
【10月3日 AFP】
【「かつてない和平の兆し」】
ここのところのウクライナ東部の状況は、衝突は沈静化していますが、紛争解決に向けては膠着しているとも言える状況でした。
そうした中で、前向きな動きが出始めています。
****非武装化へ合意文書署名=ウクライナと親ロ派****
ウクライナ政府と東部の親ロシア派などは29日、ベラルーシの首都ミンスクで和平協議を行い、重火器を撤去して前線に幅30キロの非武装地帯を再設置する合意文書に署名した。政府代表のクチマ元大統領のスポークスマンが交流サイトで明らかにした。
10月2日にパリでロシア、ウクライナ、ドイツ、フランスの4カ国首脳会談が行われるのを前に、約1年半続く紛争の緊張緩和の材料となりそうだ。
双方は9月1日から停戦を厳格化し、戦闘は沈静化に向かったが、和平の保証となる焦点の合意文書は作成できていなかった。二つの親ロ派「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」の最高幹部が近く署名して発効する。【9月30日 時事】
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上記記事にもあるように、ウクライナ東部紛争の和平プロセスを定めた今年2月の停戦合意(ミンスク合意)から8カ月を経て年末の履行期限が迫る中で、合意の履行を促進する目的で、10月2日、フランスのオランド大統領、ドイツのメルケル首相、ロシアのプーチン大統領、ウクライナのポロシェンコ大統領がパリで会談を行いました。
会談では、ウクライナ東部の親ロ派支配地域で予定されている地方選問題が焦点となりました。
ウクライナ政府は、親ロ派が独自に10月18日と11月1日に予定している選挙について、ウクライナの法に違反しているとして実施を認めない姿勢を示していますが、ロシアは、ウクライナ政府が親ロ派代表との選挙実施に向けた協議に応じていないことを批判してきました。
4者会談の結果、親ロ派の独自選挙を延期させるべくロシアが影響力を行使することで話がついたようです。
****<ウクライナ>親露派地域の選挙延期 4カ国首脳が合意****
ウクライナ東部情勢を巡りパリで行われたフランス、ドイツ、ロシア、ウクライナの4カ国首脳会談は2日、親露派武装勢力の支配地域で予定されていた地方選挙を来年以降に持ち越すことで合意した。
ひとまず緊張は回避されたが、東部情勢に関する停戦合意(ミンスク合意)の履行期限も、年末から来年以降にずれ込むことになった。
親露派は今月18日に東部ドネツク州、11月1日にルガンスク州の両支配地域で独自の選挙を計画していた。
首脳会談では、特別選挙法の制定で一致。オランド仏大統領は会談後、「選挙法はOSCE(全欧安保協力機構)の基準に完全に合致するものとなる。制定後、投票までに90日を要する」と述べた。
親露派による独自選挙の強行に反対していたウクライナのポロシェンコ大統領は「(親露派地域での)地方選挙は、ウクライナの国内法とのすり合わせの後に実施される」と自国メディアに強調。同国のクリムキン外相も「親露派の地方選挙を阻止するという我々の主たる目的は達成された」と会議の結果を評価した。
ロシア側はペスコフ大統領報道官が「プーチン大統領は『この問題について代表者に伝えるよう指示する』と約束した」と述べ、親露派への一定の影響力行使に言及。タス通信によると、親露派幹部は首脳会談後、「会談結果に対する自分たちの立場は十分精査した後、来週明らかにする」と表明した。
ミンスク合意は年内を期限に、親露派地域での地方選挙実施▽違法な武装グループのウクライナ領からの撤退完了▽ウクライナ政府による国境管理の回復−−などを定めていた。
しかし、地方選挙の大幅な先送りに伴い、ミンスク合意の履行は来年1月以降にずれ込むのが確実となった。
首脳会談ではこのほか、捕虜交換を加速したり、11月上旬に4カ国外相会合を開き、履行状況を再度確認したりすることも決まった。
ドイツのメルケル首相は会談後の記者会見で、「多くの課題が残っているが、全体としては前進している」と語った。【10月3日 毎日】
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会談を受けて、ウクライナ東部では“かつてない平和の兆し”といったことが言われるような状況にあります。
****ウクライナの親露派、戦車撤収開始と発表 かつてない和平の兆し****
ウクライナ危機をめぐる4か国首脳会議から一夜明けた3日、ウクライナからの分離独立を掲げる親ロシア派の武装勢力が、ウクライナ東部の緩衝地帯からの戦車の撤収を開始したと発表した。
ウクライナ東部の公式報道機関は、「ルガンスク人民共和国」の民兵は、ミンスク合意に従い、接触線からの戦車の撤収を開始した」と伝えた。
ミンスク合意とは今年2月にベラルーシの首都ミンスクで、欧州連合(EU)の支援で結ばれた停戦合意を指す。
ウクライナ政府と親露派武装勢力は今週、緩衝地帯から戦車と軽火器を引き揚げる作業を3日から開始することで合意していた。双方が口径100ミリ以下の迫撃砲やロケット砲を交戦ラインから15キロ離れたところまで移動させるには、40日以上かかる見込み。
ウクライナ危機に終止符を打つため、ウクライナ、ロシア、フランス、ドイツの首脳は2日、仏パリで4か国首脳会議を行った。その際ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領は報道陣に対し、「撤収は明日始まる。欧州安保協力機構(OSCE)との調整など技術的な問題は全て解決した」と語っていた。
ここ数週間、ウクライナ東部での戦闘はほぼ止まっており、2014年4月からこれまでに8000人以上が命を落としたウクライナ紛争は、かつてないほど和平に近づいているように見える。【10月3日 AFP】
