時代設定を松平定信時代の両替商とそれを取り締まる側の役人との話。主人公は先物取引で失敗した上役の責任を代わりに被って引責辞任した役人で、武士の給金と武士相手の金貸しを行っている両替商との駆け引きでストーリーを作っている。
漫画とならんでミステリーや時代小説がブームだが小説家のなかでも山本一力は清々しい作品を世に出している。
「損料屋喜八郎始末控え」の文中、「江戸屋から蓬莱橋までは八町余りだ。さほどでもない道のりを、喜八郎は四半刻もかけて歩いた。嘉介にどう切り出せばいいか、その言葉が重かったからだ。
江戸屋には公家の一件で大きな借りがあった。その江戸屋の女将からの頼まれごとだ、引き受けることには、いささかのためらいもなかった。しかし、ことを進めるには嘉介の手と、探りの連中をわずらわせることになる。それで喜八郎は迷っていた。
このたびのことは、米屋にも札差にもかかわりのないことだった。それなのに、片付けるには先代政吉が遺してくれた仕組みを使わざるを得ないのだ。探りの面々は、嘉介が大切に育ててきた繋がりでもある。
いかに借りがある相手とはいえ、それらを勝手に使うことが許されるだろうか・・・・・」と主人公である喜八郎は決断を逡巡する。
が、喜八郎は
「『手の空いているものに、江戸屋さんの清次郎さんを当たらせてくれ』
『それはまた、どうしたことで』
『女将から頼まれた』
『えっ・・・・・』
案の定、嘉介は言葉を詰まらせた。が、すぐに表情を戻し、あらましを聞き取る段では要所を漏らさず書き取った。
話を聞き終えた嘉介は、筆を矢立に戻してから喜八郎を黙って見詰めた。喜八郎も静かにそれを受け止めた。嘉介の目がわずかに潤んで見えた。」
と嘉介は喜八郎の頼みを「喜八郎の胸のうちを掬い取るような嘉介の応え方だった。」と引き受けるさまが、なんともすがすがしい。本来の依頼でない仕事を頼むことを悩む喜八郎も矜持をたもった姿勢が潔い。
漫画とならんでミステリーや時代小説がブームだが小説家のなかでも山本一力は清々しい作品を世に出している。
「損料屋喜八郎始末控え」の文中、「江戸屋から蓬莱橋までは八町余りだ。さほどでもない道のりを、喜八郎は四半刻もかけて歩いた。嘉介にどう切り出せばいいか、その言葉が重かったからだ。
江戸屋には公家の一件で大きな借りがあった。その江戸屋の女将からの頼まれごとだ、引き受けることには、いささかのためらいもなかった。しかし、ことを進めるには嘉介の手と、探りの連中をわずらわせることになる。それで喜八郎は迷っていた。
このたびのことは、米屋にも札差にもかかわりのないことだった。それなのに、片付けるには先代政吉が遺してくれた仕組みを使わざるを得ないのだ。探りの面々は、嘉介が大切に育ててきた繋がりでもある。
いかに借りがある相手とはいえ、それらを勝手に使うことが許されるだろうか・・・・・」と主人公である喜八郎は決断を逡巡する。
が、喜八郎は
「『手の空いているものに、江戸屋さんの清次郎さんを当たらせてくれ』
『それはまた、どうしたことで』
『女将から頼まれた』
『えっ・・・・・』
案の定、嘉介は言葉を詰まらせた。が、すぐに表情を戻し、あらましを聞き取る段では要所を漏らさず書き取った。
話を聞き終えた嘉介は、筆を矢立に戻してから喜八郎を黙って見詰めた。喜八郎も静かにそれを受け止めた。嘉介の目がわずかに潤んで見えた。」
と嘉介は喜八郎の頼みを「喜八郎の胸のうちを掬い取るような嘉介の応え方だった。」と引き受けるさまが、なんともすがすがしい。本来の依頼でない仕事を頼むことを悩む喜八郎も矜持をたもった姿勢が潔い。