孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル・ネタニヤフ首相への不満・批判を強めるアメリカ・バイデン大統領

2024-03-11 23:44:42 | パレスチナ

(2023年10月撮影のバイデン・ネタニヤフ両氏【3月9日 ロイター】 もともとリベラルな傾向の民主党米政権と保守強硬派ネタニヤフ首相は折り合いが悪く、オバマ元大統領ともアメリカ史上最悪の関係とも言われていました)

【バイデン再選戦略の足かせになりつつあるガザ情勢・イスラエル支持】
アメリカ大統領選挙は共和党ヘイリー元国連大使の撤退で予定どおりの「バイデン対トランプ」の形になっていますが、トランプ氏については裁判の行方、その選挙戦への影響、裁判費用もあって資金面での困難、ヘイリー氏が一定の批判票を集めたことの本選挙への影響などが議論されています。

一方のバイデン氏については、かねてよりの高齢問題に加え、移民問題への対応、今後の経済動向も今後の課題となってきます。高齢問題については、一定の段階で後進に道を譲る形でバイデン氏が辞退するのでは・・・という「プランB」も(期待を込めて)囁かれていますが・・・・そのあたりはもう少し様子を見て。

その苦戦を強いられているバイデン大統領にとって更なる足かせになってきているのがパレスチナ・ガザで続く惨状、深刻化する飢餓、そしてバイデン政権がイスラエルを支持し続けていることです。

バイデン大統領を支える民主党支持層には、比較的ガザへの同情的な空気、攻撃を続けるイスラエルへの批判が強いとされています。

****米民主党員、過半数がイスラエル軍事支援に否定的=世論調査****
ロイター/イプソスの世論調査によると、民主党員の過半数がイスラエルへの軍事支援を支持しない大統領候補が望ましいと答えた。

バイデン大統領とトランプ前大統領の支持率はともに36%で互角。残りの回答者は「分からない」「別の候補に投票する」「誰にも投票しない」と答えた。

調査は28日までの3日間に実施。イスラエルへの軍事支援に賛成する大統領を支持する可能性が低いと答えた民主党員は全体の56%、支持する可能性が高いと答えた民主党員は40%だった。

バイデン大統領はパレスチナ自治区ガザの軍事衝突でイスラエル側を支持しており、そうした姿勢が大統領選で致命的な弱点になる可能性がある。

27日のミシガン州民主党予備選では、バイデン氏のイスラエル支援に抗議する10万票を超える「支持者なし」票が投じられた。

今回の調査では共和党員の62%がイスラエルへの軍事支援に賛成する大統領候補が好ましいと回答。34%はそうした姿勢を支持しないと答えた。

調査は全米の成人1185人を対象にオンラインで行った。【2月29日 ロイター】
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アラブ系有権者はもちろんですが、バイデン再選戦略を大きく左右する特に若年層がイスラエル支持への不満を強めていると報じられています。

有力な対立候補がいない予備選挙ではバイデン氏が圧勝を続けていますが、少なくないガザ対策をめぐる批判票と思われる票も出ています。

****バイデン氏の再選戦略に課題、ガザ政策巡り再び「抗議票」集まる****
バイデン米大統領は5日に行われたミネソタ州の民主党予備選で大勝が確実になったが、現政権がパレスチナ自治区ガザで攻撃を続けるイスラエルを支援していることに「抗議」を表す票が同州などこの日に集中した予備選・党員集会で投じられ、大統領の再選戦略に課題をもたらした。

エジソン・リサーチによると、ミネソタでは予想票数の約半分が集計された時点で、「支持者なし」票が約20%を占めた。

エジソンによると、同票を主に投じたのはイスラム系米国人をはじめ、学生や郊外に居住する女性、リベラルなユダヤ人活動家などだという。

ミシガン州で先週行われた民主党予備選でも10万票を超える「支持者なし」票が投じられ、全体の13%を占めた。

5日の「スーパーチューズデー」に民主党候補者を選ぶ投票が行われたミネソタ以外のアラバマ、コロラド、アイオワ、マサチューセッツ、ノースカロライナ、テネシーの6州でも「支持者なし」の票が投じられた。そうした抗議票はアイオワの3.9%からノースカロライナの12.2%まで幅がある。【3月6日 ロイター】
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****トランプ氏 圧勝の裏で際立つ“弱点” 勝敗占う「ヘイリー票」と「ガザ情勢」 バイデン大統領と再戦へ【アメリカ大統領選挙】****
(中略)
バイデン氏の苦難 アラブ系住民に突きつけられた「ノー」
一方、「高齢問題」が国民に深刻視されるなどバイデン大統領の状況は4年前よりも不利な状況だ。今月2日ニューヨークタイムズが発表した世論調査では、バイデン氏43%対トランプ氏48%とトランプ氏の優勢が伝えられた。プラスになる材料が乏しいバイデン氏にとっては厳しい戦いになることが予想される。

そして、いま最もバイデン氏を悩ませているのが「ガザ情勢」だ。強硬姿勢のイスラエルのネタニヤフ首相に自制を求めても説得は聞き入れられず、バイデン氏の中東政策についてアラブ系住民からノーを突きつけられている。

2月のミシガン州予備選挙では、バイデン氏が勝つことは規定路線だったが、それよりも注目を集めたのは13%=約10万人が投じた「Uncommitted=支持者なし」票だった。

抗議投票を開始した団体は、スーパーチューズデーの日にはミネソタ州で同じ活動をしていて、同州で記録された「支持者なし」票は18.9%にも上った。

こうしたアラブ系住民を中心とした「反バイデン」層が親イスラエルのトランプ氏に投票することは考えられないが、ミシガン州のような激戦州でバイデン氏が票を失うことになると11月の選挙結果に大きな影響を及ぼす可能性もある。

バイデン氏は私的な会話の中でネタニヤフ首相を「この男」「ろくでなし」などと発言したというアメリカメディアの報道があったように、バイデン氏はガザ情勢をめぐりイスラエルにいら立ちをにじませている。(後略)【3月10日 TBS NEWS DIG】
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【バイデン政権 イスラエル・ネタニヤフ首相への不満・批判を明確化】
こうした状況でバイデン政権はイスラエルへの批判・不満を明らかにしつつあります。

****米副大統領、イスラエルを明確に批判 ガザ「人道的大惨事」****
ハリス米副大統領は3日、パレスチナ自治区ガザの「人道的大惨事」に十分対処していないとしてイスラエルを明確に批判した。

アラバマ州セルマで演説し、即時停戦を呼びかけたほか、6週間の戦闘停止と引き換えに人質を解放する案を受け入れるようイスラム組織ハマスに訴えた。

同時に「ガザの人々は飢えている。状況は非人道的だ」とし、「イスラエル政府は支援物資搬入を大幅に増やすために一層努力しなければならない。言い訳はできない」と断じた。その上で、新たに検問所を開き、物資搬入に「不必要な制限」を設けないことなどを求めた。

再選を目指すバイデン大統領にとって、左派寄りの有権者によるガザ紛争への反発が痛手となる中、ハリス氏のコメントは紛争を巡る政府内のいら立ちを反映している。

ハリス氏はイスラエル戦時内閣メンバーのガンツ前国防相と4日にホワイトハウスで会談する予定で、率直なメッセージを伝えるとみられる。【3月4日 ロイター】
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****ハリス副大統領、イスラエル戦時閣僚に「深い懸念」表明 ネタニヤフ首相に圧力か****
ハリス米副大統領は4日、イスラエル戦時内閣メンバーのガンツ前国防相とホワイトハウスで会談し、パレスチナ自治区ガザの人道状況に「深い懸念」を表明した。

イスラム原理主義組織ハマスとの戦闘を続けるイスラエルのネタニヤフ政権について、バイデン米政権は人道面の配慮が希薄だとしていらだちを強めている。ネタニヤフ首相の政敵であるガンツ氏を招き、ネタニヤフ氏に政治的圧力をかける狙いが指摘される。

ホワイトハウスによるとハリス氏は、避難民が集中するガザ南部ラファでイスラエル軍が作戦を行うには「確実で実行可能な人道計画が必要」だと強調。ガザへの人道支援の搬入量を増やして安全に分配できるよう、米国など国際社会との連携に「追加的な措置」を講じるよう促した。

ガンツ氏は4日、サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)らとも現地情勢を協議し、5日にはブリンケン国務長官と会談する。

野党代表のガンツ氏は戦時内閣のメンバーながら、元来はネタニヤフ氏の政治的ライバルだ。バイデン政権がガンツ氏を招いて高官級会談を設定したのは、ラファ攻撃や占領地・ヨルダン川西岸での入植拡大に突き進むネタニヤフ氏への牽制だとの見方が強い。

バイデン政権は、大規模な飢餓さえ危惧されるガザの人道状況を懸念。民主党の支持基盤であるアラブ系などのマイノリティー(少数派)や若年層には、バイデン政権がイスラエルを制止できていないことへの不満が強い。

ガンツ氏は、ハマス壊滅まで戦闘を続けるとする点でネタニヤフ氏と同じ立場だが、パレスチナとの対話にはより柔軟だとされる。イスラエル有力紙ハーレツ(電子版)はガンツ氏の訪米について、「米国が誰を信頼しているか」を示していると評した。

ハマスの奇襲を許したネタニヤフ氏は国内で厳しく非難されている。ネタニヤフ氏は収賄罪などに問われており、戦闘が終結すれば公判が進んで政治生命の危機に直面する恐れもある。【3月5日 産経】
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政敵ガンツ前国防相の訪米はネタニヤフ首相には無断でおこなわれ、ネタニヤフ首相は激怒し、在米大使館に対してはガンツ氏の訪問の調整を行わないよう指示したとのこと。
そうした形でガンツ氏を招くこと自体がバイデン政権の強いネタニヤフ批判を示しています。

なお、イスラエルへの不満を募らせているのはイギリスも同じです。

****英国もイスラエルに懸念表明「忍耐は限界に近づいている」 ガザ戦闘開始5カ月****
(中略)一方、イスラエルの戦時内閣のメンバーであるガンツ前国防相は6日、英国でスナク首相やキャメロン外相と会談。キャメロン氏はガザへの支援物資の搬入増量に努めるよう求め、イスラエルが計画するガザ最南端ラファへの地上作戦に「深い懸念」を伝えた。

イスラエル有力紙ハーレツ(電子版)がガンツ氏の事務所の発表として伝えた。ガンツ氏は先立って米国を訪問し、ハリス米副大統領らから同様の懸念を伝えられている。

米英は従来、イスラエル支持を表明してきたが、ガザの戦闘激化に伴い事態の改善を促す態度に転じた。ロイター通信によると、キャメロン氏は5日の英上院での演説で、飢餓や病気が広がりガザで住民が死亡し始めたとして「忍耐は限界に近づいている」と述べてイスラエルに警告した。【3月7日 産経】
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【アメリカの意向を無視するネタニヤフ政権】
しかし、ネタニヤフ政権はガザでの攻撃を続行しており、更に極右閣僚は(アメリカが意図する今後のパレスチナ在り方を危うくする)ヨルダン川西岸地区へのユダヤ人入植を拡大する計画を明らかにしています。

****ヨルダン川西岸で入植者住宅3500戸建設へ イスラエル極右閣僚****
イスラエルのオリット・ストローク国家特命相は6日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸で入植者用住宅3500戸の建設計画を推進する方針を明言した。

イスラエルでは極右のベツァレル・スモトリッチ財務相が先月、西岸でパレスチナ人武装集団によって民間人1人が殺害されるなどしたのを受け、報復として入植地を拡大する意向を表明。

スモトリッチ氏の盟友で同じく極右のストローク氏もX(旧ツイッター)に「われわれは入植を続ける」と投稿。「3500戸近くの入植者住宅」の建設を計画していることを明らかにした。

イスラエルの入植活動を監視するNGO「ピース・ナウ」は、エルサレム東郊のマーレアドゥミムとケダール、同市南郊のエフラットで、計3426戸の建設が計画されていると指摘している。 【3月7日 AFP集】
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アメリカを含めた欧米諸国、国連も将来のパレスチナ国家樹立の障害となるイスラエルの入植活動を批判はしていますが、ネタニヤフ政権は聞く耳を持たない様子です。

****イスラエル入植地拡大は「戦争犯罪」 国連****
国連人権高等弁務官事務所のボルカー・ターク高等弁務官は8日、イスラエルが占領下のパレスチナ自治区で入植地を拡大していることについて、「戦争犯罪」に当たると指摘し、パレスチナ国家樹立の可能性を完全になくす恐れがあると警告した。

ターク氏は国連人権理事会への報告書で、イスラエルがガザ地区で無慈悲な攻撃を続ける一方、ヨルダン川西岸で違法な入植者用住宅の建設を大幅に加速していると主張。イスラエルによる入植地の建設・拡大は、自国民を占領地に送り込むのに等しいと指摘した。

さらに、こうした行為は「戦争犯罪」に相当し、「関与した者は個人として刑事責任を問われる可能性がある」と述べた。

報道によれば、イスラエルは「国際法を無視」して、ヨルダン川西岸のマーレアドゥミムとエフラット、ケダールで、入植者用住宅3476戸の建設を計画している。

スペイン外務省も同日、イスラエルがパレスチナ国家と共存する「2国家解決」に向けた努力を台無しにし、「和平への障害になる」としてイスラエルの入植地拡大計画を「強く非難」した。 フランス外務省も計画を「強く非難」し、イスラエル政府に「直ちに撤回」するよう求めた。 【3月9日 AFP】AFPBB News
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【深まるバイデン大統領とネタニヤフ首相の溝】
こうしたなかで、バイデン大統領はガザ攻撃を続けるネタニヤフ首相に対し「イスラエルを救うというより、損害を及ぼしている」と強く批判しています。

****「イスラエルに損害及ぼす」=バイデン米大統領、ネタニヤフ首相を批判****
バイデン米大統領は9日放送のMSNBCテレビのインタビューで、イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘で市民ら3万人以上が犠牲になったことに関し、同国のネタニヤフ首相について「イスラエルを救うというより、損害を及ぼしている」と批判した。米大統領がイスラエルの首相に対してここまで厳しく表現するのは異例だ。

バイデン氏は「ネタニヤフ氏はイスラエルを守る権利はあるが、彼の行動の結果によって失われた罪のない人々の命に注意を払わなければならない」と改めて強調した。

イスラエル軍が検討しているパレスチナ自治区ガザ最南部ラファへの本格侵攻については、「レッドライン(越えてはならない一線)だ」と警告。ただ、「イスラエルを守ることは依然として重要だ。見捨てることはしない」とも述べた。

戦闘休止に向けてエジプトで行われた交渉は、現在までに目立った成果は出ていない。バイデン氏は、10日ごろに始まるイスラム教のラマダン(断食月)までの合意実現に関して「可能性は常にある。あきらめない」と語った。【3月10日 時事】 
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これに対しネタニヤフ首相は「(バイデン)大統領が一体何を意味しているのか分からない」と不快感を露わにしています。

****ネタニヤフ首相、バイデン大統領に批判され「一体何を意味しているのか分からない」と不快感****
(中略) 一方、ネタニヤフ氏は、米政治専門紙ポリティコに「(バイデン)大統領が一体何を意味しているのか分からない」と不快感を示し、「私の立場は大多数のイスラエル人に支持されている」と反論した。【3月11日 読売】
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ネタニヤフ首相にとっては“ハマスの奇襲を許したネタニヤフ氏は国内で厳しく非難されている。ネタニヤフ氏は収賄罪などに問われており、戦闘が終結すれば公判が進んで政治生命の危機に直面する恐れもある。”【3月5日 産経】ということで、戦争継続しか選択肢がない現実も。

バイデン大統領もここでネタニヤフ首相に甘い対応をすれば民主党左派から厳しい批判にさらされるという再選戦略がかかっており、お互い政治生命をかけた対立にもなってきています。

バイデン大統領は「イスラエルを救うというより、損害を及ぼしている」発言の前にネタニヤフ首相との「カム・トゥー・ジーザス(Come to Jesus)ミーティング」を呼び掛けていますが、今の状況では両者の会談は不透明です。

****バイデン氏、イスラエル首相に会談の意向伝える ガザ支援巡り****
バイデン米大統領がイスラエルのネタニヤフ首相に対し、パレスチナ自治区ガザへの人道支援物資の搬入を巡る問題で「カム・トゥー・ジーザス(Come to Jesus)ミーティング」を行うと伝えたことが分かった。民主党関係者がソーシャルメディアに動画を投稿した。 

カム・トゥー・ジーザスとは米国の表現の一つで、無遠慮な会話を意味する。 

動画ではバイデン氏が7日夜に連邦議会議事堂で民主党のマイケル・ベネット上院議員、ブリンケン国務長官、ブティジェッジ運輸長官と会話する様子が映されており、ベネット氏がガザへの人道支援を拡大するようイスラエルに働きかけ続ける必要があると話している。 バイデン氏は動画の中で「私はビビ(ネタニヤフ氏の愛称)に、あなたと私はカム・トゥー・ジーザス・ミーティングを行うだろうと伝えた」と述べた。【3月9日 ロイター】
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モルドバ  親ロシア未承認国「沿ドニエストル」議会がロシアに「保護」要請 モルドバはロシアを警戒

2024-03-10 22:59:06 | 欧州情勢

(【3月1日 日経】)

【モルドバ国内を二分する親欧米と親ロシアの対立】
モルドバ・・・ウクライナとルーマニアにはさまれた「欧州最貧国」と言われる旧ソ連構成国の小国ですが、地政学的に親ロシアと親西欧の間で揺れ動く状況にあります。現在は、2020年11月の選挙で勝利した「鉄の女」とも称される親欧米のサンドゥ氏が大統領を勤め、EU加盟を申請しています。

また、単に親ロシアと親西欧の間で揺れるだけでなく、ウクライナ東部のように親ロシア勢力が実効支配する「未承認国家」沿ドニエストル・モルドヴァ共和国(以下、沿ドニエストル)がウクライナ南部と境界を接する形で存在し、ロシア軍が駐留しています。

そうした政治・経済・地理・歴史的事情から、ロシアとウクライナの戦争は小国モルドバに大波となって襲い掛かり、その大波にモルドバは翻弄されています。

黒海からロシア軍が発射するミサイルがモルドバ上空を通過してウクライナに向かうという状況も。
また、沿ドニエストルではモルドバからの攻撃を装ってロシア軍の介入を呼び込もうとする「偽旗作戦」と思われる破壊活動などもありました。

そのため、モルドバには「ウクライナの次はモルドバ」という、ロシア侵攻への強い警戒感が存在します。

****EU加盟はロシアの脅威から逃れる「唯一の道」 モルドバ大統領****
モルドバのマイア・サンドゥ大統領は(23年3月)17日、同国にとって欧州連合加盟は、自らの運命を決める国をつくり、ロシアの脅威から逃れられる「唯一の道」だと述べた。

モルドバでは親ロシア派のオリガルヒ(新興財閥)が組織する反政府デモが相次いでおり、先週末にも大規模なデモが起きた。

サンドゥ氏は首都キシニョフの議会で、「クレムリン(ロシア大統領府)からは脅迫、禁輸措置、恐喝しか出てこない」「ここから戦争、苦しみ、貧困が生じている」として、「EU(加盟)こそが、国民が自らの運命を決められる国づくりへの唯一の道だ」と訴えた。

さらに、「2030年にはモルドバはEU入りを果たし、(加盟国と)同じ権利を持っていなければならない」「モルドバ国民は欧州への道を選んだが、どれだけの時間がかかるかは私たち次第だ」と述べ、加盟承認の条件としてEU側に求められている改革に言及した。 【2023年3月18日 AFP】
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こうしたサンドゥ大統領の親欧米・EU路線に親ロシア派は強く反発し、国論は二分されています。

****「親欧米はモルドバを殺す」「ロシアの脅迫下で暮らさぬ道を」…ウクライナ隣国で国民分断****
ウクライナに隣接するモルドバのマイア・サンドゥ大統領は21日、首都キシナウで2030年までの欧州連合(EU)加盟への支持を呼びかける大規模集会を開いた。ロシアが接近する野党ショルも地方の3都市で、外交路線を問う国民投票の実施を呼びかける集会を開催し、社会の亀裂を象徴する形になった。

