(日本料理店が立ち並ぶバンコクの「タニヤ通り」。ほとんどが店を閉め、閑散としている=2020年4月21日【4月26日 朝日】)
【非常事態宣言 失業などで追い詰められた貧困層の自殺者相次ぐ】
なにごとにつけても、全体像を客観的に把握するというのは難しい作業です。
どうしても、たまたま自分が目にした事例をもとに判断してしまいがちです。その事例が全体を反映している保証はありません。
****意外と冷静?非常事態宣言下のタイ****
新型コロナウイルスの感染拡大で、3月末から非常事態宣言が出されているタイ。首都バンコクでは人の姿は少なくなったものの、市民生活は落ち着いているといいます。バンコク支局の杉道生特派員の報告です。
バンコクの中でも日本人が多く住むエリアとして知られるスクンビット地区。普段は家族連れなど大勢の姿が見られますが、いまはほとんど人の姿がありません。
バンコクでは3月下旬からすべての商業施設が閉鎖されてしまっています。食品などが売られているフロアは営業中。果物や野菜を売っているコーナーでは、リンゴ、みかん、キウイなどたくさんのフルーツが並べられています。野菜コーナーでも、ニンジン、キャベツ、大根、ブロッコリーなどがそろっています。
タイでは、生活に欠かせないこうしたスーパーマーケットは営業を続けています。品物はそろっていて、品薄の状態にはなっていません。
普段だと野菜がそのまま並べてあるサラダバー。新型コロナウイルスの対策で、ひとつひとつ丁寧にパッキングした状態で販売されています。飲料売り場ではペットボトルの水が山積みに。品物が不足しているという様子はありません。
タイでは生活必需品を買いだめすることは禁止されているのです。違反すると警察に逮捕される場合もあります。
店内では使われたカートの消毒作業が随時行われ、無料の手袋も配布されています。
タイ在住10か月の30代の女性に話を聞きました。
「食料が供給されない状況はまずないだろうと。みんなで落ち着こうと言い合っていました。どこまで禁止されるのか見えないので、それが急に来るという怖さはあります。みんなで情報を密に取り合っています」
タイでは非常事態宣言が出されているものの、品物はそろっており、市民は落ち着いて生活している印象があります。【4月27日 日テレNEWS24】
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タイの新規感染者が1日20人前後と比較的落ち着いた動きにあるのは事実ですが、非常事態宣言のもとでの市民生活が落ち着いているかは、やはり?でしょう。
上記記事は、あくまでも(経済的に恵まれた)日本人が多く居住するエリアの日本人社会の状況でしょう。
タイ(特にバンコクでしょうが)全体については、貧困層の生活が苦しくなり自殺者が相次いでいるとの報道もあります。
****感染抑制の一方で貧困層の自殺が相次ぐタイ 川に飛び込んだ男性と娘の悲しすぎる最期****
東南アジア・タイでは4月24日現在、一日の新規感染者数は20人以下に抑えられ、新型コロナウイルスの抑制に成功しつつあるようにみえます。
一方で経済への打撃は深刻です。タイは貧富の格差が大きく、最近では仕事を失い、貧困やストレスで追い詰められた人たちの自殺が相次いでいます。タイは今どのような現状かを解説します。
タイではここ最近、新規感染者が20人前後で推移し、累積の感染者数を3千人以下に抑え込んでいます。この成果は、タイ政府が感染拡大抑制のために打ち出した厳しい制限の賜物です。
首都バンコクでは職場や工場などの閉鎖命令は出ていないものの、3月末から、食料品店や薬局など生活に必要不可欠な店を除く商業施設やマッサージ店、理髪店やパブやバーなど人が集まる場所を閉鎖し、レストランでの飲食も禁じています。また非常事態宣言を発令し、夜10時から朝4時までの夜間外出禁止令も罰則付きで厳しく適用しています。
こうした経済や社会活動を大幅に制約する内容は、感染抑制には大きな効果を発揮した一方、タイの低所得者層を直撃しています。
タイは世界で最も貧富の格差がある国の一つといわれ、経済界からは一連の対策がこのまま続けば、1000万人の失業者が出るとの報告が上がっています。そして最近では精神的に追い詰められた人が自殺するケースも出てきています。
バンコク北部のアユタヤ県では4月19日、県内を流れるパーサック川で40歳の男性と5歳の娘の水死体が見つかりました。男性は建設関係の仕事をしていましたが、新型コロナウイルスの影響で先月から仕事が無く、亡くなる直前にはお寺の敷地内で娘と生活していました。
地元メディアによりますと、川の近くに住む人が、男性が飛び込んだと見られる音を聞いていて、その後、娘が「私を置いていかないで」と泣き叫んでいたことから、娘も後を追って飛び込んだとみられています。
タイ政府は対策として非正規労働者や自営業者などに1人あたり月5000バーツ、日本円で約1万6000円を支給する支援案を打ち出しました。対象者は900万人に上り、一部には支援金が支払われましたが、支給対象から外れた人が困窮して自殺するケースもありました。こうした新型コロナに関連する自殺で、3月20日以降、少なくとも22人が死亡したとの報告も出ています。
