◎サイコ(1960年 アメリカ 109分)
原題 Psycho
staff 原作/ロバート・ブロック『サイコ』
監督/アルフレッド・ヒッチコック
脚本/ジョセフ・ステファノ 撮影/ジョン・L・ラッセル 音楽/バーナード・ハーマン
美術/ジョセフ・ハーレイ ロバート・クラットワージー ジョージ・ミロ ソウル・バス
cast アンソニー・パーキンス ジャネット・リー ヴェラ・マイルズ ジョン・ギャヴィン
◎剥製は『鳥』
たぶん、中学生のときだったとおもう。
初めて『サイコ』を観た。
話の中身はすぐに忘れてしまったし、よく理解できていなかったかもしれないけど、
どうにもシャワーシーンの恐ろしさが忘れられず、
以来、いまにいたるまで、シャワーのカーテンを閉めるとき、
ふと、この映画をおもいだす。
おもいだすと途端に不安がよぎり、シャワーを浴びてる間中、
カーテンの向こうに誰かいるんじゃないかって気になってる。
トラウマっていうんだろうか。
まったくヒッチコックも恐ろしい場面を考えたもんだ。
大学に入ってから、はじめて『殺しのドレス』を観、
今度はエレベーターまで怖くなったけど、
そのときは『サイコ』の内容はすっかり忘れてて、
実をいえば、ぼくはすっかりブライアン・デ・パルマが御贔屓になってた。
デ・パルマがヒッチコックの崇拝者で、
いたるところにオマージュがあるのはわかってたけど、
どうしてもヒッチコックを現役で観ていなかったぼくは、
デ・パルマ派に属していた。
ところが、かなり年を食ってから、あらためて『サイコ』を見返し、
「すげえ」
いまさらながら、そうおもう始末だった。
今回、映画を見直したのは、ほかでもない。
『ヒッチコック』を観る前の予習のためだ。
にしても、あらためて観ておもうんだけど、
ジャネット・リーが勤めてる不動産会社の金を横領して、
車を買い替えながら逃げてゆく際の緊迫感たるや、尋常じゃないよね。
頭の中がパニックになってるとき、それをさらに、
ほかの登場人物の会話と、通り過ぎる車のヘッドライトで増幅させるところなんざ、
見せられれば「簡単なことじゃん」っておもうけど、
この場面を発想したヒッチコックの才能たるや、余人の追随はおよばない。
殺されたジャネット・リーが浴室のタイルを舐めるように倒れている眼のアップから、
移動とクレーンを駆使して、となりの部屋のベッドの脇の小テーブルまで続く、
きわめて長く流麗なワンカットは、誰も考え出したことのないものだったろう。
車を沼に沈める際、途中で水圧に邪魔されたものか、一瞬、止まったとき、
焦り切ったアンソニー・パーキンスのモンタージュが挟み込まれる上手さもまた、
ヒッチコックがいかに登場人物の焦慮と緊張を考え抜いていたかよくわかる。
そんなひとつひとつのカットについて書いていたらキリがない。
ま、それより注目したいのは、ヴェラ・マイルズの上品さだ。
ヒッチコック・ブロンドは誰も美しいけど、
なによりの条件は品の良さにある。
ジャネット・リーとヴェラ・マイルズを姉妹として並べたとき、
どちらが好みだったかは、一目瞭然じゃないかしら、たぶん。