孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イランとアメリカ 戦争は望まないが交渉上の優位性を求める戦いが その過程で不測の事態も

2019-06-20 22:50:43 | イラン

(オマーン湾で攻撃を受け炎上するタンカー 【618日 WSJ】)

 

【国際社会には「ほんとですか〜〜??」というアメリカへの不信感も】

オマーン湾で起きたタンカー2隻への攻撃については、「証拠」写真なるものを公開してイランがやったと主張するアメリカと「やってない」とするイランが対立していることは周知のとおり。

 

「真犯人」が誰かはわかりませんが、アメリカ主張に対して「どうも、アメリカの言うことは信用できないからな・・・」という国際社会のアメリカへの不信感も感じられます。

 

****イラク戦争と同じ構図か。ホルムズ海峡タンカー攻撃の「真犯人」****

(中略)

それにしても、なぜ「証拠を提示した」にも関わらず、アメリカの主張は、信じてもらえないのでしょうか?一番の理由は、「イランの動機がわからん」ということでしょう。(中略)

 

もう一つは、「アメリカが提示した証拠、説得力がイマイチ」ということでしょう。このこと、指摘している人もいます。(中略)

 

アメリカは、ウソつきすぎで信じてもらえない

もう一つ、「アメリカの話に説得力がない理由」。それは、アメリカが「ウソを多用しすぎ」ということ。なんというか、国際社会から「オオカミ少年」のように見られている。いろいろいろいろあるのですが、代表的な例を二つあげておきます。

 

一つは、イラク戦争。開戦理由は二つでした。すなわち、「フセインは、9.11を起こしたアルカイダを支援している」「フセインは、大量破壊兵器を保有している」でした。新しい読者さん、これ二つとも「大うそ」だって知ってました???????????(中略)

 

もう一つ。20138月、オバマさんは、「シリアを攻撃する!」と宣言しました。理由は、「アサド軍が化学兵器を使った」から。これもウソだった可能性が高いのです。なぜ?20135月、国連は、こんな報告書を出していた。(中略)

二つ例をあげましたが、同じような例は、たくさんあります。最近のアメリカの情報戦は非常に稚拙。日本は「米英情報ピラミッド」に組み込まれているので、こんな重要情報も拡散されないのですね。

 

アメリカはこんな感じ。それで、この国が「イランがやった!!!」と主張しても、「ほんとですか〜〜??」というリアクションになってしまうのです。【619日 北野幸伯氏 MAG2 NEWS

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シリアの化学兵器についてはともかく、イラク開戦は上記のとおりでしょう。

更にあげるなら、ベトナム戦争本格化の引き金となった「トンキン湾事件」もあります。

 

そんなこんなで「ほんとですか〜〜??」ということになりますし、しかも言っているのが平気でウソをつくトランプ大統領と、イランを攻撃したくてたまらないボルトン補佐官などですから・・・。

 

“アメリカが「ウソを多用しすぎ」ということ”に加えて、(日本・安倍政権は違いますが)欧州ドイツ・フランスなどとアメリカ・トランプ政権の溝がこれまでになく深いということも影響しているでしょう。

 

一方、イギリスがいち早くアメリカ主張に賛同したのは、従来からの米英の「特別な関係」というだけでなく、EU離脱後は(トランプだろうが何だろうが)アメリカを頼らざるを得ないという切羽詰まった状況のあらわれのようにも見えます。

 

個人的には、タンカー攻撃だけなら「ほんとですか〜〜??」というところですが、後述するような、その後の一連の攻撃・挑発の動きと併せて考えると、「(ロウハニ政権が絡んでいるかどうかはわかりませんが)やっぱり、イラン関係筋の仕業かな・・・」という感も。

 

【戦争は望んでいないトランプ大統領・イラン】

タンカー攻撃に関して、トランプ大統領は以下のようにも。

 

****石油確保での武力行使明言せず=タンカー襲撃「影響小さい」―米大統領****

トランプ米大統領は18日の米誌タイム(電子版)に掲載されたインタビューで、ホルムズ海峡付近でのタンカー襲撃を踏まえ、石油輸送路確保のため軍事力を行使する可能性について「(質問の)疑問符は、そのままにしておく」と述べ、明言を避けた。イランによる核兵器保有を阻止するためなら、武力行使をためらわないという姿勢も示した。

 

トランプ氏は、エネルギー輸出国となった米国にとって、タンカー襲撃の起きた海域の重要性は以前と比べ大幅に低下したと指摘。襲撃の影響は「今のところ、極めて小さい」と語った。

 

襲撃にイランが関与したとする米情報当局の分析に関しては「同意しない人は少ないだろう」と述べた。その一方、「(2015年の)イラン核合意調印時、イランはいつも『米国に死を』と叫んでいたが、今はあまり耳にしない」とも話し、イラン政府がここに来て米国への敵対姿勢を強めているわけではないとの見方を示した。【619日 時事】

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トランプ大統領は相手を追い詰めて有利な交渉をしたいという狙いで、カネのかかる戦争や(票につながらない)中東への関与には消極的とされています。政権内には、ボルトン補佐官らの好戦的勢力との対立があるとも言われています。

 

上記の発言には、トランプ大統領の「衝突・戦争はしたくない」という思いがにじんでいます。

 

戦争になれば壊滅的な打撃を被るイランとしても、(一部好戦的な勢力を除けば)戦争をしたくないのは当然です。

 

****イラン、「米国との戦争は起きない」=IRNA****

イラン最高安全保障委員会のシャムハニ事務局長は19日、同国と米国の間で軍事対立は起こらないと述べた。国営イラン通信(IRNA)が報じた。

シャムハニ氏は「戦争をする理由はなく、イランと米国の間で軍事対立は発生しないだろう。他国に圧力をかけようとするなかで、他国を非難することは米当局者の一般的な慣行となっている」と述べた。(後略)【619日 ロイター】

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イランは、1980年代の8年間に及ぶイラン・イラク戦争を孤立無援のなかで戦い抜いたという自信を持っていますが、当時と比べて都市化が進んだ現在は食糧を輸入に頼る経済構造に変化しており、当時の話が現在に通用する訳でもないという指摘もあります。

 

市民の不満が高まれば、体制が動揺する可能性も。

 

【レバレッジ(交渉上の相対的優位性)を巡る戦い】

戦争をしたくないというのが本音のトランプ大統領とロウハニ政権ですが、現在の対立を可能な限り有利な方向に持っていきたいということで、「最大限の圧力」かけあう両国でもあります。

 

イランは濃縮ウランの増産という核合意への「違反」に踏み切り、「このままでは合意を破棄して核開発を再開せざるを得ない、それでもいいか?」と欧州など関係国に圧力をかけています。

 

タンカー攻撃も、「いつでもホルムズ海峡の石油輸送を混乱させることができるぞ!」という示威行動だったのかも。

 

アメリカは、「イランのさらなる攻撃の抑止が目的」、「トランプ大統領は戦争を望んでいない」(ポンペオ米国務長官)としながらも、地対空ミサイル「パトリオット」1個大隊や有人・無人のISR(情報・監視・偵察)関連装備

を含む米軍約1000人規模を中東に追加派遣することを明らかにしています。

 

****米・イランの緊張増大、背後で何を駆け引き?****

イランが17日発表した濃縮ウランの増産は、急激に緊迫する中東情勢の背後にある「真実」をほぼ完璧に物語っている。

 

世界が今、目にしているのは、戦争へ向かう序章というよりは、レバレッジ(交渉上の相対的優位性)を巡る戦いだ。トランプ政権はこれまで、イランに対し著しいレバレッジを手にする一方、イランはそれに対抗するためのレバレッジを切実に必要としている。

 

だからといって戦争が起こらないという訳ではない(読み間違いをする可能性は高く、そのリスクはさらに高まっている)。

 

戦争は米・イラン双方とも望んでいる結果ではないということだ。校庭でにらみ合っている子供たちが、一線を越えずに済むことを願いながら、越える構えを見せようとするのと同じ「いちかばちか」の賭けだ。

 

イランが17日、濃縮ウランの貯蔵量が2015年の核合意で定められた上限を近く超えそうだと明らかにしたことで、米国とイランのにらみあいは一段と危険を増した。

 

イランが核合意の存続を目指す欧州諸国を脅すことで、米国の対イラン制裁に対抗するよう必死の説得を試みていることは明らかだ。

 

イランは実際、米国の制裁を回避できるような金融システムを構築するという約束を欧州諸国が果たせば、濃縮ウランの製造に関する決定は覆すことが可能だと主張している。

 

米国とイランはこの対立において、それぞれレバレッジを手に入れる2つの大きな手段を持っている。トランプ政権はイラン経済を崩壊させる経済力、そして他国を従わせる外交力を有していることを見せつけた。

 

一方、イランはここで、自らが持つ2つのレバレッジ手段で対抗できることを示す必要がある。つまり、ホルムズ海峡の石油輸送に支障を生じさせる力と、核開発を再開できる力だ。

 

イランは最近、同国が行ったとされるオマーン湾航行中の石油タンカー攻撃により、一つめの力を持っていることを示した。

 

そして目下、核活動を活発化させることで、二つめの力をちらつかせている。

 

こうした行動に出る背景には、核合意を破棄する構えを見せることで、国際社会が結束してイランに反対するのではなく、むしろイランを支持してくれることに賭けている(しかもこれは大きな賭けだ)ことがある。

 

(中略)これ(トランプ大統領の対イラン制裁)により、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は窮地に追い込まれた。(中略)

 

イランが過剰な反応を示せば、米軍による攻撃を招きかねない。もしくは、国際社会から非難され、国際的な孤立を深める結果、経済を巡る市民の不満を高めることになろう。

 

こうした状況で、ハメネイ師には3つの望ましからざる選択肢しか残されていないと(カーネギー国際平和財団のイラン担当アナリスト)サジャドプアー氏は指摘する。

 

具体的には、トランプ氏よりも長く政権の座にとどまることを目指す、新たな核合意を協議するというトランプ氏の提案を受け入れる、もしくは一段と緊張を高めるの3つだ。

 

ハメネイ師は今のところ、緊張を高める方法を選んだ。ただ、慎重に線引きされた限度内にとどめている。

 

ハメネイ師はイラン沖のホルムズ海峡を通過中の石油タンカー船への攻撃を承認することで、原油価格の高騰を通じて米国民に経済的な痛みをもたらす一方、欧州や日本、中国を脅迫し、イランに対する圧力を軽減するようトランプ政権に強要することを狙ったようだ。

 

また同時に、イランの仕業ではないとして責任を逃れることができるよう石油タンカーへの攻撃を秘密裏に行うことで、説得力のある否定論拠を維持しようとしている。

 

さらに、核合意の破棄も辞さない構えを見せる一方で、実際に破棄を宣言し、核兵器能力の取得にまい進し始めるには至っていない。

 

イラン核合意を離脱すれば、公然と石油タンカーに攻撃を加えるのと同様、世界は一丸となってトランプ氏に対抗するのではなく、イランに対抗することになるだろう。 

 

イランはまた、最後にある読みを行っているように見える。つまり、トランプ氏と同盟国の関係は不安定で、トランプ氏個人の信頼も低く、世界はイラン側の主張を信じ、イランが緊張を増大させたとみるのではない――そして、米政府を批判する――と読んでいるフシがある。

 

要するに、イランの目的は公然と戦いを誘発することではなく、レバレッジを得ることだ。リスクの高い戦略だが、不合理なものではない。【618日 WSJ】

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【いつなんどき不測の事態が起きてもおかしくない状況も】

上記のようにハメネイ師が“石油タンカー船への攻撃を承認”したのかどうかは知りません。

 

ただ、タンカー攻撃以降も、イランの影響力が強いイラクやイエメンで、アメリカ関連施設やアメリカの同盟国サウジアラビアを対象とした同種の攻撃が相次いでいます。

 

****米石油会社敷地にロケット弾=北部の基地も標的―イラク****

イラク軍は19日、南部バスラ近郊にある米石油大手エクソンモービルなどが操業する油田関連施設の敷地内にロケット弾が撃ち込まれ、3人が負傷したと明らかにした。油田の操業に影響はないという。ロイター通信が伝えた。

 

また、AFP通信によれば、この攻撃の数時間前には北部モスルの軍基地にもロケット弾が着弾した。基地には米軍が駐留しているとされる。いずれも誰が攻撃したかは不明。

 

イラクでは17日に、米軍要員も駐留する首都バグダッド北方の基地にロケット弾が着弾したばかり。米国とイランの緊張が高まる中、米国の権益を狙ったとみられる事件が続いており、イラクで活動する親イラン勢力の関与を疑う声が上がりそうだ。【619日 時事】

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****サウジ淡水化プラントにミサイル、イエメンから発射か ****

サウジアラビアの海水淡水化プラントがミサイル攻撃を受けた。隣国イエメンから発射されたとみられる。米政府高官が明らかにした。死傷者の有無は分かっていない。

 

今回の攻撃を受け、米政府機関の高官らが19日夜、ホワイトハウスに召集されたという。

 

サウジアラビア主導の連合軍はイエメン内戦に介入し、反政府武装勢力「フーシ派」と対立している。フーシ派はイランが支援しているとされる。【620日 WSJ】

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上記淡水化プラントへの攻撃と同じものかどうか判然としませんが、“al arabiya net al qods al arabi net は、hothy(フーシ派)軍報道官が、同軍のミサイル部隊が(サウジアラビア)ジャザーンのal shaqiq 発電所を巡航ミサイルで攻撃し、ミサイルは目標に正確に命中したと声明したと報じています(攻撃の日時等は不明)。”【620日 中東の窓】という情報も。

 

発電所攻撃の情報の方は、これまでの「弾道ミサイル」ではなく、イラン提供と推察される「巡行ミサイル」が使用された点に注目し、情報の真偽については「本当でしょうか?」としながらも、仮に本当ならイランのフーシ派支援について“質的変化”が生じている可能性を懸念しています。

 

更に、イランの精鋭革命防衛隊がアメリカの無人偵察機を撃墜する事態に。

 

****イラン革命防衛隊「米の無人偵察機を撃墜」 緊張高まる***

イランの最高指導者直属の精鋭部隊「イスラム革命防衛隊」は20日、同国南部のホルムズガン州のオマーン湾に近いイランの領空内で、米国の無人偵察機を撃墜したと明らかにした。政府系のファルス通信などが報じた。

 

ホルムズ海峡周辺ではタンカー攻撃事件が起きるなど、米国とイランの緊張が高まっており、偶発的な衝突が懸念されている。(後略)【620日 朝日】

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撃墜はアメリカも認めていますが、イランが「イランの領空を侵犯した」としているのに対し、アメリカは領空侵犯を否定し、国際空域を飛行していたと主張しています。

 

“イランの精鋭部隊「イスラム革命防衛隊」は20日、米国のドローンが撃墜されたことについて、米国への「明らかなメッセージ」だとし、米国の侵略には力強く対応すると表明した。”【620日 ロイター】とも。

 

アメリカ・イラン両国とも戦争を始める考えはなく、相手に圧力をかけ、交渉を有利に持っていきたいとしているだけ、両国ともに相手に甚大な被害を与える軍事力を有しており、両国間に一定の相互抑止が効くだろう・・・・というのが、一般的な見方ですが、上記のような動きが頻発すれば、いつなんどき不測の事態に発展してもおかしくもない現状でもあります。

 

大規模な衝突となれば、レバノンのシーア派武装勢力ヒズボラやイエメンのフーシ派も加わって、紛争はサウジアラビア・イスラエルを巻き込む形で容易に拡大します。(あるいはイスラエルがイラン核施設を空爆するか)

そうした事態は、中東原油に頼る日本にとっては悪夢です。

 

安倍首相のイラン訪問が今のところは成果がなかったにしても、今後とも間に入ってアメリカ・イラン双方に自重を促す取り組みを続けることは日本にとって必要なことでしょう。 

 

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人口分布的に世界の中心となるアフリカ 未だ遠い平和と安定 西アフリカのマリ・ブルキナファソでは

2019-06-19 23:23:37 | アフリカ

(マリ中部にある、襲撃を受けたドゴン人の村ソバヌクーで掘られた墓穴(2019611日撮影)【613日 AFP】)

 

2050年には、サハラ以南アフリカの人口は現在の2倍に増加】

現在、アフリカの人口は約12億人ほど。

急速に増加する世界人口にあって、その増加の中心はアフリカです。

 

****世界人口、2050年には97億人に 国連予測****

国連(UN)の経済社会局(DESA)は17日、現在77億人の世界人口が、2050年には97億人に達するとの見通しを明らかにした。サハラ以南アフリカの人口は現在の2倍に増えると予想されている。

 

国連の報告書「世界人口予測(World Population Prospects)」最新版によると、世界人口はさらに2100年までに110億人に達するという。

 

報告書によると今後、少数の国では平均寿命の伸びにより人口の増加が見込まれる一方で、世界全体の人口増加率は出生率の低下により鈍化する。

 

2050年までに増える世界人口の半分以上は、インド、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ民主共和国、エチオピア、タンザニア、インドネシア、エジプト、米国の9か国に集中する見通し。

 

現在世界で最も人口の多い中国では、2019年から2050年の間に約3140万人減り、2.2%の人口減少が予測されている。

 

また、ベラルーシ、エストニア、ドイツ、ハンガリー、イタリア、日本、ロシア、セルビア、ウクライナでは死亡数が出生数を上回るが、人口減少は移民の流入によって相殺されると予想される。

 

1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数を示す合計特殊出生率は、世界全体で1990年には3.2だったが、2019年には2.5に減少。2050年にはさらに2.2まで下がる見通しだという。

 

人口移動がなかった場合、人口維持に必要な合計特殊出生率は最低でも2.1だといわれる。【618日 AFP】

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人口増加は地域的に大きく偏っています。

 

“サブサハラ・アフリカの人口は2050年までに倍増(99%)する一方、その他の地域の予想人口増加率(2019-2050)は、オセアニア(オーストラリア・ニュージーランドを除く)56%、北アフリカ・西アジア(46%)、オーストラリア・ニュージーランド(28%)、中央・南アジア(25%)、ラテンアメリカ・カリブ諸国(18%)、東・東南アジア(3%)、欧州・北米(2%)と、地域によって異なる。”【618日 飯山みゆき氏 国際農研】

 

人口分布で見る限り、世界の中心はアフリカに向かっており、「アフリカの平和・安定」が「世界の平和・安定」に寄与する程度は現在以上に高まります。

 

【未だ遠い「アフリカの平和と安定」】

問題は、その「アフリカの平和・安定」が現在のところ最悪な状況で、近い将来好転する兆しも見つけにくいことです。

 

北アフリカ・アルジェリアでは、憲法評議会が2日、7月4日に予定していた大統領選の中止を発表しました。同国では4期20年の長期政権を敷いたブーテフリカ大統領が4月に辞任した後も、支配体制の刷新を求める反政府デモが毎週続いています。新たな選挙日程は未定で、政情不安が長期化しそうとの見方も。

 

スーダンでは、バシル前大統領失脚後の軍部と民政移管を求める勢力のせめぎあいが続いています。「双方は協議再開で合意した」という話ではありますが。

 

エジプトもテロ活動を抑えきれていない状態で、モルシ元大統領が17日裁判開廷中に急死したことで、ムスリム同胞団関連の反発も懸念されています。

 

南スーダンは最近あまり情報を目にしません。キール大統領派とマシャール副大統領派の間では、ひと頃ほどの衝突はないのでしょうが、状況が大きく改善したという訳でもなさそう。“国連の3機関は本日(614日)、南スーダンでは過去最多の696万人(人口の61%)が危機的な食糧不足に直面する恐れがあると警鐘を鳴らしました。”【ユニセフHP】

 

武装勢力が割拠するコンゴでは、エボラ出血熱対策もままならず感染拡大が止まりません。隣国ウガンダにも感染は拡大しています。

 

そのウガンダは、かつては盟友関係にもあった隣国ルワンダとの関係が急速に悪化し、国境を閉鎖し、スパイ行為や政治的理由に基づく暗殺、内政干渉を行っていると非難の応酬が繰り広げられています。

 

