孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

世界幸福度ランキング 日本は143か国中、51位 1位フィンランドはどんな国?

2024-03-21 23:40:06 | 幸福

(【moicafe.com】 フィンランドと言えば、森と湖、そしてサウナを楽しむ人々・・・そんなイメージでしょうか)

【日本は143か国中、51位】
例年公表される「世界幸福度ランキング」・・・何をもって「幸福」とするのか、どうやって比較するのか・・・・そういう問題はさておき結果を見ると、1位は7年連続で北欧フィンランド。日本はG7では最低の51位。日本のランキング位置は大体このようなレベルです。

****世界幸福度ランキング 日本は51位 20日は国際幸福デー****
20日は「国際幸福デー」です。世界の国や地域の「幸福度」をランキングにした報告書が公表され、日本は143か国中、51位でした。G7=主要7か国の中で最も低い一方、韓国や中国を上回りました。

「世界幸福度報告書」は、国連の関連組織などが中心となって世論調査を行い、直近の3年間で得られた回答をもとに、世界の国や地域の「幸福度」をランキングにしたものです。2012年以降、2014年を除いて毎年発表されています。

20日に発表された今年の報告書によりますと、フィンランドが7年連続で1位となったほか、2位にデンマーク、3位にアイスランドが続き、福祉や教育が充実している北欧諸国が上位を占めました。

このほかイギリスが20位、アメリカが23位でした。アメリカは初めてトップ20から外れていて、30歳未満の幸福度が大幅に下がったことが原因だとしています。

また、日本は去年は137か国中47位でしたが、今回は4つ下げて51位でした。

G7の中で最も低く、アジアでは、30位のシンガポール、31位の台湾を下回った一方、52位の韓国、60位の中国などを上回りました。

最下位の143位はアフガニスタン、下から2番目はレバノンで、紛争の影響を受けている国々は幸福度が低い傾向となりました。【3月20日 TBS NEWS DIG】
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このランキングについては、2021年10月28日ブログ“ブータン  「幸せの国」も近代化の社会変化の渦中に 国際関係でも中印対立への対応を迫られる”でも、その仕組みを取り上げたことがあります。

****世界幸福度ランキングとは****
幸福度ランキングとは、国連の持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)が、毎年3月20日の「国際幸福デー」に合わせて発表しているランキングデータである。調査は世界の150か国以上を対象におこなわれ、2012年から毎年実施されている。

調査方法
調査で用いられるのは、主観的な幸福度を調べるためのキャントリルラダー(Cantril ladder)と呼ばれる11件法である。「0」~「10」までの11段階のはしごをイメージし、自分自身の生活への満足度が、いまどこにあるのかを判断していく調査手法だ。

このような主観に、以下の6項目の内容が加味される。

1.一人当たり国内総生産(GDP) 2.社会保障制度などの社会的支援 3.健康寿命 4.人生の自由度 5.他者への寛容さ 6.国への信頼度

さらに「各項目が最低値を取ると仮定されるディストピア(架空の国)」と、どれだけ差があるかを加えて、最終的なランキングが決定される仕組みだ。

もともと国連機関は、国内総生産(GDP)をはじめとする経済指標を重視していた。しかし世界的な金融危機や環境破壊など、これから先の社会を生きる上で、無視できない問題が多発。これらの経験をもとに「経済指標だけでは本当の幸福度は測れない」と考えるようになった。

こうした経緯を経て誕生したのが、世界幸福度ランキングである。調査はアメリカの調査会社ギャッラップ社が、対象国・地域の数千人を対象におこない、結果をまとめている。過去3年間の平均値をもとに、最終的なランキングが公表される仕組みだ。【ELEMINIST】
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イマイチわからないところがありますが、日本の幸福度ランキングが50位~60位前後に低迷していることに関しては、以下のようにも。

****日本の順位が低い理由は「自由度」と「寛容さ」****
世界幸福度ランキングが公開されるたび、話題になるのが「なぜ日本の順位はこれほどまでに低いのか?」ということだ。2020年の日本の順位は62位だったが、2021年は56位と、わずかに順位を上げた。しかし先進諸国と比較すると、低い水準にいることは変わらない。

1人あたりの国内総生産(GDP)の数値でみれば、日本の順位は決して低くはない。資源には乏しいものの経済は発達しており、欧州諸国ほどではないが、社会保障制度も確立されている。寿命の長さは、世界でも上位だ。海外と比較して「日本は治安が良く暮らしやすい」と感じる人が多いだろう。

ではなぜ、日本の幸福度ランキング順位はこれほどまでに低いのか? その理由は「人生の自由度」と「他者への寛容さ」の2項目に隠されている。

日本人の「人生の自由度」に影響を与える要素のひとつと言われているのが、労働環境である。欧米諸国と比較して、よく「日本人は働きすぎ」と表現される。

ヨーロッパ各国のように、長期休暇を取る風習もなければ、「有給休暇はあっても取りづらい」と感じる人が多い。また「休暇の取りづらさ」以上に、「職場の中で自分に合った働き方を自由に選択できない」と感じる点が問題だと指摘する声もある。

「他者への寛容さ」の項目については、寄付やボランティア活動が非常に大きな要素となる。日本には、積極的に寄付をおこなったりボランティア活動に参加したりする風習が根付いていない。社会全体でこうした取り組みが積極的におこなわれている国ほど、幸福度ランキングは上昇しやすいという特徴があるのだ。

GDPや健康寿命など、客観的な数値で示されるデータに注目すれば、日本は間違いなく「幸せな国」である。一方で、国民の主観にもとづくデータを見ると、「幸せではない国」としての要素が見え隠れする。この主観的データが、幸福度ランキングで日本の順位が低迷する原因だ。【同上】
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21年当時のブログでも書いたように、自分自身の生活への主観的満足度をどのように評価・表現するかは多分に国民性によるところがあります。「あなたは幸せですか?満足していますか?」と尋ねられて「はい、幸せです」と答えるほど能天気じゃねえよ!・・・と私的にも思います。

ただ、「はい、幸せです」と答えられるというのは、それはそれで一定に評価すべきことかも・・・という感も。

【7年連続で1位というフィンランドは日本と何が違うのか?】
そこで、7年連続で1位というフィンランドは日本と何が違うのか?・・・ということについて。

****日本は51位の衝撃。「世界幸福度ランキング」7年連続1位のフィンランドとは何が違うのか****
(中略)
フィンランドは、何が違うのでしょうか?
私が初めてフィンランドの首都ヘルシンキに行ったとき、ロシア・ルーブルをフィンランド・マルッカ(今はユーロ)に替える方法がわかりませんでした。 とりあえず、駅の最寄りの銀行に入りきょろきょろしていると、銀行員ではない一般人のおばさんが、「何か困ってるの?」と聞いてきました。

私は、「ルーブルをフィンランドの通貨に両替したいのですが」と言いました。すると、おばさんはにっこり微笑んで、「ついてきて!」と言い、私を両替所まで連れていってくれたのです。

バスにはじめて乗ったとき、お金の払い方がわかりませんでした。すると、別の一般人のおばさんが、「お金はこうやって払うのよ!」と即座に教えてくれました。

タクシーの取り方がわからないできょろきょろしていると、道路の清掃をしていた若者が、「何かお困りですか?」と聞いてきました。私と友人が、「タクシーどこで取れますか?」と聞くと、「タクシー取れる場所まで一緒に行きますよ!」と言い、連れて行ってくれました。

私は、「なんだこの国は?!?!?!?!?!?!?」と驚愕し、大好きになってしまったのです。そして、メルマガでも本でも、フィンランドをほめ続けています。

その他気がついたこと
私が一番多く行った外国は、もちろんロシアです。その次に頻繁に行ったのは、ロシアの北の隣国フィンランドです。 その他、気づいたことをいくつか書いておきましょう。

■銀行員の服装
銀行に行ったら、銀行員がTシャツで働いていました。私は、「自由な国なんだな」と思いました。
当時の日本と言えば、「真夏でも男はスーツで」が常識でした。 フィンランドの後に日本に行くと、「これは、ヤバイ!」と思いました。「暑さで死ぬ!」と。(中略)

■女性の靴
フィンランドを歩いていると、ほとんどの女性は、底が薄く、幅の広い靴で、タプタプと歩いていました。
私は普段、女性、男性の靴を見ません。しかし、フィンランドに行ったときは、あまりにもタプタプしているので、目がいってしまったのです。 たまに、ハイヒールの女性を見かけると、ほとんどの場合ロシア人女性でした。

銀行員のTシャツもそうですが、女性の靴を見たときも、「この国は自由なんだな」と思いました。

■ヘルシンキのお店
もう一つ気がついたこと。
ヘルシンキはフィンランドの首都ですが、夕方8時頃になると、ほとんどのお店は閉まっていました。それで、私と友人は、いつも早めの夕食を心がけていたのです。

日本の24時間コンビニに慣れた私たちには不便に感じます。しかし、「夕方8時に閉まる」ことがあらかじめわかっていれば、不便を感じることはなくなるでしょう。

そして、「フィンランド人は、さっさと家に帰って、長い時間眠るんだろうな」と思いました。今調べてみると、フィンランド人の平均睡眠時間は、男性7時間24分、女性7時間45分で、OECD中最長でした。(2018年)
一方日本人の平均睡眠時間は、男性6時間30分、女性6時間40分で、OECD中、最短でした。
● 出所:睡眠時間の世界平均は7時間超 日本人は世界「最下位」?

客観的な指標
フィンランドは、世界幸福度ランキング7年連続世界1位です。他にフィンランドのよさを表す指標は何でしょうか?
■世界教育総合ランキング2022年 フィンランド1位
● 出所:世界教育水準ランキング2022年6月現在(日本は41ヶ国中14位)
「フィンランド=教育大国」というのは有名ですね。

■世界森林率ランキング(OECD加盟国中) フィンランド1位
● 出所:世界の森林面積と森林率

■世界汚職が少ない国ランキング フィンランド2位
● 出所:世界汚職指数「清潔度」で日本16位 デンマーク6年連続TOP…台湾28位 中国76位

「幸せの秘密」フィンランド自身は、どう考えているのか?
フィンランド人は、なぜ世界一幸せなのでしょうか?フィンランド政府観光局は、「幸せの秘密」について、以下4つを挙げています。
自然との密接なつながり 地に足のついたライフスタイル 新鮮な食材を使った料理 持続可能な生活へのアプローチ

フィンランドの幸せは国家機密や大きな謎ではなく、誰もが習得できる一連のスキルやライフハックの組み合わせなのです。森林浴やサウナの後の海水浴から、地元で採れた新鮮な食材を使った食事まで、フィンランド人の幸せの秘訣は日々の生活の中にあります。
● 出所:フィンランド、7年連続で世界幸福度ランキング1位を獲得!

というわけで、今回は、「フィンランドが7年連続で世界幸福度ランキング世界1になった」という話でした。
(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2024年3月20日号より一部抜粋)【3月21日 北野幸伯氏 MAG2NEWS】
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【必ずしも他人に優しく寛容・・・だけもないフィンランド 移民排斥の極右台頭】
しかし、フィンランドの人々が他人に優しく寛容で、穏やかに暮らしているかと言えば、必ずしもそうとも言い難いような現象も。

昨年4月の総選挙では、移民に対し厳しい政策を掲げる極右とも評される「フィン人党」が第2党の得票率を獲得しました。
中道右派・国民連合の得票率は20.8%、これに右翼のポピュリスト政党・フィン人党(20.1%)が続き、中道左派の与党・社会民主党は19.9%と第3党に転落しました。

「フィン人党」は連立政権にも参加し、発言権を強めています。

****右派連立政権発足へ 国民連合主導、「極右」も参加―フィンランド****
4月のフィンランド議会選で第1党となった保守の国民連合は、欧州連合(EU)懐疑派で反移民を掲げるフィン人党など3政党と連立政権樹立で合意した。首相就任が確実なオルポ国民連合党首が15日夜、明らかにした。「極右」とも言われるフィン人党の政権参加は論議を呼びそうだ。

ヘルシンキからの報道によると、オルポ党首は記者会見で「全ての問題は解決し、(必要な)書類も整った」と語った。新政権で重要ポストを得る見込みのフィン人党のプーラ党首は「パートナー(の政党)と『劇的な変化』と呼べる移民対策に同意でき、うれしく思う」と述べ、移民の取り締まり厳格化を進める考えを強調した。【2023年06月17日 時事】
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「フィン人党」は2011年の総選挙で第3党、2015年及び2019年の総選挙では第2党の地位を獲得しており、近年影響力が強まっています。そうした現象は北欧全体にも共通しています。

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北欧各国で極右が以前から力を増加してきた背景には、北欧独自の寛容な福祉制度がある。(中略)

一方で、移民背景のある人々は、納税率が必ずしも高いわけではなく、特に難民の背景があると、医療や福祉制度により頼ることもある。

「甘えるな」。各国の極右は、厳しい言葉を最も極端な手法で発する。

実のところ、移民や難民に厳しめの政策をするのは、中道右派・中道左派は関係なく、どこの政党でも似ている。政策と言論を切り分け、冷静に、政策だけを見ると、あまり大きな違いはない。だが、人々の感情を極端にあおる表現で、各国の極右は新聞やテレビでよりヘッドラインを飾ることとなる。【2019年4月22日 鐙麻樹氏 YAHOO!ニュース】
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各国とも内情はいろいろ。私は寒い国には住みたくないけど・・・

【日本やフィンランドより中国が幸福・・・といった調査も】
話を「幸福度」に戻すと、日本はもちろん、フィンランドより中国の方が高い・・・という調査もあるようです。

****幸福度最高は中国、最低は日本=中国ネット「来世も中国に生まれたい」「信ぴょう性が…」****
100歳まで生きたい日本人がわずか3割弱だったことが、中国でも注目を集めている。

博報堂DYホールディングス傘下のシンクタンク「100年生活者研究所」がこのほど、日本および海外5カ国(米国、中国、韓国、ドイツ、フィンランド)の20~70代の男女計2840人に、寿命や幸福度に関する調査を行った。

その結果、「100歳まで生きたいか」との質問に「とてもそう思う」「そう思う」と回答した日本人は27.4%で、対象国の中で最も低かった。最も高かったのは米国で66.7%。以下、中国(65.6%)、フィンランド(58.4%)、韓国(53.1%)、ドイツ(52.8%)と続いた。

10点満点で表す幸福度では、日本が5.9点で最低だった。最も高かったのは中国で7.4点。以下、フィンランド(6.8点)、ドイツ(6.6点)、米国(6.5点)、韓国(6.2点)だった。

このほか、「この国の未来は明るいと思う」「この国の人の幸福度は長期的には上がっていく」「今後10年でこの国の経済は成長する」のいずれの項目でも日本は最低だった。

一方、「生まれ変わるとしてもこの国が良い」では63.7%でドイツを上回った。中国は全ての項目で80%を超えて1位だった。

この結果が中国のSNS・微博(ウェイボー)でシェアされると、中国のネットユーザーからは「中国に生まれたことに悔いはない。来世も中国が良い」「私は来世も、そのまた来世も中国に生まれたい」といった声が多く寄せられ、中には「米国が1位なら人類の光と言われ、中国が1位になれば洗脳だと言われる」「いずれにせよ、私は自分の国が好きだ」といった声にも共感が集まった。

一方で、「この調査の信ぴょう性はちょっと…」「どこで取った調査サンプルなんだか」「ま、何といっても中国は幸福度91%(別の調査)で世界一だからね(呆)」「私はフィンランドに生まれたい」など、中国の結果に疑問を抱くユーザーも一定数いた。

また、「100歳以上生きたくないという人の考えが理解できない」という声がある一方で、「健康ならいいけどね。寝たきりなら80過ぎたらもう生きたくはない」「年金を使い切った上に仕事もできない体になったら、死んだ方がましだろうな」という声も出ている。

このほか、他国については「来世は日本人がいい」「日本はストレスが多い。周囲の人は表面的には親切に見えるが実は疎遠」「礼儀正しく規則が厳しい国ほどストレスは大きい」「日本や韓国は自殺率が高いからね」(後略)【3月21日 レコードチャイナ】
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本人が「自分は幸福だ」と思っているなら、それは幸せなことであり、他人がとやかくいう話ではない・・・かな?
少なくとも、パレスチナ・ガザの人々は「自分は幸福だ」とは思っていないでしょう。
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アフガニスタン  埋まらない女性人権に関するタリバンと欧米の認識の溝

2024-03-20 23:15:45 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタン南部カンダハルの病院で診察を待つ女性たち=2023年11月(共同)【2月21日 共同】)

【2月開催の国連によるアフガン情勢めぐる国際会議はタリバン欠席で成果なし】
ウクライナやパレスチナ情勢などもあるせいか、最近ほとんど動きが報じられていないアフガニスタンの話。

ひと月以上前の話になりますが、国連はアフガニスタン情勢めぐる国際会議を中東のカタールで開催しました。
タリバン政権は国際的に承認されていませんが、初めて会議に招かれたタリバンは直前になって出席を取りやめ、会議も実質的な成果を得られず閉会しました。

タリバンが会議への出席を見送ったのは、アフガニスタンの市民団体や女性組織が会議に招かれたことにアフガニスタンの唯一の公式代表として出席することを要求するタリバンが反発したためと報じられています。

****国連がアフガン情勢めぐる国際会議開催 タリバンは欠席****
国連は、イスラム主義組織タリバンが政権を握るアフガニスタンへの国際関与を目指す会議を開きましたが、タリバンは市民団体などの出席に反発し、欠席しました。

会議は18日から19日にかけてカタールの首都・ドーハで非公開で開かれました。

開催は去年に続き2回目ですが、国連のグテーレス事務総長によりますと、タリバン暫定政権はアフガニスタンの市民団体や女性組織が出席したことに反発し、欠席しました。

国連グテーレス事務総長「タリバンが示した条件は私たちが受け入れられないものだった」

グテーレス氏は、アフガニスタン情勢が「行き詰まり」の状態にあると指摘したうえで、今後、今回のような国際会議をより頻繁に開き、タリバン側に出席を求めていく考えを示しました。【2月20日 TBS NEWS DIG】
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【女性の人権に関してタリバンと欧米の間で認識の差 難しい対応のなかで宗教的アプローチの可能性も】
国際社会とタリバンの意見の隔たりの最大のものは女性の人権状況でしょう。

****タリバン 国連会議欠席へ 女性抑圧を懸念する国際社会と隔たり****
(中略)今回の会議では女性の人権状況などの改善を求める国際社会と、これを「内政干渉だ」として反発するタリバンとの間で本格的な議論が始まるのか注目されていましたが、双方の隔たりが浮き彫りになった形です。

アフガニスタンでは、独自に解釈したイスラム法に基づく統治を行うタリバンのもと、女性は小学校までしか学校に通うことが出来なくなるなど、女性の抑圧が深刻で、状況の早期の改善が求められています。

タリバン側は今回の会議に女性グループなどアフガニスタンの市民も招かれたことや、アフガニスタン担当の国連特使の任命が検討されていることに反発しているとみられます。(中略)

女性教育の制限で 精神不安定な子どもも
アフガニスタンでは2021年のタリバン復権後、女性の教育の制限が徐々に強まり、現在は、女性は小学校しか通えない状況が続いていて、精神的に追い詰められる子どもたちが相次いでいます。

タリバンが復権したときに小学校6年生だった、首都カブールに住むザハラさん(15)は、中学生になりましたが、もう2年間も学校に通えていません。 家で過ごす日々が続く中で、急に涙が流れたり、独り言がとまらなくなったりと、精神的に不安定になったといいます。

病院に通い治療を受け、料理や掃除などの家事をして気を紛らわせるようにしていて、最近では症状はほとんど出ることは無くなりましたが、今も時折、涙が流れることがあると言います。

2年間 同じ教科書を読み直して
ザハラさんは、「学ぶことが出来る場所がどこにもなくて、とてもつらいです。これまで2年間、退屈な日々を過ごしてきました。夢は医者になることですが、どうやって実現したらよいか分かりません」と話していました。

そんなザハラさんの1番の楽しみは、学校で使っていた教科書を読み返すことです。 学校に通えなくなってから2年間、同じ教科書を読み直しては、友達と学校に通っていた日々のことを思い返しています。

ザハラさんは「年齢が大きくなり、学校に行けないまま学ぶ機会が失われています。タリバンが学校を再開してくれるのか分からず、心配です」としたうえで、「国際社会には私たちが学校に通えるようにタリバンに働きかけを行ってほしいです」と話していました。

