孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  ネタニヤフ首相は「ポスト・ハマス」をどうする? 「2国家共存」を求める国際社会

2023-12-05 23:32:15 | パレスチナ

(パレスチナ自治区ガザ地区南部ラファで、イスラエル軍の爆撃が再開し、負傷した少年を抱いて運ぶ男性(2023年12月1日撮影)【12月1日 AFP】)

【「避難先」の南部も戦場に 更なる避難を強いられるガザ住民】
イスラエル軍とハマスの戦闘が再開したパレスチナ・ガザ地区では、北部からの避難民が集まる南部へ戦場が拡大しています。

****北部の軍事作戦「ほぼ完了」イスラエル軍、南部へ 人道危機拡大か****
イスラエル軍幹部は4日、軍が運営するラジオで、パレスチナ自治区ガザ地区北部での軍事作戦について「ほぼ完了した」と述べ、北部での軍事目標の達成は間近だとの認識を示した。ロイター通信が報じた。

この幹部は「(イスラム組織)ハマスの壊滅に向け、ガザ地区の別の場所で地上作戦を拡大しつつある」とも語った。イスラエル軍は南部への侵攻を進めており、人道危機が拡大する恐れが強まっている。

イスラエル軍は4日、X(ツイッター)への投稿で、ガザ地区第2の都市・南部ハンユニスの約4分の1のエリアから住民に避難するよう勧告した。中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」は住民の話として、4日早朝からイスラエル軍の戦車が東側からハンユニスに向けて進軍を始めたと伝えた。空爆や砲撃も激化しているという。

ロイター通信などによると、イスラエル軍が「避難先」としている南部ラファでも空爆があり、複数の住宅が倒壊した。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のラザリーニ事務局長は4日、「イスラエル軍はハンユニスからラファへ避難するよう命じ、(同地への)空爆を続けている。避難勧告はパニックや恐怖、不安を生み出している」と批判した。

作戦完了が近いとされながらも、ガザ地区北部でも激しい戦闘が続いている。パレスチナメディアは4日、ガザ市で住民が避難していた2カ所の学校がイスラエル軍の攻撃を受け、少なくとも50人が死亡したと報じた。また、パレスチナの主要通信会社はガザ市を含む北部で主要ネットワークが機能しなくなり、通信ができなくなったと伝えている。

こうした中、赤十字国際委員会のスポリアリッチ委員長は4日、ガザ地区の病院を視察し、「(支援物資を積んだ)トラックを増やすだけでは解決できない状況がある。国際社会が直面している道徳の破綻を変えなければならない」と訴えた。

当局によると、これまでの戦闘による死者数は、イスラエル側が約1200人、ガザ側が1万5899人。ガザの保健当局は、死者の約7割が女性と子供だとしている。【12月5日 毎日】
*******************

【戦闘再開・拡大の背景にイスラエル右派勢力の存在か】
イスラエル側とパレスチナ側の犠牲者の「極端なアンバランス」は“いつものこと”ではありますが、連日増え続けるガザ地区住民の膨大な犠牲、とりわけ、攻撃するから南に行けと言われ、南に逃げるとそこにもまた空爆、更に他に行けと言われる・・・といったイスラエルの徹底した、あるいは執拗な、あるいは無慈悲な攻撃に対してはアラブ諸国・イランだけでなく欧米社会でも批判的に見る向きがあります。

フランス・イギリスなどでは停戦を求める大規模なデモが繰り返され、イスラエルを支えるアメリカでも、若い世代ではイスラエルよりパレスチナ側に共感を示す声が上回るような状況になっており、バイデン大統領の再選戦略にも影響しています。

イスラエル国内では以前からハマスへの攻撃と人質救出のどちらを優先するかで議論があります。イスラエル世論は人質救出優先を望む声が強いものの、現実のイスラエル軍の戦闘再開・徹底した攻撃の背景として、ネタニヤフ首相が右派勢力に引きずられているとの指摘も。

****ガザ戦闘再開 バイデン大統領「2国家共存」は米国内向けの発言でしかない****
ジャーナリストの須田慎一郎が12月4日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。イスラエル・ハマス紛争について解説した。

イスラエル軍の戦闘再開から2日間で200人が死亡
パレスチナ自治区ガザで戦闘を再開したイスラエル軍は、残る人質の解放とイスラム組織ハマスの壊滅を目指すとして、全域で激しい攻撃を続けている。ガザ地区の保健当局は戦闘再開から2日間で200人が死亡、負傷者は600人近くに上ると発表した。 

