佐藤勝彦著「宇宙論入門-誕生から未来へ」2008年11月発行、岩波新書1161を読んだ。
表紙の裏にはこうある。
私は宇宙論が好きだ。ただし、現在の宇宙論はロマンチックというより量子論が主で、数学的には複雑すぎてとてもついていけない。数式のない解説本を読むに過ぎないのだが。
この本にも記載があるランドール、ビレンケンなどの本を読んできた。
「『量子の世界』を読む」、 「『ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く』を途中まで読む」、 「 『多世界宇宙の探検』を読む」、「池内了『宇宙論のすべて』を読む」
佐藤勝彦さんのこの本は、少なくともこれらの本より、宇宙論全体を要領よくカバーし、分かりやすい上に、読んで素人が抱く疑問をその後すぐ解決してくれる。そして、なにより最新の研究成果を、いまだ定説となっていないものでも、紹介しているのが、上記の本と異なる。
佐藤勝彦は、1945年生まれ。1968年京都大学理学部卒。1979~80年デンマーク、北欧理論物理学研究所客員教授。1982年東京大学理学部助教授。1990年同教授。東京大学大学院理学系研究科教授。
グースと同時期にインフレーション宇宙論を提唱した世界的権威。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)
宇宙に興味のある人なら誰にでも面白く読める。ただし、細かいことにこだわらず、大意を取るようにしないと、極めて高度な内容の説明なのだから、ひっかかってしまう。
以下、後半の研究進展中、論争中の話題をいくつかあげる。
フェルミのパラドックス
広い宇宙は知的生命体で満ちあふれているはずだから、「なぜ私たちは訪れられないのか?というフェルミのパラドックスがある。答えはいろいろある。
実は彼らは訪れているのだが、人類から身を隠しているという考えや、宇宙旅行は危険で困難なのでやってこないという考えがある。もっとも一般的なのは、生命は極めて小さな確率でしか発生しないから地球以外には存在しないという考えだろう。
著者の佐藤文彦さんは、「知的生命体の社会は、高度な文明を獲得してとき自滅する」と考える。電波に信号を乗せて発することができるようになった知的生命体は100年程度で自滅する。
偶然性問題
インフレーションが終わったころには、物質エネルギー密度は現在より100桁以上高かった。これが、まさに現在の時点で100桁ほど小さくなって、ちょうど真空のエネルギーと同じ桁になった(値は真空のエネルギーが3倍ほど大きいが)。何の関係もない両者の値が、たまたま現在時点で桁が一致している。この問題は、偶然性問題と呼ばれている。
人間原理 anthropic principle
無数にある宇宙の中で、認識主体となる人間が生まれる条件を満たすものは極めてまれだ。ただし、宇宙は人間が生まれるようにデザインされているという目的論的な主張をする人もいる。
マルチバース
無限に宇宙があるという宇宙像をマルチバース multiverse (← universe 宇宙)と呼ぶ。
超ひも理論に基づくブレーン宇宙モデルでは、私たちの宇宙は10次元、もしくは11次元時空に浮かぶ膜の世界だ。一般に複数の膜宇宙が存在し、その間を行き来できるのは重力子だけだ。
ビッグクランチ
われわれの太陽は、あと50億年もすれば、大きな赤色巨星になって、地球も呑み込んでしまう。最後の最後には、宇宙は縮んでブラックホールがどんどん大きくなり、ビッグクランチ直前には時空全体が潰れてしまう。
暗黒エネルギーの量
宇宙を構成するエネルギーの中で物質とエネルギーの割合は、晴れ上がりの宇宙で暗黒物質63%、ニュートリノと光子25%、ふつうの物質12%だったのに、暗黒エネルギー73%、暗黒物質23%、ふつうの物質は4%になっていて、宇宙膨張を決めるものはもはや物質ではなく、暗黒エネルギーになっている。
蛇足の蛇足
第二次大戦中、戦局がやや好転しはじめたころ、軍人の心を引き締めるためにチャーチル首相が言った「始まりの終わり」という言葉が紹介されている。宇宙論はまさにこれからが面白いと著者はいう。
“ Now this is not the end. It is not even the beginning of the end. But it is, perhaps, the end of the beginning. “
表紙の裏にはこうある。