専門家「女性教育 いかに発展に必要か伝えるのが重要」
ドーハの国連の会議に、タリバンが招待されていたことについて、アフガニスタン情勢に詳しい中東調査会の青木健太研究主幹はこれまでの国際社会のタリバンへの働きかけは結果を出せていないとしたうえで、「女性の権利の保障を求める諸外国と、イスラム法にのっとって伝統に沿った国づくりをすると主張するタリバンの間で、議論が平行線をたどるおそれがある」と述べ、今後、国際社会との議論が本格化してもタリバン側の姿勢を変えるのは容易ではないとしています。

一方で、中国がタリバン暫定政権の派遣した大使を受け入れたことなどから、「人権の順守を要求する欧米よりも、つきあいやすい国々と関係を強化するのは自然の流れではないか」と述べ、タリバン側が国際社会からの承認を得ようと急いでいるという予断を持たないことが重要だと指摘しました。

そのうえで、「価値観を押しつけるのではなく、女性の教育がいかにアフガニスタンの発展にとって必要かを伝えるのが重要だ。タリバンの権力は外国の要人とほとんど接触が無い最高指導者に集中し、声が届かないという構造的な問題もあるが、しっかりタリバンの中枢に声を届けないと変化は生まれない」と述べ、粘り強い働きかけが必要だという考えを示しました。【2月18日 NHK】
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現実問題としては、「人権」に関する欧米的価値観からタリバンに改善を求めても、成果はあまり期待できないでしょう。

「国際承認」を与える見返りに人権改善を求めるような「取引」も、中国がタリバン政権との関係改善を見せているような状況ではあまり期待できないかも。

一方で、女性の人権に関して欧米との隔たりもある他のイスラム諸国では、タリバン政権ほどは極端な女性抑圧は行われていません。イランでは女性教育は進んでいますし、保守的とされたサウジアラビアでもムハンマド皇太子のもとで改革が進められています。

そうしたことを踏まえて、イスラムの立場からタリバンに改善を求めるというアプローチもあり得ます。

****宗教的アプローチに期待****
タリバン暫定政権、特に最高指導者をはじめとする強硬派に変化を促す方法はあるのか。

カブール出身のイスラム教シーア派法学者ザカリヤ・マシュクールは、タリバンの偏った思想と実践を正すために、イスラム教発祥の地サウジアラビアの権威が必要だと指摘する。

マシュクールは「サウジのイスラム法学者らが、タリバンの法解釈は誤っていると説明し続けるしかない」と訴える。軌道修正には政治ではなく、宗教的アプローチが欠かせないという主張だ。

タリバンが政策を変更する可能性はゼロではない。カンダハルに拠点を置くアクンザダら強硬派指導部と比べ、外交団や国際支援団体との接触が多いカブールでは閣僚の大半が女子教育再開を支持している。タリバンは国連とNGOに女性職員の出勤停止を命じたが、国連の交渉で保健医療分野は対象外となるなど、柔軟性も垣間見える。

国際NGO「ケア・インターナショナル」のアフガン事務所幹部レシュマ・アズミは「タリバンの多くが女性活躍の大切さを知っている。問題は指導部だ」と見抜く。「時間はかかると思うが、女性抑圧的な政策が変わることを待っている」【1月24日 47NEWS】
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タリバン側の「柔軟性」の事例としては、女子医大生容認も。

***タリバン、女子医大生を容認 農村部、医師不足対応か****
アフガニスタンのタリバン暫定政権は20日、農村部の約10州で女子学生の公立医大への入学を容認すると発表した。タリバン支配下の国営バフタル通信が伝えた。

タリバンは中学生以上の女子教育を禁じており例外的措置。農村部の深刻な女性医師不足に対応すると同時に、女性抑圧への国際批判を意識した可能性もある。

バフタル通信によると、タリバン暫定政権の保健省が各州当局に書簡を送り、高校既卒の女子学生を医大に入学させる手続きを開始するよう指示した。21年8月に復権したタリバンが女子教育を禁じる前に高校を卒業した女子学生が対象とみられる。 ただ入学を認められる女子学生数は不明。【2月21日 共同】
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タリバン的な認識から、女性患者の診察にはどうしても女性医師が必要になりますので、そのあたりの問題への対応と推測されます。ただ、いかにも総合的観点を欠いた弥縫策のようにも。

【タリバンの女性認識 出身母体パシュトゥン人部族社会の慣習しており、一定に国内では支持も】
女性問題への対応で他のイスラム諸国とも差異があるように、タリバンの政策には単にイスラム的な観点だけでなく、タリバンの母体であるパシュトゥン人部族社会の慣習・考え方が反映されています。

****「女性は守るべき存在」タリバンの女性抑圧政策を支える民意とは 民主化が失敗した理由は何か。これからどうなるのか【アフガン報告】6回続きの(4)****
アフガニスタンなど保守的なイスラム諸国には「女性の尊厳や貞淑さを守るため」として、女性を家族以外の男性と接触させない慣習がある。女性の社会進出を妨げる考え方だが、多くの国々に定着した文化でもある。

アフガンの問題点は、統治者として復権したイスラム主義組織タリバンが、女性の就労と教育を制限する政策を国家として推進していることだ。タリバンは民意の支持を得ていると主張する。本当だろうか。変化は可能なのか。

▽「恐怖の組織」ではない?
アフガンの首都カブールと他の地域では、街に広がる空気が微妙に異なる。カブールではスカーフ姿の若い女性たちが顔を隠さずおしゃれをして歩く姿を見かける。レストランやカフェでは、家族連れの女性客の姿もちらほら目に入る。外国人との接触が多い首都で、民主化と男女同権が進んだ名残だろう。

タリバンの本拠地、南部カンダハルでは話が別だ。市場の食料品売り場は女性客であふれているが、みな全身を覆うブルカ姿。表情は見えない。買い物の様子を撮影しようとスマートフォンを構えると、タリバン情報機関員の男が現れ追い出された。監視は徹底している。

それでも、カンダハル市民のタリバン観はおおむね好意的だ。「タリバンの考え方は土着の文化を反映している。ブルカ姿も強制ではない」という声をよく聞く。

欧米や日本から見ると「自由を抑圧する恐怖の組織」に見えるタリバンは、彼らの母体民族パシュトゥン人が多い保守的な南部や東部を中心に、アフガン人に支持されている。女性よりも男性が支持する傾向が強い。

タリバン暫定政権は、公共の場では目以外を布で隠すよう女性に命じ、女性だけでの長距離移動も禁じた。こうした政策には地域の慣習と重なる部分がある。

▽性欲と道徳的退廃から女性を守る
タリバンの最高指導者ハイバトゥラ・アクンザダは強硬派の中核で、巡礼・寄進相サケブや最高裁長官アブドルハキム・ハッカニら古参メンバーが顧問役として脇を固めている。

彼らが理想とするのは、イスラム教の原理主義的な解釈と、パシュトゥン人に根付く保守的な慣習に基づいた社会だ。個人主義と民主主義、完全な男女同権を重視するアメリカやヨーロッパの価値観とは大きな隔たりがある。現代の日本人にとっては欧米の価値観の方が身近だろう。

タリバンに近い20歳代の男性記者は、その価値観を「男性は女性を扶養し、女性の名誉と尊厳を守る義務がある。女性は働く必要がない代わりに、子育てと家族の世話を課されている」と説明する。

さらに「見知らぬ男性の性欲から女性を守るために衣服や行動を制限し、西洋文化と男女混合の場を禁じることで、道徳的退廃と家族の破壊を防ごうとしている」と指摘する。女性の外出や就労、就学に否定的な強硬派の主張を支える考え方だ。

濃淡の違いはあったとしても「女性は守り、隠すべき存在」という発想は幅広い層のアフガン人に浸透している。教育を受けた人たちも例外ではない。

2023年10月、1400人以上が死亡した西部ヘラートの地震被災地を取材したときのことだ。国連機関で働くアフガン人男性(24)に話を聞いた後、家族の女性の写真も撮影させてもらえないかと頼んだ。すると男性は「勘弁してくれ。アフガンの慣習は分かるだろ」と露骨に不快感を示した。

男性は英語を話し、外国人との付き合いに慣れた知識層だ。女性らは布で顔を覆い目の部分だけしか見えていなかった。それでも家族以外の男性と接触し、ましてや写真を撮られることはタブーなのだとあらためて思い知らされた。

▽眉毛ケアはイスラムの教えに反する
タリバンが女性に課した就労制限は幅広い。2022年12月、非政府組織(NGO)で勤務する女性職員の出勤停止を命令。2023年4月には国連機関に女性職員の出勤停止を命じた。

さらに6月には、全国の美容院に閉鎖を指示し多くの失業者を生んだ。命令の理由は、髪と全身を覆う衣服の着用義務違反や、派手なメーク。「眉毛を整えることはイスラム教では許されていない」という理由まであった。カブールで美容院を経営していたファウジア・サダト(34)は「理解に苦しむ。タリバンはいつも女性の意見を聞かず一方的だ」と批判する。

アフガンでは2001年の旧タリバン政権追放後、民主政府の下でカブールなど都市部を中心に男女平等の啓発が進んだ。女性は国会議員として政治参加もできた。

だがタリバン復権後、女性は政治参加を認められておらず、公園や公衆浴場、ジムの利用も禁止されており、次々と社会から居場所を奪われた。自由と男女平等を知った女性らの反発は強く、カブールに住む元教師の女性(29)は「タリバンは女性が子どもを産む生き物と思っている」と憤る。【1月24日 47NEWS】
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【公開処刑も 情報統制強化の動き】
女性問題以外でも「人権」に関するタリバンの認識は欧米的なものと溝があります。

****国連、アフガンの公開処刑に「がくぜん」****
国連は28日、アフガニスタンで最近行われた公開処刑を非難し、同国を実効支配するイスラム主義組織タリバン政権に死刑の執行停止を求めた。
 
タリバン暫定政権はこの1週間、最高指導者ハイバトゥラ・アクンザダ師が署名した令状に基づき、殺人罪で死刑が確定した死刑囚3人の刑を執行した。3人は、被害者の遺族を含む大観衆の前で銃殺刑に処された。

国連人権高等弁務官事務所のジェレミー・ローレンス報道官は声明で「アフガンの競技場でこの1週間に3人の公開処刑が行われたことにがくぜんとした」「公開処刑は、残酷かつ非人道的で、品位を傷つける取り扱いまたは刑罰だ」と非難。

「こうした刑の執行は事実上恣意(しい)的に行われており、アフガンも加入する市民的および政治的権利に関する国際規約に基づき保護されている生存権を侵害している」と指摘した。 【2月29日 AFP】
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もっとも、公開処刑は北朝鮮などでも行われており、タリバンだけの問題ではありません。

一方、タリバン側が、欧米批判を退けて体制擁護的な報道を強化する動きも。

****タリバン、「記者支援基金」設立へ=体制寄りの報道奨励か―アフガン****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は6日、ジャーナリストを支援する基金を設立すると発表した。タリバンによるメディア弾圧が指摘される中、国内外の批判をかわし、体制寄りの報道を奨励する狙いがありそうだ。

タリバンによれば、同日開かれたメディアの「違反行為」を監視する定例会合の中で決定。基金の助成対象は不明だが、出席したハイルホワ情報・文化相は全メディアに向け「イスラムと国の価値観にのっとった活動」をするよう促した。【3月7日 時事】
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【隣国パキスタンがテロ対策で越境攻撃】
国際関係では、タリバンの生みの親でもある隣国パキスタンとの衝突も報じられています。

****パキスタンがアフガン越境攻撃=8人死亡、武装勢力標的****
パキスタン軍が18日、アフガニスタン東部の国境地帯に越境攻撃を行い、子供3人を含む8人が死亡した。アフガンのイスラム主義組織タリバン暫定政権が発表した。パキスタン外務省によると、同国内のテロ事件に関与した武装勢力を標的にした作戦を実施した。

暫定政権によれば、東部のパクティカ州とホスト州で同日午前3時(日本時間同7時半)ごろ空爆があり、民家を破壊。子供3人や女性5人が犠牲となった。ムジャヒド報道官は声明で攻撃を非難し、「パキスタンが制御できない非常に悪い結果をもたらす可能性がある」と警告した。暫定政権の国防省は、報復として国境沿いのパキスタン軍施設を「強力な兵器で攻撃した」と発表した。

アフガン国境に近いパキスタン北西部カイバル・パクトゥンクワ州では16日、軍施設が武装勢力に襲撃され、治安要員ら7人が殺害されていた。【3月18日 時事】
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独自性を主張するタリバン暫定政権と、タリバンを育て、支えてきたパキスタンとの関係がギクシャクしていること、イスラム過激派のテロに手を焼くパキスタンがテロの温床となっていると考える国内アフガニスタン難民をアフガニスタンに強制送還していることは、これまでも取り上げてきました。

今回の越境攻撃もそうした流れの一つでしょう。

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中国  不動産不況に「破産すべき会社は破産しなければならない」と厳しい対応表明

2024-03-19 22:49:23 | 中国

(中国全人代の開幕式に臨む習近平国家主席(左)と李強首相=北京の人民大会堂で2024年3月5日、共同【3月5日 毎日】)

【続く不動産不況 地方政務の財政悪化も喫緊の課題】
中国の不動産不況は相変わらずです。

****中国 1、2月の不動産開発投資マイナス9% 減少幅拡大****
中国の1月と2月の不動産開発投資は、前の年の同じ時期と比べてマイナス9.0%でした。不動産不況からの回復の遅れが改めて浮き彫りになっています。

中国国家統計局の発表によりますと、1月と2月の不動産開発投資は1兆1842億元で、前の年の同じ時期と比べてマイナス9.0%でした。減少幅は、前の年の同じ時期のマイナス5.7%からさらに拡大しました。

住宅に関するほかの指標も軒並み悪化していて、▼工事に着手した面積はマイナス29.7%、▼完成した面積はマイナス20.2%、▼新築の売上額はマイナス29.3%となっています。

一方で、売れ残っている住宅の面積は15.9%増加していて、不動産の購入が停滞しているとみられます。

中国では不動産不況が景気回復の足かせとなっていて、中国政府は不動産事業への金融支援を強化するほか、中央銀行も住宅ローン金利の基準となる金利を引き下げるなどテコ入れを図っています。【3月18日 TBS NEWS DIG】
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****中国の不動産危機が加速、恒大と碧桂園に続いて万科も―仏メディア****
仏RFIの中国語版サイトは14日、「中国の不動産危機は手に汗を握らせる」として、不動産開発2位の万科も危機に陥っていると伝えた。

記事は「恒大、碧桂園に続いて万科も危機に陥っている」として米格付け会社のムーディーズがこのほど万科を格下げしたことを説明。「資金調達難で今後12〜18カ月の財務リスクが増す可能性のあることを示すものだ」と伝えた。

中国では不動産危機と不動産価格の下落を背景に、人々は景気減速の中で不動産への投資をやめている。投資家は慎重な態度を取っており、この数週間はデベロッパーの株式と債券の投げ売りが起きたという。

記事は「万科の株価は13日午前の取引で2%余り値を下げたが、中国政府は依然、同社を支え、積極的に財政支援することを選んでいる」と言及。恒大と同様に、万科も依然「大きすぎて潰せない」企業とみなされているという。【3月17日 レコードチャイナ】
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不動産不況は、「融資平台」という地方政府傘下の資金調達とデベロッパーの機能を兼ね備えた投資会社を通して不動産市場に膨大な資金を注ぎ込んできた地方政府の財政状況を著しく悪化させています。

****地方融資平台****
中国の地方政府傘下にある、資金調達とデベロッパーの機能を兼ね備えた投資会社。バブルを抑制するために、銀行からの地方融資平台を含めた不動産融資は規制されているが、その規制を抜けて発行された城投債と呼ばれる債券を通し理財商品や信託による投資が行われており、不動産バブルを煽っていると言う指摘がある。【ウィキペディア】
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****中国 インフラ過大投資 「融資平台」“2000兆円”巨額債務の実態****
不動産不況に苦しむ中国経済にもう一つのリスクが浮上しています。融資平台、インフラ開発の資金集めをする投資会社などを通じて地方政府が2000兆円ともいわれる巨額の債務を抱えています。その実態を取材しました。

■“2000兆円”巨額債務の実態
朝の中国。男性が一人太極拳を楽しむこの場所は、320億円をかけて整備されたスポーツセンターです。ほとんど使われていないといいます。

近くの店の人 「基本的に誰もいない」 「(Q.商売は?)ギリギリ生きています」

嘆きの声が聞こえてきたのは、中国・貴州省の遵義市。 人口660万人の大都市は、深刻な不景気に陥っていました。

午後8時半ですが、確かに明るいですが人はあまり歩いていません。そして、オフィスビルが7割引きで今売り出されています。

30年ほど前の貴州省の映像です。のどかな景色が広がっていましたが…。 “脱貧困”を掲げる中国政府の掛け声のもと、開発は進められてきました。その結果、この20年でGDPが年平均で10%を超える成長を遂げてきたのです。

総額300億円以上かけた巨大建築「遵義古城」。ところが…。 扉には鍵が掛かっています。そして、中はがらんどうで、もぬけの殻になっています。(中略)

東京財団政策研究所 柯隆主席研究員
「(中国で)不動産バブルが崩壊して、地方政府の債務を中心に不安要因が浮上してきているが、『融資平台』の政府系の投資会社も債務返済が滞るようになった」

銀行や投資家などから金を集め、町の開発を進めてきたのは「融資平台」という投資会社です。地方政府が作りました。

柯隆主席研究員 「地方政府が発行する地方債以外にもっとたくさんお金を借りたいから『融資平台』という投資会社を設立して、隠れ債務を発行してお金を借り入れていた」 ところが、中国の不動産不況などの影響で投資会社の資金繰りは悪化。進められていた工事もストップしました。

こうした事態は貴州省だけにとどまらず、中国全土で起きています。地方政府の損失は計り知れません。
柯隆主席研究員 「地方の債務だけで約100兆人民元(2000兆円)」 専門家の試算では、地方政府の借金は2000兆円。これは日本のGDPの3倍を超えます。

柯隆主席研究員 「背伸びしすぎたんでしょうね。地方政府の歳出に対するガバナンスが効いていないため無駄遣いが相当あって、どんどんどんどん不動産作っても買い手がつかない。最初から成立しないゲーム。融資平台の破綻も今、時間の問題になっている」

一方、中国政府は「隠れ債務の規模は縮小している」と主張。今後、監督体制を強化するとしています。 ただ、あおりを食らうのは中国国民です。(中略)

柯隆主席研究員 「有効な政策を早く打たないと、ますますリカバリーができなくなる。いわゆる弱者といわれる人たちが犠牲にされる。社会不安をもたらす一つのきっかけになる」【3月17日 テレ朝news】
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こうした不況は中国国民の生活を圧迫し、それが消費を抑制し、さらに不況を悪化させるという流れにもなっています。

****増える中国の住宅ローン延滞、不動産・消費に一段の下方圧力****
中国南部の恵州市で金融関係の仕事を失ったレイ・ジャオユさん(38)は今、住宅ローンの返済が滞っており、取立人に追い回される境遇にある。避けられない破局を少しでも先延ばししようと、電話には一切出ないようにしている。

2022年終盤に失業し、130万元(18万1139ドル)で買った住宅のローンとクレジットカードの借金の返済ができなくなったレイさんは「私にとって唯一の家で、差し押さえされたくない。でも、何ができるのか」と途方に暮れる。

<今年1月の差し押さえ件数、前年比64%増>
7年前に家を購入したことを悔やみながら「私は自分の若さを無駄にしたような気がする」とつぶやいた。 レイさんのような状況に陥った人は、中国ではまだ少ない。だが、その数は急速に増え続けている。

背景には、不動産危機や地方政府の債務増大、デフレ懸念などに伴って経済全体が依然として部分的な回復にとどまり、足場がもろいことがある。

複数の専門家は、住宅ローン延滞件数の増加は不動産価格と消費者信頼感の双方にとって悪影響を及ぼしかねず、家計需要を促進して経済基盤をより強化しようという政府の努力に一層の冷や水を浴びせる恐れが出ている。

中国の民間不動産調査大手、中国指数研究院(チャイナ・インデックス・アカデミー)の分析では、23年に差し押さえられた物件数は前年比43%増の38万9000件。今年1月はさらに5万件以上が差し押さえとなり、前年比増加率は64.4%に達した。

華宝信託のエコノミスト、ニー・ウェン氏は、延滞と差し押さえ増加は消費を萎縮させているだけでなく、過剰な不動産投資は避けるべきという警鐘にもなっていると述べた。

レイさんも到底、消費などできる気分ではない。

昨年はライブ配信経由でさまざまな所有品を売って稼いだ合計額は約4万元。毎月の住宅ローン返済額の4200元に充てるには不十分で、毎日の基本的な生活費すらおぼつかない。

「私が着ているのは全て5年前の服だが、体重が増えたので、その多くはもう合わなくなってきている。友人からはお古のコートをもらった。旅行は17年以降、一度も行っていない」という。

