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☆=☆☆☆☆☆
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2013年05月11日 02時24分39秒 | 洋画1961~1970年

 ◎鳥(1963年 アメリカ 119分)

 原題 The Birds

 staff 原作/ダフネ・デュ・モーリア『鳥』

     製作・監督/アルフレッド・ヒッチコック 脚本/エヴァン・ハンター

     撮影/ロバート・バークス 特殊撮影/アブ・アイワークス 美術/ジョージ・ミロ

     音響コンサルタント/バーナード・ハーマン

     電子音制作/レミ・ガスマン&オスカー・サラ

 cast ロッド・テイラー ティッピ・ヘドレン ジェシカ・タンディ スザンヌ・プレシェット

 

 ◎なぜ、鳥は人を襲うのか?

「かわいそうだとはおもわないかね。

 罪もないものをこんな籠の中に閉じ込めておいて」

 という冒頭のやりとりだけが、ヒッチコックの考えていることのヒントかもしれない。

 でも、映画ではなんの言及もなされていない。

 ヒッチコック自身、鳥がなぜ人を襲うようになったのか、

 ほんとうはわからなかったかもしれない。

 でも、映画を観た者が「なんで?」と考えることが大事で、

 そうしたら、たぶん、

 ヒッチコックは「思惑どおりだ」とか呟いて、ほくそ笑むんだろう。

 この映画の影響をものすごく受けたとおもわれるのは、手塚治虫だ。

『鳥人大系』はヒッチコックへのオマージュみたいにおもえるし、

『ミクロイドS』は随所に影響の痕が見られるような気がする。

 手塚治虫はよほどヒッチコックが好きだったようで、

 漫画のコマの中にもパロディがなされてるから、たぶん、合ってるだろう。

 もちろん、手塚治虫だけじゃなく、スピルバークの『ジョーズ』もそうで、

 目ん玉えぐられてる死体が浮かぶのは、

 ジェシカ・タンディが家の中で見つけるダンのパロディだもんね。

 いや、実際、子供の頃に観た『ウルトラQ』だったか、

 怪鳥ラルゲユウスの話で『鳥を見た』ってのもあったし、

『ウルトラマン』では『高原竜ヒドラ』が登場して、人を襲った。

 もっとも、そのあたりは人と鳥との因果関係がはっきりしている分、

 この作品ほどの不条理さはないような気がする。

 ま、そんなことを挙げてたらきりがないからやめるけど、

 映画は、最初、ラブバードがらみの恋愛話みたいにして始まる。

 サンフランシスコ郊外のボデガ湾は、絵みたいに美しい。

 けど、どことはなしに寒々とし、美しい恐怖が到来するにはもってこいの風光だ。

 そう、恐怖は人知れず、徐々に静かにやってくる。

 だから、怖いんだよね。

 画面もまた秀逸だ。

 ダンの死体が発見されてから、ジェシカ・タンディがトラックを運転して、

 田舎道を疾走していくところなんざ、

 緑の遠景の中、ぱあっと白い砂塵が上がってゆく。

 その緑と白のコントラストといったら、ない。

 大爆発しているガソリンスタンドの上空、

 俯瞰しているカメラに、1羽また1羽とカモメがフレームインしてきて、

 やがて大編隊が急降下して襲撃に入る。

 この徐々に忍び寄ってくる恐怖の見事なこと。

 ティッピ・ヘドレンが教会の前のベンチで煙草をふかしていると、

 その背後のジャングルジムに1羽また1羽とカラスが停まるんだけど、

 子供たちの歌声が被さってきて、それが美しいために、一層恐怖が増す。

 いや、

 この映画のなにより凄いところは、劇中で奏でられるのは別にして、

 音楽がいっさいないことだ。

 音響効果だけですべてを表現してるんだから、凄すぎる。

 ちなみに、

 ティッピ・ヘドレン演じるところのお金持ちのお嬢さんは、

 高慢ちきで、嫌味で、勝気で、意地悪で、芝居がかってて、鼻もちならない。

 恋に落ちるロッド・テイラーの母親ジェシカ・タンディが、

 この娘、気に入らないわ、とおもうのは無理もない。

 でも、世の男は、年を食えば食うほど、

 こういう、本心を隠して取り澄ました不届き女が好きになるものなんだろうか?

 なにかといえば細い足を組み(ボートを操縦しても)煙草をふかし、

 ガソリンをまきちらすオープンカーを乗り回す。

 なにからなにまで小憎たらしい女の設定になってるんだけど、

 ヒッチコックはどうやら、そういう高嶺の花のような女性が好きだったらしい。

 いつかかならず、どこかの時点で塩らしくなると期待させながらも、

 いっこうにふりむいてくれない女性を落としたいとおもっていたのかも。

 だから、ラストの脱出場面では、

 ずたぼろになった息子の恋人を、

 母親がひしと抱きかかえながら車に乗り込み、

 最初は気に食わないのにやがてはお互いに認め合い、理解しあい、

 そしていたわり合うんだという演出に持っていってるんだろう。

 でも、だいたいの場合、そういう女に憧れる男は、ふられる運命にある。

 このヒロインはティッピ・ヘドレンにために造形されたように見えるんだけど、

 結局、ヒッチコックはふられるんだよね、現実のティッピに。

 ま、それについてはともかく、 

 世にも恐ろしい鳥パニックから逃れるために、

 ティッピはテイラーの一家と共にサンフランシスコの市街へ逃げ出すんだけど、

 ヒッチコックは、もともと、映画のラストシーンはこう考えていたそうだ。

 金門橋が鳥で覆い尽くされるんだ、と。

 そうしてほしかったわ~。

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