サンドゥ氏が開いた集会にはEUの欧州議会のロベルタ・メツォラ議長も出席し、大統領府によると約8万人が参加した。サンドゥ氏は「国民は、モルドバが欧州の辺境としてロシアの脅迫や貧困、汚職の下で暮らすことがない道を選んだ」などとして欧州統合を推進すべきだと訴えた。EU加盟を国是とする憲法改正などを盛り込んだ決議も採択した。

一方、ショルが開いた集会は、サンドゥ氏の親欧米路線が「モルドバを殺している」と批判した。モルドバでは2月にロシアによるクーデター計画が取りざたされるなど政情不安が続く。自治権が認められている南部ガガウズ自治区では14日の首長選決選投票の結果、ショル所属の首長が誕生した。ロシアがサンドゥ政権との対立をあおる可能性が取りざたされている。【2023年5月22日 読売】
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****親ロシア派野党を非合法判断 モルドバ憲法裁****
モルドバ憲法裁判所は19日、親ロシア派野党「ショル」を非合法とする判断を下した。 親欧米派のマイア・サンドゥ政権はショル党について、政権転覆を画策し、国益を損なっていると非難。憲法に反していないか裁判所に判断を仰いでいた。

裁判所はこの日、「ショル党を違憲とする」と宣告、即日解散を命じた。所属の議員5人は資格を維持できるが、無所属となる。同党は欧州人権裁判所に提訴する方針。(中略)

ショル党は、イラン・ショル氏が創立。同氏自身は2019年、イスラエルに逃亡。今年4月には本人不在のまま、マネーロンダリング(資金洗浄)などの罪で15年の禁錮刑を言い渡されている。

ショル党はここ数か月、電気料金の高騰などをめぐってサンドゥ政権に抗議するデモを首都キシナウをはじめ各都市で行っている。大統領がウクライナでの戦争にモルドバを引きずり込もうとしている、とも訴えている。

モルドバ当局はこうした抗議行動について、現政権を退陣に追い込み、親ロシア政権を樹立させることを狙ったロシアの策謀だと主張している。 【2023年6月20日 AFP】
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ロシアは当然ながら親欧米サンドゥ政権を批判しています。

****モルドバ政権が野党を「弾圧」 ロシア非難****
ロシアは7日、旧ソ連構成国モルドバで先週末に行われた地方選挙の際、親欧米派政権が投票直前になって親ロシア派野党候補の資格を剥奪したと非難した。

モルドバ政府は投票直前、親ロシア派政党がロシアから違法に提供された資金を使っていた疑いがあるとして被選挙資格を停止させた。

ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は声明で、モルドバ政府の対応について「野党に対する前例のない弾圧」であり、ロシア語を話す候補への「差別」だと非難した。

選挙の監視に当たっていた欧州安全保障協力機構は、「外国からの介入と票買収についての通報」があったとして懸念を表明。一方、「投票直前に多数の候補者の資格が停止されたり、報道が制限されたりした」点にも問題があると指摘した。

選挙ではマイア・サンドゥ大統領率いる与党が多くの地域で勝利。ただ、首都キシナウなど一部の都市では敗北を喫した。 【2023年11月8日 AFP】
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【親ロシア未承認国沿ドニエストルは経済的にはモルドバと「共存」関係もあって、これまではウクライナ戦争とは距離を置いてきたところも】
モルドバ国内すら二分する状態ですから、親ロシア未承認国「沿ドニエストル」は強くロシア侵攻を望んでいるのかと言えば、沿ドニエストルにしても必ずしもロシア軍侵攻を待ち望んでいる訳でもなく、また、モルドバと厳しく敵対している訳でもなく、沿ドニエストルとモルドバは経済的に共存関係にもあって、むしろ「プーチンの戦争」に巻き込まれないように慎重に対応している・・・との見方が従来からあります。

*****プーチン戦争に巻き込まれ苦悶する沿ドニエストル****
ウクライナ南部と境界を接する「未承認国家」沿ドニエストル・モルドヴァ共和国(以下、沿ドニエストル)で緊張感が高まっている。

4月22日にロシア中央軍管区副司令が沿ドニエストル回廊を確立することに言及した直後から、域内で偽旗作戦と思しきテロが頻発している。

「親ロ派」と称される沿ドニエストルだが、当初から極めて慎重な立場をとってきた。
ロシアによるドンバスの2つの人民共和国「国家承認」や「特別軍事作戦」発動に際して、沿ドニエストル当局は論評を加えず、住民に対して平穏と出国自粛を呼び掛け、そして避難民を受け入れる用意があることを表明しただけであった。

域内に平和維持軍と称するロシア軍部隊を抱えているが、何とかウクライナ戦争外に身を置きたいという沿ドニエストル政府の苦悩が見え隠れする。

ロシアと境界を接しない沿ドニエストル
沿ドニエストルが曖昧な態度をとり続けている理由は簡単だ。 沿ドニエストルはロシア連邦と境界を接しておらず、ウクライナ、モルドヴァに境界を囲まれた内陸国であるからだ。 対応を誤るとウクライナ、モルドヴァから制裁・封鎖を食らって一瞬で干上がってしまう。

ロシアと違い、沿ドニエストルは食料、医療品からエネルギー、工業原材料に至るまであらゆる自給率が低く、しかも基金や外貨準備の蓄えがほとんどない。

逆に言うと、1992年の沿ドニエストル紛争停戦から30年間、沿ドニエストルが存続してきたことは、ウクライナ、モルドヴァと一定の関係を維持してきた証でもある。

しかし2022年2月24日の開戦によって、まずウクライナとの経済関係が破壊されてしまった。 ウクライナ・沿ドニエストル境界は事実上の閉鎖状態にあり、ウクライナに頼っていた食料品、医療品の輸入は途絶え、交易ルートとしてのウクライナ領も使用不可能になっている。

例えば、沿ドニエストル工業生産額の4割を占める鉄鋼業は国際市場の高値に支えられ絶好調であったが、開戦後、ウクライナ領の輸出ルート、そして屑鉄原材料の輸入経路が使用不可能となり、操業停止に追い込まれている。

また、コロナ禍から回復基調にあった出稼ぎ労働も陸路を塞がれてしまった。 今や、沿ドニエストルの労働者にとって、主たる出稼ぎ先であるロシアに辿り着くことも、ロシアから帰国することも困難である。(中略)

ウクライナ側が使用できないため、沿ドニエストルにとってモルドヴァとの境界線が唯一の交易ルートとなっており、モルドヴァ側に通商を支配されてしまっている。

ウクライナから流入する避難民問題も深刻である。 沿ドニエストル当局によると2万5000人余りが避難民として登録されており、そのほとんどが、領内の縁者・親戚宅に滞在している。 避難民の数は沿ドニエストル全人口の8%に達しており、沿ドニエストルに対する国際社会からの支援が入っていないことも考慮すると、モルドヴァより負担率は高い。

プーチン戦争によって、沿ドニエストルはピークからどん底に突き落とされてしまった格好だ。

運命共同体のモルドヴァと沿ドニエストル
例外的に機能しているのが天然ガスだ。 天然ガスはロシア・ガスプロム社がモルドヴァのモルドヴァガス社との契約によって、ウクライナのパイプラインを利用して供給を続けている。

ウクライナのパイプライン企業は契約に基づいた輸送を粛々と続けており、ガスプロムも輸送料をウクライナ側に支払い続けている。

沿ドニエストルはモルドヴァより上流に位置しているため、天然ガスを先に抜き取ることができる。 沿ドニエストルは抜き取った天然ガスの対価をガスプロムに支払っておらず、事実上、無料で消費し続けている。

沿ドニエストルの消費分を誰が負担するのかは係争になっているが、モルドヴァ側は自らの勘定外であるとして拒否しており、ロシアが垂れ流し続けて沿ドニエストル側のガス債務が紙上で累積する形になっている。

沿ドニエストルにおける「無料の」天然ガスの大口消費者は、領内総発電量の9割を占めるロシア国営企業INTER RAO社所有の火力発電所である。

電力は鉄鋼の電気炉のエネルギー源となるだけでなく、輸出にふり向けられており、沿ドニエストル経済の要となっている。 電力の輸出先はモルドヴァであり、モルドヴァが消費する電力の3分の2は沿ドニエストル産で賄われている。

沿ドニエストル産電力はEU産の半値以下という安さであり、貧乏国モルドヴァにとって欠くことができない供給源となっている。 結果として、モルドヴァは沿ドニエストル最大の輸出相手国となっている。
 
このように、沿ドニエストルは親ロであるが、モルドヴァと敵対しているわけではない。
 
沿ドニエストル領内のロシア軍部隊は1500人規模と言われており、これに沿ドニエストル国軍の動員が加われば人員はかなりの数に達する。 沿ドニエストル当局の意向がどうであれ、最終的な参戦の決定はプーチンが握っている。

しかし戦力以前に、現在のロシア軍のウクライナ南部作戦が停滞している状況下、沿ドニエストル側から大々的にウクライナに進行すると、どうなるのか想像に容易い。

ウクライナ側が対抗して天然ガス輸送を止めた瞬間に沿ドニエストルは即死する。 輸送停止は、明確な契約違反であるが、「ロシア軍の攻撃でパイプライン損傷」など、いくらでも理由は付けられる。

沿ドニエストルはガス備蓄がなく、発電所は操業停止して全域でブラックアウト、工業生産額と輸出額の3分の2を占める鉄鋼、発電が消滅する。 ロシアが沿ドニエストル回廊を形成して代替燃料供給や送電を行えない限り、即死リスクがつきまとう。

一方でこのパイプラインの終着はモルドヴァで下流に他の利用国は存在しない点は重要である。 モルドヴァは、技術的にはルーマニア側から電力、天然ガスを輸入できるため、支払い能力があるかは別として、ぎりぎりエネルギーバランスを保つことはできる。(後略)【2022年5月9日 藤森 信吉氏 JB press】
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【沿ドニエストル議会がロシアに「保護」要請 沿ドニエストル、モルドバの疑心暗鬼】
その沿ドニエストル議会がロシアに「保護」を求める決議をおこない波紋が広がっています。ウクライナ東部のドンバス地方では、親ロ派の訴えがロシアによる本格侵攻のきっかけとなりました。

****モルドバの親ロ派地域がロシアに「保護」を求める****
<新ロシア派地域であるがゆえにウクライナの攻撃を恐れる沿ドニエストル地方はロシアに助けを求め、沿ドニエストル地方を擁するモルドバはモスクワの介入を恐れている>

ウクライナと国境を接するモルドバにある親ロシア派地域、沿ドニエストル地方の議会は2月28日、ロシアに安全保障面での支援を求める決議を採択した。親ロ派のこの小さな地域に、ウクライナが軍事侵攻するのではないかと恐れてのことだ。

沿ドニエストルはいっそロシアに併合されることを求めるのではないかという観測が事前に浮上しており、モルドバ政府は警戒感を強めていた。

ロシア国営タス通信によれば、今回の決議はロシアに併合を求めるものではなかったが、「モルドバからの圧力の高まり」を理由として、ロシア議会に対して沿ドニエストル地方を守る上での支援を求める内容だった。モルドバ政府はドニエストル地方の経済を破壊し、住民の自由を侵害しており、ロシアは「保証人および調停者」としてモルドバ政府から沿ドニエストル地方を守るべきだと述べている。(中略)

リトアニアを拠点とする東欧研究センターのリスクアナリスト、ディオニス・セヌサは本誌に対して、この声明は「ロシアに対する要請が控えめ」であり「モルドバ政府に対する非難も穏やかなトーン」だと述べた。

ドネツク侵攻を彷彿とさせる
この文書の発表を受けて、ロシアの次の動きをめぐる憶測が飛び交っている。ウクライナ東部のドンバス地方では、親ロ派の訴えがロシアによる本格侵攻のきっかけになった経緯があるためだ。(中略)

XユーザーのJürgen Naudittは、「沿ドニエストル地方が今日、ロシアに助けを求めた。侵略国(ロシア)のメディアは、沿ドニエストルの議会に提出された決議案の一部を拡散した。この決議案にはモルドバからの『圧力』があると記されている」と投稿した。

著者でジャーナリストのペッカ・ビルキーは、Xに次のように投稿した。「西側諸国がウクライナへの追加支援をためらい続けるなか、ロシアによる侵略は私たちの多くが予想した以上のペースで進んでいる。そろそろウクライナとモルドバが先手を打って、沿ドニエストル地域を奪還すべきだろうか」

沿ドニエストル地域は旧ソ連の崩壊後に独立を宣言し、ロシア軍の支援を受けてモルドバから分離したため、モルドバの実効支配が及んでいない。今もロシア軍が駐留しているが、ロシア政府も国際社会も、沿ドニエストルを独立国家として承認していない。

米シンクタンク「戦争研究所」は2月下旬に公表した分析の中で、ウラジーミル・プーチンが2023年11月に行った「ロシア世界」に関する演説は、彼がロシア語を話す地域とモルドバなど旧ソ連構成国のすべてがロシアの正当な領土と見なしていることを示した、との見方を示した。

戦争研究所は、ロシア政府は沿ドニエストル地方について、モルドバやウクライナに対するハイブリッド戦争のツールとして、またNATOを不安定化させるためのツールとして考えているとも述べた。【2月29日 Newsweek】
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事前の報道で指摘されていたロシアへの「編入」を求める決議には至らず、「保護」を求める形となりました。

沿ドニエストル議会は「モルドバ政府から圧力を受けている」として、ロシアに「保護」を要請していますが、直接の軍事的脅威はウクライナ軍の侵攻・・・ということでしょうか。

確かに、今の時点でモルドバ政府が独自にロシアを刺激する軍事的行動を起こすことは考えられませんが、ロシアと戦争状態のウクライナ軍が対ロシア戦略の一環としてモルドバ政府と組んで親ロシアの沿ドニエストルをおさえる・・・というのはモルドバ単独行動よりは可能性があるかも。

一方、モルドバでは、これをきっかけにロシアがモルドバに侵攻することを警戒しています。

****東欧モルドバ、仏と防衛協定 ロシアへの警戒高まる****
 旧ソ連圏の東欧モルドバのサンドゥ大統領は7日、フランスとの防衛協定に署名した。ウクライナと接するモルドバを巡っては、ロシアが情勢不安定化の取り組みを再開させていると懸念が高まっている。

サンドゥ氏は訪問先のパリで「侵略者を止めなければ、侵略者は進み続け、前線は近づき続ける」と述べた。 衛協定は訓練や定期的な協議、情報共有のための法的枠組みを定めている。

マクロン大統領は、今回の合意はモルドバを守り支援するというフランスの決意を示すものだと強調した。

親欧州のモルドバはウクライナ戦争以降、ロシアとの関係が一段と悪化している。 モルドバ東部の「沿ドニエストル共和国」は親ロシア派勢力が約30年間実効支配しており、ロシアが軍を駐留させている。沿ドニエストル共和国の議会は先月、モルドバ中央政府の圧迫からの保護をロシア側に要請する決議を採択した。【3月8日 ロイター】
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常識的には、いくらプーチン大統領とは言え、ウクライナで手一杯の情勢で西側の激しい反発を惹起してまで更にモルドバまで戦線を拡大するのは考えにくいことではありますが・・・。

もともとのモルドバと沿ドニエストルの対立にロシア・ウクライナの戦争が被さって、互いに疑心暗鬼の微妙な情勢となっています。

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女性の地位  ロシア・プーチン大統領が語る女性への「愛と感謝」の実態

2024-03-09 22:43:51 | 女性問題

(モスクワで2019年11月、「いつか自由になる」と書かれたプラカードを持ち、DV対策法の整備を求めてデモを行う女性たち【2021年1月5日 東京】)

【女性の働きやすさ 日本はOECDのなかで最下位争い常連国】
昨日3月8日は国際女性デーということで、男女格差に関する報告や、各地での活動が報じられています。

そのひとつ、この時期に毎年報じられるのが「女性の働きやすさ」に関する国際ランキングで、日本は相変わらずの「嘆かわしい」状況。(「日本には日本の文化がある。他国からどうこう言われる筋合いはない」と怒る方もいらっしゃるのでしょうが)

“<変わろう、変えよう>女性の働きやすさ、日本は29カ国中27位 英誌エコノミスト”【3月7日 毎日】

【アメリカ 共和党州知事候補は過激なアンチ・フェミニズム】
女性の地位向上を求めるフェミニズムに対しては根強いアンチも存在します。

****「女性が投票できない時代の方が良い」主張の政治家、ノースカロライナ州知事候補に選ばれる****
アメリカ・ノースカロライナ州で3月5日に行われた予備選挙で、マーク・ロビンソン副知事が共和党の州知事候補に指名された。

ロビンソン氏は数々の女性蔑視発言で知られており、4年前には憲法修正第19条がなかった時代、つまり女性に選挙権がなかった時代に戻った方が良いとも主張している。

ロビンソン氏が知事候補に指名されたことで新たに注目されているのは、2020年3月にピット郡で開かれた共和党女性委員会主催のイベントだ。

ロビンソン氏はこのイベントで「アメリカを『再び偉大な国』にするには、『黒人が木に吊り下げられていた時代』と『女性に参政権がない時代』のどちらに戻る方がいいかと、保守派の政治活動家キャンディス・オーウェンズ氏が尋ねられていた」というエピソードを紹介。

「自分なら間違いなく、女性が投票を認められなかった時代に戻る」と主張した。
その理由を「その時代には真の社会変革のために戦う人々がいた。その人たちは共和党員と呼ばれていた」と説明している。

ロビンソン氏はその後に「(人種差別の法律)ジム・クロウ法を終わらせたのは共和党だ」とも主張している(実際には、民主党と共和党、両党の議員とリンドン・ジョンソン大統領が1964年の公民権法と1965年の投票権法を成立させて、ジム・クロウ法を終わらせた)。

数々の女性、フェミニスト蔑視
ロビンソン氏はFacebookなどでも、女性を蔑み、フェミニズムを攻撃する投稿を続けてきた。
2016年には、フェミニズムは悪魔が作ったと主張。自身をフェミニストだとする男性のことを「レースのパンティと同じくらい男らしく」「意思も心も弱い“男”」と馬鹿にしてきた。

フェミニストを何度も「フェミナチ」と呼び、「性差別主義者で、脇の下に毛が生え、うんち帽をかぶった左翼 」という言葉で批判したこともある。

また、2017年には「自分の居場所をわきまえない女より悪いのは、自分の居場所をわかっていない男だ」と書き込んでいる。

さらに、キリスト教保守派テレビ伝道師の故パット・ロバートソン氏同様に、「悪魔がレズビアニズムとフェミニズムを利用して、伝統的な家族を破壊している」という主張もしている。

フェミニズムを性差別や人種差別と同一視する投稿も多数あり、2016年9月には「黒人が人種差別に、女性は性差別に対して立ち上がるべきなら......男性はフェミニズムに対して立ち上がるべきではないのか?」という疑問を投げかけている。

同日には「フェミニズムとフェミニストにはうんざりだ。彼らは人種差別主義者と同じくらい、いやそれ以上にひどい」とも書き込んでいる。

さらに、ロビンソン氏は女性を「売春婦」「魔女」「拒絶されたドラッグ・クイーン」など、様々な言葉で攻撃してきた。

他にも、アドルフ・ヒトラーの言葉を引用し、イスラム教徒への偏見を煽り、性自認に沿ったトイレを使用するトランスジェンダー女性を逮捕すべきだと主張し、ホロコーストに疑念を投げかけ、数多くの危険な陰謀論を広めてきた。

公共の場で授乳する女性を嫌っており、2016年には「恥知らずの注目されたい豚ども」と批判している。
11月に行われる選挙で、ロビンソン氏は対立候補の民主党ジョシュ・スタイン司法長官と、ノースカロライナ州知事の座を争うことになる。(後略)【3月8日 HUFFPOST】
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このロビンソン氏が州知事候補に選ばれるのですから、トランプ氏が大統領候補になるのも何の不思議もないのかも。

