孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「イスラム国」 戦闘長期化で苦しい内情? 資金的にも悪化?

2015-01-21 23:25:11 | 中東情勢

(「イスラム国」側が11月4日公表したトルコ国境に近いシリア・コバニ(クルド人居住地域)での戦闘の様子 1月6日CNNによれば、「クルド人民防衛隊(YPG)」が、同市全体のうち少なくとも8割を奪還したとのことです。 “flickr”より By HEADLINES VIEW https://www.flickr.com/photos/129557156@N04/15681244173/in/photolist-qvryPj-qMHuH8-qSMmMk-qKFiku-qQkegC-qQHWFX-qHqbXs-pVJ9Pw-pT3kYN-qnYHtt-qR7XNk-pKqe8Y-pLHf6D-qFUJM5-qpZM3P-qoxaCw-pJLESD-pVTP4u-qGq3ix-qQr9yE-pHotuZ-pGyzn6-qDaaZt-qD3GYa-qmu2zJ-qDpjPA-qrQ99e-qrFD6m-pMtLTc-qRcCAi-qReZUa-qvy1Mu-qvihNs-qMstVw-qMsjhd-qPEYBu-qMQFVA-qvt9tc-qNWtYL-qNePHs-pG3YHq-qD3HCX-qD3Hrp-qALuTJ-qsK7XF-qziyqB-qreWCD-pRRzQJ-qm199S-pTGtyR)

士気や規律が低下 住民の強制的徴兵も
日本人2人を人質に取り、殺害を警告したイスラム過激派組織「イスラム国」の現状については、よくわかりません。どうしても“?”が多くなってしまいます。

アメリカ主導で昨年8月から続けられている空爆によって、拡大は食い止めたものの、弱体化には至っていないとの見方があります。

****空爆、弱体化に至らず 対「イスラム国」、延べ1700回超 続くテロ・戦闘員の流入****
オバマ米政権は、過激派組織「イスラム国」を弱体化させるため、イラクとシリアで空爆を続けている。

米軍主導の空爆には、英仏や湾岸諸国も加わり、これまでにイラクで約1千回の空爆を実施。シリアでも740回を数えるなど、連日、軍事行動を続けている。

しかし、「イスラム国」に決定的な打撃を与えるまでには至っていないようだ。(中略)

米軍は、地上戦闘部隊は派遣していないが、イラクに軍事顧問を派遣。「イスラム国」と地上で戦うイラク政府軍への作戦指揮や訓練、情報提供などで協力し、米軍は空爆で援護するという態勢をとっている。

米国防総省によると、13日時点でイラクに駐在する米軍は2200人余り。米ニューヨーク・タイムズ紙によると、今後数週間以内に3千人以上に増えるという。

オバマ政権は、「イスラム国」掃討作戦の戦費として56億ドル(約6500億円)の追加拠出も議会に要請していた。(中略)

米軍を中心とした空爆は、イラクとシリアにおける「イスラム国」の勢力拡大を抑える点では、一定の効果があったとされる。

しかし、「イスラム国」の戦闘員になるためシリアなどへ向かう欧米などの若者の流れや、テロ攻撃を防ぐほど「イスラム国」を弱体化させていないのが現状だ。

ロンドンでは22日、「イスラム国」に対する軍事作戦やイラク政府支援について話し合う会合が予定されている。ケリー米国務長官とハモンド英外相が共同議長を務め、「イスラム国」撲滅を目指す約60カ国のうち、約20カ国が参加する。

また、欧州出身者の「イスラム国」戦闘員は3千人以上ともいわれ、各国はこうした若者たちが帰国後、「イスラム国」の呼びかけに応じて国内でテロ行為に走らないよう、国境管理や帰国者の監視強化を打ち出している。【1月21日 朝日】
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一方で、戦闘員の逃亡など、士気の低下も報じられています。

****<イスラム国>規律低下…イラクで戦闘長期化、内紛や脱走者****
日本人とみられる2人を人質に取り、殺害を警告したイスラム過激派組織「イスラム国」の内部で最近、内紛や脱走者が相次いでいたことがイラク北部の住民の証言などで分かった。

昨年6月以降、イラクとシリアで勢力を伸ばしてきたイスラム国だが、戦闘が長期化する中で士気や規律が低下している可能性がある。

イラク北部では実効支配地域の住民を強制的に徴兵する動きも出ている。近く本格化するとみられる政府側の攻勢に備えて、部隊の立て直しを迫られている模様だ。(中略)

イラク北部モスルの住民やイラクメディアによると、モスルでは昨年12月、任命されたばかりのイスラム国の「知事」が内通の疑いをかけられて処刑された。

シリア東部デリゾール県でも今月、「知事」人事を巡って抗争が起きた。本拠地があるシリア北部ラッカでは、逃亡を図った外国人戦闘員約100人が処刑された。

こうした中、イラク北部の農村部では、若い住民らを戦闘要員として徴集する動きが強まっている。タルアファル近郊の村では徴兵を拒まれたため、村を攻撃し、3人を殺害。約250人を捕虜にした。

イスラム国は従来、複数のメンバーの推薦がなければ、新規に戦闘員を加えることはなかった。だが政府側の攻撃が強まるとの観測が広がる中、戦闘要員の確保を急いでいるとみられる。

ただ、政府側も軍の再編に手間取っており、実際に攻勢に出られるかは不透明だ。昨年6月にイスラム国が大規模侵攻を始めた際、政府軍はほとんど反撃せずに敗走を重ねた。

9月に就任したアバディ首相は、汚職容疑で数十人の軍幹部を更迭するなど立て直しを図っている。【1月20日 毎日】
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こうした事情を背景に、イラク高官は今後に自信を見せています。

****<イラク>「イスラム国撃退に自信」…首相顧問会議議長****
イラク首相顧問会議のサミル・ガドバン議長が19日、東京都内で毎日新聞の取材に応じ、イスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国」の幹部が「イラクからシリアに撤退した」との見方を示した。

イスラム国が制圧しているイラク北部の主要都市・モスルでも戦闘員が逃げ出しており、「イラク軍と国際社会の攻撃によりイスラム国は弱体化している。我々はイスラム国撃退に自信を持っている」と述べた。

ガドバン議長によると、最近、イラク軍がイスラム国に攻撃を仕掛けるとイスラム国の戦闘員が逃げ出すケースが出ており、イラク軍が戦闘準備を進めるモスルでも多くの外国人戦闘員が逃げ出したという。

モスル攻撃については「できるだけ早くやりたい。奪還に時間はかからないだろう」と前向きな見通しを示した。

イラクではマリキ前首相がイスラム教シーア派を優遇したため、一部のスンニ派が政府への協力を拒否してきたが、9月に就任したアバディ首相がスンニ派を重要閣僚に処遇したことなどで「イラクは宗派を問わず一つになり、テロと戦う態勢になった」と述べた。(後略)【1月20日 毎日】
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政治的発言として割り引いて見る必要はありますが、戦わずに敗走していた初期に比べれば、イラク側が持ち直しているのは事実でしょう。

****首都北方の要衝を奪還=イラク軍****
イラク政府軍などは30日、首都バグダッド北方90キロの町ドゥルイアから過激組織「イスラム国」を完全に駆逐したと明らかにした。AFP通信が伝えた。

ドゥルイアは、東部ディヤラ州と北部サラハディン州をつなぐ街道沿いにある戦略的に重要な町。10月にイラク軍が町の大半をイスラム国から奪還したが、その後イスラム国の反撃に遭い、押し戻されていた。

イラク政府軍は28日、スンニ派部族などの協力を得て、町の北部から進攻していた。【12月31日 時事】 
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【「世界で最も豊かな過激組織」とは言いつつも・・・・
「イスラム国」が戦闘員をひきつけ急拡大できたのは、その「イスラムの大義」に加えて、戦闘員や武器・弾薬を確保するのに必要な資金力が豊かであったことが挙げられています。

****戦闘員流入「玄関口」トルコ 家族6人でイスラム国へ、計200ドルの給料得た一家****
人質の日本人2人を殺害すると脅迫したイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」にとり、トルコは、世界各地からの戦闘員を迎え入れる「玄関口」となっている。

世界最大のイスラム教徒人口を抱えるインドネシアからは100人以上がイスラム国に合流。ジャカルタを拠点とする紛争政策分析研究所(IPAC)のシドニー・ジョーンズ所長は、背景に「国境を越えた協力者とのネットワーク」の存在を指摘する。

戦闘員としてシリア入りを希望していたインドネシア人のアカン(仮名)が、知人を通じてイスラム国幹部の推薦を得たのは、昨年2月末のことだった。渡航は3月26日と決まった。(中略)

アカンが計画を打ち明けると、妻は「残されれば、希望する宗教教育を子供に与えられない」と、4人の子供を連れての同行を希望した。彼女も過激思想を受けてきた。

だが、アカンの手元にあったのは1人分の渡航費用千ドルだけだった。アカンは車と家電を売り、家族全員の渡航に十分な1万ドルを工面し出国した。

妻はイスラム教徒の女性が着用するヘジャブ(スカーフ)を外して飛行機に乗るなど、怪しまれないよう工夫した。

一行はジャカルタからドーハ経由でトルコの最大都市イスタンブールに到着。さらにシリア国境近くへ飛行機で飛び、国境の町アクチャカレに入った。

アクチャカレはイスラム国が「首都」とするシリア北部ラッカに近く、各国からのイスラム国参加希望者の拠点となっている。

3月28日、指定の宿泊先に予定どおりイスラム国連絡員がやってきて、アカンたちはベルギーやモロッコからの渡航者と合流、総勢25人で深夜の国境越えを試みた。トルコの国境警備隊に捕まるなど何度か失敗したが、数日後、有刺鉄線を乗り越えた。

トルコは対イスラム国有志連合に参加しつつも、イスラム国との直接対立は避ける姿勢をとっており、国際社会には批判もある。

アカンらが国境警備隊に見つかりながらも越境に成功した背景には、協力者の存在とともに、トルコのこうした態度があるといえる。

ラッカには2つの訓練キャンプがあり、直接戦闘に投入される部隊と自爆テロ部隊があった。アカンは5月下旬、戦闘部隊での2週間の訓練を終了し、制服や武器、給料、住居を与えられた。

給料は本人が月50ドル、妻に50ドル、子供1人あたり25ドルで計200ドル。インドネシアなら大金だ。

現在、アカンはイスラム国の陣地を守る日々を送る。妻は、イスラム国のメディア部隊を支援する活動に従事しているという。【1月21日 産経】
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国境管理のルーズさへの欧米からの批判に対し、トルコ外相は海外からの渡航者のうち「イスラム国」に参加すると見られる約7250人の入国をこれまでに拒否。国内に滞在し「イスラム国」の戦闘員となることを希望していると見られる1000人余りを国外退去させたとしています。

「世界で最も豊かな過激組織」とも称される「イスラム国」の資金源としては、石油の密売、徴税、外国人誘拐の身代金、支持者の寄付、遺跡盗掘品の密売などが挙げられています。

****豊富な資金力持つ「イスラム国」=収入源は石油密輸、徴税****
イスラム過激組織「イスラム国」は豊富な資金を背景にシリアとイラクで勢力を急速に拡大してきた。対イスラム国攻撃を主導する米国は収入源の一つであるシリアの製油施設への空爆などで弱体化を目指す。

だが、イスラム国は「領土」内から「徴税」収入を得る仕組みも構築しており、軍事作戦や経済制裁でその財政基盤に打撃を与えるのは困難だ。

イスラム国は、制圧した製油施設から産出された石油を周辺国に格安で密輸しているとされる。1日当たりの石油収入は200万ドル(約2億1600万円)に上るとみられている。

潤沢な資金で、最大3万人超の戦闘員に数百ドル以上の給与を支払い、戦闘員数を急激に増加させ、今や「世界で最も豊かな過激組織」とも称されるほどだ。

米軍などは24日、収入源を断つことを狙い、シリア東部でイスラム国が支配している製油施設12カ所への空爆を行った。

だが、イスラム国は、石油密輸以外にも、銀行強盗や外国人誘拐の身代金などによって資金を蓄えたほか、支配する「領土」での「徴税」や、営業許可料、道路の通行料などを徴収しているとされる。

国際社会はかつて、経済制裁で銀行や慈善団体など国際テロ組織アルカイダの主要な資金調達網に打撃を与えた。

しかし、イスラム国は「領土」から収入を得る仕組みを確立している。国際軍事情報大手IHSジェーンズのエバン・ジェンドラック氏はAFP通信に「経済制裁は外部からの資金流入を制限できるが、支配地域での資金調達を抑えるのは非常に難しい」と指摘する。【2014年9月26日 時事】
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徴税の実態はわかりませんが、やはり大きいのは石油密売ではないでしょうか。

遺跡盗掘品の密売は金額的には限られていますし、「イスラム国」の影響が国内へ波及するのを警戒してサウジアラビアなど中東湾岸諸国が対決姿勢を厳しくしている現在では、支持者の寄付もなかなか難しいのではないでしょうか。

外国人誘拐の身代金については、最近1年間で得たとみられる身代金収入の総額3500万~4500万ドル(推定額、約41億~53億円)と言われており、今回要求している2億ドルはその4倍以上に相当します。【1月21日 朝日より】

今回の身代金要求については、「イスラム国」の資金状態の悪化を反映したものではないか・・・との見方もあります。

****経済的な困窮が背景の1つ****
「イスラム国」の取材を続けている日本人のジャーナリストは、日本人2人が拘束されているとみられることについて、「イスラム国」の経済的な困窮が背景の1つにあるという認識を示しました。

これは、イラク北部のアルビルで、「イスラム国」からの難民などの取材を続けているアジアプレス・インターナショナル所属のフリーランスのジャーナリスト、玉本英子さんがNHKの取材に答えたものです。

「イスラム国」は豊富な資金力を持っているとされていますが、玉本さんは「『イスラム国』の支配地域から逃げてきた人たちの話では、一般市民を中心に『イスラム国』は経済的に非常に困窮しており、今回の事件に至ったとみられる」と指摘し、政治的な圧力に加えて資金を得るねらいが背景にあるという認識を示しました。(後略)【1月21日 NHK】
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最近「イスラム国」は拘束していたヤジディー教徒200人余りを解放しています。
これも、経済的負担が影響しているとも思われます。

****イスラム国、イラク北部でヤジディー教徒200人解放****
イスラム教スンニ派派の過激組織「イスラム国(IS)」は17日、数か月間拘束していたイラク北部のクルド系少数派ヤジディー教徒200人余りを解放した。大半は高齢者だったという。当局者と活動家らが明らかにした。(中略)

■拘束継続が負担に?
当局者はAFPに対し、今回の解放が大規模だったのは意外だと述べ、ISとの取引はなかったと述べた。

人権活動家は、「ISは(拘束したヤジディー教徒らが)負担になり、食事を与え世話することができなくなったのだろう」とコメント。

また、ヤジディー教徒で、昨年8月に国際社会に対して苦境を切実に訴えたイラク連邦議会のビアン・ダクヒル議員は、「ISは高齢者を拘束し続けることに何もメリットがないと考えた」との見解を示し、「ペシュメルガが日に日に巻き返している事実も奏功したに違いない。ISは圧迫され、再編を続けざるを得なくなっている」と語った。

ダクヒル議員によると、ISに依然拘束されている女性や子供は3000人前後とみられている。【1月18日 AFP】
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石油密売については、原油のようなかさばるものをどのようにして、誰に密売するのか・・・不思議です。
タンクローリーを使うのか、パイプラインを使うのか?
最近の原油価格下落の影響は?