レイさんにとって最も心苦しいのは、毎月3000元の年金で暮らす母親を支えてあげられないことだ。(後略)【3月17日 ロイター】
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【「破産すべきは破産」 厳しい対応の中国政府】
当然に中国政府もこの事態の立て直しに取り組んでいますし、全人代でも重要な検討課題となった思われますが、ただ、「破産すべき会社は破産しなければならない」という厳しい姿勢で、やみくもに救済はしない方針を示しています。

****「破産すべきは破産」 中国の住宅部門トップが不動産市場に指摘****
中国で、国会にあたる全人代(=全国人民代表大会)が開かれるなか、住宅部門のトップが低迷する不動産市場について「破産すべき会社は破産しなければならない」と強調しました。 

住宅・都市農村建設省のトップは9日、不況が続く不動産市場について、資金断絶などのリスクに直面し「安定させるのは極めて困難な任務だ」との認識を示しました。  

さらに、巨額の負債などを抱えて経営能力を失った不動産関連企業について、やみくもに救済はせず「破産すべき会社は破産しなければならない」と指摘して、不動産市場の整理・調整を進める姿勢を強調しました。  

一方で、中国は「300億平米以上の住宅を改築する必要があり、大きな潜在力だ」と述べ、不振にあえぐ不動産業界の立て直しをアピールしました。【3月10日 ANNニュース】
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「破産すべき会社は破産しなければならない」・・・経済合理性からすれば極めて正論です。そのことよって非効率な企業は淘汰され、健全な経済が維持できる・・・ただ、「大きな痛み」を伴いますので、日本みたいな政府に「救済」が期待される社会、民意に沿った穏便な対応が求められる社会では非常に難しいことも。

こうした厳しい対応ができるのは、公的な介入を否定する自由主義を重視する社会か、あるいは救済を求める声を封じ込めることができる中国のような強権的な社会でしょう。

下記も「破産すべき会社は破産しなければならない」という姿勢の現れでしょうか。

****中国・恒大集団に罰金865億円…子会社が11兆円超の売り上げ高の水増し報告****
経営危機に陥っている中国の不動産大手・恒大集団の子会社が、11兆円を超える売上高の水増し報告を行ったなどとして、およそ865億円の罰金を科されたことがわかりました。

中国の不動産大手恒大集団の主力事業を担う「恒大地産集団」は、2019年と2020年の決算報告書に虚偽の報告を行ったと明らかにしました。

具体的には、売上高を前倒しで計上するなどし、2019年には、当期の売上高のおよそ50パーセントにあたる4兆4400億円を、2020年にはおよそ78パーセントにあたる7兆2600億円を水増ししたということです。

中国証券監督管理委員会は、恒大地産集団におよそ865億円の罰金を科し、恒大集団の許家印会長については、生涯にわたり債券市場への参入を禁じるということです。

中国政府は、低迷が続く不動産市場について、市場ルールに従い「破産すべき会社は破産すべきだ」との方針を示しており、今後、経営難の企業に対し、厳しい対応を加速させる可能性があるとみられています。【3月19日 日テレNEWS】
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もっとも、中国政府は民間企業には厳しい姿勢をとれるでしょうが、共産党の信頼が揺らぎかねない地方政府の破綻という話になると、話はまた別でしょう。

【中国がもし確信犯的に不動産不況の「痛み」に耐えているのだとしたら空恐ろしい感も】
いずれにしても、中国経済の不調を論じる記事は多々溢れていますが、中国政府は何の考えもなく事態を座視している訳でもなく、ことによると将来的なステップアップのためには現在の窮状を敢えて「放置」する厳しい姿勢なのかも・・・。

****習近平政権の批判ありき。日本人が喜ぶ「つまみ食い報道」を繰り返すマスコミに踊らされる“おめでたい人々”****
3月5日から11日にかけて北京で開かれた全国人民代表大会(全人代)。中国の国会にあたる全人代では同国の今後を知る上で重要な報告が多数なされましたが、日本メディアはこれまで同様、習近平政権を批判的に扱うことが可能な題材だけの「つまみ食い報道」に終始しました。

そんなメディアを批判的に見るのは、多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さん。富坂さんはメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』で今回、中国が何を成し遂げようとしているのかという視点を葬り去るような報道が、日本人に及ぼし続けている弊害を解説しています。

中国全人代のテーマは景気対策と国防、台湾問題だけではないという当たり前のことが伝わらない現実
(中略)全人代では冒頭、首相による政府活動報告(以下、報告)が行われる。報告は経済問題が中心になるが、実際はかなり網羅的だ。

日本では、その報告のなかから「日本人が興味を持てそうなテーマ」で、かつ「(習近平政権を)批判的に書ける」題材をピックアップし、短くまとめた記事が目立つ。ここ数年はGDP成長率の目標値にケチをつけ、国防費の伸びを「軍拡」と批判し、台湾問題で「中国の危うさ」を強調するというパターンが繰り返されてきた。

報道が不正確とは思わないが、報告の全文を読み、比べれてみれば「つまみ食い」感は否めない。中国が対外的にアピールしたい内容とのズレも深刻だ。

もちろん日本のメディアが習近平政権の意図を汲む必要などないし、独自の視点で中国を報じることに問題があるわけではない。しかし、中国が何を目指し、何を成し遂げようとしているのか、という視点まで葬り去ってしまっては、その弊害は小さくない。

例えば、前回の原稿でも触れた「新たな質の高い生産力」である。その前の党大会で打ち出された「中国現代化」と同じく、おそらく日本の読者の頭には、何の情報も残っていないのではないだろうか。

習近平政権がわざわざ「これこれこういう問題に取り組み、社会をこう変えてゆく」と宣言している事柄をメディアが正面からとらえなければ、中国の未来を予測する上で支障をきたすことは間違いない。

実際、日本はこれまで中国の変化を大きく見誤ってきた。
凄まじい勢いで国民に普及したスマートフォンを背景に急速に進んだ社会のキャッシュレス化。爆発的な勢いを見せたライブコマースとそれにともなう流通網の整備。世界的規模にまで成長した家電メーカーや電気自動車産業の台頭。水質汚染、大気汚染に悩んでいた姿から短期間のうちに脱却し、環境を整備すると同時に太陽光・風力発電でリーディングカンパニーを数多く輩出する国へと変貌したことなど、数えれば枚挙に暇がない。

言うまでもなくこれらの変化にはすべて予兆があり、萌芽もあった。それなのに、たいていのケースで日本はそれらを見落とし、目の前に疑いようのない現実を突きつけられてはじめて驚くということを繰り返してきた。

前例に倣えば、今度の全人代が打ち出した「新たな質の高い生産力」も新たな変化の予兆に違いない。
習近平政権は欧米社会に評価されるために政治をしているわけではない。人口の最大ボリュームゾーンを占める農民や労働者のために政策を練ってきたことは報告の全文を読めばよく分かる。

その一つが「脱貧困」への取り組みだ。
中国共産党が結党100周年という大きな節目を祝うために全力で取り組んできたのが「脱貧困(小康社会実現のための)」だ。コロナ禍の2021年、それを達成したことが習指導部の大いなる誇りだった。
そして今回の報告でも「脱貧困の継続」が叫ばれ、脱貧困が瞬間風速に終わってはならないという戒めが記されている。

これは「先に富む」ことにブレーキをかけ「共同富裕」へとシフトさせた変化にも通じる。そして今回、西側社会やマーケットが注目する「目先の景気対策」より、貧困の逆流防止や徹底した就職支援、可処分所得の重視や養老金(年金)増額などに力を入れたことは、彼ら姿勢が一貫していることの表れだ。

習指導部のこうしたかじ取りの成否が明らかになるのは、まだ少し先の話だ。しかも、それは痛みに耐える時間だと言われている。

「新たな質の高い生産力」が意味するのは従来型発展モデルからの脱却だ。北京大学国家発展研究院中国経済研究センター主任の姚洋教授はこれを「粗放で外向き拡張型の成長モデルから、内側の発展を中心とし、イノベーションを動力とする発展モデル」への転換だと解説する。そして変化には「債務への過度な依存や金融、不動産の膨張といった構造的な問題の調整」に付随して「痛みがともなう」と警告する。

中国がもし確信犯的に不動産市況の低迷に耐えているのだとしたら、少し恐ろしいことなのではないだろうか。【3月19日 富坂聰氏 MAG2NEWS】
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「痛みがともなう」構造改革に向かって、焼け火箸を握りしめる覚悟で現状の痛みには耐える・・・ということであれば、民主的価値観から見ての良し悪しは別として、空恐ろしい感じがします。
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ミャンマー  徴兵制を嫌って国外脱出する若者 南東部カヤー州の少数民族武装勢力「解放区」の状況

2024-03-18 23:05:14 | ミャンマー

(【3月10日 NHK】)

【徴兵制を嫌って国外脱出する若者】
ミャンマー情勢については、少数民族武装勢力及び民主派勢力の武装闘争に対して3年前のクーデターで実権を掌握した国軍が劣勢にたっていること、兵士の脱走・投降などもあって兵員不足になった国軍が徴兵を発表したことなどを2月15日ブログ“ミャンマー 脱走・投降相次ぐ国軍 徴兵を実施で若者に動揺・反発 “軍政崩壊”の可能性も?”で取り上げました。

徴兵対象は18歳以上の国民で、男性は35歳、女性は27歳までが対象で、エンジニアなどの専門職は男性が45歳、女性が35歳まで引き上げられるという内容です。

徴兵制は2010年に導入が決定されましたが、これまでは運用せずに志願制を維持していました。国軍兵の投降・脱走が相次ぎ、戦力を強制的に確保する必要性に迫られた形です。

国軍の兵力は30万~40万人とされてきましたが、シンクタンク「米平和研究所」は23年5月に15万人ほどと推定しています。

なお、国民の動揺を鎮めるため、軍の報道官は2月20日、「今のところ女性を徴兵する計画はない」とする声明を発表しています。

状況はその後大きくは変わっていません。

****ミャンマーで戦闘激化 多数の市民が犠牲に****
ミャンマーでは国軍と少数民族武装勢力の戦闘が激化するなか、市民が犠牲となる事態が相次いでいます。

現地メディアは13日、ミャンマー西部ラカイン州の市場近くで、国軍による砲撃を受けた市民らの様子を伝えました。映像は2月29日に撮影されたもので、重火器が撃ち込まれて少なくとも21人が死亡、30人以上が負傷したということです。

ラカイン州では、少数民族の武装勢力と国軍との衝突が激化していて、9日にも市民が巻き込まれ8人が死亡しました。

OCHA(=国連人道問題調整事務所)は11日に声明を発表し、「住宅地での無差別攻撃が市民の命を犠牲にしていることを深く憂慮する」としています。【3月14日 ANNニュース】
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徴兵対象となる若者では国外に脱出する者も多数出ています。

****ミャンマー 徴兵制発表から1か月 隣国タイに出国の若者相次ぐ****
ミャンマーで実権をにぎる軍が徴兵制の実施を発表して10日で1か月となりました。対象となった若者たちの間では徴兵から逃れようと、隣国タイに出国するケースが相次いでいます。(中略)

若者の間では徴兵を逃れようと、隣国タイの大使館などに長期ビザを求める人が殺到し、第2の都市マンダレーでは旅券事務所の前に集まっていた2人が死亡する事故も起きています。

こうした中、タイ北部チェンマイの大学では今月、大学の英語科の入学試験が行われましたが、100人の定員を大幅に上回る2100人の応募があり、そのほとんどがミャンマー人でした。

このうち、最大都市のヤンゴン出身の32歳の男性は「私の兄やすべての友だちが民主派勢力だ。軍に加わり、彼らを撃つつもりはない」と、タイに逃れてきた理由を話していました。

大学の担当者は「大学始まって以来の応募者数です。ミャンマーからの学生たちにできる限りの支援を提供するよう努めたい」と話していました。

軍は来月に最初の5000人を徴兵するとしていますが、女性は対象外にすると発表するなど、若者の間に広がる動揺と反発の鎮静化をはかっています。

徴兵制逃れるため タイの大学目指す若者は
ミャンマーはASEAN=東南アジア諸国連合の加盟国であるため、タイへの入国は14日以内の滞在であれば、ビザを取得する必要はありません。

ミャンマー最大都市のヤンゴンからタイ北部チェンマイにやってきたマウ・ピュさんは(仮名・32歳)今月5日、チェンマイにある大学に入学するための面接をオンラインで受けました。

過去に軍に対する抗議デモを組織したこともあるマウ・ピュさんは「家にいるのが安全ではないのでタイに逃れてきた。ミャンマーの若者はみな国を出たがっている。徴兵されたくないのが主な理由だ」と話しました。

さらに、去年、民主派の武装勢力に加わった双子の兄の存在も、出国までして徴兵を逃れたい大きな理由になったといいます。

マウ・ピュさんは「私の兄やすべての友だちが民主派勢力だ。軍に加わり、彼らを撃つつもりはない。徴兵を逃れたいのはお互いを殺し合うことに反対だからだ。誰かを銃で撃ちたくないし、誰からも銃を突きつけられたくない。軍の独裁下のミャンマーにとどまる考えはなかった。なんとしてもタイに長期間滞在したい」と話していました。

京都大学 中西嘉宏准教授 “軍の思いどおりにはいかないだろう”
ミャンマー情勢に詳しい京都大学東南アジア地域研究研究所の中西嘉宏准教授は「そもそも若い人たちが海外に出ようとしていた中で、今回の徴兵制でさらに、なりふりかまわず、徴兵から逃れたい若者が海外を目指し、一種の社会的なパニックが起きている。

武器を渡す新兵が軍のために働くのか。どこかで銃口を軍側に向けないか。軍はそうしたことを精査しないまま徴兵を進めている。兵隊を増やして戦況を有利に変えていくという軍の思惑はうまくいかない可能性が高い」と分析しています。【3月11日 NHK】
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中西氏も指摘しているように、国軍に忠誠心がない・・・というより、反感が強い若者を無理やり徴兵して銃をもたせても、その銃口がどちらに向けられるのか・・・ますます国軍の混乱が拡大する恐れもあります。

崩壊前のアフガニスタン軍でもタリバンに内通する者が多く、米軍は前の敵だけでなく、後ろのアフガニスタン軍からも銃口を向けれらる事態が多発していました。

【違法入国を警戒する周辺国】
上記記事ではタイ北部チェンマイの大学にミャンマー人入学希望者が殺到していることなども指摘されていますが、それは正規の手続きを踏んだミャンマー出国者でしょう。タイを含め周辺国は違法な入国者の増加に警戒を強めています。

****ミャンマー徴兵制で若者が「脱出」模索 周辺国が違法入国警戒****
ミャンマーで国軍と民主派など抵抗勢力との内紛が長期化するなか、国境を接する周辺国がミャンマーからの避難民に厳しい対応を取り始めている。

インド北東部のマニプール州政府は8日、不法入国したとされるミャンマー人の送還を始めたと明らかにした。

2021年2月のクーデター後に多くの人が国境を越えたが、国軍が今年2月に徴兵制の開始を発表して以降はさらに脱出する人が増えた。インドやタイは避難者の流入や在留が自国の情勢不安や治安悪化につながりかねないと警戒する。

マニプール州のビレン・シン首相は8日、自身のX(ツイッター)に「インドに不法入国したミャンマー人の最初の一団を送還した」という文章とともに、ミャンマー人とみられる女性たちが移送用トラックで空港に連れてこられる様子を映した動画を投稿した。同州では23年5月に200人以上の死傷者を出すインド内の民族間の衝突が起きており、州政府はミャンマー側から避難民が押し寄せることで社会がさらに不安定化すると過敏になっているとみられる。

ロイター通信によると、州政府は少なくとも77人の送還を予定しているという。送還の一報に米国務省の報道官が懸念を表明したと伝えられるが、インドは難民の送還を禁じる難民条約に加盟していない。

また、約1600キロにわたり国境を接するミャンマーとインドは18年に自由移動制度を設け、国境付近の住民は16キロ以内はビザなしで往来が可能となった。ところが2月にインド政府は国内の安全と北東部の国境沿いの人口構造を維持するためとして制度廃止の方針を示し、政府高官が国境沿いにフェンスを設置する考えを明らかにした。

一方、ミャンマーとの国境が最長の2400キロ超に及ぶタイも密入国者の増加を警戒する。ミャンマー国軍が18歳以上の国民を対象に4月から毎月5000人の招集を始めると明らかにすると、若者たちは徴兵を逃れるため国外への脱出を模索。ミャンマーの最大都市ヤンゴンにあるタイ大使館には就労や就学ビザを求める人が殺到し、受付人数を制限せざるをえない状況に陥った。

混乱は続いており、経済的な理由などから合法な手段で入国できない密入国者が増える可能性がある。タイのセター首相は「合法に入国するのであれば歓迎するが、違法の場合は法的に厳しく対処する」と、くぎをさした。

国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によると、クーデター後にタイに避難した人はおよそ4万5000人とされる。タイ政府はこれまで、過去にもミャンマー難民を受け入れてきた経緯や労働力としての需要などから滞在をある程度は容認し、最近は国境付近での人道支援も拡充している。

ただ、混乱に乗じてミャンマーからの違法薬物の密輸入やオンライン詐欺などの犯罪が多発しており、治安悪化への懸念は強まっている。

徴兵制を巡っては、ミャンマーの独立系メディアが西部ラカイン州で少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の男性が国軍に強制的に連行されていると相次いで報じた。国軍側は否定しているが、国連は「若い男性が街中で誘拐されている」と強い言葉で非難。

国内で迫害されてきたロヒンギャはクーデター前からバングラデシュなど周辺国に逃れて不安定な生活を送っているが、徴兵制がそうした状況に拍車をかけることになりそうだ。【3月13日 毎日】
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最後のロヒンギャに関する情報も懸念されるところです。

政情不安なミャンマーからは日本へ向かう者も増えています。

****増えるミャンマーからの留学生…母国に政情不安、就職を目指して来日****
ミャンマーからの留学生が急増している。軍事クーデターにより政情不安が続く中、多くが安定した環境の日本で学び、就職を目指して来日しており、ここ3年で倍増した。生活に困窮する学生も目立ってきており、民間団体が支援に乗り出している。(中略)

21年2月のクーデター以降、ミャンマー人の来日は増えている。出入国在留管理庁によると、滞在者は20年末の3万5049人から23年6月時点は6万9613人に増え、多くが技能実習生として入国。留学生は20年末の4371人から、23年6月時点は、8876人になった。(中略)

困窮学生の支援に課題も
生活に困窮する留学生も出てきており、NPO法人「ミャンマーKOBE」(神戸市)には21年以降、留学生から相談が相次ぐ。

日本語がネックになり、仕事に就けないケースも多く、食料や布団などを無償提供している。現地の日本語教育機関に100万円の借金をして来日した男子留学生は「食べるものにも困る時がある」と漏らす。

同法人の猶原信男理事長(72)は「継続的な支援が必要だ。過重な借金を背負わずに学べる環境を整えることが求められている」としている。【3月18日 読売】
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【ミャンマー南東部カヤー州の少数民族武装勢力「解放区」の状況】
国外の他、少数民族武装勢力「解放区」へ逃げることも。ただし、空爆などはありますが。
下記は、チェンマイなどがあるタイ北部と国境を接するミャンマー南東部カヤー州の少数民族武装勢力「解放区」の状況です。

****ミャンマー「解放区」の実像:3年前のクーデターの勢いが衰えた国軍に立ち向かう武装勢力の姿****
<若者たちの抵抗運動の膨大な熱量は国軍を退けて、少数民族武装勢力と国内避難民が新たな街を作る。東部タイ国境に面するカヤー州の現地を歩いた>

一夜明けたら「お尋ね者」になっていた。3年前のことだ。ミャンマーの著名な政治評論家タータキンは当時、アウンサンスーチーと彼女の率いる国民民主連盟(NLD)の熱烈な支持者として知られていた。

しかし2021年2月1日、国軍がクーデターを起こし、民主的に選ばれたNLD政権を倒して政治家や活動家多数を一斉に検挙した。タータキンも標的となっていたが、どうにか難を逃れた。そして同国中部のマグウェ地方を脱出し、南東部にあるカレン民族同盟(KNU)の支配地域に逃れた。

仏教系のビルマ族が多数を占めるこの国にあって、KNUは1940年代から活動する少数民族系の武装組織であり、一貫して民族の自治と連邦制国家への移行を求めている。連邦制も自治も国内の少数民族が長年にわたって唱えてきた大義であり、今は多数派ビルマ族の多くも支持している。