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この会談結果に、ウクライナ・ポロシェンコ大統領も前向きに評価しているようです。
****ウクライナ大統領:我々はドンバスで停戦体制から休戦体制へ移行する****
ウクライナのポロシェンコ大統領は、ウクライナのマスコミのインタビューで、パリで開かれた「ノルマンディー4者」会談の結果について語り、会談結果は重要だと見方を表した。リア・ノーヴォスチ通信が伝えた。
ポロシェンコ大統領は、「重要な結果は、軍を撤退し、欧州安全保障協力機構(OSCE)の機能が向上し、安定した体制が保証されたあと、我々が停戦体制から休戦体制へ移行することだ」と述べた。
ポロシェンコ大統領はまた、「ノルマンディー4者」の首脳たちは、いかなる合意にも署名をせず、ただミンスク合意の履行期限と条件について話し合っただけだったと述べた。
なおポロシェンコ大統領自身は、ミンスク合意の履行期限について、努力すれば年内の履行が可能だとの見方を表した。
大統領はまた、キエフはドンバスで選ばれた人々と一緒に国を復興させる用意があるが、ドンバスの選挙は、ウクライナの政治勢力の「フル」参加の下で行われるべきだとの見解を表した。
なおポロシェンコ大統領は、米国がキエフに防衛兵器の新モデルを提供する決定を下したと指摘した。【10月5日 Sputnik】
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【もう一度世界の中心に座りたい・・・・】
ウクライナ問題が“かつてないほど和平に近づいているように見える”ようになった原因は、ロシア・プーチン大統領がこの問題で抑制的な姿勢を見せていることにあるでしょう。
ロシア・プーチン大統領は、シリアではプーチン氏らしい素早い行動で空爆を開始、シリアをめぐる国際情勢で指導的な立場を得ようと目論んでいますが、そのためにもウクライナの方は沈静化を図るのが得策という判断でしょうか。
もともとウクライナ問題に関しては、ロシア・プーチン大統領の対応は、クリミアと東部2州では異なっているとの指摘がなされています。
クリミアはあくまでも“ロシアのもの”という考えで、実際に併合した訳ですが、東部2州に関しては、この地域へのロシアの影響力を強めることで、ウクライナ全体のNATO側へのすり寄りを防ぎたいというのがプーチン大統領の思惑で、東部の分離独立などは望んでいないと言われています。
****プーチンの次なる「戦略」****
シリア内戦に介入する態勢を取ったロシア軍の姿は、もう一度世界の中心に座りたいという意思の表れだ
・・・・ロシアはウクライナ東部の混乱の幕引きも図っている。
ウクライナ保安局が英タイムズ紙にリークした文書には「ロシア政府の現在の主な優先事項は、(独立官言したドネツクとルガンスクの2つの人民共和国を)ロシア側の主張する条件でウクライナに『返還』することだ」とある。「そうすればウクライナ領土は維持されるのでロシアが再建費用を負担する必要はなく、独立宣言した地方政府も支配下に置き続けられる」
先頃、ロシア保安当局はドネツクで「ミニクーデター」とも言える動きを起こし、目障りだった何人かを追放した。最大の犠牲者はウクライナ再帰属に反対するアンドレイ・プルギン副首相で、妻と共に逮捕された。
ロシアはウクライナ国境のロシア側で巨大な軍基地の建設に着手した。ウクライナ側には基地を造らないということだ。
ロシアの独立系組織による世論調査でも、クリミア併合は圧倒的に支持されたが、ウクライナに侵攻してドネツクとルガンスクを併合することに賛成した回答者は4分の1にも満たなかった。
プーチンは国連総会での演説に強い思い入れを持っていた。
彼はISISと戦う「連合」をアメリカではなくロシアの主導下に置きたがっている。シリア内戦に介入すればクリミア併合がもたらした国際的な孤立から抜け出せるし、誇りを保ちながらウクライナ東部の問題から離れられると考えている。
国際社会の尊敬されるメンバーに復帰したい。これがプーチンの思いだ。【10月6日号 Newsweek日本版】
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上記記事にある「ロシアはウクライナ国境のロシア側で巨大な軍基地の建設に着手」に関しては次のようにも報じられています。
****ウクライナ東部を睨む要衝に ロシアが大軍事都市建設を開始****
ウクライナ東部国境からわずか二十五キロのロシアーベルゴロド州で、陸軍駐屯地の建設が始まった。同地は昨年、紛争が本格化した際に、ロシア軍がウクライナの親露派口武器を供給する拠点としていた場所だ。
今後は、三百ヘクタールの敷地に三十五自人を収容できる兵舎や武器・弾薬庫、軍用病院を設け、各種重火器や防空ミサイルを配備する予定。娯楽施設や一千戸のアパートも併設され、「軍事都市」を作り上げる構想だ。
二月の和平交渉で合意された「ミンスク2」は年内履行が困難とされ、親露派が十月に独自の地方選を強行すれば破綻が決定的となる。
このことから、ロシアは紛争の長期化を見越して、軍事拠点の整備に乗り出したとみられる。【選択 10月号】
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前出【Newsweek】は、この軍事基地がウクライナ側ではなくロシア側に建設されている点を重視しています。
いくら厚顔ロシアでも、親ロ派支配地域とは言えウクライナ領内にロシアの軍事基地をつくる訳にもいかないだろう・・・とも思いますが。
プーチン大統領の思惑どおり、国際社会の尊敬されるメンバーに復帰し、もう一度世界の中心に座ることができるかどうかは別にして、ウクライナ東部の問題で沈静化の方向で指導力を発揮しくれるのは歓迎すべきことです。
もっとも、東部の独自性、ひいてはロシアの影響力をどのように具現化していくかで、今後とも大いにもめるのでしょうが。まあ、大砲の弾が飛び交うよりはましでしょう。