孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

移民急増が西側諸国共通の政治問題に 各国とも対応に苦慮

2023-12-17 23:32:53 | 難民・移民

(人口に占める年間純移民数の割合【12月15日 WSJ】)

【アメリカ 大統領選挙における最大の争点 バイデン再選戦略を危うくする】
アメリカでは移民流入が大きな問題となっており、移民に対する厳しい姿勢をとるトランプ前大統領の支持率を押し上げ、比較的寛容な民主党・バイデン大統領の再選戦略を危うくしています。

*****移民急増で高まる国民感情、西側共通の政治問題に****
(中略)ジョー・バイデン米大統領の再選の可能性をインフレよりも大きく損ないかねない問題がある。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の最新の世論調査によると、来年の大統領選挙における最大の争点として移民問題を挙げた回答者の数は、インフレと答えた人の2倍に上った。国境管理に関するバイデン氏の不支持率は支持率を37ポイント上回った。インフレに関してはその差は36ポイントだった。(中略)

米国では、移民反対派は、年齢が高めで保守的な白人有権者に集中している傾向がある。だが、テシェイラ氏は、多くのヒスパニック系有権者も不法移民の急増に衝撃を受けていると指摘した。

ドナルド・トランプ前大統領は移民に対して暴言を吐くことが多く、厳しい政策を取ったが、それにもかかわらず彼を支持する人がこれほど多い理由の一つはここにある。

皮肉なことだが、世論調査会社ギャラップによれば、トランプ氏の大統領在任中、移民の増加に対する国民の支持はおおむね上昇していた。バイデン氏が大統領になり、不法入国が急増した後、その支持は消えてしまった。このことは、国境の危機の解決が、バイデン氏の政治的な先行きだけでなく、移民政策そのものの将来にとってプラスになることを示している。【12月15日 WSJ】
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【フランス 左右両サイドからの批判で移民法案が審議されないまま否決】
移民問題への対応で苦慮しているのはアメリカだけでなく、欧州各国、カナダ、オーストラリアなど、いわゆる西側先進国も同様です。

フランスでは、政府が提案した新たな移民法案が議論されないまま否決される異例の事態が起きています。
不法移民への対応を厳格化する一方、外国人労働者の受け入れを進める法案で、外国人の犯罪者や難民申請が認められなかった不法滞在者の国外退去を迅速化するとともに、建設や飲食など人手不足の産業で働く不法移民に滞在許可を与えて労働者として受け入れる内容。

マクロン大統領が昨年の再選時から実現を公約として掲げていたものですが、その中道的な内容が右からは「手ぬるい」、左からは「移民を犯罪者扱いしている」と反対を受けたことで、審議前に却下されました。

****移民法案、国民議会で議論されないまま否決****
リュマニテ紙は「Défait(負けた)」、リベラシオン紙は「却下されたダルマナン(内相)」と一面に。

ダルマナン内相が国民議会に提出した新しい移民法案が、昨晩(12月11日)、審議されないまま却下された。エコロジー党(EELV)が提出した事前否決動議が賛成270票と反対265票で法案が否決となった。(中略)

ダルマナン内相の法案は、極右・右派からは規制のゆるさが、また左派からは、この国は移民を受け入れてきたゆえの豊かさがあることや、移民なしにはコロナ禍で国を動かなかったことを忘れ犯罪者扱いする差別的な見方が批判され、否決動議への賛成票が多くなった。

ダルマナン内相はマクロン大統領に辞任を申し出たが、大統領は拒否。政府は今日12日、国民議会議員7人と元老院議員7人で構成される委員会Commission mixte paritaire に付す意向を示している。【12月12日 Ovni】
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【イギリス 不法移民のルワンダへの移民強制移送法案 何とか下院通過したものの、「不十分」と与党内に不満】
イギリス・スナク政権は入国した不法移民のルワンダへの強制移送を可能とするための法案で難しい対応が続いています。

最高裁が先月、ルワンダへの強制移送は違法だと判断したため、ルワンダと新たな条約を締結するなど補強対策を講じたうえで下院での可決には漕ぎつけましたが、保守党内部には「これでは不十分」との不満が残っています。