だからKNUも広く国内の民主化勢力と連帯し、3年前のクーデター後に誕生した各地の抵抗勢力を支援し、初めて武器を取った人たちへの軍事訓練も行っている。

伝統的に、KNUの支配地域は隣国タイと国境を接するカレン州の一部、それも主として山間部に限られていた。
だが3年前のクーデター後には、カレン州の北に位置する東部カヤー州でも軍政に対する激しい抵抗運動が始まった。そして昨年末の時点では、ついに都市部にまで反政府勢力の支配地域が広がった。

具体的には、カヤー州メーセ郡の全域とデモソ郡の大部分などだ。国軍に追われたタータキンも、今はカヤー州デモソ郡で暮らす。

「ここは連邦制民主主義の国みたいに思える」と彼は言った。「いろんな立場の人が協力し合い、みんなが反軍革命を支持し、参加している」

新旧の少数民族勢力が連携
今のカヤー州で反軍闘争を主導しているのは、3年前のクーデター後に結成されたカレンニー国民防衛隊(KNDF)だ。

1950年代から活動している武装勢力のカレンニー軍や、共産主義のカレンニー民族人民解放戦線(KNPLF)の支援を受けて力を付けてきた。(中略)

実際、カヤー州にいる反軍勢力のイデオロギーはさまざまだが、互いに解放区を分け合い、州都ロイコーの攻略戦でも手を結んだ。昨年11月のことだ。

折しも、その2週間前にはミャンマー北部で主要な少数民族武装勢力3組織が一斉に蜂起して大規模な攻勢に出て、中国との国境の検問所も含めて、支配地域をかなり拡大していた。

カレンニー(現地語で「赤いカレン族」の意)の反軍勢力は現在、あえて幹線道路には出ず、その代わりデモソとシャン州のモービーを結ぶ道路など、一般道の多くを掌握している。

「つまり今の反軍勢力には、これらの道路の通行をいつでも遮断できる能力があり、国軍側にはその能力がないということだ」とホージーは指摘した。こうした力関係の逆転は全国各地で見られるという。

カヤー州内の解放区には今、タータキンのような反体制派が身を寄せている。また戦闘で住む家を追われた民間人が生活を再建する場ともなっている。

キリスト教徒で20歳の女性エリザベス(ミャンマーの人は一般に姓を持たず名前だけを名乗る)は昨年、激戦地のデモソ郡東部から西部へ逃げてきた。

学業は断念せざるを得なかったが、今は大量の避難民の需要を満たす市場にできた新しい衣料品店で働いている。
「私の村には仕事がなかった」とエリザベスは言う。

「クーデターの前も村で働いていたけれど、小遣い程度の稼ぎにしかならなかった。でも今はまともな給料をもらえている。だから家族も養える」(中略)

住民が支援する抵抗運動
しかし今のデモソには強いコミュニティー精神がある。 (市場で屋台の床屋を営む)ゾースウェイは隣の飲料問屋のオーナーから土地を借りているが、地代は余裕のあるときに払えばいいと言われている。

利益をため込まず、収益を反軍闘争に寄付している店も多い。評論家のタータキンは貸本屋とギターの販売店を営んでいるが、生活費として必要な金しか手元に残さず、残りは抵抗組織に寄付している。

貸本屋を始めたのは、もっと崇高な使命感からだ。
「ここの若者はみんな銃を持っていて、戦うことしか考えていないが」とタータキンは言う。 「人が地に足を着けて生きるには信仰と芸術も必要だと思う」(中略)

(息子を国軍に連れ去られ州都ロイコーから逃げてきた)アーシャは今、ロイコーに比べたらデモソのほうが安全だと思っているが、それでも故郷は恋しい。

「ここだって完全に安全じゃない。空爆もあるしね」と彼女は言った。「安全が保証されるなら、すぐにでもロイコーへ帰りたいよ」

それでも避難先のデモソで生計を立てられる人は恵まれている。新しいビジネスを始めるためのスキルや資本を持たない人にとっては、ここでの生活も厳しい。

状況が一変する可能性も
(中略)KNDFのマルウィ副司令官によると、国軍は州都ロイコー防衛のためにデモソやメーセから兵を引いた。
おかげで今は、こうした地域が反軍勢力の支配下にある。(中略)

今や反軍政の火の手は国内各地で上がっているから、国軍としても全てには対応できず、戦略的な要衝に戦力を集中せざるを得ない。 国際危機センターのホージーによれば、例えばロイコーだ。

州都であり、近くには重要な水力発電所があるし、首都ネピドーからも遠くない。一方、タイと国境を接する山間の町メーセなどの優先順位は低い。

ではデモソの町はどうか?
「デモソの状況は微妙で、どちらへ転んでもおかしくない。今のところは無事だが、ひとたび国軍がロイコーの制圧に成功すれば、次はデモソへ攻め込むかもしれない」とホージーは言う。

だから油断は禁物。 「全てが不安定だ。今の解放区も、いつ取り返されるか分からない」【3月18日 Newsweek】
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カヤー州には行ったことがありませんが、首長族が暮らす地域。タイ北部には、長年の政情不安をうけて脱出した首長族の観光村(欧米人権団体は「人間動物園」と批判)があって、そうした場所には行ったことがあります。 そのあたりの話はまた別機会に。
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イギリス  多様性重視の社会 増加する移民で社会に軋轢も 移民労働に頼る介護 「奴隷労働」実態も

2024-03-17 23:23:24 | 欧州情勢

(【22年10月24日 東京】 女性のトラス前首相(右)の後任にインド系移民2世のスナク氏)

【多様性の社会 英国内の首相職が全て非白人男性】
イギリスは“英国の人口の14%が外国生まれで、ロンドンに至っては人口の35%を占めている”【後出「英国の移民の歴史」】という数字に見られる状況をうけて、多様性が重視される社会でもあります。(“差別がない”という話ではありませんが)

昨年のチャールズ国王の戴冠式でも「多様性」がキーワードにもなりました。

****英国王が戴冠式、70年ぶり 多様性を重視****
英国のチャールズ国王の戴冠式が6日、ロンドンのウェストミンスター寺院で開かれた。各国の首脳や王族らが出席して新時代の幕開けを祝った。女性聖職者やキリスト教以外の宗教代表が進行に携わり、多様性を重視した。(後略)【2023年5月6日 日経】
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更には、インド系のスナク首相の他、下記のようなことにも。

****ウェールズで初の黒人首相就任へ 英トップ、白人男性がゼロに****
英西部ウェールズ自治政府の次期首相に、黒人として初めてボーン・ゲシング氏(50)が就任することが16日決まった。英メディアによると、中央政府のスナク首相はインド系、自治政府の首相はスコットランドがパキスタン系、北アイルランドは女性で、英国内の首相職が全て非白人男性となる。

自治政府の首相就任が決まったことを受け、ゲシング氏は自身が欧州の中でも初めて黒人として政府機関のトップになると語り「私たちは今日、歴史のページをめくる」と力を込めた。

ゲシング氏は父親がウェールズ出身で、母親がザンビア人。1974年にザンビアで生まれ、幼い頃に英国に移り住んだ。【3月17日 共同】
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ちなみに、ロンドン市長のカーン氏も名前からわかるようにパキスタン系イスラム教徒です。

【戦後、英連邦諸国からの移民急増】
イギリスへの移民が増加したのは第2次大戦後で、英連邦諸国に住む人々は自由に英国へ移住し、働くことができたという事情が大きく影響しているとのことです。

****英国の移民の歴史****
2021年01月18日 ロンドンに着いて一番に感じたのが、街行く人の人種の多様性だった。特にホテルのスタッフやスーパーの店員など、日ごろ接する人はいわゆる英国人であることの方が少ない。地下鉄の中で聞こえてくるのも英語以外の会話であることが多い。

調べてみると、英国の人口の14%が外国生まれで、ロンドンに至っては人口の35%を占めているという(日本の総人口に占める外国人の割合は2020年1月現在2.3%)。なぜロンドンがこんなに多様性に富む都市となったのかが気になり、英国の移民の歴史について調べてみた。 

英国への移民の数が増加したのは、第二次世界大戦後のことである。それまでにも、アジアやカリブなど植民地からの移民や、奴隷貿易によるアフリカからの移民、また、産業革命と工業化によって多くの工場労働者の雇用が生まれたことによるヨーロッパ内を含む各地からの英国への移民、難民として英国へ入国してくる人もいたが、英国の人口における英国外出身者は3%未満と、割合としてはさほど大きくはなかった。

第二次世界大戦後、移民の数は急激に増加した。英国の旧植民地である英連邦諸国に住む人には1948年の国籍法によって英国の市民権が与えられたため、英連邦諸国に住む人々は自由に英国へ移住し、働くことができた。

一方英国側では、戦後の復興やNHS(国営医療サービス)の創設、公共交通機関の整備などのため労働力不足を補いたい英国国内の需要が高まっており、それを補う形で、アフリカ、アジア、カリブなどから多くの移民が流入した。

特に、NHS(医師など)や公共交通機関(駅員や運転手など)へは英語が堪能なアフリカ、カリブからの移民が、工場労働へはインドやパキスタンなど南アジアからの移民が従事した。また、アイルランドからの移民や、東欧諸国からの難民が英国へやってくるなど、多様な移民が流入してきた。

その一方で、移民としてやってきた人々は、白人の賃貸住宅や公営住宅を借りることが困難であったほか、賃金の低い英国人に魅力のない労働条件で雇用されることが多く、景気が悪化すると真っ先に解雇された。これらの差別的な扱いもあり、移民と白人の間で社会的な摩擦が生まれていた。

その中で起こったのが1958年のノッティンガム・ノッティングヒル暴動である。この頃、白人の若者が移民を襲撃するという事件がしばしば起こっていた。ノッティンガムでは小さな衝突がきっかけとなり、数千人を巻き込む暴動となった。

ほぼ同時にロンドンのノッティングヒルでも大暴動が起こった。人種差別的な言葉を叫びながら移民の家に石や火炎瓶を投げつけたり、移民を無差別に襲うなどし、それに対して移民たちも反撃した。

この暴動を契機として、移民の数を制限する必要があると判断した政府は、1962年に英連邦移民法を制定した。これにより、英連邦諸国からの移民へ入国審査を課し、労働許可証が無ければ英国内で働くことができなくなった。

その後、1971年の英連邦移民法改正では、英国に自由に入国、定住できる権利について、自身又は親、または祖父母が英国で生まれた場合等に限った血統主義的基準を設け、さらに移民の数を制限した。しかしその後も、アフリカで暮らしていたアジア系難民やシリア難民などが流入していった。

1997年から政権を取った労働党は、経済成長に伴う熟練労働者の必要性と難民の増加に対応する形で、労働のための移民ルートを拡大した。また、2004年に東欧諸国など10か国がEUに加入すると、これらの国から自由に入国し働くことができるようになった。これらの政策によって、移民の数がさらに増加することになった。

EU外からEU内の国へやってきてEU市民権を獲得した人を含め、EU市民であれば本人が選択さえすれば英国内に居住し、働くことができるため、英国政府が移民の数を調整することはできなかった。このことは、ブレグジットを推し進める要因の一つともなった。

ブレグジット後には、EU市民はEU外からの移民と同様のルールが適用されることになり、審査を受けることが必要となる。そのため、ブレグジットの是非を問う国民投票で賛成多数となった2016年以降、ブレグジット後の状況が不透明であったことなどから、EU内からの移民の数は急激に減少している。

不法移民も大きな問題となっている。正確な数字はわかっていないが、40万人から100万人もの不法移民がいるのではないかと言われている。多くは英仏海峡トンネルやスペインからの船に乗ってやってくるが、海峡をモーター付きボートで渡ってくる者もいる。2019年10月には、不法に入国しようとしていたベトナム人39名がトラックの荷台で遺体で見つかるという痛ましい事故も起きている。

ブレグジット後の移民制度は技能などに基づくポイント制となった。対象となる職種での仕事のオファーがあること、英語能力、収入の要件を満たし、その他の要件でポイントを稼ぐ必要がある。また、既に英国内で居住、就労しているEU市民に関しては、定住資格の申請を行えば、職を失っても英国内に住み続けることができる。

英国に入国できる熟練技能者数の上限が無くなるなど基準が緩和される一方で、非熟練労働者の流入を制限するシステムとなっており、介護人材などが不足するのではという懸念も出ている。

英国連邦諸国とEUからの移民という、入国や就労への制限のない移民ルートが存在していたことが特徴的な一方で、必要な労働力を移民の低賃金労働で賄っている現状にも関わらず、そこへ移民へ反対する意見が出てきてしまう状況には日本との共通点を感じた。

ブレグジット後の移民制度についても、これから実際に運用されてわかった課題が指摘され始めるだろう。引続き注視しながら、その他の英国の多様性を取り巻く環境についても調べていきたい。【2021年01月18日 Japan Local Government Centre】
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【増加する移民で軋轢も ガザ情勢で険悪な状況も 首相、危機感表明】
一方で、増加する移民に対する反感も募っています。

近年では、上記記事にもあるように増加する移民への反感がブレグジットの引き金にもなり、また、その後も移民増加は止まず、3月12日ブログ“欧州  伸張する極右・右派ポピュリズム 欧州議会選挙でも台頭予測 EU政策変質の可能性”でも取り上げたように、そうした移民への反感を背景にしたスナク政権の移民・難民のルワンダへの移送計画が政治問題にもなっています。

また、パレスチナ・ガザ地区の窮状をめぐってイスラム系市民の抗議、それに反発する極右過激派といった状況でヘイトスピーチや犯罪行為が増加し、スナク首相が危機感を表明しています。

****英国の多様な民族の民主主義が危機に、首相が厳格な対応要請****
スナク英首相は1日、首相官邸前でスピーチし、多様な民族から成る英国の民主主義がイスラム教や極右の過激派による計画的な攻撃にさらされていると述べ、ヘイトスピーチや犯罪行為の増加を踏まえて、抗議行動に対してより厳しい態度で臨むよう警察当局に求めた。

スナク氏は「世界で最も成功を収めた多民族・多宗教の民主主義を構築したという偉大な成果が計画的な攻撃を受けていることに強い懸念を抱いている」と発言。深刻な混乱と犯罪行為が衝撃的な増加を見せていると危機感を示した。

国民には、抗議を行い、ガザ市民の生活を守るよう求める権利があるが、それを口実に、過激組織であるハマスへの支持を正当化することはできないと強調。警察に対して、こうした抗議行動については単に活動を抑制するのではなく、取り締まりを行うよう要請した。

英国ではイスラム過激派ハマスと戦闘状態にあるイスラエルへの支持を表明した一部の議員が脅迫を受けたことから、議員に対して今週、セキュリティー対策用に新たな資金が支給された。【3月4日 ロイター】
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【移民労働に頼る介護 横行する不正、「奴隷労働」】
そうした移民をめぐるせめぎあいの一方で、介護など、移民の労働力を必要としている実態があり、そこでは不当な差別が横行している日本と似たような状況も。

****移民が頼りの英介護業界、新規受け入れ削減で人手確保に懸念****
低賃金、人手不足、力仕事──。英国の介護施設が人員確保に手を焼いているのは無理もないだろう。

そして、介護業界の幹部らは人手不足の問題が今後さらに深刻化する可能性があると口をそろえる。移民労働者が英国内の医療・介護関連職に就くビザ(査証)で入国する場合は家族も帯同することができる制度について、スナク英首相が停止する計画を発表したためだ。

移民労働者への依存度が非常に高い介護業界で懸念される影響に対処すべく、英政府は1月、より多くの国民を介護職に誘引する政策を提示した。(中略)

◎英国の外国人介護従事者はどれくらいか
スキルズ・フォー・ケアの2023年のデータによれば、介護人材の約19%が外国人で、ほとんどがナイジェリアやインド、ルーマニア、ポーランド、フィリピン、ジンバブエの出身だという。

英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)や新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)を経て介護セクターに生じた16万件以上の欠員を埋めるべく、政府が2022年に外国人労働者向けの新たなビザルートを導入後、介護人材の労働需要は強まった。

2023年9月までの1年間で発給された医療・介護従事者に対する技術能力者ビザは、前年の6万1274件から14万4000件に急増。移民関連の公式統計によれば、他のどのセクターよりも大きな伸びだった。

賃金の低さは、英国に比べ平均給与がはるかに低い国からの移民労働者に介護セクターが大きく依存している要因の一つだ。

英国で勤務する外国人介護士は、年に最低2万0960ポンドを稼ぐ。同国の高い生活コストを考えれば安いが、ジンバブエの教師が得る給料の10倍以上にあたる。

◎なぜ介護業界が懸念しているのか
2024年に総選挙を控える英国で、移民政策は大きな争点だ。クレバリー内相は2023年12月、医療・介護ビザなど合法的なルートで英国に流入する移民の数を大幅に減らす計画を発表した。

外国人の医療・介護従事者を巡りクレバリー氏は、他の技術能力者ビザ保持者を対象とした最低給与水準の引き上げ措置の対象にしないとした一方、家族の帯同禁止や、医療サービスの利用にかかる移民医療付加金(IHS)の66%上乗せなどを盛り込んだ抑制策について説明した。

介護事業者は、労働者らが家族を帯同できないなどの理由から英国に向かわず、オーストラリアや米国、中東、カナダなど、介護人材を必要とする他の国や地域を目指す可能性もあると懸念する。

「私たちが障壁を設けるたびに、人々が働きに来る国としての魅力は失われていく」と英国内の非営利介護事業者を代表するナショナル・ケア・フォーラム(NCF)幹部のビック・レイナ―氏は言う。

世界保健機関(WHO)によれば、60歳以上の人口は2050年までに21億人に到達するという。世界的な高齢化は「かつて無いペース」で進んでおり、医療・介護人材の需要も世界中で急増するだろう。

スキルズ・フォー・ケアは2023年の報告書で、英国の高齢化が進むにつれ、新たに44万件の介護士の雇用が発生すると推測している。

「移民の労働人材なしでは、こうした求人を埋められない可能性が高いだろう」とNCFのレイナ―氏は述べた。【2月4日 ロイター】
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****英介護ビジネス「無法状態」、外国人労働者の搾取横行****
インドの会社で管理職をしていた2児の母親マヤさんは、英国で介護士として働ける機会があると聞き、海外で経験を積み、送金もできると飛びついた。ところが、実際の職場で彼女も同僚も奴隷のような扱いを受け、今は多額の借金を背負っている。

英国は新型コロナウイルスの流行と欧州連合(EU)離脱後に介護職で生じた16万5000人の人手不足を補うために、2022年初めに新たなビザ(査証)ルートを創設。制度導入後、マヤさんのように英国で介護士として働くことを希望する外国人出稼ぎ労働者約14万人がビザを取得し、主にインド、ジンバブエ、ナイジェリアからやってきた。

しかし、制度が導入されてから搾取の報告が急増。介護業界は「無法状態だった開拓時代の米西部そのもの」と指摘する専門家もいるほどだ。

マヤさんや他の外国人出稼ぎ介護士によると、イングランド北部の介護サービス会社で仕事に就くためにインドの仲介業者に数千ポンドを支払ったが、わずかな賃金で長時間労働を強いられた。解雇されれば在留資格を失い、強制送還される恐れがあるため、不満を口にすることはできなかったという。

「インドに戻ることも考えたけれど、これほどの借金を抱えて生きていくことはできない。私たちは追い詰められている」とマヤさん。渡英のために自宅を担保に銀行から融資を受け、親戚からも借金をしている。

介護事業者団体ホームケア協会のジェーン・タウンソン最高経営責任者(CEO)は、倫理観を欠いた事業者に強い懸念を抱いていると述べた。出稼ぎ介護士が多額の詐欺に遭ったり、「ゴキブリがはびこるような粗末な住宅」に住まわされたりしたという事例があるという。

英国で仕事があると言われたのに到着したら仕事がなかった、雇用主が倒産した、契約が解除されたケースもある。

<現代の奴隷制度>
強制労働などを取り締まる英政府の部局は昨年、介護事業者に対して44件の調査を実施したと発表した。これは前年の2倍。20年はわずか1件だった。

慈善団体アンシーンの推計によると、電話やインターネットによる相談窓口に昨年寄せられた相談から、介護セクターにおける強制労働の被害者は少なくとも800人に上り、21年の63人から大幅に増加した。

公共サービス労組ユニゾンは、多くの介護士が強制送還を恐れて虐待を報告しなかったり、どこに助けを求めればいいのかわからなかったりするため、実際の数字はもっと多いはずだとみている。ユニゾンのガビン・エドワーズ氏は、介護セクターにおける深刻な資金不足と利益優先体質により事態は悪化の一途をたどっていると指摘した。

<高額な手数料>
マヤさんは22年4月にインド南部の都市コチのリシン・スタンリーというインド人仲介業者に身元保証人探しを依頼。その際に計1万ポンド(1万2810ドル)余りの支払いを求められた。英国に到着後、保証料は雇用主の負担だと知りショックを受けた。

