【塘路(とうろ)ネイチャーセンターの「よりみちコース」】
釧路湿原国立公園の五十石から茅沼まで約8.5キロメートルの釧路川をカヌーで下ります。
釧路川は、弟子屈町の屈斜路湖が源流です。
ガイドさんと3人でライフジャケットを装備し、カヌーに乗ります。
塘路はアイヌ語の「トー湖(沼)・オロの所」が由来。湖(沼)の所という意味です。
【釧路湿原の野鳥】
朝早いので、河畔の森からは鳥が姿を現し、鳴き声、さえずりが聞こえます。
ガイドさんが次々と鳥の名前や生態を教えてくれます。
かわいい親子連れをみて「カルガモの親子ですか?」と聞いたら、「カワアイサの親子」だった。
「いま鳴いたのはキジバトですか?」と聞いたら、ツツドリだった。「お茶筒の底を叩いたように、ポポ、ポポと鳴くのでツツドリ。カッコウの仲間で托卵をする。」
「川沿いは柳の木が多いので、センダイムシクイが多い。」
「いま鳴いたのはエゾセンニュウ。「ジョッピン(北海道弁で鍵)・カケタカ」と聞こえる。」
「カッコウはウグイスとセットです。ウグイスに托卵する(自分の卵の世話を代行させる)。産む際にウグイスの卵を1個だけ落っことす。」
覚えきれないほど詳しいね。
パドリングは、ゆっくりです。
緩やかな川の流れに乗ります。所々で流速が変化しカヌーの向きが変わるので、向きを整えるように漕ぎます。
【河川改修された直線的な河道】
やがて右側の視界が開け、広大な釧路湿原が見えてきました。
景観的には単調ですね。鳥の種類も少なく感じます。
突然、近くで、タンチョウヅルの鳴き声が響き渡ります。
「タンチョウヅルは、毎年同じ所に営巣する。今年は子育て失敗したので夫婦で出てきて餌を採っているところ。今日カヌーが来る予定だったのかと、ちょっと驚いている感じ。」
姿は見えませんが、ガイドさんは野鳥の住処までよく知っている。
【休憩タイム】
いつのまにか1時間30分ほど経過していました。中州に立ち寄って、途中休憩です。
憧れの釧路湿原のカヌー。
ガイドさん手作りのマフィンと温かいコーヒーが格別です。
動植物に詳しいガイドさん。
「自宅付近で野鳥は、ゴミをあさるカラスと人から餌をもらうハトくらい。雀も見かけなくなった。」というと、
「カラスは、動物の死骸を処理してくれる、なくてはならない大切な存在」と教えてくれました。
「寒さが厳しい北海道では、カラスも越冬が大変」だとか。
休憩後は、旧河川へ「よりみち」です。
【旧河川】
五十石と茅沼の間には探検できる側流や古川(旧河川)がいっぱいあり、そこへ寄り道します。
左側に回って、少し戻るような感じです。
昔の釧路川は、こんな風に狭く、蛇行していました。
枯れた木
旧川には、枯れた木があります。ぶつからないように漕ぎます。
魚にとっては、好都合の環境ですね。
川に倒れる樹木。魚つき林ですね。
「魚つき」とは、川面に森林の影が映ることによって、魚が集まる効果。
釧網本線
旧河川にギリギリまで線路が迫っています。
そんな理由もあったのでしょうか。
釧路川は蛇行(右側)から直線(左側)に付け替えられました。
さっきの直線的な河川から、左折して、旧河川に寄り道して、JR近くまで来ています。
【河川の直線化の理由と課題】
蛇行する河川は、豪雨時の大量の水の勢いで氾濫するので、河川改修事業では真っ直ぐの川に付け替えます。
東京や大阪など大都市の河川は、古くから直線化と拡幅により、人口集積地に氾濫しないように改修してきました(水を治める者は、国を治める)。
釧路湿原の上流部(開発地に近いところ)でも、川の本流を直線にした箇所があります。
