海に戻すと、アメリカの「航行の自由作戦」の他に、フィリピンが常設仲裁裁判所に仲裁を求めていた件も動き出しています。

****常設仲裁裁判所、南シナ海問題の「管轄権ある」 中国の反論退ける****
オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所(PCA)は29日、各国が領有権を争う南シナ海の島々をめぐりフィリピンが仲裁を求めている問題について、同裁判所が管轄権を持つと判断した。中国の激しい反発が予想される。

国際社会が懸念を強めているこの問題についてフィリピン政府は、同国と中国の双方が批准している国連海洋法条約に基づいて解決すべきだと主張。一方中国側は、この問題はPCAの管轄外だとして、仲裁手続きを拒否していた。

PCAは声明で、フィリピンの訴えを検討した結果、「この問題は南シナ海の島々の主権に関わる問題であり、従って同裁判所の管轄ではない、という(中国の)主張を退けた」ことを明らかにした。

代わりにPCAはこの問題が、「同条約の解釈と適用に関する両国間の係争」を反映したものであり、同裁判所が管轄権を有すると判断した。(中略)

PCAは一方で、2013年に最初の申し立てを行ったフィリピンに対し、必ずしも同国に有利な判断が示されるとは限らないと強調した。

審理は今後ハーグで非公開で行われ、最終判断が下されるのは来年以降になる見通し。【10月30日 AFP】
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もっとも、PCAが管轄権を直接認めたのは、フィリピンが主張した15項目のうち、中国が人工島造成を進める南沙(英語名スプラトリー)諸島のミスチーフ(中国名・美済)礁などが領海の起点とならない暗礁に当たるのかや、中沙諸島・スカボロー礁でフィリピン住民の漁業活動を中国が違法に妨害しているかなど7項目に限られ、“最大の焦点となる中国の「九段線」が国際法に違反するかどうかについては管轄権に関する判断を避けており、本格審理でのフィリピン側の主張や、手続きに参加していない中国の出方に左右されることになりそうだ。”【10月30日 時事】とのこと。

小平以来の“韜光養晦”を止めて、“中国の夢”を実現すべく強気の姿勢にでている習近平政権ですが、そのツケが回ってきているとも言えます。
これを機に、中国の外交姿勢が穏健な方向に転じれば幸いですが、そうはなかなか・・・。
コメント (1)
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