2013年から紛争が続く中央アフリカでは今年2月に、政府と14の武装勢力が権力分担などを規定した和平合意に達したと発表されています。ただ、5月にはフランス系スペイン人の修道女が頭部を切断されるといった事件も報じられていますので、まだ安定している訳でもなさそうです。

 

西アフリカの人口大国ナイジェリアでは相変わらずボコハラムのテロが止んでいません。“アフリカ・ナイジェリアの北東部で、少女2人と少年1人を使った自爆テロが立て続けに起こり、30人が死亡、39人が負傷した。”【618日 CNN】

 

南アフリカでは5月の総選挙で、ラマポーザ大統領を擁する与党アフリカ民族会議(ANC)が勝利を収めたものの、多くの課題に直面しており、マンデラの遺産を将来につなげることができるか今後の状況は不透明です。

 

明るい話としては、東アフリカ・エチオピアのアビー首相が、国境線を巡り紛争に発展した隣国エリトリアとの関係正常化に尽力していることでしょうか。

 

もちろん、上記のようなネガティブな話題だけではなく、アフリカ諸国では人口増加に伴う「人口ボーナス」によって、急速な経済成長も実現されてはいます。

 

ただ、これだけネガティブな状況が存在すると、将来に対しての楽観的な見方はなかなか困難です。

 

【西アフリカのマリでは民族間の“血で血を洗う抗争”】

そうした中にあって西アフリカのマリでは、イスラム過激派は仏軍によって掃討されたものの、その後も治安は安定せず民族対立による「殺し合い」が横行しています。

 

****マリ内閣総辞職、160人死亡の民族間衝突で政府対応に非難***

狩猟民族が牧畜民族の村を襲撃して160人を殺害した事件をめぐって政府批判が高まっていた西アフリカのマリで18日、内閣が総辞職した。

 

大統領府の発表によると、スメイル・ブベイ・マイガ首相と全閣僚の辞任を、イブラヒム・ブバカル・ケイタ大統領が承認した。

 

マリでは、情勢が不安定な中部モプティ州で民族間の衝突が激化しており、政府の対応に批判が集まっていた。

 

特に先月23日、狩猟民族のドゴン人がブルキナファソとの国境に近いオゴサグ村を襲い、土地利用をめぐって長年対立してきた牧畜民族フラニの村人160人を虐殺した事件では、マイガ政権への退陣圧力が高まっていた。

 

首都バマコでは今月5日、数万人規模のデモが行われ、襲撃事件の増加防止策が不十分だと政府を非難。17日には与野党の議員が共同で、マイガ政権は社会不安を抑え込めていないとして内閣不信任決議案を提出していた。

 

マリでは北部の広大な砂漠地帯を2012年に国際テロ組織「アルカイダ」系のイスラム過激派組織が掌握。20131月にフランス主導の軍事作戦が開始され、過激派の大半は掃討されたものの、今なお国土の広域が無法地帯と化しており、政府は治安の回復・安定化に苦慮している。 【419日 AFP】AFPBB News

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その後も、現代の出来事かと疑うような襲撃・殺戮“血で血を洗う抗争”が続いています。

 

****マリの村襲撃事件、当局が死者数を35人に訂正****

西アフリカのマリ中部で、武装集団が村を襲撃して当初95人が死亡したとみられていた事件で、当局は12日、最終的に確認された死者数は35人だったと発表した。

 

今回の発表によると、犠牲者のうち24人は子どもだったという。さらに「定期の巡回」により6人の身柄が拘束されていることも明らかになった。

 

ドゴン人の村ソバヌダまたはソバヌクーは9日夜、銃で武装した集団による襲撃を受けた。生存者らの証言によると、住民が殺されて家々が焼かれ、攻撃は7時間にも及んだという。

 

複数の少数民族の集落が隣接するこの地域では、2015年にイスラム過激派の集団が姿を現してから情勢が不安定となっており、今回の事件が報復の暴力行為を招くという懸念も生じている。(後略)【613日 AFP】

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地元当局者の話では、約300人が暮らす村に襲撃者らがやって来て「銃撃と略奪、焼き討ちを開始した」「ドゴン人の村1つが事実上消滅した」とも。【610日 AFPより】

 

“この地域では、イスラム過激派の説教師アマドゥ・クーファ師が率いる主に牧畜民族フラニ人のグループが、バンバラ人やドゴン人を標的とし始めたことで報復の連鎖が始まった。

 

フラニ人はもともと、牛の飼育および取引で生計を立ててきたが、バンバラ人とドゴン人は伝統的に農耕に携わってきたという。”【610日 AFP】

 

更に、襲撃は続きます。

 

****武装集団が村襲撃、38人死亡 マリ中部****

西アフリカのマリ中部で、武装集団がドゴン人の村二つを襲撃し、38人が死亡、多数が負傷した。政府が18日、明らかにした。死者数は暫定的なものとしている。

 

政府の声明によると、ブルキナファソとの国境に近いガンガファニ村とヨロ村が17日夜、「テロ攻撃」の標的とされたという。

 

この襲撃に関してこれまでに犯行声明を出した勢力はない。しかしマリでは今年、ドゴン人とフラニ人の間で血で血を洗う抗争が続いている。

 

フラニ人は主に牛の飼育や取引で生計を立てているのに対し、ドゴン人とバンバラ人は伝統的に定住し、農耕に携わってきた。

 

マリでは中部の民族対立だけでなく、イスラム過激派の活動も続いており、政府が鎮圧に苦慮している。 【619日 AFP】

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【ブルキナファソで相次ぐイスラム過激派のテロ活動】

一方、やはり西アフリカのブルキナファソではイスラム過激派の活動が火を噴いています。

 

****教会襲撃、6人死亡 武装勢力が乱射 ブルキナファソ****

AFP通信などによると、西アフリカブルキナファソの北部の村で28日、キリスト教会が武装勢力に襲われ、6人が死亡した。同国では、各地でイスラム過激派による襲撃が相次いでおり、今回の事件にも関与している可能性がある。

 

襲撃は28日午後1時ごろ、北部スム県の村で起きた。バイクに乗った武装勢力が、教会の牧師や礼拝に訪れた人々に向け、銃を乱射したという。

 

同国では、国際テロ組織アルカイダや過激派組織「イスラム国」(IS)などが根を張る。首都ワガドゥグでは昨年3月、フランス大使館や軍本部などが襲撃され、複数の死傷者が出た。2017年8月にも、首都のレストランが攻撃される事件があった。【430日 朝日】

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****仏軍、ブルキナファソで人質4人救出 兵士2人死亡****

フランス軍は、アフリカ西部ブルキナファソ北部で、何者かに拉致されていた仏人2人の救出作戦を実施し、この2人に加え、米国人1人、韓国人1人の計4人の人質の救出に成功した。ただその際、仏兵2人が死亡したという。仏大統領府が10日、発表した。(中略)

 

仏人観光客2人はベナンで拉致された後、国境を越えてブルキナファソへ連行されていた。ブルキナファソではここ数か月、イスラム過激派が攻撃を激化させている。

 

フランスは、貧困にあえぎ武力衝突が絶えないサヘル地域の北西部で「バルハン作戦」を展開しており、軍と特別部隊が数千人規模で駐留している。 【519日 AFP】AFPBB News

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****ブルキナファソで武装集団が教会襲撃、司祭と信者ら6人死亡****

アフリカ西部ブルキナファソの北部ダブロで12日、武装集団がカトリック教会を襲撃し、ミサを行っていた司祭1人と信者5人が死亡した。治安筋と地元当局が明らかにした。

 

ダブロ市長がAFPに語ったところによると、午前9時ごろ、ミサの最中だったカトリック教会に武装集団が突入し、礼拝者が逃げる中、発砲し始めた。実行犯らは礼拝者の一部を閉じ込めそのうちの5人と、ミサを執り行っていた司祭を殺害し、6人の死者が出たという。(後略)【513日 AFP】

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テロを繰り返すイスラム過激派はISやアルカイダとの関連も指摘されています。

 

****ISやアルカイダに忠誠 西アフリカで武装勢力が過激化****

アフリカ西部ブルキナファソで、武装勢力による襲撃や外国人を狙った拉致事件が相次いでいる。過激派組織「イスラム国」(IS)とのつながりが指摘される勢力もおり、治安の悪化が懸念されている。

 

AFP通信などによると、同国北部の二つのキリスト教会では先月28日と今月12日、武装した男たちが銃を乱射する事件が起き、少なくとも計12人が亡くなった。13日にも北部の街でキリスト教徒が襲われ、4人が死亡。政府は「テロリスト集団は我々を分断する目的で、宗教を標的にしている」との声明を出した。

 

また、隣国ベナンとの国境沿いにある国立公園では、今年に入ってフランス人観光客2人が武装勢力に拉致された。今月9〜10日に仏特殊部隊が救出作戦を実施。この2人のほか、以前から拉致されていたとみられる米国人と韓国人の女性も助け出されたが、作戦中に隊員2人が銃撃戦で犠牲になった。

 

いずれの事件も、武装勢力の目的や規模は分かっていないが、イスラム系の集団とみられる。イスラム教徒が多いブルキナファソではここ数年、国際テロ組織アルカイダやISに忠誠を誓う勢力が台頭しているからだ。AFP通信によると、2015年以降に約400人が殺された。

 

背景にあるのが、2011年にリビアのカダフィ政権が崩壊し、大量の武器が周辺国に流出したことだ。また、隣国マリでアルカイダやISに忠誠を誓う勢力がブルキナファソへ活動範囲を拡大しているとの見方も出ている。

 

昨年3月に同国の首都ワガドゥグにある軍本部とフランス大使館が襲撃され、兵士ら8人が死亡した事件では、マリを拠点にし、アルカイダ系とされる過激派「イスラムとムスリムの支援団(JNIM)」が犯行声明を出した。

 

ISも4月29日、最高指導者のアブバクル・バグダディ容疑者だとする動画を公開し、ブルキナファソやマリの勢力を称賛した。

 

マリのドゥラメ外相は14日、ベルギーで欧州諸国の外相らと会談した後、「我々は支援を必要としている」と国際社会の支援を求めた。【516日 朝日】

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こうした西アフリカを含むアフリカでの治安悪化は、欧州への難民流入圧力となりますので、アフリカの平和と安定が達成されない限り、欧州の安定もありえません。

 

中米からの移民・難民が流入するアメリカの場合も同様で、いくら壁を高くして自国を守ろうとしても・・・という話は、また別機会に。

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AI(人工知能)の驚異的な可能性 必要なAI活用ルール 不可避な社会変革

2019-06-18 23:03:25 | 世相

(【618日 レコードチャイナ】)

 

10年以上も前に失踪した子供を経年変化に対応した顔認識技術で探し出す 生後数か月の子供も】

最近はAIに関する記事を目にしない日はないぐらい。その有用性・可能性とともに、限界や問題点なども多々指摘されています。

 

また、中国ではこのAI技術をいち早く実用化し、顔認証システムなどに応用していますが、こちらもいわゆる「監視社会」の問題点が多々指摘されています。

 

そうした問題点、留意すべき事項は多々ありますが、下記のような話を聞くと、やはりAIの可能性には驚嘆せざるを得ません。

 

****AIで尋ね人探し!10年前に誘拐された子供4人を探し出す―中国****

(中略)騰訊(テンセント)優図実験室が実施した経年変化に対応した顔認証技術による絞り込みに基づき、警察がDNAによる親子鑑定を行った結果、約10年前に行方不明となっていた4人の子供を探し出した。これは、中国国内で初めてのことであり、非常に素晴らしいブレイクスルーといえる。

テンセント守護者計画の安全専門家である李新氏は、警察官として8年のキャリアがあり、行方不明者捜索・誘拐グループ摘発事件に携わったのは、今回が初めてではない。だが、今回の行方不明者捜索にAIを使った点は、極めて特殊だったといえる。

李氏の同僚が、行方不明となった子供を探す両親から寄せられた子供の写真を見た時、誰もが言葉を失った。どの写真も少しでも汚れたりしてしまわないように1枚ずつぶ厚い油紙に幾重にも包まれていたからだ。

 

行方不明の子供たちはそのほとんどが3歳以下で、生まれてから撮影された写真が1枚しかないという子供や、生後満1カ月の時の写真だけという子供もいた。

四川省公安庁刑偵局誘拐対策処の蒋暁玲(ジアン・シャオリン)処長は、「写真を集めた時、両親は、『くれぐれも写真を無くさないでほしい』と繰り返し言っていた。両親にとってこれは子供が残してくれた唯一の拠り所だったからだろう」と当時を回想した。

これらの写真に写っている子供たちは全員、四川省公安庁誘拐対策処の未解決事件と関係があった。2008年から2010年にかけて、3歳前後の子供10人が、四川省で連続して誘拐されるという事件が起こったためだ。

四川省公安庁誘拐対策処と事件が発生した県・市の公安当局はこの10年間、誘拐されて行方が分からなくなった10人の子供を探し続けてきた。

 

蒋処長は「訪問調査やモンタージュ写真の公開、ネットワーク公告など試せることはすべて試してみたが、事件発生から時間がたちすぎており、仲介人の手掛かりもなく、事件は迷宮入りになるかと思われていた」と話した。

しかし201712月に転機が訪れた。公安部刑偵局の陳士渠(チェン・シーチュー)副局長が調査のためテンセントを訪れた際に、優図実験室の経年変化に対応した顔認証技術のことを知り、この技術に関する情報を四川警察に伝えたのだ。

李氏は、「難易度は非常に高く、実はその当時、関係者も自信はなかったが、あのぶ厚い油紙に包まれた写真を見て、どこまでも努力していく決心がついた」と当時を振り返った。

その当時、10年以上も前に失踪した子供を経年変化に対応した顔認識技術で探し出したケースは、世界的に見ても皆無だった。

 

経年変化に対応した顔認証技術については、優図顔認証計算式の責任者である李博士が同僚とともに、0歳から18歳までの子供の顔の成長・変化に対するモデリング・シミュレーションを行い、学習可能な顔のサンプルを大量に生成した。その後、ディープニューラルネットワークのアルゴリズム用いて、これらの人の顔に成長過程で生じる複雑な変化を学習させた。

(
中略)ついに大きなブレイクスルーを実現した。「DDL(データ駆動型学習)」と呼ばれるアルゴリズムによる経年変化に対応した顔認識の精確率は96%以上に達した。

間もなく、優図実験室チームは、彼らのモデルを用いて警察に提供された膨大な量のデータに対する第1回のマッチングを実施し、警察は行方不明の子供たちそれぞれに最も似ていた順位トップ5人まで絞り、最終的にオフラインでの確認作業を行った。

(中略)警察はDNA鑑定を経て、この第1回のマッチングで誘拐された4人の子供の所在を突き止めることに成功し、その4人のうち3人の精確率は最高だった。

蒋所長にとって最も印象深かったことは、第1回のマッチングで見つかった4人の子供の中には生後わずか数カ月の写真しかなかった子供が含まれていたことだった。彼女は、「科学技術の力は偉大すぎる」と感嘆を禁じえなかった。

引き続きこの技術を用いてさらに3人の子供が見つかった。当時四川省で相次ぎ連れ去られた10人の子供のうち、現在まですでに7人が見つかっている。

 

公安部刑偵局の陳副局長は、「誘拐された子供の多くが無事見つかったことは、誘拐されて長年が経過した子供を探す上でAIが重要な役割を担うことができる事実を裏づけている。経年変化に対応した顔認証技術は、DNA鑑定に続き、公安機関が誘拐された子供を捜索する上で、極めて有効な方法を提供するものであり、大きな『一里塚的意味合い』を備えている」とコメントした。【618日 レコードチャイナ】

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生後わずか数カ月の写真をもとに10年後に顔認証するというのは驚異的ですが、本来問題とすべきことは、AI云々より、中国では子供の行方不明が異常に多いということでしょう。

 

中国メディアが取り上げる「日本社会の不思議・驚異」として、“なんと、日本では子供だけで登下校する!”ということがよく挙げられます。

 

中国では“誘拐”などの子供の行方不明が信じられないぐらいに多く(年間20万人(!)とも)、登下校は親などが付き添うというのが常識になっているようです。

 

****年間20万人の児童が行方不明に! 中国マフィアの「誘拐イノベーション」****

旧正月に多発 超監視社会に対抗する最新犯行手口

 

(中略)ところで、この分野でも「大国」なのが中国だ。子どもをかどわかして売り飛ばす誘拐犯を指す言葉として、中国語には「人販子」というこなれた単語が存在し、メディアでも日常的に使われている(それだけ身近な概念なのだ)。

 

香港紙『文匯報』によると、中国で1年間に立件される子どもや女性の誘拐事件は約2万件で、1日平均50件とのこと。また2015年にNHKは、中国で行方不明(誘拐のみとは限らない)になる児童数は年間20万人に達すると伝えている。

 

誘拐した子どもの「市場価格」は約140万~170万円

中国大手週刊誌『中国新聞週刊』の記事によれば、誘拐した子どもの「市場価格」は、20173月時点で8万~10万元(約140万~170万円)ほど。

 

男の子は女の子よりも高く、男の赤ちゃんが15万元(約260万円)で売買された例もあったという。

 

さらわれた子どもの多くは、社会保障制度の不備から老後の不安を抱える、農村部の子どもがいない夫婦に売られているようだ。(後略)【2018216日 安田峰俊氏 文春オンライン】

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二言目には「安心・安全」の日本からすれば“とんでもない”ことですが、そのことは今回パス。

 

【必要となるAI活用のルールづくり】

話をAIに戻すと、その応用は中国だけでなく世界各地で始まっています。

 

****全米初、訴追手続きにAI導入へ サンフランシスコ、偏見排除狙い****

米サンフランシスコ市検察当局は13日までに、人種の違いによる偏見がもたらす冤罪などの排除を目指し、7月から訴追手続きに人工知能(AI)技術を導入すると発表した。

 

多様性に富む社会で公正な法治の実現を目指す全米初の試みとして注目を集めている。米メディアが伝えた。

 

検察官は声明で、犯罪を検討する際に「人種(問題)を取り除く」と説明。全米各地でも活用できるモデルづくりを目指したいと意欲を示した。

 

米国では黒人など有色人種の犯罪検挙率が高いとされる。背景には捜査当局の偏見があると指摘する声があり、新たな取り組みで市民の不信感を払拭する狙い。【614日 共同】

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AIには人種や性別に関する差別・偏見がないのか・・・と言えば、そんな訳でもなく、(AIのことは皆目わかりませんが)AIを学習させる過程で、現在社会に存在する差別・偏見が刷り込まれてしまうことはあるようです。

 

そうした点には注意する必要がありますが、もっと差別・偏見に凝り固まった人間ははいて捨てるほどいますので、総体的にはAI利用で偏見排除が期待できるでしょう。

 

ただ、AIに委ねた際に、ブラックボックス化する懸念などもありますので、利用時のルールが必要にもなります。

 

****OECDがAI活用の基本指針を採択 「人間中心」の原則明記****

経済協力開発機構(OECD)は22日、パリで閣僚理事会を開き、急速に進展する人工知能(AI)の活用に関する基本指針を採択した。

 

人とAIの共生に向け、基本的人権を阻害しない「人間中心」を掲げ、説明責任や個人情報保護など、AIの開発や利用にあたって重視すべき原則を明記した。国際機関によるAIの指針は初めて。今後はこの指針をたたき台に国際ルール作りが加速することになる。

 

AIは膨大なデータを分析して判断を下すことができ、生産性の飛躍的な向上が期待されている。一方、病気の診断や融資の審査、就職の採用判断など、人生を左右する決定に使われることも見込まれ、データに偏りがあれば差別的な判断を下したり、プライバシー侵害を招いたりするとの懸念が出ている。

 

指針では、法の支配を重視する「人間中心」のほか、AIの判断が差別を生まない「公平性」、AIの恩恵から取り残される人のいない「包摂的な成長」などの原則を明記。開発にあたる組織、個人、政府機関に対し、重視するよう求めた。

 

AIの仕組みは複雑で分かりにくく、「ブラックボックス化される」との懸念も出ている。このため、正しく判断する「高い精度」だけでなく、AIが下した判断の根拠を人々に分かりやすく示す「透明性、説明可能性」の原則も盛り込んだ。

 

AI開発では、「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・コム)と呼ばれる米巨大IT企業が膨大な個人情報を蓄積して新たなサービスを展開している。こうした個人情報の流出防止など、プライバシーを保護する「安全対策の徹底」も求めている。

 

OECDの調査によると、AIの普及に伴う自動化によって既存の仕事の14%が消滅し、32%の仕事が劇的な変化を迫られるという。このため、指針では各国政府が連携して労働市場の変化に対応していくことも求めている。

 

今回の指針には、日本を含むOECD加盟国のほか、アルゼンチン、ブラジルなどの非加盟国も賛同しており、最終的に40カ国以上が採択する見通し。

 

6月に大阪で開催される主要20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)でもAIが議題になるとみられ、議長国の日本がルール作りを主導できるか問われることになる。【522日 毎日】

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膨大なデータを分析して瞬時に判断を下すことができるということで、人間では問題にならなかったような新たな問題も出てきます。

 

AIの活用が現実化している車の自動運転では、正面に一群の子供たちを発見したとき、右によければ大勢のお年寄りがいる、左によければ自分が壁に衝突する・・・さて、どうするか?といった問題も。

 

人間なら、頭が真っ白になって“合理的な判断”などできず、反射的な対応で終わりますが、AIなら分析できます。

分析できますが、子供の命を守るのか、高齢者を犠牲にすべきか? それとも自分の命を・・・といった極めて判断しづらい問題をいかに判断させるべきかを事前に開発段階で人間が悩む必要があります。

 

仮に大勢の命を救うためなら、運転者を犠牲にするように設計されているとなると、購入者が納得するかどうか・・・。

 

【“既存の仕事の14%が消滅し、32%の仕事が劇的な変化を迫られる”ことによる社会変革】

そうした個々の問題もありますが、社会的に大問題となるのは“AIの普及に伴う自動化によって既存の仕事の14%が消滅し、32%の仕事が劇的な変化を迫られる”ということでしょう。

 

AIに仕事を“奪われた”人間はどうすればいいのか?