いずれにしても、クルド・イラク、そして隣国トルコに協力者(賄賂などによるものを含めて)がいないと難しいのではないでしょうか。

今後、石油密売やトルコからの入出国について管理を厳格化できれば、「世界で最も豊かな過激組織」の資金源を断ち、戦闘員流入をおさえ、その活動も先細っていくことが考えられます。

トルコの対応がカギとなりますが、エルドアン大統領とアメリカなどの関係がギクシャクしているのはこれまでも取り上げてきたところです。

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ドイツ  拡大する「反イスラム」の動き

2015-01-20 22:30:34 | 欧州情勢

(ペギーダなんてゴミ箱へポイ・・・反「反イスラムデモ」参加者 1月12日 ベルリン “flickr”より By Bernd Sauer-Diete https://www.flickr.com/photos/basspunk/16085111737/in/photolist-qvopjH-qvn7aM-qvopDF-qSxHWM-qKw83y-qS8QUj-qA844H-qvRLpL-qNgM1e-qMDMAK-qveT4u-pRqSNb-qNqULa-qvYjx2-qA6mRx-qL91rq-qvZ1Li-pVdi4N-qNkZCw-qL8iCw-qNkZxw-qvR4NA-qvYjd4-qvYj5t-qvYj2H-pRDbPr-qPVnxL-qS49QP-qzMKTZ-qMeXqn-qMyLQS-qN4f8v-qvu5xJ-qMZ3d3-qMU3Na-qvu4eG-qvCBFP-qMU2wx-qvBgDZ-pR47pd-pR46Wu-qvBeqk-qvtZes-qvBdr6-qMYVgY-qvBbi8-qMTVap-qMYT6A-pR41gG-qKLbZy)

【「デモ参加者の多くは、政治に自分たちの意見が反映されていないと感じている」】
フランスの政治週刊紙「シャルリー・エブド」本社などの連続銃撃テロ事件、多数のイスラム教徒移民を抱える欧州社会ではイスラムへの警戒感、「反イスラム」の動きが強まっています。

一方、「シャルリー・エブド」が事件後の特別号で表紙に再びイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を掲載したことで、世界のイスラム教国にはイスラムへの冒涜であるとする怒りが広がっています。

ドイツでは、トルコなどからのイスラム教徒の移民が人口の約5%に当たる約400万人を占め、重要な経済の担い手となっています。

そのドイツでも、「反イスラム」のうねりが大きくなっています。それを代表するのが「西洋のイスラム化に反対する愛国的欧州人」(通称ペギーダ・Pegida)の運動拡大です。

イスラム教や「犯罪者である亡命希望者たち」に対して怒りの声を上げるペギーダのデモの参加者数は、ドレスデンで昨年10月に始まった当初は数百人だったものの、多くの不満のはけ口となり、支持者の数は以降徐々に増え続けています。

特に、「シャルリー・エブド」本社などの連続銃撃テロ事件直後の12日に行われたデモの参加者数は、過去最多の2万5000人に上りました。

これに対し、ペギーダ反対派によるデモも10都市以上で行われ、参加者は計10万人に上っています。

****反イスラム派」と反対派、12万人がデモ応酬****
フランスの政治週刊紙「シャルリー・エブド」本社などの連続銃撃テロ事件を受け、ドイツ各地で12日夜、反移民デモを続ける「ペギーダ」(「西欧のイスラム化に反対する欧州愛国主義者」の略称)と、ペギーダに反対する陣営の双方によるデモが行われた。

DPA通信によるとあわせて12万5000人以上が参加した。
双方の衝突などは伝えられていない。

東部ドレスデンでは、ペギーダが、一連の銃撃事件の犠牲者を追悼する趣旨でデモを行い、地元警察によると、同団体主催のデモとしては過去最多の約2万5000人がドイツ国旗を手にするなどして参加。東部ライプチヒやベルリンなどでも同様のデモが行われた。

一方、10都市以上で行われたペギーダ反対派によるデモの参加者数は計約10万人とペギーダを圧倒。ライプチヒで約3万人、南部ミュンヘンでは約2万人が、事件に乗じて反イスラム感情をあおろうとする動きへの反対を訴えた。【1月13日 読売】
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ペギーダは表面的には比較的穏健な主張を掲げていますが、背後ではネオナチなどの極右政党との関連を指摘する向きもあります。

また、単に「反イスラム」だけでなく、ドイツ特有の東西格差など、広い政治への不満の受け皿となっています。

****高学歴・高収入層も集会参加****
反イスラムが一般に広がる象徴が、「西洋のイスラム化に反対する愛国的欧州人」(通称ペギーダ・Pegida)だ。

昨年10月以降、東部ドレスデンで毎週月曜にデモを組織。ソーシャルメディアを使って当初の数百人から規模を急拡大した。

12日夜、仏週刊紙襲撃の後、初めて開かれた反イスラム集会では、約2万5千人が「欧州への宣戦布告だ!」「政治もメディアも信用できない!」などと連呼し、古都を練り歩いた。

老夫婦や若いカップルもいた。記者が話を聞くと、飲食店経営者からサラリーマン、年金生活者まで様々だ。「アレックス」とだけ名乗った男性(33)は、「パリの事件がショックで初めて参加した。ドイツの自由は我々が守る」と興奮気味に話した。

ペギーダとは何者か。

代表者は、ドレスデン出身のルッツ・バッハマン氏(41)という人物で、現在の中心メンバーは12人。デモでの排外的な主張とは裏腹に、公表している活動方針には「西洋文化の尊重」「戦争難民の保護」など穏健な主張が並ぶ。

18日、女性幹部がテレビのトーク番組に出演し、「デモ参加者の多くは、政治に自分たちの意見が反映されていないと感じている」と指摘した。「我々は人種差別団体ではない。移民の多い国にはそれなりの規制が必要だと訴えているだけだ」と語り、極右の関与を否定した。

どんな人が加わるのか

DPA通信によると、ドレスデン工科大学が集会の参加者約400人に調査した結果、「東部出身で高学歴、収入も比較的よい中年男性」という典型像が浮かんだ。「反イスラム」で参加した人は4分の1以下で、大半の動機は「政治への不満」だった。

ペギーダに呼応し、独各地で類似団体が次々に生まれ、小規模なデモを繰り返している。

独西部デュッセルドルフのネオナチ研究者、アレクサンダー・ホイスラー氏(51)は、これら類似団体の裏にも極右がいると指摘する。「極右政党の構成員やフーリガンもデモに交じっている。彼らは前面に出ず、一般市民が中心のペギーダの勢いを利用して民衆をあおっている」【1月20日 朝日】
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19日に予定されていたペギーダの野外集会は、リーダーのひとりに対するイスラム過激派による暗殺の計画があるとして、警察によって中止されました。

****ドイツの反イスラムデモ、テロの恐れで中止 「イスラム国が脅迫****
ドイツ東部ドレスデンの警察は18日、同市で翌19日に計画されていた反イスラムデモなどの野外の集会について、テロの危険があるとの理由で禁止すると発表した。

ドレスデン警察によると、右派のポピュリスト団体「西洋のイスラム化に反対する愛国的欧州人(PEGIDA)」に対する「具体的な脅威」を示す情報が、連邦警察や州警察などから寄せられた。

集会の24時間禁止措置を告知する文書の中で同警察は、「デモ参加者らに紛れ込んでPEGIDAのデモ組織班のメンバー1人を暗殺」するよう呼び掛けがあったと説明。

この情報は、「PEGIDAのデモをイスラム教の敵と呼ぶアラビア語のツイッター投稿」とも一貫性があるものだとしている。

独紙ビルト電子版は、暗殺の標的はPEGIDAのリーダーの中でも最も著名なルッツ・バッハマン氏だったと報道。PEGIDAの広報担当者も地元テレビに対し、同氏が標的だったことを認めた。

これに先立ちPEGIDAは、交流サイトのフェイスブックへの投稿で、イスラム教スンニ派派の過激組織「イスラム国(IS)」から脅迫があったことを明らかにし、予定されていた13回目のデモを中止すると発表。デモ中止は独自の判断だったと説明していた。(後略)【1月19日 AFP】
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こうしたテロの計画といった話は、イスラムへの憎悪を煽るところとなり、ペギーダの勢力拡大に更に資することになるでしょう。

背後にはネオナチなど極右勢力の影がうごめく
ペギーダと極右の関係は定かではありませんが、ドイツでは以前から、極右勢力がフリーガンを背後から操っているという話があります。

****反イスラム」極右の足音 ドイツ、数カ月前からデモ拡大****
仏週刊紙「シャルリー・エブド」襲撃事件をきっかけに、欧州に広がる「反イスラム」のうねり。ドイツでは事件の数カ月前から、熱狂的なサッカーファン「フーリガン」のほか、幅広い層の市民が、反イスラムの旗の下に集まっていた。背後にはネオナチなど極右勢力の影がうごめく。

腕っ節の強そうな男たちが続々と集まってきた。サングラスにスキンヘッドの若者が目立つ。昨年11月15日昼、独北部の商業都市ハノーバーの駅前広場。3千人以上がこぶしを振り上げ、気勢を上げた。

「ドイツ人よ、団結せよ!」「(イスラム厳格派)サラフィーは出て行け!」

多くはサッカーの試合に乗じて乱闘騒ぎを起こすフーリガンだ。中東の過激派組織「イスラム国」への抗議を旗印に、昨夏ごろから数百人規模のデモを始めた。
「サラフィーに反対するフーリガン」という独語名の頭文字から、通称「ホゲーザ(HoGeSa)」と呼ばれる。

ホゲーザが世間に知られたのは昨年10月26日、独西部ケルンでの集会だ。約4500人の一部が警官隊と衝突し、警官44人を負傷させ、17人が拘束された。

ホゲーザには組織の実態など不明の点が多い。幹部は、主要メディアの取材を拒否。デモを人種差別や偏見に結びつけて報道するため「信用できない」という理由だ。ハノーバーでは、デモ参加者に取材に応じないよう徹底していた。

「極右が裏でデモをあおっているのは間違いない」
極右組織から若者を脱退させる活動を続けるベルリンの民間団体「EXIT」のベルント・ワグナー代表(59)は、そう断言する。

ワグナー氏は、EXITが「キープレーヤー」と呼ぶ人物が複数、ホゲーザのデモに関与していると指摘する。彼らはネオナチなどの極右と市民をつなぐパイプ役で、ロックバンドとしてデモを盛り上げたり、移動用バスの提供など資金面で援助したりするという。

ワグナー氏によると、1970年代に登場したドイツのフーリガンは、政治への興味は薄かったという。酒を飲み、暴れて憂さを晴らすだけの若者たちだった。

だが80年代、「有望な人材」として極右が目をつけ、自分たちの活動に引き入れるようになった。90年代には「ドイツ至上主義」「カギ十字」を掲げ、外国人排斥などを訴えるフーリガンも出てきたという。

ワグナー氏は言う。「最近の反『イスラム国』の動きは、若者たちの愛国心に火をつけ、政治的に扇動するのに都合がいい。極右が勢力を拡大し、主張を誇示する機会に利用している。主張が世間に受け入れられ、士気も上がっている」【1月20日 朝日】
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ドイツに極右政党「ドイツ国家民主党(NPD)」非合法化の動きなどについては、2013年5月6日ブログ「ドイツ 社会に根深く存在し続けるネオナチズムの影」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130506)で取り上げたことがあります。

また、東西格差への不満を背景に拡大するこうした極右勢力については、2013年10月18日ブログ「ドイツ 東西を隔てる「心の壁」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131018)でも取り上げました。

偏見や思い込みがもたらす社会の不安を肥やしに、「敵をつくる政治」が台頭
経済的にゆとりが失われると、限られたパイを奪い合う形で、移民への不満が高まります。
一方で、社会から疎外され、経済的にも恵まれない移民の若者には、「大義のために一命をなげうつ」という甘美な誘いが広がります。

そのあたりはドイツでもフランスでも同じですが、ドイツの場合は東西格差という地域性もそれに加わります。

****景気低迷、広がる不満と闇 パリ支局長・青田秀樹****
山積みの花束の先に、ユダヤ人4人が殺害されたスーパーがある。立てこもり事件から10日を数える19日朝も警備は続き、犠牲者を悼む人が足を運んだ。

近くに住むシモーヌ・カイエムさん(60)は「移民がどんどん増えた。我々の税金が貧しい彼らの手当に回るのはおかしい」と考えている。イスラム過激派を名乗った容疑者は、西アフリカ・マリ系の移民家庭の出身だった。

フランスのイスラム教徒には移民が多い。パリ中心部に近いモスクに通うモスタファ・アジさん(40)はテロに不快感を示しつつ、こう話す。「仕事や教育が行き渡れば過激思想に染まりにくくなるだろう。生きる目標がない人は過激化しやすいのでは」

フランスの成長率はゼロ近辺を行きつ戻りつする。失業は10%を超えて高止まり。25歳未満の若者なら25%にも及ぶ。

希望を持ちにくい社会に、すさんだ空気が漂う。テロ後、モスクへの発砲や放火、脅しは100件超。「金持ち」と決めつけられがちなユダヤ人も嫌がらせを受ける。イスラエルへの移住は2年前の3倍、1万人を上回りそうだという。

偏見や思い込みがもたらす社会の不安を肥やしに、「敵をつくる政治」が台頭している。「大量の移民が職を奪う」と訴える右翼・国民戦線(FN)である。(中略)

仏国立統計経済研究所の調査では、モロッコなど北アフリカからの移民の家庭に育った人たちの失業率は25~28%(2010年)。「非移民系」の3倍だ。

「移民は、不法な低賃金の仕事の担い手になる。その存在を利用して、企業は『白人』の賃金を抑えようとする。(低賃金の根源だとして)移民に怒りの矛先が向く」と指摘するのは、反人種差別に取り組むベルギーの「ENAR」のミカエル・プリボ代表(40)だ。「イスラム憎悪は構造問題だ」という。

ただし、暮らしや社会に不満、不安を持つことと、武器を手にとることとの間には、大きな溝が横たわる。しかもイスラム系の移民だけの問題でもない。

南仏トゥールーズのドミニク・ボンスさん(61)の息子は、バカンスと偽ってシリアに渡り、13年に自爆攻撃で死んだという。中流家庭に育ったキリスト教徒だった。イスラムに改宗した。

失業し、大量消費の世相に嫌気もさしていたらしい。「自分探しをしていたようだ」。でも、それがなぜ、「聖戦」で爆弾を身につけての攻撃につながったのかは、分かっていない。

景気の低迷でぎすぎすした社会になり、仕事もなかなか見つからない。そこに「戦士」を探す過激組織の手が伸びやすい。言葉巧みな勧誘が、ネット上に広がっている。【1月20日 朝日】
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ドイツでは、「反イスラム」の拡大に伴う社会の分断に対し、ガウク大統領やメルケル首相も「寛容な社会」実現を呼びかけています。

****反イスラム阻止、ベルリンで集会=独大統領、宗教間の理解訴え****
フランスの連続テロ事件の犠牲者を追悼し、「反イスラム」の動きを阻止しようと、ドイツのイスラム教徒団体などが13日夜、首都ベルリンのブランデンブルク門前で集会を開いた。

ガウク大統領が演説し、「ドイツは移民を受け入れて多様性を増していく」と強調。宗教間の理解の促進を訴えた。

集会には約1万人が参加。

メルケル首相も加わり、近くの仏大使館前で大統領らと共に献花した。

ドイツでは昨年10月から続く「反イスラム」デモに対抗し、「寛容な社会」の実現を呼び掛ける集会が全国に広がっている。【1月14日 時事】 
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ただ、社会の底辺に置き去りにされた移民若者の不満、高まる「反イスラム」の風潮への反発は、第2.第3の事件を容易に惹起します。
そうしたときに、どこまで「寛容な社会」を維持できるか・・・厳しい情勢にも思えます。
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中国  習近平政権が目指す新時代「新常態」 

2015-01-19 22:41:38 | 中国

(2013年武漢国際モーターショー 【2012年10月15日 RecordChina】http://www.recordchina.co.jp/a65489.html
人間は色欲、金銭欲、権力欲・・・等々の塊であることは言うまでもありませんが、それだけに、節度を保てるような内的な規範も必要になります。中国の場合は、そのあたりの節度を保つ規範・モラルに乏しく、みながむき出しの欲望のままに暴走しているようにも見えます。)

【「反腐敗の手を緩めず、新たな常態とする」】
中国共産党の汚職を取り締まる中央規律検査委員会は1月7日、最高指導部・政治局常務委員会前メンバーで、巨額収賄や機密漏えいなどの容疑で追及が進む周永康・前党中央政法委書記(72)を既に送検し、法に基づき処理していると明らかにしました。

習近平国家主席が進める腐敗粛清運動については、昨年11月18日ブログ「中国  腐敗摘発で粛清の「嵐」 党・国家への批判を許さない“体制引き締め”」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141118でも取り上げましたが、
習近平国家主席の意を受ける王岐山中央政治局常務委員が書記を務める中央規律検査委員会を中核として、年が明けても勢いが衰えません。

****反腐敗、文化人も標的 規律委、追及を強化 中国****
中国共産党の「反腐敗」の取り組みを担う党中央規律検査委員会の全体会議が12日、北京ではじまった。

大幹部の摘発などで専門家の期待以上の「成果」を上げてきたが、習近平(シーチンピン)指導部は追及を継続する構え。幹部に近い文化人など、標的は広がりつつある。

14日まで、党員の腐敗摘発や綱紀粛正の取り組みを総括し、今後の方針を定める。2013年1月の会議では習氏が「反腐敗」の号砲となる演説を行った。

昨年、党は13年の約3倍に上る2万3千人余の党員を規律違反で処分。周永康(チョウヨンカン)・前党中央政法委員会書記や令計画(リンチーホワ)・前党統一戦線工作部長ら前指導部の中枢幹部も相次ぎ摘発した。