****英下院でルワンダへの移民移送法案可決、スナク政権はひとまず窮地脱出****
英議会下院で12日、入国した不法移民のルワンダへの強制移送を可能とするための法案が可決された。より厳格な移民規制を求める与党保守党の右派による造反の懸念が広がっていた中で、スナク首相にとっては否決により政権が大打撃を受ける事態はひとまず回避された形だ。

スナク氏はX(旧ツイッター)への投稿で「わが国に誰がやってくるのかを決めるのは犯罪組織でも外国の裁判所でもなく、英国民であるべきだ、というのがこの法律の趣旨だ」と述べた。

英政府は昨年、小型ボートで英仏海峡を渡る密入国者への対策として、不法移民を亡命希望者としてルワンダに受け入れてもらう取り決めを結んだ。

ところが英最高裁が先月、ルワンダへの強制移送は違法だと判断したため、スナク氏はルワンダとの間で移民を安全ではない第三国に送還しないよう保証することを柱とする新たな条約を締結。さらにルワンダを「安全な国」と定義して移送できるようにする法案を下院に提出した。

ただ保守党の右派は、この法案では不法移民の移送を阻止する目的で訴訟などの法的手段を行使された場合、十分に対抗できないと主張し、反発を強めていた。

法案は賛成313人、反対269人で承認。保守党議員350人は賛成票を投じるよう党議拘束がかけられたが、約40人は投票しなかったもよう。

採決直前に右派議員の1人は、右派グループ全体として法案に賛成するのを控え、投票を棄権することを決めたと明かしていた。

この議員は、昨年6月に欧州人権裁判所が移民移送の差し止め命令を下した事態を挙げて、そうした形で移送が阻止されない確実な仕組みが法案に盛り込まれない限り、今後の議会手続きにおいて反対姿勢を続けていくと強調。

来年予定される総選挙を控え、野党労働党に支持率で大きく水をあけられている保守党が内部の足並みの乱れを解消する見通しは立たず、スナク氏も厳しい政権運営が続きそうだ。【12月13日 ロイター】
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【ドイツ 移民排斥の右翼政党支持率が急速に高まる】
ドイツでは、ナチス・ドイツの犯罪を矮小化し、イスラム教徒、黒人らを中傷し、排外主義を標榜して難民対応で厳しい姿勢をとる右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率が第2位にまで上昇し、連立与党各党は支持率が低下しています。

****ドイツで右翼政党支持率急上昇 難民政策・経済政策への不満が後押し****
独右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率が第2位にまで上昇し、来年の3つの州議会選挙で勝者となる可能性が出てきた。「ナチスの過去との対決」を地道に続けてきたドイツで右翼政党が躍進する理由は、市民の現政権の難民政策・経済政策への強い不満だ。

約1年半で支持率が10ポイント増加
ドイツの世論調査機関アレンスバッハ人口動態研究所(中略)が今年10月6日〜19日に1010人の市民を対象に行った世論調査によると、AfDの支持率は19%で、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の34%に次いで第2位だった。

AfDの支持率は、去年5月の9%から今年10月までに10ポイントも増えた。

逆にオラフ・ショルツ首相率いる社会民主党(SPD)の支持率は、同じ時期に24%から17%に7ポイント下落した。緑の党の支持率も、同時期に20.5%から13%に7.5ポイント減った。連立与党の一党・自由民主党(FDP)への支持率も同時期に8%から5%に下がった。(中略)SPD、緑の党、FDPの三党の支持率を合計しても35%にしかならず、過半数には達しない。

AfDの支持率は、特に旧東ドイツで高い。(中略)このためドイツの論壇では、「来年9月の3つの州での州議会選挙で、AfDが最も多い得票率を確保して勝利する可能性がある」という見方が出ている。(中略)

AfDの躍進の主な理由は、二つある。それは、難民急増に対する市民の不安・不満の強まり、ショルツ政権の経済政策・環境政策への不満だ。

(中略)問題は、EU(欧州連合)に入った多くの亡命申請者が、まるで磁石に引き寄せられるように、ドイツを目指す点だ。EU統計局によると、今年上半期にEU域内で初めて亡命を申請した外国人の数は51万9000人(前年同期比で28%の増加)だった。この内約30%がドイツで亡命を申請している。

2022年にはEU全体で約88万人が亡命を申請したが、その内約22万人がドイツで亡命を申請した。EU加盟国の中で最も多い数だ。EUでの亡命申請者数のほぼ4人に1人がドイツにやって来るのだ。