生産性向上で、人間は働かなくてすむようになったとして、収入さえ保証されればそれでいいのか?

 

****(シンギュラリティーにっぽん)第1部・未来からの挑戦:7 AIが奪う雇用、どう支える****

人工知能(AI)が雇用を奪う、との心配が広がる。テクノロジーが脅威になるとき「公的な支え」が必要にならないのか。個人はどう備えればいいのだろうか。

 

(中略)

 ベーシックインカム、財源難

AI時代になぜBI(ベーシックインカム)が必要か――。5月16日夜、東京都内であった近未来の社会システムを考えるイベントで、駒沢大学の井上智洋准教授が講演した。「AI時代には生活保護だけでは不十分。幅広く生活を保障する制度が必要になる」

 

18世紀の産業革命以降、技術革新は肉体労働を中心に雇用を奪ってきたが、AIの登場は知的労働を脅かす、と井上准教授は考える。「工場などでAIやロボットが生産するようになれば、多くの人手は必要とされなくなる。雇用は破壊され、所得格差が広がる」

 

低成長が続き格差が拡大する先進国を中心に、BIへの注目が高まっているのは確かだ。右派と市民政党の連立政権が誕生したイタリアでは今年1月、ポピュリズムの台頭を背景にBIが貧困層に限って導入された。フランスやインドは20年の法制化をめざす。

 

しかし、誰にでも最低所得を保障するBIは人々の労働意欲をそがないのか。

 

フィンランドで昨年末まで失業者2千人を対象に行った実証実験では、BIを受けた失業者と受けなかった失業者で労働意欲に差はなかった一方で、健康状態が「とても良い」「良い」と答えた人は、BIを受けていた方が9ポイント多かったという。それでも、同国社会保健省は本格導入を見送った。

 

BIという「バラマキ」策が財政を悪化させる懸念もつきまとう。日本でBIが導入されるとしたら、最大の壁はやはり財源問題だ。

 

三菱総合研究所が昨年4月、国内の会社員ら3千人を対象にしたアンケートによると、BI導入について24%が「必要」とし、月に平均「10万円」の支給が必要と答えた。一方、「不要」は28%だった。

 

三菱総研によると、18歳以上に月10万円、17歳以下に半額を給付した場合、約130兆円の財源が必要。消費税率を現在の8%から49%に上げないと捻出できない。

 

アンケートでも、負担を明示するとBIが「必要」との回答は12%に減った。

 

三菱総研の森重彰浩シニアエコノミストは「負担増に抵抗を感じる人は多く、日本でのBI導入は現実的とは言えない」と指摘する。

 

 ■自動化の波「個人の備え必要」

東京都目黒区の商店街の一角に、今年1月オープンした三菱UFJ銀行の新型店舗は、近未来の銀行の一つの姿を予感させる。

 

スリム化された店頭にはカウンター窓口がない。ネットバンキングの口座開設などは来店客が自分でタブレット端末を操作。税金や公共料金などは自動受付機で支払う。AIを使って店内に10台以上設置したカメラの情報から性別、年齢などを分析し、マーケティングに役立てる。

 

長引く低金利で厳しい収益が続くメガバンクは、業務量や人員の削減を迫られている。三菱UFJは23年度までに、現在の約500店のうち従来の窓口がある店舗を約半分にする計画だ。

 

30年ごろ、日本の労働人口の49%が自動化される可能性がある――。野村総合研究所と英オックスフォード大が4年前に出した報告書は、銀行の窓口係と並び、経理事務員などがAIやロボットに取って代わられやすいと予想した。(後略)【526日 朝日】

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おそらく産業革命にも匹敵するような社会の変革が現実のものになるのでしょう。

 

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香港  中国側譲歩の背景 SNSを駆使した「リーダー不在」の戦いの成果と限界

2019-06-17 22:53:58 | 東アジア

(【6月17日 朝日】 幹線道路を埋め尽くす16日の「200万人デモ」)

 

【本人が望んでも中国は林鄭行政長官の辞任を認めない】

香港の「逃亡犯条例」改正案をめぐる問題については、決定権を持つ中国指導部は最後まで譲らないのでは・・・と、個人的には考えていました。

 

12日段階では、香港政府トップの林鄭月娥行政長官が声明を発表し、若者らのデモについて「公然と暴動を起こした」と非難していましたので、「動乱」と位置付けられた天安門事件も想起される状況で、譲歩はないのだろう・・・と。

 

その後の展開は、報道のとおり。

林鄭長官は15日、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案の審議を無期限で延期すると表明したうえで、市民への謝罪も。

 

“香港政府の報道官は16日夜に声明を発表し「政府は条例改正の作業を再開する予定がない」と強調した。声明で林鄭氏は「政府の仕事ぶりで社会に大きな紛争を巻き起こした」としたうえで「市民に謝罪し、謙虚に批判を受け入れることを約束する」と述べた。”【6月16日 日経】

 

しかし、撤回はしていないこと、およびゴム弾や催涙ガスを使用した警官隊の対応に関して、市民の間では長官の辞任を求める声が高まり、16日には過去最大の「200万人デモ」に。

****香港トップ、大規模デモに衝撃 辞任圧力強まる可能性も****

香港で中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案の撤回や林鄭月娥行政長官の辞任を求める16日のデモの参加者が1997年の香港返還以降で最多の「200万人近く」(主催者発表)になった。

 

15日の改正案延期の発表で事態の沈静化を図れると踏んでいた林鄭氏にとっては衝撃の規模で、今後辞任圧力が強まる可能性もある。(後略)【6月16日 共同】

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市民の大規模抗議行動は17日朝までにほぼ収束し、衝突は起きていませんが、一部若者らは抗議行動を続けています。

 

****香港200万人デモから一夜 「対話と辞任」求め行進****

一夜明けた17日も、若者らが抗議を続けている。(中略)

 

デモ開始から丸一日が過ぎた17日夕方、若者らが、香港政府トップの林鄭月娥行政長官の事務所までデモ行進し、対話を求めた。

 

林鄭行政長官は、一連の対応を謝罪する声明を出したが、デモ主催者側は、長官辞任も求めていて、抗議活動が収まるかは不透明。【6月17日 FNN PRIME】

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法案の撤回、および長官辞任に関しては「香港政府の高官」の話として、以下のようにも。

 

****行政長官の辞任、中国は容認せず 条例は事実上廃案=香港高官****

香港政府の高官は17日、たとえ林鄭月娥行政長官自身が望んでも中国は林行政長官の辞任を認めないとの見方を示した。一方、無期限の審議延期となった中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案については、事実上廃案との認識を示した。

「逃亡犯条例」改正案の審議は無期限延期となったものの、抗議デモは収まる気配はなく、林行政長官に対する辞任要求が強まっている。

政治危機について協議する会議のメンバーとなっているこの高官は、「それ(辞任)はない」とし、「林行政長官は中央政府に指名された。したがって辞任するには本土でのハイレベルの検討を必要とする」と述べた。

また、いま辞任すれば、事態を悪化させるだけだと指摘した。

中国外務省の陸慷報道官は17日の定例会見で、同国が引き続き香港の林鄭月娥行政長官を支持すると述べた。

高官は、「逃亡犯条例」改正案について「中断というのは実質的廃案を意味する。再度持ち出せば政治的自殺だ」と述べた。【6月17日 ロイター】

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“たとえ林鄭月娥行政長官自身が望んでも中国は林鄭行政長官の辞任を認めない”・・・・林鄭長官もつらい立場です。

 

【中国側の予想を超えた香港市民の反発 G20での国際批判も考慮】

予想に反して、中国指導部が“無期限延期”という譲歩を示した背景には、雨傘運動挫折以降の香港民主化運動の低迷もあって、香港市民の激しい抵抗を中国側も予測できなかったということがあります。

 

6月12日ブログ“香港 若者たちの抵抗 「今回が最後のデモ活動だ」 台湾では、中国批判を避ける国民党候補”でも取り上げたように、改正案が成立すれば、デモに参加したことが罪に問われて中国に引き渡される恐れもあることから、「今回が最後のデモ活動だ」という切羽詰まった思い、「改正案が成立すれば香港の一国二制度は実質的に終わる」という思いが市民を激しい抗議に駆り立てました。

 

また、警官隊の強硬な排除策も、市民の怒りの火に油を注ぐ結果にも。

雨傘運動の「女神」・周庭(アグネス・チョウ)氏は、ゴム弾は雨傘運動のときは使用していないとも、また今回は催涙弾を至近距離から発射しているとして、「香港人として暴力を許せない。警察は(デモ参加者を)殺す気ではないでしょうか」と警官隊の対応を批判しています。【6月17日 Newsweekより】

 

****「私たちの子供を撃たないで」 逃亡犯条例反対集会に母親数百人 香港****

香港中心部の公園で14日夜、刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡せるようにする「逃亡犯条例」改正に反対する母親たちの集会があった。数百人の母親らが集まり、改正案の撤回や林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官の辞任を求めて気勢をあげた。

 

母親らが次々と前に出て、政府批判を展開した。ある母親は「催涙弾やゴム弾で、平和的なデモをする若者たちを攻撃するよう指示した行政長官は決して許せない」と憤った。別の母親は「若者たちよ、あなたたちは孤独じゃない。私たちが共にいる」と叫んだ。(後略)【6月15日 毎日】

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中国指導部は、こうした香港市民の激しい抗議を受けて、これ以上強行して犠牲者を出すような事態ともなれば、今月末に予定されているG20で強い国際批判にさらされるというリスクを考慮したと推察されます。

 

そうでなくても激しい米中対立のなかで行われるG20ですから、アメリカ側に絶好のカードを提供することにもなります。

 

“審議を続けて衝突が起き、けが人や死者が出れば、「第二の天安門事件」として国際社会が非難するのは必至だ。月末に大阪で開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議が習近平国家主席への批判の場となるのを避けるため、中国政府も香港政府の判断を受け入れざるを得なかったのだろう。”【6月16日 倉田徹氏 朝日】

 

なお、香港で大規模な抗議行動が繰り返されるのは、民意を反映する手段として選挙・議会が大きな制約を受けている事情があります。

 

****香港で続く「抗議の歴史」 選挙で反映できぬ民意を示すデモ****

中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案は、デモで示された民意を香港政府も無視できなくなり一時断念を余儀なくされた。

 

限定的な選挙制度が取られている香港では、選挙では反映しにくい民意を表明する手段としてデモの文化が息づいている。

 

英BBC放送(電子版)は「香港には豊かな抗議の歴史がある」と指摘する。1966年には香港島と九竜半島を結ぶ「スターフェリー」の値上げをめぐり激しい抗議が起きるなど、英国統治下でも度々デモが行われてきた。89年5月には中国の民主化運動を支援するため150万人規模のデモも開かれている。

 

英国から中国への返還後の2003年には、国家分裂行為などを禁じる「国家安全条例」案に反対する50万人規模のデモが発生。最終的に香港政府は白紙撤回に追い込まれた。

 

記憶に新しいのは、香港政府トップの行政長官の民主的な選挙を求めた14年の「雨傘運動」だ。学生らが79日間にわたって街頭を占拠したが、政府側から譲歩を引き出すことができず、当局により強制排除されて終わった。

 

香港は1997年の中国返還後も「一国二制度」で高度な自治が50年間認められているものの、民意がそのまま政治に反映されているとは言い難い。

 

行政長官は、政財界などの代表で構成する選挙委員会による間接選挙で選ばれ、立法会(議会)の議員選挙では親中派に有利とされる制度が一部採用されている。

 

そうした環境下で、民意を直接示す方法とされるのがデモだ。BBCは「香港人は一定の自治は持っているが、投票における自由は少ない。抗議には自分たちの意見を聞いてもらう数少ない手段という意味がある」と指摘する。【6月16日 産経】

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【「親中派」内部にも足並みの乱れ】

中国側の誤算は、本来「親中派」であるはずの香港経済界からも改正に反対の声が強かったこともあります。

 

****香港財界、条例改正で苦境 親中だけど…ビジネスに影響 報復関税対象外、米見直しも****

香港で中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案をめぐり混乱が続く中、香港の経済界が苦境に直面している。

 

今後のビジネスを考えれば、改正を支持する中国側の意向を無視できない。しかし改正されれば、国際社会から香港のビジネス環境が悪化したとみなされる−。こうした経済界の足並みの乱れも、改正反対デモが勢いづいている背景にある。

 

香港の有力経済団体、香港総商会のハリレラ会長は13日、改正案の原則には同意するとしながらも、「市民の声に耳を傾け、有意義な対話を行うよう政府に求める」とコメント。同会の袁莎●(=女へんに尼)総裁も「香港の国際的な評判に影響を与えないよう関係者に自制を促したい」と述べた。

 

香港の経済界では、中国本土との経済的な結び付きが年々強まる中で、親中派財界人の影響力が増している。中国の習近平政権が最近、香港を核とした国家プロジェクト「粤港澳(えつこうおう)(広東省・香港・マカオ)大湾区」を推進している折だけになおさらだ。

 

しかし今回、逃亡犯条例が改正されれば、「香港を支えてきた良好なビジネス環境が崩壊する」(メディア関係者)恐れがあり、事情が異なる。たとえば、香港を訪れた外国人も中国本土へ引き渡される可能性が出てくる。「香港が中国の司法制度の支配下に置かれる」(同)ことを意味し、本来、高度な自治が保障された香港の「一国二制度」は有名無実と化す。

 

実際に米国では、一国二制度を前提に通商面などで香港を優遇してきた「米・香港政策法」の見直しを求める動きが出ている。香港は同法に基づき、トランプ米政権による対中報復関税の対象外となっているが、その特別な地位が脅かされているのが現状だ。

 

経済界の足並みの乱れを受けて、習政権は「香港財界の有力者たちを北京に呼んで支持固めを図った」(外交筋)ものの、まとまりきれないもようだ。

 

中国との結び付きが特に強い経済団体、香港中華総商会は14日、産経新聞などに対し、「われわれは改正案を支持している」とコメントした。【6月15日 産経】

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香港富裕層には資産をライバル・シンガポールなどに移す動きも出ているとも。

 

****香港の富裕実業家が海外に資産逃避、逃亡犯条例を懸念****

銀行家や法律専門家によると、香港の富裕な実業家が中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案への懸念を強め、個人資産を海外に移す動きが始まっている。

こうした動きに関与した助言サービス関係者によると、ある大物実業家は法改正で政治的リスクが自らに及び得ると考え、1億ドル余りを香港のシティバンクの口座からシンガポールのシティバンクの口座に移し始めた。同様の例をほかにも耳にしているが、いずれも目立たないように行われているという。

逃亡犯条例は、香港市民だけでなく香港に居住したり旅行で通過したりする外国人や中国籍の人間を対象にしており、香港の金融センターの地位を支える法の支配を脅かしかねないとの懸念が異例な広がりを見せている。条例が成立すれば、中国本土の裁判所が香港の裁判所に要請して、中国本土での「犯罪」に関連したと見なす資産を凍結したり押収したりできるようになる。

国際展開している香港の銀行のプライベートバンキング部門トップも、顧客が資金を香港からシンガポールに移していると指摘。「彼らは中国本土の顧客ではなく、香港の富裕な顧客だ。香港の情勢は混乱している」と述べた。「香港の富裕層は、林鄭月娥行政長官や中国の指導部が逃亡犯条例による経済的損失を理解できないほど愚かなことを見過ごせないのだ」

香港とシンガポールはアジア随一の金融センターとしての地位を巡って激しく争っている。クレディ・スイスの2018年のリポートによると、香港は個人資産1億ドル以上の資産家が853人と、シンガポールの2倍以上だった。【6月17日 ロイター】

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「親中派」内部の足並みの乱れもあって、これ以上の強硬策を思いとどまる中国指導部の判断にもなったのでしょう。

 

【SNSを駆使した「リーダー不在」の戦い 長期的目標達成には限界も】

今回の抗議行動の特徴は「リーダー不在」という点です。

 

****香港、リーダーなき反政府デモの「勝利」 テレグラム利用で情報共有****

中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案をめぐり、多くの香港市民が参加して繰り広げた反対運動はひとまず、立法会(議会)審議の無期限延期という譲歩を当局から勝ち取った。一連のデモは「リーダーなき反対運動の勝利」だったとの見方が広がっている。(中略)

 

民主派の区諾軒・立法会議員は今回の改正反対運動について「これまでのデモとの違いは、リーダーが存在しないことだ」と指摘する。地元ジャーナリストも「香港政府は今回、誰と交渉したらいいのか分からなかった」という。

 

区氏によると、改正反対運動で多くの参加者が利用したのが、携帯電話用の通信アプリ「テレグラム」だ。ロシア人が創設したアプリで、最大20万人のグループを作ることができるという。メッセージが暗号化されて送られるため、保秘性が高いことでも知られる。

 

実際、改正反対運動に関するグループの一つには約2万9千人が参加していた。こうしたグループが多数存在し、反対デモに関する情報を共有していた。あるグループでは「犬に注意」などの隠語を使って、警察などの治安部隊がどこにどれだけ配置されているか−といった情報を知らせるものもあった。

 

地元ジャーナリストによると、こうしたアプリを通じて情報を得た多くの学生らは今回、当局の追跡をかわすため共通の対策をとっていたという。

 

マスクやヘルメット、ゴーグルを多用し、いつも以上に身元を特定しにくくしていたのもその一つ。また、地下鉄やバスを利用してデモに参加する際、当局による追跡が容易なICカードではなく、現金を使っていたようだ。

 

9日のデモには主催者発表で103万人が参加し、反対運動に弾みがついた。こうした中、テレグラムは12日、大量のデータを送りつける「DDoS(ディードス)攻撃」を受けていると公表。運営会社は13日、攻撃の大半は中国からだったと明らかにしている。【6月15日 産経】

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SNSが重要な役割を果たすのは、近年の抗議行動に共通していますが、香港では当局の追跡をかわすための対策にも大きな配慮がなされたとのことのようです。

 

ただ、一般論で言えば、こうしたSNSを駆使した「リーダー不在」の抗議行動というのは“しりすぼみ”に終わる傾向もあります。

 

****SNS発の抗議デモ、なぜしりすぼみに ソーシャル上の怒りがぶつかる壁の正体****

ソーシャルメディアで拡散した市民の怒りが大きなデモに発展する光景が、世界各地で見られるようになった。現在進行形なのが東欧のセルビアだ。

 

