(東日本大震災の被災地支援のため三陸沖で活動していた米原子力空母「ロナルド・レーガン」の、特殊薬剤による放射能汚染洗浄作業の様子のようです。“flickr”より By U.S. Pacific Fleet http://www.flickr.com/photos/compacflt/5553730162/in/photostream/ )
【「休校にしてくれ。わが子が心配でたまらない、夜も眠れない」】
福島第1原発事故の市民生活・経済・政治への影響は国内だけでなく、広く海外に及んでいます。
放射能の危険については素人にはわかりづらいことから、特に海外の場合、正確な日本の情報が伝わりにくいこともあって、やや過剰とも思える反応も見受けられます。
そうした反応の一因には、人々の不安感を煽るメディアの姿勢もあります。
****海外の大衆紙、恐怖心あおる誇張報道*****
海外の大衆紙などでは、福島第一原発から漏れ出した放射能の危険を実態以上に誇張し、恐怖心をあおるような報道ぶりも目立つ。
3月15日付の英大衆紙サンは1面トップ記事で「数千人が放射能漏れを恐れ、東京から脱出を開始」と仰々しく伝えた。
別の英大衆紙デイリー・メールの3月16日付1面の見出しは「核パニックにとらわれた国」。「日本の核危機は制御不能」などと書き立て、白いマスクをつけて涙を浮かべる女性の写真を添えた。日本で花粉症対策のマスクは珍しくないが、あたかもマスクで放射能汚染をしのいでいるかのような印象だ。
低濃度の汚染水が海に放出されたことを伝えた今月6日付独大衆紙「ビルト」は、見出しで「日本人は太平洋全部を汚染するのか?」と憤りを示した。読者はこの見出しを見ただけで、とめどない汚染の拡大を連想してしまう。【4月7日 読売】
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“低濃度の汚染水の海への放出”を問題視することが過剰反応かどうかは、異論もあるところでしょうが、広く話題にあがっているのは韓国の反応です。
****韓国首都圏で休校相次ぐ、雨に含まれる放射線を懸念****
韓国首都圏の京畿道で7日、雨に放射性物質が含まれている恐れがあるとして、幼稚園・小学校130校以上が臨時休校したり、雨が降ってきた時点で授業を途中で切り上げたりした。道教育庁の勧告によるという。
ある当局者は「生徒の安全のための予防的措置」だと説明した。
道教育庁は6日、「被ばくの危険に関する情報が錯綜しており、生徒や保護者の間に不安が広がっている」ことを理由に、休校や授業の短縮を各校に勧告していた。とくに市街地から離れた学校では、登校距離が長いことから休校措置を奨励。休校しない場合でも、屋外活動は中止するよう呼び掛けていた。
ソウル市教育当局は休校措置を取らず冷静な対応を呼び掛けたが、市のウェブサイトには「休校にしてくれ。わが子が心配でたまらない、夜も眠れない」などと、保護者からの苦情が殺到している。
京畿道の南に位置する忠清北道当局は、サッカーや野球などスポーツイベントの開催を延期した。
韓国では4日、日本の東京電力福島第1原子力発電所から漏れた放射性物質が、風に乗って朝鮮半島に到達する可能性があると気象当局が発表したことから、懸念が広がっている。青瓦台(大統領府)は6日、雨に含まれる放射性物質はごくわずかで健康被害の心配はないと指摘し、教育当局に「両親を不安にさせたりしないように」と呼び掛けていた。【4月7日 AFP】
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韓国で大騒ぎするなら、日本に住んでいる私たちはどうなるのだ・・・とも言いたくもなりますが、身近なだけに日常性に埋もれて我々の感覚がマヒしているということも多少あるのかもしれません。
今や外国人にとって日本は不安な地となったようで、日本を訪れる外国人観光客の数が3分の1程度に落ち込んでいることが6日、入国管理局の調べで明らかになってもいます。
