(2021年11月24日、英国ダンジネスの海岸に上陸する移民たち【4月27日 JBpress】)
【紆余曲折を経て、不法入国者「ルワンダ強制移送法案」成立】
イギリスにたどり着いた一部の難民申請者を第三国である東アフリカのルワンダへと移送するための法案が4月23日未明、英議会を通過しました。
ルワンダ移送後に難民として認められた場合、彼らはイギリスではなくルワンダに再定住することになります。
計画はジョンソン元首相時代に始まりましたが、移送先ルワンダでの人権保護や移民支援体制を不安視する声も強く、法案成立までには紆余曲折がありました。
スナク政権が計画の実現にこだわる理由の一つは、年内にも実施される見通しの総選挙で、不法移民に反感を抱く保守派支持層にアピールしたいとの狙いがあります。保守党は最大野党の労働党に支持率で大きくリードされ、前哨戦とされる補選や地方選挙でも保守党は大敗し、次回総選挙で敗北・下野が現実味を帯びています。
****映画「ホテル・ルワンダ」の舞台に不法移民を送り込む…英国の計画に物議 安住できるか?大虐殺乗り越え「奇跡」の復興遂げた国の実情とは****
1994年の大虐殺を題材とした映画「ホテル・ルワンダ」で知られるルワンダ。アフリカ中部にある人口約1400万人の小さな国が今、世界の注目を集めている。庇護を求めて英国にたどり着いた不法移民を、6500キロも離れたルワンダに移送するという英政府の計画が物議を醸しているからだ。
大虐殺を乗り越え、ルワンダは「アフリカの奇跡」とも呼ばれる復興を遂げた。政府関係者は「悲劇を経験したからこそ、希望を与える国になりたい」と受け入れ準備を進めるが、人権保護や移民支援体制を不安視する声もある。ルワンダは移民にとって「安住の地」となり得るのか。現地を訪れて、実情を探った。
▽「ボートを止める」
英国はこれまで、アフリカや中東などから多くの移民や難民を受け入れてきた歴史がある。
しかし近年、英仏海峡を小型ボートで渡って入国する不法移民が急増。2022年は前年の約1・6倍の約4万5千人を記録し、亡命申請者の数も8万9千人以上に達した。審査を待つ人々を収容する費用も膨らみ、負担を強いられる国民の間で反発が高まってきている。
そこで英政府が打ち出したのが、ルワンダへの移送計画だ。2022年4月、当時のジョンソン首相(保守党)はルワンダ政府との協定を発表した。
合意によると、移民らはルワンダに移送されて亡命申請の審査手続きをし、申請が認められれば原則、ルワンダ国内で定住することになる。ルワンダ政府が申請審査や社会統合への支援を担い、英政府がその費用などを負担する仕組みだ。
保守党政権は「ボートを止める」とのスローガンを掲げ、不法移民に厳格な姿勢で臨む。ジョンソン氏は「ルワンダは世界で最も安全な国の一つだ。難民受け入れの実績もある」と訴えたが、移民を「国外追放」し、対応を丸投げするやり方に、難民支援団体などは「自国に送還される恐れがある」「非人道的だ」などと反発。
計画中止を求めて提訴したが、英高等法院と上級審の控訴院はいずれも移送を認め、第1陣が6月14日夜に出発する予定だった。
しかしその直前、欧州人権裁判所が、「難民認定を受けるための公平かつ効率的な手続きにアクセスできなくなる」とのUNHCRの懸念などを踏まえ、移送を差し止める仮処分を決定。これを受け、英政府は移送中止を余儀なくされた。
ジョンソン氏退任後も方針に変更はなく、スナク現首相も計画を推し進める。しかし、2023年11月、英最高裁は「移民が母国に送還される危険がある」とし、計画は違法との判断を下した。
国内の法律の壁にも直面したスナク氏は12月、ルワンダ政府との間で新たな条約を締結した。ルワンダが移民らの安全や支援を確保し、母国や安全ではない第三国に送還・移送しないよう保証することを柱とし、安全性への懸念を払拭する内容になっている。
さらに、ルワンダは「安全な国」だと定義し、移送を阻む裁判所の命令や拘束力を回避できるような仕組みを盛り込んだ法案も提出。早期に成立させて計画を実行できるように急ぐ。【3月8日 47NEWS】
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【受入国ルワンダの実情】
カネで移民対応を他国に丸投げしてしまうことへの“そもそも”の疑問もありますが、ルワンダの受け入れ態勢については以下のようにも。
