孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  国連安保理で続く調整 アメリカの対応は? 「ポスト・ハマス」に向けた状況

2023-12-20 23:47:49 | パレスチナ

(南部のラファにある自宅が空爆を受け、泣きながら避難する女の子。(ガザ地区、2023年12月6日撮影)【12月19日 日本ユニセフ協会】)

【「新たな戦闘休止」に向けた交渉も】
パレスチナ・ガザ地区の被害拡大に歯止めがかかりません。ガザの保健当局によると、19日だけで100人以上が死亡したとのことで、10月7日の戦闘開始以降、これまでの死者は1万9667人、負傷者は5万人以上にのぼっています。

また、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は19日、220万人以上のガザの人口の90%以上が自宅から避難し、住宅を含むインフラの60%以上が破壊、または一部損壊したとSNSに投稿し、「前例がない驚くべき水準の強制移住と破壊が、私たちの目の前で起きている」と訴えています。

こうした状況で、再度「戦闘休止」に向けた動きも出てはいますが・・・。

****イスラエル大統領、人質救出のため「新たな戦闘休止の用意」…ハマス幹部「戦闘中は交渉拒否」****
イスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領は19日、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を巡り、イスラム主義組織ハマスに拘束されている約130人の人質救出のため、「新たな人道的戦闘休止の用意がある」と述べた。

ヘルツォグ氏はイスラエル駐在の各国大使らを前に演説し、「(休止実現は)ハマス指導者にかかっている」とも語った。

再度の戦闘休止の実現を巡っては、18日にイスラエルの対外情報機関モサドと米中央情報局(CIA)の両長官が仲介役カタールの首相とポーランドで会談した。イスラエルの大統領は儀礼的な役割にとどまるが、ヘルツォグ氏の発言は、調整の活発化を踏まえた発言とみられる。

ただ、イスラエルのヨアブ・ガラント国防相は19日、ガザでの地上侵攻を「新たな場所に広げる」と述べ、攻撃強化の意向を強調した。

ロイター通信によると、ハマス幹部は19日、「侵略を終わらせるための取り組みは受け入れる」と協議に前向きな姿勢を示す一方、ハマスが拘束している人質の解放に関しては「戦闘中はいかなる交渉も拒否する」と述べ、双方の主張に隔たりがあることを示唆した。

一方、ハマスと連帯するイエメンの反政府武装勢力フーシの報道官は19日の声明で、「ガザを支援するための作戦を止めることはできない」と述べ、紅海での商船攻撃の継続を宣言した。【12月20日 読売】
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“ロイター通信は17日、複数のエジプト治安筋の情報として、双方が新たな戦闘休止に前向きな姿勢を示していると報じた。休止期間のほか、ハマスが求める軍部隊の一定の撤退にイスラエルが同意しないなど、意見の不一致が残っているとしている。”【12月18日 産経】とも報じられています。

戦闘休止が実現しても、1週間ほどで再び戦闘再開では困りますが、それでも休止しないよりはましでしょう。

【イスラエルのガザ攻撃に対し厳しい姿勢に変化しつつもあるアメリカ イスラエル支持は変えないものの安保理での「調整」続く】
上記のカタール仲介の当事者間の交渉が行われているなかで、国際社会も、イスラエルを支持するアメリカの拒否権発動で機能マヒ状態の国連安保理に代えて、国連総会の場で戦闘停止に向けた圧力を強めようとしています。

12日の「人道目的の即時停戦」を求める決議では、イスラエル・アメリカの孤立化が鮮明になっています。

****ガザ停戦決議に153カ国賛成=米・イスラエル孤立鮮明―国連総会****
国連総会は12日、イスラエルが侵攻するパレスチナ自治区ガザに関する緊急特別会合を開き、「人道目的の即時停戦」を求める決議を日仏中ロなど153カ国の圧倒的賛成多数で採択した。