なぜドイツは、亡命申請者の間で人気があるのか。この国の亡命申請規定は他の国に比べて寛容であり、到着後の待遇も比較的良い。この国では基本法(憲法)の中で亡命権が保障されている他、亡命が認められた場合に支払われる援助金などの金額が、他の国に比べて多い。長期間にわたって仕事が見つからないと、地方自治体が住宅を斡旋してくれる。生活保護の他に、家賃や健康保険などの社会保険料も国が払ってくれる。

難民たちはそのことをよく知っているので、イタリアやギリシャからEUに入域しても、結局ドイツへ行って亡命を申請する傾向が強い。

ドイツ政府は、外国人が「亡命を希望する」と言った場合、審査する間とりあえずその外国人の滞在を許さなくてはならない。EUではダブリン協定によって、最初に到着した国で亡命を申請しなくてはならないことになっている。だが欧州大陸では、ほとんどの国がシェンゲン協定に基づいて国境検査を廃止しているので、亡命申請者は自由に国から国へと移動できるのだ。

悲鳴を上げる地方自治体
亡命申請者のために寝泊まりする場所や食事などを用意するのは、地方自治体である。市町村からは、「もうこれ以上亡命申請者を受け入れるのは、不可能だ」という声が強まっている。(中略)

ドイツ南部のアウグスブルクに住むドイツ人の年金生活者は、「難民問題の根っこにあるのは、庶民の妬みだ」と言った。彼は、「多くのドイツ人が、家賃が安いアパートを見つけられずに困っている。だが難民たちは、国にアパートを見つけてもらい、家賃まで払ってもらえる。インフレのために、市電やバスの切符の値段もどんどん高くなっている。しかし難民たちは、公共交通機関の切符も国から支給される。このため、人々が難民に対して悪い感情を抱くのだ」と語る。

(中略)難民の中には、働かなくても4人家族で毎月約2800ユーロ(44万8000円・1ユーロ=160円換算)の援助金を国から支給されている人もいる。これは、ドイツの最低賃金で働く市民の毎月の収入約3000ユーロと大して変わらない。援助金が潤沢だと、必死で仕事を見つけようとする意欲も減る。これでは、額に汗して働く庶民が亡命申請者を妬むのも無理はない。(中略)

このためショルツ政権は11月7日に16の州政府首相たちとの協議の結果、亡命申請者への援助金などの削減や国境検査の強化、亡命申請が却下された外国人の国外退去の促進、州政府への難民対策援助金の増額などの対策を発表した。

政府は難民に現金を支給するのをやめて、商品などを買えるクーポン券に切り替える。外国人が、祖国の家族に送金するためにドイツに来るのを防ぐためだ。

外国人のドイツ到着後に亡命申請を審査すると、長い時間がかかるので、ショルツ政権は各国と協議して、外国人が欧州に到着する前に、域外で亡命申請を審査する制度が可能かどうかについて検討することも約束した。

亡命申請者は、原則としてドイツ到着後最初の3カ月間〜9カ月間は労働を禁止されているが、今後は法律を改正して、労働を奨励する。

しかしCDUのフリードリヒ・メルツ党首は、「政府の措置は不十分だ」と厳しく非難。AfDのアリス・ヴァイデル共同党首も、「これらの措置では、今ドイツが目指している亡命申請者数の大幅な削減を実現することはできない。亡命申請制度を根本的に変えることが不可欠だ」と発言した。

AfDは、憲法で保障されている亡命権の廃止を要求している。緑の党などのリベラル勢力は、亡命権の廃止に反対している。緑の党は、亡命申請者の権利の急激な制約については、批判的だ。このことが、市民の間で緑の党への支持が減る一因となっている。(後略)【11月22日 新潮社Foresight】
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【オーストラリア、カナダでも対応に苦慮】
“オーストラリアでは、昨年発足した労働党政権が移民受け入れの目標を引き上げた後、入国者が急増し、世論の不支持率が急上昇した。政権は今週、ビザ(査証)発給要件を厳格化し、「移住者を持続可能な水準に戻す」と表明した。”【前出 12月15日 WSJ“移民急増で高まる国民感情、西側共通の政治問題に”】

