若い頃、出張先の大阪でハネムーン症候群(honeymooner's palsy)と呼ばれる病気になった。
ハネムーンに行ったわけでも、何か悪いことをしたわけでも、ない。
仕事が成功し、二次会のスナックでソファーで小一時間、酔い潰れていただけだ。
気がつくと、右の手首から先の感覚が無く、ダランと垂れ下がっていた。
肘掛けに30 分ほど、もたれかかっていたそうだ。
「おかしいな、直ぐに治るだろう」と思って宿に戻ったが、翌朝、手が動かないことで愕然とした。
家に戻りカミさんに報告すると、医師でもないのに、カミさんは「ハネムーン症候群」という病状を知っていた。
「いったい、大阪で何をしていたのか」と、鋭い追及が来た。
疑問は、もっともである。
「ハネムーン症候群」という病名は、「ハネムーンで腕枕をした時になる、橈骨(とうこつ)神経麻痺だ」とカミさんは言う。
アメリカ映画で主人公が美女を腕枕するシーンが出てくるが、それを大勢の米国人が真似て、名付けられた病気なのだろうか。
近所の整形外科に受診した。全治3ヶ月と言う。それまでの間、型取りしてギブスで右手を固定することになる。
視線を感じ気がつくと、看護師さんたちが私を見て笑顔になっている。「ハネムーン症候群、いるんだ。」という感じだ。看護学校の授業で、この病名は習うらしい。笑いがとれる病気なのだ。
そんな病気と知ると、耳まで赤くなった。
身の潔白を晴らさなければ、ならない。
医学書を求めて、神保町三省堂、新宿紀伊國屋など、専門書のある本屋を回った。しかし、どの本も、「ハネムーン症候群」以外の記載はない。
そして、東京駅近くの八重洲ブックセンターで、とうとう見つけた。
橈骨神経麻痺は、「ハネムーン症候群」または、「サタデーナイト症候群(Saturday night palsy)とも呼ばれる」と書いてあった。
働き詰めのサラリーマンが、土曜日の夜に帰宅し、疲れ果てて悪い姿勢のまま小一時間眠ってしまった時になる神経麻痺だ。
私は、ハネムーン症候群ではなく、サタデーナイト症候群の方なのだ。
身の潔白をこの医学書が証明してくれる。数万円もする図書は購入できないが、カミさんにはキチンと報告した。今ならWebで直ぐに探せて、サタデーナイト症候群も明記されており、便利なものだ。
今日、右手の筋電図検査を受けて、昔のことを思い出した。