****悲劇からの発展****
人権重視の欧州の価値観では「危険な国」との烙印を押されるルワンダの実情はどうなのか。そんな思いを胸に今年1月中旬、現地に赴いた。
ルワンダは面積が四国の約1・4倍。多数派のフツ人と少数派のツチ人が長年対立し、1994年にフツ人主体の政府軍や民兵がツチ人やフツ人穏健派ら約80万人を虐殺した惨劇の歴史がある。
1994年以降実権を握るカガメ大統領は民族和解を推進。外国投資の呼び込みにも取り組み、2022年の国内総生産(GDP)成長率は8・2%に達した。
首都キガリには経済成長の象徴でもある高層ビルが立ち並ぶ。国際会議場や高級ホテルもあり、インターネットが利用できるカフェでは若い人たちが集っていた。道路はゴミがなく清潔で、国民も穏やかだ。生活は決して裕福とはいえず、発展途上の国であることは否定できないものの、30年前の惨劇からは想像がつかないほど穏やかな時間が流れていた。
英国からの移民の受け入れ先となる施設「ホープ・ホステル」は、キガリの高台に建つ。「ゲストとして来て、友達として帰ってください」。敷地の入り口には歓迎の看板が掲げられていた。
ツインルームが50部屋あり、約100人を収容できる。吹き抜けの構造で日当たりがよく、イスラム教の礼拝室のほか、医務室やサッカー場なども備えている。
「快適に過ごせるよう、万全の準備を整えている」。手入れや掃除の行き届いた施設を案内しながら、運営責任者のバキナ・イスマイルさんが胸を張った。維持費は英政府が支出しているという。
ルワンダはこれまで、近隣のブルンジやコンゴ(旧ザイール)などから約13万人の難民を受け入れてきた。政府当局者らは、民族対立に伴う大虐殺の痛みが難民支援の根底にあると語る。
2019年にはUNHCRなどと協力して人道支援メカニズムを立ち上げ、ルワンダ南東部ガショラの難民キャンプで、密航業者らが暗躍するリビアから移送されてきた難民の欧州への再定住支援にも取り組んでいる。
UNHCRのグレース・アティムさんによると、キャンプには約700人が身を寄せ、1日3回の食事のほか、生活に必要な物資や現金などが支給される。難民認定の審査や再定住先の調整をUNHCRが担い、難民たちは審査や受け入れ先の決定を待つ間、語学や職業訓練などの支援も受けられる。
「やっと安全を感じられる」。祖国エチオピアから逃れてきたイェシアレムさん(26)が生後8カ月の娘ソリヤナちゃんを抱きながらほほえんだ。
エチオピアを出た後、スーダンで誘拐され、拘束先のリビアで倉庫に数カ月間も監禁されて「何度もレイプされた」という。夫とは離れ離れになり、定住希望先もどこにするかまだ何も決めていないが、「人生に希望を持てるようになった」とうれしそうに話した。
取材に訪れた日も、複数の難民たちがスーツケースや荷物を手にキャンプを旅立っていった。「カナダに向かうんだ」。1人の若い男性が晴れやかな表情で手を振り、ワゴン車に乗り込んだ。
また大学では、2023年4月から戦闘が続くスーダンから逃れてきた医学生たちを受け入れ、学業継続の支援をしている。南部フイエにあるルワンダ大の医学部で学ぶアルワ・アブドゥラヒムさん(18)は「安心して勉強が続けられて幸せだ」と支援に感謝した。【3月8日 47NEWS】
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ルワンダにおけるジェノサイドの実態については上記のような「フツによるツチ虐殺」という“一般的通説”以外に、カガメ氏率いるツチ人武装勢力の関与など異論もあって、話はそう単純ではなさそうです。
それはさてき、上記を読む限りは難民支援に理解がある“安全な国”との印象もありますが、一方で、ルワンダにおけるカガメ政権による野党弾圧なども問題視されています。
英紙オブザーバーは1月下旬、イギリス内務省が昨年、迫害の恐れがあるとしてルワンダの野党支持者ら4人を難民認定していたと報じました。オブザーバーは、この難民認定について「ルワンダは安全だという政府の主張に疑問を投げかけるものだ」と指摘しています。
****責任転嫁…英国に厳しい目****
ルワンダ政府には、大虐殺という負のイメージを払拭し、難民問題に貢献する国を目指したいという思いがある。
