孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

日本  子供が「奢侈品」になった現状で際立つ一人親世帯の相対的貧困 非正規雇用増加の婚姻への影響

2023-10-21 23:35:34 | 日本

(【10月11日 Newsweek】)

【東京都の子育て世帯の年収 1000万以上が最も多く4割】
「子育てにはおカネがかかる」というのは今更の常識ですが、そうした傾向は次第に強まり、特に東京のような地域では年収1000万円ぐらいないと子育ては難しい・・・といった状況にもなっているようです。

****今や東京の30代子育て世帯の4割が年収1000万円以上*****
<結婚・出産の経済的ハードルが上がり、中間層の収入レベルでは子どもを持つことが困難になってきている>

昔は、子どもを産むのは働き手の確保という意味合いがあり、低収入層ほど子どもが多い「貧乏人の子だくさん」と言われたりしていた。だが今はそうではなく、子どもはカネのかかる存在だ。20歳過ぎまで何らかの学校教育を受けさせることが一般的になっており、かつ幼少期から各種の習い事をさせる同調圧力も強くなっている。

「子ども1人育てるのに1000万円、2000万円」という試算も聞くが、子どもはすっかり奢侈品になってしまったかのようだ。

それは、子育てをしている世帯の年収分布からうかがえる。総務省の『就業構造基本調査』に、夫婦と子の世帯の年収分布が出ているが、2007年と2022年の数値を対比すると<表1>のようになる(親が30代の世帯)。

30代の子育て世帯は、この15年間で349万世帯から231万世帯に減少した。3割以上も減っていて、未婚化・少子化の傾向がはっきりと表れている。

だが目を凝らして見ると、減少率が大きいのは低収入層や中間層であることが分かる。年収300万円台の世帯は、50万世帯から13万世帯へと4分の1に減った。その代わり、年収800万円以上の層は増えていて、1000万円以上の世帯は1.6倍に膨れ上がっている。

2022年で最も多いのは年収500万円台で、次に多いのは600万円台と1000万円以上の層だ。日本全体が貧しくなっているのとは裏腹に、子育て世帯の年収は上がっている。共稼ぎの増加によるものだろうが、300~500万円台といった中間層では結婚・出産が容易ではなくなっていることもある。

結婚・出産の階層的閉鎖性が強くなっているのではないか。教育費の上昇や増税に加え、学生時代に借りた奨学金の返済義務がある人も増えている。そこそこの経済力がなければ、結婚・出産に踏み切れないのは当然だ。

以上は全国のデータだが、大都市の東京に限ると変化はより大きい。<図1>は、東京都の子育て世帯の年収分布をグラフにしたものだ。世帯数が大きく異なる全国と比較するため、全数を100とした%の形にしている。

東京といえども、15年前は中間層が多かったが、今では年収1000万以上が最も多く4割を占めている。「東京で共稼ぎなら年収1000万円は普通では」という声もあるかもしれないが、15年間でここまで変わるとは驚きだ。

現在の東京の子育て世帯(親30代)では、年収600万未満は2割にも満たない。中間的な収入では、結婚や出産が難しくなりつつあるのか。上述の言葉を繰り返すが、結婚・出産の階層的閉鎖性の強まりだ。子育て世帯で最も多いのは、年収1000万以上。こういう時代が来ることを、20年前に予期できただろうか。

結婚・出産の経済的ハードルが上がり、もはや自然なライフイベントではなくなりつつある。少子化が進むわけだ。教育費の上昇、増税、奨学金の返済......。今の親世代には、以前にはなかった負担がのしかかるようになっている。

「共稼ぎをしてしのげばいい」と突き放すのは簡単だ。国としては「政策の貧困」を自覚し、これから家庭を持とうとする世代の負担軽減に取り組むべきだ。<資料:総務省『就業構造基本調査』>【10月5日 舞田敏彦氏(教育社会学者) Newsweek】
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【世界的にも劣悪な日本の一人親世帯の相対的貧困率】
共稼ぎで、片方が正規雇用・・・そうした“恵まれた”条件が満たされれば出産・子育ても可能であるが、逆にそうした条件を満足できない場合、子育ては「チャイルド・ペナルティー」「子育て罰」とも言うべき厳しい現実を突きつけられます。

****日本の一人親世帯の相対的貧困率は「貧困大国」アメリカよりも大きい****
<両親がいる世帯を前提とした日本の育児の諸制度はもう限界を迎えている>

先週掲載した記事(上記)で、東京の子育て世帯の4割が年収1000万以上であることを明らかにした。生活費や教育費が上がるなか、結婚・出産は自然なライフイベントではなくなりつつある。子を産んで育てることの経済的ハードルは、一昔前と比べて上がっている。

先週の記事は夫婦と子の世帯のデータによるものだが、最近では一人親世帯も増えている。離婚率が高い都市部は特にそうで、東京では6~17歳の8人に1人が1人親世帯で暮らしている(『国勢調査』2020年)。

よく言われることだが、一人親世帯(多くが母子世帯)の生活はとりわけ苦しい。年収を二人親世帯と比べると愕然とする。東京都内23区のデータで、夫婦と子の世帯と母子世帯の年収分布をグラフにすると<図1>(冒頭)のようになる。

分布の違いが一目瞭然だ。二人親世帯では年収1000万以上が突き抜けて多く、全体の半分を占めている。しかし一人親世帯は分布が下の方にかたより、最も多いのは200万円台だ。中央値(median)を出すと2人親世帯が1000万円、1人親世帯が250万円と4倍もの差がある。

子育て世帯全体の年収が上がるなか、一人親世帯は低いままに留め置かれている。子育て世帯の中での格差という問題に注意しなければならない。大都市圏においては特にそうだ。

年収レベルが高い東京では、一人親世帯の劣勢が際立つ。周囲が習い事だ、海外旅行だなどと言うなか、自分はそれを我慢しなければならない。会話にも交りにくい。一人親世帯の子が抱く「相対的剥奪感」は相当なものだろう。

国際的に見ても、日本は一人親世帯に貧困が集中する度合いが高い国だ。2020年の子どもの相対的貧困率(年収が中央値の半分に満たない世帯で暮らす子の割合)をみると、全世帯では13.1%だが、一人親世帯に限ると43.3%にもなる。その差は35.2ポイント。<表1>は、この差分が大きい順に43の国を並べ、上位10位と下位10位を抽出したものだ。

日本は、全世帯と一人親世帯の差分が韓国に次いで大きい。一人親世帯の貧困率は、貧困大国と言われるアメリカよりも高くなっている。

日本では、両親がいる世帯を前提として育児の諸制度が成り立っているため、一人親世帯は困難な状況に陥りやすい。預け先の不足により、幼い子がいるシングルマザーがフルタイム就業をするのは難しい。さらに大きいのは養育費の不払いだ。国が立て替え、不払いの親から税金と一緒に強制聴取する仕組みを導入するべきだろう。

時代とともに結婚・出産の階層的閉鎖性が強まり、かつ子育て世帯のなかでの格差も大きくなりつつある。育児や教育の費用負担を、個々の家庭(私)に委ねるやり方の限界に他ならない。<資料:総務省『就業構造基本調査』(2022年)、OECD「Family Database」>【10月11日 舞田敏彦氏(教育社会学者) Newsweek】
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こうした一人親世帯に課される「チャイルド・ペナルティー」「子育て罰」を目にすれば、多くの女性が出産・子育てに慎重・消極的になるのも当然かも。

【少子化で最先端を行く韓国との共通土壌】
“日本は、全世帯と一人親世帯の(相対的貧困率)差分が韓国に次いで大きい”・・・このあたりが、伝統的価値観を前提にした社会・政治の在り方と現実のズレという少子化に苦しむ両国に共通する土壌のようにも見えます。

****2022年の合計特殊出生率0.78の背景(韓国)****
若年層の社会問題に迫る

韓国では、2022年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数、暫定値)が0.78と、1970年以降で過去最低となり、OECD加盟国の中でも最下位だった。

深刻な少子化の背景には、若年層の婚姻・出生率の著しい低下が挙げられる。若者が結婚や出産を望まない要因として、就職難や都市部の地価高騰、多大な教育費負担といった経済的要因や、韓国独自の文化・価値観などが挙げられることが多い。さらに、近年では女性の社会進出も関係していると考えられる。(中略)

若年層の結婚・出産意欲減退の背景
(中略)
韓国の出生率が低下している理由として、以下の要因が挙げられる。

まず、韓国では結婚が出産の前提になっていることだ。
政府系シンクタンクの韓国保険社会研究院が2021年に行った「家族と出産に関わる調査」によると、19~49歳の未婚の男性と女性に「現在交際中の異性がいるか」と調査した結果、男性の27.5%、女性の30%が「現在交際中の異性がいる」と回答した。異性交際をしている人が男女ともに3割程度と少ないわけだ。

韓国独自の伝統的価値観(儒教思想など)では、結婚があってこその出産であり、事実婚は一般的ではないため、結婚する男女の減少によって出産率も低下していることがうかがえる。実際、出生数は婚姻件数の動きと相関していると考えられる。

一方、例えばフランスでは事実婚(パートナー婚)が主流で、出生に占める非嫡出子の割合が61.0%に達しており、韓国とは対照的だ。ただし、10年前の韓国では事実婚をする人は全体の1%だったが、現在は2%を占めている。10年で約2倍になった事実には着目する必要がある。

韓国独自の文化も、出生率低下の理由に挙げられる。結婚挨拶の負担は依然として存在し、男性が女性の実家を訪れる際に、職業は何か、家は購入できるのか問われる。しかし、近年の都市部の地価高騰のため家を買えず、結婚自体を断念する若年層が増えている。

若年層で結婚するためには家を建てることが最低限の準備として認識されている。(中略)しかし、文在寅(ムン・ジェイン)前政権時の、ソウル市など都市部を中心とする大幅な地価高騰により、若年層の大半が家を購入できない状況下に置かれている。

新生児の出生性比(女児100人に対する男児の数)も、出生率低下の要因の1つと考えられる。韓国の出生性比は1970年代から継続して上昇しており、男児が圧倒的に多くなっている。30年近くも出生性比がアンバランスで女性が少ないため、男性にとって結婚の競争率が一段と高くなった。

男性の負担が増す一方で、不安定な経済的基盤も若年層の結婚意識の減退につながっていると考えられる。1997年のアジア通貨危機以降、終身雇用制度などが崩壊し、2008年にはリーマン・ショックが起こり、非正規職が増えた。

2020年からは新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)感染症拡大によって労働需要が減少した。韓国青少年政策研究院が行った「2020年 青年の社会・経済実態および政策方案研究」(注4)によると、就業情勢の悪化により、全体の3.4%が引きこもりになった。

新型コロナが落ち着いた2022年以降、雇用情勢は量的にやや改善したが、質的にはあまり改善していない。韓国社会は住みにくい状況となり、恋愛や結婚に対する前向きな考えが後退し、出生率が急低下した。

地方からソウル首都圏への人口移動という社会問題も、出生率低下の主要要因だ。ソウル市は人口面で高密度空間であり、教育、就業環境、情報などが全て集約化され整っているが、高密度空間は少子化が進みやすい。

ドイツのような連邦国家は、教育水準の平準化や情報などが分散されやすいが、韓国などの中央集権の色彩が濃い国家は都市に情報が集約化される。ゆえに韓国では地方の出生率が比較的高いにもかかわらず、上京する人が過半数を占めるため、少子化が進んでいる。

現に、韓国の統計庁が発表した「2022年 出生および死亡統計」によると、ソウル市の合計特殊出生率が0.59だったのに対し、韓国南西部に位置する全羅南道霊光郡は1.81と比較的高い。また、高密度空間は物価が高く、生活費用もかさむため、職場と住居の距離が遠ざかり、生活の質が落ちる傾向がある。所得水準は必ずしも物価に比例して変化するわけではないため、家族を構成することが非常に難しくなったといえる。

さらに、出生率が近年急激に低下した背景として、女性の社会的地位の向上による人々の認識の変化も考えられる。

韓国では大学進学率が2022年で71.9%と、OECD加盟国でもトップを誇る。性別比では男性が70.0%、女性が73.8%と、女性の割合がやや高い。「男性は働き、女性は家で家事をする」という根強い儒教思想が浸透していた韓国社会に変化が起きていることがうかがえる。

高学歴の人が増えたことにより、結婚や家族を成すことと1人で生きていくことの意義など、自身で決定する生活判断能力が昔より高くなっているといえよう。

また、前述したように、物価は高騰しているが所得の変化がない、もしくは減っているため、独身の方が楽という考え方が若年層に広がっている。現に、家族を成すことが標準的なモデルではないと、男性、女性ともに考えるようになった。最近は、経済的な要因よりも結婚をしないことがトレンドとなりつつあり、文化的側面でも変化が起こっている。

女性の経済的活動の推進によって、「子供が先か、自身の人生が先か」という言葉が国内で広がっており、子供を産むこと自体が大きな負担となっている。女性が産休や育休を取ることによって賃金を稼ぐ期間が減ってしまうためだ。

また、金大中(キム・デジュン)政権時の2000年代初頭に女性部(現・女性家族部)が発足してから、女性の地位を向上させるために数多くの施策や事業を行ってきた。しかし、行き過ぎた男女意識や過度なフェミニズムにより、近年では男性側が反発し、男女対立が深刻化した。例えば、若い男性の間では、なぜ男性だけが兵役で軍隊に行かねばならないのか、女性を優遇しているのではないかという声が多数寄せられている。【5月15日 益森 有祐実氏 JETRO】
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伝統的価値観の問題に加え、非正規雇用の増加、女性の社会的地位の向上による意識変化など、日本にも共通する現象でしょう。

【非正規雇用増加がもたらした結婚減少・少子化】
出産・子育てというと女性が着目されますが、男性についても、非正規雇用で経済が安定しない状態では結婚へ踏み切れない、結果的に少子化に・・・という現象が見られます。

****30代前半の非正規男性で結婚しているのは2割のみ****
少子化問題は経済問題でもある。

データを見る限りでは、現在の少子化を招いた原因として、経済も非常に大きい要素を占めている。
男性の場合、正社員(30~34歳)の既婚率は約60%だが、非正規社員の既婚率は約20%である(「令和4年版 少子化社会対策白書」)。

非正規社員の男性のうち、結婚している人が2割しかいないということは、事実上、非正規社員の男性は結婚が困難、ということである。 これは何を意味するか?

ジェンダーをめぐる認識が急速に変化しているとはいえ、男性はやはりある程度の安定した収入がなくては結婚できない、という考え方は根強い。だから派遣社員などでは、なかなか結婚できないのである。

つまり、「派遣社員が増えれば増えるだけ、未婚男性が増え少子化も加速する」ということである。

男性の非正規雇用が激増している
そして、日本では近年、男性の非正規雇用が急激に増加している。

図表3は、パートタイム労働者のうち男性に絞って主要先進国と比較したものである。これを見ると日本の男性のパートタイム労働者はこの15年で激増しているのがわかる。

もちろん、パートタイム労働者だけではなく、非正規雇用に枠を広げると、その人数は非常に多くなる。

現在、日本では働く人の約4割が非正規雇用である。その中で男性は、700万人近くもいる。20年前よりも倍増したのだ。つまり、結婚できない男性がこの20年間で300万人以上も増加したようなものである。

現在の日本は、世界に例を見ないようなスピードで少子高齢化が進んでいる。このままでは、日本が衰退していくのは目に見えている。

どんなに経済成長をしたって、子どもの数が減っていけば、国力が減退するのは避けられない。(後略)【8月29日 大村 大次郎氏(ビジネスライター) 「なぜ日本は子育て世代にダメージのある政策ばかり講じてきたのか…世界最速で高齢化が進む本当の理由」PRESIDENT Online】
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経済にとって非正規雇用増加が不可避ということであれば、非正規雇用でも正規雇用とそん色のない待遇が受けられるような雇用条件・政府施策の配慮が必要でしょう。それでは非正規雇用を増やすメリットがないということであれば、企業の便益を重視して国家の衰退を甘受するか・・・という問題にも。
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パレスチナ  ガザ地区の窮状 ラファ検問所は開放合意とのことだが・・・ 病院爆撃をめぐる情報戦など

2023-10-20 23:08:32 | パレスチナ

(ラファ検問所の外で開放を待つ救援物資を積んだトラック【10月20日 FNNプライムオンライン】)

【イスラエル軍の侵攻を前に電気・水も止まり、食糧・燃料も底をつくガザ】
南アフリカ・ジンバブエの旅行を終えて10日ぶりに帰宅しましたが、国際関係ニュースはほぼパレスチナ・イスラエル問題一色の様相。

10日前もイスラエルのガザ侵攻の地上戦は不可避の状況と見られていましたが、現在でもイスラエルは地上戦に突入はしていないものの、状況自体は変わっていません。イスラエルのガラント国防相は19日、ガザとの境界に集結するイスラエル軍に「(ガザを)もうすぐ内側から見ることになる」と演説しています。

この間に犠牲者は、特にイスラエル軍の空爆に曝されているガザ地区で増え続けています。

****ガザ、イスラエルの死者計5500人以上に****
パレスチナ自治区ガザの保健当局は20日、イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘によるガザ側の死者が4137人となったと発表した。イスラエル側と合わせると死者は5500人以上となる。【10月20日 共同】
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おびただしい情報をまとめると4点。ガザ地区の窮状、それを救うためのエジプト側ラファ検問所がいつ開くのか、そして今後の展開に大きく影響する、多くの犠牲者を出した病院爆撃の影響と情報戦及びヒズボラの動向・・・といったところ。