反腐敗は「どうせかけ声だけとの予想をいい意味で裏切った」(政府シンクタンク研究者)と、学者や庶民の評判は上々だ。

厳しい姿勢は党や軍内の反発を招く恐れもあるが、習指導部は「反腐敗の手を緩めず、新たな常態とする」(王岐山〈ワンチーシャン〉・党中央規律検査委書記)と、一時的なキャンペーンに終わらせないとの姿勢を強調している。

全体会議の開幕に合わせるように、党中央規律検査委は反腐敗を巡る習氏の指示をまとめた本を出版。
「腐敗と政治問題は往々にしてセットで生まれる。(党内で)徒党を組み、味方を増やすために不正に金を動かす必要が出てくる」「政党の命運は人心がついてきてくれるかどうかで決まる」など内部会議での発言を紹介し、腐敗問題が党の存続にかかわるとの危機感を強く印象づけている。

北京の外交筋によると、規律検査委は最近、調査の対象を著名な書家や音楽家などの文化人にも広げている。文化人たちが書画などを好む高官との親しい関係を背景に、口利きを望む商人や官僚などから金品を受け取ったりする動きがあるためだ。

党最高指導部は昨年末、党中央組織部、党中央宣伝部など、政権の中枢部門にも党中央規律検査委の出先機関を置くことを決定。同委員会の影響力は、かつてなく拡大しつつある。【1月13日 朝日】
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党だけでなく、軍でも粛清が進んでいます。

****<中国>「重大腐敗案件」で軍高官16人調査****
中国人民解放軍は15日、ウェブサイトで、昨年1年間で軍内の重大腐敗案件で16人の幹部将校を軍の規律検査部門が調査したと発表した。

軍制服組の最高幹部で党籍剥奪処分となった徐才厚・前中央軍事委員会副主席のほか、軍総後勤部・劉錚(りゅう・そう)副部長=中将=が違法犯罪の疑いで立件・捜査されている。(後略)【1月15日 毎日】
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経済面でも、中国経済の根幹をなしている、それだけに政治・経済・社会問題の中核ともなっている国有企業について、“国有企業経営者の年収は従業員平均の8倍以内に抑えなければならない、その上、すべて公開する”という年収の上限を定める通達が出されたそうです。

社会的にも風紀を引き締める動きが進んでいるようで、庶民の暮らしに身近なところでは、こんな話もあります。

****女性コンパニオン」に逢えなくなる?・・・・ネット上の「噂」を否定しない、上海モーターショー主催者側=中国メディア****
中国メディアの京華時報は10日、4月に開催予定の上海モーターショーで女性コンパニオンによる演出が禁止されるとの噂(うわさ)がネット上を駆け巡ったとし、この噂に対して主催者側は「モーターショーの本質に回帰するため、女性コンパニオンによる演出禁止を含めた措置を検討していることは事実」と回答したことを紹介した。【1月14日 Searchina】
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コンパニオンのコスチュームについては、以前から、ヌードぎりぎりの衣装、肌の過度な露出、透けたコスチュームを禁止する「裸・露・透」禁止令が主催者から出されていますが、徹底しないので・・・という話でしょう。

習近平政権の腐敗粛清に対しては、当然ながら、党内、軍、国有企業に抵抗もあるのでしょうが、現在のところは習近平国家主席のペースで事が運んでいるように見えます。

習近平氏は従来より太子党とも言われていますが、組織的な実態のない太子党といったものではなく、習氏自身の自前の派閥も党内に形成されつつあるとも指摘されています。

****習近平派」じわり…汚職で失脚の政敵後任に元部下、党内勢力図に変化の兆し****
中国の習近平国家主席は、汚職や横領などの名目で政敵になり得る有力者を次々と失脚させる一方、自身が地方指導者として勤務した時代の元部下らを重要ポストに登用、共産党内で新しい派閥を形成しつつある。

上海閥、共産主義青年団(共青団)派と太子党という三大派閥の拮抗(きっこう)といわれてきた党内の勢力地図が、様変わりしようとしている。(後略)【1月6日 産経】
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小平の時代に終止符 しかし、新たな時代の方向性はまだ不透明
こうした党・軍・経済界・更には文化人までを網羅した、毛沢東時代の文化大革命すら彷彿とさせる面もある粛清運動は、新たな時代を作り出そうとしているようにも見えますが、今後どういう社会を目指しているのかは判然としないところもあります。

****小平の時代に終止符を打った習近平中国の新時代が幕開け、しかし先行きは不透明*****
・・・・共産党中央委員会政治局前常務委員の周永康氏が腐敗、姦通、機密漏えいなどの罪に問われ逮捕されてから、ネット上では習近平国家主席を支持する書き込みが増えている。

だが習近平氏の反腐敗キャンペーンには大きな落とし穴がある。それは、腐敗して罪を犯した幹部を摘発しているが、その幹部がなぜ腐敗したかという総括がない点だ。共産党幹部が今後腐敗しなくなるような制度作りはなされていないのである。

習近平政権がこの2年にわたって繰り広げてきた反腐敗キャンペーンは、日本の年末の大掃除のような“恒例行事”であり、効果は一時的と見る向きがある。

また、反腐敗キャンペーンは権力闘争の一環に過ぎず、習近平氏が政敵を倒すために展開しているだけだという見方もある。これらの見方はいずれも一理ある。

小平路線を終わらせる習近平政権
ここで改めて習近平政権誕生の意味を検証してみよう。筆者は、1つの時代の終焉を象徴するものと捉えている。
すなわち、小平の時代が習近平政権の誕生で終わったのである。

小平路線は35年にわたって奇跡的な経済高成長を成し遂げたが、行き詰まっているのも明白である。
経済こそ成長したが、環境汚染が深刻化し、所得格差も極端に拡大してしまった。
政治改革がまったく着手されなかったため、共産党幹部の腐敗も空前絶後と言われるほど深刻化している。

習近平国家主席にとって、小平路線を継承する選択肢はもはやない。習近平政権の誕生は中国では新たな時代が始まったことを意味するものと言えるかもしれない。
つまり、成長一辺倒よりも公平、公正、平等を追求する時代になるということだ。(中略)

35年前、小平も改革しなくて済むならば改革を断行しなかっただろう。ただ、当時、毛沢東時代末期、中国経済は破綻寸前にまで陥っていた。実権を握った小平は改革を進めなければ、中国が崩壊する恐れがあった。

この文脈で言えば、習近平国家主席にとっても改革を先送りする選択肢はもはやない。問題はいかに改革を進めるかである。ここで問われているのは習近平氏の描く国家像である。

民族主義、毛沢東主義、資本主義を束ねられるか
専制政治の特徴は、民主主義の合議制で物事が決まるのではなく、政治指導者の権威がものを言うことである。胡錦濤政権の10年間、胡主席の権威は予想以上に弱体化してしまった。その結果、ほとんどの改革が先送りされた。

その負の遺産を引き継いだ習近平国家主席は同じ轍を踏まないように、毛沢東主義に回帰し、反腐敗キャンペーンを展開するなかで自らの権威を急速に強化しようとしている。毛沢東主義は強権政治が特徴である。

習近平氏は毛沢東時代の経済運営の失敗を実際に体験したので、統制経済の実施はあり得ない。2年前にも習近平氏は市場メカニズムの機能を強化するための改革を推進すると強調した。経済的には資本主義のやり方を受け入れ、それを一段と強化する考えのようだ。

さらに、中国社会において充満している民衆の不満と怒りをガス抜きしなければ、社会はますます不安定化する。では、どのようにして中国社会の不満をガス抜きしていくのだろうか。

即効性のあるやり方はナショナリズムを煽る民族主義である。このやり方は綱渡りのような危険な賭けだが、それ以外の良い処置法は見つかっていない。

これまでの2年間を振り返ると、習近平国家主席は就任当初から「中国の夢」を国民に唱え、中華民族の復興を提唱してきた。これはまさに民族主義の鼓吹(こすい)である。

そして、2014年、習近平氏の一存で国内の有名な左派芸能人たちが集められ「文芸座談会」が開かれた。その座談会で習近平氏は、「かつての毛沢東を見習って、いかなる文芸活動も社会主義に貢献しなければならない」という談話を発表した。

その座談会に参加した画家の1人は即興で漢詩を作成した。その漢詩のなかで習近平氏を皇帝に例えた。これこそ毛沢東主義の復活である。

一方で経済運営を見ると、上海の自由貿易実験区で行われた改革のように規制緩和を進め、民営企業の市場参入のハードルを引き下げると言われている。

これによって、胡錦濤政権のときに進んだ「国進民退」(国有企業が前進し、民営企業が後退する)に歯止めがかけられると期待されている。

しかし、これらの民族主義、毛沢東主義、資本主義という、まったく異なる方向へ向かっているベクトルを、習近平国家主席は同じ方向へ向かわせることができるのだろうか。

習近平政権の誕生で中国社会の流れは確かに小平の時代に終止符を打った。しかし新たな時代の方向性はまだ不透明なままである。【1月19日 柯 隆氏 JP PRESS】
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“習近平中国の新時代”は、別の言葉で言えば、習氏自身が語る「新常態(ニューノーマル)」でもあるでしょう。

経済的には成長速度を抑えながら、これまでの高成長のもたらした経済格差・環境汚染などのひずみを是正。
一方で、腐敗や格差の温床となる規制を緩めて、効率的な自由貿易・民間企業参入を促進。
社会的には綱紀粛正を進める。
対外的には、「中国の夢」の実現を目指す。

・・・といったところでしょうが、まとまり・整合性をもった方向性が実現できるかは、これからの話です。

いずれにしても、習近平国家主席が目指す「新常態(ニューノーマル)」には、欧米的な“民主化”の要素はなさそうです。

新公民運動への弾圧はこれまでも取り上げてきましたが、天安門事件で学生らに理解を示したことで失脚した趙紫陽元総書記の再評価がなされないことにも、民主化の方向には向かっていないことが窺えます。

****趙紫陽元総書記の再評価なし=死去10年「沈黙が態度」―中国紙****
中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は17日、1989年の天安門事件で失脚した趙紫陽元共産党総書記の死去から17日で10年を迎えたことを受けた社説を掲載した。

「中国政府は一貫して趙紫陽を語り論じることを避けており、この種の沈黙は通常、一種の態度と認識される」と強調、改革派・自由派の知識人らが求める趙氏への再評価はないとの見方を示した。

社説は「(趙氏死去時の)2005年の政府の評価はおおかた、今日の態度である」と主張。

国営新華社通信は05年1月29日、趙氏の葬儀を報じた際、同氏が改革・開放政策の推進などで「党・人民事業のため有益な貢献を行った」と功績を評価した。一方で「89年の政治風波(天安門事件)で重大な誤りを犯した」と批判している。

社説はこの評価が今も変わっておらず「社会はますます同意している」と強調した。

一方、今年が趙氏と同じく開明派指導者で同氏より先に失脚した胡耀邦元総書記の生誕100周年であることも挙げ「政府筋は盛大な記念活動を開催すると既に公表した」と指摘。党・政府が、胡氏と趙氏を区別していることを示唆した。【1月17日 時事】 
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新時代に向けて一番重要なことは・・・・
ところで、下記記事は、毎日のように報じられる“中国ネタ”のひとつです。

****韓国でゴミを「投函」する中国人観光客・・・「郵便ポスト」を開ければ露店商が分かる!?****
中国メディアの今日早報は14日、韓国メディアの朝鮮日報がこのほど韓国を訪れる中国人観光客が郵便ポストにゴミを入れるため困っていると論じる記事を掲載したことを伝えた。

記事は、中国人が海外を訪れるにあたって、中国との違いで困ることとして「公衆トイレが少ないこと」、「ゴミ箱が少ないこと」があるとし、郵便ポストにゴミを入れる中国人観光客が韓国で増えていると紹介した。

さらに、ソウル市内のロッテ百貨店前では、中国人観光客が郵便ポスト内に捨てたゴミの量が1週間で10リットル分に達するとしたほか、東大門平和市場の入り口付近の郵便ポストでは週に2-3リットル分に達すると報じた。

続けて朝鮮日報の報道を引用し、「(ソウル市内の繁華街である)ミョンドンの郵便局職員が郵便ポストを開けると、タバコの吸殻やみかんの皮、竹串のほか、中国人が好んで食べるカボチャの種の殻などが出てくる」と伝え、同職員の話として「郵便ポストを開ければミョンドンでどのような露店商がいるか分かる」と報じた。(後略)【1月19日 Searchina】
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ゴミ箱が少ないからと言って、ゴミを郵便ポストに投げ込むような国民である限りは、習近平国家主席が何を目指そうともおのずと限界があります。
国内における公正・公平も達成できませんし、対外的な信頼を得ることもないでしょう。
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サウジアラビア  その異様なまでに厳しい社会管理体制 むち打ち1000回、路上での斬首刑

2015-01-18 23:05:00 | 中東情勢

(運営していたサイトの内容がイスラム教を侮辱するものだとして2012年に逮捕され、むち打ち1000回の刑(50回ずつ20週間)を言い渡されたライフ・バダウィ氏 2回目の執行が延期され、最高裁で再審査されるとの情報もあります。 “flickr”より By Niyz News https://www.flickr.com/photos/128920477@N04/16269865716/in/photolist-qMHjf9-qNL4bZ-qviTLW-qMpGMA-pPLB5Q-qMN21A-qMN11j-qKziFS-qvi5LG-qvqfHT-pR66dv-qKzjWs-qviSSb-qMQZHT-qvp3aD-qovsYA-qMFLjx-qMQY1p-qKy61d-qEmffp-qMFMm2-qMFMfa-pQQTKE-qvgUbL-qu6hhP-qKy8hs-qvqnrF-qGq4AU-qraCpR-qtKARR-qsdZhT-qoASX8-qEN2oS-qwPxoV-qJKAKH-qrBMdU-pShA2z-qsY954-pQZg2m-qDswpU-qv7vpw-qsE7S2-qvqqK4-qMFNAg-qvgRZS-qvqnjM-qMFM7e-pR4T7i-qMLMA1-qvp2P8)

王位継承によって、事態はさらに不安定化
中東の地域大国サウジアラビアは、聖地メッカを守護する国家として、また、その圧倒的なオイルマネーによって、イスラム教のなかでも多数派のスンニ派の盟主的存在であり、シーア派を代表するイランとは確執が多い国家でもあります。

その中東への影響力から、「イスラム国」への対応、パレスチナ和平への対応などで、その姿勢に世界が注目する国でもあり、最近では、アメリカのシェールオイル開発拡大を阻止する観点から原油価格下落を容認する姿勢をとっていることが注目されるなど、石油関連でもその動向が注目される国でもあります。

この地域大国サウジアラビアは王制国家ですが、アブドラ国王が90歳と高齢なため、かねてより王位継承問題が取り沙汰されており、中東不安定化の火種のひとつと見られています。

****国王交代でサウジは不安定化?****
昨年末に入院し、肺炎と診断されたサウジアラビアのアブドラ国王(90)。
サルマン皇太子(79)は国王の健康状態に心配はないと述べたが、高齢ということもあり、危険な状態ではとの噂が飛び交った。

サウジアラビアでは1953年に初代国王アブドルアジズが死去してから、息子の5入がほぼ年齢順に王座に就いてきた。

アブドルアジズは部族指導者たちの娘99一人と政略結婚し45人の息子を儲けたため、後継者には事欠かなかった。現国王アブドラの後を継ぐサルマンは25番目の息子と思われる。

アブドラは昨年春、一番下の弟であるムクリン王子(69)を継承権第2位の副皇太子にした。
ムクリンの母親はイエメン人の側室だったため、兄たちを飛び越えた突然の指名に王室内では不満の声が上がったという。

この次には初代国王の大勢の孫たち(いわゆる第3世代)が後継者候補に名を連ねている。そこではさらに大変な権力争いが繰り広げられそうだ。

いずれにしても、次期国王にとっては前途多難だろう。サウジアラビアは今、国家史上最大の正念場を迎えようとしている。

久しく世界の石油市場に君臨してきたサウジアラビアが、アフリカやアメリカ、北極地方で盛んに進められている石油開発のせいで国際競争にさらされている。

各国での新たな探査事業を牽制し、市場シェアを維持するために、原油価格の下落容認という危険な作戦に出たところだ。

盤石と思われてきたアメリカとの友好関係も試練の時にある。対エジプトやシリア内戦、イラン核開発などの問題で意見が食い違うからだ。

国内ではアラブの春のような民衆蜂起は起きていないが、当局は少数派のイスラム教シーア派の政治活動を弾圧してきた。

その一方で、スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の標的にされるという不安もある。

女性差別の現状や、なかなか進まない政治改革に国民がいつしびれを切らすかも分からない。王位継承によって、事態はさらに不安定化しそうだ。【1月20日号 Newsweek日本版】
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ムクリン王子(69)を継承権第2位の副皇太子に指名したのは、初代国王の大勢の孫たち(いわゆる第3世代)への継承が非常に難しいため、問題先送り的な対策でもありますが、それはそれで・・・というところです。