ただ、カガメ政権は野党弾圧などの強権的な側面も問題視される。移送計画を巡っても「自国に送還しない」との英政府との合意が守られない懸念がある。
難民問題を担当するルワンダ緊急事態省のハビンシュティ次官は取材に対し「強制送還は絶対にない」と断言した。「ルワンダ国民は自らが難民となり、他国に支援された経験がある。だからこそ支援を進め、アフリカの中で難民問題の解決に貢献できる国になりたい」とも強調した。
だが、計画により苦境に追い込まれた人もいる。受け入れ先の宿泊施設には元々、大虐殺で家族や住居を失った人々が生活していたが、英国との計画合意に伴い退去を強いられた。居住者らにはルワンダ政府からわずかな生活支援金が支払われただけだという。
UNHCRルワンダ事務所のリリー・カーライル報道官は、ルワンダ政府の努力を評価しつつも「包括的な支援策はあるが、資金や制度が不十分だ」と指摘する。難民たちの雇用の機会は乏しく、社会統合も容易ではない。先進国のような経済的な恩恵を受けられる状況ではないという。
移民移送計画ついては、亡命申請者を保護するという「国際的な連帯と責任分担の基本原則」に反し、責任を他国に転嫁する英国の方針に一番の問題があるとして、厳しい目を向けた。亡命申請の審査手続きにUNHCRが関与せず、ルワンダ政府が独自で実施することも問題視した。(後略)【3月8日 47NEWS】
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【隣国アイルランドは反発】
スナク首相は、法案がすでに“抑止力”として機能しているとアピールしています。
****ルワンダへの移民移送法案、既に「抑止力」として機能 英首相****
英国のリシ・スナク首相は27日に公開された英スカイニューズのインタビューで、亡命希望者が同国から隣国アイルランドに流れているのは、不法入国した移民をアフリカ中部ルワンダに強制移送することを定めた法案が既に抑止力として機能している証拠だと述べた。同法案は今週、英議会を通過した。
アイルランドのヘレン・ マッケンティー法相は今週、同国での難民認定申請者の約80%は、英国の北アイルランドから陸路で入国したとの推計を、議会の委員会で明らかにした。
この推計についてスナク氏は、同法案が抑止力として「既に効果を発揮している」ことを示すものだとの見解を示した上で、「わが国に不法入国しても、滞在できないと分かっていれば、(不法移民が)来る可能性は大きく低下する。だからこそルワンダ計画は非常に重要なのだ」と説明した。
また、「不法移民は世界的な課題であるからこそ、複数の国が第三国とのパートナーシップについて話している」とも述べた。 【4月28日 AFP】AFPBB News
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スナク首相は効果をアピールしていますが、かわりに亡命希望者が流入するアイルランドは反発しています。
****イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非難轟々...「それぞれの理由」とは****
(中略)
隣国アイルランドも反発している。移送を危惧する人々がイギリスから流れ込む事態を懸念する同国は、北アイルランド経由の不法移民をイギリスに送還する法律を、5月末までに整備すると発表。
だがスナクは送還者受け入れに消極的で、混乱が続きそうだ。【5月7日 Newsweek】
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【亡命希望者らの宿泊費用1日15億円 世論の難民への反感も】
法案成立を後押ししている世論の難民への厳しい見方の背景には大きな経済的負担の問題もあります。
イギリス政府は、この負担を減らそうとしていますが、「隔離」との批判もあります。
****1日15億円…亡命希望者らの宿泊費用 イギリスで支援者らと警察が衝突****
不法入国した移民をアフリカのルワンダに移送する法律が成立したイギリスで、亡命申請中の移民などの移送を巡って支援者らが警察と衝突しました。
2日、ロンドン市内のホテルに滞在していた亡命希望者や不法移民が移民専用の宿泊施設に移送される予定でしたが、支援者らが妨害工作を行いました。支援者らは警察と衝突し、45人が拘束されました。
亡命申請中の移民