第1点目。イスラエルの包囲下にあり、イスラエルの地上戦実施に息をひそめるガザ地区では攻撃の舞台となる北部から約50万人の住民が南部へ避難していますが、その生活は電気も途絶え、水・食料・燃料も底をつく極限状態にあります。

****「水の供給量は5%以下に」ガザ地区の人道状況はさらに悪化 9日連続の停電で病院も“崩壊寸前”***
イスラエルとイスラム組織ハマスの大規模な戦闘をめぐり、国連人道問題調整事務所はパレスチナ自治区ガザの水の供給量が平常時の5%以下になっていると明らかにしました。

イスラエル軍はハマスによる攻撃への報復として、ハマスが実効支配するガザ地区の包囲を続け、水や燃料の供給を停止しています。

国連人道問題調整事務所によりますと、19日の時点でガザは9日連続で停電。地域の病院は一部の手術を中止したり、暗闇での作業を強いられたりしていて、崩壊寸前の状況だということです。

また、地下水源を利用した水の供給が平常時の5%以下に低下した一方で、燃料不足や道路の損傷により、ほとんどの地域で給水トラックが運行できなくなっていると指摘しました。【10月20日 TBS NEW SDIG】
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****ガザへの支援搬入行われず 国連機関「物が底つく」 トラック待機も開かぬ検問所****
バイデン大統領が合意したと表明したガザ地区への支援物資搬入。ただ、エジプトとの境界にある検問所は現時点でも開かれておらず、現地の状況は刻一刻と悪化しています。

■ガザへの“支援搬入”行われず
約3785人は今月7日以降、パレスチナ自治区ガザで命を奪われた人の数です。ガザの人々に降り掛かるのは空爆だけではありません。

避難をしている女性:「普通の生活、食べるもの、飲むものがありません。子どもをトイレに連れて行っても100人も並んでいます」

イスラエルの遮断により、ガザ地区には電力も物資も一切入っていません。国連の機関も、もはや支援ができない状況です。

国連パレスチナ難民救済事業機関 吉田美紀さん:「こういう緊急事態に備えて食料とか、それ以外の蓄えがあります。ただ最大15万人が避難してくるという想定で、そのキャパを超えているので本当にものが底をつくような状況です」(後略)【10月20日 テレ朝news】
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****病院は廊下まで負傷者、ガザ避難民「どうしたら生き残れるか」…パン購入に4時間待ち****
パレスチナ自治区ガザの北部から南部ハンユニスに逃れた約50万人とされる避難民の人道状況が深刻さを増している。イスラエルによるガザ封鎖で日常生活に欠かせない住居や食料、電気が足りない日々が続き、空爆で安全も脅かされている。

南部ハンユニス
読売新聞通信員によると、病院では負傷者が廊下まであふれている。避難先で家を確保できなかった数万人が学校や病院の軒下で夜露をしのぐ。ごみ収集車はガソリンがないため動かず、道にはごみが散乱し、異臭が漂う。市場の棚は空っぽだ。

まきで焼くパン店には、朝から人々が殺到している。ガザ北部から家族5人で逃れてきたイマード・ナジャラさん(30)は嘆く。「ここでは人間が生きていくだけの最低限のものすら得られない。家族は今、命の危機に瀕ひんしている」

ガザ北部の家がイスラエル軍の空爆で破壊され、約30キロ南のハンユニスに家族と逃れてきた中学生イスラム・マドフーム君(14)は連日、開店前のパン店に並ぶ。いとこのムハンマド君(14)と4時間ほど並んで買えたのは、「ホッブス」と呼ばれる丸く平たいパン数個だけ。家族や親戚30人が食べるには不十分だ。

2人は1日2、3回、5キロほど離れた国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が運営する学校まで水もくみにいく。(中略)

(家族・知人とともに避難してきたガラバウワイさんは)2部屋の小さな家を借りたが、15人では狭すぎる。床に縮こまり、重なり合うようにして眠る。水が出ないため、トイレの水も流せない。ガラバウワイさんは「想像を絶する生活が続いている。どうしたら生き残れるか」と嘆いた。【10月20日 読売】
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ついでに言えば、この状況を作り出している一方の当事者であるハマス指導者は海外で優雅なホテル生活とか。

****総資産6000億円 ハマスのトップ「5つ星豪華生活」 優雅な“安全圏”から攻撃見守る?****
■ハマスのトップ「5つ星豪華生活」
戦局の鍵を握るハマスのトップ。その居場所に批判が集まっています。(中略)

■優雅な暮らし?総資産6000億円
軍事衝突の発端となったハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃。その様子をテレビで見つめる男性。微笑んでいるように見えます。イスマイル・ハニヤはガザを実効支配するハマスの最高指導者です。

海外メディアは、こう批判しています。
英・テレグラム:「ハマスの指導者たちはカタールで5つ星の豪華な生活をしている」
タイムズ・オブ・イスラエル:「カタールの首都ドーハにある優雅な事務室で残忍な攻撃を見守っていた」(中略)
 
組織のトップなだけに具体的な生活ぶりは分かりませんが、ハニヤ氏の推定資産は約40億ドル、日本円で約6000億円と報じられています。海外の要人ともカタールで会談を行っていることから、歓迎されているのは間違いなさそうです。(後略)【10月19日 テレ朝news】
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もちろん、ハマス中枢がイスラエルの攻撃に曝されるガザを避けて海外に拠点を持つというのは「道理」ではありますが、現在のガザ住民の窮状を思えば、割り切れないものもも。

【20日に開放合意とのラファ検問所 ただし、トラック20台・・・】
第2点目。こうした窮状を救う一筋の希望となっているのが、イスラエルと良好な関係を持ち、ハマスなどのイスラム過激派に厳しい姿勢を取るエジプトが管理するラファ検問所。

ガザ住民らを救おうと、各地から集まったトラック数百台が救援物資を積んで検問所前に列を作り、開門の時を待っていますが、(日本時間20日22時の時点で)未だ検問所は閉じたままです。

アメリカはイスラエルを支持するものの、ガザ地区でのパレスチナ人の犠牲・惨状は国際世論を考えると極力避けたいところ。イスラエルを訪問したアメリカのバイデン大統領は、帰国時に機内からエジプト・シシ大統領とも電話会談、ガザ地区へ支援物資を搬入する合意をイスラエルとエジプトから得たと発表しています。

****米エジプト合意、20日にも人道支援=ガザへ水、食料など搬入へ―戦闘続き死者5200人****
イスラエル軍とイスラム組織ハマスの軍事衝突を巡り、イスラエルによる封鎖の影響で滞っていたパレスチナ自治区ガザへの支援物資搬入が実施されることになった。

バイデン米大統領が18日、エジプトのシシ大統領との電話会談後、記者団に明らかにした。最短で20日開始の見通しで、7日の戦闘開始後に水や食料、燃料などが極度に不足していたガザ住民への支援にようやく道が開かれた。ただ、人道状況の改善は限定的となりそうだ。(後略)【10月19日 時事】 
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イスラエル首相府は18日、ガザへの人道支援物資の搬入を認めるとの声明を出しましたが、実施時期は明らかにしていません。

ただ、合意によれば、ラファ検問所からガザ地区への搬入が認められたのはトラック20台分とのこと。

****米とエジプト ラファ検問所からトラック20台の人道支援物資搬入で合意****
パレスチナ自治区ガザへの人道支援について、アメリカのバイデン大統領はエジプトとの境界の検問所からトラック20台分の支援物資を運び入れることで、エジプトのシシ大統領と合意したと明らかにしました。(中略)

検問所の道路の補修に時間がかかることから、支援物資の運び入れは20日以降になるとの見通しを示しています。

ガザ側では国連が物資の受け取りや配給を担当するとしていて、「ハマスが物資を押収したり配給を邪魔したりしたら支援は終わる」と話しました。

一方、ラファ検問所からの外国人らの退避については、今回の合意に含まれていないということです。

バイデン大統領は「我々は人々を救い出すが詳細は言えない」と話しています。【10月19日 TBS NEW SDIG】
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開門は21日にずれ込むかもとの情報もありますが、なぜ速やかに開門しないのかも疑問ですし、トラック20~30台の支援物資では、現在の窮状を救うにはあまりにも少ないようにも思えます。
更に、ハマスへ物資が流れたと判断されれば、それも止まります。イスラエル・エジプトの判断でいかようにも。

基本的な問題は、今回合意はあくまでも物資搬入であって、外国籍を持たない一般住民の避難ではありません。外国人にしても、アメリカ人の避難さえ明らかになっていません。イスラム過激派が混じる危険がある住民避難はエジプトは認めないのでしょう。

一方ハマスも外国人等を「人質」としてガザに止めおきたい思惑もあるとも。
“中東ジャーナリストの池滝和秀氏は、「外国人とか外国籍保有者、そういった方々が(ガザ)南部にいた方が、南部へのイスラエルの攻撃を抑止できると。(退避活動を)ハマスが妨害しないとも限らない。(検問所の)人の通過については、まだ流動的」と述べた。”【10月19日 FNNプライムオンライン】

****国連総長がガザ検問所訪問、再開時期触れず****
国連のグテレス事務総長は20日、パレスチナ自治区ガザと境界を接するエジプト側の検問所前を訪れ、一刻も早くガザに物資を届けなければいけないと記者団に訴えた。検問所再開の時期には触れなかった。【20日 共同】
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【ガザ病院爆撃をめぐる情報戦】
第3点目。ガザ北部ガザ市の病院で17日、大きな爆発があり、500人とも言われる膨大な犠牲者が出たとされる件は、今後の国際世論の動向に大きく影響します。

アラブ世界ではすでにイスラエル批判が大きなうねりとなっており、アラブ諸国は対応を硬化させています。もしイスラエルの攻撃によるものとなれば、国際世論はイスラエルに厳しいものに変化します。

“米大統領、イスラエルへ出発 パレスチナ議長、会談拒否”【10月18日 共同】
“バイデン米大統領、ヨルダン訪問を延期 ガザ病院爆発受け”【10月18日 ロイター】
“病院攻撃は「国際法違反」 EU大統領が非難”【10月18日 共同】

問題はイスラエルによる攻撃か、それともガザ地区過激派に誤射によるものか・・・その実態がよくわからないこと。犠牲者についても、ガザの保健当局が発表した471人よりはるかに小さいとの情報も。

****ガザ病院爆発、死者は最大300人 「イスラエルに責任なし」=米機密文書****
パレスチナ自治区ガザの病院で17日に起きた爆発による死者の数について、米情報機関が「100─300人の幅のうち下限に近い水準」と推定していることが、ロイターが入手した米機密情報報告書で分かった。

ガザ市にあるアル・アハリ病院で起きた爆発を巡っては、イスラム組織ハマスが実効支配するガザの保健当局はイスラエル軍の空爆で引き起こされたと主張。ガザ保健当局は18日、死者数は471人と発表した。これに対し、イスラエルはパレスチナの武装組織「イスラム聖戦」によるロケット弾発射の失敗が原因だとしている。

ロイターが19日に入手した米機密文書は、インテリジェンス活動やミサイル動向のほか、オープンソースの映像や画像を含む入手可能な報告に基づき「イスラエルに責任はないと判断している」としている。

死者数については「100─300人の範囲の下限に近い水準と推定している」とし、まだ評価中であるため推定は変化する可能性があるとしながらも、「驚異的な人命の損失を反映している」とした。

また「(現場となった)病院では軽度の構造的な損傷しか確認されていない」とし、「病院の主要な建物には確認できる損傷はなく、衝撃によるクレーターも確認されていない」と指摘した。【10月20日 ロイター】
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欧州では「死者は最大50人」との分析も出ていますが、真相不明のまま、イスラム圏では反イスラエル感情が激しさを増しています。

当然のようにハマス側は、この事件を最大限に活用て、アラブ世界にイスラエル・アメリカの非道を訴えたい思惑があります。

****ガザ病院攻撃は「新たな転換点」、責任は米国に=ハマス最高指導者****
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの最高指導者、イスマイル・ハニヤ氏は17日、ガザ市内の病院に対する空爆で数百人のパレスチナ人が死亡したことについて、この攻撃の責任は米国にあると述べた。

ハニヤ氏はテレビ放映された演説で、米国がイスラエルに「侵略の隠れみの」を与えていると非難。「病院で起きた大虐殺は、敵の残忍さと敗北感の大きさを裏付けている」と述べ、今回の攻撃は「新たな転換点」になるとの見方を示した。

その上で、全てのパレスチナ人に対し占領者と入植者に立ち向かうよう促すと同時に、全てのアラブ人とイスラム教徒に対しイスラエルに対する抗議行動を起こすよう呼びかけた。【10月18日 ロイター】
****************

イスラエル側は、衝撃によるクレーターも確認されていない事に加え、ハマス戦闘員の音声なども公開し、過激派側の誤射をアピールしています。まさに情報戦の様相。

****病院爆撃めぐりイスラエル軍が「ハマス側」音声を公開 「イスラム聖戦のものだと言われている」「なんだって?」****
パレスチナ自治区ガザにある病院への爆撃をうけ、イスラエルへの非難が周辺の中東諸国に広がり、緊張が高まっています。中東各地に広がるイスラエルに対する抗議活動。抗議はエジプトやトルコ、そしてイランでも。レバノンでは、イスラエルに連帯を示すアメリカの大使館近くでも抗議活動が。(中略)

ガザを支配するイスラム組織ハマスは「イスラエル軍に空爆された」と主張していますが、イスラエル軍はガザの武装勢力「イスラム聖戦の誤発射」だとして、「ハマス側」の会話だとする音声を公開しました。

「ハマス側の会話」とする音声
「こんなミサイルが落ちるのを見るのは初めてだ。『イスラム聖戦』のものだと言われている」
「なんだって?」 「イスラム聖戦のものらしい」 「我々のものなのか?」 「そうらしい」(後略)【10月19日 TBS NEWS DIG】
********************

更に、住民が避難するガザのキリスト教教会も被害に。こちらはイスラエル側の攻撃の巻き添えのようです。

****ガザのギリシャ正教教会、イスラエルが空爆 正教会が非難****
エルサレム正教会総主教庁とパレスチナの保健当局によると、パレスチナ自治区ガザにあるギリシャ正教の教会が夜間にイスラエル軍に空爆された。教会には行き場を失ったパレスチナ人数百人が避難していたという。

ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが運営する政府メディア局によると、キリスト教徒のパレスチナ人18人が死亡。

イスラエル軍は過激派の司令部を攻撃した際に教会の一部が損傷したとし、現在、調査を進めていることを明らかにした。

パレスチナ当局によると、教会にはイスラエルの攻撃から逃れるために少なくとも500人のイスラム教徒とキリスト教徒が避難していた。

エルサレム正教会総主教庁は「ガザ市の教会を破壊したイスラエルの空爆を最も強い言葉で非難する」との声明を発表。(中略)

ガザには230万人が暮らしているが、キリスト教徒は推定1000人で大半がギリシャ正教の信者。【10月20日 ロイター】
*******************

いずれにしても、昔と違って「戦争で民間人が死ぬのは当たり前」という世界では(少なくとも建前としては)なくなっています。今後イスラエル軍がガザ地区への地上部隊を含む侵攻を行う場合、世界が注視するなか、民間人犠牲を極力避ける必要があり、大きな制約になるかも。一方、ハマスは「人間の盾」に住民を使うことも。

【ヒズボラ動向】
イスラエルの軍事作戦に直接的に影響するのが第4点目のハマス以上の戦闘力を有するレバノン・ヒズボラの動向。シーア派ヒズボラは、イランにとっては「外様」的なスンニ派・ハマスと違って、イランとの関係が格段に強い組織ですので、イランの参戦にまで影響が及びます。

ヒズボラが本格参戦すれば、イスラエルは南北2面に戦線を持つことになり、更にイランもとなれば・・・イスラエル対ハマスとは次元が違う「中東戦争」にもなってきますが(日本を含めた世界経済への影響も)、すでに話が長くなったので、そのあたりはまた別機会に。
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南アフリカ 「トラベル イズ トラブル」 ツアー添乗員は大忙し 客はお気楽

2023-10-19 08:11:24 | 身辺雑記・その他

南アフリカ 「トラベル イズ トラブル」 ツアー添乗員は大忙し 客はお気楽

(ジンバブエとザンビア国境にかかるヴィクトリアの滝 全長が2kmほどあるので、地上から全体を撮影するのは無理(後日、ヘリコプターから空撮も行いました)
落差100mを超える滝の真上でプールを楽しむ観光客も。もちろん自己責任。日本の旅行社では企画しないアクティビティでしょう。 ザンビア側から入るようです  画像が曇っているのは水しぶきのせい)
 
現在、南アフリカからの帰国便の機内です。

「トラベル イズ トラブル」・・・・トラブルに見舞われた旅行ほど、その記憶が鮮やかに残ると常々考えています。(もちろん程度問題はありますが)

今回は個人手配ではなく、ツアーを利用していますので、多少のトラブルがあっても、個人的には不安感ゼロ。 でも添乗員さんは大変。

一昨日、二日間のジンバブエ観光(ヴィクトリアの滝やチョベ国立公園でのサファリ)を終えて南アフリカのケープタウンへ移動(同じ南ア・ヨハネスブルグで乗り換え)・・・・のはずでしたが・・・。

まず、ジンバブエの通信事情がすこぶる悪い。
ホテルのWiFiは問題なく使えるものの、レンタルして持参したWiFiルーターは結局ホテルでも空港でも使えず。

空港のチェックインカウンターもWiFiを使って処理しているとのことで、通信速度が非常に遅くなかなか進まない・・・結局途中でシステムダウン。チェックイン作業が中断。

