孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

新型コロナ  欧米で加速する規制緩和の流れ 「以前の生活」へ

2022-02-10 23:33:36 | 疾病・保健衛生
(スウェーデンでほぼ全ての新型コロナウイルス制限措置が解除された。事実上のパンデミック(世界的大流行)終息宣言となる。無料のコロナ検査も打ち切られる。写真は9日、制限解除後にナイトクラブに集まる人々。【2月10日 ロイター】)

【世界の感染者4億人超 オミクロン株拡散】
久しぶりに(かな?)新型コロナの話。

感染が急拡大した日本では、東京の新規感染者が昨日・今日と前週の同じ曜日を下回り、ようやく・・・・という雰囲気も。

*****世界コロナ感染者4億人突破、約1カ月で1億人増 オミクロン株拡散で****
ロイターの集計によると、世界の新型コロナウイルス感染者が9日、4億人を突破した。感染力の強いオミクロン変異株の拡散で、感染者数は約1カ月で1億人増加した。死者数も600万人を超えた。

世界感染者は約5カ月で2億人から3億人に達していた。

多くの国で感染者数の増加ペースは鈍化しつつあるものの、1日当たりの新規感染者数はなお平均200万人を超えている。7日平均の死者数も過去5週間で70%急増した。

7日平均で感染者数が最も多かった上位5カ国は米国、フランス、ドイツ、ロシア、ブラジルで、世界の新規感染者数の約37%を占めた。また、世界新規感染者のほぼ半分が欧州諸国で報告されている。

米国は最多で、3日ごとに1日当たり100万人の新規感染者が報告されている。累計の死者は先週末時点で90万人を突破した。

フランスでは1日当たりの新規感染者が7日間平均で21万人超となっている。累計の感染者は先週2000万人を超えた。

インドでは4日時点で、累計の死者が50万人を突破した。

「アワー・ワールド・イン・データ」によると、世界人口の約62%が少なくとも1回目の新型コロナワクチンを済ませている。しかし低所得国で1回目接種を受けた人は11%程度にとどまっている。【2月10日 ロイター】
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日本でも把握されていない無症状感染者が多いのでは・・・という話がありますが、途上国を含めた世界でみると把握されている「4億」という数字より実際ははるかに多いのかも。

感染者数の国別ではアメリカが約7700万人で最多で、インド(約4230万人)、ブラジル(約2670万人)、フランス(約2110万人)、英国(約1800万人)と続いています。

【欧米で加速する規制緩和の流れ 「新型コロナはもはや社会への危険とは見なされない」とも 背景には文化・死生観も】
ただ、感染力は強い一方で、重症化は比較的少ないオミクロン株に変化したこと、ワクチン・治療薬も一定に存在することで、ピークアウトしつつある欧米では、規制を緩和し「ウィズコロナ」の流れを明確に示すようになっています。

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感染者数に関しては、日本を含む各国で急増する一方、昨年12月から爆発的に増加していた欧米諸国では既にピークを越えたとの見方もある。一時は100万人超の新規感染者を出していた米国では、今年1月下旬から減少傾向に転じている。

ワクチン接種が進み、オミクロン株が軽症傾向であることから、欧州では軒並み規制緩和が進められている。英国のジョンソン首相は「ピークを過ぎた」とほとんどの規制撤廃を表明。北欧でも2月上旬から規制緩和が始まり、デンマークは1日からコロナ規制の大半を解除した。【2月9日 時事】 
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上記のようにデンマーク、そしてスウェーデンでは規制をほぼ全面解除しています。

****デンマーク、コロナ規制を全面解除 「以前の生活」復活へ*****
デンマーク政府は26日、新型コロナウイルス関連の国内規制を、来月1日から事実上全面的に解除すると発表した。同国では新規感染者数が過去最多を更新する状況が続いているが、ワクチン接種率が高いことから、感染後の症状が比較的軽度な変異株「オミクロン株」に対応できるとしている。

メッテ・フレデリクセン首相は記者会見で、「私たちは制限に別れを告げ、コロナ以前の生活を歓迎する」と述べた。

AFPの調査によると、欧州でオミクロン株による感染の波が広がる中、国内の規制を解除する欧州連合加盟国はデンマークが初めてになる見通し。

フレデリクセン氏は、ワクチンが「強力な武器」であることが証明され、接種計画の成功によって同国は「今も続く感染に対する強力な防御力を手に入れた」と説明。「このため政府は、コロナウイルスがもはや、社会を脅かす病気とみなされるべきではないと判断した」と述べた。

規制解除後は、ワクチンパスポートの提示、マスク着用、バーやレストランの営業時間短縮などの義務がなくなる。ただし水際対策については、入国者の感染歴などに応じた検査や隔離の義務付けなど一部の措置を4週間継続する予定。 【1月27日 AFP】
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デンマークでは感染自体が収束している訳ではなく、逆に、上記「全面解除」発表のあった1月26日は新規感染者は46747人、日本の人口に置き換えると約100万人(!)という、まさに感染爆発のさなかでした。現在も3.5~4万人のハイペースが続いています。

****スウェーデン、コロナ規制ほぼ全面解除 事実上の終息宣言****
スウェーデンで9日、ほぼ全ての新型コロナウイルス制限措置が解除された。事実上のパンデミック(世界的大流行)終息宣言となる。無料のコロナ検査も打ち切られる。

ハレングレン保健相は「パンデミックは終わっていないが、急速な変化や制限の観点からは終息したと言える」とし、新型コロナをもはや社会への危険とは見なされないと述べた。

9日から、バーやレストランは午後11時以降の営業が許され、収容人数の制限もなくなる。大型屋内施設の入場制限やワクチン接種証明提示義務も撤廃される。

しかし、なお約2200人の新型コロナ患者が国内の病院に入院しており、科学者らはより忍耐強く対応すべきという見方を示している。【2月10日 ロイター】
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スウェーデンも1月末にピークを迎え、現在は急速に減少しているものの、新規感染者数自体はハイレベルにあります。

(万事に慎重・過敏な日本と比べると)欧米の対応は、感染症対策としての側面の他、「行動制限」と個人の自由をどのように考えるか、疫病による災難にどのように向き合うか・・・といった文化・死生観を反映したものに思われます。

【仏英米も同様 政治的思惑も?】
英仏など主要国でも同様の流れ。

****フランス 屋外でのマスク着用義務を撤廃****
フランスでは新型コロナウイルスの1日あたりの感染者が30万人を超える中、感染状況は改善しているとして屋外でのマスクの着用義務などが撤廃されました。

フランスでは2日、新型ウイルスの感染状況が改善しているとして、屋外でのマスクの着用やテレワークの義務が撤廃されました。また、劇場やスタジアムなどの人数制限もなくなりました。

市民「私はマスクを着け続けると思います。抵抗はありません」「いつもの癖でマスクを着けていますが、呼吸が楽になるし(撤廃は)いいと思います」

今月16日からは、映画館での飲食やバーでの立ち飲みなども認められる予定です。

フランスの1日あたりの感染者数は、先月25日、50万人を超えて以来、減少傾向にありますが、依然30万人を超えています。【2月3日 日テレNEWS24】
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フランスの50万人、30万人というのも、日本の人口で言えば100万人、60万人のレベルです。
フランスでは、こうした規制緩和の一方で、飲食店で「ワクチンパス」が必要になるワクチン接種を実質義務化する対策も行っており、強い反発も出ています。 マスク着用義務撤廃はそうした反発を緩和する狙いもあるのかも。

****フランス、ワクチン実質義務化=不正に厳罰、各地で抗議デモ―新型コロナ****
フランスで24日、16歳以上に新型コロナウイルスワクチンの接種を実質義務化する「ワクチンパス」導入の法律が発効した。偽の接種証明書を所持するなどの不正行為には最大で禁錮3年と4万5000ユーロ(約580万円)の罰金が科される。

ただ、義務化に反対する声も根強く、発効に先立つ22日、各地で計約4万人が抗議デモを行った。
 
新たな措置では、飲食店などで提示が必要なパスについて、ワクチン接種完了か、6カ月以内に新型コロナが治癒したことの証明を義務付けた。健康上の理由で接種できない人は免除される。これまでは陰性証明だけでもパスを取得できた。【1月24日 時事】
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話が横道にそれますが、欧米におけるワクチン接種義務化反対に見られるように、他人の迷惑になろうが、嫌なものは嫌だ・・・という明確な自己主張は、先日の北京五輪女子ジャンプ「失格問題」で「謝罪」する高梨選手にみられる日本社会のメンタリティーとは全く異質です。

****高梨沙羅の謝罪、海外メディアは驚きをもって報道「他の人々が怒っているのとは…あまりにも対照的」****
(中略)高梨は9日、SNSで「日本チームのメダルのチャンスを奪ってしまった」「皆様を深く失望させる結果となってしまった」と謝罪。「誠に申し訳ありませんでした」「私の失格のせいで皆んなの人生を変えてしまったことは変わりようのない事実です」「深く反省しております」(原文まま)などとつづった。
 
この発信を、英ロイター通信は驚きをもって伝えた。「高梨沙羅が、ジャンプ混合団体で、日本のメダル獲得の望みを打ち砕いたスーツ規定違反を、多くの人々の態度とは反対に謝罪した。他の人々が物議を醸した失格に怒っているのとは、あまりにも対照的だ」(後略)【2月9日 中スポ】
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もっとも、日本社会でも「高梨選手が謝罪する必要はない」との声も出るようにはなっているようです。
ただし、高梨擁護論は高梨選手が謝罪したからであって、もし「私は悪くない」と主張していたらバッシングを受けたかも。化粧すら批判される社会ですから。

話としてはこっちの方が面白いですが、コロナに戻ります。
フランスの次はイギリス。

イギリス政府は、オミクロン株のピークは過ぎたとして、1月27日、屋内でのマスク着用義務やイベント会場でのワクチン接種証明の提示など、ほとんどの規制を撤廃しました。今月11日からはワクチン接種を完了した人の入国後の検査も不要になっています。

更に、感染者の自主隔離も一か月前倒しして、今月中に不要とするとのこと。

****イングランドの自主隔離、今月中に撤廃…感染ピーク過ぎ社会活動正常化へ****
英国のジョンソン首相は9日、ロンドンを含むイングランドで、新型コロナウイルスの患者に義務づけている最短5日間の自主隔離を今月中にも撤廃する方針を示した。英国は変異株「オミクロン株」の感染拡大がピークを過ぎたとみなし、社会活動の正常化を目指している。
 
英議会で表明した。ジョンソン氏は、「現在のデータの傾向を考慮すれば、自主隔離も含めた最後の規制を1か月早く、撤廃できると期待している」と述べた。
 
英国では1月上旬、1日の新規感染者数が20万人を超えたが、足元では5万〜6万人で推移している。既に、入国規制やマスクの着用義務など、多くの規制が撤廃・緩和されている。【2月9日 読売】
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ほぼ、インフルエンザなどと同じような扱いということでしょうか。

ジョンソン首相は、新型コロナ規制下の首相官邸でパーティーが繰り返されていた疑惑や、野党党首に対するデマに基づく批判発言などで、ヨレヨレ状態にあります。
“大手機関ユーガブが1月末に実施した世論調査によると、英国民の63%が首相の辞任を求めた”【2月10日 朝日】

そうした政治状況を抜け出すためにも、コロナ対策で国民受けがいい施策をなるべく早く取りたい・・・という思惑もあるのかも。

もちろん、前述のように基本的には「行動制限」と個人の自由をどのように考えるか、疫病による災難にどのように向き合うか・・・といった文化・死生観を反映しています。

ワクチン接種が他国に先駆けて進んだイギリスでは、昨年7月段階で一度「コロナとの共生」を打ち出していますが、そのときの自己責任を強調し、「さらに死者が出ることを受け入れなければいけない」というジョンソン首相発言にもそうした文化・死生観が明確に出ています。

****英イングランド、マスク義務など解除へ 自己責任のコロナ対策訴え*****
ボリス・ジョンソン英首相は(2021年7月)5日、イングランドで新型コロナウイルス対策として導入されているマスク着用義務やソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)などの規制の大半を今月(2021年7月)19日に解除すると発表した。政府の命令ではなく、個人の自己責任により感染を防ぐよう訴えた。
 
規制の全面解除は当初6月21日に予定されていたが、感染力の強いデルタ株の感染拡大を受け延期されていた。英国では現在までに、デルタ株が新規感染のほぼすべてを占めるまで拡大。新規感染者が急増し懸念を生んでいる一方で、大規模なワクチン接種が奏功し、入院患者や死者の急増には至っていない。
 
ジョンソン氏は「このパンデミック(世界的な大流行)は終わりには程遠い。19日までに終わることは決してない」と警告。「悲しいことながらも、新型ウイルス感染症によりさらに死者が出ることを受け入れなければいけない」と述べた。(後略)【2021年7月6日 AFP】
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岸田首相が「さらに死者が出ることを受け入れなければいけない」と言ったら、叩かれるのでしょうね・・・。

未だハイレベルの感染状況が続くアメリカでも、マスク着用義務が解除されつつあります。

*****米民主党知事州、相次ぎマスク着用義務解除****
米国で新型コロナウイルスの新規感染者の減少を受け、民主党州知事が相次いで学校などでのマスク着用義務を解除すると発表している。ウィズコロナ政策への移行を示唆するものだ。
 
米国では新型コロナ流行当初、マスク着用が政治論争の的となった。民主党知事州の多くが厳しい着用義務を課す一方、テキサスやフロリダなどの共和党知事州は着用義務化を禁止した。
 
カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は7日夜、屋内公共施設でのマスク着用義務について、ワクチン接種済みを条件に15日に解除すると発表した。一方、未接種者は引き続き屋内でのマスク着用が求められるとして、ワクチン接種を呼び掛けた。
 
ニュージャージー州のフィル・マーフィー知事も、来月7日から学校でのマスク着用義務を解除すると発表した。
コネティカット州のネッド・ラモント知事は、今月28日から学校でのマスク着用を義務解除するよう教育委員会に勧告していると述べた。
 
デラウェア州のジョン・カーニー知事は、マスク着用義務について、屋内公共施設では11日、学校では来月31日に解除すると明らかにした。 
オレゴン州のケート・ブラウン知事も、マスク着用義務を来月31日まで解除すると発表した。
 
ニューヨーク州は、新型コロナ感染対策規制の解除を公式に発表していない。しかし、米紙ニューヨーク・タイムズは関係筋の話として、キャシー・ホークル知事が屋内公共施設でのマスク着用義務を9日に解除する見通しだと伝えている。 【2月9日 AFP】
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ニューヨーク州ホークル知事も9日、今月10日から屋内でのマスク着用義務を解除すると発表しています。

一連の動きは、中間選挙対策の側面もあるようです。

****中間選挙を意識? NY州などがマスク着用義務撤廃へ 有権者の不満背景に「通常への復帰」急ぐ***
(中略)バイデン政権が全米レベルの危機は去っていないとみて安全対策の緩和に慎重な姿勢を保つ中、規制に対する有権者の不満を背景に、一部の州知事は11月8日の中間選挙へ向け「通常への復帰」を急いでいるようだ。

(中略)規制緩和が可能になった要因として、知事たちは州内での新規感染者数の減少やワクチン接種率の向上をあげている。一方で、全員が秋の中間選挙での知事選を控えており、決定の背景に「2年近く続く厳しいコロナ対策にうんざりした世論」への配慮があったと米メディアは指摘した。

他方、英統計専門サイトによると、7日時点の全米の入院者数は9万6947人。8日まで1週間の死者数は1日あたり2481人で米疾病対策センター(CDC)のワレンスキー所長は9日、「入院者も死亡者も多い」と述べ、マスク着用を推奨する指針を維持する意向を示した。【2月10日 産経】
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私が暮らす田舎町にも、ようやくPCR検査を安価(2300円)でやってくれる民間施設がJR駅構内にオープンしました。致命的に遅すぎの感もありますが、これで「ウィズコロナ」にもなんとか・・・

でも、感染ピークが過ぎて希望者が減ったら、閉店してしまうかも。まあ、社会が感染を気にしなくなって・・・ということなら、それはそれでいいのですが。
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ウクライナ問題  マクロン仏大統領との会談でプーチン大統領「これ以上緊張を高めない」との約束?