****豪、留学生・低技能労働者のビザ規則厳格化 移民受け入れ半減へ****
オーストラリアは11日、留学生と低技能労働者のビザ規則を厳格化すると明らかにした。豪政府は同国の移民制度は「崩壊した」との認識を示しており、今後2年間で移民受け入れ数を半減させることを目指す。

新たな政策の下では留学生は英語テストでより高い点数を得る必要があり、2回目のビザ申請にはより厳しい審査が課されることになる。

オニール内相は会見で「新政策により移民の数は正常に戻る」と説明。「数字だけの問題ではない。わが国の未来に関わる話だ」とした。

アルバニージー首相は週末に、移民の数を「持続可能なレベル」に戻す必要があると述べ、「システムは崩壊している」と主張していた。

オーストラリアでは移民数(ネットベース)が2022─23年に、過去最多の51万人に達したと予想されている。新型コロナウイルス禍後の人手不足を補うため移民の受け入れを増やしたが、急激な移民増加で家賃が高騰しホームレスが増えるなど、弊害も指摘されている。【12月11日 ロイター】
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“カナダの自由党政権は移民を経済成長の支えとしてきたが、同様に世論の反対が強まり、支持率は急低下している。政権は新規の移民の受け入れ目標を引き上げるのをやめるとともに、先週には「パピーミル(利益追求のために劣悪な環境で犬を大量繁殖させる悪質業者)」のようだと称される学校を厳重に取り締まると約束した。こうした学校は低い基準で卒業証書を出すことで外国人学生を集めている。”【前出 12月15日 WSJ“移民急増で高まる国民感情、西側共通の政治問題に”】

【西側共通の政治問題に 移民流入スピードのコントロールが重要】
各国ともそれぞれの事情・背景があっての問題ですが、“最近の移民急増は、スピードが速く、混乱を招いている”ということで、排斥に走るのではなく、対応がとれるように流入スピードのコントロールが重要でしょう。

*****移民急増で高まる国民感情、西側共通の政治問題に****
米英豪などで抑制できない政府に反感
(中略)
移民には、迫害や貧困から逃れてきた人々に安らぎを与えたり、受け入れ国の社会を豊かにしたりするなど、数量化できないメリットがある。

しかし、移民受け入れの通常の理由は経済的なものだ。企業は、労働力不足緩和のために外国人労働者を求めている。

しかし近年は、受け入れ国の一般市民にとっての経済的利益が、それほど明確ではなくなってきている。連邦準備制度理事会(FRB)当局者らは、移民によって労働力の供給が増え、賃金が抑制されたことが、今年の米国のインフレ抑制に役立ったとしている。しかし、米国生まれの労働者がそれを歓迎するだろうか。

一方、豪州では、移民が住宅不足を悪化させているとの不満が国民の間で広がっている。ニュージーランドの中央銀行は、移民の流入で住宅価格に上昇圧力がかかっているため、利上げが必要になるかもしれないとしている。カナダの世論調査会社レジェ・マーケティングの調査によると、カナダ人の75%は移民が住宅市場を圧迫していると考えている。医療と学校を圧迫しているとみている人の割合はそれぞれ73%と63%だった。

特定技能を持つ移民に対しては、国民からの支持がより高くなるのが常だ。それは、こうした移民が既存労働力の生産性を高めるからだ。豪州とカナダは、切実に必要な技能を持つ移民をターゲットにすることで、長い間移民への支持を維持してきた。だが、両国とも、移民の内訳は逆方向へと動いている。

豪政府が今年公表した報告書によれば、同国には就労が認められている一時滞在ビザ保有者が180万人いるが、その多くは低賃金の仕事にしか就けておらず、家族に合流するため、あるいは人道的プログラムにより永住が認められた移民も同様だという。

国民の「高技能移民に対する支持は強い」が、低賃金労働者の移民に対する支持は「そこまで明確ではない」と同報告書は指摘している。米国への不法移民は一般的に、米国生まれの国民より教育レベルも英語力も低い。

人口構造の変化は本来ゆっくりと起きるものだが、多くの人にとって、最近の移民急増は、スピードが速く、混乱を招いている。カナダ、豪州、英国への移民流入はいずれも過去最高となっている。(後略)【12月15日 WSJ】
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