まあ、フライトまで時間があったので、それは特段の問題なし。
問題はここから。

ようやくチェックインしたものの、南ア・ヨハネスブルグフライトが1時間遅れるとのこと。待つことしばし・・・そろそろと思ったら更に遅れるとのこと。

ヨハネスブルグでケープタウンへの乗り継ぎがあるのですが、どうなるのか・・・・
添乗員の話では、同じ航空会社なので、なんとか対応してくれるだろうとのこと。

なんだかんだでヨハネスブルグに到着したのがすでに夜間。
乗り継ぎ時間が45分ほどで、単に飛行機を替えるだけでなく、南アへの入国審査もこの間に行う必要があります。

入国審査のカウンターには長蛇の列。
どう考えて時間内に乗りかえるのは無理ですが、利用航空会社の者の案内で入国審査を通常とは別枠でやってもらえる・・・・はずでした。通常はそうやっているとのこと。

バトル・その1 イミグレの管理者 vs. 航空会社係員
しかし、この日のイミグレの管理者(中年の太った白人)は、一切そのような話には耳をかしません。 

白人・小太りのイミグレの管理者は腰にてを当ててて仁王立ち。ここから先は一歩も通さない・・・という感じ

黒人の小柄な航空会社係員(男性と女性2名)は「そう言わずに。いつもやってもらっています・・・そうしないとこの日本人16人が飛行機にのれないです。飛行機は彼らの到着を待っています」みたいなことを言ってるのでしょう。

私らのほかにも、ヨーロピアンのグループもいて、何やらそちらは激高しています。

しかイミグレ管理者は「規則は規則だ」と頑として譲らず。

様子を眺めていたツアー添乗員は「時間の無駄。この間抜けで石頭のおっさんが認めるわけない」とあきらめて、通常の列の最後尾に並ぶことに。

イミグレ管理者の圧勝。

バトル・その2 ツアー添乗員 vs. 派手な黒人女性
私らの後ろにも長い列が。 進まない列に苛々しながら待っていると、後方から若い黒人女性が並んでる乗客を押しのけてやってきます。まつげを大きくカールさせた派手なメイク・服装で、日本ならモデルさんみたいな雰囲気。

「そこ、通して。飛行機出ちゃうの!」なんて言いながら。

その女性の前に立ちはだかったのが私たちのツアー添乗員(40歳台? 50前後?の女性。)

「ダメ。列の後ろに並びなさい!」
  「飛行機に遅れるのよ!」
「それは私たちも同じ状況よ」といった押し問答を激しくたたかわせていましたが、黒人女性はあきらめました。
  (仕方なく後ろに下がりながら)「どうして通してくれないの。遅れたらあなたのせいよ!」
「間違ってるのはあなたよ!」

ツアー添乗員の勝利

タイムアップ
何とかイミグレを通過して、航空会社係員の案内で空港内を走る16名。
最初は本当に走っていましたが、私を含め高齢者がほとんどなので、後半は急ぎ足で。

向かった先は手荷物検査。 時刻は午後8時を少し過ぎたあたり。飛行機は8時の予定ですが、10分程度なら待ってくれるはず・・・(親切ということではなく、航空会社のせいで乗り遅れをつくると、代替便や今夜のホテルなど、航空会社も面倒になりますので)
 
検査を始めたところ、セキュリティチェックの女性が作業中止を宣告

「飛行機はもう出発したわ。」
航空会社内部でどういう話になっていたのか・・・とにかく間に合わなかったみたい。万事休す。

泣きっ面にハチ
仕方ないのでに一部チェック済みの手荷物を回収。場所を変えて、これからどうするかを考えることに。

機内預けのスーツケースは、本来はヨハネスブルグで各自がピックアップして、改めてケープタウン行きに預ける手順ですが、それをやっていたら絶対に乗り継ぎに間に合わないので、航空会社の係員がケープタウン行きに積み替えることになっていました。

ただし、荷物の乗り継ぎが間に合わないこともあるので、スーツケースなしでも今晩・翌朝すごせるように、各自、1日分の着替え・薬・化粧品などは手荷物でもっていく手はずになっていました。(もともと、そのような「綱渡り」的な乗り継ぎでした)

今回は人間のほうがケープタウンに行けなくなったので、スーツケースもヨハネスブルグで回収することに。

ヨハネスブルグ空港で各自がスーツケースを受け取って・・・・でもツアー客一人のスーツケースが足りません。
どこに消えたのか? 航空会社の方で探しますが、見つかりません。

考えられる可能性は、手違いで回収できずにそのままケープタウン行きに乗せられて、ケープタウンへ荷物だけ行ってしまった・・・でも、その確認もできません。

(全員分の荷物をヨハネスブルグで回収する判断が誰によっていつなされたのか・・・このあたりの事情は今でもよくわかりません)

今夜どうするのか? ケープタウンへはどうやって行くのか?
まずはケープタウンへの代替便を確保する必要があります。

そのほか、今夜のヨハネスブルグでのホテルを探し、予約していたケープタウンのホテルをキャンセルする必要も。

添乗員は大忙し。添乗員・航空会社・日本のツアー会社で調整。

ツアーメンバーは空港内で待機。
時刻はすでに9時過ぎ メンバーも「今夜はもうフライトはないでしょう」とあきらめムード。

結局、明日朝一番、6時のフライトを確保。今夜はヨハネスブルグのホテルで宿泊することに。(航空会社負担でしょうか)

なんだかんだでホテルにチェックインしたのが10時過ぎ。
本来は「おひとり様」の私は一部屋使用していましたが、この緊急避難で、今夜はおなじ「おひとり様」男性と相部屋に。

夕食がまだ。ホテルのレストランはとっくに終了。
添乗員がタクシーでマクドナルドに向かい、人数分のハンバーガーを購入してくることに。

ハンバーガーの必要有無を確認していると、ツアーメンバーの一人は「私はあれがいいわ・・・」 さすがに添乗員もムッとした様子で「ごめんなさい。この状況なので全員同じものになります」 しょりゃそうだ。

そのハンバーガーが届いたのが11時頃

普段体を動かすこともないのに、急に空港内を走ったりしたので、夜中に足がつりまくり。
睡眠時間は2時間ほどか。

翌朝は3時半起床で6時フライトに。

怒涛の観光スケジュール消化
翌朝なんとかケープタウンに到着 昨夜ヨハネスブルグ空港で紛失したスーツケースを無事回収。

ただし、本来スケジュールからすでに30分から1時間遅れで観光スタート。

運悪く、最初に向かったテーブルマウンテンが大混雑で、ロープーウェイに乗るまで長時間待たされて更に遅れが拡大。

もともとそういうトラブルがなくても、ケープタウン観光は通常以上に目いっぱい組み込まれており、相当にタイトな時間管理になることがわかっていましたが、この事態で状況は悪化。

予定が押しまくりで昼食がとれたのが4時頃。
「申し訳ないですが昼食は45分ですませてください」と分刻みスケジュールに。

というのは、そのあとに訪れる予定の植物園の最終時間がきめられているため。

45分で・・・食べるのにそんなに時間はいりませんが、料理が出てくのに時間がかる。
添乗員の話では、「お店についたら、料理はテーブルの上に並べられているので、申し訳ありませんが・・・」なんて言っていましたが、ちっともそんなことはありません。

パックに包んでもらってバスの中で食べたら・・・といった提案もありましたが、(そんなパックに詰められるような料理ではありませんでしたが、それはともかく)「そんなことを頼んだら、包むのにまたすごい時間がかかる」とのこと。

日本のように客の事情に併せて最大限の配慮を・・・といった世界ではありません。

現地ガイドも要領が悪い・・・・
喜望峰近くのペンギンのコロニーを見学したのですが、見学後に支払いを行っていた現地英語ガイドがなかなか終わりません。

業を煮やした添乗員は「先にバスに戻ってるわよ!」とおかんむり。
でも現地ガイドから聞いていたバス(遠くのバス駐車場に駐車しているはず)の待ち合わせ場所が違っていて、急いでいる中で16名はうろうろさまようことに。

ようやく戻ってきた現地ガイド、WiFi電波事情が悪く、スマホ決済の入力ができなかったとのこと。

でも、現地ガイドなら、そのあたりの地域事情をわかっているはずだろうに・・・・といった感も。

車内でのガイド氏の謝罪(添乗員に促されたみたい)に、一部メンバーからは「気にしないで」という声もありましたが、添乗員も私も(それ以上責める気もありませんが)「プロの仕事として、それは少し違うのでは・・・」


植物園は多少は待ってもらえる話になっていましたが、大きくずれこんだこの時点ですでに電話しても誰も出ない状態になっていました。

しかし、もうあきらめて・・・・という訳にはいかないようです。
最近は旅行業法のコンプライアンスが厳しく求められており、間に合わなくてもとにかく現地に行って、すでに閉まっていたことを確認する必要があるとのこと。

また、事前に「予定」として明示したプログラムについては、現地の都合でショートカットすることも認められていません。それは返金・賠償の対象にもなります。

という訳で大きく遅れて植物園に到着したころ・・・まだ開いていました。
私ら以外にも、これから入る客も。どういう時間管理になっているのかは知りません。とにかく結果オーライ。

遅い昼食をすませたばかりですが、「予定」のレストランでの夕食。

そうしたなかで、ショッピングモールは閉店時間となっており、さすがにこれはアウト。お買い物はできませんでした。(私は買い物しませんので、むしろ助かった・・・というところですが、女性客はよく買う・・・不思議なくらい)

ホテル事情についてもいろいろありますが、ひとつだけ。

周知のように南アフリカの治安は非常に悪いことを反映して、ホテルのセキュリティーチェックが厳しい。

エレベターに乗るのにカードキーが必要なのは日本でもよく見るところですが、南アの場合、自分の宿泊階にしか行けません。

ツアー客がトラブル対応で添乗員に連絡しても、客と添乗員のフロアが異なると、添乗員は客の部屋には行けません。どうしても・・ということなら、いったんレセプションに降りて交渉ということに。

と、いろんなことを書きましたが、(添乗員の頑張りもあって)それでもいろんなところをまわれていい旅でした。

トラブル最中も添乗員任せで、自分を含めてツアー客はお気楽。
そうしたトラブルのせいで印象に残る旅にもなりました。

ひとつ間違いなくいえるのは、こうしたトラブルに一人旅で遭遇していたら・・・南アの異郷で呆然と立ち尽くすだけだったでしょう。

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ジンバブエ  薄れゆく「民意の反映」

2023-10-16 05:44:28 | アフリカ

(ドキュメンタリー映画「プレジデント」より)

現在、南アフリカ・ジンバブエ方面を旅行中です。

15日・16日は、世界三大瀑布として知られるヴィクトリアの滝観光やチョベ国立公園(公園自体はボツワナに位置しています)でのサファリ観光のためジンバブエに滞在しています。

ジンバブエについては、故ムガベ前大統領時代の天文学的数字のハイパーインフレーションや強権支配による政治混乱について、たびたびこのブログでも取り上げてきました。

「ムガベは初めは黒人と白人の融和政策を進め、国際的にも歓迎されてきたが、2000年8月から4,500人の白人が所有する4,000箇所以上の大農場の強制収用を政策化し、協同農場で働く黒人農民に再分配する「ファスト・トラック」が開始された。 」【ウィキペディア】

こうした黒人優先政策が経済崩壊・ハイパーインフレーションを招く一方で、一定の国民からは歓迎もされました。

ムガベ前大統領の後継者をめぐる混乱のなかで、軍部を背景に権力を掌握したのがナンガグワ大統領ですが、ムガベ前大統領同様に、その政治は「民主的」とは言い難いものがあります。

下記はムナンガグワ氏が再選を果たした8月の選挙をめぐる記事です。

*****ジンバブエ大統領選、現職が再選 野党陣営受け入れ拒否****
アフリカ南部ジンバブエで大統領選挙が行われ、選挙管理当局は(8月)26日、現職ムナンガグワ大統領が勝利したと発表した。一方、主要対立候補だった野党指導者チャミサ氏の陣営は結果受け入れを拒否している。

選挙管理当局の発表によると、得票率はムナンガグワ氏が52.6%で、チャミサ氏が44%だった。
チャミサ氏は27日、結果を受け入れないと表明。新政権を樹立すると述べたが、詳細は明らかにしなかった。

一方、ムナンガグワ氏は「勝利をうれしく思う」と述べ、「選挙戦が適切に行われなかったと感じる者はどこに行けばいいのかを知るべきだ」と述べた。

大統領の任期は2期までと憲法で定められている。
ジンバブエでは37年間政権を握っていた故ムガベ前大統領が2017年に軍のクーデターで失脚。ムナンガグワ氏が権力を掌握したが、1期目はインフレ高進や外貨不足などで経済が大きく混乱した。【8月28日 ロイター】
*********************

1期目の2018年大統領選挙については、ドキュメンタイリー映画「プレジデント」に、その薄れゆく民主主義の様が描かれています。

****薄れゆく「民意の反映」 ジンバブエの混乱から見る「選挙」****
選挙で多数の有権者に「任せる」と判断されたからこそ、かじ取りの資格が生じる。

当たり前のようだが、世界の現実はどうだろう。結構あやしい。アフリカ南部のジンバブエで8月、大統領選があった。現地は不正の有無で大混乱だ。日本の私たちも投票の意味について考え直す機会になるのではないか。
 
「私は全国民の大統領になる」。ジンバブエのムナンガグワ大統領(80)が4日、そう宣誓した。8月23日の大統領選で2回目の当選を果たしたとされるが、野党候補チャミサ氏(45)の陣営は「大規模な不正があった。勝ったのはわれわれだ」と選挙のやり直しを求めている。

国連のグテレス事務総長も「選挙監視人の身柄拘束や有権者への脅迫、嫌がらせ、強制があった」と述べている。この混乱、実は5年前に続いて2回連続なのだ。

ジンバブエといえば、1980年の独立から37年間にわたって実権を握ったムガベ前大統領が世界的に有名だ。2000年代に起きた天文学的なハイパーインフレで日本でも知られるようになった。

「100000000000000」と印刷された当時の100兆ジンバブエドル紙幣は、廃止された今もコレクターズアイテムとなっている。

もともとは英国からの独立闘争の英雄だったムガベ氏が17年にクーデターで失脚し、側近として独裁政権を支えてきた元副大統領のムナンガグワ氏が後を継いだ。18年の大統領選は、変革を掲げるチャミサ氏との激戦になった。

この年の大統領選を記録したドキュメンタリー映画「プレジデント」が今、日本全国で順次公開中だ 。1時間55分の作品を見て驚いた。前半と後半の落差が大きすぎるのだ。

野党陣営のチャミサ氏が街頭に出ると、各地で民衆が会場を埋め尽くす。選挙運動は希望と熱気に満ちている。ついに長い圧政と腐敗から抜け出す時が来た。特定の為政者が好き放題に権力を乱用する時代は終わりだ、と。

ところが、映画が半分も進まないうちにスクリーンは重苦しい空気に包まれる。開票結果が一向に発表されず、公正に集計されているのだろうかと不信感が充満する。なんでこんなことに--。 

この映画を監督したデンマーク出身のカミラ・ニールセンさんがオンライン取材に応じた。「18年の大統領選では40カ国以上から選挙監視団が来ました。建国以来初めて自由で公正な選挙が行われると期待が高まりました」。

だが、この選挙監視は十分に機能しなかったという。「与党側の裏工作に対して警告すべきだったのに、監視団の仕事は雑でした。その結果、ジンバブエの人々を失望させてしまった。不当逮捕や人権侵害が大規模に広がり、経済危機も進んで、ジンバブエは再び暗黒時代を迎えています」

ニールセン監督が当局に監視されながらもカメラを回してから5年。再び出馬したチャミサ氏は今年も敗れた。

ニールセン監督は「自由で公正な選挙は民主主義にとって最重要です」と強調する。一方、あからさまな不正選挙は考えにくい日本を含む先進国の側に対しても注文があるそうだ。
 
「民主主義の基盤があったとしても、きちんとしたリーダーを選ぶこと、投票率を上げること、投票に対する無関心をなくすことが非常に大事です。それがなければ、独裁者にタガを外させ、極端な政治を許してしまうことにつながる。真剣に考えて投票に行くべきです」
 
これは日本の私たちにとって耳が痛い言葉だ。例えば8月の埼玉県知事選では投票率が過去最低の23%台に落ち込んだ。有権者4人のうち3人以上が棄権したわけだから、多数派は「自分の一票なんてどうでもいい」と感じていたのかもしれない。

民主主義脅かす無関心
「日本では政治が抱える問題が解決されないまま次の問題が起きて『複雑骨折』が生じています。一党優位が続き、政府側は国民があまり政治に興味を持ってくれなくていいと考える。有権者は受け身で信任させられ、政治参加に熱意を持てない状態です」。

そう解説するのは、日本の現代政治に詳しい中野晃一・上智大教授(政治学)だ。一例として挙げるのが「首相の専権事項」と称してまかり通る「解散権の乱用」である。
 
憲法7条に基づく衆院の解散は、建前こそ「国民に信を問う」だが、政権にとって最も都合の良い政治的タイミングが計られるのが常だ。

「民意を黙らせるために選挙に持ち込み、『選挙で勝った』と全権委任されたかのように振る舞う。有権者が政治家をコントロールするためでなく、政府が世論を抑え込むために選挙をやるところまできてしまっています」