2022-02-08 23:16:47 | 欧州情勢

(ロシア大統領府は8日、プーチン大統領がフランスのマクロン大統領に、ウクライナ周辺で当面、新たな軍事行動を起こさないと約束したとする仏当局者発言は「正しくない」と否定した。7日の首脳会談、代表撮影。【2月8日 ロイター】)

【危機を声高に叫ぶアメリカ ロシア・ウクライナは慎重姿勢・・・という側面も】
“ロシアはウクライナとの国境沿いに10万人を超す軍部隊を集結させており、ウクライナ侵攻の可能性について西側諸国は懸念を強めている。ロシアは侵攻の可能性を否定しているが、安全保障上の要求が受け入れられなければ、何らかの軍事行動を取る可能性があると警告している。”【2月2日 ロイター】

ロシア・プーチン大統領はウクライナに軍事進攻するのか、しないのか・・・様々な推測がなされています。
ロシアにとって破滅的な軍事行動を起こしても何のメリットもない・・・とするものから、明日にも侵攻がありうるというものまで。中国との関係で、北京オリンピック閉幕後が危ないとする声も多くあります。

危険性を大きく取り上げている(ロシアなどからすれば「危機を煽っている」とも)のが東欧への派兵を進めるアメリカ。米国防総省の2日の発表によると、ドイツの駐留米軍から1千人をルーマニアに派遣、米本土の米軍基地から1700人をポーランド、300人をドイツにも増派するとのこと。

****ロシア全面侵攻へ兵力増強 2日でウクライナ首都制圧か 米分析****
米情報機関の分析によると、ロシアはウクライナへの大規模侵攻の準備を進めており、全面侵攻に必要な兵力の70%を既に国境地帯に配置済みだという。米当局者が明らかにした。

米当局者が最近、連邦議会や欧州同盟国に説明したところによれば、ウクライナとの国境地帯に集結したロシア軍兵士は11万人に上っている。兵力の増強が今のペースで続けば、2月半ばまでにはウラジーミル・プーチン大統領が全面侵攻を命じるのに必要な約15万人の兵力に達するとみられる。

ロシア軍が全面侵攻した場合、2日以内にウクライナの首都キエフは制圧され、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は失脚する恐れがあるという。

そうなれば、民間人2万5000〜5万人が死亡し、ウクライナ軍には5000〜2万5000人、ロシア軍に3000〜1万人の犠牲が出るだろうと米当局者は指摘。100万〜500万人の難民がポーランドなどへ流入しかねないと警告している。 【2月6日 AFP】
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****米高官、ロシア侵攻「明日かもしれない」 ウクライナ情勢****
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は6日、米ABCテレビのインタビューで、緊迫するウクライナ情勢について「ロシアのプーチン大統領がウクライナへの攻撃を命じる可能性は十分にあり得る」と述べた。時期については「早ければ明日かもしれないし、数週間後かもしれない」と語り、危機感をあらわにした。(中略)

また、ロシアと結束を深めている中国についても言及。ロシアが侵攻して、中国が支持していると見なされれば「中国も同様に何らかのコストがかかるだろう」とけん制した。(後略)【2月7日 毎日】
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まあ、誰も確証がない以上「明日かもしれない」のは事実ですが、それを敢えて口にすることは何らかの政治的意図があるとも推測され、口にすることで政治的影響を伴います、

興味深いのは、通常なら当事国がヒートアップし、関係国が落ち着かせる・・・という構図ですが、ウクライナ危機では逆になっています。

アメリカがヒートアップしているのに対し、ロシアは(実際の行動の方は相変わらず軍事進攻を疑わせるに十分なものですが)常に侵攻の可能性を否定していますが、直接の危機にさらされているウクライナも迷惑気な様子です。

****「緊張あおるのはやめよ」 ロシア、米に要求****
ウクライナ情勢が緊迫する中、米国が北大西洋条約機構軍増強のため東欧に米兵数千人を派遣すると発表したことを受けて、ロシアは3日、米国に対し、緊張をあおる動きは差し控えるよう強く求めた。
 
ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は記者会見で「われわれは米国側に対し、欧州大陸で緊張をあおらないよう常に求めている」ものの、「遺憾ながら、米国はそうし続けている」と述べた。
 
ペスコフ氏は今回の米兵派遣について「言うまでもなく、これらの措置は緊張緩和を目指したものではない。逆に緊張激化につながる動きだ」と指摘。だからこそ、ロシアがNATOの東方拡大と米兵派遣を憂慮するのは「ごく当然で、完全に正当性がある」「ロシアが自国の安全と利益を守るために講じるいかなる措置も理にかなっている」と主張した。
 
欧米諸国は、懸念されているウクライナ侵攻を抑止するため、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の側近への制裁を示唆するなど、外交努力を強化している。一方ロシア側は、侵攻の意図を強く否定している。 【2月3日 AFP】
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****ウクライナ外相「終末論的な予測信じるな」…ロシアの侵攻で「5万人死亡」報道に反論****
ウクライナのドミトロ・クレバ外相は6日、ロシアがウクライナに軍事侵攻した場合、多くの死者や難民が発生する可能性があると米紙などが報道したことを受け、「終末論的な予測を信じるな」と自身のツイッターに投稿し、冷静さを保つよう国民に呼びかけた。
 
ロシアの軍事的圧力で不安が高まる中、ウクライナ政府は、国民がパニックを起こし混乱が深まることを懸念している。クレバ氏は、「ウクライナ(政府)は、あらゆる状況に備えている」と述べ、米欧諸国から支援を受けていることも強調した。
 
米紙ニューヨーク・タイムズなどは5日、ロシアがウクライナに侵攻すれば、最大で市民5万人が死亡し、500万人が難民になる恐れがあるとの米当局の試算を報じた。【2月7日 読売】
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アメリカとしては、対ロシアの話以外に、十分な対応をとらないままロシアの軍事進攻を許したとなると国内的にその責任・指導力を問われかねないということで、状況は十分に認識し対応をとったという事実を作っておきたい・・・という思惑もあるのかも。

【首脳外交を活発化せせる独仏】
こうした状況で、独仏の首脳外交も活発化しています。自国の目と鼻の先で戦争が起こるかもしれない、その結果、制裁発動などで甚大な影響を欧州各国は受けるのですから当然でしょう。

****ロシア侵攻抑止へ首脳外交活発化 仏独、緊張緩和を模索****
ロシアによるウクライナ侵攻を抑止するため、欧米の首脳外交が活発化している。

米国はロシアがウクライナ国境周辺で戦力を増強し続けていると警告を発し、対話を重視するフランスとドイツは訪ロの直接首脳外交を展開。緊張緩和の糸口を見いだせるか「今後数日が左右する」(フランスのマクロン大統領)可能性がある。

マクロン氏は8日、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談。ウクライナ東部の紛争解決に向けドイツ、ロシア、ウクライナとの4カ国協議の進展を模索する。
 
ドイツのショルツ首相は14日にウクライナ、15日にロシアを訪問する計画だ。【2月8日 共同】
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とりわけ活発に動いているのが、メルケル後の欧州を牽引する立場にあると自任するフランス・マクロン大統領。
上記ウクライナのゼレンスキー大統領と会談に先だって、7日にはロシア・プーチン大統領と会談しています。

このマクロン大統領との会談で、プーチン大統領は核戦争の可能性について言及しています。

****仏露首脳、対話継続で一致も残る隔たり プーチン氏は核戦争に言及****
緊迫するウクライナ情勢を巡り、ロシアのプーチン大統領とフランスのマクロン大統領が7日、モスクワで会談した。緊張緩和に向けた対話の継続では一致したが、ロシアが求める北大西洋条約機構(NATO)不拡大などの主要問題では隔たりが大きく、プーチン氏はロシアとNATOの核戦争になれば「勝者はいない」と言及し、露側の要求を認めるよう迫った。
 
仏大統領府によると、5時間以上に及んだ会談では、ウクライナ国境周辺に集結するロシア軍部隊の配置▽ウクライナ東部で続く親露派武装勢力と政府軍の紛争の和平交渉▽欧州の安全保障――に関して広範な対話を始めることが合意された。
 
会談後の共同記者会見でマクロン氏は「地域の安定のために新たなメカニズムを作る必要がある」と訴え、「今後数日間が鍵を握る」との考えを示した。マクロン氏は8日にウクライナも訪問する予定で、その後再びプーチン氏と電話協議をすることでも一致した。

一方で、ロシアが求めるNATOの不拡大には「欧州の基本的な権利は制限しない」と否定的な立場を明示し、「いま緊張が一層高まっているが、これは誰の得にもならない」とロシアに緊張緩和を呼びかけた。
 
これに対し、プーチン氏は「まだ話すのは早いが、マクロン氏の提案にはさらなる共同作業の基盤となり得るものがあった」と会談内容に一定の評価を与えた。

ただ、NATOの東方拡大には「断固として反対する」と主張。「ウクライナがNATOに加盟し、(ロシアが強制編入した)クリミアを軍事力で取り戻そうとすれば、欧州諸国は自動的にロシアとの紛争に巻き込まれる。ロシアは核大国の一つだ」としたうえで、「マクロン氏もこれを望んでいないし、私も望んでいない」と述べた。
 
フランスはドイツと共にウクライナ東部紛争の和平交渉を仲介している。マクロン氏は2015年2月に結ばれながらも実現していない停戦合意の履行に向け「努力を続ける」と表明。一方でプーチン氏はウクライナのゼレンスキー政権が「合意の破棄に向かっている」と批判し、同政権に圧力をかけることを求めた。【2月8日 毎日】
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【マクロン・プーチン会談での「新たな軍事行動を起こさない」とは? 「これ以上緊張を高めない」との約束とは?】
ここから先がよくわからなくなるのですが、フランス政府当局者は、この会談でプーチン大統領がウクライナ周辺で当面、新たな軍事行動を起こさないことに同意した。またベラルーシで軍事演習を行っているロシア軍は、演習後撤退する・・・と明らかにしています。

****ロシア、新たな軍事行動起こさず プーチン氏が同意と仏当局者****
仏ロ首脳会談後にフランス政府当局者が匿名を条件に明らかにしたところによると、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ周辺で当面、新たな軍事行動を起こさないことに同意した。

ウクライナとの国境付近のベラルーシで軍事演習に参加している部隊を演習終了後に撤退させることにも同意したという。

プーチン大統領はフランスのマクロン大統領と6時間にわたって会談。プーチン氏は会談後の会見でこうした譲歩の姿勢は示していなかった。ロシアが実際にこうした確約をしたのか、ロイターは確認が取れていない。(後略)【2月8日 ロイター】
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****ロシア、軍事行動巡る仏当局者発言を否定 「緊張緩和は必要」****
ロシア大統領府は8日、プーチン大統領がフランスのマクロン大統領に、ウクライナ周辺で当面、新たな軍事行動を起こさないと約束したとする仏当局者発言は「正しくない」と否定した。(中略)

(ベラルーシで演習参加のロシア軍については)ペスコフ報道官は、具体的な日程は示さず、演習終了後に部隊はロシアの基地に戻ることになると述べた。また、部隊がベラルーシに駐留するとはだれも言ったことはないと指摘した。【2月8日 ロイター】
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“ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ周辺で当面、新たな軍事行動を起こさないことに同意した”・・・フランス側が全く根も葉もないことを明らかにすることもないので、何等かの発言はあったのでしょう。

ただ、それがこれまでの「ウクライナへの侵攻の意図はない」というロシア側主張をなぞるものに過ぎないのか、それ以上の意味合いを持つ発言だったのか・・・そこらはわかりません。

マクロン大統領は・・・

****これ以上緊張高めないと約束とマクロン氏****
フランスのマクロン大統領は8日、ウクライナ情勢を巡り、ロシアのプーチン大統領から「これ以上緊張を高めない」との約束を7日の会談で取り付けたと明らかにした。フランスのメディアが伝えた。【2月8日 共同】
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プーチン大統領がしたとされる「約束」を文字通り信用していいのかどうか・・・単なる外交的表現に過ぎないのか・・・

マクロン大統領は自身の大統領選挙を控えて、外交的「成果」を誇示したい思惑もあるでしょうから、どこまでその発言を信じていいのやら迷うところです。

【アメリカとの足並みが揃わないドイツ・ショルツ首相】
ロシアからの天然ガスパイプラインが制裁の主要項目にもあがっているドイツは、ロシアとの交渉以前に、同盟国アメリカとの足並みに調整に苦慮しています。アメリカ側には煮え切らないドイツの姿勢に苛立ちも。

****ドイツ首相、バイデン氏と足並み揃わず ロシアとのパイプライン閉鎖で****
バイデン米大統領とドイツのショルツ首相が7日、米ホワイトハウスで会談し、ウクライナ情勢での共同戦線をアピールしながらも、ロシアから天然ガスを供給するパイプライン閉鎖を巡る行き詰まりを露呈した。

バイデン氏は会談後の共同記者会見で、ロシアがウクライナに侵攻したらパイプライン「ノルドストリーム2」のプロジェクトはとん挫すると明言した。米政権高官によれば、パイプラインの閉鎖はドイツ側との重要な協議事項になっている。

一方、ショルツ氏はプロジェクトの名称にすら言及せず、侵攻があった場合にパイプラインを閉鎖するとの約束を改めて避けた。

ショルツ氏はその後CNNの番組に出演し、米国と足並みをそろえると繰り返し誓う一方で、ノルドストリーム2に対する方針を明示しなかった。

ショルツ氏は「我々はすべての措置で団結する」「我々が今日ロシアに対して示す強い答えは、ウクライナに侵攻すればとても高い代償を払うということだ」と述べた。

ノルドストリーム2はウクライナ経由ではなくバルト海の海底を通るパイプライン。ドイツはロシアへのエネルギー依存度が高く、厳しい制裁措置を科しながら冬季に石油や天然ガスの閉鎖リスクを避けるのは難しい状況となっている。