アインシュタイン以来約100年で、137億年という宇宙の歴史が明らかになってきた。その研究史は逆転につぐ逆転の連続であり、現在は暗黒エネルギーの支配という深く謎めいた状況にある。はたして謎は解けるのか?日本の第一人者が理論と観測の最前線を展望し、宇宙と人類のはるかな未来を考察する
私は宇宙論が好きだ。ただし、現在の宇宙論はロマンチックというより量子論が主で、数学的には複雑すぎてとてもついていけない。数式のない解説本を読むに過ぎないのだが。
この本にも記載があるランドール、ビレンケンなどの本を読んできた。
「『量子の世界』を読む」、 「『ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く』を途中まで読む」、 「 『多世界宇宙の探検』を読む」、「池内了『宇宙論のすべて』を読む」
佐藤勝彦さんのこの本は、少なくともこれらの本より、宇宙論全体を要領よくカバーし、分かりやすい上に、読んで素人が抱く疑問をその後すぐ解決してくれる。そして、なにより最新の研究成果を、いまだ定説となっていないものでも、紹介しているのが、上記の本と異なる。
佐藤勝彦は、1945年生まれ。1968年京都大学理学部卒。1979~80年デンマーク、北欧理論物理学研究所客員教授。1982年東京大学理学部助教授。1990年同教授。東京大学大学院理学系研究科教授。
グースと同時期にインフレーション宇宙論を提唱した世界的権威。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)
宇宙に興味のある人なら誰にでも面白く読める。ただし、細かいことにこだわらず、大意を取るようにしないと、極めて高度な内容の説明なのだから、ひっかかってしまう。
以下、後半の研究進展中、論争中の話題をいくつかあげる。
フェルミのパラドックス
広い宇宙は知的生命体で満ちあふれているはずだから、「なぜ私たちは訪れられないのか?というフェルミのパラドックスがある。答えはいろいろある。
実は彼らは訪れているのだが、人類から身を隠しているという考えや、宇宙旅行は危険で困難なのでやってこないという考えがある。もっとも一般的なのは、生命は極めて小さな確率でしか発生しないから地球以外には存在しないという考えだろう。
著者の佐藤文彦さんは、「知的生命体の社会は、高度な文明を獲得してとき自滅する」と考える。電波に信号を乗せて発することができるようになった知的生命体は100年程度で自滅する。
偶然性問題
インフレーションが終わったころには、物質エネルギー密度は現在より100桁以上高かった。これが、まさに現在の時点で100桁ほど小さくなって、ちょうど真空のエネルギーと同じ桁になった(値は真空のエネルギーが3倍ほど大きいが)。何の関係もない両者の値が、たまたま現在時点で桁が一致している。この問題は、偶然性問題と呼ばれている。
人間原理 anthropic principle
無数にある宇宙の中で、認識主体となる人間が生まれる条件を満たすものは極めてまれだ。ただし、宇宙は人間が生まれるようにデザインされているという目的論的な主張をする人もいる。
マルチバース
無限に宇宙があるという宇宙像をマルチバース multiverse (← universe 宇宙)と呼ぶ。
超ひも理論に基づくブレーン宇宙モデルでは、私たちの宇宙は10次元、もしくは11次元時空に浮かぶ膜の世界だ。一般に複数の膜宇宙が存在し、その間を行き来できるのは重力子だけだ。
ビッグクランチ
われわれの太陽は、あと50億年もすれば、大きな赤色巨星になって、地球も呑み込んでしまう。最後の最後には、宇宙は縮んでブラックホールがどんどん大きくなり、ビッグクランチ直前には時空全体が潰れてしまう。
暗黒エネルギーの量
宇宙を構成するエネルギーの中で物質とエネルギーの割合は、晴れ上がりの宇宙で暗黒物質63%、ニュートリノと光子25%、ふつうの物質12%だったのに、暗黒エネルギー73%、暗黒物質23%、ふつうの物質は4%になっていて、宇宙膨張を決めるものはもはや物質ではなく、暗黒エネルギーになっている。
蛇足の蛇足
第二次大戦中、戦局がやや好転しはじめたころ、軍人の心を引き締めるためにチャーチル首相が言った「始まりの終わり」という言葉が紹介されている。宇宙論はまさにこれからが面白いと著者はいう。
“ Now this is not the end. It is not even the beginning of the end. But it is, perhaps, the end of the beginning. “