(タイ・バンコクで、婚姻の儀式に臨むワチラロンコン国王(右)とスティダー王妃。タイ王室庁提供(2019年5月1日撮影【2019年6月4日 AFP】 はいつくばっている男性らは政府のお偉方でしょう)
【現国王の不人気、コロナ禍の経済苦・格差で広がる王室批判】
軍事政権を継承するプラユット政権に対する反体制運動が拡大するタイでは、従来の民主化要求にとどまらず、長、タブーとされ、最大15年の不敬罪などの罪に問われる王室批判も、かつてない規模で展開されています。
(8月17日ブログ“タイ 学生らの抗議行動、タブーとされてきた王室批判にも言及 高まる政治的・社会的緊張”)
こうした事態に危機感を持つ政権は、大学当局を通じて、学生に王室改革の要求を取り下げさせるよう働きかけています。
****タイ政府、大学当局通じて学生の王室改革要求抑え込み****
タイ政府の意向を受けた各県知事が大学当局を通じて、学生に王室改革の要求を取り下げさせることを目指している。サムチャイ・サワングカルン上院議員が13日、ロイターに語った。
同国では7月半ば以降、軍を後ろ盾とするプラユット首相の退陣と、新憲法制定、総選挙を求める抗議行動がほぼ連日行われている。特に学生グループは10項目の王室改革要求を掲げ、タイでタブー視されてきた王室批判にまで踏み込んだ。
こうした中でサムチャイ・サワングカルン氏はロイターに、19日にバンコクをはじめ各地で予定される反政府集会を前に、県知事が大学トップを会談のために招集したと明かした。タイの上院議員は、軍が設置した国家平和秩序評議会によって任命されている。
同氏は「大学運営側はこの問題を学生に理解させ、王室に関する要求をやめさせるべきだ。われわれは知事に反政府集会の阻止を命じていないが、特に王室に向けられた改革要求の面で、(政府の意図を)大学当局によく分からせてほしいと伝えた」と説明した。(中略)
一方、最初に王室改革を打ち出した学生指導者は政府の姿勢について、追い詰められた末の「自暴自棄の作戦」で人々を弾圧し、威嚇しようとしていると批判した。
ロイターが入手したある大学宛ての通達には「抗議行動に参加している一部グループの振る舞いは不適切ではないかと懸念される。例えば王室の転覆を図ったり、不敬罪を定める刑法112条の廃止を求める連中だ」と記されている。
ある反政府集会に参加した学生は、自身が所属する大学に対して政府が「トラブルメーカー」になりそうな人物のリストを作成するよう要請したと話した。
タマサート大学講師のAnusorn Unno氏は、政府が大学側にこのような通達を出すのは珍しいことではないと述べ、今回はたまたまその事実が分かっただけだとの見方を示した。(後略)【9月14日 ロイター】
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プミポン前国王時代は王室は国民から広く敬愛されていましたが、王室批判が拡大する現在の事態に至った背景には、問題の多い現国王の不人気もあるようです。
また、タイ社会はコロナ禍で「格差」が浮き彫りになっていますが(9月4日ブログ“タイ コロナで浮き上がる経済格差の存在 政府批判抑圧の一方で、高まる不満への対応も迫られる”)、タイ王室は世界でも最も裕福な王室と言われています。
****愛人20人、側近数百人と高級ホテル貸し切り…タイ国王の“派手すぎる生活”に批判噴出****
タイ王室は、ワチラロンコン国王(68)が王妃(42)とは別の女性に「高貴な配偶者」の称号を8月末に再び与えたと発表した。
「元陸軍看護師のシニーナートさん(35)は、昨年7月、タイでは100年ぶりに側室として正式に任命された。ところが、その3カ月後、『王妃のように振る舞い、不誠実だ』などとして称号を剥奪された。その後、彼女は幽閉状態だったそうですが、今回、王室は『汚点はなかった』と潔白を示唆し、称号の剥奪を撤回したのです」(外信部デスク)
国王は皇太子時代、愛犬のプードルに「空軍大将」の称号を与えるなど、奇行ぶりが知られていた。
「プミポン国王の長男で、姉が1人、妹が3人います。母ですら『ちょっとしたドンファン』と言うほど女性関係が派手で、離婚歴は3回。元ストリッパーとされる妻(後に離婚)をパーティーの席上で全裸にさせた映像が流出したり、刺青が丸見えのタンクトップ姿で30歳年下の愛人といるところを撮られたりしたことも。1年の大半を海外で過ごすなど放蕩三昧でした」(現地ジャーナリスト)