飯田)イスラエル軍の参謀総長は、ガザ南部で作戦を開始し、地上作戦も開始したと発表しました。「北部と同様の戦いを南部でも行う」と強調しています。 

須田)国際世論からの反発もあると思いますが、なぜイスラエルがこのように行動するかについては、イスラエル国内の政治情勢を見なければ理解できないと思います。現状、イスラエルの国会議員数は120人だと言われています。イスラエルは小党乱立の状況にあるので、連立政権を組んで61議席以上を獲らないと過半数が得られず、政権が維持できないのです。 

連立政権を維持するために極右政党を呼び込み、ガザ制圧に大きな影響を与えてしまった
須田)中道右派の政党である国家団結党が、長らくイスラエルの連立与党に入っていたのですが、それがネタニヤフ首相と仲違いになり、出ていってしまいました。12議席あったものを穴埋めするため、宗教右派・極右政党を呼び込んでしまったという背景があるのです。(中略)

その政党はパレスチナの存在そのものを認めていません。「ヨルダン川西岸もガザも、すべてイスラエルのものだ」と主張しており、それが今回のガザ制圧に大きな影響を与えているのです。

ネタニヤフ政権後、どのような連立与党の枠組みになるのかが今後に影響する
須田)ところが今回、戦時内閣が発足しました。国家団結党が戦時内閣に入ってきたことを受け、バランスを取る必要があり、一時休戦の運びになった。

しかし、宗教右派が反発したので戦闘再開となり、今後はこのバランスのなかで進んでいくと考えると、おそらくネタニヤフ首相の政治生命は短期間で途絶えるのだと思います。そのため、次の連立与党がどんな枠組みになるかによって、今後に大きく影響するでしょう。 

飯田)国内世論や政治情勢に、戦況も引っ張られていくのですか? 
須田)完全に引きずられていますね。 (中略)国内世論を考えると、多くの人質が取られたことに対して、解放を求める世論が強まりましたが、戦時内閣ができて国家団結党が入ってくるまでは「人質はどうでもいい、とにかく制圧する」というところに重点が置かれていました。これが問題だったのです。

バイデン大統領の「2国家共存」は米国内世論向けの発言で最終的な着地点が見えない
飯田)「今後どのようなものをつくるか」は、まだ議論になっていない感じですか? 

須田)宗教右派がいるところを考えると、ガザばかり注目されていますが、ヨルダン川西岸ではかなりの数の死傷者がパレスチナ側に出ています。なおかつ、入植地が拡大していくなかで、バイデン大統領が言う最終的な着地点の「2国家共存」は見通せない状況です。あれはバイデン大統領の、米国内の世論に向けた発言でしかありません。「仲介役がいない、最終的な着地点が見えない」ということが最も問題だと思います。【12月4日 ニッポン放送】
******************

【見えない最終的な着地点】
パレスチナの問題は、現在の膨大な犠牲者増加が止まらないこと、そしてもうひとつは「最終的な着地点が見えない」こと、つまり、仮にハマス勢力を力で一掃したとしても、その後のガザ統治をどうするのか青写真がないことです。

ハマス勢力一掃については、ガザでの戦闘以外に、イスラエル側の以下のような計画も報じられています。

****イスラエル、世界各地のハマス指導者殺害を計画****
暗殺計画は数十年にわたって秘密裏に行ってきた作戦の延長線上にある

イスラエルの情報機関は、世界各地にいるイスラム組織ハマスの指導者の殺害に向け準備を進めている。イスラエル政府当局者らが明らかにした。計画はガザ地区での戦争が落ち着き次第実施されるとみられ、10月7日に発生した虐殺に関与した戦闘員を数年かけて追い詰める作戦だという。

イスラエルの各情報機関はベンヤミン・ネタニヤフ首相の命令を受け、レバノン、トルコ、カタールにいるハマス指導者を捕らえる計画を取りまとめている。カタールのドーハでは長年にわたり、ハマスの政治局がオフィスを構えている。

暗殺計画はイスラエルが数十年にわたって秘密裏に行ってきた作戦の延長線上にあるもので、これらはハリウッドでは伝説として取り上げられる一方、世界からは非難を受けてきた。イスラエルの暗殺者らは女装してパレスチナ人の戦闘員をレバノンで追跡し、あるいは、観光客のふりをしてドバイでハマス指導者を殺害してきた。