この状況を招いたことに対して中野さんは「政治学の怠慢でもあります」と自省的に語る。「欧米ではポピュリストの政党や民主的でない勢力が台頭し、『民主主義の後退』を問題にするようになってきた。日本でも選挙を通じて明らかに民主主義が形骸化してきています」
 
中野さんの観察では、日本では選挙が始まる日には選挙戦がほぼ終わっている。「期日前投票が盛んに奨励されますが、公示直後に投票すれば選挙活動を何も見ずに選んでいることになる」。

一方、公職選挙法では事前運動はできないことになっているが、衆院解散が近いと察知した人たちはポスターを張り替えたり、突然「国政報告会」を開いたりして、事実上の選挙戦を始めている。現職や世襲政治家にとって有利で、新陳代謝が起きにくい仕組みなのだ。
 
そこで懐かしいセリフが持ち出された。「関心がないといって寝てしまってくれればいい」。無党派層について、00年の衆院選の前に当時の森喜朗首相が語った言葉だ。選挙こそ民主主義の基盤だという意識が希薄だから、そういった本音が漏れてしまうというのである。

「なのに政治家もメディアも、政治学の学界すら危機感が足りなすぎると思います」。そう話す中野さんに、打開策を尋ねた。
 
「一般に言われるほど今の若者は政治に無関心ではありませんよ」。大学の教壇に立つ中野さんは希望を捨てていないようだ。「環境問題や入管法、同性婚、選択的夫婦別姓など、若い人たちは前の世代よりも人権に関わることに問題意識を持っている印象があります」。

そうした社会の課題は、まさに政治が解決すべきテーマだ。投票に行く前提としての知識を持ち、タブー視せずに議論して、投票行動につなげていくプロセスが重要だという。
 
「かつての中選挙区制では投票率が上がると自民党の勝ち幅が大きくなることがありました。今では与党の組織票と低投票率の関係がよく指摘されます。でも、投票率を上げるべきなのは有利不利の問題ではありません。きちんと民意を反映させましょうよ、という当然の話なのです」
 
投票に行っても政権が代わらないジンバブエ。そして、「どうせ変わらない」と投票せずに諦めてしまうムードが漂う日本。ジンバブエの選挙を映画で追体験すると、途中の過程が正反対なのに結果だけは共通していることに気づく。棄権するなんて、モッタイナイ。【9月14日 毎日】
***********************


ジンバブエの人が政治状況についてどのように考えているのか知りたいところではありますが、今回旅行はツアーを利用しており、観光スポットとホテルをつなぐだけで、政治状況への人々の思いはもちろん、街の様子すらまったくわかりません。

今宿泊しているホテル(現地ではかなり大きいホテルです)のフロントにはある人物の写真が掲げてあります。まだ老衰していない頃の故ムガベ前大統領のように思うのですが・・・・

チョベ国立公園のあるボツワナでは初等教育が無料だという話をジンバブエ側のドライバーが添乗員から聞いて驚いていたという話もありました。

なお、ハイパーインフレーションの結果、ジンバブエでは自国通貨は見捨てられ、米ドルが流通しています。
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南アフリカ  アパルトヘイトへの抵抗「ソウェト蜂起」を象徴するヘクター・ピーターソン

2023-10-15 06:00:43 | アフリカ
(抱きかかえられているのが警官に射殺された13歳のヘクター・ピーターソン 隣で泣き叫んでいるのが彼の姉 ソウェト蜂起を象徴する写真です。)

現在、南アフリカとジンバブエのヴィクトリアの滝などを観光しています。
そのなかで訪れたのが、南アフリカ・ヨハネスブルグのソウェト地区 にある「ヘクター・ピーターソン博物館」

ヘクター・ピーターソンという人物は、アパルトヘイト体制下で1976年に起きた「ソウェト蜂起」で、警官によって13歳の若さで射殺された少年で、アパルトヘイト体制への抵抗運動の最初の犠牲者となった人物です。

1976年の「ソウェト蜂起」・・・リアルタイムでTVなどで見聞きしたはずですが、記憶がありません。

****ソウェト蜂起****
1976年6月16日に南アフリカ共和国トランスヴァール州(現在のハウテン州)ヨハネスブルグ南東部のソウェト地区で発生したアフリカ系住民による暴動事件である。

背景
1976年、アパルトヘイト政策を敷く南アフリカ政府は、学校でアフリカーンス語の授業の導入を決定。アフリカーンス語を「白人支配の象徴」と見なす黒人、特に学生達の間に激しい反発が起こり、数週間に亘って黒人学生が授業をボイコットする事態に発展していった。【ウィキペディア】
************************

アフリカース語とはざっくり言えば、オランダ系白人(アフリカーナー)が使用して言語です

オランダ系白人は、その後に進出したイギリスによって駆逐され北部に追いやられていきます。

結果、南アの支配構造は、金とダイアモンドの採掘権を握ったイギリス系白人を頂点として、その下にオランダ系アフリカーナ、その下に有色のカラード、底辺に黒人がおかれることになります。

ただ、首相を出して南ア共和国政府を主導したのはアフリカーナーで、黒人居住区と白人居住区を分ける人種隔離政策(アパルトヘイト)を始めたのもアフリカーナー政権です。

*****アフリカース語 アフリカーナー****
アフリカーナー(アフリカーンス語)は、アフリカ南部に居住する白人のうち、ケープ植民地を形成したオランダ系移民を主体に、フランスのユグノー、ドイツ系プロテスタント教徒など、信教の自由を求めてヨーロッパからアフリカに入植した人々が合流して形成された民族集団である。現在の南アフリカ共和国やナミビアに多く住んでいる。

言語はオランダ語を基礎にして現地の言語等を融合して形成されたゲルマン系言語であるアフリカーンス語を母語とする。(中略)

南アフリカ共和国の白人(2009年の推計で国民の9.1%を占めている)は、イギリス系が19世紀末から現在に至るまで金とダイヤモンドの鉱山経営によって経済面で主導的立場を担ってきたのに対し、アフリカーナーは基本的に農民として暮らす人が多かった。(中略)

南アフリカ連邦期(1910年-1961年)
1910年の南アフリカ連邦成立後、アフリカーナーは政治面で主導的立場を次第に奪われたが、連邦時代56年間の首相7人の内6人はアフリカーナー出身であった。(中略)

また、1925年にはアフリカーンス語がそれまで英語と共に公用語だったオランダ語に替わって、南アフリカ連邦の公用語となっている。

アフリカーナー・ナショナリズムの担い手は、イギリス系白人と対抗関係の中で、アフリカーンス語を話す白人の文化的、経済的後進性を自覚した聖職者、教師、知識人、実業家などであった。

(中略)戦後の1948年にアフリカーナーを支持母体とする国民党が政権を握り、それ以後、名目的な「分離発展」をうたいながら、国際連合が「人類に対する犯罪」と呼んだアパルトヘイト(「分離」という意味のアフリカーンス語)制度を強力に推進していった。

それは、経済面でイギリス系に対して劣位に置かれたアフリカーナーが政治、警察、軍隊といった公権力を奪回することでもあった。(中略)

1958年に連邦首相に就任したヘンドリック・フルウールトは熱烈なアフリカーナー・ナショナリストであると同時に共和主義者であり、1961年に南アフリカはイギリス連邦から離脱し、共和制を採用する南アフリカ共和国となった。

南アフリカ共和国成立以後(1961年 - )
南アフリカ共和国のアパルトヘイト体制はイギリス人や他のヨーロッパ系白人をも最優遇する制度であり、少数民族である白人政権は、国外からの白人移民を奨励し、ポルトガル人などが流入した。

他の人種は当初は参政権もなく、印僑→カラード(マレー人、コイコイ人を含める)→黒人の順に、職業・教育・結婚・居住などあらゆる面で、法の下の不平等によって搾取された。最底辺に位置づけられた黒人は、最後まで参政権もなく、土地条件の良くないバントゥースタン諸国(かつて南アフリカ共和国に存在した自治区および「独立国」。南アフリカ政府によってホームランドと呼ばれた。) に縛り付けられたり、或いは生まれた土地から強制的に立ち退きを余儀なくされるなどした。

脱植民地化が進む時代に逆行するアパルトヘイト体制は、国際社会から問題視されていたが、この制度によって経済的に利益を得たのは、この時代に生きた南アフリカの白人だけではなく、豊かな鉱山資源を安価な黒人労働力で採掘できた日本を含む西側諸国の資本と、それと結びついた関連企業も含まれていた 。【ウィキペディア】
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当時日本人が南アで「名誉白人」と称され、有色ながらも白人並みに待遇されていたのは記憶にあります。

そしてソウェト蜂起、その象徴となったのがヘクター・ピーターソンの死でした。

****ソウェト蜂起 子供たちの信頼を失った日****
1976 年 6 月 16 日、ヨハネスブルグのソウェト地区で、推定 20,000 人もの子供たちが学校から通りに繰り出しました。

地元の学校でのアフリカーンス語の強制に対する抗議の声を上げるためです。アフリカーンス語は、圧政者の言語であると多くの人にみなされていました。

1974 年のアフリカーンス語中間法令では、すべての黒人の学校で、アフリカーンス語と英語を半々に使用して教えることを強制していました。

6 月 16 日、ソウェト学生代表評議会(SSRC)の行動委員会の主催で、オーランド スタジアムに学生たちが集まりました。行動委員会が統制を強調したので、平和的な抗議行動と考えられ、多くの教師も支援しました。

行進が始まると、学生たちは「アフリカーンス語反対」、「アザニア万歳」、「学生にアフリカーンス語を学べと言うなら、フォルスター首相がズールー語を学べ」といったスローガンを掲げて歩きました。


行進のルートを警察が封鎖していました。行動委員会は学生たちに警察を刺激しないように促して、別のルートで行進を続け、オーランド高等学校の近くまで進みました。

警察が群衆に向かって放した犬を、群衆が石で打ち殺して対抗し、学生と警察の間での衝突は収拾がつかなくなりました。そして、警察が子供たちに発砲を開始しました。その日のうちに 176 人が殺されました。抗議はすぐに国中の地区に広がりました。

ヘクター・ピーターソン(13)は、ソウェト蜂起時にアパルトヘイト警察によって射殺された最初の子供たちの 1 人であり、ブイサ・マクボに抱えられて運ばれる彼の写真は、この日の象徴的な画像となりました。写真は報道写真家、サム・エンジマが撮影しました。

ソウェトのヘクター・ピーターソン博物館。ソウェト暴動は、今ではソウェト蜂起として知られており、南アフリカ内外でのアパルトヘイトへの抗議運動が盛り上がるきっかけとなりました。【Africa Media Online】
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アパルトヘイトを主導したのがアフリカーナー政権であったという事情もありますが、イギリス系白人・英語が批判の矢面に立っていないあたりに、イギリスの植民地支配体制の狡猾さがあるのかも。
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南アフリカ  アパルトヘイトが終わっても今なお貧困と格差

2023-10-12 19:48:56 | アフリカ
【白人割合は1割未満 大きな格差】
今、南アフリカに向かう飛行機の中にいます。(正確に言えば、経由地のシンガポールに向かう機内です。)
ヴィクトリアの滝や喜望峰などを観光するツアーです。サファリ観光もあるみたい。
ヴィクトリアの滝観光ではジンバブエのホテルに宿泊します。

アフリカはエジプト以外(エジプトもアフリカだとすれば)初めて。いつもの個人手配の旅行はハードルが高いように思われ、安心なツアーを選んだ次第。

それにしても、やはり遠い。
シンガポールまで7時間、そこからヨハネスブルグまで10時間、おまけにシンガポールで8時間の乗継待ち。
気が遠くなります。

いささか難行苦行の趣もありますが、たまにはアフリカを見てみるのもいいかな・・・ということで。

南アフリカに関する記事は殆ど見かけませんが、たまたま出発前に下記のような人口に関する記事が。

****南ア人口、22年時点で6200万人に増加=国勢調査****
南アフリカ統計局が10日発表した国勢調査によると、国内人口は昨年時点で6200万人となり、2011年の5180万人から増加した。

人口の約8割が黒人、白人は1割以下だった。

昨年時点の移民は240万人超。隣国ジンバブエからの移民が最大の45.5%を占め、次いでモザンビーク、レソトとなった。

統計局は「国家間の移動は主に、経済機会の模索や政情不安が理由だが、環境面での危険が理由になるケースも増えている」と指摘した。

南アの国勢調査は、1994年のアパルトヘイト(人種隔離)政策撤廃後の民主選挙以来4回目。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)でデータ収集が滞るなどし、10年超ぶりの実施となった。【10月11日 ロイター】
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白人は1割以下・・・以前、7~8%程度という数字も見たような気もします。
もちろん、アパルトヘイトが終わり、数では圧倒的な黒人が政治的主導権を握っているとは言え、経済的面では未だ白人が大きな力を有しており、また経済格差も大きなものがあるのでしょう。

かつてアパルトヘイトに苦しみ、マンデラ元大統領を指導者とする運動でアパルトヘイトを終わらせたこと、アフリカにあっては有数の経済大国でBRICSのメンバーであること(現在は経済規模ではナイジェリアが上回っているようです)・・・そんな程度しかイメージがありませんので、南アフリカの簡単な概要を。

****「南アフリカってどんな国?」2分で学ぶ国際社会****
アフリカ南部
南アフリカってどんな国?
南アフリカはアフリカ大陸の最南端に位置する国で、ナミビア、ボツワナ、ジンバブエ、モザンビーク、エスワティニ、レソトと国境を接しています。

標高1200m以上の高原が海岸近くまでせまり、平野は多くありません。

東部は海洋性の温帯で、西部は乾燥しています。テーブルマウンテンのあるケープタウンの周辺の海岸は地中海性気候で、ワインの生産が盛んです。

ケープタウンのボルダーズビーチには、ケープペンギンが生息しています。その北方のクランウィリアムは、この地域のみに自生するルイボスティーというハーブティーで有名です。

アパルトヘイトの歴史
17世紀半ばからオランダ、19世紀前半からはイギリスの植民地となりました。ダイヤモンドが発見され、入植したオランダ系(ボーア人)とイギリス系との間で対立が激化し、ボーア戦争へと発展しました。

1910年に、イギリス自治領の南アフリカ連邦として自治を獲得しました。白人優遇策が採られ、1948年、アパルトヘイト(人種隔離)法が制定されました。

これに対して、ANC(アフリカ民族会議)が武力闘争を行い、国際世論を味方につけ、ようやく1991年に撤廃されました。

1994年、全人種が参加する初めての総選挙が行われ、ANCを率いてきたネルソン・マンデラが大統領に選出されました。

世界最悪のジニ係数
マンデラは、すべての人種を尊重する「レインボー・ネイション」建設を宣言し、新政府はアフリカ系を優遇する企業を援助したり、初等教育や社会保障の充実を推進しました。

その結果、アフリカ系の企業幹部の比率が約4割に達するなどして、アフリカ系にも富裕層が誕生しました。

しかし、ヨーロッパ系とアフリカ系の間には、平均収入で5倍近い差があり、アフリカ系の失業率は3割にも上るといわれ、格差を示すジニ係数は世界で最悪に近いです。

とくに大都市の治安の悪さが深刻になっています。

ダイヤモンドや金など、豊富な鉱産資源
経済を支えてきたのは豊富な各種の鉱産資源です。ダイヤモンドのほか、金、クロム鉱、プラチナ、マンガン、バナジウムの生産量は世界一で、埋蔵量も世界上位に位置しています。

ほぼ中央部に位置するキンバリーでは、ダイヤモンドの露天掘りが19世紀半ばから行われた結果、直径約500m、最深部約200mという、人間が掘った世界最大の穴があります。

この国のダイヤモンドは地中かなり深く掘らなければなりません。周辺諸国から鉱山で働く移民が多数やってきますが、職を奪われるとして、移民の排斥が深刻になっています。

ラグビーが国民的スポーツ
国民統合にスポーツが寄与しています。最も盛んなスポーツはラグビーで、世界トップクラスの実力を誇っています。

1994年の民主化で国際大会に復帰した翌年、W杯の開催国となり、見事に初優勝を果たしました。2007年と2019年のW杯にも優勝しています。サッカーW杯も2010年にアフリカ大陸で初めて開催されました。

面積:121.9万㎢ 首都:プレトリア
人口:5697.9万 通貨:ランド
言語:バンツー諸語、英語(11の言語が公用語)
宗教:キリスト教86%
隣接:ナミビア、ボツワナ、ジンバブエ、モザンビーク、エスワティニ、レソト

(注)『2022 データブックオブ・ザ・ワールド』(二宮書店)、CIA The World Factbook(2022年2月時点)を参照

(本稿は、『読むだけで世界地図が頭に入る本』から抜粋・編集したものです。)
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貧困・格差がもたらす治安の悪さ今回の観光でも注意するようにきつく言われています。

【悪化している教育の成果】
アパルトヘイトが終わって次第に事態は改善していく・・・・と期待されていましたが、現実は厳しいようです。

****南アフリカで9~10歳の8割が読解に困難 最新の国際調査****
南アフリカでは9~10歳の子供の10人に8人が、読解に困難を抱えていることが、国際的な調査で明らかになった。

国際教育到達度評価学会(IEA)が主導する「国際読解能力研究(PIRLS)」では、2021年に世界57の国と地域の40万人の児童を対象に、読解能力のテストを行った。日本は参加していない。

