(【5月19日 日経】)
【中国重視を継承するフン・マネット首相 「習近平大通り」もお目見え】
カンボジアがフン・セン前首相時代から中国と緊密な関係(ASEANにあってはカンボジアは中国の代弁者的な立場にも)にあるのは周知のことですので、下記のようなニュースもことさら驚くには値しません。「ようやるよ・・・」とは思いますが。
*****中国・習近平氏の名前冠した道路誕生 カンボジア****
中国が影響力を強めている東南アジアのカンボジアで、中国の習近平国家主席の名前を冠した道路が誕生しました。
駐カンボジア中国大使館によりますと、カンボジア政府は、首都・プノンペンにある道路の全長48キロメートルの区間を、「習近平大通り」と命名しました。命名発表の式典にはカンボジアのフン・マネット首相らが出席し、「習主席のカンボジアの発展への歴史的貢献に感謝する」などと述べたということです。
カンボジアは、中国が推し進める経済圏構想「一帯一路」の参加国で、中国資本による大規模なリゾート開発なども行われています。
「一帯一路」をめぐっては、中国経済の減速により、近年、途上国への投資の冷え込みが指摘されています。しかし、カンボジアでは、去年の外国からの投資額の66%は中国が占めるなど、経済は依然として中国に大きく依存しています。【5月29日 日テレNEWS】
*********************
当然ながら、「習近平大通り」については中国企業が建設工事を請け負ったとのことです。
カンボジアではフン・セン前首相の長男フン・マネット首相に代替わりしていますが、中国との緊密な関係は維持されています。
****カンボジア「中国重視」継承 マネット首相、王毅外相と会談****
中国の王毅外相は22日、訪問先のカンボジアの首都プノンペンでフン・マネット首相と会談し、両国間の協力を強化する考えを示した。中国外務省が発表した。
フン・マネット氏は「中国との関係は揺るぎないもので、対中政策は一貫している」と述べ、中国を重視した父フン・セン氏の外交路線を継承する方針を表明した。
フン・マネット氏は昨年8月、フン・セン氏から首相職を世襲した。前政権は人権弾圧などで欧米と鋭く対立し、中国に傾斜していた。王氏は18日から23日の日程でインドネシアやパプアニューギニアを歴訪。アジア太平洋地域の友好国と関係強化を図っている。【4月23日 共同】
*******************
こうした両国関係を背景に合同軍事演習も行われており、アメリカは懸念を強めています。
****合同軍事演習に中国艦参加 カンボジア軍と、米懸念*****
カンボジア軍は27日、同国南西部沖で中国軍と共に、乗っ取られた貨物船から人質を救出することを想定した海上演習を実施した。合同軍事演習「ゴールデンドラゴン2024」の一環。南西部リアム海軍基地に昨年12月から停泊している2隻を含む中国艦船も参加した。
中国は同基地を支援し、拠点化を目指しているとの見方があり、米国が懸念を強めている。カンボジア軍幹部は取材に、演習は軍事能力や両国関係の強化が目的で「特定の国の脅威になる訓練ではない」と述べた。
カンボジアと中国は2016年に合同軍事演習を初めて実施し、今回が6回目。カンボジアの船舶10隻以上が中国艦船と共に、乗っ取り犯側に貨物船を停止するよう命じ、射撃して制圧した。
カンボジア軍関係者によると、中国艦船2隻は海上演習終了後、同基地の桟橋に戻った。在カンボジア米大使館は先月、同基地の拡張工事で「中国軍が果たしている役割と将来の基地利用」に深い懸念を示していた。【5月28日 共同】
*******************
カンボジアの主要港シアヌークビル港にほど近いリアム海軍基地は、かつてアメリカなどからの資金援助で建設されたましたが、現在は中国の支援を受け拡張工事が進められています。
タイ湾に面した同基地は係争海域である南シナ海に近いため、アメリカは、中国が戦略拠点として利用する恐れがあると懸念しています。
リアム海軍基地拡張工事については、カンボジアが中国による独占的な基地の軍事利用を認める見返りに、中国がインフラを整備する密約を結んだ疑いが指摘されており、カンボジアは「中国軍の施設ではない」とこれを否定しています。
実際に中国の軍事利用が進むと、同基地はアフリカ東部ジブチに次ぐ二つ目の中国軍の海外拠点になる可能性があります。
【中国資本による運河整備 ベトナムは反対するも・・・】
中国資本によるインフラ開発で注目されるのが、カンボジア首都のプノンペンとタイランド湾を結ぶフナム・テコ(フナン・テチョ)運河の整備事業です。
*****中国資本でカンボジアに運河建設、「歓迎の声」と「警戒の声」―シンガポールメディア****
シンガポール華字メディアの聯合早報はこのほど、カンボジア国内で中国資本による建設が今年後半に始まるフナム・テコ運河を巡る、さまざまな見方を紹介する記事を発表した。