2016年、父の崩御を受け、国王に即位。必要以上に政治へ介入しなかった父と異なり、国民投票で承認された新憲法案を拒否し政府に条文の修正を要求。17年4月、国王が摂政を置かずに海外に出られるようになるなど、権限を強めた新憲法案に署名した。
愛人20人や側近数百人とドイツの高級ホテルへ…
そんな国王は世界一リッチな王でもある。米エグゼクティブ向け雑誌によれば資産は430億ドル(約4.6兆円)で、エリザベス女王の80倍だ。
「18年に法律が改正され、王室財産管理局が運用してきた王室資産が国王の個人名義となりました。国王は毎年3億ドルの収入があると言われています」(前出・外信部デスク)
そしてコロナ禍の今年3月、ドイツでの豪遊が海外メディアで報じられる。
「愛人20人や側近数百人とともに、アルプスを一望できるドイツの高級ホテルを貸し切りにして隔離生活を送っていたのです。さらに、5月の戴冠1周年を祝う行事も欠席した」(同前)
反政府デモが連日続くタイでは、ついに批判の矛先が王室に向き始めた。(中略)側室の称号復活は怒りに油を注ぐことになりそうだ。【週刊文春 2020年9月17日号】
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【19日に予定される大規模な反政府・民主化要求のデモ 注目されるその動向・政権側の対応】
こうしたなか、前出【9月14日 ロイター】にもあるように、明日19日にはバンコクをはじめ各地で反政府集会が予定されていることから、明日の成り行きが注目されています。
****飛躍か破滅か、タイ民主化運動が挑む19日の天王山****
タイのバンコクで9月19日に大規模な反政府・民主化要求のデモが予定されている。これに対して、治安当局は各大学に学生の参加中止を求めるなどして警戒を強めており、バンコクに緊張が高まっている。
というのも、最近バンコクでは、それまで絶対的タブーだったタイ王室への批判が半ば公然と叫ばれるようになっているからだ。
そのため今回予定されているデモでも、参加者が「王室の改革」まで言及、要求するかどうか、そしてそうなった場合、治安部隊がどこまで強硬手段を取って対応するかに注目が集まっている。
加えて現地では、軍部によるクーデターの噂もまことしやかに囁かれており、単なる学生たちの民主化要求デモとは違ったきな臭さが漂い始めているのだ。
長年にわたる軍政支配が終焉したとはいえ、その軍政の流れを強く残した現政権による“反民主”的政治手法対する不満、そして批判が高まりつつある王室の有り方に「終止符を打つ」ことができるのか、それとも「力による抑えこみ」で民主化、政治改革の声を封じ込めるのか? タイ国民は今固唾を飲みながら19日の日を迎えようとしている。
大学当局はデモを不許可
19日に大規模集会が予定されているのはバンコク市内中心部にある王宮前広場に隣接する国立タマサート大学のタプラチャーン・キャンパス。全国学生連盟や自由青年グループなどからなる主催者側によると約4万人規模の参加者が見込まれている。
ところが大学側が「大学のガイドラインに政治的な集会はそぐわない」「大規模集会の警備ができず、安全を保障できない」などの理由で19日の集会を不許可とする決定を下した。
これに対し主催者側は「これまで通りの集会であり、暴動に発展することはなく、警備は自前でやる」として19日の集会を大学側の許可なしでも強行する姿勢を示している。
ネット上ではタマサート大学同窓会代表が大学のモットーが「自由・平等・友愛」にあるとして、「大学はこの精神に乗っ取り集会を許可するべきだ」と主張しているといい、大学側の姿勢に対しても賛否両論が渦巻いている。
「9月19日」はクーデターの日
実は大規模反政府集会が予定される9月19日は、2006年に軍のクーデターで時のタクシン首相率いる政権が転覆された日であり、タイの民主主義にとって記憶に刻まねばならない日となっている。
このクーデターの後、タクシン首相の妹のインラック首相が政権を取り返したものの、再び軍のクーデターによって軍事政権となった。その軍事政権のトップだったのが現在のプラユット首相である。タイは昨年3月に総選挙が行われ、一応は民政に戻ってはいるが、首相は引き続きプラユット氏が務めており、民主化を求める国民の間からは依然として不満が噴出している。
こうした経緯があるため、軍事政権下で報道や集会、表現の自由など民主的な活動が封じ込められた経験を持つタイ国民にとって、9月19日は「タイ民主主義が暗黒時代を迎えるきっかけとなった日」として位置づけられている。
