hiyamizu's blog

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角田光代『空の拳』を読む

2013年05月02日 | 読書2

角田光代著『空の拳』(2012年10月日本経済新聞社発行)を読む

大手出版社に就職した那波田空也(なわたくうや)は、文芸編集志望だが、入社3年目で異動を命じられたのはボクシング雑誌の編集部。くさりながらも、彼は取材を始め、同時に近くのボクシングジムにも通い出す。そこは小さく、フィットネス目的の人に少数のプロ志望の者が混じる、さえないジムだった。

派手な人気もなく金にもならず、アルバイトで稼ぎながら先の見えないもっとも過酷なスポーツに打ち込む20代のボクサーたち。空也は、プロになる気はまったくないまま、下手ながら自らも体を動かして、そしてまじかでプロの練習、試合を見て、仲間として付き合ううちに、空也なりにボクシングの世界に飲み込まれていく。

主人公は空也で、彼の視点で語られる物語なのだが、真の主役は、同じジムのプロ選手、そしてその試合だ。
派手なパフォーマンスで注目されるタイガー立花、子供のころからジムに通っている中神、抜群の運動神経で新入生らしからぬ坂本。彼らの新人王戦、デビュー戦、4回戦、・・・、戦いと成長、ジムの思惑が主役なのだ。

読んでいて実際の主役は、多くのボクシングの試合場面だと思った。著者の角田さんが描きたかったのも試合場面なのではないだろうか。
「私がもっとも美しいと思うスポーツはボクシングだ」といい、ジムに10年以上通い続ける著者が、描くことで昇華したボクシング魂。力いっぱい描いたボクシングシーンが連続する。

初出:日本経済新聞夕刊2010年12月15日~2012年2月1日



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

ボクシングの試合シーンの多いこの小説、いくらなんでも女性にはお勧めできない。ストーリーテイラーの角田さんのお得意技が抑えられて、しかも、500ページという分厚さ。

その肝心のボクシングシーンも、私には物足りない。なにしろ私は、白井義男以来のボクシングファンで、月曜日のエキサイトマッチは欠かしたことがない根っからのボクシング好きだ。試合における肉を打つ音と、飛び散る汗と血は良く書けているが、「スピードある動き、テクニックはまだまだだね、角田さん」なんちゃって。

それにしても、酔うと女言葉になり、力強さがまったくなく、減量中のプロを飲みに誘うおバカな空也にはいらいらしっぱなしだ。

失恋に耐えられる精神と肉体を鍛えるため、角田さんは、近くにあった輪島功一スポーツジムに通いはじめたという。それにしては、西荻で角田さんを見かけたことはないのだが。

お気に入りの言葉。
「強いやつが勝つんじゃないんです、勝ったやつが強いんです」



角田光代(かくた・みつよ)
1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。
90年「幸福な遊戯」で「海燕」新人文学賞を受賞しデビュー。
96年「まどろむ夜のUFO」で野間文芸新人賞、
98年「ぼくはきみのおにいさん」で坪田譲治文学賞、
「キッドナップ・ツアー」で99年産経児童出版文化賞フジテレビ賞、
2000年路傍の石文学賞を受賞。
2003年「空中庭園」で婦人公論文芸賞を受賞。
2005年『対岸の彼女』で第132回直木賞。
2006年「ロック母」で川端康成文学賞を受賞。
2007年「八日目の蝉」で中央公論文芸賞をいずれも受賞
2009年ミュージシャン河野丈洋と再婚。習い事は英会話とボクシング。趣味は旅行で30ヶ国以上に行った。
その他、「水曜日の神さま」「森に眠る魚」「何も持たず存在するということ」「マザコン」「予定日はジミーペイジ」「恋をしよう。夢をみよう。旅にでよう。 」「私たちには物語がある 」「 愛がなんだ 」「 ひそやかな花園 」「 よなかの散歩園 」「 さがしもの 」「 彼女のこんだて帖 」「 かなたの子 」「 幾千の夜、昨日の月 」「 口紅のとき 」「 曽根崎心中 」「 紙の月 それもまたちいさな光
その他、穂村弘との共著「 異性

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