【ロシア プーチン大統領が進めるロシア的価値観】
このようなアンチほどではなくても、伝統的な「女性は家庭で母親になることこそが幸せ」という考えは、日本を含めて多くの国で多くの者に支持されているところでしょう。

昨今の日本では、そういう考えを公の場で口にするとバッシングを受けることになりますが、ロシアは事情が違うようです。

ロシアでは3月8日の国際女性デーは、女性の地位向上のための日というよりも、身の回りの世話をする母や妻らに、男性がプレゼントを贈る「愛と感謝の日」として認識されており、例年プーチン大統領は女性に対する「愛と感謝のメッセージ」を公表しています。

報道によれば、今年の国民向けメッセージでは、「女性は母になるのが素敵な運命だ」と述べ、子どもや家族の世話が最も重要な役割だと強調したとか。

今年のメッセージは目にしていませんが、2019年のプーチン大統領のメッセージは以下のような内容でした。

****親愛なる女性の皆さん!****
国際女性デー、おめでとうございます。この祝日はすべての人々が敬愛しています。(中略)

今日、男性たちはあなたたちに感謝と敬愛の念を伝えようと慌ただしくしていることでしょう。最高の温かい感情をもって告白するでしょうし、妻や母、祖母、姉妹、娘、職場の同僚たちに対し、心を込めて「ありがとう」と言うでしょう。

あなたたちの寛大さは本当に無限だということを私たちは知っています。そう、それは天の恵みです。あなたたち女性は、そうした寛大さを職場の同僚や近しい人たちに対し、もっと注いでいますね。

あなたたちは信頼できる組織人であり、責任感のあるリーダーであり、とても繊細なことを正しく教えることができ、あらゆる事柄に取り組む創造性も持っています。

偉大なロシア人女性の献身的な貢献を抜きに、ロシアの発展と歴史を語ることはできません。今日、ありとあらゆる専門分野で高い水準に到達できたのは、事実上あなたたちの力によるところが大きいのです。

成功させること、それはロシア人女性の性分です。あらゆる分野であなたたちは成功を収めています。職場でも家庭でも。

そしてあなたたちは美しく輝き、魅力にあふれ、家族の中心であり続けています。愛情で家族をまとめ上げ、創造や人を助け、元気づける力もあります。

あなたたちには、新たな生命を創造するすべが与えられています。すなわち、子どもを産むことです。子どもの誕生は、母性や子育てという尊い幸福であり、世界を変え、上質な優しさや慈悲の心で包んでくれます。

さらには、ロシアの力の源泉になってきた伝統的な価値観を支えています。

私たちにとって親というのは何歳になっても尊い存在ですが、母親に対しては言うまでもなく、特別な感情を抱いてきました。気遣い、無限の愛、理解、許し。母親から享受したそうしたものに対し、感謝しています。何年もたってから、そうした教えや温かい眼差しと手の感触を思い出すのです。

私たちはいつもあなたたちに恩義があります。それは国家全土において、あらゆる人たちが当てはまります。子どもを育てるためにすべてを捧げる女性たちのために、国は優先して多くのことをしなければなりません。

親愛なる女性の皆さん! はっきり言って、男性があなたたちにふさわしくなることは、時に難しくもあります。しかし、私たちは女性が心強く信頼できるよう、すべてのことをしようと思っています。

この記念日だけでなく、私たちはいつもあなたたちを大切にし、愛しています。

もう一度すべての女性に対し、今日という日のお祝いを申し上げます。健康とご多幸をお祈り申し上げます。【2019年3月16日 関根和弘氏 HUFFPOST】
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歯が浮くような文面のなかには、女性が子供を生み育てることを強調し、それをロシアの伝統的価値観に結びつける考えが示されています。ただ、「運命」とか「最も重要な役割」という表現は見られません。

報じられているように、今年のメッセージで女性は母になるのが素敵な「運命」だと述べ、子どもや家族の世話が「最も重要な役割」だと強調したということであれば、2019年のメッセージから更に踏み込んだ内容とも考えられます。

欧米的な女性の積極的社会参加、地位向上的な価値観に対し明確な否定を示したものとも言え、昨今の欧米とロシアの対立を背景として、ロシアの伝統回帰路線を示すものでもあります。

【プーチン大統領が言う「愛と感謝」の実態 DV大国ロシア それを助長するプーチン政権】
子どもや家族の世話が女性の最も重要な役割なのか、女性も積極的に社会参加し、そこで平等に扱われることが重要なのか・・・そこらはいったん脇に置くとして、ロシアの女性がプーチン大統領が示すような「愛と感謝」をうけて幸せな家庭生活を送っているのかと言えば、そうでもないようです。

プーチン大統領も「男性があなたたちにふさわしくなることは、時に難しくもあります。」と言っていますが、現実はもっと「愛と感謝」からはほど遠いものです。

****DVに悩むロシアの女性、男性優越の壁壊せるか****
ロシア中部クラスノヤルスクに住む主婦のナタリア(37)=仮名=は昨夏、「散歩に行く」と言ったきり、夫(39)の元には帰らなかった。子どもの手を引き、市内の家庭内暴力(DV)の保護センターに駆け込んだのだ。

◆2年以上前から続いた夫の暴力、コロナで拍車
2年以上前から続いた夫の暴力は、新型コロナウイルスの流行とともに堪え難くなった。都市封鎖のため職場から3カ月の「休暇」を言い渡された夫は、収入減の不安と外出制限のストレスで、ナタリアに手を上げる回数が増えたからだ。

「コロナの第2波が来て再び都市封鎖になったら耐えられない」。夫からの着信をブロックして暮らすナタリア。国連のグテレス事務総長は昨年4月、「コロナ禍の世界でDVが激発している」と警告を発した。

ロシア政府などによると、DV被害に遭う女性は年間1600万人。ロシアの人口は約1億4500万のため、女性の5人に1人は暴力を受けている計算だ。死者は年間1万2000~1万4000人と推定される。昨春の都市封鎖で、DVの通報数は前年と比べて25%も増えた。だがこれらの数値すら「氷山の一角」と見られている。

◆「家族の問題」と周囲も止められず
ロシアでDV被害が絶えないのは「(男が女を)殴るのは愛の証し」ということわざがあるように、男性優越の考えが背景にある。妻はぶたれても「愛ゆえの行為」と自分に言い聞かせ、周囲も「家族の中の問題だから」と、暴力を止められないという。

こうした風潮に加え、プーチン政権が保守色を強めていることも問題視されている。2017年にはDVに対する罰則が軽減され、家族への暴力について、初犯で大けがを負わせていなければ、最大でも3万ルーブル(約4万3000円)の罰金刑で済むようになった。

「一家のあるじが刑務所に入れば、家族の収入が減る」という考えからだが、モスクワの民間DV被害防止センター代表、アンナ・リビナ(31)は「妻子に暴力を振るってカネさえ払えば許されるのはおかしい。DVが減らない責任の一端は政府にある」と憤る。

◆コロナ禍で深刻化、迫られる法整備
長年、DV問題に取り組む下院・家族問題副委員長のオクサナ・プーシキナ(57)は「コロナ禍は、DVを深刻化させる」と断言。DV対策の法整備を急ぐ必要があると訴える。

現在、プーシキナらが提出を目指す法案では、DVを「社会で解決すべき問題」と捉え、行政と保護センター、医療機関が連携することをうたう。加害者である男性が、被害者である妻子や交際していた女性に接触することも禁じる。

多くの先進国では既に導入されている取り組みだが、ロシアではこれでも過度に「前衛的」な内容と見なされている。議会は現在、有識者のヒアリングを進めているが、法案を提出しても可決されるか予断を許さない。

◆「女性が恥じる文化を変えなければ」
「ぶたれた女性が、恥じるような文化をまず変えなければ」。アンナは意識改革が必要との思いから、テレビ局と連携して啓発動画や、Tシャツなどのグッズをつくっている。グッズに刻まれた標語は「暴力を振るうのではなく、愛し合おう」だ。【2021年1月5日 東京】
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もちろんDVはロシアだけの問題ではありませんが、“「(男が女を)殴るのは愛の証し」ということわざがあるように、男性優越の考えが背景にある”社会にあって女性を家庭に縛り付けるような女性観は、結果として多くのDV被害者を生むことになります。

実際、ロシアはDV大国として知られていますが、上記記事にもあるようにプーチン政権はそれを助長するような法改正も行っています。いわゆる「平手打ち法」と称されるものです。

****DV大国ロシアで成立した「平手打ち法」の非道****
<ロシアは年間1万4000人の女性が死亡するほどDVが横行しているが、さらにDVの罰則を軽減する改正法をプーチンが成立させた>

ロシアで「平手打ち法」と呼ばれる改正法が成立した。

すでに圧倒的多数の賛成でロシア議会を通過していたこの刑法の改正法案は、今月7日プーチン大統領が署名をして成立させた。このニュースは世界的に報じられ、ロシア政府に対する非難の声が上がっている。

「平手打ち法」とはいったいどんなものなのか。実は、この改正法により、ロシアでは家庭内暴力(DV)の罰則が一部軽減されることになる。つまり、法律で「平手打ち」などのDVが容認されるというのだ。

ロシア刑法第116条が改正され、親族に対する暴行は刑事罰から排除されることになる。また犯行を繰り返す常習犯は刑法で裁かれるものの、初犯ならばDVは刑事事件ではなく行政処分の対象とされる。また妻や子供に痣や出血を伴う怪我を負わせた場合、罰金又は15日の禁固刑が科される場合があるが、改正前は最大で2年の禁固刑だった。

なぜロシアでは、こんな時代錯誤とも言える改正法が成立したのか。ロシアではDVに対して他の先進国とは違った認識をもっている人が少なくないようで、例えば米AP通信はモスクワからの配信記事で、ロシアでも暴行は犯罪だが、妻に平手打ちをするくらいは特に驚くことではないと伝えている。

事実、世論調査で、ロシア人の約20%は妻や子供を叩くことは問題ない、と公然と答えている。またイタル・タス通信によれば、世論調査の回答者のうち59%が、深刻なけがにならない程度なら、家族内でのちょっとしたいざこざに厳しい処罰をする必要はない、と答えている。

この法案を推進した議員らに言わせれば、これで家庭生活に政府が関与するのを減らすことができるという。なぜなら、ロシアでは伝統的に国家が市民の家庭生活に口を挟むのは好ましくないとされているからだ。

また賛成派は、この法律が体罰などで子供をしつける親の権利を守るものだとも主張している。というのは、ロシアでも最近は子供をしつけで叩くことが許されない風潮があるからだ。

こうした感覚から分かる通り、ロシアのDV事情はかなり深刻な状況にある。そして、この法律によってその状況がさらに悪化するという懸念がある。

ロシア内務省によると、ロシアでは年間1万4000人の女性が夫やパートナーからの暴力で死亡しており、これは1日に約40人が死亡している計算になる。また年間60万人の女性が家庭内で暴力や言葉による虐待を受けている。

さらにこんなデータもある。ロシアで唯一のDVホットラインを運営する「アナ・センター」の集計によれば、ロシア女性の約3分の1がパートナーによる暴力に苦しめられている。また、ロシアで発生するすべての暴力犯罪と殺人事件の40%は、家庭内で起きている。

ちなみに人口がロシアの2倍のアメリカでは、2001~2012年に合計約1万1000人の女性が夫または恋人の暴力で死亡している。年間1000人ほどが死亡している計算になり、これでも十分に驚くべき数字だが、ロシアとは比較にならない。

もちろん、この「平手打ち法」に反対する人たちもいる。(中略)ただ残念ながら、こうしたロシア女性の叫びが改正法に署名を済ませたプーチンに届くことはないだろう。【2017年2月10日 山田敏弘氏 Newsweek】
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プーチン大統領が言う「愛と感謝」の実態はこのようなものです。

【今なお続く女性器切除】
女性の地位向上は重要な問題ですが、それ以前の問題として、私が1日も早い改善を希望するのがアフリカを中心に今なお広く行われている女性器切除の問題です。

****女性器切除サバイバー、世界で2億3000万人以上 ユニセフ****
国連児童基金(ユニセフ)が8日、国際女性デーに合わせて公表した報告書によると、女性器切除を受けた上で生存している少女や女性(サバイバー)の数が世界で2億3000万人を超えた。

FGM(女性の性器の一部を切除してしまう慣習)には小陰唇や陰核(クリトリス)の一部または全部の切除、縫合による膣口の狭小化などが含まれる。FGMには出血や感染症のリスクがある他、不妊症、妊娠合併症、死産、性交痛といった長期的結果につながるリスクもある。

ユニセフは、FGMが一般的に行われている31か国を対象に調査を実施。地域別に見たFGMサバイバーの数は、アフリカが1億4400万人以上と最も多く、次いでアジアが約8000万人、中東が約600万人だった。

全体的にサバイバー数が増加しているのは一部の国の人口増加によるところが大きいが、その他の国ではFGMが減少傾向にある点を報告書は強調している。

例えばシエラレオネでは、FGMサバイバーが15〜19歳の全女性に占める割合が、30年間で95%から61%に減少した。エチオピア、ブルキナファソ、ケニアでも大幅な減少が記録されている。

一方、FGMサバイバーが15〜49歳の全女性に占める割合が多い国は、99%のソマリアを筆頭に、ギニアの95%、ジブチの90%、マリの89%と続いている。 【3月8日 AFP】
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中国  金門周辺海域、南シナ海で台湾・フィリピンとの緊張 習主席「海上軍事闘争の準備」指示

2024-03-08 23:20:52 | 中国

(フィリピン軍がチャーターした民間船(中央)に放水銃を使用する中国海警局の船(右と左)。フィリピン沿岸警備隊公開の動画より(2024年3月5日撮影) 【3月7日 AFP】)

【中国 金門島周辺海域でのパトロールを常態化】
2月14日に台湾が実効支配する金門島近くの海域で、台湾当局の取締り中に中国の漁船が転覆し2人が死亡した問題をめぐって中国側の対応が硬化しています。

中国側は同海域でのパトロールを常態化させる動きを見せており、2月19日には、乗客23人を乗せて金門島周辺を航行していた台湾の遊覧船が中国海警局の巡視艇に制止させられ臨検を受けるという事態も。

****中台、金門周辺海域で緊張 巡視常態化、現状変更狙い****
中国本土に近い台湾の離島、金門島付近で発生した中国漁船の転覆事故をきっかけに、中国が周辺海域でパトロールを常態化すると表明した。中国はその後、台湾側水域での巡視や台湾船への臨検を実施するなど現状変更を図る動きを見せており、中台間の緊張が高まっている。

中国には独立派と見なす与党、民主進歩党(民進党)、頼清徳副総統の5月の総統就任を前に、民進党政権に圧力をかける狙いもあるとみられる。米国務省のミラー報道官も中国側の動向を注視していると述べた。

台湾当局は金門島周辺に、許可のない中国船の進入などを禁じる禁止・制限水域を設定。台湾海巡署(海上保安庁に相当)の船が14日、同水域に入った中国漁船を追跡した際に漁船が転覆、4人が海に転落し、うち2人が死亡した。

中国側は台湾の取り締まりを批判し、中国国務院(政府)台湾事務弁公室は17日、禁止・制限水域の存在を否定する談話を発表。中国海警局は18日、パトロール常態化の対抗措置を表明した。【2月21日 共同】
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2月26日には、金門島の規制水域に中国海警局の船5隻が進入したが、台湾側の警告を受けすぐに立ち去る緊張も。
中国側は今後も圧力を強める姿勢を見せています。

****中国の台湾政策担当トップ、漁船転覆事故受け「決して容赦しない」 台湾与党に圧力強める姿勢示す****
中国政府の台湾政策担当のトップが先月29日、台湾が実効支配する金門島付近で当局の追跡を受けていた中国漁船が転覆した事故について「決して容赦しない」と述べ、台湾の与党に対し、圧力を強める姿勢を示しました。

中国中央テレビによりますと、中国政府で台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室のトップ・宋濤主任が先月29日、中国を訪れている台湾の最大野党・国民党の夏立言副主席と会談しました。

会談で宋主任は、違法操業の疑いで台湾当局から追跡されていた中国の漁船が転覆し2人が死亡した事故を受け、「台湾の民進党政権が中国の漁民の生命と財産の安全を無視した悪質な行為を決して容赦しない」などと述べ、台湾への圧力を強める姿勢を示しました。

一方、国民党の夏副主席は、「民進党政権を監督し、事実を早急に明らかにするよう促す」などと応じました。

中国は、5月に就任する民進党の頼清徳次期総統を「台湾独立勢力」とみなし対話に応じていません。
会談の様子を公開することで、中国に融和的な姿勢を示す国民党と、政権を担う民進党の待遇に差をつけ、台湾世論に揺さぶりをかける狙いがあるとみられます。【3月1日 日テレNEWS】
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中国側の主張はともかく、中国の意向を容認し、台湾側の非を認めるような台湾野党・国民党の姿勢は台湾国内ではどのように見られているのでしょうか?

台湾・蔡英文政権は中国に対し「現状維持」を求めています。

****金門島付近の「現状」維持を、台湾が中国に要求****
台湾で対中国政策を担当する大陸委員会は8日、台湾が実効支配する金門島付近に警備艇を送り込んで「現状」を変更しようとするのをやめるよう中国に要求した。

セン志宏・副主任委員兼報道官は記者会見で「(台湾)海峡を挟んだ現在の状況は管理可能なものであるべきだ」と述べた。(後略)【3月8日 ロイター】
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中国によるある程度の圧力は想定内ですが、今後中国側がどこまで対応をエスカレートさせるのか注目されます。

【中比艦船が衝突 中国側放水銃で比側に4人の負傷者】
台湾海峡以上に連日緊張が伝えられるのが南シナ海・アユンギン礁をめぐる中国・フィリピンの対立です。
領有権を主張するフィリピンは南シナ海のアユンギン礁に軍船を座礁させ軍拠点としていますが、スカボロー礁周辺やアユンギン礁軍拠点への補給任務をめぐって中国・フィリピン艦船の小競り合い・緊張が絶えません。

圧力を強める中国に対し、フィリピン・マルコス政権はアメリカ・オーストラリアとの関係を強化して対抗する姿勢を強化しています。

“中国、比巡視船を強制退去 南シナ海スカボロー礁”【2月11日 共同】
“フィリピン、「領土防衛」で米軍と合同巡回 中国反発”【2月20日 ロイター】
“フィリピン、南シナ海で「不法侵入」との中国主張に反論”【2月22日 ロイター】
“中国、フィリピン船阻止へ障害物 南シナ海スカボロー礁”【2月26日 共同】
“比大統領「1平方インチも譲らず」=南シナ海、対中国で豪と連携”【2月29日 時事】

****フィリピンは対中国海洋紛争の「最前線」 マルコス大統領、豪議会で演説****
フィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領は29日、訪問先オーストラリアの議会で演説し、フィリピンは地域平和のための戦いの「最前線」に立っていると述べ、中国との海洋紛争に対する支援を求めた。

フィリピン沿岸で中国の軍艦が確認されたのを受け、マルコス氏はオーストラリアの議員に対し、「フィリピンは今、地域の平和と安定を損ない、地域の繁栄を脅かす行動に対する最前線に立っている」と発言。

自国の主権を断固防衛すると誓い、「いかなる外国勢力であれ、わが国の主権領域を1平方インチたりとも奪おうとする試みは許さない」と語り、拍手喝采を浴びた。

また「直面する課題は手ごわいかもしれないが、われわれの決意も同じくらい固い。われわれは決して屈しない」と述べ、「世界の大動脈である南シナ海の防衛は、地域平和、ひいては世界平和を守る上で極めて重要だ」と訴えた。 【2月29日 AFP】
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こうした緊張状態のなか、3月5日には両国艦船が衝突、中国側の放水銃でフィリピン側に負傷者が出る事態に。

****南シナ海で中国船と2度衝突=比沿岸警備隊の船損傷、4人けが****
フィリピン沿岸警備隊は5日、南シナ海のアユンギン(中国名・仁愛)礁近くで、同隊などの船2隻がそれぞれ中国海警局の船舶に針路を妨害され衝突したと発表した。2隻とも船体の一部が損傷したという。