ショルツ氏は記者会見で、ノルドストリーム2停止に向けた具体的な準備に触れず、対ロシア制裁で共同歩調をとると述べるにとどめた。バイデン氏もドイツの支援なしでパイプラインを止める方法について質問に答えず、「我々はそれができると約束する」とのみ答えた。

ドイツはウクライナへの殺傷能力のある武器の供給を避け、侵攻が起きた場合の具体的な制裁案を示す様子もない。ウクライナには数千個のヘルメットを供給するのみで、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のエストニアがドイツ製榴弾(りゅうだん)砲をウクライナに輸送することも許可しなかった。米国など同盟国によるNATO東側境界の部隊強化にも参加していない。

ロシアに対する抑止策を示す上で、こうしたドイツの後ろ向きな姿勢は米当局者の一部にいらだちを募らせている。バイデン氏が先月、「小規模な侵攻」が起きた場合にNATO加盟国間で対応に意見の相違が起きる可能性に言及したのも、ドイツとの関係をほのめかしている。

一方、ある米政権高官はドイツの姿勢に対する懸念を鎮めたい姿勢を示し、NATO各国はそれぞれの持つ強みを交渉にもたらすと述べた。

米国は欧州に向けられるエネルギー供給の代替策を見つけようと急いでいる。アジアや中東、国内の供給者に当たっているが、実際に確保できたのかは不明。

一方でショルツ氏は、自党の首相経験者のロシアエネルギー産業との緊密なつながりにも直面している。シュレーダー元首相はノルドストリーム2の取締役会のメンバーで、先週にはロシアの国営ガス会社ガスプロムの役員にも指名された。

16年間政権を担ったメルケル前首相の不在も大きい。ロシアが2014年にウクライナに侵攻した際は、メルケル氏がプーチン氏と西側同盟国の間で中心的な役割を担った。だが、今回それを担うのはフランスのマクロン大統領だ。週に数回プーチン氏と会話し、バイデン氏とも6日夜にこの1週間で3回目となる電話会談を行った。7日にはモスクワを訪れ、今週後半にはウクライナの首都キエフに入る。

ショルツ氏に対しては、この緊張が高まる時期に対応が見えないと国内からも批判が上がっている。ショルツ氏は今月ロシアとウクライナを訪問する予定だが、そうした批判を振り払う狙いがあるものとみられる。【2月8日 CNN】
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ウクライナへの支援がヘルメットというのは笑えますが、まあ、台湾を巡って中国との緊張が極限状態になったときアメリカにせっつかれる日本の立場をを考えると、ドイツ・ショルツ首相の胸中も察することもできます。
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イラン核合意再建協議大詰め アメリカは今月中にも交渉の継続に見切りをつける方針

2022-02-07 23:06:04 | イラン
(イラン核合意再建に向けた協議 2021年12月撮影【1月21日 ロイター】)

【国内経済は物価上昇や高失業率など厳しい状況が続く】
欧米による経済制裁に苦しむイラン国内状況については最近ほとんど情報を目にしません。

やや古い記事になりますが、昨年11月段階のJETROによれば、GDP成長率は比較的堅調だったものの、前年同月比で50%台後半~60%を超えるような物価上昇や11%前後の高失業率 など厳しい状況が続いているようです。

****イラン経済状況*****
2020年のイランの実質GDP成長率は、米国による経済制裁や新型コロナウイルス感染症拡 大の影響を受けつつも、1.5%のプラス成長となった。一方で、国内経済は物価上昇や高失業率など厳しい状況が続いている。(中略)

■プラス成長も、インフレなど混乱が続く国内経済  
(中略)世界銀行はプラス 成長の背景について、イラン経済が過去 2 年間で既に12%も縮小していたことから、新型コロナによ る生産の損失が他国ほど顕著ではなかったとしている。

また、通貨リアルの下落により国内生産品の 競争力が高まり、製造業が非石油部門の回復を牽引し、特に第 3 ~ 4 四半期は、石油部門と非石油部 門ともに予測よりも景気回復が進んだとしている。  

為替レートは、市場レートが2020年10月18~19日に 1 ドル=31万9,000リアルとなり、 1 ドル= 4 万2,000リアルの公定レートとの乖離が約7.6倍にまで広がった。(中略)

通貨下落の結果、輸入価格の上昇などのインフレ圧力が高まり、イラン統計センターが発表した 2020年度(2020年 3 月20日~2021年 3 月20日)の消費者物価上昇率は、通年で36.4%となった。

2020 年は特に後半以降に大きく上昇し、2020年 9 月以降は40%超で推移した。2021年に入ると 6 月まで40%台後半が続き、 7 月23日~ 8 月22日も43.2%と、引き続き高い値となっている。特に2020年11月ご ろからは食品・飲料品の値上がりが激しく、前年同月比で50%台後半~60%を超える月が続いている。  

(中略) 2021年 8 月 5 日には、穏健改革派のハサン・ローハニ大統領に代わり、保守強硬派のイブラーヒー ム・ライーシー大統領が就任した。汚職撲滅や新型コロナ対策に加え、インフレの抑制と人々の生活保障を新政権の最優先事項として強調している。

新型コロナ拡大は、人との接触の多いサービス業な ど、多くの労働集約的な仕事や収入に深刻な影響を与えている。IMFは2020年の失業率を10.8%、 2021年は11.2%と推計(2021年 4 月時点)しており、経済状況の改善が喫緊の課題となっている。【2021年11月24日 JETRO】
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物価上昇や高失業率の一方で、賃金は上がらない・・・ということで、国民の不満も高まっているようです。

****教職員の抗議デモ(イラン)*****
イランでは、確か数年前に各種職能組合が抗議デモデモまたは座り込み等を行い、その中には教職員組合も含まれていたように記憶しますが、al sharq alawsat net は31日、首都テヘランの他複数都市で教職員による経済情勢に対する抗議のデモがあったと報じています。

記事によるとテヘランでは、彼等は議会の前に集まり、政府及び議会の空約束に抗議したとのことですが、その他特にイスファハン及びシラズでは多くの教員が、文部大臣の罷免を要求したとのことです。

彼らはイランのインフレ率が60%にもなるのに給料等が上がらないことに抗議している由【2月1日 「中東の窓」】
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【停滞する核合意再建協議】
こういう経済情勢にありますので、反米・保守強硬派のライシ大統領としても、核交渉において何とか制裁解除を取り付けたいという思いは強いでしょう。

トランプ前大統領が合意から離脱したアメリカとイランの間を他の参加国とEUが仲介する形で協議が行われています。

協議が決裂すれば、核開発再開の勇ましい動きとは裏腹に、国内的には制裁継続で市民生活困窮が続き、政権を揺るがす不満爆発にもなりかねません。

ただ、反米・保守強硬派としても立場というか、メンツもありますので、一方的譲歩はできません。

逆に、アメリカから譲歩を引き出し、経済回復の流れを作ることができれば、ライシ大統領はかねてより囁かれているハメネイ師の後継たる次期最高指導者への道もひらけることになります。

そんなこんなの状況で行われているイラン核協議ですが、進んでいるのか、動きがないのか・・・よくわからない状況。

よくわからないのは当事国も同様なようで、欧米側にはこれ以上の引き伸ばしには応じられない、もう決着を着けないと・・・という苛立ちもあるようです。

先月20日段階で、「このような遅々としたペースで協議を継続することはできない」「2月は間違いなく決定的な月になるだろう」との声が出ていました。

****核合意再建協議、数週間以内に「決定的」局面迎える=欧米高官****
米国および欧州の高官は20日、イラン核合意再建に向けた米イラン間接協議について、今後数週間で「決定的な」局面を迎えるとの見方を示した。

ブリンケン米国務長官はベルリンで英仏独の閣僚と会談。その後の記者会見で「われわれはまさに決定的な瞬間にいる」とした上で、緊急性は高まっており、今後数週間のうちに核合意の相互順守に戻れるかが決まるとの見解を示した。

また、ドイツのベーアボック外相は「協議は今、決定的な局面を迎えており、極めて緊急に進展が必要だ。そうでなければ核不拡散という重要な問題に十分な付加価値をもたらすような合意に達することはできない」と語った。

フランスのルドリアン外相は核合意再建協議の進展は限定的とし緊急性を強調。「部分的かつゆっくりとした進展が見られるが、イランによる核開発が急速に進む中で、このような遅々としたペースで協議を継続することはできない」と述べた。

フランスの外交筋は、進展は見られたが「協議の中心にある」最も重要なテーマはカバーされていないと指摘。「アプローチを変える必要がある。2月は間違いなく決定的な月になるだろう」とし、現在のような状況を5月まで続けるつもりはないとした。【1月21日 ロイター】
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1月28日には協議は一時中断となり、交渉参加各国がそれぞれ論点を持ち帰って検討することに。

【アメリカ側の動きもあって、交渉継続か否か、大詰め段階に】
2月4日、米国務省高官は対イラン経済制裁一部免除の「復活を決めた」と明らかにしましたが、イラン側は「不十分だ」としています。

****イラン制裁の一部免除復活=米、核合意再建へ詰め****
米国務省高官は4日、対イラン経済制裁一部免除の「復活を決めた」と明らかにした。これにより欧州や中国、ロシアの企業が、イラン国内の核燃料の搬出事業などに参加することが再び可能となる。この免除措置はトランプ前政権が2020年に更新を終了させていた。
 
国務省高官は、今回の決定について「イランにおける『核不拡散』の活動に第三者を関与させられる」と指摘。「最終局面にある核合意再建交渉で必要な技術的議論を促すことになる」と説明した。
 
一方で、核合意再建に向けて相互理解に達しつつあることを意味しないと指摘し「イランへの譲歩ではない」とも強調した。【2月5日 時事】
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****米、イラン制裁免除を復活 イラン外相「不十分」****
イランのアブドラヒアン外相は5日、イラン関連制裁の免除を復活させる米国の動きは不十分だと指摘し、2015年のイラン核合意立て直しに向けて米国は政治や経済などの分野で保証を提供すべきだと述べた。(中略)

イラン国内メディアが伝えたところによると、アブドラヒアン外相は記者団に「紙に書かれている内容は良いが、十分ではない」と指摘。

核合意立て直しに向けたウィーンでの協議における主要問題の一つは、「西側諸国から義務を果たすという保証を得ることだ」と述べた。「われわれは、政治、法律、経済の分野で保証を要求している。一定の合意は既になされている」と語った。【2月7日 ロイター】
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イラン側は「不十分」としてはいますが、一応の「動き」が出たことで、これで合意の方向に向かうのか否か、ダメなら「見切り」の声も取り沙汰されるなかで、協議は大詰めを迎えているようです。

一時中断した交渉は8日に再開される予定です。

****イランとの核協議が山場に 米国は今月中にも「見切り」か****
核合意の復活を探る米国とイランの間接協議が山場を迎える。イランが核開発の制限に合意し、交渉が妥結するのか、決裂して米国が圧力を強めるのか。米国側は、今月中にも交渉の継続に見切りをつける方針だ。
 
米国とイランの代表団はウィーンで間接協議を続けてきたが、1月末に一時帰国して今後の方針について検討を進めている。イラン外務報道官は7日の定例会見で「8日にウィーンに戻って協議を再開する予定だ」と明らかにした。協議の再開後、数週間の内に結論を出すとされる。
 
イランのアブドラヒアン外相は5日、地元メディアに「米側から具体的な保証を必ず得る」と述べた。イランでは昨年8月に保守強硬派のライシ政権が発足。11月末、5カ月ぶりに協議の場に戻ると、米国に強く譲歩を迫ってきた。
 
イランは米国に対し、トランプ前政権が科したすべての制裁を一斉解除することに加え、核合意が復活した後の経済的な利益が確保されることや、米国が合意を二度と破らない確約といった「保証」を求めてきた。
 
核合意は2016年1月、イランと米英仏独中ロが履行した。しかし、18年5月にトランプ前政権が一方的に離脱し、イランへの経済制裁を再開。イラン側は19年5月から核合意の制限を超える核開発に着手した。昨年4月には、核兵器の原料になるウランを濃縮度60%まで高めた。
 
昨年1月に就任したバイデン米大統領は核合意に復帰する意向で、4月に間接協議が始まった。米イランの間を核合意の他の参加国と欧州連合が仲介する。
 
しかし、双方の条件がかみ合わず、協議は年越しに。米政府高官は先月末、「交渉の期限は数週間しか残されていない。イランは政治的な決断が必要な時だ」と促した。合意に応じない場合には「経済、外交、その他の手段によって圧力を強めることが必要になる」と警告した。
 
協議の行方は事実上、イランの要求次第となりそうだ。テヘランの外交筋は「イランは自らに非がないと認識しており、譲歩する姿勢を見せれば、米側に貸しがつくれると考えているだろう」と話す。
 
イランは制裁の影響で物価の高騰や若年層の高失業率といった課題に直面する。核合意の復活を経済再建の足がかりにできれば、最高指導者ハメネイ師の後継者の最有力候補でもあるライシ大統領にとって大きな実績になる。【2月7日 朝日】
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ミャンマー  国内的にも、国際的にも、国軍を制止できず、犠牲者・避難民が増加

2022-02-06 23:23:34 | ミャンマー
(ミャンマー北西部サガイン地域ミンギン郡の焼き討ちされた村。地元メディアによると国軍によって105軒が破壊された。【2月6日 AFP】)

【民主派武装組織 銃などの武器を持つのは3割。そのほかは爆竹なども使って戦闘に】
2月2日ブログ“ミャンマー 景気悪化、物価高騰、大量失業 クーデターから1年 困窮する生活 「沈黙のストライキ」”で取り上げたように、クーデターから1年の節目となる2月2日には国軍支配に対する国民のせめての抵抗として「沈黙のストライキ」が試みられましたが、それすらも軍の厳しい弾圧によって十分な広がりをみせることができません。

抗議デモは国軍の容赦ない弾圧を受け、「沈黙のストライキ」も許されない・・・・となれば、国軍支配を受け入れるか、あるいは武器を手に戦うしかないということにもなり、いわゆる民主派勢力は「国民防衛隊(POF)」を結成して各地で軍事政権への抵抗を続けています。

しかし、銃すら満足にはなく、“爆竹”で戦うという状態で、戦力差は比べようもありません。

****武装勢力、武器求め… ミャンマー国軍との戦闘、泥沼化の懸念*****
国軍によるクーデターから1年が経過したミャンマーで、民主派勢力で作る国民統一政府(NUG)系の武装組織と国軍との戦闘が各地で続いている。

長期化する戦いを離脱し、国境を越えてタイ側に来る武装組織メンバーも増えているようだ。北西部ターク県の山岳地帯で出会った彼らは、みな一様に武器を求めており、専門家は戦闘が泥沼化することを強く懸念している。
 
「ロケット弾やドローンで攻撃してくる国軍に勝つには、武器が必要だ」――。ミャンマー東部カヤー州に接するタイ国境を越えてターク県に潜伏する「カレンニー国民防衛隊(KNDF)」の中枢メンバー、リオ氏(仮名)がそう力を込めた。
 
NUGは2021年5月に「国民防衛隊(PDF)」を組織し、同9月に国軍との戦闘開始を宣言した。分離・独立などを求め各地で長年、国軍と戦っていた少数民族武装勢力の中にはPDFを支援する組織もある。KNDFはそうした地域の若者らが独自に発足させた武装組織の一つだ。
 
