◎ヒッチコック(2012年 アメリカ 98分)
原題 Hitchcock
staff 原作/スティーヴン・レベロ『アルフレッド・ヒッチコック&ザ・メイキング・オブ・サイコ』
監督/サーシャ・ガヴァシ 脚本/ジョン・マクラフリン
撮影/ジェフ・クローネンウェス 美術/ジュディ・ベッカー
音楽/ダニー・エルフマン 特殊メイク/ハワード・バーガー グレゴリー・ニコテロ
cast アンソニー・ホプキンス ヘレン・ミレン スカーレット・ヨハンソン トニ・コレット
◎1960年6月16日、サイコ封切
実話をもとにした映画は、大きく分けると2種類ある。
告発と讃歌だ。
つまり、
誰も知らないような事実の裏側を暴き露わして、世間に知らしめる物。
誰も知らないような秘話を見つけ出して、当事者を褒め讃える物。
という2種類だけど、この映画はもちろん後者だ。
ただし、讃えられているのは、ヒッチコックではない。
愛すべきサスペンスの神様を支えた妻アルマ・レヴィルで、
要するに、愛夫物語ってわけだよね。
だから『サイコ』のメイキングが前面に押し出されているものの、
そんなものは作品の味付けで、
常に仕事を優先し、同時にかなりの女たらしだった夫が、
ちょっと仕事でかげりが見え始めたとき、
陰に日向に夫を支えてきた妻が発奮し、
壊れかけていた夫婦の絆をふたたび結び直すんだけど、
そこには、どこまでも夫を信じ、夫を誇りにおもっていた妻の愛情があったっていう、
いってみれば古典的な感情のやりとりを主軸にした話になってる。
ハリウッドは、ほんと、定番の崩さないっていうか、王道を歩んだ映画作りをする。
実際、ぼくたちはこの夫婦が必死に作り上げようとしてる『サイコ』を知ってる。
それがどれだけ凄い作品で、全世界を恐怖と興奮に包み込んだかってことも、
そう、何十年も前からよく知ってる。
だから、ヒッチコックがどれだけ悩み苦しんでも、
資金難で崖っぷちに立たされることになっても、
「けど、いいもん食ってたんだな~」とか、
「自分の浮気は棚に上げて、妻の不倫疑惑に苛まれるわけね」とか、
余分なことを考えつつも、まあ、落ち着いて見ていられる。
ただ、アルマが脚本のシノプシスの段階から、
「30分で殺すのよ」とかいう肝心なことまで意見してたとか、
夫の代わりに撮影現場に立ったり、
最初は緊迫感のない作品が仕上がっていたのに、
彼女が編集に参加して、シャワー場面の音響まで口を出していたとか、
へ~そうだったのか~てなこともおもったわけだけど、
これがどこまで事実に即しているのかってことは、実はどうでもいい。
ずたぼろになった夫のために、
才能ある妻がどれだけ奮闘するかって話なんだから。
そのあたりは、アンソニー・ホプキンスとヘレン・ミレンは実に見事で、
まったくもって非の打ちどころがない。
おもわずくすりとしてしまったのは、観客が絶叫する劇場内の声を聞いて、
アンソニー・パーキンスが包丁を振り下ろすように踊る場面だけど、
もうひとつ、ある。
ときどき、スタジオの横を通りかかるブロンドに鴬色の服を着た女性を、
ヒッチコックがむすっとした表情のまま、ちらりと見つめるところだ。
ティッピ・ヘドレンによく似たその女性の登場が暗示するのは、もちろん、
鳥、だ。