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特別展「神業ニッポン 明治のやきもの-幻の横浜焼・東京焼-」~滋賀県立陶芸の森 陶芸館~

2021-04-21 17:50:50 | アート・ライブ・読書
 1859年の横浜港が開港して、日本の近代化が始まると外国人や海外への輸出向けの陶芸関係の業者が集まり、「横浜焼・東京焼」と呼ばれる陶芸品が販売されるようになったようです。
「横浜焼・東京焼」は、絵付けや装飾を凝らした海外向けの華やかな陶磁器だといわれますが、輸出向けという性質上、日本に現存する作品が少ないとされます。

また、「横浜焼・東京焼」はブームが去ったことや時代の流れもあって姿を消してしまい、「幻の陶磁器」とも呼ばれています。
「神業ニッポン 明治のやきもの 幻の横浜焼・東京焼展」ではコレクター田邊哲人氏のコレクションや現存する作品を精選した特別展で、横浜・兵庫・茨城・岐阜・信楽(滋賀)を巡回しています。



「信楽陶芸の森」は陶芸専門の美術館「陶芸館」、信楽焼のショップ&ギャラリーの「信楽産業展示館」、製作スタジオ「創作研修館」や広大な公園を有する施設で、今回の美術展は「陶芸館」で開催されています。
山に囲まれた信楽という土地柄上、「陶芸館」までは急な石段を登っていくことになりますが、陶芸の森の各所に陶芸作品が屋外展示されているので、楽しみながら急坂を登るといった場所です。

陶芸の森の最上部に「陶芸館」はあり、建物が見えてくると同時に巨大な手の陶芸作品が目に入ってきます。
巨大な手は「天地(あめつち)のことば」という作品で、作者の吉村敏治さんは独創的な器も造られますが、オブジエ作品も数多く造られている方だそうです。



「陶芸館」の前にはアルゼンチンの女性陶芸家 ヴィルマ・ヴィラバーデさんの「JUMP」が展示されており、その個性的な作品の面白さにひかれます。
主に人物像の作品が多いようですが、便器を衣服のように着用した作品や手洗いと顔が合体していたり、乳房の部分だけが手洗いに浮いていたりと独創的な作品を造られる作家のようです。



入口には記念撮影コーナーが設けられており、中ではコロナ対策も行われていたものの、展示を見ていた間に来場者は当方も含めて2人だけ。
監視員の方と同数ですが、これだけの特別展にしては少なすぎると思いつつも、ゆっくりと見られる利点の方が大きかった。



特別展は下記の構成となっており、見たかったのは宮川香山の作品群になります。
以前に近江八幡市のボーダレス・アートミュジアムNO-MAで開催された「Co-LAB #1,2,3」で見た桝本佳子さんの「高浮彫」作品に衝撃を受けたこと。
その「高浮彫」のルーツともいえる宮川香山作品を見る機会が今回出来たことで楽しみにしていた特別展です。
特別展は「横浜焼・東京焼」の多岐に渡る作品が展示されていますが、2作品を除いて撮影禁止ですのでリーフレットの裏面がそのダイジェストです。

序章 ~横浜開港~「Made in Japan」世界へ発信 
第Ⅰ章 ~万国博覧会デビュー~ 東京錦窯の誕生
第Ⅱ章 ~宮川香山と井村彦次郎~ 横浜焼・横浜絵付のはじまり
第Ⅲ章 ~輸出陶磁器の隆盛~ 東京焼・東京絵付の精華
第Ⅳ章 ~驚異の横浜絵付~ 陶磁器商、陶磁画工の台頭  



「横浜焼・東京焼」を含めた日本の美術工芸品は、1867年のパリ万博や1873年のウィーン万博に出展されてジャポニズム・ブームを巻き起こし、西洋の芸術家に影響を与えたといいます。
1876年のフィラデルフィア万国博覧会に出展された宮川香山作品は銅牌を受章したといい、高浮彫の宮川香山(眞葛焼)は絶賛されたといいます。

西洋でジャポニズム・ブームが終焉を迎え、アール・ヌーボーの時代に開催された1900年のパリ万博でも宮川香山は金牌を受章したといいますので、ブームを越えて評価された作家ということになります。
高浮彫の宮川香山作品は、“実用性のない飾られるためだけに作られた器”といえますが、器に立体的な日本的な美を折り込んだ作品の美しさには惚れ惚れとしてしまいます。



「高浮彫桜鷺足付大花瓶」は撮影が可能な2つの作品のうちの一つです。
奇想の造形とまで呼ばれるこの花瓶の華やかな装飾の中心にはシラサギが貼り付けられています。



壺の側面には2羽の小鳥。
スズメのようでスズメでない。何の鳥なんでしょうね。



縦横に伸びているのは桜の枝。所々に咲いている花は綺麗なピンク色をしていますので河津桜かも?
裏側から見ると空間が増えて、また趣が違います。



壺の下部を見ると4本の鷺足が付いたにぎやかな装飾になっています。
瓢箪型の装飾には「眞葛香山」の銘が読み取れますね。



香山の高浮彫の作品には「高浮彫長命茸採取大花瓶」が興味深く、岸壁の上から縄で吊るされて茸を採取する人が数人貼り付けられており、横には瀑布というべき大きな滝が流れ落ちています。
ただ、高浮彫の作品の製作には完成まで何年もかかってしまうことから、香山は清朝の磁器を研究し、「釉下彩(ゆうかさい)」という技法を使った作品に移行していったようです。

さて、「横浜焼・東京焼」には花瓶の他にも茶器セットがありますが、これは西洋の客を意識したティーポットやカップのセットになります。
様式としては西洋スタイルのものとはいえ、描かれた絵柄は日本的なものが多いようです。



花瓶も茶器も鳥を描かれたものが多く、他のものとしては忠臣蔵の場面を描いたシリーズの皿や江戸の町の様子を描いたものも数多くありました。
下は魚と蛸を描いたポットで、蛸は西洋で「悪魔の魚」として忌み嫌われていると聞きますが、どういう反応だったのでしょうか。



茶碗の中には沢蟹の姿。
一概に「横浜焼・東京焼」といっても作品は多岐に渡り、表現方法の違いや変化がよく分かる構成になっている特別展でした。
「横浜焼・東京焼」はほぼ消滅したとされる中で、今も高浮彫の手法に影響を受けた作家が作品を造り続けられているのはそれだけ魅力があったということなのでしょう。



最後に今回の美術展が開催された「陶芸館」から陶芸の森を見おろす。
駐車場まで随分と遠そうだ。





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