リオ氏によると、KNDFは18歳以上の1万人を擁するが、銃などの武器を持つのは3割。そのほかは爆竹なども使って戦闘に臨んでいるという。
 
リオ氏は「我々はテロリストではなく、ミャンマー国民を守るために戦っている。戦闘が激しくなるのはやむを得ない」と話した。
 
タイのタマサート大の調査によると、ミャンマーではクーデターからの1年で、少なくとも計7686件の戦闘があった。中でも少数民族武装勢力の活動が活発な北部カチン州や南東部カイン(カレン)州、カヤー州では、とりわけ戦闘が激しさを増している。
 
カイン州の少数民族武装勢力「カレン民族同盟(KNU)」からPDFに参加し、1月にタイ側に来たダウロン氏(60)は「戦闘員として警察署に爆竹を投げ込んだが、大きな被害はなかった。国軍側に勝つために、威力のある武器を大量生産する必要がある」と訴えた。
 
仲間のドーダー氏(48)は「クーデター前まで銃を持ったことはなかった。しかし、戦いに勝つためには、エンジニアとして働いていた自分の持つ技術を提供しようと思う」と語った。
 
ミャンマー政治を研究するタマサート大のドゥヤパー・プリシャラット准教授は、戦闘の泥沼化に懸念を示す。「武器の調達では国軍が圧倒的に有利な上に、国軍側に被害が出れば出るほど、国軍は相手への攻撃を『違法行為』への防衛だとして正当化する。今後、死者はさらに増えるのではないか」とみる。
 
しかし、現時点で双方が妥協する気配はなく、ドゥヤパー氏は「停戦なくして民主化への平和的交渉は始まらないことを双方が早急に認識する必要がある」と指摘している。【2月3日 毎日】
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【残虐さが報じられる国軍支配】
“爆竹”ではどうにもなりません。
一方、この1年、国軍支配の残虐さを伝えるニュースは多々ありましたが、国際的に大きく注目されたのは、昨年クリスマスイブに起きた事件。

****セーブ・ザ・チルドレンの職員2人が死亡、ミャンマー国軍が殺害か****
国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」は28日、クーデターで国軍が権力を握ったミャンマーの東部カヤー州で、男性スタッフ2人が国軍兵士に殺害されたと発表した。複数の現地メディアは、24日に大勢の市民が国軍の攻撃で殺害されたと報じており、2人はこの攻撃に巻き込まれたとみられる。
 
セーブ・ザ・チルドレンによると、攻撃の犠牲者は女性や子どもを含む少なくとも35人で、この中に男性スタッフ2人が含まれていることを確認したという。2人は近くで人道支援活動をした後、事務所に戻る途中に攻撃に巻き込まれ、行方不明になっていた。
 
現地メディアは、国軍兵士が24日に複数の車両やバイクを燃やし、その近くで多くの遺体が見つかったと報じていた。現場では、国軍の支配に反対する現地の武装勢力や武器を持った市民が、国軍の部隊との武力衝突を続けていたが、殺害された市民は戦闘と無関係だったとみられている。SNSでは焼け焦げた車両などの写真が拡散している。
 
セーブ・ザ・チルドレンは28日付の声明で「援助関係者を含む罪のない一般市民への暴力は容認できないもので、国際人道法にも違反している」と国軍を非難した。【2021年12月29日 朝日】
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国軍兵士は、子供も含む数十人が乗ったトラックから強制的に降ろすと次々に殺害し、その場で遺体を焼き払ったとか。犠牲者は38人とも報じられています。【「選択」2月号より】

今日のニュースでは・・・

****ミャンマー北部で村焼き討ち、被害数百軒 住民は国軍を非難****
軍事クーデターへの抵抗が続くミャンマー北西部で、国軍が村を相次いで焼き討ちし数百軒に被害が出たと、村民と反クーデター勢力が非難している。
 
ミャンマーでは大規模な抗議デモが国軍の容赦ない弾圧を受けた後、市民が「国民防衛隊」 を結成して各地で軍事政権への抵抗を続けている。
 
北西部ザガイン地域のビン村から逃げてきたという女性は4日、自宅を含む民家約200軒が焼かれたと語った。村は先月31日未明に襲われ、砲撃や銃撃の音で村民は取る物も取りあえず逃げ出したという。
 
また、反クーデター派によると、近隣のインマテ村でも民家600軒が焼き払われた。これに先立ち、反クーデター派が国軍支持派の民兵を襲撃しており、国民防衛隊が村を離れてすぐに国軍が民家に火を放ったという。
 
国営テレビは3日、放火したのはPDFの戦闘員だと報じ、「テロリスト」に破壊された家屋だとする焼け跡の様子を放映した。 【翻訳編集】
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【国連「深い懸念」 実効性なし】
こうした事態に国連安保理は「深い懸念を表明」を表明していますが、それで事態が変わるものでもありません。

****ミャンマー情勢、安保理が懸念表明「人民の意思と利益に沿う解決を」****
国連安全保障理事会は2日、ミャンマー軍政が非常事態を継続している状況に深い懸念を表明し、「人民の意思と利益」に沿った事態解決に向けた協議を強く促した。

安保理は昨年2月1日のクーデターから1年となるのに合わせて採択した声明で、民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏やウィン・ミン大統領ら一方的に拘束されている人々の解放をあらためて求めた。

国連人権当局の統計によると、クーデターを受けて発生したストや抗議活動に伴い、約1500人の民間人が弾圧のため殺害され、約1万1800人が違法に拘束されている。

安保理は、全土における暴力の全面停止と民間人保護を要求。声明は「安保理各国は(ミャンマーにおける)最近の新たな暴力に深い懸念を表明するとともに、大量の国内避難民の発生に強い懸念を示している。また、医療・教育施設を含むインフラへの攻撃を非難している」とした。

さらに、「ミャンマー人民の意思と利益に合致する形で、全関係勢力を含む対話の継続と和解」を求めるとあらためて訴えた。【2月3日 ロイター】
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【ASEAN  統一的対応困難】
ASEAN内にはミャンマー対応で温度差があること、議長国カンボジアのフン・セン首相が“スタンドプレー”的にミャンマー国軍と接近していることは2月2日ブログで取り上げたところです。この国軍支配を認めるような行動への反発で外相会談が延期になっていましたが、国軍代表者ではなく「非政治的な代表」を派遣するようにミャンマーに要請する形での開催が決まったようです。

****ミャンマー国軍の代表は招かず ASEAN外相会議****
東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国を務めるカンボジアは、16~17日にプノンペンで開くASEAN外相会議に、クーデターを起こしたミャンマー国軍が任命した外相を招かないことを決めた。ミャンマー国軍に融和的なカンボジアの姿勢に一部の加盟国が反発したため、会議の開催を優先して方針を変えた。
 
カンボジア外務省のチュン・ソンナリ報道官が3日、明らかにした。ミャンマー国軍が昨年4月にASEANと合意した「暴力の停止」「特使の受け入れ」などの5項目についてほとんど進展がなく、ミャンマー国軍が外相に任命したワナマウンルウィン氏を招くことについて「加盟国間で同意が得られなかった」と説明した。
 
ミャンマー側には官僚などを想定した「非政治的な代表」を派遣するように要請したという。
 
ASEAN外相会議は年間の議論の方向性を決める年初の重要な会議。当初は1月18、19日にカンボジアのシエムレアプで予定されており、フン・セン首相はワナマウンルウィン氏を招く姿勢を示していた。しかし、インドネシアやシンガポールなどが反発し、会議は直前になって延期されていた。【2月3日 朝日】
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ただ、内部に温度差があるASEANがミャンマーに対して何らかの譲歩を迫るようなことはできないでしょう。

【欧米の制裁も、日本の「静かな外交」も成果なし】
欧米はミャンマーに対して制裁を課していますが、これもこれまでのところ市民生活を苦しくするだけで「成果」を示すことができずにいます。

「ミャンマーと太い独自のパイプを持つ」という日本は欧米とは一線を画し「静かな外交」を展開していますが、これもまた成果を出していません。

【国軍は中国とも距離感】
日本が警戒するのは欧米や日本が厳しく対応すれば、その分中国の存在感が増す・・・ということですが、その中国と国軍の関係も、それほど良好なものでもないようです。伝統的にミャンマー軍部には中国への警戒感があります。

****中国ですら手懐けられず。国民を虐殺するミャンマー司令官の正体****
フライン総司令官率いるミャンマー国軍がクーデターで政権を掌握してから2月1日で1年となりましたが、「恐怖政治」の終わりは見えないようです。今回(中略)元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、何がこのような状況を招いたかを分析・解説。(中略)

欧米諸国が早々とミャンマーを去った後、プレゼンスを一気に高めたのが中国とロシアで、中国による経済支援、ロシアによる軍事支援が提供されることに合意されたようですが、その両国に対してさえ、フライン総司令官は気を許さず、距離を保っていると言われています。

中国としては“隣国”として、一帯一路の要所とも言えるミャンマーを確実に影響下に置きたいと考えており、他のアジア諸国に比べると中国に対するアレルギーが少ないとされているミャンマーを国家資本主義陣営に引き入れたいと考えているようです。

そして、安全保障上ではミャンマーは中国とインドに挟まれる形で存在することもあり、対インドの防波堤的な役割も期待されているようです。

国際社会から孤立している中、中国から手を差し伸べられている状況は助かるはずですが、いろいろな情報をまとめると、どうもフライン総司令官は中国にも接近することはしないようです。

なぜでしょうか?

一つの理由として考えられるのは、「中国に対する警戒心を解かないこと」があるようですが、同じ国軍出身で、予想に反して民主化への移管をスムーズに進め、かつミャンマーに経済成長の基盤をもたらしたティン・セイン政権の“成功”のイメージに自らを重ねたいとの思いもあるようです。

ティン・セイン政権が成功した理由は、欧米諸国からの投資を積極的に受け入れると同時に、中国ともよい関係を保ち、2010年に軟禁が説かれたアウン・サン・スー・チー女史を政権に取り込むことで、欧米諸国にラスト・フロンティアという幻想を強調できたことと考えられます。

この考えは、実は2月1日に行われたミャンマー情勢に関する会合で、かつてビルマ出身で国連事務総長を務めたウ・タント氏のお孫さんが表明したものなのですが、この見解に照らし合わせてみると、フライン総司令官が行っている様々な方式は悉くティン・セイン政権のケースと逆方向に進行させていることが分かります。

一応、来年の8月までに民主的な総選挙を行うと約束し、自らの政権を暫定政権と位置付けるのですが、ティン・セイン政権時との大きな違いは、“民主主義のシンボル”に位置付けられるリーダーが存在せず、逆に再度軟禁状態に置かれているという状況です。

アウン・サン・スー・チー女史も、残念ながら10年にわたり国民の期待のみならず、国際社会からの期待にもこたえられなかったと言えます。外務大臣兼国家顧問の立場にありながら、国軍によるロヒンギャへの残虐行為に対して何一つできなかったことは、「しかたなかった」とする意見もありますが、大きな失望を生み出したと思われます。

その結果がどうかは断言できませんが、スー・チー女史の窮状と民主主義の衰退、そして国軍による強権などに対して、民主主義サミットまで開催した国々は実質的には何も効果的な策を打っていません。

「民主主義は失敗した」との批判に耐えられないアメリカの国内事情、「人権擁護を訴えつつ、対応にばらつきが目立つ欧州各国」という事情もありますが、今、争うべきは中国との最前線、つまり台湾と南シナ海という位置づけが、ミャンマーへの対応の遅れと物足りなさを生んでいるのだと感じます。

実際には中国とインドに挟まれた、アジア地域における地政学的な要所にあるにもかかわらず。

そしてそれは、アジアシフトを打ち出している割には、中国以外のアジアにはさほど関心がないのではないかとの疑問につながります。

それは、かつて私が国連にいた際に仲良くなったビルマ人コミュニティの皆さんも感じているようで、ビルマ(ミャンマー)問題を話し合う際のUNにおける各国の煮え切らない雰囲気に強いフラストレーションを感じているようです。

個人的にはどこか北朝鮮問題に似ているような気もしています。

大きな違いは核問題が絡まないことですが、非難はしても行動を取ってこないという現在の状況を嘲笑うかのように、フライン総司令官と国軍は、この1年間で少なくとも2,500件の武力衝突を引き起こし、数えきれないほどの蛮行と虐殺が国軍と警察という治安勢力によって行われています。

クーデター直後は、少数民族と接近することでNLDとの切り離しを行おうとしたフライン総司令官ですが、それがうまくいかないことを悟ると、態度を180度転換して、少数民族への攻撃を徹底し、その攻撃が残虐さを増すことで、「反抗する者は殺害する」とのメッセージを打ち出す強権政治の体裁を示すようになってきました。

これには内政不干渉を掲げるASEANも、隣国中国も大きな懸念を示しているのですが、それぞれに国内での人権問題や少数民族問題を抱える立場であることもあり、フライン総司令官に対する効果的な行動の抑止力にはなっていません。

その証拠に、9月以降の半年で、一気に虐殺や蛮行が報告される案件が急増しており、弾圧の糾弾に対しても、その存在を否定しないという国軍側の姿勢は、完全に国際社会からの離脱を厭わない意思が見えます。

口先だけの介入と非難を続ける欧米諸国
人権擁護や民間人の安全の確保という大原則を掲げつつも、空洞化する国連。

寄り添っているように見せかけつつも、実際には自国経済を豊かにするための“財布”としか取られていない中国。

国際社会からの総スカンを食らう中、武器供与と外交的なサポートで支持を確保し、アジアに勢力の飛び地を確保しようとするロシア。

そして、自国周辺のことについては何としても自分たちで解決したいASEANと、内部で綱引きが過熱する状況。

そして、欧米諸国に続いて、フライン総司令官と国軍による弾圧に避難と懸念を示しつつも、企業の撤退を命じない日本。

そして、誰もdecisiveな行動を取れないことが分かっているフライン総司令官と国軍。

そして“だれも本気で助けに来てくれないことを悟った”ミャンマー・ビルマ国民。(後略)【2月5日 MAG2 NEWS】
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“爆竹”で戦うしかない国内民主派勢力も、国連も、ASEANも、欧米も、日本も、そして中国もミャンマー国軍を動かすことができず、犠牲者と避難民が増え続ける・・・というのが現状です。
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トルコ・エルドアン大統領  記録的高インフレも低金利政策維持 アルメニア・ウクライナで積極外交

2022-02-05 23:18:55 | 中東情勢
(【2月3日 日経】 リラ相場が昨年末に激しく上下しているのは、昨年12月にリラ建て定期預金の価値を外貨換算で保証する仕組みを導入した関係。 いったん大きく改善したレートはすぐに元へ戻し、その後は横這いのようです。政権側は「リラ安の歯止めにつながった」と評価しています。)

【イスラム的価値観重視を強めるエルドアン大統領】
トルコ・エルドアン大統領が野党勢力からは強権政治とも批判される“強烈な”指導力で、批判勢力を力で封じ込め、かつての世俗主義国家トルコをイスラム主義の方向に向かわせていることはこれまでも再三取り上げてきました。

