☆君を想って海をゆく(2009年 フランス 110分)
原題 Welcome
staff 監督/フィリップ・リオレ
脚本/フィリップ・リオレ エマニュエル・クールコル オリヴィエ・アダム
撮影/ローラン・ダイアン 美術/イヴ・ブロヴェ
音楽/ニコラ・ピオヴァーニ ヴォイチェフ・キラール アルマンド・アマール
cast ヴァンサン・ランドン フィラ・エヴェルディ オドレイ・ダナ デリヤ・エヴェルディ
☆2008年2月、カレー
いまでこそ、
英国ドーバーと仏国カレーはユーロスターで繋がってるけど、
その昔は、船がたったひとつの移動手段だった。
昔といっても、そんなに前の話じゃない。
20世紀の終わり、1990年代の半ばまで、
直接、列車や車でロンドンからパリへの移動はできなかった。
ぼくの時代、船はフェリーで、
ロンドンのヴィクトリア駅からドーバーの桟橋近くまで列車に乗り、
税関を通って出国、船で海峡を渡り、カレーの桟橋で入国した後、
すぐにまた列車に乗ってパリのノルテ駅まで向かったものだ。
都合、8時間。
ロンドンを朝経っても、パリに着くのは夕方ちかくになった。
夜行列車で英仏海峡を越えるとき、
1980年までは、たしか、そのまま車輛搬送されるフェリーがあって、
こちらはカレーじゃなくてダンケルクに行ったような気がする。
いま、ドーバー海峡をフェリーで超えるには、
数社あるフェリー会社の中でも歩行者が乗れる船を選び、
さらにドーバーでもカレーでも、
駅と港は鉄道で繋がっていないから、バスで移動しなくちゃいけない。
貧乏旅行をする者にとっては、まことに恨めしい仕打ちだ。
ともかく、
ドーバー海峡を越えていくのは旅のひとつの骨頂で、
ことに、
ドーバーの白い壁が遠ざかっていったり近づいてきたりするのを眺めるのは、
えもいわれぬ感慨があった。
旅をする者にしてそうなんだから、
はるばる中近東あたりからイギリスをめざしてきた難民にとって、
カレーに辿り着いたとき、34キロ彼方のドーバーの白い壁は、
生きるために到達しなくちゃいけない遠い遠い目印なんだろう。
難民がイギリスをめざすのは、就労しやすいからにほかならないんだけど、
なかなか入国できない。
だから、少なくない難民が密入国することになる。
この映画に出てくるイラク難民のクルド人の少年もそうで、
兄貴はすでにロンドンに行っているようなんだけど、それはあまり関係なく、
つきあって数カ月になる彼女が家族とともに移民してて、
その恋人に逢いたいがために泳いでいこうとするんだけど、
『ル・アーヴルの靴磨き』とはほぼ正反対で、
カウリスマキのようなほのぼのとした幸せさは微塵もなく、
海峡の流れは兎が飛ぶほど速く、うねりもまた高く、
佳境にいたるまで現実感が色濃く漂ってる。
少年を泊まらせ、世話を焼いてやる中年男も、
かつて水泳選手ながら挫折して引退し、
難民の世話をするボランティアに懸命な妻とは離婚したばかりという、
これまたどうしようもない閉塞感に包まれてる。
後味も決していいとはいえない話だけど、
現時点のヨーロッパはたぶんこんな感じなんだろな~て気がするんだよね。