衝突があったのは同日朝。比沿岸警備隊艇はアユンギン礁に物資を運ぶ船を護衛していた。2度目の衝突の際、中国海警局の2隻の船舶が放水銃を使い、運搬船に乗っていた比海軍スタッフ少なくとも4人が負傷したという。

一方、中国海警局は同日、比側が故意に衝突させたと非難する報道官談話を発表した。【3月5日 時事】 
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中国側はフィリピンのアユンギン礁軍拠点への定期補給任務について「1隻に限り容認する」との提案も。
フィリピンとしては中国側の許可云々は中国主権を認めることに他なりませんので当然これを拒否。

****中国、南シナ海の補給容認 1隻限定、フィリピンは拒否****
フィリピンが南シナ海のアユンギン礁の軍拠点に対し行ってきた定期補給任務について、中国が補給船1隻に限り容認する方針をフィリピン側に伝えたことが6日分かった。フィリピン軍西部方面隊のカルロス司令官が共同通信のオンライン取材で明らかにした。

フィリピン補給船団は5日の任務の際、中国側から無線で同じ通告を受けたが、拒否したという。

5日の任務には補給船2隻が加わった。カルロス氏は6日、記者会見も開き、中国側が放水砲で妨害した1隻は、初めて試験投入された大型の補給船だったと述べた。【3月6日 共同】
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****「最も深刻な事案だ」フィリピン政府が中国側に自制求める  南シナ海で中国艦船が放水砲****
(中略)そんな中、フィリピン外務省や海軍は6日、共同で記者会見を開きました。

フィリピン国家安全保障会議 ジョナサン・マラヤ報道官 「妨害行為や危険な操縦をしているのは誰なのか? それは中国だ」

フィリピン側は「中国が意図的に問題を引き起こしている」と改めて非難したうえで、「これまでで最も深刻な事案だ」として中国側に自制を求めました。【3月6日 TBS NEWS DIG】
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譲らないフィリピン側対応について中国は、アメリカがフィリピンを南シナ海における「駒」として利用していると非難しています。

****米国はフィリピンを「駒」として利用 中国****
中国は6日、米国がフィリピンを南シナ海における「駒」として利用していると非難した。南シナ海では、中国とフィリピンの領有権争いが過熱している。

中国海警局の船がフィリピンの補給船2隻に衝突し、うち1隻に放水銃を使用したのを受け、フィリピン側は5日、中国大使を呼び出した。

中国側は、フィリピン船が「中国領海を侵犯」したため措置を講じたと述べた。さらに、うち1隻は、「意図的に」中国船に衝突してきたと非難した。

中国外務省の毛寧報道官は会見で、米国が中国の行動を「挑発的」と非難したことについて問われると、「米国に対し、フィリピンを南シナ海で事を荒立てるための駒として使わないよう求める」「フィリピンは米国の言いなりになるべきではない」と述べた。 【3月7日 AFP】
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【習近平国家主席 中国軍の会議で「海上軍事闘争の準備」を進めるよう指示】
上記のような台湾海峡・金門島周辺及び南シナ海での緊張の高まりをうけて、全人代開催中の中国では習近平国家主席が中国軍の会議に出席し、「海上軍事闘争の準備」を進めるよう指示したとのこと。

****習近平国家主席 中国軍に「海上軍事闘争の準備」を指示「サイバーなど新分野での能力強化」も****
中国の習近平国家主席は中国軍の会議に出席し、「海上軍事闘争の準備」を進めるよう指示しました。

中国国営の中央テレビによりますと、習近平国家主席は7日、中国軍の幹部らが出席する会議に出席し、「海上での軍事闘争の準備、海洋権益の保護、海洋戦略能力を高める必要がある」と述べ、海軍力などの増強に力を入れるよう指示しました。

中国は尖閣諸島周辺海域や南シナ海での活動を活発化させており、今回の指示により、こうした威圧的行為がさらにエスカレートする可能性もあります。

中国は以前から台湾について、「武力による統一の可能性も排除しない」という姿勢を示しており、台湾への圧力を念頭に置いた指示ともみられます。

また、近年、安全保障をめぐり、重要性を増しているサイバーや宇宙空間、AIといった分野について、「強国建設に向け、前進するために重要だ」としたうえで、「新領域分野での戦略的能力を全面的に強化する」よう指示しました。

今年の全人代=全国人民代表大会で2024年の国防費として前の年に比べ、7.2%増の1兆6655億元、日本円でおよそ34兆円を計上する方針が示されています。

中国経済の先行きに不透明感が広がる中、軍事費の強化には、引き続き力を入れる姿勢が鮮明になっており、今回の習近平国家主席の指示も軍拡路線を堅持するものといえそうです。【3月7日 TBS NEWS DIG】
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習近平国家主席には、事態を穏便に・・・という考えはないようです。
台湾海峡・南シナ海での更なる緊張が懸念されます。
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西アフリカ  イスラム過激派対策でロシアに接近 ワグネルの利権継承を目論むロシア

2024-03-07 22:00:04 | アフリカ

(【3月2日 NHK】 ブルキナファソの首都ワガドゥグの街中、壁に描かれたプーチン大統領)

【「過激」・特殊なものでもなく、もっと一般的なものとしての暴力・・・との印象】
西アフリカの地域大国ナイジェリアと言えば、経済的重要性の高まりの一方で、イスラム過激派「ボコ・ハラム」がすぐに思い浮かぶように治安状態はよくありません。
「ボコ・ハラム」だけでなく敵対関係にあるIS系過激派も活発に活動しています。

****武装集団襲撃で50人拉致 ナイジェリア、過激派か****
ナイジェリア北東部で4日、武装集団が湖の周辺でまき集めをしていた住民を襲撃し、50人を拉致した。ほとんどが女性。イスラム過激派の犯行とみられる。ロイター通信が6日報じた。

現場はチャドやカメルーンとの国境近くで、過激派組織「イスラム国」(IS)系のグループが活動する地域。逃亡した女性はロイターに、被害者はチャドに連行されたと話した。

ナイジェリア北東部ではIS系に加え、敵対関係にある過激派ボコ・ハラムもテロを続け、多数の住民が家を追われた。4日に拉致された人々は避難民キャンプで暮らしていた。【3月7日 共同】
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こうした武装勢力を一般的に「過激派」という言葉で呼んでいますが、下記のような部族間抗争が絶えない現状を考えると、この地域では武力行使や殺害などの暴力は日本や欧米で考えるような「過激」・特殊なものでもなく、もっと一般的なものなのかもしれない・・・という印象も。

****ナイジェリアで武装集団による襲撃…少なくとも140人死亡 干ばつや洪水で土地など奪い合いか****
アフリカ・ナイジェリアの中部で今月(23年12月)23日と24日、武装集団による襲撃事件があり、少なくとも140人が死亡しました。気候変動によって干ばつや洪水などが起き、人々の間で土地など奪い合いが起きているとみられています。

ナイジェリア中部・プラトー州の集落で今月23日と24日、武装集団による襲撃事件があり、ロイター通信などによりますと、少なくとも140人が死亡、300人がケガをしたということです。

この州では、イスラム教徒の遊牧民とキリスト教徒の農民との間で衝突がたびたび起きていて、今年5月には100人以上が死亡する衝突が起きていました。

ロイター通信は専門家などの話として、気候変動によって干ばつや洪水などが起き、住む場所を失った遊牧民と農民との間で土地や資源の奪い合いが起きているとの見方を伝えています。

こうした事態に国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは、「ナイジェリア当局はこの地域で頻繁に起こる致命的な襲撃を止めることができていない」と非難するとともに、「これらの攻撃について、公平で効果的に調査する必要がある」と迅速な対応を求めました。【23年12月27日 日テレNEWS】
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暴力が一般的なもの・・・と書きましたが、それはこの地域の人々が野蛮云々という話ではなく、その背景には、そうでもしないと生きていけない厳しさ・貧困、それにたいする政治対応の不十分さなどがあってのことでしょう。

ナイジェリアに隣接するニジェール、マリ、ブルキナファソもイスラム過激派の跋扈という状況は同じです。

****ブルキナファソ 3つの村が襲撃され約170人殺害 検察「処刑された」 イスラム過激派が関与か***
西アフリカのブルキナファソで、3つの村が襲撃され、およそ170人が殺害されました。イスラム過激派が関与した可能性があり、検察当局は、「処刑」されたとしています。

AFP通信などによりますと、ブルキナファソ北部のヤテンガ県で先月25日、3つの村が襲撃され、およそ170人が「処刑」されたと現地の検察当局が発表しました。

目撃者の話では、死者のうち、数十人が女性や子どもだったということです。
村を襲撃した集団についてはわかっておらず、ブルキナファソの検察当局は、目撃情報を集めるなど捜査を進めています。

ブルキナファソでは2015年以降、イスラム過激派によるテロや襲撃が繰り返され、およそ2万人が死亡。200万人以上が避難を余儀なくされるなど治安の悪化が深刻になっています。【3月4日 日テレNEWS】
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“ブルキナファソでは2022年に軍によるクーデターが2回起きたほか、過激派組織「イスラム国」の影響を受けたとみられる武装勢力などが反発を強めていて、現在の暫定政府も国土の半分近くを掌握できずにいるとも伝えられています。”【3月4日 テレ朝news】

日本や欧米で50人が拉致されたり、170人が殺害処刑されたりすれば大騒ぎですが、西アフリカでの出来事となると上記のような簡単なニュースの扱いです。

口にはしなくても“この地域では暴力が一般的なもの”という認識が前提にあるのでしょう。

【過激派対策をフランスに代えてロシアに頼る西アフリカ軍事政権】
しかし、現地の住民、何とか過激派を掃討しようとしている現地政府(政府軍自身の暴力の問題もありますが)にとっては、それではすみません。

ブルキナファソではもともと旧宗主国のフランスが強い影響力を持っていましたが、おととし、2度にわたるクーデターで軍事政権が成立すると、フランスとの関係が悪化し、駐留していたフランス軍の部隊が去年、撤退しました。

旧フランス植民地のニジェール・マリも同様です。これらの国がフランスに代えて頼っているのがロシア。

****ロシア、ニジェール軍政と軍事協力で合意=国防省****
ロシア国防省は16日、昨年のクーデター以来軍政が支配しているニジェールと軍事面で協力を進めることで合意したと明らかにした。

ロシアの通信各社によると、国防次官2人がこの日、ニジェールのモディ国防相と会談した。

ロシア国防省は「防衛部門における両国間の関係構築の重要性が指摘され、地域安定に向け共同の行動を強化することで一致した」と説明。またニジェール軍の「戦闘態勢強化」に向け対話を継続するとした。ただ、計画の詳細は明らかにしていない。

ニジェールでは2023年7月に軍によるクーデターが発生。バズム大統領の警護隊トップを務めていたアブドゥラハマネ・チアニ将軍が大統領を追放し、新国家元首に就任した。

さらに、軍政はフランス軍を追放し、欧州連合(EU)との安全保障協定を破棄。西側の間では、同地域がロシアによる進出の足掛かりになる可能性があると懸念されている。【1月17日 ロイター】
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軍事クデター政権でもあるニジェール・マリ・ブルキナファソの西アフリカ3ヶ国は西アフリカ諸国経済共同体からも離脱して独自の路線をとろうとしています。名目はより徹底したテロ・過激派対策です。

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ニジェールなど3か国 西アフリカ共同体の即時離脱を発表****
西アフリカ・ニジェールの軍事政権は、隣国のマリやブルキナファソとともに、周辺国で作る共同体から即時離脱すると発表しました。

ニジェールの軍事政権の報道官は28日、国営テレビで共同声明を読み上げ、隣国のマリ、ブルキナファソとともにECOWAS=西アフリカ諸国経済共同体を即時離脱すると発表しました。

ニジェールでは去年7月、軍によるクーデターが発生して欧米寄りの大統領が排除されたほか、2020年にはマリで、2022年にはブルキナファソでもクーデターが起きて軍が政権を掌握しています。

これらの国々ではイスラム過激派のテロが頻発するなど治安が不安定で、声明ではECOWASが「テロや情勢不安との戦いにおいて、3か国を支援することに失敗した」と非難しています。

また軍事政権発足以降はいずれもロシアへの接近が指摘されていて、マリではロシアの民間軍事会社「ワグネル」が派遣されているとみられています。

一方、ECOWASは声明で、「3か国から正式な通知を受けていない」と明かし、「交渉による解決策を見出せるよう取り組む」としています。【1月29日 TBS NEWS DIG】
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【ワグネルの利権を引き継ぐロシア】
ロシア側の受け皿になっていたが民間軍事会社ワグネルですが、「プリゴジンの乱」で解体しました。しかし、ロシアとしては「アフリカ部隊」を創設して、ワグネルがこの地域で築いた利権をそのまま引き継ぐ考えです。
ニジェール・マリ・ブルキナファソにとっても民間軍事会社からロシア公認の組織への変更は基本的には歓迎でしょう。

****ロシア アフリカで準軍事組織立ち上げ 政府主導で利権確保も****
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏の死亡から半年余りとなる中、ロシア政府はワグネルが活動を広げてきたアフリカで、国防省傘下の新たな準軍事組織を立ち上げ、現地での活動や利権の確保などに政府主導で乗り出す動きを見せています。

ロシアはアフリカで、これまで民間軍事会社ワグネルを通じて、リビアやスーダン、マリ、中央アフリカなど紛争やクーデターによって国内情勢が不安定な国々に影響力を拡大してきました。

ワグネルが戦闘員を派遣する一方で、鉱物資源の権益を拡大するなど、プーチン政権のアフリカ戦略と密接に結び付きながら暗躍してきたと指摘されています。

しかし、ワグネルの創設者、プリゴジン氏が去年6月に武装反乱を起こし、その2か月後に搭乗していた自家用ジェット機が墜落して死亡する事態となり、アフリカでのロシアの動向が注目されていました。

ロシア政府は去年秋ごろに、ワグネルに代わって国防省の傘下に位置づける「アフリカ部隊」と呼ばれる新たな準軍事組織を立ち上げ、アフリカでの活動や利権を引き継ごうとしていると指摘されています。

アフリカ部隊はマリやリビアですでに活動を開始したとみられているほか、ことし1月には、西アフリカのブルキナファソにおよそ100人の部隊を派遣したと発表しています。

アフリカ部隊は去年12月の時点で、指揮官を含む構成員のうち、およそ半分がワグネルの元メンバーだとみずから公表しています。

一方で、新たな人員の獲得に力を入れていて、SNS上には、「高額な給与」や「医療費などの給付」をうたって人材を募集する広告が頻繁に投稿されています。

アメリカのメディア、ブルームバーグはロシア国防省の関係者の話として、アフリカ部隊は最大で2万人の要員を確保しようとしていると伝えています。

ロシアとしては政情不安が続くアフリカ諸国などに対し、民間軍事会社を間に挟んだ関与から、政府主導のより直接的な関与へと切り替え、影響力を広げていこうとしているとみられます。

専門家“ワグネルが築き上げた利権乗っ取ろうとしている”
 ロシアのアフリカでの活動に詳しい専門家は、ロシア政府はアフリカでワグネルが築き上げてきた軍事的、経済的な利権やネットワークを乗っ取ろうとしていると指摘しています。

日本エネルギー経済研究所中東研究センターの小林周主任研究員は「ロシアの政府と軍が、アフリカに展開していたワグネルの乗っ取りを本気で進めていることが明らかになってきている。民間軍事会社が主導するのではなく、政府が主導することで軍事や情報、それに経済などの活動をより一体化して展開していこうとしているようにみえる」と指摘しました。

その理由について、「ロシアが国家としてアフリカの紛争に介入することは、さまざまなリスクがあるものの、アフリカの少なからぬ国には親ロシアの体制ができていて、金鉱山などからの利益をウクライナでの戦争の軍資金にも充てられている。リスクを上回る利益を見いだしているといえる」と分析しています。

また、小林主任研究員は、テロや治安の悪化に悩むアフリカ諸国にとってもロシアは頼れるパートナーになっているとする一方で、「ロシアが国家として関与することになれば、アフリカの国としてはプーチン政権からお墨付きを得たととらえて、人権侵害につながる活動をちゅうちょしなくなるおそれがある」と述べて、テロ対策の名のもとに市民への抑圧や暴力が助長されるおそれがあると指摘します。

アフリカでは2020年以降、かつてフランスの植民地だった西アフリカの国々などでクーデターが連鎖的に起きていて、その周辺でも政治情勢が不安定となる国が増えています。

小林主任研究員は「西側諸国がクーデターを起こしたり、強権化した国を排除しようとしたりすればするほど、彼らはロシアに近づいていく。そうした国々への関与と対話を継続し、ロシアの介入をはねのける努力を続けていくことが必要となっている」と述べ、日本や欧米などの各国や国際機関がアフリカに関与し続けることが重要だと強調しました。

ロシアとの関係 急速に深めるブルキナファソは
このところ、ロシアとの関係を急速に深めている国の一つが西アフリカのブルキナファソです。

サハラ砂漠の南側のサヘル地域にある内陸国で、人口はおよそ2200万です。 もともと旧宗主国のフランスが強い影響力を持っていましたが、おととし、2度にわたるクーデターで軍事政権が成立すると、フランスとの関係が悪化し、駐留していたフランス軍の部隊が去年、撤退しました。

代わってブルキナファソ政府が接近したのがロシアです。

去年7月にロシアで開かれたアフリカ諸国との首脳会議では、プーチン大統領とブルキナファソのトラオレ暫定大統領が個別に会談を行い、安全保障や食料問題などでの協力を確認しています。

その後、双方の政府や軍の高官が往来を重ね、ことし1月には、ロシア国防省傘下の準軍事組織「アフリカ部隊」の隊員、およそ100人がブルキナファソに到着し、政府軍の兵士の訓練などを行っています。

先月、NHKの取材班がブルキナファソの首都ワガドゥグを訪れたところ、街のあちこちにロシアの国旗が掲げられ、国をあげてロシアの支援を歓迎している様子がうかがえました。

日中は強い日ざしが照りつけ、気温が40度近くになりますが、日が暮れて暑さが和らぐと、街の広場に連日、ロシアを支持する若者たちが集まります。

若者たちはスマートフォンを使ってSNSの動画中継をしながら、ロシアとの連携がいかに重要かについて主張を展開していました。

参加者の1人は「ロシアからの武器が私たちの国に実際に輸入されてきています。まさに互恵的でウィンウィンの関係です。フランスなどこれまでのパートナーは不誠実で、問題が多かったのです」と話していました。
ブルキナファソの人々がロシアの軍事支援に期待を寄せる最大の理由が治安の深刻な悪化です。

ブルキナファソでは2015年ごろからイスラム過激派が活動を活発化させ、テロや襲撃事件が頻発しています。

世界各地の武力紛争のデータを集計している非営利調査団体ACLEDによりますと、去年1年間でおよそ8500人が殺害されたということです。

また、住む家を追われて国内で避難している人も200万人を超えています。

ワガドゥグの郊外で避難生活を続けているベレム・アダマさん(37)は、ことし1月に住んでいた村が過激派に包囲されました。

すぐ近くの集落が襲われ、村人が殺されたり家に火をつけられたりしたため、家族を連れて着の身着のままで村を離れたといいます。

アダマさんには3人の妻と15人の子どもがいますが、避難場所では、時々入る日雇いの仕事以外に収入はなく、食料を確保するのにも苦労しています。 そのため、大人は1日1食ほどで我慢し、子どもになるべく多く食べさせるようにしているということです。

アダマさんは「家畜の牛やバイクもすべて村に残し、せめて命だけでも守ろうとここに逃げてきました。ロシアがテロリストとの戦いを支援し、皆が早く自分の村に戻れるようになってほしいです」と話していました。

安全保障の専門家で、トラオレ暫定大統領のアドバイザーも務めているサミュエル・カルクームド氏は「ロシアとの協力関係は非常に重要で、われわれの軍はそのおかげで高性能の武器を備え、よりよい訓練も受け、テロと戦えるようになっている」とロシアとの関係を高く評価しています。