****トルコのエルドアン大統領、「有害」なコンテンツを扱うメディアには報復すると脅す****
エルドアン大統領は、高金利がインフレの原因になると、従来の経済学の考え方とは正反対のことを主張

アンカラ:土曜日、トルコのエルドアン大統領は国内メディアに対し、国の基本的価値観を損なうコンテンツを発信した場合は報復すると脅した。これは、報道分野におけるさらなる検閲の前兆かもしれない。

官報に掲載された通知の中でエルドアン大統領は、トルコの「国民文化」を保護し、「文字、音声、映像のあらゆるメディアにおける有害なコンテンツにさらされた結果、子供たちの成長に悪影響が及ぶこと」を防ぐための措置が必要だと述べた。

大統領は、そのようなコンテンツが何であるかは明らかにしていないが、「国家的・道徳的価値を損ない、家族や社会構造を崩壊させることを目的とした、メディアを通じた公然または隠然とした活動」に対しては、法的措置が取られると述べた。

エルドアン大統領は20年近く政権を維持しており、自身が率いる公正発展党(AKP)が信奉するイスラムの価値観から外れたメディアコンテンツをしばしば批判してきた。

トルコでは近年、メディアに対する監視体制を強化しており、主要メディアの約90%が国または政府に近い組織によって所有されている。

欧米の同盟国や批評家たちは、エルドアン氏が2016年に起こったクーデター未遂事件を利用して反対意見を封じ込め、社会的権利や寛容さを侵食していると指摘している。

政府はこの指摘を否定し、今回の措置はトルコが直面する深刻な脅威に対処するために必要であり、かつて強い世俗主義体制を保っていたこの共和国で、宗教的表現の自由が回復したと述べている。

メディア規制監督機関の「ラジオ・テレビ高等機構(RTUK)」は、すべてのオンラインコンテンツを包括的に監視し、削除する権限を持っている。

RTUKは、トルコの価値観に反すると判断した「性的」とされるミュージックビデオや、大統領を侮辱していると判断したコンテンツについて、テレビ局に罰金を科している。

後者に関する法律では、何万人もの人々が起訴されている。その中には、先週、エルドアン大統領の宮殿に関する風刺を彼女自身のTwitterアカウントに投稿し、それを野党のテレビチャンネルでも言及したことで、裁判を待つ状態で投獄されている有名ジャーナリスト、セデフ・カバス氏も含まれている。(後略)【1月30日 ARAB NEWS】
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【相変わらずの低金利政策固執 20年ぶりの高インフレ】
イスラム的な価値観を重視する保守層からは強い支持を得てきたエルドアン大統領の政権基盤を揺るがしているのが、通貨リラの下落、止まらないインフレによる市民生活の困窮です。

保守的・イスラム重視の施策は、こうした支持層の生活困窮をなだめ、離反を食い止めるためにも政治的に必要とされているのでしょう。

この経済的苦境にあって、エルドアン大統領は通常の経済学の教科書が教える施策とは真逆の金利引き下げに固執しています。


エルドアン大統領の主張は、利下げ・リラ安によって国内生産は拡大し、輸出・観光客が増加して、結果経済は好転する・・・というもののようですが・・・。高金利へのイスラム的拒否感もあるようです。
 
****トルコ大統領、金利引き下げでインフレ低下すると持論展開****
トルコのエルドアン大統領は29日、金利は一段と引き下げられ、それによってインフレ率も低下するという独自の経済理論を再び説き、高インフレに見舞われているトルコ経済は苦境を乗り切るとの考えを示した。

中央銀行の大幅利下げに伴う通貨リラの急落を背景に、昨年12月のインフレ率は36%と、エルドアン政権下の19年間で最高の水準に達した。

最新のロイター調査では、2月3日に公表される1月のインフレ率は47%と、約20年ぶりの高水準を記録すると予想されている。

エルドアン氏は支持者らに対し、「私の金利との闘いは知っての通りだ。われわれは今後も金利を引き下げる。インフレ率もそれによって低下する」と発言。「為替レートは安定し、インフレ率は低下、物価も下落するだろう」と語った。【1月31日 ロイター】
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上記記事にある予測どおり、1月のインフレ率は前年比48.69%上昇で、2002年以来約20年ぶりの大幅な上昇となりました。

****トルコCPI、1月は前年比+48.7% 20年ぶり上昇率****
トルコ統計局が3日発表した1月の消費者物価指数(CPI)は前年比48.69%上昇で、2002年以来約20年ぶりの大幅な上昇となった。一連の利下げと昨年末のリラ急落が影響し、予想以上の伸びとなった。(中略)

リラは昨年44%下落した。通貨急落などを理由にトルコは今年、ガスや電気料金、道路通行料、バス料金などの管理価格を引き上げた。
1月は輸送費が前年比68.9%、食品・飲料は55.6%上昇した。

指標発表後リラは対ドルで下落し、前日終値比約0.4%安の1ドル=13.5420リラとなった。

スイスクオートのシニアアナリスト、Ipek Ozkardeskaya氏は「政策金利は14%で、インフレ率は48%だ。政府は為替差損を補填するとしている。長期的に見て良い組み合わせとは言えない」と指摘。
「実施すべき対策と実際の対策の間に深刻な乖離(かいり)がある。現時点ではリラ相場が統計に反応していないことに驚いている」と述べた。

一部のアナリストは、第1・四半期のインフレ率が前年比50%を超え、年内の多くの期間で40%を上回った後、年末に鈍化すると予想している。【2月3日 ロイター】
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【政権の意に沿わない者の首切りを厭わない大統領】
こうした数字を発表するのは統計局ですが、そのトップが発表直前に辞任を迫られています。

****トルコ大統領、新法相を指名 統計局トップも交代****
トルコの官報によると、エルドアン大統領は、辞任したギュル法相の後任に、2度の法相経験のあるベキル・ボズダー氏を再び指名した。また、統計局のトップも交代した。

ボズダー氏はエルドアン氏の率いる与党・公正発展党(AKP)のメンバーで、2013─15年と15─17年に法相を務めた。ギュル法相の辞任理由は明らかにされていない。

統計局のトップだったディンサー氏は任命から1年足らずで交代することになった。後任は銀行監督当局の副責任者を務めていたエルハン・チェティンカヤ氏。

最新のロイター調査では、2月3日に公表される1月のインフレ率は47%と、約20年ぶりの高水準を記録すると予想されている。

野党などからは統計局が政治的理由からインフレなどの公式データを改ざんしているとの批判が出ているが、統計局はこれを否定している。【1月31日 ロイター】
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上記記事にもあるように、野党などからは“統計局が政治的理由からインフレなどの公式データを改ざんしているとの批判が出ている”とのことですが、同時に政権側からも政権にとって不利な数字を公表しているとして強いプレッシャーがかけられているとかで、インフレ率の数字が政治的に極めて敏感なものになるなかで両サイドからの批判・圧力にはさまれて“覚悟”の発表・辞任だったようです。

エルドアン大統領は、同氏の低金利政策に従わない中央銀行総裁の首を何回もすげ替えていますが、今回人事もそうした人事のひとつのようです。

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土曜日に発表された政令によると、昨年のインフレ率が36.1%19年ぶりの高水準に達したというデータが発表された後、エルドアン大統領は国家統計機関のトップを解任した。

このサイト・エアダル・ディンサー氏の解任劇は、2019年7月以降、3人の中央銀行金融政策委員会メンバーを解任しているエルドアン氏による一連の経済的解雇の最新例にすぎない。

エルドアン大統領は、同氏がインフレの原因になると考える高金利を猛烈に非難しているが、これは従来の経済思想とは正反対のものだ。

ディンサー氏が発表した2021年のインフレ率の数字は、親政府派と野党派の両方を怒らせた。

野党側は、この数字は過小に報告されているとし、実際の生活費の上昇は少なくとも2倍以上であると主張した。

一方、エルドアン大統領は、トルコ経済の不振を誇張していると思われるデータを発表したとして、統計局を私的に批判したと報じられている。そしてディンサー氏は、自分の運命を感じていたように思われる。

彼は今月初め、経済紙「ドゥニャ」のインタビューで、「私は今このオフィスに座っていますが、明日には別の人が座っているでしょう」と語った。

「誰がトップであろうと関係ありません。何百人もの私の同僚が、自分たちが導き出した数字とは全く異なるインフレ率が発表されることに我慢したり、黙っていたりすることができると想像できるでしょうか」「私には、8,400万人の人々に対する責任があるのです」と彼は語った。

エルドアン大統領は、トルコの銀行規制機関の副会長を務めたエルハン・チェティンカヤ氏を新たに国家統計局長に任命したことについては説明しなかった。(中略)

統計局は2月3日に1月のインフレ率を発表する予定である。12月には、野党党首のケマル・クルチダルオール氏がアンカラの統計局本部に入ろうとしたところ、ディンサー氏との面会を拒否され、警備員に追い返されている。

同氏は、統計局が政府の政策の影響を隠すために数字を「捏造」していると非難し、エルドアン氏の大統領官邸になぞらえて「もはや国家機関ではなく宮殿機関だ」と非難した。

また、エルドアン大統領は土曜日に、新しい司法大臣として、与党のベテラン議員アブドゥルハミト・グル氏に変わり、ベキル・ボズダグ前副首相を任命した。

グル氏はツイッターに、「2017年7月19日から務めてきた法務省の職務を辞任しました」と投稿した。
「私の要請を受け入れてくれたことに……感謝の意を表したいと思います」と付け加え、自分の決断については説明していない。

与党である公正発展党を離党し、民主主義進歩党(DEVA)を設立した元副首相のアリ・ババジャン氏は、ツイッターでこの交代劇に対する怒りを露わにした。

「司法大臣は交代し、統計局TUIKの会長はインフレ率のデータが発表される前に解任された。理由は誰にもわからない」【前出 1月31日 ロイター「トルコのエルドアン大統領、「有害」なコンテンツを扱うメディアには報復すると脅す」】
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【目立つ積極外交 アルメニアとの関係正常化にむけた動き】
国内的には通貨安・インフレという難題に政権基盤を揺さぶられているエルドアン大統領ですが、外交面では積極的な姿勢が目立ちます。

シリア・リビアへの介入、対イスラエル政策などエルドアン大統領の積極外交はかねてよりのものですが、内政面で危機的状況にある権力者は外交での成果を求めるという古今東西の“常識”に沿ったものでもあるでしょう。

その積極外交のひとつが、第1次大戦中のアルメニア人虐殺という歴史問題、また近年ではアルメニア対アゼルバイジャンの紛争によって長年の対立関係にあったアルメニアとの関係修復。

****国交樹立へ一歩、トルコとアルメニアが協議 歴史認識では対立根深く*****
約30年にわたって事実上の断交状態にあるトルコとアルメニアの代表が14日、モスクワで関係正常化に向けて協議した。両国外務省は「建設的だった」と評価し、国交の樹立に向けて対話を継続する意向を表明した。ただ、歴史認識などをめぐる対立は依然根深い。
 
協議は、ロシアが仲介した。トルコ側は前駐米大使のクルチ特使、アルメニア側はルビニャン副議会議長が代表として出席し、約1時間半続いた。終了後、両国の外務省はそれぞれ、「前向きで建設的な雰囲気で、完全な関係正常化に向けて前提条件なしで協議を続けることで合意した」とする声明を出した。
 
ロシア外務省は、「地域の安定や経済発展のための接点の探求を続けることで合意した」と評価した。欧州連合(EU)も同日の声明で、協議を歓迎した。
 
トルコは1991年、ソ連崩壊で独立したアルメニアを国家承認した。だが、トルコが「兄弟国」と見なすアゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフ地域をアルメニアが実効支配したことに反発し、93年に国境を閉鎖した。
 
また、トルコとアルメニアの間には、歴史認識をめぐる国際社会を巻き込んだ深い対立がある。トルコの前身であるオスマン帝国では、第1次世界大戦中の15年から150万人のアルメニア人が殺害されたといわれる。だが、トルコ側は死者数は過大で、一部のアルメニア人が当時の交戦国ロシアの配下で戦闘に加わったことなどが原因だと主張し、「ジェノサイド(集団殺害)」を否定する。
 
両国は2009年にも国交樹立協定を結んだが、歴史認識の溝を埋められず、アゼルバイジャンの反対もあって頓挫した。今回の関係正常化の機運は、20年のナゴルノ・カラバフ紛争後、地域安定化を目指すロシアの仲介でアルメニアとアゼルバイジャンの和平協議が進むなかで生まれた。
 
アルメニアは、トルコとの関係正常化で貿易などを活性化させ、苦しい経済の立て直しにつなげる期待がある。一方のトルコは、歴史認識をめぐって昨年4月にバイデン米大統領が「ジェノサイド」と認定するなど、この問題が米トルコ関係の支障の一つとなってきただけに、今回の動きを通じて米国との関係も改善したい思惑がある。また、ナゴルノ・カラバフをめぐる紛争後の地域での影響力を固める狙いもあるとみられる。
 
ただ、一昨年のナゴルノ・カラバフ紛争で事実上敗れたアルメニアの国内では、アゼルバイジャンを全面的に支援したトルコに対する激しい怒りがある。今後の国交正常化の協議がアルメニア国内で理解を得られるかは不透明だ。【1月15日 朝日】
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【ウクライナ問題仲介にも意欲 ロシアの反応は不明】
もうひとつは、目下の国際関係の最大懸念事案であるウクライナ問題の仲介。

****トルコ、ウクライナ仲介に意欲 露は不信感も****
ロシアによる軍事侵攻が懸念されるウクライナのゼレンスキー大統領は3日、首都キエフでトルコのエルドアン大統領と会談した。エルドアン氏は「緊張緩和のためにあらゆる努力を惜しまない」と述べてウクライナとロシアの間を仲介する意向を示し、ゼレンスキー氏は「申し出に感謝したい」と応じた。タス通信などが伝えた。

エルドアン氏はゼレンスキー氏とプーチン露大統領をトルコに招いて3首脳による会談を開きたいとの意向も表明したが、ウクライナ寄りの姿勢を示すエルドアン氏にロシアは不信感を抱いており、仲介が奏功するかは不透明だ。

ゼレンスキー氏とエルドアン氏は会談で、トルコ製の高性能攻撃ドローン(無人機)「バイラクタルTB2」の生産拠点をウクライナに建設し、同国への無人機供給を拡大することで合意した。ウクライナは昨年10月下旬、同国東部を実効支配する親露派武装勢力への攻撃にこの無人機を初めて使用し、ロシアは「停戦合意違反であり挑発だ」と反発した経緯がある。

また、エルドアン氏は訪問に際し、「クリミアを含むウクライナの主権と領土保全を支持し続ける」と改めて言明した。

2014年にロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ領クリミア半島には、トルコと民族的に近い先住少数民族クリミア・タタール人がおり、エルドアン政権が連帯を表明してきたこともロシアをいらだたせている。