南アフリカは、参加国の中で最下位だった。読み書きができない子供は、前回調査の76%から81%に増加している。

南アフリカのアンジー・モチェクガ教育相は、この結果は新型コロナウイルスのパンデミックによる学校閉鎖が原因だとしている。

また、この結果は「がっかりするほど低い」とした上で、同国の教育システムは貧困や不平等、インフラ不足といった歴史的にも大きな困難に直面していると述べた。

多くの小学校で「読む指導は大抵、口頭で読み上げる能力だけが重視され、読解力や書かれた単語の理解が無視されている」と、モチェクガ氏は説明した。

PIRLSの最新調査では、南アフリカの子供の81%が、11個ある公用語のいずれでも読解ができなかった。

PIRLSは、9~10歳の子供を対象に、識字率と読解能力の傾向を調査している。調査は5年ごとに学年末に行われ、中間点を500点として、ランク付けが行われる。

アフリカからは南アフリカのほか、モロッコとエジプトの3カ国だけが参加した。

最新調査では、シンガポールが587点でトップ。これに香港(573)、ロシア(567)、英イングランド(558)が続いた。

最下位だった南アフリカは288点と、次点のエジプト(378点)に大きく離された。

また全体の傾向として、ほぼ全ての参加国で男子よりも女子の方が読解能力が高いことが分かった。ただし、この性差は前回調査よりも小さくなっているという。

南アフリカでは、人種隔離政策「アパルトヘイト」の結果、黒人と白人の子供の間に大きな不平等があり、教育システムが直面する困難が長期化している。

政府は教育分野に最も多くの予算を割いているだけに、今回のような調査結果は失望につながるだろう。

適切な教材の不足や、トイレなど学校のインフラ不足などが、こうした危機を招いている。【5月17日 BBC】
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かなり衝撃的な結果です。しかも「読み書きができない子供は、前回調査の76%から81%に増加している。」

もちろんアパルトヘイトのもたらした貧困・格差に大きな原因があることは間違いないでしょうが、すでに終了して30年ほどが経過していますので、その後の政治のあり方にも大きな問題があったと言わざるを得ないでしょう。
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パレスチナ・ウクライナだけでなく・・・アフガン・ミャンマー・コンゴでも

2023-10-11 23:32:18 | 国際情勢

(地震により倒壊した自宅の中庭で、猫を抱いているアフガニスタンの少年=10月8日 )

【相次ぐ地震で2400人以上が死亡】
イスラエル・パレスチナに関する報道は連日山のように。それに隠れた感もある(戦線がやや膠着していることもあるでしょうが)ウクライナに関する報道もそこそこに。

ただ、言うまでもないことですが、パレスチナ・ウクライナ以外でも世界各地で悲惨な出来事が起きています。
そうした出来事をいくつか。

アフガニスタンでは7日に発生した相次ぐ地震で2000人以上が亡くなっています。****

****アフガニスタン地震 タリバン暫定政権“2000人以上が死亡”****
アフガニスタン西部で7日発生したマグニチュード6.3の地震で、現地で実権を握るイスラム主義勢力タリバンの暫定政権は、これまでに2000人以上が死亡したと明らかにしました。現地では倒壊した建物に取り残されている人の救助活動が続けられています。

USGS(アメリカの地質調査所)によりますと、日本時間の7日午後、アフガニスタン西部を震源とするマグニチュード6.3の地震が2回発生し、その後も複数回、地震が観測されました。

現地で実権を握るタリバンの暫定政権は8日、これまでに2053人が死亡し、けが人は9000人以上にのぼると明らかにしました。

また、地震で1300の住宅が全壊したということで、取り残されている人も多くいるとみられていて、救助活動が続けられています。

被災した地域では地震のあと、電話がつながりにくい状態が続いているほか、道路の状況も悪化していることなどから、救助活動への影響が懸念されています。

被害はイランと国境を接するヘラート州に集中しており、この地域ではれんがや土でできた簡素な住宅が多く、被害が拡大したとみられています。

アフガニスタンではこれまでにも地震による被害が相次いでいて、去年6月に東部のホスト州で発生したマグニチュード5.9の地震では1000人以上が死亡しています。

上川外相「必要な支援を迅速に」
上川外務大臣は8日夜、談話を発表し(中略)「この困難を乗り越えるにあたり、日本は国際機関と連携しつつ、必要な支援を迅速に提供すべく尽力する。アフガニスタンの国民との連帯を表明するとともに、人道状況の改善に向け引き続き取り組んでいく」としています。【10月8日 NHK】
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タリバン暫定政権の幹部も現地入りし、被災者支援に全力を挙げる姿勢をアピールしているようですが、救助に関する能力は限定的でしょう。

ロイター通信によると、これまでに確認された死者は2400人超。ただ、倒壊した建物の下敷きになったままの人がいるとみられ、犠牲者は増える恐れがあります。

同じヘラート州では、11日にも再び大きな地震がありました。

****アフガン西部で新たにM6.3の地震****
アフガニスタン西部ヘラート州で11日午前5時10分(日本時間同9時40分)ごろ、マグニチュード6.3の地震が発生した。米地質調査所(USGS)が明らかにした。同地域では7日にもM6.3の地震が発生し、死者数は2000人を超えている。
USGSによると、震源は浅く、州都ヘラートの北方約29キロの地点。 【10月11日 AFP】
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被害の拡大が懸念されます。
同地域はヒマラヤ造山帯に位置しています。

****アフガン西部地震 M6規模相次ぎ発生 二つの地震のメカニズム****
アフガニスタン西部ヘラート州で2000人以上が死亡した7日のマグニチュード(M)6・3の地震では、発生から30分後に数キロ南で同規模の地震が相次いで起きたことが被害を拡大させた。専門家は二つを「一連の地震だった」とみる。

東京大地震研究所の岩森光教授(地球ダイナミクス)によると、二つは東南アジアからユーラシア大陸を横断する「アルプス・ヒマラヤ造山帯」で起こった。インドプレートまたはアラビアプレートが、北にあるユーラシア大陸に衝突したり沈み込んだりする動きに伴って地震が起きたと考えられる。

二つはいずれもほぼ南北方向に圧縮された逆断層型で、造山帯の一部であるヒンズークシ山脈から東西に伸びる活断層の西縁で起きたとみられるという。

アフガンでは2022年6月にも東部で1000人以上が死亡する地震(M6・1)があった。岩森教授によると、今回地震の起きた西部は、東部に比べ地震活動は少ないという。

米地質調査所(USGS)によると、1920年以降、今回の地震の震源から250キロ以内でM6以上の地震は他に7回起きているが、いずれもイラン国内だった。1997年5月にはM7・3の地震で1500人以上が死亡した。【10月11日 毎日】
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壮大な地球の営みと言えばそうも言えますが、亡くなった方だけでなく、家を失った多数の住民の厳しい冬を迎えるこれからが危惧されます。

欧米・日本など国際社会とタリバン政権の溝が救援・支援活動を制約することになるであろうことも懸念されます。

今回の人道支援でその溝が多少でも埋まり、タリバン政権の国際社会への歩み寄りがあればいいのですが、多くは期待できないかも。

【ミャンマー 国軍の空爆被害が拡大】
ミャンマーでは国軍による少数民族武装勢力の拠点への攻撃が続いています。

****ミャンマーの避難民キャンプを国軍が攻撃 子ども含む32人が死亡****
ミャンマーの避難民キャンプが国軍による攻撃を受け、子どもを含む少なくとも32人が死亡しました。

現地メディアなどによりますとミャンマー北部のカチン州で9日、避難民キャンプが攻撃を受けました。国軍のドローンによる空爆とみられています。 この攻撃で、13人の子どもを含む少なくとも32人が死亡し、50人以上がけがをしたということです。

被害にあった避難民キャンプは国軍と対立する少数民族武装勢力の拠点の近くにあり、衝突の巻き添えになった可能性があります。【10月10日 ANNニュース】
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上記に限らず、国軍による空爆被害が拡大しており、国連人権高等弁務官事務所は「軍事作戦が民間人に対して組織的に行われてきた」と国軍を非難しています。

****ミャンマー国軍の空爆「23年7月末までに988回」 国連が非難****
クーデターを起こした国軍が実権を握るミャンマーで、空爆被害が深刻化している。

国連人権高等弁務官事務所が9月に公表した報告書によると、クーデターが起きた2021年2月から23年7月末までに計988回の国軍による空爆を確認。死者は少なくとも281人にのぼる。

ターク人権高等弁務官は26日、「軍事作戦が民間人に対して組織的に行われてきた」と国軍を非難し、海外からの武器調達を阻止すべきだと訴えた。
 
報告書によると、被害が最も大きかったのは、北部ザガイン地域で4月11日にあった空爆で、子供35人と女性19人を含む150人が犠牲になった。

軍用機が爆弾を投下した後にヘリコプターからの攻撃があり、銃創が確認された人もいたという。民主派武装組織の関連施設の開所式を狙ったとされ、国軍は直後に「空爆で武器庫が爆発し、武装勢力が死亡したとの報告を受けた」と説明していた。
 
一方で、報告書は民主派の「国民統一政府(NUG)」など反軍政勢力に対しても、民間人への人権侵害が確認された場合は厳正に対処するよう求めた。

NUGが組織した国民防衛隊(PDF)や少数民族武装勢力と国軍の衝突が続く中、軍政への抵抗として職務放棄する「不服従運動」に参加しない公務員らが攻撃されているという。6月にはヤンゴンにある税務署でゲリラ集団が関与した爆発があり、職員と一般市民の計6人が負傷した。【9月29日 毎日】
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なお、拘束中のスー・チー氏については、その体調が懸念されています。

****アウン・サン・スー・チー氏、医師の診察受けられない状態…歯周病悪化で一時は歩行困難に****
ミャンマー国内の刑務所に収監されているアウン・サン・スー・チー氏(78)について、民主派勢力が樹立した「国民統一政府(NUG)」のソー・バ・ラ・ティン駐日代表は28日、医師の診察を受けられない状態が続いていると明かした。
 
スー・チー氏は持病の歯周病が悪化して刑務所外の医師の診察を求めたが、国軍は認めず、一時は歩けなくなるまで容体が悪化したという。

同代表は「国軍はスー・チー氏を大病にしようとしている。クーデターから2年以上たっても国内を統治出来ない焦りの表れだ」と非難した。

スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)も14日、「命の危険にさらしている」と国軍を非難する声明を出した。【9月28日 読売】
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【コンゴ ノーベル平和賞あ受賞者の医師のデニ・ムクウェゲ氏が大統領選立候補 ルワンダのコンゴ侵攻を批判】
続いては、アフリカ中部のコンゴ

****ゾウ殺され食べられる 国立公園から逃走―コンゴ****
アフリカ中部コンゴ(旧ザイール)にある世界遺産「ビルンガ国立公園」から逃げ出したゾウ1頭が、武装集団に殺された上、現地住民に食べられたことが分かった。コンゴ自然保護協会(ICCN)などが9日明らかにした。

コンゴ東部では1990~2000年代に地域紛争が激化し、過去30年にわたり武装勢力が活動。「動物の聖地」として世界的に知られるビルンガ国立公園は、紛争地帯の中に位置する。
 
ICCNによれば、若者たちが数週間前、国立公園を囲む電気柵を破壊。9日に2頭のゾウが逃げ出し、うち1頭が殺された。住民らがゾウの肉を分け合って食したという。

コンゴは人口の3分の2が1日2.15(約320円)未満で過ごす世界最貧国の一つ。【10月10日 AFP】
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多くの武装勢力が跋扈し、暴力が蔓延し、住民は貧困に苦しむコンゴ・・・・ゾウを食べたくて食べたのか、ほかに食べるものがなく食べたのか・・・そこらは知りません。

そのコンゴの大統領選挙にノーベル平和賞を受賞した医師のデニ・ムクウェゲ氏が立候補しています。

****ノーベル平和賞受賞の医師 コンゴ民主共和国大統領選立候補へ*****
アフリカ中部のコンゴ民主共和国で、長年、紛争下での性暴力の被害者の治療に当たり、ノーベル平和賞を受賞した医師のデニ・ムクウェゲ氏がことし12月に行われる大統領選挙に立候補すると表明しました
ムクウェゲ医師は、武装勢力が衝突や襲撃を繰り返しているコンゴ民主共和国東部で、長年にわたって性暴力を受けた人々の治療に当たり、2018年にノーベル平和賞を受賞しました。

ムクウェゲ医師はその後も医療活動を続けていましたが、2日、首都キンシャサで開かれた会合で演説し、ことし12月に予定されている大統領選挙に立候補することを表明しました。

この中でムクウェゲ医師は「私が立候補するのは、祖国を救い、国を正し、人々の尊厳を取り戻すためだ」と述べ、治安の回復や政府の統治能力の強化に取り組む姿勢を示しました。

コンゴ民主共和国は、電気自動車のバッテリーなどに使われるコバルトや金などの鉱物資源が豊富に産出される一方、経済は低迷し、国民の半数以上が極度の貧困に陥っているとされて、12月の大統領選挙には、現職のチセケディ大統領らも立候補するとみられていて、政治的な実績はないものの国際的な知名度の高いムクウェゲ医師がどこまで支持を伸ばすか注目されます。【10月3日 NHK】
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昨年の会議でデニ・ムクウェゲ氏は「ロシアによるウクライナ侵攻と同様に、コンゴ民主共和国も隣国、特にルワンダによって侵攻されている。その侵攻からもうすぐ30年が経つ」と語っています。

ルワンダの侵攻・・・・ルワンダが支援しているとされるツチ族主体の武装勢力M23をさしています。

ルワンダ・カガメ大統領は支援を否定し、あくまでもコンゴの国内問題としています。また、カガメ大統領は「アメリカを含め皆はいつもルワンダを責めるが、コンゴ東部在住のルワンダ反政府勢力については沈黙しているではないか」とも

M23については以前も取り上げたことはありますが、最近の状況については、パレスチナやウクライナと違って、日本国内ではほとんど情報を目にしません。

下記は昨年12月と今年2月のもの。

****コンゴ民主共和国で政府とM23の対立激化、和平交渉は難航****
コンゴ民主共和国(DRC)東部の北キブ州において、DRC政府と反政府武装勢力「3月23日運動(M23)」間の対立が再び激化している。

事態を受け、11月23日にアンゴラの仲介で関係国が和平交渉のための会合(ルアンダ・プロセス)を開催。11月28日~12月6日にはケニアの首都ナイロビにおいて、東アフリカ共同体(EAC)が主導する3回目の和平交渉(ナイロビ・プロセス)が行われた。報道によると、こうした努力にもかかわらず、その後も断続的に戦闘が続いており、和平プロセスは難航している。

M23は、DRC政府軍から離脱した反政府勢力で、2012年4月に活動を開始したとされる。2013年11月には停戦を宣言するも、その後も断続的な攻撃が続き、2021年11月にM23による大規模な戦闘が発生したことで、以降、情勢は深刻化している。(中略)

なお、DRCは、隣国ルワンダがM23を支援していると主張している。DRC情勢については、米国のアントニー・ブリンケン国務長官が2022年12月4日、ルワンダのポール・カガメ大統領と会談を行い、和平プロセスへの支持を表明した上で、締結された諸協定について実効性を持たせることを求めた。

加えて、ルワンダによる支援を含め、M23に対するいかなる支援について、ただちに終了させる必要があるとした。なお、ルワンダはかねてM23への支援を否定している。【2022年12月09日 梶原大夢 JETRO】
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****コンゴ東部でM23をめぐる紛争続く****
(中略)M23をめぐる紛争については、アンゴラのロウレンソ大統領がアフリカ連合(AU)および南部アフリカ開発共同体(SADC)から委任を受けて仲介役を務めており、同時にケニヤッタ元ケニア大統領が東アフリカ共同体(EAC)のファシリテーターとして調停にあたっている。

昨年7月、ロウレンソがチセケディとカガメを首都ルアンダに招き、和平に向けた合意を得たが、停戦は続かなかった。9月以降、ケニアのイニシャティブでコンゴ東部にEAC軍が展開されたが、抑止力としては機能していない。
 
この間、コンゴとルワンダの関係は悪化を続けている。M23の攻勢はルワンダの支援によるものだというコンゴ側の主張と、コンゴの国内問題だというルワンダ側の主張が平行線をたどっており、チセケディとカガメは相互に非難を繰り返すだけで、直接対話もできなくなっている。
 
国際社会のスタンスは、ルワンダにM23への支援を止めるよう求めるものだ。それに対してカガメ大統領は、M23はコンゴ国内の問題であり、問題はコンゴのガバナンスだと繰り返し、国際社会へのいらだちを隠していない。

ルワンダが何らかの形でM23への支援を行っていることは、国連専門家委員会が認めるところである。一方、コンゴ側のガバナンスに深刻な問題があること、そして紛争の中で民兵組織を利用してきたこともまた事実である。

ルワンダを締め上げれば問題が解決するわけではない。こうした状況下、戦闘の意思と能力を持つM23に引きずられる形で、紛争が拡大している。【2月4日 現代アフリカ地域研究センター】
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1998年の国連人権委員会の特別報告者による報告書で、ルワンダがコンゴ侵攻当初の1996〜1997年、フツ系ルワンダ難民らに対するジェノサイド(集団虐殺)に関与していた可能性が指摘されています。

ジェノサイドの被害者とされるツチ族指導者のカガメ大統領が、一方でフツ族へのジェノサイドを行っていた・・・という話にもなります。

コンゴ領内でフツ族武装勢力と戦ってきたツチ族M23へのルワンダの支援を公の場で問題視すれば、上記のルワンダ・カガメ政権によるジェノサイドにもかかわってきて、国際政治上微妙な問題になります。