しかし、釧路湿原は釧路川の氾濫の繰り返しにょって、広大な湿原が形成されてきました。
氾濫しなくなると、釧路湿原は将来どうなってしまうのでしょうか。
【釧路湿原自然再生事業(茅沼地区旧川復元)】
釧路川茅沼地区の旧川復元 ―自然再生事業における目標設定からモニタリングまでの技術資料― 釧路湿原自然再生協議会 河川環境再生小委員会(令和6年3月)より
直線化した河川を元の蛇行した河川に戻すことにより、湿原の保全、再生をする試みです。
茅沼地区は、釧路川の釧路湿原の流入部に位置しています。
1947年、茅沼地区の釧路川は蛇行していました。
1980年、周辺の農地開発等を目的に河道の拡幅、直線化工事が竣工。
しかし、川が直線化したことで次の問題が生じました。
1 湿原植生の変化
ヨシ群落などが主体であった河道周辺にハンノキ林が増加した。
2 湿原内部への土砂流入量の増加
釧路川は流域面積が大きく移動土砂量が多いことに加え、直線化により蛇行部分での氾濫が減り、洪水時の土砂が湿原内部に直接流入しやすくなった。
3 魚類生息環境の劣化
直線化された河道では河床地形に多様性が少なく、特に自然の蛇行河道に見られる湾曲部での深みのような大型魚類の生息環境が乏しい。
4 多様な河川景観の喪失
川幅が広い直線河道になったことで、蛇行した自然河道と比べて単調な景観となった。
上記の課題に対応し、目標を定め、2007年から4年間かけて、直線化した釧路川1.6kmを蛇行した流れ2.4kmに戻す事業を実施。
1 川の氾濫による湿原植生の再生(50-100年後)
冠水頻度の増加や地下水位の上昇により、ミゾソバ、ヨシ等の湿原植生が旧川復元前に比べ、約30ha回復している。
2 湿原中心部への土砂の流入などの軽減
2011年9月の出水(台風15号)時には旧川の復元区間で氾濫し土砂が堆積したため、茅沼地区上流から河道をとおり湿原中心部へ流入する土砂が約9割軽減された。
10年間通してのモニタリングでは、湿原中心部への土砂流入量が復元前に比べて4割軽減を確認。
3 瀬や淵など本来の魚類などの生息環境の復元
幅が狭く深みや浅場のある変化に富んだ河道になり、水深の深い場所や浅い場所、流速の早い場所や遅い場所が創出される。川底材料の粒径は河道の流れに応じて、川底の質が変化することにより、多様な環境が形成される。
流速、瀬や淵、河床材料によって魚類の生息適地が異なる。多様な生息環境の復元により、多くの魚類が生息できるようになった。復元前には確認できなかったシベリアヤツメ、エゾホトケドジョウ、イトウなどが確認された。
4 湿原景観の復元
流れが蛇行し、水面幅は狭くなり、河岸には河畔林が回復し、河畔林と後背湿地からなる湿原らしい景観に変化してきている。
【復元した河川】
ここからは、復元した釧路川をカヌーで下ります。
湿原らしい環境が戻りつつあることが確認でき、旧川復元の効果を実感。
北海道の河川事業は、先進的ですね。すごいなあ。
洪水、氾濫で枯れた樹木も、意味があることを物語ってます。
【より道コース】
釧路湿原の一般的なカヌーコースより上流部を探索します。
特徴は、1)古い釧路川、2)改修して直線化した釧路川、3)直線を元に戻した復元河川の3カ所を、ガイドさんのお話を聞きながらカヌー下りできます。
他のカヌーとほとんど出会うこともなく、たくさんの鳥たちと出会えました。
自然再生事業の目的や改修の効果は、前述のネットで公開されています。自然を科学的に捉え、将来を予測し、事業の内容と効果を10年間のモニタリング結果を見ることができます。