同運河はカンボジア経済に大きな恩恵をもたらすとして歓迎する意見がある一方で、環境問題への影響や中国が軍事利用する可能性を懸念する声があるという。
フナム・テコ運河はカンボジア首都のプノンペンとタイランド湾を結ぶ全長180キロ、幅100メートル、深さ5.4メートルの積載量3000トンの船舶が利用できる運河で、2028年の完工を見込む。
建設を請け負う中国路橋集団は、数十年間の占有権を取得するとされる。同運河が完成すれば、カンボジアからのベトナムの港湾を通じた海運輸出が最大で70%削減できるとみられている。
ニュージーランドのオークランド大学の名誉研究者でもあるカンボジア開発研究所(CDRI)のンギン・チャンギットシニアリサーチフェローは、同運河により、カンボジアの繊維製品や原材料をプノンペンから海まで運ぶ距離が短縮され、温室効果ガスの排出が削減されると述べた。また同国の農業でかん漑のレベルが上がれば、運河沿いに暮らす160万人のカンボジア人が恩恵を受けるという。
ンギン氏は一方で、中国の投資や援助を受けてカンボジア経済が発展してインドシナ半島における同国の政治的影響力が向上することは「中国の利益につながる可能性がある」と述べ、「ベトナムと米国の関係がより密接になるにつれ、メコン地域では中米の競争によって地政学的な緊張がさらに高まるかもしれない」との見方を示した。
また、同運河の環境に対する影響を懸念する声もある。ベトナムのサプライチェーンの専門家であるグエン・フン氏は、運河によって既存の人口の流出や農業用地の喪失、湿地帯の減少が起きる可能性があると述べた。米スティムソンセンターの持続可能な開発プロジェクトの責任者であるアイラー氏は、運河によって「ベトナムの大規模なコメ生産のために使用可能な水量が減少する」と主張した。
カンボジアのスン・チャントル副首相は水資源に関連する問題について、「運河はかん漑や漁業にも使われるが、運河に使われる水の量は『大海の一滴』にすぎない。運河は最大で毎秒5立方メートルの水を海に排出するが、メコン川は毎秒8000立方メートルの水量を海に流している」「運河が環境に与える影響は小さく、ストローほどの大きさしかない」などと説明した。
メコン川については、水資源の利用と調整を行うための、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムの4カ国が参加するメコン川委員会がある。
ソン副首相は、カンボジアはメコン川委員会に運河建設計画を通知したが、同プロジェクトについて地域の他の国に相談することはないと述べた。カンボジア政府は要請があれば、メコン川委員会に情報を追加提供する用意もあるが、そのようにする法的義務はないとした。
一方でメコン川委員会は、カンボジアに対しては数回にわたり要請し、2023年8月と10月に正式な書簡を送ったにもかかわらず、運河を評価するために必要な情報は伝達されていないとしている。
軍事面については、中国の軍艦が同運河を利用してメコン上流に進出するのではないかとの懸念も出た。スン副首相は「絶対にありえない」「われわれの憲法は、いかなる外国軍もカンボジアに入ることを認めていない」と、完全否定した。
ベトナム駐在の西側外交官も、ベトナムが安全保障上のリスクに直面しているとするベトナム人学者の警告について、運河の深さと水門の規模が限られているとして、中国に軍事利用される恐れがあるとの主張は「やや誇張されている」として、取り合っていないという。【5月13日 レコードチャイナ】
******************
フナン・テチョ運河は、扶南王国(1~7世紀ごろ)時代に建設されたものを水深を深めるなどの整備をするもののようです。
これにより、現在はベトナムから小型船に積みかえてメコン川を遡ってプノンペンに運ばれていた物資が、直接タイランド湾からプノンペンに入ることになります。
****カンボジア副首相が東京で講演、フナン・テチョ運河建設の利点強調****
(中略)
(カンボジア副首相兼カンボジア開発評議会第1副議長)スン・チャントール氏は講演で、カンボジアの地理的優位性をさらに強化するものとして、フナン・テチョ運河の建設計画に言及し、同運河の整備はカンボジア進出企業の大きなメリットとなり得ると説明した。
フナン・テチョ運河の原型となる運河は扶南王国(1~7世紀ごろ)時代に建設されたものとされる。スン・チャントール氏は、現在も利用されているこの運河を深さ1.5メートルから5.4メートルに整備し直すことにより、船の積み替えをせずに内陸まで貨物を運ぶことができ、輸送のリードタイムやコストの低減につながると話した。
同運河の全長は180キロで、総工費は17億ドルを見込む。官民連携パートナーシップ(PPP)方式で建設を行い、2028年の完成を目指すとした。