トルコは近年、民族上のつながりを軸に南カフカスや中央アジアの旧ソ連諸国への影響力浸透を図っている。アゼルバイジャン領ナゴルノカラバフで20年に起きた同国とアルメニアとの軍事衝突でも、言語などの面でトルコとの関係が深いアゼルバイジャンに無人機などを供与して支援した。

一方、トルコとロシアは友好と対立が入り交じる複雑な関係にある。エルドアン政権は対米関係のきしみを受けてロシアから地対空ミサイルS400を購入したほか、トルコではロシア企業の原発建設も進む。半面、両国はシリアやリビアの内戦で互いに敵対する勢力を軍事支援した。

露大統領府は、プーチン氏がエルドアン氏との会談のために2月のトルコ訪問を検討中だと明らかにしている。ただ、トルコは今回の首脳会談でウクライナと自由貿易協定(FTA)を結ぶことでも合意するなど関係を強化する方針を示しており、エルドアン氏が計画する3者会談をロシアが受諾するかは見通せない。【2月4日 産経】
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上記記事にもあるようにトルコのウクライナへのドローン供与が現在の一触即発状態の原因の一つにもなっているだけに、そのトルコが仲介を買って出るというのは、意外と言うか、「ようやるよ」といった感も。

それにしてもトルコとロシアは長年露土戦争を戦ったオスマントルコ・帝政ロシア時代からの宿敵ですが、、これも上記記事にあるように昨今の関係は協力関係と敵対関係が入り混じる複雑なものになっています。
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西アフリカ  1年半に3か国でクーデター

2022-02-04 23:38:20 | アフリカ
(ブルキナファソの首都ワガドゥグで、反乱を主導したポールアンリ・サンダオゴ・ダミバ中佐の写真を掲げ、軍への支持を表明する人(2022年1月25日撮影)【1月26日 AFP】)

【西アフリカ イスラム過激派とクーデターのイメージ】
“西アフリカ”に関するニュースと言えば、イスラム過激派の勢力拡大かクーデターなどの政治混乱・・・・といったイメージです。

両者は表裏一体で、政情が不安定なのでイスラム過激派に狙われることにもなりますし、政治の恩恵を受けられ人々の存在が過激派の温床ともなります。また、そうした過激派などの暴力が蔓延することで政権が揺らぎ政治混乱が拡大するという面も。

その西アフリカでイメージどおりの政治混乱が続いています。

【マリ 文民大統領を拘束して軍事政権へ フランスとの関係悪化】
****2度のクーデターに軍政批判 混乱のマリ情勢 過激派伸長の懸念も****
西アフリカ・マリの政情が混乱している。2020年8月と21年5月に2度のクーデターが起き、相次いで大統領が辞任に追い込まれた。暫定政権は来年の総選挙実施と民政復帰を掲げるが、混乱に乗じてイスラム過激派が勢力を伸ばす懸念も高まっている。
 
2度のクーデターを首謀したのは国軍大佐のゴイタ氏(38)で、まず20年8月にケイタ大統領(当時)の身柄を拘束して退任させた。政治腐敗や選挙での不正疑惑で国民の不満が高まっていたことが背景にあり、クーデターは国民の間でも一定の支持を集めた。
 
ただ、国際社会から「民主主義に反する」と批判が続出したこともあり、文民と軍出身者が共同で暫定政権を担うことにした。ゴイタ氏は副大統領に就任した。
 
ところが、ゴイタ氏が率いる軍は21年5月24日、暫定政権のヌダウ大統領とウアンヌ首相の身柄を拘束して追放する2度目のクーデターを実行した。暫定政権内で軍と文民出身者の間にあつれきが生じ、直前に発表された内閣改造人事で軍出身の閣僚2人がポストから外されたことが引き金になったとみられる。
 
今回はゴイタ氏自身が暫定政権の大統領に就いた。ロイター通信によると、6月7日の就任式でゴイタ氏は「民政復帰のプロセスを、人々が望む方向に戻す機会が与えられた」と正当性を主張し、来年2月の大統領選と総選挙の実施を約束した。
 
これに対し、国際社会はゴイタ氏らへの批判を強めている。米国は5月、2度目のクーデターを「強く非難する」との声明を発表。アフリカ連合(AU)や、周辺15カ国で作る「西アフリカ諸国経済共同体」(ECOWAS)は、マリの加盟資格を停止する処分とした。
 
ただ、ECOWASなどはマリ政府との決定的な関係悪化を避けたい意向で、経済制裁には及び腰だ。ゴイタ氏は首相に野党指導者のマイガ氏を指名し「軍事政権」との批判をかわそうとしている。
 
一方、マリではイスラム過激派の活動が活発で、13年には過激派が首都バマコに迫り、旧宗主国のフランスが軍事介入した。
 
過激派は一時弱体化したものの、隣国のブルキナファソやニジェールとの国境付近に移って勢力を保っている。NGO「武力紛争位置事件データプロジェクト」は、対テロ作戦でマリ軍の能力が十分でない上、政治の混乱で仏軍との協力にも悪影響が出ていると指摘する。
 
さらに、フランスのマクロン大統領は6月10日、マリを含む西アフリカに駐留させている5000人規模の軍隊を撤収させる方針を表明した。派遣に伴う費用や犠牲者の増加が重荷となっているためだが、今後、マリの治安悪化に拍車がかかる恐れもある。【2021年6月22日 毎日】
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フランスの関与縮小の空白を生めるようにロシアの民間軍事会社がマリなど西アフリカ地域で活動を活発化差せているという件は、2021年12月28日ブログ“西アフリカ・マリでの欧米の関与縮小の空白を埋めるロシアの民間軍事会社傭兵”でも取り上げました。

マリ軍事政権と旧宗主国フランスの関係は悪化しているようです。

****仏大使を国外追放=軍政、敵対姿勢強める―マリ****
政情不安が続いているアフリカ西部マリの軍事政権は31日、国営テレビを通じ、フランス大使を国外追放すると発表した。72時間以内の国外退去を求めている。

マリ軍政は、仏政府からの最近の「敵対的」発言が追放の理由だと説明、フランスへの敵対姿勢を強めている。AFP通信が報じた。
 
マリ軍政は24日、フランスが主導するマリでの欧州特殊部隊に参加していたデンマーク軍に帰国を要求。これに対し、パルリ仏国防相は「挑発している」とマリを非難。ルドリアン外相も「無責任」だと批判していた。【2月1日 時事】 
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【ギニア 3選を目指した大統領 国民不満を背景に軍のクーデター】
昨年9月にはギニアでクーデターが起きました。

****西アフリカのギニア、軍の特殊部隊が大統領拘束 憲法停止を宣言****
西アフリカのギニアで5日朝、首都コナクリにある大統領官邸付近で銃撃が発生し、数時間後に同国軍の特殊部隊がコンデ大統領を拘束した。同部隊の幹部は大統領を解任し、政府を解散、憲法を停止したと宣言した。

特殊部隊を率いる元フランス外国人部隊兵士のママディー・ドゥムブヤ氏は国営テレビで「貧困と腐敗のまん延」がコンデ氏解任の原動力になったと表明。「われわれは政府と各機関を解散した」とし、「われわれは協力して憲法を改正する」と述べた。

銃撃の数時間後にソーシャルメディアに投稿された動画では、コンデ氏が室内で軍の特殊部隊に囲まれている姿が映されている。ロイターは動画が本物かどうかを確認できていない。

軍関係筋によると、特殊部隊はコンデ氏以外にも政府高官を含む複数人を拘束した。

コンデ氏を拘束した特殊部隊の兵士組織は、コンデ氏に危害は加えておらず、健康を保証しているとの立場を示した。また、軍司令官らが地方政府の首長の座を掌握したと表明した。

声明で、解任された閣僚や各機関のトップを議会で6日午前に開かれる会議に招待したとし、特殊部隊の兵士組織を「国家集結・発展委員会(CNRD)」と自称して「会議への出席を怠ればCNRDへの反逆と見なす」と強調した。

コンデ氏は2期を経て、再出馬が可能になるよう改憲し、昨年10月の選挙で3選。野党は激しい抗議を繰り広げた。

政府はここ数週間に大幅増税や燃料費の引き上げを決めており、市民の間に不満が広がっていた。

5日夜時点で、ドゥムブヤ氏が全権を掌握したかどうかは不明。国防省は大統領官邸への攻撃は撃退したと発表している。

グテレス国連事務総長は「武力によるいかなる政府転覆」も強く非難すると表明し、コンデ氏の即座の解放を求めた。

西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)のトップは、クーデターだと批判。アフリカ連合(AU)は緊急会合を開いて「適切な措置」を講じる考えを明らかにした。【9月6日 ロイター】
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クーデターを首謀したママディ・ドゥンブヤ大佐は10月1日、軍事政権の暫定大統領に就任しています。

紛らわしいですが、ギニアの隣国がギニアビサウ。ギニアが旧フランス植民地であったのに対し、ギニアビサウは旧ポルトガル植民地。そのギニア・ビサウでも混乱が。

****ギニアビサウ、首都で銃撃戦 クーデター未遂か****
西アフリカ・ギニアビサウの首都ビサウにある政府施設付近で1日、激しい銃撃戦があった。後にエンバロ大統領がビデオ演説し、事態の収拾を宣言。ロイター通信などはクーデター未遂と伝えた。エンバロ氏は、自身の殺害を狙った「麻薬密売に関連した」人物らによる攻撃と説明し、軍部の関与を否定した。
 
当時この施設では閣僚らの会議が開かれていた。エンバロ氏は、戦闘で多数の治安部隊員が死亡したと明かし、複数人の拘束も発表した。拘束された人物らの素性は不明。
 
西アフリカでは1月下旬、ブルキナファソで軍がクーデターを起こし、大統領の追放と憲法の停止を宣言したばかり。【2月2日 共同】
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続報を目にしていないのでよくわかりませんが、クーデターは未遂に終わったようです。

もっとも、ギニアビサウは“独立後、1990年代以降は内戦(英語版)が勃発し、軍の反乱やクーデターが頻発するなど不安定な政治が続き、経済的にも依然として世界最貧国の一つとなっている”【ウィキペディア】という国ですから、混乱は日常茶飯事とも言えますが。

【ブルキナファソ イスラム武装勢力への対応に不満の軍のクーデター】
上記記事にもあるように、1月24日にはブルキナファソでもクーデターが起きています。

****ブルキナファソ、軍が全権掌握 将校が発表****
アフリカ西部ブルキナファソの軍は24日、全権を掌握し、ロック・カボレ大統領の政権を転覆させたと発表した。
軍将校が国営テレビで発表した。治安情勢が悪化したため、軍が権力を奪取したと説明した。

ブルキナファソでは、イスラム教主義の反政府勢力の動きを止められないことに対して、カボレ大統領への不満が高まっていた。

大統領の消息は明らかになっていない。軍将校は、拘束した人々は安全な場所にいると述べた。
治安当局関係者は、大統領と閣僚らが首都ワガドゥグの兵舎で拘束されていると話した。

カボレ大統領のツイッターのアカウントには、軍将校による発表の前に、2件の投稿があった。2件目の投稿は、「より高次の国益のため」、兵士たちに武器を置くよう求めている。誰が投稿したのかは不明。

今回のクーデーターの前日には、首都ワガドゥグで軍部隊が兵舎を占拠し、発砲音が聞こえていた。
与党・国民進歩運動(PMP)はクーデーターの前、カボレ大統領と閣僚1人が暗殺未遂にあったと明らかにしていた。

23日には軍部隊の反抗勢力が、軍上層部の解任を要求。さらに、イスラム国(IS)やアルカイダとつながりのある武装勢力と戦うため、より多くの資源が必要だと訴えていた。

「国をまとめられなかった」
軍将校は声明を読み上げ、カボレ大統領は国をまとめられず、「私たちの国の根本を脅かす」治安危機に効果的に対処できていないと主張した。

声明は、未知の団体「防衛と再建のための愛国運動」(MPSR)の名前で出された。読み上げた将校とは別の将校、ポール=アンリ・サンダオゴ・ダミバ中佐が署名している。

同中佐は今回のクーデターを主導したとみられている。イスラム武装勢力との戦いで長年の経験を有している。
声明は、議会と政府は解散され、憲法は停止されたとした。ただ、「妥当な時間」内に「憲法の秩序を回復」すると約束した。また、ブルキナファソの国境は閉鎖されたとした。

国連などが非難
国連のアントニオ・グテーレス事務総長はクーデターを非難し、軍に対してカボレ大統領の「保護と身体的な無事の保証」を求めた。

アフリカ連合(AU)と、地域連合体の西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)も、武力による権力奪取を非難している。ECOWASは、大統領の安全について、関与した兵士の責任を問うとしている。

BBCのアン・ソイ・アフリカ特派員は、カボレ大統領の拘束のニュースが流れると、首都ワガドゥグでは歓喜や祝福の声が上がったと伝えた。

首都の様子を捉えたビデオ映像には、大統領が使用していたとされる武装車両が、多数の銃弾の穴が開いた状態で路上に放置されているとみられる状況が映っている。

無線インターネットは接続ができなくなっているが、有線では接続が可能で、家庭などのWi-Fi(ワイファイ)は機能しているという。

23日には、市民ら数百人が屋外で兵士への支持を表明した。与党本部の建物に火をつける人もいた。

ブルキナファソでは1週間前、カボレ政権の転覆を謀ったとして、兵士11人が逮捕されていた。
昨年11月には、治安部隊のメンバーを中心とした53人が、ジハーディスト(イスラム聖戦主義者)とみられる勢力に殺害された。今月22日には、同国で禁止されている、政府に対する抗議デモが開かれ、数十人が逮捕された。

西アフリカで近年、軍による権力奪取が起きたのは、ブルキナファソで3カ国目となった。前2国のギニアとマリにはECOWASが制裁を科している。【1月25日 BBC】
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2012年にマリでも同様に、イスラム武装勢力との戦いで武器が足りないという軍の不満からクーデターが起きています。

西アフリカでクーデターが頻発・・・とは言っても、北アフリカのリビアは東西分裂、東アフリカのエチオピアは内戦状態、スーダンでも政治混乱が続いていますので、別に“西アフリカ”だけの話でもないのでしょうが。
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ウクライナへロシアが軍事進攻した場合の経済制裁、ロシアの報復・・・日本の天然ガスに影響も

2022-02-03 23:30:13 | 欧州情勢
(米ホワイトハウスで1月31日、会談するバイデン米大統領(右)とカタールのタミム首長=ロイター【2月1日 朝日】)

【米部隊派遣も「ウクライナで戦うためでない」】
緊迫するウクライナ情勢を受けて、アメリカ国防総省は1月24日、米本土の約8500人の米兵に欧州派遣に向けた準備を命じていますが、この部隊の大半はNATO即応部隊(NRF)が発動する際に加わることを想定しています。

アメリカはこれとは別枠で、NATO加盟国のポーランドとルーマニアに2700人を増派することも決定しています。

ただ、いずれにしても「ウクライナで(ロシアと)戦うためのものでもない」という前提での部隊派遣です。

****米国防総省「ウクライナで戦うためでない」 東欧に2700人増派****
米国防総省は2日、ロシアによるウクライナ侵攻に備え、米軍を東欧に増派すると発表した。いずれも北大西洋条約機構(NATO)加盟国のポーランドとルーマニアにそれぞれ約1700人と約1000人の米兵が数日中に派遣される。ウクライナ情勢が緊迫化して以降、米軍部隊が公式に東欧に増派されるのは初めて。