【「イスラム国」の国内での影響拡大に警戒
国内政治的には、上記のように少数派のシーア派を抑圧する一方で、スンニ派のイスラム過激派にも厳しい姿勢を明確に示すようになっています。

2014年2月には、「社会の安全や国家の安定を損なう」全ての犯罪行為、「国家の名声や立場に背く」行為をテロリズム行為と断じ処罰対象にする対テロ法を施行し、現在の政治体制がイスラム過激派の標的となる懸念に敏感となっています。

****<サウジアラビア>シーア派を殺害…容疑者77人逮捕****
サウジアラビア内務省は24日、イスラム教シーア派住民が多い東部州ダルワを襲撃し、市民8人を殺害した疑いで、実行犯とされる男4人を含む容疑者77人を逮捕したことを明らかにした。

容疑者らはスンニ派の過激派組織「イスラム国」の指示で動いていたという。イラクとシリアで勢力を伸ばす「イスラム国」は、イスラム教の2大聖地があるサウジへの侵攻を図っており、治安当局は警戒を強めている。

内務省によると、犯行グループは今月3日、ダルワ付近でサウジ人男性を殺害し、車を強奪。この車でダルワに向かい、シーア派住民ら7人を殺害、13人を負傷させた。

さらに事件後に周辺を捜査していた治安当局との銃撃戦が起こり、双方の計5人が死亡した。

治安当局は、犯行グループが使用していた通信機器や文書を押収。外国にいるイスラム国メンバーから直接指示を受けていたことが判明した。

容疑者の大半はサウジ人で、半数以上は過去に犯歴があった。シリア、ヨルダン、トルコの出身者も含まれていた。

イスラム国はシーア派を敵視しており、イラクの実効支配地域でシーア派住民を処刑した事例が多数報告されている。【2014年11月26日 毎日】
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サウジラビアのイスラム教の主流であるワッハーブ派は極めて厳格なシャリーア(イスラム法)の遵守を求めており、いわゆるイスラム原理主義的な側面があります。

そのため、過激な行動で世界が嫌悪し、サウジアラビア自身も取締りを厳しくしている「イスラム国」と、アメリカの盟友サウジアラビア国内で行われていることには、欧米的な見方からすると似通ったところがあります。

人的にも、サウジアラビア出身のオサマ・ビンラディンも元々ワッハーブ派に属する信徒であったように、サウジアラビアからイスラム過激派へ参加する者は多く、また、資金的に過激派の活動を支えているとも言われています。

20週間繰り返される公開むち打ち刑
いずれにしても、サウジアラビアの宗教的少数派のシーア派住民への抑圧、民主化を求める動きへの弾圧、女性の権利・社会参加を認めない頑迷な対応などへの国際的批判も強く存在します。

****サウジアラビアでリベラルなサイトを開設したブロガー、むち打ち1000回の刑に****
サウジアラビアのブロガー、ライフ・バダウィ氏が、国内でのディベートをすすめるリベラルなオンラインフォーラムを開設した罪で、刑務所に入れられている。

1月16日には2回目のむち打ち刑が予定されているが、彼の妻の話によれば、体力的に持ちこたえられないかもしれないという。

ライフ・バダウィ氏は「イスラムを侮辱した」罪で2012年から収監されていたが、2014年5月に、法廷で禁錮10年とむち打ち1000回の判決を受け、同年9月に判決が確定した。

1回目の公開むち打ち刑は、1月9日に西部の都市ジッダで執行された。バダウィ氏は、長く硬いむちで背中を50回打たれる刑を耐え抜き、1月16日には、2回目となる50回のむち打ち刑を受けるという。

そして、オーストラリアのニュースサイト「News.com.au」によれば、バダウィ氏は今後20週間にわたって、毎週金曜に同じ形で公開むち打ち刑を受けることになっている。

バダウィ氏の妻、エンサフ・ハイダルさんは、アムネスティ・インターナショナルに対して次のように語った。「夫の話では、むち打ちのあとの痛みがひどく、健康状態も悪いそうです。きっと次のむち打ち刑には耐えきれないでしょう」(後略)【1月16日 The Huffington Post】
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バダウィ氏の弁護士で人権活動家のワリード・アブ・アルカイル氏も、禁錮15年という長い刑期と、その後の15年にわたる渡航禁止を宣告されたとのことです。

アルカイル氏は、「政権と国家の評判を失墜させる画策」「世論の扇動」「司法に対する侮辱」の罪で、サウジの対テロ法廷で有罪判決を受けたそうで、先述の対テロ法がイスラム過激派だけでなく民主化を求める動きにも適応されることが懸念されます。

過酷な20週間繰り返される公開むち打ち刑には、国連のゼイド人権高等弁務官も中止を求めています。
“ゼイド氏は、むち打ち刑は「残酷かつ非人間的な刑罰で、サウジも批准する拷問禁止条約によって禁じられている」と指摘、サウジ国王に恩赦を求めた。”【1月16日 共同】

まともに続ければ死んでしまいます。どこかで国王の恩赦とかもあるのでは。
(ネット情報によれば、2回目の執行は延期され、最高裁で再審されることになったとも)

死刑判決につながる裁判が「甚だしく不公正」】
****サウジで斬首刑に処せられたミャンマー人女性、死の間際まで無実訴え****
イスラム教の聖地であるサウジアラビアのメッカで今週、幼い継娘を暴行し殺害した罪に問われたミャンマー人女性が、路上で斬首刑に処せられた。

17日にインターネットに投稿された動画では、女性が刑執行の数秒前にも無実を訴え続けている様子が明らかになっている。

12日に国営サウジ通信が内務省の発表を引用しながら伝えたところによると、刑死したミャンマー人のライラ・ビント・アブドゥル・ムスタレブ・バシムさんは、6歳の継娘の死に関する捜査の結果、裁判にかけられ、死刑判決を言い渡された。

継娘はバシムさんと同じく「ビルマ人(ミャンマー人)」で、死因は殴打とほうきの柄を使った性的暴行だったとされる。

インターネットの動画ニュースサイト「ライブリーク」に掲載された動画で、バシムさんは数人の警官に取り囲まれた状態で路上でひざまずいているとみられる。

黒い布で覆われたバシムさんは「わたしは殺していない。神のほかに神はいない。わたしは殺していない」と叫び、「禁止」を意味する「ハラム」という言葉を繰り返した後、「殺人は犯していない。わたしはあなた方を許さない。これは不当な仕打ちだ」とアラビア語で訴えている。

すると白い服の死刑執行人が、遠くに山が見える横断歩道のそばで、バシムさんを地面に押さえつける。ハシムさんは「殺していない」と叫び続けるものの、死刑執行人の刀で斬首される。その後、ハシムさんの罪状が読み上げられる。(中略)

サウジでは従来から公の場で死刑が執行されており、同国の厳格なシャリア(イスラム法)適用によって、今年これまでにバシムさんなど10人が斬首されている。

AFPの独自調査によると、昨年の死刑執行は87人と前年の78人から増加した。

国連特別報告者は、サウジで死刑判決につながる裁判が「甚だしく不公正に行われている」と指摘。また、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、2013年のサウジの死刑執行がイランとイラクに次いで3位だったとしている。

サウジで死刑を言い渡される罪には、強姦や殺人、背教、武装強盗、麻薬密輸がある。【1月18日 AFP】
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サウジアラビアには東南アジアからの出稼ぎ労働者(メイドとして働く女性など)が大勢いますが、そうした東南アジア系労働者への厳しい対応がしばしば問題となることがあります。

今回のミャンマー人女性斬首刑についても、そうした人種的な側面がなかったのでしょうか?

かつての宗教警察トップが「女性は顔をベールで覆う必要はない」】
そんなサウジアラビアにも穏健な考えも宗教指導者も存在するそうで、意外な感がありました。

****<サウジアラビア>女性のベール巡り論争…指導者見解に賛否****
保守的な風土が根強いサウジアラビアで、著名なイスラム教指導者アフマド・ガムディ師が「女性は顔をベールで覆う必要はない」との見解を示したことに賛否両論が巻き起こっている。

ガムディ師は今月13日、顔を覆っていない妻と共にテレビに出演して持論を展開。イスラム法の公的解釈を示す立場の大ムフティ(イスラム最高法官)は「ガムディ師は悔い改めるべきだ」と反発している。

サウジはイスラム法を国家統治の基本に据えている。ガムディ師はイスラム教の聖地メッカ(サウジ西部)で、市民の宗教倫理を監督する勧善懲悪委員会(宗教警察)のトップを務めた経歴を持つ。

サウジからの報道によると、ガムディ師は短文投稿サイト・ツイッターを通じて女性からの質問に応じ、「インターネットの交流サイトに女性が自分の顔写真を掲載するのは認められる。イスラム法学書や高名な宗教指導者の解釈に基づく意見だ」と述べた。

さらに13日放送の民間テレビ局とのインタビューで「イスラム教の預言者ムハンマドは女性に公共の場で顔を覆えとは命じていない」と発言。共演した妻はスカーフと黒布で全身を覆っていたが、顔を隠すベールは着用していなかった。

インターネット上ではガムディ師に賛同する意見も相次いだが、保守派は反発。大ムフティは15日に地元メディアを通じて「女性が顔を覆うのは社会慣習であり、宗教的義務ではないとの意見があるが間違いだ。妻を公衆の面前にさらすなど大変危険な行為だ」と反論した。

イスラム教の聖典は女性教徒について「外部に出ている部分は仕方ないが、その他の美しい所は人に見せぬように」と述べている。

公共の場で顔や手以外を隠さなければならないとの解釈が一般的だが、サウジなど保守的な地域では顔まで隠す女性が多い。世俗色が強いチュニジアやレバノンでは髪や顔を覆い隠さないイスラム教徒もいる。

サウジ女性は、男性の保護者の同意なしに就職や結婚はできず、乗用車の運転も禁止されている。【12月22日 毎日】
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メッカの宗教警察トップを務めた経歴の者が・・・というのが意外です。

「妻を公衆の面前にさらすなど大変危険な行為だ」・・・危険をもたらす、欲望をコントロールできない男性の問題であり、そのような男性を容認している社会・教育・宗教の問題でしょう。

現在のアブドラ国王は、伝統的な宗教観に縛られない判断を下すことも多い存在ですが、王位継承でサウジアラビアの変革が進むのかどうか・・・。
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ミャンマー  民主化プロセスに停滞感も

2015-01-17 21:08:28 | ミャンマー

(「スー・チー」カレンダーを手にした支持者 こうした経済的・社会的に厳しい状況で生活する人々のために現実問題として何ができるかが、政治家スー・チー氏の課題です。 “flickr”より By Jerry Lee https://www.flickr.com/photos/jezza_on_the_block/16140378026/in/photolist-qAgE4L-pvSmLe-pZ2Lpb-pkLk98-qfeRn1-q173JF-iTXC5P-qyexLw-pLzMV7-qn8usX-qDxGEM-qmZ3zS-qBgqKq-qn8pVF-qDo3CD-qn8nRk-pkdcoo-pZmb6f-qeBRJA-qe8YKs-pZDT7E-qasr7J-qe9NrG-q4mDGv-qkLvCi-qiuxpj-qiuy45-q4dCyY-pp1PRx-poMfjQ-qaDft9
昨年正月にヤンゴンを観光した際に、私も「スー・チー」カレンダーをお土産に・・・と思ってNLD党本部まで足を運んだのですが、オフィスは閉まっており買えませんでした。)

憲法の核心部分を改正せずに「スー・チー政権」誕生を阻止
ミャンマーでは今年10月下旬か11月初旬に上下両院選が行われる予定で、その後の議員投票で大統領が決まります。

野党指導者のスー・チー氏は次期大統領を狙っていますが、周知のように旧軍政が2008年に制定した憲法は「本人、両親、配偶者、子供とその配偶者のいずれかが外国国民であれば大統領にはなれない」と規定しており、夫(故人)が英国人で2人の息子も英国籍のスー・チー氏には大統領資格がありません。

スー・チー氏の大統領就任のためには憲法改正が必要になりますが、議員の4分の1は国軍総司令官が指名した国軍議員が占めている現行制度では国軍の協力なしには憲法改正はできません。

スー・チー氏と彼女が率いる野党「国民民主連盟(NLD)」は、大統領資格要件や憲法改正要件に関する改正を強く求めていますが、政権側が消極的なことはこれまでも取り上げてきました。

2014年11月8日ブログ「ミャンマー 主要政党トップや国軍首脳らを集める異例の円卓会議 憲法改正問題に道は開けず」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141108

11月にミャンマーを訪れたオバマ米大統領もミャンマーの民主化について「決して完了してはおらず、後戻りもできない」と警告、改憲を含む民主化プロセスの加速を求めています。

****<ミャンマー>米大統領、スーチー政権阻止の憲法条項を批判****
オバマ米大統領は14日、ミャンマーの最大都市ヤンゴンで、野党「国民民主連盟(NLD)」のアウンサンスーチー議長と会談した。

2人は来年後半予定の総選挙・大統領選に向け「スーチー大統領」誕生を阻む憲法の大統領資格条項を「公平でない」と批判した。

国会は13日から憲法改正問題の集中審議に入ったが、軍人や与党の議員が多数派の国会が、改正を受け入れる余地はないとみられる。(中略)

スーチー氏は「民主化改革の核心は軍人優位の憲法を改正することだ」と繰り返してきた。NLDは8月、改正を求める500万人の署名を国会に提出。憲法改正問題は21日まで審議される。

NLDは改正に向け、大統領資格要件だけでなく、むしろ憲法改正要件(436条)の緩和を焦点に据えて全国キャンペーンを続けた。

現憲法下、改正には「国会議員の4分の3超」の賛成が必要だが、議員の4分の1は国軍総司令官が指名した国軍議員が占めており、総司令官が事実上の拒否権を握る。
しかも与党「連邦団結発展党(USDP)」を加えた議員は全体の7割以上だ。

憲法改正要件の改正を焦点にすることで「広範な自治」を求めて憲法改正を訴える少数民族勢力とも共同歩調を取れる。

だが、国軍と少数民族武装勢力との間では今、「全土停戦」に向けた交渉が続いており、内戦が続く中で国軍が自らの機能低下を招きかねない憲法改正に応じるかは疑問だ。

スーチー氏は5日の記者会見で「国会が500万人の意思を無視するなら、『国民の意見は国会の意見だ』という(主に与党議員の)モットーに反する」と強調。国軍に対しても「国民の意思を無視するとは思わない」とけん制していた。

国会審議の見通しについて、国会筋は取材に「憲法は重要でない部分だけ改正し、大統領資格や憲法改正要件などの核心には触れないと思う」と予測する。

国会はこれまで、現行の選挙制度である小選挙区制を、与党有利とされる比例代表制に変更する議論を続けてきた。

「NLD圧勝」を回避する「裏技」とみられたが、国会筋によると憲法裁判所は14日、比例代表制の導入を「違憲」と判断。現状では導入は困難となった。

このため国軍や与党は、憲法の核心部分を改正せずに「スーチー政権」誕生を阻止する可能性が高い。【2014年11月14日 毎日】
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総選挙での野党NLDの躍進が避けられない以上、改憲問題は総選挙後に先延ばしして、とりあえず総選挙後の大統領選挙は現行憲法で行い、「スー・チー政権」誕生は阻止するという意向でしょうか。

スー・チー氏の大統領資格が認められない場合、次期大統領の最有力候補と目されているシュエマン下院議長も、従来の「総選挙前の改正」から「総選挙後の改正」に主張を転換しています。

****<ミャンマー>総選挙後に改憲****
ミャンマーのシュエマン下院議長は18日、首都ネピドーで記者会見し、国軍優位を規定する現行憲法について、2015年後半予定の「総選挙後に改正される」と述べた。

国会は今、憲法改正について集中審議をしており、これまで「総選挙前の改正」を繰り返してきた議長が突然、前言を翻した格好だ。

シュエマン議長は、最大野党「国民民主連盟(NLD)」議長のアウンサンスーチー氏とともに、次期大統領職を望んでいるとみられている。

シュエマン議長は会見で「今の段階で憲法が改正されれば、今の政府や国会は存続できなくなる」と述べ、国会がまず憲法改正草案を策定し、来年5月に国民投票を実施する方針を示した。