昨年12月から、大統領の辞任を求めて若者らを中心としたデモが続き、一時は国の全土に抗議が広がった。デモのスタートから5カ月。抗議運動を急速に広げたSNSの力が若者たちに何をもたらしたのかを確かめるため、現地を訪れた。

 

(中略)ソーシャルメディアを使って抗議を広め、人々を動員する手法は、セルビアに限らず今や世界で共通している。最近ではフランスの「黄色いベスト運動」でも使われた。日本でも2015年に安保法制反対の中心的な存在になった学生団体「SEALDs(シールズ)」が駆使したことで注目された。

 

SNSと社会運動の関係を研究する米ノースカロライナ大学准教授のゼイナップ・トゥフェックチーは「ある問題について自分がどう感じるかが運動の始まり。だから、感情を拡散するのに有効なソーシャルメディアは国全体のムードをがらりと変えるほどの力を持つ」と話す。

 

しかし、ソーシャルメディアの登場から10年以上がたち、明らかになりつつあるのは「力」よりもむしろ「限界」だ。

 

「アラブの春」は中東と北アフリカで独裁的な政権を崩壊させたが、発端となったチュニジア以外は独裁政権に後戻りするか内戦に陥った。貧富の格差を社会の不正義として訴えた「オキュパイ・ウォールストリート」は、短期間のうちに世界中に広まったもののほどなく消え去り、経済格差はむしろ広がっている。

 

トゥフェックチーはその限界をこう説明する。「ソーシャルメディアは、本来は広告のための道具であって、社会問題を解決するためのプラットフォームとしては設計されていない。急速に怒りを拡散できたとしても、それだけでは社会を変えるのに必要な政治的組織の構築にはつながらず、壁にぶつかってしまう」(後略)【6月2日 GLOBE+】

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香港では、SNSによって「一国二制度を守るための最後の戦い」という強いメッセージを発信することで“怒りを共有”し、当局からの譲歩を勝ち取ることができましたが、今後の撤回に向けた戦いを続けていくためには、SNSで集まる「リーダー不在」というだけでは難しいかも。

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欧州  揺らぐドイツ連立政権 躍進した「緑の党」 極右への対抗軸へ 今後もEUを牽引する独仏

2019-06-16 22:22:38 | 欧州情勢

(欧州議会選の速報を聞いて喜ぶ緑の党のアンナレーナ・ベーアボック代表(前列右から2人目女性)ら=ベルリンで526日 【615日 毎日】)

 

【ドイツ 中道二大政党の低迷 連立維持も危うい状況】

ドイツでは20113年以降、メルケル首相のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)の連立政権が続いていましたが、5月下旬の欧州議会選でこの二大政党の著しい退潮が明確になり、党首の責任が問われる状況ともなって、連立政権の維持も危うい情勢になっています。

 

****ドイツ社会民主党の党首が辞任へ 連立解消の動き加速か****

ドイツの連立与党の一角、社会民主党(SPD)のナーレス党首(48)は2日、党首と連邦議会議員団長をともに辞める意向を示した。

 

5月下旬の欧州議会選で大きく議席を減らし、責任を問う声が強まっていた。辞任によって連立解消に向けた動きが加速する可能性がある。

 

SPDは、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)との連立を続け、メルケル政権を支えている。今回の欧州議会選では、得票率が15・8%と、前回2014年の選挙より11ポイント以上も下落。緑の党に抜かれ3位に後退した。

 

17年の総選挙でも戦後最低の得票率を記録し、党勢は落ち込む一方だった。党内からは、連立を解消して独自色を打ち出すべきだとの声が根強くある。(後略)【62日 朝日】

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****メルケル独首相後継者にも辞任論、政権ピンチ****

メルケル独首相の後継と目される、中道右派・キリスト教民主同盟(CDU)のクランプカレンバウアー党首が失言により危うい立場に置かれている。辞任すれば党内の保守色が強まる可能性が高く、大連立を組む中道左派・社会民主党(SPD)の離脱とメルケル政権崩壊を早めかねない。

 

辞任論の引き金となったのは5月末の欧州議会選挙だ。投票の1週間前、若者に人気の男性ユーチューバー「レゾ」が、「CDUの破壊」という動画をインターネット上にアップした。55分間にわたり、気候変動対策の遅れなどを批判した。動画は1週間で約1000万回視聴された。

 

CDUは投票日前に文書で反論したが、国政会派キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の選挙結果は前回比6・4ポイント減の得票率28・9%と低迷。

 

クランプカレンバウアー氏は選挙後、「仮に新聞社が投票の2日前にCDUとSPDに投票しないように呼び掛けたら、世論操作になる。世論操作に対してデジタル分野ではどのような規制が有効なのかが問題だ」と述べ、ネット上の発言を規制する可能性に言及した。

 

この発言に批判が殺到。ユーチューバーらによるネット上の抗議の署名は8万3000人(10日時点)を超え、党幹部からも「基本法(憲法)はすべてのメディアに表現の自由を保障している」などと批判が噴出した。(中略)公共放送ARDは、メルケル氏がクランプカレンバウアー氏を次期首相に適任ではないとの判断に至ったと報じた。

 

クランプカレンバウアー氏は昨年12月、保守色の強いメルツ元党連邦議会会派代表を破って新党首に選出された。辞任すれば、後任次第でメルケル氏の穏健な中道路線から、保守色を強く打ち出す方向へと転換。大連立を組むSPDとの路線対立が決定的となり、大連立政権が立ちゆかなくなる可能性が高い。

 

大連立を巡っては、大連立の継続を主張していたナーレスSPD党首が3日に辞任したばかり。国政第1党・CDUと第2党・SPDの近年の党勢低迷はともに、大連立により政策の違いが見えなくなった中道路線が一因とされる。【611日 毎日】

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これまでの政治を主導してきた中道・穏健路線が有権者から見放され、ポピュリズム的な政党を含む左右の過激な勢力が台頭する形で国内で分断が進む・・・というのはドイツに限らず欧州やアメリカでも見られる最近の政治の流れです。

 

【「緑の党」ドイツでは支持率1位に 欧州全体でも「緑の波」】

そうした流れを受けて、左右の中道政党に代わって台頭してきた極右・ポピュリズム政党、ドイツで言えば「ドイツのための選択肢(AfD)」が注目を集めていますが、ドイツではAfD以上に躍進したのが「緑の党」です。

 

今や、社会民主党(SPD)はおろか、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)さえ凌ぎ、第1位の支持率になっています。

 

****独与党連合支持率が過去最低、緑の党との差が拡大=世論調査****

8日に発表された調査機関フォルサの世論調査で、ドイツのメルケル首相率いる保守系与党連合の支持率が過去最低に落ち込むとともに、再び伸びてきた緑の党との差が拡大している。

連立政権に対する幻滅感の強まりが反映された格好。主に連立与党の一角である社会民主党(SPD)内部の混乱から、2021年の任期満了まで連立が維持できるか疑念が高まっており、いまや多くの専門家が来年に連邦議会選挙が実施される可能性が高まりつつあるとみている。

調査では、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の保守連合支持率が24%で、前週から2ポイント低下。SPDの支持率は過去最低水準の12%と、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」と同水準にとどまった。

欧州全域にわたる気候変動への懸念の高まりを追い風に欧州議会選で第2党に躍進した緑の党の支持率は、トップの27%だった。【610日 ロイター】

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欧州全体で見ても、「緑の波」とも称される「緑の党」系環境政党の躍進が見られ、その存在は移民排斥を掲げる右派ポピュリズム勢力に対する「防波堤」ともなっています。

 

****欧州政治に「緑の波」 欧州議会選挙で4番目に躍進****

欧州政治で「緑の党」系環境政党が存在感を強めている。5月下旬に実施された欧州連合(EU)の欧州議会選挙で4番目に大きな会派に躍進し、分極化が進んだ欧州議会で多数派形成のカギを握る存在となった。地球温暖化対策を求める若者たちのデモの拡大が、「緑の波」をもたらしたと指摘されている。

 

欧州議会選で、「緑の党」系会派は定数751のうち75議席を獲得(11日現在)、改選前の52議席から大きく勢力を伸ばした。左右の中道勢力が初めて過半数を割るなか、EUの気候変動対策や環境規制で一定の影響力を及ぼしそうだ。

 

「緑の党」系会派の政党は西欧や北欧の加盟各国で支持を伸ばしたが、特に顕著だったのがドイツだ。得票率は20.5%で前回から倍増し、政党別で2位になった。出口調査によると29歳以下で3人に1人から支持を受けた。

 

選挙後の複数の世論調査では、初めてメルケル首相率いる与党を上回り、支持率首位に躍り出た。ルーバン・カトリック大学(ベルギー)のバージニー・バン・インゲルゴム特任准教授(政治学)は「気候変動のような地球規模の問題は、(加盟国レベルよりも)欧州レベルで取り組むべきだとの考えが有権者に広がっている」と指摘する。

 

緑の党の躍進を報じた複数の欧州メディアは「グレタ効果」と呼んだ。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさん(16)が契機になった気候変動の危機を訴える若者たちによる抗議活動が、支持拡大に影響したとの見方だ。

 

各地に広がった抗議活動は学生が主体だったが、支持層は親の世代などにも拡大。域内の市民を対象に実施したEUの世論調査では、気候変動対策を選挙の主要な争点と考える人の割合は、この半年間で若者と高学歴層を中心に上昇した。

 

「緑の党」の伸長は、移民排斥を掲げる右派ポピュリズム勢力の「防波堤」としても働いた。今回の選挙では、中道2大会派の合計議席は過半数を割ったが、リベラル系と緑の党を合わせた親EU4会派で3分の2を確保。

 

緑の党は、社会的少数者の権利保護を訴えて右派ポピュリズム政党への対抗軸となり、排外主義の広がりに危機感を持つEU支持層の受け皿となった。

 

環境政策を巡るEUの当面の焦点は、温室効果ガスの長期削減目標だ。「緑の波」に後押しされ、欧州委員会やフランスなどはEU全域で2050年までに温室効果ガスを「実質ゼロ」とする目標の合意を目指す。エネルギー分野への投資を含めて従来の取り組みの延長では実現が難しい意欲的な目標で、加盟国の姿勢にはまだ開きが大きい。【615日 毎日】

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【既成政党への幻滅 極右勢力への対抗軸として支持を集める「緑の党」】

もちろん、「緑の党」躍進の背景には気候変動など環境政策への関心の高まりがあり、「グレタ効果」も一定にあったでしょうが、それだけではないようにも見えます。

 

これまで政治を担ってきた左右の中道政党にはもはや期待できない、一方で、極右勢力の拡大が予想されるという状況で、極右勢力への対抗軸として「緑の党」への支持が集まったようにも思われます。

 

****欧州議会選で「緑の党」が大躍進した理由は環境だけじゃない****

<欧州議会選挙でグリーン派が第4勢力に――極右勢力への対抗軸として支持が広がっている>

気候変動が地球環境にもたらすであろう衝撃に比べれば、先の欧州議会選挙における勢力図の変化などは取るに足りないことかもしれない。しかしそこに、欧州政治の静かだが歴史的な変化を予感させるものを読み取ることもできる。グリーン(緑の党)と総称される環境保護勢力の躍進だ。

メディアの関心は極右政党がどこまで躍進するかに集まっていたから、グリーンの台頭に気付くには時間がかかった。しかし今回の選挙で、各国のグリーン派は既成政党に挑戦状を突き付ける一方、各国の政治をむしばむポピュリストの脅威への対抗軸を示したのではないか。

ドイツでは、緑の党がアンゲラ・メルケル首相の率いる中道右派・キリスト教民主同盟(CDU)に次ぐ議席を獲得。フランスでも左右の既成政党を押しのけて3位を確保。イギリスではテリーザ・メイ首相率いる保守党を破り、ジェレミー・コービン率いる最大野党・労働党を脅かすまでの健闘を見せた。

国境を超えた会派で構成される欧州議会の議席数で見ると、グリーン派は今回の選挙で22議席増の74議席を獲得、ついに4番目に大きな勢力となった。

 

単独過半数の会派はないから、EU首脳人事での発言権は増すし、二酸化炭素(CO2)の排出削減はもちろん、寛容で人道的な移民・難民政策の推進も主張しやすくなるだろう。

グリーン派が躍進したのはなぜか。最もシンプルな答えは地球温暖化に対する懸念の広がりだが、それだけではない。

左右対立の構図は古い
英シンクタンク「欧州改革センター」のソフィア・ベッシュに言わせれば、20世紀後半以降の欧州各国および欧州全体の政治を支配してきた中道右派と中道左派の二大潮流に「ヨーロッパの未来は任せられないという思いが有権者にはあった」。

 

右ポピュリズムの台頭でEUの根幹が揺らぎそうな今だからこそ、EUの統合深化を明確に支持するグリーン派が極右の対抗軸になり得たという事情もありそうだ。

EU
離脱に揺れるイギリスでグリーン派が議席を伸ばしたのは、有権者に既成政党、とりわけ中道左派への幻滅があるからだ。

 

イングランドとウェールズの緑の党を率いるジョナサン・バートリーは言う。「1%の超富裕層からの富の再分配を求める私たちを左派と決め付ける人もいるが、実際は労働党だけでなく、保守党からも私たちに票が流れている。もはや昔のような左派と右派の対立という構図は崩壊している」

その崩壊の恩恵を受けたのはグリーン派だけではない。いわゆる自由主義派(欧州では企業寄りで市場の自由を尊重する中道右派を指す)も議席を増やしたし、環境保護政策に反対する極右勢力も台頭した。

それでも、若い世代の間でグリーン派への支持が広がっているのは朗報と言えるだろう。ドイツ緑の党のスベン・ギーゴルドによれば、2年前の国政選挙で極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」になびいた若者たちも、今回は温暖化対策に後ろ向きなAfDに背を向けたという。

 

ただし「この傾向がずっと続く保証はない」とギーゴルドは言う。今後は極右や既存の主要政党も、環境政策重視に舵を切ると考えられるからだ。

そうなると、既成政党との連立協議などでグリーン派の環境政策が薄められる恐れもある。それに耐える余力が、今の地球にあればいいが。【613日 Newsweek
****************

 

【足元が揺らぐ独仏だが、EUを牽引するのはやはり両国】

上記のような「緑の党」躍進はあるものの、当面の現実論としては、イギリス離脱後のEUを牽引していくのは、国で見るとやはりドイツであり、フランスです。

 

ドイツ・メルケル政権の内情は前述のとおりですが、フランス・マクロン大統領も極右ルペン氏の勢力に敗北し、芳しい状況にはありません。さはさりながら・・・・というところです。

 

****ヨーロッパを率いるのは誰か?揺らぐ2大大国****

ヨーロッパをけん引してきた2つの大国、ドイツとフランス。しかし、ドイツのメルケル政権、フランスのマクロン政権ともに国内での支持離れが進み、足元が揺らいでいます。混迷するヨーロッパの未来、一体誰が率いていくのでしょうか。

 

メルケル政権崩壊の危機

(中略)

 

仏の希望の星にも逆風

一方のフランス。さっそうと現れた希望の星、マクロン大統領も、強い逆風に直面しています。

就任当初、「フランスとドイツは改革の機運を作ることができる」とドイツに協力を求めました。

メルケル首相は「強いフランスがなければ、ヨーロッパもドイツもうまくいかない」と連携に積極的な姿勢を歓迎。多くのドイツ国民も、マクロン大統領が掲げるヨーロッパの将来像に共感し、大きな期待を寄せました。

それから2年。事実上の信任投票となったヨーロッパ議会選挙で、マクロン大統領の政党はEU懐疑派のルペン党首が率いる極右政党・国民連合を下回る結果となりました。去年11月の燃料税引き上げをきっかけに反政権デモが全国に拡大し、逆風をまともに受けた形です。

 

独仏間のすきま風

中小規模の国々がひしめくヨーロッパ。超大国アメリカや中国と対抗していくためには個々の国々では歯が立たず、EUのもとに団結する強いヨーロッパが必要だーードイツやフランスはヨーロッパの統合が欠かせないと考えてきました。

しかしどこまで統合を進めるのかをめぐって、独仏間には深い溝があります。

マクロン大統領が提唱するEU改革の柱は財政面での統合強化です。具体的には通貨ユーロに加盟する国々の間で共通の予算をつくり、豊かなドイツなどの北部の国々が持つお金を財政難が続くギリシャやイタリアといった南部の国々に振り分けよう、という考え方です。

しかしドイツ国民の間では「自分たちの支払った税金が放漫財政の国々の穴埋めに使われることになるのではないか」との警戒感がぬぐえません。メルケル首相もマクロン大統領の提案には冷ややかです。

さらにドイツとフランスの溝はEUの人事をめぐっても表面化しています。(中略)

 

誰がヨーロッパを率いるのか?

ユーロ危機やウクライナ問題で指導力を発揮し、「ヨーロッパの盟主」と呼ばれるようになったドイツ。しかしその間、ユーロ危機で緊縮財政を主張し続け、南ヨーロッパ諸国から反発を生んだほか、中東などからの難民受け入れも、EUに懐疑的な感情を高めるきっかけとなりました。

さらにギリシャ政府がドイツ政府に対し、第2次世界大戦中のナチス・ドイツによる占領などに対する賠償金の請求を行う考えを示すなど、歴史問題も再燃しています。

「強すぎるドイツ」に対する警戒感を抑え、ヨーロッパ内のバランスをとる意味で、ドイツはフランスというパートナーが必要です。

一方、フランスにとっても、ヨーロッパで突出する経済力を持つドイツの後ろ盾が欠かせません。過去に繰り返し戦火を交えてきたかつての宿敵との友好関係はEU発足の原動力となり、その理念は今も失われていません。

 

EUは現在、28もの国々の集合体になりました。しかし今年10月にイギリスが離脱すれば、ドイツとフランスの2か国だけでEUのGDPの40%強を占めることになります。政治的にも経済的にも、この2か国が協力してEUを引っ張っていくしか道がないのが現状です。

世界では今、アメリカのトランプ大統領が国際協調から背を向け、ロシアや中国がEUの周辺国にも影響力を強めようとしています。

EUが国際社会の重要なプレーヤーとして存在感を保っていけるのか。ヨーロッパ統合の軸となってきたドイツとフランスはEU創設以来の正念場を迎えています。【614日 NHK

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フィリピン  対中国では、親中派大統領と世論には乖離もあるなか、中国漁船「当て逃げ」事件

2019-06-15 23:12:29 | 東南アジア

(フィリピンの首都マニラの中国領事館前で抗議する活動家ら(2019年6月12日撮影)【6月15日 AFP】)

 

【親中国のドゥテルテ大統領、中国に厳しい国民世論を刺激する中国側対応に苛立ちを示す場面も】

米中間の貿易や5G・ファーウェイなどの新技術をめぐる争いやイラン周辺でのキナ臭い動きなどがあって、最近はニュースで目にする機会が少なくなった南シナ海での中国の領有権主張をめぐる争い。

 

南シナ海での“もめ事”に関する報道を目にする機会が少なった理由は、他のホットな問題の陰に隠れていることのほか、中国に対しかつてはもっとも厳しい姿勢を示していたフィリピンが、ドゥテルテ大統領に代わって以降、中国との協調路線に転じたことが大きな理由となっています。

 

ただ、フィリピン周辺海域で我が物顔にふるまう中国漁船、海域の軍事拠点化を進める中国に対し、フィリピン世論は不満を強めており、国民ベースでの対中国感情が良い訳でもありません。

 

特に、今年4月ごろ、フィリピンの中間選挙直前の頃は両国間の不協和音が目立ちました。

 

****フィリピンで反中デモ、「侵略に等しい」と市民が反発****

フィリピンの首都マニラにある中国大使館前で9日、フィリピン国内で強まる中国の影響力に対する抗議行動が行われ、1000人ほどが参加した。係争地域となっている南シナ海での中国の存在感をめぐり、緊張が高まっている。

 

フィリピン国旗を振るデモ隊は、「中国は出て行け」とシュプレヒコールを上げたり、「わが国の主権を守れ」と書かれた横断幕を掲げたりして、海底資源豊かな南シナ海での中国の領有権拡大に抗議した。