外国人を雇用する企業は、許可証や保証証明書などについて労働者1人当たり最大5000ポンドを負担するが、こうした費用を被雇用者に転嫁することはできない。(中略)

<低い報酬、厳しい労働>
自治体に職員を派遣しているイース・ヘルスケアは、高齢者や障害者、病人を自宅で介助する家庭介護員としてマヤさんたちを派遣した。求人資料には週39時間労働で年俸は2万0480ポンドと記されていたが、これは22年の外国人出稼ぎ介護士の最低賃金だ。

証言によると、朝7時から夜遅くまで働き、寝る時間はほとんどなかった。また在宅介護ではよくあることだが、報酬は実際に行ったサービスに対してのみ支払われるため、労働時間は週39時間には満たなかった。ただ常時働いているわけではないとはいえ、いつでも仕事に入れる態勢でいる必要があった。

出稼ぎ介護士はアプリで勤務時間を管理されたが、しばしば記録が改ざんされ、全ての勤務に対して賃金が支払われるわけではなかったという。(中略)

<内部告発を恐れて>
トムソン・ロイター財団がマヤさんやディーパさん、他の3人の介護士に初めて取材したのは23年半ば。しかしマヤさんらは新しい保証人を見つけるまで報道を控えるよう求めていた。

専門家によると、出稼ぎの介護士はビザや雇用、仕事の紹介を保証人に頼っているため、内部告発は難しい。

マヤさんは今、別の都市にある介護施設に就職したが、2万6000ポンドの借金を返済するために最長で週72時間働いている。

「英国に来れば素敵な生活ができると思っていたのに、ただ生き延びるために何度も借金をしなければならなかった。こんなに大変だと前もって知っていたら、絶対に来なかった」と、悔しさをにじませた。【3月12日 ロイター】
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タイ  不敬罪改正を掲げ若者に支持される第1党「前進党」,解党の危機 背景に上院改革も

2024-03-16 22:31:37 | 東南アジア

(バンコクで、選挙公約が違憲との判決が出た後に記者会見する前進党のピター氏(中央左、1月31日)=ロイター。中央右はチャイタワット氏【3月16日 読売】)

【「タクシン氏は保守層側の人間になった」 タクシン派は親軍勢力との協力で長期政権を目指す】
タイでは、タクシン元首相支持政党のタイ貢献党(総選挙では、王室改革を掲げる前進党に次いで第2党 タクシン氏の次女が党首)が仇敵であった親軍勢力との大連立によって政権に復権、それに合わせて(というか、おそらく大連立の条件として事前の調整が行われていたと推測されますが)軍部によって政権を追われて海外亡命中だったタクシン元首相が帰国。

タクシン元首相は形式的には服役するものの、国王恩赦で刑期は1年に短縮され、しかも病気を理由に刑務所ではなく病院で療養、結局今年2月には仮釈放となりました。(このあたりは貢献党と親軍勢力の「合意」が背景にあってのことでしょう)

****タイのタクシン元首相、高齢と病気理由に刑期の半分で仮釈放…野党「不透明な点が多い」****
首相在任中の汚職で実刑を言い渡され、警察病院に入院していたタイのタクシン・シナワット元首相(74)が18日、仮釈放された。

タクシン氏は同日午前6時頃、次女でタクシン派政党「タイ貢献党」党首のペートンタン・シナワット氏に付き添われ、バンコク市内の病院から車で自宅に戻った。首にはコルセットが巻かれ、腕は三角巾でつられていた。

タイ法務省はタクシン氏が高齢で病気を抱え、刑期の半分を経過したことから仮釈放の条件を満たしたと判断した。

タクシン氏は、連立政権を主導する貢献党の実質的なオーナーを務め、今後の政治関与に関心が集まる。貢献党のセター首相は18日、仮釈放を「喜ばしいこと」と歓迎し、近くタクシン氏と面会する意向を示した。

最大野党「前進党」は「仮釈放決定には不透明な点が多く、現政権下で平等に法が執行されているか疑問だ」と反発している。

タクシン氏は2001年に首相に就任したが、06年の軍事クーデターで失脚し、国外に逃れていた。昨年8月、貢献党主導の連立政権発足が確定すると、15年ぶりに帰国した。裁判所で8年の刑期を言い渡され、刑務所に移送されたが、胸の痛みなどを訴え警察病院に移された。その後、ワチラロンコン国王の恩赦で刑期が1年に減刑した。【2月18日 読売】
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14日には地元チェンマイを訪問して支持者の歓迎をうけています。

****タクシン元首相、17年ぶり帰郷 北部チェンマイ、支援者の前に*****
タイ政界の実力者、タクシン元首相(74)が14日、出身地の北部チェンマイを訪問した。汚職罪などで実刑となった後、高齢や健康状態悪化を理由に約1カ月前に仮釈放されたばかりで、支援者を前に健在ぶりを見せた。

昨年8月に約15年ぶりに帰国後、地元入りは初めて。現地メディアによると、首相の座を追われるクーデターが起きた2006年以来。

タクシン氏はサングラス姿で首にサポーターを装着。仮釈放直後に使っていた車椅子や腕のサポーターはなく、支援者に徒歩で近づいた。

タクシン氏は08年から国外逃亡を続け、自派の「タイ貢献党」主導の連立政権発足が固まった昨年8月に帰国した。【3月14日 共同】
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タイ貢献党と親軍勢力の「大連立」、それに伴うタクシン元首相への「寛大」な扱いは、かつて激しく対立してタイ政治の不安定要素となっていた「選挙に強いタクシン派」と「国王を頂点とする秩序維持を目指す軍部・王室支持勢力」という二大勢力の蜜月ぶりを示しています。

タクシン派は軍部と協力して長期政権を目指しているとの指摘も。

****保守層と和解で早期仮釈放=タクシン派政権長期化狙う―タイ****
タイのタクシン元首相が帰国後に実刑判決を受けながら半年で自由の身となった背景には、長年対立してきた保守層との和解がある。今後は自身が実質的なオーナーのタイ貢献党が主導する政権の長期化を狙う。
タクシン氏は、自身の政党が農村の住民や都市の貧困層からの支持を得て2001年と05年の総選挙で勝利し、首相を務めた。しかし、利益誘導型の政策や強権的な政治手法が批判を招き、反タクシン派との対立が深刻化して06年のクーデターに発展した。

タクシン派は選挙に強く、11年にはタクシン氏の妹インラック氏が率いる政権が発足した。ただ王室や軍を支持する保守層が中心の反タクシン派との対立は続き、14年にも再びクーデターが起きた。

こうした対立の構図は、昨年5月の総選挙で変化する。王室や軍改革を公約に掲げた前進党が第1党となり、貢献党は第2党となった。

選挙直前には、海外逃亡中のタクシン氏が帰国して早期に自由の身となる見返りに、保守層が支持する親軍政党と手を組み連立政権を発足させるという「密約説」が流れた。

密約説通り、昨年9月に貢献党のセター氏が首相の連立政権が発足し、タクシン氏は恩赦を経て今回仮釈放された。外交筋は「タクシン氏は保守層側の人間になった」と指摘している。【2月18日 時事エクイティ】 
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【タクシン政権を「国会独裁」と批判していたエリート層の独特の民主主義観】
従前の政治では枠外にあった地方農民や都市貧困層を対象に(バラマキとも批判される)施策を行って選挙のたびに圧勝したタクシン氏の政治には、国王を頂点とする秩序維持を目指す軍部・王室支持勢力が激しく反発していました。

その背景には、農民・貧困層の圧倒的支持で政権を握るタクシン政治を「国会独裁」と批判するタイ知識人・エリート層の「タイ民主主義」に関する独自の考え方があるように見えます。

****タイ知識人たちの言い分と抵抗***** 
(中略)現在の選挙、政党、憲法裁判所などをはじめとする司法機関などの政治制度は、1997年憲法により登場しました。そのもとになった1990年代の政治改革運動を主導した公法学者アモーン・チャンタラソムブーンは、「国会独裁」という用語を使用して議会制民主主義を批判しました。

「国会独裁」とは、執政権(内閣)と立法権(国会)の両方を多数派政党が掌握することを批判した言葉です。

議会制民主主義においては当然のことですが、タイでは軍部や知識人たちが、多数派政党による「独裁」を批判してきました。

アモーンは、初期の議院内閣制は二元的統治であり、国王が任命した内閣と、国民が選んだ国会の2つの権力により構成されていたと述べています。

相互の間で一種のチェック&バランスが存在していましたが、国王の権限が制限されたことにより、国会の多数派が政府を樹立する一元統治となったと指摘しています。これをアモーンは「独裁」として批判したのです。
 
(中略)民主主義を基礎固めしようという1990年代に、タイ知識人が問題にしたのは「多数派による独裁」です。また憲法起草の議論では、数では「マイノリティ」であるエリート層の声も政治に反映されるべきであるとの議論もなされました。

通常は「マイノリティ」とは弱者を指しますが、タイにおける民主主義をめぐる議論では、エリート層をマイノリティと位置付けて、いかに公平にエリートの声を政治に反映させるかという点が真剣に論じられてきました。

2014年クーデタ前には、反タックシン派グループからは、下院にも任命制議員を導入するように提案がなされます。タイのエリート層の間では、数に基づく民主主義は「独裁」として解釈されたのです。【2月21日 シノドス 外山文子氏「民主主義がうまくいかない理由――タイ政治では何が起きているのか?」】
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【既存秩序を揺るがしかねないアウトサイダー「前進党」への警戒感 「前進党」は解党命令の危機】
しかし、不敬罪改正など王室改革を掲げ、既存秩序を揺るがしかねない「前進党」の登場に危機感を持った軍部・王室支持勢力・エリート層は仇敵タクシン派と手を組んで秩序維持を目指している・・・といったところでしょうか。

ちなみに、在任中の職務怠慢で2022年に国家汚職防止委員会から告発されていたタクシン氏の妹インラック元首相についても、タイの最高裁判所は3月4日、国家汚職防止委員会の訴えを退けています。

一方で、改革を掲げる「前進党」(若者らの支持を背景に総選挙では第1党)への圧力が強まり、政権獲得を阻まれただけでなく、解党命令の瀬戸際に立たされています。

****タイ第1党「前進党」が解党危機、抗議デモ広がる可能性…「不敬罪」巡り親軍派が圧力か****
タイで昨年行われた下院選で第1党に躍進した「前進党」が解党の危機に直面している。野党排除の動きには王室に近い親軍派の意向が働いているとみられており、若者を中心とした前進党支持者に反発が広がるのは確実だ。

選挙管理委員会は12日、憲法裁判所に前進党の解党命令を出すよう求めることを決めた。数か月以内に解党を命じられる公算が大きい。選管は「前進党が国王を元首とする国家を転覆させる行為を進めていた証拠がある」としている。

前進党は下院選の選挙公約で、王室への侮辱を罰する「不敬罪」を定めた刑法改正を掲げた。憲法裁は1月、公約を掲げたことを違憲とする判決を出した。これを受け、親軍派の元上院議員らが2月に選管に同党の解党請求を申し立てた。憲法裁の判事は軍政下で選出され、軍の強い影響下にある。

解党が命じられれば、所属議員は失職し、幹部の公民権が10年間停止される。同党のチャイタワット・トゥラソン党首は13日、「政党を解党しても政治的不一致が解決することはなく、対立を激化させるだけだ」と述べた。

昨年のタイ下院選(定数500)で、前進党は151議席を得た。野党陣営は前進党のピター・リムジャラーンラット党首(当時)を首相候補としたが、軍政が全議員を事実上任命している上院の支持を得られなかった。その後、親軍政党などが第2党と連携し、セター・タウィシン氏が首相に就任した。

親軍派が前進党への圧力を強めているのは、制度改正で夏以降に選出される上院議員が首相指名に参加出来なくなり、下院議員の投票だけで首相が選出されるようになるためだ。外交筋は「前進党が選挙で再び躍進する芽を摘みたいという親軍派の考えが働いている」と分析している。

2020年に前進党の前身の新未来党が解党された際には、反発した大学生らが各地でデモを行った。今後、同様の動きが広がる可能性がある。【3月16日 読売】
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前進党の報道官は「国王を国家元首とする民主主義体制を転覆させるつもりはない。憲法裁で潔白を証明する」と主張していますが、認められず解党へ・・・という事態が懸念されます。

【「前進党解党」の動きの背景にある上院改革】
注目されるのは、こうした動きの背景にある“制度改正で夏以降に選出される上院議員が首相指名に参加出来なくなり、下院議員の投票だけで首相が選出されるようになる”という上院の制度改革です。

****上院議員の選出規則を制定****
タイの上院議員(定数250)の選出規則が2月15日の官報に掲載された。

現在の上院議員は国家平和秩序協議会(NCPO)によって任命されており、2024年5月11日までが任期となっている。

新たに選挙管理委員会(EC)が制定した上院議員選出規則によると、今後の定数は200となる。また、多様性を重んじて、行政や教育、公衆衛生などの従事者や女性のほか、少数民族などの代表者も含む20の分野(注)からそれぞれ10人が選出される。

選挙は郡、県、国の3段階で実施され、各段階で候補者が互いに投票する形式を採用する。

まず、各郡で候補者を募り、候補者の中で互いに投票して、各分野の上位3人を選出する(候補者以外の一般人は投票できない。県、国段階でも同様)。各県では、各郡から選出された候補者が互いに投票し、各分野の上位2人を選出する。最後に、各県で選出された候補者が互いに投票し、各分野の上位10人を選出することで定数の200人を選出することになる。(後略)

(注)20の分野は(1)行政(国家公務員)、(2)司法・公安(裁判官・警察官など)、(3)教育(教師・研究者など)、(4)公衆衛生(医師・看護師など)、(5)農業従事者、(6)林業、漁業、畜産業従事者、(7)民間企業の従業員、(8)環境、都市計画の専門家、(9)中小企業の従事者、(10)(9)に分類されない企業の従事者、(11)観光・ホスピタリティー分野の起業家、(12)工業の専門家、(13)科学、技術、ITの専門家、(14)女性、(15)高齢者、障害者、少数民族などの代表者、(16)芸術、文化、スポーツ、(17)市民団体、慈善団体、(18)マスコミ、(19)フリーランス、(20)その他(上記以外の分野で専門性のある者)【2月29日 JETRO】
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これまでの上院は実質的に軍部によって任命されており、先の組閣にあたっても軍部の意向を受ける上院の存在が、総選挙の結果がストレートには政権獲得には結びつかない「壁」となっていました。軍部にとっては体制維持のための防護壁ともなっていました。

その重要な「体制維持の防護壁」をどのような経緯・背景で軍部が手放すことになったのかは知りません。情報があれば、また別機会に。

この上院改革によって、選出方法の改正だけでなく、“下院議員の投票だけで首相が選出されるようになる”ということにもなるようです。

そういう改正を見据えて、アウトサイダーの前進党の芽を今のうちに摘んでおこう・・・という「前進党解党」へ向けた動きです。可能性だけで言えば、「前進党」が存続すれば、下院第2党「タイ貢献党」は下院第1党「前進党」と連立することで親軍勢力を排除した政権を樹立することも可能になりますので、そのあたりを警戒した動きでしょうか。
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ロシア  プーチン圧勝のシナリオに沿った大統領選挙投票始まる

2024-03-15 23:26:59 | ロシア
(【3月15日 TBS NEWS DIG】 選挙は、政権が考える「愛国的立場」を示すセレモニーか)

【反対派の立候補を阻止し圧勝確実、投票率と得票率をどこまで伸ばすかが焦点】
15日から3日間、ロシアで大統領選挙の投票が始まっていますが、反対派の立候補を阻止した形式的選挙で国民にい支持されていることを誇示するためのパフォーマンスに過ぎず、プーチン大統領の圧勝は確実です。

****ロシア大統領選15日から投票 プーチン氏の圧勝確実、焦点は得票率****
任期満了に伴うロシア大統領選(任期6年)の投票が15日、始まった。通算5選を目指す現職のプーチン大統領(71)の圧勝が確実視され、投票率と得票率をどこまで伸ばすかが焦点となる。投票期間はこれまでの1日から3日間に延長され、17日午後8時の投票締め切り後、速やかに開票される。

2022年2月からロシアがウクライナで「特別軍事作戦」を続ける中での異例の選挙となり、同9月に一方的に併合を宣言したウクライナ東・南部4州の占領地域でも投票を強行。支配の既成事実化を図る構えだ。

立候補者は無所属のプーチン氏のほか、共産党のハリトノフ下院議員(75)▽極右・自由民主党のスルツキー党首(56)▽政党「新しい人々」のダワンコフ下院副議長(40)――の3氏がいる。いずれも政権に異を唱えない「体制内野党」の候補だ。

選挙戦では、国民に負担を強いる特別軍事作戦の早期終結を提唱する声はあったものの、論戦の機会は乏しく、これまで以上に低調となった。大統領選の実施は民主政治を演出するのが主目的との見方が強い。

一方、特別軍事作戦の継続に反対するリベラル派のナデジディン元下院議員や女性ジャーナリストのドゥンツォワ氏も出馬を目指したが、ともに事務手続き上の不備を指摘される形で立候補を認められなかった。

2月中旬には反体制派指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏が北極圏の刑務所で獄中死を遂げたが、追悼の動きは限定的で、政権を揺るがすような大きなうねりとはなっていない。

プーチン氏の陣営は、得票率で過去最高だった前回18年の77%を上回る、8割以上を目指すとされる。高い投票率と得票率を記録することで、特別軍事作戦への支持を示す根拠としたい思惑もあるとみられる。

有権者はどのような思いで投票に臨むのか。モスクワ市民に話を聞いた。

55歳の女性は「物価も住居費も公共サービスも全て高い。飢えてはいないが何とかしてほしい」と訴える。
20歳の男子学生も「物価や医療費が高いので、賃金をもう少し上げる必要がある」と話した。
43歳の医療従事者の女性は「経済の発展を望む」と回答。
3人とも生活や経済面の課題を指摘したものの大きな不満はなく、プーチン氏を支持しているという。

プーチン氏以外に投票するという人にも話を聞いた。「意見を言うことを恐れなくてもよい、自由で民主的な国に暮らしたい」。50代の女性はこう打ち明けた。
18歳の女性も「誰もが普通に話せるようになってほしい」という。
24歳の男性は「何かを変える時だ」と言い切った。世論の大勢が長期政権による安定を望む一方、変化を求める声も存在している。【3月15日 毎日】
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【ソ連崩壊の混乱からロシアを回復させたプーチン・・・根強いプーチン支持】
反対派の立候補を阻止した形式的選挙ではありますが、プーチン大統領に対する支持・信頼が一定に存在することも事実でしょ。

特にソ連崩壊後の経済・社会混乱を経験した年齢層においては、混乱を収めて秩序を回復した指導者としてのプーチン氏への強い信頼があるというのは常に指摘されるところです。(プーチン政権下でのロシア経済の回復・成長はプーチン大統領の手腕というより、主力輸出品である石油価格の高値という好環境によるところが大きいという指摘もありますが)

****【プーチン登場前夜】氷点下20度の中で食べ物や家財道具を売って糊口をしのぐ老人たち 道端には息絶えた人々も ソ連崩壊後のロシアを襲った地獄の90年代****
(中略)
氷点下20度の真冬のモスクワで立ち並ぶ老人たち
 995年のモスクワの冬は、高校時代に地理の授業で習ったとおりの極寒の世界だった。10月ごろから気温が急激に下がり始め、12月にはマイナス20度ほどまで下がった。(中略)

しかし、それは多くの市民が現在のモスクワのように暖かい家やオフィスにいて、仕事や生活をしていることを意味してはいない。

「お兄さん、このブドウ買わないかい。〝氷菓子〟にはなっていないよ」 「黒パンはどうだい。安くしておくよ」 「キャベツならうちだって売っているよ。買っておくれ」

大学から最寄りのベラルースキー駅に向かう途中には常に、極寒のなか、何十メートルにもわたって立ち並び、道端で物を売る老人たちの姿があった。

風よけもなければ、椅子があるわけでもない。吹き曝しのなか、薄汚れた分厚いコートや帽子をかぶり、お世辞にもきれいとは言えない袋に入れてきた、いつ売れるかもわからない〝商品〟を両手に持って、道行く人々に声をかけていた。中には、家財道具や、どこから仕入れてきたのかまったく不明の家電のリモコンやコンセントなどを売る人もいた。

彼らがこのような〝商売〟をせざるを得ない理由は明白だ。年金がもらえないか、もらっても生活できるレベルではなかったためである。

ソ連時代は、曲がりなりにも食べることには困らない程度の年金が支給されていたが、ソ連が崩壊すると、その社会保障システムも大混乱に陥った。年金の支給は遅滞が続き、仮に支払われたとしても、急激なインフレでその価値は消えた。