現憲法は大統領資格について「本人、両親、配偶者、子供とその配偶者のいずれか」(59条)が外国籍であれば大統領になれないと規定。2人の息子が英国籍であるスーチー氏の「大統領就任」を阻んでいる。

次期総選挙は現憲法下で実施されることになるが、スーチー氏にどう影響するかは不透明だ。

議長によると、21日まで予定していた憲法改正についての国会での集中審議は延長する予定だという。

憲法改正には「全議員の4分の3超」が賛同する必要がある(436条)。国会は国軍総司令官が指名した軍人議員が全議員の4分の1を占めており、総司令官が事実上の拒否権を握っている。【2014年11月19日 毎日】
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後ずさりの兆候
現行議会勢力では圧倒的に不利な立場にあるスー・チー氏としては、テイン・セイン大統領や国軍司令官などトップの協力を取り付けて事態打開を図りたいところですが、その方向も思わしくありません。

****ミャンマー大統領、改憲に消極姿勢=ロヒンギャ族脱出「作り話****
ミャンマーのテイン・セイン大統領は20日、国民民主連盟(NLD)党首アウン・サン・スー・チー氏ら野党陣営が要求している憲法改正について、「改憲は第一に国会、第二に国民の責任だ」とし、「政府がこうしろああしろと指示はできない。国軍もできない」と述べ、改憲に消極的な姿勢を示した。米政府系放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)のインタビューに答えた。

VOAによると、大統領はまた、イスラム系少数民族ロヒンギャ族が当局の迫害を恐れて西部ラカイン州から船で大量に脱出していると伝えられていることに対して、「ボートピープルが拷問から逃げ出しているというのはメディアのストーリーにすぎない」と主張。「一部の人間が悪意を持って否定的なことを書いている」とも語り、メディアの作り話との見方を示した。【11月21日 時事】 
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これまでミャンマーの民主化を牽引してきたテイン・セイン大統領ですが、随分と後退したような感じがします。

こうした困難な情勢で、スー・チー氏は総選挙ボイコットの可能性にも含みを残しています。

****スー・チー氏、来年の総選挙ボイコットに含み****
ミャンマーの最大野党・国民民主連盟のアウン・サン・スー・チー党首は30日ヤンゴンで記者会見し、来年の総選挙に党として参加するかどうか明言を避け、ボイコットの可能性に含みを残した。

スー・チー氏は「我々の判断は選挙の日程と、ミャンマーの状況がどのようになっているかによる」と語った。

また、2012年の議会補選に参加を決めたのは、収監された国民民主連盟メンバーの釈放を評価したからだった、と述べ、今回も参加と引き換えに政権側の譲歩を迫る姿勢をにじませた。(後略)【12月30日 読売】
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総選挙ボイコットは政党としては自殺行為ですから、極力避けたい選択肢です。

先述のように、スー・チー氏としてはテイン・セイン大統領の指導力に期待するしかない状況ですが、大統領はスー・チー氏との本格的な協議を避けているとも。

****スーチー氏、大統領と応酬 改革協議の枠組み巡り****
ミャンマーで憲法改正や国内和平の動きが停滞する中、改革を推進させるための協議の枠組みをめぐって、テインセイン大統領と野党のアウンサンスーチー党首の溝が広がっている。

スーチー氏はキーパーソン4人による対話を求めているが、大統領は各党党首ら48人による会議を開いた。

大統領は、民主化と改革の継続、国内和平などを議題にした会議を12日に首都ネピドーで主催した。出席者は大統領、国軍最高司令官、スーチー氏ら党代表に加え、地方政府の少数民族担当相など48人に上った。

出席者によると、会議では1人約5分ずつ発言し、大統領がそれにコメントしたという。少数民族の政党党首は地元メディアに「多くの出席者が時間の無駄だと感じた。今後出席するかはわからない」と語った。

スーチー氏が党首を務める国民民主連盟(NLD)によると、スーチー氏は会議で「改憲に政府が熱心でない。国民の意向を尊重していない」などと政府を批判した。スーチー氏は会議後、地元記者らに「会議の目的がわからない」。

こうした会議を大統領が開くのは昨年10月末に続き2度目。前回の会議は14人が出席したが、今回はさらに参加者が増えた。大統領報道官を兼務するイェートゥ情報相は記者会見で「大統領は包括的な形で行いたいからだ」と説明した。

一方、スーチー氏は大統領、国軍最高司令官、下院議長との4者対話を求めてきた。国会は昨年11月、これに上院議長と少数民族代表を加えた6者会談を行うよう決議したが、大統領は応じていない。

ある野党上院議員は取材に「スーチー氏は少人数での協議を求めているが、大統領はやりたくない。本音は憲法を改正したくないからだ」と述べた。【1月16日 朝日】
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48人の出席者が1人約5分ずつ発言・・・・殆ど形式的な会議です。
現在の政治状況であれこれ要求されても困る・・・という大統領の気持ちもわからないではないですが。

ただ、改憲・次期大統領の問題だけでなく、民主化全体に“停滞”の感も漂っています。

****米、ミャンマーの人権に懸念 内戦避難民の状況「改善を****
米国のマリノウスキー国務次官補(民主主義・人権・労働担当)は16日、ミャンマー最大都市ヤンゴンで記者会見し、同国の人権状況や民族対立について懸念を表明した。同国北部で続く内戦の避難民に国連などが支援物資を届けられない状況が続いているとして改善を求めた。

両国政府は15日までの2日間、首都ネピドーで人権対話を行っており、米国は懸念をミャンマー政府に伝えた。両国間の人権対話は2012年に続き2回目。

同国北部カチン州などでは、政府軍と少数民族武装組織の戦闘で約10万人が国内避難民になったままだが、国連によると昨年9月以降、政府の許可が出ず、国際機関が物資を届けられていない。

マリノウスキー氏は会見で、「非常に懸念している。(避難民への)人道上の完全なアクセスが即座に必要だ」と語った。国内で急進的な仏教徒による反イスラム運動が広がっていることについても、「政治などに宗教を利用することは危険だ」と述べた。

ミャンマーの人権状況をめぐっては国連の李亮喜(イヤンヒ)・特別報告者も16日に記者会見し「表現、集会の自由の領域で、後ずさりの兆候が勢いを増している」と懸念を示した。

当局は投獄中の政治犯を27人としているが、実際はもっと多くの人が政治的理由で拘束されているとして、「改善されたとは言えない」と語った。【1月17日 朝日】
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国連などの支援物資が届かないという状況は、旧軍政時代の2008年サイクロン被害を思い出させます。
民主化が目覚ましい勢いで進展したミャンマーですが、実態が変わるためには時間が必要なのでしょうか。

次期大統領の話に戻すと、国軍が圧倒的な権限を有しているという実態にあっては、たとえスー・チー氏が大統領になれたとしても、国軍との摩擦はさけられません。

そうした現実的見地からすれば、国軍・旧勢力をコントロールできる大統領のもとで、(もしNLDが総選挙で多数議席を獲得すれば)首相職を新設してスー・チー氏が就任するという、前回ブログでも取り上げたシュエ・マン下院議長の「連立政権構想」は検討に値するように思えます。
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イラン  94年のテロ事件がアルゼンチンで政治問題化 18日から核問題交渉再開 決断する段階

2015-01-16 23:05:59 | イラン

(14日 ジュネーブの街を散歩するイラン・ザリフ外相とアメリカ・ケリー国務長官 “flickr”より By U.S. Department of State https://www.flickr.com/photos/statephotos/16093756359/in/photolist-qw9H4V-qw3jYf-qwb3LM-qw3jro-qLiJeA-qw9GGc-pSn3wv-pS5gZC-pSimm6-pS5gwo-qLMtJY-qP915e-qwzM5G-pS8Xb7-qwHtjc-qLRaGY-qwG27X-qP5jDr-qP5jui-pS5gJh-qNVb6i-qP5iRV-qNVaTK-qww4Dw-qNVaJ6-qwv9EU-qP14bh-qPmEdK-qM4yJW)

フェルナンデス大統領 イランと密約?】
南米アルゼンチンと中東イランの関係といってもピンときません。

地下鉄サリン事件の起きた95年の前年、1994年にアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで7階建てビルが全壊し、85人が死亡するという大規模テロがあり、この事件の黒幕が当時のイラン政府で、実行犯はシーアは武装組織ヒズボラだったとされています。

****アルゼンチン、イラン元大統領を国際手配 94年テロで****
当地のユダヤ人センターで1994年に起きた爆破テロ事件に関連し、アルゼンチン検察当局がイランのラフサンジャニ元大統領らの逮捕状を請求したことを受け、同国連邦裁判所は9日、元大統領ら9人の逮捕命令を出し、国際手配を要請した。

事件では、同国のユダヤ人の活動拠点で中南米最大の規模とされるセンターの7階建てビルが全壊。85人が死亡、200人以上が負傷し、同国史上最悪のテロとなった。

犯人は特定されていないが、アルゼンチン当局は、当時のイラン政権幹部が犯行を計画し、同政権の支援を受けるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラが実行したとの見方を示してきた。

ラフサンジャニ氏は、1989年から2期8年にわたって大統領職にあった。

検察当局が25日、逮捕状請求に踏み切ったことに対し、イラン当局は「根拠がない」と非難する声明を出していた。【2006年11月10日 ロイター】
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当然ながら、「国際手配」とは言っても、この事件の関係でラフサンジャニ元大統領がどうこうされるという話はありませんが、ここにきて、アルゼンチンのフェルナンデス大統領に火の粉が降りかかってきています。

****検察「証拠に傍受録」 テロ巡る大統領の疑惑 アルゼンチン****
アルゼンチンで1994年に起きたユダヤ系施設への爆弾テロ事件を巡り、同国のフェルナンデス大統領らが14日、検察から捜査を求められた。

容疑者を処罰しないとの密約をイラン政府と結んだ疑いが持たれており、検察側は通信傍受で得た情報をもとに、「反論が不可能な堅い証拠がある」としている。

地元有力紙ラナシオンなどによると、同国が2012年、テロ事件の黒幕とされるイランと真相究明委員会の設置交渉をした際、逃亡中のイラン人容疑者を処罰しない代わりに、アルゼンチンから肉や穀物を輸出し、イランから石油を輸入する取り決めをしていたと主張している。

検察側の有力証拠は、両国政府関係者の電話の会話を傍受した記録だ。司法関係者が同紙に語った内容によると、アルゼンチンの有力政治家がイラン政府側に「アルゼンチン政府からの緊急メッセージを預かっている。素晴らしい内容のものだ」などと話す様子が録音されているという。

こうした証拠から、検察の報告書は「フェルナンデス大統領からイラン側に、非公式なルートで秘密裏に交渉が持ちかけられた」と指摘している。15日には検察官が国会で、この問題について報告する予定だ。

テロ事件は94年7月に首都ブエノスアイレスで発生。ユダヤ人共済会ビルが爆破され、ユダヤ人ら85人が死亡、約300人が負傷した。【1月16日 朝日】
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アルゼンチンで通信傍受・・・“盗聴”がどういう法律的位置づけにあるのかは知りませんが、いかにもありそうな話ではあります。

経済制裁を受けて苦しいイランにとっては、石油を輸入してくれるというのは助かるところでしょう。

話が横道にそれますが、輸入と引き換えに自国産品の輸出を求めるというのは、アルゼンチンの通常行っている輸入制限措置であり、WTOから是正勧告を受けています。

****WTO アルゼンチンに是正勧告****
アルゼンチン政府が工業製品などを自国に輸入する企業に求めている措置に対して、日本などが、WTO=世界貿易機関のルールに違反しているとして訴えていた問題で、WTOは15日、日本などの訴えを全面的に認めアルゼンチンに是正を勧告する最終判断を出しました。

アルゼンチン政府は、外国企業などが自国に自動車などを輸入する際に、これと同じ金額分の農産物など自国の物品の輸出を求める措置をとっていますが、これに対して日本は、3年前にアメリカなどとともにWTO=世界貿易機関のルール違反だとして提訴しました。

この問題を巡り、WTOで紛争処理の最終審に当たる上級委員会は15日、「輸入企業に重い負担を課している」などとして、日本などの訴えを全面的に認め、アルゼンチン政府に是正を勧告する最終判断を出しました。

これによって今後、問題の措置が是正されない場合、日本などは対抗措置としてアルゼンチンから輸入される農産品などの関税率を引き上げることなどが可能になります。(後略)【1月16日 NHK】
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アルゼンチン・フェルナンデス政権のこうした措置の背景には、過去の債務不履行(デフォルト)の影響で国債を発行して国際金融市場で資金を集めることもできず、主に貿易黒字で外貨を積み増すしかない事情があります。

ロウハニ大統領「重要課題を国民投票にかける好機だ」】
イランが行ったとされているブエノスアイレスでのテロ事件に話を戻すと、海の向こうの南米で随分荒っぽいことをやったものだ・・・という感があります。

当時に比べれば、イランも随分おとなしくなっています。経済制裁でそんな余裕がないと言うべきでしょうか。

イラン・ロウハニ大統領としては、なんとかアメリカ等との関係を改善し、核問題交渉を前進させ、制裁解除を実現したいところです。

そうしないと、制裁解除を期待されて登場しただけに、その存在意義が問われ、政治的求心力を失います。
しかし、国内保守派の強い抵抗もあって、なかなか交渉は進展していません。

そんななかで、イラン・ロウハニ政権がアメリカとの関係改善を国民投票にかける・・・という信じ難い話も流れています。
キューバがアメリカと関係改善できたなら、イランも・・・ということでしょうか。

****米と関係改善へ?イラン国内に波紋 ロハニ氏「重要課題、国民投票に****
イランのロハニ大統領が米国と国交正常化に乗り出すとの観測がイラン国内で広がっている。4日の演説で「孤立した国家は成長を持続できない」「重要課題を国民投票にかける好機だ」と述べ、これが国交正常化を指していると受け止められたためだ。
 
米国と敵対するイランだが、国民の間にはあこがれの気持ちも強く、投票になれば米国との関係改善を望む声が多数を占める可能性もある。ただ実現は困難との見方も出ている。

ロハニ氏は「重要課題」が何を指すのか具体的には示さなかったが、同じ演説で「不要なウラン濃縮を止める準備がある」などと核開発の縮小を再三強調。見返りとして制裁緩和を求めて交渉が続く、米欧など6カ国との核協議が念頭にあったようだ。

核協議は昨年11月下旬までの「枠組み合意」を目指したが、米国とのあつれきが壁になり、合意に至らなかった。そのため、ロハニ氏の発言は「米国との関係改善で国民に信を問う狙いだ」(ジバキャラン・テヘラン大教授)との見方が、イランの政治家や識者の間で強まっている。

イラン経済は、制裁に加えて頼りの原油価格も下落して低迷する。米国との国交正常化は究極の解決策となる。対立関係にあった米国とキューバが昨年末、関係改善に踏み出すと発表したこともイラン側の期待を高めているようだ。

しかし、1979年の革命で政教一致のイスラム体制となったイランにとって反米は「国是」。米国は80年に断交した。融和を嫌うイラン強硬派のインターネットサイトは「国家の運営は国民投票などに頼らず強くあるべきだ」「国民の代表は国会。米国との関係改善ならば手続きを踏むべきだ」などと反発した。

イランの国民投票は、国会議員の3分の2以上が認めたうえで、上部機関の護憲評議会、さらに最高指導者ハメネイ師の承認が必要だ。

国会の多数はロハニ氏と対立する強硬派が中心で、テヘラン大のジャバディ教授は「実現は不可能だろう」とみる。それでも国会と護憲評議会はハメネイ師の影響下にあり、同師が指示すれば実施の可能性はあるという。

ただ、イランが米国との関係改善を望んでも、イランと対立するイスラエルやサウジアラビアなどの強い反発が予想され、一筋縄にはいきそうにない。

オバマ米大統領は先月29日放送の米公共ラジオ・NPRのインタビューで、イランとの国交正常化は「絶対にないとは言わないが、段階を踏まねばならない」と述べ、まずは核協議を優先する姿勢を示した。【1月7日 朝日】
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最高指導者ハメネイ師が賛同して後押しすれば実現の可能性もあるでしょうが、ハメネイ師が賛同するようには思えませんし、ましてや後押しして・・・というのは考えにくい話です。

イラン民主化のためには実現してほしい話ではありますが。

決断をすべき段階
核問題交渉の方は、昨年11月のウィーンでの協議で包括合意できず交渉期限を延長し、3月末までの「枠組み合意」、6月末までの最終合意を目指しています。