 

デモに参加した男性教師は、「ロドリゴ・ドゥテルテ政権は対応が甘い。中国の行為は侵略に等しい」と不満をもらした。

 

ドゥテルテ大統領はこれまで、中国との争いは無益であり、貿易や投資を求めてきた中国と事を構える意図はないと繰り返し述べるなど、一時過熱した南シナ海の領有権問題に目をつぶる姿勢を示していたが、フィリピンが実効支配するパグアサ島(中国名:中業島)付近でこの数か月間に中国船数百隻の航行が確認されたことを受けて緊張が再燃。

 

政府は中国船の存在は「違法」と断じ、ドゥテルテ氏はパグアサ島に立ち入ろうものなら軍事行動も辞さないと警告している。 【49日 AFP

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中国船は単なる漁船でもないような指摘も。“フィリピン軍幹部は船舶に軍事訓練を受けた民兵が乗船している可能性に触れ、「船舶は釣りをせず、停泊していることもある」とも指摘した。”【47日 産経】

 

国内の中国に対する反発を受けて、選挙直前ということもあって、親中国的なドゥテルテ大統領の口からも以下のような発言もありました。

 

“ドゥテルテ氏は演説で中国に対し、「友人同士でいよう」と呼びかけながらも「パグアサ島やその他の島に手を出してはならない」と強調。「それらの島々に向けてことを起こすなら、話は変わってくる。わが軍の兵士たちに『自爆任務の準備をせよ』と命じることになるだろう」と語った。

そのうえで自身の言葉について、警告ではなく「友人への忠告だ」と付け加えた。”【45日 CNN

 

“自爆任務”云々は、他の指導者が発言すれば国際的大問題になりますが、ドゥテルテ大統領だと、「ああ、またなんか派手なことを言っているね・・・」で終わってしまいます。

 

****南シナ海に中国漁船、一日で87隻 フィリピン反発****

領有権をめぐる国際的な争いのある南シナ海で、中国船が多数確認されているとして、近隣のフィリピンベトナムが反発を強めている。中国と東南アジア諸国連合ASEAN)の関係改善などにともない「安定」していた情勢が、再び緊張している。

 

フィリピン国軍によると、南シナ海南沙(スプラトリー)諸島で同国が実効支配するパグアサ島周辺では1月から3カ月間、中国漁船が600隻以上確認された。2月には1日で87隻が集まった日もあった。沿岸自治体は「中国船に漁師が操業を妨害されている」と訴える。

 

ドゥテルテ大統領は今月4日の演説で「パグアサ島は我々のものだ。手を触れるな」と中国を批判。軍による自爆作戦を辞さないともほのめかした。

 

2016年6月に就任したドゥテルテ氏はこれまで、南シナ海の軍事拠点化を進める中国に対し、批判を封印してきた。急務とされるインフラ整備などへの支援が必要だからだ。

 

議長国を務めた17年のASEAN首脳会議の議長声明では、中国を念頭に14年から続いた「懸念」という表現も外すなど、融和ムードを演出してきた。

 

一転して中国に厳しい態度を見せたのは、国民の反中感情の高まりからだ。公共工事のために中国から多額の借金をしているのに加え、多数の中国人労働者が工事現場で働くために流入していることが、問題視されている。

 

中国船問題は、火に油を注いだ。今月9日には、国旗を掲げた市民ら約900人がマニラの中国大使館前で「中国は出て行け」と叫び、政権の弱腰姿勢も批判した。

 

フィリピンでは、5月13日に中間選挙(上院の半数と下院、地方選)がある。任期折り返しの年にあたる「通信簿」と位置づけられ、ドゥテルテ氏も無視できなくなったとみられる。

 

一方、中国外務省の陸慷報道局長は今月11日の記者会見で「昔から中国の漁民が漁をしており、その権利への挑戦は許されない」と述べ、南シナ海での自国の立場を改めて正当化した。

 

中国船をめぐるトラブルは、ベトナム海域でも起きている。3月には西沙(パラセル)諸島でベトナム漁船が中国船によって沈没させられ、ベトナム外務省が中国側に抗議。今月7日、ベトナム海域で違法操業をした中国漁船が警告に従わず、ベトナム側が高圧放水で追い払う騒動があった。

 

ベトナムでは14年、中国による南シナ海での石油掘削活動に抗議する大規模デモが発生。18年にも、経済特区で中国などの投資家に99年間の土地租借を認める案に反対するデモが起きている。【413日 朝日】

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苛立ちを強めたドゥテルテ大統領は、習近平主席との会談で、2016年の仲裁裁判所の判断を議題に取り上げたとも報じられています。

 

****比、南シナ海問題「いらいら」 大統領が中国主席に不満示す****

フィリピンのパネロ大統領報道官は29日記者会見し、ドゥテルテ大統領が25日の中比首脳会談で、南シナ海での中国の主権主張を退けた2016年の仲裁裁判所の判断を議題にしたと認め、ドゥテルテ氏が判断を受け入れない中国の習近平国家主席に対し、南シナ海で「いらいらさせられることが起きている」と不満を示したことを明らかにした。

 

仲裁判断があるにもかかわらず、南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島のうち、フィリピンが実効支配するパグアサ(同ティトゥ)島周辺に多数の中国船が出没していることに不快感をあらわにしたもようだ。【429日 共同】

*******************

 

しかし、中間選挙に圧勝したのちは、ドゥテルテ大統領は再び親中国路線を前面に押し出しています。

 

****ドゥテルテ大統領、中国人の働きぶりを称賛―中国メディア****

2019512日、中国メディアの観察者網は、フィリピンの不完全就業率がここ十数年で最低となる中、同国のドゥテルテ大統領が中国の経済発展と中国人の働きぶりを称賛し、国民に学ぶよう奨励したと報じた。

フィリピンメディアの報道を引用して伝えたところによると、ドゥテルテ大統領は10日、ダバオでの選挙運動で「中国をよく見てほしい。われわれは彼らの進歩にかなり遅れている。中国人を見てほしい。彼らの仕事の効率はプレートが飛ぶほど速く、仕事の時は本当によく働く」と述べた。

さらにドゥテルテ大統領が「彼らは雷雨でも働き続ける。それに比べて私たちは、こぬか雨でも肺炎にかかる」と述べると、会場は大きな笑いに包まれたという。(中略)

記事はさらに、ドゥテルテ氏就任以来、大量の中国人がマニラに流入し、その多くは中国人ユーザーを対象とした複数のオンラインゲーム企業に雇用されていることをめぐり、一部政治家から中国人流入が地価上昇を招き、フィリピン人の職を奪い、税収にも影響しているとの懸念の声が上がっていることについて、ベリョ労働雇用相が「外国人がフィリピン人の職を奪うという状況は起きてないない」と述べたことも伝えている。【514日 レコードチャイナ】

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****「私は中国が好きだ」ドゥテルテ大統領、親中派アピール****

フィリピンのドゥテルテ大統領は31日、東京都内で開かれたシンポジウムで講演し、南シナ海で領有権を争う中国について「私は中国が好きだ」と話し、親密な関係ぶりをアピールした。

 

5月中旬にフィリピンであった中間選挙の前に、南シナ海問題をめぐって中国への態度を硬化させたが、「親中派」に戻った。

 

ドゥテルテ氏は2016年の就任以来、中国との関係を重視して南シナ海問題での中国批判を抑制してきた。だが、フィリピンが実効支配している島周辺に多数の中国漁船が現れたことなどで国民の対中感情が悪化。今年4月、「島は我々のものだ。手を触れるな」と中国を牽制(けんせい)するようになった。

 

この日の講演でも「海全体が自分たちのものだと主張するのは正しいことだろうか」と指摘したが、全体的なトーンは一転させた。4月に会談したばかりの習近平(シーチンピン)国家主席について「機会があればぜひ南シナ海問題も話してみたい」と秋波を送り、閣僚レベルでの対話の可能性にも言及。「国際法を使いながら緊張を緩和することができるかもしれない」などと話した。【61日 朝日】

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そのときどきの政治事情で対応に変化はあるものの、基本的にはドゥテルテ大統領は中国へのシンパシーが非常に強いようです。

 

【中国漁船“当て逃げ”事件で更に硬化しそうな世論】

しかし、大統領の中国への好意的共感にもかかわらず、中国船の“傍若無人”な対応は改まらないようです。

 

****南シナ海 フィリピンの漁船が中国漁船に衝突され沈没****

(中略)フィリピン国防省は、中国とフィリピンが領有権を争う南シナ海のリード礁付近で、今月9日夜、停泊していたフィリピンの漁船が中国の漁船に衝突され沈没したと発表しました。

この際、フィリピン人の乗組員22人が海に投げ出されましたが、衝突した中国の漁船は救助活動を行うことなく、その場を離れたということです。

乗組員たちは、近くを航行していたベトナムの漁船に全員救助され、命に別状はないということです。

フィリピン国防省は、中国の漁船が救助活動を行わなかったとして、「中国の漁船の卑劣な行動を最も強い表現で非難する。これは友好関係がある国の行うことではない」と強く非難しました。

また、フィリピン外務省も、外交ルートを通じて中国政府に対し、正式に抗議したことを明らかにしました。

衝突のあったリード礁周辺はフィリピンの排他的経済水域内ですが、南シナ海のほぼ全域の管轄権を主張する中国は多数の漁船を操業させているほか、2012年にも中国の貨物船がフィリピンの漁船に衝突して沈没させたあと、そのまま立ち去る事故があり、今回も両国の緊張が高まりそうです。【613日 NHK】

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中国側は“衝突”は認めているものの、“当て逃げ”は否定しています。

 

****中国政府、フィリピン漁船への衝突認める 「当て逃げ」は否定****

中国政府は15日、領有権問題で周辺国と係争中の南シナ海のリード堆(フィリピン名:レクト環礁)近海に停泊していたフィリピン漁船に9日に衝突したのは中国のトロール船だったことを認めた。ただし、フィリピン当局が批判する「当て逃げ」行為については否定している。

 

中国のトロール船は9日、リード堆近海で起きた衝突事故の後に逃走。フィリピンの当局やメディアからは怒りの声が上がっていた。

 

フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、豊富な資源を有する南シナ海をめぐって対立する中国への批判を一時期よりはトーンダウンさせているが、フィリピン国民の多くは同海域における中国政府の動きにいら立ちを募らせている。

 

フィリピンの首都マニラにある中国領事館は、中国のトロール船「粤茂浜漁42212」がフィリピン漁船に衝突したことを認めたが、安全性を懸念してその場を離れたとして、「中国人の船長は、フィリピン漁船の乗組員たちを救助しようとしたが、他のフィリピン漁船から包囲されることを恐れた」と主張。

 

フィリピン当局から「当て逃げ」と批判を受けたことについて、問題のトロール船は「フィリピン漁船の乗組員たちが救出されたことを確認した」として、当て逃げを否定した。だが、フィリピン側の乗組員22人は海の中で数時間、救助を待っていたと主張しており、言い分に食い違いをみせている。

 

乗組員らはその後、ベトナム漁船に救助され、14日にフィリピン海軍の船で帰国した。

 

ドゥテルテ大統領の報道官はこの事故について、漁船の乗組員を見捨てるとは「あってはならない、残忍な」行為だと非難。フィリピンの沿岸警備隊は、事故に関する調査を進めている。 【615日 AFP】

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ドゥテルテ大統領はともかく、中国に対するフィリピン世論の方はこの事件でまた硬化しそうです。

 

【批判を封じる強権体質 中間選挙圧勝で体制を固め、次期大統領戦略も】

国民からの高い支持率を維持するドゥテルテ大統領ですが、“フィリピン大統領「私も同性愛者だったが『治した』」”【63日 Newsweek】といった「なんじゃ、そりゃ?」という話題など多々あります。

 

大統領の強硬な麻薬対策は国民世論の支持を得ていますが、一方で、その強権的体質はやはり大きな問題をはらんでいます。

 

****フィリピン民放最大手、大統領に批判的報道で閉鎖危機****

フィリピンドゥテルテ大統領に批判的な報道を続けてきた民放最大手ABSCBNが閉鎖の危機にある。議会下院は11日、同局の営業認可更新に関わる法案審議を凍結。7月に法案が再提出されなければ、来年3月20日に認可が切れる見通しだ。

 

同局はアキノ前大統領に近いロペス家が経営。現地報道によると、ドゥテルテ氏は2016年の大統領選の際に自分に好意的な宣伝の放送を断られ、抵抗勢力のCMが流されたことへの怒りをたびたび口にしてきた。同局は多くの死者が出ている麻薬犯罪撲滅キャンペーンにも批判的で、凍結はこうした内容への圧力とみられている。

 

一方、同局所属の人気アーティストや国民の反発も想定され、閉鎖には至らないとの見方もある。同局作品は世界50の国・地域で放送され、最近も中国、トルコ、インドネシアでの放送が決まったばかりだ。

 

フィリピンではドゥテルテ氏就任以来、政権に批判的なメディアの閉鎖を示唆する動きが頻発している。【612日 朝日】

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中間選挙圧勝で現体制を強固なものとした大統領は、後任に自分の娘を考えているとか。

 

****フィリピン中間選挙でドゥテルテ派圧勝、勢い増す強権体制****

フィリピンで5月13日に中間選挙が行われ、上下両院でドゥテルテ大統領(74)を支持する勢力が圧勝した。2016年6月末に発足以来、7〜8割という高支持率を維持してきた現政権に対する国民の信任が裏付けられた形だ。

 

今回の勝利は政権内で「ドゥテルテマジック」と呼ばれ、任期が終了する22年まで強権体制が続く見通し。大統領が公約に掲げていた死刑制度の復活や連邦制導入に向けた憲法改正の審議が前進しそうだ。(中略)

 

外交では、大統領がこれまで進めてきた親中路線の行方が注目される。南沙諸島の領有権問題では、中国から経済援助を引き出す見返りに軍事拠点化を黙認してきた。

 

しかし、中間選挙の1カ月前には中国への態度を硬化させる発言が飛び出し、5月下旬の訪日時にも「海全体を一国が主張するのは正しいのか」と疑問を呈するなど、中国に対する不信感を示す場面も出てきた。一方でこうした姿勢は、選挙を踏まえたリップサービスとの見方もある。

 

憲法では大統領の再選は禁じられている。ドゥテルテ大統領は22年に任期を終えることになるが、次期大統領選で反ドゥテルテ派が巻き返しを図れば、麻薬撲滅戦争による超法規的殺人や隠し資産疑惑などで逮捕、訴追される可能性がある。歴代政権では、エストラダ(任期19982001)、アロヨ(同0110)両大統領が汚職に関与したとして政権交代後に逮捕された。

 

次期大統領選の候補者には早くも、ドゥテルテ大統領の娘で、サラ・ダバオ市長の名前が上がっており、今回の中間選挙でも改革党を立ち上げて勝利に貢献した。大統領は任期終了後に自身が逮捕されることを阻止するためにも、サラ市長を次期候補に見据えた政権運営を行うとみられる。【614日 WEDGE】

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超法規的殺人に手を染めていますので、反対派による政権奪取となれば、逮捕は間違いないでしょう。

なんとしても、信頼できる者に後を託す必要があります。

 

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パレスチナ  発表前から難航も予想される「世紀の取引」

2019-06-14 23:06:24 | パレスチナ

(【64日 FNN】 ユダヤ人とパレスチナ人が一緒に働く「ソーダストリーム」 こういう企業もあるようですが・・・)

【パレスチナ自治政府の財政難を招いている「テロリスト」関係者支援金問題】

パレスチナ問題の当事者たるパレスチナ自治政府に「腐敗」が蔓延しているという話は常に指摘されるているところですが、その一端を示すものが。

 

****パレスチナ、ひそかに閣僚給与1.6倍に 批判受け撤回****

パレスチナ自治政府が2年前から、ひそかに閣僚の給与を法定の1・6倍に上げていたことが内部文書の流出で判明した。財政難が続くなかでの発覚に、市民からは怒りの声が出ており、政府は即座に賃上げの取り消しを表明した。

 

自治政府の閣僚の給与は法律で月給3千ドル(約32万円)と決められている。しかし、SNS上に流出した内部文書などによると、2017年から月給5千ドル(約54万円)に引き上げることを閣僚が提案し、アッバス議長が認めたという。

 

法改正はせず、賃上げの事実は公表されなかった。政府関係者は取材に対し「内部文書は本物で、賃上げは事実だ」と証言した。

 

発覚を受け、国連のムラデノフ特別調整官(中東和平担当)は6日、「市民が厳しい経済状況に置かれているなか、賃上げの判断は理にかなわず、人々の怒りを呼ぶ」とコメント。自治政府は、賃上げを取りやめる意向を表明した。今後の対応によっては、低迷するアッバス議長への支持がさらに低下する恐れがある。

 

ラエルによる占領下に置かれたパレスチナだが、特に今年は厳しい財政状況に置かれている。イスラエルへの「テロ行為」の犯人やその遺族に対して自治政府が支払金を交付していることをめぐり、政治対立が深まり、イスラエルからの送金が2月から停止。自治政府が毎月の歳入の半分を失う事態になっている。

 

公務員の給与を半減させて対応するが、シュタイエ首相は「7~8月には破綻(はたん)する」と話している。

 

緊縮財政のなかで発覚した閣僚の賃上げについて、SNS上では「腐敗は許されない」と厳しい声が並ぶ。パレスチナでは10年以上にわたり国政選挙がなく、議会も開かれていないため「政府への監視機能が失われている」とも指摘されている。【611日 朝日】

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毎月の歳入の半分が停止している財政難、公務員給与半減というなかでのお手盛り給与改定というのは、ため息が出るような自覚のなさです。

 

その財政難の目下の原因となっているのが、上記記事にもある「テロ行為」の犯人やその遺族に対する支援金をめぐるイスラエルとの対立です。

 

イスラエルに対する攻撃である「テロ行為」というのは、イスラエル側の捉え方であり、パレスチナ側からすれば「英雄的行為」ともなります。

 

****「テロリスト」に毎月給付、波紋 パレスチナ政府「占領と闘った英雄」****

 ■「父殺した犯人に、なぜ金を」

5月15日、イスラエル人の男性がツイッターに動画を投稿した。

「私の父は76歳でパレスチナ人のテロリストに殺されました」 そう語るマイカ・アブニさん(49)は札束の山を前に続ける。「パレスチナは父を殺したテロリストにこんなに金を払っている。どう平和につながるのか。誰か説明してくれませんか」

 

アブニさんの父リチャードさんは2015年、エルサレムでバスに乗車中、2人組のパレスチナ人に襲われて命を落とした。平和を求め、イスラエルパレスチナ双方の子供に英語を教える学校の校長だった。

 

アブニさんは、父を襲った犯人や家族にパレスチナ自治政府から毎月お金が支払われていることを知った。「テロの連鎖を引き起こすだけじゃないか」と考え、社会に訴え始めた。

 

自治政府は「占領に対する闘い」で捕まったり死傷したりした市民や家族に支払金を出すことを定めている。囚人の場合、月額1400シェケル(約4万2千円)から始まり、収容が30年を超えると1万2千シェケル(約36万円)になる。

 

動画はイスラエルや米国などで多くの賛同を得た。アブニさんは言う。「パレスチナは争いではなく、命を尊ぶことを大切にして欲しい。政治的な問題の解決は、それからだと思う」

 

 ■「人々を守るため、捕まった」

アブニさんの父を殺したとされる2人のうち1人はその場で死亡、1人は服役中という。死亡した男性(当時21)の父を東エルサレムに訪ねた。

 

「私たちも被害者なんです」とムハンマド・アルヤンさん(64)は語り始めた。「息子は私たちの命を守るために死んだのです」

 

事件当時はイスラエルパレスチナの間で緊張が高まり、双方に犠牲者が出ていた。「息子は平和的な社会運動を率いていた。不穏な雰囲気が彼を突き動かしたのか……」

 

アルヤンさんは言葉を選びながら言う。「私も責任は感じます。でもパレスチナ人だけを悪者にするのは公平じゃない。怒りは、違法な占領を何十年も解決しないイスラエル政府にこそぶつけるべきです」