最低限の生活を賄うこともできない年金額を前に、彼らは極寒の中でも、わずかな収入を求めて路上で物を売るほかなかった。【3月5日 WEDGE 黒川信雄著『空爆と制裁 元モスクワ特派員が見た戦時下のキーウとモスクワ』より】
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【ソ連崩壊当時の混乱を経験していない若者層には不満も そうした不満・批判をコントロールする政権】
しかし、こうしたプーチン大統領の神通力も、ソ連崩壊当時の混乱を経験していない若者層には必ずしも通用せず、長期政権、自由な発言ができない社会への批判・不満が存在します。

特にウクライナ侵攻後の“動員”は自分自身に直接降りかかる厄介ごとであり、反対や、国外脱出もありました。

プーチン大統領は、抗議行動を行うような者や国外脱出してまでも反対する不満分子は「裏切り者」としてむしろ国外に追い出して、残った者をコントロールする道を選択、動員に当たっては大都市若者層の不満が大きくならないように地方居住者や少数民族を中心に行いました。 それでも残る批判は力で抑えつける・・・。

****【戦時下のモスクワ】国外脱出でしぼむ若者の声 開戦4カ月で市内の反戦ムードが沈静化した理由 根強い中高年層の「戦争賛成、プーチン支持」の現実*****
(中略)
多くのロシア人の若者らにとって、国外脱出は決して容易な決断ではなかった。(中略)ウクライナ侵攻を受けた欧米諸国による経済制裁により、ロシアから海外に向かう国際便の数は激減した。(中略)

航空券の価格は高騰し、私財を投げうってチケットを手に入れても、突然の飛行キャンセルで出発できないケースもあった。脱出した人々に、高所得者や子供を持たない若者らが多いのは、これらの問題をクリアできる財力があったためだ。(中略)

私の知人にも、国外脱出を目指したものの「お金がない。どうしても出国できない」との理由で、やむなくロシアにとどまった人もいた。
 そのような人々は、本音を包み隠しながら、ロシア国内での生活を続けているのが実態だ。

さらに、脱出できたとしても、海外で長期間生活できる十分な財産を持っているとは限らず、職が見つからなければ、帰国を余儀なくされる可能性もある。

しかし、国外脱出者や、政権に批判的な行動をとる自国民に対し、プーチン大統領は極めて冷酷な対応をとった。侵攻開始から約3週間後の2022年3月16日には、プーチン大統領は政権幹部に対しこう語ってみせた。

「(西側は)当然、いわゆる第五列、つまり、裏切り者たちに期待をかけているのだろう」「ロシア人は、常に本当の愛国者と裏切り者を峻別することができる。そのような者たちは、口に偶然飛び込んできたコバエのように、吐き出してやればいい」(中略)「(裏切り者の海外脱出は)ごく自然なことであり、社会の浄化には必要なことだ。その結果として国家は強化され、人々はさらに団結し、あらゆる挑戦に対する準備が整えられるに違いない」

第五列とは、自国にいながら敵に通ずるとされる〝裏切り者〟のことを指す。プーチン大統領はここで明確に、たとえロシア国民であっても、欧米諸国に共鳴する者らは裏切り者だとし、徹底的に排除する姿勢を鮮明にした。(中略)

プーチン大統領は反体制派、また積極的な反政権活動をしていなくとも、国外脱出をしてまでロシアを離れようとする国民については、むしろ国外に退去してもらった方が、その後の国内を統制しやすいと考えていたと推察される。

もちろんこれは、海外でも仕事を得られるほど有能な自国民の頭脳流出が起きるという点で、ロシア経済には大きなマイナスであることは間違いない。ただ、中長期的な国内産業の発展と、目前の戦争勝利のための国内の引き締めのどちらを選ぶかで、プーチン大統領は間違いなく後者を選んでいた。こうして、戦争に疑問を持つ若者たちの声はさらに弱くなっていった。

地方の貧困地域に偏る動員 モスクワと最大100倍近い死亡率の差
戦争に反対するモスクワの若者らの思いは、厳しく抑圧されていた。しかし、開戦から約4カ月という短期間ですでに、市内の反戦ムードが沈静化した背景には、もうひとつの理由があった。それは、ウクライナの前線に送られる兵士らが、圧倒的に地方に偏っていたという現実だ。(中略)

若年層の、人口1万人あたりに占める戦死者の割合でいえば、(極東の)ブリヤート共和国は28.4人でロシア全土で首位となり、続いてブリヤート共和国の西にあり、テュルク系のチベット仏教徒が多いトゥバ共和国(27.7人)などとなった。上位のほとんどは、少数民族が多く住むロシアの地方が占めていた。

これに対し、首都モスクワの人口1万人あたりに占める戦死者の割合はわずか0.3人で、モスクワ州全体でも1.7人だった。ロシア第二の都市であるサンクトペテルブルクも1.4人で、モスクワとブリヤート共和国の死亡率は、実に100倍近い差がある。

ブチャに駐留していたロシア軍の兵士らも、ブリヤート共和国やチェチェン共和国から来ていたことがわかっている。バハというまだ20歳の若年兵士は、「ウクライナに来なければ、殺されていた」と語っていた。彼もその名前から、少数民族の出身だと推察される。メディアなどの目が届かない辺境の地で、無理な動員が行われている実態が浮かび上がる。

広大なロシアの国土の辺境にある地方都市は、経済的にも大都市の住民より困窮しており、当局による動員を避けることは容易ではない。さらに、これらの地方自治体には、中央政府から派遣された元官僚などがトップに座り、中央政府に忠誠心を見せることで昇進を狙う動きもあるとされ、動員が苛烈になるとの指摘もある。

いずれにせよ、地方の若者を取り巻く環境との〝差〟をつけることで、モスクワ市民の不満のガス抜きがなされている側面が否めない。(後略)【3月2日 WEDGE 黒川信雄著『空爆と制裁 元モスクワ特派員が見た戦時下のキーウとモスクワ』より】
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【批判勢力には容赦ない圧力も】
そして、若者層を中心に存在するプーチン批判が選挙で表面化しないように、最大の批判者ナワリヌイ氏を極寒の刑務所で獄中死に追いやり、特別軍事作戦の継続に反対するリベラル派のナデジディン元下院議員や女性ジャーナリストのドゥンツォワ氏は手続き上の不備という難くせをつけて選挙から排除・・・というのは周知のところです。

更に、リトアニア在住のナワリヌイ氏側近にもロシア当局の“長い手”が及んだ・・・とも。

****ナワリヌイ氏側近襲撃、ロシア特殊部隊が関与=リトアニア当局****
リトアニアの情報当局は14日、ロシア反政府活動家の故アレクセイ・ナワリヌイ氏の側近を長年務めたレオニード・ボルコフ氏が同国内で襲撃された事件で、ロシアの特殊部隊による犯行だったとの見方を示した。

ボルコフ氏は12日、リトアニアの首都ビリニュスで襲撃された。腕を骨折し、脚をハンマーで約15回殴られて負傷したという。

リトアニアの国家安全保障局のヤウニスキス局長は記者団に対し「ロシアの特殊部隊による犯行だと思われる」と述べ、「(リトアニアに拠点を置く)ロシアの反体制派の安全にわれわれはもっと注意を払う必要がある」と述べた。

「(ロシアの情報機関は)真剣にこの地域をターゲットにしており、行動を起こしている」との見方も示した。

北大西洋条約機構(NATO)に加盟するリトアニアは、ロシアやベラルーシの反体制派の拠点となっている。【3月15日 ロイター】
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ロシアの特殊部隊による犯行なのかどうかは証拠も示されてはいませんが、脚をハンマーで約15回殴られて負傷・・・「裏切り者」はどこにいようが許さないといった見せしめ的な犯行のようにも思えます。

出馬が排除されたナデジディン元下院議員の周辺にも圧力がかかっているようです。

****ロシア大統領選、侵攻反対の元議員陣営で身柄拘束相次ぐ*****
ロシア大統領選挙が15日に始まるのを前に、立候補が認められなかったウクライナ侵攻に反対するボリス・ナデジディン元下院議員の陣営で、選挙スタッフやボランティアが複数、身柄を拘束された。

少なくとも陣営のスタッフ1人が身体への攻撃を受けたと証言した。ナデジディン氏は数週間前に出馬は不可能だと認めたが、その後も同氏の陣営は活動を続けており、ナデジディン氏は選挙監視員の訓練と出口調査のための資金集めを行っている。

大統領選は既にプーチン氏の勝利が確実になっているが、地元メディアやナデジディン陣営の関係者によると、同氏の立候補が禁止された2月以降、これまでに関係者少なくとも17人が拘束された。ウラジオストクの選対事務所では13日午前に少なくとも3人のスタッフが拘束され、2人の居場所が分からなくなっている。【3月14日 ロイター】
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【選挙の正当性を誇示するための“あの手この手”】
批判勢力にそうした圧力をかける一方で、選挙の正当性を誇示するために投票率アップのためのあの手この手も。

****ロシア大統領選の投票始まる 上司に“投票報告”義務の会社も****
ロシア大統領選挙の投票が日本時間の15日朝から始まりました。

反体制派は「反プーチン」の民意を示すため、17日正午に一斉に投票所を訪れるよう呼び掛けています。

これに対して国営企業などを中心に、従業員は16日までに投票を済ますように圧力が掛けられているということです。

また、モスクワの住宅公社の従業員は15日に投票したことを上司に報告するように義務付けられていると独立系メディアが伝えています。

ブリャンスクの学校では、教師は投票していない保護者に対して16日までに電話で催促することが求められているということです。【3月15日 テレ朝news】
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“反体制派は「反プーチン」の民意を示すため、17日正午に一斉に投票所を訪れるよう呼び掛け”・・・ロシア検察庁がこうした運動に参加すれば処罰すると警告しています。

“プーチン政権は、今回から投票期間を3日間に増やしただけでなく、投票しやすいようにオンラインによる電子投票も導入しました。投票率をあげることで自らの票も上乗せするシナリオを描いているとみられます。”【日テレNEWS】

まあ、ロシアのような強権支配国家における検証しようもない電子投票となれば、最後はいかようにも数字はつくれる・・・というところも。「それを言っちゃあ、おしまいよ」ではありますが。
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アメリカ大統領選挙 世界が注目する「もしトラ」 「ほぼトラ」トランプ氏の弱点も

2024-03-14 23:26:49 | アメリカ

(3月9日、米ジョージア州で集会に参加するトランプ前大統領【3月11日 ロイター】 やはりこの人が戻ってくるのか・・・)

【「もしトラ」で動く国際情勢 ウクライナ パレスチナ 中国 イラン】
アメリカ大統領選挙でトランプ氏が復権しそうだ・・・もし、そうなると・・・という「もしトラ」、さらに最近では「ほぼトランプになりそうだ」という「ほぼトラ」といった言葉が広がっています。

「ほぼトラ」かどうかはともかく、「もしトラ」については、ウクライナ、パレスチナ、中国、イランなどが最大の関心をもって見守っているのは間違いなく、トランプ復権は世界の流れを大きく変えることになります。

ロシアに対し想定外の抵抗を続けてきたウクライナは、プーチン大統領を称賛するトランプ氏の復権で最大の支援国を失い、その命運は尽きるとも思われています。
“トランプ氏は長年にわたって折に触れてプーチン氏を称賛。2022年のウクライナ侵攻を決めた際には同氏を「天才」と表現した。”【2月19日 ロイター】

****「トランプ氏は一銭も出さず」=ウクライナ支援巡りハンガリー首相*****
ハンガリーのオルバン首相は10日、米国で8日に会談したトランプ前大統領について、「ロシアとウクライナの戦争に一銭も出すつもりはない。そうすれば戦争が終わる」との明確な考えを持っていると述べた。オルバン氏はこの考えに賛同し、11月の米大統領選でのトランプ氏勝利に強い期待を示した。

首相府が、ハンガリー公共放送のインタビューを公開した。オルバン氏は「トランプ氏には戦争を終わらせるための詳細な計画がある。これはハンガリーの国益と一致する」と主張。平和を実現できるのはトランプ氏だけだと称賛した。【3月12日 時事】 
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パレスチナに関しては、現在はハマス壊滅に突き進み、将来のパレスチナ国家も認めないイスラエル対し国際社会、アメリカが一定の歯止めをかける役割を担っていますが、イスラエル支持一辺倒のトランプ復権でそのブレーキもはずれることになります。「二国家共存」という青写真もなくなります。

****トランプ氏、イスラエル支持を明言 TVインタビューで****
ドナルド・トランプ前米大統領は5日、FOXニュースのインタビューで、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃に支持を表明した。米国に対し、同盟国イスラエルに抑制を促すよう求める圧力が国際社会で強まる中、トランプ氏としてはこれまでで最も明示的な発言となった。

トランプ氏は「イスラエル側か」と問われたのに対し、「イエス」と答えた。 イスラエルによるガザ攻撃に関する質問にも「問題を終わらせなければならない」と述べ、支持する姿勢を示した。(後略)【3月6日 AFP】
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アメリカの中東政策は、イスラエルとサウジアラビアの連携を基軸としたものになると思われます。そこには「パレスチナ国家」が存在する余地はありません。

中国に関しては、トランプ氏は60%の関税を課すとしています。

****トランプ氏、中国製品に60%超の関税も 大統領選勝利なら****
11月の米大統領選に向け共和党の候補指名獲得を目指すトランプ前大統領は、自身が本選で勝利すれば中国からの輸入品に再び関税を課すとし、税率は60%を超える可能性があると述べた。

4日放送されたFOXニュースのインタビューで、関税を課さなければならないと発言。60%の税率を検討しているとの報道について問われ、「いや、それ以上になるかもしれない」と語った。

トランプ氏は2018、19年に数千億ドル相当の中国製品に関税を課した。

バイデン政権は関税を維持し、安全保障上の懸念を理由に先端半導体や製造装置の輸出を禁止する新たな制限を導入した。米通商代表部(USTR)は関税に関する見直しを行っている。

トランプ氏は中国との間で再び貿易戦争を始めるのではないかとの見方を否定し、「貿易戦争ではない。中国とは何でもうまくやった」と主張。「中国にはうまくいってほしいと思っている。習近平国家主席のことはとても好きだ。私の任期中、とても良い友人だった」と語った。【2月5日 ロイター】
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中国が「もしトラ」をどのように考えているかは微妙。
もちろん60%の関税などは論外でしょうが、さりとてバイデン政権でもよりシステマティックな対中国戦略がジワジワと締め付けることになります。 60%関税などとは言っていますが、トランプ氏となら“取引”が可能という側面もあります。
中国が嫌うのはトランプ氏の予測困難なところでしょう。

英誌エコノミストの記事「中国はドナルド・トランプ氏の復帰をどれほど恐れているのか」によると
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「貿易と関税の観点からのみ判断すると、習氏はバイデン氏の勝利を支持している可能性が高い。バイデン政権はおそらく中国製電気自動車(EV)の輸入制限を拡大し、半導体、人工知能(AI)、量子コンピューティングなどの分野で米国の最先端技術の中国への流入をさらに妨げることになるだろう。しかし、トランプ政権と比べれば、不安定化する貿易ショックを引き起こす可能性ははるかに低い」とした。

他方、「米中関係には経済学以上のものが含まれており、ここで習氏の計算が違う方向に傾く可能性もある」と指摘。
【2月25日 レコードチャイナ】
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“経済学以上のもの”・・・トランプ復権によりNATO体制が揺らぎ、日韓とアメリカの関係にも波風が・・・といった展開は、中国にとっては好ましいものでしょう。

トランプ前政権によって核合意を台無しにされたイランは、トランプ復権に備えて、核合意復活交渉を再開したい考えとも。

****イラン、核協議再開を要求 トランプ氏当選に危機感****
イラン政府が、トランプ前米政権の離脱などで機能不全に陥ったイラン核合意の再建に向けた間接協議を4月下旬以降に再開するよう、バイデン米政権に求めたことが14日、分かった。複数のイラン外交筋が明らかにした。間接協議は昨年5月にオマーンで開かれたのが最後で、再開に向けた動きも停滞している。

イラン政府には、トランプ前米大統領が11月の大統領選で勝利した場合、合意再建が困難になるとの危機感があり、バイデン政権下で再建にこぎつけたい考えだ。

外交筋によると、最高指導者ハメネイ師は、米国の制裁による経済低迷やトランプ氏当選への懸念からイラン交渉団に協議入りを許可した。【3月14日 共同】
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【激戦州7州では、トランプ氏40%、バイデン氏37%】
肝心の選挙情勢は・・・と言えば、最新世論調査によればバイデン氏が僅か1ポイントリードという結果も。まだまだ先の長い長丁場ですから、今後も紆余曲折があると思われます。

****米大統領選、バイデン氏がトランプ氏を1ポイントリード=世論調査****
11月の米大統領選に関するロイター/イプソスの最新世論調査によると、バイデン大統領が支持率でトランプ前大統領をわずか1%ポイントリードしている。 調査は13日までの1週間に全米の成人を対象に実施した。

登録有権者の39%は、今日大統領選が行われれば、バイデン氏に投票すると回答。トランプ氏に投票するとの回答は38%だった。支持率の差は世論調査の誤差の範囲である1.8%ポイントを下回っている。

多くの有権者は態度未定。11%は「他の候補に投票する」、5%は「投票しない」、7%は「分からない」「回答拒否」と答えた。

登録有権者以外の回答も含むベースでは、トランプ氏がわずかにリードしているが、登録有権者は実際に投票に行く可能性が高く、本選の行方を占う上で重要な存在といえる。

激戦州7州では、トランプ氏の支持率が40%と、バイデン氏の37%をリード。全米調査は有権者の投票動向を予測する上で重要だが、大統領選の勝敗を決める選挙人の獲得数は一部の激戦州に左右されることが多い。

トランプ氏、バイデン氏、無所属候補のロバート・ケネディ・ジュニア氏の三つどもえの争いの場合にケネディ氏を支持すると回答した登録有権者は15%で、1月調査の17%から低下した。

ケネディ氏はトランプ、バイデン両氏から同程度の票を奪う可能性がある。トランプ氏とバイデン氏の2人しか選択肢がない場合、バイデン氏に投票するとの回答は50%、トランプ氏に投票するとの回答は48%だった。2%は回答を拒否した。

共和党の予備選から撤退したヘイリー元国連大使の支持者のうち、トランプ氏に投票すると回答したのは37%のみ。16%はバイデン氏に投票すると回答。残りは「別の候補に投票する」「投票しない」と答えた。

アラバマ州の裁判所が、体外受精でできた受精卵を凍結保存した「凍結胚」を「子ども」とみなすと判断したことについては、支持すると答えた登録有権者はわずか25%。支持しないとの回答は57%、残りは「分からない」と答えた。

調査は全米の成人4094人を対象に実施。うち登録有権者は3356人だった。【3月14日 ロイター】
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シンプルな全国一本の選挙ではなく、州ごとの選挙人獲得競争であるアメリカ大統領選挙を決定づける激戦州7州でトランプ氏の支持率が40%と、バイデン氏の37%をリード・・・というあたりが「ほぼトラ」の背景にあります。

【「ほぼトラ」とも言われるトランプ氏の弱点も】
予備選挙を圧勝してヘイリー元国連大使を撤退に追い込んだトランプ氏ですが、トランプ氏の“弱点”も明らかになっています。

ヘイリー氏は首都ワシントンとバーモント州では勝利。敗北した複数の州でも3割以上の支持を得るなど、共和党内にトランプ氏の再選を望まない一定の「反トランプ票」があることを明らかにしました。

バイデン、トランプ両陣営とも、このヘイリー支持票の取り込みに必死となっています。

****トランプ氏 圧勝の裏で際立つ“弱点” 勝敗占う「ヘイリー票」と「ガザ情勢」 バイデン大統領と再戦へ【アメリカ大統領選挙】*****
(中略)“圧勝”とスーパーチューズデーの結果は伝えられるが、結果からはトランプ氏の弱点も見えてくる。

リアルクリアポリティックスによると、全米におけるトランプ氏とヘイリー氏の直前の支持率は、トランプ氏78.4%対ヘイリー氏15.0%だった。実際にスーパーチューズデーでもテキサス州やオクラホマ州などは全米支持率に近い得票率でトランプ氏が勝った。

数字ではトランプ氏が圧倒しているのだが、問題はヘイリー氏に票を投じた共和党内の「反トランプ層」が大統領選挙でどう動くのか、という点にある。

たとえばノースカロライナ州の予備選挙の得票率はトランプ氏が73.9%、ヘイリー氏が23.3%と全米平均よりもヘイリー氏がやや頑張った結果になった。そして、ヘイリー氏が獲得した23%の票というのは、実は大きな意味を持つ。