 米政府はハマスをテロ組織に指定しているが、カタールやレバノン、イラン、ロシア、トルコといった国は、長年にわたり同組織に一定の保護を提供している。一方でイスラエルも外交危機を避けるため、パレスチナ人戦闘員を標的にすることを控えてきた。

ネタニヤフ氏は1997年に、ヨルダンでハマスの指導者ハレド・メシャール氏の毒殺を命じたが失敗。今回の新たな計画はネタニヤフ氏にとって、2回目のチャンスとなる。(中略)

イスラエルは通常、このような取り組みを公表しない。だが政府指導部は10月7日の襲撃を巡り、責任者全員を追い詰める意図を明らかにすることに関しほとんどためらいを見せていない。

イスラエル政府当局者らによれば、同国はすでにガザ地区内でハマス指導者の殺害や逮捕に取り組んでいる。また、当局者らは、イスラエルの指導者にとって今問われているのは、世界各地にいるハマスの指導者を殺害すべきかどうかでなく、どこで、どのように殺すかということだと述べた。【12月1日 WSJ】
********************

****イスラエル、ハマス戦闘員の「ガザ追放」検討****
米・イスラエルは数千人の下級戦闘員をガザから追放する案を議論

イスラエル軍がガザ地区でイスラム組織ハマスの幹部を標的にした新たな攻撃の準備を進める中、イスラエルの軍事・政治指導者たちは、ハマスの権力基盤である数千人の戦闘員の処遇をどうするのかという難題に直面している。

この難題に対処するため、イスラエルと米国の当局者の一部は戦争終結を早める方法として、数千人の下級戦闘員をガザ地区から追放する案を議論している。

この案は、1982年にイスラエルがレバノンの首都ベイルートを包囲した際、米国が仲介役を務め、パレスチナ解放機構(PLO)のヤセル・アラファト議長と数千人の戦闘員がベイルートから退去するのを認めた協定をほうふつさせる。

イスラエルと米国は、戦争終結後に誰がガザを統治するのか、また、10月7日の(ハマスによる奇襲の)ようなイスラエル史上最悪の攻撃を二度と起こさせないようにするにはどうすればいいのか、といった問題について協議を進めており、ハマスの戦闘員を追放する可能性もそうした協議の一環で浮上した。

ハマス追放後のガザの統治方法に関する提案の一つは、まずは「ハマスのいない安全地帯」を創設し、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の支援を受けた新たなガザ当局がその統治主体になるというものだ。この案はイスラエル軍のシンクタンクが作成し、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がその内容を確認した。

ハマスの戦闘員とその家族をガザ地区から退去させることについては、米国とイスラエルが別途協議しており、その目的は、一部のハマス戦闘員に撤退戦略を提供し、戦闘終結後のガザ再建を容易にすることにある。(後略)【11月30日 WSJ】
*******************

ハマス指導者を暗殺しようが(他国での暗殺は国際問題になります)、戦闘員数千人を追放しようが(どこに追放するのでしょうか? ヨルダン側西岸?)、問題はその後のガザ地区の統治です。

“サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の支援を受けた新たなガザ当局がその統治主体になる”・・・新たなガザ当局とは? パレスチナ自治政府との関係は? 

【パレスチナ自治政府によるガザ地区統治を認めないネタニヤフ首相 実質的にはイスラエル軍による支配か】
いくつもの???が付きますが、そもそもネタニヤフ首相が同意するのか? 首相はパレスチナ自治政府による統治や「2国家共存」には反対しており、イスラエルの支配のもとでのガザ統治を主張しています。

****イスラエル首相、現状のパレスチナ自治政府によるガザ管理に反対****
イスラエルのネタニヤフ首相は12日、パレスチナ自治区ガザ地区について、現状のパレスチナ自治政府が管理すべきではないと強調した。

パレスチナ自治政府のアッバス議長は10日、ガザ地区の統治に自治政府が役割を果たせる可能性があるとの見方を表明。

しかし、ネタニヤフ氏は11日の記者会見で、自治政府は学校でイスラエル憎悪をあおる授業を組み込んでるほか、イスラエルで拘束されているパレスチナ人の家族に給与を与える制度もあるとして改めて不満を示し、そのような組織がガザを管理すべきではないと訴えた。

同氏はさらに、12日に米NBCニュースに対しガザには「別の当局、管理機関が必要だ」と強調。どのような組織か問われると「それを言うのは時期尚早だ」と応じた。

アッバス議長の報道官ルデイネ氏はロイターに対し、イスラエルはヨルダン川西岸地区とガザの分裂を永続させようとしていると非難。そのような試みは失敗すると述べた。【11月13日 ロイター】
******************