 

事件後、イスラエル軍による報復で自宅が破壊され、テロリストの家族として罰金も科された。自治政府からは毎月1千シェケル(約3万円)を受け取る。「補償は当然。テロを誘発するほどの金額ではない」

 

ヨルダン川西岸のアブウェインに住むアマル・リマウィさん(42)は、夫がイスラエルの刑務所から出るのを18年待っている。「あと2年で刑期が終わる。彼はテロリストじゃない。自由の戦士です」

 

夫は01年、テルアビブで自動車爆弾により2人を負傷させた。「その5日前、イスラエル兵がこの町で5人のパレスチナ人を殺した。戦うしかなかった」

 

3人の子育てで働くことができず、自治政府から受け取る支払金が頼りだ。「夫を返してくれるなら、お金は要らない。夫は人々を守るために捕まった英雄。お金を受け取るのは当然です」

 

 イスラエル、送金減額で対抗

イスラエルは昨年、パレスチナに対抗する法律を制定した。パレスチナの税金の一部を代理徴収する立場を使い、支払金相当分を毎月の税収から差し引いて渡す措置に出たのだ。

 

パレスチナ側は猛反発。減額をやめない限り税収を一切受け取らないことにしたが、これが財政難を招いている。受け取るはずの税収は毎月7億シェケル(約210億円)以上で、自治政府は予算の半分超を失った。公務員給与を半減するなどしているが、シュタイエ首相は「7~8月には破綻(はたん)する」と話している。

 

パレスチナが支払金にこだわる理由は、対象者の多さにもある。自治政府によると、これまでの囚人は累計で80万人以上。今も6千人が収容され、「親戚に囚人がいない人はいない」と言われる。

 

対象者にはイスラエル兵に殺された者の遺族も含まれる。政府幹部は「国のため犠牲を払った人を支える責任がある」と話す。

 

自治政府の政策を監視するイスラエルのNGOによると18年の支払金の総額は12億シェケル(約360億円)で予算全体の約7%を占める。

 

国際社会の対応は割れている。米国は、パレスチナが支払金をやめない限り支援の多くを止めるとする措置をとっている。

 

一方、欧州連合(EU)はイスラエル国際法に反する占領を続けていることも踏まえ、自治政府への経済支援を続けている。【613日 朝日】

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もちろん双方の立場はありますが、現在のパレスチナをめぐる構図はイスラエルが勝者、パレスチナが敗者という勝者対敗者の構図になっていますので、敗者たるパレスチナが勝者たるイスラエル攻撃関係者への支援金財源送付をイスラエルに求めるというのは「無理」がある・・・というのが、率直な感想です。

 

問題提起したイスラエル人男性のパレスチナは争いではなく、命を尊ぶことを大切にして欲しい。政治的な問題の解決は、それからだと思う」というのは立派な考えですが、現実はそうした関係にありません。

 

敗者たるパレスチナとしては、屈辱を胸に勝者の主張に従うか、あるいは、恨みを「テロ」という形をとってでも勝者にぶつけるかしかありません。

 

したがって、現在の勝者対敗者という構図は、勝者たるイスラエルに「安全」を保障するものではなく、逆に絶え間ない攻撃を惹起するものでもあります。

 

【政治面は先送りしてカネの話から入る「世紀の取引」】

そこを断ち切るためには、現在の勝者対敗者の関係を、隣人関係に転換させる必要があるように思えますが、そうしたイスラエル対パレスチナの枠組み変更にはあまり関心はなく、現状のイスラエルの既得権を前提にして、パレスチナの処遇を中東周辺国に委ね、あとはカネ(おそらくアメリカが負担するのではなく、中東の関係国に負担させようというものでしょうが)で解決しようというのが、トランプ大統領が以前から「もうすぐ出す」と言い続けている「世紀の取引」でしょう。

 

 

トランプ大統領の盟友たるイスラエル・ネタニヤフ首相がイスラエル国内事情で総選挙に追い込まれるという状況変化で、その総選挙の足を引っ張りかねない「世紀の取引」の政治的な部分は提示が当分難しくなっており、とりあえず経済的な面だけ(つまりカネの話だけ)先に今月中にでも・・・ということになっています。

 

****「世紀の取引」道筋険しく 中東和平案、米が6月下旬提示か****

トランプ米政権が「世紀の取引」と呼ぶ新たな中東和平案の一端が、6月下旬に示される見通しだ。

 

イスラエルパレスチナの根深い政治問題を先送りし、まずは経済支援で和平に道筋をつける狙いがある。だが、パレスチナは強く反対し、イスラエルの政局も安定しておらず、和平の道のりは厳しいと予想されている。

 

 経済支援で譲歩迫る

イスラエルは建国以来、パレスチナと70年以上、領土をめぐり争ってきた。パレスチナ側は自治を認められ、暫定的な境界を挟んでイスラエルと共存を続けるが、争いは絶えない。

 

歴代米政権や国際社会は、パレスチナを国家にする「2国家共存」を唯一の解決策としてきたが、和平協議は進展の気配もない。

 

この難問を「世紀の取引」で解決する意欲を示してきたのが、2017年に就任したトランプ米大統領だ。準備中の和平案は「政治面」と「経済面」に分けて公表される方向だ。

 

まず25~26日にバーレーンで、パレスチナ経済支援会合を開き、経済面のみを示すと報じられている。

 

一方、国境線の画定やエルサレムの地位などの難問を含む政治面は、いずれ受け入れをパレスチナに迫る「アメとムチ」戦術とみられる。

 

トランプ氏は昨年9月、和平案を遅くとも19年2月には出す意向を示していた。大幅な遅れの理由は、盟友であるイスラエルのネタニヤフ首相の事情だ。

 

和平案はイスラエルに一定の譲歩を求める内容とみられ、同政権への悪影響が懸念されるためだ。同国では4月に続いて9月に再び総選挙がある。そのため、政治面の提示は11月以降との観測が強まっている。

 

トランプ氏自身も、来年11月の米大統領選に出馬する意欲をみせている。支持層にはイスラエル寄りの有権者が多く、和平案もイスラエル寄りになるとの見方も。そうなれば、国際社会の批判は必至だ。

 

 パレスチナ強い反発

「世紀の取引は地獄に落ちる」。パレスチナ自治政府のアッバス議長は5月下旬、こう述べて、トランプ氏が準備している和平案をこき下ろした。

 

米大使館のエルサレム移転などもあり、パレスチナの米国への不信感は過去になく強い。そのため、和平案にも反発しているのだ。経済支援は必要だが、「占領を終わらせずカネだけもらっても解決しない」と政権幹部は言う。

 

一方、パレスチナと団結して中東和平を「アラブの大義」としてきたアラブ諸国は、揺れている。

バーレーンでの経済支援会合について、米国と同盟関係にあるサウジアラビアアラブ首長国連邦(UAE)は参加を早々に表明。人口の約7割がパレスチナ系のヨルダンエジプトは米国の働きかけを受け、11日までに参加を決めた。レバノンは欠席する。

 

アラブ諸国は、親イスラエルの姿勢を鮮明にする米国への批判を繰り返してきたが、米国との関係も重要であり、具体的な行動に移す国はない。近年は「イラン包囲網」でアラブ諸国とイスラエルが関係改善を進めており、パレスチナの孤立が浮き彫りになっている。【613日 朝日】

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【政治面の骨子はヨルダンとの連邦制?】

明らかにされていない「政治面」については、隣国ヨルダンにパレスチナを押し付けて連邦制をとらせるというものではないか・・・とも指摘されています。

 

****ヨルダンに強いるパレスチナ連邦国家****

クシュナー氏は会議の根回しのため最近、グリーンブラット米中東特使とともにイスラエル、ヨルダン、モロッコなどを訪問したが、ヨルダンでは米国のこの新しい和平構想に大きな懸念が浮上している。

 

懸念の中心はヨルダンが「パレスチナとの連邦国家」を強いられるのではないかというものだ。

 

ベイルート筋などによると、クシュナー氏の和平構想はパレスチナに独立国家を与えるというものではないようだ。同盟国であるイスラエルの感情や安全保障を考慮し、パレスチナ自治区のあるヨルダン川西岸とヨルダン本国による「ヨルダン・パレスチナ連邦」の創設が構想の中核である可能性が高いという。

 

事実上、ヨルダンにパレスチナの管理を委ねるという形式だ。ヨルダンは元々、ヨルダン川西岸と東エルサレムを領土の一部としていた。しかし、1967年の第3次中東戦争で、イスラエルが同地を占領。ヨルダンは1988年、同地の領有を放棄し、当時のパレスチナ解放機構(PLO)にイスラエル占領地を譲った。

 

現在、ヨルダン川西岸はイスラエル占領下の中、パレスチナ自治政府が統治し、将来的には当地にパレスチナ国家が創設されるというのがオスロ合意から始まった国際的な認識だ。

 

だが、イスラエルは治安や安全保障上の不安からパレスチナ国家創設には否定的。このため米国案は、ヨルダン川西岸の自治政府と東岸のヨルダン本国による連邦国家を樹立し、事実上ヨルダンにその管理を委ね、イスラエル側の懸念を払しょくするという構想だと見られている。

 

ヨルダンは元々、人口の7割がパレスチナ人で、ヨルダン自身のアイデンティティの問題を抱えている。連邦国家構想は「ヨルダンの犠牲の下で、パレスチナ問題の解決を図ろうとする目論見だ。ヨルダンの主権を損ない、難民など新たな問題を押し付けようとするもの」(ベイルート筋)と批判する向きが多い。

 

ヨルダンは石油などの資源もない人口1000万人弱の小国。米国やサウジなど湾岸産油国の援助に大きく依存しているのが現状だ。

 

45年以上前に当時のフセイン国王がパレスチナとの連邦を提唱したことはあるが、現在のアブドラ政権はこれ以上厄介な問題を背負うのは御免だ、というのが本音だろう。数百万人のパレスチナ人を受け入れることは国家の不安定要因につながるからだ。(後略)【64日 WEDGE

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「世紀の取引」をめぐる条件も厳しくなっています。

 

“(イスラエル国内の総選挙という問題に加えて)10月にはネタニヤフ首相が3件の汚職容疑で起訴される公算が強い。起訴が濃厚だという状況が強まれば、連立政権への参加に難色を示す政党も出かねない。そうこうしているうちに今度は米国で大統領選挙戦が本格化、再選を目指すトランプ大統領は和平構想に関わっていられなくなるという見方が強い。和平構想は日の目を見ずに萎む可能性がある。”【同上 WEDGE】

 

また、財政難に苦しむ自治政府ですが、国家樹立という目標を放棄してカネに手を出すというのは、難しい選択でしょう。

 

【「この国にある衝突や紛争は、この工場では全く無関係」という企業も存在

上記のような解決が難しいように見える状況にもかかわらず、現地にはパレスチナ人とユダヤ人が一緒に働く企業も存在するとか。

 

****ユダヤ人もパレスチナ人もみんな一緒! ガザ地区付近に工場を置くイスラエル企業の挑戦****

ユダヤ教徒とイスラム教徒がともに働く「ソーダストリーム」

(中略)解決の糸口さえ見えないパレスチナ問題を抱えるイスラエルだが、実はユダヤ教徒やイスラム教徒がともに働いている企業がある。 自宅でも炭酸水を作れる機械のメーカーとして近年、世界一に急成長し、日本のテレビCMでもおなじみの「ソーダストリーム」だ。

 

テルアビブから車で向かうと、その工場はガザ地区まで20キロほどしかない砂漠に突如現れた。周辺にはベドウィン(アラブの遊牧民族)の村があるだけの貧しい地域だ。失業率の高い地元ベドウィンの雇用に貢献しているだけでなく、工場には遠方からも多くの社員が通う。

 

「この国にある衝突や紛争は、この工場では全く無関係なんだ」

ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区内にあった旧工場時代から働いている、パレスチナ人のマフムードさん(50)に話を聞いた。

 

「前の工場は近かったけど、今は、毎朝4時に家を出て夜9時に帰る生活を続けている。ここは一つの大きな家族なんだ。みんな仲良く、宗教や人種などによる問題など一切無い。家族のためにお金を稼がないといけないし、イスラエル企業で働くことに関して批判を言う人はいなかったよ。」

 

工場内では異文化が共存すると聞き、ソーダストリームへの就職を希望したと語るイスラエル人(ユダヤ教徒)のガイ・ブリックマンさん(26)はこう言う。

 

「異なる宗教を信仰する人たちが隣同士に座り、一緒に働いている。今晩はここでラマダンのお祝いがあるし、いつも色々な宗教行事をみんなで祝っているんだ。ここで働き始める前は、パレスチナ人やベドウィンの友達はいなかったけど、一緒に働いてみて、彼らとの結びつきを感じるようになった。この国にある衝突や紛争は、この工場では全く無関係なんだ。」(後略)【64日 FNN】

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こうした関係・異文化共存が一企業内にとどまらず、パレスチナ・イスラエル全域に拡大すればいいのですが、現実にはなかなか・・・・。

 

ただ、なぜ「ソーダストリーム」でできているのか?なぜほかではできないのか?を考えることは無意味ではないでしょう。

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インド  高まる宗教間の緊張 モディ首相は社会不安を鎮める気があるのか?

2019-06-13 23:19:25 | 南アジア(インド)

2015年、牛を殺して牛肉を食べたとして、デリー近郊の村に住むイスラム教徒男性が、怒った群集に撲殺された「牛肉殺人」に抗議するイスラム教徒たち(2015106日、ニューデリーで)【20151022日 HUFFPOST

この事件のときも、モディ首相は1週間以上沈黙していました。半月ほどたった地元紙とのインタビューでは「残念なことだ」と。)

 

【列車の乗客4人が暑さのため死亡 「本当に不運だ」】

インドから、読むだけで暑くて息苦しくなる“死の灼熱列車”に関するニュースが。

 

****列車内が「耐えられない暑さ」に、乗客4人死亡 インド****

2週間にわたって熱波に見舞われているインド北部で、列車で移動していた乗客4人が「耐え難い」暑さで死亡した。当局と乗客らが11日、明らかにした。

 

4人は10日、観光名所のタージマハルがあるアグラから同国南部コインバトールへ移動する際に死亡した。

インド鉄道の広報担当者はAFPに対し、「暑さが原因だとみられる」「本当に不運だ」とコメント。

 

列車が北部ウッタルプラデシュ州ジャンシに近づいた頃、「乗車していた職員から、乗客の一人が意識不明になっているとの連絡があった」とし、「医療スタッフが駅に駆け付けたが、乗客3人がすでに死亡していた」と説明した。

その後、もう1人の乗客が搬送先の病院で死亡したという。

 

ジャンシではここ最近、気温が連日45度前後に達している。

 

先の広報担当者によると、列車に技術上の問題はなかったものの、乗客が亡くなった車両にはエアコンが付いていなかったという。

 

アグラで乗車した乗客の一人は、車内は息苦しいほどに暑かったと証言。テレビ局の取材に対し、「アグラを出発して間もなく、暑さは耐えられないものとなり、呼吸困難や不快さを訴え始める人も出てきた」「助けが来る前に、彼らは倒れてしまった」と語った。

 

このテレビ局によると、亡くなった乗客の一人は81歳だったという。 【612日 AFP】

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日本では、そんな死人の出るほどの暑さになることはありませんが、「本当に不運だ」なんてコメントしたら「責任放棄だ!」と袋叩きにあうでしょうね。まあ、インドですから・・・。

 

それにしても、同一列車で4人も死亡するなんて・・・・どんな暑さだったのでしょうか。

 

【煮えたぎる宗教対立 その責任は?】

気象条件の暑さはやむを得ないところがありますが、ホットな社会対立となると明確に政治の責任です。

 

インドではモディ首相のもとでヒンズー至上主義的風潮が強まり、少数派イスラム教徒との間の緊張が高まっています。

 

****【巨象の未来 インド・モディ政権2期目へ】下 過激化するヒンズー教徒 宗教分断どう食い止める****

道を歩いていただけで、30人以上の男たちに取り囲まれ、リンチされた記憶は消えない。「私は鼻にけがを負ったが逃げ延びられた。なぜ襲撃されたのかまったくわからなかった」。農業の男性、ラフィク・カーンさん(25)は2年前の出来事を振り返った。

 

インド西部ラジャスタン州で牛6頭を連れて歩いていたところ、突然「自警団」に襲われた。搾乳をするための雌牛を購入して、帰宅する途中だったという。一緒にいた商売仲間のペフル・カーンさん=当時(55)=が暴行を受けて死亡した。

 

自警団を構成するのは、インド人の約8割を占めるヒンズー教徒の中で思想を過激化させた者たちだ。自分たちが神聖視する牛を守るため、牛の取引業者や飼育農家に攻撃を加えている。

 

被害者の多くは人口の14%のイスラム教徒だ。「ヒンズー教徒以外はインド人ではない」。ラフィクさんは自警団メンバーが叫んだ言葉が忘れられない。

 

2014年の前回総選挙で勝利し、与党となったインド人民党(BJP)はヒンズー至上主義を掲げ、モディ政権は食肉処理を目的とした家畜市場での牛の売買を禁止する法令を出した。

 

BJPはヒンズー至上団体、民族義勇団(RSS)を支持母体とし、モディ首相も以前は、RSSの運動家だ。ヒンズー色の強い政策を取るのは予想されたことだが、過激な信者を拡大させるといういびつな結果も招いている。

 

牛の飼育者らが標的となった事件では14年以降、少なくとも44人が殺害された。こうした事件は以前から起きているものの、近年、明らかに増加している。

 

国連人権理事会も今年3月、「不平等が深刻で、少数派、特にイスラム教徒への迫害が増えている」と報告し、インド国内でわき上がる排他的な動きに懸念を表明した。

 

モディ氏はBJP幹部とともに事件に懸念を表明するが、野党、国民会議派からは「保守層は重大な支持基盤であり、政権与党はヒンズー至上主義を黙認している」(同党関係者)との批判の声が上がる。

 

宗教による分断はこうした事件に限らない。北部ウッタルプラデシュ州では公式観光ガイドブックからインドの象徴ともいえる世界遺産「タージマハル」が消えた。イスラム王朝時代に建設されており、「反ヒンズー的」という判断が働いたものとみられる。

 

BJPの総選挙での大勝に、イスラム教徒団体副会長を務めるラシッド・エンジニアさんは「インドは調和と多様性の国。偏見が強まらないことを願う」と懸念を示した。

 

抑圧されたイスラム教徒たちが絶望を深めれば、イスラム過激派に付け入る隙を与えることになる。イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)は10日、系列のニュースサイトを通じ、インドの一部に支配地域を設定したと主張した。

 

総選挙で圧倒的信任を受けたモディ政権。支持層に配慮しつつ、いかに国内融和を図るか難しいかじ取りを迫られそうだ。【526日 産経】

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“いかに国内融和を図るか難しいかじ取り”・・・・そもそも、そんな考えがモディ首相にあるのか疑問です。

総選挙での圧倒的信任は、前哨戦での敗北を受けて、支持層のヒンズー教徒向けにヒンズー至上主義的勢力をフル稼働させた結果得られたものです。

 

上記記事にもある、「自警団」によるイスラム教徒への暴力のほかにも、インド社会には不穏な対立の種があちこちに見受けられます。

 

下記の「8歳少女の集団レイプ殺人」も、単なる少女レイプ殺人ではなく(それだけでも十二分におぞましい犯罪ですが)、村長・警察幹部といった村の有力者を含む容疑者たちによって、イスラム教徒遊牧民追い出しのために行われたものです。

 

****8歳少女の集団レイプ殺人、男6人に有罪判決 インド****

インドで昨年起きたイスラム教徒の遊牧民の少女の集団レイプ殺人事件で、裁判所は10日、ヒンズー教徒の男6人を有罪と認めた。事件は広く知れ渡って恐怖を呼び起こし、宗教間の緊張を高めていた。

 

インドでは性暴力が横行し、子どもたちも犠牲になっている。昨年の事件を受けて市民の怒りが噴出し、政府は子どもをレイプした者への死刑適用を決めた。

 

起訴状によると、少女は昨年110日、馬に草を食べさせていた際に拉致され、北部ジャム・カシミール州カトゥア地区の村に連行された。

 

