「邦楽ジャーナル」2017年12月号にクリストファー遥盟氏が寄稿。
「巨匠、その人と音楽」と題するシリーズの4「海童道祖」。
なんと、尺八家の多くが神とも仰ぎ、心酔する海童道祖のエピソード。
1992年アメリカの尺八収集家ダン・メイヤーズ氏から
「海童道祖に会わせて欲しい、そして通訳を」との依頼を受けた。
メイヤーズ氏は大金持ち、大金をはたいて海童から手書きの楽譜を
購入し、それを高く転売して儲ける魂胆。
海童は、まず「俺のことを老師と呼んでくれ」と。そして
「日本の尺八界で 本物は俺だけ。他は皆インチキ」とも。
海童は できるだけ楽譜を高く売りつけようとする。
商談が済んで、メイヤーズ氏が食事に誘うと、海童はしばらく
考えて、断ったあげく、めし代の 5,000を 要求した。
これにはクリスは、驚きあきれた。海童に抱いてきた崇高な
イメージとは真逆。うんざりして、帰り際に「あなたは、
自分のことしか考えないペテン師だ!」と言ってしまった。
海童は しばらく黙っていて、怒鳴り出すか、棒で叩かれるか
と思ったが、老師の顔に泉が湧き出るような笑いがジワジワと現れて、
「本当のことを言ったな。君は悟った。エライッ!」と。
「僕は思った、この人スゴイ」とクリスは結んでいる。
この話。なかなか面白い。私も海童道祖はペテン師だと思っている。
前衛哲理だの、ちんぷんかんぷんな訳のわからない言葉を並べ
立てて、多くの人をケムに巻き、ひとり悦に入っている。
しかし、そこが海童のスゴイところ。
まさに「普化」の再来じゃ。