一方、バイデン米大統領は2日、フランスのマクロン大統領とウクライナ情勢について電話で協議し、ロシアとの対話継続が必要との認識で一致した。マクロン氏は3日にロシアのプーチン大統領とも電話協議する。
 
米国防総省のカービー報道官は2日の記者会見で、「NATOの東側の抑止力と防衛態勢の強化が求められている。派遣は恒久的ではなく、ウクライナで戦うためのものでもない」と強調した。状況が悪化すれば追加派遣もあり得るとした。
 
国防総省や米メディアによると、現在はポーランドとルーマニアにそれぞれ約4000人と約900人の米軍部隊が配備されている。ポーランドには米本土の空挺(くうてい)師団から派遣され、ルーマニアにはドイツ駐留米軍の機甲部隊が再配備される。ドイツにも米本土から空輸部隊の約300人が送られる。
 
今回の派遣とは別に、国防総省は1月24日、米本土の約8500人の米兵に欧州派遣に向けた準備を命じている。

ホワイトハウスによると、バイデン氏とマクロン氏の2日の電話協議では、ロシアのウクライナ侵攻を阻止するための外交や、侵攻に踏み切った場合の経済制裁の準備について協議。NATOや欧州連合(EU)とともに同盟国が緊密に連携して情勢に対応する方針で一致した。
 
仏大統領府によると、マクロン氏は3日、ウクライナ情勢が緊迫する中で3度目となるプーチン氏との電話協議に臨む。また同日中にウクライナのゼレンスキー大統領、ポーランドのドゥダ大統領とも協議する。
 
ロイター通信によると、マクロン氏はプーチン氏との電話協議後、ロシアを訪問する可能性についても言及しているという。【2月3日 毎日】
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【対ロシア経済制裁の準備加速】
「ウクライナで(ロシアと)戦うためのものでもない」ということで、もしロシアが実際にウクライナに侵攻した場合のアメリカの対応は経済制裁が中心となります。

これまでにない強力な、ロシアにとっては破滅的な経済制裁を実施するとのことですが、
そうした経済制裁でロシアを思いとどまらせることができるのか? 
そもそもロシアに本当にウクライナ侵攻の意思があるのか? ロシアの親の狙いはどこにあるのか? 
ロシアから言わせれば戦争を煽っているのはアメリカであり、ロシア潰しのためにアメリカはウクライナを道具として使おうとしているという主張にもなりますが、そのあたりの話は? 
制裁を実施した場合、欧州側も深刻な“返り血”を浴びることになりますが、そうした制裁を実施できるのか?
・・・・等々、多くの“?”があり、いろいろとメディアでも指摘されていますが、今回はそのあたりの“?”はスルーして経済制裁に向けた準備の話。

アメリカは経済制裁へ向けた準備も進めています。

****米、対ロ経済制裁の準備加速 ウクライナ侵攻備え―日本に影響も****
バイデン米政権は、ロシアのウクライナ軍事侵攻に備え、対ロシア経済制裁の準備を加速させている。ロシアの主要銀行とのドル取引停止や対ロ輸出管理の強化、天然ガスパイプラインの稼働阻止が浮上しており、日本などの外国企業やエネルギー市場にも影響が及ぶ可能性がある。
 
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは28日、金融制裁対象の候補として、ロシア国営のVTB銀行やズベルバンク、世界最大の天然ガス生産会社ガスプロムの銀行子会社を挙げた。この中には北方領土をめぐる日ロ経済協力に関与している銀行が含まれる。ロシア政府が発行する債券の新規取引禁止も検討中という。
 
「最も厳しい手段」(米国家安全保障会議)として取り沙汰されるのが、ロシアのプーチン大統領の資産凍結や、世界の銀行決済取引網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアを締め出す制裁。

SWIFTは約200カ国が参加する欧米主導のシステムで、ロシアの金融網を遮断すれば、対ロ貿易を手掛ける日本企業も打撃を受ける。
 
貿易制裁の目玉は先端技術の対ロ輸出規制だ。中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)に対する措置と同様に、日本など同盟国からの輸出も規制対象となり、発動されれば「世界の供給網に影響が広がる」(米戦略国際問題研究所)。
 
ロシア経済を支えるエネルギー輸出を制限するため、ロシアとドイツを結ぶ新たな天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の「稼働阻止」(米国務次官)も有力視されている。原油市場では早くも産油国ロシアからの供給不安が高まり、先物相場が約7年ぶりの高値水準で推移している。【1月29日 時事】
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【経済制裁実施の場合、ロシアは報復として欧州への天然ガス供給を停止 代替調達先は?】
どれひとつとっても欧州、世界経済、そして日本への影響は大きなものがありますが、こうした経済制裁を行えばロシアは当然に“報復”を行います。

真っ先に行われる可能性が高いのが、天然ガスの欧州への供給停止でしょう。
ロシア産天然ガスに大きく依存する欧州(EU域内では天然ガスの輸入に占めるロシアの比率は約46%(2021年上半期))としては、ロシアに代わる供給先を早急に確保する必要があります。

そこで今名前があがっているのがカタール。

****カタール、有事に欧州へガス供給も 米国の力添えは必要=消息筋****
液化天然ガス(LNG)の主要産出国カタールは、ロシアがウクライナを侵攻した場合、米国がロシア経済制裁を発動し、報復でロシアが欧州向けガス供給を中断する事態になれば、一部のカタール産ガスの供給先を欧州向けに変更することが期待されている。

事情に詳しい筋によると、米ワシントンで来週、タミム首長とバイデン大統領がこの問題を協議するが、カタールにとっては、同国ガスの購入契約者への説得で米国の力添えが必要になるという。

米政権は欧州向けのガス供給元確保が必要になった場合に備え、ここ数週間、カタールなど主要エネルギー産出国に接触してきた。

消息筋は「2011年の福島の原発事故の際のような世界的なエネルギー供給の大混乱が起きた場合」は「カタールが力になれるかもしれない」と指摘。カタールには欧州に振り向けられる余剰分がある程度あるとした。

ただ、産出量のほとんどは長期契約に向けられているため、そうした余剰分はあまり多くないとし、「短期的な解決策としてガスを欧州に振り向ける場合は、大口のカタール産ガスの顧客に対して米国などからの説得が必要になるだろう」と語った。

カタールはLNG輸出をより長期的に大きく拡大させていきたい意向。消息筋は、欧州連合(EU)がエネルギーの安全保障を確かにし、将来的な供給混乱を回避できるようにしたいなら、EUがLNGの長期契約締結を考えることが必要だと指摘した。【1月27日 ロイター】
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そうでなくても欧州では昨秋から新型コロナウイルスのパンデミックから景気が立ち直りつつあり、需要が増大したことでガスや電力価格が高騰し、天然ガス確保の動きが始まっていました。

そこにもってきてウクライナ危機による“ありえないようなシナリオ”も考えなくてはならなくなっていますが、やはりこういうときに力を発揮するのはアメリカのようです。

****カタールをNATO非加盟の主要同盟国に バイデン氏が意向****
米国のバイデン大統領は1月31日、ホワイトハウスを訪問した中東カタールのタミム首長と会談した。バイデン氏はカタールを北大西洋条約機構(NATO)に非加盟の主要同盟国に指定する意向を明らかにした。ウクライナ情勢を踏まえ、欧州へのエネルギー供給についても議論したとみられる。
 
バイデン氏は会談冒頭、昨年の米軍撤退時に退避したアフガニスタン人の受け入れや、パレスチナ・ガザ地区への支援などを挙げ、「カタールは良き友人であり、信頼できる有能なパートナーだ」と述べた。
 
発表によると、2人は世界的なエネルギー供給の安定についても協議したという。ロシアがウクライナに侵攻した場合、欧州ではロシアから天然ガスや原油の供給が滞り、エネルギー価格が上昇する恐れが出ている。

カタールは世界有数の資源国であり、米国は欧州への液化天然ガス(LNG)提供の可否について打診したとみられる。【2月1日 朝日】
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一方のカタールは、「欧州に回してやっていいけど・・・今後も安定的に長期で取引してほしい」といったところのようです。
また、欧州向け天然ガスについての転売制限の条件も。

****カタール、EUにガス転売制限を要請 ウクライナ情勢にらみ=関係筋****
カタールが欧州連合(EU)に対し、域外への天然ガス転売を制限する必要があると述べたことが分かった。関係筋が明らかにした。転売を制限することで、ロシアがウクライナに侵攻した場合も主要供給国がガスを提供でき、短期的な危機を回避できるとしている。

カタールは、EUが余剰分の液化天然ガス(LNG)について、域内にとどめると約束するよう望んでいる。

関係者は「(転売制限が)実行されなければ、EUに対する緊急輸出がEU外で収益を上げるための現物として転売される恐れがあり、基本的にEUのエネルギー不足が長引くことになる」との認識を示した。

カタールおよび欧州の複数の産業筋は、一部EU諸国がガスの相場上昇が始まった昨年以来、カタール産ガスをEU域外で転売していると指摘した。

関係者によると、カタール側はEUが長く調査を続けるカタールのガス長期契約問題についても、解決の必要があると述べたという。

EU欧州委員会はカタールの長期契約が欧州内の自由なガスの流れを阻害するかもしれないと懸念する。一方、カタールは長期契約が供給の安全保障を確保するとの立場を取っている。【2月1日 ロイター】
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カタールとしては、交渉の立場が優位になったこの時期に・・・ということでしょう。

【有事の際、欧州にガス提供できないか日本にも“打診”】
でもって、前出【ロイター】に“大口のカタール産ガスの顧客に対して米国などからの説得が必要になる”と言う話で、具体的には日本にも“打診”があるようです。

****米とEU、日本などに天然ガス提供打診 露のウクライナ侵攻に備え****
米ブルームバーグ通信は2日、米国と欧州連合(EU)が、ロシアのウクライナ侵攻で欧州への天然ガス供給が停滞する事態に備え、日本や韓国、中国、インドなどアジアの主要輸入国に対し、欧州に天然ガスを提供することが可能かどうか打診していると報じた。
 
EUは天然ガスの約40%をロシアに依存しており、ウクライナで紛争が発生し、ロシアから欧州への天然ガス供給が途絶えた場合、欧州はエネルギー不足に陥る懸念がある。

報道によると、米国とEUは、アジアの主要輸入国が天然ガス生産国と結んでいる長期契約の一部をEUに振り向けることが可能かどうかを協議しているという。
 
米欧は有事に備え、ロシアに代わる天然ガスの供給元を探している。報道によると、カタール、ナイジェリア、エジプト、リビアなどの生産国にも有事の際に天然ガス増産を要請した。しかし、天然ガスは短期間で増産できないため、欧州の天然ガス不足を少数の生産国でまかなうのは難しいと見られている。【2月3日 毎日】
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アメリカから奉加帳を回されると日本としては・・・・“日本や韓国、中国、インドなど”とは言っても、中国が応じるはずもないし、インドもなんだかんだ言って自国利益優先でしょう。そうなると現実味があるのは・・・。

その話はともかく、軍事進攻そして経済制裁ということになれば、ロシアも欧州も深い傷を負うことになりますし、バイデン政権もそうした事態を止められなかった政治責任を国内的に追求されることにも。

誰にとっても得策とは思えませんが、互いに最大限の圧力をかけながら自国に有利なおとしどころに持っていこうというチキンレースのようにも思えます。
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ミャンマー  景気悪化、物価高騰、大量失業 クーデターから1年 困窮する生活 「沈黙のストライキ」

2022-02-02 22:22:18 | ミャンマー
((「沈黙のストライキ」に参加する形で店を閉めないように)警告を受けた商店の人は、「店は開けざるを得ないが、客には来ないでほしい」と話していました。【2月1日 日テレNEWS24】)

【軍政下で急速に失われつつある開発の成果】
ミャンマーではクーデターによる国軍支配、そして民主派市民や少数民族武装勢力の抵抗が続いていますが、昨年11月にミンアウンフライン最高司令官が「米を少し減らす必要がある。必要に応じて肉、魚、野菜を食べると健康につながる」と演説。

生活が困窮するミャンマー国民でなくても「そりゃ、あんたは肉でも魚でも食べられるだろうけど・・・」と突っ込みたくなるものでした。

****「私も好きだ」けど、食用油は節約して ミャンマー国軍トップが演説****
クーデターで権力を握ったミャンマー国軍のミンアウンフライン最高司令官が1日夜にテレビ演説し、国民に燃料油や食用油の節約を訴えた。普段の演説で繰り返す民主派勢力への非難は影を潜め、消費を抑えるよう強調した。クーデター後に経済は悪化しており、立て直しのために燃料油など輸入を減らす必要に迫られているようだ。
 
ミンアウンフライン氏は1日、軍服ではなく白の民俗衣装で登場した。冒頭で新型コロナウイルス対策の成果を強調した後、「できるだけ燃料油の節約をお願いしたい」と切り出した。燃料油と食用油の輸入が年間約30億ドル(約3400億円)に達するとし、「バスや鉄道での旅行を奨励したい」と公共交通機関の利用を求めた。
 
節約を求める対象は国民の食卓にも及んだ。発酵させた茶葉のサラダ「ラペットゥ」など、油をたっぷり使うミャンマー料理を複数挙げ、「私自身も好きだ」と述べた上で、「食用油の消費をできるだけ少なくすれば輸入を減らせる」と訴えた。
 
演説で、国軍に反発する市民や民主派を「テロリスト」などと糾弾することはなかった。終始穏やかな口調で、演説終盤には米を多く食べるミャンマーの「食生活の変化を促したい」と言及。「米を少し減らす必要がある。必要に応じて肉、魚、野菜を食べると健康につながる」と呼びかけ、食事を変えれば公衆衛生も向上するとした。
 
世界銀行は7月、ミャンマーの2020年10月~21年9月の国内総生産(GDP)は前年から18%減り、100万人が失業すると見込んだ。クーデター後の混乱で通貨チャットが急落し物価が高騰。演説は、景気の悪化に苦しむ国民に理解を求める目的もあったとみられるが、国民の反応は冷ややかだ。
 
ヤンゴンで雑貨屋を営む女性(37)は「演説は市民の厳しい生活に言及しておらず、解決策も示していない」と一蹴した。SNSには「その日の食事に困っている人も多いのに、どうやって肉や魚を食べろというのか」などのコメントも相次いだ。【2021年11月2日 朝日】
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国民が生活に困窮している実態を知らないのか・・・あるいは、そのようなことには関心がないのか・・・いずれにしても、民意から遊離している軍事政権の実態が垣間見えるエピソードでした。

クーデターから1年、状況は好転の兆しが見えません。

****ミャンマー市民の生活苦しく クーデター1年****
コロナと政局混乱のダブルパンチ、経済危機は深まる一方

ミャンマー軍のミン・アウン・フライン最高司令官は昨年の終盤、かつて「アジアの米びつ」と呼ばれた同国の市民に対し、主食の米を食べる量を減らすよう促した。食料はたっぷりあると言明し、もっと肉や魚、野菜を食べるようにと述べた。
 