薬を飲まされてヒンズー教寺院に拘束された少女は5日間にわたって繰り返しレイプを受けた後に、首を絞められたり殴られたりして殺されたという。

 

少女が標的にされたのは、遊牧民を恐怖に陥れ、同域から追い出すことが目的だったとみられており、強姦(ごうかん)および殺人罪で有罪となった3人の中には、村長と警察幹部も含まれている。

 

パンジャブ州パタンコートの裁判所前で取材に応じた検察官は、6人に対する量刑は後に言い渡されるとしている。死刑または終身刑に処される可能性がある。 【610日 AFP】AFPBB News

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こうした事件の延長線上にあるのは、「ヒンズー教徒以外はインド人ではない」と、民族浄化を意図した大量殺りく・ジェノサイドです。

 

モディ首相自身、2002年のイスラム教徒1000人以上(2000人以上との報告も)がヒンズー教徒に虐殺されたグジャラート州暴動事件当時、州首相だったモディ氏は暴動を阻止しなかった(むしろ密かに暴動を煽っていたとも)と非難されている経歴があります。

 

当然ながら、モディ首相は事件への関与を否定していますが・・・。

 

****インド、首相の非を唱えた警察幹部を追放 *****

インド内務省は、モディ首相がグジャラート州首相を務めていた2002年に同州で発生したヒンドゥー暴動でイスラム教徒が虐殺された事件に関して、モディ氏の非を唱えていた警察幹部のサンジブ・バット氏を免職した。

 

弾圧、今に続く

当時、バット氏はグジャラート州警察副本部長(情報担当)だった。1000人以上の死者を出したグジャラート暴動をめぐり、政府の調査報告に異議を訴える公職者や活動家に対する弾圧は今に至るまで続いている。

 

バット氏はグジャラート暴動の捜査に際し、当初はイスラム教徒による放火とされた列車火災でヒンドゥー教徒の巡礼者たちが死亡した事態を受けて、当時州首相だったモディ氏がイスラム教徒に「思い知らせてやる」必要があり、ヒンドゥー教徒には「怒りを発散させることを許さなければならない」と言ったと供述した。

 

インド人民党(BJP)党首として昨年の総選挙で圧勝を収めたモディ氏は、グジャラートでの虐殺への関与を否定し、もし当時の州政府に責任があったのなら自分は「公開絞首刑にされてしかるべきだ」と語っている。

 

内務省は20日公表した全4ページの13日付命令書の中で、バット氏は許可なく職務を離れたという規律違反の疑いに潔白を証明することができず、「公務にとどめるにふさわしい人物ではない」としている。(後略)【2015821日 日経】

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なお、モディ首相の性格については「恨みを忘れぬ性格」だとも。

“モディ政権の当局者や現地の企業関係者はモディ首相の人物像について、記憶力が優れ、細かなことまで関心を示し、比類ないほどのエネルギーや説得力を持っていると表現する。しかし、その一方で、復讐心が強く、いつまでも恨みを忘れず、反対派を容赦しない人物だと説明している。”【20121030日 ロイター】

 

まあ、権力への階段を昇り詰める人間は、そういうものでしょう。

 

話を現在に戻し、今度はヒンズー教徒女児が惨殺された事件をめぐる不穏な動きについて。

 

****1万円超の借金めぐる女児惨殺事件、インドで宗教間の緊張高まる***

インド当局は11日、家族がつくった借金1万ルピー(約16000円)をめぐって2歳の女児が惨殺されたことを受け、同国北部ウッタルプラデシュ州の町に数百人規模の警察官を配置し、インターネットを遮断する措置を取った。事件を受けて現地では、宗教間の緊張が高まっている。

 

事件は同州アリーガル県で発生。ごみ捨て場に遺棄されていたヒンズー教徒の女児の遺体は2日、切断された状態で発見された。警察によると、女児は殴打されて絞め殺されていたという。

 

容疑者の男たちは、女児が暮らしていた町で多数を占めるイスラム教徒であったことから、イスラム教徒とヒンズー教徒の間で緊張が高まっている。

 

この町では複数のヒンズー教徒の右派団体が抗議活動を行っており、当局が犯人らに「直ちに裁きを下して」罰するべきだと訴えている。

 

9日にも別の右派団体が犯人らの死刑を求めて集会を開き、10日には極右団体「世界ヒンズー協会」の著名な指導者が、女児の家族の元を訪れようとしたところ、警察に阻止された。

 

これらの団体は「大規模集会」を企画していたものの、これも警察に阻止された。

 

警察は女児が性的暴行を受けていなかったとみられると報告しているものの、国内で横行する子どもへの性暴力に対する根深い怒りと相まって、ソーシャルメディア上では性的暴行を受けたとする裏付けのない情報が繰り返し投稿されている。 【611日 AFP】

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こうした社会対立を鎮める役回りとしては、モディ首相は残念ながら一番ふさわしくない人物のように思えます。

(もっとも、ヒンズー至上主義勢力とのコネクション・影響力を利用して、そうした勢力へのにらみを利かせる・・・というなら話は別ですが)

 

指導者がこうした社会対立を政治利用することを考えているとしたら「残念なこと」ですが、大きな破滅的悲劇につながるとしたら「残念」ではすまされません。

 

国民的融和ではなく、自身の支持層にしか関心がないというのが昨今の指導者の政治スタイルのようです。

 

【ライチで子供31人が死亡 その背後にあるものは】

インドの話で、まったく関係ない話題をひとつ。

 

果物のライチ(漢字では茘枝(レイシ)

楊貴妃の大好物で、嶺南から都長安まで早馬で運ばせたことでも有名ですが、私もライチと親戚筋の、タイやインドネシアでよく見るランブータンが大好きで、果物の中ではおいしさ、手軽さでは一番だと思っています。

 

ただ、このライチは飢餓状態にある者が食べると糖新生(飢餓時に筋肉や脂肪を糖に変換する作用)を阻害して、低血糖から死に至るようです。(“十分な食生活で糖分が足りている者がライチを摂取しても、血糖値は下がらない。”【ウィキペディア】とも)

 

****ライチ果実の毒素で脳炎発症か、子ども31人死亡 インド****

インド東部で、ライチの果実に含まれる毒素との関連が疑われる脳炎が原因で、ここ10日間に少なくとも31人の子どもが死亡したと、保健当局が12日、発表した。

 

当局によると死亡例は、ライチの名産地ビハール州ムザファルプール県にある2か所の病院から報告されている。

 

当局高官はAFPに対し、亡くなった子どもたちには全員、急性脳炎症候群の症状が見られ、大半が血糖値の急降下に見舞われたと語った。さらに40人の子どもが同様の症状によって集中治療室に収容されているという。

 

ムザファルプール県とその周辺では1995年以降、ライチが旬を迎える夏になると毎年同じ病気が多発しており、2014年は最多の150人が死亡した。

 

米国の研究者らは2015年、この脳疾患がライチに含まれる毒素と関連している可能性を指摘。てんかんなどの発作や意識障害を引き起こし、患者の3分の1以上が死に至るこの病気の原因を究明するため、さらなる研究の必要性を強調した。

 

同じくライチの生産地であるバングラデシュやベトナムでも、神経疾患が報告されている。 【612日 AFP】

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これも「本当に不運だ」では済まされない事態です。

まったく危険性が知られていなかったならともかく、ライチの危険性は指摘されており、毎年多くの犠牲者を出しながら、当局が何の対策も講じてこなかった結果の犠牲者です。

 

より根本的には“日頃から栄養不足のうえライチを食べて飢えを凌ぐという児童が多く、相乗効果で致死性の低血糖症を招いたもの”【ウィキペディア】ということで、そうした栄養不足・飢えに関しても政治の責任があります。

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香港 若者たちの抵抗 「今回が最後のデモ活動だ」 台湾では、中国批判を避ける国民党候補

2019-06-12 22:40:27 | 東アジア

(立法会の敷地に突入し、警官隊(左側)と衝突する若者ら【612日 共同】)

 

【「今回が最後のデモ活動だ」】

香港の「逃亡犯条例」改正案に関しては、519日ブログ“香港 「逃亡犯条例」改正案で岐路に立つ「一国二制度」・高度な自治”でも取り上げたところです。

 

香港では2014年「雨傘運動」の挫折以来、香港政府および中国に対する抗議行動・民主化運動は低調になっていましたが、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案をめぐる市民の抗議行動がこれまでになく拡大し、9日に主催者発表で100万人を超える抗議デモが起きたこと、一部若者らと警察との間で衝突が生じていることは報道のとおりです。

 

****香港デモ、帰ってきた若者たち 雨傘運動思わせる光景****

香港で9日にあった「逃亡犯条例」改正案に反対する大規模なデモでは、学生をはじめ若者の参加が目立った。2014年の民主化デモ「雨傘運動」が挫折した後、民主化運動から遠ざかっていた世代が再び政治意識を高めつつあるようだ。

 

デモ行進のゴール地点となった立法会(議会)。9日夜になっても多くの若者が立ち去ろうとせず、路上に座り込んで友人たちと雑談していた。雨傘運動の再現を思わせる光景だった。

 

ある男子学生(22)は、デモに加わった理由について「こんな悪法は撤回させないといけない。みんなで力を合わせて立ち上がる必要がある」と話した。

 

香港では雨傘運動の2年前の12年、学校現場で愛国心を育てる「国民教育科」導入が撤回された。そのとき、反対運動の一角を担ったのは中高校生だった。

 

今回、初めてデモに加わったという中学3年生の男子生徒(15)は、同級生4人と参加。「改正案に不満を持っている人が多いという事実を政府に伝えることが大事だ」と語った。

 

雨傘運動で活動した元学生団体幹部の羅冠聡氏は「社会の雰囲気が雨傘運動の前の状況に似てきた」と指摘する。

香港政府トップの行政長官を民主的な選挙で選べるよう若者らが求めた雨傘運動は、結局、要求が何も実現されないまま封じ込まれた。

 

1989年の天安門事件などを経て、香港の民主派は長年、中国本土の民主化を掲げて活動してきた。しかし、雨傘運動を経験した若者たちは香港の民主化が優先だと主張。民主派の中核を担っていた中高年層との溝や対立が深まり、民主化運動が勢いを失う要因になっていた。

 

しかし、今回の条例改正を座視すれば、民主化の進展どころか、香港の高度な自治を保障する「一国二制度」が骨抜きにされるとの危機感が若者たちを動かしたとみられる。

 

雨傘運動の中心メンバーの一人、周庭(アグネス・チョウ)さんは10日、都内の日本記者クラブでの会見で、条例が改正されれば「香港が完全に中国になってしまう」と訴えた。

 

「日本政府、意見表明して」雨傘運動メンバー周庭さん

2014年に香港であった民主化デモ「雨傘運動」の中心メンバーの一人、周庭(アグネス・チョウ)さんが10日、東京都日本記者クラブで会見した。刑事事件の容疑者を香港から中国本土に引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」改正案をめぐり、成立すれば「香港が完全に中国(の一部)になってしまう」と危機感を表明した。

 

周さんは会見で、中国の司法制度について「恣意(しい)的で不透明」などと批判。条例改正は事実上、中国の法律が香港市民に適用されることにつながるとして、「(高度な自治を保障した『一国二制度』ではなく)一国一制度に近づく」と懸念を示した。

 

周さんは9日に香港であった大規模デモにも参加。若い人々が多く参加していたといい、「(条例改正への)関心が広がっている」と話した。

 

その一方、改正案が成立すれば、デモに参加したことが罪に問われて中国に引き渡される恐れもあることから、「今回が最後のデモ活動だ」と話す参加者もいたという。

 

条例は香港に滞在する外国人にも適用される。周さんは「日本も無関係ではない。日本政府は国民の安全を考え、意見を表明して欲しい」と訴えた。【611日 朝日】

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“改正案が成立すれば、デモに参加したことが罪に問われて中国に引き渡される恐れもあることから、「今回が最後のデモ活動だ」と話す参加者もいた”・・・・この言葉が、今回の「逃亡犯条例」改正案の重要性を物語っているように思われます。

 

香港政府は条例が改正されても、中国からの「政治犯」移送の要請は拒否するとしているようですが、中国が気に入らいない人物に関して“あること、ないこと”言い立てて、非政治犯として引き渡しを求めるという懸念、そうした中国の要請に香港当局は唯々諾々と従うであろうとの懸念は当然のことのように思われます。

 

そうなると、香港において反中国的な活動はもはやできなくなります。まさに「今回が最後のデモ活動だ」ということにも。

 

今日(12日)午後には警官隊がデモ隊の排除に動き、双方に負傷者が出ています。今日現在の状況は以下のようにも。

 

****香港デモ、数万人道路占拠 警察は催涙弾発射、けが人も****

刑事事件の容疑者を香港から中国本土に引き渡すことに道を開く「逃亡犯条例」改正案に反対する若者らが12日、香港中心部にある立法会(議会)周辺の道路を占拠した。

 

警察とデモ隊が衝突し、負傷者が出た模様だ。若者が道路を封鎖する大規模な抗議は、2014年の民主化デモ「雨傘運動」以来となる。

 

12日予定されていた条例案の審議を阻止しようと、立法会には11日夜から数千人の若者が集結。12日朝には数万人規模に達し、近くの幹線道路を数百メートルにわたって占拠。この日の審議は延期に追い込まれた。

 

午後には警官隊が催涙弾を相次いで発射するなどしてデモ隊の排除に動き、双方に負傷者が出た模様だ。同日夕現在、数百人規模の若者が現場にとどまり、警官隊とのにらみ合いが続いている。

 

条例改正案をめぐっては9日に主催者発表で100万人を超える抗議デモが起きたが、政府はあくまで改正案の成立を目指す考えを強調。立法会も20日に採決する構えで、緊張と混乱が今後も続きそうだ。【612日 朝日】

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香港政府トップの林鄭月娥行政長官は声明を発表し、若者らのデモについて「公然と暴動を起こした」と非難しています。

 

【「(中国の)狙いは、香港市民にとって誰が『大ボス』なのかを知らしめることだ」】

若者らの香港の将来に対する悲壮な思いも伝わりますが、政治的には香港は中国の主権下にあって、「高度な自治」を“認めてもらっている”立場にすぎないこと、何より経済的には完全に中国経済に取り込まれており、長期的な抵抗運動で中国側の締め付けが強まると、抵抗運動への風当たりが香港でも強まることなどからして、今後の見通しは非常に暗い・・・としか思えません。

 

中国指導部にとって思いのほか激しい抵抗運動が起きたことで、“香港の人権団体・中国人権民主化運動情報センターによると、中国政府の高官が12日、香港に隣接する広東省を訪問。香港側に改正案の撤廃を指示したという情報も香港では流れたが、真偽は分かっていない。”【612日 時事】といった情報もあるようですが、この状況で習近平指導部が譲歩することはあまりありそうにも思えません。

 

****香港デモへの「譲歩」あり得ず、習氏の狙いは?****

中国は、香港で9日に大規模な市民デモが発生したにもかかわらず、犯罪容疑者の本土送還を可能にする「逃亡犯条例」の改正を断固として進める方針だ。

 

中国の国営メディアや当局者は10日、香港特別行政区政府による条約改正の取り組みを引き続き支持するとの立場を表明。デモは、地元の反体制派が外国勢力と共謀して市民の怒りをあおっていることが要因との見方を示した。

 

中国外務省の耿爽報道官は定例会見で、条例改正への政府の支持を改めて表明した上で、「一部が無責任な発言を行っている」と指摘。「香港の立法への外部介入に断固として反対する」と述べ、名指しは避けながらも、中国に批判的な海外勢力による介入の可能性をほのめかした。

 

香港のデモに対する中国当局の強硬姿勢を踏まえると、香港を含め、中国内の反体制派を容赦しない習近平国家主席の方針が揺らぐことはなさそうだ。

 

香港中文大学のウィリー・ラム非常勤教授は「中国当局が折れることはない」とし、「狙いは、香港市民にとって誰が『大ボス』なのかを知らしめることだ」と述べた。

 

習氏にとっては、中国内の反体制派をいったん黙認すれば、他でも反政府の動きを促しかねないリスクがある。また、同氏が進める徹底した腐敗撲滅運動や中国景気の減速、米中貿易摩擦の激化に不満を強めている向きから批判にさらされかねない。

 

ラム氏は、海外の勢力が香港のデモをあおったとする中国当局の主張は米国を念頭においたもので、反米感情を利用する狙いがあると指摘する。

 

とりわけマイク・ポンペオ米国務長官が先月、条例改定案について、香港の「法の支配への脅威」と批判したことを踏まえると、「習氏には(香港について)譲歩できないもっともな理由がある」(ラム氏)という。(中略)

 

香港では返還以来、中国当局との間で多くの摩擦が生じている。学歴も職務能力も備えた香港中間層の多くは、行政長官や議員の大部分を直接選挙で選ぶべきだと主張し、自治権拡大を訴えている。2003年には「国家安全条例」に反対する大規模なデモが発生。中国当局は計画を断念し、最終的には行政長官を交代させた。

 

だが、中国当局が今回、譲歩する公算は小さいもようだ。習氏の許容度は下がっている。中国当局者は2014年の民主化デモ以降、香港議会から野党政治家を排除するとともに独立支持派の政党を違法とし、デモ参加者を投獄した。

 

.香港のキャリー・ラム行政長官は10日、条例改正案を進める方針を改めて表明した。改正案の審議は12日に再開される予定。

 

ただ、中国の専門家は、ラム長官が改正案の成立に失敗したとしても、中国当局が直接介入できると話している。深圳大学の香港・マカオ基本法センターのソン・シャオズアング教授によると、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は香港の基本法について解釈を発行することが可能で、身柄引き渡しに関して香港の議会や司法の決定を覆すことができるという。

 

そのような強硬措置を講じれば、本土支配に反対する香港市民の反発を強める恐れがあるが、習氏にとって譲歩する代償はこれを上回るかもしれない。

 

ソン氏は、2003年のデモを巡る動向は、政府の信用を傷つけた「過ちだった」と指摘。「中国当局は同じ轍(てつ)は踏まないだろう」と述べる。【611日 WSJ】

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もっとも、今回の香港側の激しい反発は、中国指導部にとっては予想外だったとの指摘も。

 

****中国の「指示」誤算か 建国70周年に香港混乱****

香港で中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正について、中国政府は「揺るぎない支持」(外務省報道官)を表明している。ただ実際は習近平指導部が香港政府に改正を「指示」したとの見方が支配的だ。

 

建国70周年の祝賀式典を10月に控える中、香港の混乱が長期化すれば、米中貿易戦争に加えて「内憂外患」のタネをまた一つ抱えることになる。

 

北京の政治学者は「香港を厳しく統制するのが現指導部の方針だが、誤算があった」と指摘する。

 

2014年に香港行政長官選挙の民主化を求めた大規模デモ「雨傘運動」は、政府側の譲歩を得られないまま強制排除され、以降は民主派の動きが低調になった。「こうした状況の中で条例改正も問題ないと判断したが、これほど大きな反響があるとは予想していなかった」(政治学者)という。

 

中国政府は2月、広東省沿岸部と香港、マカオに一体的な経済圏を築く「ビッグベイエリア(大湾区)構想」を正式に始動させた。北京の外交筋は「香港の一国二制度を骨抜きにする動きが強まっている」とし、条例改正が強行されれば中国が同制度の受け入れを求めている台湾でも反発が強まるとの見方を示した。【612日 産経】 

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そうした“予想外”だったことを踏まえて、なんらかの譲歩がなされる可能性もない訳でもないでしょうが、どうでしょうか・・・・難しいようにも。

 

【台湾 国民党で総統候補を目指す韓国瑜高雄市長は香港のデモについて「よく知らない」】

一方、上記記事にもあるように、総統選挙の予備選挙段階にある台湾も香港の動きを注視しています。

 

****台湾政界、香港デモに敏感反応 総統予備選意識****

香港で起きている「逃亡犯条例」改正案への大規模な抗議活動に、台湾でも関心が高まっている。主要メディアが大きく報道し、台北市内では抗議活動に同調する街頭運動も始まった。

 