高官レベルでの協議が今月18日からジュネーブで行われる運びとなっています。

それに先立ち、アメリカのケリー国務長官とイランのザリフ外相が会談していますが、「広範囲にわたり実質的なものだった」そうです。

****<イラン核問題>米イラン外相会談「広範囲に実質的なもの****
米国のケリー国務長官とイランのザリフ外相は14日、イラン核問題交渉についてジュネーブで約7時間にわたり会談した。

ハーフ米国務省副報道官によると、両外相はこれまでの核交渉を総括し、15日以降に本格化する協議に関する指示をそれぞれの交渉団に与えたという。会談は「広範囲にわたり実質的なものだった」という。

米側からはイラン核交渉を主導してきたシャーマン国務次官やバーンズ前国務副長官らも参加、技術専門家も関わった。

イラン国営衛星テレビ・プレスTVによると、ザリフ氏は会談後、「(交渉を)前進するために相手側が決断をすべき段階に来ている」と語った。

両国は15~17日、高官レベルで協議する。イランと主要6カ国(米英仏中露独)の全体交渉は18日に再開する。【1月15日 毎日】
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2人で15分程度ジュネーブの街を歩く場面もあったそうで、雰囲気は悪くなさそうです。
そろそろ結果が出てほしいところですが。双方とも“決断をすべき段階”でしょう。
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ナイジェリア  「ボコ・ハラム」による虐殺に無力な政府・国際社会

2015-01-15 21:36:40 | アフリカ

(“flickr”より By tangumonkem https://www.flickr.com/photos/62869068@N00/16083052437/in/photolist-qvcRax-pQihAU-qMd3Ki-qMbA5g-pQbiBW-qJSvvA-qLUcpz-qLVhxu-qLNGDD-quuj48-qun8J3-qLQmHr-pPKXCL-qLumdz-qtSdH1-qtUzhx-qLcXNk-qL3FmY-qKX8k6-qKCAtx-qt8Yi2-pNNE3K-qsSxX7-qsS637-pNA9uR-qK7swh-qsiv8f-pMCYqJ-qrTrB7-qJfwFD-pLWfm3-qqXMe8-qLNWPC-qwxxzu-pSjNyK-qwDP8k-qNWxtM-qP6m7p-qNQPzg-pSdN8B-qMPzti-qK8QLi-qHxVKN-qvpW4j-qv1ngt-pQpUo2-quqp9V-qNQBqB-qMbKVA-qsbwdf)

どれだけの人が殺されたか分からない
ナイジェリアのイスラム過激派「ボコ・ハラム」については、1月12日ブログ“ナイジェリア  女児を使った「人間爆弾」 「ボコ・ハラム」の暴力が止まない背景”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150112で、ナイジェリア政府軍の抱える問題などの側面も取り上げたところですが、繰り返される惨劇の直接の原因が「ボコ・ハラム」自身の信じがたい狂気にあることは言うまでもないところです。

1月12日ブログでも触れたように、「ボコ・ハラム」に制圧された北東部ボルノ州バガでは、数百人から最大2000人にのぼる住民が虐殺されたのでは・・・と見られていますが、未だにその全容は明らかになっていません。

****ボコ・ハラム2000人虐殺の恐怖****
テロリストたちは、灌木に逃げ込んだ住民を執拗に追いかけ殺戮した

ナイジェリア北東部の国境地帯に位置するバガは年明け早々から、自動小銃やグルネードランチャー(擲弾発射装置)で武装したイスラム過激派ボコ・ハラムの猛攻を受け、町のほぼ全域が焼き払われた。

バガはチャド湖に臨む漁業の町。ボコ・ハラム対策のために設置されたナイジェリア、ニジェール、チャドの合同部隊が駐留する基地があり、過去にもボコ・ハラムの攻撃を受けてきた。

イスラム法による支配を目指すボコ・ハラムは2009年以降、新指導者の下で過激化し、各地でテロを繰り返してきたが、今回の攻撃は犠牲者数で過去最大規模のものだと、ナイジェリア政府軍は認めている。

死者は数百人から最大2000人にのぼるとみられ、さらに数千人の避難民が発生した。

ナイジェリア政府は、来月14日に実施される大統領選挙の準備に追われ、今のところバガ攻撃について公式なコメントを発表していない。

住民に対して残虐極まりない攻撃が行われたのは、この地域の自警団が政府軍側についたことに対する報復とみられる。バガ周辺には今も多数の遺体が散乱している模様だ。

バガが位置する北東部ボルノ州の州都マイドゥグリまで逃れた生存者たちが今、虐殺の模様を語り始めている。

それによれば、虐殺が始まったのは1月3日。ボコ・ハラムが熾烈な銃撃戦の末に合同部隊を撤退させ、基地を制圧してからだ。

基地を拠点にしたボコ・ハラムはその後何日にもわたってバガとその周辺の村々を繰り返し襲撃した。

ボコ・ハラムは「ほとんどあらゆる方向からバガの町になだれ込み、無差別に発砲し、住民を殺しまくった」と、25歳のトラック運転手イブラヒム・ガムボは地元紙に語った。「他の人たちと一緒に無我夢中で逃げた」

ボコ・ハラムの戦闘員は小型トラックやオートバイで町に入り、灌木地帯に逃げた人々を追いかけて射殺した。犠牲者の多くは、逃げ遅れた女性や子供だった。家に隠れていた人たちは、家ごと焼かれたと伝えられている。

カヌーで湖を渡り、隣国チャドに逃げた人たちもいる。泳いで渡ろうとした人たちの一部は溺死した。湖の中程にある島にざっと1000人がたどり着き、飢えと寒さに耐えていると、国連の難民救援スタッフが報告している。

「逃げる途中、灌木地帯でたくさんの死体に出くわした。集団で逃げて皆殺しにされた人たちもいれば、ばらばらに逃げて殺された人たちもいた。子供や女性の死体もあった。妊娠した女性の腹が切り裂かれた死体も見た」と、ガムボはマイドゥグリの難民キャンプで証言した。

ナイジェリア政府軍は声明で次のように述べている。「2015年1月3日以降の襲撃の数々は、世界中の人々にボコ・ハラムの凶暴さを見せつけた」

最近では、ボコ・ハラムが少女に自爆テロを強要したことも伝えられている。この常軌を逸した殺戮者を止められないのは、国際社会の責任でもある。【1月15日 Newsweek】
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****ボコ・ハラムが「分娩中の女性を殺害」 人権団体****
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは15日、イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」が今月上旬にナイジェリア北東部ボルノ州の町村を襲撃した際、分娩中の女性を殺害していたと発表した。

この襲撃は、同組織がナイジェリアで6年余りにわたり続ける武装闘争の中でも最悪の被害を出すものとなった恐れが出ている。

アムネスティが伝えた目撃者の証言によると、同州にあるチャド湖沿いの町バガが襲撃された時、この女性は無差別に乱射された銃弾を受けて死亡した。その際、「男の子の赤ちゃんは、体が半分ほど外に出ていた」という。この銃撃では幼い子どもたちも犠牲となったとされる。

今月3日に始まったボコ・ハラムによる今回の攻撃について、アムネスティは今週、少なくとも数百人の市民が殺害された可能性があり、ナイジェリア軍を支援している自警団員らを標的としたものとみられると発表している。

アムネスティによると、バガから逃げ延びた人たちは町中に遺体が横たわっていたなどと話しており、どれだけの人が殺されたか分からないと証言している。

こうした証言は、地元の当局関係者や、AFPが話を聞いた目撃者らの証言とも一致する。地元当局は襲撃によって大量の死者が出たと述べており、目撃者らも路上で多数の遺体を見たと話している。【1月15日 AFP】
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期待できないナイジェリア政府の対応
ルワンダでのジェノサイドを思い出させるような「ボコ・ハラム」の狂気も理解できないものですが、“ナイジェリア政府は、来月14日に実施される大統領選挙の準備に追われ、今のところバガ攻撃について公式なコメントを発表していない”という政府対応も理解を超えています。

北部辺境で起きている虐殺などには中央政府・政治家は関心がないということでしょうか?

「ボコ・ハラム」に奪われたバガの基地は、隣国のニジェール、チャドなどの国境に近く、各国の合同部隊の司令部として使われていました。基地制圧によって大量の武器や弾薬が奪われた可能性も指摘されています。

ナイジェリア政府軍の士気低下も報じられています。

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・・・・ナイジェリア軍の広報官は10日、バガへの攻撃が、ボコ・ハラムのテロが激化した過去6年間で「最悪」とした上で、「彼らを止めるために、協力しなければならない」と国際社会に支援を訴えた。

だが、ナイジェリア政府は国際的な信用を失っている。昨年10月、ボコ・ハラムと停戦合意に達したと発表したものの、直後にボコ・ハラム側から「我々は誰とも交渉していない」と全否定されたためだ。

さらに、ナイジェリア軍兵士の士気の低下も問題になっている。兵士らには十分な武器や食料が行き渡っていないとされ、戦線を離脱する兵士が続出。昨年12月には軍法会議で、戦闘を拒否した兵士54人に死刑判決が言い渡された。

同国では来月14日に大統領選が予定されており、ボコ・ハラムがさらに攻勢を強めるとの懸念が広がっている。【1月13日 朝日】
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無関心な国際社会
ナイジェリア政府に当事者能力がないということになると、“この常軌を逸した殺戮者を止められないのは、国際社会の責任でもある”ということになります。

しかし、“国際社会”も「イスラム国」対応で手いっぱいという感があり、ナイジェリアで実効ある対応を期待できる状況にはありません。

そもそも世界政府も世界警察もない現状にあっては、一部の国が利害を有する問題でなければ介入する国際的枠組みもありません。国連は近年、“国家主権は住民を保護する責任を伴い、国家がもしその責任を果たせないときは国際社会が代わって責任を果たすべき”という「保護する責任」を打ち出していますが、実際に誰が行動するのか?

何より、国際的世論がナイジェリアの惨状に無関心です。

フランス・パリで十数人が犠牲になったテロに対しては大きく反応した国際世論ですが、ナイジェリアでの数百人から最大2000人にのぼるとみられ虐殺の可能性については殆ど動きがありません。

おそらく、チンパンジーかマウンテンゴリラ十数頭が殺された方が話題となるでしょう。

銃による力が支配する弱肉強食の世界で多くの住民が犠牲となり、政府も国際社会もこれを止められない・・・なんとも無力感に襲われる話です。
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フランス風刺週刊紙シャルリエブド 特別号で再度風刺画 自らの価値観を振りかざす行為は独善ではないか?

2015-01-14 20:36:00 | 欧州情勢

(1月12日 パリ 「表現の自由」を象徴する巨大な鉛筆を振りかざす人々 ただでさえ、宗教的・民族的感情に火がつきかねない現状で、「涙の預言者」は妥当だったのでしょうか? “flickr”より By Gilbert Hastert https://www.flickr.com/photos/gilbert_hastert/16263505835/in/photolist-qM9HF2-qFH6yP-qLZq3a-qM5tVm-qJs4L7-qviwSZ-qv8b1u-qtXQcq-qM5tUQ-pPCfau-qLBGVB-qLBGRZ-pPCf6m-qsqeCn-qJYJbd-qLBGBv-qvyP8A-qsMspz-pPRwwG-qswsv6-qvX8aK-qtXcKB-qvvDEU-qJLDxu-qvA9cW-qMHHqc-quFAPb-qu1rj4-pRcsZ4-qtNyZu-qu59wR-qK1dLM-qvkrzd-qLBGz6-qLBGNT-qLBGFt-pPPB76-qKDErX-qsoNEk-qu3qnU-qLmEER-qusCrz-pQwA5V-qLANxr-qLvegC-qsHV6D-qvGUg6-pQtSAB-pRASt2-qvBeS3)

作者「表現の自由は、条件や制限がついたものではない」】
テロ事件以降、初の発行となるフランス風刺週刊紙シャルリエブドの特別号は、早朝から売り場に行列ができるほどの大盛況だったようです。

****仏風刺紙、銃撃後初の発行=表紙に「涙の預言者****
フランス連続テロ事件以降、初の発行となる風刺週刊紙シャルリエブドの特別号が14日、発売された。同紙への共感を示すスローガン「私はシャルリ」と記されたプラカードを、イスラム教の預言者ムハンマドが掲げて涙を流す風刺画を表紙に掲載。

イスラム教では預言者の姿を描くことを禁じており、欧州のイスラム社会や、中東やアフリカ、アジアのイスラム圏で反発が広がる可能性がある。

同紙の発行部数は従来6万部で、実売はその半分程度だった。しかし、流通業者幹部がAFP通信に明らかにしたところでは、襲撃事件で世界的な注目が集まったことを受け、特別号は500万部を発行する。

仏、イタリア、トルコ語版は印刷して14日に発売。英、スペイン、アラビア語版は電子版の形で15日に発行する予定。表紙には「全ては許された」と記され、同紙襲撃の実行犯2人を皮肉る内容の漫画も掲載。襲撃後も従来の編集方針を貫いた。

特別号の発行を受けて、イスラム過激派が暴力行為に及ぶ事態も懸念される。フランスのイスラム団体は「静かに過ごし、感情的な反応を示すことは控えてほしい」と声明を出し、イスラム教徒に向けて冷静な対応を訴えた。【1月14日 時事】 
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風刺画を描いた風刺画家のルス氏は、「表現の自由は、条件や制限がついたものではない」と、その正しさを主張しています。

****<仏連続テロ>「表現の自由、制限ない」風刺画家が会見****
仏週刊紙「シャルリーエブド」襲撃事件で、14日発行の特別号の表紙となるイスラム教預言者ムハンマド(マホメット)の風刺画を描いた風刺画家のルス氏らが13日、パリ市内で記者会見した。

ルス氏は、一部のイスラム教徒などが風刺画掲載続行に懸念を示している状況について、「表現の自由は、条件や制限がついたものではない」と述べ、風刺やユーモアへの理解を求めた。(中略)

14日の同紙表紙は、涙を流すムハンマドが、同紙を支持する「私はシャルリー」と書かれたプラカードを掲げる絵で、「すべては許される」との見出しを付けた。

ルス氏は会見で「私たちはようやくこの表紙を見つけた。これが私たちの表紙だ」と語り、批判や反発を承知の上で、議論の末に出した結論だったことをにじませた。ムハンマドについては「また描いたことは申し訳ないが、私たちの描いたムハンマドは涙を流す一人の人物だ」と説明した。

同紙の風刺画掲載継続の方針を受け、エジプトでイスラム教の解釈を示す政府機関ファトワ(宗教令)庁が13日、「15億人のイスラム教徒に対する挑発」と非難を表明するなど懸念の声が広がっている。

ルス氏は会見中、反対意見や批判を受け止めるユーモアの精神の重要性を繰り返し説いた。「表現の自由とは『しかし』が後に付く(制限付きの)表現の自由ではない」と訴え、「テロの実行犯は、ユーモアが欠如している」と言論を封殺しようとした行為を厳しく非難。そのうえで、「私たちは人々の知性を信じる。ユーモアの知性を信じる」と結んだ。(後略)【1月14日 毎日】
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別れる評価
フランス社会が重んじる普遍的価値観「表現の自由」は決して暴力的テロの屈することはないという決意表明でもありますが、イスラム社会の価値観を踏みにじる行為でもある今回の件には賛否両論があります。

フランス国内のメディアの多くがこの風刺画を転載するなど、概ね理解を示す傾向にあるのに対し、宗教問題に敏感なアメリカでは多くのメディアが転載を見送っています。

ニューヨーク・タイムズ紙は編集主幹は「読者、特にイスラム教徒の読者の受け取り方を考えて決めた。侮辱と風刺の間には境界があり、これらの多くは侮辱だ」【1月14日 朝日】と語っています。

そのアメリカメディアのなかで、風刺画を掲載したワシントン・ポスト紙は、あからさまで不必要な侮辱には当たらないと判断しています。

****仏紙のムハンマド風刺画掲載=意図的侮辱に当たらず―Wポスト紙****
米紙ワシントン・ポストは13日付の紙面で、フランス週刊紙シャルリエブドが同紙襲撃事件後の紙面で表紙に掲げたイスラム教預言者ムハンマドの風刺画を掲載した。宗教に対するあからさまで不必要な侮辱を意図する題材は載せないというワシントン・ポスト紙の編集方針に今回の表紙は反しないと判断した。
 ポスト紙の編集主幹マーティン・バロン氏は「単にムハンマド像の掲載自体が侮辱的だと主張したことはない」と話している。同紙はこれまでもブログにシャルリエブドの風刺画を掲載。先週はオピニオン欄にシャルリエブドのムハンマド風刺画を載せた。【1月14日 時事】 
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しかし、ジャーナリストでつくる国際NGOは「過激主義者に屈しないとの主張は理解するが、何でも表現していいわけではない」と否定的です。