バンコク市内では、経済難に苦しむ低所得者層に対する支援の動きが広がっています。王宮に近い配給所を訪問すると、35度を超える炎天下の中、配り始める30分前に、既に数百人もの人たちが列をなしていました。話を聞くと、並んでいる人たちは、つい最近まで、普通に生活をしていた人たちでした。(中略)
タイ政府は今、規制をどう緩めていくのか、頭を悩ませています。
経済回復のためには規制を緩める必要がありますが、それが感染拡大の第2波を引き起こす恐れがあります。もしクラスターと呼ばれる集団感染が再び起きれば、対策はやり直しとなり、元の木阿弥になってしまいます。
政府は感染者が出ていない県から、理容室や飲食店などに条件付きで営業再開を許可し、徐々に緩和の方法を探り、成功すれば、政治経済の中心である首都バンコクでも6月上旬から規制を緩和していきたい考えです。
感染拡大を防ぎながら、経済活動の制約を徐々に解除するという、ウイルスとの難しい闘いはまだ始まったばかりです。【4月25日 FNN PRIME】
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なお、“タイのCOVID19センターの広報担当者によると、同国では25日、新たに53件の感染が報告された。約2週間ぶりの多さで、このうち42件は南部で拘束されている主にミャンマーからの「不法」就労者だという。”【4月25日 Bloomberg News】という報道も。
タイに限らず、当局との接触を避ける「不法移民」の間での感染拡大は、殆ど表面には出てこない類の問題で、実態は全くわかりません。
ミャンマーからの「不法」就労者というのはイスラム系少数民族ロヒンギャのことだと思いますが、感染状況以前に、ロヒンギャがタイ南部(イスラム教徒が多い地域)でどういう生活・労働状況にあるのかも全く知りません。法律的保護がありませんので相当に劣悪な環境にあることが推測はされますが。
【観光用ゾウも失業で苦境】
人間の苦境と同列に並べるのは不謹慎かもしれませんが、心が動かされるのは動物の苦境。
****タイのゾウ2000頭、観光客激減で苦境に…餌が不足し健康状態悪化****
タイの観光地で人気のゾウが、新型コロナウイルスの感染拡大による観光客減少の影響で餌不足などの苦境に陥っている。支援団体は政府にゾウや飼育担当者への支援を求めている。
タイは年間約4000万人が訪れる観光立国だが、今年3月の外国人訪問者数は前年同月比約76%減と大幅に落ち込んだ。
ゾウ支援団体「ゾウ連合協会」によると、世界遺産の古都アユタヤや北部チェンマイなど観光地にいるゾウ計約2000頭がパフォーマンスの機会を失い、飼育担当者の収入も通常の3分の1以下となった。担当者は餌を十分に用意できず、ゾウの健康状態も悪化している。
タイ英字紙バンコク・ポストによると、ゾウ約60頭が故郷に移送されたという。協会は餌代としてゾウ1頭当たり月額1万8000バーツ(約6万円)の支給を政府に要請し、インターネット上で寄付も募っている。【4月27日 読売】
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タイ政府は、新型ウイルス対策として、(観光客向けの)エレファント・キャンプ数十か所の閉鎖を命じています。
そこに暮らすゾウはどうなるのか?なにぶん餌代がかかる動物です。
“故郷に移送され”て落ち着くならいいのですが、違法森林伐採における苦役で虐待されたりとかもあるのでは。(違法業者に動物愛護は期待できません)
施設でお腹を空かしたゾウも苛立っており、“飢えたゾウに踏まれ男性死亡 タイ、コロナで飼育施設閉鎖”【4月18日 時事】といった話も。
【プラユット政権 大富豪に寄付要請】
そんなタイにおいて、プラユット首相が新型コロナ対策の財源ねん出のため繰り出した施策は・・・大富豪への寄付要請。
****コロナで富豪20人に寄付を要請、タイ首相が繰り出すトンデモ対策(1)****
(中略)
政府の寄付要請に巻き起こる賛否両論
国富の8割を全人口の2割にすぎない富裕層が独占するというタイで、そのトップ20人から新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済対策費用などを捻出しようと、プラユット首相が電撃的に打ち出したのは4月17日夕方。国営テレビで行われた演説の中で突如、明らかにされた。
政府はこれまで3次にわたる経済対策として総額2兆バーツ(約6.6兆円)を超える財政出動を閣議決定してきたが、失業者はすでに700万人を超え、1000万人を突破するのも時間の問題とみられている。仕事と収入を失い、一家が無理心中を図るなどのニュースが連日にわたって報道されている。