一方、与野党の有力者は香港情勢に言及する際、現在行われている総統選の党内予備選を意識しており、デモの行方が総統選に影響を及ぼす可能性もある。

 

台北市内で香港政府の領事事務などを行う香港経済貿易文化弁事処が入る商業ビルの前では12日、香港からの留学生らが座り込みを始めた。200〜300人が雨の中、プラカードを掲げ、改正案に反対する演説を次々に行った。

 

発起人の大学4年生、何泳●(=杉の木へんを丹に)(か・えいとう)さん(21)は「改正案が通れば香港の国際的地位は急速に低下し、中国の地方都市と変わらなくなる。台湾に『お金のために中国に接近しよう』という人がいるのは恐ろしいことだ」と話した。

 

台湾の与党、民主進歩党の蔡英文総統は香港の「100万人デモ」にフェイスブックなどで支持を表明。翌10日には「蔡英文が総統でいる限り、一国二制度は受け入れない」と予備選での支持を呼びかけた。

 

これに対し、予備選の対抗馬、頼清徳(らい・せいとく)前行政院長(首相に相当)は「中国は暴行をやめるべきだ」と反中姿勢を強調、「台湾は第2の香港にならない。頼清徳だけが台湾を守れる」と訴えた。

 

野党、中国国民党で総統候補を目指す韓国瑜(かん・こくゆ)高雄市長は10日、記者団からデモの感想を問われ「よく知らない」と回答。批判を受けると11日に声明を発表したが、「香港政府は民衆を安心させる決定をすべきだ」などと中国への批判を避けた。

 

一方、国民党のもう一人の有力候補で中国当局との近さが指摘される鴻海精密工業の郭台銘(かく・たいめい)会長は「香港の一国二制度は失敗だ」と中国を批判してみせた。【612日 産経】

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注目されるのは国民党候補として最有力視されている韓国瑜高雄市長の対中国宥和姿勢です。

 

台湾の選挙状況は69日ブログ“台湾総統選挙・予備選  民進党は現職と前首相が接戦 10~14日の世論調査で決定”でも取り上げましたが、「民主主義で飯は食えない」といった趣旨の発言に見られる、中国とズブズブの関係にある郭台銘氏と対中国姿勢では大差ないようです。

 

国民党も、以前に比べると随分“本音”が前面に出てきた感もあります。最近のポピュリズム全盛の世界的流れの影響でしょうか。

 

「飯が腹いっぱい食えるなら、中国でも台湾でもどっちでもいいじゃないか。どうせ同じ中華民族なんだから」と言い出すのも時間の問題のようにも。

 

今の状況で中国に宥和的な姿勢を批判するのは簡単ですが、実際に中国による締め付けがきつくなったとき、パンをとるのか、自由をとるのか・・・という問題は簡単ではありません。

 

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ロシアにおける非民主的メディア統制と抵抗 世界では「民主主義の後退」が進行

2019-06-11 23:03:34 | 民主主義・社会問題

(【116日 SPUTNIK】 英経済誌『ザ・エコノミスト』誌による民主化度調査 濃い緑ほど民主主義、濃い赤褐色ほど独裁的傾向)

 

【ロシア プーチン支配体制でのメディア統制 ジャーナリストからは抵抗も】

豊かさ、幸福度、暮らしやすさ、男女平等・・・等々は、様々な要素が複雑に絡み合った結果ですから、それを数値化することにはもとより無理があります。

 

ただ、無理は承知の上で、一定の条件のもとで抽象的概念の状況を簡単な数値で表すということは、ひとつのアプローチとしては一定に有用でしょう。

 

そこで、英経済誌『ザ・エコノミスト』誌による世界各国の「民主化度」に関する調査です。

 

****昨年の民主化度 ロシアは中国やアフリカ諸国より下、日本は韓国より低く、米国より上に****

英経済誌『ザ・エコノミスト』誌は、2018年の民主主義の水準での世界各国の指数を公表した。

 

世界167カ国での指数は、「選挙と多元主義」「市民の自由」「政府の活動」「政治参加人口」と「政治文化」の5つのカテゴリーにもとづいて算出された。その結果、ロシアは中国やアフリカ諸国より低く、日本は韓国より低いことが判明した。(冒頭グラフ参照)

 

『ザ・エコノミスト』誌の評価に基づき、各国はそれぞれ「完全な民主主義」「不完全な民主主義」「ハイブリッド体制」そして「独裁体制」の4タイプの民主主義に分類されている。

 

このランキングでロシアは、ジブチとアフガニスタンの間に位置し、カザフスタンと同じ144位を占め、「独裁体制」と規定された。

 

その結果、ロシアは、中国やトーゴ、エスワティニ(旧スワジランド)、ジンバブエ、カメルーン、ルワンダ、ニジェール、モザンビーク、ベネズエラ、カンボジア、その他の国々を下回った。このランキングでウクライナは84位で「ハイブリッド体制」となった。

 

日本は22位で、21位の韓国を下回った。米国は25位だった。これらの国々は「不完全な民主主義」に分類された。

 

「完全な民主主義」の国々には、ノルウェーやアイスランド、スウェーデン、ニュージーランド、カナダ、アイルランド、フィンランド、オーストラリア、スイス、 英国、ドイツ、ウルグアイ、モーリシャス、コスタリカ、スペイン、オーストリア、ルクセンブルク、 オランダが選ばれている。【116日 SPUTNIK

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あくまでもひとつのアプローチですが、ロシアの民主化度が低い評価となったこと自体は、妥当性のある結果でしょう。

 

米中覇権争いのなかで、異質な政治体制のもとで成長を続けてきた中国、従来の民主主義の旗手であったアメリカ社会を内部から荒廃させ、変質させるトランプ政治が、世界の民主主義を考える際の問題として強く意識されるようになったため、その陰に隠れる形にはなっていますが、ロシアにおけるプーチン大統領を頂点とする似非民主主義も欧米的民主主義とは異なるものの代表事例です。

 

 

そのプーチン大統領の求心力も、年金改革以来、かつての輝きを失っていますが、その結果、欧米的民主主義の方に近寄るかと言えばそうでもないようで、ロシア独自のいささか屈折した方向に向かっているようです。

 

****独裁者スターリンの胸像設置 ロで新設異例、高まる肯定評価****

ロシア西シベリアのノボシビルスクで9日、第2次大戦での対ナチス・ドイツ戦勝74周年に合わせて、旧ソ連時代の独裁者スターリンの胸像設置式典が行われた。

 

1953年の死後に始まったスターリン批判を受けてロシアでほぼ撤去された像が公共の場で新設されるのは異例。背景には近年高まる肯定的評価がある。

 

胸像の設置は、スターリンを「戦勝に導いた英雄で、戦後の経済復興も実現した」と評価する共産党が推進。公道に面した同党の地元委員会の敷地に設けられた。しかし市民の反対署名が1万人以上集まるなど論争を呼んだ。【510日 共同】

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ロシアの民主主義の危機、プーチン体制の非民主的支配を語る際に常に指摘されるのが、政権側に都合が悪いジャーナリスト(アンナ・ポリトコフスカヤ氏など)や野党指導者(プーチン政権を批判していた野党の指導者ボリス・ネムツォフ元第一副首相など)、政敵、あるいは(政権にとっての)“裏切り者”が次々に暗殺されて消えていくという恐怖です。

 

結果、ロシア国内のメディア、ジャーナリズムはプーチン支配体制に飼いなされたような状況にあり、政権批判などはほとん表に出てこない・・・・と、欧米側には理解されていますが、ロシア国内ジャーナリストに中にあっても、そのようなロシアの現状に対する不満はあるようです。

 

****ロシア有力紙コメルサント、政治部デスクが全員退職 ベテラン記者2人の解雇に抗議****

ロシアの有力日刊紙コメルサントで20日、ベテラン記者2人が解雇されたことへの抗議として政治部デスク全員が退職した。同国のメディア産業では、ほぼすべての新聞社が政府の規制に従っており、今回のような抗議は異例。

 

これに先立つ同日、同紙のグレブ・チェルカソフ副編集長は、経営陣がスクープ記事を書いたベテラン記者2人を退職に追い込んだことを受け、自身を含むコメルサントの政治部デスクの11人が退職すると発表していた。

 

スクープ記事を書いたのは、同紙在籍10年を数えるイワン・サフロノフ、マキシム・イワノフ両記者。記事は先月書かれたもので、ロシアの上院議長が現職のワレンチナ・マトビエンコ氏からセルゲイ・ナルイシキン対外情報局長官に交代する可能性があるとしていた。

 

コメルサントのレナタ・ヤムバエワ副編集長は両記者の解雇について、同紙の編集部員らに対する最近の圧力の一例にすぎないと語っている。

 

反政府活動家らは、ウラジーミル・プーチン大統領は権力の座に就いてからの20年間で批判者を抑圧し、ロシアメディアの大半を政府の管理下に置いたとして同大統領を非難している。(後略)【521日 AFP】AFPBB News

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****ロシア世論、独立系記者逮捕に異例の反発 三大紙が1面に共同声明****

調査報道で知られるロシアの独立系メディアの記者が先週、麻薬密売容疑で逮捕されたことに対し、独立系だけではなく親政権派のジャーナリストらからも釈放を求める声が上がり、当局は世論の異例の反発に直面している。

 

逮捕されたのは、独立系ニュースサイト「メドゥーザ」のイワン・ゴルノフ記者。合成ドラッグのメフェドロンやコカインを「大量に」売ろうとしていた疑いが掛けられており、有罪となった場合には最高20年の禁錮刑が科される可能性があるが、弁護団は事件は仕組まれたものだと主張している。ゴルノフ記者自身は、葬儀業界の疑惑を調査していたために拘束されたと考えている。

 

今回のゴルノフ記者逮捕に対し、ほとんどのメディアが政権筋の見解に従うロシアにしては珍しく、報道関係者らの連帯が生じている。

 

10日にはロシア三大新聞のコメルサント、ベドモスチ、RBKが一斉に1面トップに巨大な文字で「私は/われわれはイワン・ゴルノフ」というメッセージを掲載。政権に対し公然と抵抗する行動に出た。(中略)

 

1面に共同声明を掲載した3紙は、ゴルノフ記者の逮捕は脅迫行為に当たると主張し、同記者を拘束した警官に対する捜査を要求した。

 

新聞を売るモスクワの売店の多くで10日午後の早い時間帯までにこの特別版が売り切れた。3紙はすべて民間企業だが、このところ政権による報道統制の圧力がますます強まっていた。

 

■「一度に一人ずつ」の抗議行動も

(中略)ゴルノフ記者の逮捕については、他のジャーナリストや記者の支援者の間に激しい憤りをもたらしている上、政権に極めて忠実なテレビジャーナリストの中にも同記者を支持する動きが出ている。また米国や欧州連合など国際的にも懸念が広がっている。

 

モスクワ市内の裁判所前には数百人の支援者が集まった。勾留されていたゴルノフ記者は先週末、自宅拘禁に移された。

 

モスクワの警察本部前では7日以降、一度に一人ずつ参加する抗議行動が行われている。これは当局から事前の許可を得る必要がない唯一の抗議方法だ。12日にはゴルノフ記者支援のデモ行進も行われる予定だ。

 

一方、ロシア政府は「過ちを認め」繰り返さないことは重要だと述べたが、警察当局を擁護する姿勢を示している。(後略)【611日 AFP】AFPBB News

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政権に忠実なジャーナリストの心中にも良心の断片は残っている・・・ということでしょうか。

 

【世界における民主主義の後退】

日本を含めた西欧的民主主義国家では、民主主義は問題点は多々あるものの、独裁や強権支配体制より“良い政治体制である”と信じてきましたが、世界的に見た場合の深刻な問題は、非民主的な国々が次第に民主化を進めているというよりは、ロシアに見られるような非民主的な政治が、世界全体で増加しているように思えることです。

 

****世界的に民主主義離れの傾向 崩れ落ちる平和の礎****

9月15日の国際民主主義デーに際し、スイスの政治学者クロード・ロンシャン氏は「現在、世界中でオートクラシー化(独裁化)が広がっている」と警鐘を鳴らす。

 

支配者が権力を独占し、思いのままに行使するこの支配形態は、必ずしも独裁政治に直結するわけではないが、民主主義の崩壊が始まっていることには間違いない。(中略)

 

民主化と相反する「オートクラシー化(独裁化)」という言葉は最近まであまり知られていなかった。しかし研究プロジェクト「バラエティー・オブ・デモクラシー」(V-DEM)がまとめた年次報告書「万人のための民主主義?」の中では、この概念が重要なキーワードになっている。(中略)

 

「オートクラシー化」が急に浮上してきた理由は、2017年に行われたこの調査で178カ国中、24カ国に民主制度の縮小傾向が見られたためだ。これは民主制度が拡大している国の数と同じだった。

 

停滞する民主化の波

ソビエト連邦崩壊後、民主化の波が起こり、東欧の共産主義諸国は自由な市場経済と政治競争が保障される自由民主主義の道を歩み出した。

 

しかし自由は得たものの、多くの国では経済が思うように発展しなかった。明るい未来への展望は、この先に立ちはだかる問題への悲観へとすり替わり、新たに「強いリーダーたち」に希望を求めるようになった。

 

民主制度の拡大・縮小化があった国々を人口の比率で表すと、縮小化が進んだ国の割合の方が高い。この傾向は2016年以降2年連続で見られ、今回は特にその傾向が顕著だ。1970年からの民主主義の発展を表すグラフでも同様の動きが読み取れる。

 

オートクラシー化は弱小国だけに見られる傾向ではないとゲーテブルク大学の調査に参加した民主主義の専門家は言う。2017年には、世界各国の中でむしろ人口の多い国々でこの傾向が強かったという。

 

ナレンドラ・モディ首相が率いるインド、ドナルド・トランプ大統領が率いる米国、ミシェル・テメル大統領が率いるブラジル、そしてウラジーミル・プーチン大統領が率いるロシアがその例だ。これはオートクラシー化がアジア、アメリカ、欧州で広がりつつあることを意味する。

 

独裁政治と隣り合わせ

オートクラシー政権(独裁政権)の典型的な特徴は、自由の抑圧、メディアの監視と制限、そして反対派の弾圧だ。

 

オートクラシー化とは、民主主義の原則に従った国を独裁傾向の政府幹部が統治するようになること意味する。

 

V-DEMの年次報告書には、具体的な調査結果が記載されている。それによると、2017年、最も抑圧されたのは「公の場で個人の意見を述べる自由」だった。「集会の自由」は広範囲で制限され、アンケートに答えた専門家らが最も危惧しているのは、科学分野での規制が出始めていることだった。

 

またそれに並行して、オートクラシー主義者は法治主義を縮小する傾向にある。そうなると裁判所の独立性や国際法の考慮といった側面が危ぶまれることになる。この二つは民主主義制度の中でも特に重要、かつデリケートな構成要素だ。

 

選挙は改善するも民主主義には至らない

選挙の発展に関して言えば、年次報告書の著者らはそこまで悲観的に見ていないようだ。国際的な研修制度や監視活動が実を結び、選挙は以前と比べはるかに公正に行われるようになった。

 

問題は、メディアに自由が許されていない点だ。メディアは上から圧力を掛けられるか、意見の形成が人為的に操作されてしまう。

 

選挙を正しく行うだけでは民主的な環境を保障できないことはよく指摘されている。そのためには憲法で守られた市民権と議会が政府を監視できる枠組みが欠かせない。

 

だが正にこれがネックになっている。その結果、最悪の場合には民主的な権利を持つオートクラシー政権か、あるいは専制君主を持つ民主主義が台頭することになる。

 

自由民主主義から完全な独裁制へ

同報告書では専門家が世界178カ国を均一に評価し、4段階に分類した。

 

完全な民主主義:選挙制度が整い、自由と平等が保障され、市民が積極的に政治に参加し、社会がうまく機能している状態。39カ国(世界人口の14%)はこの条件を完全に満たしていた。

 

選挙だけの民主主義:公正な選挙は行われているが、自由民主主義に特徴的な条件は一部しか満たしていない。56カ国(世界人口の38%)が該当。

 

選挙だけのオートクラシー: 選挙は行われているが、おおむね理不尽で不公平な社会を正当化するために利用されている。56カ国(世界人口の23%)がこの段階にある。

 

完全なオートクラシー: 選挙は行われるが、表面的な意味しか持たない。自由が保障されず、二大政党制のような民主主義的機構やメディアの独立性に欠ける。27カ国(世界人口の4分の1)がこの段階に分類された。

 

民主主義かオートクラシーの二つに大きく分けると、昨年の時点で95カ国が民主的国家に分類された。つまり世界人口の約半数強が民主主義と関係する国家で暮らしていることになる。(後略)【2018914日 swissinfo.ch

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****民主主義の後退正統性の礎を失う世界****

気がついたら、民主主義が後退していた。

まず、プーチン政権のもとのロシアでは、大統領選挙で選ばれるという外形こそ保っているものの、立法府による行政権力の統制が弱まり、司法の独立も損なわれた。政府の批判は弾圧され、ジャーナリストが暗殺された疑いも生まれている。ロシアの議会制民主主義は形骸化した。

 

エルドアン大統領のもとのトルコでも、やはり大統領選挙や議会選挙が行われているとはいえ、憲法改正によって大統領に権力が集中し、立法と司法の役割は低下した。ロシアと同様にトルコでも、民主政治は形だけのものとなった。

 

民主化が後退する一方で、権威主義体制における社会統制は強化された。中国では長期拘禁が繰り返され、中国出身の国際刑事警察機構(ICPO)前総裁孟宏偉は行方不明となったまま国家監察機関の取り調べを受けていると伝えられている。

 

新皇太子のもとで専制支配が強まったサウジアラビアでは、現体制に批判的な報道を続けたジャマル・カショギはイスタンブールのサウジ総領事館に入ったまま行方不明となり、総領事館のなかで殺害された疑いが持たれている。

 

スタンフォード大学のラリー・ダイアモンド教授がその著書「民主主義の精神」において民主主義が世界的に後退していると指摘したのは2008年のことだった。

 

この指摘を受けて英「エコノミスト」誌は民主化指標を毎年発表してきたが、2017年のデータも含めた最新版でも民主主義の後退を指摘している。(中略)

 

アメリカ政府の役割も変わった。ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、さらにバラク・オバマと、3代のアメリカ大統領はいずれも民主化支援をアメリカ外交の柱の一つに掲げてきた。

 

世界の民主化を進めるというアメリカの自画像は誇張と厚かましさがともなうとはいえ、たとえばミャンマーにおける民政移管においてアメリカの果たした影響は無視できない。

 

だがトランプ政権は、ドイツやカナダなど民主的な同盟国と衝突する一方で、ロシア、サウジアラビア、さらに北朝鮮などの民主主義とはほど遠い諸国との間では友好的な首脳会談を行っている。権威主義体制の支配者を外交の相手に敢(あ)えて選んだかのように見えるこの外交姿勢ほど民主化支援政策の後退を明示するものはない。

 

アメリカによる民主化支援政策の後退は、世界規模における民主主義の後退、さらに権威主義体制の相対的な安定という現実に対応した外交政策の転換であった。

 

理念ではなく実利に基づき、どのような国や政権が相手であっても、外交交渉を通じて自国にとって有利な成果を獲得することを目指す。際だってクラシックな国際政治の認識がここにある。

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私は、民主主義の政治的な表現は、指標に集約しがたい多様性があると考える。世界各国の民主化がアメリカ外交のために達成されたとも思わない。それでもなお、民主主義の後退と権威主義体制の安定という国際政治の動向には懸念を持たざるを得ない。

 

それは民主主義が法の支配と国際関係の安定の基礎にあるからだ。どれほど多様であっても民主主義は政治権力の正統性の基礎であり、どれほど紛争を伴ったとしても民主主義を共有する諸国は国際体制のなかにおける紛争解決を模索してきたのである。

 

権威主義体制が優位となった世界では、そのような正統性も国際体制の安定も期待することはできない。権力闘争と力の均衡の支配する古風な国際政治の復活が、つい目の前に迫っている。【20181022日 藤原 帰一氏】

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多くの側面から論ずべき問題が多い「民主主義の後退」という現象ですが、とりあえず今日はここまで。

コメント (2)
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