「スウィングステート」の1つとも言われるノースカロライナ州は、4年前の大統領選挙でトランプ氏が約7万票、得票率では1.3%という僅差でバイデン氏に勝った州だ。今回ヘイリー氏に票を投じた23%の人を、大統領選挙で取り込むことができるのかというのがトランプ氏の課題だ。

この課題をクリアできないと、今年の選挙では同州でバイデン氏に敗れる可能性もある。そのバイデン氏は声明で「ヘイリー氏の支持者たちの居場所は私の選挙活動のなかにある」と自身の支持にまわるように訴えていて、早速「ヘイリー票」の取り込みに躍起になっている。

比較的都市部に近いバージニア州でヘイリー氏が3割以上の票を得ていたように、共和党内の「反トランプ層」は一定数存在する。だからこそ、「ヘイリー票」の確保のためにもトランプ氏は演説で「団結」に言及する必要があった。(後略)【3月10日 TBS NEWS DIG】
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言うまでもなく、トランプ氏は「裁判」という厄介なものを抱えており、その結果次第では選挙戦に大きく影響します。膨大な費用がかかる裁判で資金的に苦しいとも言われています。

「ほぼトラ」とは言われているトランプ氏ですが、そんなこんなで、まだ流れが決まった訳でもありません。(多分に個人的「期待」を込めての言い様ですが・・・)

****「ほぼトラ」にはまだ早い、米大学教授が語る「それでもバイデンが勝つ10の理由」****
<トランプ支持率はおそらく現在が限界ギリギリの最高値?見落とされがちなトランプの「弱み」を「全米最高の教授」サム・ポトリッキオが分析する>

バイデン米大統領の一般教書演説は、必勝への号砲だった。台本にとらわれず、共和党を面と向かって挑発し、そして勝った。11月の大統領選挙でも勝利するだろう。まだホワイトハウスを出ていく準備を始めるべきではない10の理由を説明しよう。

1) バイデンが直面する最大の問題は年齢だ。時間の経過とともに不利になる。だが一般教書演説では「闘士」の顔を前面に出し、絶妙な言い回しで問題の枠組みを変えた。「わが国が抱える問題は、私たちが年寄りかどうかではない。頭の中が古いかどうかだ」

2)トランプ前大統領の共和党予備選での得票率は各種世論調査を下回っている。過去2回の選挙では上回っていて、その理由として、支持者の一部が世論調査を拒否したか、トランプ支持を公言するのを恥ずかしがった結果だという分析が出回った。今回は逆だ。

ヘイリー元国連大使のバージニア州での得票率は世論調査より30ポイント近く高かった。サウスカロライナ州では8ポイント、ミシガン州で15ポイント、ニューハンプシャー州では7ポイント予想より多かった。ここから、世論調査でのトランプ支持率はおそらく現在が限界ギリギリの最高値に近いと思われる。

3) 特定の州でヘイリーに投票した有権者の約70%が、共和党の大統領候補が誰になっても支持すると明言しなかった。つまりヘイリーが獲得した票の大部分は、反トランプ派のものである可能性が高い。

4) 共和党が勝てるはずの議会選挙で苦戦し続けている大きな理由は、トランプが郊外の穏健派層に弱いせいだ。何としても議席が欲しい共和党の候補者は、選挙戦で反トランプの立場に転じる可能性がある。

5) 民主党の予備選は2回連続で左派より穏健派を選ぶことが確実だ。トランプはバイデンに「極端派」のレッテルを貼ろうとしているが、民主党が政策を穏健化させ続ければ、この作戦の効果は薄い。

6) 米経済は欧米民主主義国の中で最もいい状態を維持している。景気後退がなければ、現職大統領が選挙で負けることはない。

7) 米国民の半数近くはトランプの裁判問題、特に大統領選の結果を覆そうとした疑惑についてよく知らない。有権者がトランプの発言を知れば、評価は大きく低下する。

8) トランプは法と裁判に追い詰められ、プレッシャーを感じ始めるはずだ。有権者の関心とプレッシャーが高まれば、感情のコントロールを失うだろう。トランプの世論調査の数字が高いのは、おそらく大統領時代に比べてX(旧ツイッター)やテレビでの露出が少ないせいでもある。だが大統領選の投票日が近づけば、状況は変わる。

9) 米最高裁が人工妊娠中絶は合憲だとした「ロー対ウェード」判決を覆した2022年6月以降、民主党はいくつかの選挙で衝撃的な勝利を収めている。バイデンはイスラエルを強く支持しているため、若年層の支持を取りこぼしているが、アメリカ人の最大の関心事は自分たちの生活だ。一方、共和党は体外受精を制限する法案を提出して事態を悪化させている。共和党員の有権者が自分の党に反旗を翻す可能性も十分ある。

10) 既に裁判所から5億ドルの賠償金支払いを命じられているトランプの破産リスクも、大統領選の重要な要素だ。選挙資金集めでも苦戦している。バイデン陣営は小口献金が全体の97%を占めており、資金面では極めて有利な立場にある。一方、共和党は全国委員会委員長を退任させ、共同委員長にトランプの次男の妻を据えたばかりだ。

ここ半年のバイデンは苦難が続き、支持率はこの時期の大統領として史上最低を記録した。それでも秋の本番で彼の負けに賭けるのは愚かな選択だ。【3月12日 Newsweek】
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“秋の本番で彼の負けに賭けるのは愚かな選択”・・・個人的には「そうであってほしい」とは思いますが、勝負はこれからでバイデン氏にとっては厳しい状況が続くとおもわれます。

注目したのは、上記記事が指摘しているポイントのなかで2)の“トランプ前大統領の共和党予備選での得票率は各種世論調査を下回っている。過去2回の選挙では上回っていて・・・”ということ。

これまでは“隠れトランプ支持”が多く存在し、「一体この闇の底はどこにあるのか・・・」という不気味さがありましたが、最近では確かに一定に熱烈支持者は多く存在しますが、ヘイリー氏支持票に見るように、“底が見えてきた”感じも。

バイデン氏側の攻めどころは9)で指摘される人工中絶・体外受精問題でしょう。共和党支持者の中にも過激な主張とは距離を置く者も多くいますので。

一方のバイデン氏側の問題は・・・と言い始めると、これまたキリがありませんので、また別機会に。
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アルゼンチン  「ショック療法」を発動する自由主義者・ミレイ大統領 持続可能性には疑問も

2024-03-13 23:30:02 | ラテンアメリカ

(【23年12月29日 LATINA】)

【「ショック療法」省庁廃止・補助金削減などで財政収支は黒字に 一方で物価上昇率276%】
経済混迷が続く南米アルゼンチンはかつての富裕国から転落した唯一の国と言われている国。(日本がこれに続くのでは・・・とも言われていますが) そのアルゼンチンでは昨年11月に「政界のアウトサイダー」を自称する右派(極右とも)のハビエル・ミレイ氏(53)が大統領選挙で勝利し、12月10日に新たな大統領に就任しました。

ミレイ氏は自由主義を信奉する経済学者出身で、中央銀行の廃止や経済のドル化などの過激な主張も展開していました。また、選挙戦ではチェーンソーを振り回して公的支出をぶった切ると叫ぶようなパフォーマンスも。

大統領就任後、さすがに中央銀行の廃止や経済のドル化などの過激な政策は手をつけていませんが、中央省庁削減やエネルギー・公共交通の補助金削減による財政健全化、通貨ペソの50%切り下げなど「ショック療法」を実施しています。

中央省庁削減については、18あった省庁を9つに削減、事務局も106から54に削減する劇的なも。
国民生活を支援するような役割の省庁は廃止して(ミレイ氏が“不要”と主張していたのはスポーツ観光省、交通省、労働省、保健省、公共事業省、女性省、教育省、国土開発省、社会福祉省、文化省、科学技術省、環境省 実際廃止したのがどれかは未確認です)。 残すのは財務相、外務省、警察省、防衛省、内務省、法務省など国家機能の根幹を担う省庁のみ。

廃止する省庁がカバーしている分野は民間に任せればよいとの考えのようです。国民生活・社会は自由な市場経済・活動に任せて、極力国家はそこへ関与しないという立場。

一応、その成果として、財政収支は2024年1月単月で黒字になったということです。
一方で、激しい物価上昇で市民生活は苦境に。

****アルゼンチンの物価上昇率276%に 33年ぶり高水準****
アルゼンチンの国家統計局が12日発表した2月の消費者物価指数は前年同月比で276.2%の上昇となった。1991年3月(287.3%)以来、約33年ぶりの大きな上昇率だった。

右派のミレイ大統領が物価抑制のための補助金を減らし、公共交通機関の料金やエネルギー価格が上昇した。同補助金は国民を物価高から守るためのものと位置づけられていた。

24年1月の上昇率(254.2%)を上回った。前月の水準を上回るのは7カ月連続で、200%を上回るのは3カ月連続となった。交通費や食品の上昇が目立つ。

2023年12月に発足したミレイ政権は歳出削減による財政健全化を優先課題としている。左派のフェルナンデス前政権時までは、エネルギーや公共交通機関など国民向けの補助金が多かった。補助金削減で、国民の目に見えやすい負担は増えている。

ブエノスアイレス都市圏では2月からバスの最低料金が従来の76.92ペソから270ペソに上がった。ガス料金は低所得者層の場合で、従来の月額886ペソから6158ペソとなった。いずれも今後も引き上げが予定されている。
政府は12日公表した声明で「インフレとの戦いを続ける。これは妥協することのできない約束だ」と言及した。

12日の外国為替市場で通貨ペソは対ドルの公式相場で1ドル=836ペソ、非公式は1000ペソ前後で取引された。ミレイ政権発足後、中銀は毎月2%の変動を許容する方針を示している。公式相場は緩やかなペソ安・ドル高が進んでおり、輸入物価上昇の一因となっている。(中略)

24年2月の1カ月間の消費者物価指数の上昇率は13.2%だった。23年12月(25.5%)、24年1月(20.6%)からは減速している。

経済学者出身のミレイ氏は右派の自由至上主義者(リバタリアン)だ。省庁を18から9に減らすなどして、「小さな政府」を志向している。

ミレイ政権は発足直後の2023年12月12日に通貨ペソの対ドル公式相場は1ドル=800ペソがメドになると発表した。発表前時点では360ペソ程度で推移しており、5割強の通貨切り下げを実施した形だった。

ブラジル金融大手イタウグループは24年12月のインフレ率を180%、為替相場を1ドル=1695ペソと予測する。24年の実質経済成長率はマイナス3%と、2年連続のマイナス成長とみている。【3月13日 日経】
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物価上昇に関しては、ミレイ政権は足元の1カ月間の消費者物価指数の上昇率が逓減していることから強気姿勢を崩していません。

【「企業や国に頼らずに、自分の力でお金を稼がないといけない」というバトルロイヤル・モード】
ミレイ氏は、「国民に魚を与えるのではなく、魚を釣る方法を教えるべきだ」と語っています。そのため、政府による規制や、補助金は、極力排除することで、無駄な支出を減らし、経済を活性化していく・・・そうすれば、まっとうに働く・努力する人々の生活は改善する・・・という考えでしょう。

確かに、左派前政権が行ったような補助金バラマキ政策は長期的には経済をゆがめ、非効率化させますので、ミレイ氏の主張には一理あります。

しかし問題も。問題のひとつは、そうした「ショック療法」に耐えられない国民も多くいること。問題の二つ目は、自由な市場経済だけではどうしても市場がうまく処理できない「ひずみ」(「市場の失敗」)が生じますが、その救済策・是正策を国家が放棄して、個人の失敗として放置するのかということでしょう。

“多くの人が、「企業や国に頼らずに、自分の力でお金を稼がないといけない」というバトルロイヤル・モードに入った状況なのかもしれません。
それにいち早く適応できる人は、何とかなるかもしれませんが、適応できない人は、貧困の淵で彷徨うことになるのではないでしょうか。”【2月23日 アセット&ライフ】

****公的支出カット、中央銀行廃止、米ドル法定通貨化?...アルゼンチン新大統領の公約、超インフレ経済はどうなる****
<極右のミレイ大統領就任から2カ月でインフレ率は250%を突破した一方、外貨準備は増加。国民の困窮はさらに悪化しているが...>

先日の夕方、アルゼンチンの首都ブエノスアイレス郊外の公園で、28歳のミカエラ・マルダノは毛布を敷いて古着やマテ茶を入れる壺などを並べ始めた。食べ物と物々交換するためだ。食料品はどんどん手に入りにくくなっていると、彼女は話す。「肉なんてずっと口にしていない」

彼女だけではない。2023年は200%超のハイパーインフレで幕を閉じたこの国では今、物々交換などの手段で食料を確保しようとする人たちが大勢いる。長らく経済危機にあえいできたアルゼンチンだが、昨年12月に極右のハビエル・ミレイが大統領に就任してから貧しい人たちの生活は一層厳しくなった。

ミレイは大統領就任早々、通貨ペソを50%以上切り下げた。そのため既に制御不能だったインフレがさらに悪化。政府の公式データでは、ガソリンの価格は約2倍、食料品の価格も約50%跳ね上がった。

ミレイ就任から2カ月ほどで、インフレ率は前年同月比250%を突破し、ベネズエラを抜いて中南米トップを走っている。

選挙戦中にチェーンソーを振り回して公的支出をぶった切るとわめいていたミレイは、約束どおり公共サービスの補助金を大幅カットしている。

「政界のアウトサイダー」として国民の期待を集めたこともあり、選挙戦中にはさらに過激な政策を掲げていた。中央銀行の廃止や米ドルを法定通貨にすることなどだ。しかし就任後にはさすがにこれらをゴリ押しせず、比較的穏当な政策を打ち出した。長年にわたり累積した財政赤字を予算削減と増税で減らすというものだ。ミレイはこれを「ショック療法」と呼んでいる。

ドルの外貨準備は増加
だが今のアルゼンチンの平均的な家計の「体力」では、このショックに耐えられそうにない。昨年の終わり頃には国民の購買力が毎月14%ずつ低下していく状況になった。

アルゼンチン・カトリック大学の調査チームによると、この国の貧困率は2022年末には43.1%で、ミレイが就任した昨年12月時点では49.5%だったが、今年1月には57%を超えたとみられる。

とはいえミレイの戦略はマクロ経済の指標を上向かせてもいる。ペソ切り下げで輸入品の価格が上昇したため輸入量が減り、貿易支出は低下。おかげでキャッシュ不足にあえぐ中銀は減る一方だったドルの外貨準備を多少増やせた。

政府は1月、一時的ながらも財政が黒字に転じたと発表。1月のインフレ率の前月比は20.6%と高率だったが、それでも昨年12月の25.5%に比べれば改善した。

一方で、緊縮財政は景気後退を一段と加速させると専門家は警告する。国際金融協会(IIF)の予測では、今年第1四半期のアルゼンチン経済の成長率はマイナス7.8%。IMFは年率でマイナス2.8%と予測している。

こうした状況でもミレイは世論調査で52%と高支持率を保っているが、国民がどこまで耐乏生活を受け入れるかは疑問だ。1月下旬には主要労働組合が緊縮財政に抗議してゼネストを決行。物価の高騰は治安の悪化を招き、各地で集団略奪が多発している。

物々交換で食べ物にありつくこともできなくなるかもしれないと、マルダノの不安は募る一方だ。【3月12日 Newsweek】
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【“財政再建の一環”の名目で行われる施策の中身は?】
緊縮策の中身にも問題が。
ミレイ大統領は3月1日の議会演説で、財政再建の一環として赤字決算の国営通信TELAMを閉鎖すると訴え、実際に政府は同通信の業務停止を決め、4日から事務所への立ち入りを禁止しました。

ただ、単に“財政再建の一環”というだけでなく、政府に批判的なメディアへの圧力の側面も。

****アルゼンチン国営通信が閉鎖、ミレイ大統領の批判演説受け****
アルゼンチンの国営通信TELAM(テラム)が4日、ミレイ大統領の演説に基づいて閉鎖され、ロイターが閲覧した内部メモによると職員らは少なくとも1週間の業務免除を言い渡された。 ウェブサイトは閉鎖され、警察が建物への立ち入りを阻止している。

ミレイ氏は一部の公共機関について、効率的ではなくコストが過大で腐敗しているなどと非難。テラムは左派野党のプロパガンダ機関と主張し、1日の議会演説で閉鎖を宣言した。

職員や野党議員らは、1945年に創設され約800人を雇用するテラムの閉鎖は報道に対する攻撃と強く非難。ブエノスアイレス報道労働組合はX(旧ツイッター)に声明を投稿し、「これは民主主義と表現の自由への打撃で、われわれは守っていく」と述べた。 

テラムが永久に閉鎖されるのか、再開されるのかは不明。【3月5日 ロイター】
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国民に緊縮を強いる一方で、自身らの給与はお手盛りで・・・

****「金がない」緊縮政策進めるアルゼン大統領、月給48%引き上げ****
「金がない」として政府予算緊縮政策を展開するアルゼンチンのミレイ大統領が自身をはじめとする政権高位公務員の月給を48%引き上げたという事実が明らかになり炎上している。

 アルゼンチンメディアが10日に伝えたところによると、ミレイ大統領は本人が先月署名した政権高位公務員月給大統領令により2月の月給として602万ペソ(約104万円)を受け取った。1月の月給406万ペソから48%引き上げたのだ。 

これと関連し、ミレイ大統領はクリスティーナ・フェルナンデス元大統領時代の2010年に署名された大統領令により自動で引き上げられたもので、自身は知らなかったと釈明した。彼はすぐにこの大統領令を廃止するとし、すべての誤りを元大統領のせいにした。 

しかしミレイ大統領が1月と2月に署名した大統領令が野党議員によってオンラインに公開され、彼が嘘をついたという事実が明らかになった。大統領の署名がなければ政権は高官の月給は引き上げられないためだ。 

官報に掲載された大統領令には彼の署名と一部閣僚の署名があった。この官報は突然政府のオンラインシステムで閲覧できなくなり、政府が故意に隠したのではないかとの疑惑まで提起された。(中略)

現政権を支持しキャスティングボートを握っている野党のミゲル・アンヘル・ピチェット下院議員までも「ミレイ大統領が自身の署名したものが何かわからなければ問題だ」と異例に強く非難した。(後略)【3月11日 中央日報】
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自分が署名していて「知らなかった」・・・ネットでは「大統領本人が署名した大統領令を記憶できていないのか、読まずに署名したのか」「われわれには金がないと言いながら自分の月給は一気に48%引き上げるのか」

【社会政策でも「保守的」な政策】
経済政策以外のでも「保守派」としての面を見せています。

****中絶は「殺人」 アルゼンチン大統領、高校生の前で明言****
アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は6日、高校生を前に、同国で合法とされている妊娠中絶について、「殺人」だとの認識を表明した。同国で中絶は合法とされている。

中絶反対派として知られるミレイ氏だが、公の場で中絶について発言するのは就任後初めて。
ミレイ氏は、国際女性デーを2日後に控え、母校である首都ブエノスアイレスのカトリック系高校で演説。「皆さんに警告する。妊娠中絶は殺人だ。数学的、哲学的、リベラル的な観点から証明できる」と語り、同国での中絶合法化を支持した人々を「人殺し」と呼んだ。

ミレイ氏は昨年12月に就任して以降、女性・ジェンダー・多様性省を廃止。最近では、差別解消の推進を担う国家機関を大統領府報道官いわく「全くの無駄」として閉鎖した。

政府はこうした動きについて、同国はインフレ率が前年同月比250%を超えるなど深刻な経済危機に見舞われており、歳出削減の一環だと説明している。 【3月7日 AFP】
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****性差のない表現、公文書での使用禁止に アルゼンチン大統領****
 アルゼンチンのミレイ大統領が、性差のない表現を全ての公文書並びに行政で使用することを禁止した。大統領の報道官が27日に明らかにした。右派のリバタリアンとして、自身の掲げる保守的な社会政策を引き続き実現しているとみられる。

即時発効したこの禁止措置は、「性差のない表現と、ジェンダー視点に関連する全てを国の行政全般で」禁ずる内容。マヌエル・アドルニス報道官が定例の記者会見で述べた。

アルゼンチンが公用語とするスペイン語は、多くの名詞が「o」で終わる男性名詞と「a」で終わる女性名詞に分かれる。スペイン語圏で性差のない表現を作り出す取り組みが行われる中、現在は語尾に「x」「e」「@」を用いた中立的な名詞を創出する動きが進む。たとえば中南米系の男性と女性を表す「Latino」「Latina」に対し、性的に中立な「Latinx」という表現を作るといった取り組みだ。

アドルニス報道官は、性差をなくすことを念頭に「e」「@」「x」を使用することは今後できなくなると説明。また「あらゆる行政文書の中で女性形の語の不必要な使用は避ける」べきだとも付け加えた。