そうしたことから、今年7月頃から反政府、民主化運動は活発化していた。当初は「反政府運動や民主化要求であっても、学生や若者には意見を主張する権利がある」として柔軟な姿勢をみせていたプラユット政権だったが、8月3日、5日にバンコク市内民主記念塔で起きた集会・デモで参加者が「タイ王室の改革」を主張し始めたあたりから風向きが変わってきた。
タイでは国王をはじめとする王室は絶対的存在で、その批判・誹謗は最高刑禁固15年の「不敬罪」で罰せられる対象となるのだ。
一方、反政府・民主化要求の動きは大学から全国の高校へも浸透し、ネットで民主化運動、反政府運動の象徴とされる3本指を掲げたり白いリボンを身に付けたりする「連帯表明」が若者の間で一種のブームとなっている。
3本指は2012年に公開された米映画『ハンガー・ゲーム』の中で革命のサインとして使われているものを汎用したとされ、白いリボン着用(あるいは白い紙を掲げる)は反政府運動への連帯を示すシンボルで「表現の自由」にも通じるものとされている。
行政当局の指示を受けた各学校の管理者が学生や生徒に対して「即座にそうした政治的メッセージはやめなさい」と指導する様子が報じられている。
当局による「扇動」への懸念
19日の大規模集会について主催者側は、「これまで通りの平和的集会にする」とはしているが、主催者側の1人である人権派弁護士のアノン・ナムパー氏は13日、地元のメディアの取材に対して「サプライズを用意している」とも述べており、当日に一体どんな「サプライズ」が飛び出すのかメディアの関心も高まっている。
そんな中、懸念されているのが、当局側による「扇動」だ。大学生や高校生、若者らの参加者の間に密かに紛れ込んだ治安当局者あるいは王室支持者、さらには金銭で雇われた不心得者らによって、集会参加者が「扇動」され、暴徒化するのではないかとの憶測が出ているのだ。
集会が暴徒化した場合には、軍による「治安維持、治安回復目的」の実力行使も十分にあり得る。そのため、「クーデター計画が密かに進行中」だの、「すでに国王の許可を得た、つまりプラユット政権も認めた軍の行動が用意されている」だのといった未確認情報が飛び交っている状況だ。
「当局による扇動」は巷の噂だけではない。タイの野党「前進党」の下院議員でタマサート大学卒のランシマン議員は地元マスコミに対し、19日のタマサート大学での大規模集会について、「大学構内と外部はバリケードで区別しても外部に集まる群衆の数が多いと暴動につながる可能性はあるだろう」と不測の事態に発展する危険性を指摘している。
下院議員がそう指摘するほど、そうした群衆に紛れ込んだ「扇動者」が、不測の事態や暴動の「引き金役」を担うことはタイでは十分に予想される事態なのだ。
実際、もしも集会が暴徒化すれば、流血の事態は不可避となるだろう。治安当局の強力な実力行使の前に、タイの民主化運動、反政府運動は大きなダメージを負うことも予想される。
プラユット首相直々の警告
プラユット首相はこう警告している。「学生らにただ一つ訴える。王室問題にだけは触れるな。それはタイ国民の尊敬に関わることである」
学生らによる民主化運動の命運は、19日の集会で「王室改革要求」「王政批判」「国王批判」がどう扱われるかにかかっていると言っても過言ではないだろう。
デモは、19日に続いて翌20日にも行われることになっている。こちらは、バンコク市内各大学の学生や一部高校生らも参加し、政府庁舎に向けた約3キロの大規模デモ行進になる予定だ。参加者は7万人から10万人が見込まれていると主催者側は明らかにしている。
19日の大規模集会の結果次第では、この20日のデモ行進が相当に荒れることも考えられる。あるいは強制的中止に追い込まれる可能性もある。いずれにしてもバンコクの街中が大荒れになる可能性があり、街はいま一種の緊張状態に置かれている。
タイでは、バンコクに限らず全国の大学、高校などで学校当局が、19日には政治的活動を自粛するよう学生、生徒に呼びかけている。集会参加のためにバンコクに向かうことを思いとどまるように説得、あるいは指示している。タイ全土の学校がピリピリしたムードに包まれているのだ。
この9月19日は、タイの歴史の転換点となるのか。そして軍制の流れを汲む現政権、そして長年続くタイ王室制度にそれぞれ変化を与えることになるのか。19日のタマサート大学での大規模集会の行方を、タイ国民と国際社会が注視している。【9月17日 大塚 智彦氏 JBpress】
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****タイの反政府・王室改革運動 19日に大規模な集会、クーデターの可能性は…****
(中略)今後、首相の辞任や軍事クーデターの可能性もある」と明言する浅見教授に、東南アジア情勢に詳しいジャーナリストの末永恵氏が取材した。
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――今回の運動の主役は、米国などでも台頭する1995〜2009年生まれの「Z世代」です。彼らは、何を許せないと思っているのでしょう。
「一概には言えませんが、『いつも偉そうにしている大人たちが、保身のために、その愚行に口をつぐんでいることに腹を立てている』のだと思います。元陸軍司令官のプラユット首相はこれまで“正義感が強く即断実行できる指導者”というイメージを作り上げようとしてきましたが、その首相も国王には何も言うことができない。
これに若者たちは『目下の者にはいばりちらすのに、目上の人には従順にへつらう情けないダメおやじ』だと感じているのです。
さらにそのような首相に対しても、多くの大人は意見できない。ラーマ10世も名君だ、という“嘘”を平気で口にする偽善的な大人たち――両親や学校の先生ら――に対する憤りを多くの若者たちがSNSで表明するようになり“怒っているのは自分だけではない”と知った。それが大きなうねりになっています」
――「前国王は人格者だったのに」という声は、日本でも知られています。
「若者たちの憤りは、前国王のラーマ9世(在位約70年、2016年10月に88歳で崩御)の神格化にも向けられています。
ラーマ9世だって完璧な人間ではなく、クーデターや軍政を認めるなど、いろいろな過ちも犯したのに、大人たちはそれについて語ろうとしません。
8月10日にタマサート大学で行われた集会で、参加者たちは王政改革に関する「10項目の要求」を掲げました。その訴えは現国王の個人的な問題行動をやめさせるためだけのものではなく、前国王時代から続く、王室のあり方そのものを変えようとするものでした。彼らの要求は“現国王がその座を去れば取り下げる”という性質のものではないのです」
――コロナ禍でタイの今年のGDP(国内総生産)成長率は過去最悪レベルになるとされ、若者を中心とした失業者は1000万人にも達すると予測されています。インドネシアなどと同様、タイは国の富の半分を1%の超富裕層が握るアジアでも突出した格差社会です。コロナがその歪みを深く抉ったことで、こうした反政府運動や王制批判が拡大したと思われますか。裏を返せば、コロナがなければ、こうした動きは大きくならなかったということでしょうか。
「コロナがなくても、反政府、王政改革要求の動きは出てきたでしょう。すでに昨年末から反政府や王政改革要求の声はあって、2月末の段階でもかなり盛り上がっていましたから。
ロックダウンが行われた4〜6月の間も、反政府集会の開催数は減ったものの、若者たちはSNSで情報を交換していました。その間の国王の振る舞い(『コロナ禍で愛人と“おこもり”したタイ国王 国民は前代未聞の王室批判を展開』を参照)もあり、大人世代に対する憤りは若者の間に急速に広まっていました。
コロナによって、タイ経済は1997年の金融危機の時以上に大きく落ち込み始めました。“国王や現政権に国の舵取りを任せておいたら、自分たちの将来は大変なことになるぞ”という危機感が、若者たちの間に共有されるようになったと思います。
結果、ロックダウンが解除されると、ロックダウン前よりも集会参加者は増え、デモも頻繁に行われるようになりました。そういう意味では、コロナによって運動はさらに盛り上がることになったとも言えます」(後略)【9月18日 デイリー新潮】
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政権側も、大勢の学生を死傷させてしまうと、世論は一気にプラユット政権や軍、さらには国王から離れてしまうという懸念があるため、これまであまり強硬な対応はとってきていません。
“19日の抗議集会をめぐっては「プラユット首相から学生には辛抱強く対応するよう、指示があった」と警察長官が明らかにしています。治安体制も警察下の管理に置き「軍隊は出動しない」と言っていますね。”【同上】
ただ、体制の根幹にかかわる王室批判が大きなうねりになると・・・・ということで、戒厳令発布、首相辞任、挙国一致内閣樹立、さらにはクーデター説まで含めたいろんな憶測がなされているようです。
もちろん、可能性としては、政権も抗議行動もこれまでどおり続くという現状維持が一番大きいでしょうが。
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