タイの2021年度(20年10月~21年9月)予算における歳入は2兆7800億バーツ。経済対策はすでに規模の上では国家予算の約7割を占め、これ以上の財政負担は難しい。そこで考案された財源捻出のための戦略が、多額の私財を抱える富豪からの寄付金集めだった。(
「チーム・タイランド」と命じられた構想は同首相の肝いりで始まったもので、すでに対象者に対しては首相直筆の書簡の送付が始まった。(中略)
一方、発表以来、インターネット上などでは賛否両論の意見が飛び交い続けている。「私権に対する挑戦だ」「民主主義社会でありえない」などの反対意見がある一方で、「政府の財源が厳しい今こそ富豪は協力すべきだ」とか、「政権をバックにさんざん金もうけをしておいて」などと構想を支持する意見は少なくない。
その中で、最大の国民の関心事が、誰が選ばれるかという富豪20人の“人選”だ。プラユット首相もウィサヌ副首相もこの点については情報の事前漏洩を警戒して固く口を閉ざすが、政財界ではすでにさまざまな人物の名前が挙がっている。【4月27日 小堀晋一氏 DIAMONDonline】
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要請した時点で寄付ではなく「徴収」になりますが、私権の制限という点での問題はさておき、ある意味では社会的公正を目指した取り組みとも考えられ、「トンデモ対策」というほどの突拍子もないものではないでしょう。(世の中には、トランプ大統領の消毒液注射発言みたいな“トンデモ対策”がありますので・・・・)
【政敵潰しの狙いも? 世界でも最も裕福な王室は?】
ただ、話はここで終わりません。
この対策に乗じて、目下の最大政敵タナトーン氏潰しが行われるのでは・・・とか、海外逃亡中のタクシン元首相の資産の徴収が行われるのでは・・・といった、非常に「政治的」な話が付きまとうようです。
****コロナで富豪20人に寄付を要請、タイ首相が繰り出すトンデモ対策(2)****
(中略)
非議員の同首相を首班とする現政権は、2014年5月の陸軍による軍事クーデターの延長線上にある。
元陸軍司令官である首相を公然と批判し、昨年の総選挙で第3党に躍り出た眼前の政敵が自動車部品製造大手サミット・グループの御曹司タナトーン氏率いる新未来党だった。
タナトーン氏も同党も、政権の影響力が強い憲法裁判所により、今年になって公民権停止10年、解党処分の判決がそれぞれ確定している。国政の上では政治的な道はほぼ絶たれたが、それでも同氏、同党を支援する国民は後を絶たない。
こうした流れに「最後の一撃」を与えるため、タナトーン氏や母体のサミット・グループに対し、巨額の私財の提供を求めるのではないかというのが少なからぬ有権者の受け止め方だ。真偽のほどは置くとしても、傾聴には十分に値する話だ。
さらに、軍事政権と対峙してきた最大勢力タクシン派のタクシン元首相にも私財提供を求めるのではないかとの見方も日増しに膨らんでいる。同氏の直近の資産はフォーブス誌の試算で18億ドル。タイ国内では12位にランクインする。
06年の軍事クーデターで政権を追われたタクシン元首相は08年以来、アラブ首長国連邦のドバイを中心に滞在しタイには帰国していない。11年には実妹のインラック前首相が政権を奪還したが、14年のクーデターで追われた。17年8月には国外に逃亡。兄同様に帰国を果たせていない。
タクシン元首相は今なおタクシン派政党タイ貢献党を実質的に率い、財政支援も行っている。また、総選挙後は新未来党に秋波を送るなど、政権批判を繰り返してきた。
プラユット政権がこれらを逆手に取って、あるいは取引材料として、巨額の寄付を求めようとしても何らおかしいことはないというのが大方の見方だ。【同上】
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更にデリケートな問題は王室財産の問題。
タイ王室は世界で最も富裕な王室として巨額の資産を有します。
タイにおける王室の絶対的立場を考えると、既存秩序を重視する政府が王室に「カネを出して欲しい」と要請することは想像しづらいですが、国王と政治の関係で微妙な判断にもなります。
****コロナで富豪20人に寄付を要請、タイ首相が繰り出すトンデモ対策(3)****
王室財産からの寄付も検討か
もう一つ、巨額の王室財産を持つタイのワチラロンコン国王を「富豪」に含めるべきだという意見も有権者の間では少なくない。
同国王は4月6日のドイツからの帰国時、新型コロナウイルスの治療に向けた医療機器、数千万バーツ相当を寄付したとタイの新聞が報じている。その延長として、さらなる寄付を求めてはどうかというのが主張の論旨だ。
ただ、王室財産は他の民間財閥とは異なり、営利事業によって生まれたものではない。歴史上の背景もある。また、王室が率先して寄付をすることで、政治利用されかねないと懸念する声もある。
こうしたことから、プラユット政権では国民の反応も踏まえ、王室財産については慎重に検討するものとみられている。(後略)【同上】
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