「別の当局、管理機関」とは何か? イスラエル軍の傀儡機関みたいなものを考えているのでしょう。いずれにしても、実質的なガザ占領を続ける考えのようです。

【パレスチナ自治政府によるガザ地区統治、「2国家共存」を求める国際社会】
しかし、ガザ地区統治はパレスチナ自治政府によるしかない、そのうえでイスラエルとパレスチナの「2国家共存」を・・・・というのが国際社会の声です。

****イスラエル・パレスチナ 中仏首脳“2国家共存が根本的な解決”****
中国の習近平国家主席とフランスのマクロン大統領が20日、電話で会談し、両首脳はイスラエル・パレスチナ情勢のさらなる悪化の回避が急務であり、「2国家共存」が根本的な解決方法だという認識で一致しました。(後略)【11月21日 NHK】
******************

****ガザ統治責任は「パレスチナ自治政府が負うことが重要」 国連事務総長****
国連のグテレス事務総長は20日の記者会見で、イスラム原理主義組織ハマスとイスラエルの戦闘が終結した後のパレスチナ自治区ガザの統治のあり方について、パレスチナとイスラエルの2国家共存による最終的な解決を目指し「パレスチナ自治政府が責任を負うことが重要だ」と指摘した。

グテレス氏は、パレスチナ自治政府にガザを統治する責任を持たせるための「移行期間」を設けたうえで、アラブ諸国や米国などが仲介し「移行の条件を整える必要がある」と語った。ガザを国連の保護下に置く手法については「解決策だと思わない」と否定した。(後略)【11月21日 産経】
*****************

日本政府も同じ立場で、岸田首相は12月1日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイでイスラエルのヘルツォグ大統領と会談した際に、中東情勢の安定に向けてイスラエルと将来のパレスチナ国家が共存する「2国家解決」をめざす方針の再確認を呼びかけています。

アメリカもイスラエルのガザ地区占領に反対しています。

****ガザ占領「間違いだと伝えた」と米大統領****
バイデン米大統領は記者会見で、パレスチナ自治区ガザの占領は間違っているとイスラエルに伝えたと明らかにした。イスラム組織ハマスの掃討で民間人に被害が出ないよう最大限に注意を払うべきだとも述べた。【11月16日 共同】
*****************

****「ポスト・ハマス」で綱引き激化****
戦争に終わりが見えない中、イスラエルのネタニヤフ首相と米国のバイデン大統領との間で、「ポスト・ハマス」(ハマス以後)のガザ統治を巡って綱引きも激しくなっている。

火を付けたのはネタニヤフ首相だ。首相は12日、米テレビとのインタビューで、戦後もガザの治安の責任を担うと述べ、ガザの占領を続ける考えを明らかにした。  

だが、これにはバイデン政権が反発。バイデン大統領自身が18日付のワシントン・ポストに寄稿し、イスラエルの占領に反対する考えを表明、イスラエルとパレスチナ独立国家による「2国家共存」が永続的な中東和平の道だとして、イスラエル側に譲歩を迫った。  

大統領はガザの統治は最終的にパレスチナ自治政府に委ねるべきだとの見解を示し、それまでの間、戦後のガザの治安を守るために「国際社会の支援」が必要であることを強調した。

大統領の頭にある「国際社会」とは「アラブ平和維持軍」とみられており、すでにアラブ諸国の一部には打診しているようだ。  

しかし、ネタニヤフ首相はハマスのテロを非難しないようなアラブ側にガザの治安は任せられないと強く反対しており、すでに停戦をめぐって緊張している両国に新たな難題が持ち上がった格好だ。ハマスに捕らわれた人質解放交渉でも対立しており、ここにきて米、イスラエルの軋みが目立ってきた。【11月21日 WEDGE「ハマス主力は南部へ逃走か ガザ戦争は第二段階に」】
********************

戦争後の青写真もないまま戦争を行っても仕方がないというのが常識的発想ですが、ネタニヤフ首相及び右派勢力の頭には「ハマスを叩き潰せ!」ということしかないようにも見えます。

イスラエル軍によるガザ占領も頭にあるようですが、それはイスラエルが民主主義を捨て、暴力によってパレスチナ人を支配する強権的植民地支配国家に堕ちることを意味します。

最後はガザ地区住民200万人の追放でしょうか? それはかつてユダヤ人が受けた迫害と同質であり、明確な人道に対する罪です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする