孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  イランの通信“傍受”

2007-12-09 11:01:39 | 国際情勢

(三沢の姉沼通信所“象の檻” 世界最大級の施設 エシュロンに関わっているとも言われています。 “flickr”より By David Powell Jr)

イランの核兵器開発停止に関する米国家情報評価(NIE)報告については、様々にその影響が報道されているところです。
ブッシュ大統領は、米国家情報長官から8月に「重要情報の発見」について直接報告を受けたが、その際情報の中身については報告を受けていなかったそうで・・・・。
アメリカは“路線変更はない”という方針で火消しに躍起となり、かねてからイラン制裁に慎重だったロシア、中国はますます慎重になり、イスラエルはイランの“開発再開”を主張しており・・・、当のイランはアフマディネジャド大統領が“勝利宣言”。

「イランと米国は狭い一本道を互いに反対方向から猛スピードで車を走らせている。正面衝突を恐れてハンドルを切った方が負けだ」という関係の中で、イラン強硬派の間には今回、対米強硬姿勢を貫いたことで米側の「危機回避」を導いたとの勝利感が広がっているとか。【12月5日 毎日】
“チキンレース”が次第にエスカレートして、降りるに降りられず、ついには戦争に突入・・・というのはよくあるパターンですが、今回NIEはレースを降りる勇気を示したというところでしょうか。

今年10月にイラン側の核交渉の最高責任者の立場を退いたラリジャニ氏は4日の国営テレビで、今回の米報告公表の背景について「(米政権の穏健派勢力に)イラン核問題のこう着状態から抜け出すと同時に、自らの政権内での立場を強くしたいとの思いがあった」と述べ、対イラン強硬策を主張するネオコン(新保守主義者)に対する穏健派の巻き返しだの見方を示しているそうです。【同上】
イラン側はこの結果、最近保守派内部からもその強硬路線に批判が高まっていたアフマディネジャド大統領の求心力が回復することが予想されます。

今回の件で最初に目を引いたのは、情報のソースについて最初に「イラン軍事関係者が核兵器開発停止についての不満を誰かに漏らすのを米情報機関が傍受したもので、他の情報で補強されている。」【12月6日(木)02:58 産経】と報道された点でした。
「“傍受”ってどういうこと?世界情勢を変えた価値ある“ぼやき”だったかもね・・・」

その後の報道では、「核兵器開発にかかわるイラン軍の内部メモ」がきっかけで【12月6日(木)18:43 共同】、「NIE報告書本体(150ページ)には、傍受したイラン軍高官同士の通話内容など1000以上の生情報が付記されている。軍高官が電話で核兵器開発停止への不満を漏らしている様子も含まれているという。」【12月6日夕刊 毎日】とのこと。

いずれにせよ“通信傍受”が重要な役割を担っているようです。
かねてより、アメリカはエシュロン(Echelon)を使って、世界中のあらゆる通信(軍事無線、固定電話、携帯電話、ファックス、電子メール、コンピュータ・データ通信など)を傍受と言うか盗聴しているという話は聞いていました。

ただ、あまり実態がイメージできず、映画の中のことのような印象も持っていました。
今回の“傍受”がどういう形式で行われたのか、直接的な盗聴だったのかは全くわかりませんが、“壁に耳あり、障子に・・・”は現実のことのようです。
ただ、しょっちゅう情報不足による政策判断ミスがあるところをみると、エシュロンみたいな仕組みもそれほど実用的ではないのかも・・・という感じも一方でしますが。

しかし、盗聴されたイランは“勝利宣言”なんかしている場合かね?と思っていましたが、「イランのモッタキ外相は8日、核兵器開発を停止していたとする米国家情報評価(NIE)について、米国が報告書作成に当たって盗聴行為を働いたことに、在スイスの米大使館を通じて抗議した。」【12月9日 時事】とのこと。
そりゃそうでしょうね。

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フランス  なお残る植民地問題と移民問題

2007-12-08 18:34:59 | 世相

(アルジェリアの首都アルジェの一画、カスバ。 “flickr”より By markeveleigh)

「世の中には離れられないものがある。
男と女。山と平野。人間と神々。そしてインドシナとフランス。」
(1992年フランス映画「インドシナ」より)

フランス支配から独立、統一に至るまでのベトナムを舞台にしたカトリーヌ・ドヌーブ主演の映画の冒頭部分のモノローグです。
そのかつての植民地への思い入れの強さにひどく驚いた記憶があります。
日本も植民地支配の大きな傷を韓国など各地に残していますが、日本に比べて長期・広範囲に植民地支配を続けてきたヨーロッパ列強の場合、自国・相手国双方に残る爪あと・影響は日本以上に深刻なものがあります。

ヨーロッパ列強のアフリカ支配については、7月30日の当ブログ(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070730 )でも取り上げました。
そのときにも掲載しましたが、ヨーロッパ側の言い分は、「いつまでも(西欧に)植民地支配の責任を押し付けるばかりではなく、独裁や貧困のない自立したアフリカを築くべきだ」「植民地主義は過ちだったが、それが虐殺や内戦、貧困などのすべての理由とは言えない。」「汚職や暴力、貧困を排除したければ自分たちで決意すべきだ。」というサルコジ仏大統領の北アフリカ訪問時の発言に集約されます。

おりしも今日8日から2日間、リスボンで第2回欧州連合(EU)アフリカ首脳会議が開催されます。
イギリスのブラウン首相は人権弾圧を理由にジンバブエのムガベ大統領の出席に抗議して欠席。
リビアの指導者カダフィ大佐は「議題は植民地支配への賠償だ」と述べるなど、緊張が高まっているそうです。

ジンバブエのムカベ政権はイギリスからの独立後、白人農園主から政府が土地を市場価格で買い取り、それを黒人の貧しい人々に再分配する計画でした。
しかし、いろんな経緯もあって、結局白人農園の“没収”を強行しています。
その言い分は「イギリスの植民地となり、黒人が先祖代々耕してきた農地を白人に奪われたとき、黒人は何の補償も受けられなかった。だから今、白人が独占する農地を没収して黒人に返しても、ジンバブエ政府は何も補償する義務はない。白人が補償を求めるとしたら、その相手はイギリス政府になるはずだ」というものです。
(7月11日の当ブログhttp://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070711
いささか極端な言い分ではありますが、問題はそのような言動の背景にある不信感・怨嗟の思いです。

今日この話題を取り上げたきっかけは、リスボンでの会議の件ではなく、先日サルコジ大統領がアルジェリアを訪問した際の発言の件、あるいは発言しなかった件です。
********
サルコジ大統領は5日、3日間にわたる旧植民地のアルジェリア公式訪問を終えた。両国は核エネルギーの平和利用協力を含む総額73億ドル(約8000億円)以上の投資・協力協定を締結した。
サルコジ大統領は滞在中、一般的な植民地制度を「不正だ」と非難したが、アルジェリアが要請していた仏植民地時代(1830~1962年)に関する直接の謝罪はしなかった。【12月6日 産経】
********

今回、大統領は植民地時代やアルジェリア戦争(54~62年)に言及し、「双方にある「苦痛」は忘れてはならないが、未来を一緒に見つめよう」と述べたそうです。
また、「植民制度は不正」と言明しましたが、戦争による「双方のすべての犠牲者を誇りにしたい」と述べるにとどめています。

TVで大統領のスピーチの様子を観ましたが、「(植民地当時)入植したフランス人はアルジェリアを支配しようとしたのではない。アルジェリアのためになることをしよう思っていた・・・」(うろ覚えですので、多少違っている部分があると思います。)そんな趣旨の発言をしていました。

訪問前から、アルジェリアのアッバス退役軍人相が「サルコジ氏はユダヤ人のロビーで当選した」と発言して、両国には緊張した空気がありました。
背景にはフランスの植民地支配をめぐるしこりがあるます。
フランス側には植民地支配について、サルコジ大統領の発言にもあるような「肯定的な面があった」との意見があり、大統領はまた「未来志向」を理由に謝罪を避けています。
これに対し、アッバス氏は「(サルコジ大統領の)謝罪なしで両国関係は改善しない」と強調。
発言にはアルジェリア有力者から支持する声が相次いでいるそうです。

もっとも、核エネルギーに関する取引ちゃんと成立したようですので、アルジェリア側も政権中枢はまた別の思惑があるようです。
それにしてもサルコジ大統領はあちこちで原発を売りまくり、リビアの児童エイズ問題、チャドの“ダルーフル孤児”誘拐問題、さらにはコロンビアの左翼ゲリラ人質問題などの仲介に乗り出すなど、“死に体”のブッシュ大統領に変わって、プーチン大統領と並んで実に精力的な活動ぶりです。

話をアルジェリアに戻すと、05年アルジェリアを訪れたパリ市長のベルトラン・デゥラノエは次のような明確な謝罪を述べています。
「植民地支配は、歴史上の極めて遺憾な行為です。人々が平等でない限り文明社会は存在しません。」
「真実に対峙しなければなりません。私は、植民地支配がポジティブな行為であるとは思いません。」
「文明社会が、その名に偽りなしと言えるのは、人々が平等である場合に限るのです。」
「植民地支配という行為は不当なものであります。正当なものとは、人々が自由であるということです。」
「ドイツの名においてヴィリー・ブラントがひざまずき、許しを請うたとき、ブラントはドイツの威光をさらに高めたのです。過ちを認めることが自らを貶めることにはなりません。」

この発言が意識しているのは、当時(今もでしょうが・・・)フランスで広がっていた“植民地支配をポジティブにとらえよう”という考え方です。
パリ市長がアルジェを訪問する前の2月、フランス議会は、学校のカリキュラムに「海外においてフランスの存在が果たしたポジティブな役割の確認」を盛り込むように求める条文を含んだ法律を成立させました。
これは「アルジェリアなどからの帰還者や、旧植民地独立に反対して仏亡命を余儀なくされた地元住民の名誉回復を定めた法律」で、強制力はないものの「学校教育課程で、フランスが果たした有意義な役割を認めること」という条項があるそうです。

当然、国内でも「国家による歴史や教育への介入」との批判など論議が起きましたし、アルジェリア大統領も「植民地主義の犯罪性を否定するものだ。対仏関係を再考する可能性もありうる」激怒したそうです。
“自虐的な歴史観を是正しようという”話で、なんやらどこかの国の話とダブリます。
世の中の潮流というのは洋の東西を問わず共通するものがあるようです。

この“植民地支配のポジティブな面”を法案に押し込んだのが、当時の国民運動連合(UMP)党首のサルコジ氏でした。
当時懸案となっていた友好条約について、反感を強めたアルジェリア大統領が「フランスが132年間のアルジェリア統治における行動への公的な謝罪を発しない限り条約締結の可能性はない」としたのに対し、サルコジ氏は「友情は条約や演説によってではなくプロジェクトと行動によってのみ育まれる」言い放ったそうです。
確かに、サルコジ大統領は“謝罪”など“過去にとらわれることなく”、原発売り込みなどの“未来志向”の関係に成功しているようにも見えます。
饒舌なパリ市長に比べ、まさに“プロジェクトと行動”あるのみです。

植民地支配の苦しみ・傷跡は支配された側にあるだけでなく、支配した側にも大きな影響を残します。
フランスでは植民地時代からのアルジェリアからの移民、独立戦争でフランス側についたアルジェリア人の移住、戦後の経済成長における労働力不足をおぎなった経済移民など、大勢のアルジェリア移民を抱えて、アラブ・イスラム人口は全体の1割を占めるとも言われています。

植民地の痕跡が移民問題に姿を変えてフランス社会に大きな負担を課しています。
もともとフランスは、人種、民族、血統というもので国家・国民が自動的に形成されるのではなく、「自由・平等・博愛」の理念を共有する国民の共同体として国家があるという考え方で、これまで難民や亡命者を含め、多くの外国人をフランスは受け入れてきました。

しかし、アルジェリアなど北アフリカ諸国からの大量のアラブ・イスラム移民については、これを社会的に十分に消化できなかったようです。
特に9.11以降のテロリズムに対する不信感、経済不況・失業問題がイスラム移民に対する厳しい視線を招いています。

移民の問題は二世の段階で本格化します。
フランスで生まれ、フランス的価値観を受け入れた、フランスでしか生活したことのない二世にとって、自分たちに向けられる不信感・差別の目は耐えがたく、就職・住宅環境などの面での格差は理不尽なものに移ります。
結果、アウトローの世界に走る者も多くなります。
治安悪化の問題は、移民を排除したい側にとっては好都合な理由になりえます。
05年の暴動時、当時のサルコジ内相はこのような移民若者を“クズ”と罵り、それは一部世間の喝采を浴びたようです。

サルコジ大統領は自分自身がハンガリー移民2世であり、そのような環境でも現在の地位を得たことに対する強烈な自負があるのでしょう。
逆に、“境遇を理由にして努力が足りない”思われる者は“クズ”ということになるのでしょう。

サルコジ大統領は“自分が移民や少数派に偏見を持っていないことを示す”がごとく、新内閣にも何人かの"minorite visible"(黒人、アラブ人あるいは東洋人といった、欧州人種とは明らかに外見が異なる人たち)を投入しています。
その1人がラマ・ヤデ人権担当相(30歳)。
最初にチャドの孤児誘拐関連のニュースでこの人を見たとき、その若さと美しさにモデルさんか何かかと思いました。

(右端の黒人女性がラマ・ヤデ “flickr”より By aeu1961)
*****
セネガル生まれ、父は大統領の特別秘書、母は歴史教師。11歳の時に、父が外交官としてフランスに派遣され、家族揃ってフランス移住。その後父は単身帰国。母はイスラム信者だが、ラマと彼女の妹二人を、進学校として評判のいいカトリック系の高校に入れる。負けず嫌いのラマは、勉学に励みエリート校の政経学院(Sciences Po)に入学。ディプロム取得後は、2005年まで上院に属するテレビ局の幹部として活躍。2005年に国民運動連合UMPに入党し、翌年にはUMP内のフランス語圏問題委員に選ばれる。(「www.ilyfunet.com」より)
******

彼女は“移民2世などを対象に「ポジティブな差別」を主張するサルコジ氏に魅せられた”そうです。
サルコジ大統領の「ポジティブな差別」政策の内容がわかりません。
「機会は与える。機会を生かし努力した者は認める。しかし、努力しない者は・・・」というようなものでしょうか。

アフリカ諸国の現状に対する発言も、“クズ”発言の背後にある考え方にも、ある程度の理があることは感じます。
しかし、レイプ犯本人から「現在の苦境は俺のレイプのせいだけではない。お前の素行にもいろいろ問題があるんじゃないか?お前のためになることだっていろいろしてあげたじゃないか。もう昔のことは忘れて明日のことを考えよう。」と言われても被害者感情としては“了解”とはいかないでしょう。

また、みんながラマ・ヤデのように恵まれた環境にいるわけでも、みんなが彼女のように能力に恵まれているわけでも、そしてみんなが彼女のように努力家でもありません。
そこで脱落する人間を“クズ”呼ばわりされては、あまりに強者の論理に過ぎるように思えます。

植民地問題にしても、移民問題にしても、私には明確な正解などはわかりません。
好き勝手なことは言えても、恐らく誰も正解などわからないからこそ、多くの社会が苦しんでいるのでしょう。
ただ、好きか嫌いか・・・というレベルで言えば、サルコジのような考え方にはシンパシーを感じません。

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アメリカ・ロシア  核兵器廃絶への細い糸

2007-12-07 13:36:40 | 世相

(2006.8.6 広島 “flickr”より By Nab'in)

“恒例の”というか何というか、日本提出の「核兵器廃絶決議案」が国連総会において14年連続で採択されたそうです。
49カ国の共同提案で、昨年を2カ国上回る過去最多の170カ国の賛成でした。
反対国はアメリカ、インド、北朝鮮。
昨年棄権したエジプトが賛成に転じ、反対だったパキスタンも棄権に回ったということで、情勢を反映した若干の変更はあるようです。

もちろん、採択されたことで何が変わるわけでもない・・・ということは皆が承知のことです。
核兵器廃絶なんて夢想の世界のこと・・・と言えばそうでしょう。
そんななかで、最近少し気を引かれた記事がありました。

****核兵器:米露、国民の6割以上が廃絶を支持…米大学調査****
米国とロシアの国民の6割以上が核兵器の廃絶を支持していることが、米メリーランド大学などが両国で行った世論調査で明らかになった。
北朝鮮やイランなどの核開発で核拡散防止条約(NPT)体制の弱体化が指摘されて久しいが、米露の2大核保有国でも一般国民レベルでは大多数が核廃絶を求めていることが確認された。
9日発表の調査結果によると、検証体制が確立された場合、核兵器全廃への合意を支持するかとの質問に、米国で73%、ロシアで63%が支持すると回答した。また、自国政府の核廃絶努力の強化を望む人は、それぞれ79%と66%だった。
核兵器の臨戦態勢解除についても、検証体制の存在を条件に、米国の64%、ロシアの59%が支持を表明した。
調査は9月に米国で1247人、ロシアで1601人の成人を対象に行われた。【11月10日 毎日】
******

この数字の評価についてはいろいろあるでしょうが、「こんなに高いとは思わなかった」というのが率直な個人的感想です。
あれほどの量の核兵器を抱え込み、現実の外交政策では“力”の行使をちらつかせるの常套手段の両国で・・・。
アメリカでは銃器の個人保有すら正当な権利と考える人が多いことを考えると、意外な高率と思えました。
「核兵器廃絶?夢みたいな馬鹿げたこと言うじゃないよ!」というのが一般的な反応かと思っていました。

当然ながらこの数字が直接に政策に反映されるものではありません。
少なくとも今まで同様に何もしなければ。
しかしながら、“夢想の世界のたわごと”ともとられがちな“核兵器廃絶”と現実世界に、全くの接点がない訳でもないという、両者をつなぐ一筋の細い糸の可能性を見たような気もします。

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温暖化対策  世界の流れ、日本の対策

2007-12-06 17:23:04 | 環境

(カナディアン・ロッキーの氷河 写真右下の“1982”と言う標示は、当時そこまで氷河があったことを示すもののようです。 “flickr”より By le sara )

バリ島で国連気候変動枠組条約第13回締約国会議(COP13)が開催されていることもあって、毎日温暖化関連のニュースが入ります。

(1)世界の流れ
異様なくらいに熱心なヨーロッパ各国ですが、ドイツ政府は5日、2020年までに同国の温室効果ガス排出を90年比で最大40%削減する目標を定め、その方策として計14の法案や通達をまとめたエネルギー・環境包括案を閣議決定、環境先進国として世界を主導していく方針だそうです。
包括案のなかには、風力・太陽光などによる発電割合を25~30%に引き上げること、09年以降に購入された新車は、排気量でなく二酸化炭素の排出量で課税することなどの施策が含まれています。【12月6日 朝日】

先月15日にはイギリス政府が温室効果ガス排出60%削減を明記した気候変動関連法案を策定しましたが、ブラウン首相は2050年までに1990年比で最大80%削減できそうだとの見通しを示しています。
首相は「イギリスは低二酸化炭素社会のリーダーを目指す」と宣言しています。【11月21日 産経】

これまで“後ろ向き”とされていたアメリカでも、州レベルでの取組みが進んでいますが、先日TVを見ていると、有力企業のグループのほうからCO2のキャップ・アンド・トレード実施を政府に要望する動きになっているとか。
いろいろ思惑はあるのでしょうが、先行するヨーロッパの同システムと連動させる考えのようです。

アメリカ連邦政府も、上院の環境公共事業委員会で5日、温室効果ガスの排出削減を義務付ける超党派の法案を可決しました。
今後、上下院本会議での可決、大統領署名は必要ですが、委員会レベルで削減義務を盛り込んだ法案を可決したのは初めてで、流れが変わりつつあることを示しています。【12月6日 読売】

なお、ヒラリー上院議員は、温室効果ガスの排出を2050年までに1990年レベルから80%削減することを柱とする包括的な環境・エネルギー政策を発表し、京都議定書後の国際的な温暖化対策の枠組みづくりでも米国がリーダーシップをとり、国際的な指導力を回復させるとしているそうです。 【11月6日 朝日】

(2)日本の評価
そんななかで“日本は・・・”と言うと、すこぶる評判が悪いようです。
****バリ会議:日本がワースト賞総なめ 環境NGOの批判集中*****
COP13で、京都議定書に定めのない2013年以降について、温室効果ガス削減目標を示さない日本に非政府組織(NGO)の批判が集中、NGOが4日選んだ「本日の化石賞」の1位から3位までを日本が総なめにした。
地球温暖化防止の交渉を妨げている国に批判を込めて贈る同賞は、世界の300以上のNGOが参加する気候行動ネットワーク(CAN)が投票で毎日選ぶ。
初日の討議で日本は「ポスト京都」の枠組みの要件を提案したが、先進国の削減目標を示さなかったことが1位の理由となった。
2位は、10周年を迎える京都議定書を「汚した」との理由。
3位は、発展途上国への技術移転に真剣さが見られないなどとして日本、米国、カナダの3カ国に贈られた。【12月5日 毎日】
*******

こんなものあります。
*****バリ会議、「日本とカナダが進展の障害」と環境団体が警告****
環境保護団体などは5日、先進国を対象とした拘束力のある温室効果ガス削減の数値目標から日本とカナダが離脱する恐れがあると警告した。
米国環境トラストのアンダーソン氏によると、日本は強制力のある統一した温室効果ガス削減目標を課すよりもむしろ、各国が自主的な削減目標を設定し、国際社会が進行度合いを検討するシステムにする案を復活させたという。同氏は「最も困るのは、そのほうが米国がより積極的になると日本が考えていることだ。現大統領の下ではそうかもしれないが、最終合意の交渉時には大統領は変わっているのに」と話している。【12月5日 AFP】
*******

(3)日本の対策
もとより自然界の、しかも長期にわたる複雑な現象の因果関係を科学的に明快に説明することは今の科学レベルでは非常に困難なことです。
温室効果ガスにしても、「本当だろうか?」という疑念は完全には払拭しきれませんし、異論を唱える研究者も多いかと思います。
しかし、100%明らかになるまでは行動しない・・・というのでは恐らく手遅れになる危険が非常に大きいと思われます。

11月に承認された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第四次評価報告書では、「20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇の殆どは、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高い。」とされています。
ここで言う“可能性がかなり高い(very likely)”とは確率90-99%を意味するそうです。
また、同報告書は「温暖化を最小限にとどめるためには世界の二酸化炭素(CO2)排出量を2050年には半減させる必要があり、この20~30年の取り組みが極めて重要」との認識をしめしています。

現段階で得られる最高レベルの専門的知識を集めての世界的コンセンサスですから、日本政府が明確な異論を唱えるのでなければ、この方向で動くことが求められます。
10月に来日したIPCCパチャウリ議長が会議特別講演で「何かを変えたいならまず自ら行動を」と呼びかけたのに対し、福田首相は開会式で「温暖化は大量生産、大量消費を繰り返すこれまでの経済活動が行き詰まりつつあることを示す。大胆にかじを切らねばならない時だ」と述べたとか。【10月19日 毎日】

その認識にしては日本の現状はあまりに鷹揚な感じがします。
日本の温暖化対策については、「日経エコロミー」で橋本賢氏が、特に産業界側からの対応について詳しく解説されています。(http://eco.nikkei.co.jp/column/article.aspx?id=20070731cb000cb 
日本という国は温暖化対策にかぎらず、長期的ビジョンに欠けるきらいがあるようにも思えますが、橋本氏のサイトによると、日本政府も何もしていない訳でもないそうです。
以下、政府対策について抜粋します。

*******
05年に京都議定書が発効し、「6%削減」の目標を国際的にコミットしたのを受けて、政府はマスタープランにあたる京都議定書目標達成計画(主な内容は下記)を策定しました。

・日本経団連自主行動計画(産業界による自主目標の設定と取り組み)
・建築物の省エネ性能向上(大型ビルの建築・修繕時における取り組みを政府に届出)
・BEMS・HEMS普及(ビル・住宅のエネルギーを適切に制御するシステムの導入)
・電力会社による取り組み(原子力発電の稼動時間を増やす、石炭→天然ガスへの燃料転換など)
・新エネルギーの導入推進(バイオマス、風力、太陽光発電など)
・コージェネレーション、燃料電池の導入推進(熱電併給による総合効率向上)
・低燃費の自動車や省エネ家電の普及

しかし、現状は6%削減の目標に対し、2005年の排出量は逆に1990年比で7.8%増。
経済産業省と環境省が今年7月に「見直しに関する中間報告」を発表、「対策の進捗は極めて厳しい状況にある」と評価しています。
中間報告では「特に排出量の伸びが著しい業務部門・家庭部門の対策について、抜本的に強化することが必要」としています。
主な具体的施策は次のようなものです。
 
・自主行動計画の強化(業務部門の適用拡大、目標強化)
・国民運動(1人1日1kgCO2削減)
・機器対策(省エネ基準設定対象機器の拡大、目標強化)
・大企業の技術・資金を利用した中小企業の排出削減(削減効果を大企業が自主行動計画の目標達成に利用)
 ちなみに温暖化ガスの排出権取引制度や環境税については、引き続き「今後の検討課題」として従来どおりの位置づけに据え置かれています。【「日経エコロミー」 橋本賢氏】
***********

日本では自主行動が原則となっています。
これは公平な目標値・制限値を上からかぶせることが困難なことが背景にあります。
そんな事情で「日本版キャップ・アンド・トレード」もEUのように義務型の制度ではなく、省エネ設備への補助金をインセンティブに、企業の自主参加をベースとしたものだそうです。
(橋本賢氏 http://eco.nikkei.co.jp/column/article.aspx?id=20071029cb000cb )

しかし、“6%削減の目標に対し、逆に1990年比で7.8%増”という現状は“自主行動”の限界を示しているようにも思えます。
CO2の無対策の放出は、かつての公害問題における“有機水銀等の有害物質垂れ流し”と同様に、もはや社会的に容認されない行為であるという厳しい認識にたった施策が必要とされるように思えます。

同時に、消費者が“生産者がどれだけ温室効果ガス削減努力をしているのか”わかる仕組みを導入することで、削減努力の程度が製品販売に影響するかたちで、企業に“自主的な”削減努力に向かうようなインセティブを持たせられれば、事情は随分と変化するように思えます。

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香港・中国  今回は“民主派”が選挙で勝利・・・

2007-12-05 14:04:32 | 世相

(香港で2日行われた選挙で当選した“民主派”の陳方安生(アンソン・チャン)氏 “flickr”より By Wai-hung )

ロシア、ベネズエラと同日の2日に投票が行われたもうひとつの選挙が香港の立法会(議会)議員補欠選挙でした。
事実上有力女性候補二人の争いになりましたが、結果は民主派候補の陳方安生(アンソン・チャン)氏(67)が54.8%の票を獲得し、親中派の対立候補、葉劉淑儀(レジーナ・イップ)氏(57)の42.9%を上回り当選しました。

今回選挙は欠員を埋める補欠選挙にすぎないものの、先月行われた区議会選挙でいわゆる民主派が惨敗し、親中派が大きく躍進した結果を受けて、「一国二制度」というかたちで10年前の中国返還時に約束された民主主義がどのように評価され、今後どう推移するのかを占う意味で注目されていました。

民主派・親中派の争点のひとつが、行政長官の直接選挙による選出です。
ウィキペディアによると次のとおり。
【香港は「高度な自治権」を享受しているが、「完全な自治権」を認められているわけではない。首長である行政長官は職域組織や業界団体の代表による間接選挙で選出されることになっており、その任命は中央政府(国務院)が行う。現在、行政長官ならびに立法会議員の「直接選挙(普通選挙)による選出を何時からにするか」が議論の焦点になっており、民主派は2012年からを、親中派は2024年からを主張している。】

陳方氏は、中国返還を挟んで8年間香港政府ナンバー2を務め、内外メディアから“香港の良心”と呼ばれた知名度もカリスマ性もある方のようです。
今回選挙で直接選挙について「(次回行政長官選のある)12年での実現」を掲げ、「中国政府の同意が前提」とした葉劉氏を「偽りの民主」と批判していました。

民主派の陳方氏勝利を受けて、「区議会選挙で惨敗した民主派が一矢を報いた」【12月3日 産経】と 評価する向きもありますが、「有権者の反応は鈍く、得票率は民主派が直接選挙で伝統的に維持してきた6割を下回る54%にとどまった。候補者のカリスマ性や民主化の理念に頼る限界が示され、民主派は来年の立法会選に課題を残した。」【12月3日 朝日】と、カリスマ性のある“香港の良心”を擁しながらも“辛勝”の評価もあります。

香港というと、89年の天安門事件のとき香港で行われた100万人の抗議デモの印象が強く残っています。
返還6周年を迎えた03年にも「国家安全法」の制定をめぐって、「一国二制度」を骨抜きにするものとして、人口の約7%にあたる50万人規模の抗議デモが行われました。

香港は返還と同時にアジア通貨危機による不況にみまわれ、更に03年にはSARSによって基幹産業の観光業が大打撃を蒙りました。
その香港経済を支えたのが中国本土との一体化でした。

しかし、返還当時中国にとって香港は世界経済への窓口として特殊価値を持つ存在でしたが、その後の中国開放経済の進展、WTO加盟という流れの中では、次第にその価値も薄れてきているとも言われています。

強まる香港の本土経済への依存、中国本土からみた香港の価値の低下・・・そうした推移をみると、政治的にも親中派が増加するのはある意味“必然”とも思えますし、50年間は変えないという「一国二制度」も、香港内部から変質していくことも考えられます。

最近、香港・中国という同じ組み合わせで注目を集めた事件が、アメリカ艦船の香港寄港を中国が拒否した件です。
97年の香港返還後、米艦艇の香港寄港は年平均約50回だそうですが、中国政府は今年11月に入って、荒天回避と給油を求めたガーディアンなど掃海艦2隻、休暇目的の空母キティホーク戦闘群の香港寄港を拒否しました。
更に、30日ミサイル・フリゲート艦が、新たに寄港申請を拒否されて11月以降3件連続となり、米中間の確執が注目を集めました。

中国側の対応には、アメリカによるダライ・ラマ14世に対する栄誉授与や台湾への武器売却に対する不快感があるとも言われています。

空母キティホーク戦闘群については、21日の寄港予定日の後、22日なって中国外務省は寄港許可を発表しました。
しかし、寄港をあきらめ北上していたキティホークはそのまま進路を変更しませんでした。
中国外務省は、寄港許可後に米艦隊が進路変更しなかったのは「米側の問題」としています。

一方アメリカは、そのキティホークが、横須賀基地に帰投の途中、23日頃台湾海峡を通過したことを明らかにしました。
米空母の台湾海峡通過は、確認された範囲では、中国の大規模な軍事威嚇で中台関係が緊迫した96年3月の「中台危機」以来だそうです。【12月3日 産経】
米海軍当局者は「天候による判断だと思う」として、寄港拒否への報復との見方を公式には否定しているとのこと。

中国側の態度がどの程度の不快感に基づくものなのかは分かりませんが、お互い表向きは何事もなかったような顔をしながら、テーブルの下では足を蹴飛ばしあうような展開は、相手に対して優位なポジションを取ろうとする“ゲーム”の一端でしょうか。

結局、この寄港問題は、「米中の当局者は今後この問題をお互いに持ち出さないことで合意」したそうです。【12月5日 共同】
東アジアの住人としては、物騒なゲームはどこか他所でやってもらいたいものです。

バリ島で行われているCOP13で中国は、京都議定書に入っていない米国に対しても事実上名指しで温室効果ガス削減の数値目標を設定するよう提案しているそうです。
アメリカは京都議定書から離脱した際に理由の一つとして、中国など排出量の多い途上国に削減義務がないことを挙げていますので、お互いに削減義務を突きつけ合った格好になっています。【12月5日 朝日】
これは、お互いがせめぎあって、事態の進展につながれば結構なことかと思います。

中国のプレゼンスの増大に伴って、このような米中対立はいろんな場面で今後も生じると予測されますが、お互い大人の対応で、結果的に生産的な方向に向かってくれるといいのですが。
もちろん、日本がどういうポジションをとるのかというのは、日本にとって重要な問題になってきます。

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ロシア・ベネズエラ  選挙を終えて

2007-12-04 14:43:41 | 国際情勢

(ベネズエラの憲法改正を問う国民投票では、反政府的なTV局の放送許可を取り消すなどのチャベス大統領の言論の自由抑圧に対し、学生達が反対運動の中心になったことが特徴的でした。“flickr”より By Mauricio Salazar)

一昨日の2日、日曜日はロシア下院選選挙投票日でしたが、それ以外にもベネズエラではチャベス大統領の提案する憲法改正案の国民投票が行われました。
また、香港の立法会議員補欠選挙にも注目があつまりました。

ロシアの下院選挙は各紙で報じられているように、予想どおりのプーチン圧勝に終わりました。
プーチン大統領を支える「統一ロシア」以外で、議席獲得に必要な7%の得票率を超えたのは、プーチン政権より更に反政府野党に厳しく、プーチンの政策には異を唱えない極右政党の「自民党」、プーチン政権が制御可能な“官製野党”として設立を後押しした左派系の「公正なロシア」、あとは古き良きソ連を懐かしむ「共産党」だけという結果でした。

反政府系の野党は全滅し、「統一ロシア」「自民党」「公正なロシア」のプーチン支持3党で議席の9割近くを占めます。
「統一ロシア」は単独でも3分の2を超えて、憲法改正が可能。
残る共産党もプーチン批判は避けています。
完璧な翼賛体制が完成しました。

プーチン大統領の露骨な「大国ロシア」志向、反対意見を封じ込む強権的な色合い、個人崇拝にも近いような最近の傾向には生理的に馴染めないものがありますが、また、今回選挙でも多数の不正・圧力などが報じられてはいますが、基本的にはソ連崩壊後の混乱したロシアを再建したプーチンを国民が強く支持しているということでしょう。
大統領支持率は常に80%前後だそうですから・・・。

選挙結果は予想されたところでしたが、むしろ以外だったのは欧米の今回選挙への反発の強さです。
******
米ホワイトハウスのゴードン・ジョンドロー国家安全保障会議(NSC)報道官は2日、ロシア下院選について声明を出し、「選挙不正の疑いが伝えられている」とし、ロシア当局に調査するよう求めた。
また、与党「統一ロシア」に対する政府の肩入れなどを指摘した上で、「米国は懸念を示してきた」と、選挙の正当性に疑念を投げかけた。
米政府がこれほど厳しくプーチン政権を批判するのは異例で、今後、米露関係に影響を及ぼす可能性もある。
ジョンドロー報道官はさらに、全欧安保協力機構(OSCE)が選挙監視団の派遣を断念せざるを得なかったとして、遺憾の意を表明した。【12月3日 読売】
*****
また、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は3日、投票までの期間に言論および集会の自由を認める権利が侵害されていたと非難しており、投票結果については選挙監視団の報告を聞いてから見解を示すとしています。

一国の選挙に疑問を呈するということは相当なことですが、ロシアと欧米はそのような厳しい政治状況(ミサイル防衛システム配備問題、ロシアの欧州通常戦力(CFE)条約履行停止、その他、対イラン制裁やコソボ問題等での対立、天然ガスの安定供給問題等々)のなかで対峙しているということなのでしょう。
厳しい緊張関係のなかでぎりぎりの線を探すというのは、“和を以って尊しとする”日本人には難しいかも。

選挙前「統一ロシア」幹部だか政府高官だかが、TVインタビューで「欧米とロシアの間には対立があるようだが?」との問いかけに「対立ではなく競争と考えている。もちろん誰しも競争相手が強くなるのは望まないことだが・・・」といった趣旨の余裕の発言をしていたのが印象的でした。

一方で、“意外に”冷静だったのがチャベス大統領。
ベネズエラの憲法改正に関する国民投票は賛成49%、反対51%という僅差で否決されました。
チャベス大統領の終身大統領を可能とする、また、彼が掲げる「21世紀の社会主義」を目指した憲法改正については、11月26日にも取り上げました。(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071126

予想も困難な選挙でしたが、結果もまさに予想どおりのきわどいものでした。
貧困層の強い支持を背景にしたチャベス大統領でしたが、さすがに今回の改正内容には賛同が得られなかったようです。

チャベス大統領は選挙直前には、“アメリカCIAが妨害工作を画策し、国民投票を妨害し、自分の失脚を狙っている”と主張し、「もし国民投票が暴力を始める口実に使われるとしたら、北米への石油輸出を全面停止する」「国防省に30日夜から軍隊が油田と製油所を警備するよう指示した」と述べていました。【12月1日 AFP】
また、“社会主義化”に対して支持者にも拒否反応があることに対し、「自分を支持しながら反対票を投じれば裏切り者だ」とけん制していました。【12月1日 毎日】

彼のエキセントリックな性格からして、不都合な選挙結果が出そうになると“ただではすまない”のではないか・・・と危惧していましたが、今回のきわどい結果について意外なくらい冷静な対応をしています。いまのところ。
(アメリカの大統領選挙だったら揉めそうな数字ですが。)
「敗北は僅差で悲しくはない」「支持票に励まされた」と繰り返し強調。
「ジレンマの中で何時間か自分自身に問いかけた。今はもうジレンマはなく穏やかな気持ちだ。ベネズエラ国民もそうあってほしいと願う」とのこと。

「今のところは(勝利)できなかった」とチャベス大統領は語っています。
******
大統領が会見で繰り返した「今のところは」という言葉は、軍中佐だったチャベス氏が、92年の軍事クーデターに失敗した直後に語ったものと同じ。「次は勝利する」という意味を含むこのフレーズはチャベス氏を一躍有名にし、その予告通り、98年12月の大統領選挙で初当選を飾った。今回も意図的に同じ言葉を繰り返すことで、国民に「再起」を印象づけるのが狙いと言えそうだ。【12月3日 毎日】
******

11月26日のブログでも触れたように、チャベス大統領は04年に信任国民投票を実施して政治危機を乗り切ったことがありますが、このとき大統領信任に賛成したか、反対したかという個人情報が国家的にデータ登録されており、かつ、反対者に対しては、その家族を軍隊から“能力不足”という理由で追い出す等の圧力がかけられているとされています。

そんなチャベス大統領がこのままおとなしく結果を認めるのだろうか?という不安がどうしても残ります。
長くなってきたので、香港の話はまた別の機会に。

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アメリカ・オランダ  派遣の選択

2007-12-03 14:23:09 | 国際情勢

(イラクに向かう米海軍の強襲揚陸艦キアサージ 殆どミニ空母ですね “flickr”より By VetFriends.com )

先月15日にバングラデシュを直撃して4000人を超す犠牲者をもたらしたサイクロン「Sidr」については、一昨日に取り上げたばかり(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071201)ですが、ひとつ書き忘れたことがあったので追加します。

******
サイクロンの直撃を受けたバングラデシュ南部の被災地で、米海軍の強襲揚陸艦キアサージで到着した部隊が救援活動を行っている。
イスラム教徒が大半を占めるバングラデシュはイラクにおける米国主導の戦争に強く反対しているが、Jim Hoeft海軍大尉は「信じている宗教に関係なく、苦しみは世界共通だ。われわれはここまで4500キロを全速力で移動してきた」と語った。
米軍はキアサージの浄水装置で数千リットルの飲料水を製造し、被災地に空輸している。【12月1日 AFP】
******

強襲揚陸艦キアサージはヘリコプター約20機を搭載しており、負傷者の医療輸送も行っています。
アメリカはさらに米海軍艦船2隻を投入していますが、両船はキアサージと同様ヘリコプターを搭載、医療チームが乗船しており外科手術設備があります。【11月24日 AFP】

一方、バングラデシュのMatin暫定通信相は27日、サイクロン「Sidr」の被災者救援活動を行っている米海軍とパキスタン軍医療部隊は「彼らはわれわれのために活動しており、必要以上に滞在することはない」と語ったそうです。
イラク侵攻で反米感情も強いイスラム教徒を抱えるバングラデシュ当局は、米軍の関与をたびたび控えめに扱っており、米軍の救援活動の広報に消極的な姿勢がうかがえると報じられています。【11月28日 AFP】

実際の活動にあたっている米軍人の気持ちは多分冒頭の発言にかなり近いものだと思いますが、当然ながらアメリカとしては、単に“善意”ではなく、イラク、アフガン、イランなどの対イスラム国の関係で大きな問題をいくつも抱える現状で、イスラム国バングラデシュ援助に関する何らかの思惑があっての行動でしょう。

ただ、そうであるにせよ、その迅速な行動力は“さすが”とも言うべきものがあり、また、この活動によって助かる人々にとっては、思惑云々はどうでもよい話でもあります。

全く別のニュース、アフガニスタンに関するもの。
*******
オランダ政府は11月30日、アフガニスタン南部ウルズガン州に駐留するオランダ軍部隊について、来年8月までの駐留期限を2010年まで2年間延長することを閣議決定した。
部隊の規模は現在の約1650人から約1400人に縮小されるが、国際治安支援部隊(ISAF)の主力の一角が撤退する事態は回避される見通しとなった。
オランダ軍は、米英軍やカナダ軍とともに旧支配勢力タリバンとの戦闘が激化しているアフガン南部の治安維持を担ってきたが、昨年7月以降の部隊の死者が12人に達し、国内で撤退を求める声が高まっていた。【12月1日 読売】
*******

オランダ政府は、駐留部隊の大幅な規模縮小も視野に、他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国に増援を要請してきたが、各国とも激戦地帯への派兵には消極的で、後任部隊が見つからなかったとも報じられています。
当面の減員分はフランスやチェコが補充するとか。

アフガニスタンでのISAFの戦闘が是認されるべきものかどうかという議論については、今回はしません。
この記事をとりあげたのは、オランダも本音では早く撤退したい、でも後任が見つからずそれが出来ないという苦悩が印象に残ったからです。
自国のみ撤退を決められない理由が、他のNATO諸国への配慮なのか、対米関係を考えてのことなのか、それとも自国が抜けた後のアフガンの戦局を憂慮してのことなのか・・・それは分かりません。
オランダに限らず、犠牲を伴う派兵はできれば避けたい、でも何らかの理由で実施している・・・という国が殆どでしょう。

アフガニスタンがどうかは別としても、内戦・紛争で住民に多大の被害が予想され、あるいは実際に発生しており、なんとしてもその事態を止めないといけない・・・そういう場面もあろうかと思います。
日本は平和憲法のもと、直接的な戦闘行為を伴う自衛隊派遣は行いません。
個人的には、“平和憲法”、あるいはそれに象徴される日本の姿勢に長年シンパシーを感じてきました。
いまでも、その精神、その意図するところは十分に尊重すべきものと考えています。

しかし、最近どうも「いまのままでいいのかな・・・」と思う機会もあります。
空虚な“国際貢献”とかを論じるつもりもありませんし、ましてや対米関係などを云々するつもりもありません。
ただ、どうしても直接的な“力の行使”によってしか住民の生命が守れない場合もあり、そのとき「日本は派遣できません。」「民生分野で支援します。」ですむのか?
同時代を生きる人間として、それでいいのか?
自国の安寧だけを考えればそれでいいのか?
そのような思いがします。

「自国だけよければいいなんて言っていない」との反論もあるでしょうが、結果として多くの命が失われる事態を座視するのであれば同じです。
「派遣できる国が派遣して、日本は他の分野で・・・」という意見もあるかもしれませんが、どこの国も派遣したくてしている訳でもないでしょう。
もし、他の国も拒否したら日本はどうするのでしょうか?
そもそも自国が禁じている行為を他国に期待すること自体が奇妙とも言えます。

もとより、“力の行使”だけが紛争解決の手段であるとは思いません。
NGOなどが行っている軍事とは切り離した活動が有効な場面、むしろ軍事色が出ないほうが活動しやすい場面も多々あると思います。
しかし、場面によっては力で住民の命を保護するしかない場面もあるかと思います。
そういったときの対応を問題にしています。

随分と政治・社会の現実から遊離した話をしているとは思います。
ただ、外の世界で起きている苦しみにもう少し真剣な目を向けてしかるべきでは・・・そんな気がしています。

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インドネシア  バイオ燃料用のアブラヤシ栽培の拡大とその問題

2007-12-02 12:05:26 | 環境

(ボルネオ島のアブラヤシプランテーション アブラヤシの苗木 “flickr”より By Films4Conservation)

バイオエタノールなど最近流行のバイオ燃料ですが、原料生産に必要な農業機械、肥料、農薬、製品製造段階で必要となる投入資源などが化石燃料に依存する場合、バイオ燃料自体はCO2循環を増加させないとしても、トータルとしてみた場合、はたしてカーボンニュートラルと言えるのか?という問題があります。
また、生産に要するエネルギーに比べて、製品から得られるエネルギーがどれだけ大きいかというエネルギー収支の問題もあります。収支がマイナスならわざわざバイオ燃料を生産する必要もないということにもなります。

バイオ燃料の意義に関する基本的問題ですが、素人にはなかなか判断の難しい問題です。
また、これらは製造技術の改良で今後向上させることが可能な部分でもあります。

もう少し素人にも分かりやすい問題としては、燃料原料と食糧の競合による、食糧価格の高騰、供給不足の問題、特に貧困層への影響がります。
先日TVでアメリカの小麦生産の現状を紹介していました。
石油輸入依存から脱却を目指す意図もあってか、政府からの多額の補助金がバイオエタノール生産に投入されており、これを狙ってファンドの資金が大量に流入している、その結果、小麦生産量の4分の1がバイオエタノール生産にまわっており、食糧としての小麦はクラウディングアウトされ、価格は高騰する。
更に、裏作の大豆作付けが減らされ、日本向けの遺伝子組み換えしていない大豆供給も減少している・・・うろ覚えですが、そんな内容でした。

日本向けの大豆が減り、味噌・醤油・豆腐などが高くなるぐらいならまだしも、アフリカなどの経済的弱者の食糧に影響すると問題は深刻です。
主食の場合は価格が上がったからといって、すぐに消費を減らす、他に切り替えると言う対応が困難なだけに、影響は人々の暮らしを困難にします。

ただ、このような論点も扱いには注意が必要なようで、以前メキシコで問題になったトウモロコシがアメリカのバイオエタノール生産に使われる結果トルティーヤ価格が上昇したという騒動について、その因果関係を正確に分析していない誤解であるとの指摘(ウィキペディア)もあります。