反対はイスラエルや米国など10カ国だけで、ガザ情勢を巡る両国の国際的孤立が鮮明となった。英独伊など23カ国は棄権した。

総会決議に法的拘束力はないが、ガザの人道危機が長期化する中、国際社会の総意として軍事作戦を続けるイスラエルとその後ろ盾の米国に停戦を強く訴えた形だ。パレスチナのマンスール国連大使は「総会が力強いメッセージを発した歴史的な日だ」と採択を歓迎した。

決議は中東・イスラム諸国を代表してエジプトが提出した。停戦に加え、民間人の保護やガザで拘束されている全ての人質の即時解放を要求している。イスラエルと交戦するイスラム組織ハマスには言及していない。【12月13日 時事】 
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アメリカは、12月13日ブログ“イスラエル・ネタニヤフ首相と米・バイデン政権の溝が鮮明に”でも取り上げたように、イスラエルに民間人を守るために規模を縮小した作戦への移行するように求めており、将来的には「二国家共存」で・・・との考えを強めています。

****米国防長官 イスラエル訪問 民間人保護へ作戦規模縮小など協議「道徳的な義務」*****
アメリカのオースティン国防長官はイスラエルを訪問し、民間人を守るために規模を縮小した作戦への移行などについて協議したと明らかにしました。

アメリカ オースティン国防長官:「イスラエルのより安全で安心な未来と、パレスチナ人の明るい未来のため協力していく」

18日にイスラエルを訪問したオースティン国防長官は、ガザ地区のパレスチナ人を守ることは「道徳的な義務であり、戦略的な要請でもある」と述べました。

民間人の保護と人道支援の拡大を重視する考えを改めて強調し、目標達成に向けて標的を絞り、規模を縮小した作戦への移行などを協議したということです。(後略)【12月19日 テレ朝news】
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ただ、これまで同様に表向きのイスラエル支持の基本路線は維持しており、国際的に孤立化するなかで、国連での「停戦」を求める動きへの対応に苦慮していると思われます。

****ガザ支援で新決議案採決へ=米国の対応焦点―国連安保理****
国連安保理は18日午後(日本時間19日午前)に緊急会合を開き、パレスチナ自治区ガザでの人道支援拡大を目指す新たな決議案を採決にかけることを決めた。今月の議長国エクアドルが17日、明らかにした。

米国が拒否権を行使するか否かが焦点。イスラエルの後ろ盾である米国は8日、アラブ首長国連邦(UAE)が作成した「人道目的の即時停戦」を要求する決議案に拒否権を発動し、日本やフランスなど他の13理事国が賛成する中、廃案に追い込んだ。 【12月18日 時事】
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アメリカの拒否権回避に向けて調整が行われており、18日の採決は19日に延期されました。

****新決議案の採決延期=米の拒否権回避へ交渉継続―国連安保理****
国連安保理は18日、パレスチナ自治区ガザでの人道支援拡大を目指す新たな決議案について、同日に予定していた採決を19日(日本時間20日)に延期した。決議案を提出したアラブ首長国連邦(UAE)のヌセイベ国連大使が明らかにした。

イスラエルの後ろ盾である米国が拒否権を行使しないよう、文言の最終調整が続いているもよう。決議案は、ガザに支援物資を行き渡らせるため「緊急で持続可能な敵対行為の停止」を要請している。【19日 時事】 
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決議案では「全ての人質の即時かつ無条件の解放」も求めていますが、「ハマス」は名指しされていません。そのあたりでアメリカが難色を示しているようです。

調整は難航しているようで、19日採決も再度延期されています。

****ガザ決議案の採決、再び延期 国連安保理、文言の交渉難航****
国連安全保障理事会は19日、パレスチナ自治区ガザで「敵対行為の停止」を各当事者に求める決議案の採決を19日から20日(日本時間21日)に再び延期することを決めた。外交筋が明らかにした。当初は18日に採決予定だった。決議案の文言に関する交渉が難航しているという。

イスラエルを擁護する米国は安保理で10月と今月、拒否権を発動してガザ情勢に関する決議案を否決させた。今回の決議案で米国の拒否権行使を回避するため、アラブ首長国連邦(UAE)などを中心に調整が続いている。