カガメ大統領は、PKOからの撤退などに言及し国連に圧力をかけています。そうした「微妙」な事情があって、報告書は国連では議論されていません。

一般的イメージでは、ルワンダ(ツチ族によるカガメ政権)はジェノサイドの被害者、フツ族は加害者、コンゴは自らの統治能力のなさで混迷しているという認識になっています。

ムクウェゲ氏のルワンダによるコンゴ侵攻を糾弾する発言は、ロシアは非難されるのに、どうしてルワンダは非難されないのか・・・という国際社会・メディアの二重基準に対する怒りがあると思われます。
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イスラエル ガザ地区への水、電気、食料、燃料を遮断する完全封鎖 200万住民が苦しむ対応への批判も

2023-10-10 21:52:40 | パレスチナ

(イスラエルの空爆で炎と煙が上がるパレスチナ自治区ガザ地区=2023年10月9日、ロイター【10月10日 毎日】)

【イスラエル ガザ地区を「包囲」「完全封鎖」 国連は「苦悩」】
イスラエルとハマスの戦闘によって犠牲者が増え続けています。
イスラエル側の死者は900人を超え、イスラエルの空爆にさらされているガザでは687人が死亡、イスラエルに侵入したハマス戦闘員1500人が死亡との情報も

****イスラエル軍、領内でハマス戦闘員1500人の遺体確認****
イスラエル軍は10日、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの戦闘員1500人の遺体をイスラエル領内で確認したと発表した。イスラエルはガザ地区への空爆を続けている。

イスラエル軍報道官は報道陣に対し「イスラエル領内のガザ地区周辺でハマス戦闘員約1500人の遺体を確認した」とし、ガザ地区との境界付近では、治安をある程度確保できたと述べた。 「昨晩からの侵入者はいなかった。だが、再び侵入が起きる恐れはある」

また、ガザ地区周辺からの住民の避難は「ほぼ完了」していることを明らかにした。
報道官はさらに、イスラエル軍は国境地帯に35大隊を配備したと述べ、「今後の作戦に向けてインフラを整備している」とした。

ハマスは7日朝、大量のロケット弾をイスラエル領内に向けて発射、侵入した。大規模攻撃によるイスラエル側の死者は900人を超えた。

イスラエルは報復として、ガザ地区のハマスに対する大規模な空爆や砲撃を実施。ガザ地区ではこれまでに687人が死亡した。
10日未明、イスラエル軍はガザ地区内、特に北部リマル地区と南部ハンユニスのハマスを標的に攻撃を行った。 【10月10日 AFP】
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イスラエルのガザ空爆も激しさを増しています。

****イスラエルの空爆、ガザの住宅や学校を直撃=国連人権高等弁務官****
ターク国連人権高等弁務官は10日、イスラエル軍の空爆によりパレスチナ自治区ガザ全域で住宅や学校、国連の建物が被害を受け、民間人に犠牲者が出ていると指摘した。

「国際人道法は明確だ。民間人や民間物を避けるために常に注意を払うという義務は、攻撃を通じて適用される」とした。(後略)【10月10日 ロイター】
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イスラエルの「報復」が本格化するのはこれからですので、ガザ地区の犠牲者は更に増加すると思われますし、もし地上部隊のガザ侵攻となればますます増加します。

イスラエルはガザ地区の「完全封鎖」を行うとしています。 今までも200万人ほどが暮らすガザ地区はイスラエルの包囲網によって「天井のない牢獄」と呼ばれていますが、ライフラインの停止によって、死者・負傷者だけでなく、ガザ地区の市民生活が麻痺することが予想されます。

一方、ハマスは警告なしの空爆に対しては人質を「処刑」するとしています。

****イスラエル ガザの“完全封鎖”命じる ハマス「人質を処刑」と警告****
パレスチナ自治区のイスラム組織「ハマス」への報復攻撃を続けるイスラエル軍は、ガザへの水や電気の供給を遮断し、完全に封鎖すると述べました。一方、ハマスは空爆が続けばイスラエル人の人質を処刑すると警告しています。(中略)

こうした中、イスラエルのガラント国防相は、ガザへの電気、食料、燃料を遮断し完全封鎖するよう命じました。
ロイター通信はイスラエル軍がハマスが使用している民間通信会社を爆破するなどインフラ施設への攻撃も行っていると伝えています。

一方、ハマス側は、イスラエル軍の空爆が続けば人質を処刑すると警告しています。
ハマス報道官「事前の警告なしに攻撃があった場合、残念ながら、我々は人質にとっている敵の民間人(イスラエル人)捕虜を処刑しなければならないことを宣言する」

イスラエル軍は30万人という異例の規模の予備役を招集すると発表していて、ガザへの地上侵攻を視野に入れた動きの可能性があるとの見方も出ています。【10月10日 日テレNEWS】
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ハマスのテロ攻撃の結果とはいえ、一般住民が苦しむイスラエルによるガザ完全封鎖に国連は苦悩しています。

****国連総長、ガザ封鎖に「苦悩」 イスラエルが宣言、支援容認訴え****
国連のグテレス事務総長は9日、ニューヨークの国連本部で記者会見し、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザの「完全封鎖」宣言に「深く苦悩している」と述べ、困窮するガザ市民に対する国連の人道支援を認めるよう各当事者に求めた。

報道官によると、イスラエルのネタニヤフ首相やパレスチナ自治政府のアッバス議長と個別に協議し、事態の沈静化を模索する。

グテレス氏は会見で、イスラム組織ハマスによるイスラエルへの「許しがたい攻撃」を非難した。「パレスチナ人が憤りを感じるのは当然で理解するが、テロ行為と民間人の殺害や拉致は正当化できない」と強調した。

イスラエル軍のガザ空爆で多数の死傷者が出たことを憂慮し、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が運営する学校2カ所も被害を受けたと明らかにした。「イスラエルの安全上の懸念は理解するが、軍事作戦は国際人道法を厳密に順守して実施しなければいけない」と警告し、民間人の保護を求めた。【10月10日 共同】
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ターク国連人権高等弁務官は、市民の生命を危険にさらす「包囲」は国際法で禁止されていると強調しています。【10月10日 ロイターより】

【イスラエル支援を明確にする欧米諸国】
こうした状況に、イスラエルを支援するアメリカ、ハマスを支援するイラン以外の国々の反応も次々に報じられています。

欧州はイスラエル支持を明らかにしています。

****欧米5カ国共同声明 イスラエルへ「揺るぎない結束した支持」を表明****
アメリカやフランス、ドイツなど欧米5カ国の首脳は共同声明でイスラエルへの「結束した支持」を表明しました。

アメリカ、フランス、ドイツ、イタリア、イギリスの5カ国の首脳は9日、共同声明という形でイスラエルに対する「揺るぎない結束した支持」を表明しました。

また、国と国民を守るイスラエルの努力を支援する意向を改めて示し、中東地域を最終的に平和で統合された地域にするため、「同盟国として団結し、協調していく」としています。

イスラム組織ハマスによる攻撃については、「世界は恐怖の目で見ている」と指摘し、「ハマスによるテロ行為には、いかなる正当性も合法性もない」と強く非難しています。【10月10日 テレ朝news】
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更にEUは、バールヘイ欧州委員(近隣国政策・拡大交渉)が「パレスチナ向け支援を停止する」と表明したものの、スペインなど加盟国の反発を受けてこれを撤回するという混乱も。

****EU、パレスチナ向け支援を停止するとした欧州委員の発表を撤回****
欧州連合(EU)は9日、イスラム組織ハマスによるイスラエルへの大規模攻撃を受けてパレスチナ向け支援を停止するとしたバールヘイ欧州委員(近隣国政策・拡大交渉)の発表を撤回した。EU加盟国の間で、バールヘイ氏の発表は権限を逸脱しているとの非難が相次いだことを受けた措置。

バールヘイ氏は9日、欧州委員会は6億9100万ユーロ(7億2900万ドル)のパレスチナ向けの開発支援を全面的に見直すと表明。これが混乱の発端となった。同氏はX(旧ツイッター)に「全ての支払いは即座に停止される」と投稿した。

これに対し複数のEU加盟国政府は、支援を停止すればパレスチナの一般市民が打撃を受けると指摘、欧州委にこうした決定を下す権限があるのかと疑問を呈した。

外交筋によると、スペインとポルトガル、アイルランドがバールヘイ氏の言動を公然と非難、他のEU加盟国も水面下で非難に加わった。

欧州委はバールヘイ氏の投稿から約5時間後に出した声明で支援の見直しを始めたことを確認したが、「支払いは予定されていないため、支払いの停止はない」と宣言。EUのボレル外交安全保障上級代表は、EUは決定済みの支払いは停止しないと強調した。

さらに欧州委は「EUが提供した資金がテロ組織によるイスラエルへの攻撃を間接的に可能にすることが絶対にないようにするため」の見直しを進めていると説明。開発支援とは別枠の人道支援は続けられるとした。【10月10日 ロイター】
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スペイン外相は、パレスチナは近い将来、より多くの援助を必要とすることになると指摘して「支援停止」に反対しています。

****スペイン、パレスチナ支援停止に反対 EU内では温度差も****
スペインのアルバレス外相(代行)は10日、パレスチナ向け支援停止への反対姿勢を示した。地元ラジオ局とのインタビューで語った。

パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスによるイスラエルへの攻撃と、その後のイスラエル軍によるガザ砲撃を受け、パレスチナは近い将来、より多くの援助を必要とすることになると指摘。

「協力は続ける必要がある。EU(欧州連合)がテロ組織に指定しているハマスと、パレスチナの住民、パレスチナ自治政府、国連の現地組織とを混同してはならない」と述べた。(後略)【10月10日 ロイター】
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【欧米以外では、必ずしも「イスラエル支持」一色でもない状況】
ウクライナ問題でもそうでしたが、欧米のイスラエル支持が国際的に広く同意されているかと言えば、必ずしもそうと言えません。

****イスラエル死者悼み黙とう 国連人権理で米提唱、出席は3割****
国連人権理事会で9日、米国代表が提唱し、イスラム組織ハマスによるイスラエルへの攻撃の死者を追悼する黙とうがささげられた。

イスラエル側の被害に重点を置いてハマスを強く非難する一方で「ハマスの攻撃に起因するイスラエルと(パレスチナ自治区)ガザで失われた罪のない命」を追悼し、ハマス以外のパレスチナ側にも一定の配慮を見せた。

黙とうは会合開始前に実施。会場にいた代表団はほぼ全員が立ち上がって黙とうしたが、この日出席したのは全体の約3割だった。【10月9日 共同】
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特に、イスラエルのガザ完全封鎖・「包囲」には厳しい批判も出ています。

****ガザ完全包囲は「ナチズム」 コロンビア大統領****
南米コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領は9日、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスによる攻撃への報復としてイスラエルがガザ地区を攻撃していることをナチス・ドイツによるユダヤ人迫害になぞらえた。

イスラエルのヨアブ・ガラント国防相は、ガザ地区を「完全包囲」し、住民230万人の「電気と食料、燃料を遮断」すると表明。「われわれは(人以外の)動物と戦っている。相応の措置を取る」と述べていた。

ガザ住民を「動物」呼ばわりするガラント氏の発言を受け、ペトロ氏は「ナチスもユダヤ人をこう呼んでいた」「民主主義国家の諸国民は、国際政治の場におけるナチズムの再興を許すことはできない」とX(旧ツイッター)で指摘。

さらに、ガラント氏の発言は「ヘイトスピーチ(憎悪表現)」に相当し、今後も同様の表現が許されるなら「ホロコースト(ユダヤ人に対して行われた大量虐殺)をもたらすだけだ」と述べた。

ハマスの奇襲攻撃で数百人が死亡したのを受け、イスラエルは報復として3日にわたってガザ地区を空爆した。ハマスは多数の人質を取っており、うち2人はコロンビア人とみられている。

ペトロ氏は7日以降、SNSで多数のコメントを発表。イスラエルの駐コロンビア大使、ガリ・ダガン氏と激しい応酬を繰り広げた。

ダガン氏が「罪のない民間人に対するテロ攻撃」を非難するよう求めると、ペトロ氏は「コロンビアであれパレスチナであれ、テロリズムとは罪のない子どもを殺すことだ」と応じ、イスラエルとパレスチナの双方に和平交渉を促した。

さらに、ダガン氏がエルサレムのホロコースト記念館とアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所の跡地にある博物館をぜひ訪れてほしいと呼び掛けると、ペトロ氏は、ホロコーストが「ガザで再現されようとしている」と反論。
「ガザを強制収容所と化すのを容認する民主主義者は、世界に一人もいない」と付け加えた。 【10月10日 AFP】
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そもそも今の暴力の応酬という事態を招いている責任は、これまでのイスラエルのパレスチナ対応もあるのではないかとの指摘も。

****イスラエルは「一方的に攻撃された」わけではない。米ユダヤ人団体がパレスチナ人抑圧への「見て見ぬふり」を批判****
(中略)西側諸国ではこの問題をハマスによる「一方的な攻撃」と表現している政府やメディアもある。しかし、中東問題の専門家や団体から、この描写は不正確であり、イスラエルや西側諸国にも責任があるとする声が上がっている。 

米ユダヤ人団体「一方的なものとは言えない」
(中略)アメリカとEUは、ハマスをテロ組織に指定している。今回のハマスの攻撃に対し、アメリカを含む多くの西洋諸国がイスラエルへの支持を表明。メディアも「一方的で前例のない攻撃」と報じた。 しかし、この地域の歴史に詳しい専門家やパレスチナ解放を支持する団体は、その説明を誤りだと述べている。

イスラエルのパレスチナ人に対する「アパルトヘイト(隔離して差別すること)」に反対するアメリカのユダヤ人団体「IfNotNow」は、「我々は愛する人々――イスラエル人とパレスチナ人の両方とも同じように――を次々と襲う恐怖を、悲しみと恐れとともに見ています」と7日付の声明で述べた。

同団体は声明で「今日のパレスチナ武装勢力による行動は、言われのない一方的なものとは言えない」と主張している。

「イスラエルのアパルトヘイト制度のもとでは、毎日が挑発です。ガザを窒息させるような包囲が挑発です。イスラエル入植者がパレスチナの村全体を恐怖に陥れ、兵士がパレスチナ人の家を襲撃・破壊し、街中で殺し、イスラエルの大臣がジェノサイドと追放を呼びかけているのです」

「これらは、イスラエル史上最も極右の政府と、勢いづいたファシスト運動による挑発であり、全土に広がる危機を悪化させています」

「この戦争は今朝始まったわけではない」
ハマスが実効支配するガザ地区に対し、イスラエル側は強硬姿勢をとる方針を打ち出している。 
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はガザ地区を「無人島」にすると宣言し、ベザレル・スモトリッチ財務相が「残酷になる時が来た」と述べたと報じられている。

こういった状況下で、ガザでは市民のインフラが破壊され、イスラエル軍の地上侵攻に対する恐怖が高まっている。
パレスチナ人はこれまで何度も、イスラエルの暴力の犠牲になってきた。

1948年の第一次中東戦争では、イスラエル建国によってパレスチナ人が大量虐殺され、居住地を追放された。この悲劇は「ナクバの日」として今も人々の記憶に刻まれている

それ以来多くの人権団体が、パレスチナ人を追放し、反体制派を投獄し、子どもを含む市民を殺害するイスラエルの行為を「アパルトヘイト」と非難してきた。

イスラエル・パレスチナ問題の専門家で作家のネイサン・スラール氏は7日、「この戦争は今朝始まったわけではありません。何十年も続いているのです」とXに投稿した。

「今起きている流血は、氷山の一角に過ぎません。国家の暴力と民族征服の氷山です。我々がこの問題の根本的な原因を無視する限り、血は流れ続けるでしょう」

そのイスラエルを、アメリカは財政支援と武器提供で支援してきた。この支援により、イスラエルはパレスチナを上回る軍事システムを作り上げてきた。

IfNotNowやムスリム人権擁護団体CAIR(アメリカ・イスラム関係評議会)は、アメリカはパレスチナ・イスラエル両者に問題解決を求める一方でイスラエルに資金提供してきたことを反省すべきだと訴えている。

「私たちは罪のない市民の殺害を強く非難し、分刻みで増えるパレスチナ人とイスラエル人の死者を悼みます」とIfNotNowは声明で述べている。

「彼らの死はイスラエル政府とイスラエル政府に資金を提供し、その無謀さを容認してきたアメリカ政府、そして何十年にもわたるパレスチナ人抑圧を見てみぬふりしてきたすべての国際リーダーたちの責任であり、パレスチナ人とイスラエル人の両方を危険にさらしています」

「この文脈を軽視もしくは無視する人たちは、今後もさらに多くの血が流されることに、ただ驚き続けるだけでしょう」

「私たちは、現在起きている惨事を招いた思慮に欠ける軍事主義を考え直すよう求めます。このファシスト政府に説明責任を求め、擁護できないイスラエルのアパルトヘイトの現状維持に終止符を打たずして、すべてのイスラエル人とパレスチナ人に安全と自由の未来をもたらす道はありません」【10月10日 HUFFPOST】
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イスラエルはハマスによる市民虐殺・拉致などをテロとして激しく非難していますが(実際、ハマスの行為はテロとして非難されるべきものではありますが)、ただ、同じような暴力を長年パレスチナ人に対しイスラエルはふるってきたのではないか・・・という思いもあります。

そのことに思いを致す思慮が必要です。力で封じ込めるだけでは憎しみは増すばかりで、今後も何度でも同じような悲劇を繰り返すことになるでしょう。

取り上げるべき情報、論ずべき点は他にも多々ありますが、長くなるのでここまで。
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ハマスのイスラエル攻撃  イラン革命防衛隊が計画に関与か 今後のヒズボラの動向は?