一方で、マリや中央アフリカなどの周辺の国では、ロシアの民間軍事会社ワグネルの部隊が市民の殺害に関与したなどと指摘されていることについては、「テロとの戦いにおいては、残虐な行為が行われることも、その国の人々が支持しているのであれば、仕方ない場合もある。ただ、われわれが協力しているのはよう兵部隊ではなく、ロシア政府と軍なのです。それが政府の方針です」と話していました。【3月2日 NHK】
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香港  進む中国との一体化 「国家安全条例」制定作業開始 市民の意識に変化も

2024-03-06 23:31:52 | 東アジア

(中国広東省深センの大型スーパーで、スーツケースを持参し買い物をする香港人ら(2月2日)【2月26日 読売】)

【「一国二制度」が完全に形骸化 中国に従属する一地域へ】
香港の「一国二制度」が完全に形骸化し、民主派の活動は弾圧・封殺され、中国政府のコントロールが貫徹されるようになっていることは今更のことで、昨年12月の従来は最も民意が反映されるとされていた区議会選挙の様相も、民主派は立候補すらできず様変わりしました。

過去最低の27・5%という低い投票率が、もの言えぬ市民のせめてもの抵抗とも。

****香港から失われたものは何か…区議会選挙の過去最低投票率が示すこと 「愛国者」の資格審査、民主派は立候補すらできず****
香港で12月10日、区議会(18区の地方議会)選挙の投開票が行われ、中国政府寄りの親中派が議席を独占した。

2019年の反政府デモを経て中国主導で香港国家安全維持法(国安法)が導入されて以降、香港では政治面や言論面での自由が急激になくなった。選挙にはしらけムードが漂い、投票率は過去最低の27・5%に沈んだ。

立候補すらできなかった民主派の前区議会議員の話から区議会選を振り返ってみたい。(共同通信香港支局長 一井源太郎)

 ▽「愛国者」の資格
そもそも地方選挙の区議会選が注目されるのは、政府トップの行政長官を選挙で選べない香港では市民の投票機会は立法会(議会)と区議会の二つの選挙に限られているという事情がある。

立法会は既に立候補には厳格な「愛国者」の資格審査があり、親中派がほぼ独占している。香港で「愛国者」とは、香港政治に関する最終的な決定権は中国にあるとの立場を容認し、中国当局に反対しない人のことを指す。民主的な選挙の実現を目指す民主派には受け入れられない条件だ。

2019年の前回の区議会選は、反政府デモの盛り上がりを受け民主派が議席の約8割を獲得した。しかし親中派が支配する立法会は中国当局の後押しを受けて、香港への忠誠の宣誓を義務付ける条例を成立させ、民主派議員の辞職や資格剥奪が相次いだ。

区議会が機能不全に陥ったことを理由に、香港政府は区議会が再び民主派勢力の基盤となることを阻止しようと、区議会選の制度変更に乗り出した。

香港政府が提出し、7月に立法会で成立した区議会選の制度変更は、親中派に圧倒的優位で、民主派政党を事実上、排除するものだった。新制度では、18区で計479あった議席を計470に削減し、このうち住民による直接投票枠は452から88に減らした。

他に行政長官が選ぶ委任枠(179)と、地区委員会などの委員に限定された投票枠(176)ができたが、いずれも親中派しか立候補できない。区議会議長は議員からの選出ではなく、政府の役人が務める。

 ▽不都合な人間を排除
直接投票枠への立候補には、「三会」と呼ばれる、地区、防火、防犯の三つの委員会から3人ずつ計9人の推薦を受ける必要があり、そのハードルを越えたとしても政府が設立した委員会による「愛国者」の資格審査を通らなければならない。

「政府にとって不都合な人間を排除するシステムだ」。香港の油尖旺区議会の現職議員で、民主派政党、民主党に所属する朱子洛氏(32)は立候補すらできず、閉鎖作業を進める自身の事務所で悔しさをにじませた。

朱氏は「三会」の委員に直接会ったり、手紙を送ったりして推薦をお願いした。中には「市民のために仕事をしたいと考えているのは分かるが、今の段階では難しい」と慰めてくれる人もいたが、ほとんどは反応がなかった。

朱さんによると、2020年ごろから三会の委員の任期が切れると、政府は民主派寄りの人を排除して親中派を選び、用意周到に準備を進めてきたという。

「数十年間、地域のために貢献してきたベテラン議員でさえ、民主派寄りだとして推薦を集められなかった」一方で、「経験もないのに、政治的な背景だけで立候補できた人もいる」と嘆いた。

朱さんは政治に関わりたい思いはあるが、民主派を排除する動きは当面は変わらないとみている。「いつか状況が良くなれば、また市民のために働きたいが、今後はビジネスに進路を変えざるを得ない」と寂しそうに話した。

 ▽パズルのピース
投票後、政府トップの李家超行政長官は「建設的で市民のために成果を出すための区議会となることを望む」と述べ、新制度での選挙の正当性を強調した。また10日には「(今回の選挙は)愛国者による香港統治の原則を実行に移す上で、パズルの最後のピースだ」とも語り、民主派を一掃したことに自信を示した。

香港の社会システムからの民主派排除を進めてきた香港政府にとって、今回の選挙はなりふり構わぬ取り組みの総仕上げと言える。民主派メディアも国安法に基づく取り締まりで壊滅的な打撃を受けた。中国や香港政府を真っ正面から批判する勢力は力を失った。

反政府的な言動をすれば身柄が拘束される危険があるため、多くの市民は沈黙を貫いている。過去最低の投票率は無言の抗議のように思われる。【23年12月24日 47NEWS】
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中国政府の香港に対する扱いも、従来の特別行政区に対する特別の扱いから、完全に中国に従属する一地域への扱いに変化しています。
中国・香港関係は外交ではなく内政になっています。

****もはや滑稽! 14億国民も呆れた習近平の「皇帝ぶりっこ」****
林愛華「中南海ディープスロート」第13回

香港特別行政区長官との会談で異変
香港の李家超特別行政区長官が北京へ来て、12月18日に中南海で、習近平主席に政務報告した。会談の出席者などの変化には、大きなメッセージが隠されている。

なんと会見の場で、李家超長官の向かいに座っていたのは、李強国務院総理(首相)だった。慣例に従うなら、彼がその場にいるはずはない。

本来であれば、香港特別行政区長官が北京で政務報告する場合、まず国務院総理に会い、そのあと、国家主席に報告してきた。それは香港が特別行政区で、中国と対等な関係にあることを示していた。

昨年まではルール通りだった。すなわち、2022年12月22日午後に上京した李家超行政長官は、まず李克強総理(当時)と会い、翌日の23日午後に習近平主席と会って、それぞれに報告した。

しかし、今年はまったく違った。報告は一回だけとなり、李強総理との単独会見はなくなった。
異変と言ってよいだろう。李強総理は習近平主席が李家超長官の報告を聞く会見の一列席者にされたのだ。(中略)

会談から消えた外交メンバー
異変のその2は、外交関係者が同席しなかったことだ。以前は香港の特別行政長官との会見の場には、必ず外交関係の長がいた。例えば楊潔篪や王毅など歴代外交部長(外相)が常連であった。しかし、今回から外交メンバーがいなくなり、中共中央書記処の蔡奇筆頭書記などが初めて同席した。

香港は、かつてのような中国との対等な関係ではなくなり、完全に中国に従属する一地域に成り下がった。李家超長官はもはや、ひとつの省のトップにすぎなかったのだ。(後略)【23年12月28日 林 愛華氏 現代ビジネス】
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【「国家安全条例」制定に向け作業開始 「パブリックコメント」では98%以上が条例に賛同】
こうした状況で香港政府は、以前は香港市民の反対で制定できなかった「国家安全条例」の制定に向けて動き出しています。

****香港政府が「国家安全条例」制定に向け作業開始 言論統制を強化へ 2003年にも検討 市民の反対で撤回****
香港政府のトップ・李家超行政長官らが会見を開き、「国家安全条例」の制定に向けた作業を開始すると発表しました。条例が成立すれば、言論統制が一層厳しくなりそうです。

李家超行政長官らは30日に会見を開き、「国家安全条例」の制定に向け、市民から意見を募る「パブリックコメント」を来月末まで行うことを明らかにしました。

李長官は「2019年の大規模なデモなどによって、多くの人が国家安全の重要性を知りリスクは深刻」などと説明。条例案では、国家主権を脅かす暴動や扇動行為について現行の法律を補完するほか、スパイ行為については、「国家秘密」とは何かについて具体的に定義するということです。

香港の憲法に相当する「香港基本法」には「国家安全条例」を自ら制定すると記されていて、2003年には議会に相当する立法会で草案をもとに議論されましたが、「言論や表現の自由を規制するものだ」と市民らが大規模な抗議活動を行い、条例案は撤回されていました。

香港では現在、中国政府が制定した「香港国家安全維持法」が施行されていますが、条例が成立すれば、言論統制が一層厳しくなりそうです。【1月30日 TBS NEWS DIG】
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市民から意見を募る「パブリックコメント」では98%以上が条例に賛同するものだった・・・とのこと。
それはそうでしょう。「反対」という意見を出したら、その後どうなるか・・・。100%でなかったのが不思議なくらいです。

*****香港「国家安全条例」 98%以上が賛同と政府発表*****
香港政府が制定を目指す「国家安全条例」について、政府は、市民から寄せられた意見の98%以上が、条例に賛同するものだったと発表しました。

香港では現在、中国政府が定めた「香港国家安全維持法」が施行されていますが、香港政府は独自に「国家安全条例」の制定を目指し、条例案の原案を発表していました。

スパイ行為や扇動など「国安法」を補強する内容で、政府によると、先月行ったパブリックコメントには、1万3000件以上の意見が寄せられ、そのうち98.6%が支持する内容だったということです。

5日に中国で開幕した「全人代」に参加した香港の代表団は。

香港代表団「(条例が成立すれば)香港に存在する安全保障の抜け穴の一部をブロックでき、香港はより安定し、国家安全保障もより良く保証されることになる」

香港では「国安法」により反政府的な言動が禁じられ、既に「言論の自由」が制限されていますが、条例が成立すれば、更に統制が強まるとみられます。

香港政府は今後、出来るだけ早く条例案を議会に当たる立法会に提出し、制定を目指す方針です。【3月6日 TBS NEWS DIG】
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【変わったのは政治状況だけでなく、香港市民の意識も・・・・】
ただ、変わったのは自治から中国支配へという政治的な力関係だけでなく、香港市民の意識にも中国支配を受け入れる方向での変化が起きているのかも。

****香港から中国本土へ旅行・買い物ブーム…反感一転「時代は変わった」「品ぞろえ良く安い」****
香港から中国本土への旅行や買い物がブームとなっている。物価の安さが香港人を引きつけているようだ。2019年の反政府抗議活動から一転したような動きの背景には、統制が強まる香港でじわりと進む政治離れもある。(中国広東省深セン 鈴木隆弘、写真も)

香港に隣接する広東省深セン市にある米系の大型スーパーは今月上旬、スーツケース持参で日用品や食品を買い込む香港人でにぎわっていた。夫婦で来た男性(65)は「品ぞろえが良く香港より安い」と満足げだ。十数年ぶりに本土をよく訪れるようになったという。

香港の旅行社・EGLツアーズは1月、広東省の大型スーパーや観光地を巡る1泊2日ツアーを始めた。1月に約2000人が参加し、2月も約3000人の予約が入る。新疆ウイグル自治区など遠方を巡る10日前後のツアーも人気だ。本土への旅行者は昨年、コロナ禍前の3倍の約3万人に増えたという。

香港メディアによると、中国本土を訪れた香港人は昨年延べ5300万人でコロナ禍前の水準に戻った。消費熱は高い。香港ドルが人民元に対し、2年前に比べて1割ほど強くなり、買い物を安価で楽しめるためだ。「選択肢が多く、サービスもいい」(58歳男性)との納得感もある。

中国本土に赴く動きは、反政府デモに否定的だった中高年層が中心だ。若者層でも週末を本土で楽しむ人たちが出始め、会社員男性(27)は「香港より遊べる場所は多い。以前は中国への反感があったが時代は変わった」と話した。

香港中文大学による昨夏の世論調査では、「政治に興味がない」との回答が前年より7・4ポイント高い62・9%だった。20年に反政府活動を取り締まる国家安全維持法が施行されて政治離れが進み、もともと実利重視と呼ばれる香港人の考えが改めて強まっているようだ。

習近平シージンピン政権は、広東省と香港、マカオの経済一体化を進める。本土行きのブームは「香港は本土と融合してきた」(李家超行政長官)との宣伝材料となる。社会には閉塞へいそく感も漂い、ネット上では「(自らを)中国人であると受け入れた」との嘆きの声も多い。【2月26日 読売】
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****中国で物価下落、香港住民が買い出し旅行で殺到****
中国本土で物価の下落が続いている。これは香港で暮らす人々にとってはありがたいことだが、企業にとっては大きな問題だ。(中略)

香港では中国との境界を越えて深セン市を訪れ、コストコやサムズ・クラブなどの大型量販店で冷凍食品や安い家具を買い込む人が増えている。香港の企業は中国企業と価格で勝負できず、厳しさを痛感している。

「今、街を歩くと、香港の小売業者が大きな苦境に陥っているのが分かる」。前香港財政官の曽俊華氏は最近、ソーシャルメディアにそう投稿した。(中略)

少しでも安く
中国本土が提供するものを香港の住民が喜んで受け入れるようなことは、反政府デモに飲み込まれていた5年前には考えられないことのようにみえた。

香港住民は当時、自分と同じ政治的立場の店を支援するため、立場ごとに色分けされた地図でそうした店を探し、中国本土とつながりがあるとみられる店は避けていた。

しかし、新型コロナウイルス対策で長期間にわたり香港からの移動が制限されたことや、不安を感じた住民の節約志向のおかげもあって深センの魅力が高まった。

「香港と深センの経済的な相互依存性を示す生活様式の再調整が起きている」と香港城市大学のエドマンド・チェン氏(政治社会学)は話す。(後略)【2月28日 WSJ】
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【周庭さん 日本向け活動再開】
一方、日本ではアイドル的な人気があるかつての「民主の女神」周庭さんは、亡命したカナダから日本に向けての活動を再会しています。

****周庭さん 3年ぶりにXを再開 「日本のみなさんと色々話したい」****
カナダに亡命後、香港警察から指名手配されている活動家の周庭さんが3年ぶりにXに日本語のメッセージを投稿しました。

日本時間の5日午前、周庭さんはXに「3年ぶりになりますが、ツイッターをまた始めたいと思います。これからも日本のみなさんと色々話したいと思います。ただいま」という日本語のメッセージを投稿しました。 その後、8時間余りで4万件近い「いいね」が付いています。

周庭さんは3年前までXの前身「ツイッター」に日本語で頻繁にメッセージを投稿していました。【3月5日 テレ朝news】
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香港警察は2月6日に同氏を指名手配し、「自ら出頭しない限り、生涯にわたって追われる」「外国の反中勢力に庇護(ひご)を求めることは恥ずかしい」と圧力をかけています。

“周氏らへの弾圧が浮き彫りにしているのは、中国共産党の強権政治と、香港で加速する「中国化」という現実だ。香港に自由を保障していた「一国二制度」の崩壊である。”【2月9日 産経】

今のところ、カナダと中国の間では「犯罪人引き渡し条約」が停止しており、また、カナダ
トルドー政権の性格からして、表だって中国・香港当局が周庭氏に手を出すことはできません。

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今回、香港の警察が逮捕状を取ったと言っても、カナダに通用するわけではありません。実はカナダ政府は2020年7月、香港が「国家安全維持法」を施行したことを受けて、香港との間にあった「犯罪人引き渡し条約」を停止しているからです。つまりカナダにいる限り安全なのです。(中略)

カナダには香港出身者が約30万人いるとされますが、「引き渡し条約」を停止した際、トルドー首相は「香港の人々を守る」と表明しています。中国は世界各地に勝手に「警察」の出先機関を置いていると報道されていますが、カナダ政府が「守る」と言明している以上、勝手な振舞いはできないでしょう。【3月5日 池上 彰氏 文春オンライン】
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もちろん、非合法に拉致という話になれば別ですが、中国・香港当局もカナダ及び国際社会を敵に回してまでそうしたことを行うメリットはないでしょう。香港に残る家族がいるのであれば、そちらへの圧力はあるかも。

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韓国  出生率0.72で「地球上で真っ先に消え去る国」に改めて“衝撃”

2024-03-05 23:06:19 | 人口問題

(【2月29日 西日本】)

【「地球上で真っ先に消え去る国」】
日本を含めて東アジア世界は深刻な少子化が進行していますが、その中でもトップを走るのが韓国で、最近の(人口を維持するためには、おおむね2.07を保つ必要があるとされる)合計特殊出生率は0.7程度・・・という話は、これまでも再三取り上げてきました。

ですから、23年の0.72という数値については驚きでも何でもなく予想されていたものではありますが、それでも改めて公式発表されると大きな衝撃があります。

****韓国出生率、23年は0.72で過去最低更新 ソウルは0.55****
韓国統計庁は28日、女性1人が生涯に産む子どもの推定人数を示す合計特殊出生率が2023年に0.72だったと発表した。既に世界最低水準だった22年の0.78から低下し、過去最低を更新した。

人口が4年連続で減少する中、政府は少子化対策に多額の資金を投入してきたが効果は出ていない。

出生率が1を下回るのは経済協力開発機構(OECD)加盟国で韓国のみ。

韓国の主要政党は4月の選挙を前に、人口減少に歯止めをかけるため、公営住宅増設や融資緩和を公約に掲げている。

韓国では子どもは結婚してから持つものという考えが一般的だが、主に経済的負担が大きいことから結婚も減少している。

出生率は首都ソウルが0.55で最も低かった。

韓国は24年の出生率が0.68にさらに低下すると予想している。

日本は22年に過去最低の1.26を記録。中国も過去最低の1.09を付けている。【2月28日 ロイター】
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昨年10〜12月期は0.65・・・今後、更に低下しそうです。

韓国については、以前にイギリスのオックスフォード人口問題研究所が「地球上で真っ先に消え去る国は韓国」と指摘したこともありますが、(あくまでも単純計算の話ですが)このままでは半世紀後には現在の人口(5167万人)が約30%減少し、1000年ほどたてば韓国の人口は消滅する・・・というレベルの数値です。

【出産願望・結婚願望の低下 背景に価値観の変化や住宅・子育ての経済事情】
こうした状況の要因の一つが、女性の出産願望の低下です。更には結婚願望も低下しています。

****韓国の出生率低下問題、働く女性の60%以上が「産みたくない」の理由****
(中略)
こうした状況には多くの要因があるが、その内の1つに女性の出産願望の低下があげられる。
2月27日、『韓国経済新聞』が経済活動をする25〜45歳女性1000人を対象にしたオンラインアンケート(2月5〜20日)の調査・分析結果を発表した。これによると、回答者の62.2%が「これから子供を出産するつもりはない」と答えたことがわかった。

細かく分類すると、未婚女性は66.6%が、既婚女性は59.2%が「出産の意思がない」とのこと。さらに、未婚女性の55%は結婚願望自体がないことが判明したのだ。

その理由としては、「子育てに拘束されたくないから」「経済的に余裕がない」「やりたいことの障害になる」などがあがっている。

女性の社会進出はすばらしいことだが、産休や育児補助制度を充実させなかった結果、「結婚も出産もしたくない」という女性の増加に繋がっているのだろうか…。

こうした疑問に、韓国国内では「産休して無事に会社に戻れる補償がない」「達成感を覚えながらお金を稼ぐのに、子供を産んだらリセットになるので当然だ」「非婚・非出産を主張する女性を韓国男性は強く否定する。人工子宮でも開発してください」など、出生率の低下を“働く女性”のせいにするなという意見が多く上がった。

結婚・出産・仕事。すべてを納得させられる答えを政府は準備しなければならない。【3月3日 サーチコリア】
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長時間労働などによる子育てと仕事の両立の難しさや、子育ての負担の女性への偏りなどは日本でも散々指摘されていることです。