だが今、人々にそんな余裕はない。
ミャンマーの軍事クーデターから1年がたち、国民の所得は激減した。通貨は暴落し、燃料価格が2倍になった。同国最大の都市ヤンゴンの市場では、食用油や農産物、せっけんなどに1年前の約2倍の値段を払っていると買い物客は言う。
 
「私たちは生きるのに必死だ」と、退職した市職員のサン・フタイさん(62)は話す。10代の娘が家計を助けるためにメイドとして働き始めたという。バイクタクシーの運転手をしているフタイさんの稼ぎでは、最低限の食費と家賃をまかなうこともできなくなった。
 
国連食糧農業機関(FAO)によると、2021年の世界の食料価格は、燃料や肥料のコスト上昇も一因に10年ぶり高水準に達した。ミャンマーではその影響が増幅されている。新型コロナウイルス感染拡大と政局混乱が重なり、他の多くの国々が直面したより深刻な危機を招いたのだ。

政治の独裁回帰と経済の低迷は、クーデター前の10年にその両方が進展していたために、一段と際立つ。クーデターによって、慎重を要する民主化への移行が後戻りし、専門家や住民によれば、苦労して手に入れた開発の成果も急速に崩れつつある。

国連人道問題調整事務所(OCHA)は12月下旬、2021年の経済と政治の混乱により、ミャンマーの人口510万人のほぼ半数が貧困状態に陥り、15年以上にわたって築き上げたものが水泡に帰したと指摘した。
 
軍事政権はここ1年、ノーベル平和賞受賞者のアウン・サン・スー・チー氏(72)を含む市民リーダーらを起訴し、平和的な抗議行動を武力で鎮圧しようとしている。非営利団体「政治犯支援協会(AAPP)」によると、兵士と警察は1500人余りを殺害し、1万1000人超を逮捕している。軍に反対する人の中には武装抵抗勢力に加わる向きもあり、国内の対立は悪化している。
 
こうした混乱は停滞を長引かせ、コロナ禍で既にほぼ停止状態にあった経済の回復を妨げている。世界銀行によると、ミャンマーの国内総生産(GDP)は2021年に18%減少し、タイ、フィリピン、ベトナムといった近隣諸国よりはるかに大きな落ち込みとなった。今年の成長率はわずか1%と予想され、回復は極めて小幅にとどまるとみられる。(中略)
 
昨年2月1日に発生したクーデターは、全国的なストライキを引き起こして労働力をまひさせ、多くの世帯の収入が失われた。軍と武装勢力の戦闘が激化し、農地から都市部への食料の搬送はますます困難になった。国際商取引の減少と少ない外貨準備高――クーデター直後にニューヨーク連銀がミャンマーの外貨準備高約10億ドルを凍結したことで一段と減少した――は、ドル不足を招いた。現地通貨の価値は約25%下落している。
 
米国をはじめとする欧米の民主主義国は、軍の上層部を含む数十人と主要な国有コングロマリットに対して制裁を発動したが、経済全体に大きな影響を与えるには至っていない。しかし、議員や活動家、その他の関係者から、ミャンマーの唯一最大の外貨収入源であるエネルギー部門をブラックリスト化するよう、各国政府に対し圧力がかかっている。(中略)

ヤンゴンの北オカラパに住む2児の母、メイ・メイ・アウンさん(35)は、少ないもので生活することを学んでいると語る。夫と共に、ミャンマーで増えつつあった中間層の仲間入りを目指していたが、数カ月で貧困に逆戻りしてしまった。一家はヤンゴンの工業地帯にある家具工場で働く夫の収入に頼っているが、夫の賃金は昨年20%カットされた。
 
以前は1日3杯のインスタントコーヒーがささやかな楽しみだったが、今は1杯だけだ。洗濯用洗剤は長持ちするように少なめに使い、食事は毎週、市場の一番安いものを利用してやりくりしている。
 
アウンさんは「このごろは、使うものについてよく考えないといけない」と言う。「余計なものは買わずに、必要なものだけを買うようになった」
 
ヤンゴン近郊に住むナイ・スレインさん(39)は、昨年末までには日々の暮らしの厳しさが手に取るように見えてきたと話す。彼は10月、自動車用品を売る仕事の時間を減らし、貧しい人々のために食事を提供する寄付制のレストランを開いた。払える人は好きなだけ払い、そうでない人は30円程度を払うか、何も払わずとも食べることができる。このプロジェクトは成功し、他の都市でも同様のレストランが次々と誕生した。
 
だが、お金を全く払えない来店客が増えているという。とりわけ貧しい常連客の多くは、タクシー運転手や近くの市場で働く行商人たちだ。
 
「全ての人に食べさせてあげることができないのは、自分にとって一番悲しい」とスレインさんは話した。【2月2日 WSJ】
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ミャンマー国民が軍に抵抗を続けているのは、クーデターによる権力掌握、民主主義を無視する軍の強権支配、暴力による弾圧・・・そういう政治的側面への抵抗と同時に、軍事支配のもとで深まるばかりの生活苦という経済的側面も強く存在します。

****「仕事がない」履歴書を手に座り込む若者たち 絶望して国外へも****
国軍によるクーデターが発生して1年となるミャンマーで、経済的な苦境が続いている。新型コロナウイルスの影響もあり、国際労働機関(ILO)は、2021年に約160万人の仕事が失われたとみる。昨年7月以降、人が戻り始めたオフィスもあるが、賃金は上がっておらず、経済の早期回復は見通せない。
 
昨年11月中旬、30人ほどの若者が閉ざされた門の前に座り込んでいた。ヤンゴン北部のラインタヤ地区。小さな工場の前に集まっていたのは、職を求める人たちだ。手には、手書きの履歴書を握りしめている。
 
「給料は日給4800チャット(約310円)。クーデター後は仕事がないから、少しでも募集があるとすぐに行列ができてしまう」。20歳という男性が言った。
 
ラインタヤ地区はもともと縫製工場などが集まっていた地域だ。職を求めて国内各地から集まり、不法に住み着いた労働者も少なくなかった。
 
だがクーデター後の混乱の中で、中国資本の工場が放火された。国軍は戒厳令を出して一帯を封鎖。不法な住居を立ち退かせた。工場近くに住むバイクタクシーの運転手(36)は「放火された工場には5千人の従業員がいたが、みな職を失った。おかげで稼げなくなった」と話した。
 
「100万人の雇用機会が失われた」――。世界銀行は2020年10月からの1年について、そう分析する。

新型コロナの感染拡大もあり、実質国内総生産(GDP)は18%縮小したと推計。新型コロナとクーデターがなかった場合の想定に比べると、3割小さいとみる。
 
22年9月にかけては、1%のプラス成長を見込む。職場には新型コロナ前の80%程度に人が戻っている。だが世銀のシニアエコノミスト、キム・アラン・エドワーズ氏は「低賃金、短い労働時間など、仕事はあってもより厳しい状況に陥っていることも多い」と説明する。
 
先行きに絶望し、国外に出る若者も多い。新型コロナからの経済復興に向けて、移民労働者を受け入れる国が出てきているからだ。
 
昨年12月、ヤンゴン市内の旅券発給事務所には、長蛇の列ができていた。事務所の開業は午前9時。だが朝5時には行列ができるという。行列を見てあきらめて帰る人も少なくない中、西部チン州から来たという男性は「知人を頼り、タイに行って働きたい」と語った。

投資集めた「成長センター」が一変
クーデターの影響がよりはっきり出ているのが、外国企業の動きだ。
 
人口5500万人、年齢中央値は29歳。若い労働力も多いミャンマーは11年の民政移管後、次の成長センターとして世界から投資を集めた。だがクーデターで状況は一変。治安や経済の悪化で事業環境が不透明になった。
 
さらに、ミャンマーでの事業そのものが国軍への協力とみられかねないことも、投資を控える動きにつながっている。
 
ミャンマー投資企業管理局の統計では、20年10月~21年9月のミャンマーへの海外直接投資の認可額は、約4320億円。前年から2割余り縮小し、12~13年以来の水準に沈んだ。
 
新たな投資が減っただけではなく、撤退する動きも出ている。天然ガス田の開発などを担う仏のエネルギー大手、トタルエナジーズは1月21日、ミャンマーから撤退すると発表した。
 
トタルはクーデター後、進行中の開発事業を止める一方で、既存ガス田からの供給は「ミャンマー人民のため」として続けてきた。
 
だが21日の声明では、この対応では株主やミャンマー内外の市民団体など「関係者の期待に沿うことができなかった」と説明。人権などの観点に照らしてミャンマーの現状をみると、「もはやこの国に前向きな貢献はできない」と判断したという。
 
日本企業も対応に頭を悩ませている。トヨタが建設していた自動車工場は、ほぼ完成していたものの開業できないまま。国土交通省が所管する官民ファンドが絡むオフィスやホテルの建設計画も、凍結された状態だ。
 
国軍系企業と合弁事業を営んでいたキリンは合弁を解消する意向だが、見通しは立っていない。【1月29日 朝日】
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****ミャンマー、クーデター1年 市民「絶望しかない」****
(中略)こうした中、急速に進むのが国民の貧困だ。国際労働機関(ILO)は今月、21年に国内で約160万人が失業したとする報告書を発表した。国内の混乱が海外投資減少につながったことに加え、新型コロナウイルス流行が経済の重荷となったとみられている。

ILOによると、大きな影響を受けたのが主要産業の1つの縫製業だ。最大都市ヤンゴンの縫製工場を解雇された女性、ナインさん(29)はクーデター前の月収が約35万チャット(約2万3千円)だったがほぼゼロになり、日雇いの仕事で糊口をしのいでいる。「絶望しかない。国軍でもNUGでもどちらでもいいから、職を作ってほしい」と心中を吐露した。

国内では表立って国軍を批判する声は減少した。だが、市民の怒りが消えたわけではない。1日には全国で出勤を見送ったり店舗を休業したりして抗議の意を示す「沈黙ストライキ」が行われる。

参加する予定だというヤンゴンの会社員男性(40)は「1年たっても、到底国軍を支持する気になれない。決定打にならないだろうが、小さい抵抗を積み重ねていくしかない」と決意を話した。【1月31日 産経】
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【せめてもの意思表示「沈黙のストライキ」 力で封じる国軍】
弾圧の犠牲者は1500人を超え、1万人前後が身柄を拘束されていると言われる国軍による力の支配が続く中で、上記のような国民の不満・絶望のせめてもの意思表示が2月1日の「沈黙ストライキ」でした。

****クーデターから1年のミャンマー 緊張の中に静寂、早朝にゲリラデモも****
<あの日から1年、多くの商店が営業し往来には自動車も行き交っているが、この日常はフェイクだ>

軍によるクーデターから2月1日に1年を迎えたミャンマーは軍政に抵抗する民主勢力が呼びかけた「沈黙のストライキ」により、静かな1日を迎えた。

中心都市ヤンゴンの繁華街では約80%の商店が店を開けていたものの訪れる客はほとんどなく、店員が時間を持て余している姿があちらこちらで見られた、とヤンゴン在住のジャーナリストは伝えてきた。

反軍政の立場をとるメディア関係者への摘発、拷問、弾圧を逃れるため地下に潜伏しているこのジャーナリストは、1日午前10時過ぎから正午頃まで、ヤンゴンのダウンタウンを中心に治安当局を警戒しながら回ってみたという。
世界人権デーにちなみ12月10日に行われた「沈黙のストライキ」の際にはほとんど車両が走っていなかったが、クーデターから1年となった2月1日は約10倍の車両が路上を走っていたという。

軍の摘発を恐れて商店は開店
また、ヤンゴン市内のダウンタウンでは食堂などの商店が約80%店を開けていたという。これは12月10日の際に商店はほとんどがシャッターを下ろして閉店していたことと比べると大きな違いを感じたという。

反軍政の民主派は2月1日を前にSNSなどを通じて、「沈黙のストライキ」で同日午前10時から午後4時までの間、仕事を休み自宅などに留まることで社会活動をマヒさせることを訴えた。

これに対して軍や警察の治安当局は「ストライキ」に同調する市民に対しては厳しい姿勢で臨むことを表明。同調者に対しては「テロ法」などの容疑による逮捕もありうるとしていた。

こうした治安当局の強硬姿勢に恐れをなした商店主たちが1日午前から店を開けて「ストライキ」不参加の立場を示したものとみられているという。もっとも現地を見た前述のジャーナリストによると、開いている商店や食堂も訪れる客はほとんどなく「開店休業」の状態が続いていたという。
そうした店では店員が無表情で暇そうにしているか、店員同士や近所の市民とひそひそ話しをしていたという。

治安当局は市内を頻繁にパトロール
こうした状況のヤンゴン中心部では兵士や警察官を乗せた治安当局の車両が頻繁に市内をパトロールする様子が見られ、軍政が反軍政の市民の動きを極度に警戒している様子がみてとれたとしている。

反軍政の独立系メディア「ミッズィマ」によると1日午前5時頃にヤンゴン市内で反軍政を訴える若者を中心とする市民によるデモが短時間行われ、民主主義の復活を訴え、無事解散したという。同じようなゲリラ的デモは中部にある第2の都市であるマンダレーでも行われたという。

軍政トップのミン・アウン・フライン国軍司令官は1日に国営放送を通じて「昨年2月1日に民主主義を掲げる我々は総選挙の不正などの困難に直面し、非常事態を宣言した」とクーデターを正当化。「テロリストが国を破壊しようとしている」と反軍政を掲げる武装市民などをテロリストと位置づけ、拘束、虐待、殺害などの強権弾圧や人権侵害を当然の行為としていることを改めて表明した。

市民弾圧を平然と行う治安当局
国営放送は1日に撮影日時が不明の軍政を支持するという市民のデモの映像も流して、軍政が国民の支持を得ていることを訴えた。

これに対し、反軍政の立場をとるメディアは「こうした映像は軍政による撮影日時や参加者も不明確な"プロパガンダ"に過ぎない」としている。(中略)

前述の地下潜伏中のジャーナリストは、クーデターから1年となった1日、軍や警察による通行人や通行車両、開店している商店の状況を監視、警戒する様子が非常に厳しいことから「カメラはおろかスマホによる写真撮影も難しい状況だった」と述べ、治安当局が最高度の警戒体制を敷いていたことを明らかにした。【2月1日 大塚智彦氏 Newsweek】
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“最大都市ヤンゴンでは、市民が国軍に対する抗議活動を禁じられる一方、国軍が動員したとみられる集団が軍歌を歌いながら街を練り歩いた。”【2月2日 朝日】“クーデターで権力を握った国軍を支持するデモで手投げ弾が爆発し、ニュースサイト「ピープル・メディア」によると、2人が死亡、40人が負傷した。犯行の背後関係は分かっていない。”【2月2日 時事】といった報道も。

国軍がクーデターに乗り出した理由はともかく、現状を見る限り軍の統治は“失敗した”と言わざるを得ませんが、それでも権力を手放そうとしない国軍・・・「道理」は意味を持たない世界のようにも見えます。

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