スティーブ・ハミルトン著、越前敏弥訳『解錠師』(HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS No. 1854、2011年12月早川書房発行)を読んだ。
主人公のマイクルは、8歳の時の事件以来、声が出なくなってしまった。しかし、彼には、絵を描く才能と、錠を開け才能があった。
シリンダー錠に魅了され、腕を上げ、同級生たちにそそのかされ、いたずらに入った屋敷で捕まってしまう。更生プログラムで、その屋敷で労働することになったマイクルは、同い年の少女アメリアに恋する。
17歳のマイクルは、よんどころなく巻き込まれる形で、また一方ではアメリアを守るためにも、ゴーストと呼ばれる伝説の金庫破りに弟子入りし、プロの解錠師ロック・アーティストとして犯罪に手を染める。
18歳の誕生日を前にしたマイクルは、客の種別によって色分けした数種のポケットベルの指令によって仕事を始める。彼はゴーストの後継者として、組織の末端として仕事する。そして、赤のポケベルは最優先、トップからの指令だ。
物語は、17歳の頃からの、マイクルがボケベルで呼び出され、泥棒たちにピキング、金庫破りの技術を提供する解錠師の日々と、8歳の頃の出来事のあと、伯父に引き取られてから解錠師になるまでの日々が交互に語られる。後半に2つの時間軸が近づいてからはスピードが増し、8歳の時にマイクルに起こり、言葉を失った恐ろしい出来事が何かが明かされるという凝った構成だ。
本書、原題『The Lock Artist』は、2011年のアメリカ探偵作家クラブ(MWA)のエドガー賞最優秀長編賞と、英国推理作家協会(CWA)のイアン・フレミング・スティール・ダガー賞をダブル受賞した。
日本でも、「このミステリーがすごい!」と「週刊文春ミステリーベスト10」の両方で第1位に輝いた.
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
トラウマを抱えた少年が犯罪に染まりながらなんとか生き延び、少女への恋にひたむきとなり、微妙なピンの気配を察知する研ぎ澄まされた感覚を磨く。3つの要素がうまく溶け合っている。プロの危険いっぱいの仕事の流れを、子供のころからの話が追い付いていくという構成も斬新だ。人気になったのも納得できる。
しかし、なぜか私は熱中できなかった。なぜか自分でも説明できないが、絵がらみでの恋がご都合主義で平凡なのと、なぜ犯罪に巻き込まれ続けるのかに納得できなかったこともある。子供のころの親友がそのまま出てこなくなるのも不審だ。
スティーブ・ハミルトン STEVE HAMILTON
1961年デトロイト生まれ。ミシガン大学卒。
1998年『氷の闇を超えて』えMWA賞、PWA賞の最優秀新人賞受賞。
ニューヨーク州のIBM本社に勤める兼業作家
越前敏弥(えちぜん・としや)
1961年生まれ。東京大学文学部国文科卒。翻訳家。
訳書『さよならを告げた夜』マイクル・コリー、『氷の闇を超えて』スティーブ・ハミルトン、他多数。