昨年8月の韓国統計庁の調査によれば、結婚に対し「肯定的」な認識を持つ割合は22年時点で36・4%に過ぎないとのことで、「非婚主義」という価値観も広がっています。その背景には、自分の幸福を追求する「ミーイズム」と呼ばれる傾向も。

こうした出産願望・結婚願望の低下の背景には、女性に偏る負担に加えて、昨今の経済事情があるというのは常々指摘されています。住宅は若者の手が届きにくい価格に高騰し、子育てに巨額の資金がかかる・・・

****韓国で“ペットカー”の販売量が“ベビーカー”の販売量を上回ったとのデータも… 出生率過去最低「0.72」の背景に「塾ぐるぐる」と「ミーイズム」?****
去年の出生率が0.72と過去最低を更新し、少子化に歯止めがかからない韓国。その背景を象徴するのが二つの言葉、「塾ぐるぐる」と「ミーイズム」です。

ソウルの散歩道。多くの人が引いていたのは最近、人気となっているペットを乗せたペットカーです。韓国ではペットカーの販売量が、ベビーカーの販売量を上回ったことを示すデータもあります。

「若い人たちは子供を産んで苦労するよりも、犬や猫を育てて楽しく暮らそうという人が増えている」

きのう発表された韓国の去年の合計特殊出生率は「0.72」と過去最低を更新。少子化が進む日本をも大きく下回る水準です。なぜここまで低くなったのか。

「韓国は最低賃金も高くないし、就職も難しい。こんな環境で異性と結婚して子供を持つことができるのか疑問です」

子育てをしづらくする要因の一つが“過酷な競争”。「塾ぐるぐる」と呼ばれるように、受験や就職を勝ち抜くために塾や習い事をいくつも掛け持ちする子供たちが大勢いるのです。親の経済的な負担も大きく、不動産の高騰などで苦しい生活に追い打ちをかけています。

また、専門家は自分の幸福を追求する「ミーイズム」と呼ばれる傾向が広がっていることも背景にあると指摘します。

インハ大学 イウンヒ教授
「若い世代を中心にミーイズムと言って、自分をとても大切に思っています。自分が犠牲になって子供を産んで苦しむよりは、自分が幸せに生きることがもっと重要だと考えるのです」

人口減少による「国家消滅」の危機も指摘されるほどで、少子化対策がいっそう喫緊の課題となっています。【2月29日 TBS NEWS DIG】
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【韓国政府も対応はしてきたものの効果なし】
韓国政府もこれまで、保育所を増やしたり、無償保育や育児休業制度を広げたりといった「少子化対策」を進めてきましたが、出産願望・結婚願望の低下という大きな流れを変えることは出来ず、出生率の低下に歯止めをかけられていません。

****田中秀臣 韓国の「人口消滅」危機 先進国で断トツの〝超々低出生率〟背景に経済不安と歴代政権の失敗 日本にとっては他山の石****
(中略)もちろん人口が減少していても、直接に経済や社会の停滞とイコールではない。景気が良く、1人当たりの所得水準や幸福感が増していればいい。要するに経済対策が少子化の経済を救う。

ところが韓国ではこの経済対策がうまくいっていない。いまから10年前の合計特殊出生率はまだ1・19あった。それが0・72まで急減少した背景には、若い世代の経済不安と歴代政権の少子化対策の失敗がある。

経済不安の象徴は、若い世代の失業率だ。韓国の場合は、通常の失業率では測れない「本当の失業」をみる必要がある。日本でも長期停滞が深刻だったときは、働きたいけれども景気が悪くて働くのを断念した人たちが多かった。「求職意欲喪失者」ともいわれる。

この人たちを含めた「拡張失業率」では、若い世代は20%前後と極めて高い。ちなみに中国は50%近いが、これを公の場で発言することも取り締まりの対象だ。韓国の若い世代の経済不安が、結婚や育児を断念させる直接の原因である。

韓国の歴代政権は若い世代の雇用の改善を目指したが、少子化にストップをかけるほどの効果はなかった。
また少子化対策自体も失敗した。少子化対策が本格化してから日本円で28兆円以上の金額が使われたが、効果は無に等しい。

もちろん韓国の少子化対策の失敗は、日本にとって他山の石でもある。日本の少子化対策の予算規模は、この10年で倍増したが少子化に歯止めはかかっていない。少子化対策の効果の検証もおざなりだ。

そもそも日本は高齢層に経済的支援が厚く、その負担を若い世代が負っている。岸田文雄政権の「異次元の少子化対策」も、働いている世代に負担を強いるものだ。

本来なら年金や医療費などの過剰な増加を抑制し、若い世代の負担を軽くするのがベストだ。もちろん「子育て国債」を発行して、同時に減税も合わせる景気対策もいいだろう。この政治的決断がなければ、少子化の勢いは簡単には止まらない。 【3月5日 夕刊フジ】
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政府は更に取組を強化するとは言っていますが・・・(日本同様)あまり期待はされていないよう。

****韓国の出生率が0.65で過去最低、政府は少子化対策の全面見直しを宣言もネットには「見当違い」の声****
2024年2月29日、韓国・ハンギョレによると、韓国の昨年10〜12月期の合計特殊出生率が0.65で過去最低を記録した中、少子高齢化社会委員会のチュ・ヒョンファン副委員長が28日のインタビューで「これまでの少子化政策は実効性に乏しいとの指摘を受けているため、需要者の立場から全面的に見直す必要がある」とし、「政府省庁と全地方自治体に対し、今月末までに少子化対策の現状について報告するよう要請している」と明らかにした。

記事によると、同委員会は政府の5年単位の「少子高齢化社会基本計画」を審議・確定する人口政策コントロールタワー。チュ副委員長は「全面的に再検討することでこれまでのデパート式(問題解決のためにあらゆる雑多な政策をかき集めた政府の政策を批判する際に使われる表現)の漸進的対策ではなく、実効性のある対策を集中的に迅速に推進していく」と説明した。

韓国政府は同委員会を中心に育児負担の緩和策、家庭と仕事の両立政策、経歴断絶女性(結婚や出産、育児などを理由に仕事を辞めた女性のこと)問題の解決策を打ち出し、段階的に発表する計画。

チュ副委員長は「少子化問題には複合的アプローチが必要だが、『少しずつ』では効果が出ない」とし、「良い職場環境をつくることが最も重要であり、それに並行して未婚者に結婚への意欲を持たせ、出産や育児の負担を一つ一つ改善することが望ましい」と強調したという。

この記事を見た韓国のネットユーザーからは「今さら?」「2年間何をしていたのか。今になって再検討とは」「再検討すると発表するのではなく、再検討した後に『こうします』と発表してほしい」などと指摘する声が上がった。

そのほか、「養育費と私教育費が問題であることに気づいていないの?気づかないふりをしているの?」「職場環境が問題?とんだ見当違いだ。国民は全員、不動産が問題だと分かっている。子どもを育てるのに必要なのは衣食住の安定。今は着るものにも食べるものにも困らないが、住まいに不安があるから子どもを産めない」「良い職場づくりより住居環境を優先するべき」「まずは日に日に上昇する住宅価格と物価を安定させ、それから少子化対策を立ててほしい」などの声が寄せられた。【2月29日 レコードチャイナ】
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【移民政策を推進する保守政権】
やや意外だったのは、少子化による人口減少に対し、保守の尹錫悦政権も移民を推進する立場を明確にしていることです。韓国は日本以上に外国人への抵抗感が大きい国と思っていましたが。それに伊政権はいわゆる保守政権ですし・・・それだけ危機感が強いということでしょう。

****韓国、外国人街を除けば「地方消滅」危機 保守与党も移民推進を加速 出生率0・72の移民国家****
韓国南西部・光州(クァンジュ)市の光山(クァンサン)区は、ロシアによるウクライナ侵略に伴い、朝鮮半島にルーツを持つ「高麗人」のウクライナ住民らが避難先に選んだことで知られる。青少年文化センターを訪ねると、容姿は韓国人と変わらない10人あまりの小学生が、韓国語の授業を受けている最中だった。(中略)

19世紀後半に朝鮮半島を離れ、ロシアを経て中央アジアに移住した人々の子孫は高麗人と呼ばれる。2000年代初頭、韓国の経済発展に伴い「帰国」した高麗人で形成されたのが、光山区の「高麗人村」だった。

首都圏などへの人口流出で空き家が目立った住宅街に3〜4世帯が入居したのに始まり、現在は光山区に住む高麗人が約4800人を記録。高麗人に続いて他の外国人も相次いで流入し、住民登録分だけで1万4千人に達する。

周辺にはロシアやトルコ、中国など各国の飲食店が立ち並び、ゴミ捨て場には韓国語、ロシア語、ベトナム語の注意書きが掲示されている。

「若者活気」唯一の街
韓国ではソウル首都圏への人口一極集中が続く。逆に光州市を含む全羅南道地域では約半世紀の間に人口が393万人から180万人まで半減した。道移民政策課長の劉永珉(ユ・ヨンミン)は「少子高齢化に人口流出問題が加わり、地域社会の深刻さはソウルと比較にならない」と強調する。

そんな中、若者が存在感を示す稀有(けう)な地域が高麗人村のある光山区だ。昨年10月に発表された「地方消滅」の危険性を測る指標では、出産の中心となる20〜39歳の女性数が65歳以上の高齢者数を唯一上回る自治体となった。

15年前から周辺でアパート経営を続ける金正基(キム・ジョンギ)=(77)=の所有物件には、10部屋のうち9部屋で外国人が暮らしている。「若者の活気ある地域経済は、韓国人だけでは全く成り立たない」。金はそう断言する。

外国人拒否感に違い
韓国法務省の統計によると、韓国の在留外国人は2023年、前年比で11・7%増加し、新型コロナウイルス禍以前の250万人を回復。人口全体に占める外国人の割合は4・9%で、過去最高を記録した。
これに対し、日本では国内の在留外国人数が昨年過去最高を更新したが、比率では2・5%にとどまっている。

日韓の移民流入速度の違いには、外国人に対する拒否感の大きさも影響したとみられる。74カ国で実施された「世界価値観調査」(17〜22年)では、「移民や外国人労働者は隣人になってほしくない」との回答(平均21・3%)が、日本の29・1%に対し、韓国は22・0%にとどまった。

日韓の移民政策に詳しい大阪経済法科大アジア太平洋研究センターの宣元錫(ソン・ウォンソク)は「1990年代以降、両国は同じように労働力不足の状況にあったが、日本は世論への配慮から『発展途上国に対する国際貢献』を掲げて技能実習生を受け入れる形を取り、公には移民を認めなかった」と指摘。

一方、韓国は「当初は日本をモデルとした実習生制度を導入したが、(受け入れがスムーズに進まず)2004年以降は『積極的な移民許容』に転じ、流入が活発化した」と解説する。

総選挙次第で移民加速
移民問題の専門家らが「予測していなかった」と口をそろえるのが、保守系で移民政策に後ろ向きとみられていた尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権下での移民推進の加速だ。政府は昨年12月、「出入国·移民管理庁」(移民庁)の新設を柱とした5カ年計画を発表。ビザ発給の大幅な拡大などを進める。

移民関連の学会関係者は「大統領選当時は尹氏陣営に移民政策の質問状を送っても無回答だった」と振り返るが、尹政権発足に伴い法相に就任した韓東勲(ハン・ドンフン)は、就任当日から移民庁設立の検討を表明。「移民政策で完璧に成功した国は地球上にないが、今後体系的な移民政策なしに国家運営に成功できる国もない」などと、移民受け入れの意義を強調してきた。

法相から与党「国民の力」トップに転じた韓が指揮を執る4月の総選挙で勝利を収め、同党が国会運営で主導権を握れば、韓国の移民政策は一気に加速度を増す見通しだ。
しかし、急速な移民流入の拡大は、地域社会にさまざまな影を落とし始めている。=敬称略【3月5日 産経】
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移民の流入が社会にさまざまな影を落とすことは事実でしょうが、(賢明な対応とともに)社会の活力が維持されれば対応も可能です。
一方、無策のまま人口が減り、社会の活力も失われていく状況では、すべての問題は悪化するばかりです。

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ハイチ  破綻国家ハイチが破綻した背景・理由を歴史的にひも解く

2024-03-04 22:53:47 | ラテンアメリカ

(【2023年1月19日 GNV】)

【破綻国家ハイチ】
カリブ海の島国ハイチは、様々な理由により多くの地域をギャングが実質支配する破綻国家となっています。
ここ数日のニュースでも、その破綻ぶりは明らかです。

最貧国の一つともされるハイチでは2021年に当時の大統領が暗殺された後、総選挙を経て先月7日にはアンリ首相が政権を移譲することになっていましたが、選挙は実施されておらず、国民の不満も高まっていました。

****ハイチ首都で銃撃戦、ギャングが首相に退任要求****
ハイチで2月29日、首都ポルトープランス全域で銃撃戦が起き、警察官4人が死亡した。有力ギャングのリーダーが同日、アリエル・アンリ首相を退任させるため、複数の武装集団が同時攻撃を行っていると発表した。 攻撃はアンリ首相がケニア訪問中に起こった。

武装集団は市内の複数の警察署を襲撃し、うち2か所は放火された。警察学校とトゥサン・ルーベルチュール国際空港も攻撃された。

攻撃を主導したのは「バーベキュー」の愛称で知られるギャングリーダー、ジミー・シュリジエ氏。
シュリジエ氏は攻撃開始前にソーシャルメディアに投稿した動画で、「きょう、全ての武装集団はアリエル・アンリ首相の退任を求め行動する」と宣言した。

ハイチは近年、全国が武装ギャングの影響下に置かれ、暴力が激化。経済と公共医療は壊滅的状況にある。
同時に政治に対する市民の不満も高まっており、2月にはアンリ首相に予定通り退任するよう求める大規模抗議デモが発生した。

2021年のジョブネル・モイーズ大統領暗殺事件の後に結ばれた政治合意では、総選挙を実施し、今年2月7日にアンリ首相が政権移譲することになっていた。だが、アンリ氏はこれを行わなかった。(後略) 【3月1日 AFP】******************

****ギャングが刑務所襲撃、3000人以上脱走か ハイチ****
ハイチの首都ポルトープランスにある国立刑務所が2日夜から3日にかけてギャングに襲撃され、多数の受刑者が脱走し、少なくとも十数人が死亡した。AFP記者とNGOが3日に確認した。

事態を受けてハイチ政府は3日、非常事態を宣言。また、首都のある西県を対象に、午後6時から午前5時までの外出禁止令を出した。声明では、6日までの予定とされたが、状況に応じて延長の可能性もあるとしている。

人権団体のピエール・エスペランス氏は、「多数の受刑者の遺体を確認した」とし、国立刑務所で服役中だった約3800人の受刑者のうち、施設内に残っていたのは100人程度だったと述べた。(中略)

ハイチの首都では、アリエル・アンリ首相の退任を求め、複数の武装集団が2月29日以降、激しい攻撃を繰り広げている。 【3月4日 AFP】
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【なぜハイチは破綻したのか?】
その破綻の原因として地震や政治混乱があげられています。
2010年1月12日 ハイチ地震 “地震の規模の大きさやハイチの政情不安定に起因する社会基盤の脆弱さが相俟ち、死者が31万6千人程に及ぶなど、単一の地震災害としてはスマトラ島沖地震に匹敵する現代空前の大規模なものとなった。”【ウィキペディア】
2021年7月7日 モイーズ大統領暗殺 その後に実権を掌握したアンリ首相が関与しているとの疑惑も。
2021年8月16日 再度の大地震(死者約2200人。負傷者は1万2000人超)

国連は昨年10月初め、国連安保理が加盟国に多国籍部隊を1年間派遣する権限を与える決議案を賛成多数で採択しましたが、過去の国際介入の失敗から主導する国がなかなか決まらず、ようやくケニア主導となりました。

2021年、モイーズ大統領暗殺で政情不安が深刻化したハイチ政府は武装勢力が空港などを襲撃する恐れがあるとして、アメリカと国連に派兵を求めましたが、アメリカ・バイデン大統領は本格的な米軍部隊派遣は「今のところ予定していない」と述べ、深入りを避けています。 国連・アメリカともに関与には消極的です。

こうした政情不安、社会基盤の脆弱さがいかにして生じたのか? ギャングはどのように発生したのか? なぜギャングが首相退任を要求するのか? 国際社会はどのように関与してきたのか?・・・そこを総合的に理解するためには、ハイチの歴史をひも解く必要があります。

****ハイチ:政府の不在とその展望****
現在、ハイチやその国民は人道、政治、経済、安全保障のあらゆる側面において危機にさらされている。政治が安定せず国家の統治が崩壊している中、ギャングや自警団が台頭し、国の首都の大部分が占領されている。また、様々な要因が絡み合って食糧危機も起こっている。

一体、どうしてこうなってしまったのだろう。そこには、ハイチが歩んできた複雑な歴史が背景にある。今回はその背景に焦点を当てつつ、現在のハイチが抱える課題について考察していこうと思う。

ハイチの歴史的経緯
ハイチはカリブ海に浮かぶ、ドミニカ共和国とともにイスパニョーラ島を構成する国だ。人口は1,000万人ほどで、首都をポルトープランスに置いている。

ここからは、ハイチが歩んできた歴史を見ていこう。ハイチのイスパニョーラ島には、元々タイノと呼ばれる先住民が住んでいた。しかしその後、フランスがアフリカから多くの奴隷を強制的に移住させ、その子孫がハイチの人口の大半を占めている。

こうして、フランスの植民地となったハイチでは、サトウキビのプランテーションなどが行われ、その利益のほとんどがフランスに搾取され続けた。そんなフランスの横暴が長く続いたのち、耐えかねた奴隷達が1804年に蜂起し、独立を勝ち取った。ハイチは現代国家として世界初の、黒人がマジョリティである共和国として独立を果たしたのだ。

しかし、この独立も決して一筋縄ではなかった。その最大の理由が、独立の際に奴隷を失ったフランスへの「損害賠償」として支払うこととなった莫大な賠償金である。現在の価値にして約220億米ドルにものぼるこの賠償金の支払いは、1825年からなんと120年間も続き、当然ハイチの経済を圧迫してきた。

その後1915年になると、当時の大統領が暗殺されたことを契機にアメリカ軍がハイチに介入し、以後1934年までの19年間ハイチを占領した。

この期間、アメリカはハイチの人々に対して差別的な統治を行い、また強制労働や報道検閲を行ってハイチを支配していた。これに対しハイチの農民たちは1920年頃から各地で反乱を起こした。9年にもわたる蜂起の後、アメリカ軍はようやくハイチからの撤退を開始し、1934年には完全に撤退した。しかし、アメリカとのつながりは依然として途切れず、これ以降もアメリカはハイチに対して強い影響力を持つこととなる。

その後、1957年から1986年まで独裁政権としてハイチで権力を握ったのが、フランソワ・デュバリエ大統領(通称パパ・ドク)とその息子であるジャン=クロード・デュバリエ大統領(通称ベイビー・ドク)の親子であった。

父のフランソワ・デュバリエ大統領は、大衆の人気を受け1957年に大統領に就任するが、その後、抑圧的な政治に方向転換した。まず、通称「トントン・マクート」と呼ばれる秘密警察を組織した。この組織は正式名称を「国家治安義勇隊(VNS)」といい、その隊員たちは武装して小作農から土地を奪うなど略奪や犯罪を繰り返して生計を立てており、当時の人々に大きな恐怖を与えた。

土地を奪われ、行き場を失った農民たちは、収入を求めて首都のスラム街に流れ、そのうちにスラム街は人が溢れ飢餓や栄養失調が蔓延する状態になった。それと対照的に、「トントン・マクート」の中心人物たちは没収した土地や国からの助成金を懐に入れ私腹を肥やすというような有様であった。

また、彼らは国家や政権の指示のもと、当時の主要な新聞記者やラジオ関係者を扇動罪で投獄し、言論統制を行っていた。さらに、フランソワ・デュバリエ大統領自身も憲法を改正し自身を終身大統領とするなど、独裁体制を確実なものにしていたのであった。