****配慮欠き、火に油」=預言者風刺画を批判―国際記者団体****
フランスの風刺週刊紙シャルリエブドが最新号で、「私はシャルリ」と書かれたプラカードを持つイスラム教預言者ムハンマドの絵を表紙に掲載したことについて、ジャーナリストでつくる国際NGO「プレス・エンブレム・キャンペーン」(本部ジュネーブ)は発行に先立つ13日、「緊張緩和が求められる時に配慮を欠き、火に油を注ぐ」と批判する声明を出した。

同団体は声明で、「過激主義者に屈しないとの主張は理解するが、何でも表現していいわけではない」と指摘。「表現の自由は相互尊重の中で制限される」と訴え、「プロの記者は中傷や侮辱を避けなければならない」と強調した。 
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当然ながらイスラム社会には反発が広がっています。

****預言者風刺画を批判=スンニ派最高権威****
エジプトにあるイスラム教スンニ派の最高権威機関アズハルは13日、銃撃テロの被害に遭った仏週刊紙シャルリエブドの預言者ムハンマドを題材とした新たな風刺画について、イスラム教徒の「憎悪をかき立てる」と批判した。AFP通信が伝えた。

風刺画をめぐってはこれより先、アズハルと関係のある宗教権威「ダールイフタ」も「(世界の)15億人のイスラム教徒に対する正当化できない挑発だ」と非難していた。【1月14日 時事】
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トルコの宗教問題を扱う行政機関の最高責任者のギョルメズ宗教庁長官も「イスラム教への侮辱はたとえ表現の自由の名のもとであっても決して許されない」という見解を示しています。【1月14日 NHK】

フランスのイスラム系住民からも「宗教をもてあそばないでほしい」といった声が出ています。

テロ事件を受けて、イスラム教徒が多数を占める中東の指導者からも暴力を非難する声が相次ぎ、パリで11日に行われたデモ行進には、ヨルダンのアブドラ国王やパレスチナ暫定自治政府のアッバス議長が参加して、テロに抗議する姿勢を示しましたが、今回の挑戦的ともとれる風刺画掲載で、再びイスラム社会との溝が深まることも懸念されます。

他者への配慮を欠いた絶対的正義の主張は“独善”】
作者は「表現の自由は、条件や制限がついたものではない」と主張していますが、現実社会にあっては「表現の自由」は公序良俗やその社会が重んじる価値観によって制約を受けています。

****表現の自由、例外も****
山田健太・専修大学教授(言論法)の話 

表現行為に対する暴力が絶対に許されないのは言うまでもない。また、表現の自由が重要であることはどの国も変わりなく、世界の共通認識だ。その中でどのような例外を設けるかが、国によって変わってくる。

欧州における例外は人種差別表現だ。ナチス・ドイツによるユダヤ人排斥の反省から各国が戦後、法律によってこの例外を決めた。イスラム国家での例外は宗教に関すること。まさに今回の問題は例外をどう扱うかが問われている。

日本ではこの例外にあたる表現をあえて設けてこなかった。歴史的にはマスメディアが自主的に限界について「模範を示す」形で社会が合意してきた経緯がある。今回もほとんどのメディアが問題となった風刺画の掲載をしていないのは、そうした流れにあるものだ。【1月14日 朝日】
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日本では明確な線引きはないものの、例えば天皇・皇室に関する表現については、現実的には大きな制約が課されているように見えます。

個人的には、その件に関しては必ずしも現状を是とするものではありませんが、もし中国や韓国で天皇・皇室を揶揄する風刺画が出されれば、日本社会は「表現の自由」として見過ごすことはないように思われます。

「表現の自由」はフランスが重視する価値観ではありますが、その行使に当たっては、イスラム社会の宗教的価値観への配慮がやはり必要なのではないでしょうか。

自らの価値観を“普遍的”として振りかざす行為は、“独善”でもあり、“原理主義”でもあります。

ましてや、現在のイスラム社会と欧米社会の間に横たわる深い溝、そこから生まれるテロ・紛争などの様々な不幸、欧米社会で少数派として生きるイスラム系住民の苦しみを考えれば、「表現の自由は、条件や制限がついたものではない」と済まされる問題ではないように思います。

****尊厳認め合う必要****
長沢栄治・東大東洋文化研究所教授(中東地域研究)の話 

・・・・異なる価値観や宗教的背景を持つ人同士がわかり合うためには、人間の尊厳とは何かという点から議論を始めるべきだ。

絶対的正義が自分の側にあると一方的に押しつけるべきではない。尊厳を認め合うための文明間の対話を、恒常的に続ける必要がある。【1月14日 朝日】
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ウクライナ東部 「凍った紛争」状態継続を望む財政難ロシア 関係国首脳会談は延期

2015-01-13 22:30:51 | 欧州情勢

(通貨ルーブルの対ドルレートの推移 【FOREX CHANNEL】http://www.forexchannel.net/%E7%82%BA%E6%9B%BF%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%88/USD/RUB.html)

不透明な状態が続くウクライナ東部
****ウクライナ東部で砲撃 再び緊張****
政府側と親ロシア派の対立が続くウクライナ東部では、相手側が砲撃を行ったと互いに非難して、再び緊張が高まっていて、先月9日以降双方が徹底させるとしてきた停戦が破られる懸念が出ています。

ウクライナ東部では、先月9日に、政府側と親ロシア派の双方が停戦を徹底させると宣言して以来、比較的平穏な状況が続いてきました。

しかし、ウクライナの治安当局は、11日親ロシア派が前日の夜から18回砲撃を行い、子ども1人を含む住民3人が死亡したと発表しました。

一方、親ロシア派も、10日ウクライナ軍が東部の中心都市ドネツクなどに向けて数十回砲撃を行ったと主張し「政府側が停戦合意を覆そうとしている」と非難して、再び緊張が高まっています。

仲介役を務めているドイツのメルケル首相は、10日夜、親ロシア派の後ろ盾となっているロシアのプーチン大統領と電話会談を行い、停戦継続の重要性を確認しました。

また、フランスで起きたテロ事件に抗議するデモ行進に参加するメルケル首相とウクライナのポロシェンコ大統領は、11日東部の情勢について意見交換する予定で、緊張緩和に向けた動きも活発化しています。【1月11日 NHK】
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不透明な状態が続くウクライナ問題がどう展開するかは、ロシア、もっとはっきり言えばプーチン大統領の判断に大きく依存しており、なかなか見通せないところです。

欧米による制裁、原油価格下落によってロシア経済が大きなダメージを受けていることは再三取り上げていますが、おそらくクリミアの問題はそうした経済問題を超えたもので、ロシア・プーチン大統領はいかなる代償を払っても譲ることはないでしょう。

ただ、ウクライナ東部の親ロシア派の扱いについては、自国の経済状況を睨みながらの判断となると思われます。

苦境が深まるロシア経済
ロシア経済・財政事情を示す指標としての通貨ルーブルのレートは、12月16日には瞬間的には1ドル=80ルーブルと暴落したのち、年末にはじりじりと上昇に転じ、1ドル=52~54ルーブル程度と12月初めの水準を回復しました。

“ロシアの大手企業に対し、政府が外貨の売却を促しているほか、プーチン大統領が直々に協力を求めた効果が出ているようだ。”【12月27日 朝日】

しかし、年が明けてからは再び下落を続け、現在は1ドル=65ルーブル前後になっています。
やはり、ロシア経済の前途への不安はぬぐえないようです。

ロシア当局も何も手をうっていない訳でもありません。

****ロシア 国内2位の金融機関を資本増強****
ロシア政府は、国内第2位となる政府系金融機関の資本増強を決定したと発表し、通貨ルーブルの下落に伴う景気後退で投資が冷え込むなか、インフラ事業への融資を促すねらいがあるとみられます。

ロシア政府は30日、資産規模で国内第2位の政府系金融機関VTB銀行に対して1000億ルーブル(およそ2100億円)の資本増強を行う決定に、メドベージェフ首相が署名したと発表しました。

これを受けてVTB銀行も30日、声明を出し、政府系のファンドを通じてすでに資金を受け取り、ロシア政府が後押しするインフラ事業に融資していくことや、来年3月末までにさらに追加の支援を受けることを明らかにしました。

ロシアは通貨ルーブルの下落に伴う国内の景気後退が深刻で、今回の措置には、銀行の資本不足を補いながらエネルギー関連事業などへの融資を促すねらいがあるとみられます。

ロシア政府とロシアの中央銀行は、今月に入って、預金の流出が続いていた中堅の銀行を救済したほか、金融機関が経営破綻した場合に保護される預金額を今までの2倍に引き上げるなど、金融システムの安定を目指し相次いで対応策を打ち出しています。【12月31日 NHK】
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ただ、制裁で欧米から資金調達が制約されている状況では難しいものがあります。

制裁による輸入中断、ルーブル安による輸入価格上昇は物価上昇などの市民生活に影響をもたらし始めています。
その影響は多岐にわたるようです。

****外貨建てローン「救済を」…ルーブル下落で集会****
ロシア通貨ルーブルの下落で外貨建て住宅ローンの返済額が膨らんだ市民らが28日、首都モスクワで救済を求める集会を開いた。
露経済紙RBCによると、約2000人が参加した。

ロシアでは数年前、ルーブルの為替レートが米ドルやユーロに対し優位だったため、住宅や自動車ローンを外貨建てで組んだ人が多い。

しかし、最近、原油価格の下落や対ロシア経済制裁の影響でルーブルが大幅に下落したことで返済困窮者が続出している。

モスクワ以外からの参加者も目立ち、「国の支援を求める」などと書かれたプラカードを掲げ、政府や中央銀行にルーブル安への対応を求めた。【12月30日 読売】
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医薬品の調達にも支障が出ることも懸念されています。

****ルーブル危機 ロシア首相、薬剤の逼迫に備えよ 政府当局に指示****
ロシアのメドベージェフ首相は6日、経済情勢の悪化を受け、国内の薬剤備蓄に向けた準備を進めるよう政府当局に指示した。インタファクス通信が報じた。

メドベージェフ氏は通貨ルーブルの急落を背景に、今後、外国製の薬剤の調達が困難になるとの懸念が国民の間で高まっていると指摘。スクボルツォア保健相に対し、必要とされる薬剤やその量を割り出した上で、将来的に不足が生じる場合に備えるよう求めた。

ウクライナ情勢をめぐる欧米の制裁措置や原油価格の落下などを受け、ルーブルは昨年1年間で、対ドル相場で4割超下落した。【1月6日 産経】
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自治区にとどめ、「凍った紛争」継続
こうした経済・財政状況にあるロシアにとって、ウクライナ東部を抱え込むことは更に大きな負担となります。
したがって、ロシアが経済的に面倒をみる必要が生じる編入や独立ではなく、ウクライナ内の自治区にとどめ置く方針ではないか・・・とも指摘されています。

****金欠ロシアが東部独立に手のひらを返す***
ウクライナ危機でロシアが方針を転換しようとしている。

親ロシア派と政府軍の戦いが続く東部ドネックとルガンスクを独立した「共和国」ではなく、ウクライナ国内の自治区にとどめておきたいと考えているようだ。

心変わりの原因はカネだ。両地域が独立国家になれば、復興や国家建設の費用をロシアに頼るのは必至。財政難に苦しむロシアが「両地域を抱え込みたくないのは明らかだ」と、英王立統合軍事研究所(RUS-)のサラーライン研究員は言う。

ドネツクとルガンスクの分離独立派は困惑を隠せない。
昨年5月に両地域が独自に実施した住民投票では、圧倒的多数が独立を支持。これを受けてウクライナのヤツェニュク首相は、公務員の賃金や年金など計26億ドルの両地域への支払いを停止した。

ロシアの方針転換には、地政学的な理由もありそうだ。両地域が「凍った紛争」状態にある限り、ウクライナがEUやNATOに加盟してロシアの影響下から完全に離脱することはほぽ不可能になる。

分離独立派が「ウクライナ政府との関係も保ちながら政府を悩ます存在であり続けること」をロシアは狙っているようだ。【1月13日号 Newsweek日本版】
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これまでも取り上げてきたように、EU・ロシアにとってウクライナは緩衝国であり、どちらかの勢力にはっきり色がつくよりは、玉虫色の存在であることが望ましい・・・というのが「地政学的な理由」です。

ロシア:交渉に向け強調・軟化の姿勢も
自治区にとどめて「凍った紛争」状態を続けるという話になると、微妙な外交交渉の問題となります。

ロシア側は最近、欧米との交渉・協調の可能性を窺わせるような対応もとっています。

****<仏テロ連鎖>露、国際共闘呼びかけ 孤立脱却図る狙いも****
ロシアは仏週刊紙本社襲撃事件を受け、テロに対する国際共闘を呼びかけるなど協調路線を打ち出している。ウクライナ危機で欧米の制裁に直面するロシアとしては、「孤立」からの脱却を図る狙いもありそうだ。

プーチン大統領は事件発生直後にオランド仏大統領に電話で哀悼の意を伝え、「野蛮な行為」を非難するとともに「犯人がしかるべき罪を受けるよう望む」と述べた。

ラブロフ露外相もファビウス仏外相に電話し、露外務省によると双方はテロの脅威と戦うため、さらなる共同努力の必要性で一致した。(後略)【1月10日 毎日】
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国際刑事警察機構(インターポール)は12日、ウクライナのヤヌコビッチ前大統領(64)を公金横領などの容疑で国際手配しました。

ヤヌコビッチ氏は昨年2月の政変を受け、現在はロシアに逃亡していますが、同氏が莫大な資産を国庫などから不正に取得していたとのウクライナ政府の手配要請を受けての決定です。

****ウクライナ前大統領引き渡しも=ロシア検察、軟化アピールか****
ロシアのチャイカ検事総長は、11日の政府系ロシア新聞(電子版)のインタビューで、昨年2月の政変後にロシアに逃れたウクライナのヤヌコビッチ前大統領の本国引き渡しを検討する考えを初めて明らかにした。

親欧州連合(EU)派の新政権は、親ロシア派のヤヌコビッチ氏を大量殺人・テロ容疑で国際手配している。ロシアが実際に引き渡すかは不透明だが、欧米の対ロシア制裁の緩和をにらみ、ウクライナに軟化姿勢を示す狙いもありそうだ。【1月12日 時事】 
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実際に引き渡すとなれば大きな局面転換になりますが、当面はその可能性をほのめかすことで、交渉への姿勢をアピールしたいという思惑でしょう。

もっとも、協調姿勢・軟化姿勢のアピールだけではないようです。

****露、分断図り反EU政党援助 仏や東欧に資金****
「反欧州連合(EU)」を掲げる欧州各国の極右政党に、ロシアが資金援助を行っていると英ガーディアン紙が報じた。「欧州の分断を図り、求心力をそぐ戦術」としている。

同紙によると、フランスの極右政党、国民戦線(FN)の女性党首、マリーヌ・ルペン氏は、プーチン露大統領の出身母体、旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身のロシア人が所有するキプロスの会社から200万ユーロ(約2億8800万円)を借りている。またモスクワの第1チェコロシア銀はFNに940万ユーロを貸し出した。

ルペン氏は貸付総額について報道内容を否定したが、「フランスの銀行がお金を貸さないのが問題だ」と、開き直っているという。

ウクライナ・クリミア半島の併合などを受けてフランスは、ロシアの発注で建造したミストラル級強襲揚陸艦の納入を凍結。FNは昨年の欧州議会選でフランス第1党に躍進し同議会で親露派の会派を形成しており、FNへの援助はフランスに対するロシア側の“報復”との見方も出ているという。

またロシアは東欧の親露的な極右政党への資金援助も計画的に実施。ハンガリーのヨッビク、スロバキアの国民党、ブルガリアのアタッカなどが含まれるという。同紙は「欧州はロシアの陰湿な資金援助のやり方に目を覚まさなければいけない」と強調している。【1月6日 産経】
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ロシアと欧州極右政党の組み合わせというのも奇妙な関係ですが、あの手この手の外交戦術にあっては、そういうこともあるのでしょう。

メルケル首相、ミンスク停戦合意完全履行を求める
様々な思惑が絡んでの外交交渉ですが、溝は深いようで、今月15日に行われる予定だった関係国首脳会談は延期となりました。

****ウクライナ東部巡る首脳会談 延期に****
停戦に合意したあとも戦闘が続くウクライナ東部を巡り、ロシアとウクライナの外相がヨーロッパの外相を交えて会合を開きましたが、事態打開に向けて今月15日に行われる予定だった首脳会談は延期となり、立場の違いは埋まらなかったものとみられます。

ウクライナ東部では、停戦に合意したあとも中心都市ドネツクの空港などで政府軍と親ロシア派の戦闘が続いており、国連によりますと、戦闘が始まった去年4月から今月9日までの犠牲者の数は、4800人を超えています。