外国観光地で事件・災害が起きると日本からの観光客が激減することもよくある話ですから、あまりとやかく言えるものでもありません。地元の人間からすれば「全土がそんなに危険な訳でもないのに・・・」というところでしょう。
その他、インドは日本からの食品輸入を今後3カ月間全面的に停止するとか、台湾で魚が売れないといったことも報じられています。
****日本の食品 インド、3カ月輸入停止****
インド保健省は5日、福島第1原発事故によって日本国内の農産物に放射能被害が出ていることを受け、日本からの食品輸入を今後3カ月間、全面的に停止すると発表した。ロイター通信によると、日本からの食品輸入を全面的に停止するのはインドが初めてという。
停止措置の適用期間について、保健省は「放射性物質のレベルが許容範囲まで低下したという信頼できる情報が得られるまで」としている。対象となるのは加工食品や野菜、果物など。(後略)【4月7日 産経】
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****台湾、魚が売れない 放射性物質は未検出****
福島第一原発の事故が台湾での魚介類の売れ行きに影響を与えている。今のところ放射性物質は検出されていないが、当局は懸命に「安心」を強調している。
台湾で日本に最も近い北端に位置する基隆市の碧砂漁港に一般客向けの魚市場がある。近海でとれたアジ、サバなどが並んでいるが、ここ2週間は客が3割減った。特に大ぶりな魚は日本寄りの遠洋産と疑われ、全く売れない。(後略)【4月7日 朝日】
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ドイツでは政局にも影響を与えています。
****ドイツ:緑の党の支持率28%に 議会第1党に迫る勢い****
ドイツで初の州首相選出を確実にした緑の党が、6日に公表された世論調査で、メルケル首相が率いる連邦議会第1党のキリスト教民主・社会同盟(30%)に迫る史上最高の支持率28%を記録した。
世論調査機関「フォルザ」によると、調査は2505人を対象に3月28日から4月1日に実施。緑の党は前週調査より7ポイント上積みし、議会第2勢力の社会民主党(23%)も抜き去った。
地球温暖化問題への関心の高まりから緑の党の躍進は予想されていたが、日本の原発事故がこの流れを一気に後押しした格好だ。緑の党は議会に所属する5党で唯一、支持率が上昇傾向にあり、次期2013年の総選挙で台風の目になる可能性が強い。【4月7日 毎日】
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【「低濃度」の放射能汚染水を海洋大量放出】
“放射能雨”(以前日本でも、海外の核実験の際に、雨に濡れると頭が禿げてしまう・・・といった類の噂がありました)や農産物・魚に対する過剰な反応はともかく、冒頭記事にもある“低濃度の汚染水の海への放出”となると、私自身も本当に大丈夫なのだろうか・・・という感はあります。
東京電力は、1万1千トン以上の「低濃度」の放射能汚染水を海洋に流すという決定を下し、即日実行に移しました。「低濃度」とは言っても、通常の環境基準の100倍以上、普通であれば「高濃度」な汚染水です。
国内漁業関係者からも強い批判が出ていますが、世界の専門家の間でも論議を呼んでいます。
****汚染水放出に各国懸念…原子力再検討会議****
ウィーンで開会中の原子力安全条約再検討会議は3日目の6日、日本の同条約履行状況を検討する分科会が開かれた。
各国からは、本来の議題から離れ、福島第一原発で低濃度の放射性物質を含む汚染水を放出した問題で懸念が表明されるなど、同原発の事故に絡む質問が相次いだ。日本の関係機関による情報伝達の遅れへの各国の不満を背景に、日本に注がれる厳しい視線を浮き彫りにした形だ。
分科会は報道陣に非公開で開かれ、詳細なやりとりは不明。会議終了後に日本メディアに対して記者会見した経済産業省原子力安全・保安院の中村幸一郎審議官によると、分科会では同審議官が、日本の原子力安全規制状況や、福島第一原発事故を受けた日本の他の原発での緊急時対策の強化などを説明した。放射性物質を含む汚染水の放出問題については、日本側が取り上げなかったものの、出席国から「懸念を持っている」との声が上がったという。【4月7日 読売】