そんな「パパ・ドク」が1971年に亡くなり、後を継いだのが当時19歳という若さの息子、ジャン=クロード・デュバリエ氏だ。彼もまた父親が残した独裁体制を引き継ぎ、抑圧的で汚職や不正が絶えない政権を形成した。

しかしこうした政権が永遠に続くことはなく、1985年には各地で民衆が蜂起しデュバリエ政権への激しい反対運動を繰り広げ、さらに、デュバリエ政権を長年支えてきたアメリカも、ロナルド・レーガン政権下においてデュバリエ氏に政権を放棄するように圧力をかけた。各方面からの圧力に耐えかねた「ベイビー・ドク」は、1986年にフランスに逃亡し、親子二代にわたる独裁政権が終わりを迎えた。

同時に、ハイチを長く苦しめた権威主義の政治体制も終わりを迎えることとなった。そして1987年には新憲法が成立し、これ以降ハイチは新憲法に基づく民主的な国家に移行した。

安定しないハイチ情勢
しかし、新憲法の下に移行してもなお、ハイチに平和が訪れることはなかった。新憲法の施工から数年間、クーデターや軍事政権が相次いだのである。

この状況を打開したのが、1991年に大統領となったジャン・ベルトラン・アリスティド氏である。(中略)彼は新憲法成立後、最初に民主的に選出された大統領で、1991年と2000年の2回大統領に選出されているが、それぞれの就任期間中2度追放されている。2回の追放はいずれもハイチ国内でのクーデターが原因である。

2回目となる2004年、アリスティド氏は国外追放され失脚したのだが、このクーデターにはアメリカやフランス、カナダが深く関わっていた。また、彼の政権中にはアメリカによってハイチの産業の成長が大いに妨げられており、その影響は今もなお続いている。例えば、その当時アメリカから非常に価格の安い米が大量に輸入されてハイチの稲作産業が崩壊した結果、現在になっても米の大部分を輸入に頼っている。

アリスティド大統領は1994年と2004年の二度クーデターにより追放されたが、両方ともその後に国連平和維持軍(PKO)がハイチにやってきている。特筆すべきは、2004年に2回目の追放を受けた後のPKOである。この時、国連のハイチ安定化ミッションの活動としてPKOがやってきていた。

彼らは2017年までの13年間ハイチに滞在し、ハイチの治安維持や2010年の大地震の際の救助や復旧活動などに取り組んでいたが、それと同時にハイチにかなりの悪影響も及ぼした。PKOの隊員たちによる多数の性暴力が発覚したり、2010年には隊員たちによってコレラが持ち込まれたりしたことが明らかになり、1万人以上もの人々を死に至らしめた。

また、2010年1月に起きた大地震も不安定なハイチの現状の一因となっている。マグニチュード7.0という大地震がハイチに与えた影響は甚大で、20万人以上が死亡し、30万人以上が負傷した。また首都の建物のうちの70%が一瞬にして崩壊した。その中には学校や病院、国会議事堂や首相官邸までもが含まれており、文字通り首都を中心にハイチの都市は軒並み機能しなくなった。

加えて、経済面で地震がハイチに与えた影響も相当なものであった。地震による土砂崩れなどで農産業は大打撃を受け、農産物が国内に流通しなくなるのはもちろん、国外への輸出もできなくなったために輸送や通信のラインが崩壊し、物流が止まり最悪レベルの食糧危機が発生し、多くの国民が飢餓に苦しめられる事態となった。

そして、2017年に起こったベネズエラの経済危機もハイチに深刻なダメージを与えた。元々、ハイチはベネズエラから石油の供給という形で経済支援を受けていた。しかし、ベネズエラの経済が2017年に限界に達したのを機にその支援が止まってしまい 、ハイチ国内の経済の混乱を招いたのだ。石油や電気の供給が不足し、さらには極端なインフレーションが起こった。

また、当時のモイーズ大統領は2019年、ハイチの中央銀行にて管理されていた石油供給の運営金8,000万米ドルを自身の口座に移転など、汚職や悪事を行っていたとされている。

こうした混乱の中、国際通貨基金(IMF)主導のもとでハイチ政府は燃料にかかる補助金を削減し、燃料価格を大幅に引き上げたが、これが結果的に状況を悪化させてしまった。民衆の激しい反発に遭い、デモが勃発する事態にまで発展したのである。

さらにハイチの混乱に拍車をかけた出来事が、2021年7月に当時のジョベネル・モイーズ大統領が暗殺された事件である。この事件は、コロンビアからの傭兵達が中心となって引き起こされ、その黒幕については未だ分かっていない。また、暗殺の際に大統領のボディーガードからの抵抗がなかったと言われているなど、謎が多く残る事件となっている。この事件で、国のトップが不在となり権力の空洞化が起こってしまった。そしてこれが、ハイチ国内にさらなる混乱をもたらすこととなる。

ハイチの現状:台頭するギャング
モイーズ大統領が暗殺された後、国のトップに立ったのが、彼の暗殺後首相となったアリエル・アンリ氏である。彼は暗殺されたモイーズ大統領の指名で首相に就任したのだが、彼に関しても疑わしい点がいくつかある。第一に、彼が前大統領暗殺に関与している疑いがあることだ。(中略)

第二に、彼が正式な手順を経て選出されていないことだ。実は彼の就任の際に選挙や国会は開かれておらず、モイーズ前大統領の指名で首相となった。また、ハイチの国内統治について権限がないはずのアメリカやカナダも同様に彼を指名し、その後の政権を運営するように促していたとされている。

その上、首相就任後には突然選挙評議会を解散したことで次の選挙の実施を延期し、次にいつ選挙が行われるのか不透明となっている。そして、憲法上の規定で、首相は選挙によって選ばれなければならないと定められている。つまり、彼は憲法上何の権限も持たないことになっている。

以上より、冒頭で書いたようにアンリ氏は正統性を持っておらず、国に正統な権力者がいない状態となり、権力の空洞化が起こってしまっているのである。

こうしたハイチの現状に対し、市民社会組織や多くの政党などが協力してモンタナ合意と呼ばれる連合団体が立ち上げられた。彼らはアンリ政権に異議を唱え、自国の市民による民主的な政治、国家の実現に向けて活動し、アンリ政権側と交渉を続けている。

正統性をもつ政府が不在の中、現在のハイチはギャングや自警団が実質的な権力を握っており、冒頭で述べたような有様となっている。ギャング達は首都ポルトープランスの大部分や周辺都市を占領し、各地で銃撃戦や暴力行為、誘拐を繰り返し、人々の社会生活を恐怖で支配している。実際、首都では約2万人もの人々が住む場所を追われ避難生活を余儀なくされている。

また、裁判所を占領したギャングもある。彼らは二度にわたって裁判所の建物を破壊し、国の司法制度を崩壊に追い込んで自分たちの悪事を裁かせないようにもしている。

そんな暴虐を尽くすギャング達の起源は、1959年にフランソワ・デュバリエ大統領が創設した軍事組織、国家治安義勇隊(VNS)であった。彼らはデュバリエ親子の政権時代に秘密警察として結成され、その間は街で横暴を働いていたが、1986年のデュバリエ政権の失脚と共に解散する。

その後1995年にアリスティド大統領がハイチの軍隊を解散させた際にギャングとして再結集し、それ以降も選挙や政治の利権獲得などを目的とする政治家たちと繋がりを持ち、勢力を強めていった。

こうしたギャング達の中で最も注目されている人物が、G9のリーダーであるジミー・「バーベキュー」・シェリジエ氏だ。彼は元警察官であり、2018年に71人を虐殺するラサリーヌ虐殺という大事件に関与したとして一気にその名が世界中に知られることとなった。

その後、2021年に彼が結成したのがG9だ。G9とは、首都ポルトープランスの9つのギャングをシェリジエ氏が統合した組織である。また、モイーズ大統領の政権の時には、政府から資金や武器、車両などの援助を受けていたことが明らかになるなど、政府と密接につながっていた。そしてモイーズ大統領亡き後は、自らを、ハイチの政治のエリートと戦い国家による不平等な現状を変える革命家と称してポルトープランスや周辺都市を占領し、ハイチの都市の多くを支配している。(中略)

ただ、このような武装勢力がハイチに及ぼす影響は、ネガティブなものだけではない。例えば、ギャングと呼ばれているグループの中には、悪事を行うのではなく政府による統治がない中で自警団の役割を担って自分たちのコミュニティを守る者がいる。(中略)

今後の展望
モンタナ合意は、アンリ政権から新たな民主政権に移行することを目指して1年以上活動を続けており、2022年に入ってからは数ヶ月にわたってアンリ政権側と権力の保持について話し合いを行っていた。

しかし2022年9月、国の財政が厳しくなり、ガソリンや灯油へ掛けていた補助金を撤廃することを発表した。これは、結果的に国内の燃料価格が2倍以上になることを意味する。これに対しモンタナ合意を提唱する市民側は猛反発し、モンタナ合意と政府との間で進められた交渉が破綻することとなった。

また、元々散発的に発生していた政府への抗議活動はさらに過激化することになり、中でも先程紹介したG9は、2022年9月から11月の約2ヶ月間、抗議活動として国の主要な燃料ターミナルを占領した。これは国内でディーゼルやガソリンの壊滅的な不足を引き起こし、多くの病院や企業が閉鎖に追い込まれる事態となった。この占領は2ヶ月間で終了したが、国内での反発の激しさを物語っている。

この反発を受けて、2022年10月政府側はついに他国に対し軍事介入を要請することを正式決定した。すぐに動いたのは国連とアメリカ、そしてカナダである。(中略)

だが、この要請は国内情勢に対して火に油を注ぐこととなった。ポルトープランスでは、過去の軍事介入の失敗や疑わしい思惑、ハイチ国内への悪影響の記憶から、多くの市民たちが他国の介入に対する大規模な反対デモを行い、警察当局は催涙ガスや拳銃の発砲で応戦する事態となった。さらに、モンタナ合意提唱側の市民団体等も介入に反対する声明を発表するなど、ハイチ国内では反対の声が多く、今後の動向が注目される。

ハイチの未来
これまで、ハイチでは幾度となく他国による軍事介入が行われてきたが、どれも結果的には状況の改善には役立ったとは言えず、むしろ長期的に悪化させるという側面が見られる。

これでは、介入している側の利益が優先されてきたと疑ってもおかしくない。アメリカやカナダに至っては、クーデターやアンリ現首相を民主的な手順を無視して首相への就任を促したなど、ハイチの国民の利益が考慮されていないばかりか、民主主義そのものが脅かされているといっても過言ではない。

今も新たな軍事介入が示唆されているが、このままではもう一度同じような結果を繰り返すことになることが容易に想像できる。今一度、軍事介入に頼らずに、一から政府を立て直し、民主的な政府を作り上げることが賢明だろう。

現在はギャングなどの武装勢力の存在が大きい中で、モンタナ合意がこうした民主的国家の実現に向けて動いている。もちろん、モンタナ合意の影響力については制約があり、まだまだ問題が山積みである。しかし、ここからスタートし、長い時間をかけて民主的な国家を作り上げていくことが現状の改善への第一歩ではないだろうか。
【2023年1月19日 セキグチユウダイ氏 GLOBAL NEWS VIEW】
********************

1年以上前の記事ですが、今も事情は同じでしょう。
上記記事を読めば「なるほどね・・・」という感想もありますが、ハイチに限らず、混乱している多くの国がハイチ同様の様々な事情を抱えて現在の状況に至っているのでしょう。
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中国若者に流行るもの 谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』と女性学研究者である上野千鶴子氏の著作

2024-03-03 23:38:42 | 中国

(中国版「陰翳礼讃」【2月17日 デイリー新潮】)

【将来に対する悲観主義 自分が楽しめる時間を重視し、最低限しか働かない「寝そべり族」】
中国では経済の停滞に伴い、若者は就職や労働を通じた将来の見通しがききにくくなっており、そうした状況で「寝そべり族」と称されるような、会社で働くプレシャーを忌避し、自分の幸福や興味を充実させることを重視する若者が増えていることは以前から指摘されています。

****稼ぎより自分の時間優先、将来悲観する中国の「寝そべり族」****
中国では経済の停滞に伴い、若者は就職や労働を通じた将来の見通しがききにくくなっている。そうした中で、チュー・イさん(23)が選んだ道は「寝そべり族」。自分が楽しめる時間を過ごすのに必要なだけの稼ぎを得るため、最低限しか働かない人々のことだ。

チューさんはかつてアパレル関係の会社に勤めていたが、2年前に退職した。頻繁に残業しなければならない上、上司が嫌いだったからという。

今は在宅で旅行会社の仕事を週1日こなすだけ。そのおかげで、フルタイムのタトゥーアーティストになるための半年の見習いに入り、たっぷり練習できる時間を確保している。

寝そべり族はチューさんだけではない。どれだけの若者が従来のような会社勤めを放棄したのか、統計はないものの、マクロ経済がなお新型コロナウイルスのパンデミック前の成長軌道に戻れず、大学新卒者の間からは収入を得るために就職口で妥協を強いられたとの声が聞かれる中で、昨年6月時点でも若者の失業率は21.3%と過去最悪に達していた。

「私にとって、働くことに大きな意味はない」とチューさんは言う。「大部分は上司のために仕事をやり遂げ、上司が喜ぶだけのように思える。だから(必死に)働かないと決めた」

中国でチューさんのように1995年から2010年に生まれた約2億8000万人の「Z世代」は、あらゆる年齢層で最も悲観的だ。

この半世紀近くで成長率が最低圏に落ち込んだ今、習近平体制にとってはZ世代の不安をいかに和らげるかが重要な政策課題になっている。1月には人力資源・社会保障省が、今年は特に若者の雇用を増やす取り組みの強化が必要だと訴えた。

米ミシガン大学で社会学助教を務めるチョウ・ユン氏は、一部の若者は会社で出世するための激しい競争から進んで身を引いたように思えるが、彼らの将来に対する悲観主義を見過ごすことはできないと強調する。

チョウ氏は、中国では経済が減速し、労働市場は逼迫(ひっぱく)したままだと指摘。「社会格差が固定化され、政治的な統制強化が進み、経済の先行き期待が持てない今の中国は若者らにとって非常に生きづらくなっている」との見方を示した。

これら全ての要素が重なった結果、チューさんのような若者は自分の幸福や興味を充実させることを、会社で働くという「終わりなきプレッシャー」よりも大事に考えるようになった。

実際チューさんは、以前よりずっと幸せを感じており、自らの選択には「価値がある」と信じている。

「私の今の給料は、多いとは言えないが、毎日の生活費を賄える。自由な時間は、数千元のお金よりもはるかに貴い」。チューさんはそう話した。【2月18日 ロイター】
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****雇用悪化の中国で「就職戦線異状アリ」若者求める働き方とは****
若者の雇用環境が悪化している中国で本格的な就職活動が始まり、大規模な説明会が開かれました。若い世代の安定志向が強まるなか、希望する働き方も変化しています。(中略)

就活生
「基本的に5日働いて2日休んだ方がいい。自分の生活時間が多く取れる仕事を優先する」
「(多い残業は)当然受け入れられない。お金を稼ぐために働き、生活のためにお金を稼ぐけど、自分の時間がないと生活できない」

中国政府によりますと、今年採用の国家公務員試験の受験者数は過去最多の303万人、平均倍率は77倍となり若い世代の安定志向が一段と強まるなか、プライベートな時間を充実させられる働き方を模索する若者も増えています。【2月23日 テレ朝news】
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上を目指してあくせく働くより自分が楽しめる時間を重視する傾向が強まっているというのは、日本でも同じでしょう。

それは、あくせく働かなくてもなんとか生活はできるという経済全体の底上げがもたらした一側面でもあるでしょう。(生きるためにはがむしゃらに働かねばならない社会では、「寝そべり族」は存在しえません。)

こういう中国若者の意識変化が、社会の成熟、経済全体の底上げに伴う長期的な変化なのか、現在の経済悪化がもたらしている一時的な現象なのか、「寝そべり族」云々は思いどおりには社会に受け入れられていない自己を正当化するための防御的な意識に過ぎないのか・・・そこらはよくわかりません。

【煌びやかさより内面的な世界を重視 “意識高い系”のアッパークラスの若者に谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』がブーム】
「寝そべり族」現象と同じ背景もあるとも指摘される現象として、今中国の経済的に恵まれた若者の間で谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』が“ブーム”になっていると聞いて驚きました。

谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』・・・名前ぐらいは私も聞いたことがありますが、読んだことはありません。学生時代の現代国語の試験問題で一部出くわしたことはあるでしょうが。

その内容をウィキペディアで探ると・・・

****陰翳礼讃****
西洋の文化では可能な限り部屋の隅々まで明るくし、陰翳を消す事に執着したが、いにしえの日本ではむしろ陰翳を認め、それを利用することで陰翳の中でこそ映える芸術を作り上げたのであり、それこそが日本古来の美意識・美学の特徴だと主張する。

西洋では食器でも宝石でもピカピカに研いたものが好まれ、支那人が「玉」(翡翠)という鈍い光の石に魅力を感じたり、日本人が水晶の中の曇りを喜んだりするのとは対照的である。東洋人は、銀器が時代を経て黒く錆び馴染む趣を好み、自然に手の油で器に味わいが出るのを「手沢」「なれ」と呼んで、その自然を美化して風流とするが、西洋人は手垢を汚いものとして根こそぎ発き立て取り除こうとする。

人間は本来、東洋人が愛でたような自然の手垢や時代の風合いのある建物や器に癒され、神経が安まるものである。病院なども、日本人を相手にする以上、真っ白な壁や治療服をやめて、もっと温かみのある暗みや柔らかみを付けたらどうか。

日本人はアメリカの真似をして電灯を使いすぎ、東京や大阪はヨーロッパの都市に比べて格段に明るい。観光地も拡声器があったりして風情が無い。

日本の漆器や金蒔絵の道具も、日本の「陰翳」のある家屋の中で映え、より一層の美しさを増す。祖先が作った生活道具の装飾などは、そうした日本の自然の中で培ってきた美意識で成り立っており、実に精緻な考えに基づいている。

日本人は陰翳の濃淡を利用し、その美を考慮に入れ建築設計していた。美は物体にあるのではなくて、物体と物体との作り出す陰翳のあや、明暗にある。

こういう傾向が東洋人に強いのはなぜだろうかというと、明るく透きとおった白人と違い、日本人の肌は薄汚い陰ができてしまう。われわれとしてはそうするより仕方がない。【ウィキペディアより一部抜粋】
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個人的には共感できる部分も多々ありますし、「いや、そうは言っても・・・」と感じる部分も。
こうした谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』が中国のアッパークラスの若者にどのように受け入れられているのか?