「(移民専用宿泊施設に移送を通知する)手紙を先週、受け取った」「3日間眠られなかった。正しくなく、むなしい日々を送っている」
亡命申請中の移民らはホテルなどでの滞在が認められていますが、宿泊費用として一日あたり800万ポンド=およそ15億円をイギリス政府が負担しています。
政府は「納税者の負担が大きく、ホテルの空室不足が観光にも影響を与えている」とし、地方の港に移民専用の宿泊施設を設け、移送を進めています。
移民らは施設から外出が可能ですが、人権団体などが「水上刑務所のようだ」と非難しています。
イギリスでは先月、2022年1月以降に不法入国した移民に対して亡命申請を認めず、ルワンダに強制移送する法律が成立しました。
地元メディアは内務省関係者の話として「今回移送される人は、ルワンダに移送される対象者ではない」と報じています。【5月3日 テレ朝news】
2日、ロンドン市内のホテルに滞在していた亡命希望者や不法移民が移民専用の宿泊施設に移送される予定でしたが、支援者らが妨害工作を行いました。支援者らは警察と衝突し、45人が拘束されました。
亡命申請中の移民
「(移民専用宿泊施設に移送を通知する)手紙を先週、受け取った」「3日間眠られなかった。正しくなく、むなしい日々を送っている」
亡命申請中の移民らはホテルなどでの滞在が認められていますが、宿泊費用として一日あたり800万ポンド=およそ15億円をイギリス政府が負担しています。
政府は「納税者の負担が大きく、ホテルの空室不足が観光にも影響を与えている」とし、地方の港に移民専用の宿泊施設を設け、移送を進めています。
移民らは施設から外出が可能ですが、人権団体などが「水上刑務所のようだ」と非難しています。
イギリスでは先月、2022年1月以降に不法入国した移民に対して亡命申請を認めず、ルワンダに強制移送する法律が成立しました。
地元メディアは内務省関係者の話として「今回移送される人は、ルワンダに移送される対象者ではない」と報じています。【5月3日 テレ朝news】
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イギリスがEUを離脱した最大の理由は、難民の流入を防止できるということでした。それだけ難民流入増加に対する世論の反発が大きいということでしょう。
イギリスだけでなく、そうした国民を顧みない既成政治・一部政治エリートによって自国がよそ者のために犠牲になっているという感情、難民に使うカネがあるなら自分たちの生活を何とかして欲しいという声が、欧州の極右勢力拡大や、アメリカの根強いトランプ支持の背景にあります。
ただ、「自分たちの生活が苦しいのは“あいつら”のせいだ」「“あいつら”のせいで犯罪が増える」という“わかりやすい”主張は、本当にそうなのか・・・冷静に考えてみる必要があります。
同じく移民の急増に悩むイタリアやデンマークも、イギリスのような政策を採用することを検討しているとのことです。
****英、亡命希望者をルワンダに初移送****
英国は、難民と認定しなかった亡命希望者1人をアフリカ中部ルワンダに初めて移送した。英メディアが4月30日に報じた。不法移民をルワンダに強制移送する法案は論争を呼ぶ中、先週、英議会で可決された。ただし、この男性は同法とは別の枠組みとされる。
リシ・スナク首相は、年内に実施されるとみられる総選挙をにらみ、支持率で最大野党・労働党の後塵(こうじん)を拝している状況に巻き返しを図るため、不法移民対策を優先課題の一つに掲げている。(中略)
ルワンダに移送された移民は、難民認定申請が認められた場合は同国に在留できるが、英国に戻ることはできない。
スナク政権は7月までに強制移送を開始するとしている。
複数メディアによれば、4月29日に英国を出発したアフリカ出身の男性は、昨年末に難民認定申請を却下された後、4月に成立した同法とは別の任意の制度で、ルワンダの首都キガリへの移送に同意していたとされる。サン紙は、男性はキガリ行きの民間便で出国したと報じている。
タイムズ紙が引用した政府筋の情報によると、男性は出国に同意した見返りに、最高で3000ポンド(約59万円)を受け取ることになっている。 【5月1日 AFP】
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