ジェトロによるプノンペン港担当者へのヒアリング(2023年時点)によると、カンボジアの海上貨物のうち、現在65~70%がシアヌークビル港で、残りがプノンペン港で荷揚げされているという。プノンペン港を利用する貨物は、ベトナム・ホーチミンの港で小型船に積み替えてプノンペン港まで運ぶことが多い。
過去には経由港での検査を理由とした大幅な輸送遅延などが起き、国内の物流や生産に影響を及ぼすことがあった。運河が整備されることにより、経由国の物流事情に左右されるリスクの軽減が期待される。
フナン・テチョ運河建設に当たっては、ベトナムなどが環境や生態系への影響、中国の軍事利用への懸念を表明しているが、カンボジアは懸念に足る事実はないとして反発している。【5月28日 JETRO】
******************
物資の流れが“ベトナム抜き”に変わること、メコンデルタでのコメ生産等に影響する可能性があること、更には中国の軍事利用の懸念などからベトナムが同計画に反対しているのは前出【レコードチャイナ】にもあるところです。
カンボジア側は、「運河が環境に与える影響は小さい」「水深5mでは軍艦は使えない」「われわれの憲法は、いかなる外国軍もカンボジアに入ることを認めていない」などと、反論しています。
ただ、「われわれの憲法は・・・」云々はまったくあてにならないようにも思えますが。
【インフラ整備をめぐって争う中国と日本・・・ということではあるが・・・】
カンボジアでは上記のような中国に対抗する形で日本もインフラ整備を争っています。
****日本と中国、カンボジアの366億ドルのインフラ整備めぐり争う―中東メディア****
中国メディアの環球時報によると、中東の衛星テレビ局アルジャジーラはこのほど、中国と日本がカンボジアの366億ドル(約5兆6730億円)のインフラ整備をめぐり争うとする記事を配信した。
記事はまず、「カンボジアはインフラ整備を推し進めているが、366億ドルと推計されるその計画は、海外の友人らの助けがあって初めて実現できるだろう。これはカンボジア政府が10年という期間内で国の交通と物流ネットワークを徹底的に見直す174のプロジェクトからなるマスタープランの中で今年初めに発表された最終的な金額だ」と伝えた。
記事によると、カンボジアの政府と民間企業は、同国のインフラ整備に資金を提供しているが、その投資の多くを占めているのが中国と日本だ。両国はカンボジアの外交上の最高位である「包括的戦略的パートナーシップ」を保持している国でもある。
これまでのところ、中国の「一帯一路」構想は、首都プノンペンから沿岸都市シアヌークビルまでを結ぶ同国初の高速道路などの主要プロジェクトでインフラ整備を主導してきた。
一方、日本は独自の歩みを維持し、新しい下水処理施設や既存の道路の改良などのさまざまなプロジェクトに焦点を当てている。
東京大学の研究者、柴崎隆一氏によると、「中国の(インフラ)投資額と比較すると、日本の投資額はとても限られている。中国からの投資がとても多いため、隙間を埋めるか、投資をより広い視点に合わせて調整するため、ニッチな市場を見つけなければならない」という。
中国政府は近年、メガプロジェクトへの投資に背を向け、優良なプロジェクトへの投資指向の傾斜を支持している。これらの資金は通常、「建設・運営・移転」契約によって提供され、作業を監督する企業が、あらかじめ決められた期間にわたって完成したプロジェクトによって生み出される収益と引き換えに開発費用を負担する。
協定が終了すると、所有権は開催国の政府に移管される。カンボジアの大局的なビジョンの重要な部分は、その種の資金調達に依存することになる。
カンボジアのインフラ基本計画には、九つのメガプロジェクトの案が含まれている。それらのほとんどはまだ実現可能性について研究中の段階だが、日本の国際協力機構(JICA)、または中国交通建設集団傘下の中国路橋工程(CRBC)がほとんどすべてに接触している。
CRBCは昨年、プノンペンとベトナムとの国境都市バベット間の2番目の高速道路の起工を果たしたが、これは計画されている九つのメガプロジェクトの一つだ。
シンガポールに本拠を置く海運代理店ベン・ライン・インテグレーテッド・ロジスティクスのプノンペン事務所のプロジェクト開発責任者、マシュー・オーウェン氏は、「誰もが影響力を持ち、誰もが得るものを持っている。これは競争ではなく、カンボジアの親友になろうとする国々のたまり場のようなものだ。カンボジアは、同国をより良くすることに前向きな国であればどの国に対してもオープンだ。誰が最大の橋を架けるかという独自の競争をしたいのであれば、それに参加すればいい」と語る。【5月20日 レコードチャイナ】
*******************
現在の資金力などからみて、更にカンボジアと中国の政治的緊密さを考慮すれば、日本が中国にまともに対抗できるとは思われませんが、“ニッチな市場”で日本独自の技術・発想で取り組む・・・といったところでしょうか。
カンボジアも、全てを中国に委ねるリスクを考慮して、日本側への幾分かの配慮もあるのかも。