****中国人富裕層に大人気「谷崎潤一郎」ブームが象徴する“消えた爆買い”“逆張り旅行”の意外な真相****
「90億人が大移動する」――と喧伝された中国の春節(旧正月)が2月17日で幕を閉じる。この間、日本にも多くの中国人観光客が訪れたが、かつての「爆買い」は鳴りをひそめるなど、大きな変化も指摘されている。その理由を読み解くカギが、中国人富裕層の間で広がる「谷崎ブーム」にあるという。

***
今年の春節で日本を訪れた中国人観光客の特徴の一つに「逆張り旅行」が挙げられるという。中国人留学生がこう話す。

「東京の浅草や京都の金閣寺といった定番スポットではなく、地方のちょっと寂れた神社やお寺、秘境駅などを目指す旅が20〜30代の中国人の間で流行っています。

人混みを避けられるし、立派で壮麗な仏閣なら中国でも見ることができる。それより、日本の“素の文化に触れる”ため、あえて地方の辺鄙な場所を目指す若者が増えています」

その変化は消費行動にもあらわれ、春節期間中、コロナ前に見られた「爆買い」は影をひそめ、体験重視の「コト消費」が主流になっているとか。

「宝飾品などを除けば、わざわざ日本で買わなくてもネットショッピングで大抵の日本製品はすぐ手に入れることができる。どうせ行くなら『日本的な美に直接触れたい』といった声をよく聞きます」(同)

そんな彼らが「日本の美」に目覚めるキッカケとなった一つが、『細雪』や『痴人の愛』などで知られる作家・谷崎潤一郎なのだという。

「日本的美の教典」
中国事情に詳しいインフィニティ・チーフエコノミストの田代秀敏氏が言う。
「数年前から谷崎潤一郎の著作が中国で次々と翻訳出版され、とくに“意識高い系”のアッパークラスの若者を中心に“谷崎ブーム”が起きています。

なかでも谷崎の代表作の一つである『陰翳礼讃』は彼らの間で〈日本的美意識の教典〉と位置付けられ、微博(ウェイボー)などのSNS上では(中国語への)翻訳をめぐる議論が活発に交わされています」

そんな社会現象に目を付けた中国の広告代理店が、谷崎を偏愛する20〜40代の富裕層に狙いを定め、新たなCM戦略にも打って出ているという。

「いま中国で流れているトヨタ・LEXUS(レクサス)のCMはモノトーンを基調とし、“陰翳礼讃の精神そのもの”と評判になっています。CM内には一瞬ですが、日本の書院造りの部屋から日本庭園を眺めるシーンも挿入されていて、明らかに“谷崎読者をターゲットに据えたもの”と指摘されています。

他にも中国のオフィス内装会社が陰翳礼讃を意識したダークな色彩のシンプルな室内装飾のCMを流すなど、谷崎の描いた“繊細で華美を排した水墨画”のような世界が、ある種の進んだスタイルとして中国社会に浸透しつつあります」(田代氏)

「経済成長は続かない」
不思議なのは、いまになって谷崎が人気となっている理由だが、その背景を田代氏がこう話す。
「谷崎に耽溺する、1980年以降に生まれた『80后』と呼ばれる中国の若い世代は、現在50〜60代の親世代とは価値観が異なっています。

彼らの親たちは“大きな家や車”“高い年収や地位”など、煌びやかなアメリカ的生活様式の果実を求めて頑張ってきた。けれど中国が経済成長を遂げるなかで育った子供たちの世代では、より内面的な世界が重視され、それが細部へのこだわり――つまり“陰影”などに惹かれているようです。

すこし前に中国で、無気力な若者を象徴するものとして『寝そべり族』という言葉が流行りましたが、あれは中国版の“ヒッピー・ムーブメント”でもありました。“未来のためにあくせく働くよりイマを静かに楽しむ”という生き方を理論武装するものとしても『陰翳礼讃』は読まれているのかもしれません」

 前出の中国人留学生が補足する。
「いまの中国を見れば、“経済一辺倒”の思考はキケンと感じるほうがフツーです。今後も国の成長が右肩上がりで続くなどと、無邪気に信じている者はさすがに周りを見渡してもいない。

谷崎がブームとなっているのは“ミニマリスト”の精神にも通じるところがあるように思います。将来が見通せないなか、無駄を削ぎ落とした谷崎の陰翳礼讃は、経済成長の外側にある人の営みの大事な部分を教えてくれている気がする」

谷崎は生前、2度訪中した経験を持つが、没後60年近くを経ての「ブーム到来」に何を思うか。【2月17日 デイリー新潮】
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もちろん“ブーム”とは言ってもごく限られた範囲でのものでしょうが、それでも中国の“意識高い系”のアッパークラスの若者と谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』・・・面白い組み合わせです。

【「平等に見えた社会」に行き詰まりを感じた中国女性に上野千鶴子著書がブーム】
生きづらさを感じる若者・・・特に、女性は男性より重い負担を背負うことにもなっています。

****中国の養育費は世界有数の高さ、女性の負担重く シンクタンク報告****
中国のシンクタンク「育媧人口研究智庫」は、同国の養育費が1人当たり国内総生産(GDP)でみて世界有数の高さだとの報告書をまとめた。

18歳までの養育費は1人当たりGDPの約6.3倍。これに対しオーストラリアは2.08倍、フランスは2.24倍、米国は4.11倍、日本は4.26倍。

子育てにより女性の有給労働時間と賃金は減少するが、男性の生活に大きな変化はないという。

報告書は「中国の現在の社会環境は母親に優しいとは言えず、女性が子供を育てる時間的なコストと機会費用が高すぎる」と指摘。「養育費の高さ、女性が家庭と仕事を両立させる難しさといった理由から、中国人の平均的な出産意欲は世界最低に近い」としている。

中国では昨年、2年連続で人口が減少。出生数は2016年の約半分に落ち込んでいる。

報告書によると、0─4歳の子どもを育てる女性は有給労働時間が2106時間減り、6万3000元(8700ドル)の収入を失う。子どもを持つ女性は賃金が12─17%減り、余暇の時間も0─6歳の子供が1人いる女性は12.6時間、2人の場合は14時間減るという。

報告書は養育費を下げる政策を全国レベルで可能な限り早期に導入すべきだと主張。現金給付や優遇税制、保育サービスの改善、母親と父親の育児休暇平等化、外国人ベビーシッターの活用、柔軟な勤務体制、独身女性と既婚女性の同等な生殖権といった対策を挙げた。

「現在の超低出生率を改善できなければ、中国の人口は急速に減少し、高齢化が進む。そうなればイノベーションや国力全体に深刻な悪影響が出る」としている。【2月21日 ロイター】
***********************

このあたりの事情は、日本も、出生率0.72(ソウルは0.55)の衝撃に見舞われている韓国も同じ。
そういう生きづらい環境にある中国女性に今うけているのが日本の女性学研究の第一人者である上野千鶴子氏だとか。これまたびっくり。

****中国で上野千鶴子著書が大ヒット 若い女性共感、社会現象に****

(北京市内の書店に並ぶ、中国語に翻訳された上野千鶴子さんの著書=2月(共同)
日本の女性学研究の第一人者である上野千鶴子さんの著作が中国で大ヒットしている。弱者が弱者のままで尊重されるよう訴える思想が共感を呼んだ。講演を開けば若い女性の申し込みが殺到し、社会現象とも言われる。ブームの背景に男性優位の社会構造への絶望や閉塞感の根深さが透ける。

中国メディアによると、上野さんの著書はこれまでに20冊以上、中国語に翻訳・出版され、国内の総販売部数は数十万部に上る。22年には、国内最大級の書評サイトで上野さんが「今年の作家」1位に選ばれ、鈴木涼美さんとの共著「往復書簡 限界から始まる」は「今年一押しの本」に。北京大で開いたオンラインの講演には全国から聴講希望者が殺到した。

ブームのきっかけは東大の祝辞だ。中国の動画サイトで100万回以上再生された。

支持者の中心は20〜30代の高学歴女性。北京大の古市雅子准教授は「平等に見えた社会」に行き詰まりを感じた多くの女性が、生きづらさの原因を平易な言葉で解明する上野さんに心酔していると指摘する。【3月3日 共同】
*********************

上野千鶴子氏の東大での祝辞は日本でも大きな話題になりました。

上野氏は2019年の東大入学式祝辞で、東大の中にも根強く存在する女性差別を指摘したうえで、「社会に出れば、もっとあからさまな性差別が横行している」とも。

そのうえで「頑張っても公正に報われない社会が待っている。頑張ったら報われると思えることが、恵まれた環境のおかげだったことを忘れないでほしい」「世の中には、頑張っても報われない人や頑張ろうにも頑張れない人、頑張りすぎて心と体を壊した人たちがいる。恵まれた環境と能力を、自分が勝ち抜くためだけに使わず、恵まれない人々を助けるために使ってほしい」「これからあなた方を待っているのは、正解のない問いに満ちた世界。未知を求めて、よその世界にも飛び出してください」と新入生に訴えました。

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イラン  事前の資格審査で「結果の出ている」議会選挙 アメリカとの過度の緊張を避けたい思惑も

2024-03-02 23:01:36 | イラン

(イラン (今回議会選挙ではありませんが)投票する女性【Pars Today 2月26日】 イランではヒジャブの被り方で、その女性の宗教的傾向、ひいては政治傾向がわかります。この写真の女性のようにきちんとした被り方をする女性の多くは敬虔なイスラム教徒で保守強硬派支持と推測されます。一方、街中には敢えて前髪を見せるような形で被る女性も多くいます。)

【改革派・穏健派排除で形骸化した議会選挙 議席数より投票率が民意反映】
従来、国際政治に大きな影響力を有するイランの議会選挙はメディアに注目されてきましたし、このブログでも何回も取り上げたことがあります。

8年前の2016年選挙では、欧米諸国との間で核開発問題で合意を取り付け、市民生活を疲弊させてきた経済制裁解除を実現した保守穏健派ロウハニ大統領(当時)の進める協調・改革路線が基盤を固めるのか、あるいは保守強硬派の巻き返しで政治的求心力を失う形になるのかが注目されました。

しかし、トランプ政権の対応(18年5月、核合意離脱)もあって、核合意・制裁解除路線は破綻。保守強硬派が勢いを増す中で21年6月大統領選挙で保守強硬派のライシ大統領が圧勝・・・政治状況は保守強硬派が完全に権力を握る形になっています。

従来からイランの選挙は事前の資格審査でのふるい落としは行われていましたが、保守強硬派が完全に権力を掌握する状況で、改革派・保守穏健派の出馬すら認められない流れが強まり、選挙は形骸化しています。

そのため前回20年2月の議会選挙も、20年2月24日ブログ“イラン国会議員選挙 体制を支える保守強硬派圧勝 しかし記録的低投票率 さらには新型肺炎の脅威”でも取り上げたように、国民の関心は著しく低下しました。

そしてその流れは更に強まり、3月1日に行われた今回選挙は、事前審査ですでに結果は決まっているとして、国民にも、国際的にもほとんど関心をもたれていません。

****「結果出ている。投票行かない」 イランで3月1日国会選 保守派が優勢維持か****
イランで3月1日、国会選が行われる。欧米に融和的な改革派や穏健派の候補が事前審査で失格になり、反米の保守強硬派が過半数を維持するとの見方が有力になっている。

米欧の経済制裁で生活苦にあえぐ国民に閉塞(へいそく)感が拡大。イスラム教シーア派の指導部への不満が広がり、投票率は低迷すると予想されている。

イラン国会は一院制で定数290。任期は4年。国会選に約2万5千人が立候補を届け出たが、「護憲評議会」の事前審査によって約1万5千人にまで絞り込まれた。

評議会は候補者の適格性を判断する役割を持ち、最高指導者ハメネイ師の影響下にある聖職者ら保守派が支配している。審査によって、すでに出馬表明していた改革派や穏健派の多くが立候補を阻まれた。

「選挙結果はもう出ている。投票には行かない」
2月28日、粉雪が舞う首都テヘランの中心街にあるフェルドシ広場で、オミドさん(38)がそう話した。

タクシーの運転手だが、妻と子供2人を養うには収入が足りず、日中は街頭に立ってヤミ両替をしている。
オミドさんは「この国を見てくれ。経済悪化でみな腹も満たせない」と話し、反米保守強硬派のライシ大統領の失政を非難した。

たびかさなる欧米の制裁で続く経済低迷を背景にして、市民の不満は募る一方だ。2年前には頭髪を覆うスカーフ「ヘジャブ」を適切に着用していないとして、警察に拘束された女性=当時(22)=が不審な死を遂げ、大規模な抗議デモが全土に拡大した。

指導部は不満を抑えるため、選挙前にもかかわらず引き締めを図ってきた。
今年1月には、ヘジャブをかぶらなかった30代の女性にむち打ち74回の刑を執行したと発表した。このほかにも、22年のデモの際に警官を殺害したとして男性(23)を処刑した。

反米保守の頂点に立つ最高指導者ハメネイ師は84歳の高齢で、指導部は権力継承をにらんで反米保守の勢力を維持することに躍起だといわれる。

イランでは、国政選挙の投票率が体制新任の度合いを測るバロメーターとされてきた。20年の前回選で保守強硬派が全議席の7割超を獲得したが、投票率は約43%となり、1979年のイスラム革命以来、最低を記録した。今回の投票率はさらに落ち込んで30%を割り込むとの予想もある。

1日は最高指導者の選出・罷免の権限がある「専門家会議」(定数88)の選挙も行われるが、2015年に欧米などと核合意を締結した穏健派のロウハニ前大統領が事前審査で失格となった。強引に反米保守の支配を目指す指導部の意向が見て取れる。【2月29日 産経】
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ヒズボラ、フーシ派、ハマスなど中東各地の親イラン勢力を支援しているイランですが、市民生活が苦しいなかで必ずしも国民にそうした対応が支持されている訳でもありません。

“政治家が信用できないため投票に行かないという52歳の男性は「社会全体が経済制裁の影響を受けて、外国から物を輸入できず、商品の質は落ちています。われわれ自身が弱っているのにハマスに興味なんて持てません」とハマスなどへの支援を批判していました。”【2月23日 NHK】

民意が反映しない形骸化した議員選挙、唯一の注目点は投票率がどうなるか・・・でしょうか。議席数より投票率の方が民意がどこにあるのかを知る手掛かりになりそうです。

84歳の最高指導者ハメネイ師の健康状態は思わしくないとも推測され、今回議会選挙と同時に選挙が行われる「専門家会議」のメンバー(任期8年)が、その任期中に新たな最高指導者を選ぶことになる事態が予想されますが、議会選挙同様に、保守穏健派のロウハニ前大統領が事前審査で失格となるなど、保守強硬派の意向が貫徹される流れとなっています。

上記【産経】記事にもあるように、保守強硬派による社会締め付けは強化されています。

****グラミー賞のイラン人歌手に禁錮3年8月、「ヘジャブ」抗議デモに連帯示す楽曲****
イランで女性の髪を隠すスカーフ「ヘジャブ」の強制着用に抗議するデモに連帯する曲を発表し、米グラミー賞に昨年新設された「社会変革のための最優秀楽曲賞」を受賞したイラン人歌手シェルビン・ハジプールさん(26)は1日、SNSへの投稿で、地元裁判所から扇動罪などで禁錮計3年8月の有罪判決を受けたと明らかにした。
 
ハジプールさんは22年にイラン全土に広がったヘジャブ抗議デモで、X(旧ツイッター)に投稿された抗議コメントを歌詞に採り入れた「バライエ」(ペルシャ語で「〜のために」)を発表し、人気を博した。同年10月に情報当局に逮捕された。現在は保釈中。【3月2日 読売】
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なお、イランメディアPars Todayは、下記のようにイラン政治・選挙の“秀逸性”を自画自賛しています。

****西アジア諸国と比較したイランの選挙の秀逸性****
(中略)イランの選挙では政治的競争が行われていることが挙げられます。イランの選挙においては、個人もしくは組織・団体の間に真の競争が存在し、結果が事前に分かる出来レースではなく、投票内油次第で結果が決まるほどのレベルにあります。

たとえば、2017年の大統領選挙では、当選者は全投票の50%をわずか0.5%超えるという僅差で勝利を確定させました。

一方、一部の地域諸国の選挙では、大統領選挙で当選する候補者や国会選挙で勝利する政党が全体の約9割の得票を獲得するなど、選挙において競争がほぼ存在しない状況が示されています。

したがって、イランにおいては、選挙への人々の参加に基づいてより良い候補者が選ばれていると言えるのです。【Pars Today 2月26日】
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かつてはそんな時代もあった・・・と言うべきか。(私も以前は“神権政治と批判されるイランだが、イメージより民意を反映した選挙が機能している”という主旨のブログ記事を書いたこともあります)

記事は、“敵はイランの選挙に反対する大規模なプロパガンダ攻撃を仕掛け、人々に選挙に参加しないよう呼びかけています”とも。 「敵」が何者かについては触れていませんが、アメリカもしくは欧米、その影響を受けた勢力を指すのでしょう。

【アメリカとの過度の緊張高まりを抑制したいイラン】
国際面では、イラクで活動する親イラン武装組織が1月28日にヨルダン北東部の米軍施設を攻撃し、米兵3人が死亡したことで、アメリカとの間の緊張が高まりましたが、イランとしては対米緊張を過度に高めたくないのが本音で、事件直後にイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の司令官がイラクを訪問して、関係組織の抑制に務めたようです。

(1月28日の攻撃については、WSJ報道によれば“米軍が敵の無人機を自軍のものと勘違いしたため、迎撃に失敗したと報じた。米軍の無人機も同時刻に拠点に戻ってくるところだったという”【1月30日 時事】ということで、米兵に死者が出たことは、親イラン組織・イランにとって想定外だったのではないでしょうか。イランは関与を否定しています。)

****イランの精鋭「コッズ部隊」司令官、民兵組織に対米攻撃の自制を求める 緊張激化を回避か****
ロイター通信は18日、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の司令官が1月下旬にイラクを訪問して親イラン民兵組織の代表者らと面会した後、駐留米軍施設への攻撃が途絶えたと報じた。

訪問はヨルダンの米軍施設が攻撃されて米兵3人が死亡した直後で、米国との緊張激化を避けたいイランの思惑がうかがえる。

イラク政府筋などの話を基にロイターが伝えたところでは、コッズ部隊のガアニ司令官は1月29日、イラクの首都バグダッドの空港で複数の民兵組織の代表者らと面談した。「イラクのイスラム抵抗運動」によるとされるヨルダンの米軍施設攻撃から48時間以内という迅速ぶりだった。

ガアニ氏は、米軍による各組織の幹部や施設への攻撃を回避するため、目立たないようにすべきだと述べたという。多くの組織が同意し、反米最強硬派と目される「神の党旅団(カタイブ・ヒズボラ)」は翌日、対米攻撃の一時停止を表明した。2月4日以降、イラクとシリアの米軍施設への攻撃は起きていないという。

ある組織の幹部はロイターに、「ガアニ氏の介入がなければカタイブ・ヒズボラに軍事作戦を停止させることは不可能だった」と述べた。ただ、カタイブ・ヒズボラの幹部が2月7日の米軍の攻撃で殺害されており、いつまで自制するかは不透明だ。【2月19日 産経】
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イラン革命防衛隊の元幹部もアメリカとの直接対決を望んでいないことを語っています。

****「米国との直接対決望まず」 イラン革命防衛隊幹部が会見 要衝の海峡安定が「シグナル」****
イラン革命防衛隊の元幹部キャナニモガッダム・ホセイン氏が1日までに、首都テヘランで産経新聞の取材に応じた。パレスチナ自治区ガザの戦闘を受け、中東各地の親イラン民兵組織と米国、イスラエルの間で軍事的緊張が高まる中、原油輸送の要衝ホルムズ海峡は平穏に推移していると指摘し、「これは緊張を高めるつもりはないというイランの米国へのシグナルだ」と述べた。

レバノンやイラク、シリア、イエメンの親イラン民兵組織は「抵抗の枢軸」と称して、ガザでイスラエルと戦闘を続けるイスラム原理主義組織ハマスへの連帯を表明し、イスラエル本土や米軍施設のほか、紅海周辺を通る船舶への攻撃を行ってきた。

ホセイン氏はこれらの民兵組織は「それぞれの地域の人民を守るために戦っている」とし、イランは資金や武器を供与していると明言した。半面、ウクライナに侵略するロシアと米欧の緊張が続く中、イランが米と衝突すれば第三次世界大戦に発展しかねないため、「イラン自身は米国との直接対決は望んでいない」との見方を示した。

その根拠としてホセイン氏は、イランが自国に面するホルムズ海峡の原油タンカーの航行を妨害していないことを挙げた。「米国は海峡周辺の情勢が悪化すれば、多大な損害を被ることを熟知している」とも述べた。

紅海周辺で船舶攻撃を続けるイエメンの親イラン民兵組織「フーシ派」については、「イランの統制下にない」とし、約1カ月前に中国に訪問した際に会談した中国共産党関係者には、「攻撃を止めたければ彼らと直接交渉するしかない」と助言したという。【3月2日 産経】
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「米国との直接対決望まず」・・・まあ、それはそうでしょう。バイデン政権も同様でしょう。
ただ、イランにしても、アメリカにしても「譲れない一線」もありますので、「もしトラ」ということになれば、「望まない」対決も・・・という危険も大きくなります。
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