◎鑑定士と顔のない依頼人(2013年 イタリア 131分)
原題 La migliore offerta
英題 The Best Offer
staff 監督・脚本/ジュゼッペ・トルナトーレ
撮影/ファビオ・ザマリオン 美術/マウリツィオ・サバティーニ
衣装/マウリツィオ・ミレノッティ 音楽/エンニオ・モリコーネ
cast ジェフリー・ラッシュ ジム・スタージェス シルヴィア・フークス ドナルド・サザーランド
◎カフェ「ナイト&デイ」は閉店
「おひとりさまですか?」
「いや、連れを待っているんだ」
映画を観終わって、
いくらなんでもあの内装はセットだろう、と勝手におもってたら、
どうやら、プラハに実在するビアホールだかビアハウスだかの、
ロケセットだったらしい。
ただし、2013年の夏に閉店したんだとか。
誰か、この映画を気に入った人がいたら、
買い取ってロケセットを復活させればいいのに。
エンニオ・モリコーネのぶきみな旋律がくりかえし奏でられる中、
緻密に計画された悪巧みが静かにかつ正確に進められてゆくのを、
ぼくたちはじっと耐えながら見つめていくわけだけれども、
こうしたじれったさを緊張感と呼ぶのかどうかよくわからない。
鑑定士、故買、隠し部屋、贋作、廃屋、広場恐怖症、歯車、修理屋、機械人形、美女、
とかいう事物がつぎつぎに登場し、そこにあきらかに、
鼻持ちならない鑑定眼と自負心を併せ持った人嫌いで初老の童貞鑑定士と、
鑑定士の独自の価値判断によって一流画家への道を断たれた贋作師と、
機械修理の腕前は超一流ながら次々に女を替えている一見優しげな色男と、
莫大な遺産を持つことになった広場恐怖症で純粋無垢の美人作家とが出てくれば、
これはもう当然のことながら、
この鑑定士が、贋作師と修理屋と遺産相続人の共謀に嵌められるんだろな~、
という予想が働くわけで、あとはそれがいつ勃発するかっていう興味に変わる。
この作品の愉しみ方はそういうもので、
ちょっとずつ小出しにされてくる嵌める直前の設定について、
あれ、予想ちがいかな、とおもわせる場面が随所に挿入されてるんだけど、
いやいやそんなことには騙されないぞと自分に言い聞かせつつ、
徐々に正体を現してくるカタストロフィへの罠の断片を観て、
そうだろ、そういうことだよな、と自分で納得していくわけだ。
ただ、
実をいうと、ぼくはこれは前半の話だとおもってた。
隠し部屋に収蔵してある大量の女性の肖像画と裸体画の、
つまり、世界中の美術館にあるのは偽物だという前提のもとに、
その本物をまんまと盗み盗られてしまった鑑定士が、
老いた身体に鞭打って必死になって探し始め、やがて追い詰めるんだけど、
しかし、その途中から、
自分の行動は復讐心によるものなのかそれとも恋心によるものなのか、
まるでわからなくなり、最後の最後に追い詰め、復讐を果たそうとするとき、
生まれて初めて抱いた恋心がおもわぬ作用をひきおこしてしまうとかいう、
長々しい話だとおもってたんだけどな~。
げにおそろしきは美人なりけりっていう哀れな老人の話だったわ。