バイオ燃料のもうひとつの問題は、原料生産に伴う環境破壊です。
自動車燃料供給といった目的のためには大量生産が必要となり、原料生産も大規模に行う必要があります。
その過程で起こる環境破壊も無視できない問題となります。

そんな論点を踏まえながら最近のニュースを見ると、インドネシアでバイオ燃料用のアブラヤシ生産が急増しているというものがありました。

今年8月の段階で、“インドネシアで、食用ヤシ油の価格高騰が庶民の台所を直撃している”というニュースがありました。
アブラヤシの実を原料とするヤシ油はインドネシアの主要産品のひとつで、インドネシアの食卓に欠かせない食用油ですが、5月ごろに比べ8月には2倍近くに値上がりしたそうです。
バイオ燃料向けのヤシ油輸出(ヨーロッパのバイオディーゼル原料として需要が増加)が増えていることが主な理由とみられ、政府は、国内供給分を増やそうと輸出税率を上げたほか、助成金による価格抑制を検討しているとのこと。【8月24日 毎日】
 
アブラヤシについてはインドネシアの熱帯雨林を破壊し、泥炭層からのCO2放出を促進しているとの指摘もあります。
「アジア最大の熱帯雨林を誇るインドネシアでは、軽油の代替燃料としてバイオディーゼルの需要が伸びる中、原料(パーム油)となるアブラヤシの栽培が急拡大している。だが、大規模農場開発は熱帯雨林の破壊だけでなく、地中に蓄えられた温室効果ガスの大量放出を招き、逆に環境に大きな負荷を与えている。」【12月1日 毎日】

「アブラヤシ栽培のため、開発業者は熱帯林からラワンなど有用な木を伐採し、泥炭層の水を排出するため水路を掘る。水に浸っていた泥炭層の成分が酸素に触れて分解されることで、メタンや二酸化炭素などの温室効果ガスが放出される仕組みだ。アブラヤシ栽培の障害となる草木を焼き払う際、泥炭層も燃え、さらに二酸化炭素が出る。」ということです。

インドネシアでは森林伐採による泥炭層破壊で年間約20億トンの温室効果ガスが放出される。
この結果、インドネシアのCO2排出量は化石燃料使用量だけなら世界20位前後だが、泥炭層からの放出分も含めれば米国と中国に次いで3位となるとも指摘されています。

CO2を排出しない将来的なエネルギーとしては水素エネルギーがありますが、実用化はまだしばらく時間がかかるようです。
「米国は向こう20年で水素自動車の普及を図る方針を示しているが、水素がガソリンに取って代わるには、経済性や実用性の問題を克服しなければならないと専門家らは指摘する。」【11月26日 AFP】

最初にもあげたように素人には技術的に判断が難しい部分がありますが、バイオ燃料の利用については、単にガソリンや軽油の削減という視点だけでなく、全体的な視野から検討したうえでの取組みが必要とされます。
そのような検討なしに、補助金目当てに急速な資金参入・生産拡大が続くという事態は控えるべきでしょう。

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バングラデシュ  サイクロン“Sidr”が残したもの

2007-12-01 15:11:53 | 災害

(サイクロンの被害の後片付けを行う住民 “flickr”より By anniem )

先月15日にバングラデシュを襲ったサイクロン「Sidr」の犠牲者は、軍の発表ではこれまでに3256人の遺体を回収、880人が行方不明ということで、4000人を超えることが見込まれています。

“4000人超の犠牲者”と聞いても、正直その悲しみとか苦しみとかはなかなか実感できないというのが本当のところです。
被害地のルポなどで、その惨状が少し伝わってきます。
高波に自宅をさらわれ、子供3人を亡くした母親、精神的ショックと体調不良で寝込み、「子供達のところへ行きたい」と泣くばかり、夫も傍らで「何を考えるべきかも分からない」と・・・

こうした生命に直接関わる被害だけでなく、長年の苦労が一瞬に消えてしまい呆然とする姿にも痛みを感じます。
バングラデシュでは貧しい主婦を主に対象としたマイクロクレジット“グラミン銀行”がこれまで成果を挙げてきました。
グラミン銀行は2006年にノーベル平和賞を受賞したユヌス氏が進めてきた事業です。
牛を飼うとか、貸し電話用の携帯電話を購入するとか、小額の事業資金を女性達に貸し出すことで、その自助努力をサポートして、彼女達の経済的地位の向上をはかる事業です。
今回のサイクロンはこのグラミン銀行の融資を受けて続けてきたささやかな、しかし、着実に結果を出しつつあった多くの事業を呑み込んでしまいました。
(グラミン銀行については、6月5日の当ブログもご参照ください。http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070605 )

*********
首都ダッカの南200キロ、ベンガル湾に面したバルグナ地方Amtola村に住むBilkis Begumさん(40)は1985年、自分の村でグラミン銀行の融資が受けられるようになってすぐに申し込んだ。
融資で小さな店を始め、脱穀機とキンマ農園を購入。
持ち前の商才に加え、一生懸命に働いたおかげで、事業は次々と成功した。
しかし、サイクロン「シドル」で、推定で50万-70万タカ(約79万-110万円)の価値のあった事業の一切を失った。
「事業はうまくいっていたのに、わたしはすべてを失ってしまった」とBilkisさんは嘆く。
Bilkisさんは木に登って助かった。だが、着の身着のままで何も持たずに逃げたため、いまは家族の食糧を手に入れるのにも苦労している。
もちろん、未払いの8万タカ(約12万円)の債務残高の返済も不可能となった。【11月24日 AFP】
*********

このように被災したグラミン銀行利用者は数千人にのぼると見られています。
しかし、ユヌス氏は、「いま債務を取り消せば、人々は何かが起こるたび、たとえば家が火事になったなどの場合にも、債務取り消しを求めるようになってしまう」と、債務取り消しは行わない方針だそうです。
確かに、厳しいようですが正論です。
正論ですが“そこをなんとか・・・”と思わないでもないですが・・・。

その代わり、グラミン銀行は被災した債務者に対し、家の再建費用の無利子融資を提供し、また、債務残高についても、支払いには必要なだけの時間的猶予を与え、事業再建のための新しい融資も行うそうです。

ユヌス氏は、「債務者には、返済できるときに返済すれば構わないと言っている。必要なだけ期限は延期する」と話していますが、被災者は今はとても返済を考えることなどできないというのが正直なところでしょう。
このまま挫折して、更に苦境に落ちていく人々も少なからずいるでしょう。

苦しみ・不幸は弱い立場の者に襲い掛かるのが世の常ではありますが、なんともやりきれない思いもします。
少しでも多くの人が、すこしでも早く立ち直ることを願うばかりです。

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