その上で、性差のない表現が社会のあらゆる層に波及しているとの主張に反論。「全ての領域に波及している言語は我々が現在使用しているカスティリャ語、つまり標準スペイン語だ」と述べた。また「ジェンダー視点」は政治的な道具として利用されているとの見解も示した。

今回の発表に先駆け、アルゼンチンの軍隊では国防省の決議に従い、性差のない表現が禁止されていた。
アルゼンチンでは2021年、当時のフェルナンデス政権が男性でも女性でもない「ノンバイナリ―」の性別の身分証明書(DNI)を発行すると発表。新しい制度により、身分証明書やパスポートの性別欄に「X」の分類が導入されていた。

フェルナンデス氏は演説でも性差のない表現を使用していたが、昨年就任したミレイ氏は文化戦争にまつわる問題について保守的な政策を追求している。【2月28日 CNN】
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【抵抗する議会はスルーして政令と行政権限で政策遂行】
ミレイ氏の政策は議会の抵抗にあっていますが、ミレイ氏は議会を通さず自身の政策を推し進める方針です。

****ハビエル・ミレイ氏、アルゼンチン経済には議会は必要ないと語る****
アルゼンチンの自由主義者でdentハビエル・ミレイ大統領は、政令と行政権を用いて議会を通さずに緊縮策を実施する計画を立てている。

ミレイの経済戦略には大幅な歳出削減が含まれており、アルゼンチンは12年ぶりの財政黒字につながった。

懐疑的な見方にもかかわらず、同氏は自身の政策がインフレを大幅に抑制し、立法の支援なしで経済を安定させることを目指していると主張している。

自由主義大統領dent・ミレイは、伝統的な戦略を窓の外に投げ捨てた。 同氏は、自身の主要な経済改革計画を妨害してきた非友好的な議員らが設けた障害を回避する決意を固めた。 その代わりに、同氏は抜本的な緊縮策を実行するために、法令(政令)と行政権限という別の手段に手を伸ばしている。(後略)【3月1日 Cryptopolitan】
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“ミレイのアプローチにはリスクがないわけではない。 緊縮策はインフレ抑制には効果的だが、ストライキや抗議活動に見舞われている。 しかし、ミレイは社会不安が広がる可能性を否定し、潜在的な混乱は政治的操作や外国の干渉によるものだと考えている。”【同上】とも。

批判・混乱は自身の政策の問題ではなく、政治的な企て・外国の干渉によるもの・・・・という考えのようですが、それは独善的に過ぎるでしょう。
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欧州  伸張する極右・右派ポピュリズム 欧州議会選挙でも台頭予測 EU政策変質の可能性

2024-03-12 23:02:29 | 欧州情勢

(【3月11日 日経】 ポルトガル総選挙で4倍増に躍進した新興極右政党「シェーガ」のベントゥーラ党首(リスボン、8日)=ロイター)

【欧州で伸張する極右・右派ポピュリスト勢力】
アメリカでのトランプ氏復権の動きも同じでしょうが、欧州でも右派ポピュリストの勢力が近年伸張していることは、2月23日ブログ“欧米で強まる右派ポピュリズム “民主的な選挙”が生み出す右傾化・独裁・専制の脅威”でも取り上げたばかりです。

****EUで進む右傾化****
2-1. 右派ポピュリストの勢力伸張と中道右派の右傾化 
近年、EUにおいて、(1)EU懐疑主義、(2)自国第一主義、(3)反移民・難民、(4)反イスラム、(5)反気候変動政策、(6)親露、対ウクライナ支援に消極的、等の政策を掲げる右派ポピュリストの勢力伸張が顕著である。 

また、右派ポピュリストへのEU市民の支持拡大を睨み、EU各国の中道右派政党や、欧州議会の最大会派であるEPP(欧州人民党)が、移民・難民政策や気候変動政策等において右派ポピュリスト寄りの政策へシフトする等、政策の軸が「右傾化」していることにも注意が必要だ。

2-2. 右傾化の背景
EUにおける右傾化の背景として、①難民急増による、社会保障費等の財政負担増や治安悪化等へのEU市民の警戒感の高まり、②ウクライナ危機等に起因するエネルギー、食料価格上昇によるインフレおよび景気低迷長期化を背景としたEU市民の生活困窮(Cost of Living Crisis)、③脱炭素化の旗印の下、矢継ぎ早に気候変動対策が強化され大幅な負担増を強いられていることに対する不満、等が指摘できる。

右派ポピュリストは、移民・難民受け入れの厳格化、減税や歳出拡大等拡張的財政政策、気候変動対策の大幅なスローダウン等を掲げ、EU市民の不満を巧みに利用することで勢力を拡張している。

3.2024年にEUが迎える「政治の季節」
右傾化が進む中、2024年は5年に1度の欧州議会選挙が実施されることに加え(6月)、ポルトガル(3月)、ベルギー(6月)、オーストリア(9月)等の加盟国で総選挙が、ドイツで9月にザクセン州、テューリンゲン州、ブランデンブルク州で議会選挙が実施される等、EUは「政治の季節」を迎える。 【2月 “右派ポピュリズム台頭下でEUが迎える「政治の季節」” 三井物産戦略研究所 国際情報部 平石隆司氏】
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【ポルトガル総選挙で極右4倍増 6月の欧州議会選挙でも極右躍進の予想】
上記記事にあるように今年EUは「政治の季節」を迎えますが、その先陣をきって行われたポルトガル総選挙はまさに極右政党「シェーガ」台頭(議席は4倍増)の選挙となりました。

****ポルトガル総選挙、右派野党連合が勝利 極右が4倍近く議席増 連立交渉本格化へ****
ポルトガルで10日、議会(一院制、定数230)の総選挙が実施された。即日開票の結果、最大野党の社会民主党を中心とする中道右派連合「民主主義同盟」が最多の議席を獲得。中道左派与党「社会党」のヌーノサントス書記長は敗北を認めた。極右政党「シェーガ」が議席数を4倍近く増やし、躍進した。

総選挙は汚職疑惑を理由にコスタ首相が辞任表明したことを受け、実施された。民主主義同盟と社会党の接戦となった。

公共放送RTPによると、開票率99%の段階で民主主義同盟が79議席、社会党が77議席、シェーガが48議席を獲得した。いずれの党も過半数には届かず、連立交渉が本格化する。

シェーガはポルトガル語で「もうたくさんだ」の意味で、2019年の総選挙で初の議席を獲得した。移民規制の強化や政治腐敗の撲滅などを政策に掲げる。増加する移民や汚職への不満を取り込み、今回の総選挙で選挙前の12議席から議席数を大幅に伸ばした。

民主主義同盟が政権交代を実現するにはシェーガと連立を組む必要があるとみられるが、社会民主党のモンテネグロ党首は現時点で連立交渉を否定している。【3月11日 産経】
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そして6月には欧州議会選挙が実施されます。ここでも極右ポピュリズム勢力が増加することが予想されています。その結果、EUの基本路線が大きく変更されることも。

****<EU崩壊の懸念>極右派の躍進で訪れる移民、気候変動、貿易での混乱の恐れ、注目すべき欧州議会選挙の行方****
フィナンシャルタイムズ紙欧州担当のトニー・バーバーが2月15日付け論説‘Elections threaten to upset Europe’s centrist apple cart’で、6月の欧州議会選挙で極右派が勝利すれば、欧州連合(EU)の気候、移民、貿易政策が混乱し、EU統合を推進する従来のコンセンサスが大きく弱体化する恐れがあると警鐘を鳴らしている。要旨は次の通り。

欧州がロシアとの敵対関係、中国との緊張関係、そしてトランプ返り咲きの可能性に取り組んでいる今、6月の欧州議会選挙は欧州の結束、影響力そして世界的な地位に有害な結果をもたらすことになりそうだ。極右派政党が、27カ国からなるEU圏全域で議席を伸ばし、欧州議会におけるパワーバランスを大きく変えることが予想されている。

何十年もの間、中道右派、リベラル派および中道左派政党が議会を支配し、統合に向けた政策を推進してきた。6月の選挙でこの中道派の多数派はおそらく縮小するだろう。

ある予測によれば、9カ国では極右派が1位となり、別の9カ国では2位か3位となる。その場合、極右派は、欧州の将来やEUの使命感にとって重要な分野での政策を阻害したり、変更したりし得ることになる。

主な例は、移民と庇護、法の支配、気候変動、国際貿易、EU予算、およびEUの東欧・南東欧への拡大案などである。これらについて、極右派は、選挙対策で国民的アイデンティティや主権といった彼らの主張を借りることが多くなっている中道右派と手を組むことで、EUの政策の内容や方向性を変えようとするだろう。(中略)

6月の選挙後、移民や難民庇護政策を厳格化する傾向はさらに強まるだろう。法の支配に関しては、ハンガリーのオルバンのような民主主義に背を向ける政府に対して強硬路線をとることに欧州議会の支持を得ることが難しくなるかもしれない。

気候変動もまた、熱い論争の分野になるだろう。欧州議会の右傾化で、EUのネットゼロ目標達成に必要な次のステップが遅れるか頓挫する可能性もある。

もう1つの注目分野は貿易だ。すでに問題を抱えているメルコスール(南米南部共同市場)との協定交渉は、EU議会の右傾化によって麻痺するかもしれない。また、EUの東方拡大を実現するために必要な広範な制度改革や予算改革を進めるのも容易ではない。強硬派の政治家たちは、外交政策と予算について多数決を拡大する独仏のイニシアチブを各国の拒否権を減らすことになるとして嫌っている。

ユーロ圏債務危機や移民危機からコロナ・パンデミックやロシアのウクライナ侵攻に至るまで、この15年間、EUを圧倒しかねない出来事の波に対して、EUは懸命に戦い、一定の成功を収めてきた。今回の違いは、6月以降、こうした課題に対処するためのEUの努力を支えてきた中道的で統合主義的なコンセンサスが大幅に弱体化することである。

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高まりつつある極右派の発言力
(中略)これまでEU統合の推進役であった欧州議会が極右派により逆の役割を果たすというのは歴史の皮肉である。(中略)

5年に1度の欧州議会選挙は、比例代表制であり、各国に一律の支持政党に対する世論調査的な、または、中間選挙的な意味合いを有することからも注目される。欧州議会は、加盟国を横断する会派形成が義務付けられており、伝統的に中道右派と中道左派が多数派を占めて欧州統合の推進母体となって来た。

現有議席は、総数705中、中道右派が187、中道左派が148、第3党がマクロンの党を中心とする中道リベラル派が97で、主流派を形成している。

極右派のID(アイデンティティと民主主義)は71で第4党に過ぎないが、それ以外にIDと足並みを揃える右派のECR(欧州保守改革派)が61議席を有している。他に有力グループとして緑の党等の環境派が68、左派が39議席、といわば7つの有力政党の分立状態で、いずれの会派も単独で過半数獲得には程遠い。

次期選挙では議席が720に拡大するが世論調査では、中道派政党が議席を減らし、極右派IDが第3党に躍進することが予想されている。

極右派のIDがECRと連合しても過半数を占めることはないと考えられるが、移民政策、気候変動、保護貿易政策等では、中道右派が国内対策上の理由で極右派に歩み寄る可能性もあり、問題によっては、極右派の主張が過半数の支持を得る場合も排除されないであろう。

自国の国益を最優先し、移民を排除し、気候変動対策に懐疑的なトランプ張りの極右ポピュリストの発言力が増大し、EUの統合の推進や拡大、人権や法の支配の重視、脱炭素を目指す実効的な気候変動対策といった従来の政策が後退する可能性もあるであろう。

また、10月に任期を迎えるEU大統領、欧州委員会委員長やその他の要職人事をめぐり難航する可能性もあろう。

フォンデアライエン委員長は続投するか
これまで、脱炭素化やウクライナ支援でリーダーシップを発揮してきたフォンデアライエン委員長は、2月19日に続投への意向を表明したが、同委員長の所属する中道右派会派(EPP)が、欧州議会選挙でどのような結果を出すかも注目される。

いずれにせよ極右派が欧州議会で発言力を高めることでEUの政策が右傾化し、また、ウクライナ支援や安全保障条約体制の強化をめぐるEUの結束力に悪影響が出ることが懸念される。さらに、米国でトランプが政権に復帰すれば、対米関係でさらに不確実な要因が増すことから、EUにとって正に歴史的試練の時期を迎えているともいえよう。【3月6日 WEDGE】
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【中道右派勢力の右傾化 移民希望者の第三国への移送計画を公約に】
単に極右ポピュリズム勢力が増加するだけでなく、そうした流れへの対応として、中道右派勢力が“移民・難民政策や気候変動政策等において右派ポピュリスト寄りの政策へシフトする等、政策の軸が「右傾化」している”【冒頭記事】ことも重要です。

****移民希望者の第三国移送を公約へ 欧州議会最大会派****
欧州議会の最大会派である中道右派の「欧州人民党」は6、7両日にルーマニア・ブカレストで開く党大会で、移民希望者の第三国への移送計画を6月の欧州議会選に向けたマニフェスト(公約)に盛り込むことを承認する見通しだ。

計画では、欧州連合域内への移民希望者は「安全な第三国」に移送され、申請内容が認められればその地で保護を受けられる。

そのうちの一部については、「脆弱(ぜいじゃく)な個人を対象とする人道枠」を通じて域内への受け入れが認められる可能性もある。

EU域内への移民希望者は急増しており、昨年は100万人超と、7年ぶりの高水準に達した。シリア、アフガニスタン両国出身者が引き続き主流を占めている。

欧州ではEUを離脱した英国が、不法移民をアフリカ・ルワンダに移送する方針をすでに決めた。EU加盟国ではイタリアがアルバニアとの間で、地中海で救助した移民・難民を同国に設置する収容施設に移送する協定を結んだ。
欧州議会選は6月6〜9日に実施される。 【3月7日 AFP】
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(EU域外ですが)イギリスの「不法移民(難民)のルワンダ移送」は「ルワンダは難民に安全な国なのか?」という疑問から難航しています。

****映画「ホテル・ルワンダ」の舞台に不法移民を送り込む…英国の計画に物議  安住できるか?大虐殺乗り越え「奇跡」の復興遂げた国の実情とは****
(中略)大虐殺を乗り越え、ルワンダは「アフリカの奇跡」とも呼ばれる復興を遂げた。政府関係者は「悲劇を経験したからこそ、希望を与える国になりたい」と受け入れ準備を進めるが、人権保護や移民支援体制を不安視する声もある。ルワンダは移民にとって「安住の地」となり得るのか。現地を訪れて、実情を探った。

 ▽「ボートを止める」
英国はこれまで、アフリカや中東などから多くの移民や難民を受け入れてきた歴史がある。しかし近年、英仏海峡を小型ボートで渡って入国する不法移民が急増。2022年は前年の約1・6倍の約4万5千人を記録し、亡命申請者の数も8万9千人以上に達した。審査を待つ人々を収容する費用も膨らみ、負担を強いられる国民の間で反発が高まってきている。

そこで英政府が打ち出したのが、ルワンダへの移送計画だ。2022年4月、当時のジョンソン首相(保守党)はルワンダ政府との協定を発表した。合意によると、移民らはルワンダに移送されて亡命申請の審査手続きをし、申請が認められれば原則、ルワンダ国内で定住することになる。ルワンダ政府が申請審査や社会統合への支援を担い、英政府がその費用などを負担する仕組みだ。

保守党政権は「ボートを止める」とのスローガンを掲げ、不法移民に厳格な姿勢で臨む。ジョンソン氏は「ルワンダは世界で最も安全な国の一つだ。難民受け入れの実績もある」と訴えたが、移民を「国外追放」し、対応を丸投げするやり方に、難民支援団体などは「自国に送還される恐れがある」「非人道的だ」などと反発。計画中止を求めて提訴したが、英高等法院と上級審の控訴院はいずれも移送を認め、第1陣が6月14日夜に出発する予定だった。

しかしその直前、欧州人権裁判所が、「難民認定を受けるための公平かつ効率的な手続きにアクセスできなくなる」とのUNHCRの懸念などを踏まえ、移送を差し止める仮処分を決定。これを受け、英政府は移送中止を余儀なくされた。

ジョンソン氏退任後も方針に変更はなく、スナク現首相も計画を推し進める。しかし、2023年11月、英最高裁は「移民が母国に送還される危険がある」とし、計画は違法との判断を下した。

国内の法律の壁にも直面したスナク氏は12月、ルワンダ政府との間で新たな条約を締結した。ルワンダが移民らの安全や支援を確保し、母国や安全ではない第三国に送還・移送しないよう保証することを柱とし、安全性への懸念を払拭する内容になっている。

さらに、ルワンダは「安全な国」だと定義し、移送を阻む裁判所の命令や拘束力を回避できるような仕組みを盛り込んだ法案も提出。早期に成立させて計画を実行できるように急ぐ。(後略)【3月8日 47NEWS】
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今年1月に法案は下院で可決されましたが、“一部の強硬右派が「欧州人権裁を完全に無視できるよう、もっと厳しい内容に修正するべきだ」と主張する一方、穏健派は修正されれば法案には賛成しないと反発し、党内の亀裂の深さが露呈した。”【同上】 上院での審議には時間を要すると見られています。

大虐殺を乗り換えて奇跡的復興を成し遂げていると評価されるルワンダ・カガメ大統領ですが、一方で野党弾圧の批判もあります。

“ルワンダ政府には、大虐殺という負のイメージを払拭し、難民問題に貢献する国を目指したいという思いがある。ただ、カガメ政権は野党弾圧などの強権的な側面も問題視される。移送計画を巡っても「自国に送還しない」との英政府との合意が守られない懸念がある。”【同上】

イギリス政府はルワンダは「安全な国」だとアピールしていますが、“英紙オブザーバーが1月下旬、英内務省が昨年、迫害の恐れがあるとしてルワンダの野党支持者ら4人を難民認定していたと報じた。オブザーバーは、この難民認定について「ルワンダは安全だという政府の主張に疑問を投げかけるものだ」と指摘した。”【同上】ということで、イギリス政府が難民認定するような野党弾圧がある国に、難民を送り込むという矛盾も生じています。

【欧米での極右・右派ポピュリズム台頭は世界の構図を変える】
冒頭記事ではEUにおける右傾化の背景として、難民問題意外に、インフレおよび景気低迷長期化を背景としたEU市民の生活困窮、気候変動対策が強化されたことによる大幅な負担増があげられていますが、欧州各国で起きている「農家の反乱」もそうした背景によるものでしょう。

ドイツでは、緑の党も参加した連立政権が進める気候変動対策への不満から、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の勢力が伸張しています。

****移民や自由貿易が社会を悪くしているのか?「ナショナルな保守主義」の新たな台頭、「恨みの政治」を止めるためには****
(中略)
22年のイタリアの総選挙、23年のオランダの総選挙において「極右」とされる政党が勝利した。今後、予定されている各国での選挙において勝利や躍進が予想されている。

各国それぞれの事情があるが、なぜこうした潮流の変化が起こったのかを考えると、ロシアによるウクライナ侵攻が一つの引き金となったと思われる。それが招いた物価高騰、生活苦の状況がこの論説が「恨みの政治」と呼んでいるメカニズムに再び拍車をかけたと見ることができよう。

世界の構図を変える恐れ
西側先進国では製造業の時代が過去のものとなり、国民の広い層に経済的利益を行き渡らせることが困難となった。グローバルな競争が激化し、サービス産業が中心となり、先端的なIT技術を生かすことができるかどうかで経済的な立場に大きな差がつく時代となった。

このように低成長の中、二極分化が進む状況は、「ナショナルな保守主義」(「ポピュリズム」、「非リベラルな民主主義」などと呼ばれているものと重なるもの)への支持を生みやすい土壌を作っている。外的な衝撃や内部の事情があれば更に増殖する素地がある。

現在、世界を①西側先進国、②権威主義国家、③グローバル・サウスの三つのカテゴリーに分けて捉える見方が一般的だが、「ナショナルな保守主義」が西側先進国を覆っていくと、世界の構図は大きく変質することになる。

「ナショナルな保守主義」からすれば、西側先進国がこれまで依拠してきた「ルールに基づく国際秩序」は、少なくとも国内で政権を取るまでは、疑問を呈し攻撃すべき対象であった。米国の大統領選挙が注目され、米国の動向は重要だが、「ナショナルな保守主義」が支配するリスクがあるのは米国だけではない。

この論説(Economist誌2月17日号)は、ナショナルな保守主義への処方箋として、政権党が「人々が持つ正当な恨みを真剣に捉えること」、「相手の考えを一部取り入れてみること」を挙げている。

人々の求めているものに合わせて政策を適合させていくことは、いずれの立場にとっても重要なことであるが、「ナショナルな保守主義」の主張をどこまで現実の政策に取り入れるべきかは考えどころである。【3月12日 WEDGE】
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