UAEが提出した当初の決議案は、民間人への無差別攻撃を非難。「敵対行為の停止」を要求した。【12月20日 共同】
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難航はしていますが調整が続いているということは、アメリカ側にも、これ以上の国際的孤立を強めるイスラエル支持での拒否権発動はできれば避けたいとの思いがあるということでもあるでしょう。(もちろん、結局調整が失敗し、再びアメリカの拒否権行使ということになるのかもしれませんが)

【「ポスト・ハマス」に向けたイスラエル・パレスチナの状況】
「一時停戦」の更にその先には「ポスト・ハマス」をどういう枠組みで構築するのか・・・という問題があり、アメリカなど多くの国際社会はパレスチナ自治政府を主体とするパレスチナ国家とイスラエルの「二国家共存」しか方法がないとの考えですが、ネタニヤフ首相はこうした考えを拒否しています。

ただ、以前から司法改革問題で強い国内批判に曝されていたネタニヤフ首相は、今回のハマスの襲撃を許したことで更に責任を問われる事態にもなっており、政権交代の可能性も大きいと思われます。

一方の、パレスチナ側。 

“10月7日より前にガザで実施された世論調査では、住民の67%がハマス主導の政府をほとんどもしくは全く支持しないと回答。支持政党にハマスを選んだのは27%、「イスラエル壊滅」という目標を支持したのはわずか20%だった。住民の大多数は紛争の平和的解決を望み、半数以上が2国家共存が好ましいと回答した。”【12月20日 Newsweek】と、ガザ地区におけるハマス支持はさほど強くありませんでした。
(そうした状況が、ハマスが多大なリスクを伴うイスラエル攻撃に踏み切った背景にあるのかも)

腐敗の横行する自治政府の信頼も低下しており、本来は行うべき選挙もできない状況。

今回のイスラエル・ハマスの戦闘がパレスチナ住民の心情に強く作用し、今後のハマスや自治政府への支持に影響することも想像されます。

*****ハマスの越境攻撃、「正しい決定」と7割が支持 パレスチナ世論調査*****
パレスチナの民間調査研究機関「政策と調査研究のためのパレスチナ・センター(PSR)」は13日、パレスチナ自治区(ヨルダン川西岸とガザの両地区)での世論調査結果を公表した。

ハマスが10月7日に行ったイスラエルに対する越境攻撃について、約7割が「正しい決定だった」と支持していることが明らかになった。

調査は11月22日〜12月2日に実施され、ヨルダン川西岸の750人とガザの481人が対面で回答した。ガザ地区では戦闘休止期間中に調査したという。

PSRによるとハマスによる越境攻撃は、ガザ地区で57%が、西岸で82%が「正しい」と答えた。ハマスの支持率は9月の前回調査に比べ、ガザ地区で4ポイント増の42%、西岸では32ポイント増の44%で、いずれもヨルダン川西岸を治める穏健派組織ファタハを上回っていた。

「戦後のガザ地区は誰が統治してほしいか」との質問でも、「ハマス」と答えた人が全体の60%(ガザ地区38%、西岸75%)を占めた。

また、「イスラエルが戦争犯罪をしている」と考える人は全体の95%に上った一方、「ハマスが戦争犯罪をしている」と考える人は10%だけだった。

ハマスは10月7日の襲撃で民間人ら約1200人を殺害し、約240人を拉致した。その際の動画はSNSで拡散したり、国際ニュースで報じられたりしているが、こうした動画を視聴したことがある人は14%にとどまっていたという。【12月14日 毎日】
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現在のガザの混乱状態でどのような世論調査が可能なのか疑問ですので、(特にガザでの数字については)そうした視点で見る必要があるとは思いますが、興味深いのはガザ地区よりむしろヨルダン川西岸地区でハマス支持が急増していることです。

こうした状況では、自治政府による西岸・ガザの一元統治、そして「二国家共存」・・・というのは実体のない青写真にもなりかねません。
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