2023-10-09 23:31:47 | パレスチナ

(ハマス戦闘員はケレム・シャロムで警備兵を襲撃し、フェンスを切り開いて、イスラエル側に侵入した ハマスは今回、数時間のうちに分離壁の複数箇所からイスラエル領内に入ることに成功していた。【10月9日 BBC】)

【イスラエルの存在を認めないハマス】
周知のようにイスラエルとパレスチナ・ガザ地区を実効支配するハマスとの戦闘はまだ続いています。

イスラエル発表によれば、9日午前の時点でイスラエル人の死者は700人を超え、負傷者は2382人に上っています。また、ハマスや戦闘に加わった武装組織「イスラム聖戦」は8日、イスラエルから計130人以上をガザに連行したと発表しています。 

一方、パレスチナ保健省も9日、パレスチナ側の死者が493人、負傷者は2751人だと発表しています。双方の死者数を合わせると、1200人近くになります。

イスラエル軍によれば、ガザ地区に近いイスラエル南部の7~8カ所でハマス戦闘員との戦闘が続いており、ハマス側の戦闘員の大半は殺害されたが、一部が住宅に隠れて抵抗しているとのことです。

また、イスラエル軍は9日朝までにガザ地区へ1149回の空爆を実施したとのことで、ハマス指導者でガザ地区の政治部門でのトップであるシンワル氏が死亡したと発表されています。

この件については、一昨日ブログ“パレスチナ  ハマス、対イスラエル大規模攻撃 領内侵入で住民拉致の報道も 予想される「報復」”でも取り上げていますが、戦闘・被害の規模は第一報当時から格段に膨れ上がっており、今回は前回記事に付け加えること、修正することを。

イスラエルの存在を認めないハマスと「二国家共存」(「二国家解決」)でパレスチナ国家建設を目指すパレスチナ自治政府では立場が異なります。

****そもそも「ハマス」って?****
1993年には通称「オスロ合意」と呼ばれる歴史的な和平合意が結ばれました。敵対するイスラエルとPLO=パレスチナ解放機構がお互いに認め合い、イスラエルが占領していたガザ地区とヨルダン川西岸地区でパレスチナ人の暫定自治をスタートさせるというものです。

ところが、イスラム原理主義組織「ハマス」はパレスチナ全土を解放して独立国家をつくりたいと考えているため、「オスロ合意」を認めていません。そこでハマスが2007年、ガザ地区全域を奪い、実効支配しているのです。(中略)

ハマスは、イスラム的な思想に基づく統治を目指している組織で、「パレスチナの地は自分たちのものだ」と考えています。このため、彼らにとって自分たちの土地を取り返すためにイスラエルと戦うことは「ジハード(聖戦)」だとしているのです。

「ジハードで命を落とせば、天国に行ける」という考えから、自爆テロが数多く発生しています。こうした自爆テロなどを繰り返してきたため、欧米はハマスを「テロ組織」と認定しています。【10月8日 日テレNEWS】
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【「パレスチナ人が方程式から除外されている限り、地域全体に安全保障はない」】
ハマス側が攻撃に出た背景としては、前回ブログでも指摘したように、アメリカ後押しで進むイスラエルとサウジアラビアの接近に、このままでは見捨てられる事を危惧したハマスがその妨害に出て、パレスチナ抜きの中東和平はありえないことをアピールしたとの指摘が多くなされています。

****ハマス、周到に用意された「奇襲攻撃」の意図は? イスラエルとサウジの関係正常化阻止か***
イスラム組織ハマスが7日の大規模攻撃で狙ったのは、イスラエルだけではない。この地域では、米国がイスラエルとサウジアラビアの関係正常化を後押しするなど新たな安全保障秩序の構築に向けた動きが活発化しており、ハマスにはパレスチナ国家樹立への希望を脅かしかねないこうした動きにくさびを打ち込む狙いがあったとみられる。(中略)

イランや同国が支援するレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの事情に詳しい消息筋は、「これは、イスラエルにすり寄りつつあるサウジや、イスラエルを支援して正常化を後押ししている米国に対するメッセージだ。パレスチナ人が方程式から除外されている限り、地域全体に安全保障はない。今日の出来事はあらゆる予想を上回るもので、対立関係におけるターニングポイントになるだろう」と述べた。(中略)

レバノンにおけるハマスの指導者、オサマ・ハムダン氏はロイターに対し、7日の大規模攻撃により、イスラエル側の安全保障上の要求を受け入れることで平和が実現することはないとアラブ諸国は理解すべきだ、と述べた。(後略)【10月8日 Newsweek】
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今回の攻撃では、イスラエル人・パレスチナ人以外の外国人も多数犠牲者となっています。

****ハマスの攻撃で外国人犠牲=タイ、ネパールは10人以上―パレスチナ****
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃では、外国人多数も犠牲になった。タイ、ネパール両国政府によると、タイ人12人とネパール人10人が死亡した。

タイ外務省によると、イスラエルには農業や建築現場などで働くタイ人が約3万人おり、うち5000人はガザ一帯に居住。タイ政府は避難のため空軍機の派遣を準備している。

カンボジア政府も学生1人が死亡したと発表した。

ドイツのDPA通信によると、独外務省は8日、拉致された人々の中に複数のドイツ人が含まれているとの情報があると明らかにした。全員がイスラエルとの二重国籍者と想定されるという。

米CNNテレビは、情報筋の話として米国人少なくとも4人が死亡したと報道。AFP通信によると、フランス人1人が死亡、数人が行方不明になっている。

また、ウクライナのメディアは、イスラエル在住のウクライナ人女性2人が死亡したと伝えた。メキシコ人2人が拉致されたとの情報もある。【10月9日 時事】 
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“イスラエルには農業や建築現場などで働くタイ人が約3万人おり、うち5000人はガザ一帯に居住”というのが意外なところ。

【規模と連携において前例のない攻撃でイスラエルの分離壁を突破】
意外と言えば、鉄壁とも思われていたイスラエルの防御が破られ、多数のハマス戦闘員が領内に侵入したことには驚きました。

****イスラエルへの急襲、不可能と思われたが……ハマスはどうやって****
攻撃が始まったとき、イスラエル人の多くは眠っていたはずだ。
7日は土曜日で、ユダヤ教の安息日だった。加えて、ユダヤ教の祭日でもあった。つまり多くの家族は自宅やシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)で過ごす予定だっただろうし、友人同士は集まる予定を立てていたかもしれない。

しかし夜明けと共に、空からロケット弾が大量に降ってきた。規模と連携において前例のない攻撃の、開始の合図だった。

イスラエルはもう何年も前から、パレスチナ人の小さな自治区、ガザ地区とイスラエル領の間の分離壁を強化してきた。しかし、今回の攻撃が始まるや数時間のうちに、分離壁は越えられないどころか、数カ所で破られていた。守りは鉄壁ではなく、その思い込みは誤っていたことが露呈した。(中略)

ハマスが使うロケット弾は基本的な作りで、イスラエルの進んだ防空システム「アイアン・ドーム」を回避できないことが多い。しかし今回は、短時間の間に数千発を一気に発射することで、その防空体制をかいくぐることに成功した。

このことから、ハマスが何カ月も前からこの攻撃を計画し、ロケット弾を備蓄していたことがうかがえる。ハマスは当初の攻撃でロケット弾を5000発、発射したと主張する。一方、イスラエル軍はその半数だったと反論している。(中略)

ロケット弾の砲撃が続く間、ハマスの戦闘員はガザを厳重に取り巻く分離壁を複数個所から突破するため、所定の場所にそれぞれ集まっていた。

イスラエルは2005年の時点で、部隊と入植者をガザから引き揚げた。しかし今も、その上空と境界線、ならびに海岸線を支配下に置いている。

イスラエルがガザを囲って設置した分離壁は、場所によってはコンクリートの壁、場所によっては金網のフェンスだ。その一帯をイスラエル軍は定期的に警備しているし、侵入を防ぐためのカメラやセンサーが多数配置され、警備の網を作っている。それでも数時間のうちに、この分離壁は何度も何度も突破された。

ハマスはどうやって侵入したのか
ハマス戦闘員の一部は、分離壁を完全に避けてイスラエルに入ろうとした。中には、パラグライダー(少なくとも7人がパラグライダーでイスラエル上空を漂っている、未確認映像がある)や、ボートを使った者もいる。(中略)

しかし、今回の攻撃が従来と異なるのは、境界線の複数の検問所に対する直接攻撃が、連携をとって行われたことだ。

ソーシャルメディア「テレグラム」上で午前5時50分、ハマス軍事部門とつながりのあるチャンネルに、最初の現場映像が投稿された。動画には、戦闘員が検問所を襲撃する様子や、血にまみれたイスラエル兵2人が地面に倒れた様子が映っていた。撮影場所は、ガザの検問所の中で最も南にある、ケレム・シャロームだ。

別の動画では、ライフルを手にした戦闘員が2人ずつ乗ったバイクが少なくとも5台、分離壁の金網フェンスの部分を切り開いた箇所を、通り抜けていく様子を見せていた。

戦闘員はケレム・シャロムで警備兵を襲撃し、フェンスを切り開いて、イスラエル側に侵入した。警備の薄い個所では、金網と鉄条網のフェンスを、ブルドーザーが押しつぶして破壊していた。(中略)

ガザの検問所で最北にあるエレズは、ケレム・シャロームから約43.4キロに位置する。ここでもハマス勢力は、検問所を襲撃した。この動画は、ハマス系プロパガンダ・チャンネルの一つに掲載された。コンクリート壁で爆発があり、これを襲撃の合図に、戦闘員が爆発の方向へ武装集団を誘導する様子が映っている。(中略)

ガザから出るための公式な検問所は7つある。そのうち6カ所はイスラエルが管理し、エジプトへ通じる1カ所はエジプト政府が管理している。しかしハマスは今回、数時間のうちに分離壁の複数箇所からイスラエル領内に入ることに成功していた。(後略)【10月9日 BBC】
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【ネタニヤフ首相の「歴史的な失敗」へ強まる批判】
このように“周到に用意された「奇襲攻撃」”をどうしてイスラエルの情報機関などは察知できなかったのか?という疑問は前回ブログでも指摘しましたが、同じ疑問をイスラエルの国内外の人々が抱いています。

前回ブログでは、ハマスの攻撃によって司法改革問題で揺らいでいたネタニヤフ政権の求心力が高まるのでは・・・という個人的見方を示しましたが、ハマスの攻撃を察知できなかった失態と、想定外の大きな犠牲を出していることで、ネタニヤフ政権への批判が強まっているようです。ただ、野党も参加した挙国一致内閣はできるようです。

****「この惨事は、ある人物に明確な責任がある」…イスラエル政権に「歴史的な失敗」と批判****
イスラエルでは、イスラム主義組織ハマスによるロケット弾攻撃と越境侵攻を防げなかったベンヤミン・ネタニヤフ政権と軍に対する批判が高まっている。「歴史的な失敗」(地元紙ハアレツ)と受け止められ、ネタニヤフ政権の責任を問う声も出ている。(中略)

イスラエルでは軍の救出の遅さを指摘する声も出ている。テルアビブから軍の部隊とともに救出に向かった予備役将官ノアム・ティボンさん(61)は「今回の事態を検証しなくてはいけない」と軍の態勢に疑問を呈した。

政権への批判も高まっている。地元紙ハアレツは8日付の社説で「この惨事は、ある人物に明確な責任がある。ネタニヤフだ」と批判した。

昨年12月に発足したネタニヤフ政権は、ヨルダン川西岸の併合を主張する極右と宗教勢力と連立を組み、史上最も右寄りとされる。ネタニヤフ氏は、パレスチナへの強硬姿勢で「治安対策の専門家」として国民から一定の安心感を得ていた。しかし、今回の事態でその信用は崩壊した。

情報機関「モサド」のエフライム・ハレビ元長官は米CNNに、「ハマスがこれほどの量のロケット弾を持っているとは思わなかった」と語った。政権にとって、今回の攻撃は想定外だったとみられる。

ネタニヤフ政権の進める最高裁判所の権限を弱める「司法改革」を巡っては、改革に反対する大規模デモが各地で起き、予備役を拒否する運動も広がっていた。今回の事態で政権への不満がさらに高まるのは必至だ。

ネタニヤフ首相は7日、対立してきた最大野党のヤイル・ラピド党首やベニー・ガンツ元国防相に緊急の挙国一致政府に加わるよう求めた。ラピド氏は「我々は一致して敵に立ち向かわなくてはならない」と前向きな姿勢を示している。【10月9日 読売】
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【イラン革命防衛隊がハマス・ヒズボラとともに計画作成に関与との報道】
今後に向けて大きなポイントとなるのがハマスの後ろ盾ともなっているイランの関与の問題。
表向きイランは直接関与を否定しています。

****イラン、ハマスのイスラエル攻撃への関与を否定****
テヘラン:2023年10月9日月曜、イランはパレスチナのイスラム主義組織ハマスによるイスラエルへの大規模攻撃への関与を、根拠のない主張だとして否定した。

外務省のナセル・カナニ報道官は記者団に対し「イランの役割に関する非難は、政治的な理由に基づく」と述べた。
同氏は、イランはパレスチナを含め、他国の意思決定に介入しないと述べた。(後略)【10月9日 ARAB NEWS】
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原子力空母ジェラルド・フォードを中核とする空母打撃群の東地中海に派遣するよう指示し、イスラエルへの武器供与拡大も発表しているアメリカですが、ブリンケン国務長官はイランが関与した可能性については、「ハマスが存在しているのはイランによる長年の支援があったからだ」と指摘しつつも、イランが今回の攻撃を指示したり背後にいたりする証拠は「まだ見つかっていない」としています。

ハマスの動機については「サウジアラビアとイスラエルを結び付けようとする努力を妨害することが動機の1つだったとしても不思議ではない」とも。【10月9日 テレ朝newsより】

イランの直接関与を認めると、アメリカとしてもイランへの対応を迫られますので、慎重姿勢のようです。

パレスチナのイスラム組織ハマスの幹部らの話として、イランがハマスによるイスラエル攻撃計画の立案を支援していたと報じています。レバノンの首都ベイルートで2日に開かれた会合では、攻撃実施を承認したとのこと。

****イラン、ハマスのイスラエル攻撃計画に関与****
イラン革命防衛隊が8月から作戦会議に参加、10月2日に攻撃を承認していた

パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが7日にイスラエルに対して行った大規模な奇襲攻撃は、イランの治安当局者が立案に関わっていたことが分かった。レバノンの首都ベイルートで2日に開かれた会合でイラン当局者が攻撃を承認した。ハマスとレバノンのシーア派組織ヒズボラの幹部が明らかにした。

両組織の幹部によると、イラン革命防衛隊(IRGC)の幹部はイスラエルへの陸海空からの侵入を立案するため、8月からハマスと協力していた。

ベイルートで数回会合が開催され、作戦の詳細が練られたという。会合にはIRGCの幹部のほか、ハマスとヒズボラなどイランの支援を受けている四つの武装集団の代表が出席した。(中略)

ある米政府高官はレバノンで開催されたという一連の会合について「現時点で(ハマスなどによる)証言を裏付ける情報はわれわれにはない」と述べた。しかし欧州の政府関係者とシリア政府の顧問は攻撃の立案へのイランの関与について、ハマスとヒズボラの幹部と同じ説明をした。

ハマス高官のマハムド・ミルダウィ氏は会合についての質問に対し、ハマスが独自に攻撃を立案したと述べた。「これはパレスチナとハマスの決定だ」と話した。

イラン国連代表部の報道担当者は、同国はガザの行動を支持しているが、指示はしていないと述べた。「パレスチナの抵抗運動が行った決定は極めて自主的であり、パレスチナの人々の正当な利益と揺ぎなく一致している」とし、「パレスチナの対応はパレスチナによって単独で行われており、われわれは関与していない」と述べた。

イランが攻撃に直接関与したとすれば、イスラエルとの長期にわたる対立が表面化し、中東で紛争が拡大するリスクが高まる。イスラエル治安当局高官は、イスラエル人の殺害にイランが関与していることが分かれば、イラン指導部を攻撃すると明言している。

ハマス、ヒズボラの幹部とイラン高官によると、イラン革命防衛隊の計画は、イスラエルの北に拠点を置くヒズボラおよびパレスチナ解放人民戦線、ガザ地区とヨルダン川西岸地区のパレスチナ・イスラミック・ジハード(イスラム聖戦)とハマスで、イスラエルに対して多正面の脅威を作り出すものだという。(後略)【10月9日 WSJ】
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イランの関与について、イスラエルが今後どのような対イラン「報復」を行うのか注目されます。

【注目される今後のヒズボラの動向】
また、上記のように、やはりイランの支援を受けるレバノンのヒズボラ(イランと同じシーア派 なお、ハマスはスンニ派)が計画に参加しているとすれば、今後ヒズボラがどのような行動に出るのかも注目されます。

すでに“ヒズボラは「イスラエルが占拠しているレバノン領シェバーファームズにあるイスラエルの3拠点を大量の砲弾と誘導ミサイルで攻撃した」と述べた、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが7日、イスラエルに対し、空、海、陸から大規模攻撃を行ったことに「連帯」したものだと説明している。”【10月8日 AFP】と報じられていますが、これは“挨拶代わり”でしょう。