ウクライナのポロシェンコ大統領は昨年末の記者会見で、事態打開に向けて、ドイツのメルケル首相とフランスのオランド大統領を交えて、ロシアのプーチン大統領と今月15日に中央アジアのカザフスタンで会談を行うと発表しましたが、ドイツとフランスの首脳は慎重な姿勢を示していました。

12日、ドイツのベルリンで4か国の外相が集まる会合が開かれ、首脳会談の開催に向けて最終調整が行われましたが、首脳会談は延期となり、調整が続けられることになりました。

会合のあと、ラブロフ外相は記者団に「この問題は、ウクライナ政府が親ロシア派と直接協議して初めて解決できる」と述べ、ウクライナ国内の問題だとする従来の主張を繰り返したのに対し、ウクライナとヨーロッパの外相は、ロシア軍の部隊がウクライナ領内にとどまっているとして撤退を求めたとみられ、双方の立場の違いは埋まらなかったものとみられます。【1月13日 NHK】
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ドイツ・メルケル首相は対ロ制裁緩和の条件として、2014年9月のミンスク停戦合意が完全に順守されることを挙げています。

****対ロ制裁緩和、停戦履行が条件=大幅解除にはクリミア返還―独メルケル首相****
・・・・メルケル首相は「ミンスク停戦合意が全て実行されなければならない。そうすれば、制裁緩和について話ができるようになる」と述べた。

ミンスク停戦合意は重火器の引き離しやロシア・ウクライナ国境の監視、外国部隊の撤退など多岐にわたっており、メルケル首相はこの全ての履行を求めた。

一方、ロシアによるウクライナ南部クリミア半島編入を受けて科した制裁に関しては、クリミアがウクライナに戻ることが解除の条件になると強調した。ただ、メルケル首相は「現時点で望みは薄い」とも述べた。

ドイツ政府は制裁解除には、制裁の理由となった問題が解消されることが必要とかねて主張してきた。こうした方針を明確にした形だ。(後略)【1月9日 時事】
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しばらく、綱引きが続きそうです。
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ナイジェリア  女児を使った「人間爆弾」 「ボコ・ハラム」の暴力が止まない背景

2015-01-12 20:37:30 | アフリカ

(「ボコ・ハラム」に制圧されたバガから西チャドに逃れてきた難民 “flickr”より By UNHCR UN Refugee Agency https://www.flickr.com/photos/unhcr/16076834717/in/photolist-qHRtLw-quDYRt-qrD8hN-pMrgdV-qBPJKj-qKzfpF-pM4cs2-qJxBSC-qnFvyc-qoSTdL-qnEw28-qD9sx5-qtzAdY-qGYd7o-qFi8oc-qsunoC-qrfstF-qJERTD-qspRvr-qGxCo3-qDX3qy-qrr6Tb-qFmw3L-qG9mcm-qtFjJm-qugomc-qtrpCK-ququPV-qt1FgE-qtELU8-qJL9LS-qntmTP-qtwm1K-pQbHBi-qqAoDa-qJn5hM-qJwP9S-qKA5sm-qFpRLN-qq8tS1-qoSEJQ-qmSGSh-pK3ZJL-qD7nXN-qCU5wu-qqQdzq-qtNyZu-qLYMUu-quuMMq-qD3WcL)

テロリストだと疑われにくい女児を「人間爆弾」として利用
ナイジェリアのイスラム過激派「ボコ・ハラム」の暴力についてはこれまでも再三取り上げてきましたが、事態は悪化の方向にあります。

このところは市場の人混みの中での女児による自爆テロが連続していますが、離れた場所から見ていた共犯者が遠隔操作で「人間爆弾」を作動させたのでは・・・と見られています。

****イスラム過激派「人間爆弾」に10歳“女児”利用か 相次ぐナイジェリアの自爆テロ****
イスラム過激派ボコ・ハラムによるテロが続くナイジェリア北東部で、10歳前後の女児らが自爆するテロ事件が相次いでいる。

ボコ・ハラムがテロリストだと疑われにくい女児を「人間爆弾」として利用している可能性が高い。

現地からの報道によると、北東部ヨベ州ポティスクムの市場で11日、10歳前後とみられる女児2人が装着していた爆弾が爆発し、2人のほかに少なくとも3人が死亡、40人以上が負傷した。ポティスクムでは10日にも警察署を狙った自動車爆弾テロがあった。

また、北東部ボルノ州の州都マイドゥグリの市場でも10日、10歳前後の女児による自爆テロがあり、女児を含む少なくとも20人が死亡した。女児が市場の入り口で身体検査を受けている際に、身に着けていた爆弾が爆発したという。

マイドゥグリでは昨年もボコ・ハラムとみられる女による自爆テロが2回発生。ボコ・ハラムが、当局の目をかいくぐるために女性や子供を使った戦術を強化しているとみられる。

同国北東部はイスラム国家建設を目指すボコ・ハラムの活動拠点で、昨年4月には女生徒200人以上が拉致される事件も起きた。【1月12日 産経】
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マイドゥグリの事件の女児については、“少女の年齢は不明だが、治安関係者によれば17~18歳だったという情報がある”【1月12日 CNN】とも。

こうした「人間爆弾」には、拉致した少女が使われているのではないかとの見方もあります。

****<ボコ・ハラム>「自爆テロ拒否すれば射殺」少女が明かす****
西アフリカ・ナイジェリアで、イスラム過激派「ボコ・ハラム」に自爆テロを指示され、決行前に拘束されたとみられる少女(13)が地元メディアなどの取材に応じ、ボコ・ハラムの手口を明かした。

少女は「天国に行くには自爆テロを起こさなければならない。拒否すれば射殺する」などと脅され、やむなく従ったという。

英BBCなどによると、北部カノ州に住んでいたとみられる少女は、父親によって一帯を支配するボコ・ハラムの戦闘員に引き渡された。ボコ・ハラムのキャンプで暮らしていた少女はある日、戦闘員から「自爆テロはできるか」と言われ「天国に行くには自爆テロを起こし、死ななければならない」と説得されたという。

少女はキャンプで多くの人が生き埋めにされているのも見ており、最終的には自爆テロに同意させられた。

少女は今月10日、北部の中心都市カノの織物市場で別の少女とともに自爆テロの決行を指示された。別の少女が先に自爆し、その爆発で負傷。少女は服に仕込んだ爆発物を爆破できず、病院に運ばれ、拘束された。この自爆テロでは少なくとも4人が死亡した。

ボコ・ハラムは2009年から政府機関などを標的にテロ攻撃を開始。今年4月には北東部チボクの女子高から少女約270人を拉致し、世界中から非難を浴びた。

最近は北東部で町や村を次々に制圧しているほか、少女を使った自爆テロを頻繁に起こしている。警戒されにくい女性を使ってテロを活発化させ、社会に衝撃を与えるのが狙いとみられる。【12月26日 毎日】
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自爆テロは悲惨ですが、本人の意思を無視(あるいは洗脳か)した子供を使った「人間爆弾」とは、悪魔的な所業にも思えます。

政府軍敗走 大量虐殺の懸念も
「ボコ・ハラム」とナイジェリア政府軍の戦闘も芳しくなく、3日、チャド国境に近いバガに「ボコ・ハラム」が侵攻し、ナイジェリア、チャド、ニジェールの3国の合同部隊が「ボコ・ハラム」対策に使用してきた基地に激しい攻撃を加え、政府軍側は基地を放棄して退却した模様と報じられています。

****<ボコ・ハラム>政府軍基地制圧 軍の「敗走」は社会に衝撃*****
・・・ボコ・ハラムが武器も奪取していれば、さらに攻勢を強めるのは必至だ。一方、軍の「敗走」は社会に衝撃を与えるとみられる。

・・・バガは、ナイジェリア北東部ボルノ州の北部で政府側が掌握している最後の都市とも伝えられていた。多くの住民が、漁船やカヌーなどに乗ってチャド湖の対岸にあるチャドに逃れたという。

バガ侵攻でボコ・ハラムは、大量の戦闘員を送り込んで、軍や住民による自警組織を数で圧倒したとも報じられている。

ボコ・ハラムは最近、拠点のナイジェリア北部だけでなく、チャド、カメルーンなどで戦闘員への勧誘活動を加速させているという。

また、カダフィ政権崩壊後に国外への武器流出が続く北アフリカ・リビアから、チャドやカメルーン経由で武器を入手しているとの見方もあり、装備面でも強大化している可能性がある。【1月5日 毎日】
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更に、「ボコ・ハラム」はバガの町を焼き払い、多くの犠牲者も出ている模様とも報じられています。

****ボコ・ハラムが大量虐殺か、町や村制圧 ナイジェリア****
アフリカ西部ナイジェリア北東部の地方行政当局者は10日までに、同国北部に拠点を築くイスラム過激派「ボコ・ハラム」が先週末、北東部のバガ町や隣接する複数の村落を制圧し、数百人もしくは数千人規模の住民らを殺害したと述べた。
3万人以上が居住先を失ったという。

北東部では3日、ボコ・ハラムが多国籍部隊の基地を襲撃し、占拠していた。同部隊はボコ・ハラムの掃討作戦に従事していた。

バガを管轄する地方政府の責任者は殺害された住民らは2000人以上と主張した。ただ、この数字の根拠には触れなかった。一方、バガの行政の責任者は被害者は数百人規模とした。正確な数字は戸別調査が終了すれば判明すると述べた。

同町の住民は4日、CNNの取材に応じ、ボコ・ハラムは数百戸の民家に放火し、略奪を重ねたと証言。逃げ惑う住民に無差別発砲も行ったとし、犠牲者は相当な人数に達する可能性を示唆した。

バガ町の行政責任者は、ボコ・ハラムは先週末の襲撃で16カ所の村落を制圧、逃げた住民の自宅などを焼いたと述べた。【1月10日 CNN】
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イスラム過激派のボコ・ハラム=悪/ナイジェリア政府軍=善」という単純な図式でない
ジェノサイド(大虐殺)が懸念されるところですが、「ボコ・ハラム」のみが“悪”かと言えば、必ずしもそう単純な図式ではないとの指摘もあります。

暴力・虐殺・少年兵徴用・レイプなどは反政府勢力だけでなく、政府軍によっても行われているというのは、コンゴなどアフリカの混乱地域ではこれまでも報じられており、住民は反政府勢力同様に政府軍をも恐れているとも言われています。

ナイジェリアの場合も、同様の指摘があります。
政府軍による掃討作戦がなぜ進展しないのか、「ボコ・ハラム」が多数の民間人殺害や拉致を引き起こしながら、なぜ活動を続けることが可能なのかということも、そのあたりに関連しているととも指摘されています。

****ボコ・ハラム:日本メディアが報じない「ナイジェリア政府軍」の蛮行*****
軍発表と全く異なる事実
・・・・だが、現実はどうだろうか。実はバガの街は、女子生徒200人の拉致事件から遡ること1年前の2013年4月16日~17日にかけて、大規模に破壊され、多数の市民が殺害される惨劇に見舞われている。

ボコ・ハラムによる破壊と殺戮ではない。破壊と殺戮の主体はナイジェリア政府軍だったのである。この時のナイジェリア政府軍による蛮行は、国際人権団体ヒューマンライツ・ウオッチの次の報告が詳しい。
http://www.hrw.org/news/2013/05/01/nigeria-massive-destruction-deaths-military-raid

当時、ボコ・ハラムの勢力拡大に業を煮やしたナイジェリアのジョナサン大統領は、ナイジェリア北東部への増派を進め、掃討作戦を強化していた。

政府軍は、4月16日~17日にかけてのバガでの掃討作戦で、ボコ・ハラム戦闘員30人、政府軍兵士1人、民間人6人の計37人が死亡したと発表した。

しかし、ヒューマンライツ・ウオッチに対するバガ住民の証言は、軍の発表とは全く異なる事実を伝えている。

複数の証言によれば、バガに駐留する政府軍の兵士1人が街をパトロール中にボコ・ハラムに攻撃され、殺害された。

激高した政府軍は「バカの住民たちがボコ・ハラムを匿っている」として、建物に対する放火や住民襲撃を開始した。

その結果、2000件以上の建物が破壊され、183人が殺害されたという。
ヒューマンライツ・ウオッチは人工衛星から撮影したバガの写真をウェブ上で公開しているが、写真をみると町全体に焼け跡が広がっているのが分かる。

「単純な図式」ではない
当時、ヒューマンライツ・ウオッチは「ナイジェリア政府軍は自らと住民をボコ・ハラムから守る義務があるが、証拠が示しているのは、彼らが保護よりも破壊に関わっていることだ」との声明を出し、ナイジェリア政府軍を強く非難した。

ボコ・ハラムはナイジェリア北東部のイスラム社会で数々のテロ行為に手を染めており、多くの住民は彼らを支持などしていない。

にもかかわらず、今なおボコ・ハラムに参画する若者が少なからず存在する背景がここにある。

ナイジェリア政府軍が同国北東部のイスラム系住民に対して蛮行に及ぶ背景には、ナイジェリアの国家形成の過程で蓄積されてきた数々の社会的矛盾があり、その全容をここで論じることは不可能だが、住民からみれば、「イスラム過激派のボコ・ハラム=悪/ナイジェリア政府軍=善」などという単純な図式でないことだけは確かなのだ。(中略)

思考停止の危うさ
・・・・しかし、その過程で、日本メディアの世界を一人歩きするようになったのが「イスラム過激派」という言葉と概念である。およそ過激主義を掲げる組織の人権侵害は到底許容できるものではない。

だが、甚だしい人権侵害によって人々の支持を失いながらも、彼らがなぜ、組織の命脈を保ち得るのかについては考え続けなければならない。

ある組織を「イスラム過激派=悪」として括ることは、しばしばその思考の歩みを止めてしまう。日本メディアのボコ・ハラム報道には、そうした危うさを感じることが少なくない。【白戸圭一氏 1月7日 フォーサイト】
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シリアでも、ウクライナでも、日本に入ってくる情報は一定の立場から見たものに限定されている・・・ということに十分配慮する必要があります。

「ボコ・ハラム」の問題の背後には、上記のような政府軍による暴力の存在のほか、アフリカ第1の経済大国ナイジェリアにあって拡大する貧富の差、解消されない絶対的貧困、南部キリスト教圏中心で進む経済成長から取り残された北部イスラム圏・・・・それらの事態もたらす政治の腐敗などの問題もあるでしょう。

接戦も予想されている大統領選挙
来月2月には、ナイジェリア大統領選挙が行われます。

****現職と元軍政トップ一騎打ち=原油安や過激派、課題山積―2月ナイジェリア大統領選****
アフリカ最大の経済規模と産油量を誇るナイジェリアで来年2月14日、大統領選が行われる。

再選を目指す与党・国民民主党(PDP)のジョナサン大統領に、最大野党・全進歩会議(APC)候補のブハリ元最高軍事評議会議長が挑む一騎打ちだが、原油価格下落が経済を揺るがす一方、イスラム過激派「ボコ・ハラム」が北東部を拠点にテロを繰り返すなど課題が山積。接戦も予想されている。

PDPは1999年の民政移管後、一貫して政権を維持している。安定的な経済政策運営も奏功し、ナイジェリアは高成長を謳歌(おうか)。国内総生産(GDP)規模で南アフリカを抜き、アフリカ最大にのし上がった。

もっとも、ナイジェリアは国家歳入の約75%を石油に依存しており、折からの原油安に緊縮財政を迫られている。近年の成長は個人消費主導とはいえ、楽観を許さない。

2008年の金融危機直後の原油急落は、ナイジェリアで不良債権急増による銀行危機を招いた。市場の警戒は強い。

一方、ボコ・ハラムが14年4月、女子生徒200人以上を拉致し、指導者アブバカル・シェカウ容疑者が「奴隷にする」と言い放ったことで、世界に衝撃を与えた事件はなお未解決。その後もボコ・ハラムは北部や首都アブジャでテロを繰り返し、政権の無力さを際立たせている。

ナイジェリアの経済成長はキリスト教圏である南部中心で、イスラム圏の北部は取り残され気味だ。

ボコ・ハラムの脅威はほぼ北部に限定されており、治安悪化による経済活動停滞から「南北格差がさらに拡大する」(パリ第8大学のドモンクロ教授)との懸念もある。【12月31日 時事】 
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野党・ブハリ元最高軍事評議会議長がどういう立場の人物なのかわかりませんので、なんともコメントしようがありませんが、選挙戦による混乱は避けてもらいたいところです。

“ナイジェリアでは、前回・2011年の大統領選挙で、選挙の結果を巡って暴動が起こり、500人以上が死亡しました。再び選挙を巡って政情が混乱すれば、地域経済全体に影響が及ぶおそれがあるだけでなく、イスラム過激派をさらに勢いづかせることにもつながり、その行方が注目されています。”【1月5日 NHK】
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