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【近隣国の懸念】
中国や韓国も公式に政府レベルで懸念を表明しています。
****日本の放射能汚染水放出、韓国政府が公式懸念通達*****
韓国政府は6日、東京電力が福島第1原子力発電所から放射性物質を含む水を海に放出したことに対する懸念を日本に公式に伝えた。
外交通商部東北アジア局の張元三(チャン・ウォンサム)局長は同日夕、外交通商部庁舎に兼原信克駐韓公使を呼び、日本の放射能汚染水海洋放出行為に対する韓国内の不安と懸念を伝えた。同部関係者が明らかにした。
同日午前には在日韓国大使館の参事官が外務省経済局の政策課長を訪問し懸念を伝えているが、これより1段階進んだ外交的対応措置を取ったことになる。
この席で張局長は、汚染水の海洋放出は日本だけの問題ではなく、近隣国にも影響し国民に心理的不安を与える事案だとし、事前に通達すべきだったのではないかと指摘した。そのうえで、今後こうした問題があった場合は事前に通達し、十分な情報を適時に提供してほしいと要請した。
また、必要に応じ日本を支援し協力するという次元から、モニタリング分野で韓日が協力する道がないか検討することを提案した。
これに対し兼原公使は、地理的に日本と最も近い韓国国民の懸念は十分に承知、理解していると述べた。汚染水の放出は避けられないものだと説明しながら、韓国を安心させられるよう、情報提供などさまざまな措置を取り、緊密に協力していくと述べた。韓国政府のモニタリング協力提案には、危険な地域への訪問は受け入れられないが、一般的次元の協力ならば本部に建議すると答えた。【4月7日 聯合ニュース】
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中国外務省の洪磊(こうらい)副報道局長は7日の定例会見で、福島第1原発から放射性物質を含む汚染水が海に放出されている問題について、迅速かつ正確な情報の提供を日本側に求めています。
“中国政府は、震災支援を通じて日中双方の国民感情の改善を目指していることもあり、原発事故の影響について抑制的な対応が目立っている”【4月7日 毎日】とも。
恐らく中国や韓国で同様のことが行われれば、日本政府も同様の措置をとることは間違いないことです。
批判に国内世論は沸騰するでしょう。
今回の場合、事前の情報提供に問題があった面は否めません。
【「海洋汚染テロ国家」の批判も】
この件にかんしては、“日本を「海洋汚染テロ国家」にした”との厳しい指摘もあります。
****日本が「海洋汚染テロ国家」になる日――放射能汚染水の海洋投棄に向けられる世界の厳しい視線【週刊 上杉隆】*****
自由報道協会はきょう(4月6日)、元佐賀大学学長の上原春男氏の共同インタビューを主催した。上原氏は福島第一原子力発電所3号炉(もしくは5 号炉)の設計にかかわり、外部循環式冷却装置の開発者でもある。
震災直後から複数回にわたり、菅直人首相はじめ政府、統合本部、東京電力などから助言を求められている。事故後メディアの前に姿を現すのは今回が初めてであった。
その上原氏は、放射能汚染水を海洋に流し続けるという決定を下したばかりの政府に対して、繰り返し嘆いた。
「なんで、あんなことをしたのか。海洋に放射能汚染水を流すなんて信じられませんよ。誰がそんなバカなことを決めたのか。これで日本は世界中を敵に回した。恥ずかしい。せっかく信頼のある国だったのに、本当になんてことをしてくれたんだ」
いまや政府と東京電力による愚かな決定の数々は、日本を「海洋汚染テロ国家」に仕立て上げようとしている。(後略)【4月7日 DAIMOND online】
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