この程度で終わるのか、あるいは、今後予想されるイスラエルのハマスへの報復攻撃に連動して、ヒズボラが対イスラエルで本格参戦するのか・・・

4回の中東戦争で無敵を誇ったイスラエルですが(第4次の緒戦ではエジプトの勝利を許したものの、その後反撃してスエズ運河渡河まで至りました)、唯一勝てなかったのがヒズボラ。

2006年のレバノン侵攻で、イスラエル軍はヒズボラの抵抗で100人以上の兵士を失い、停戦に応じることに。
エジプトもシリアも勝てなかったイスラエルに、実質勝利とも言える成果をあげています。

そのヒズボラが本格参戦すれば、イスラエルとしては大きな負担になります。(ガザ地区はイスラエルの南、レバノンはイスラエルの北に位置しています)

イラン・ハマス・ヒズボラが協議したとされる計画では、どのような作戦が立案されているのか・・・。
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エジプト  強権支配批判もあるシシ大統領 3選立候補で長期政権継続

2023-10-08 23:18:32 | 中東情勢

(エジプトの国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)の会場で2022年11月10日、エジプト政府の人権弾圧を非難するデモがあった。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルなどが呼びかけた。【2022年11月10日 共同】)

【対イスラエル 政権と国民感情で乖離も】
昨日ブログで取り上げたパレスチナ・ハマスのイスラエル攻撃とイスラエルのガザ報復は今も進行中ですが、エジプトでの下記事件がそのことと関連があるのかどうかはまだ不明です。

****イスラエル人観光客を殺害か エジプト北部で警官発砲****
エジプトのメディアなどは8日、北部アレクサンドリアでエジプトの警察官が発砲し、イスラエル人観光客2人とエジプト人1人を殺害したと伝えた。パレスチナ自治区ガザ情勢との関連は不明。

報道によると、現場は観光地で、警察官は無差別に発砲した。負傷者も出た。警察官は拘束されたとの情報もある。

ガザを実効支配し、イスラエルへの大規模攻撃を始めたイスラム組織ハマスの司令官は7日、アラブ世界に団結を呼びかけ、パレスチナ人に武器を手にするよう求めていた。【10月8日 共同】
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エジプトはイスラエルのパレスチナ占領に反対し、過去4回もイスラエルと中東戦争を戦いましたが、第4次中東戦争(緒戦で勝利したアラブ側に対してイスラエル軍が巻き返し、約20日後に停戦)後の1979年に、他のアラブ諸国の強い反対を押し切ってイスラエルと平和条約を締結、1982年にシナイ半島(1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領)はエジプトに返還されました。

これにより、エジプトはイスラエルを正式に承認した最初のアラブ国家となりました。現在でも、強権支配と評されるシシ大統領のもとでイスラエルとは安定した関係を続けています。

国益・安全保障などの観点を重視したエジプト・サダト大統領(当時)の選択でしたが、一般の国民の間では「パレスチナ人を見捨てて、イスラエルと手を組んだ」との不満も根強くあります。

****許せない・野望変わらず…半世紀経ても、イスラエルへ「憎悪と不信」渦巻くエジプト国民****
エジプトを中心としたアラブ諸国とイスラエルが戦火を交え、石油ショックを招いた第4次中東戦争開戦から6日で50年となった。半世紀を経て和平の動きは広がるが、アラブ諸国が連帯するパレスチナとイスラエルとの衝突は絶えず、エジプト国民らの間には、今も憎しみや不信が渦巻く。

エジプト・シナイ半島西岸の街トール。海辺近くに朽ちた建物群があった。戦争当時、イスラエル軍幹部らが使った住居跡だ。近くに住むアフマド・フセインさん(36)は「イスラエル人の観光客が時々訪れるが、我々の土地を奪ってきたイスラエルを許すことはできない」と話した。

第4次中東戦争は、1967年の戦争でイスラエルに占領されたシナイ半島やシリア南西のゴラン高原奪還のため、エジプトとシリアの奇襲で始まり、アラブ側は緒戦で初めて勝利した。79年にエジプトがアラブで初めてイスラエルと平和条約を結ぶ契機となり、半島はエジプトに返還された。

トールはイスラエル軍が半島占領時、拠点の一つだった。エジプト軍に協力し、拠点を探るスパイ活動で約3年間拘束された遊牧民ムハンマド・スレイマンさん(80)は「今もパレスチナの同胞は苦しんでいる。この解決がなければ、本当の和平はない」と強調した。

前線に赴いた元兵士やその遺族らの憎しみも深い。
北部マンスーラに住む元兵士サイード・ビデールさん(77)は、戦地の地雷で爆死した同僚の姿が今も脳裏に焼き付いている。「イスラエルがアラブの土地を奪おうとする野望は変わらず、信用できない」

妊娠2か月の時、夫シャハダさん(当時28歳)が戦死した主婦ワギヤ・マフムードさん(67)は「ずっと死を受け入れられなかった。憎しみは消えない」と言う。

この戦争以降、アラブ諸国とイスラエルの全面衝突はなく、エジプトとイスラエルは軍事や経済面で協力を深める。元エジプト軍幹部は「強固な2国関係はエジプトに平和と繁栄をもたらした」と語る。アラブ圏では2020年にアラブ首長国連邦(UAE)などがイスラエルと国交を正常化し、和平の動きが広がる。

だが、アラブとイスラエルの関係に詳しいエジプトの外交評論家マフムード・モヒ氏は「各国がパレスチナ解放という『アラブの大義』より自らの利益を優先している。現状は『冷たい平和』で国民の意識と大きくずれており、真の平和にはほど遠い」と指摘する。(後略)【10月8日 読売】
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【長期政権を目論むシシ大統領 強権支配体質への批判も】
「アラブの春」でムバラク独裁政権が倒れたエジプトでは、イスラム化を急ぐモルシ大統領のもとでの混乱を経て、軍部出身のシシ大統領の強権支配が続いています。憲法改正で3選を可能にし、更に長期政権継続の構えです。

****エジプト大統領が立候補表明 12月の大統領選****
エジプトのシーシー大統領(68)は2日、12月に実施される大統領選に立候補すると表明した。大統領府の公式サイトによると、同日の会合で演説し、「エジプトと国民の利益のために努力を続けることを約束する」と述べた。シーシー氏は、出身母体の軍を中心に強い支持基盤があり、当選が確実視される。

首都カイロでは最近、シーシー氏をあしらった大型看板が各地に設置され、出馬を求める支持者の動きが広がっていた。ただ、政権は反体制派やメディアの統制を続けているほか、経済低迷で国民の不満が高まっている。

シーシー氏は2014年の大統領選で当選し、18年に再選を果たして現在2期目。19年に任期を4年から6年に延長する憲法改正案が承認された。改正憲法は現職に限り3選を認めている。
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シシ政権は、「アラブの春」とモルス大統領時代の混乱を嫌った国民が安定を選択した結果でしたが、反対者を弾圧するその強権的な政治手法には批判もあります。

****[社説]アラブ民主化の逆行を止めよ****
エジプトで当時軍トップだったシシ大統領の主導による事実上のクーデターから10年となる。デモや報道の自由は制限されたまま、憲法改正で任期を延長するなどシシ氏の統治は一段と強権に傾く。アラブ民主化の時計がこれ以上逆行するのを止める必要がある。

エジプトは人口がアラブ最大の1億人を超え、スエズ運河という国際物流の要衝を抱える国だ。中東民主化運動「アラブの春」で独裁体制が崩壊した後、初の民主的な選挙で成立したモルシ政権は社会を強引にイスラム化させようとして大混乱を招いた。

このため多くの国民が軍によるモルシ政権の放逐を支持した。国際社会も民主化への一時的なプロセスとして政変を黙認したのは確かである。

しかし、シシ政権の強権統治はこの10年で副作用が大きくなったといわざるをえない。
テロ対策と称して批判勢力を締め付け、本来は穏健だった組織を過激化させた。新都市建設などで軍関係組織を重用し、官僚主義や縁故経済が民間のビジネスを圧迫している。国際通貨基金(IMF)が求める国営事業の民営化も軍関係者が反対して進まない。

「アラブの春」の唯一の成功例といわれたチュニジアも強権に舞い戻った。サイード大統領は強引な憲法改正で自身に権力を集中させ、政敵の弾圧や移民の排斥を進めている。

民主化や人権改善を求めてきた米国の影響力は低下が鮮明だ。アラブ指導者は「民主主義抜きの経済発展」に自信を深めている。しかし、過去の指導者のように、強権による安定がやがて国民の不満の爆発につながった失敗を繰り返すべきではない。

国際社会は民主化と経済の多角化を粘り強く求めていくべきだ。4月にエジプトを訪問した岸田文雄首相は「戦略的パートナーシップ」への関係格上げで合意した。新大学の設立など科学・教育分野で2国間の協力が進んでおり、長期的な経済発展や市民社会の育成につながると期待したい。【6月26日 日経】
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【新首都は「監視社会」?】
シシ大統領は新首都建設を進めていますが、ここでも強権支配を反映した「監視社会」が・・・・。

****エジプト新首都、市民「見守る」監視カメラ網に懸念****
砂漠の中に出現しつつある「新行政首都」では、街灯の柱がWiFiのアクセスポイントを兼ね、カードキーを使ってビルに入る。いずれは650万人に達する住民の最初の一団を見守るのは、6000台以上の監視カメラだ。

この街の住民は、モバイルアプリ1つあれば、公共料金の支払いや公共サービスへのアクセス、当局への苦情申し立てができる。

こうした機能は日々の生活をより簡単に、より安全にしてくれると考える人々もいる。だがデジタル人権の専門家は、シシ大統領が政権を握ってからの10年間、反対派に対する弾圧や言論の自由の制限が広がっており、監視能力は基本的人権への脅威になると指摘する。

「都市全体に監視カメラを設置すれば、当局は公共空間を統制し、抗議行動や平和的な集会の権利を行使したいと考える市民を抑圧する前例のない能力を手にすることになる」と、デジタル人権擁護団体「アクセス・ナウ」のポリシー担当マネジャー、マルワ・ファタフタ氏は語る。

「市民のための空間への大掛かりな攻撃が続くエジプトのような国では、監視能力の強化は非常に危険だ」と同氏。
こうした懸念について政府広報官にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

アブダビからチュニジアに至るまで、この種の「スマートシティー」計画では、人工知能(AI)やセンサー、顔認識、機械学習といった先進的なテクノロジーを統合することにより、犯罪対策と効率向上、ガバナンス改善を図るとしている。

だが、こうしたプロジェクトは個人データの大量収集と処理に立脚しており、通常はユーザーによる認識や同意を欠いているため、監視の拡大につながると人権擁護団体は主張する。

さらにファタフタ氏は、政権が権威主義的であれば、こうした危険がさらに高まると指摘。「エジプト政府は、この新行政首都では住民の生活の質が高まると喧伝(けんでん)している。だが現実には、彼らが建設しているのは『監視都市』だ」とトムソン・ロイター財団に語った。

<名目は犯罪対策>
この新行政首都はエジプト国内10数カ所で進められている新しいスマートシティー計画の1つで、その規模は700平方キロメートル。政府省庁や金融機関、各国大使館などが立地し、監視システムは米国企業ハネウェルが開発したものである。(中略)

「エジプト市民には、プライバシーの権利と言論の自由、結社の自由がある。だが、政権はジャーナリストや政敵にとって都合の悪い監視情報を利用して、彼らを投獄し、拷問を加えている」と(英国開発学研究所(ロンドン)の研究員でデジタル人権を専門とする)ロバーツ氏は言う。

当局者は、監視テクノロジーは犯罪の摘発と治安改善を狙ったものであり、データは国内法と国際基準により保護されると述べている。

<行き過ぎた監視>
近年、アフリカ各地では監視テクノロジーが急速に拡大しているが、そうしたシステムを提供しているのは米国や中国、欧州諸国に拠点を置く企業であることが調査により明らかになっている。

アフリカ・デジタル人権ネットワークによれば、ケニアや南アフリカなど、メディアや司法が比較的自由な国では、市民社会が政府の責任を問うことができ、監視体制の改革もある程度は実現しているという。(中略)

だが、エジプトやスーダンではメディアや司法がもっぱら政府による統制を受けており、監視体制へのチェックが行われていない、とロバーツ氏は言う。同氏は最近、アフリカ諸国における監視ツールの利用について2本の報告書を執筆した。

軍司令官出身のシシ大統領が就任して以来、エジプトでは繰り返し人権侵害が問題視されてきた。昨年エジプトで開催された国連気候サミットの参加者からは、公式モバイルアプリを通じた監視を受けたという抗議があった。

「政権は市民に対して大規模な監視を行い、日常的にプライバシー権を侵害していることが分かった。しかも、それによって刑事責任を問われることはない」とロバーツ氏は語る。
「仮に権利侵害が判明したとしても、過剰な監視について訴追される、あるいは失職することはない」

<当然視する声も>
カイロの東方約45キロに位置する新行政首都では、政府当局者や住民の入居が始まっている。もっとも、カイロ住民の多くは、この新都市に住めるような生活の余裕はないと話している。

ソフトウエア技術者のアフメド・イブラヒムさんは、新行政首都の高層住宅地区でマンションを購入した。監視システムについては気にしておらず、単なる新たなハイテク機能にすぎないと考えている。
「違反行為を監視して犯罪を根絶するために街中に監視カメラを設置することに、何の問題があるのか」とイブラヒムさんは言う。「私は政府を信頼している。このシステムのおかげで、我々住民にとって生活ははるかに楽になるだろう」

だが、監視システムに懸念を抱く住民もいる。
「こうしたシステムは世界中の多くの場所で稼働している。しかしエジプトのように抑圧の問題がある国では、懸念の的になる」と語るのは、まもなく一家で新行政首都に転居する予定のヘバ・アフメドさん(33)。
「誰だって、監視され私生活をさらされるのは嫌なものだ」とアフメドさんは話した。【1月8日 ロイター】
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【アメリカも人権弾圧に不満示す】
シシ政権の人権弾圧に対してアメリカ・バイデン政権も不満を示しています。

****米の対外軍事支援、エジプト向けを台湾に割り当てへ****
米政府がエジプト向けの対外軍事資金供与(FMF)の一部を、台湾を含むその他のパートナー国・地域に割り当てる計画であることが分かった。米政府当局者らが明らかにした。エジプトで人権問題などへの対処で進展が見られないことが理由だという。

当局者らによれば、バイデン政権は政治犯の釈放を条件としたエジプト向けの8500万ドル(約125億円)の援助を差し止めると議会に通知した。また人権問題への対応でエジプト政府にペナルティーを課すべきだとする民主党議員らの声が高まる中、同国に条件付き拠出されている2億3500万ドルも追加で差し止めるよう求めている議員もいるという。

米政府は中国との緊張が高まる中、台湾との軍事的パートナーシップの強化を模索しており、今回の8500万ドルのうち5500万ドルを台湾に割り当てる予定。また複数の米政府当局者らによれば、レバノンにも3000万ドルが割り当てられる。

クリス・マーフィー上院議員(民主、コネティカット州)は声明で、「バイデン政権が過去2年間にわたり、これら人権侵害を理由にエジプトへの軍事援助の一部を保留していたことは、称賛に値する」とし、「十分な進展がなかったことに関しては、疑問の余地がない」と続けた。(後略)【9月14日 WSJ】
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もちろん、アメリカも単に人権弾圧批判だけでなく、いろんな面でのエジプトに対する不満があっての今回措置でしょう。また、アメリカの「脱中東」「対中国重視」の一環のようにも。

こうした批判にシシ政権も多少は配慮したのか・・・

****エジプト、著名活動家に恩赦 大統領、人権批判意識か****
エジプトのシシ大統領は19日、著名な活動家アフマド・ドゥーマ氏を含む多数の受刑者に恩赦を与えた。政府が発表した。強権的なシシ政権下では多くの活動家が拘束されており、恩赦は人権抑圧に対する国際的な批判を意識した対応とみられる。

アラブメディアによると、ドゥーマ氏は2011年の民主化運動「アラブの春」で当時のムバラク政権を崩壊に追い込んだ大規模デモを率いたリーダーの一人。当局の許可を受けずに抗議活動を実施したとして13年に逮捕され、19年には禁錮15年の有罪判決を受けていた。【8月19日 共同】
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【独自外交を進めるシシ大統領】
なお、シシ大統領はイラン・トルコとの関係改善やBRICS加盟など独自の外交路線を進めています。

****イラン、エジプトと和解か 「歓迎する」と最高指導者****
イランの最高指導者ハメネイ師は29日、エジプトとの関係修復について「歓迎する。問題ない」と述べた。28日からイランを公式訪問したオマーンのハイサム国王との会談で述べた。国営イラン通信などが伝えた。

イランが、対立してきたサウジアラビアと外交関係正常化で合意したのに続き、エジプトとも和解する可能性が出てきた。(中略)モルシ政権が崩壊し14年にシシ大統領が就任して以降、両国は再び対立してきた。【5月29日 共同】
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****エジプトとトルコが10年ぶり大使任命 外交関係正常化へ歩み****
エジプトとトルコの外務省は4日、それぞれ相手国に駐在する大使を任命したと発表した。両国は2013年にエジプトで軍主導のシシ政権が発足した際、トルコが前政権側を支援していたことから関係が悪化し、互いに大使を召還していたが、10年ぶりに外交関係が正常化する見通しだ。(後略)【7月5日 毎日】
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